2016年04月09日

(2)4年間の総括

 咲くのが遅かった今年の桜も、ようやく満開を過ぎ、昨日(金曜日)は散り染め。大学の正門に続く「学園花通り」の桜も、学内の桜も、盛んに花びらをまき散らせていた。
 とりわけ見事だったのが日本庭園。周囲を建物に囲まれ、こぢんまりした場所にあるせいか、庭にも池にも散った花びらがびっしり。花筏(いかだ)とか、花の絨毯(じゅうたん)とかいう言葉がぴったりの素晴らしさだった。
 桜が咲き、散って、新しいチームがスタートすると、当然のことに、昨年のチームを支えた4年生の姿は消える。けれども、彼、彼女たちは今年もまた、チームに大切なものを残してくれた。恒例の卒業文集である。選手として、スタッフとして、さらには高等部、中学部コーチとして、ファイターズで過ごした38人全員が自分の言葉で4年間を振り返り、総括してファイターズの現役生活を締めくくっている。
 それぞれが魂のこもった文章である。いつも座右に置いて何度も何度も読ませていただいているが、それぞれの顔や行動を思い浮かべながら読むと、興味はひとしお。全員の分をそのままこのコラムで紹介したいところだが、あくまでもチーム内に限定した文集である。チームのメンバー以外には公開しないという原則で、それぞれの胸の内を思いっきり書き込んだ内容だから、僕が勝手に公開するわけにはいかない。
 それでも、ファイターズというチームの真実を知っていただくためには、せめてこれだけは紹介させていただきたい、という文章がある。文集を編集された小野ディレクターの了解を得た上で、その中から二本のエッセンスを紹介させていただく。
 一本目は、LB作道君、43番の「峠」。
 「引退から数カ月たつ今でも『こうすればもっと上手くなれるな』『こうすればもっと面白いディフェンスが作れるな』というアイデアが浮かんでくる。それは後悔から生まれるわけでなく、ふと浮かんでくるという感じに近い。(略)これがファイターズの強さの核であり、一人前の男になるためのとても大事なことである」
と書き始め、
 「チームの勝敗に責任を持って行動するからファイターズの4年なのだ」
 「誰かがやってくれる、なんていう根拠のない希望にすがって、ただしんどいだけの1年間を送らないでほしい。自らがチームを率い、自らがチームを勝たせろ。きっと自分にしかできないことが見えてくる」
 「昨年のシーズン、私には多くの反省はあれども後悔はない。もちろん君たちには勝ってほしい、ただそれ以上に後悔を持ってほしくはない。やり切ってほしい。そのためにも、目の前に『しんどい道』と『そうではない道』がある時、迷ってもいいから『しんどい道』を選んでほしい」
と結ぶ。
 副将としてチームを引っ張ってきた人間にしか口にできない言葉である。「反省はあれども後悔はない」と言い切ったところに、彼がこのチームにかけたことの「重さ」が現れている。あえて「しんどい道を選べ」といい、「自らがチームを勝たせろ」と後輩に言い残したところにリーダーとしての責任感がうかがえる。
 ちなみに「峠」というタイトルは「僕が好きな本のタイトル」とある。多分、司馬遼太郎の「峠」のことであろう。幕末、戊辰戦争で理不尽な攻撃を仕掛けてきた官軍に抗し、徹底的に戦った越後・長岡藩家老、河井継之助の生き方への共感が作道君をして「好きな本」といわせたのだろう。僕も同感である。彼が「しんどい道」を選んで苦闘しているときに、この話を知っていたら、互いに「河井継之助」を語り合い、大いに盛り上がれたのにと、いま思うと残念至極である。
 本題に戻る。
 二本目はRB山崎君、35番の「拝啓、最高の三流プレーヤー達へ」
 これは、自らを「最高の三流プレーヤー」と称する山崎君の悔恨の文章であり、同時に蘇生(そせい)の報告である。彼はこんなことを書いている。
 「最終学年になり、自分の役割を果たすことをせず、集中の切れていた私は心底滅入っていた(略)アメフットの練習もミーティングもすべて大嫌いだった」
 しかし「シーズン終盤になり練習の中で高い満足感と喜びを感じる時間ができた。作道はじめLBとのフルタックルだ。あれは楽しかった。自分が相手を吹き飛ばすのが好きであったし、肉弾戦のあの衝撃や身体中からあふれ出る闘争心やアドレナリンにワクワクした。しかもこの練習はLBのスキルをより実戦的に、また飛躍的に向上させ、また自分の強みも磨かれており、それが試合に大きな効果をもたらしているという実感が得られた。なにより、この練習は自分にしかできないことという事実が私の自信となった」
 「さらに言うならば、作道らLBが堕落した私を救い出してくれたといってもいいかもしれない。毎度、これはおまえにしかできない、といわれて嬉しかったし、そのおかげでどれだけボロボロになっても、アザだらけでも必ず引き受け、また自分からも申し込んだ」
 この話の一端は、昨年11月2日「練習台のプライド」というタイトルでこのコラムでも紹介している。それを当人が自分の言葉で書いているのを読んで、僕には熱いものがこみ上げてきた。
 たとえ、外部からみれば「三流のプレーヤー」「練習台」であっても、それは「最高の」三流であり練習台である。それが最高であり「おまえにしかできないこと」を成し遂げることによって、チームは強くなり、自身も充実感が得られる。それこそがファイターズの目指す課外活動であると心から同意したからである。
 200人もの部員が活動するファイターズでは、それぞれの構成員がいつも光を浴びるわけではない。面白くない、辞めたいという人間も必ず出てくる。けれども、山崎君のように、どこかに自分の役割を見つけ、ボロボロになってもアザだらけになっても、その役割を果たす人間も出てくる。そこがファイターズがファイターズである由縁であろう。それを自分にしか書けない言葉で表現していることに感動したからである。
 甲子園ボウルで勝って日本一を達成した年の卒業文集もいいが、一歩及ばず敗れた年の文集はさらに素晴らしい。珠玉という言葉がぴったりの、作道君と山崎君の文章を読み返していると、つらい敗戦のショックが薄れてくる。明日への希望が湧いてくる。新しいシーズンへの期待が高まってくる。
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2016年04月01日

