2009年06月08日

(10)新任コーチが見た景色

 今年のファイターズで、一番変わったことは何か。
 もちろん、学年が新たになり、選手の顔ぶれは一新された。1年生にも有望なメンバーがたくさん入ってきた。けがで苦しんでいた上級生が練習に復帰し、みんなとグラウンドで練習できるようにもなっている。
 それはしかし、毎年、年度が変わるたびに繰り返されていることである。
 そういうことではなく、もっと根本的なところで劇的に変わったことがある。フルタイムのコーチとして、新たに大村和輝氏(1994年卒)が就任したことである。彼が毎日、グラウンドに顔を出すようになって、いろんなことが変わったことを実感する。
 ファイターズにはこれまで、1日中、選手につきあってくれるコーチはいなかった。
 鳥内監督には早朝の家業があり、専任コーチはトレーニング担当の油谷コーチ以外は全員、大学の職員として、重責を担って活躍しており、グラウンドに出てくるのは、毎日の仕事が一区切りついてからになる。朝からファイターズのために時間の使えるコーチはいなかった。
 ライバルと目される強豪チームがそれぞれ、豊富なコーチングスタッフを抱えているのと比べると、部外者には想像できないほどお寒い状況だったのである。毎年、日本一を争う強力なチームがこうした環境からつくられることは、ある意味で感嘆すべきことだが、いつまでも、その状況を放置しておけないことはいうまでもない。フルタイムのプロコーチを招くのは、チームの悲願だった。
 では、大村コーチが就任して、何が変わったのか。それはおいおい、このコラムでも書かせていただくつもりだが、その前に、大村コーチの目に映ったファイターズの風景とはどんなものだったのか。インタビューをもとに紹介したい。
 ――ファイターズに戻って、最初に感じられたことは。
 練習内容が昔と変わっていることにびっくりしました。私たちの時代には大事にされていたことが大事にされていないのです。ひとつは、最後までやりきることがやりきれていない。私たちは「ラストを終わる」といって、最後をきちっと締めくくることが徹底されていましたが、いまはそれがユルくなっている。にもかかわらず、部員同士でそういう状況について、厳しく要求しあわなくなっている。そのユルい空気に驚きました。
 練習メニューはこなしているのですが、それを何のためにやるのか、という焦点がぼけている。なのに、その点をきちんと指導できる4年生が少ない。一番いけないパターンですね。気合を入れろという上級生はいるけど、具体的に何をどうしたらいいのか、ということが指摘できていない。分からなければ考え、試行錯誤をしながらもがけばいいのに、そこまでやる上級生がいない。具体的な指摘ができないから練習メニューをこなしても、それが上達に結びつかないのです。
 ――練習時間はどうですか。
