2016年07月26日

(13)アメフト探検会

 先日、甲東園の駅前で、夏恒例の「アメフト探検会」が催された。KGファイターズの活動に理解を示してくださる関西学院大学の先生方の同好会である。
 年に1度、春学期が終わった頃を見計らって鳥内監督やコーチ達を招き、和やかにフットボール談義をされる場といった方がよい。不肖私もファイターズの「専属コラムニスト」(勝手に僕が思っているだけです)として招待していただいた。
 紀州・田辺の新聞社の仕事を早々に切り上げて西宮に向かう。自宅に車を駐め、急ぎ足で会場の料理屋に向かう。出席された先生方に読んでいただくつもりでリュックに入れた「2015年FIGHTERSの軌跡」と「水鉄砲抄2015」が重い。ともに、僕がこの1年間、ファイターズのホームページと勤め先の新聞に書いたコラムを集成して出版した本である。双方合わせて24冊。それだけ参加者、つまりファイターズの活動に心を寄せ、あれこれと応援して下さる先生が増えているということである。ありがたいことだ。
 この会の長老の一人、文学部の永田先生の挨拶で開会。すぐにビールで乾杯。先生は相撲部の部長をされており、アメフト探検会というのに話題はもっぱら十両で活躍している宇良関のこと。とんとん拍子に出世しているが、それで天狗になることもなく、好感度満点の相撲を取っていることがうれしくてならないという口ぶりで、どんどん話が脱線する。
 その話に絶妙の突っ込みを入れるのが文学部の後輩、鳥内監督。いつも応援してもらっている先生方の集まりとあって、日ごろ、新聞記者のインタビューに対応されているときとは雰囲気がまったく違う。先生方と監督との「掛け合い漫才」で、座が一気に盛り上がる。
 出席されたメンバーの中には「ゼミでは必ず甲子園ボウルのビデオを見せます」とか「ゼミ生を連れて応援に行きます」とかいう先生がおられるし、毎年のように「野原コーチは、僕のゼミでも優秀な教え子」と自慢される先生もおられる。
 理工学部で情報工学を担当されている先生は、ファイターズのために特別のソフトを次々に開発。ビデオを担当するスタッフの仕事を大いに軽減されている。ビデオ作成のスピードと効率アップだけでなく、今度は、練習や試合のビデオを部員がどれだけ熱心に見たかを計測する仕組みまで開発されたそうだ。部員が「自宅でビデオを見ていました」と自己申告しても、それが本当かどうかが、即、数字で分かるという。怠け者の部員には、やっかいな仕組みだ。
 一方で「嫁さんがファイターズのファンなので、僕もつられてファンになりました」という若い先生がいるし「楽しい集まりだと聞いたから」と初めて参加された先生もいる。
 共通しているのは「ファイターズを応援してやろう」「ファイターズは素晴らしいチームだ」ということで、特別に気を配って下さる先生が学部や年齢に関係なく、あちこちに存在すること。そうした先生方が年に一度、教授や助教授という肩書きとは関係なく、ファイターズが好きだ、応援しているよ、といって集まり、監督やコーチと忌憚(きたん)なく意見を交わし、放談する機会を持って下さること。
 僕は、2007年のライスボウルの後、会のリーダーでもある商学部の福井先生と東京で杯を交わした(ほんの1杯だが)のが縁で親しくなり、この会にも招かれるようになったのだが、回を重ねるごとに、先生方がこういう集まりを持って下さることに感謝する気持ちが強くなっている。定年で大学を去られたメンバーも多いが、そうした人も含めて、ファイターズのことを常に気にかけ、見守って下さる先生方がいるというのは、本当に心強い。
 近年、大学における課外活動の意味、役割はますます大きくなっている。それは昨年のプリンストン大学との交流でも確かめられたし、就職活動の場でも実証されている。
 しかしながら、一方で、大学の先生方が課外活動を見る目が厳しくなっているのも現実である。部活動が優先され、授業に出られない部があるとか、試合に出る部員が優先され、それ以外の部員はスポイルされているとかいう話を学生から聞くこともある。僕も非常勤講師として、多少とも学生を教える立場にあるから、ほかの部で活動している教え子たちからそうした話を聞かされることがある。
 そういう状況にあっても、ファイターズはなお先生方に愛されている。それは歴代の部員や指導者が営々と積み重ねてきた実践と実績があってこその話である。優勝回数やその内容だけでなく、日ごろの授業への取り組みや就職活動の実績までをトータルした実践がチームのカラーとなり、それを好ましく思っていただけているのである。現役部員への評価というより、歴代の先輩方に対する評価といった方が正確かもしれない。
 ローマは一日にして成らず。ファイターズも一日にして成らず。現役の諸君も、そういう歴史的な背景をよくわきまえていただきたい。ファイターズの歴史から学ぶこと大切さがここにある。
 「ファイターズの部員はいつも、多くの人に見られている」というのは、鳥内監督が常に言われる言葉である。
 グラウンドでの練習や戦いだけでなく、通学途上の電車の中での振る舞いから授業を受ける態度まで、チームの評価が高くなればなるほど、その行動に責任が伴うという意味である。その意味をよく理解し、これからも先生方に支援していただけるにふさわしいチームの一員として行動していただきたい。それが自身の成長につながることは、多くの先輩が証明している。
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2016年07月14日