(1)ファイターズにとっての「マスタリー・フォア・サービス」

 4月1日。新しい年度のスタートである。大学前の桜並木は3分から5分咲き。あいにく小雨がぱらつく肌寒い天気だったが、上ヶ原のキャンパスでは入学式。初々しいスーツ姿の新入生とその保護者が列をなして登校している。新入生を勧誘するクラブやサークルのメンバーも、正門から銀座通りにかけてずらりと並び、元気な声を張り上げている。
 そうした中を突っ切り、目的地の第3フィールド、ファイターズの練習場に向かう。
 ファイターズにとっては、昨年、関西リーグの最終戦で敗れたときが新しい年度のスタート。もちろん、最終戦の日大との戦いが残されており、それはそれで意義のあった試合だったろうが、甲子園ボウルへの道が絶たれた時点で、僕にとっては昨年のチームは幕を閉じ、そこから新たな学年、新たなチームが始動している。
 年が改まり、新しい幹部が決まり、後期試験が終了すると同時に新チームのトレーニングがスタートした。いつもの年とまったく異なる練習のスケジュールとその内容。時折グラウンドに顔を出すと、ふだんの年の2月、3月とは少々勝手の違う練習を見ることができた。その時期の練習を見るのも楽しいが、それでも、4月1日という節目の日の練習を見る楽しみは別格だ。
 午後2時半。新しい年度を迎えた初日の練習は、顧問の前島先生による「お祈り」からスタートした。
 先生は「すべての人の僕(しもべ)になりなさい」という聖書の言葉を引用して「マスタリー・フォア・サービス」の意味を説き、このチームで活動する一人一人が「わがこととして学び、習得する」ことに努め、自らがこのチームを引き受ける気持ちでこの1年間、鍛えてほしい、と述べられた。
 さらに「祈りとは何か」と部員に問い掛け、「一言で言えば、自分の思いを明確にすること」と説明。「1月3日までフットボールをやりたいという気持ちを明確にし、それを達成するために身体を鍛え、思いを鍛えること」と説かれた。
 鳥内監督の言葉はもっと短かい。「マスターにならなあかん。プロにならなあかん」「変わるのは今しかない。やるかやらんかや。サボりはいらん」。短いが気持ちのこもった言葉でチームを引き締められる。
 こんな檄を飛ばされては、部員も黙ってはいられない。シーズンが始まったばかりとは思えない素早い集散で、練習メニューに取り組む。途中、短いサプリ休憩などを挟んで、あっという間にチーム練習は終了。
 練習後のハドルで、今度はチームの幹部がそれぞれ短い言葉で気合いを入れる。山岸主将は「いつも立命戦を意識し、高い意識をもって取り組め」。副将の岡本君は「練習台になる者が本気になれ。常に相手を倒す、という強い気持ちを持て。甘い取り組みでは、お互いが強くなれない。弱い相手に勝ってそれで満足というような練習はするな」という意味のことをこれまた短い言葉で。主務の石井君も「ファイト!ハード。たとえ10回に1回しか勝てないような相手でも、その1回は絶対に勝ち切れ。それがファイト!ハードという意味だ」と続ける。
 新しいシーズン、新しい学年のスタートということで、気分が高揚していたこともあるだろう。それぞれの幹部が短い言葉の中に、強い気持ちを込めて部員に語りかけていたのが印象に残った。
 同時に、そういう幹部たちであっても、昨年のチームが勝てなかった相手に、自分たちはどうすれば勝てるのか、自分たちにどんなチームが作れるのか、という不安もあったに違いない。幹部だけが声を挙げても、周囲を巻き込まなければ成果が出ないと、これからのチーム作りを懸念する気持ちももちろんあるだろう。
 そういう諸々をすべて抱き、包み込んで、ファイターズで活動するすべての部員が1915年、時の関西学院高等学部長(後に関西学院第4代院長)ベーツ氏によって提唱された「マスタリー・フォア・サービス」の道を歩み始めてほしい。それがこの日、お祈りで前島先生が説かれたこと、鳥内監督の「どんな人間になんねん」という問い掛けへの答えにつながる道だと僕は思っている。
 その気持ちをより正確に表すために、関西学院が発行している冊子「輝く自由」に掲載されているベーツ先生の言葉、すなわち1915年に書かれた「私たちの校訓『マスタリー・フォア・サービス』」という文書の一部を紹介しておく。
 「私たちは弱虫になることを望みません。私たちは強くあること、さまざまなことを自由に支配できる人(マスター)になることを目指します。マスターとは、知識を身につけ、チャンスを自らつかみ取り、自分自身を抑制できる、自分の欲、名誉や飲食や所有への思いを抑えることができる人です」
    ◇    ◇
 今年も山岸主将を中心とした新しいチームがスタートしました。チームの胎動に合わせて昨年末から休載していたこのコラムも再開し、今年もチームの動向を追っていきます。引き続きのご愛読とファイターズへのご支援を心からお願いします。
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2015年12月03日