 短いですね。週に3回練習して、週に3回の筋力トレーニング。全体練習も60分から70分。それにキッキングの練習が加わるだけですから。だからこそ練習前、練習後の時間が大事になるのに、それが十分に利用できていない。取り組みがユルいのです。下手やのに、なんでもっと練習せえへんのん、下手すぎるやろ、と歯がゆくなります。
 それと、試合を意識するというか、勝つための練習ができていない。まじめにトレーニングはするのですが、その成果を試合に生かし切れていないのです。
 ――指導にあたって注意していることは。
 根本的なことは「最後までやりきること」ですね。すべてのプレーを最後まで「フィニッシュ」すること。どういうフィニッシュをするかについて選手と話す過程で、選手自身のプレーのイメージが必要になってきます。これは着任してすぐ、新谷(主将)に指摘しました。いまは劇的に改善されています。
 もう一つは「言い過ぎないこと」です。でも、これは難しい。4年生がきちんとみんなに指摘し、要求できるようになればいいのですが、それまでは私がいうしかない。いまは毎日、私が担当しているWRとOLの4年生を部屋に呼んでミーティングをし、ビデオを見ながら細かいことまで指摘しています。
 ――フルタイムの指導ということですが、どんな日課ですか。
 毎朝、9時半ごろに大学に来て、前日の練習ビデオを見直します。練習ビデオは毎晩、寝る前に見ていますが、それを朝、もう一度見るのです。11時ごろからWRの4年生とミーティング。それを半時間ほどで切り上げて、引き続きOLの4年生とまたミーティングです。ビデオを見ながら細かい所まで注意するので、時間がかかります。
 その後、昼飯を食べて、監督と簡単な打ち合わせをしたり、時にはミーティングをしたりしした後、3時にはグラウンドに出ます。8時ごろまで練習し、簡単なミーティングをして帰宅は9時ごろ。休みはチームがオフの日だけです。
 ――最後に、いまのチームに望むことは。
 学生がどれだけ本気で勝ちたいと思えるようにするか、ですね。アメリカのように「コーチが絶対」というのではなく、関学はあくまで学生が主体になって強いチームを作ってきました。人間教育という部分についてのアプローチでも、このチームは優れています。それを尊重しながら、プロのコーチとしてどうかかわれるか、毎日が試行錯誤です。
 でも、選手は徐々に変わってきています。パフォーマンスも上がってきています。下級生にも、明らかにうまくなってきているメンバーがいます。まだまだレベルは低いし、物足りないし、寒い試合が続いています。試合でも結果が出ていません。けれども、個々の選手が「オレがやったんねん」という気持ちになれば、一気に伸びますよ。基本的に、みんな真面目なヤツですから。泥臭く練習していけば、可能性は十分にあると思っています。
 ――ありがとうございました。
posted by コラム「スタンドから」 at 16:48| Comment(2) | in 2009 season