(12)「二つの魂」

 朝日新聞で一緒に働いた同僚と後輩が立て続けに読み応えのある本を出版した。
 一人は元朝日新聞社会部員で、論説委員や編集委員を務めた稲垣えみ子さん。今年1月、51歳で早期退職した後、立て続けに「魂の退社」(東洋経済新報社)と「アフロ記者が記者として書いてきたこと。退職したからこそ書けたこと」(朝日新聞出版)を出版した。ともに、新聞記者として生き、悩み、苦しみ、もがき続けてきた軌跡を描きながら、究極の「節電生活」をする中で見つけたある種の「解脱」ぶりを軽快な筆で綴っている。今の時代を鋭く切り取った極上の文明批評といってもよい。その一端は、毎日テレビの「情熱大陸」や朝日放送の「報道ステーション」でも取り上げられたから、ご存じの方も多いだろう。
 彼女とは僕が京都支局のデスクをしていた時代に一緒に働き、大阪の社会部でも一時期、同僚として働いた。僕が夕刊取材班の編集長をしているときには、著名人の死生観をロングインタビューで描き出す「死に方が知りたくて」という連載を担当し、後にパルコ出版から出版された。彼女が30歳になる前である。
 連載の途中、阪神大震災が発生。とてもこのタイトルでは紙面に連載できないと、急きょ「いつかあなたに花束を」にタイトルを変え、北海道・奥尻地震と九州・雲仙岳の噴火、そして日航機墜落事故の犠牲者の遺族などに取材し、悲惨な事故からの「再生の物語」を綴ったのも、懐かしい思い出である。
 もう一人は、川名紀美さんの「井村雅代 不屈の魂」(河出書房新社)。こちらは日本のシンクロナイズドスイミングを世界のトップレベルに引き上げ、その後、コーチとして招かれた中国でも、世界のトップ争いをするチームを育てた井村雅代さんの軌跡を描いたノンフィクション。なぜか、二人の書名に「魂」の文字が入っていたので、今回のタイトルは「二つの魂」とした。
 川名さんは、丹念な取材で、「シンクロの母」とも「シンクロの鬼コーチ」とも呼ばれる井村さんの指導者としての哲学を描き、それを支える人たちにも光を当てることで、現代におけるコーチの役割と指導者、教育者としての責任を見事に描き出している。
 彼女は大阪の学芸部で育った記者だが、僕とは年齢も近く、新聞記者の師匠と仰ぐ人との縁もあって、何かと親しくしてきた。論説委員室の仲間でもあり、社会部でも一時期、一緒に働いたことがある。
 もっぱら、女性や虐げられた人に焦点を当てた取材を得意としてきた記者だが、今度は畑違いのスポーツノンフィクション。人気はあるが、比較的マイナーなスポーツでもあり、取材が大変だったろうなと想像しながら読んだが、これがまた読み応えたっぷり。
 スポーツにおけるコーチの役割とは何かを考えるうえで、いくつものヒントが転がっている本だった。
 いわく、コーチとは「選手を目的地に連れて行く人」。シンクロを教える最終目標は「メダルではない。スポーツを通じて努力することや耐えること、力を合わせることを覚えてよりよい人間になってもらいたい。私の究極の目標はそこなんです」。
 そういう言葉を井村さんから引き出した筆者は、この言葉を裏付けるこんなエピソードを紹介している。
 「ある国際大会のおりに、勝者に贈られる花束が無造作に部屋に放り出されているのを見つけて井村が声を荒げた」
 「お花も生きているんやから、水に入れてあげなさい!」
 「容器がないから」という選手たちの言い訳に、井村の怒りは倍増した。「少しは考えなさいよ」
 「空になったペットボトルの上部を切り取り、即席の花入れにする。試合が終わった後で、その花束にありがとうという言葉を添えて、お世話になったコーチやトレーナーのところに持っていく−−。井村に教えられて、以後、選手たちはそれを実行している」
 なんだか既視感のある話である。
 そう。「スポーツを通じて、努力することや耐えること、力を合わせることを覚えてよりよい人間になってもらいたい」という言葉は、鳥内監督がいつもファイターズの部員に問い続けている「どんな人間になんねん」という言葉にそのまま置き換えられる。
 「花の命を大切に」という話は、2年前の12月、このコラムで紹介した「足下のゴミ一つ拾えない人間に何ができましょうか……」という張り紙のエピソードにつながる。ある1年生部員が「自分たちがフットボール用具の収納室、更衣室として利用する部屋を乱雑にしているようでは、高いモラルを持って戦えない」と、あえてこの文字をA4用紙1枚に書いて、仲間に覚醒をうながした張り紙である。
 花を大切にする。自分たちの使う部屋を美しくする。対象は異なっても、日常生活の中で人間としてのモラルを大切にするところから勝負はスタートする、人間としての成長なしに勝利はない、という意識は共通のものである。
 井村雅代という希代の指導者の軌跡を描いたノンフィクションに、ファイターズのコーチや部員が日ごろから「当たり前」のこととして取り組んでいることと共通する話がいくつも紹介されていることに驚き、同時にファイターズが目指している方向が間違っていないことを確認して、読後、爽快な気分になった。
 川名さん、ありがとう。稲垣もがんばれ。僕もファイターズのホームページと紀伊民報を舞台に、シコシコとコラムを書き続けるぜ、と気持ちを新たにしたのである。
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2016年07月07日