(33)何を遺すか、何を引き継ぐか

 先週木曜日の夕方、紀州・田辺市の新聞社から西宮市に戻り、第3フィールドでチームの練習を見ていたときのことである。急に腹部がけいれんし、激痛が走った。グラウンドが恐ろしく寒かったから、腹が冷えたのかと思ったが、別段、下痢の症状も出てこない。どうしたことかと思っているうち、痛みはさらにひどくなり、背中にまで広がってくる。
 必死の思いで自宅に帰り、まずは風呂で体を温めたが、いっこうに症状は改善しない。脂汗は出る。痛みは広がる。耐え切れずに救急車を要請。生まれて初めて救急車で病院に搬送された。
 救急病院に到着。担当医の診察、腹部のCT撮影などがあり、尿管結石と診断される。そのまま入院し、栄養剤と痛み止めの点滴を受けたが、激痛は一晩中続く。夜明けを待って、泌尿器科のある西宮中央病院に転院、そこでさらなる検査を受け、病状の説明を受ける。幸い、結石は小さく「1週間ほどで、自然に排出されるでしょう」とのこと。鎮痛剤で痛みを抑えて退院した。
 週明けとともに職場に復帰。昨日(水曜日)の再診で「完治しています。何の問題もありません」という診断をいただいた。
 その言葉に安心し、その足でグラウンドに出掛け、ようやくチームの練習を見学することができた。
 不安、激痛、小康が交互に襲ってきたこの7日間。痛みが和らぐと、気にかかるのはチームのこと。関西リーグの最終決戦で立命に敗れたチームがどうなっているか。まだ1試合「東京ボウル」が残されているけど、モチベーションは保てているか。そんなことが気になって仕方なかった。
 なんせ、この4年間、公式戦で学生相手には敗れたことのないチームである。それが関大戦では、キッキングチームがボコボコにされ、立命戦では相手の思い通りの試合展開を許してしまった。
 もちろん、ファイターズも反撃して3点差まで追い上げ、見せ場は作った。さすがはファイターズと思ったが、内容的にみると「攻めきれない」「守りきれない」展開。加えて関大戦の後遺症か、キッキングチームは終始精彩を欠き、最後まで自分たちのペースに持ち込めないまま、試合が終わってしまった。
 「もっとやれたはずだ」「あそこでなぜ、もっとチャレンジしなかったのか」と後悔の残る試合。明らかに実力の差があっての敗戦ならまだしも、戦いようによっては活路が開けた内容だっただけに、選手もスタッフも気持ちの整理が付いていないに違いない。そんな状態で、もう1試合、といわれても、その気になれるかどうか。僕はそれが気になって仕方なかった。だから、グラウンドに出て、選手やスタッフの表情を見てみたい、というのが切なる希望だった。
 だが、病気がそれを許さない。痛みと闘いながら、悶々としていたとき、チームのスタッフが東京ボウルに寄せて、チームのホームページに次のような文言を書き込んでいるのを見つけた。
 「2015 FIGHTERS ラストゲーム。目標の頂にはたどり着けなかった。だが、これまでの想いをぶつける機会を与えられた。何を遺すか、何を受け継ぐか。FIGHTERSの誇りをかけて」
 誰が書き込んだのかは聞いていないけど、意味はよく分かる。ほっとした。チームは、敗戦という苦い汁を飲みながら、それでも戦おうとしている。「何を遺すか、何を受け継ぐか。誇りをかけて」という文言に、大いに勇気づけられた。
 加えて11月27日に行われた「TOKYO BOWL」の記者会見の模様が伝えられた。
 そこで鳥内監督は「ああいう形で立命に負けてしまった。4年生にとっては最後の試合になってしまうところだったが、ここにきてもう1試合やることができる。今年の集大成として臨みたい」と発言。橋本主将も「今年の関学がどんなチームだったかを見せるためにも、日大に勝って終わらなくてはアカン」と宣言している。
 モチベーションの上げ方について、監督は「立命館に負けたことで最初はへこんでいたが、4年生を勝たせて終わりたいということで心配はない。今年のチームは発展途上。完成させて終わろうという話をした」ともいっている。
 その通りである。発展途上のチームをしっかり仕上げて、ライバルとの試合に臨んでほしい。甲子園から東京ドームに続く道は絶たれたけれども、戦いを前に、モチベーションがどうの、敗戦のショックがどうの、なんていっている場合ではない。いまは目の前にいる相手に存分の戦いを見せるときだ。それが「何を遺すか、何を引き継ぐか」という問いに対する答えになる。
 後に続く者への「伝言となる試合」を期待する。
posted by コラム「スタンドから」 at 20:22| Comment(4) | in 2015 season

2015年11月24日

(32)「必死三昧」

 江戸の中・後期に平山行蔵という剣客がいた。字(あざな)は子龍。体は大きくなかったが、14、5歳の時から一人前の武士の風格があり、文武に堪能。兵学をよくし、武芸は十八般、ことごとく習得した。昼は武芸、夜は兵書と、一日も勤めぬことはなく、著述は数百巻にのぼり、和漢の蔵書1800部を集めていた。
 常に二尺(約60センチ)四方の槻(ケヤキ)の板を敷物とし、これに両の拳を突き当て、突き当てしながら読書に励んだから、拳が固まって石のようになり、胸板ぐらいはこれで付き砕いたそうだ。毎朝7尺(約2・1メートル)の棒を500回、4尺(約1・2メートル役)の居合い刀を抜くこと300回。常在戦場を心掛け、食は玄米に味噌を塗るだけ、61歳まで布団の上で寝たことがない。想像を絶する武人であり、実際、18世紀末から19世紀の初めに活躍した剣客の中でも、群を抜いた腕前だったという。
 この人が「剣術の要は敵を打つ気持ちをひたすら敵の心へ貫通させること。すなわち必死三昧でなければいけぬ」「受けつ流しつの技が上手だとて、いっこう役にたたぬ。一人二人の立ち会いならまだしも、槍ぶすまを作って向かってくる戦場の時には、ただただ精一無雑に飢えたる鷹の如く、怒れる虎の如く、躊躇なく突撃して、初めて妙境自在がある」といっている。
 こんな話を持ち出したのはほかでもない。立命との決戦で、勝敗を分けたのは、ただ一点にあると思ったからだ。つまり、チームの全員がただただ相手を倒すという一心で立ち向かえたか否か、ということである。
 明鏡止水。なんの憂いもなく、ひたすら目前の相手を叩きのめす、という心境で立命戦のキックオフを迎えることができた選手は、果たしてファイターズに何人いたことだろう。ある者は、自身のけが、仲間のけがの回復状況が気にかかり、またある者は前節までの苦しい戦いの原因を引きずっていた可能性がある。試合前の記者会見での発言などを聞くと、オフェンス、ディフェンスともに、練習で詰め切れない点を残したまま、キックオフを迎えたのかもしれない。
 さらにいえば、この4年間、大学生相手の公式戦では一度も負けていない、という楽観的な気持ちがどこかにあったかもしれないし、それがある種のプレッシャーとなっていた選手もいただろう。
 実際、今季は主力にけが人が相次いだ。立命戦にもぶっつけ本番で出場し、活躍した選手が何人もいる。攻撃ではWR木下、守備ではDB岡本。ともにほんの数日前までびっこをひいていた選手とは思えないほどのはつらつとしたプレーを見せた。LB山岸、RB橋本、OLの井若や藏野も、けがによる練習の空白がなければ、もっともっと活躍できた選手である。
 キッキングチームも今季は終始、不安定な状況が続いた。リターナーがボールをファンブルしたことは一度や二度ではないし、フィールドゴールやパントは何度もブロックされた。結果、相手にロングリターンを許す場面が相次いだ。攻撃陣は自陣奥深くからの攻撃を余儀なくされることが多く、逆に相手のリターンチームには大きく陣地を挽回された。その集大成が前節の関大戦であり、今回の立命戦である。
 キッカーやパンターの責任というよりも、その状況を克服できなかったチームの責任であろう。
 主力にけが人が続出したことによる不安やキッキングチームに安定感を取り戻せないことへの懸念を抱えたまま、決戦に臨まざるを得なかったという時点で、すでに平山行蔵のいう「必死三昧」の境地には至らなかったのかもしれない。
 そういう状況で迎えた立命との決戦。結果は30−27。普段の試合では考えられないようなミスが相手より多く出たファイターズが敗れた。相手に先制点を許し、終始、追いかける展開になった試合内容から、得点差以上の差があったという人も周辺にはいるが、僕はそうは思わない。一歩状況が変われば、ファイターズが勝っていても、不思議ではなかったと思っている。
 実際、スタッツをみれば、総獲得ヤードは274ヤード対338ヤードでファイターズが勝っている。パスの成功率も、インターセプトの回数もファイターズの方が上である。
 相手もよく走ったが、ファイターズも負けていない。相手ボールを奪ったDB田中があわやTDというロングリターンを決めたし、QB伊豆も鉄壁の守備陣をかいくぐって44ヤードのラッシュを決めた。故障上がりのWR木下は要所でキーになるパスをキャッチし、TDパスも確保した。期待の1年生WR松井は強力な相手守備陣のマークを振り切り、2本のTDパスをキャッチした。
 前日まで、歩くのも苦しそうだったDB岡本が相手QBに激しいタックルを浴びせて倒したし、インターセプトも決めた。守備の第一列も素早い動きで、相手のランナーを食い止めた。そうしたプレーの総和としての3点差である。
 負けは負けだが、僕は攻守、さまざまなところで不安を抱えたまま試合に臨み、実際、終始リードを許しながらの苦しい試合を、よくぞここまで盛り返したことよ、と感心している。
 それだけに、なおのこと明鏡止水。チームとして、雑念を振り払って決戦に臨めなかったことが残念でならない。
 今季はもう一戦、日大との戦いが控えている。甲子園ボウルへの道は途絶えたが、4年生には今季の総決算という覚悟で試合に臨んでほしい。下級生には新しいシーズンに向けて、日々、拳でケヤキの板を叩き付けながら学ぶ覚悟で稽古に励んでもらいたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 22:25| Comment(3) | in 2015 season