2009年06月02日

(9)冷酷な現実

 2度あることは3度ある、とはいかなかった。5月30日のアサヒ飲料チャレンジャーズ戦のことである。
 5月に入ってから組まれた日大と京大の試合は、ともに攻守とも相手に主導権を握られ、圧倒された。試合そのものは何とか勝つことができたが、スタンドから見ていても、勝てたのが不思議なくらいだった。相手がここぞというときに決め手を逃してくれたからだろう。
 しかし、この日の相手は違った。立ち上がりから容赦なくファイターズに襲いかかり、攻守ともに力の差を見せつけた。攻めてはファイターズのラインを押しまくり、QB井川が次々と余裕のパスを決める。あれよあれよという間に先制のTD。続けて、2本目のTDも簡単に決める。
 守っても、和久や石田を中心にした1列目がファイターズOLを圧倒、力とスピードでラインをずたずたに引き裂いていく。ファイターズは、攻めの糸口さえつかめない。先発したQB加藤のランの記録が5回のラッシュでマイナス32ヤード。この数字を見ただけでも、いかにラインが押しまくられていたかが分かるだろう。
 突然の雷鳴で試合が中断。後半の開始が40分ほど遅れたが、事態は少しも変わらない。QBは浅海に交代したが、ラインがたびたび割られ、思うようにプレーをさせてもらえない。逆に相手には2本のTDと1本のフィールドゴールを決められ、4Q半ばでついに24−0。屈辱の完封負けという姿まで視野に入ってくる。
 ようやく、4Qも半ばを過ぎて、河原が39ヤードのランで活路を開く。これで元気の出たオフェンス陣が踏ん張り、浅海と稲村のランでゴール前23ヤードまで陣地を進める。ここで浅海が左のオープンスペースを駆け上がったWR萬代に絶妙のパスを通し、ようやくTD。スタンドの観客もほっと一息である。
 余談になるが、この4年生コンビは、このプレーの直前にも、まったく同じコースのパスを投げ、失敗に終わっている。同じ失敗を2度は繰り返さないという気持ちのこもったプレーを成功させてくれたことが、敗戦の中で唯一、うれしいことだった。
 話を戻す。せっかく一矢を報いたが、ファイターズの反撃もここまで。逆に、今春までファイターズで活躍していたQB幸田に67ヤードのロングパスを決められ、万事休す。31−7の完敗となった。
 この試合は、試合前から楽しみだった。相手のメンバー表を見ると、懐かしいファイターズの卒業生が多数、名を連ねている。背番号の若い順にRB古谷明仁、QB有馬隼人、QB幸田謙二郎、DB池谷陽平、DB山本幸司、DB星田光司、LB河合雄輝、LB毛利匡宏、DL石田貴祐。実に9人にも上る。普段、練習にも顔を出し、後輩の指導もしてくれるこの面々と、まともにぶつかり、どこまで「恩返し」ができるか、注目していた。
 だが、期待はもろくも裏切られた。ファイターズOBがはつらつとプレーしているのに、現役はそれに対抗できない。攻守とも好き放題にラインを割られ、それになすすべもない状態。ときおり相手の裏をかいたRB久司へのショベルパスやWR松原へのパスが通るが、その攻撃が続かない。
 ようやく終盤になって、相手がメンバーを交代させ、ファイターズも攻守に若手やこれまであまり試合に出ていなかったメンバーを投入してから、ようやく試合が落ち着いた。なかでも、1年生のOL和田(箕面)、DL金本(滝川)、梶原(箕面自由)、4年生のDL三村、LB吉川(よしかわ)、2年生のLB辻本らの動きは、先発メンバーと比べて、少しも遜色がなかった。
 それにしても、1年生やこれまでけがなどで試合に出ていなかったメンバーが出てから試合が落ち着くとはどういうことだろう。先発メンバーに、控えのメンバーを圧倒するほどの力がないということか。ドングリの背比べといっては失礼だが、上級生といっても、下級生を圧倒するだけの突出した力を付けていないということか。チーム内の競争がないから、いつまでたっても強力チームに対抗できる人材が育たないということか。
 この日の試合で白日の下にさらされたのは、社会人の一流チームには、手も足も出なかったということである。個別に素晴らしいプレーはあっても、それを得点につなげるチームとしての力が備わっていなかったということである。日大や京大との戦いでも、その点は明らかだったが、この試合に完敗したことで、その実態が明確になった。「日本1を目指すなんて、口にするのはおこがましい」と鳥内監督がいう通り、現在の実力の程度が天下にさらされたのである。
 さあ、どうする。
 自分で立ち上がるしかない。デフェンス、オフェンスの別なく、グラウンドで戦うすべてのメンバーが「オレがファイターズを引っ張る」という気構えを持って、鍛錬を続けるしかない。誰も助けてくれないのである。
posted by コラム「スタンドから」 at 17:40| Comment(3) | in 2009 season

