2018年06月30日

(10)ファイターズの流儀

 金曜日には僕の担当している授業がある。担当は2時限(11時10分開始)と3時限(13時30分開始)の2クラスだが、たまたまほかの用事もあって、朝の9時に大学に着いた。
 速攻で用事を済ませ、G号館(その昔、硬式野球のグラウンドのあった場所にできた比較的新しい建物。国際学部や人間福祉学部がある)1階のスターバックスに向かう。
 ホットコーヒーを購入し、空いた座席に座ると、前の席に大柄な学生がノートに向かって何事かを書き連ねている後ろ姿が見える。「朝早くから勉強か。まじめな学生だな」と思って、コーヒーに口を付ける。僕も文庫本を取り出して読み始めようとしたとき、その学生が立ち上がる。思わず顔が合う。4年生のスナッパー、鈴木邦友君である。
 「おはよう。朝早くから頑張ってるね」と声を掛ける。「ええ、いまから大村コーチとミーティングです。そのための準備をしていました」と明るい声が返って来る。そうか、先ほど熱心になにやらノートに書き込んでいたのは、そのための準備だったのか。そう思った途端に、先週のコラム「けが人先生」を編集者として最初に読んでもらった小野ディレクターから聞いた話を思い出し、しばらく立ち話をする。
 「これは小野さんから教えてもらったことだけど、4年生になって下級生を指導する立場になると、教える側のプレー理解が一気に進むそうだ」「自分が体感、体得したものを言葉に表すために論理化する。その作業によって教える側の頭が整理される。つまり、下級生に教えることは、同時に自分の学習効果を高めることにつながる」
 「だからいま、キッキングチームのアイデアをノートに書き込んでいることが、そのまま自分の成長にもつながるということ。頑張ってな」
 そんな言葉を掛けた。
 聞けば、彼は希望していた総合商社への就職も決まり、卒業単位の心配もない。後はフットボールに専念するだけという。その具体的な行動の一つとして、早朝から、コーチとのミーティングの準備をしていたのだ。
 彼だけではない。ファイターズではこういう4年生が各パートでそれぞれ、自分たちがいま成さねばならないことに集中して取り組んでいる。どうしても勝ちたい。日本1のチームをつくりたい。そのためにプレーヤーとして自身を成長させると同時に、下級生たちにどのように働きかけ、チームとして実現させていくのか。そういうことを4年生全員が選手もスタッフも関係なく、寝る間も惜しんで考え続けている。
 自分たちで考えるだけでない。具体的なアイデアを持ってコーチに説明し、それを実現させるための助言を受ける。その具体例を目の当たりに見て、思わず、鳥内監督がつねづね口にされている「君らが勝ちたい、いうから、僕らが手伝ってんねん」という言葉を思い出した。
 ファイターズとはこういうチームである。監督やコーチが無理やり部員を鋳型に押し込むのではない。上級生が力で下級生を押さえ込むのでもない。いまも日本のスポーツ界に根を張る古い因習とは全く無縁のチームとしての誇りを日々の実践を通して力に替える組織である。
 戦後の草創・発展期に10年間監督を務められた米田満先生から、ことあるごとに聞いた言葉を思い出す。
 「関学のアメリカンといえば、戦後、軍隊から戻ってチームを再興し、1947年、48年と2年連続して主将を務めた松本庄逸さんの影響が大きい。グラウンドに立てばポツダム中尉の威厳があって、恐ろしく怖い存在だったが、ふだんはみんな兄弟や、仲良くやろうと言い続けた。その言葉、その精神がいまも連綿とチームに受け継がれている」。こういう言葉である。
 上級生が良き先輩として、下級生を丁寧に指導する。それによって自らの学習効果を高め、フットボールについての理解を深める。上級生、下級生の双方が響き合ってチームとしての力を高め、そこに指導者が養分となる助言を惜しみなく注ぎ込む。日々、そうした営みを続けて目標の高い山に登っていく。
 そういうファイターズの流儀、内部教育システムの一端を朝早く、すっきりした頭でプレーのアイデアをノートに書き込む鈴木君の姿に見て、どうしてもこのコラムで紹介したくなった。
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2018年06月23日

