2018年11月12日

(26)4年生の覚醒

 シーズンが押し詰まってくると、古い友人たちから電話やメールが届く。
 「先日の関大戦、なんであんなに苦しんだんや。あれが今季の実力か」「振り返ってみれば、京大戦ももう一つしっくりいってなかったな」。大体がこんな風に、連絡をしてきた人が自分の見解を披露し、あれやこれやと話して落ち着く先は「立命戦、大丈夫ですかね」。
 これがファン心理というのか、ひいきのチームに寄せる愛情なのか。僕自身も似たようなことを考えているけれども、もっぱら熱心な友人たちの聞き役に回っている。多少はチームの内情にも通じ、選手やスタッフと話すことはあるけれども、チームのことを部外者があれこれいうのは好みではない。せいぜい紀州・田辺の篤農家が栽培した美味しいミカンを差し入れ、練習後の疲労回復に役立ててもらうことぐらいしかできない。
 それでも時には、これだけは読者の方々にもお伝えしたい、ということがある。例えば、先週末の練習で見掛けたこんな光景である。
 木曜日の夕方、練習前恒例の自主練をパートごとにやっていた時のことである。4年生のスタッフが一人、にこにこして僕に話しかけてきた。
 「明日は防具を着けて練習に参加します。背番号はもちろん42です」
 「ええっ。体は動くんか。張り切ってけがしたらしゃれにならんぞ」
 「大丈夫です。いまはスタッフに転向していますが、元はOL。体は鍛えているので、何とかやれるでしょう。相手のエースになりきって、うちのDBに思いっきり当たります」
 その言葉は嘘ではなかった。翌日の練習前の自主練では、彼が立命館カラーのジャージ姿で練習台を務めた。背番号はもちろん相手エースの42番。よく見れば、その場には大柄な2年生スタッフも防具を着けて参加し、二人とも一切の手抜きなしで練習台を務めていた。
 がつんとぶつかる音、それに勢いよくタックルする守備選手。その姿を見ながら、こういう部員が出てくると本物だ。こういう場面が自発的に生まれることからファイターズの魂が鍛えられる。そう思うと、その練習が終わるまで、その場を離れることはできなかった。
 練習後、思わず声を掛けた。「けがはせんかったか」。「大丈夫です。でも、明日の朝はあちこちが痛いでしょうね」。彼はそういって日焼けした顔をほころばせた。
 プレーの話は書けなくても、こういう話ならいくらでも書きたい。
 例えば練習中、ここ1、2週間で急に存在感が大きくなった4年生が何人かいる。よく見れば、それぞれ長い間、けがで苦しんできた選手たちである。
 例えば、攻撃の中心を担う二人の選手。けがで練習もままならない時期は、遠慮があったのか、練習もままならない体をもてあましていたように見えたが、いまは違う。自分にできることをひたすら続けていた春先からシーズン序盤にかけてとは打って変わって、いまは100%の力で練習に取り組み、超人的なプレーを見せている。もちろんハドルの中でも常に声を張り上げ「全員、オレについてこい」とばかりに周囲を鼓舞している。
 守備の最前列にいる二人の4年生も同様だ。二人とも長い間けがで戦列を離れていたが、いまは常に練習の先頭に立ち、体を張って下級生に見本を見せている。この二人はどちらかと言えば口数は少ない方だが、その分、ともに自らのスピード、体のこなし方を身をもって下級生に体感させている。
 これまで、どちらかと言えば、物静かな紳士が多かった今年の4年生だが、ここまでくると変わらざるを得ないということだろう。選手にもスタッフにも、彼らのように自らが先頭に立ち、実践で見せるメンバーが少しでも多く出てほしい。そしてそれがファイターズのスタンダードになれば、結果は自ずからついてくるはずだ。
 決戦は日曜日。その日までチームの全員が高いモラルを持って練習に取り組み、悔いなく戦ってもらいたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:44| Comment(3) | in 2018 Season

