2015年07月16日

(15)スタッフの力

 いま、ネットで台風情報をチェックしていたら、リクルート担当の小桜マネジャーから電話があった。
 「明日の勉強会、午後3時の時点で阪神間に警報が出されていたら、中止にします。学校が休校になるので、課外活動についても、それに準じた扱いになるということです。よろしくお願いします」
 こんな内容だった。必要なことが要領よくまとめられているので、即座に話が了解できる。当方から連絡をとる前に、適切な電話を入れ、礼儀正しく必要な情報を伝えて、すぐに電話を切る。簡単なことだが、社会人でもこれが出来ない人が少なくない。こういう電話連絡一つをとっても、ファイターズスタッフのレベルの高さが分かる。
 これは小桜君だけではない。いつも部室に陣取っている主務の西村君、マネジャーの五嶋さんや重田君。部室を訪ね、用件を依頼して彼、彼女らの応対に不愉快な思いをしたことは一度もない。
 もちろん、マネジャーはグラウンドでの練習も仕切っている。トレーナーの毛利君、平田君、田中君ら、アナライジングスタッフの加納君や押谷君らを加えたスタッフが日本1のチームを動かしているということを折に触れて実感する。
 さて、勉強会の話である。この勉強会とは毎年、この時季にスポーツ選抜入試で関西学院大学を受験したいという高校生を対象に、小論文を指導する集まりである。監督やコーチをはじめ、ファイターズの誇るリクルートスタッフが勧誘したメンバー10余人が先週末から参加している。
 関東のメンバーは、ファックスなどでのやりとりになるが、関西地区のメンバーは毎週末、部活動の終わった後に西宮市内の会場に集合し、僕が提示した課題を基に小論文を書く。僕がそれを添削し、講評や注意点を書きこんで翌週の勉強会で返却する。書き方の実際についてもそれなりに指導するが、基本は高校生が「自分の考え」をまとめて文章に紡ぐこと。60分という時間制限の中で800字を書くのだから、日ごろ、まとまった文章を書き慣れていない高校生にとっては、なかなかの難行だ。
 けれども、これは毎年のことだが、回数を重ねるごとに急激に上達する。最初の1、2回こそ書きやすいテーマを与えるが、それをクリアすると、少々書きにくそうなテーマでも、何とか制限時間内に、規定の分量を書き上げる。その内容もしっかりしている。もともと運動神経の発達している生徒だから、ちょっとしたコツを指摘しても、それを理解するのが早いのだろう。書くことに不安がなくなると、ますます上達する。
 振り返れば、こうした「特訓」を始めたのは1999年の夏。あの平郡君と池谷君が第一期生である。今は取り壊されて新しい高層ビルの建設が始まっている大阪・中之島の朝日新聞に集まってもらい、社内にある従業員専用の喫茶室などで、寺子屋のような指導を始めたのがスタートである。喫茶店のおばちゃんたちが物珍しそうに眺めていた光景が懐かしい。
 次の佐岡君たちの代になると、人数が増えたので、1階に新設された読者のサービスコーナーや地下の喫茶店に場所を変えて、飲み食いをともにしながら勉強した。どうみても高校生とは思えないイカツイ体つきの兄ちゃんたち(佐岡君や石田貴祐君ら)が本社の受付に集合する様子を見て、受付のかわいい女性が目を白黒させていたことを思い出す。
 この勉強会を世話してくれるのが担当のマネジャー、小桜君。昨年と1昨年はいま主務をしている西村君。卒業生でいうと、新しい順に多田健一郎、鈴木裕章、森田義樹、蔀保裕、酒井祐輔、岩辺憲昭、佐々木啓、水野康二、祝翼、澤井紘平という名前が浮かんでくる。1年間の付き合いだった人もいるし、2年、3年とつきあったマネジャーもいる。出合った当初は「頼りない子やなあ」と思ったメンバーもいるが、4年生の時にはそれぞれチームを支えるスタッフとして活躍してくれた。
 こういうメンバーとつきあっていると、ファイターズという組織は、実はスタッフで持っているという気がしてならない。逆にいうと、毎年毎年、選手とともにスタッフが成長を続けているからこそ、大学選手権で勝ち続けることが可能になるのだろう。
 では、こういうスタッフはどうして成長していくのか。その話はまた機会を改めて説明したい。
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2015年07月09日