2009年05月20日

(8)2週連続の厳しい試合を糧に

 京大は強い、というのが試合後の正直な感想だった。いま振り返っても、どうして勝てたのか、不思議な気がする。
 5月17日。新型インフルエンザ騒ぎの渦中で行われた京大戦。ぽつぽつと雨の降るエキスポフィールドは、初夏とは思えないほど寒かった。
 試合内容も、観戦されたファイターズファンのほとんどが「寒い」と受け止められたのではないか。試合の記録を見れば、京大の攻撃はパスが186ヤード、ランが210ヤードで計396ヤード。それに対してファイターズは82ヤードと168ヤードの計250ヤード。ダウンの更新回数も京大が20回でファイターズは15回。おまけにファイターズは、ファンブルで2度、インターセプトで2度、計4回も攻撃権を失っている。攻撃のプレー数も時間も、圧倒的に京大が上回った。
 あまりにも初歩的なミスでフィールドゴールをブロックされた場面を含め、スタンドのファンからブーイングが出たのも理由のあることである。
けれども、どんな事柄だって、見方を変えれば、また違う景色が見えてくる。例えば「京大はわれわれが思っていた以上に力を付けていた」ということを、冷静に受け止める視点で見れば、苦しかったあの試合の見方も変わってくるはずである。
 実際、下級生のころから試合に出続けて経験を積んでいる京大DB陣の動きは素晴らしかった。ファイターズの誇るWR陣をぴったりマークし、なかなか付け入る隙を与えてくれない。小野コーチが「間違いなくここ数年の京大では、一番強力なチーム。ベンチも関学のパスオフェンスを研究し尽くしている。われわれも考え直さなくては」と舌を巻いたほどだ。
 動きがよかったのは山口、又賀のLB陣も同様である。浅海の低いパスを地面すれすれでかすめ取った又賀のプレーなんて、素早さでは定評のある立命のLBも顔負けだった。
 オフェンスも力強かった。下級生のころから先発しているQB桐原は自信たっぷりにパスを投げるし、それを受ける中村、坂田のWR陣も、昨年から京大オフェンスのキーマンとして活躍してきた選手だ。厄介なことに、今年は中央を突いてくるRB曽田のランプレーが効果的に決まり、なかなか止められない。
 「急所でダブルチームされ、自由に動かせてもらえなかった。1対1では負けていないと思うのですが」と、先発した関学DLの一人が嘆くほど、よくデザインされたランプレーであり、関学ディフェンスを圧倒した。
 こういう強力な相手に、しかし得点は14−10。ファイターズが上回り、勝利をもぎ取った。応援席のファンからは異論が出るかもしれないが、僕は「よくがんばった」と褒めていいのではないかと思う。
 もちろん、立命に勝つ、日本1になるというチームの目標から考えれば、立命に大敗した日大になんとかせり勝った、京大にもギリギリの接戦をしのいで勝った、といって満足するようなことは許されない。古いOBやファンから厳しい叱声が飛ぶのは当然であろう。
 けれども、そんなに苦しい試合でも、負けなかったことは事実である。大所帯であるがゆえに、試合経験の少ない選手たちが懸命に踏みとどまり、苦しい試合を逆転につなげたことは評価してよいと思う。
 こういうことを書くと、OB会長の奥井さんあたりから「甘い。もっと厳しく書いて」と叱られそうだ。けれども、お叱りは承知の上で、あえて書かせていただく。
 この日の先発メンバーには、昨季は控えに回っていた選手が大勢いる。DLなんて、昨年のこの時期には、練習に参加するのがやっとだった東元、長島、佐藤の2年生トリオがスタメンだ。3年生の村上も含めて、いまが伸び盛りだが、みんな試合で経験を積んでいかなければならない選手ばかりである。
 攻撃も、QBの浅海をはじめ、ラインの村田や高田はほとんど試合に出ていなかった。副将の亀井もけがで試合に出ることは少なかったし、2年生の谷山もその才能を発揮するのはこれからだろう。バック陣を見ても、素晴らしいスピードを持っている2年生の松岡や、この日45ヤードの独走をした久司、日大戦で24ヤードの逆転TDランを決めた稲村の3年生コンビも、昨季はほとんど試合に出ていない。
 こういう面々が、日大や京大という厳しい戦いをしてくるチーム相手に活躍。負けない試合をした。このことは、素直に評価してもいいのではないか。問題は、彼らが今後、日大戦や京大戦で明らかになった課題の克服にどう取り組むかである。2週連続の厳しい戦いを糧に、さらなる精進をしてもらいたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:15| Comment(3) | in 2009 season