2018年11月06日

(25)求む!サムライ

 その昔、朝日新聞京都支局のデスクになったとき、前任者から「京都の茶漬け」という助言を受けたことがある。ご存じの方も少なくないと思うが、こんな話である。
 取材先で「ちょうど、時分どきどすな。お茶漬けでもどうどす」なんて誘われても、決して「いただきます」と答えてはいけない。なぜなら、京都人がその言葉を口にするのは「もう話は切り上げてお帰り下さい」という合図である。露骨に帰ってくれと言うと角が立つので「お茶漬けでも」と誘いをかけたような言葉で「お引き取り下さい」と伝えているという説明だった。
 さらにその前任者は、そうした婉曲なサインに気付かないのは野暮な人、もう、おつきあいはごめんこうむります、となってしまうからご用心をといったことを丁寧に説明してくれた。
 京都の人ほど極端ではないが、私たちが日常使用する言葉には、たいてい二つや三つの意味合いがある。それぞれ正反対の意味で使用されることも少なくない。
 例えば、ファイターズでは「相手は強い。全員でやろう。全員で」という言葉を、いろんな場面で耳にする。少なくとも、その言葉を口にしたメンバーは、本気で「全員が団結し、全員でチームを盛り上げ、勝利をつかもう」という意味で使っているはずだが、誰かがその言葉を口にした瞬間、「そうだ、全員だ、きっと誰かがやってくれる」と他人任せにしてしまうメンバーもいるのではないか。
 逆の場合もある。「オレが突破口を開く」「オレがやってやる」と本気で口にしても「アメフットはチームプレー。一人が勝手なことをすると周囲が迷惑する」と言われるかもしれないし、「勝手なプレーは御法度」と叱られるかもしれない。
 そうなると、チームの全員が「安全第一」を志向するようになり、気がつけば個人技で相手陣を切り裂いてやるというサムライは、一人もいないという状態になってもおかしくない。
 今季、いろんな場面で「全員でやろう」という声を聞くにつけても、僕はひそかに、そういう事態に陥るのではないかと危惧していた。チームの団結を強調する余り、一人で局面を突破するサムライのとげがなくなってしまうのではないかと怖れていた。4日、万博記念競技場での関大戦を応援しながら、僕の頭の中にはそんな考えが駆け巡っていた。
 試合はファイターズのキックで開始。相手陣40ヤード付近から関大が攻め寄せる。中央へのラン攻撃と短いパスを駆使して、立て続けにダウンを更新。一気にゴール前まで攻め込み、FGで3点を先制。続く関大の攻撃シリーズも中央のランと素早いパスでぐいぐいと攻め込み、あっという間にファイターズのゴール前に迫る。第2Q入った直後には今度はパスでTD。あっという間に9−0とされ、試合の流れは一気に相手に傾く。
 このピンチを救ったのがQB奥野とWR陣のサムライ魂。自陣25ヤードからの攻撃でまずはWR阿部に短いパス。続くRB山口のランでダウンを更新した直後に、奥野からWR小田への長いパスが通る。そのまま小田が快足を飛ばして一気にゴールまで駆け込んだ。実に63ヤードのTDパスである。
 これで6−9と追い上げたが、この日は守備陣が踏ん張れない。パスとランを織り交ぜ、変化を付けて攻め込んで来る相手攻撃を有効に食い止められず、結局6−12で前半終了。今季初めて相手にリードされた状態でハーフタイムを迎えた。
 後半はファイターズの攻撃からスタート。ここでもWR松井、小田へのパスでそれぞれダウンを更新。さらに奥野から松井へのパスでゴール前7ヤードまで攻め込んだが、残る7ヤードが進めず、K安藤のFGで3点を返しただけ。
 続くファイターズの攻撃も、QB西野から小田、松井、阿部へのパスで相手ゴールに迫ったが、最後の詰めが甘く、結局はFGによる3点で同点に追いつくのがやっとだった。
 逆に関大は、ゴール前の攻防をしのいで勢いを取り戻し、次の攻撃シリーズで簡単にTD。再びリードを7点差に開く。
 残る時間は6分36秒。しかし、西野からWR陣へのパスが通らず、あっという間に攻撃権を相手に渡してしまう。
 しかし、ここは守備陣がぎりぎりで踏ん張り、残り2分2秒で再びファイターズに攻撃権を取り戻してくれた。しかし、ボールは自陣25ヤード付近。これを限られた時間でどうTDに結び付けるか。まさしく全員の結束と、相手守備陣を突き破るサムライの個人技が求められる場面である。
 この局面を突破しなければ明日はない。腹をくくったファイターズオフェンスがようやく一つにまとまる。まずは奥野から小田へのパスを2回連続で通して2度ダウンを更新。一度は奥野が逃げ遅れて10ヤードも陣地を後退したが、今度は松井、小田、阿部へと3発のパスをことごとく決めてダウンを更新。相手ゴール前24ヤードに迫る。残り時間は41秒。タイムアウトは一つも残っていない。ここをどう攻めるか。
 ここでもベンチが選んだのは小田へのパス。相手も徹底的に警戒している場面で小田が確実にキャッチしてゴール前11ヤード。残り時間は11秒。この緊迫した場面で奥野が阿部へのパスを一発で決めてTD。安藤のキックも決まって19−19。やっとの思いで引き分けに持ち込んだ。
 このように試合展開を振り返ると、絶体絶命の場面で、局面を切り開いたメンバーが誰か、という答えはただちに見つかる。すなわち冷静に正確なパスを投げ続けた奥野。そのパスを相手守備陣のマークをことごとく振り切り、すべてキャッチしたレシーバー陣。具体的には松井、小田、阿部の名前が真っ先に浮かぶ。もちろん、おとりになって相手を振り回した鈴木もいるし、奥野を守ったOL陣の結束も特記したい。
一番緊張する場面で、冷静にキックを決めた安藤の活躍も大きく記しておかなければならない。
 もちろん、その直前の関大の攻撃を3&アウトに仕留めた守備陣の奮闘も称賛に値する。もし、あの場面で一度でもダウンを更新されていれば、この劇的な幕切れに至る前に、試合が終わっていたかも知れないのだ。
 このように試合を振り返って見ると、いくら「全員でやろう」といったとしても、全員がその主人公にならない限り意味はない。オレが相手を倒してやるという強い意志を行動で示せるサムライの存在が不可欠だ。
 天下分け目の立命戦までに残された時間は10日余り。求む!サムライ、求む!主人公である。
posted by コラム「スタンドから」 at 06:56| Comment(5) | in 2018 Season