(9)けが人先生

 最近、ファイターズの練習を見ていると、すごく興味深いことがある。ポジションごとにけがをして回復途上にある4年生が実質的なコーチを務め、下級生を丁寧に指導していることである。
 オフェンスではWRの松井君や小田君、RBの富永君。ディフェンスではDLの三笠君や齋藤君、DBの横澤君。QBの光藤君やRBの山口君も短い間だったが、けがからの回復期には、ずっと下級生に付き添い、現場の選手ならではのアドバイスを具体的な足の運びや腕の振り方を例示しながら教えていた。
 上級生が下級生を指導するのは当たり前、と思われるかも知れない。実際、僕もずっとそう思っていた。だから、日々グラウンドで繰り広げられるそういう光景をみても、当然のことと、特段、気にも留めなかった。
 けれども、今年の4年生はひと味違う。一言で言えば「教え方の本気度」が違うのである。まるでコーチのように、足の運び方から腕の使い方、相手の間合いの取り方をチェックし、自ら見本を見せて教えている。もちろん、けがをしているから体は思い通りにいかないが、なぜそのような動きが必要なのか、そのような動きをすることでどういう効果があるのか、そういうことを具体的な動作を繰り返しながら懇切丁寧に教える。それができたときには、即座に「そうそう」「ええやん」と声を掛けて励ます。
 言葉や身振りで教えるだけではない。けがから復帰した選手たちは、今度は自らが先頭に立って模範的なプレーを見せる。例えばWRなら小田君や長谷川君が下級生に教えていた通りのコースを走り、教えていた通りのテクニックで守備の選手を振り切ってパスを捕る。そのプレーをひけらかすのではなく「これが見本だよ」とでもいうように下級生にお手本を示す。
 それを見ている下級生は、自分たちが絶対に捕れないようなパスを先輩たちはどうしてこともなげに捕球できるのだろうかと感嘆し、首をかしげる。同時に「あれができてこそ試合に出してもらえる。その水準に自分を高めなければ」と新たな練習に励む。そういう循環が攻守を問わず、今シーズンはグラウンドのあちこちで繰り広げられているのである。
 「学ぶは真似ぶ」という言葉がある。幼い子はお兄ちゃんやお姉ちゃん、両親や身の回りの子どもたちの仕草を真似ることから言葉を身に付け、走ったり遊んだりできるようになる。幼児が大学生になり、教育とか指導とか、難しい言葉を使うようになっても、「学ぶ」の本質は「真似ぶ」にある。人は良きお手本を真似し、それを自分のものにしていくことによって成長する。
 昨日まで手の届かなかったボールに手が届く、手が届いても捕れなかったボールが今日は捕れた。そういう確かな手応えを得るたびに人は成長する。その手応えが「明日も頑張ろう」という元気の源になる。こういう循環がいま、4年生の「けが人先生」たちの献身的な指導を通じて、下級生に浸透しつつあるのだ。
 こうした指導は毎年、このチームの4年生が繰り返してきたことだが、今年は例年以上に「けが人先生」に存在感がある。よくいえば、中心になって指導している松井君らの教え方が特別にうまいからかもしれない。逆に言えば、レギュラークラスと控え選手との間に大きな落差があるということかもしれない。昨年1年間、体作りに専念してきた2年生や今年入部したばかりの有望な選手が先輩の指導は何でも学ぼう、身に付けてやろうという強い意欲を持っているからかもしれない。
 明確にいえるのは、こうした上級生と下級生の関係がこのチームを支えているということだ。ファイターズには有能な専任コーチもいるし、大学職員の任務を全うしながら部員を指導してくれるコーチもいる。組織運営を担ってくれる職員にも恵まれている。それでも、肝心の選手間の風通しが悪くては、思うようなチーム作りにはつながらない。それだけ「けが人先生」の果たす役割が大きいということだ。
 世間では、体育会的という言葉が、上級生が下級生を奴隷のように扱い、時には暴力的な指導に走る集団という意味で使われることが少なくない。僕は以前、日本高校野球連盟の理事をしていたが、連盟に報告されてくる高校野球界の暴力事件、とりわけ指導者による暴力件数の多さには驚かされた。全国に根を張る巨大組織だから報告件数も多くなるというだけではなく、根底に暴力的な指導に寛容な土壌があるとしか思えない状況だった。
 いま、世間の目はスポーツ界における暴力的な指導に厳しくなっている。だからこそ、いま上ヶ原のグラウンドでファイターズの「けが人先生」たちが繰り広げている指導の在り方が輝いて見える。夏を越え、秋になってその成果が実を結ぶことを大いに期待している。
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2018年06月06日

(8)収穫いっぱいJV戦

 3日はJV戦。会場は第3フィールド。追手門学院との試合だった。天気は晴れ、試合開始時刻は午後4時。6月の日差しは強かったが、ときおり遠く甲子園浜の方向から吹いてくる風が心地よい。見上げる甲山も麓の山も新緑が盛り上がってキラキラと輝いている。絶好のフットボール日和であり、観戦日和である。
 今季初めてのJV戦とあって、この日は今春入部したばかりのフレッシュマン19人も登録された。オフェンスではRB鳩谷(箕面自由)、前田公(高等部)、斎藤(江戸川学園取手)、安西(関西大倉)、QB平尾(啓明学院)、WR鏡味(同志社国際)、戸田、和泉(ともに高等部)、東尾(三田祥雲館)、OL牧野(啓明学院)、朝枝(清教学園)、福田(豊中)。ディフェンスではDB竹原(追手門学院)、北川(佼成学園)、LB赤倉(同)、久門(高等部)、DL小林(千里国際)、原田(啓明学院)、青木(追手門学院)。
 彼らはみな、入学後、懸命に筋力を鍛え、体力の数値をクリアしたメンバーばかりだ。昨年の夏休み、小論文の勉強会をともにして顔なじみになっている選手もいるし、高等部や啓明学院、千里国際から進学してきた選手もいる。U19の日本代表に選ばれた選手もいるし、僕が注目している「赤坂ダッシュ」で、いつも集団の先頭を切って走っていた選手たちが期待通りの活躍をしてくれるかどうかも見所だ。
 さすがに先発メンバーに名を連ねた選手はいなかったが、試合前、監督に聞くと「それぞれ何プレーかは出るでしょう」とのこと。大いに期待してキックオフを待ち続けた。
 もう一つ、注目したのは先発QB光藤。今季はけがで出遅れ、練習もほとんどできない状態が続いていた。ぶっつけ本番の出番でどれだけ動けるか、パスのターゲットとなる下級生レシーバー陣との呼吸が合うかどうか。考えるだけでもどきどきしてきた。
 ファイターズのレシーブで攻撃開始。自陣25ヤード付近から始まった最初のプレーは光藤のキープ。鮮やかなステップで簡単にダウンを更新し、チームを落ち着かせる。次のプレーはWR鈴木へのミドルパス。捕った鈴木が見事な走りで一気にゴール前13ヤードまで前進。その好機にRB渡邊が簡単に走り込んでTD。それぞれ昨季から試合経験のあるメンバーとはいえ、わずか開始3プレーでTDに持ち込んだのは、お見事、というしかない。
 自陣22ヤードから始まったファイターズ2度目の攻撃では、期待の新人が登場する。最初はRB斎藤がランで5ヤード、続いて光藤からWR戸田へのパスで19ヤード。しかし、ここは反則などで攻撃が続かず、攻守交代。
 守備陣が相手を完封して迎えた3度目の攻撃シリーズ。今度は光藤が見せる。ラン攻撃と見せかけて自らボールをキープ、巧みにブロッカーを使って右、左と身をかわしながら一気に66ヤードを走り切ってTDを決めた。さすが主将である。けがで練習出来ない日が続いても、腐らずに仲間を鼓舞し続け、QBの練習台を続けてきた努力が生きた。まだまだ試合の感覚は戻っていないかも知れないが、秋のシーズンには十分間に合うことは確認できた。それだけでも大変な収穫である。
 収穫といえば、期待の1年生も素晴らしかった。RB陣は出場した鳩谷、斎藤、前田、安西がそれぞれ1本ずつTDを決めたし、WRの戸田や鏡味も上級生に遜色のないパスキャッチを披露した。ラインではセンターを務めた朝枝が元気いっぱい。1プレーごとに大声で気合いを入れ、1年生とは思えないようなリーダーシップを発揮していた。QB平尾を含め、彼らが夏の合宿を乗り越えれば、秋の公式戦でも出場機会がありそうだと期待が高まる。
 守備陣ではDLの青木。189センチ、123キロという大きな体だが動きは素早い。目の前のラインを簡単にはねのけ、即座にボールキャリアに向かうスピードと身のこなしは一級品だ。長時間の出場機会を与えられたDB北川やLB赤倉らとともに、秋の公式戦でも出場機会が増えそうだ。期待が持てる。
 以上のようなフレッシュマンの活躍ぶりを見ているとワクワクする。この1カ月間のもやもや、重苦しい空気が浜風に乗って吹き飛ばされた気がする。
 こんなJV戦は23日にも予定されている。相手は金沢大学。この日活躍した選手がさらに成長しているか、新たにどんな選手がデビューするか。けがとか経験不足で出遅れていた上級生たちがどんなプレーを見せてくれるか。見所はいっぱいある。指折り数えて待つことにしよう。勝敗に関係なく、ひたすら期待の選手に注目して観戦できるJV戦は、本当に楽しい。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:09| Comment(2) | in 2018 Season