2009年05月12日

(7)日大戦の収穫

 駆け出しの新聞記者として、事件現場を走り回っていたころの話である。
 締め切り時間ギリギリになって、どうしても掲載しなければならない事件や事故が起きることはよくあった。締め切りまで10分とか5分、ときには締め切り時間を過ぎているのに「勝負」を挑まなければならない事も再三だった。
 そんなときは、当然のことながら、悠長に原稿を書いていられない。事件現場で見たこと聞いたことを、メモ帳を片手に原稿に仕上げながら電話か無線で送稿する。極端な場合、メモ帳が白紙でも、原稿にして送らなければならない。勝負は新聞に載るか載らないか。たとえ10行の記事でも、載れば勝ち。載らなければ負けである。その現実を前にしては、どんな言い訳も通用しない。
 こういう場合に送稿する原稿を、社会部の記者は「勧進帳」と呼んでいた。あの弁慶が安宅の関で、白紙の巻物をさも立派な内容が書かれているように見せかけて読み上げた、歌舞伎の名場面にちなんだ命名である。
 僕は緻密な原稿は苦手だったが、火事場のバカ力というか、事件現場での瞬発力はあったので、この手の修羅場になると、結構、力を発揮した。競争する各社の若手記者と「ヨーイ、どん」でスタートしたときに負けた覚えはない。勧進帳で送った原稿の方が、じっくり書いた原稿よりよく書けていると、不本意な褒められ方をしたことも少なくない。
 前置きが長くなった。
 実は先日の日大戦の試合の模様をメモしたノートを、西宮の自宅に忘れてきたのである。いまは紀州・田辺の仕事場でこのコラムを書いているが、肝心の試合の進行をメモしたノートがないので、かすかな記憶を頼りに、いわば白紙の「勧進帳」で、書き進めなければならないのである。週末に西宮に戻ってから書こうかとも考えたが、日大戦の報告を心待ちにされているファンも多い(だれも待ってない、ってか)と思うので、あえて書かせてもらう。記憶が間違っていたら「ごめんなさい」である。
 両校が赤と青のジャージを着て対戦するのは関西では14年ぶりという。日大のレシーブで始まったこの試合、立ち上がりは全くの互角。日大はデカくて速くて強いラインの圧力を生かしてぐいぐい攻めてくるし、ファイターズはQB加藤の短いパスとRB河原の切れのよいランで活路を開く。
 膠着状態のまま迎えた第1Q8分24秒。日大のミスにつけ込んで陣地を進めたファイターズが、加藤からWR萬代へ絶妙のスクリーンパスを決めてTD。まずは先手をとる。
 しかし、ファイターズが主導権をとったのはここまで。後は日大の怒涛の攻めが続く。第2Qから第3Q前半までは、それでもDBの頼本や善元が急所でインターセプトを決め、なんとか得点を与えなかったが、ついに第3Q8分16秒にFG、11分16秒には相手QBにTDを決められ、逆転された。
 攻めてはオフェンスラインが割られ、QBがパスを投げる余裕がない。守っては、体格に勝る相手OLの圧力を食い止められない。DLの平澤や村上の素早い動きと、副将古下を中心にしたLB陣の奮闘で追加点こそ許さなかったが、ファイターズにとってはつらい状況が続く。
 それでも、後半から交代したQB浅海を中心に必死の反撃を続ける。WRの松原や柴田、和田らにピンポイントのパスを通し、何とか活路を開く。タイムアウトで時計を止めながら、我慢、我慢のプレーで陣地を進め、やっとフィールドゴールを狙える場所まで漕ぎ着ける。残り時間は1分13秒。せめてもう3ヤードから5ヤードは進めてほしいと思った場面で、浅海からRB稲村にハンドオフ。ここで稲村が相手守備陣を巧妙に交わして右オープンを駆け上がり、24ヤードのTD。逆転に成功した。
 14−10。かろうじて勝負には勝った。けれども、ファーストダウンの数でも、獲得ヤードでも、ファイターズは日大に及ばなかった。現場で観戦していても、勝利を喜べるような雰囲気ではなかった。古いOBからは罵声が飛ぶし、試合後の鳥内監督の発言も、まるで敗軍の将の言葉だった。
 記者団の質問に、監督は「相手はキャプテンも出してないし、エースQBも出してない。それでも押しまくられている。立命に勝ち、社会人に勝とうというなら、まずは戦えるパワーをつけなあきません。練習方法から見直します」と答えていた。完敗と認めるような発言だった。
 けれども、そんな試合であっても、収穫はあった。前半の加藤、後半の浅海という二人のQBが必死に試合を作ってくれた事である。とくに相手がリードし、勢いに乗っていた後半を担った浅海がよく我慢した。失敗しても失敗してもパスを投げ、自ら走り、必死に攻撃権を繋いだ。相手の厳しい圧力を交わしながら、長いパスも何度か決めた。
 3年生の時までは、ランプレー限定のQBと思われていた彼が、必死にパスを投げ続ける姿を見ながら、僕は「失敗してもよい。パスを投げ続けろ。この苦しみがきっと明日の糧になる」と声援を送っていた。
 敗戦に近い勝利。監督はもちろん、古いOBの方々には、満足からはほど遠い試合内容だったと思う。けれども、どちらかと言えばあきらめの早い浅海が、苦しみに耐え、最後までキレることなく攻撃を支配したことが、この日の一番の収穫だったと僕は思っている。
posted by コラム「スタンドから」 at 22:03| Comment(3) | in 2009 season