2018年10月30日

(24)ファイターズの窓

 窓という言葉を『広辞苑』は次のように説明している。
 @採光または通風の目的で、壁または屋根にあけた開口部A比喩的に外と内をつなぐものB(山言葉)山稜がV字形に切れ込んで低下したところ。
 僕が毎週のように書き連ねているこのコラムも、いわば広辞苑の言う「外と内をつなぐもの」である。「ファイターズの窓」と呼んでも差し支えはないのではないか。
 ところが、シーズンも深まってくるこの季節には、この窓の機能が衰えてくる。採光も風通しも悪くなってくるのだ。
 練習は毎週末、よほどのことがない限り、見学させてもらっている。部員やコーチの方々と会話する機会も減っていない。情報は目から、耳から、いくつも入ってくる。
 けれども、それをそのまま外部に提供すればいいということではない。
 フットボールは情報戦であり、知能の戦いである。相手に応じた戦術とその徹底が勝敗を左右する。戦いに勝つためには選手一人一人の努力と精進、チーム挙げての士気の向上といった要素に加えて、より多く、より質のよい情報を入手し、分析し、自分たちの有利なように生かしていかなければならない。
 逆にいえば、相手に利用される情報が流出する機会は最小限にしなければならない。たとえ兄弟、親子の関係であっても、チームの事情については保秘を徹底するのは常識であり、ファイターズは常にそのことを部員に指導している。
 そんな事情を知っている以上、たとえ「ファイターズの窓」であっても、部内で仕入れた情報をストレートに紹介することにはためらいがある。これは大丈夫だろうと思ったことでも、見る人が見、聞く人が聞けば、即座に有用な情報になり得る。その情報を生かせる者が勝者になり、情報を失った者は敗退する。
 だから、この時季になると、読者の皆さんにとって興味深いこと、面白いことがあっても、慎重に選別してからでないと紹介できないのだ。大げさに言えば、両手両足を縛られ、口でペンをくわえながら書いているといった状態がこの時季のコラムであり、なんとも不自由な話である。
 けれども、僕も新聞記者の端くれ。取材した話、見聞したことは、ほんの一部でも伝えていきたいという気持ちはある。さてどうしよう。
 考えた末に出てきたのが「ファイターズ自慢」である。
 関西リーグが終盤にさしかかり、この週末は関大、そしてその次の節は立命との戦いが控えているこの状況で、何をいまさらと思われるかもしれない。批判は甘受し、以下、最近思うことを箇条書きにして綴ってみたい。
 @練習環境
 ファイターズには放課後は事実上、ファイターズが専用で利用できる人工芝グラウンドが大学に隣接している。だから4時限、5時限の授業が終了後に駆け込んで来ても、それなりの練習時間が確保できる。授業と練習の両立も工夫次第で可能になる。硬式野球部の隣で土のグラウンドを使い、4年生が水を撒き、トンボを使って整備していた2005年までのことを思うと隔世の感がある。
 学内にはトレーニングルームやミーティングルームも完備しており、授業の空きコマを利用して筋力トレーニングやミーティングにも取り組める。グラウンドのすぐ近くには、OB会がファイターズホールを建設してくださったから、そこで深夜にわたる会議もできるし、練習中に怪我した部員の治療もできる。
 現役の諸君は、この環境を天与のものと思っているかもしれないが、グラウンドとキャンパスが離れている大学や占有で使用できるグラウンドがない大学から見れば、うらやましい限りであろう。こうした環境で課外活動ができることのメリットは計り知れない。
 Aチームの一体感
 創部間もないころから、ファイターズには「俺たちは家族や。仲良くやろう」という不文律がある。上級生は下級生に助けてもらうことを徳として練習の準備をすべて担当し、下級生は上級生へのあこがれを胸に練習に励む。シーズンが押し詰まり、練習の緊迫度が増していくこの時期でさえ、上級生が思い通りに動けない下級生を罵倒したりすることは一切ない。
 いまの時代、そんなことは当たり前だと思われるかも知れないが、決してそうではない。国内の大学のクラブでは、未だに下級生に練習着を洗濯させるのが当然と振る舞う4年生がいると聞くし、グラウンドでの練習さえさせてもらえないこともあるという話も、当の部員から聞いたこともある。
 B工夫のある練習
 練習のやり方に、さまざまな工夫を取り入れているのもファイターズの特色だ。その詳細は書けないが、たまに訪れたOBがあっと驚く工夫がしばしば見られる。先日、グラウンドで見掛けたチーム練習でもそういう場面に遭遇。「誰が考えたか知らないが、恐ろしく頭がいいな」と驚いたことがある。
 練習のスケジュールが秒単位で管理され、運用されているのも特筆されることだろう。20年近く前、縁あって、社会人チームの練習を注視していた時期があったが、時間が限られている社会人チームのタイム管理より、はるかにきめ細かい運用の仕方には、見るたびに舌を巻く。とりわけ、この季節になると、全体の集散がスピードアップする。幹部からの指示も簡単明瞭で、無駄が一切ない。
 毎年、卒業生を送り出し、新しい戦力を育てていかなければならない学生チームには、無駄な時間はない。そういう考え方が、選手にもスタッフにも浸透しているからだろう。
 もちろん、僕が知らないだけで、どのチームにもそれぞれの自慢があり、チーム運営の秘訣があるはずだ。ファイターズだけが特別というのは言い過ぎであり、傲慢であろう。
 だから、今回は他チームとの比較で述べたことではなく「僕の見たファイターズ」という限定を付けて読んでもらいたい。ほんの小さな窓ではあるが、いま、この時期の緊迫したチームのたたたずまいの一端を感じとってもらえれば幸いである。
posted by コラム「スタンドから」 at 20:34| Comment(1) | in 2018 Season

