2016年12月26日

(33)「職分」を尽くす

 江戸時代、安定した社会が260年も続いたのはなぜか。
 この問いに対して『逝きし世の面影』『江戸という幻形』などの著作で知られる渡辺京二さんが『無名の人生』(文春新書)で次のように解説しています。箇条書きにすれば、こんなことです。
 @人々が辛いことは軽く脇にそらしてやり過ごす術に長けていた。互いへの気遣いが浸透していたから、お互いが気持ちよく幸せになれた。
 A貧しい暮らしをしている人はもちろんいるけど、決してその暮らしは悲惨ではない。まじめに働けば自分の腕一本で食っていけた。
 B幕府の機構もある意味では民主的だった。士農工商という身分差別は厳格で窮屈だったといわれるが、実は見かけとは違ってかなり民主的な社会だった。
 C司法も公正だった。建前は厳格だったが、その裏では現実的な運用を心掛け、それなりの幅を持たせていた。
 D社会の秩序は、侍にしろ、百姓、町人にしろ、各個人がその社会のなかで持つ「役」が集積してできあがっている。人々はその「役」「職分」に社会的責任を感じており、それがその人にとっての「誇り」の感情だった。つまり「俺はこの職分でもって世の中を支えているのだぞ」という「誇り」のシステムが機能していた……。
 江戸時代の社会という主語をファイターズに置き換えれば、なぜファイターズが東西の強豪チームを相手に、勝ちを呼ぶ込むことができたのか、という理由が納得できると思います。そして、すべての構成員がそれぞれの「役」「職分」を果たすことで、社会人のトップに挑み、勝利を収める道筋も見えてくるのではないでしょうか。
 例えば、@にいう「辛いことを脇にそれしてやり過ごす」です。これを練習と置き換えて考えましょう。ファイターズの練習時間と休憩時間は厳密に管理され、選手を上達させることだけを目標に取り組まれています。コーチや上級生が憂さ晴らしや自己満足のために下級生を「痛めつける」ような練習は一切ありません。シーズン終盤のこの時期になっても、チームで取り組む時間は普段と同じです。チーム全員で取り組む時間は、休憩時間を入れても1時間半ほどです。無理な「根性練」で追い込んでも、マイナスに作用することはあってもプラスになることはない。それよりも、それぞれの部員が目的を共有し、一所懸命に取り組む方が効果が上がると、長い歴史を通じて確信しているからでしょう。
 Aでいえば、みんながみんな選手としての天分を持っている訳ではない。けれども、まじめにチームの活動に取り組めば、必ず自分の持ち味を生かせる場所があると理解すればどうでしょう。フットボールは攻守蹴のパートに分かれ、選手の交代も自由です。足が速い、当たりが強い、相手の動きをいち早く察知できるなど、何か一つ特徴を持ち、それを磨くことで活躍する場所が見つかります。それは選手に限りません。マネジャー、トレーナー、分析スタッフなど、自らの能力を生かす役割はいくつもあります。黒澤明の「7人の侍」に出てくる「その場にいるだけで場が和む人」の役割を果たすことも、立派な貢献です。
 Bは、ファイターズの特徴そのものです。戦後、チームが再スタートした当初から、時の主将が下級生に対して「みんな兄弟や。仲良くやろう」と呼び掛け、風通しのよいチームを作られたのは、よく知られた話です。その伝統はいまも引き継がれ、チームのためになると思えば、下級生が上級生にも厳しく注文を付けます。女子のマネジャーやトレーナーが「どう猛な」男子部員を叱り飛ばします。1年生部員が更衣室の入り口に張り紙をして、室内の整理整頓を呼び掛けた話は、2年前のこの時期、コラムに紹介しました。
 Cは指導者の対応と考えればどうでしょう。鳥内監督は常々「あいつらが勝ちたいというから、手伝っているだけ」といい、部員に「どんな人間になんねん」と問い掛けています。主役はあくまでも部員。その成長を指導者は脇から手助けすることが役割と心得ておられるからでしょう。もちろん、時には厳しい口調で部員をたしなめられることもあります。それは部員が全力を尽くしていないと見えたとき、あるいは浮ついた言動が見られるときなど、指導者としての責任から発せられる言葉です。
 コーチも同様です。誰もが驚く戦術を創造するだけではありません。試合のたびに頑張った選手に贈られる「プライズシール」が象徴するように、選手の貢献度を常に公平に温かく見守っています。指導者にその「職分」を果たすプロとしての創造力と公平な目があるから、選手もまた「明日も頑張ろう」という気持ちになるのでしょう。
 以上、長々と書いてきましたが、一番言いたいことはDにあるすべての部員がそれぞれの「役」「職分」に誇りを持ち、それを完遂する風土がこのチームには存在すると言うことです。先発メンバーも交代メンバーも、それぞれが全知全能を尽くして戦う。スカウトチームのメンバーもまた、試合に出る選手を鍛えるために、全力を尽くす。それもまたこのコラムで書いてきたことです。もちろん、マネジャーやトレーナー、分析スタッフの仕事、役割も必要不可欠です。それぞれがその「職分」に誇りを持ち、俺が日本一のチームを育てる、僕が相手チームを裸にする、ビデオの撮影なら誰にも負けない、と頑張るから、チームのモラルが高くなるのです。
 こうした@からDまでのトータルが立命との2度の力勝負に勝ち、早稲田の幻惑作戦を打ち破る原動力になったのです。ファイターズの戦い方に対して、巧妙な戦術とか試合巧者という表現がしばしば使われますが、そういう上っ面の話ではありません。
 そういう戦術を可能にする部員の精進、監督やコーチの指導力と分析力。そういうもろもろが積み重なった結果としての大学日本1です。大いに誇ればいいと思います。
 しかし、ここからが大切な点です。チームには社会人に勝って日本1、という目標があります。それをどう達成するのか。そこが勝負です。監督の「勝たなアカンねん。よくやった、だけではアカンねん」という言葉に、どう答えるか。本気の取り組みが試されます。
 幸い、残された時間はあります。気持ちを高めて練習に取り組み、勝つための戦術を仕上げて下さい。チームの全員がそれぞれの「職分」において、日本1の取り組みをして下さい。チーム全員のベクトルが一致したとき、化学反応が起きて「日本1」が両手を挙げて飛び込んでくるでしょう。
 健闘を祈ります。
posted by コラム「スタンドから」 at 12:53| Comment(0) | in 2016 season