2009年05月08日

(6)続・ファイターズの深さ

 僕は、自分でも驚くほどの活字中毒である。毎日、どんな状況にあっても活字に触れていないと落ち着かない。朝起きるとまず、新聞に目を通す。昼間は活字に触れるのが仕事の大半である。自分で原稿を書いたり、若い人の原稿に手を入れたりする。新聞記事の編集作業もあるし、校閲作業もする。夜、寝る前には何があっても本を読む。休みの日こそ、原稿を書いたり読んだりはしないけれども、外に出掛けない限りは、朝から寝ころんで本を読んでいる。
 そんなこんなで、年間に読む本は、雑誌類を除いてざっと200冊。このペースは10年前、20年前とほとんど変わらない。
 先日も関西学院大学で仕事中、たまたま手が空いたので、手近にあった「研修紀要2008年度判」を手にとって読み始めた。大学の人事課が発行した冊子で、大学職員が1年間に研修をした成果をレポートにまとめている。森下理事長の巻頭言から始まり、編集委員のあとがきまで155ページの報告書である。多分、実際にレポートを書いた人も含めて、大半の人が途中で放り投げるような堅苦しい内容である。
 僕も「難しそう。でも、ひまつぶしくらいにはなるだろう」という程度の、不遜な考えで読み始めたが、どっこい、読んで驚いた。報告の中に、コーチの大寺将史氏のレポートがあり、それが非常に示唆に富む内容だったからである。それは、スポーツ・文化活動を支援する指定強化クラブ制度について論じた次のようなレポートだった。
 報告書はまず@2006年度から開始されたこの制度によって、指定強化クラブの活動成績は向上しているAラグビー部の51年ぶりの関西リーグ制覇がメディアに再三取り上げられ、大学の知名度向上に貢献しているBスポーツ活動が大学への帰属意識や母校愛の醸成に有益である事を示す日本総研の調査データがある――などの理由を挙げて、とその意義を説く。続いて、カレッジスポーツがチケットやグッズ販売による「一時的な収益」と寄付金による「継続的な収益」をもたらし、大学の貴重な収入源となっているアメリカの例を引いて、大学のブランド価値向上につなげる方策として有効な手段であると結論づける。
 その上で、今後の課題として「活動支援費を関西4私大(いわゆる関関同立)並みの水準まで引き上げること」「構成員の共通理解のもとに実施される制度とするため、指定強化クラブの選考・評価基準を公表すること」を挙げる。そして、2010年度に迎える学院創立125周年事業と連動して「指定強化クラブの活躍→愛校心の醸成→寄付金の獲得→大学の活性化」へとつなげていくことを結びとしているのである。
 堂々たるレポートである。大学間の生き残り競争が激化していく中で、関西学院のブランド力を向上させるための一つの切り口としてすぐにも実施に移すべき内容がしっかりと盛り込まれている。これはまた「高い教養と専門的能力を有する優れた人材を育成する」「深く真理を探究し、新たな知見を創造・蓄積する」という、大学の役割を補完する方策として、早急に取り組むべき課題であるともいえよう。
 ことは、大学当局だけにとどまらない。「愛校心の醸成」→「寄付金の獲得」という観点から言えば、関西学院につながるすべての人間に呼びかけた提言でもある。
 この「紀要」には、他にもアシスタントディレクターの宮本敬士氏がレポートを寄せているし、職員交流研修に来日した中国・蘇州大学の研修団を前に、関学の国際教育交流事業について説明する伊角富三ディレクターの写真も掲載されていた。巻末の職員研修の講師陣の顔ぶれを見ていけば、関西学院の新基本構想策定の中心を担った小野宏コーチの名前が最初に載っている。
 多士済々とはこのことである。ファイターズのコーチやスタッフは、グラウンドでファイターズを指導し、部員を育て、チームを強くしているだけではない。本業の学院職員としても、その屋台骨を支えて、それぞれがめざましい活躍をしている。ここに名前を挙げなかったコーチやスタッフも含め、ファイターズの指導者は、本業の方でも大いに頼りになる存在として認められているのである。
 こういう話は、内輪褒めのようで、あまり書きたくはないのだが、こういう人材を擁しているのもまた、ファイターズというチームの奥行きの深さである。そのことを知ってもらいたくて、あえて紹介した。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:49| Comment(0) | in 2009 season