2018年10月22日

(23)難解な試合

 18日の京都大学戦は、極めて評価の難しい試合だった。見る者の視点、立場によって正反対の採点がなされても、僕にはなんら不思議でないと思えた。
 僕自身は「さすが京大。強かった」と思ったが、京大を応援する立場で考えると「せっかくあそこまで押し込んでいるのに、なぜ、TDが取れないんだ。もったいない」と不満が出るかもしれない。
 逆に、ファイターズの関係者やファンの中には、今後、関大や立命と戦い、勝利するためには「あんな試合ではどうにもならん。もっともっと練習し、力をつけなくては」と奮起を促す声も多いはずだ。
 結果は23−3。この数字だけを見れば、ファイターズが順当に勝利したと評価しても間違いではない。だが、現場で一つ一つのプレーに汗を握り、一瞬たりとも目を離さなかった僕からいえば「薄氷を踏む思い」という言葉がぴったりだった。
 まずは得点経過から振り返ってみよう。ファイターズのレシーブで開始された第1シリーズ。いきなりQB奥野からWR松井への11ヤードパスがヒットしてダウンを更新。「さすが松井、今季初めてのスタメンなのに、エエ感じや」と喜んだが、喜びはそこまで。京大の強力な守備ラインに阻まれて、ランプレーが進まず、第3ダウンの短いパスも通らず、あっという間に攻守交代。
 自陣35ヤード付近から始まった2度目のシリーズは、奥野からWR小田への20ヤードほどのパスが決まり、そこからRB山口、中村の粘り強い走りで陣地を進めた。しかし、相手ゴール前9ヤードからの攻撃が続かず、K安藤のFGによる3点にとどまった。
 次の攻撃シリーズも、相手の反則などで陣地を進めながら攻撃がかみ合わず、またもやパント。4度目の攻撃シリーズも、RB渡邊のラン、WR阿部への長いパスで陣地を進めたものの、結局は安藤のFGによって3点を追加しただけ。京大に1本TDを決められただけで、即、逆転もというしんどい試合展開が続く。
 逆に、京大守備陣は苦しい場面を2度、3度と跳ね返すことで徐々に調子を上げてくる。それに呼応して攻撃陣も奮起する。ライン同士のせめぎ合いで主導権を握り、RBがひたむきに陣地を稼ぐ。これはやばい、一本パスが通れば逆転されるぞ、と思っていたところでなんとか前半終了。
 後半は京大のレシーブから。それを守備陣が3アンドアウトにしとめ、ファイターズの攻撃は自陣11ヤードから。今度も山口のランや松井へのパスで陣地を進めるが、結局はTDに持ち込めない。なんとかゴール前15ヤードから安藤が3本目のFGを決めて9−0。依然として油断できない状況が続く。
 逆に、3度に渡ってゴール前まで攻め込まれながら、一度もTDを許さなかったことで京大の士気が上がる。案の定、次のシリーズは完全に京大ペース。ラインが押し込み、バックが走る。スタンドから見ていると、同じ画面の繰り返しのようなランプレーでひたすら攻め込み、4Qが始まったときには関学ゴール前3ヤード。そこから3度の攻撃は何とか守備陣が踏ん張って食い止めたが、それでもFGで3点を返し、再びTD1本で逆転という状況に持ち込む。
 苦しいせめぎ合いの中で、突破口を開いたのがリターナーに入ったWR尾崎。自陣奥深くにけり込まれたパントを確保すると、一気に34ヤードをリターンし、絶好ポジションから攻撃陣にボールを託す。
 奥野から交代していたQB西野がここで走り、小田への長いパスを決めてゴール前5ヤードに迫る。まずは突破力のある山口にボールを託して4ヤード。残る1ヤードを山口のダイブでTDに仕上げる。
 この場面、一発で決まったと見えたが、相手DLも強力だ。空中で山口のダイブを止め、態勢を建て直して再度、右側から駆け込もうとする山口を止めにかかる。その瞬間、西野が山口の背後を押して無理矢理ゴールラインに押し込む。攻める方も守る方も一歩も譲らず、これぞ関京戦というプレーの応酬だ。わずかにファイターズ攻撃陣の意地が勝り、TDにつながったといってもよいだろう。
 ここで16−3。残り時間も少なく、勝負の帰趨は見えた。こうなると、さすがの京大も緊張の糸が切れる。相手がファンブルしたボールをFS畑中が確保して攻守交代。渡邊が17ヤードのTDランを決めて勝負あった。
 この結果をどう見るか。関学サイドに立てば、徹底したランプレーで攻め込む京大の攻撃を必死に食い止めた守備陣の健闘に注目する人もあるだろう。相手守備ラインに押し込まれ、思い通りにプレーできなかった攻撃陣に注文を付ける人もいるだろう。それでも死にものぐるいでTDを奪った攻撃陣の気力を称賛する声もあるはずだ。さらに、監督やコーチの立場に立てば、これから予定される関大や立命との戦いには、攻守とももう1段レベルアップを図る必要があると叱咤する声が挙がってもおかしくない。
 京大サイドから見れば、ライン戦で一歩も引かなかった攻守のラインに「よくやった」という声が上がってもおかしくないし、RB陣の奮闘に注目する人も多いはずだ。大学に進学してからフットボールを始めたメンバーが多いのに、これだけのチームを創り上げた指導者を称える人もあれば、ラン一辺倒の攻撃に「もう少しパス攻撃で変化を付けられなかったのか」と残念がる人がいるかもしれない。
 久々に手に汗握った伝統の一戦。それはスタンドから見れば、かくも難解な試合だった。
 けれども、グラウンドで戦う選手諸君にはもうそれぞれの答が出ているはずだ。自分の力の及ばなかった点も、ここは通用するという手応えも、十分に実感したはずだ。それを徹底的に突き詰め、もう一段のレベルアップを図ろう。
 手本になるのは、この日、けがから回復したばかりで出場。随所にさすがというプレーを見せた松井や山口、横澤らの闘魂である。その攻撃的な姿勢から学び、成長の糧にしてもらいたい。ピンチはチャンス。今が脱皮の時である。
posted by コラム「スタンドから」 at 23:29| Comment(5) | in 2018 Season

2018年10月16日

(22)ファイターズと校訓

 先週末、チームの練習を見せてもらって、素人目にも、何かが変わったという印象を受けた。どういうことか。思いつくままに書いてみよう。
 一つは、ゲーム前の練習の密度が濃くなったように見えたことである。それは僕が見学した日だけかも知れないが、例えばQBとレシーバーの練習前の自主練では、QB3人が実戦を想定したパスを次々と投げ込み、それをレシーバーが全力でキャッチする。そのテンポとパスの精度が甲南戦の前よりもはるかによくなっていた。
 二つめは、練習開始となってからの動きの強度が一段と上がったように見えたこと。例えばレシーバーがダミーを持った選手を跳ね上げる場面。味方同士の練習であり、通常なら当たった瞬間に力を抜き、受け手のダメージを少なくするのだが、この日の4年生は全く力を抜かない。基本に忠実に、実戦通りのスピードで受け手にぶつかり、全力で押し上げる。
 受けた方はあまりにも強い当たりを受けきれず、仰向けに倒れ、信じられないという表情をしている。これぞ、実戦を想定した練習である。その場面を目のあたりにした選手全員がその一瞬、凍りつき、グラウンドの空気がピーンと張り詰めた。サイドラインから見ていても分かるほどだから、当の選手たちは全員、練習のギアが一段と上がったことを身にしみて感じたに違いない。
 三つめは、試合に出るメンバーとJVのメンバーが敵味方に分かれて進めるチーム練習である。それぞれの担当コーチやアシスタントコーチが一つ一つのプレーに口を出し、アドバイスを送る場面が一気に増えた。リーグ戦がスタートして4戦目までは、そこまでの緊迫感は見られなかっただけに、いよいよ決戦の時だとぞくぞくした。
 もう一つある。これはチームの練習内容とは直結しないが、グラウンドに通じる階段が練習前に美しく掃き清められていることだ。知る人ぞ知る話だが、この階段は練習が終わった時にはいつも、恐ろしく汚くなる。グラウンドに敷き詰められている人工芝のピッチが選手のスパイクに付着し、それが階段に落ちるからだ。
 それを練習前、丁寧に掃き清めているのが主務の安西君。先日、たまたま、練習開始の1時間半ほど前に出掛けたら、一人、黙々と掃除している姿を見掛けた。聞けば、みんなが気持ちよく練習に参加できるようにと思って、毎日、練習前の掃除を心掛けているそうだ。「幸い、単位も取れているので、授業に出る必要がない。主務の仕事をやりくりすれば、掃除の時間は捻出できますから」という話だった。
 そういえば、先日、僕はこのコラムに「試合前の練習後には決まって部員全員がグラウンドのごみを拾う。グラウンドを美しくした上で試合に臨む」と書いた。その中に、溝の掃除を除いて、と書いているのを見つけた光藤主将が安西君を誘って、二人で溝掃除をしたそうだ。これもまた、日々、当たり前のようにグラウンドを使用できることに感謝している部員たちの気持ちの表れだろう。そういうことを下級生ではなく、チームのリーダーである4年生が率先して実行するところにファイターズの真実がある。
 話は飛ぶが、関西学院のスクールモットーは「Mastery for Service」である。その言葉は通常「奉仕のための練達」と訳されるが、1915年、ベーツ先生(後に4代目院長に就任)は学生たちに向かって演説する中でその意味について「人は富や財産のためではなく、広く社会に奉仕するために生きている。そのためには自らを鍛え、強くあらねばならない。弱虫はいらない」といった説明をされている。
 いま、ファイターズの諸君が日々、ストイックに取り組んでいることは、その校訓の実践に他ならない。そう僕は考えている。
 主将が率先してグラウンドを周る溝を掃除し、主務が毎日のように箒を手にグラウンドへの階段を清掃する。試合に出る4年生のメンバーは、たとえ仲間内であっても本気の練習を普段から心掛ける。レシーバーもクォターバックも、練習開始のずっと前からグラウンドに出て営々と実戦練習に励む。
 これらはすべて弱虫はいらない、強くあらねばならない、有能であらねばならない、という強い覚悟があるからこそではないか。その意味ではファイターズの諸君は日々、ベーツ先生の校訓を実践している面々であると言い切ってもよいだろう。
 こういうストイックな取り組みを、当然のように実践できるところがファイターズの魅力であり、だからこそグラウンドでも躍動できるのだと僕は信じている。今週、金曜日の京大との戦い、それに続く関大、立命との戦いで、その成果を見せてもらいたい。健闘を期待する。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:36| Comment(3) | in 2018 Season