2016年12月20日

(32)我慢する力

 甲子園ボウルでは初めてまみえる早稲田大学を相手に、ファイターズは堂々の勝利を収めた。31−14。終わって見れば、ダブルスコアである。
 しかしながら、現場で見ている限り、双方の力量に得点差ほどの開きがあったとは到底思えなかった。とりわけ前半は、早稲田の変幻自在な攻撃と思い切った守備体系に幻惑され、振り回された。ひとつ展開が変われば、早稲田の攻撃陣に存分に攻められるのではないかという予感さえした。
 立ち上がりのファイターズの攻撃がその予感に輪をかけた。RB高松のリターンで自陣26ヤードから始まったこのシリーズ。いきなりQB伊豆からWR池永へ30ヤードのパスがヒット。続いてRB野々垣と橋本が確実にヤードを稼ぎ、残る1ヤードは伊豆からWR前田へのパス。17ヤードを稼いで一気に相手ゴール前23ヤード。
 ここまでは順風満帆、計算通りだったが、そこからが攻めきれない。先日の立命戦と同様、FGで3点を狙いにいったが、それが外れてまさかの無得点。前途多難という不安が漂う。
 迎えた早稲田の攻撃。第3ダウンロングの状況で簡単にパスを通され、簡単にダウン更新。前途に不安がよぎる。
 しかしここはLB松本のタックル、CB小椋のパスカットでなんとか相手をパントに追いやり、再び自陣35ヤードからファイターズの攻撃。ここはWR前田と亀山へのパスを立て続けに4本成功させ、RB橋本の中央ダイブ、再び前田へのパスと続けて3度ダウンを更新。仕上げはゴール前11ヤードから伊豆が左オフタックルを抜けてTD。西岡のキックも決まって7−0とリードした。
 これで一安心、と思う間もなくいきなり相手に37ヤードの縦パスを決められてゴール前33ヤード。そこから短いパスを立て続けに決められ、QBのスクランブルにも振り回されて、あっという間にゴール前4ヤード。次のプレーで中央を割られてTD。たちまち同点に追いつかれる。
 やっかいな相手とは聞いていたけど、たしかにその通りである。パスが自在に投げられるQBと走力のある二人のRB。それを自在に使い分けて攻め込んでくる早稲田の攻撃をどう止めるか、対応策はあるのか。スタンドから観戦していても気が気ではない。
 そういう嫌な雰囲気を突破してくれたのがDLの中央に立ちはだかる松本と藤木。とりわけ松本は120キロの巨体からは想像できないスピードで再三相手OLを突破し、QBに襲いかかる。たまらずパスを投げ捨てたが、それが反則とされ、相手の攻撃が続かない。
 ファイターズもDLが一人、残りの10人がLBとDBの位置に並ぶ変則的な相手守備陣に幻惑され、攻撃が続かない。双方ともにパントを蹴り合う状況だったが、その膠着状態を破ったのがRB橋本。自陣29ヤードからの攻撃で一気に36ヤードを走り、相手陣35ヤード。ここから野々垣のラン、伊豆のスクランブルなどで陣地を進め、残る6ヤードをRB加藤が走り切ってTD。まるで先日の立命戦の勝負を決めたTDと同じようなコースを駆け抜ける会心のプレーだった。
 これで息を吹き返したファイターズは、次のキックを相手陣奥に蹴り込む。それをキャッチした相手リターナーが左を走るもう一人のリターナーにそのボールをパスしたが、それが不正な前パスと判定され、早稲田の攻撃は自陣9ヤードから。そこからの第一プレーでDL松本が中央を割って相手QBに襲いかかる。慌ててパスしたボールがすっぽりLB山本の胸に入り、そのままゴールまで9ヤードを走り込んで見事なインターセプトリターンTD。ファイターズが21−7とリードして前半を折り返す。
 それでも早稲田はひるまない。後半の第一シリーズでTDを決め、21−14と追い上げる。こうなると、リードしている方が逆に苦しい。その苦しい場面をファイターズは伊豆の相手陣深くまでのパントでしのぎ、松本を中心としたDL陣が相手QBに圧力をかけ続けて持ちこたえる。膠着状態の中で4Q3分48秒という微妙な時間帯で西岡の21ヤードFGが決まって10点差。
 そうなると守備陣の動きはさらによくなるDE三笠のQBサック、DB小池のインターセプトとたたみかけ、仕上げは野々垣がオフタックルを抜けて21ヤードのTD。相手の反撃も、今度はCB小椋のインターセプトで断ち切ってしまう。最後はけがなどで戦列を離れていた4年生を大量に投入し、喜びのニーダウン。終わって見れば完勝だった。
 しかし、このように得点経過を記しているだけでも、勝利の女神はファイターズにほほえんだかと思うと、今度は早稲田に愛想を振りまく。その繰り返しの中で、勝敗を分けたのは何か。僕は我慢する力において、ファイターズに一日の長があったとにらんでいる。
 それを証明する場面ならいくらでも挙げることができる。例えば、DL松本や藤木が何度も相手ラインを割って相手QBに襲いかかった場面。相手QBがたまらずパスを投げ出す場面が相次ぎ、反則と判定されても仕方なさそうな場面もあったが、判定は単なるパス失敗。それでも腐らず、我慢強く中央を突破し、QBに圧力をかけ続けた。
 それが直接的には相手の攻撃を抑え、間接的にはQBの投げ急ぎを誘って3本のインターセプトにつながった。
 逆に伊豆は、そういう場面でも決して焦らず、我慢のプレーに徹していた。危険な場面では決して投げず、ぐっとこらえて自ら走り、陣地を進める。陣地は進まなくても、ボールを奪われることだけは絶対に避ける。その我慢が結局は仲間の好走、魂のダイブにつながり、ダウンを更新して新たな攻撃、新たな得点に結びつけた。
 ファイターズ側からいえば、リードしている強みを生かしたことになるし、相手側からいえば、追わなければならない焦りがミスにつながったともいえよう。
 甲子園ボウルのような大きな試合では、追う方も追われる方もともに苦しい。その苦しい状況で、どちらが辛抱できるか、我慢できるかという点に勝負の綾がある。
 双方の力を比較すれば、互いに攻守ともに持ち味、決めてがあった。それを存分に発揮した方が勝利に一歩近づくと、僕は試合前から考えていた。その見方は、試合が終わったいまも変わっていない。
 裏返せば、相手の決め手を封じるためにチームの全員がどこまで献身できるか、難しい局面でイチかバチかのプレーに走らず、どこまで我慢するかで勝負が決まるということである。試合展開とその結果からいえば、我慢する力において、ファイターズに一日の長があったということだろう。
 似たようなことを試合後のインタビューで主将の山岸君も言っている。次のような言葉である。関学スポーツから引用させていただこう。
 「勝負所でスペシャルプレーにやられる時もあったが、我慢したい時間帯は我慢できた。いつもピンチの時に回ってくるのがディフェンスチームの役割といってきたので、慌てず対処出来たと思う」
 その通りである。3万5千人の観衆に見守られ、日本1の座をかけた試合。アドレナリンが出まくる大舞台で、攻守のメンバー全員が、我慢するところで我慢し、相手の一瞬の隙を突いて刀を一閃させたというのが今年の甲子園ボウルではないか。そういう我慢する力を身に付け、ここ一番で発揮できたことを、人は成長と呼ぶ。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:34| Comment(1) | in 2016 season

2016年12月14日

(31)GO! FIGHTERS!

