2017年05月23日

(7)JV戦の収穫

 20日の土曜日は、今季初めてのJV戦。京都産業大学との試合だった。会場の第3フィールドは、雲一つない好天。5月とは思えないほどの強い日差しが照りつける。いつも通り平郡雷太君を偲ぶ記念樹の前で観戦していたが、暑くて暑くて耐えられない。隙をみては記念樹の木陰に逃げ込んで一息入れていたが、試合後、帰宅して鏡を見れば、顔も首筋も腕も、やけどしたように赤くなっていた。
 幸い甲山から心地よい風が吹いていたが、それでも人工芝のグラウンドで戦う選手達にとっては、相手と戦う前に、暑さとの戦いが大変だったろう。とりわけスタイルしているメンバーが30人ほどしかいない相手チームにとっては、攻守ともに交代メンバーを準備するだけでも大変だったに違いない。暑さでふらふらになっても、休む間もなく出場しなければならない選手が多かったことには、思わず同情してしまった。
 対して、ファイターズのベンチには、多少とも日陰のある場所がある。4年生から1年生まで、各ポジションの交代メンバーにも不足はない。というより、誰も彼もが出場機会を狙ってぎらぎらしている。
 そうした両軍ベンチの条件の違いが77−0というJV戦でも珍しい結果になったのだろう。とりわけ後半は、相手の主力選手がバテバテになっているのがスタンドからでもうかがえた。
 だから、今回は試合展開を追ってもあまり意味はない。それよりも、これは期待が持てると思わせてくれた選手や新しく加入した1年生を中心に書いていきたい。
 一番はRB中村行佑。試合が始まって2プレー目。自陣23ヤード付近から左オープンを駆け上がり、一気に77ヤードを走り切って先制のTD。その後も40ヤードの独走TDなど合計4本のTDを決める活躍振りだった。試合後の統計を見れば、ランが8回171ヤード、レシーブが1回40ヤード、合計211ヤードを獲得して、今季、Vの試合でも活躍しているのが伊達ではないところを見せた。
 同じRBでは、QBから移ってきた西野も6回のキャリーで81ヤード。独走タッチダウンも決めた。彼は肩が強く、走る能力も兼ね備えたQBとして期待されてきたが、RBに移ってからは練習に対する取り組みが変わったようだ。練習中にも「今年はひと味違うぞ」と思わされる場面が何度かあり、試合前から密かにこの日の注目選手と見ていたが、期待は裏切られなかった。
 注目選手と言えば、この日の先発QB百田。強肩の大型QBとして入部当時から期待されてきたが、何かと伸び悩み、なかなかチャンスがつかめなかった。しかし、JV戦とはいえ、この日は先発。同じ4年生のWR前田耕作へ立て続けに2本のTDパスを決めて非凡なところを見せた。76ヤードのTDパスを確実にキャッチした前田も、さすがはVのメンバー。スピード、コース取り、そしてキャッチングのセンス。それぞれがJV戦に出すことが「反則」と思えるほど、別格の存在に見えた。
 問題はOL。JV戦とはいいながら、この日の先発メンバーは、先日の日大戦と全く同じ。右から松田、森田、光岡、松永、池田と並んだ。TEこそ三木から藤田統貴に代わったが、いわばVのメンバーで臨んだのである。Vのメンバーを駆り出さなければ、人数が揃えられないのか、それとも経験の浅いメンバーに少しでも試合経験を積ませるため、あえてJV戦でも先発で起用し、試合の中で何事かを覚えさせようとしたのか。詳しいことは分からないが、ともあれ、昨年のOLを支えたメンバーの大半が卒業し、その穴を埋めるのに苦労している現状を見せつけられた気がする。
 ディフェンスもまた、多くのメンバーを卒業で失った。その穴を埋めるためにこの日は試合経験の少ない下級生を積極的に登用した。DLの今井、筒井、パング弟。LBの大竹、板敷、倉西。彼らは昨年から今季にかけて、少しずつ試合に出る機会があり、試合を重ねるたびに動きがよくなっている。再建色の強いDB陣も、慶応や日大との戦いで交代メンバーとして出ていた田中、平尾、坂本、荒川、弓岡らが活躍。それぞれに見せ場を作った。今後、試合経験を積むごとに力を発揮してくれそうな予感がする。
 この日は1年生も数人、試合に出場し、それぞれ非凡なところを見せた。出番が後半、相手がバテてしまった後だから、割り引いて考えなければならないが、それでもRB田窪(追手門)のパワフルな走り、TDを挙げたRB鶴留(啓明)の切れのよいステップは、1年生離れしたところがあった。レシーバーでは高等部ではQBだった山口、林が活躍。守備ではLBの海崎(追手門)とDB井上(浪速)が出場機会を掴んだ。それぞれ、まだまだ動きはぎこちないが、それでも4月に入学してきたばかりとは思えないような元気な動きを見せていた。
 今季はほかにも将来性豊かな1年生が何人もいる。ようやく半数近くがレギュラー陣の練習に交えてもらえるようになったばかりだが、次の北海道大学とのJV戦には、出場機会が増えるに違いない。今度は、そこに注目したい。
 もちろん、ファンにとってもチームにとっても、その前に大きな山がある。今週末の関大戦であり、その次の社会人、パナソニックとの戦いである。多くの卒業生を送り出し、再建色の強いチームを4年生がどのようにまとめるか。下級生の中からどれだけ「孝行息子」が出てくるか。今度はそこに注目して応援しよう。試合会場は王子スタジアム、28日午後5時キックオフである。

   ◇    ◇
 お知らせがひとつあります。今年も朝日カルチャーセンターで小野ディレクターによる公開講座「フットボールの本当の魅力」が開かれます。
 日時:7月15日(土)午後6時30分
 場所:アステ川西6階「アステホール」(阪急川西能勢口駅前、JR「川西池田」駅よりデッキで直結)
 今年もより広く一般の関学生にも参加してもらおうと、講師の特別な配慮により、関西学院の学生(学生証の提示が必要)を対象に「特別割引価格」が用意されています。
 詳細は、下記、朝日カルチャーセンターのホームページを参考にして下さい。
https://www.asahiculture.jp/kawanishi/course/73fa66a5-ced3-5b2c-6723-58f18fa7fe1b
posted by コラム「スタンドから」 at 13:23| Comment(2) | in 2017 Season