2018年10月10日

(21)強いチームと並のチーム

 関西リーグ第4戦。甲南大との試合は、ファイターズの二つの側面を浮き彫りにした。攻守ともに勢いのあるメンバーを並べた前半のチームと、交代メンバーが次々と登場した後半のチームでは、その試合振りがまるで別のチームのように見えた。名付けてみれば、強いチームと並のチームである。
 試合経過を見れば、このことは即座に理解できる。
 ファイターズのレシーブで試合開始。自陣25ヤードから始まった第1プレーでは、RB中村が中央をついて4ヤード前進。続いてQB奥野からWR阿部へのパスでダウンを更新。続く第3プレーでRB渡邊が中央を突破。そのまま61ヤードを独走してタッチダウン。K安藤のキックも決まって7−0とリード。キックオフからわずか3プレー、消費時間でいえば1分ほどで試合の主導権を握った。
 守備陣もこのリズムを崩さない。わずか3プレーで相手をパントに追いやり、相手陣33ヤードから再び攻撃権を手にする。
 これに呼応して攻撃陣も勢いよく攻め込む。奥野から阿部やWR鈴木へのミドルパスが続けさまにヒット。ゴール前3ヤードに迫ると、今度はRB三宅が左サイドを駆け上がってタッチダウン。
 続く相手の攻撃では、相手がファンブルしたボールをファイターズ守備陣が素早くカバーし、相手陣48ヤード付近で攻守交代。即座に奥野からWR小田へ45ヤードのパスがヒットしてゴール前5ヤード。今度はRB中村が中央を抜けてTD。思わぬターンオーバーで相手守備陣が混乱している隙をついたリズミカルな攻撃でリードを広げる。
 ファイターズ4度目の攻撃も、奥野から阿部へのパスから始まり、RB陣のパワープレー、奥野のキープなどで簡単に陣地を進める。ラインがしっかり相手を押し込んでいるからこそであろう。仕上げはWR鈴木へのパスで4本目のTD。第2クオーターが始まったばかりというのに28−0とリードを広げた。
 この間、守備陣は相手の攻撃をことごとく押さえ、即座に攻撃権を奪回。オフェンスもまた4回の攻撃シリーズをすべてTDで締めくくった。理想の展開であり、強いファイターズという形容がぴったりだった。
 ところが第2Qの途中から、徐々に交代メンバーが出場し、QBも西野に交代したあたりから様子が一変する。パスは通らず、ランも進まない。守備陣も、二人のQBを交互に入れて攻め込んでくる相手に振り回されるようになる。強いチームが並のチームになってしまったのである。
 結局、後半のTDは第4Qに渡邊とRB富永のランで挙げた2本だけ。立ち上がりの勢いのある攻撃はどこへ行ったのか。パスの成功率が一気に下落してしまったのはどうしてか。僕の頭の中には、消化不良のままの疑問がいまも残っている。同時に、こうした並のチームで、無敗で前半戦を切り抜けてきた立命や関大のタレント軍団に対抗出来るのか。そんな疑問が次々と噴出してきた。
 そこで試合後、新聞記者のインタビューの隙を見て鳥内監督に質問。試合の感想と、今後の練習への取り組みなどについて聞いた。
 次のような断片的な言葉が返ってきた。
 「攻守とも、4年生にどれだけの危機意識があるかとうことですね。もっと危機感を持って練習せなあきません」「練習はしているようだけど、それが勝つための練習になっているのかどうか。4年生はいつもそう問い掛け、工夫をしていかなあきません」
 毎年、新たな人材を発掘し、その人材が大事な試合を任せられるかどうかを常に気にかけている監督ならではの言葉だった。
 光藤主将が率いる今季のファイターズは強いチームなのか、それとも本当に強い相手から見たら並のチームなのか。
 僕にはまだ、答えは出せない。分かっているのは、アメフットは先発メンバーだけでは戦いきれないということ。まずは交代メンバーの底上げを図らなければならないこと。そのためには、グラウンドに立つ全員が高い意識と目的を持った練習を徹底すること。日々の練習から本番を想定し、それに向かって全力を出し切ること。そうした点に注目するしかない。
 そう考えた上で、今週末は上ヶ原のグラウンドでの部員の動きをしっかり目に焼き付けてみたい。けがから回復途上にあるメンバーを励ますことも忘れないようにしよう。
 次節から始まる3試合は、チームに属するすべての人間の本気度をあぶり出す戦いである。言い訳は通用しない。やるか、やられるか。そういう戦いである。それに向かって、部員全員がどこまで集中できるか。
 先発メンバーはもちろん、交代メンバーたちの動向から目が離せない。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:03| Comment(2) | in 2018 Season