(14)躍動するKGブルー

 遅くなったが、4日夕、雨の降りしきる王子スタジアムで行われた「NEW ERA BOWL」の報告をする。
 一言で言えばファイターズの選手たちが存分に活躍し、その力量を見せつけた試合だった。
 もちろん、ファイターズが所属する「BLUE STARS」の主力となったUCLAの4人は別格の動きを見せた。強くてスピードがあり、リズム感がある。何よりも体幹のバランスがよいから、少々のタックルはふりほどいてしまう。立ち上がり、いきなり61ヤードのキックオフ・リターンを決め、QB伊豆から2本のTDパスをキャッチしたWRリッキー・マーヴレイ。最初の攻撃で左サイドを駆け上がって19ヤードを獲得したRBジョーダン・ジェームス。彼は第1Q終了間際に70ヤードを独走してTDを挙げた選手だが、余裕がありすぎてゴール直前で宙返りをしたために反則をとられた選手でもある。さらにヘルメットをKGブルーに塗って登場したDBトニー・ダイは攻守両面で活躍したし、191センチのWRテイラー・エンブリーは、相手DBにとって、とてもやっかいな選手だった。
 こういう強力な援軍がチームに溶け込んで活躍したから、試合は終始、ブルーチームが主導権を握って展開した。その中心になったのがKGブルーのヘルメットを着けたファイターズのメンバーである。主将の橋本を中心に松井や清村らが活躍したOL陣。彼らに守られて雨の中、重くなった皮のボールを自在に投げ分けた伊豆。記録は17回投げて7回の成功に終わっているが、失敗の多くは初めて顔を合わせた他チームのレシーバーと呼吸が合わなかっただけで、急所では正確なパスを投じ、終始、試合を有利に進めた。
 守備陣の活躍はさらにすごかった。LBの山本祐輝は立ち上がり、相手が勢いに乗りかかった途端に相手パスをインターセプト。約50ヤードをリターンしてゴール前4ヤードに迫った。同じくDB小池は鋭い出足でロスタックルを奪ったかと思えば相手パスを自在にカットする。当然のようにインターセプトも奪った。1年生の時から大きな試合で活躍してきた選手だが、この日はもう一段階上のゾーンに入ったような活躍ぶりだった。試合後、優秀選手に贈られるギャツビー賞を受賞したが、UCLAの選手がいなければMVPに選ばれても不思議ではないほどだった。
 ほかにも突き刺すようなタックルを見舞ったDB岡本、インターセプトを奪ったDB菊山、守備陣の中心としてチームを指揮したLB山岸。DLでは真ん中から再三鋭い突進を見せた浜、鋭い動きでボールキャリアに襲いかかった安田。この日活躍したファイターズの選手の名前を挙げて行けばきりがない。
 それはつまり、彼らがブルースターズの勝利に大きく貢献したということ。秋のリーグ戦で戦う他のチームにとっては、混成チームでありながら、まるでファイターズの単独チームであるかのように躍動する面々は脅威に写ったに違いない。
 しかし、これがファイターズの本当の力ではない。実は、けがなどが原因で出場できなかったメンバーがほかに何人もいる。中心選手では、副将のLB作道、DB田中、WR木下が出場していないし、DLの柱となる松本も小川も出ていない。2年生でレギュラーとして活躍しているDB小椋、WR亀山、OL井若も出場していない。ランアタックの中心になるRB橋本、池永、山本もメンバー表になかった。
 こうした選手たちが夏の合宿で鍛え、秋になれば戦列に復帰してくる。もちろん、この日の試合で自信をつけた面々が簡単にスタメンの座を譲るとも思えない。当然チーム内の競争は激化する。その競争の中から、さらにもう一段階上の舞台に上がってくる選手も出てくるだろう。第2、第3の小池選手の登場である。
 もちろん、ライバルチームの中にも、秋にはやっかいな相手になりそうな選手が何人もいた。この日の試合で、まるでアメリカからの招待選手のような走りを見せた龍谷大のRB藤本、岩崎、関大ではQB石内、立命ではLB浦野、長谷川選手らである。ブルースターズの仲間として活躍した近大の塚本、神戸大の岡本選手らも、それぞれ特別の対策が必要な選手である。
 上には上がある。それはこの日、アメリカからの招待選手や上記選手らの活躍で思い知った。いつまでも喜んでいる場合ではない。試合後のインタビューで橋本主将が発言した通り、この日の収穫、教訓を自分のものにすることが大切である。そこから道が開ける。
 17日からは前期試験。まずその難関をクリアし、暑さに耐える体を取り戻した上で、8月からの鍛錬、合宿、そして秋のシーズンへと駒をすすめてほしい。
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2015年07月01日

(13)巨樹の物語

 いま、仕事の合間に『木霊(こだま)の物語』という本を編集している。僕の務めている和歌山県田辺市の新聞社、紀伊民報の紙面に、2年間100回に渡って連載した巨樹・巨木の物語を1冊の本にまとめ、出版する作業である。
 原稿の校閲から表紙の作成、推薦の言葉の依頼、そしてあとがきの執筆まで、1冊の本を仕上げるためには、気を遣う作業が山ほどある。それでも楽しく取り組めるのは、取り上げた100本の巨樹それぞれに、興味の尽きない100の物語があるからだ。
 それぞれが興味深い。源平争乱の歴史を背景にした樹木があれば、熊野詣での人たちが眺めた樹木もある。500年、1000年の歴史を刻んで成長してきた樹木と、それに寄せる名もない村人たちとの交歓。時には役人の打算から売り払われそうになった巨木があれば、節だらけで使い物にならないからと放置されているうちに、気がつけば誰も手を出せないほどに成長した巨木もある。しめ縄を巻き、御神酒を供えてもらえる風格のある巨樹もあるし、子どもたちの遊び場を提供している巨木もある。
 そういう巨樹・巨木の物語を丹念に読んでいるうちに、ハタと気がついた。ファイターズもいま、関西学院につながるすべての人々が仰ぎ見る存在になったのではないか。毎年毎年、人々の胸を打つプレーで年輪を刻み、根を張り葉を茂らせて、気がつけば日本フットボール界を代表する巨大な樹木になったのではないか。
 そんな風に考えていると、思い当たることがいくつも浮かんできた。
 まずは種をまいた人がいる。1941年、関西で4番目のチームとして鎧球倶楽部を発足させた人たちである。その芽は、戦争の激化と排外主義の嵐の中で、あっという間に摘まれてしまったが、戦後、戦地から復員してきたメンバーを中心に再興され、工夫と努力で1949年、甲子園ボウルに初出場、初優勝。
 その後も歴代の部員が新しい芽を伸ばし、チームを成長させてきた。卒業後もコーチ、監督としてチームに関わり、水をやり肥料をやり続けた人たちも数多い。一人一人名前を挙げ、それぞれの物語を綴っていけば、それだけで一冊の本ができるだろう。
 何よりも新芽が顔を出した時から、もっと大きくなろう、もっと強くなろうと自分を鍛えてきた歴代の部員がいる。戦争中の空白期間を含め、75年という歴史はそういう作業の積み重ねだった。
 しかし、水をやりすぎたら根っこが腐る。肥料をやり過ぎても生育に支障が出る。病害虫がついたら駆除しなければならない。強い風に見舞われたこともあるし、日照りの夏にに枯死しそうになったこともあるだろう。
 時には、木の形を整えるためにあえて剪定(せんてい)ばさみを入れた人もおられるに違いない。
 そういう歴史を積み重ねて現在の偉容がある。諸々の困難を乗り越え、常に堂々と立ち続けた結果である。甲子園ボウル出場49回、優勝27回という、どの大学も成し遂げたことのない数字がそれを証明している。巨樹という名こそふさわしい。
 大事なことは、この巨樹が記憶という名の写真に収まっているのではなく、いまも大地に根を張り、日々成長していることである。試合という名の光を浴びて枝葉を茂らせ、深く土中に張り巡らせた鍛錬という根っこから水分と養分を吸い上げる。大きくなればなるほど、その成長速度は速くなり、さらに周囲を圧倒する。
 しかし、一方でその偉容を保ち、さらに成長を促すためには、チームのマネジメントがこれまで以上に重要になり、リスク管理にも目配りが求められる。最新の戦術を考案し、勝つための戦略を練ることの大切さはいうまでもない。
 そういう諸々が調和し、全体のベクトルがさらなる発展に向かった時、初めてもっと強いチーム、負けないチームが見えてくる。幹周りが太くなったからといって、しめ縄を巻き、御神酒を供えて拝んでいるだけでは、勝ち続けるチームにはなれないのである。
 こういう「巨樹の物語」の細部を観察し、これからも綴っていきたい。