 先週末、第三フィールドで練習の始まる前に、4年生DLの元原君と少しばかり立ち話をした。次のような会話である。
 「立命戦すごかったな。感動したよ」
 「みんなよく頑張ってくれました。オフェンスとディフェンスが互いに信頼して、100%の力を出してくれました。やっとチームが一つになったという実感があります」
 「本当に、シーズンの前半はどうなることかと思う試合ばかり。下位のチーム相手に、全然エエとこなかったからな」
 「神戸大戦あたりが最悪でした。これではアカン、とにかく練習から全力でやろうと僕自身も気合いを入れました」
 「たしかに君や堀川君が練習台になって、OLの当たりを真っ向から受け止めてくれたから、日に日にOLが強くなった。負傷者も復帰し、試合でも力を発揮できるようになった。攻める形ができてきたから、攻撃にリズムが出て、それが守備にもいい影響を及ぼしたということかな」
 「それにしても、この時季に目標を持って練習出来るっていいですね。去年はもうシーズンが終わってましたから」
 「そうそう。君らは選ばれたチームや。関西のライバルたちの悔しい思いを背負って全力で戦うことが義務や。去年の悔しさを思い出したら、どんな練習だって苦しくない。ワクワクする気持ちで練習に取り組み、もう一段も二段も力を付けてくれ」
 「はい。頑張ります」
 元原君は関西大倉高校時代はLBで主将を務めていた。期待されて入部したが、度重なるけがやポジションの変更で、なかなか試合で活躍する場面がなく、4年生になっても練習前の早い時間からグラウンドに降り、OLの練習台を務めるのが日課のようになっていた。それでも腐らず、Vの選手を相手に体を張って練習相手を務めてくれた。Vチームの一員となったいまもずっと、その役割を務めてくれている。
 同じポジションの堀川君も同様だ。彼は189センチ、120キロという巨体で、正面からのぶつかり合いでは誰にも負けない、と自負している。確かに、真っ向から当たれば、めちゃめちゃ強い。最近は試合に出る機会が増えたが、それでも練習時には1本目のOLたちを相手に練習台を務め、その特徴を生かして激しく当たりあっている。
 こうした選手は、ほかのポジションにも何人もいる。例えば、ランニングバックの松本直樹君もその一人。毎日毎日、スタメンで出るDBやLBを相手に練習台を務めている。体は小さいが、繰り返し繰り返し素早いスタートを切り、絶妙のカットバックでDBやLBを振り回している。その動きを見ていると、どうしてこれだけ動ける選手が試合に出してもらえないのか、そこまでRBの層が厚くなってきたのか、と思うほどだ。
 同様のことは4年生WRの水野君や細川君についてもいえる。彼らとはほとんど話したことはないけれども、いつも試合前の練習には先頭を切って現れ、同じく早出してきたQB伊豆君を相手にパスキャッチの練習をしている。二人は僕の授業に参加しているメンバーでもあり、先日の小論文では「試合で貢献する機会は少ないかもしれないが、いつも誰よりも早く練習を始め、熱心に取り組む姿を見せることで、後輩たちの模範になることを心掛けている」という意味のことを書いていた。
 こういう部員が攻守ともに何人も存在し、チームを支えているのがファイターズである。彼らが体を張って練習台になり、もっと強く当たれ、もっと素早く動け、と仲間を鍛えに鍛えているからこそ、試合に出る選手は本番でも活躍できるのである。口で言うだけでなく体を張って本物の当たりを教え、見たこともないようなカットバックを見せる。早くからグラウンドに出て、後輩たちに手本を見せる。その繰り返しがあって初めて、試合で力を発揮できる選手が育っていくのである。
 ローマは一日にして成らず、ファイターズも1日にして成らずである。
 そういう練習を師走も半ばになって続けることができる。甲子園ボウルで勝つ、社会人を相手に勝つという、明確な目標を持って取り組む練習。元原君が「この時季も、目標を持った練習ができることがうれしい」という意味はそこにある。
 いよいよ甲子園ボウル。キックオフは18日午後1時5分。ここで一番、練習の成果を披露してくれ。山岸主将が立命戦の後、インタビューでいっていた。「僕たちの目標は日本1ですから」と。日ごろの練習を信じ、立命戦の激闘を支えにして、東の代表を打ち破ってくれ。
 GO! FIGHTERS!
 Fight Hard!
posted by コラム「スタンドから」 at 12:54| Comment(2) | in 2016 season