2017年05月13日

(6)「グリーンボーイ」

 5月も半ばとなって、上ヶ原のキャンパスは一気に緑があふれてきた。
 ほんの1カ月前までは、花見だ、記念写真だと騒いでいた桜はもう濃い緑の葉で覆われている。葉を落として寂しかったケヤキは盛大に緑の葉を広げ、クスノキも古い葉を散らして、すっかり新緑に変わっている。
 中央芝生を取り巻くトキワサンザシの垣根は白い花を盛大に付け、独特の芳香をあたりに漂わせている。
 第3フィールドに入ると、ウグイスの鳴き声が聞こえてきた。グラウンドの南東の隅に雑木林があり、そこから「ホーホケキョ」と鳴き続けている。練習の見学を放棄して、じっと声のするところを眺めていると、その姿まで見つけることができた。
 ウグイスの鳴き声は誰でも気付くが、その姿はなかなか見つけにくい。それをいわば大学の構内で見つけることができて、幸せな気分になる。その前に、ウグイスの鳴き声が聞こえる環境で練習出来るなんて、都心の大学では想像もつかないことだろう。
 幸せな気分と言えば、今春入部した1年生、いわゆる「グリーンボーイ」たちの練習を見るのも同様だ。高校の頃から騒がれていた選手もいれば、他競技からフットボールを志願してきた選手もいる。高等部や啓明学院から進学してきたメンバーもようやく揃ってきた。
 ホームページのリストを数えれば選手が41人、スタッフが4人。総勢45人のニューカマーである。その中には、昨年夏、スポーツ推薦を目指して勉強会をともにしたメンバーもいるし、野球やバスケットボール、ラグビーなど他競技から志願してファイターズの門を叩いた選手もいる。
 彼らが4時限、あるいは5時限終了後、駆け込むようにしてグラウンドに顔を見せ、それぞれがグループをつくり、体作りのメニューに挑む。腹筋、背筋を鍛え、首から肩にかけての筋肉を鍛える。グラウンドとその周囲にある坂道を周回するコースを全力で走る「走りモノ」と称するメニューも必ず組み込まれている。
 一通りの練習が終われば、RBやWR、DBを志望する部員は武田建先生の元に集まってボールを受ける練習。まだ、ポジションの決まっていない選手もこの練習に参加し、楕円形のボールに馴染む。これはボールを受ける基本練習であり、同時に選手同士がどの程度の運動能力を持っているのかを披露し会い、互いにお友達になる練習でもある。
 もちろん、僕らの目に触れないところでも部活動は続く。授業の空きコマを利用してトレーニングルームで筋トレをしたり、ファイターズのフットボールを理解するための勉強会に参加したり。
 こうした練習は、当初は全員参加だが、1カ月ほどしてそれぞれ筋力数値が上がり、所定の体重をクリアし、走りモノのメニューに慣れてくると、徐々に上級生のパート練習に参加させてもらえるようになる。選抜された部員のヘルメットには赤いテープでバツ印が付けられ、同様、赤のテープで各自の名前が貼り付けてある。上級生にフルタックルをしないようにという配慮であり、早く名前を覚えてもらえるようにするための工夫である。
 この集団を率いているのが新入生担当トレーナー潮博史君、3年生。六甲高校のラグビー部出身で、昨季まではOLのメンバーだったが、いまは後輩の指導を担当している。彼の教え方が遠くから見ていても、恐ろしいほど上手い。力強く指示を出し、なすべきことを的確に伝える。見本を見せる。そこまでは誰もがすることだが、一人一人に向き合う姿勢に独特の雰囲気がある。息が上がった選手を上手く励まし、ぎりぎりまで力を発揮させる。自分が新入生のころ、この競技の未経験者として体験したことを上手く生かしているのだろう。決して怒鳴らず、それでいてやるべきことはしっかりやらせる。彼が高校や中学校の教員になれば、きっと課外活動の指導でも成功するはずだと思えてくる。
 新入生の指導と言えば、忘れてはならない名前がある。鳥内監督だ。この時期、グラウンドに出てくると、大半の時間を新入生の練習を眺めることに費やされている。気付いたことがあれば、即座に担当トレーナーに声を掛け、注意を促す。時には選手に直接声を掛け、当たり方を指導する。足の運び方から腕の使い方。目の動きから相手との距離感。新入生にそこまで、と思うほどの細かい指導が自ら模範を示して続く。
 これは今季に限ったことではなく、毎年、この時期に見掛ける光景である。監督にその目的を聞くと「はじめに悪い癖を付けたら、選手がかわいそうや。最初が肝心。はじめにきちんと教えといたら、後々迷うことがない」という答えが返ってきた。
 大学だけでなく、高校や中学校の部活の指導者は、どうしても試合に出る選手が優先になりやすい。控え選手や新入生を相手に時間を割くよりも、試合に出るメンバーを鍛える方が成果が出やすいと考えるからだろう。
 しかし僕は、かねてからそういう考え方に疑問を持っている。逆に、チームの末端にまで目を配っている指導者に恵まれたチームは、たとえ体格や運動能力に劣っていたとしても、成果を挙げている例が多い。それは記者として現場を走り回っていた頃の見聞や、日本高野連の理事をしていたころにつきあった指導者との交流から、確信となっている。
 部員が200人もいれば、一人の人間がその全員に目を配るのは至難の業だろう。しかしながら、新入生に分け隔てなく目を配り、初歩の形を丁寧に指導する。そういう機会を求めてつくることで、全体が見えてくる。組織が有機的に動き、力が発揮できる。その辺を心得たベテラン監督ならではの「目」であろう。毎年ことながら、新入部員を見つめる鳥内監督の「目」は興味深い。
 こうして丁寧に育てられた新人たちが、間もなくデビューする。まずは20日、京都産業大とのJV戦を注目したい。そこに登場しそうな1年生の顔を思い浮かべるだけでも、ワクワクしてくる。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:39| Comment(0) | in 2017 Season