(11)メキシコでの戦い

 白状すると、僕は新聞記者でありながら、海外に出掛けるのが大嫌いである。異国の言葉がしゃべれない、飛行機に乗るのが怖い、狭いところに何時間も閉じ込められるのが耐えられない、という「三重苦」がその理由である。
 朝日新聞社の論説委員をしていたときには、それでも職場の同僚たちと(義務として)極東ロシア、台湾、ベトナムの3カ所に出掛けたが、プライベートでは一度も海外に出たことがない。ヨメさんから怒られ、子どもたちには見放されているが、それでも「三重苦」には勝てない。2年前、友人の作家、黒川博行さんが直木賞を受賞されたとき、「マカオツアーご招待、往復の飛行機とホテル代は全額、黒川持ち」という夢のような案内をいただいたが、これもパス。世間も大学も「スーパーグローバル」とか「GO GLOBAL JAPAN」とかいっているのに、まるで石器時代に生きているような毎日である。
 今回、ファイターズがメキシコ1の名門大学、メキシコ国立自治大学(UNAM)のフットボールチーム“PUMAS”から招待され、交流試合をするにあたっては、チームから非公式に「一緒に行きませんか」と声を掛けられたが、もちろん「辞退します」と返事。選手たちの奮闘振りを現地で見たいのはやまやまだが、ここでも「三重苦」には勝てなかった。
 代わりにというわけでもないが、帰国したチームのご厚意で、試合の模様を編集したDVDを提供していただいた。
 正直言って、テレビ局が中継用に撮ったビデオを見慣れている目から見ると、画像そのものは数段劣る。肝心のボールキャリアが写っていない場面もあるし、画像の質も悪い。それでも繰り返し繰り返し再生すれば、ファイターズの諸君の奮闘振りが伝わってくる。ありがたいことだ。
 例えばディフェンス。DLを率いる52番松本を中心に、柴田、藤木、安田、大野らの第一列が速くて強い当たりで、相手の動きをコントロールする。LBの動きもよい。つい先日までけがのために試合に出ていなかった主将山岸が右、左、前、後ろと、ボールのあるところに必ず顔を出し、松本や山本の的確な動きと相俟って、相手のランプレーを封じていく。最後列の小池、岡本、小椋の背番号も何度も画面に映っていた。相手のプレーに的確に絡んでいたという証拠である。
 1本目のプレーヤーだけではない。次々と交代して入ってくるメンバーの動きもよい。体が大きく、スピードがあり、闘争心をむき出しにして挑んでくる相手を時には力で圧倒し、時には技術で勢いをそいで、効果的な前進を許さない。
 得点こそ13点を奪われたが、そのうち1本は相手守備陣がファイターズのパスをインターセプトし、そのままゴールまで走り切ったTD。残る6点はフィールドゴールの2本であり、守備陣としては1本もTDを与えていない。
 逆に攻撃陣は苦労したようだ。何より得意とするランプレーでビッグゲインが出ない。ランプレーが思うように進まないからパスの成功率も芳しくない。画面を見る限り、OLは相手ラインと対等に戦っているようだったが、それでもRB陣は苦労している。相手の逆を突いた、これは抜けた、と思っても、横合いから予期せぬプレーヤーが飛び込んでくる。
 パスも同様だ。相手守備陣は背が高く、手も長いから、両手を挙げ、振り回すだけでも邪魔になる。どちらかといえば小柄なQB伊豆が投げにくそうにしている場面が何度も現れた。それでも、試合に勝つためにはパスを投げ続けるしかない。右や左に走り回り、ランのフェイクを入れてからの短いパスやショベルパスを織り交ぜ、時には長いパスを投じる。
 そうしてグラウンドを広く使っているうちに第3Qと第4QにWR亀山への長いパスがヒット。それぞれパスを受けてからの独走でTDにつなげる。K西岡のPATも決まってファイターズが逆転した。
 画面を見ている限りでは、もう少しファイターズがプレーの精度を上げていれば、もっと点を取れる場面があったようにも思える。とりわけ0−0で迎えた前半、短いパスとランプレーを交互に繰り出し、相手ゴールに迫ったときの攻撃が惜しまれる。あそこで一気に先取点を挙げていれば、終始、自分たちのペースで試合を支配できた可能性があったが、結果は無得点。その辺の詰めの甘さを今後、どうするか。夏休みの宿題をもらったような気がする。
 そうしたことを含めて、日ごろ親しくしている何人かの選手に聞いてみると、こんな答えが返ってきた。
 「確かに相手の当たりは強かったけど、自分だけが目立とうとする選手が多かった。その辺のほころびを見極めて攻めれば、もう少し点を取れていたのではないか。チャンスを確実にモノにできなかったのが、心残りといえば心残りです」(WR)
 「当たった感じでは立命のDLの方が強かった。メキシコの選手に勝ったといって満足していると、間違いなく立命にいかれます」(OL)
 「自分としては、できは普通です。秋にはもっと動けるようになって、チームを引っ張っていきます」(DL)
 それぞれ、国際交流試合で勝ったことよりも、秋の試合を見据えた発言ばかり。学生数約25万人。規模でも学力もメキシコを代表する大学を相手に、見事な逆転勝利を収めたことよりも、目の前に「本番」を控えた主力選手たちの、今後の戦いに向けた発言の方がはるかに力がこもっていた。
 勝利におごらず、そういう言葉を短い会話の中にさりげなく混ぜることができるようになったことが、今回の交流試合の成果かもしれない。
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2016年06月29日

(10)開かれた組織

 身辺多忙につき、しばらくコラムの更新が滞ってしまった。申し訳ない。
 なんせ、今年の誕生日がくれば72歳になるというのに、今も現役の新聞記者であり、編集の責任者。和歌山県の南部限定の小さな新聞社だが、地域の占有率は6割から7割。全国紙を圧倒する読者に支えられている新聞だから、それなりの覚悟を持って働かなければならない。週に3本のコラムと1本の社説を書き、若い記者を育て、時には経営にも口出しする。当然、気の休まる時がない。
 加えて週末には、母校の非常勤講師として「文章表現」の講座も担当している。昨年まではひとコマ20人のクラスだったが、今春からはふたコマに増え、学生も40人になった。授業の進め方も、スライドやパワーポイントを使う今時の手法ではなく、昔ながらの寺子屋方式。毎回、課題を出し、原稿用紙2枚、800字の文章を書かせる。
 僕は帰宅後、それを添削し、講評を書き、点数を付ける。わずか40人と思われるかもしれないが、学生たちが本気で書いた文章である。添削し、講評を書く方も本気で受け止めなければならない。当然、それに費やす時間もエネルギーも半端ではない。
 けれども、母校の後輩たちが少しでも文章を書く力を身に付けてくれれば、感受性を養い、思考力を育てる助けになれば、と思うと自宅から上ヶ原まで徒歩30分の坂道も苦にならない。毎週、授業の始まる20分も30分も前から教室に足を運ぶ。早めに来て、弁当を食べたり、お茶を飲んだりしている受講生との雑談が楽しくてならない。やっぱり大学の講師というより寺子屋のお師匠さんが似合っているのだろう。
 そういう日常にあっても、友人からお遊びの誘いがあれば、喜んで出掛けていく。年齢を重ねると、新しい友人との交際は億劫になるが、その分、古くからの気の置けない仲間とのお遊びは楽しい。家族から白い目で見られても、徹夜でふらふらになっても遊び続ける。
 加えて、6月はチームの主力がメキシコに出掛ける。このコラムのチェックやネットへのアップを担当してくれている小野ディレクターや石割デレクター補佐もそれに同行して留守になる。ここは早めの夏休みにしましょう、と悪魔がささやく。
 そういう次第で更新が滞ってしまった。今週からは気分を一新してまた書き続けます。
 本題に入る。開かれた組織ということである。
 これまでも折に触れて書いてきたが、ファイターズほど外に向かって開かれた組織は珍しい。どの競技、種目を問わず、少なくとも全国のトップレベルで活動する組織は、基本的に勝利至上主義。当然、他チームの情報を入手することには懸命だが、自身の情報を公開することはほとんどない。とりわけアメフットのような戦略と戦術を駆使して勝負する競技においては、まずは「保秘」が最優先の課題になる。
 ところがファイターズに関しては、その常識が当てはまらない。同じ関西学生リーグに属するチームとでも、合同練習をするし、シーズンオフに地方の大学が泊まりがけで練習に参加することも歓迎する。
 シーズンオフには毎年、小野ディレクターや大村コーチらが試合のビデオを公開し、勝負の綾となったプレーの解説や、その戦術を取り入れた背景などを説明する講座も開いている。
 学内から他の競技団体の部員がまとまって練習の見学に来ても、快く内情を披露するし、他競技の高校生が団体で見学に来ても、ていねいに応対する。練習の準備から進め方まで、参考になることはすべて持ち帰って下さい、そしてチームを強くして下さいというのだ。
 どうして、こうしたオープンマインドなチームができたのか。
 僕が出した答えは二つある。一つはフットボールという競技の魅力を広めるために、互いに切磋琢磨する環境を保証しよう、そのためには長い歴史を持ち、フットボールに関するいろんな知識を蓄えているファイターズがその知識を公開し、全体の底上げを図ろうという意図。もう一つは関西学院大学体育会の中でも、極めて優れた組織運営をしているノウハウを他の体育会メンバーにも公開することで、関西学院の課外活動のレベルアップを図ろうという目的。この二つがあって、他に類をみない「開かれた組織」が運営されているのだろう。
 こうした「開かれた組織」を裏付けるのが毎年、朝日カルチャーセンターで開かれる小野ディレクターによる公開講座「フットボールの本当の魅力」。今年は8月26日午後7時から、阪急川西能勢口駅前の川西アステ6階アステホールで開かれる。今回はより広く一般の関学生にも参加してもらおうと、講師の特別な配慮により、関西学院の学生(学生証の提示が必要)を対象に「特別割引価格」が用意されている。
 詳細は、下記、朝日カルチャーセンターのホームページを参考にして下さい。
https://www.asahiculture.jp/kawanishi/course/75384e9d-5946-b400-248f-5750e569c730
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2016年06月07日