2016年12月05日

(30)魂のフットボール

 長い間、ファイターズの試合を見てきたが、今日のように力の入った試合はそんなにない。終わって見れば26−17。ファイターズが順当に勝利したように見えるが、とてもとても、そんなに力量差がある試合ではなかった。一つ間違えば、逆の結果が出ていたかもしれないほどの緊迫した勝負であり、敗れた立命館の強さを存分に見せつけられた。
 しかしながらファイターズの諸君は、その強力なチームを相手に一歩も引かずに勝ちきった。オフェンスといわず、ディフェンスといわず、出場したメンバー全員が根性の座ったプレーを展開。文字通り「魂のフットボール」を披露してくれた。
 それを象徴するのが第4Qの半ば、自陣2ヤードから始まったファイターズの攻撃である。前半を20−0で折り返しながら、後半の立ち上がり、相手の思いきった攻めで立て続けに2本のTDを奪われて20−14。さらに第4Qの初めにはフィールドゴールをたたみかけられ20−17。完全に相手にモメンタムが傾き、ファイターズは防戦一方。守備陣がなんとか相手の攻撃を食い止めたものの、ボールは自陣2ヤード。残り時間は6分40秒。
 ここを切り抜けない限り、ファイターズの展望は開けない。しかし、焦って無理なプレーをしてボールを奪われたら、一気に逆転、もしくはFGで同点の場面である。
 流れは完全に相手に移っている。さて、どうするか。
 固唾をのんで見守る場面だったが、ファイターズベンチが選択したのは、QB伊豆からWR松井への縦パス。それが決まって一気に30ヤードをゲインし、局面を切り開く。よくぞこのプレーをコールした、よくぞ投げた、よくぞキャッチした。思わず、そんな感慨がこみ上げた。
 場内の興奮がさめやらぬ中、RB橋本が中央のラン、野々垣へのショベルパスでダウンを更新。守備陣のマークがRBに集まったところで、今度は伊豆がプレーアクションからのキープで一気に16ヤードを前進、相手陣42ヤードに進む。
 残り時間は5分24秒。時間を消費しながら局面を進めたいファイターズはランプレー中心の攻撃だし、相手守備陣もそれを予測して備えている。それでもファイターズが選択したのはRBを徹底的に走らせること。野々垣のランで5ヤード、TE三木へのスクリーンパスで4ヤード、RB山本のランでダウンを更新。続けて野々垣がオフタックルを抜けて11ヤード。さらには伊豆のQBドロー、橋本のカウンターで9ヤードを進め、残りの1ヤードは橋本のダイブ。気がつけば相手ゴール前10ヤードまで進んでいる。
 残り時間は1分41秒。ここでも野々垣が中央を突いて4ヤード、残る6ヤードをRB加藤が左オフタックルを駆け上がってTD。決定的な6点をもぎ取った。
 自陣2ヤードから始まった14回の攻撃。最初の1本こそ松井への意表を突いたパスだったが、後の13回はOLとレシーバー陣が愚直に相手を押し続けて走路を開き、RBやTEが骨をきしませてもぎ取った陣地であり、TDである。まさに「魂のフットボール」と呼ぶにふさわしい内容だった。
 もちろん、この日の勝利は攻撃陣の手柄だけではない。その前に、この前の試合に引き続いて守備陣が大いに奮闘した。DLは松本、藤木を中心に中央のランプレーを阻止し、2列目の山岸、松本、松嶋はサイドから攻め込む相手ランナーを一発で仕留める。3列目も負けてはいない。小椋、岡本、小池を中心に的確なタックルとパスカバーで全く相手を進ませない。テレビ中継の情報では、前半のスタッツがランはマイナス2ヤード、パスが12ヤード。トータルで10ヤードしか進ませず、得点はもちろん、ダウンの更新さえ許さなかったのだから、その奮闘はいくら称えても称えきれない。
 しかし、それでも昨年も王者立命は、そのままで終わるようなヤワなチームではなかった。後半、怒濤のような攻めで立て続けに17点をもぎ取り、一気に流れを引き寄せてしまった。そうなると、守備陣も奮起する。絶妙のインターセプトなどを盛り込んで、ファイターズに攻撃の糸口さえ与えない。
 ヤバイ!ここは踏ん張るしかない。そう思ったときに4年生の山岸や岡本、そして3年生の小椋らが魂のタックルを見せて、決定的なチャンスを相手に与えない。
 その辛抱が最後に実った。最初に紹介した通り、ようやく攻撃権を獲得したオフェンス陣が自陣2ヤードからのシリーズを文字通り体を張り、骨をきしませた攻撃で得点に結びつけたのである。
 見たこともないほど力の入った試合という理由はここにある。関学スポーツの速報によると、試合後のインタビューで鳥内監督が「選手が腹をくくってやってくれた。それを最後まで示してくれた。きわどい場面でも押し負けなかったのが勝因」と語られたそうだが、なるほどと思った。
 いつもは辛口の監督にここまでいわせるチームはそうそうあることではない。それだけ全員が最後まで目の前の強敵に必死懸命に向かっていったということだろう。この闘争心。そして粘り強さ。まさしく「Fight Hard」であり、魂のフットボールである。感動した。
posted by コラム「スタンドから」 at 10:02| Comment(4) | in 2016 season

2016年11月29日

(29)練習また練習

 毎年、この季節になると、週末の上ヶ原の第3フィールドには若手OBが顔を出し、練習台を務めてくれる。今年はなかなか姿が見えないなと思っていたら、先週末には東京からXリーグのリクシルで活躍しているQBの加藤翔平君、DLの平澤徹君(ともに2011年卒)、地元からエレコムのLB池田雄紀君(2014年卒)が来てくれた。
 3人とも社会人チームで日本代表クラスの活躍をしているバリバリの現役。防具を着けてグラウンドに降り、スカウトチームに混じってVチームの練習相手を務めてくれた。それぞれがつい先日まで、チームの主力メンバーとしてXリーグで激戦を繰り広げていただけに、見ていてもほれぼれするような動きである。
 ディフェンスエンドに入った平澤君は簡単にVチームのOL陣を突破し、平然とQBの目の前に立っている。池田君はJVチームの要として、VチームのRBを自由に走らせない。加藤君になると、まるで異次元のQBである。体がデカイし遠投力がある。ランプレーで発進すれば、一気にTDまで持っていく突進力もある。JVチームのQBとは3段階から5段階上のレベルである。
 3人が3人とも、今季対戦したどのチームにもいないレベルの選手であり、Vチームのメンバーにとっては、上には上がいる、というのが正直な感想だったのではないか。
 3人だけではない。昨年度の主将でアシスタントコーチを務めている橋本君は毎日、グラウンドに顔を出し、OLの練習台を務めている。自身が昨年まで引っ張ってきたチームだから、相手になる選手が成長しているかどうかの手応えは、体感で判断できる。その折々に気付いたことを身を以て指導し、1センチ単位で足の運びを注意する。
 同じくOLの江川君、FBの山崎君、WRの宮崎君、DBの瀧上君、MGRの重田君も連日のようにグラウンドに顔を出し、練習の補助を務めてくれる。それぞれが先輩風を吹かして威張るのではなく、丁寧に後輩たちを指導してくれるのが、ファイターズのよき伝統である。
 そういう練習を重ねて、甲子園ボウルまであと一歩の所までこぎ着けた。いよいよ今度の日曜日はその成果を発揮する立命戦である。
 先日の試合は、立ち上がりに見事なパス攻撃で先制し、相手の反撃を強力な守備陣がぎりぎりのところで抑えて勝つことができた。
 しかし、互いに一度、手の内をさらし、力量を見極めたうえで迎えるのが今度の試合である。それぞれが相手の弱点を突き、自分たちの強みを磨いて戦うことは目に見えている。その意味では、前回の戦い以降の2週間をどのように過ごしたか、試合までの残り時間をどう生かすかで勝敗の行方が決まる。11月20日の勝利は、その日限り。12月4日までの取り組みで、本当の勝敗が決する。
 そのための準備はできているか。傑出した先輩たちの胸を借りるのもその一つの方法だし、仲間内で互いに指摘し合い、厳しく求め合ってレベルアップを図るのも、重要である。何より大切なのは、自分自身の意識を高く持ち、目の前の相手に必ず勝つ、必ず倒すという責任感をもってことに当たることだ。
 そのためには、目の前の練習に全力を挙げて取り組むしかない。たとえ下級生のスカウトチームが相手でも、百発百中のプレーを自らに義務づけ、それを完遂する。たとえオールジャパン級の先輩が相手でも、一歩も引かない。自分たちのQBには一指も触れさせない。そういう強い気持ちをもって自らを奮い立たせるしかないのである。
 練習また練習。今この時季に、本気で勝つための練習をしている大学チームはほんの数校である。そういう練習が大切な仲間とともに続けられることの幸せに思いをはせよう。たとえハードな練習であっても、目の前に具体的な目標を描いて取り組めば、それは喜びに変わる。その喜びが人を成長させる。そういう練習ができる時間がまだ残されている。その時間を有効に使い、プレーの精度を高め、気力を充実させてもらいたい。
 締めくくりに、先週、練習相手を務めてくれた池田君に確かめた話を一つ披露したい。彼は今季、学生時代から慣れ親しんだ1番の背番号に代え、14番を背負ってプレーした。どうしてか、と思った瞬間、思い当たることがあった。14番は、同期の大森君が学生時代に背負っていた番号である。
 「そうか。がんとの戦いに挑んでいる病床の友人を励ますために、その14番を背負ったのか」と思い当たった僕は、池田君の顔を見たときにまずそのことを確かめた。
 「そうです。同期の大森が苦しい戦いをしている。ならば僕も、その戦いを背負ってやる。そう思って背番号を変更したのです」
 その返事を聞いた時、何とも表現しようのない感動が走った。これがファイターズだ、同じ釜の飯を食い、同じグラウンドで汗を流し、死にものぐるいの練習をした仲間だ、そう思うと、思わず涙がにじんできた。
 そういう仲間を作れるのも、グラウンドでは互いに厳しく求め合い、試合では結束して強敵に立ち向かってきた場面を共有しているからである。ファイターズの諸君も、残る試合でそういう場面を共有し、仲間との絆を固くして巣立ってほしい。そのための時間はまだ残されている。練習また練習である。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:36| Comment(3) | in 2016 season