 付記
 このところ、夏休み恒例となった小野宏ディレクターの講演会が18日午後6時半から、大阪・中之島の朝日カルチャーセンターで開かれます。申し込みはすでに100人を超えていますが、主催者によると、まだ少し受付は可能だということです。昨シーズンのポイントとなった試合のビデオ解説を中心に、小野さんの鋭い分析と解説に加えて、大村アシスタントヘッドコーチも参加してコメントしてくれるとのことでフットボールの魅力を堪能できそうです。申し込みは朝日カルチャーセンターへ。
https://www.asahiculture.jp/nakanoshima/course/169adf9f-d34e-2065-2c8b-55432f0469b9
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2015年06月24日

(12)「言霊」が宿る卒業文集

 先週のJV戦、大阪大学との試合は、どうしても外せない用事があって観戦できず。ファイターズのホームページで速報をチェックし、試合結果の数字を一通り眺めただけ。当然、報告できることはない。
 そこで今週は、かねてからどうしても書きたかったことを書かせていただく。昨年度卒業生が書いた卒業文集のことである。
 鷺野聡主将をはじめ41人の部員がそれぞれこの4年間を振り返り、読み応えのある文章を綴っている。さすがは日本1を目標に4年間、フットボール漬けの生活を送ってきた人間ばかりである。反省と後悔、自負とこだわり。そして後に続く者への伝言。どの部分から切り取っても、生涯にわたって座右に置いて読み返すに値する文章である。
 本当は、毎回、この文集から材料を見つけて紹介していきたいくらいだが、これは部内限定の冊子。同期の卒業生だけが読むことを想定して、互いに胸襟(きょうきん)を開き、煮えたぎる胸の内を文字にした作品である。同じ釜の飯を食い、喜怒哀楽をともにした同期の、いわば宝物である。余人が勝手に外部に公開することは慎まなければならない。
 そうはいっても、ファイターズという組織の一端、活動の真実を知るためには、どうしても紹介させていただきたい文章もある。そこで、筆者に連絡を取り、僕の気持ちを伝えた。電話に出た彼は、僕の小論文講座を2度も受講してくれた教え子でもあり、「先生のコラムに取り上げてもらえるならうれしい。ぜひお願いします」と快く了解してくれた。
 以下、原文を適宜引用しながら紹介する。
 タイトルは「ストーク」。筆者はワイドレシーバーの樋之本彬君である。文章はこんな風に始まる。[ ]内は本文の引用である。
 [WRがするブロックだが、これほど難しいものはない。相手に即内を行かせない、かつRBのコースとの距離感を背中で感じながらセットアップをかける。外手を強調しつつ、相手の外ナンバー目指してパンチする。そのときの外足のふところには瞬時に力を込め、半足分しか出せない踏み込み足に自分のすべてのパワーを乗せ、相手を止め、前にドライブする。相手はヘルメットを使ってヒットしてくることもあれば、前掛かりになると見るや手を狩りかわしてくる。ストークこそまさに駆け引きだ]
 まずはこんな風に、自分がWRとして求められる役割を明確にし、その役割を果たすためにどのように取り組んできたかを綴る。
 [コーチのいう理論を頭で理解していても、実践できない。相手は自分より小さく、力もないのに負ける。未経験者にやられたこともあった。よけられまいと相手の動きを見れば、体重があっても簡単に押し込まれることもあった]
 [そんな矢先の5月末、池田雄紀さんに相手してもらっているときだった。このタイミングで打てば勝てる。いわゆる1万1回目の感覚が得られた気がした。今日はなぜか英語がやたらよく解けるな、受験勉強でいえばそんな感覚だ]
 [しかし、それを自分の物にすることはできなかった。やがて春が終わり、夏合宿、秋のシーズンとしょうもないストークを続けていた]
 [それでもやるしかなかった。自分がWRである意味、一度やると決めたことを曲げるわけにはいかなかった]
 [そして迎えたライスボウルウイーク。雄紀さんとストークをしていると、再びあの感覚が現れた。その日は雄紀さん、次の日には香山さんと夢中でストークをし続けた。その感覚を忘れないためにライスボウルまで毎日フルで当たり続けた。みんながハーフスタイルでも一人フルスタイルでストークをし続けた]
 [そして迎えたライスボウル。自分には変な自信があった。あれだけやったのだから大丈夫、そう思えてならなかった。前日の4年生ミーティングでも、明日は自分から攻め、信じてやってきたストークでゲインさせると言い切ることができた]
 [結果、試合は負けたが、一対一のストークでは負けた気がしなかった。ある意味、自分の信じてやってきたことが通用したと分かって、むしろ誇らしかった]
 4年間、学生相手には負けを知らず、4年連続で甲子園ボウルを制覇した学年。しかし、ライスボウルではついに勝てず、悔しい思いを抱いて卒業していった選手の中に、ここまで自分を燃焼させた男がいた。「負けた気はしなかった、自分の信じてやってきたことが通用したと分かって、むしろ誇らしかった」と言い切って卒業した選手が存在した。そのことを知って、僕は異様な感動を覚えた。それは感動という言葉よりも、カタルシスと表現した方が適切かも知れない。
 4年連続の敗戦で、気分はずっと落ち込んでいたが、その黒い雲が一気に取り払われたような爽快感に包まれた。「雲外蒼天」である。
 「自分の信じてやってきたことが通用したと分かって、むしろ誇らしかった」。そんな言葉を残して卒業していける選手や部員がどれだけ存在するか。そこで勝敗は決まる。つまりは、試合の結果はすべて上ヶ原の第3フィールド、鉢伏山のグラウンドに帰すということであろう。
 秋から冬へ。大勢のファンが見守る中で華やかな試合が展開される。それを見守り、応援するのは楽しい。ワクワクどきどきする。しかし、ファイターズの戦いは試合会場だけではない。冬から春、春から夏、そして秋から冬へと、人の目に触れないところで続けられる地味な練習にこそ意味がある。1万回の工夫と失敗を積み重ねた末、1万1回目にほほえんでくれるフットボールの神様。
 樋之本君の文章には、その機微が見事に綴られていた。これこそ後に続く者を励まし、奮い立たせてくれる文章である。それは「言葉」ではなく「言霊」と言っても言い過ぎではないだろう。
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2015年06月16日