(9)登竜門

 登竜門という言葉がある。辞書には「中国・黄河上流の急流。ここを登り切る鯉は化して竜となるという言い伝えがあり、元来は出世の糸口をつかむの意」というような説明がある。「難しい関門とか運命を決めるような大切な試験のたとえ」とも説明している。
 ファイターズにおいては毎年、春のシーズン最後に行われるJV戦がそれに相当するだろう。1年間、みっちり体力を養い、学年を一つ重ねて飛躍を期している2年生や3年生。今春入学して2カ月余。ようやくファイターズの水に慣れ、チーム練習にも参加させてもらえるようになったフレッシュマン。昨秋の関西リーグでは出番のなかったそうした面々にとっては、ここで力を発揮し、鯉が竜になる手掛かりをつかむ大事な試合である。逆に、ここで力を発揮することができず、選手としての活動に見切りを付け、新しくスタッフとして転出していった先輩たちも少なくない。
 5日、上ヶ原の第3フィールドで行われたサイドワインダーとの戦いがそのような試合だった。
 先発メンバーを見ると、オフェンスでは左のラインに松永と川辺(ともに箕面自由)が並び、WRにはこれまた期待の阿部(池田)。今春、入学したばかりの新人が3人も名前を連ねている。主要な交代メンバーでは背番号の若い順にK安藤、WR平尾、DB小川、山本、畑中、RB斎藤、DB吉野、LB田中、藤田優、DL寺岡、OL長谷川、森、WR前田、勝部、DL本田、TE藤田統、DL藤本の名前が見える。先日の関大戦や近大戦に出場していたメンバーもいるが、この日が初めてというメンバーの方が多い。
 スポーツ選抜入試を突破して入学したメンバーの顔は分かるが、高等部や啓明学院から来た選手はまだ名前と顔が一致しない。それでも「今年のフレッシュマンはいいですよ」という話を折に触れて聞き、自分の目でも確かめてきただけに、彼らの活躍が楽しみでならない。
 もちろん2年生になって、ようやく出場機会を得た選手たちからも目を離せない。高校野球界で鳴らしたWR小田、QBからDBに転向した西原、DLからTEに転向したばかりの荒木。僕の授業の受講生であるDB徳田、DL筒井、LB倉西の動きもチェックしなければならない。
 おまけに相手は社会人。チーム練習の機会こそ学生が勝っているが、彼らには経験と実績、それに鍛え上げた体がある。見ただけでも気後れしそうな巨体を誇る選手もいるし、何よりチームを率いるエースQBが14年に卒業したばかりの前田龍二君だ。エースQB斎藤圭君のカバー要員として機敏な動きを見せていた選手であり、シーズン後半には立命館や関大を想定したスカウトオフェンスのリーダーとしても活躍した。おまけに彼からパスを受けるメーンターゲットが今春卒業したばかりのWR木村圭祐君である。JVのメンバーにとっては「胸を借りる」のに格好の相手である。
 試合はファイターズのキックで始まる。相手陣20ヤードから始まったサイドワインダーズの攻撃をこの試合から復帰したばかりのDL松本が完全にコントロールし、一歩も前に進ませない。3プレー目、たまらずに投じたパスをこれまた今季初登場の主将、山岸が余裕でインターセプト、そのまま30ヤードを走り切ってあっという間にTD。K泉山のキックも決まって7−0。
 けがや手術のため昨シーズン終了直後から長く戦列を離れていた二人だが、さすがに下級生の頃から守備の要として活躍してきた選手である。プレーのスピードはあるし、破壊力も抜群。相手の動きを読む目も全くブランクを感じさせない。秋の活躍は100%保証できるというできばえだった。
 しかし、彼らがベンチに引き上げたあとは両軍ともなかなか攻撃が続かない。せっかく攻撃が進んでも反則で帳消しにしたり、レシーバーが空いているのにパスが乱れたり。ようやく2Q10分42秒、QB西野が16ヤードを走り込んでTD。この日が初出場のK小川のキックも決まって14−0。
 後半になると、炎天下の戦いで疲れたのか、相手の反応が徐々に遅くなってくる。それに乗じて3Q8分43秒、西野からTE荒木へのパスがヒットしTD。最後にK小川が30ヤードのフィールドゴールを決め、24−0でファイターズが勝った。
 さて、注目していた鯉たちは龍門の急流を突破し、首尾よく竜になれたかどうか。この日の公式記録には次のような数字が並んでいる。ラッシングではそれぞれ2年生のQB西野が6回52ヤード、RB中村行が6回45ヤード、RB富永が7回33ヤード。そして1年生の斎藤が3回16ヤード。
 パスレシーブでは1年生の阿部が4回75ヤード。ともに2年生の小田が3回46ヤード、荒木が3回24ヤード。インターセプトは最初に紹介した山岸とゴール前で相手パスをもぎ取った1年生LB藤田優の2人。
 もちろん、わずか1回の試合で評価するのは難しいし、守備陣や攻撃ラインの活躍振りは、こうした記録にはほとんど現れない。けれども、この日の試合を見ただけで、秋には必ず登場し、活躍してくれそうな選手、竜になりそうな選手が攻守ともに何人も見つかった。大きな収穫だった。
 付記
 この試合で、終始学生に押されていた相手チームだが、その中にあってQB前田がWR木村にミドルパスを何本か通した。背番号11から10へ。パスが通るたびに、思わず二人に拍手を送った。ファイターズ・スカウトチームの中心になってチームを支えてくれた卒業生が社会人になっても活躍してくれているのがことのほかうれしかった。とくに付記しておきたい。
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2016年05月25日