2018年10月03日

(20)報告を一つ

 先日、自宅に送られてきた関西学院同窓会の「母校通信」と2018年の「ファイターズイヤーブック」に、それぞれ興味深い数字が紹介されていた。
 母校通信では、副学長、小菅正伸副学長と小野宏総合企画部長(ファイターズのディレクターという方が分かりやすいかもしれない)との対談の中で紹介されている「2017年度有名企業400社の就職率」(サンデー毎日調べ)にある関西学院大28.4%という数字である。大学通信の調べでは「トップは一橋大の58.9%で、関学は
全国20位。関西では阪大、京大、同志社に次いで4位」とランクされている。
 これだけでも、鼻が高いのに、ファイターズのイヤーブックでは、東洋経済が調べた2018年度「人気企業300社」に就職したファイターズの卒業生は71%に達していることが紹介されている。同じ調査ではないから、単純に比較することはできないが、大学全体では日本で一番の実績を誇る一橋大よりも、ファイターズの諸君の方が人気企業への就職率が高いというのだ。
 すごい!と驚かれる方も多いだろう。もっと驚くのは、こうした実績を1年や2年ではなく、毎年のように積み重ねていることである。ここ数年はずっと人気企業300社への就職率は7割前後で推移しているというから、就活に四苦八苦している一般の学生にとっては驚愕(きょうがく)という言葉しかないだろう。
 今季、練習と試合の合間を縫って就活を続けてきた4年生の実績(一部、留年中の5年生を含む)の実績も素晴らしい。僕が知るところでは三井物産、東京海上日動火災、三井住友銀行、富士通にそれぞれ3人。三菱UFJ銀行、野村證券、ファーストリテーリング、ニトリに各2人。ほかにも三井住友海上、旭化成ホームズ、帝人フロンティア、三菱電機、富士フイルム、コクヨ、ソフトバンク、池田泉州銀行、キャノン、サッポロビール、第一三共、日本航空、本田技研工業、日立製作所、長瀬産業、住友電工、博報堂DYデジタル、伊藤忠、日本生命、川重商事、新日鐵住金、メタルワン、第一生命、リンクアンドモチベーションなどの人気企業から続々と内定をもらっている。
 来春卒業予定の4年生は45人。うち10余人は留年し、来年の就活に挑むという。その結果、「来春に卒業を予定している全員が内定をもらっています」というから、さすがファイターズというしかない。
 驚くのは、こうした実績をたたき出したのが有名選手だけでなく、マネジャーやアナライジングスタッフ、トレーナー、中高の学生コーチまでを含めた部員全員であること。選手もスタッフも関係なく、全員がファイターズの構成員として練習に励み、自覚を持って就職活動に取り組んできた成果であることが誇らしい。
 一部のスター選手だけに光が当たるのではない。それぞれの部署に分かれ、責任を持ってその任務を果たす中で人間的に成長し、その姿を企業の採用担当から評価されたからこその実績である。ここにファイターズの真価がある。
 もちろん、ファイターズというチームに対する高い評価が大きな力になっていることは間違いない。人気企業に勤めている先輩たちの活躍振りを通じて、ファイターズという組織の底力が評価されたという側面もあるだろうし、後輩のために何かと相談に乗って下さった先輩諸氏のご協力も大きかったに違いない。
 僕も今春、新4年生が就活の準備を始める春休みに、就職希望者全員を対象に「チャーミングなエントリーシートの書き方」というテーマで、勉強会の講師を担当した。希望する部員には、エントリーシートの作成について具体的な指導や添削作業もした。
 その昔、朝日新聞社で入社試験の小論文の採点委員や面接担当を何年も続けた経験と、この10数年、関西学院大学で非常勤講師を務め、「文章表現論」を担当している経験を生かして、懇切丁寧に「内定に直結するエントリーシート」の作成に協力したのである。手間のかかる仕事だが、多少は時間にゆとりのある年寄りならではの仕事でもある。その結果、僕が相談に乗った全員が希望する企業から内定を勝ち取り、僕自身も大きな喜びを手にした。
 そうした時間を通じて、ファイターズの諸君が練習や試合だけでなく、就職活動にも懸命に努力する場面を何度も見せてもらった。これもまた学生スポーツ、課外活動の大事な姿であろう。
 目の前の部活だけに集中するのではない。学業にも、就職活動にも全力で取り組む。今日、一つの山の頂きを極めたら、明日登る山の頂上を見定め、また一歩ずつ歩を進めていく。そうした努力を重ねることで目標の「日本1」という頂上が見えてくる。
 今季、残された時間は短い。その頂上を見定め、さらなる努力、精進を期待する。
posted by コラム「スタンドから」 at 06:46| Comment(1) | in 2018 Season