2018年05月30日

(7)感動。そしてそれから。

 26日午後5時半、ファイターズが学内で開いた記者会見が終了した後、僕はしばらく放心状態になっていた。会場を後にして時計台の前に立ち、ぼんやりと中央芝生を眺めていたが、頭が全く働かない。ある種の酩酊状態とでもいうのだろうか。それとも、さきほどまでの会見における感動の余韻が尾を引き、次の行動を起こす気にならなかったのか。そのまま家に帰るのももったいないような気分になった。
 芝生に座ったまま、ぼんやりと2時間半に及ぶ記者会見の様子を回顧していた。思いは5月6日の日大との定期戦で今回の問題が発生して以降のファイターズの取り組みに移っていく。
 10日の記者会見でファイターズが撮ったビデオを見せられたときの衝撃がよみがえる。「こんなプレーはあり得ない。一体何が起きたのか」「これは確信犯。当の選手は、なぜ、こんなプレーをしなければならなかったのか」「誰が指示したのか」。疑問が次々と浮かんできたことを思い出す。
 続いて17日の会見。関学会館に100人以上の記者が詰めかけ、20台前後のテレビカメラが並んだ。その席で、疑問点を整理し、理路整然と相手チームに真相の究明を求める小野ディレクターの姿を思い返し、鳥内監督の短いがポイントを突いた発言を振り返る。双方の役割を明確に分担し、新聞やテレビの影響力の大きさを十分に理解したうえで説明される二人の姿に接して「危機管理はかくあるべし」と感動しながら聞いたことが昨日のように思い浮かぶ。
 26日。キャンパス内の大教室で開かれた3度目の記者会見には、事態の広がりを証明するかのように、前回をはるかに上回る報道陣とカメラが詰めかけた。質問者が次々に立ち、被害者のお父さんからの説明もあったことから、会見は2時間半近くに及んだ。それでも会見は終始、冷静に進められた。冒頭、これまでの経過と、2度に及ぶファイターズから日大への質問状とそれに対する相手からの回答を基に、それでも残る疑問点や矛盾点を10箇条にわたって列挙し、その上でまとめたファイターズの見解を資料として記者全員に配付。その資料に沿って小野ディレクターが概要を説明したうえで「現段階では日大(部)の見解には強い疑念を抱かざるを得ず、これ以上の問答は平行線をたどる可能性が高いと考えます」と言い切った。その瞬間、僕は涙が出るほど感動した。
 この結論を導き出すまでにチームが費やした時間、監督やコーチとも十分に打ち合わせたうえで一つ一つの文言を精査してきたディレクターとそれを支える3人のディレクター補佐の協力、学内の意思統一に費やされたであろう多大な労力。そうしたことを想像するだけでも頭が下がる。
 一方で、アメリカに留学中の部長、池埜教授とは、何度もメールを交わし、負傷した選手とチームに対する精神的なケアについて、専門家としての立場から貴重な助言をいただいたとも聞いている。
 さらには、会場で配布された資料からは、チームのOBでもある二人の弁護士(寺川拓氏と三村茂太氏)から被害者とその家族、さらにはチームの対応に対する適切な助言があり、法律の専門家ならでは協力があったこともうかがえる。
 このようにファイターズの総力を結集して取り組んだ成果がこの日の記者会見である。延々と続く記者の質問から一切逃げることなく、的確な回答をされる鳥内監督と小野さんの言葉と堂々とした姿勢に、表現する言葉が見つからないほどの感銘を受けた。
 これがファイターズの底力だ、こうした素晴らしい危機管理ができるチームの端っこに、僕も連なっている。そう思っただけで、涙が出てきた。
 チームの底力という点からいえば、OBたちのチームを思う熱い気持ちにも触れなくてはならない。
 今でこそ、今回の問題が広く話題になり、連日のように新聞やテレビ、週刊誌が大々的に取り上げているが、チームが1回目の記者会見を開いた10日の時点では、そこまでの広がりはなかった。中には、どうしてそんなことを聞くのかと首をかしげたくなるような質問さえあった。
 そういう状況に変化を持ち込んだのが、アメフットに詳しい各紙の専門記者であり、専門誌の記者である。アメフット界の現状に警鐘を乱打し、未来に向けての提言を懸命に記事にしてくれた。朝日新聞でいえば、問題のタックルの場面を連続写真で紹介し、相手側ベンチがボールの行方ではなく、当該のタックルに目をやっている「不自然な視線」に読者の注目を呼び込んだ榊原一生記者。日大の内田監督の伊丹空港での会見で、ポイントを突いた質問を投げかけ、矛盾に満ちた回答を引き出して、問題のありかを明白にした大西史恭記者。そして、ファイターズのOBでもある二人の先輩である篠原大輔記者。彼は京大のアメフット部出身だが、あの試合で退場になった後、テントの中に入って泣いている相手守備選手の写真を撮り、そのシーンを中心にコラムを書いて、問題のありかを明確にしてくれた。
 公正中立であるべき記者の立場を考えれば、彼らがフットボール選手であった経歴は、プラスになると同時に制約も多かったと想像する。けれどもフットボールを愛し、その未来を危ぶむ気持ちから、思い切って問題の核心をえぐり出してくれた記者魂に頭が下がる。それは上記の3人に限らず、フットボールを愛する専門記者すべてに共通する思いであったろう。
 こうしたことの総和ともいえるのが26日の記者会見。監督、コーチからスタッフ、部長に至るまで、大人の叡智のすべてを結集して問題の所在を明らかにし、主張すべきは主張し、守るべきは守ってきたファイターズの総合力を存分に見せつけられて、僕はしばし、キャンパスから去り難かったのである。
posted by コラム「スタンドから」 at 15:10| Comment(1) | in 2018 Season