(11)待ちかねたJV戦

 14日、上ヶ原の第3フィールドで開かれたJV戦、西南学院大学との試合は、見所が満載だった。
 @期待の新入生がその素晴らしい能力の片鱗を見せたAやっとチームの雰囲気に馴染んできた2年生が試合で躍動したBすでに上の試合にも出場している選手だけでなく、けがなどで出遅れていた3年生がようやく試合で実力の片鱗を見せた、というのがその理由である。
 順番にその活躍ぶりを紹介しよう。
 1年生でこの日の試合に出場したのは、背番号の若い順にDB山田(池田)、QB光藤(同志社国際)、QB西野(箕面自由)、RB山口(横浜栄)、DL川合(関西学院)、DL国安(足立学園)、DL松田(同)、OL森本(啓明学院)、OL光岡(箕面自由)、DL三笠(追手門学院)。スナッパー鈴木(関西学院)の名前もメンバー表にあったが、出場機会があったかどうか、僕は確認できていない。
 このうち山口と光岡は先日のエレコム戦にも出場、1年生とは思えないほどの活躍を見せてくれたが、ほかのメンバーは事実上、この試合が初出場。それでも全員、さすがはこの時季にメンバー表に名前が掲載されるだけのことはある。それぞれ、将来に期待が持てる動きを披露してくれた。
 中でも、ひときわ目立ったのがQB光藤と西野。ともに身長は172センチほどだが、動きが俊敏で、パスも上手に投げる。この日は第3Qの終盤から二人が交互に登場。攻撃シリーズが代わるたびに交代でチームを率いた。
 最初に登場したのは西野。自陣20ヤードからの攻撃だったが、RB木村の独走とWR安西と水野へのパスで、あっという間に相手陣に入る。残り22ヤードからの攻撃は木村のラン2発で即座にTD。1年生とは思えない落ち着いたプレーを見せてくれた。
 交代で出た光藤はさらにすごい。この日が初登場のDB山田がインターセプトしてつかんだ相手陣32ヤードからの攻撃。第1プレーはRB木村へのハンドオフで14ヤードを獲得。続くプレーもRBへのハンドオフと見せかけたプレーだったが、そのまま自分がキープ。右に左にカットを切りながら一気に18ヤードを走り切ってTD。
 次のシリーズを西野が木村の独走でTDに結び付ければ、光藤も負けてはいない。任された2回のシリーズをそれぞれWR安西と渡辺への2本のTDパスで締めくくる。
 相手の主力選手が攻撃と守備の両面で出場し、体力を消耗して足が止まっていたという点を割り引いたとしても、二人の新人QBのデビューは鮮烈だった。これから卒業までの二人の長い競り合いを予感させるに十分な活躍ぶりに、胸がわくわくした。
 胸が躍るといえば、先輩主将の梶原君や池永君のデビューを彷彿させるような活躍を見せたのが91番を付けて登場したDL三笠。瞬間的に相手OLを割るスピード、ボールキャリアへの寄りの速さ。どちらもデビューした頃の梶原君や池永君に匹敵する動きの良さだった。秋には、二人の先輩の後を追うように、1年生であっても守備のフロントを背負ってくれるのではないかと期待が高まる。
 彼らに加えて、すでにVの試合で実績を残している山口や光岡は、いずれもスポーツ推薦でファイターズの門を叩いた期待の人材。だが、この日はスポーツ推薦以外で入部したDB山田が切れのよい動きを見せてくれた。瞬間的な動きの速さ、思い切りのよいヒット。DBに必要な資質を存分に持った彼には、しばらくは目が離せないと印象づけられた。
 2年生で目についたのは、つい先日、QBからWR経由でRBになったばかりの木村。10回のキャリーで126ヤードを走り切った。試合も終盤に入り、相手守備陣の足が止まっていたとはいえ、センスがなくてはそうそう走れるものではない。今後、RBとしての当たり方、身の交わし方を身に付けてくれば、秋には期待が持てそうだ。
 WR安西の動きもよかった。派手さはないが、いつもボールの落下地点に走り込み、確実なキャッチを見せてくれた。同じ2年生WRですでにVの試合にも出場して活躍している中西や前田、渡辺らと競争しながら腕を上げてくれることを期待したい。
 守備では、けがで出遅れていたLBの松本、鳥内、石川、それに高校時代は野球部だったDB田中の動きが目についた。つい先日、けがから復帰したばかりのDL三木も無難に回復しているようだ。
 そうそう、忘れてならないのはK泉山。距離は短かったとはいえ、2本のFGを決めたほかキックやパントも安定しており、今後に期待が持てる動きを見せた。
 さて、3年生である。一人一人を取り上げて論評していけば、字数が尽きてしまうが、あえて一人、この日の収穫としてWR水野の名前を挙げたい。とにかく足が速い。JVの試合ということも関係していたのかもしれないが、Vの試合とは見違えるような軽快な動きを見せた。とりわけ第3Q半ば、相手陣20ヤード付近からQB中根が投じた短いパスを受け、そのままサイドライン際を一気に走り切ってTDに持ち込んだプレーが光った。
 秋の本番でも、このスピードを生かすことができれば、十分に活躍できそうな予感を抱いた。
 そしてもう一人、密かに注目しているプレーヤーが顔を見せてくれた。交代のTEとして登場した西田である。1年生の時、動きのよいLBとして登場。同じポジションの山岸と競り合っていた選手と言えば、思い出して下さる方も多いだろう。けがなどで、長い雌伏の期間を過ごしていたが、久々に僕たちの前に姿を見せてくれた。
 動きはまだまだぎこちなく、19ヤードのパスを1本キャッチしただけだったが、TEとしてのプレーに習熟すれば、大いに活躍してくれるのではないかと期待できる内容ではあった。
 このように振り返って見るだけでも、JV戦は面白い。今週末には春シーズンの最後を締めくくる大阪大学との試合である。会場は上ヶ原の第3フィールド。ぜひとも足を運んで母校を応援していただきたい。新しい戦力を見つける楽しみ、フットボールの隠された魅力を探す楽しさを堪能していただけることを請け負います。
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2015年06月09日