2015年11月19日

(31)男伊達

 江戸三男(えどさんおとこ)という言葉がある。江戸時代、粋な男の筆頭にあげられた与力、相撲取り、火消しのことを指す。時代考証家、稲垣史生さんの『江戸考証読本U』(KADOKAWA)によると、この言葉は単に男前という意味ではなく「男子の面目、男伊達の意味にとるべきだ」「伊達の内容は、侠気に満ちて華美(はで)、持てる力を内に秘めて奥床しいところがある」と解説している。
 加えて与力は「威あって猛からず、スタイリストでさばけたところがある」「侠気といえば侠気、頼もしくて話せる」。相撲取りは「待ったなしを尊ぶ心意気」「意気は意気地であり、男伊達の本領」。火消しの頭は「信望と統率の才能を要し、貫禄と義侠心と腕っ節の強さが不可欠」と説明する。
 なるほど、粋な男たちだ、と本を読み進めながら「ちょっと待て。そういう男なら、ファイターズにもいっぱいいるぞ。江戸三男の向こうを張って、ファイターズ10人衆でも20人衆でもいい、なんなら50人衆の名前を挙げてみようか。粋な女子の名前も一人や二人ではないぞ」と思った。
 いつもグラウンドで仲間を鼓舞している橋本主将。体重は約130キロ。腹の底から張り上げる大声は、少なくともこの10年間では一番デカイ。練習を仕切るだけでなく、全体練習が始まるはるか前からグラウンドに顔を出し、時にはダミー、時には早出のOLを相手に、激しく当たりあっている。
 副将の3人、作道、田中、木下君も、練習時はもちろん、練習が始まる前からそれぞれが属するパートの練習や下級生の指導に余念がない。チーム練習を終えた後、アフターと称する練習まで、いつも先頭に立ってプレーするのはもちろん、寸暇を惜しんで1センチ単位の足の動き、スタートのタイミングの取り方、そして効果的な当たり方などを繰り返し繰り返し仲間に指導している。けがからの回復途上でシーズン当初は練習もままならなかったDL小川君、一時は社会復帰さえ危ぶまれたRB三好君も、それぞれパートのリーダーとして周囲を盛り立て、下級生を懸命に育ててきた。それぞれが男伊達と呼ぶにふさわしい腕っ節と奥ゆかしさをもった面々である。
 4年生だけではない。3年生でエースとなったQB伊豆君は毎日、誰よりもストイックに練習と向き合っている。例えば、今年の夏合宿、僕が1泊2日の日程で見学に行った時のことである。早朝、まだ5時半を過ぎたばかりというのに、いち早くグラウンドに降りてきたのが彼だった。連日の猛練習で疲れ切っているはずなのに、清々しい表情でウオーミングアップを始めた彼の姿を見たとき「今年のオフェンスは、この男に任せて大丈夫」と確信した。
 彼と簡単な挨拶を交わした後、グラウンドに目をやると、主務の西村君とマネジャーの今川さんが分担してラインを引いているのが見えた。トレーナーも徐々に集まり、補給用の水を用意し始めている。それぞれ、プレーヤーが降りてきた時には、すぐに早朝練習をスタートできるようにするための準備である。監督もコーチも、選手の多くも疲れ果て、1分でも多く眠っていたい時間に、自発的に起床し、グラウンドに出て黙々とチームに貢献する彼、彼女らもまた粋でいなせな面々である。
 こうして上級生、下級生、選手とスタッフが営々と努力を重ね、作り上げてきたのがファイターズである。全日本の代表メンバーに選ばれるほどの力量を持った選手は少なくても、十人並みの選手の力を最大限に引き出して勝ち続けて来たのがこのチームである。監督やコーチの指示を待って行動する大方のチームとは、ひと味もふた味も異なっている。
 そのチームの真価が問われる試合が目前に迫っている。11月22日午後2時、大阪・長居でキックオフとなる立命館との決戦である。双方がこれまでの6試合を勝ち続けて迎えた今季関西リーグ最終戦。勝てば優勝、負ければ地獄の釜が開く。
 聞くところでは、相手はめちゃめちゃ強いそうだ。これといった死角もないという。それをどのように崩し、甲子園ボウルからライスボウルへの道を切り開くか。
 侠気と腕っ節の強さを持ち、信望と統率力のある男伊達の出番である。
 監督が常々問い続けている「どんな男になんねん」という問い掛けに応える場面は目の前にある。どんなに苦しい場面に遭遇しても、奥ゆかしくほほえんで仲間の信頼に応える心意気を示してもらいたい。
 健闘を祈る。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:07| Comment(2) | in 2015 season