2017年05月02日

(5)伝統の戦い

 4月30日は日大との定期戦。今年で50回目を迎えるライバルとの戦いが「フラワーボウル」と名付けて神戸・王子スタジアムで開催された。
 天気は晴れ。気温は20度以上に上がっている。競技場を取り巻く樹木が鮮やかな新芽を伸ばし、日の光にきらめいている。「薫風」という言葉を絵に描いたような爽やかな風が吹く。絶好の観戦日和である。
 ファイターズがコイントスに勝ったが、先攻の権利を放棄し、風上からの攻撃を選択して試合開始。赤と青の対決が始まる。
 近年は甲子園ボウルで対戦する機会も減り、現役の学生にとっては「特別の相手」という意識は薄いようだが、古いOBにとっては永遠のライバル。春の定期戦、秋の甲子園ボウルと激戦を繰り広げ、数え切れないほどの名場面を残してきた相手である。篠竹監督という個性の際だった指導者の下で、恐ろしいほどの運動能力を持った選手たちが縦横に走り回った過去の場面が脳裏に浮かぶ。日大が甲子園ボウルで5連覇した当時は、試合が始まって10分もすれば、もう勝敗の行方が見えてしまったこともあった。当時一緒に観戦した仲間と「対等に戦えるのは、試合前の校歌を歌うまでやな」と嘆きあったことが昨日の出来事のように浮かんでくる。
 例えば鳥内監督が現役だった4年間の甲子園ボウルのスコアを見れば、1年生から順に7−63、0−48、7−42、31−42。監督も2年後輩の小野ディレクターも、ともに一度も甲子園ボウルで勝ったことのない学年という十字架を背負い、その悔しい思いを背景に後輩たちの指導に全力を尽くされてきたということは、機会あるごとに聞かされてきた。
 そんな監督が試合前、選手達にこんなことを話されたそうだ。
 「いまの現役は、日大といっても特別の意識はないけど、OBにとっては特別の思いのある相手。ちゃんとした試合をせんかったらOBに失礼や。オレが代わりに出たろか、とかいわれんように、ちゃんとやれ」
 似たような話は、場内のFM放送で試合の解説を担当された小野ディレクターも試合前に振り返られていた。なんせ4年生の春の定期戦、28−19で勝ったのが対日大戦、唯一の勝利というのだから、その苦い思い出は察するに余りある。
 そういうOBたちの思いを乗せて始まった50回目の対戦。しかし、新しいシーズンが始まってすぐの試合とあって、両チームともまだまだという場面が相次ぐ。個々の選手には才能を感じさせるプレーが見られるのだが、チームとしての完成度は互いに今ひとつ。日大はパスプレーの精度に難があり、ファイターズの攻撃ラインも再三、相手守備陣に割られ、QBを孤立させる。
 それでもチームとしてのまとまりに一日の長があるファイターズは、QB光藤が学生界では群を抜いているレシーバー陣に的確にパスを通し、徐々にゲームの主導権を奪っていく。第2Q10分3秒、ゴール前2ヤードからの攻撃を執拗にランプレーで攻め抜き、3度目にRB山本が中央を突破してTD。K小川のキックも決まって7−0と主導権を握る。
 続く相手の攻撃を守備陣が完封すると、今度はWR前田へのパスで陣地を進め、ゴール前34ヤードからWR松井へのTDパス。これを松井が体を反転させながら見事にキャッチしてTD。続く日大の攻撃はDB木村がインターセプトで食い止め、攻守交代。前半残り時間17秒、相手陣28ヤード。今度は光藤がWR亀山へのパスを一発で決めてTD。わずか2分ほどの間に、3本のTDを決め20−0で前半を折り返す。
 こうなると相手は焦る。逆にファイターズは余裕をもって試合を進める。後半も終始ファイターズペースで進み、途中から攻守ともに交代メンバーを次々に投入する。終わって見れば30−6。得点差を見れば、ファイターズの圧勝だった。
 しかし、その内容はどうだったか。KGスポーツが伝える試合後のインタビューを見ると、そうそうお気楽な内容ではなかったことが伝わってくる。
 「下級生のミスを自分のミスと思い、次の2週間も取り組んでいく」(主務・三木君)
 「よいところも悪いところもしっかり出た試合。相手の自滅で勝てたようなもの」(副将・藤木君)
 「勝てたことより、内容が全然ダメ」(副将・松本君)
 先制のTDを決めた4年生RB山本君は「残り2ヤードから3本連続で同じプレーが続いた。4年生として意地でも決める場面だった。あそこで決めないと秋は勝てない。個人としても、オフェンスとしてもランで勝たせる試合をもっと詰めていきたい」
 こうした談話を並べて行くと、スタンドからとやかくいうことはない。チームを率いる幹部たちが現状の厳しさを十分に自覚しているのだから、あとはその言葉を普段の練習で個々の選手の成長につなげていくだけだ。気候もよし。学校の授業も軌道に乗ってきた。あとは部員一人一人が工夫と努力を重ね、チーム全体の底上げにつなげていくことだ。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:10| Comment(2) | in 2017 Season

2017年04月27日

(4)楽しくなければスポーツじゃない

 ファイターズの試合があった後は必ず、記者が鳥内監督や活躍した選手を取り囲んで話を聞く。いわゆる「囲み取材」というやつだ。公式の記者会見ではないけれども、試合直後ならではの生々しい感想が聞けるので、どの記者も重宝している。
 僕は関西スポーツ記者クラブには所属していないが、それでも新聞記者の端くれ。ファイターズの試合に限ってはグラウンドに降り、記者の質問に答える監督や選手の発言に耳を傾ける。
 選手の初々しい話はもちろん興味深いが、なんといっても興味深いのは監督の囲み取材。短いけれども、必ず、核心をついた言葉が出てくる。ただし、それがバリバリの大阪弁で、なおかつ思い切り言葉が省略されているから、大阪の言葉や表現方法になじみのない記者、あるいは監督と付き合いの浅い記者には、その真意を理解するのが難しい。時には「大阪ネイティブ」の記者にしかその真意が理解できないのではないかと心配になることもある。
 例えば、先日の慶応大との試合後、ポイントになる発言がふたつあった。一つは前回のコラムで紹介した「まあ、こんなもんちゃうか。ええとこもあったし、悪いとこもあった」という言葉。もう一つが「スポーツはなんでもそやけど、おもんなかったらあかん。いわれたことだけやってて、おもろいか」という発言。
 最初の発言は、その日の試合の総括として、ものすごく引用しやすい。この言葉をキーにしてよかった点とこれから改善しなければいけない点を書いていけば、すらすらとその日の記事ができあがる。昔ならわざわざ原稿用紙に書いて文章をまとめなくても、そのまま本社に電話送稿できた。
 これは余談だが、その昔、僕が駆け出しの頃は、〆切間際、原稿用紙に記事を書く時間的な余裕がないときに、現場の状況を白紙の状態で電話送稿する手法があり、業界では「勧進帳」と呼ばれていた。弁慶が義経と東北に落ちる際、安宅の関を抜けるために、何も書かれていない「勧進帳」を堂々と読み上げたという歌舞伎の名場面からとった言葉である。僕が現場を走り回っていた時代には「勧進帳で50行の記事が送れたら一人前」と言われていた。
 本題に戻る。
 二つ目の「スポーツはなんでもそうやけど、おもんなかったらあかん。言われたことだけやってておもろいか」という言葉である。別の言葉で言えば「楽しくなければスポーツではない。スポーツを本気で楽しむためには、言われたことをこなすだけでなく、常に創意と工夫が必要。その創意と工夫が具体的な成果につながり、勝利に結びついてこそ、スポーツは楽しくなる」という意味だろう。
 人はなぜ体を動かすのか。体を動かすことがなぜ楽しみにつながるのか。なぜ勝利を目指して修練を積むのか。なぜ、チームスポーツが生まれ、それが広く大衆に支持されているのか。スポーツ、特にチームスポーツが人間の成長、発達にとってどのような役割を果たすのか。そういういくつもの問いに対する答えがこの言葉に集約されているように僕は受け止めた。
 例えば、赤ん坊が初めて寝返りをうった場面を想像してみればよい。生まれて数ヶ月たったころ、いつも上を向いて寝ていた赤ん坊が、しきりに体をひねり始める。寝返りをうとうとしているのだが、なかなか上手くいかない。右に転がり、左に体をねじり、何度も何度もチャレンジした末に、ある瞬間、ごろんと寝返りがうてる。目的達成だ。
 そのときは一瞬、うれしそうな表情になる。けれども、今度はうつぶせになったままで、上を向けない。たまらずに泣き始めるかも知れない。けれども何度も工夫しているうちに上を向くのもうつぶせになるのも自由自在になる。それができたとき、どんな赤ん坊も驚くほどうれしそうな顔をしている。自分の努力と工夫が実った喜びである。
 そういう喜びを一つ一つ体感し、身に付けていくことで人は成長する。それはフットボールに取り組む選手にとってもそのまま当てはまることである。
 昨日まで出来なかったことが一つの工夫でできるようになる。相手を見極める目を養い、一つのフェイントを覚えただけで、面白いほど簡単に守りを突破することができる。どうしても捕まえられなかった相手を足の運び一つを工夫することで捕まえられるようになる。そういう積み重ねが選手を成長させる。その成長の実感がスポーツの楽しみにつながり、新たな創意と工夫を生み出す。もう一つ上のステージを目指して努力を続けるエネルギーになる。
 そういう、いわばスポーツの本質を突いたのが「言いわれたことだけやってておもろいか」という鳥内監督の問い掛けである。深いではないか。
 幸いファイターズは、監督やコーチの指示を待って行動することが義務づけられた集団ではない。選手たちが自ら工夫し、互いに助け合って上達しようとすることを大切にする文化がある。それは戦後、チームが再出発して以来の先輩たちが営々と築いた文化であり、いまもチームにとうとうと流れている水脈である。
 内部にいては気付きにくいその価値に目を向け、創意と工夫、そしてたゆまぬ努力を続けよう。「おもろいフットボール」を追求しよう。スポーツの楽しさに目覚めた者が増えれば増えるほど、栄光への道は近くなる。
posted by コラム「スタンドから」 at 14:58| Comment(0) | in 2017 Season