(10)君の可能性

 斎藤喜博先生は、僕が心から尊敬する師匠の一人である。群馬県の小さな小学校で校長を務め、そこでの実践は1960年代の日本教育界に旋風をもたらせた。定年退職後は宮城教育大学の教授を務められた教育学者でもある。その教育論や実践の足跡をまとめた「斎藤喜博全集18巻」で、第25回毎日出版文化賞を受賞されている。
 1981年に70歳で亡くなられたが、僕が朝日新聞の前橋支局で働いていたとき、縁あって先生のお宅に何度もお邪魔した。親しく話を聞かせてもらうだけでなく、近くの河原に出掛けて石を投げて遊んだりもした。駆け出し記者は、先生の言葉と行動をすべて、スポンジが水を吸い込むように吸収し、今も胸に刻んでいる。
 先生に「君の可能性」(筑摩書房)という本があり、そこに「一つのこと」という詩が掲載されている。
 ずっと前、QB三原君が4年生の時代、甲子園ボウルで勝ってライスボウルに向かう直前にこのコラムでも紹介したことがあるが、今回はまた違った意味で紹介したい。全文を紹介する。

   一つのこと
 いま終わる一つのこと
 いま越える一つの山
 風わたる草原
 ひびきあう心の歌
 桑の海光る雲
 人は続き道は続く
 遠い道はるかな道
 明日のぼる山もみさだめ
 いま終わる一つのこと

 大学生の諸君、あるいはこれをお読みの皆さんには、特段の解説は不要だろう。「一つのこと」という言葉をファイターズでの活動、学習、鍛錬という言葉に置き換えて読めばそのまま意味は通じる。
 まだ春のシーズンが一区切りついただけの時期ではあるが、それでも神戸ボウル、エレコムとの試合で一つのことが終わり、一つの山を越えたことに間違いはない。
 この春はけが人が多く、メンバーも揃えられないほど厳しい試合が続いた。日大との試合は東京まで出掛けて敗れた。日体大との試合も、終始押されっぱなし。登山路は厳しかったが、それでも、なんとか山の上にたどり着いた。心地よい風が吹いている。遠くに桑畑が海のように見え、雲が美しく光っている。振り返ればいま登って来た道を人が次々と登って来る。
 ようし、もう一丁。明日、登る山は見定めた。さらに高い頂き目指して登っていくぞ。
 ざっとこんな意味だろう。
 ポイントは二つある。一つは「ひびきあう心の歌」という言葉が象徴する「みんなと心を合わせ、力を合わせて」目標に挑むということ。もう一つは、必死の思いで頂上に到達しても、さらなる高い山がある。それを目標に、互いがよいものを出し合い、影響し合って、一人ではとうてい到達不能と見えるこの高い山にチャレンジすること。ファイターズで活動する意味は、そこにあると僕は考えている。
 エレコムとの試合を振り返りながら、もう少し説明してみよう。
 あの試合、相手チームには現役時代、練習ではとうてい歯が立たないと仰ぎ見ていた先輩たちが何人も出場、胸を貸してくれた。ファイターズの最初の攻撃。最初にQB伊豆が投じたパスをあわやインターセプト、という形ではじき出したDB重田。終始、ファイターズのボールキャリアに絡み、後輩たちに思い通りにプレーさせてくれなかったLB池田。攻撃ではTE松島が強烈なブロックと確実な捕球を見せていた。
 そうした先輩たちのいるチームを相手に、結局は1本のTDを与えることもなく、45−3の圧勝。攻撃では伊豆がWR中西、亀山へのTDパスをピンポイントでヒット。RB野々垣と1年生RB山口も代わる代わる中央を突破し、チャンスを確実にTDに結び付けた。
 守備陣も、踏ん張った。怪力松本を中心に柴田、大野という動きのよいメンバーで固めたDL。作道、山岸、奥田という経験豊富なメンバーが揃ったLB。そしてDBも岡本、田中、小池、山本泰、小椋という、どこに出しても通用する布陣。これだけのメンバーが揃えば、いかに社会人といえども、そうそう負けるものではない。
 試合後、鳥内監督に聞くと、ハーフタイムで「社会人に勝つ、ライスボウルで勝って日本1というのなら、それらしい試合を。先日、パナソニックはエレコムを相手に42点を取っている。それを上回る得点を」と発破を掛けたそうだ。
 終わって見れば、田中、小椋の両CBとLB高がそれぞれインターセプト。DB山本泰も相手のファンブルをカバーしてターンオーバーを記録した。
 攻撃陣も6本のTDとK西岡の47ヤードFGで都合45点。鳥内監督の檄に応えた。
 こうした展開を見ると「いま終わる一つのこと いま越える一つの山」という表現も過言ではない。実際、精度の上がった伊豆のパスやこの日はRBで出場した池永を含めた2年生WRの活躍ぶりを見ると、やっと次の視界が広がったと実感する。
 しかし、目指すべき頂上はまだまだ高い。これから夏、そして秋と厳しく鍛えて初めて登るべき頂上が見えてくる。「それぞれの可能性」を求めて、やっと出発点に立ったというのが現状ではないか。神戸ボウルが終わって一区切りついたとはいえ、ゆっくり休んでいる場合ではない。
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2015年06月01日