2015年11月09日

(30)信じられない数字

 強いのか、弱いのか。スタンドから見ているだけでは、まったく分からない試合だった。7日の関大戦。試合が終わった時には、ファイターズが33−7で勝っていたから、数字の上では圧勝である。
 実際、試合後のスタッツを見ても、すべてにファイターズが上回っている。第1ダウンの獲得数は24回と13回。総獲得ヤードは442ヤード対232ヤード。ランでもパスでもほぼ相手の2倍の距離を稼いでいる。関大には2回の反則があり、15ヤード陣地を下げられているが、ファイターズはゼロ。
 こういう数字を見た人は、ファイターズが終始、主導権を握って試合を進めたと思われるに違いない。けれども、とてもとてもそんな「お気楽な」気分で観戦できる状態ではなかった。
 立ち上がり、関大陣18ヤードから始まった相手の攻撃を3&アウトで抑えたところまでは、いい感じだった。続くファイターズの攻撃は自陣46ヤードからの好位置。まずはQB伊豆からWR木下へのパスがヒットして19ヤードの前進。そこからRB野々垣と橋本が交互にボールを持ち、第4ダウンインチの攻撃も成功させてダウンを更新。次は野々垣が10ヤードを獲得してゴール前10ヤード。
 しかし、ここからの攻撃が進まず、第4ダウンはフィールドゴールを選択。ところがK西岡の蹴ったボールを相手にブロックされ、関大陣28ヤードまで押し戻される。キックの弾道が低かったのか、キッカーをガードしている誰かが突破されたのか、スタンドからではよく見えなかったが「やばい。関大は徹底的に研究している」と思わせるに十分なプレーだった。
 次の関大の攻撃は、一度ダウンを更新されたが、2度目はDL藤木、柴田の素晴らしいタックルで何とか抑えて攻守交代。自陣17ヤードから始まった攻撃は、伊豆から木下へのパス1本でダウンを更新。久々に復帰した副将はやはり頼りになる。次はまた伊豆からWR松井に23ヤードのパスをヒット、相手陣48ヤードに進む。
 パスを2本続けた後は野々垣のランとRB山本のドロープレー。途中、WR前田への短いパスを挟んで橋本と高松のラン、野々垣へのショベルパス、さらにはFB山崎、RB橋本の突破力を生かしてゴール前1ヤード。仕上げは橋本の中央ダイブでTD。パスとランをかみ合わせた攻撃が見事に決まって7−0。
 しかし、キッキングのカバーが破られ、相手はゴール前3ヤードから46ヤード地点までリターン。反撃ののろしを上げる。ここはDB山本、小池らのロスタックルで防ぎ、攻撃権を奪い返したが、次に伊豆が敵陣深く投じた長いパスが奪われ、再び関大の攻撃。関大の攻撃を断ち切ってベンチに戻った守備陣は、一息つく間もなく、再びグラウンドへ。突然の出動で、心の準備が間に合わなかったのか、相手のランとパスを組み合わせた攻撃を支えきれず、わずか7プレーで84ヤードを運ばれ、TDを奪われてしまう。
 7−7。同点という数字もさることながら、目の前で相手の破壊力のあるオフェンスを見せつけられて、これはやばいぞ、という気持ちが芽生えてくる。
 逆に関大は守備陣も勢いづいてくる。次のファイターズの攻撃を3&アウトに防ぎ、再び関大の攻撃。しかし今度は、心の準備ができていたのだろう。LB山岸のロスタックルなどで、ファイターズも相手を3&アウトで退ける。
 自陣23ヤード、前半残り時間は2分21秒。ここからファイターズの華麗なパス攻撃が始まる。木下、松井、亀山への長短織り交ぜたパスを次々にヒットさせ、あっという間にゴール前9ヤード。前半残り時間はほとんどなかったが、伊豆が8ヤードを走り切ってTD。時計は残り3秒を指していた。
 しかし、キッキングチームは不安定なまま。この場面でもTDの後のキックをブロックされ、得点は13−7。とてもリードしているという実感は持てないまま、後半戦に入る。 第3Qは関学のレシーブ。ここはWR池永の好リターンで自陣46ヤードからの攻撃。橋本、高松のランで陣地を進め、敵陣32ヤードからまたも松井に22ヤードのパス。難しいコースだったが、余裕で確保し、ベンチを奮い立たせる。前半終了間際の緊迫した場面で、23ヤードと13ヤードのパスを確実にキャッチしたのとあわせ、スーパー1年生としての存在感を見せつけた。
 ゴール前8ヤードからの攻撃はランを3度止められたが、第4ダウンの攻撃で伊豆が5ヤードを走り切ってTD。リードを広げる。しかし、この場面でもPATが蹴れず、またもや得点は6点のまま。
 第3Q10分32秒にもファイターズは伊豆から前田への15ヤードのパスを通して加点したが、この場面ではキックを蹴る選択をあきらめ、野々垣のランで2点を追加した。プレーが成功したのはうれしかったが、PATを蹴るのをあきらめるというのは、まさに異常事態。長い間ファイターズの試合を見てきたが、過去にも例のないことだった。
 結局、この日はゴール前5ヤードからのフィールドゴールを1回試みて失敗。PATのキックも4回のうち3回失敗している。相手チームが十分に研究してきていることは割り引いても、理解に苦しむ状況である。キッカーの状態が悪かった、ということだけではなく、システムや習熟度に問題があったとしか考えられない。その証拠に、キックオフカバーも、終始不安定だった。この数年間、卓越したキッキングゲームで相手を圧倒してきたファイターズを見てきた人間としては、目の前の惨状が信じられなかった。
 得点は33−7。圧勝だが、まったく勝った気がしないというのは、ここに原因がある。この点にどうメスを入れるか。シーズンが終盤になったいまでは、できることは限られているだろうが、何とか手を打ってもらいたい。
 次の立命は、攻守とも関大をさらに上回るメンバーを揃えている。打倒関学、に燃える気概も並々ならぬものがあると聞いている。そういう難敵に対するに、不安を抱えたままでは戦えない。何とかしてくれ、と祈るばかりである。
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2015年11月02日