2016年11月22日

(28)これぞ「Fight Hard」

 まさにチームが一体となって「Fight Hard」を体現した試合だった。
 攻めてはラインが一枚の板になってQBを守り、RBに走路を開く。WRはどんな球でも捕ってやるという気迫を体全体で表し、QBは投げ、走り、身を投げ出して相手をブロックする。
 守備はさらにハードである。一列目、中央の松本が核となって相手の動きを制御し、2列目は果敢にボールキャリアに襲いかかる。3列目は鋭い動きでそれをフォローし、能力の高い相手キャリアに仕事をさせない。シーズンも中盤まで、試合ごとに課題が指摘されていたキッキングチームも、この日は冷静にボールをコントロールし続けた。
 関西リーグの雌雄を決する立命戦。試合前の下馬評は、大半が相手有利。攻守とも学生界では一歩抜きんでた力を持つやっかいな相手に、ファイターズの諸君がどこまで気持ちを込めて戦うか、チームの全員が相補い、助け合って試合に挑めるかが勝負のポイントだった。試合の前夜から、選手一人一人の顔を思い浮かべ、明日はとにかく闘志を表に出して戦え、激しく戦ってくれと祈るような気持ちだった。
 ファイターズのレシーブで試合開始。相手のキックがサイドラインを割り、自陣35ヤードから攻撃が始まる。最初はRB野々垣のラン、2度目もランプレーだったが、相手の鋭い守りにほとんど前に進めない。予想通りの苦しいスタートだったが、3プレー目、QB伊豆からWR前田に24ヤードのパスがヒット、一気に相手陣41ヤードに攻め込む。相手守備陣の寄りつきが早く、見た目にはパスが通る状況ではなかったが、伊豆が果敢に投げ、前田が信じられないような身のこなしでそのボールを確保する。
 続いて伊豆のキープで4ヤード、RB橋本の中央突破で7ヤードを稼いでダウン更新し、ゴール前30ヤード。ここで伊豆からWR松井への長いパスが通り、一気にTD。試合開始から2分1秒で待望の先取点を手にした。
 こうなると、守備陣も盛り上がる。次の相手攻撃を山岸、安田の鋭い動きで3&アウトに退ける。
 しかし、相手オフェンスには昨年、存分に走り回られたRBも抜群のスピードを誇る3人のレシーバーもいる。一瞬たりとも気の抜けない展開が続くが、松本、藤木、三笠を並べたDL陣が中央のランプレーをことごとく制圧し、山岸、松本、安田、松嶋のLB陣と岡本、小池、小椋、横澤のDB陣が抜群の反応で決定的な好機を作らせない。
 膠着したままの試合展開を破ったのは主将山岸。第2Qの半ば、自陣25ヤード付近で相手ボールキャリアに激しいタックルを見舞ってボールをはじき出し、それを松嶋がカバーしてターンオーバー。最低でもフィールドゴールの3点を覚悟しなければならない状況で飛び出した値千金のタックルでありカバーである。
 このプレーに、今度は攻撃陣が奮起する。RB山口、橋本のランとWR前田、亀山、松井、池永へのパスを組合わせてダウンの更新を重ね、ついにゴール前まで3ヤード。昨年は、ここからの攻めをことごとく跳ね返されたが、今年は違う。橋本が見事に中央のダイブプレーを決めてTD。待望の追加点である。ファイターズが先制した後、次にどちらが点を取るかで勝負が決まると読んでいた僕にとっては、本当に、本当に欲しかった追加点である。ベンチはもちろん、スタンドを満員にしたファイターズファンの思いを乗せたエースRBのダイブであった。
 この場面の写真がチームのホームページでもアップされている。それを注意深く眺めてほしい。OL陣全員が身を挺して相手守備陣を押し込み、橋本の飛び込むスペースを確保していることが鮮明に写し出されている。これが2016年ファイターズの「Fight Hard」を象徴する場面である。
 後半もファイターズの守りは堅い。一列目の藤木や三笠が素早いラッシュで相手バックに襲いかかり、小池がナイスタックルを決める。これに攻撃陣が呼応する。3Qに入って2度目の攻撃シリーズは自陣20ヤードから。まずは、伊豆の素早いランで陣地を進め、次は池永へのリバースプレー。それが見事に決まって69ヤードのTD。走り切った池永も素晴らしかったが、相手守備陣を渾身のブロックで倒した伊豆、スピードに乗って走路を開いた松井らのブロックもお見事。まさに攻撃陣が一丸となって獲得した追加点だった。
 このように試合を振り返ってみれば、攻守ともにグラウンドに立つ11人の選手が一丸となって戦っている場面ばかりが目に浮かぶ。今季では初めてのことであり、ここまで気迫のこもった試合を見たのも今季では初めてのことだ。
 チームは全員で「Fight Hard」を体現し、見事に関西リーグを制覇した。しかし、今季は甲子園ボウルへの出場権をかけた試合が12月4日に予定されている。それに勝たないことには、話は前に進まない。
 その試合は間違いなく立命との再戦になる。
 この試合こそが本当の決戦である。相手は捨て身になって挑んでくるだろう。まったく異なる相手と闘うと考えた方がいい。ひょとしたらもともと2試合目に焦点を絞っている可能性すらある。勝ったイメージを捨て去って挑戦者に徹しなければ逆の結果になることだってあるのだ。
 もう一度、昨年の敗戦の原点に立ち返って再戦に向けた準備をしてほしい。勝っておごらず、ひたすら練習
に励むことから活路は開ける。甲子園ボウルまでもう1試合。悔いなく戦うために汗を流してもらいたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 14:57| Comment(3) | in 2016 season