(9)ライバルの意味

 どこのどなたかは存じ上げないが、英語のライバルを「好敵手」という日本語に翻訳した人は、本当にエライと思う。それは戦うべき相手であり、同時に「よき相手」であれという意味を「好」の字に託したところがお手柄である。
 そんなことを思い浮かべたのは、ほかでもない。先日の関大との試合が、文字通りライバル、好敵手との一戦、と呼ぶにふさわしい戦いだったことによる。
 本当に見応えのある試合だった。
 五月晴れの夕方。午後4時20分のキックオフといいながら、まだまだ日暮れには遠い。風は穏やか。前日の予報では、雨が心配されたが、雨雲はどこにもない。絶好のフットボール日和である。
 関大がキックを選択。RB池永のリターンで試合開始。自陣17ヤードからファイターズの攻撃が始まる。QB伊豆がRB池永、野々垣、山崎のランを中心にWR渡辺、中根への短いパスを通して、じりじりと陣地を進める。ダウンを4回更新し、相手陣20ヤードまで進めたところで第4ダウン、残り3ヤード。ここはK西岡が確実にFGを決めてファイターズが3点を先制。
 自陣17ヤードから始まったファイターズ最初の攻撃シリーズは合計15プレー、要した時間は7分3秒。大きなミスもなく攻め続けたファイターズも強かったが、守った関大も強い。結局はFGで3点をリードしたが、ファイターズに先攻の利があることを考えると、全くの五分、どちらかといえば関大の守備陣に軍配を上げたくなるほどの内容だった。
 実際、ファイターズが3点を先行した後は、互いに守備陣が踏ん張り、パントの応酬。都合5回、パントを蹴り合った後、第2Q残り3分にファイターズのK西岡が再び45ヤードのFGを決めて6−0。
 しかし、そこから関大が反撃。それまで一度も試みていなかったパスを連続して決め、途中、何度もスパイクで時間を止めながら、ついに前半最後のプレーでFGを決める。消費時間、獲得ヤードでは圧倒的に押していたはずのファイターズだったが、前半が終わって見れば6−3。後半は関大から攻撃が始まることを考えると、全く互角の展開。というより、前半終了間際、立て続けにパスを決められたことを考慮すれば、後半は厳しい戦いになりそうな予感さえした。
 僕はこの試合を場内のFM放送で中継している小野ディレクターや解説を担当しているOBの片山さん、小川原さんと並んで観戦していたが、ハーフタイムの間、ずっと一人で「これがライバルの戦いというものか」と自問していた。
 攻撃陣は互いにこの試合に臨む「ポリシー」「哲学」を持って勝負をかける。守備陣は、どちらも相手の意図を予想し、最善の策を凝らして守り続ける。互いにちょっとした手違いはあっても、決定的なミスは犯さない。春の試合とはいえ、というか春の試合だからこそ許される「実験」を急所、急所にちりばめ、それでいて決定的な手の内は明かさない。秋の決戦に備えて、相手の情報は徹底的に収集する。そのために必要なプレーも随所にちりばめる。
 この前半、24分に限っても、見るべき人が見、考えるべき人が考えれば、宝の山と思えるほどの情報が隠されていたのに違いない。
 おそらくこの試合の後、両軍の選手もコーチも、この試合のビデオを徹底的に分析し、秋の試合に備えるはずだ。相手が強ければ、それ以上に自軍を鍛える。自軍の弱点は徹底的にカバーし、逆に相手のいやがるプレーを準備する。互いに互いを「強い相手」「好敵手」と認識し、敬意を持っているからこそ出来ることである。
 そういうことを想像しながら、僕は「これがライバルという言葉の本来の姿か」と考えた。「チームが本当に強くなるのは、ライバルがいてこそ」「あいつには負けたくない、という強い気持ち、具体的な目標があって初めて、それを凌駕(りょうが)するプレーヤーになる、なってみせるというモチベーションが本物になる」とも考えた。
 そう考えると、ファイターズは本当に恵まれたチームである。西には、この日戦った関大のほか、毎年のように死闘を繰り広げている立命、ファイターズには目の色を変えて立ち向かってくる京大がいる。東には日大、法政というタレント集団がいる。そして、社会人チームは、ライバルというより、どうしても勝ちたいチーム、勝たなければならない目標である。
 そういう強力な相手、敬意を表すことの出来る存在があって初めてチームは鍛えられる。この日の試合は後半、伊豆からWR亀山と池永に2本の長いTDパスがヒットし、最終的には23−3となったが、それでもなお「関大恐るべし」という印象が強かった。
 強いといえば、この日の試合、両チームとも一つの反則も犯さなかった。これもまた互いに敬意を持って戦う「ライバル」ならではの試合内容。ともに真っ向から存分に戦った証しのように、僕には思えた。
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2015年05月23日