(29)練習台のプライド

 今週は、ファイターズでは一番目立たないが、チーム浮沈の鍵を握るポジションのことについて書きたい。そう、フルバック(FB)のことである。
 先日の近大戦では、35番の山崎君が97キロの巨体を利して突進に次ぐ突進。5回のボールキャリーで60ヤードを走った。珍しくカットを切って23ヤードを独走し、TDを挙げる場面もあった。彼がボールを持つたびに、スタンドからは大きな歓声が沸き、一躍、人気者になった。その前の神戸大戦では、94番の市原君がゴール前で、QB中根君の投じた逆方向の難しいパスを体を反転させてキャッチした。地味ではあったが、ここで落としてなるものか、という気迫を見せつけたプレーであり、ファイターズFBの存在感を示した。
 けれども、彼らのプレーが多くのファンから注目されるのは通常、1試合に1度か2度。あとはひたすらブロッカーとしてボールキャリアの走路を開き、あるいは相手のブリッツからQBを守る仕事に徹している。
 しかし、ファイターズが多彩な戦術を遂行し、試合を勝利に導く上で、彼らに与えられた役割は限りなく大きい。
 例えば、2007年の甲子園ボウル。ライバル日大を相手に二転三転するゲームを制するキーになったのは、ファイターズが34−38と逆転されて迎えたゲームの終盤、第4ダウンショートという状況でQB三原君がFB多田羅君に投じた短いパスだった。それを多田羅君がしがみつくようにして確保したことで攻撃が続き、第4ダウンゴール前1ヤード、残り時間6秒という場面を作り、RB横山君の逆転TDランに結びついた。
 あの学年は、QBに三原君、レシーバーに榊原君や秋山君を擁し、史上最高のパスオフェンスを繰り広げたチームだったが、ここぞというポイントで、誰もがマークしていないFBへのパスをヒットさせ、勝利に結び付けたのだ。あのキャッチひとつで多田羅君は、僕の中では「記録ではなく、記憶に残る選手」にノミネートされたのである。
 昨年度の4年生FB梶原君のDLとして鍛えた強力なブロックも記憶に新しい。中でも立命戦の冒頭、相手がキックしたボールを受けたリターナーの田中君の走路を、梶原君がえげつないブロックで切り開き、ビッグリターンに結び付けた場面が印象に残っている。彼もまた地味な役割だったが「記憶に残る」選手の一人である。2011年卒の兵田君が小さいけど力強い「小型ダンプ」のような体型を利用して、常に相手の下からまくり上げるブロックをしていた場面も記憶に残っている。
 しかし、試合で活躍している彼らの姿は、実際に彼らがチームで果たしている役割からいえば、氷山の一角。水面下に隠れて見えない部分にこそ、彼らの値打ちがある。
 それは、チームの練習台としての役割である。彼らはテールバックと呼ばれるボールキャリーが中心の選手ほどには素早いカットは切れない。けれども当たりは強いし、動きもラインよりは数段速い。上級生ともなると、体ができあがっているから、少々の当たりにも動じることがない。
 そういう特徴を持っているから、LBやDBの練習相手には欠かせない。チーム練習の前に、FBの彼らを相手チームの当たりが強くてスピードのある選手に見立てたLBやDBの選手が「もう一丁、もう一丁」とぶつかっている姿は、いつだって見ることができるし、スピード派の味方RBの練習台として、相手LBの役割を果たしてぶつかり合っている場面も日常の光景だ。
 FBのメンバーは常に自分たちの練習と同時に、LBやRBの練習台として、仲間を鍛える役割を担っている。つまり、FBの面々が、チームメートのためにしんどい練習台を本気で務めることで、優秀なLBやRBを育てているのである。
 外部からは目立たないが、その地味な役割を果たし続けて自らを鍛えてきた面々が、試合の重要なポイントでいぶし銀のような活躍を見せる。走る姿は少々かっこわるくても、スマートなボールキャッチができなくても、そんなことは知ったことではない。
 確実に走り、確実に相手を倒し、確実にボールを捕捉する。試合中、1度めぐってくるか、3度のチャンスが与えられるか。それはゲームの展開次第。その数少ない機会を確かに成功させる山崎君や市原君のプレーは、練習台としてのプライドの表現である。そういう背景があるから、僕は彼らのプレーが成功するたびに、心からの拍手を贈るのである。
 さあ、今週末は、関西大との決戦だ。彼らがブロッカーとして活躍する場面は間違いなくある。ボールを持って活躍する場面がめぐってくるかどうかは保証の限りではないが、彼らが鍛えたLBやDB、そしてRBの面々が活躍する場面はきっとある。そういう場面に出合うたびに、チームで一番地味で重要な役割を営々と果たし続ける彼らに思いを馳せていただきたい。フットボールを見る楽しみが倍加することを約束します。
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2015年10月28日

(28)手応えあり

 25日の日曜日。関西リーグ第5節の相手は近大。前半の4試合は、下位チームを相手に1勝3敗と今ひとつ波に乗り切れていないが、実績のあるRBを中心に才能を感じさせる選手が少なくない。後ろに控える関大、立命との戦いを前に、すっきりと勝って勢いを付けたい相手だった。
 試合は関学がレシーブを選択。それを計算したように、近大はいきなりのオンサイドキック。両軍がもみ合い、近大がボールを確保したかに見えたが、審判の判定は10ヤード転がる前に手を触れたということで、相手陣43ヤードからファイターズの攻撃。
 第1プレーはQB伊豆がRB野々垣にハンドオフしたが、その瞬間、近大デフェンスに突っ込まれてマイナス3ヤード。最初のオンサイドキックといい、このプレーといい、近大が周到に準備したことがうかがえるプレーが二つも続いて、スタンドがざわつく。
 しかし、伊豆はあくまで冷静。第2ダウン13ヤードからWR亀山にヒッチパス。それを確保した亀山が右サイドを駆け上がり、23ヤードのゲイン。続いて左サイドのWR前田泰に9ヤードのパス。残る14ヤードをRB高松が走り抜けてTD。わずか4プレー、1分少々の鮮やかな攻撃だった。西岡のKも決まって7−0。試合の主導権をがっちり確保する。
 攻撃にリズムが出ると、守備も集中する。相手陣17ヤードから始まった近大の3プレー目のパスをLB松本和がインターセプトし、14ヤードを走って攻守交代。ゴール前12ヤードからの攻撃を野々垣のランで2ヤード。次は伊豆がゴール左隅に浮かせたパスを長身のWR松井がキャッチしたが、わずかにラインを超えて失敗。しかし、残る8ヤードを伊豆のキープと高松のランであっさりTDに結び付け14−0。試合開始から4分も経たない間の速攻だった。
 こうなると守備陣も調子づく。DL小川のQBサックなどでまたも相手を完封。自陣46ヤードからファイターズの攻撃につなげる。
 ファイターズ3回目のオフェンスは、パス、パス、パス。亀山、松井、TE山本に短いパスを3本続けて通し、ゴール前17ヤード。仕上げは野々垣が中央を走り抜けてTD。近大陣46ヤードから始まった4回目のオフェンスも伊豆からWR藤原へのパス、RB山口のランの2プレーでゴール前6ヤードに迫る。ここでホールディングの反則があったが、高松が委細構わず15ヤードを走り切って4本目のTD。
 この間、時間にして11分少々。まだ第1Qも終わっていないのに得点は28−0。グラウンドはファイターズ祭りの様相である。
 第2Qに入ってもファイターズの攻守はかみ合う。近大陣36ヤードから始まったファイターズの第5シリーズは、いきなり伊豆から松井に35ヤードのパスが決まり、ゴール前1ヤード。ここは山口が簡単に走り込み、わずか2回の攻撃でTD。ここでQBを控えの中根に交代させたが、その中根も自陣34ヤードからWR水野にスクリーンパスをヒットさせる。ボールを確保した水野が抜群のスピードで左サイドを走りきってまたまたTD。
 試合開始から15分少々。オフェンスのプレー数は合計22回。わずかそれだけのプレーで6本のTDを奪取。西岡もキックをことごとく決めて42−0。守備もその間、一度も相手にファーストダウンを与えない健闘だった。
 長い歳月、ファイターズの試合を見ているが、攻守ともここまで完璧な試合は見たことがない。試合開始の第1プレー。練りに練ったオンサイドキックが不成功になって、一瞬動揺した相手の隙を突いてたたみかけたとはいえ、6回の攻撃シリーズを短い時間でことごとくTDに結び付けたオフェンス。1列目と2列目、そして3列目が有機的に連携し、アリ一匹通さないような守備を続けたデフェンス。ともに素晴らしい内容だった。ベンチも選手も、次に控える関大、立命戦を前に「手応え有り」と確信したのではないか。
 しかし、この試合の前日に戦われた立命と関大の試合を見た人によると、立命の守備陣がすごいそうだ。攻撃でも「異次元」のRBが縦横に走っており、とてもとてもやっかいな相手らしい。
 その前に戦わなければならない関大も、立命相手には攻撃がちぐはぐだったというが、捲土重来、ファイターズ相手には何を仕掛けてくるか分からない。元々力のあるタレントが揃っているうえ、ファイターズを破れば優勝の可能性が残る。当然、死にものぐるいの戦いになるのは目に見えている。
 そんな二つの強敵にどう挑むか。これからの1分、1秒が勝負である。近大との戦いでつかんだ「手応え」に、さらに磨きをかけ、存分に戦ってもらいたい。これからの試合に焦点を当て、長いリハビリ生活を続けてきた選手たちを含め、まだまだ、時間は残されている。
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2015年10月21日