2018年05月26日

(6)3度目の記者会見

 日本大学との定期戦で起きた相手選手による反則行為に関して、ファイターズは26日午後、学内で記者会見を開いた。10日、17日に続く3度目の会見である。僕も前2回に引き続いて出席し、しっかりとチームの主張を聞かせていただいた。
 これまでの2回については、チームが自制に自制を重ね、慎重に言葉を選びながら進めておられることもあり、僕がホームページにうかつなことを書いて迷惑を及ぼしては申し訳ないという気持ちから、この件に関してはあえて触れないようにしてきた。
 しかし、3度目となる今回の会見では「現段階では日大(部)の見解には強い疑念を抱かざるを得ず、これ以上の問答は平行線をたどる可能性が高いと考えます」として、今後の方針を明確にされた。
 具体的には@日大(部)との試合については、選手の安心・安全を担保することができないと判断し、定期戦は十分な信頼関係を取り戻すまで中止としますA学校法人日本大学による第三者委員会、関東学生アメリカンフットボール連盟による客観的な真相究明を強く要望します。真相究明にあたっては全面的に協力いたしますB最終的には捜査機関の捜査によって真相が究明されることを強く希望いたします。捜査には全面的に協力いたしますC被害を受けた選手及びそのご家族の支援を継続していきますD日大の当該選手およびそのご家族に対しても可能な限り支援の可能性を模索していきます……という5項目の宣言である。
 ここまで言い切るまでに、チームとして相当深い考えを巡らされたことは想像に難くない。もちろん、あの3度の反則場面を記録した録画を何度も何度もチェックし、相手監督やコーチの記者会見などでの発言と、ファイターズからの2度にわたる書面での申し入れに対する相手チームの回答との食い違いも解明されたはずだ。反則行為に手を染めた選手から直接聞いた謝罪の言葉と、そのときの真摯な姿勢も、チームの心証を形成する上で大きな役割を果たしたに違いない。弁護士の同席があったとはいえ、彼が独力で行った記者会見での発言も同様である。あの確信を持った発言と、次の日に相手チームの監督やコーチが口にされた言葉のどちらが信用できるのか。ファイターズの担当者でなくても、テレビを見ていたすべての人が直ちに正解を出したは
ずだ。
 そうした諸々のことを縦、横、斜めからチェックし、「これ以上の問答は平行線をたどる可能性が高い」との結論を導き出したうえで決定された5項目の方針である。その方針に、僕は全面的に賛同する。
 一連の問題がメディアで広く報じられて以降、遠く離れた友人たちから次々と連絡があった。それもメールではなく、携帯電話である。直接、僕と話したかったのだろう。チームや被害を受けた選手を激励してもらいたいという人がいれば、記者会見の進行を中心にチームの対応の素晴らしさを称賛する人もいた。相手チームの無責任な対応ぶりについて、ぜひ一言述べたい、といって内部情報を提供してくれた人もいた。
 朝日新聞社の元同僚は「関学の主張には裏付けがあることを私たちも確認した。記者会見を開いて、冷静に問題点を指摘し、相手に明確な回答を求める姿勢も素晴らしい」とファイターズの対応を褒めてくれた。
 「問題の場面を写し出したビデオがすべてを物語っている。どんなに言葉で言いつくろっても、このビデオがある限り言い訳にもならない。もはやビデオがなかった時代の感覚では通用しないんです」と口を開き、自身がこれまでに見聞した「暴力によって人を支配しようとする指導者」を批判し続けた人もいる。
 もちろん、今回の問題を深刻に捉えている人も多かった。「このままではアメフットの未来が危うい」「ここはファイターズだけでなく、アメフット界のリーダーたちが問題を直視し、リーダーに課せられた責任を果たすべきときだ」といった話を、延々と述べてくれた友人もいる。
 同感である。ことは日大と関学の争いにとどまらず、日本におけるアメフットの未来に関係するのである。
 そのためにはファイターズが3度の記者会見で強調している通り、真相を究明することが欠かせない。真相の究明こそが、アメフット再生への最初の一歩になる。
 そのうえでいま、注目しているのは大学アメリカンフットボール界の動きである。今回の問題をきっかけに東大や法政、立教など今後日大との試合を企画していた6校すべてが「安全が担保されていないこと」などを理由に対戦を辞退した。
 日大と同じリーグに加盟している15大学は、連盟に第三者委員会を設立して、ことの真相を究明するよう求めている。
 スポーツ庁の長官も動き始めた。日本アメリカンフットボール協会の会長と日本社会人アメリカンフットボール連盟の理事長も18日、相次いで声明を発表し「今回の問題は、絶対に許されるべきものではなく、極めて重く受け止めています」「このような事象が繰り返されないよう真相究明を断固要請していくとともに、アメリカンフットボール界への信頼回復に努めてまいります」などと述べている。
 この機運を生かしたい。いや、生かさなければならない。アメフットの未来を切り開くためには、大学アメフット界が自ら立ち上がり、課外活動、課外教育としてのフットボールの普及、発展のために、組織の在り方から審判の技術向上まで、さまざまな分野に潜んでいるであろう問題点をあぶり出さなければならない。
 問題点を直視し、改善・改革していくことによって、初めてアメフットの未来が担保される。僕はそれを信じている。
posted by コラム「スタンドから」 at 23:55| Comment(1) | in 2018 Season