2009年04月27日

(5)ファイターズの深さ

 ファイターズというチームにつきあっていると、折りに触れて、その懐の深さを思い知らされることがある。
 先日、送られてきたOB会報「Fight On」の最新号を読んでいたときにも、そのことを実感させられた。
 一つは『イチローの流儀』(新潮社)の著者として知られるスポーツライター、小西慶三氏(89年卒)が寄せられた文章である。
 小西氏は、共同通信の記者だったときから、イチロー選手の取材を担当。すでに、その取材歴は15年になり「イチローの試合を世界で一番見ている記者」である。イチロー選手が最も信頼を寄せている記者としても知られており、その交友の一端は『イチローの流儀』にも書かれている。
 会報に小西氏は、イチロー選手の取材にまつわるエピソードを紹介し、その困難な取材を支えているのが「ファイターズの4年間に行き着く」と書いている。「できる限りの準備をしても、次のヒットが打てる保証はない。だからバッティングは楽しい」というイチロー選手の言葉を引用し、現役プロ野球選手の中で、最も繊細で周到な準備を怠らない彼が、努力と結果が常に直結しないからこそ野球は面白いと感じていることに、心からの共感を寄せている。
 そして「報われるかどうか分からない。けれども、それでも最善を尽くして現実と向き合うことがファイターズの基本原理であり、それがファイターズの歴史を築いてきた」と書く。
 「これだけの練習をこなせば、あの強い立命を倒せる」というように、努力の報酬が前もって分かっていたとすれば、それはそれでありがたいのかもしれない。けれども、一方でそのように結果が約束されていることが、果たして4年間を賭けるに値するチャレンジなのか、とも書いて、たとえ準備と結果が直結しないとしても、最善を尽くして努力することこそがファイターズの基本原理であり、ファイターズで活動することの意義であり、楽しさだと説く。
 短い文章だが、読む者の心に響く。さっそく僕が本業としている和歌山県の地方紙、紀伊民報のコラム「水鉄砲」にも取り上げさせていただいた。
 もう一つは、御所市長になった東川裕氏(84年卒)が同じOB会報でインタビューに答えている言葉である。
 「ファイターズで培ったものが(市長の仕事に)生かせている部分はありますか」という取材者の質問に「ファイターズで学んだ生き様、プライドの精神は、まちづくりでも同じだと思います(中略)悩んだときには、これがファイターズにいたときやったらどうするか考えるんです。小野やったら、安藤やったら、どうしよるんやろかと立ち返って考えたりします」と答えている。
 「悩んだときにはファイターズ」「小野やったら、安藤やったら」という言葉に、ファイターズの4年間が氏に与えた影響の大きさがにじみ出ている。これまた、読み手の胸を打つ発言である。
 A4判16ページのささやかな会報に、こういう胸を打つ言葉がさりげなく載っている。それぞれの言葉に感動するとともに、こういう書き手を生み出したファイターズという組織の底力というか奥行きの深さに、特別の感慨を覚える。
 今回は、OB会報という、一般のファンの目には触れにくいところに書かれた二つの文章から、そのエッセンスを紹介させていただいた。グラウンドで見るファイターズだけでなく、広くファイターズというチームのことを知っていただく手がかりにしてもらえれば幸いである。
posted by コラム「スタンドから」 at 21:44| Comment(0) | in 2009 season