(27)丸刈りのコーチ

 新聞記者の名刺を持って48年。長ければいいということでもないが、それでも半世紀近く一つの仕事に専念していると、目に映るものを捉える感覚は磨かれてくる。目に映った景色の奥にあるものを想像する力もそれなりに備わってくる。そして、それを言葉にする技術も、といいたいところだが、それに関してはまだ自信がない。
 例えば、先日の神戸大学との試合会場では、こんな光景を見つけた。
 アシスタントコーチを務めている梅本君が頭をつるつるに丸めていたのである。
 試合の始まる前に、あれっと気付いたのだが、キックオフを前にした緊張した場面で、本人に声を掛けるのは、あまりにも失礼だ。だが、なぜ、どうして、と疑問が頭を駆け巡る。リーグ戦が始まって3試合。レシーバーとQBの連携が今ひとつしっくりいかないからか。あるいは、自分が担当しているレシーバー陣がなかなか力を発揮できないことにムカついたのか。日ごろの取り組みに、コーチが頭を丸めなければならないほどの問題が起きたのか。想像が想像を呼ぶ。
 それでも、試合中はとにかくゲームのレポートに集中。試合終了を待ちかねて、本人に話を聞いた。
 「気合いを入れようと思って」「レシーバーがあまりにピリッとしないので、ここは僕がカタチに表すしかないと思いました」。そう答えてくれた彼の表情は真剣そのもの。
 たしか前々日までは、就職先の内定式に出るような髪型をしていたのに、というと「昨日、橋本(主将)に刈ってもらいました」という答えが返ってきた。
 たしかに、副将の木下君が先発した2戦目の京大戦こそ、彼の活躍と1年生WR松井君の衝撃的なデビューがあってパス攻撃が機能したが、初戦の桃山学院、3戦目の龍谷大との戦いでは、明らかにレシーバー陣がQB伊豆君の足を引っ張っていた。目立つのは守備陣とランオフェンスばかり。難敵が次々に登場するリーグの後半戦を見据えると、期待の1、2年生レシーバーもQBも、さらには歴代最強といわれるOL陣も、もう1段階も2段階も上げていかなければならないというのが、正直な感想だった。
 その辺を危惧した話は、龍谷大との試合後のコラムに書いたが、思わず「パスの関学はどこへ行ったんや」と嘆きたくなるほどの3試合だった。
 そんなときに「橋本に刈ってもらった」という梅本君の話を聞き、新聞記者の想像力にスイッチが入った。
 場所は、4年生の幹部が住み込んでいるファイターズホール。夜遅くまで続いたミーティングで、いろんな反省の言葉が出た後、腹を固めたアシスタントコーチが「俺、坊主になるわ。橋本、刈ってくれ」と、主将に声を掛ける。
 「ええっ」と思いながら、それでも電動バリカンを手にする主将。いざ、先輩の髪にバリカンを入れる時、胸中にどんな思いがよぎったろう。
 「俺たちが至らないばかりに、先輩が坊主になる」「先輩に、コーチに、こんな思いをさせたらあかん」「俺たち4年生が死ぬ気になって頑張らなあかん」「言葉でなく、行動で見せな!」
 僕が思うに、丸坊主にしてくれ、といった方も、それを実行する方も、多分、こんな言葉は口にしなかっただろう。けれども、新聞記者半世紀の経験から想像すれば、互いに胸の奥深いところで、上記のような「会話」を交わし、よし、俺がチームを覚醒させる、俺たちがチームを変えてやる、と固く誓ったに違いない。
 アシスタントコーチと主将。いまは立場が異なっているが、現役時代でいえば4年生と2年生。同じファイターズで同じ楕円球を追い、日本1を目指して頑張ってきた仲間である。だからこそ無言の「会話」が成り立つ。言葉に表さなくても、胸の奥深く、腹の底まで染み込む「会話」が交わされたに違いない。
 4戦目、神戸大学戦で見せた、まるで別のチームのようなパス攻撃がそれを証明している。2年生前田泰が8回147ヤード、1年生松井が4回118ヤード、そして先週紹介したJVリーダーの木村が2回47ヤード。QB伊豆や中根、百田のパスもよかったが、それをしっかり受け止めたWR陣の活躍は「奮起」「覚醒」という言葉こそふさわしい。
 大げさに言えば、ここにファイターズにおけるアシスタントコーチの役割がある。監督やコーチと選手、スタッフの関係は、他のどのチームにもないほど風通しがよいが、それでも、相手は年齢の離れた大人であり、どうしても指示を出す側と、それを受け止める側の関係になる。
 けれども、留年してアシスタントコーチを務めているメンバーは、つい先日まで、同じグラウンドで汗を流し、涙をともにした仲間である。立場からいえば指導する側ではあるが、学生にとってはなにかと頼りになる兄貴であり、時には格好の練習台を務めてくれる存在である。
 梅本君だけではない。今年も就職活動が終わった順に、次々とアシスタントコーチを務める5年生がグラウンドに顔を出し、練習台を務めている。OLの油谷君、OLとTE、DLとLBを必要に応じて使い分ける森岡君、同じくRBとLBの双方を務める西山君、スカウトチームのQBとレシーバーを務める松岡君。RBの飯田君は夏合宿で膝に大けがをし、手術を終えたばかりというのに、足を引きずりながら練習に顔を出し、にこにこと後輩の動きを見守っている。ディフェンスでは神様と呼ばれるLBの吉原君が常連だ。トレーナーの黒田君やK三輪君の顔も見える。
 彼らもまた、僕の気付かないところで、後輩たちの悩みを聞き、飯をおごり、そして問題解決の手掛かりを与えているのだろう。
 毎年、顔ぶれは変わっても、こういう頼もしい先輩に支えられて成長し、一人前の人間になっていくのがファイターズである。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:36| Comment(1) | in 2015 season