2016年11月16日

(27)Fight Hard

 関西リーグ最終戦、立命との戦いを前に、今年のイヤーブックにある山岸主将の言葉をあらためて読み返した。一字一字が意味するものを、上ヶ原のグラウンドで彼が見せる行動、言葉、日ごろのたたずまいに重ね合わせていると、言葉にはならない熱いものがこみ上げてきた。
 練習の邪魔になってはいけないので、グラウンドの内外で交わす言葉は少ないけれど、彼の主将としての心構え、取り組み、行動をずっと見守ってきた人間の一人として、彼が問い掛けている言葉がそのまま胸に突き刺さってくる。
 全文をそのまま引用して、今回のコラムに代えたいぐらいだといえば、いまの僕の気持ちが分かってもらえるだろうか。
 彼はその文章で「どうすれば彼らとの差は埋まるのか」「自分たちはいま何をするべきなのか」と自らに問い掛け、次のように答えている。
 ……常に自分自身に問い掛ける中で、勝つために自分たちが決めたことをやり続けるしかないと考えた。トレーニング、ミーティング、練習。すべてにおいて昨年以上の意識で自分の気持ちを前面に出して取り組まなければ、今年も勝つことはできない。その思いから“Fight Hard”というスローガンを掲げた。
 ファイターズの部歌「Fight On,Kwansei」の歌詞に“Fight hard so we will win the game.”という一節があり、勝つために激しく懸命に戦うことが示されている。
 スローガンを決めるうえで、歴史ある部歌から貴重な言葉を引用した。
 勝つために戦うのは、試合の時だけではない。戦いの日が来るまで“Fight Hard”し続ける。つまりは毎日が勝負であり、毎日が勝つための1日である。
 何事においても、どんな場面においても勝つために“Fight Hard”することを、私が一番体現する。そしてチーム全員が“Fight Hard”を体現したときに、日本1への道が開けると信じている……。
 そして、最後に「ファイターズにいれば何か与えられるのではない。自分から“何か”を掴みに一歩踏み出しでほしい」と仲間に呼び掛け、「主将の私が常にこれで勝てるかを自問自答し“Fight Hard”を体現していきたい」と結んでいる。
 気持ちのこもった文章である。いま、決戦を前に読み返すと、なおさら一言一句が胸に迫ってくる。
 振り返れば、この20年、立命館とはどの学年も死闘を繰り返してきた。京大を含めて3者がそれぞれ1敗して3校が優勝し、甲子園ボウル出場決定戦で苦い汁を飲まされた1996年。関大、立命、関学が同率優勝し、甲子園ボウル出場権を競った2010年。せっかく本番の関西リーグで立命を倒しながら、京大に足下をすくわれ、優勝決定戦で再び立命と対戦。タイブレーク、それも延長戦となって敗れた2004年の例もある。2013年は両者ともに一歩も譲らず、0−0で引き分けている。
 蛇足を承知で付け加えれば、この0−0の試合で値千金のインターセプトを決めたのがDBの大森優斗君。いま、がんとの厳しい戦いのさなかにあることを公表し、朝日新聞のネットで紹介されて、大きな反響を呼んでいる主人公である。その記事を書いた大西史恭記者は、キッカーとして2007年の甲子園ボウル制覇に貢献した。
 もう一つ蛇足を加えれば、その大西君が在学中の4年間、立命との試合はすべて3点差以内で勝敗を分けている。2004年が30−28(甲子園代表決定戦は先に述べたように14−14で延長タイブレーク)、05年は15−17、06年は16−14。そして4年生の07年は31−28。フィールドゴールでの3点、PATでの1点を獲得することを義務づけられたキッカーの役割の重要性とその責任の重さを卒業文集で綴っていたことを思い出す。
 数えて見れば、21世紀に入ってからの15年間で、7点以内、つまり1TDとPAT1本の差以内で勝敗が分かれた試合が9シーズン、10回もある。その結果は関学からみて4勝5敗1分。両者が心技体すべてをかけてぶつかり、互いに一歩も譲らずに戦った結果である。
 逆に言えば、この相手を倒さない限り、甲子園ボウルへの道もライスボウルへの道も開かれないということである。
 その相手に、昨年は苦汁を飲まされた。山岸主将のいう「人生で一番の悔しさと自分自身の無力さを嫌と言うほど味わった」勝負である。
 以来、360日余。チームはこの相手を常に意識して、取り組んできた。その結果が問われる試合が目前に控えている。
 11月20日、万博記念競技場。1980年代後半、京大が全盛期にあり、毎年のようにファイターズと最終決戦を繰り広げた舞台である。そこでファイターズはどう戦うか。
 山岸主将の言葉にある通り、チームの全員が“Fight Hard”を体現するときである。全員が激しく、懸命に戦ってほしい。その向こうに勝利がある。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:46| Comment(2) | in 2016 season