2018年05月20日

(5)渦中から離れて

 今朝は5時半に起床。顔を洗ってすぐにこのコラムを書き始めた。テーマはもちろん、あの反則タックルから始まる日本大学の指導者の対応を巡る問題である。
 書きたいことはいっぱいある。情報もあちこちから寄せられている。チームに迷惑がかかるかもしれないが、とにかく書いてみようと、2000字近い文章を一気に書き上げた。
 いったんコーヒーを飲み、もう一度読み返した上で、いつも掲載前にコラムをチェックしてもらっている小野ディレクターと石割ディレクター補佐に送信。さて、微妙な問題だから、お二人からどんな反応があるかと注目していたら、間もなく小野ディレクターからメールが届いた。「いまは非常にセンシティブな状況なので、このコラムは預からせて下さい。別のテーマで書いていただけると助かります」という内容だった。ある意味では予想通りの反応である。チームを運営する責任者としては、当然の対応と言ってもよい。
 当方も、潔く、この申し出に同意し、このホームページでの掲載を見送ることにした。
 もちろん、自分が気合いを入れて書いた文章である。それなりに愛着はある。けれども、書くことによって、今回の件に対する自分の考えの整理はできた。それを少なくともお二人には目を通していただいた。それだけで満足という気持ちも強い。その満足感の中から、新たなテーマで、別のコラムを書いてみようという意欲も湧いてきた。
 そんな次第で書いたのが以下の文章である。タイトルは「赤坂ダッシュ」。読者のみなさまの気分転換の一助になれば幸いである。
     ◇    ◇
 ファイターズは今季も50人近い新入部員を迎えた。スポーツ選抜入試や指定校推薦で大学の門をくぐったメンバーがいれば、高等部や啓明学院のアメフット部で活躍したメンバーもいる。アメフット経験者だけでなく、野球やバスケットなど他競技の経験者も多い。そんなメンバーが左腕の上部に自身の名前を書いた腕章を巻いて、4月の初めから基礎体力づくりに励んでいる。
 顔を知っているのは昨年の夏、推薦入試に備えて一緒に小論文を勉強したメンバーだけだが、彼らの状態はそれぞれに異なる。推薦入試を突破し、昨秋から体力づくりに励んだメンバーは筋肉質な体型を造り上げているし、ある種の開放感から高校生活をエンジョイしてきたメンバーは何となくだぶついた体型になっている。
 体型だけではない。新入部員合同の練習の後、いくつかの班に分かれてグラウンドと周辺の坂道を全力で走る時の様子でも、彼らがこの半年間、どんな生活をしてきたかの想像はつく。ある部員は颯爽と先頭を走り、別の部員は必ず途中で遅れ始める。ラインの選手の多くは自分の大きな体を持て余し、いつも最後部を走っている。
 コースはざっと600メートル。途中、行きと帰りに短い坂道があり、それが結構きつい。新入生は基本的に毎日これを3本、全力で走り、都合60本を走り終えると、とりあえず基礎的な体力が付いたとトレーナーに認めてもらえる。
 歴代の部員が「赤坂ダッシュ」と呼んで苦闘してきたこのダッシュを見ているのが楽しい。誰が将来、このチームを担っていくのかということが、その走る姿から、ある程度想像が付くからである。いつも先頭グループで気持ちよく走っている選手は、必ずプレーヤーとして頭角を現す。走るのが苦手でいつも最後尾の集団にいても、一歩でも前にという気持ちを前面に出して走るメンバーもまた、必ず成長し、気がつけばラインの主力選手になっている。
 このことは、卒業生も含めて、各学年で常に先頭グループを引っ張っていた選手の名前を挙げると分かりやすい。第三フィールドに移ってきた最初の年、スタート直後には必ず先頭に立っているが、50ヤードほど走ったところで必ずといってよいほど失速していた選手がいた。後にWRとして活躍した萬代晃平君である。ペース配分を考えれば600メートルくらいは余裕で走れたはずなのに、とにかく最初のダッシュに全力を挙げ、あとは失速しても仕方がないという割り切った走り方が印象に残っている。鳥内監督の次男坊、将希君は常に後続をぶっちぎっていたし、WRからDBに転向して活躍した田中雄大君のスピードも記憶に残っている。
 現役で言えばRBの山口君がいつも先頭で、それを追うのがWR小田君とQB西野君。それぞれがいま、4年生としてチームを引っ張っている。トレーナーの澤田君に聞くと、山口君はこの赤坂ダッシュの記録保持者だという。
 こうした努力で体力を養い、筋力を付けてきたフレッシュマンが連休明けから、続々と上級生の練習に合流している。いまはまだまだ大学生の練習に慣れない様子も見受けられるが、すでに「あれは誰?」「どこから来たん?」と上級生から注目されているメンバーもいる。
 大村コーチによると「今年の1年生はいい。期待できますよ」ということだった。僕もすでに、何人かの名前をチェックして手帳に記し、その練習振りを見守っている。
posted by コラム「スタンドから」 at 06:22| Comment(1) | in 2018 Season