2017年04月17日

(3)「想定の範囲内。こんなもんや」

 今季の初戦は、慶応大学との対戦。15日、神戸市の王子スタジアムに満員の観衆を集めて開かれた。空は曇っているが、暖かい。ときおり、散り始めた桜の花びらが風に乗って飛んでくる。
 大学の新入生歓迎プログラムの一つに組み込まれた関係か、今春入学したばかりと見受けられる新入生や啓明学院の高校生など、若い女性ファンも多い。この女性らに今後、ファイターズの熱烈なファンになってもらうためにも、グラウンドの選手がどんな妙技を見せてくれるか。期待が高まる。
 慶応のキック、ファイターズのレシーブで試合開始。しかし、最初のランプレーが進まず、QB光藤からWR松井への長いパスも通らず、簡単に攻撃権を失ってしまう。
 対して慶応の攻撃陣はアグレッシブ。春の初戦というのに、いきなりノーハドルの攻撃でぐいぐいと攻め込んでくる。ランとパスを巧妙に組合わせた攻撃に目先を狂わせられたのか、守備陣も対応仕切れない。テンポよく3度のダウンを更新され、あっという間にタッチダウン(TD)。キックも決まって0−7。
 ファイターズ2度目のシリーズは、自陣25ヤードから。光藤からWR長谷川へのパス、RB山口のラン、TE三木へのパスなどで陣地を進め、敵陣に入ったが、ここで痛恨のターンオーバー。光藤からWR小田に投じたパスは、小田の胸に入ったが、それをレシーバーがお手玉した瞬間に相手DBにボールを奪い取られてしまった。
 思わぬ好機に慶応の選手達が勢い付く。即座に長いパスを通してゴール前25ヤード。ここはファイターズの守備陣が踏ん張ってなんとかフィールドゴールの3点でしのいだが、得点は0−10。2月から3月は体を鍛え、基礎的なスキルを高める練習が中心で、チーム練習はほとんどできていなかったから、苦しい戦いになるとは予測していたけれども、ここまで一方的な展開になるとは思いもしなかった。やはり昨年のチームを支えた4年生がごっそり抜けた影響は大きいことを思い知らされる。
 さて、今季新しく試合に出るようになったメンバーがどこまで奮起するか。彼らの奮起を促すために、昨年から試合に出ていたメンバーがどんなお手本を見せるか。そこに注目していると、やってくれました。まずはRB高松が67ヤードのキックオフリターン。右サイドでボールを受け、一端、右に走ると見せかけて即座に左にカット。そのまま左サイドを駆け上がった。試合経験が豊富な4年生ならではの走りだった。
 相手陣29ヤードからの攻撃。ファイターズはRB山口、WR亀山、RB山本と試合経験の豊富なメンバーに次々とボールを集めて陣地を進める。第2Qに入ってすぐのプレーで山本がゴール中央に飛び込んでTD。K小川のキックも決まって7−10と追い上げる。
 これでなんとか落ち着いた攻撃陣。次に見せたのもやはり亀山と山口。まずは亀山が相手パントを判断よくキャッチし、12ヤードのリターン。相手陣38ヤードからの次の攻撃シリーズでは、山口がドロープレーで中央を突破し、そのままゴールまで走り込んでTD。腰を落としたバランスのよい走りで相手タックルを、2人、3人と交わしていく。まるでウナギのような走り方。最近のファイターズには見掛けないタイプの選手だが、相手にとってはやっかいな選手だろう。
 これで14−10と逆転したが、慶応の戦意は衰えない。相変わらずのノーハドルオフェンスでぐいぐいと陣地を進め、仕上げは見事なTDパス。14−17と慶応がリードしたまま前半は終了。
 後半に入っても互いに攻撃が続かず、3Qは0−0。
 4Qに入ると、ファイターズのレシーバー陣が奮起する。まずは光藤からWR安在への短いパスをとってダウンを更新。次は松井へのロングパス。センターライン付近からゴール前1ヤードまで45ヤードを一気に進める。相手DBと競り合ってキャッチした松井も素晴らしかったが、そこへ正確に投げ込んだ光藤もすごい。二人はともに3年生。今季の攻撃陣で必殺のホットラインとして機能しそうな予感がする。
 残り1ヤードをこれも3年生のRB中村が中央に飛び込んでTD。21−17とファイターズが逆転する。勢いに乗った光道は次のシリーズでもWR小田に23ヤードのタッチダウンパスを決め、終わって見れば、31−17でファイターズの勝利。攻守ともに課題は多かったが、司令塔の光藤が期待通りに活躍し、同じ3年生のレシーバー陣(松井、小田、長谷川)とRB陣(山口、中村)の成長という収穫もあった。
 しかし、双方の力の差は、得点差ほどにはなかった。春の初戦だというのに、終始ノーハドルの攻撃を押し通したオフェンス、関学のOL陣を簡単に突破してQBやボールキャリアに襲いかかったディフェンス。そしてこの試合にかける意気込み。そうした点では慶応がはるかに勝っていたようにも思える。
 試合後、鳥内監督が記者団の質問に「見ての通り。こんなもんや。いいのも悪いのも想定の範囲内。いいのは伸ばせばいいし、悪いとこはなおさなアカン。悪いとこが分かったのが収穫」と答えていたが、まさにその通り。すべては、この日の「収穫」を糧に、今後どのようにチームを作っていくかにかかっている。この日は出場できなかった4年生を含め、チーム全体の底上げに課題を突きつけたという意味では、ありがたい試合だった。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:11| Comment(1) | in 2017 Season