(8) 残り34秒からの思惑

 春の関大戦は、毎年のようにきわどい勝負になる。ここ10年をファイターズ側から振り返っても、2006年から順に16−10、28−10、3−0、11−10、18−0、31−7、30−34、21−20、38−14。昨年は、最終のスコアこそ23−3だったが、前半は6−3。互いに秋の試合を想定して、決定的な手の内は見せず、双方ともに基本的なプレーだけで戦っているように見えるが、毎年、中身の濃い戦いを見せてくれる。
 今年も例外ではなかった。22日午後2時、晴れ渡ったエキスポフラッシュフィールドでキックオフ。その直前にカリフォルニア大学バークレー校の華やかなマーチングバンドのドリルがあり、大いに盛り上がったフィールドで、双方ともに一歩も引かない戦いを繰り広げた。互いに好敵手と認め、気力、体力、知力を存分にぶつけ合うからだろう。前半、双方ともに急所で相手の攻撃の芽を摘み取り、0−0で終わった展開が激しい攻防を証明している。
 試合が動き出したのは第3Q。自陣14ヤードから始まった攻撃で関大がランと短いパスを組合わせて2度ダウンを更新。ファイターズ守備陣の目が中央に引き寄せられたところで、相手QBが長いパス。それが見事に決まってTD。それまでの膠着状態が嘘のような65ヤードのTDパスとなった。
 しかし、相手のトライフォーポイントが決まらず得点は0−6。
 その直後のファイターズの攻撃。伊豆から交代したQB光藤が歯切れのよい攻撃を指揮する。まずはWR前田への短いパスとRB橋本の14ヤードランでハーフライン近くまで陣地を進める。初めて対戦するQBに相手守備陣が「勝手が違うぞ」と戸惑っている様子がスタンドにも伝わってくる。その隙をついてチームが選択したのがQBキープ。光藤が鮮やかなステップで1、2列目を抜き去り、一気に55ヤードを走り切ってTD。K西岡のキックも決まって7−6と逆転。
 試合が動き出すと、相手の攻撃陣にもリズムが出てくる。関大は自陣26ヤードから始まった攻撃をパスとQBのスクランブルを組合わせて立て続けにダウンを更新。あっという間に関学陣34ヤードまで攻め込んでくる。
 ここは守備陣が奮起してなんとか攻撃を食い止めたが、相手のパントが絶妙で、ファイターズの攻撃は自陣5ヤードから。まずはRB野々垣のランで5ヤードを稼ぎ、最悪でもパントを蹴れる位置まで陣地を回復。その直後のプレーがすごかった。
 2年生RB山口がオフタックルを抜けた途端、抜群の加速力で相手守備陣を突破して独走する。スピードのある相手DB2人が追いすがるが、ファイターズWRの的確なブロックと山口自身の切れのよいカットで振り切り90ヤードのTD。90ヤードをあっという間に走り切ったスピード、トップスピードで駆け抜けながら瞬時にカットを切れる能力。これぞファイターズの最終兵器、と呼ぶにふさわしい走りを見せてくれた。
 光藤の独走TDに続く山口の独走TD。ともに2年生になったばかりの二人の思い切りのよいプレーに守備陣も奮起する。相手がランとパスを組合わせてゴール前まで攻め込んできたところでDB小池が鮮やかなインターセプト。そのまま47ヤードを走りハーフライン付近まで陣地を回復、攻撃陣を楽にする。
 続く攻撃シリーズは、光藤が同じ2年生WR松井にパスを通し、仕上げは西岡のFG。17−6として、ようやく勝利が見えてくるところまで持ち込んだ。
 この前後からファイターズは攻守ともに交代メンバーを続々起用。つい先日のJV戦に出場していた面々が次々に登場する。よく見れば、今春入部し、まだ上級生の練習に加わったばかりの1年生も出ている。僕が確認できただけでも、背番号の若い順にDB小川(高槻)、DL寺岡、LB大竹(以上高等部)、OL川辺、松永(以上箕面自由)が物怖じしないプレーをしていた。ほかにWR阿部(池田)、OL長谷川(啓明学院)の名前もメンバー表に掲載されていたから、どこかで出場していたのかもしれない。
 驚いたのは、試合終了間際。関大がインターセプトからTDを決め、17−13と追い上げた後のファイターズの選択である。相手が攻撃権の続行を狙ったオンサイドキックをファイターズが抑えたところで、残り時間は34秒。次のプレーでニーダウンすれば試合終了という場面だったが、なんとファイターズベンチが選択したのは攻撃の続行。残された2度のタイムアウトを立て続けにとって時計を止め、とうとう3プレーをやりきった。
 万一、ファンブルでも起きて、攻撃権を相手に渡したらどうなるのか。独走されたら逆転の目もあるのに、なんと危険な選択であることよ、と思ったが、その場に出場しているメンバーを見て納得がいった。
 「普段、出場機会の少ない選手に、関大の強力なメンバーの当たりや動きを体験させるための仕掛けに違いない」「普段の練習は味方の選手達。血相変えてかかってくるライバルの当たりとは質も違うし強さも違う。せっかく強い相手と戦うのだから、たとえ1回でも2回でも本物の当たりを体験させたい」。そう考えたのに違いない。
 試合終了後、帰り支度をしている鳥内監督に聞くと、その通りの答えが返ってきた。
 それにしても貪欲なことである。
 「あらゆる機会を捉えて、選手に成長のきっかけをつかませたい」「目先の勝ち負けにこだわって、新たな戦力の育つ機会を失ってはもったいない」。常にそういうことを考え、実行する監督やコーチの本音を「残り34秒からの2度のタイムアウト」に見ることができて、僕はライバルとの試合に勝った以上にうれしかった。
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2016年05月18日