2015年10月12日

(26)涙の出るプレー

 木曜日は紀州・田辺の新聞社から上ヶ原のグラウンドに直行。金曜日は大学の授業。土曜日は早朝から前日の授業で受講生に書かせた小論文の採点と講評。半分だけ済ませて王子スタジアムに駆けつけ、ファイターズの応援。一度西宮の自宅に帰って喪服に着替え、夕方、三田市の葬儀場へ。子どもの頃から世話になった親戚のおじさん(享年92歳)のお通夜である。
 今週は、日曜日も本業の新聞社で仕事があるので、夜明け前に西宮を出発して紀州・田辺に直行。半分、寝ぼけた頭から「TPPと紀州のミカン農家」をテーマにしたコラムをひねりだし、なんとか役割を果たす。世間は3連休というのに、今月末で71歳になる爺さんは東奔西走。この3日間の車の走行距離は400キロを超えている。
 今夜は、手作りの夕食を「うまい! 俺はなんて料理がうまいんだろう」と自分で自分をほめながら腹を満たし、疲れた体を長風呂でほぐしてほっと一息。コーヒーを一杯飲んで、ようやくいま、ファイターズのコラムを書く順番がめぐってきた。
 さて、本題である。
 午前11時30分キックオフという早い時間帯から始まった神戸大学との試合は、終始、ファイターズのペース。立ち上がり、先攻の神戸の攻撃をいきなりDL小川のパスカット、LB作道の激しいタックルで簡単にパントに追い込み、自陣25ヤードからファイターズの最初の攻撃シリーズが始まる。
 まずQB伊豆がWR前田に3本連続でパスをヒット。3ヤード、10ヤード、32ヤードと確実に陣地を進める。守備陣の意識をパスに引きつけた後、4プレー目はRB山口が16ヤードを走り、仕上げはRB野々垣が中央14ヤードを突き抜けてTD。わずか5プレーで75ヤードを進める鮮やかな攻撃を展開する。
 次の神戸の攻撃も3プレーでパントに追いやり、自陣34ヤードから再びファイターズの攻撃。今度は第1プレーで伊豆からWR松井に47ヤードのパス。簡単に相手ゴール前18ヤードに陣地を進め、そこから今度はRB高松、山口、野々垣に連続してボールを持たせ、ここもわずか5プレーでTDに結び付ける。K西岡のキックも決まって、1Q半ばというのに14−0とリードを広げる。
 2回の攻撃シリーズに要したプレー数は計10回。そのうち短いパス2本、長いパス2本をすべて成功させて陣地を進め、残る6回は野々垣、高松、山口に2回ずつボールを持たせてTDにつなげる。守備は2度とも相手を完封し、攻撃はこれ以上は望めないほどの美しいプレーで、相手を圧倒する。ともに「これが今年のファイターズだ」と宣言したような立ち上がりで、過去3戦とは雲泥の差があった。
 伊豆の仕上がり具合に満足したのか、ベンチは2Qの半ばからQBを中根にスイッチ。中根もまた万全のオフェンスラインに守られてのびのびとプレーする。前田にいきなり35ヤードのパスを通してゴール前17ヤードに迫ると、そこからは山口、野々垣が走って残り3ヤード。そこはお約束のように山口が走ってTD。自陣35ヤードから始まった続くシリーズでも松井への54ヤードパスなどで一気に陣地を進め、仕上げはFB市原への1ヤードパス。これまた二つのシリーズあわせて12プレーという無駄のない攻撃で前半を28−0で折り返す。
 驚いたのは後半の立ち上がり、自陣30ヤードから始まったファイターズの攻撃。中根からピッチを受けた山口があれよあれよという間に左サイドを駆け上がり、70ヤードを走り切ってTD。ボールを手にしてからの縦に上がるスピード、守備陣とブロッカーの動きを見ながら走る余裕。この日、2本のロングパスをこともなげに捕球した松井とともに、今春入部した1年生とは思えないほどのすごみを見せたシーンだった。
 場内の興奮、相手カバーチームの動揺が冷めやらぬ中、ファイターズのPATはロンリーセンターの体型からホールダーの石井がWR池田にパス。それが見事に決まって2点をもぎ取る。油断も隙もないチャレンジで、試合を支配し続ける。
 4Q残り3分少々というところで、ファイターズはQBを2年生の百田に交代させ、前節の龍谷大戦で8本中7本のパスを通した力が本物かどうかを試す。
 1回目のシリーズは2本のパスを失敗し、簡単にパントに追いやられたが、2回目のシリーズ、自陣42ヤードから始まった攻撃では、いきなりWR木村に43ヤードのパスをヒット。自慢の強肩を披露する。さらに同じ木村に今度は短いパスを通して残り10ヤード。そこから自身のスクランブルでゴール前1ヤードに迫り、仕上げはRB山本の中央ダイブ。試合経験の少ない百田にとっては、首脳陣にアピールする貴重なTDとなった。
 ただし、このシリーズで僕が拍手を送ったのは、百田のパスをキャッチした4年生の木村である。1本目の長いパスも、2本目の短いパスも結構難しいコースに飛んできたが、2本とも見事に捕球したからだ。彼は2年生の頃はJV戦で活躍していたが、上級生になってからはもっぱらJVレシーバーたちのリーダー役。今季の関西リーグで試合に出場したのも、パスが飛んできたのもおそらく初めてではなかったか。その滅多にない機会を2度とも成功させたのだが、そこに僕は控えプレーヤーの意地を見た。チームの期待が集まる後輩QBを俺のキャッチで育ててやるというプライドを感じたのである。
 彼の二つのプレーを見て、これがファイターズの上級生だ、これが控え選手のプライドだと思うと、なんだか心がぽかぽかし、涙が出そうになった。
posted by コラム「スタンドから」 at 12:09| Comment(2) | in 2015 season