2017年04月11日

(2)まずは紅白戦

 9日の日曜日はファイターズ・デー。桜が満開の大学構内を抜け、上ヶ原の第3フィールドに足を運ぶと、朝早くから選手がウオーミングアップに余念がない。午前10時から大学の公開練習と紅白戦、午後にはシニアファイターズや小学生たちも参加してフラッグフットボールの試合があるとあって、幅広い年代のファンが詰めかけている。
 僕はあいにく、郷里の小学校の同窓生が集まる会とバッティングしたため、公開練習と紅白試合を観戦しただけ。早々に引き上げてしまったが、それでも見るべきものは見せてもらった。一つは、昨年の4年生が卒業した後を担う選手たちの成長具合。もう一つは、昨シーズンはほとんど出場機会がなかった下級生たちの中からどんな選手が頭角を表しそうかという現状。
 紅白試合といっても、例年と違って、チームの編成はオフェンスとディフェンスに分けただけ。試合時間も45分程度と短い。そのうえ、無意味なけがを防ぐため、ちょっとでもコンタクトがあると即座に笛を鳴らすルールで進められたから、ライバル校相手との試合とは、雰囲気がまるで異なる。
 それでも、出場した選手たちは真剣だ。その一部始終がビデオに収められているし、監督やコーチたちも、新戦力の動向を懸命に見つめている。昨年は、スカウトチームに甘んじた選手たちにとっては成長ぶりをアピールする絶好の機会だし、立命や早稲田、そして富士通を相手にした厳しい試合に、たとえ交代要員であっても出場経験のある選手にとっては、その経験をどのように生かしているかが問われる試合である。
 なにしろ、先発メンバーをみても、昨年の最後の3試合に先発か主な交代メンバーとして出場した選手はほとんどいない。攻撃ではTEの三木、WRの前田、亀山、松井、守備ではDLの柴田。ほかはすべて、交代要員としてちょこっと試合に出ていればいい方。大半は、全く未知数な選手であり、顔と名前が一致しな選手も少なくなかった。逆にいうと、そういうメンバーが今季、1月から3月までの厳しい鍛錬を経てどれだけ成長したか、それを確認するには格好の舞台だった。
 オフェンスラインは左から松永、森田、光岡、西村、池田。昨秋は全員が交代要員だっただけに、これでQBの光藤を守りきれるかどうかが第一の見どころ。二つ目は、昨年の秋はけがで出場機会のなかった光藤がどこまで動けるか、WRやRBとの呼吸は合うかどうか。そして三つ目が昨季、最後の厳しい試合ではほとんど出場経験のなかった守備陣から、どんな有望株が出てくるか。この3点にしぼって、メンバー表片手に、背番号と名前を確認しながら、懸命に見守った。
 結論からいえば「晴れ時々曇り、ところによりにわか雨」という感想だった。
 晴れは、昨年の1年間を棒に振った光藤に使えるめどがついたこと。とりわけパスプレーの安定度が目についた。それを引き出したWR小田の活躍も特筆される。出場機会は限られていたが、光藤からゴールライン近くに投じられたロングパスをことごとくキャッチして、3本のTDに結び付けた。さすがは甲子園の舞台を踏んだ高校球児。野球で鍛えた俊敏な動きはフットボールでも通用するところを見せつけた。同じ3年生WRでは、長身の松井が昨季から活躍しており、今年はこの二人が4年生の前田、亀山とともにファンをわかせてくれそうだ。
 守備では、これも昨季、交代要員としてシーズン後半から出場機会のあったDL今井、DB吉野の鋭いラッシュが目を引いた。逆に、光藤からWR陣へのパスを次々と通された守備陣には課題が多い。ランプレーで相手守備陣を押し切れなかったOL陣とともに、まだまだレベルアップが必要なことが明らかになった。
 さて、今度の週末、土曜日には早くもシーズンの初戦が予定されている。相手は慶応。近年、めきめきと力を付けているチームであり、2年前に戦った時も、素晴らしい試合を見せてくれた。そういうチームを相手に、2月から3月にかけては、体幹訓練や筋力トレーニングが中心で、ほとんど試合に向けた練習をしてこなかったファイターズがどんな戦いを見せてくれるのか。この日の紅白戦には登場しなかったメンバーも含めたチームの骨格が見えてくるのか。見どころは多い。今度は丁寧にメモを取りながら観戦しよう。
posted by コラム「スタンドから」 at 13:22| Comment(1) | in 2017 Season