2018年05月13日

(4)ファイターズの道

 今日、関西学院大学で開かれたファイターズの記者会見に出席。5月6日の日本大学との定期戦における「日大選手による反則行為」に関するファイターズの見解と主張をじっくりと聞かせていただいた。
 すでに新聞やテレビの報道、それにネット上の多様な書き込みによって、問題の発端となった日大選手の反則行為についてはご承知の読者も多いとは思いますが、あえて私見を述べさせていただきます。フットボールを愛し、ファイターズのチーム作りに全幅の信頼を置いている老人の繰り言になるかもしれませんが、おつきあいいただければ幸いです。
 まず、記者会見でファイターズから配布された資料の要旨を箇条書きで紹介します。
@当該の反則行為について、試合後にビデオ映像で確認したところ、関学のQBがボールを投げ終わって約2秒後に、相手DLが背後からタックルをしているA当の選手はボールには一切反応せず、QBだけをめがけて突進し、プレーが終わって力を抜いている状態の選手に全力で突き当たったうえ、倒れた選手の足をねじっているBこれはプレーとはまったく関係なく、当該選手を傷付けることだけを目的とした意図的で極めて危険、かつ悪質な行為であるCこのDLはその2プレー後、及び4プレー後にもそれぞれパーソナルファールの反則を犯し、3回目の反則で資格没収となったが、試合後の日大監督のコメントは、これらの反則行為を容認するとも受け取れる内容だったDファイターズは10日付けで日大アメリカンフットボール部の部長及び監督に対して厳重に抗議する文書を送ったEその内容は・日大DLの関学QBへの1回目のパーソナルファールに対するチームとしての見解を求めると同時に、関学QB及び保護者へのチームからの正式な謝罪を求める・日大の監督が試合後にメディアに対して出したコメントに対する見解とコメントの撤回及び前項の行為が発生したことについての指導者としての正式な謝罪を求める……といった内容です。
 これとは別にファイターズは、11日付けで関東学生連盟にも「連盟が規律委員会を設けて詳細を調査するとのことでありますが、その調査の過程で弊部へのヒアリングを強く要望します」という内容の要望書を提出したことも明らかにしています。
 文章にすれば、長々とした説明になりますが、以上の件の大半は、ファイターズが記者会見で提供したビデオ映像を見れば一目で理解できます。
 すでにSNSやネット上では、問題の場面が何度も再生されていますので、機会があれば見ていただきたいのですが、僕は今日の会見で記者のために繰り返し再生されたビデオを見て「これはアウト。ネットで『殺人タックル』という言葉が飛び交っている理由がよく分かる」と思いました。
 同時に、この記者会見が開かれる何日か前に書いた僕のコラムは、一字一句修正する必要がないとも確信しました。
 このコラムを書いているのは12日の夜ですが、実はこの週の半ばにこの問題に関して自分なりの考えをまとめ、デスクとして原稿をチェックしていただいている小野ディレクターに送信していました。しかし小野さんからは「この問題に関しては、チームとして見解をまとめ、対処しようとしているところです。土曜日に記者会見を開きますので、それまでは原稿を預からせて下さい」という話があり、僕もそれを了解して一端はボツにしていたのです。
 記者会見も終わり、チームとしての見解が正式に公表されましたので、ボツにしていた原稿の一部を再生させていただきます。概要は以下の通りです。
 ……そもそも大学における課外活動とはどういう意味を持っているのでしょうか。大学、高校などでは通常、課外活動という言葉を使っていますが、もう一歩進めて、課外教育と捉えた方がより分かり易く、目的も明確になるのではないでしょうか。
 多くの学生はいま、大学での学びと並行して部活動に熱中しています。オリンピックに出場するような選手もいれば、常に大学のトップを競うファイターズのようなチームもあります。一方で、部員が揃わずに苦労しているクラブもあります。一口に部活といっても、その内実は千差万別です。けれども、それぞれ状況は異なっても、一つの競技に打ち込み、自分を鍛え、高めようと取り組んでいる点においては、体育会に所属するすべての部員が共通の土俵に立っているといってもよいでしょう。
 その共通の土俵とは何か。スポーツを通じて身体を鍛え、強い心を育むこと、仲間との友情を育み、生涯の友を得ること、ライバルに敬意を表し、互いに最高の状態で戦うことといってもいいのではないでしょうか。
 そこからは、相手を傷つけてもよい、再起不能にしてもかまわない。どんな手段をつかってもよいから勝て、といったような発想が出てくるはずはありません。
 その意味で、いま問題になっている日大の選手のプレーは、当該選手の問題だけでなく、指導者の問題、組織の問題と合わせて総合的に捉えなければ真実は見えてこないのではないでしょうか。
 今回の問題で僕の脳裏に浮かんだのは、プリンストン大学の選手やコーチ、体育局の指導者のことでした。彼らは2015年春、ファイターズの招きで来日し、親善試合やシンポジウムを通じて爽やかな交流をしてくれました。試合では圧倒されましたが、彼らが見せてくれた課外教育やボランティア活動に取り組む姿、勉学と両立させながらの練習や試合への取り組みなどを思いおこすと、今回の事例との距離は天と地ほどの開きがあります。
 今回のことは、思い返すだけでも腹立たしいことです。けれども日本の大学の課外活動の現実と限界を見せつけてくれたという意味では、一つのエポックになるはずです。
 それを信じて、学生たちの心身の成長、発達を促すための組織づくりに突き進んでいきましょう。関西学院の課外教育のよきモデルとしての道を歩みましょう。大学当局にも、大学スポーツ界にも、必ず目の見える人はいるはずです。もちろんファンの目も確かでしょう。
 いまは「一粒の麦」かもしれませんが、今日の記者会見で蒔かれたこの麦が日本の学生スポーツ界の現状に風穴を開けることを信じて疑いません。合い言葉は「どんな人間になんねん」(by鳥内監督)です。
posted by コラム「スタンドから」 at 07:45| Comment(3) | in 2018 Season