2018年09月25日

(19)試行錯誤

 試行錯誤という言葉がある。手元の辞書は「課題が困難なとき、何回もやってみて、失敗を重ねながらも段々と目的に迫っていくやり方」と説明している。
 関西リーグの第3戦、龍谷大学との試合を観戦しながら、思わずこの言葉が脳裏に浮かんだ。
 「失敗を重ねながらも」「何回もやってみて」という点ではその通りだった。初戦から指摘されてきたつまらない反則が出ていたし、パスもなかなか通らない。ランプレーが思うように進まない場面があったし、レシーバーが手の届く範囲のパスを落とす場面もあった。交代メンバーが出場してからは、ラインが割られる場面も何度か見掛けた。
 前半から大きくリードしていたこと、守備陣が終始安定していたこと、そして相手ディフェンスの動きのよかったことなどを割り引いても、正直にいえば「これで上位チーム、とりわけ立命に通用するのだろうか」と心配になるような内容だった。
 もちろん、個々のプレーでは見るべき点がいくつもあった。立ち上がり、いきなりロングリターンを決め、相手守備陣を驚かせたWR小田の快走。そこでつかんだチャンスにきっちり44ヤードのFGを成功させたK安藤の安定感。相手の攻撃を立て続けに3&アウトに仕留めた守備陣の活躍。一気に左サイドを駆け上がってTDを決めたRB渡邊の快足。さらにはゴール前ショートの場面で、3回連続でTDを奪ったRB中村のすばしこい動き。
 レシーバー陣では小田と阿部がスピードとセンスの良さを見せつけたキャッチを重ね、いまひとつ球筋の定まらないQB西野を大いに助けた。1、2戦目で不安定な場面を見せたOLも、この日はしっかり前に押し込んでいた。久々にパントのリターナーに入ったWR尾崎も思い切りのよいプレーで陣地を進めた。
 ディフェンスでは1列目の寺岡、青木、藤本、板敷が安定した動きを見せ、2列目、3列目も相手にロングゲインを許さなかった。1年生のDL青木、LB赤倉、DB北川らもはつらつとした動きを見せた。
 このように書いていけば、どこが「試行錯誤」だ、どこが「失敗を重ねながらも」だ、といわれるかもしれない。
 けれども、現場で観戦している僕の目は、この日の対戦相手の向こうに立命や関大、京大を見ている。強力な立命の守備陣を相手に同じようなプレーが成功するのか、立命のオフェンスを向こうに回して、守備陣はこの日のように自由自在に動けるのだろうかと考えている。一つのミス、一つの反則が命取りになるのではないかと怖れている。
 そういう視点で見ると、得点は38−0、総獲得ヤードは406ヤード対101ヤードと、ともにファイターズが相手を凌駕(りょうが)していても、まったく気持ちが落ち着かない。不要な反則が3回、ファンブルも3回(そのうち攻撃権を失ったのが2回)という数字が、その不安に拍車をかける。「失敗を重ねながら」という言葉そのものではないかと思ってしまうのである。
 問題は「失敗を重ねながらも」「段々と目的に向かっている」かどうかという点にある。初戦で出た反省点が生かされているか。2戦目で出た反省点はクリアできたか。先発で出場したメンバーだけでなく、交代メンバーの力はどこまで上がっているのか。勝敗の行方が見えてからのプレーではなく、攻撃も守備も、拮抗した場面でどこまで力を出し切れたか。そうした点を自分に問い掛けながら、「段々と目的に向かっているかどうか」をチェックしなければならないと考えているのである。
 僕にはまだ、その答えは見えてこない。これからの練習への取り組みと、4戦目、5戦目と続く試合の中で見ていくしかないと考えている。
 その意味では、選手、スタッフはリーグ戦3戦目までの戦い振りを丁寧に分析し、良い点、悪い点、改良すべき点をすべて洗い出すしかない。評価すべき点は評価し、改良すべき点は改良していかなければならない。それができるかどうかによって、今後の命運が決まる。勝っておごらず、失敗にくじけず、目の前にある問題点を一つ一つ乗り越えていくしかないのだ。
 そうすることで初めて「段々と目的地に向かっていける」。がんばろう。もう1段も2段も上のステージを目指し、努力を続けようではないか。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:20| Comment(5) | in 2018 Season

2018年09月18日

(18)桑田真澄氏の講演

 先日、和歌山県田辺市で桑田真澄氏の講演会があった。氏は全盛期のPL学園で1年生からエースとして活躍。その後、プロ野球の巨人に進んで輝かしい実績を残した投手である。40歳近くなってから大リーグに挑戦し、けがを乗り越えてメジャーのマウンドを踏んだ実績も持っている。
 僕は、氏が見事に復活し、カムバック賞を受賞した2002年秋、氏が師匠と仰ぐ武術家、甲野善紀さんとの縁で氏を取材し、朝日新聞の「一流を育てる」という連載で3回にわたって紹介したことがある。
 一方、甲野さんのことは、このコラムでも何度か紹介している。親しくファイターズの練習にも顔を出し、武術的な身体操法を披露しながら、それをアメフットに応用する可能性を選手やコーチとともに考え、ヒントをくださっている武術家である。いわば、桑田さんとファイターズの諸君は、同じ師匠に連なる兄弟弟子といってもよい関係にある。
 そういう人の講演会である。何をおいても聴講しなくてはと、主催した田辺ロータリークラブの方に頼んで話を聴かせてもらった。
 講演は、期待以上に素晴らしかった。
 「野球からは、素晴らしいことをたくさん経験させてもらいました」。そう語り始めた氏は、続けて「僕の人生は、挫折という言葉がふさわしい」。そういって、一つは小学校低学年のころから学校の勉強についていけずに苦しんだこと。もう一つは、中学校3年生の時には出場した全ての大会でエースの座を守り、その全てで優勝という実績を上げてPL学園に入ったが、環境の違いから思うように投げられず、3カ月後には、学校を辞めようというところまで追い込まれたこと。この二つの挫折体験を話し始めた。
 6月のある日、「おかん、僕はもうやっていけんわ。学校を辞めようと考えてんねん」と母親に相談したが、「もうちょっと頑張ってみたら……。あんたらしくやったらエエねん」と慰め、激励されて何とか踏みとどまったという。
 そうした話の展開からは、これは僕の思い過ごしかもしれないが、思わず聴く方も昨今、何かと話題になっているスポーツ界のいじめや暴力的な指導法の片鱗がうかがえたような気もした。
 閑話休題。
 さて、そのピンチを桑田氏はどう乗り越えたのか。ここからがファイターズの諸君にとっても参考になる話だと思い、概略を紹介させていただく。
 授業について行けない、という問題点を克服するためには授業を集中して聞くこと、宿題は授業の間の休み時間に終わらせること。この二つを徹底し、短時間集中型の勉強法を身につけることで突破したという。集中的に勉強することで分からない点、理解が行き届かない点が明確になり、それを周囲の仲間に聞くことで一つ一つ理解する。それによって一気に成績が上がってきたという。成績が上がると自信が付き、さらに集中して勉強することが出来るようになる。そうした循環で中学校入学当初は学年で200番以下だった成績がぐんぐん伸び、ついには一桁台になったという物語を紹介してくれた。
 もう一つの取り組みが練習のやり方。「自分らしくやること。自分の信じたことを実行すること」。この覚悟を持って練習に臨むことで、ぐんぐん調子が上がり、1年生の夏の大会前にはエースの座をつかむことが出来たそうだ。具体的には、時には肩を休めるために監督に申し出て「ノースロー」の日を設け、代わりにその日は徹底的に走り込んで足腰を鍛えたという。それによって投球内容が安定したから監督からも信頼され、練習法にはある程度の自由を与えられるようになったそうだ。
 とりわけ興味深かったのが、二つの挫折体験から努力すること、行動することで授業が分かるようになり、野球にも自信が付いたという話だった。「努力ってすごいな、楽しいな、という成功体験が生きる力になった」という桑田氏の言葉に共感し、思わず拍手を送った。
 「君らが日本一になりたいいうから、僕らは手伝っているだけ」(鳥内監督)というファイターズとは別次元の話だが、多くの部活では、指導者は教わる側よりも、教える側の立場を優先しがちである。けれども、その前に指導を受ける側の自発性にもっと期待してもよいのではないか。「努力ってすごいな、楽しいな」と、教わる側が心から思えるような指導法に目を向けることである。
 それはグラウンドでの練習に限らない。練習後のダッシュ10本でもよい。読書でもよい。毎日、5行の練習日記を書かせてもよい。教わる側がそれを続けることで自信を持ち、成長へのエネルギーにしていけるような「何か」なら、何でもよい。
 指導者がそういう指導法にも目を配れるようになったとき、教わる側にも何かの化学反応が起き、一気にプレーヤーとしての能力も開花するのではないか。過去のファイターズで、平均的なレベルと見られていながら、ある日突然、飛躍的な成長を遂げ、大活躍した選手は、みんなそんな体験を持っているのではないかと僕はにらんでいる。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:27| Comment(2) | in 2018 Season