2017年04月04日

(1)新しい年

 2017年度のファイターズは4月1日、上ヶ原の第3フィールドでのお祈りで始まった。午後1時半、練習前の練習を切り上げた選手とスタッフがグラウンド中央でハドルを組み、顧問の前島先生が聖書を読まれる。
 今年、選ばれた言葉は「ローマの信徒への手紙」の一節である。
 「私たちは知っているのです。苦難は忍耐を、忍耐は練達を、練達は希望を生むということを」
 そう、これは第3フィールド入口のロータリーにある石造りのモニュメントに彫り込まれた言葉であり、ファイターズの部員ならば、一度は耳にし、また練習の行き帰りにこのモニュメントで目にしたはずの章句である。
 先生はこの言葉を読み上げ、祈りとは思うこと、その思いの深さが勝敗を分けるという話をされた。
 続いて、鳥内監督から「君らがどこまで本気の取り組みをするか。神様はみてはんねん。形だけ、口だけの取り組みではアカン。以上」と短い言葉があり、即座にハドルが解かれる。1年生は入学式のために欠席だったが、4年生から2年生までの部員がいつも通りにスキルを身に付ける練習に黙々と取り組み、17年度のチームがスタートした。
 もちろん、ファイターズの新しいシーズンは1月3日にライスボウルで敗れた翌日からスタートしている。期末試験が終わるのを待ちかねたように、体力づくりのトレーニングが始まり、2月には地獄の千刈合宿で足腰を鍛えた。3月には、学内で合宿し、相撲部屋のような取り組みで筋力を養い、体幹を鍛えてきた。
 途中、中学、高校、啓明学院との合同壮行会や甲子園ボウル祝勝会、そして昨年のチームを支えた4年生を送り出して、あっという間に4月。学年が改まり、井若主将を中心にした新チームのスタートである。それにあわせてこの3カ月間、ライスボウルで敗れた悔しさを抱えて一人、悶々としていたこのコラムも新しいスタートを切る。
 さて、大量の4年生を卒業で失ったこのチームが今年、どんな戦い方をしてくれるのか。まずは失われたメンバーの穴を埋め、昨年を上回る陣容を整えなければならない。毎年毎年、卒業生を送り出し、新たな陣容での再スタートを余儀なくされるのが学生スポーツの宿命ではあるが、逆にいえば、どんなメンバーが新しい戦力として登場してくるのか、という楽しみがあるのも、学生スポーツならではの魅力である。
 お祈りに引用された聖書の言葉に即していえば「卒業生を失うという苦難が忍耐を生み、その忍耐が練達を、練達が希望を生むのです」ということだろう。聖書はこの言葉のすぐ後に「希望は私たちを欺くことがありません」と続けているが、まさにその通り。苦難と忍耐、そして練達を通じて見つけた希望は、決して裏切らない。もし、裏切ることがあるとすれば、それは忍耐が口先だけで、練達が本物ではなかったということではないか。
 監督の「神様はみてはんねん」という言葉も同様である。苦難を真っ向から受け止め、ファイターズの一員としていかに生きるべきかを突き詰める。耐え忍び、本気の努力を続けることで練達が生まれる。その練達が明日への突破口を開くということだろう。
 節目の日にこういうお祈りの時間を持ち、気持ちも新たに新しいシーズンに挑む。もう10数年も続いている行事だが、こういう時間を持つたびに、気持ちが改まる。グラウンドの選手たちにとっては、なおのことであろう。
 もちろん関西リーグのライバルたちをはじめ、全国のチームが「打倒!ファイターズ」を合い言葉に立ち向かってくる。彼らは昨年、ファイターズに敗れたその翌日から「捲土重来」を期して、懸命の努力を続けているはずだ。その思いは、僕らが想像するよりはるかに強かろう。それこそ「死にものぐるい」で冬に鍛え、春の浅い時期から努力を重ねているはずだ。
 そういう相手にいかに立ち向かうか。数えて見れば、秋のリーグ戦の開幕まで5カ月もない。途中、前期の試験で練習ができない期間があることを考えに入れれば、まともに練習できる期間は4カ月少々である。1日、1時間、1分、1秒を大切に本気の練達に取り組んでもらいたい。今季も大いに期待している。
   ◇    ◇
 お知らせがひとつあります。昨シーズンのコラムを「2016年 ファイターズ 栄光への軌跡」という冊子にまとめ、発行しました。選手やスタッフには贈呈しましたが、予備が少々ございます。4月から試合会場でファンのみなさまにお求めできるようにします。1冊500円。例年通り、売り上げはすべてファイターズに寄付させていただきます。ご協力をお願いいたします。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:08| Comment(0) | in 2017 Season

2017年01月05日

(35)花いちもんめ

 大晦日から正月2日にかけて、気分は上々だった。
 理由は二つ。大晦日の朝、上ヶ原の第3フィールドで見た2016年最後の練習に手応えがあったこと、2日の夜、自宅近くを散歩中に見上げた空に冴え冴えと光る新月が見えたことである。
 練習では、オフェンスの仕掛けがことごとく成功する。伊豆のパスの精度が上がっているし、OL、WR、RBとの呼吸もぴったりだ。立命館との2度の死闘を制し、早稲田にも付け入る隙を与えなかったことが、オフェンス全体にある種の手応えを獲得させ、一つ一つプレーに自信がついてきたのだろう。
 守備のメンバーも同様だ。ほんの1カ月半前、立命戦を前にしたときのような神経質な雰囲気はなく、みんなが自分のプレー、役割に自信を持った様子が傍目にも感じ取れる。
 「学生はある日突然、大化けする。それを人は若さの特権、成長と呼ぶのだろう」と感じ入り、その夜、書く予定になかったコラム34を一気に書き上げた。
 2日に見上げた新月にもまた、ゲンのよい物語があった。その日は、どこかの国旗のように、三日月がそのすぐ近くに大きく輝く星を抱えていたのである。それが金星(きんせい)と知った時、そうか三日月が金星(きんぼし)を抱き寄せたのかと合点し、「こいつは春から縁起がいいわいなあ」と、思わず歌舞伎役者の口調を真似てしまった。
 けれども、現実はそんなに甘くはない。朝の9時半に東京駅に着き、5時間半もキックオフを待ち続けたが、始まってみれば、攻守ともに相手ペース。QBが前評判通りの速くて正確なパスを投げ続けてペースをつかみ、最初の攻撃シリーズで3点、次のシリーズでもFGの3点を重ねる。
 2度の立命戦、そして甲子園ボウルの早稲田戦では、力とスピードで相手をコントロールしていたDLと的確な判断でボールキャリアに襲いかかっていたLB、DB陣は、この日も元気いっぱいだったが、相手はその上を行く。第3ダウンロングの状況でも、焦らず、慌てず、的確なパスをびしびし決めてくる。あげくに急所では3本のタッチダウンパス。それぞれファイターズの誇るDB陣がしっかりカバーしていたが、ここしかないというポイントに、ドンピシャのタイミングで投げ込まれては、カットもできない。
 学生のリーグでは過去に一度も見たことのないほどの能力を持ったQBに、気持ちよく投げさせては勝ち目は薄い。オフェンスのビッグプレーを期待するしかない状況だったが、相手にはLB、DBにそれぞれ一人ずつ化け物のような外国人選手がいる。でかくて強くて速い。自分のスピードと判断力に自信を持っているから、ファイターズが練りに練ったプレーにも惑わされない。的確にキャリアを見きわめ、即座にフルスピードで襲いかかってくる。
 そうなると、緻密に練り上げ、練習で完成させたプレーも簡単につぶされる。リーグ戦や甲子園ボウルでは相手を支配し続けたOLが割られ、伊豆が逃げ惑う場面が録画場面のリプレイのように繰り返される。
 伊豆はそれでもめげず、WR前田や亀山へのピンポイントのパスを決め、橋本、野々垣、加藤らのRB陣が懸命にラッシュして、パスとラッシュで都合361ヤードを獲得。後半に13点を返して、ファイターズの意地を見せた。
 しかしそれでも、結果は30−13。試合をひっくり返すには至らなかった。「負けて悔しい花いちもんめ」である。
 相手は年齢制限のない社会人の代表。当方は学業を優先し、4年間で卒業していく部員ばかり。そのうえ、社会人は海外から一級の助っ人を獲得できるが、当方は自前で日本の若者を育てていかなければならない。異次元のプレーを展開する外国人4人に対抗できるほどの人材がそうそうそう国内に存在するとは考えにくい。
 今年のチームは、シーズン半ばから急激に成長した。しかし、そのチームをもってしても、鳥内監督の試合後の談話にあった通り「戦術だけで勝てる相手ではない」というのが正直な感想である。だから余計に悔しい。懸命に特別なプレーを考案し、それに磨きをかけて試合で使おうとしても、相手はそれを個人技で突破してくる。時間は4年間、出場できるのは大学生だけ、という制約がある中では、そうした傑出した選手に戦術だけで対抗することは難しいことを思い知らされた。それが悔しい。
 しかしながら、この悔しさを体感し、かみしめて、もう一歩上を目指せるのは、今年のライスボウルに出場できたチームだけである。もし、今年の4年生が昨年、今回のように社会人代表との力の差を体感し、この悔しさを体験していたら、また別の戦い方ができたのではないかとも考える。
 その連続性こそが収穫ではないか。4年生は卒業するが、3年生以下のメンバーは、来年以降、再度チャレンジすることができる。「負けて悔しい花いちもんめ」を「勝ってうれしい花いちもんめ」にするチャンスを掴むべく、新たなスタートを切ろうではないか。この悔しさ、4年生の流した涙は、きっと成長の糧になる。
posted by コラム「スタンドから」 at 10:32| Comment(3) | in 2016 season