2016年11月09日

(26)キーワードは忠実

 関西リーグ第6節の相手は京大。ファイターズに対しては毎年、特別の思いをもって挑んでくる難敵である。それは、現役の選手だけではなく、それ以上に監督やコーチが骨身にしみて承知のことである。
 振り返れば、小野ディレクターが終盤、TD2本の差を付けられた場面で、びっこを引きながら登場。激しく追い上げながらも、あと数インチが届かずに敗れた試合。満員の西宮スタジアムで関学有利の下馬評を覆されたのは、神田コーチが4年生、大村コーチ、大寺コーチが3年生の時。野原コーチの代は2年生の時、せっかく全盛期の立命を打ち倒しながら、次の試合で京大に足下をすくわれ、甲子園ボウル出場を逃している。
 この40年、常にファイターズの前に立ちはだかり、知恵をしぼり、根性を入れて挑戦してきたギャングスターズは、今年も健在だった。それは、第1シリーズ最初の攻撃が象徴している。京大陣21ヤードから始まったこのシリーズを京大はランとパスを巧妙に混ぜながらじりじりと陣地を進めた。50ヤードを越えたあたりで、ファイターズ守備陣が一度は食い止めそうになったが、急所で2度も反則が発生。結局は先制のTDにまで結び付けられた。キックも決まって0−7。
 7点差を付けられてのスタートとなったせいか、ファイターズ最初のシリーズはラインとQBの呼吸が合わない。伊豆からWR前田へのパスで5ヤードを進めただけで、簡単に攻撃権を相手に渡してしまった。
 「やばいぞ、これは。相手はかさにかかってくる。こちらは焦ってくる」。思わず心配した場面だったが、ここは守備陣が踏ん張って3&アウトに抑え、再びファイターズの攻撃。今度は伊豆からWR松井へのパス、RB橋本のランでダウンを更新。TE杉山へのパスで陣地を進めた後、RB山口がするすると中央を抜けてTD。K西岡のキックも決まって同点に追いつく。
 こうなると守備陣も落ち着く。松本、藤木、安田、三笠で固めた一列目と山岸、松本、松嶋のLB陣が奮起して中央のランプレーを完封。即座に攻撃権を取り戻す。自陣30ヤード第3ダウンロングという状況で、今度は伊豆から橋本へのショベルパスがヒット。ボールを受けた橋本が一気にエンドゾーンまで独走して70ヤードのTD。13−7とリードを奪う。
 次の京大の攻撃をDL三笠の14ヤードのQBサックなどで押さえ込んで攻守交代。今度はゴール前27ヤード付近で伊豆からヒッチパスを受けたWR池永が相手DBを振り切ってTD。20−7で前半終了。
 これでようやく試合が落ち着くかと思って迎えた後半。しかし、立ち上がりから不要な反則が相次ぎ、なかなかリズムに乗れない。しかし守備陣が奮起する。DB横澤が2度(反則で帳消しになったビンゴを含めると3度)のインターセプトを立て続けに決め、2度目のビンゴをリターンTDに仕上げて27−7。4Q開始直後には橋本が中央のダイブプレーを決めてダメを押した。
 終わってみれば34−7。得点だけを見ると、ファイターズの圧勝に見える。
 しかし、現場はそんなお気楽な雰囲気ではなかった。少なくとも京大の強さ、怖さをスタンドからではあるが、毎年のように見せつけられている僕としては、これで安心と思ったのは、TD数にして3本の差がついてからだった。
 そういう緊迫感のある試合。その中で僕がとりわけ注目したのは、攻守ともファイターズの選手がそれぞれの役割を忠実に果たしていたこと。ディフェンスではDLの松本、藤木らが真ん中を抑え、エンドからは三笠や安田が鋭い突っ込みを見せる。山岸を中心にしたLB陣と小椋、横澤らのDB陣がボールキャリアから目を離さず、鋭い集散を見せる。
 例えば横澤が2度目のインターセプトをリーターンTDに結び付けた場面。彼がパスを奪った瞬間に、逆サイドにいた小椋らが周囲に駆け寄り、完璧なブロックでゴールまで横澤が駆け上がるのを助けていた。
 攻撃陣も同様だ。1本目のTD、山口が中央を駆け抜けた場面では、OLが練習通りの忠実な動きで中央に走路を開いた。2本目、橋本が70ヤードを独走した場面でも、周囲を走っているのは、ファイターズの白いジャージばかり。OLの高橋らが巨体を揺すりながら橋本の後ろを固めて走っているのが印象的だった。
 日ごろの練習から、目の前のプレーに集中すると同時に、チャンスが到来した瞬間、新たに求められる役割を忠実に果たそうと努力してき成果がようやく出始めたということだろう。
 キーワードは忠実。オフェンスラインが自分たちのQBを守り、RBの走路を確保するのも、それぞれが決められた役割を忠実に果たすことであり、WRが相手守備陣のマークをかいくぐってパスをキャッチできるのも、それぞれが決められたルートを忠実に走り抜けているからである。攻守22人と交代メンバー、そしてキッキングチームの全員が、それぞれの場面でなすべきことを忠実に果たしたからこその勝利である。
 第7節。関西リーグの最終戦までは10日あまり。忠実な動きをさらに進化させ、難敵に立ちむかってもらいたい。それは先発で出るメンバーに限らない。というよりも、勝敗の鍵を握っているのは、交代メンバーの厚さにかかっている。
posted by コラム「スタンドから」 at 20:17| Comment(2) | in 2016 season

2016年11月01日

(25)本を読み、文章を綴る

 プロ野球の日本シリーズを制した日本ハムの選手育成について、10月30日付朝日新聞に興味深い記事が掲載された。「高卒育成 継承の5年間」という見出しで、自前で選手を育成する独自の仕組みを解説している。筆者は山下弘典記者。
 そこでは高校から入団した選手は5年間、大学・社会人からの入団選手は2年間、2軍の練習場に併設した選手寮に入寮を義務付け、読書習慣を身に付けさせる。外部から講師を招いて講義を受け、その感想文を必ず書かせるということなどが紹介されていた。
 読むことで思考力を養い、文章を綴ることで表現力を身に付けさせる。一見、野球とは関係のないことのように思えるが、そうではない。野球は相手があってこそ成り立つスポーツであり、仲間と協力しあって勝利をつかむ団体競技である。勝利のために何が必要かを考え、相手の投手、あるいは打者を攻略するために、どこに目を付ければよいかと知恵を巡らせる。胸を開いて仲間と考えを共有することも大切だし、自分の考えを適切な言葉で伝える能力も求められる。
 速い球を投げ、思い切りバットを振り回せばいいというだけでは、現代の野球界では通用しない。そうした技量を磨くと同時にシンキングベースボール、考える野球を一歩でも進めた者が勝利への道を歩める。それを裏付けたのが、高卒選手が主力を占め、大活躍した今季の日本ハム球団である。
 そういう記事を読みながら、まるでファイターズ(KGの方です。あちらは野球のファイターズ、こちらはフットボールのファイターズ。ファイターズと名乗ったのは、KGの方が少しだけ先輩であります。念のため)が目指している方向と同じじゃないか。いや、寮こそないが、ファイターズの方がはるか前から考えるフットボールを徹底し、知恵をしぼり、脳髄をからっぽにするまで考え抜いて強敵に挑んできたぞ、と思わず口にした。
 その考える力、表現する能力はどこから生まれるか。それは読書と思索。そして文章を綴ること。それを日課にし、誰かに見てもらい、褒めてもらうこと。これを生活習慣として取り入れることができれば、必ず人は成長する。例外はない。それは新聞記者として50年、その傍ら18年、大学や高校で文章表現の授業を担当してきた僕自身の体験を通して、自信を持って言い切れる。
 もちろん、ファイターズの諸君は大学生だから、日々の授業を通しても考える力、表現する力は手に入るだろう。しかし、なんと言っても手っ取り早いのは読書と日記。それを習慣にすることができれば、人は必ず成長する。精神的にもタフになり、相手の立場に立って考えることのできる懐の深さも身についてくる。
 フットボールは野球以上に考えるスポーツであり、野球以上にプレーヤー全員の協力が求められる競技である。一つ一つのプレーが審判の笛で区切られ、そのたびに考える時間が与えられる。野球と違って、選手の交代が自由だから、ベンチの監督やコーチとの意思疎通のよさも野球の比ではない。
 事前に相手のビデオを見て長所と弱点を探り、警戒するプレーヤーの動きを丸裸にすることも可能である。分析スタッフはその作業に全力を挙げ、その成果を丁寧なミーティングを通してチーム全体で共有する。あるいは毎年のようにコーチがアメリカに出掛け、チームに適した戦術を取り入れたり、シーズンオフのトレーニングを工夫したりするのも、考えるフットボールの一つの側面である。
 そういう工夫をファイターズは、ずっと続けている。高校を卒業してからの4年間を選手としての育成と同時に、人間としての力を鍛える場と位置づけ、「どんな男になんねん」と選手に問い続けているのである。
 そうした場所で自分の考えを仲間に分かりやすく伝える能力、あるいはそれを的確に聞き取る能力が磨かれる。それをもう一歩高めるのが読書と思索、文章表現である。僕はそれを理屈ではなく、新聞記者50年、文章表現指導18年の体験から確信している。
 ファイターズの監督やコーチが、授業に出席し、所定の単位を取得することを試合に出るための条件としているのも、こうした考え方の延長線上にあるのだろう。
 さて、今週末は京大との戦いだ。相手は毎年、考えに考え抜いたプレーを仕掛けてくる。過去の例から考えると、そのすべてを想定して対応するのは至難の業である。
 しかし、考えるフットボールには考えるフットボールで対抗すればよい。ファイターズ贔屓の立場からいえば、ファイターズの諸君には考える力にプラスした何かがある。それは仲間への信頼であり、仲間を奮い立たせる力である。普段から続けている「考える練習」を付け加えてもよい。
 そういう諸々をすべて結集して戦いに臨んでほしい。今は一戦必勝、これまでに蓄えた力のすべてを発揮する時である。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:37| Comment(0) | in 2016 season