(7)這い上がる者

 15日は、上ヶ原の第3フィールドで、JV戦。相手は昨年まで関西学生リーグの1部で頑張っていた近大。今季は2部に降格しているが、能力の高い選手を揃えた実力校である。3週間前に手を合わせた京産大以上に手強いチームであり、ファイターズの選手にとっては、自分たちの力を試す格好の相手といえよう。
 メンバー表を手にして登録選手の名前と背番号を確認する。先発メンバーには期待の2、3年生に混じってこれまでVの試合でも活躍していた上級生の顔が何人か見える。4年生ではDLの大野、堀川、LBの岩田、OLの清村、3年生ではDLの藤木、RBの山本らである。それぞれにVのメンバーとして経験を積んだ選手だが、けがなどで長く戦列を離れていただけに、彼らがどの程度まで回復しているのか。それを確認することが第一の興味である。
 二つ目は、この試合から初めてメンバー表に登録されたフレッシュマンの動向。2週間ほど前から、体力的な数値がチームの基準をクリアした選手がチーム練習に合流し、ヘルメットに赤いバツ印を付けて「ならし運転」をしているが、この日はその中から「大学の試合に出しても大丈夫」と判断された5人が登録されている。
 WR阿部(池田)、DB小川(高槻)、RB斎藤(富士)、LB大竹(高等部)、OL松永(箕面自由)。大竹以外はスポーツ選抜入試でファイターズの門を叩いた選手であり、昨年の夏、一緒に小論文の勉強会をやったメンバーである。いち早くチームに合流した彼らがどんなプレーを見せてくれるか。まるでわが子の活躍に期待しつつ、大学のデビュー戦をけがなく乗り切ってくれと願う保護者のような気持ちで彼らに注目した。
 試合はファイターズのレシーブで始まり、自陣20ヤードからの攻撃。だが、QB百田からのパスが通らず、簡単に攻撃権を渡してしまう。しかし、ファイターズのディフェンスは強い。ハーフライン付近から始まった近大の攻撃を藤木や岩田のタックルで完封し、近大もまたパントを蹴る。
 そのボールがゴールライン間際まで転がり、ファイターズの攻撃は自陣1ヤードから。ここで百田が投じたパスをレシーバーがはじき、浮いたボールを相手ディフェンス陣が抑え、痛恨のターンオーバー。ゴール前1ヤードから近大の攻撃に代わる。それを一発でTDに結び付け近大が7−0とリードする。
 思わぬ失点で気合いを入れ直したのか、次のファイターズの攻撃はテンポよく進む。百田からWR清水へのパス、RB山口の中央突破、RB北村のドロープレーでハーフライン近くまで進出。そこから今度は山口が40ヤード近くを独走してゴール前13ヤード。北村と富永のランプレーでTDに結び付けた。
 次の攻撃シリーズも、百田が短いパスを立て続けに通して陣地を進め、相手陣32ヤードから北村が独走してTD。K西岡のキックも決まって14−7と逆転。第4QにもRB富永が相手守備陣を交わしてTD。23−10で勝利を手にした。
 こうした得点経過を紹介すれば、個人の能力が高い近大を相手に、JVのメンバーもよく頑張ったという印象を持たれるかもしれない。しかし、スタンドで目の前のプレーに集中していると、そういうお気楽な内容ではなかった。試合後、隣で観戦していた友人は「あんまり収穫はなかったな。今日のメンバーでは、Vのメンバーとやるにはシンドイんと違うか」というし、僕もまた「現状では、Vに這い上がっていくメンバーは限られてるな」と相づちを打つしかなかった。
 試合後、関学スポーツの記者が集めてくれた監督や主将の談話もみな辛口だった。鳥内監督は「今日分かったのは、交代メンバーの力はまだ厳しいということ。まだまだダメ」。山岸主将は「試合に出る出ないに関わらず、本当に勝ちたいと思ってやっている選手が少ない」「このまま気持ちがゆるんだ状態で秋を迎えるとおそらく負ける」と厳しいコメントを寄せている。
 実際その通りだろう。相手が必死に声を出して仲間を鼓舞し、一歩でも半歩でも前に進もうと気迫を体中から発散してプレーしているのに、ファイターズの諸君はどこか冷めたようなプレーが多かった。必死懸命さが伝わってこなかった。例えばパントリターンにしても、相手はすべてキャッチして密集の中に突っ込んでくるのに、わが方は安全第一。スタンドからは捕ってリターンができそうな状況に見えても簡単に見送ってしまう。ファンブルすることを恐れたのかもしれないが、あまりにも消極的に見えた。
 そんな中、4年生RB北村の動きだけは期待を裏切らなかった。先日来、彼の言動を身近に見て、今日は絶対に彼が活躍する、とひそかに期待していたので、彼の闘志あふれるプレーが特別にうれしかった。
 正直にいうと、ほんの1カ月前までは、彼のことを数多くいるRBの中の一人、野球部からきた選手、という程度にしか認識していなかった。何よりファイターズのRB陣はメンバーが揃っている。突破力のある橋本、山口、山本。俊敏なカットバックランナーには高松、加藤、野々垣がいる。大きな試合の出場経験も積んでいる彼らを押しのけて、高校まではフットボールと無縁だった彼がVチームに這い上がるのは容易ではない。
 それでも彼に注目していたのは、彼の向上心、ファイターズの4年生としての強い意志が今季の練習が始まって以来、常に際立っていたからだ。
 例えば、先日、武術家の甲野善紀さんが第3フィールドにお見えになったときも、彼が誰よりも熱心に先生の技を体験し、質問もしていた。日ごろの練習時にも、下級生に何かと声を掛けて鼓舞し、いろいろアドバイスしている姿をよく見掛ける。選手としての序列、試合に出してもらえる順番では下かも知れないが、練習時の行動では常に率先垂範。その姿を目にしていたから、彼が1ヤードでも前へと密集に飛び込んだり、ラインの外に押し出されそうになりながら、最後まで足を止めずTDに結び付けたりしたプレーを間近に見て「よっしゃー、Vに這い上がるのはこいつだ!」と確信した。
 こういうプレーを身近に見られるから、JV戦は面白い。だが、期待の1年生のことを書くスペースがなくなった。それは次回以降のお楽しみとしておこう。
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2016年05月12日