(8)楽しみな試合

 ある日は、高校1年生を相手に「新聞の読み方」についての授業。またある日は、長野市在住の仲間がやっている個人通信に長文の「時評」の寄稿。少し時間が空いたら、紀伊半島南部の地質遺産(ジオサイト)巡り。これがまた和歌山県内だけでなく、奈良県の玉置山、三重県の鬼ヶ城、花の窟など、興味をそそる場所がいくつもあって、巡り始めればやみつきになる。
 診療の予約日がくれば病院に通い、別の日には主治医の診察を受けて薬も頂戴する。毎週末には大学の授業もある。もちろん本業の新聞記者の仕事は手抜きできない。
 そんなこんなで気がつけば5月も下旬。コラムの更新がすっかり滞ってしまった。
 練習こそ、週末ごとに見せてもらっているが、いまこの時期はチームの底上げを図るファンダメンタル中心のメニューだから、特段報告することもない。将来のファイターズを背負うフレッシュマンも大勢入部し、元気にトレーニングに励んでいるが、まだまだあれこれいう時期でもなかろう。
 「さて、何を書こうか」と思案しているときに「いらっしゃいませ」という元気な声とともに、都合よくネタが舞い込んできた。
 先日、甲東園の駅前にある銀行に固定資産税と車の税金を振り込みに行った時のことである。いきなり黒いスーツ姿の大柄な銀行員に声を掛けられた。見上げると、今春卒業したばかりのTE松島君である。胸には「実習生」のカードがついている。
 「配属先を見て驚きました。なぜか甲東支店なんですよ」と松島君。
 「そう、土地勘のあるとこでよかったやないの。ファイターズファンの学生を根こそぎお客さんにしなさい、ということでしょう」と僕。互いに、よろしく、と挨拶しながら、彼は少し小さな声で「実は、エレコムでやることになりました。池田雄紀さんも一緒です」と内緒の打ち明け話。先輩行員の目を意識してか、さも親しい「お客様」に業務の話をしている振りをして近況を明かしてくれた。
 「先輩のWR和田君と南本君もエレコムに移るらしいな」と僕も声をひそめる。「そうなんです。大園も来てくれるそうです」と彼。「今度の試合が楽しみやな」というと「楽しみにしています。後輩たちとやるって、どんな気持ちでしょうね」。お互いニコニコしながらのやりとりを続けた後、少し大きな声で「配属祝いに、少しばかり定期預金させてもらうわ。君の顔を立てて」といって別れた。
 元々、定期預金は嫌いだし、僕の懐には株やマージャンが似合う金はあっても、銀行の金庫に収まりたいなんて上品なことをいう金はない。「それにしても調子のいいことを。どの口がいうねん」と自分でもあきれる発言だったが、彼はもう次のお客さんに向かって「いらっしゃいませ」と声を張り上げている。頑張れよ、と好漢の前途を祝福しながら、気持ちよく税金を振り込んだ。
 松島君や池田君、和田君や南本君などの新しい顔ぶれに加えて、昨年、Xリーグ西地区優勝の原動力になったLB香山君、DB重田君、QB糟谷君、OL東元君、WR松田君らが活躍するエレコムファイニーズとの試合は6月7日、王子スタジアムで「神戸ボウル」として行われる。
 先輩後輩として、あるいはアシスタントコーチと選手として、何度も胸を借り、指導を受けた現役の諸君が、かつては仰ぎ見た先輩たちにどんな戦いを見せてくれるか、想像するだけでも楽しくてならない。
 しかし、その前に「前門の虎」との戦いがある。今度の日曜日、同じ王子スタジアムで行われる関大との試合である。対抗心をむき出しに襲いかかってくる関大とは例年、厳しい試合が続いている。今年もまた難儀なことになりそうだ。
 今季のファイターズは、途中、プリンストン大学との試合を挟みながら、チーム全体のレベルアップを目指し、ファンダメンタルを重視したトレーニングを続けている。これまで慶応、日体大、日大と3試合を戦ったが、それぞれの試合では2枚目、3枚目のメンバーも思いきって起用し、試合経験を積ませることを続けてきた。
 一方で、負傷者には無理をさせず、治療と体力づくりのトレーニングを最優先に取り組ませている。ライバル関大との戦いといえども、その方針を変更するとは思えない。どんどん新しいメンバー、期待のメンバーを投入して、その潜在能力を見極める試合を展開してくれると、勝手に期待している。
 その意味では、ファンにとっても「素顔のチーム力」を見る絶好の機会である。強敵を相手に、新しいメンバーがどんな活躍をしてくれるか、秋にスタメンを獲得する名前は誰か、そんなことを予想しながら応援するのは楽しい限りである。
 試合は24日午後4時20分キックオフ。ぜひとも王子スタジアムでお会いしましょう。
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2015年05月05日

(7)アナログに意味がある

 4月27日の日経新聞を見て驚いた。なんと、われらが爆走28番星、鷺野前主将が伊藤忠商事の全面広告のモデルになって登場しているではないか。写真ではなく肖像画。りりしくたくましく、そして見るからに聡明な表情が見事に描かれている。
 肖像画の下には、こんなコピーがさりげなく付け加えられている。
 「小学生の頃は、ケンカさえしたことがなかった。大学時代はアメフト部のキャプテンでランニングバック。5年後の自分、どうしてるんでしょうね」
 思わず、突っ込みを入れた。三つある。
 @「男前に生んでもらってよかったな。ご両親に感謝せなあかんで」
 Aこの広告費はなんぼやろ。相場からいえば1500万円ほどか。つまり鷺野君は、入社早々、1500万円の仕事をしたということ。すごいなあ。
 B小学生の頃は、ケンカもしたことがなかったというコピーに、大学では部活を卒業するまで、フェイスブックなんかに見向きもしなかった、と付け加えて欲しかった。
 この三つである。
 一番目と二番目は冗談である。でも三番目については、ファイターズというチームの在り方を考える時、常々、どこかで紹介しておきたいと考えていたことだった。どういう意味か。
 話は先日、信州大学の入学式で山沢清人学長が新入生を前にぶち上げた「スマホやめますか、それとも信大生やめますか」というあいさつに関係する。
 学長はそのあいさつで、日本が活力ある社会を維持し、世界に貢献していくためには独創性や個性を発揮することが必要であると主張。自分で考えることを習慣付けよう、決して考えることから逃げないことだ、自ら探求的に考える能力を育てることが大切だと呼び掛けた。
 そして創造性を育てる上で、とくに心掛けなければならないことは時間的、心理的なゆとりを持つこと、物事にとらわれ過ぎないこと、豊かすぎないこと、飽食でないことなどが挙げられますと説き、スマホ依存症は知性、個性、独創性にとって毒以外の何物でもありません。スマホの「見慣れた世界」にいると、脳の取り込み情報は低下し、時間は早く過ぎ去ってしまいます。「スマホやめますか、それとも信大生止めますか」。スイッチを切って本を読みましょう。友達と話をしましょう。そして、自分で考えることを習慣づけましょう、と結んでいる。
 この最後の言葉だけが一人歩きして、ネットで賑やかなことになったのは、ご承知の通り。でも大事な話は、新入生に独創性や個性の大切さを説き、そのための心掛けを説いた部分にある。それは、信州大学のホームページに紹介されている「学長あいさつ」の全文を読めば、誰でも分かる。大学生諸君には一読をオススメする。
 さて、この話がどうしてファイターズに関係するのか、ということである。
 これは、知る人ぞ知る話だが、昨年度、鷺野主将が率いたチームは、部内の連絡にスマホを使うことを止め、必要な情報はすべて部室の掲示板で公開することにした。練習のタイムスケジュールからチケットの情報、体重管理の必要性や筋力数値の一覧表、そして熱中症予防の心掛けに至るまで、すべての情報(連絡事項)は部員が部室に顔を出さなければ手に入らないようにしたのである。
 受け身で部活動に参加することは止めよう。ファイターズでは指示を待ち、情報を待つのではなく、自ら求め、自ら行動することが大切であり、それは普段の行動から改めていくしか身につかない。そのためには、たとえ便利な情報機器があっても、それに頼らず、掲示板の利用というアナログの手法を大事にしたい。そのように主将や幹部が話し合い、監督やコーチの了解を得て決めた「決めごと」だそうだ。
 以前、このコラムで紹介した「足下のごみ」に注意を促す1年生部員の張り紙も、こういう素地があったから、部員全員の目にとまり、その胸に響いたのであろう。
 ファイターズは、何事によらず、合理性を重んじ、最先端の知識や機器を導入することに積極的である。それでも、その便利さが時として部員の自発性、自主性をスポイルする要因になる。そうと分かれば、直ちにその便利さを捨て去る柔軟な思考力も持っている。融通無碍、流れる水のような自在さがファイターズの真骨頂であろう。
 スマホによる情報伝達は部員の自主性、自発性を阻害すると考えた主将の直感。信州大学の学長が具体的な根拠を示しながら約2500字(あいさつの全文は字4500)を費やして述べた情報機器の落とし穴を、ファイターズの幹部は瞬時にかぎ取り、さっさとその対策を講じてチームの独創性を育ててきたのである。
 細部に神は宿る。チームが強くなる秘密はこういう些細なところに潜んでいる。「当たり前」のことを「当たり前」に実行出来るチームのたたずまいに、あらためて感心した次第である。