2016年10月25日

(24)4年生の覚悟

 関大戦の後、古い友人から「関大戦は4年生の覚悟が伝わるいい試合。お見それしました」という短いメールが届いた。彼は僕が朝日新聞で大阪府警担当をしていた頃、互いに抜いた抜かれたと張り合ってきたライバル社のエース記者。もう35年以上の付き合いになるが「ファイターズ命」という共通の趣味もあって、電話するたびに話が弾む。
 メールが届いた後、目の前の仕事をほったらかして、しばしファイターズ談義を繰り広げた。
 確かに4年生だけでなくグラウンドに出ている選手全員の覚悟が伝わってくる試合だった。とりわけ、双方がガチンコで対決した立ち上がりの攻防は、見応え十分。まずはその部分を振り返って見よう。
 コイントスに勝った関大が後半のレシーブを選択して試合開始。関大のキックは自陣深く蹴り込まれ、ファイターズは自陣12ヤードの苦しい位置からの攻撃となった。
 まずはRB野々垣と橋本にボールを持たせて6ヤード。しかし、第3ダウン4ヤードという微妙な距離が残っている。さてどうするか、という場面でQB伊豆が魂の中央突破で8ヤードを稼ぎ、ダウン更新。ようやくパスができる位置まで陣地を進める。
 ここでWR池永がジェットモーションからボールを受けて3ヤード。相手守備に的を絞らせないまま、今度は伊豆からWR亀山への長いパス。第一ターゲットではなかったというが、忠実に自分のコースを走り切った亀山が確実にキャッチし、そのままゴールまで駆け込んで71ヤードのTD。西岡のキックも決まって7−0。
 自ら走って投げた伊豆も、最初に陣地を回復した野々垣、橋本、池永、冷静にキックを決めた西岡も4年生。TDパスをキャッチした亀山こそ3年生だが、自陣ゴール前でしっかり伊豆を守ったOLの主力も4年生。確かに4年生の覚悟が伝わる立ち上がりだった。
 代わって関大の最初の攻撃は相手陣33ヤードから。関西リーグのリーディングラッシャー、地村主将を中心に、中央のランプレーで攻めてきたが、ここはファイターズディフェンス陣の守りが堅く、3&アウトで攻守交代。しかし、相手のパントはファイターズ陣の奥深くまで蹴り込まれ、ファイターズは再び自陣14ヤードからの攻撃を強いられる。野々垣、橋本のランで5ヤードを回復したが、結局はパントに追い込まれる。しかし、ここで思わぬ出来事。ファイターズにスナップミスが出てセーフティーとなり、関大に2点を献上してしまう。
 せっかくのTDで挙げた7点差が5点差。おまけに続く関大の攻撃はハーフライン付近から。まずは相手のエースRBが中央を突破して12ヤード。一気に追い上げられそうな気配だったが、ここでDB小椋が起死回生のインターセプト。15ヤードほどリターンして攻撃権を奪い返す。
 そこから亀山へのパス、RB加藤や橋本、山本らのランで陣地を進め、ゴール前4ヤードまで前進。しかし、そこからが進まない。4度続けて中央のランプレーをコールしたが、ことごとく跳ね返されて攻守交代。このあたり、相手守備陣も強力。試合前に鳥内監督が「ゴール前までは進めても、そこからが難しい」と警戒されていた通りの展開である。
 ファイターズベンチにとって嫌な感じが漂う中、LB山岸を中心に守備陣が踏ん張る。何とか相手の攻撃をパントに追いやり、再びハーフライン付近からファイターズの攻撃。再び活路を開いたのが伊豆から亀山への30ヤードのパス。一気にゴール前20ヤード付近まで進む。ここで加藤がドロープレーで中央を抜け出し、一気にTD。2Q終了間際にも西岡が36ヤードのフィールドゴールを決め、前半を16−2で折り返した。
 後半は、相手が戦意を失ったのか、守りが淡泊になる。そこをついて伊豆のキーププレーでTD。4Qになると野々垣のラン、WR水野の29ヤードランでTDを重ね、終わって見れば37−2。相手を完封した守備陣と、パスとランを効果的に使って相手守備陣を翻弄した攻撃陣。双方のリズムが今季初めてかみ合って、何とか大きな山場を乗り切った。
 このように試合を振り返ってみると、名前の挙がった多くは4年生。ほかにも守りの中心になったDL松本、安田、DB岡本らも4年生。夏の合宿中にけがをして、しばらく戦列を離れていたDB小池も復帰してきた。攻撃陣でも、ラインの松井、高橋、藏野、清村らがはつらつとした動きを見せた。もちろん3年生も負けてはいない。相手守備陣の激しいタックルにも負けず確実にボールをキャッチした亀山や前田、OLを奮起させた井若。守備陣でもDL藤木、急きょLBとして出場した柴田、立ち上がりのピンチに見事なインターセプトを決めた小椋らが気迫のこもったプレーを見せてくれた。
 こうした総和が「覚悟の見えた試合」ということだろう。攻守ともに4年生が活躍し、チームが初めて結束できた試合といってもいい。
 しかし、シーズンはここからが本番である。関大に勝ったからといって優勝が決まったわけではない。困難な戦いの初戦に負けなかったというだけである。これからの京大、立命館との対戦を考えると、まだまだ詰めていかなければならない点が多い。それは試合後、少しばかり話を聞く機会のあった主将の山岸君も、主務でありキッキングチームの要でもある石井君も口を揃えていた。
 前半の苦しいせめぎ合いをしのいだことを自信とし、至らなかった点を克服して次なる試合につなげてもらいたい。目的を持った鍛錬こそが栄冠につながる道である。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:01| Comment(1) | in 2016 season