(6)術と呼べるほどの技

 先週末、ファイターズの諸君が練習している上ヶ原の第3フィールドに、珍しい先生が見えられた。和服に袴、高下駄を履いて、手には日本刀。日本武術界では知る人ぞ知る甲野善紀先生である。
 ファイターズの部員たちに、武術的な体の使い方を応用した技が導入できないか、何かヒントをいただけないかという大村コーチからの要請に応え、20年近く前から親しくしてもらっている縁で僕が声を掛けた。数学者、森田真生さんとの「この日の学校」が京都であるというので、ついでに西宮まで足を運んでいただいたのである。
 しばらく練習を眺めてもらった後、稽古着に着替え、人工芝の養生のために高下駄を運動靴に履き替えてグラウンドに降りられる。僕が「日本で一番強い武術家です。年齢は67歳。体型も71歳の僕とほとんど変わりませんが、恐ろしいほどの技が使える人です」と支離滅裂な紹介をし、すぐに実演が始まる。
 最初はサッカーやバスケットボールでよく見掛ける競り合いの状態で甲野さんを止められるかどうかの実演。体重が100キロを超すOLたちが相手になるが、当然のことながら止められない。体重は60キロにも満たず、見た感じは普通のおじさんに、なぜ、やすやすとあしらわれるのかと不思議そうに首をかしげる選手たち。
 続いてRBやWR陣を相手に、ハンドオフつぶしの技やタックルしてきた相手をはね飛ばす技を次々と披露。気がつけば、相手になった選手たちは興味津々。実技のやりとりを見守るだけのメンバーは何が何だか分からないという表情。そのうち、何人かの選手が見よう見まねでその技を試みると、結構、相手に通じる。逆に、タックルに行った選手たちはなぜ、相手に抜かれるのかと首をかしげ、はね飛ばされた腕を痛そうにさすっている。
 周囲の反応の良さに先生も興が乗ってこられたのか、階段を3段跳びで上る術や「虎ひしぎ」というとっておきの術を次々と披露される。そのたびに座が盛り上がり、最後には日本刀を抜いて瞬時に切り違える演武まで披露。さらには、肩や腰など体を痛めている何人かの選手に「祓いの太刀」をかけるサービスまでして下さった。
 実は、甲野先生にグラウンドに来ていただいたのは、今回が初めてではない。10数年前に2度ばかりお招きし、タックルする選手をかわす技などを披露してもらったことがある。しかし当時、相手をした部員たちは、先生の技と奇妙な感覚に首をかしげるばかりで、どのようにフットボールに応用できるのか全く見当がつかない、という状態だった。
 今回のように選手が次々と先生の相手をし、その不思議な技を体で受け止め、それをなんとかフットボールに応用できないかと試す場面はなかったと記憶している。
 甲野さんの言葉を借りると「10年前の私と今の私では、技の内容が格段に変わっています。以前はまったくできなかったことができるようになっているので、その分、相手をして下さる方も驚かれ、反応も変わってきたのでしょう」ということだった。
 しかし僕は、それ以上に選手の意識が変わってきたことが大きいと思っている。もっと強くなりたい、そのためにはどうすればいいのか、ということを日ごろから考え、実行していることが背景にあると考えるのだ。今春から取り組んでいる早朝からの筋力トレーニング、その後の食事と体を休めるための昼寝、あるいはヨガの講習。それぞれが目的を持ち、その成果が例えば体重増などの形で実感できているから、初めて目にする武術的な体の使い方にもすんなり入っていけたということではないか。
 実戦で役に立つ技、術と呼べるような体の使い方への道は、そういう好奇心、探求心、実行力があってこそ開ける。その端緒を選手やコーチたちは、甲野先生の技を自分で体感することでつかんだのではないか。だからこそ、技をかけてもらった選手たちが次から次へと甲野さんに立ち向かっていったということだろう。
 後日、東京に戻られた先生から「指導者も選手たちも熱心に食いついてくれた。新しい技を取り入れようとするコーチや選手たちの熱意に触れて、気持ちのよい時間が過ごせました」とお礼の電話があった。
 尊敬する師匠からそんな風にいっていただけて、ファイターズの選手たちをあらためて誇らしく思った。同時に「術と呼べるほどの技」を身につけ、並み居るライバルたちをなぎ倒してほしいと願った。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:11| Comment(1) | in 2016 season

2016年05月03日

(5)指導者の哲学

 1日、5月の光を浴びて新緑がまぶしい。そんな王子スタジアムに青と赤の戦士が顔を揃える。シーズンが開幕したばかりというのに、もう日大との戦いである。毎年春、東京と関西で交互に開催される定期戦だが、あの赤いユニフォームを見ただけで、特別の感慨がある。僕のようなスタンドからの観戦者でさえ、胸が高鳴るのだから、実際にグラウンドで相まみえたOBたちの胸中はいかばかりか。
 試合前、日大フェニックス全盛期のプレーヤーで、いまは共同通信の記者をされている宍戸博昭さんの顔が見えたので、少しばかり話をした。時候の挨拶程度だが、握手を交わすと、一気に距離が縮まる。そういうことができるのも、互いに東西の雄として覇を競い、日本フットボール界を支えてきた両チームの存在があってこそだ。本当にありがたいライバルである。
 先発メンバーを見る。けがのため今季はまだ一度も試合に出場していない主将山岸、副将松井に加え、この日は攻守の大黒柱、QB伊豆、DL松本も負傷のため名前がない。将棋で言えば飛車と角、野球で言えばエースと4番打者を欠いたまま、まともに試合ができるのか。思わず不安が横切る。同時に、いやいや、今日は若手の力を試すチャンス。攻撃で言えばQB百田、C光岡、WR松井、守備でいえばDL柴田、DB横澤、LB松本ら2、3年生の力を試す絶好の機会である。高校時代から注目されていたタレントが揃い、海外からのメンバーも充実している日大にどこまで力を発揮できるのか。勝敗よりも、彼らの活躍振りに焦点を当てて応援席に座る。
 ファイターズのキックオフで試合開始。DB岡本の強烈なタックルで相手のリターンを止め、日大の攻撃は自陣22ヤードから。そこで横澤がロスタックル、続いて柴田がQBサック。あっという間に攻撃権がファイターズに移る。
 しかし、日大の守備陣も強い。ファイターズは3回連続中央のランプレーを選択したが、全く進まない。K西岡がパントを蹴って日大に攻撃権が移る。逆に日大はQB高橋の短いパスで陣地を稼ぎ、簡単にダウンを更新。次は強力なランプレーで陣地を進める。これは手強いぞと思った瞬間、横澤が狙い澄ましたように相手パスを奪い、攻守交代。
 相手陣29ヤードから始まったファイターズの攻撃だが、ここでもランが進まず、パスも通らない。仕方なくFGを選択。42ヤードと結構難しい距離が残されたが、西岡が落ち着いて決め、ファイターズが先制。
 次のプレ−で再び副将岡本が奮闘。相手リターナーがファンブルしたボールを素早く確保してターンオーバー。再び相手陣25ヤードからファイターズの攻撃が始まる。しかしながら相手守備陣は強い。中央のランプレーが止められ、再びFGにトライ。距離は40ヤードだったが、ここも西岡が冷静に決めて6−0とリードを広げる。とはいえ、相手守備は強いし、攻撃も強力なランナーが次々と押し込んでくる。じわじわと陣地を進められ、気がつけばゴール前10ヤード。そこでTDパスを決められ、あっという間に逆転。守備陣の活躍でつかんだ2度の好機になんとか手に入れた6点をあっさりひっくり返されてしまう。
 しんどい試合になりそうだ、と覚悟していたら、今度はQB百田が居直った。自陣23ヤードから始まった攻撃でいきなりWR松井に27ヤードのパスをヒット。続くシリーズは山口、加藤、橋本のRB陣が立て続けに相手守備陣を交わしてゴール前27ヤードまで前進。一度は反則で39ヤードまで下げられたが、そこから百田がゴールポストの下に走り込んだWR水野に思い切りのよいパスを投げ込みTD。西岡のキックも決まって、再び主導権を取り戻す。
 この場面、相手DBのカバーもよかったが、それ以上のスピードで走り込んだレシーバーとQBの呼吸がぴたりと合い、これぞ「パスの関学」と思わせる見事なパスプレーを見せつけた。
 こうなると、大きな試合の経験が少ない百田も落ち着く。再三のドロープレーでRBを走らせ、要所でWR亀山や前田、松井にパスを通す。4Qの終盤には前田へのTDパスをきれいに決めて23−10。
 残り時間は4分足らず。だが、日大陣12ヤードから始まった日大の攻撃が執拗に続く。強力なRB陣のランとパスを交互に使い分け、時間と競争するように陣地を進めてくる。それを断ち切ったのが、またもや横澤。相手QBの動きを冷静に見据え、狙い澄ませたタイミングでパスコースに体を入れて相手ボールを奪い取った。
 残り時間は9秒。攻撃権はファイターズにある。誰もがニーダウンで試合終了と思ったところで、ファイターズベンチはタイムアウトを要求。再度、プレーする意向を見せる。
 瞬間、なんでやねん、と思ったが、次のプレーでボールを持たせたのがRB中村行。そう、先週のJV戦で大活躍した選手である。
 「そうか、これは先週の活躍に対するご褒美か」と思った僕は、思慮が足りなかった。
 試合後、報道陣のインタビューを終えた鳥内監督に、最後の場面の意図を訪ねると、こんな説明が返ってきた。
 「経験の少ない選手がこういうタフな相手にどれだけやれるか試したかった」「中村だけじゃないですよ。ラインの池田や生瀬の動きも見たかったんです。彼らが、こういう場面でどんな動きをするか、それを見たいから最後までやったんです」
 なるほどと思った。せっかくのライバルとの戦いである。まだ1軍の試合経験の少ない選手が日大相手にどんな動きをするか。相手の強さを肌で感じて、それを今後の取り組みにどう生かすか。そんなことを考えると、たとえ1プレーであっても、そんな選手にプレー機会を与えたい。そういう話だった。
 感服した。あらゆる機会を捕まえて選手の力を引き出そうとするファイターズの監督やコーチの哲学が、その一言に垣間見えた。この説明を聞いて、僕はライバルとの試合に勝ったこと以上にうれしかった。
posted by コラム「スタンドから」 at 11:52| Comment(2) | in 2016 season