2017年01月01日

(34)フィニッシュ!

 12月31日、大晦日の上ヶ原の第3フィールドは快晴。風もないポカポカ陽気だった。気温は計測していないけど、多分、東京ドームの気温と同じぐらいだろう。
 そういう恵まれた条件で、朝の10時から今年最後の練習が始まる。世間は年末の休みとあって、普段の休み以上に、見学と激励に見えるOBも多い。中には今季、Xリーグで富士通と対戦されたOBも見えており、あちこちでライスボウルに向けたファイターズファミリーならではの話題が交わされる。
 こういう場面を見ていると、今季もいよいよ押し詰まってきた、と実感する。実際、明けて正月、3日になれば、もう決戦の当日である。その前に東京までの移動日があり、試合前にはプレーを合わせる程度の練習になるから、実質的には今季、山岸主将が率いるチームの練習は、この日が最終である。
 それだけに、時間は短いが、攻守とも気合いの入ったプレーが次々と繰り広げられた。僕は主としてオフェンスの練習を注目していたが、多彩なプレーが面白いほど進む。ラン、パスを問わず、王道のプレーも、今度の試合に向けた特別のプレーも、ビシバシと決まる。「準備は完了。さあ、決戦だ!」という言葉がぴったりする仕上がりである。
 新聞などには、鳥内監督の「30個ほどスペシャルプレーを準備した」という談話などが掲載され、ファイターズの「奇襲が勝敗の鍵を握る」などと書かれていた。僕の胸の中でもだんだん期待が膨らんできた。
 もちろん、アメリカからの強力な助っ人4人を迎え、日本代表クラスのメンバーで構成する相手は強い。チームを挙げて優秀な人材を育てても、4年で卒業し、毎年毎年、新しいメンバーで勝負しなければならな学生チームがそれに対抗するのは、容易なことではない。JVチームを相手に、面白いほどパスが通り、切れ味の鋭いスペシャルプレーが進んでも、それが東京ドームで通用するかといえば、全くの白紙である。
 それは最近10年ほどの間に、社会人と戦った5回の勝負が物語っている。それぞれ戦前の下馬評を覆して、あと一歩の所まで相手を追い詰めた。試合終了の直前までリードしていたこともある。しかし、最後には地力の差を見せつけられた。「よく頑張った」「素晴らしい戦い振りだった」と僕もこのコラムで書き連ねてきたが、同時に「なぜこの試合を勝ちきれないのか」という悔しい思いを捨て去ることができなかった。
 早い話が「よくやった」「いい試合だった」というだけでは、辛抱できない。今年こそ勝ってくれ、君たちなら勝てる、という渇望にも似た心理状態に陥っているのである。
 実際、今年の山岸軍団は素晴らしい。負傷者がいても、試合が思い通りに進まなくても、選手は一切言い訳せず、ひたすら前を向いて取り組んできた。その精進、鍛錬の軌跡は、関西リーグの後半、関西大以降の戦い振りが証明している。素晴らしいタレントを揃えた立命館を相手に2度の戦いを制し、早稲田の奇襲策にも対応して学生日本1になったことは伊達ではない。甲子園ボウル以降の成長ぶりも、過去のチームに勝ることはあっても劣ることはない。
 しかし、本当の勝負はこれからだ。社会人の強豪を相手に、自分たちの持っている力をすべて出し切れるか。一対一の戦いで勝負出来るか、一つ一つのプレーを思い通りにフィニッシュできるか。そこが問われてくる。
 いくら素晴らしいパスを投げても、受ける方がそれをはじき出されれば、それで勝負は終わり。いくらOLが走路を空けても、ボールキャリアがそこに突っ込むタイミングを違えれば、陣地は進まない。攻撃が何とか得点を重ねても、守備が持ちこたえられなければ勝てない。逆に、守備がことごとく相手を食い止めても、攻撃が振るわなければ負ける。
 15分クオーターの消耗戦をどのように支配し、相手の隙を突いて一瞬の刃を振るえるか。そこでもフィニッシュが問われる。
 相手には、強力な外国人選手に加えて、これまでの先輩たちが散々苦しめられてきた立命など関西学生リーグ出身のメンバーも少なくない。そうしたメンバーを相手に、出場する選手すべてが怖めず臆せず戦いを挑み、一対一の勝負に勝つことができるか。求められるプレーを試合終了の笛が鳴るまで貫徹できるか。
 勝負の綾は奇襲作戦を立てることにあるのではない。それをフィニッシュにまで持っていくこと、そのための泥臭いプレーに、すべての選手がこだわり続けることにかかっている。
 鮮やかな勝利は要らない。泥臭くても、見栄えはよくなくてもいい。グラウンドに立つすべての選手がそれぞれの職分を尽くして勝負して欲しい。その勝負に勝って初めて、道は開ける。
 頑張ろう! 東京ドームを君たちの晴れ舞台にしようではないか。
 4年生の諸君! そしてそれを支え、時にはリードしてきた下級生諸君。その一端を見続けてきた人間の一人として、いまはひたすら諸君のフィニッシュを祈っている。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:45| Comment(0) | in 2016 season