※当該広告は以下のサイトからご覧になれます。
http://shonin.itochu.co.jp/hajimete_no_shimei/
posted by コラム「スタンドから」 at 12:37| Comment(0) | in 2015 season

2015年04月29日

(6)期待の芽

 新聞社で働いていると、世間が休みになるときは、決まって忙しい。年末年始、春休みにお盆休み、そしてゴールデンウイーク。もちろん、それなりに休みは取っているが、休みに備えて、仕事を前倒しで進めていかなければならないので、日常の業務と前倒しで進める仕事が重なってくる。そうなると、自動的にコラムを書く時間が制限される。
 そんなときに限って、楽しいお遊びの誘いがある。4人でポン、ロンと遊んでいるときはいいのだが、70歳を過ぎると、さすがに徹夜のアミューズメントはこたえる。へろへろの体で仕事にかかるのだが、作業の効率は上がらない。でも、読者は裏切れない。いつも以上に気合いを入れてコラムを書こうとムキになる。そうなると、次は睡眠時間を削るしかない。
 そんなときにファイターズのコラムを書いても、言葉が荒くなるのは目に見えている。とくに、先日の日体大戦のようなミスの目立った試合をテーマに書くには、少し冷静になってからの方がよかろうと、ついつい更新が遅くなった。
 以上、長い長い言い訳である。見苦しい。本題に入る。
 日体大戦は23−21。ファイターズが残り3秒で19ヤードのフィールドゴールを決めてなんとか勝った。
 しかし、ファイターズの戦いぶりは、寂しい限りだった。とくに第2Q後半、QB伊豆、RB山本ら先日のプリンストン大戦にも登場して頑張ったメンバーを引っ込め、期待の若手を登用してからは、相手に押されっぱなし。攻守ともバタバタするばかりで、試合を支配するという面では、完全に相手に主導権を握られた。
 そういう場面では、キッキングチームが冷静、沈着なプレーで陣地を回復させ、いつの間にか試合の主導権を奪い返すというのが、従来のファイターズだったが、悲しいかな春のシーズンが開幕して2試合目。キッキングチームもまた、新しいメンバーで再建途上ということで、逆にPATのキックをブロックされたり、自陣ゴール前でパントをブロックされたり。自軍を落ち着かせるどころか、逆に相手を勢いづけてしまう始末だった。
 加えて、試合に出場した経験がほとんどないQBとRB、WRの呼吸もなかなか合わない。自陣のゴール前でピッチしたボールを落とし、相手に得点されるという、思わず目を覆いたくなるような場面もあった。
 もちろん、割り引いて考えなければならない点も多々ある。この日は主将のOL橋本がスタメンに登場し、昨年から試合経験のある伊豆と二人で攻撃を引っ張ったが、後はほとんどが試合経験の少ない選手。とりわけデフェンスには、1月のライスボウルで先発したメンバーが一人もいない状態だった。キッキングもキッカーの西岡を始めリターナーに至るまで、昨年はほとんど試合に出ていなかったメンバーで構成していた。
 昨年のリーグ戦を戦い、甲子園ボウルからライスボウルへとコマを進めてきたメンバーと同列に扱うことがそもそも間違っている。逆に、昨年のJVのメンバーがアスリート揃いの日体大と戦った、という目で見た方がいいのかもしれない。
 そのように考えると、苦しい戦いの中で、きらりと光るメンバーも少なくなかった。
 攻撃では、いずれも2年生のWR亀山、中西、RB山本。亀山は惜しくもラインの内側に踏みとどまれなかったと判定されたが、2本の長いパスを相手DLと競り合ってキャッチしたプレーが出色。秋には大活躍をしてくれるのではないかと期待された。中西も短いパスを確実にキャッチし、この日、55ヤードのTDパスをキャッチした3年生荻原とともに、成長が期待される。
 RB山本は、昨春、彗星のように登場し、あれよあれよという間に関西でもトップを競うRBに成長した3年生橋本を思わせるようなパワーランナー。大学での試合経験を積んで、周囲が見えるようになれば、さらに一段階上の活躍をしてくれそうだ。
 守備ではともに2年生のDL柴田とDB横山。ともに上背があり、動きもよい。今後スタメン争いに加わってくるのは間違いないと期待している。
 そしてもう一人がKの西岡。彼は3年生だが、この日はPATのキックと、自陣ゴール前からのパントをブロックされ、相手を勢いづける原因を作ってしまった。これだけ見れば、並の選手だが、僕が注目したのは、そういう失敗を引きずらず、最後にフィールドゴールをきちんと決めたこと。ゴール正面、距離は19ヤードという、失敗するはずのない状況だったが、これを失敗すれば敗戦という追い詰められた状況でもあった。
 さらに、シーズンを通じてもほとんどないパントやキックのブロックをこの日だけで2本も相手に許しており、3本目をと勢い込んでくる相手の士気の高さを考えると、そうやすやすと決められる状況ではなかった。そういう厳しい場面で、感情を波立たせることなく、しっかりと蹴ることができるというのは、心強い。
 この日の悔しさを糧にして練習に取り組めば、キッキングゲームで状況を突破するファイターズのキッカーとして、主役を張ってくれると期待が持てた。
 23−21。試合は薄氷を踏む内容だったが、一人一人のプレーヤーを見ていけば、悪い話ばかりではないということがよく分かった試合だった。
posted by コラム「スタンドから」 at 22:29| Comment(1) | in 2015 season