2018年04月25日

(3)開幕戦

 21日は待ちに待った開幕戦。明治大学との対戦である。
 シーズンの初戦といえば、選手でもないのにやたらと緊張する。先発メンバーにはどんな顔ぶれが並ぶのか。実績のある選手が出場するのか、それとも今季に期待されるメンバーを思い切って登用するのか。僕が密かに期待しているメンバーは、先発は無理でも、交代メンバーとして出場機会がもらえるのか。そこで物怖じせずにプレーができるのか。
 これは毎年のことだが、前年のイヤーブックを繰りながら、それぞれの選手の顔を思い浮かべ、日ごろの練習振りの記憶をたどって、注目選手の名前を頭に刻んでおく。いくら仕事が忙しくても、これだけの作業をきちんと済ませておくと、応援が数倍楽しくなる。
 開幕戦を前に、今季、僕が注目していることの一端を箇条書きにしてみよう。
 @QBは誰が先発するのか。常識的には昨年から活躍している4年生の西野か光藤ということになるのだろうが、初戦前の練習では主として新2年生の奥野が務めていた。昨秋は1軍の練習台になるJVチームとして一軍の選手を翻弄していたQBである。その華麗なステップと正確なパスを見てきただけに、シーズンの初戦を任されて、練習時の力が発揮できるのか。第一に注目した。
 A同じく攻撃では、春からレシーバーの練習に入り、パスキャッチの練習に余念のなかったQBの西野やRB山口らが本当にレシーバーとして出場するのか。ひょっとしたら、秋のリーグ戦を見据えた練習かも知れないが、実際にWRとして起用される可能性がないともいえない。そこで練習通りに見事なキャッチができるかどうか。これも見逃せないポイントである。
 B昨年の先発メンバーから井若君と池田君が卒業したOLには、どんな顔ぶれが並ぶのか。とにかくけが人が出やすいポジションだけに、試合に出られるメンバーは多ければ多いほど助かる。昨年から先発しているメンバーに加えて、先日の紅白戦(青白戦)で元気なプレーを見せた3年生の藤田統や2年生の高木慶がどんな活躍をしてくれるか。ここも目が離せない。
 C守備では誰が先発するのか。DLもLBも再建色が強い。絶対的な守護神、小椋君が抜けたDBの穴を誰が埋めるのかも興味深い。裏返せば、昨年まで先発の座をつかめなかった4年生はもちろん、3年生や2年生にも下克上のチャンスがあるということだ。交代メンバーとして出場する選手を含めて、この試合はそれぞれの存在感をアピールする絶好の機会である。そのチャンスをつかむのは誰か。興味が深まる。
 Dこの試合前、今季初めて背番号をもらった2年生が6人いる。攻撃ではQB奥野、RB鈴木、RB三宅、WR大村。守備ではLBの海崎、繁治である。彼ら「第一種選抜」のメンバーがどれほどの活躍をするのか。そこもチェックしなければならない。
 Eそして最後は、昨年、未経験者としてファイターズに入部し、1年間体力づくりにいそしみ、フットボールというスポーツを理解することに専念してきたメンバーがどれほど成長したか。高校で野球やラグビー、バスケットボールをやっていた面々の中からどんな選手が頭角を現すか。第3フィールドの練習では、すっかりチームに溶け込んでいるだけに、いざ実戦という場面でその恵まれた資質を開花させるかどうか。個人的には、ここに一番注目した。
 さて試合である。ファイターズのレシーブで始まる。QBは予想通り奥野。驚いたのはWRにエースQBの西野が入っていること。レシーバーとしての練習にはしっかり取り組んでいたが、まさか先発で来るとは思わなかった。
 新しいメンバーが多いせいか、立ち上がりの攻撃は2シリーズとも不発。ダウンが更新できず、2度ともパントに追い込まれる。
 逆に、明治はこの試合に向けて十分に準備してきたのだろう。緩急を付けたラン攻撃でファイターズ守備を左右に揺さぶり、合間に的確なパスを通す。第2シリーズ目、自陣37ヤードから始まった攻撃をTDに結び付け、キックも決まって7−0。
 あれれ、やばいぞ。そういう空気を今度はファイターズが一瞬で変える。自陣36ヤードから始まった攻撃でRB山口が58ヤードを独走してTD。キックも決まって同点に追いつく。
 しかし、明治の士気は衰えない。ファイターズのパントをキャッチしたリターナーが素早い動きで関学陣22ヤードまでリターン。これをFGで仕上げて10−7。いとも簡単に主導権を奪い返す。逆に言えば、ファイターズが受け身を強いられているということだ。
 それでも次のシリーズ。RB渡邊の好リターンで陣地を挽回。奥野からWR山下へのパス、RB鈴木のランなどで陣地を進め、最後はK安藤が45ヤードのFGを決めて再び同点。
 試合は振り出しに戻ったが、ここで明治に手痛いミスがでる。パント体型からスナップされたボールがそのままゴールラインを割り、ファイターズにセーフティーの2点が加算された。さらに第2Q終了間際には、K安藤が再びFGを決め、15−10でファイターズがリードしたままハーフタイム。
 後半になると、コーチ陣から何らかの指示が出たのだろう。ファイターズ守備陣の動きが一気によくなる。LB藤田優の強烈なタックルやDB西原の素早いパスカバーで相手攻撃を完封。即座に攻撃権を取り返す。前半、手段を尽くして攻め込んでくる相手の動きに翻弄されていた守備陣とは思えないほどのかわりようである。
 攻撃陣もそれに呼応して再び安藤が47ヤードのFGを決めて点差を開く。試合終了間際には、奥野からRB山口に17ヤードのパスが決まってTD。普段の練習から山口や西野らランニングバック陣にパスキャッチの練習をさせていた成果が見事に現れた。
 以上のように書いていけば、試合会場に行けなかった読者は今季のファイターズも期待できるチームだと思われるに違いない。しかし、関西リーグの強敵や関東のライバルチームを見据えれば、そうした判断は早すぎる。まだまだ発展途上のチームだし、伸ばしていかなければならない点はいくつもある。そのあたりのことは次回以降に書くことにして、今日はQB奥野が十分に使えること、K安藤に安定感が出て、今季はキッキングチームにも期待が持てること、そしてQBやRBをレシーバーとしても使うという「大阪商人の知恵」が成功したことだけを強調しておきたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 10:11| Comment(0) | in 2018 Season

2018年04月17日

(2)新生

 一気に咲いた桜が一気に散り、気がつけばもう甲山は新緑で盛り上がっている。僕が大学に通う際に利用している楠通りの並木道に連なる巨木たちも一斉に緑の新芽を繁らせている。クスノキ、コナラ、エノキ……。それぞれ微妙に色合いの異なる新芽を眺めながら歩いていると、知らぬ間に関学会館が見えてくる。そこからは半世紀以上も前の学生時代に通い慣れた桜並木が正門前に続いている。
 春は花、初夏は新緑。秋は紅葉。冬枯れの道を落ち葉を踏んで歩くのも心が弾む。たまには気分を変えて正門に直結する学園花通りも歩いてみるが、ぶらぶら歩くには楠通りが一番だ。いまの季節、通りに面した民家の軒先にハナミズキが美しく咲いているのを見るのも楽しい。
 けれども、それ以上に心弾むのは、第3フィールドに着き、ファイターズの練習を見る時だ。昨年、チームの主力として活躍した4年生の姿は見えないが、代わって一気にたくましくなった4年生や3年生が練習を引っ張り、声を掛け合って気合いを入れている。「男子、三日会わざれば刮目して見よ」という言葉があるが、学年が一つ上がるだけで、心構えがこんなに変わってくるのかと目を見張ることもしばしばだ。
 今春、入部したばかりのフレッシュマンも、グラウンドの隅っこに固まり、全員が揃って体幹トレーニングに励み、基礎体力を養っている。恵まれた体躯を持った選手が多いし、体は小さくても期待の持てる動きをしているメンバーが何人もいる。そこに厳しい目を注ぐ監督の姿があるのも、例年通りである。
 この時期、彼らが一通りのメニューを終えた後、いくつかの集団に分かれてグラウンドとその周囲の坂道を何度も全力で走る。それを見るのもこの時期ならではの楽しみだ。スポーツ推薦でファイターズの門を叩いたメンバー以外は知らない顔ばかりだが、先頭集団で突っ走っている顔は自ずから目に付く。過去の例を振り返ると、この時期、先頭を切って走っているメンバーは、プレーヤーとして必ず成長する。
 もちろん、先頭がいれば最後尾に置いて行かれる選手もいる。けれども彼らも歯を食いしばってがんばっている。その姿を見れば、思わず「がんばれよ」と声を掛けたくなる。
 練習の風景は例年通り。メニューは「走りモノ」をいくつか取り入れ、何かと工夫されているが、それでも集散や展開のスピードは例年と同じ。だが、この季節の練習を見ていると、なぜか「新生」という言葉が浮かんでくる。昨年まで先発メンバーとして、あるいは主な交代メンバーとして活躍していた4年生が卒業。その穴を埋めるはずのフレッシュな面々が横1線になって、競争を繰り広げているからだ。昨年からも試合に出ていたメンバーはもちろん、けがで戦列を離れていた選手や他競技から転出してきた選手らが冬を越してどこまで回復し、フットボールに馴染んできたか。昨シーズンはほとんど出場機会がなかった新2年生で、今季、頭角を現してくるのは誰か。そんなことを予想する楽しみもある。
 そんな新生ファイターズの一端を垣間見ることができたのが、先日の日曜日に第3フィールドで開かれた紅白戦だ。ほんの1時間少々の試合だったが、ほぼすべての選手が出場したこともあって見所は満載だった。
 会場でもらったメンバー表を手に、背番号と照らし合わせながら、目に付いた選手の顔を思い浮かべる。昨年はほとんどスカウトチームで活動していた2年生が4年生の主力選手を相手に一歩も引かないプレー繰り広げる。冬のトレーニング期間にしっかり鍛えたのだろう、他競技から転出してきた3年生が見違えるようにたくましいプレーを披露している。けがで1年間、戦列を離れていた3年生レシーバーは「今年は俺がチームを引っ張る」というオーラを漂わせたスーパーキャッチを見せる。
 もちろん、4年生も負けてはいない。声を張り上げてチームを鼓舞し、下級生の好プレーには惜しみなく拍手を贈る。文字通り横一線のスタートとなったオフェンスラインの下級生も踏ん張っている。ディフェンスラインやラインバッカーも、紅白戦とは思えないほどの激しい当たりを見舞う。
 週末、今季初の試合で誰が先発に名を連ねるのか予想できないほど、多くの選手が出場し、互いに見せ場をつくった。昨年は控えに甘んじていた選手の中から、今季は必ず出てくると僕が注目している選手はみな期待通りの動きを見せてくれた。こうした選手の名前はあえて書かないが、彼らはみな、次の試合、今週末の明治大との一戦では必ず活躍してくれるに違いない。
 それを確かめた上で、次回は遠慮なく名前を出そう。それまでは全員、横一線。新生ファイターズの新たな船出である。
posted by コラム「スタンドから」 at 19:34| Comment(1) | in 2018 Season