2016年12月26日

(33)「職分」を尽くす

 江戸時代、安定した社会が260年も続いたのはなぜか。
 この問いに対して『逝きし世の面影』『江戸という幻形』などの著作で知られる渡辺京二さんが『無名の人生』(文春新書)で次のように解説しています。箇条書きにすれば、こんなことです。
 @人々が辛いことは軽く脇にそらしてやり過ごす術に長けていた。互いへの気遣いが浸透していたから、お互いが気持ちよく幸せになれた。
 A貧しい暮らしをしている人はもちろんいるけど、決してその暮らしは悲惨ではない。まじめに働けば自分の腕一本で食っていけた。
 B幕府の機構もある意味では民主的だった。士農工商という身分差別は厳格で窮屈だったといわれるが、実は見かけとは違ってかなり民主的な社会だった。
 C司法も公正だった。建前は厳格だったが、その裏では現実的な運用を心掛け、それなりの幅を持たせていた。
 D社会の秩序は、侍にしろ、百姓、町人にしろ、各個人がその社会のなかで持つ「役」が集積してできあがっている。人々はその「役」「職分」に社会的責任を感じており、それがその人にとっての「誇り」の感情だった。つまり「俺はこの職分でもって世の中を支えているのだぞ」という「誇り」のシステムが機能していた……。
 江戸時代の社会という主語をファイターズに置き換えれば、なぜファイターズが東西の強豪チームを相手に、勝ちを呼ぶ込むことができたのか、という理由が納得できると思います。そして、すべての構成員がそれぞれの「役」「職分」を果たすことで、社会人のトップに挑み、勝利を収める道筋も見えてくるのではないでしょうか。
 例えば、@にいう「辛いことを脇にそれしてやり過ごす」です。これを練習と置き換えて考えましょう。ファイターズの練習時間と休憩時間は厳密に管理され、選手を上達させることだけを目標に取り組まれています。コーチや上級生が憂さ晴らしや自己満足のために下級生を「痛めつける」ような練習は一切ありません。シーズン終盤のこの時期になっても、チームで取り組む時間は普段と同じです。チーム全員で取り組む時間は、休憩時間を入れても1時間半ほどです。無理な「根性練」で追い込んでも、マイナスに作用することはあってもプラスになることはない。それよりも、それぞれの部員が目的を共有し、一所懸命に取り組む方が効果が上がると、長い歴史を通じて確信しているからでしょう。
 Aでいえば、みんながみんな選手としての天分を持っている訳ではない。けれども、まじめにチームの活動に取り組めば、必ず自分の持ち味を生かせる場所があると理解すればどうでしょう。フットボールは攻守蹴のパートに分かれ、選手の交代も自由です。足が速い、当たりが強い、相手の動きをいち早く察知できるなど、何か一つ特徴を持ち、それを磨くことで活躍する場所が見つかります。それは選手に限りません。マネジャー、トレーナー、分析スタッフなど、自らの能力を生かす役割はいくつもあります。黒澤明の「7人の侍」に出てくる「その場にいるだけで場が和む人」の役割を果たすことも、立派な貢献です。
 Bは、ファイターズの特徴そのものです。戦後、チームが再スタートした当初から、時の主将が下級生に対して「みんな兄弟や。仲良くやろう」と呼び掛け、風通しのよいチームを作られたのは、よく知られた話です。その伝統はいまも引き継がれ、チームのためになると思えば、下級生が上級生にも厳しく注文を付けます。女子のマネジャーやトレーナーが「どう猛な」男子部員を叱り飛ばします。1年生部員が更衣室の入り口に張り紙をして、室内の整理整頓を呼び掛けた話は、2年前のこの時期、コラムに紹介しました。
 Cは指導者の対応と考えればどうでしょう。鳥内監督は常々「あいつらが勝ちたいというから、手伝っているだけ」といい、部員に「どんな人間になんねん」と問い掛けています。主役はあくまでも部員。その成長を指導者は脇から手助けすることが役割と心得ておられるからでしょう。もちろん、時には厳しい口調で部員をたしなめられることもあります。それは部員が全力を尽くしていないと見えたとき、あるいは浮ついた言動が見られるときなど、指導者としての責任から発せられる言葉です。
 コーチも同様です。誰もが驚く戦術を創造するだけではありません。試合のたびに頑張った選手に贈られる「プライズシール」が象徴するように、選手の貢献度を常に公平に温かく見守っています。指導者にその「職分」を果たすプロとしての創造力と公平な目があるから、選手もまた「明日も頑張ろう」という気持ちになるのでしょう。
 以上、長々と書いてきましたが、一番言いたいことはDにあるすべての部員がそれぞれの「役」「職分」に誇りを持ち、それを完遂する風土がこのチームには存在すると言うことです。先発メンバーも交代メンバーも、それぞれが全知全能を尽くして戦う。スカウトチームのメンバーもまた、試合に出る選手を鍛えるために、全力を尽くす。それもまたこのコラムで書いてきたことです。もちろん、マネジャーやトレーナー、分析スタッフの仕事、役割も必要不可欠です。それぞれがその「職分」に誇りを持ち、俺が日本一のチームを育てる、僕が相手チームを裸にする、ビデオの撮影なら誰にも負けない、と頑張るから、チームのモラルが高くなるのです。
 こうした@からDまでのトータルが立命との2度の力勝負に勝ち、早稲田の幻惑作戦を打ち破る原動力になったのです。ファイターズの戦い方に対して、巧妙な戦術とか試合巧者という表現がしばしば使われますが、そういう上っ面の話ではありません。
 そういう戦術を可能にする部員の精進、監督やコーチの指導力と分析力。そういうもろもろが積み重なった結果としての大学日本1です。大いに誇ればいいと思います。
 しかし、ここからが大切な点です。チームには社会人に勝って日本1、という目標があります。それをどう達成するのか。そこが勝負です。監督の「勝たなアカンねん。よくやった、だけではアカンねん」という言葉に、どう答えるか。本気の取り組みが試されます。
 幸い、残された時間はあります。気持ちを高めて練習に取り組み、勝つための戦術を仕上げて下さい。チームの全員がそれぞれの「職分」において、日本1の取り組みをして下さい。チーム全員のベクトルが一致したとき、化学反応が起きて「日本1」が両手を挙げて飛び込んでくるでしょう。
 健闘を祈ります。
posted by コラム「スタンドから」 at 12:53| Comment(0) | in 2016 season