2016年04月27日

(4)JVメンバー躍動

 24日は今季初めてのJV戦。相手は京都産業大。毎年のように2部の上位に食い込んでいる実力校である。メンバー表をみても、関西大倉、箕面自由、立命館宇治、大阪産業大高校など、高校フットボール界では指折りの実力校出身者が多い。
 そういう相手に、ファイターズの新鮮なメンバーがどんな試合を展開するか。何があっても見届けなければと試合開始の2時間前から第3フィールドに向かった。
 まずはメンバー表のチェック。先発メンバーには、下級生の頃、けがなどで出場機会の少なかった4年生4人が名前を連ねている。OLの清村、TE西田、DL堀川、LB岩田である。自身のプレーでアピールすると同時に、試合経験の少ない下級生を束ね、若手に力を発揮させる役割が期待されているのだろう。
 3年生はOLの池田、WR清水、久物、RB山本、K泉山。ディフェンスではLB石川、鳥内、DB片山、脇田、塩田、折田。あとは全員2年生である。日ごろから努めて第3フィールドに顔を出していても、顔と名前が一致しないメンバーが少なくない。とりわけ2年生になったばかりのメンバーは、普段の練習では自分の背番号を付けていないから、名前を覚えている選手の方が少ない。
 そういう選手が背番号を付け、入れ替わり立ち替わり出場してくれる。試合前の練習が始まる前から声を掛け、練習がスタートすれば、それぞれの動きをチェックしたくなる。そう思うと、居ても立ってもいられない。ママチャリに乗って、いそいそと出掛けた。
 ファイターズのリターンで試合開始。まずはRB山本のランをキーに陣地を進める。1年生の時から期待され、大きな試合にも出場経験があるだけに、パワーが違う。今季は故障で出遅れていたが、それを感じさせない走りで陣地を進める。
 このシリーズは、ファイターズのファンブルで攻守交代となったが、相手攻撃を守備陣が完封し、自陣23ヤードから再びファイターズの攻撃。山本のランなどで簡単にダウンを更新した後、先発QB西野がビッグプレーを披露する。右オープンを一気に駆け上がった63ヤードのTDランである。直線のスピードではQB陣でもトップの力をファンの目に焼き付けた。
 2Qに入ると、RB陣が見せ場を作る。山本と木村悠が交互に走り、仕上げは木村悠の20ヤードTDラン。パスがなかなか通らない展開をOLの奮闘で打開し、走るスピードを買われてQBから転向した木村悠が駆け抜けた。
 3QからはQBが百田に交代。立ち上がりこそもたついたが、今度は2年生RB中村行を中心にしたランプレーが機能し、自身のキーププレーもあって、あっという間にゴール前2ヤード。ここで意表をつくパスをRB田村に決めてTD。21−3となり、試合の趨勢が決まった。
 4Qになると、再び中村行と木村悠のランを交互に繰り出し、早々にTD。パスが持ち味の百田がランプレーを中心に試合を進めたから、相手が戸惑ったのかも知れないが、それにしてもファイターズRB陣の元気の良さが目に付く。これが2軍、3軍のメンバーというのだから、1軍のメンバーもおちおちしておれないだろう。先週に書いた「レベルの低い選手の奮闘があって初めて勝てるチームができる」という話を地で行くJV選手の活躍だった。
 この後も、百田からWR小田への30ヤードTDパス、西野からWR中原へのTDパスなどで得点を重ね、終わって見れば56−3。 試合後、鳥内監督が関学スポーツのインタビューに答えている「チャンスを与えた中でアピールしてくれた選手がいたことはよかった。評価が高くなかったLB泉やRB中村行がその筆頭」という言葉通りの試合だった。
 JV戦はこの後、まだ2試合が残されている。そのうち1試合は昨年までリーグ戦で活躍していた近畿大学が相手。そこで今度はどんなメンバーがアピールしてくれるか。仕上がりの早い1年生にも出場の機会があるのか。その前に、この日の活躍を足がかりに、Vメンバーとして奮闘してくれる選手がどれだけ出てくるか。さらには、JVメンバーの活躍に刺激され、覚醒してくれるVメンバーは誰と誰だろうか。
 今度の日曜日、王子スタジアムで開かれる日大との試合は、それを測る格好の舞台である。チームとして、初戦の日体大戦で出た反省点を総括し、昇華して戦ってもらいたい。今度の試合も、早くから出掛けよう。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:41| Comment(1) | in 2016 season