2018年04月07日

(1)新しい年に

 4月。桜が咲き、満開になって、散っていく。例年になく長い冬が続き、3月からは一転して暖かくなった今季は、開花も早く、散るまでの期間も短かった。その分、咲きそろった花は、例年にも増して美しかった。
 「学園花通り」から正門に続く花の道に新入生を迎え、ファイターズの2018年がスタートした。
 実際は、昨年暮れ、甲子園ボウルで敗れた日から、チームは再スタートを切っている。新4年生を中心に新しいシーズンを迎える体制を整え、方針を決め、期末の試験が終わるのを待ちかねて体力の養成にも取り組んだ。人里離れた「虎の穴」千刈キャンプ場での鍛錬、3次にわたるスポーツセンターでのトレーニング合宿。昨年はまだまだひ弱かった1、2年生の体がでかくなり、筋肉が盛り上がっているのを見れば、そのトレーニングの厳しさがうかがえる。
 それでも4月。新しい学年が始まる季節には特別の感慨がある。昨日、久々に練習を見る機会があったが、昨年とはまた違った雰囲気があった。グラウンドを支配し、チームを仕切っていた4年生の姿はないし、練習開始にあたって「ハドル!」と大きな声を上げるのも昨年の主将、井若君ではなく、新しく主将に就任した光藤君である。パートのリーダーも変わり、昨年まで、どちらかといえば4年生に遠慮していたようなメンバーが生き生きとリーダシップを発揮している。
 新しい3年生の顔つきも変わった。昨年まではチームに「ついていく」ことで精一杯に見えた面々が、いまは自信たっぷりな表情で練習に取り組んでいる。各ポジションとも、この学年と新2年生が4年生を突き上げるような形になれば、卒業生が抜けた穴も埋まるのではないかと期待が持てる。
 今春、入部したばかりの1年生の姿も見えた。僕は昨年夏、スポーツ選抜入試に挑むメンバーを対象にした勉強会で顔を合わせた面々しか知らないが、それでも、半年ぶりで顔を合わせると、懐かしい気持ちになる。ちょうどフレッシュマンの練習が終わった時間で、グラウンドを引き上げる何人かのメンバーと顔を合わせ、立ち話をしただけだが、それでもやる気満々の1年生を見ると、うれしくなる。「希望のポジションは?」と問い掛け「ラインバッカーです」「レシーバーです」と答えが返って来るたびに「がんばれよ。期待してるで」と声を掛ける。
 これからは先ず体力づくり。練習に耐えられる体作りに取り組み、基準の数値をク
リアした選手から順次、練習メンバーに組み込まれていくことになる。いまは「チー
ムに溶け込んでくれ」「毎日、喜び勇んでグラウンドに顔を出してくれ」と願うばか
り。まるで孫の成長を楽しみにしているおじいさんの心境である。
 新しいスタートに合わせて、今季はコーチ陣に新しく香山裕俊コーチが加わる。2012年の卒業で、松岡主将と同期のDBである。関西リーグの優勝をかけた最終戦、立命との試合で、相手のエースQBに渾身のタックルを見舞って試合の主導権をもぎ取り、そのままライスボウルまで突っ切った主役の一人といえば、思い出されるファンも多いのではないか。卒業後はチームのアシスタントコーチを務め、社会人のエレコム神戸でも主将として活躍していた現役プレーヤーでもある。
 今季からプロコーチとして就任。守備コーディネーターを担うという。先日、食事をともにしながら、じっくり話し込んだが、安定した仕事をなげうってファイターズに戻ろうと決意するまでには、結構、葛藤もあったそうだ。それでも、あえてプロコーチの道を選んでくれたことに、学生時代から彼を知っている人間の一人として大いに歓迎したい。
 アシスタントコーチとプロのコーチでは求められる役割も能力も異なる。けれども、大学でも社会人でも、チームを背負う主力選手として活躍してきた経験は必ず役に立つ。昨季まで社会人チームのプレーヤーを務め、他大学出身の選手と同じ釜の飯を食ってきたことも、役立つはずだ。大いにコーチの「技術と哲学」を勉強し、チームに還元してもらえることを期待している。
      ◇      ◇
 新しいシーズンに向けてこのコラムを再開します。昨季の悔しさを胸に秘めた「チーム光藤」のメンバーが今季、どのように努力し、チームを飛躍させるか。折々に伝えて行きます。ご期待下さい。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:41| Comment(0) | in 2018 Season