2018年09月10日

(17)ゲームを見る目

 関西リーグ第2戦は8日の夕方5時にキックオフ。夜間照明の下で始まったが、王子スタジアムの照明は暗い。その上、グラウンドは雨で濡れているし、試合中も雨が降ったり止んだり。なかなかの悪条件で始まった。
 それでも試合は熱かった。まずはファイターズのレシーブで始まった第1シリーズ。自陣25ヤードからの攻撃だったが、第1、第2プレーともに通らず、第3ダウン10ヤードという苦しい立ち上がりだったが、ここでこの日も先発したQB奥野がWR阿部にピンポイントのミドルパスを通してダウン更新。次の攻撃も同じく阿部にパスを通して14ヤード。一つ奥野のキーププレーを挟んで再度、阿部にミドルパスをヒットさせ、あっというまにゴール前18ヤード。ここからはRB三宅のラン、同じく中村のランで陣地を進め、残り1ヤードを中村が走り抜けてTD。K安藤のキックも決まって7−0。
 次の神戸大の攻撃を守備陣が完封して再びファイターズの攻撃。今度も奥野から阿部へのパスで活路を開き、さらには久々に登場したWR小田へのパスを立て続けにヒットさせて再びゴール前。今度は中村が中央に見事なダイブを決めて14−0。2度の攻撃シリーズを2度ともTDで締めくくる完璧な立ち上がりだった。
 しかしながら、ここからがもたつく。QBとレシーバーの呼吸が合わず、せっかくレシーバーが相手を抜き去っているのに、肝心のパスが短く、相手に奪われてしまったり、捕ればそのまま走り切ってTDという場面をつくりながら胸に入ったボールを確保出来なかったり。投げる方にも受ける方にもミスが出て、決定的なチャンスを2度も失う。
 ファイターズが自滅しそうな場面だったが、今度は守備陣が奮起。DB畑中が見事な個人技で相手パスを奪い取って再び相手陣31ヤードからの攻撃。ここで、ファイターズRB陣で一番のスピードを誇る渡邊がドロープレーからのランで一気にゴールまで走り込んでTD。自滅に近い形で相手に渡した試合の流れを一気に取り戻した。
 第3Qに入ると、ファイターズQBは西野に交代。初戦ではレシーバーとして出場してほとんど活躍の場面がなかったが、この日は本職のQBとしての登場である。自陣40ヤード付近からの攻撃だったが、立て続けにキーププレーで連続のダウン更新。相手がQBのランを警戒したと思えば次はWR小田へのロングパス。それを半身になりながら小田が好捕。わずか3プレーでゴール前5ヤードに攻め込んだ。浮き足立つ相手を尻目に、ここはRB三宅が走り込んでTD。28−0とリードを広げる。
 こうなると、試合はファイターズのペース。次々と交代選手を投入して試合の雰囲気に馴染ませる。期待の1年生諸君も次々と登場し、結構な動きを披露してくれたのが頼もしかった。とりわけ目立ったのは、ランプレーのたびにボールキャリアになり、相手のディフェンスをパワーで突破して2度のTDを決めたRB前田(高等部)。彼は高校の頃から注目されていた選手だが、大学に入って一段と力を付け、同じポジションの先輩、山口の交代要員の候補の一人になっている。
 OLではセンターの朝枝(清教学園)。彼は学年で1番の元気印で、JV戦でもOLの中心になって士気を鼓舞していた。この日も4年生のように頭をつるつるにそり上げて登場。気合いの入ったところを見せつけた。2番手のリターナーとして起用された鏡味(同志社国際)も、小柄だが気持ちの勝ったプレーで存在感を発揮した。
 ディフェンスで目に付いたのはDLの青木(追手門)、LBの赤倉、北川(ともに佼成学園)、DBの竹原(追手門)。それぞれがしばしばプレーに絡み、1年生とは思えないほどのセンスの良さを見せてくれた。北川にいたっては2試合連続のインターセプト。ともに試合の行方が決まってからのプレーだったが、フットボールセンスの良さを見せてくれた。
 試合は42−0。ファイターズの完勝と見えたが、この結果に対する監督やヘッドコーチの評価は素っ気なかった。
 「相手の守備陣を考えたら、これぐらいできて当たり前。問題は、立命の守備陣を相手に勝負できるかどうか。まだまだ鍛えなあきません」と鳥内監督。大村ヘッドコーチからも「相手が疲れてからのプレーは参考になりませんよ。こんなんでいい気になっていたら痛い目にあいます」という言葉が返ってきた。
 スタンドから試合を眺め、その展開に一喜一憂している僕と、リーグ戦のこれからを見据えて、現状を冷静に分析する監督やコーチ。立場の違いといえばそれまでだが、常に足りない所に目を向け、それを克服するためにはどうするか。あるいは、いまは目に見えていない選手の潜在的な可能性を見つけ、その長所をどうすれば生かせるか。そういった点に焦点を当て、一瞬の油断もなく試合展開を見つめ、知恵をしぼっている人々。そうした存在がこのチームを支えているのである。
 スタンドから眺めている僕にとっても、ゲームを見る目が1段階上がったように思える試合後の談話だった。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:57| Comment(4) | in 2018 Season