2009年04月20日

(4)宿題が山盛り

 4月18日、土曜日。いよいよ、春の初戦。恒例の日体大との試合である。新しい学年が始まったばかりであり、チーム練習が始まったばかりではあるが、それでも試合となればワクワクする。理髪店に行って髪を切り、ひげを剃って、すっきりした気分で王子スタジアムに向かう。
 今季はどんな選手が登場してくるのか。昨年活躍した選手たちは健在か。伸び盛りの下級生が一冬を越して、どれほど成長しているのか。体は大きくたくましくなっているか。見どころはいっぱいである。
 ファイターズのキック、日体大のレシーブで試合開始。自陣29ヤード付近から始まった日体大の攻撃は、RB山田のランとQB大瀧のドロープレーを軸に、ぐいぐい進む。立て続けに3度ダウンを更新し、あっという間にフィールドゴール圏内。ようやく止めたと思ったところで、ファイターズにオフサイドの反則があり、4度目のダウン更新。
このピンチは、相手のフィールドゴールが失敗して、なんとかしのいだが、不安な立ち上がりである。
攻撃も、リズムに乗れそうで乗れない。先発QB加藤からWR松原へのパスやRB河原のランで、連続してダウンを更新したが、日体大のDLの厳しい突っ込みをOLが支えきれない。一進一退で第1Q終了。
 第2Q入っても膠着状態は続いたが、日体大のパントをRB稲村が大きくリターンして活路を開く。相手陣45ヤードから始まった攻撃シリーズを河原のラン、加藤からRB久司へのパスでつなげ、残り17ヤードを河原が一気に走りきってTD。K高野のキックも決まって、やっとチームが落ち着く。
 次の日体大の攻撃シリーズを、LB福井のインターセプトで絶ち切り、再びファイターズの攻撃。相手陣35ヤード付近から始まった攻撃をランとパスを織り交ぜてリズムよく進め、仕上げは加藤からWR萬代へのスクリーンパス。萬代が右オープンを鋭く駆け上がってTD。
 こうなれば、RBとWRに経験豊富な人材をそろえたファイターズのペース。次の攻撃シリーズも、加藤から萬代へのパス、久司のラン、松原へのパス、河原のランが面白いように決まり、最後は河原が5ヤードを走りきってTD。前半を21|0で折り返した。
 ファイターズのレシーブで始まった後半は、4年生QB浅海が登場。このシリーズも、河原や稲村の好走で陣地を進め、随所に松原へのパスを織り込んであっという間に相手ゴールに迫り、最後は浅海からピッチを受けたRB林が左隅に11ヤードを駆け上がりTD。ファイターズペースで試合が進んでいく。
 ところが、次のファイターズの攻撃シリーズでとんでもないミスが出る。K高野の蹴ったパントが相手ディフェンスにブロックされ、それを拾い上げられて、ゴールまで66ヤードを走りきられてしまったのだ。1年に一度あるかどうかの痛恨のミスである。
 ところが、その直後、今度はこのミスを帳消しにするようなビッグプレーがファイターズに出る。相手キックを自陣12ヤード付近でキャッチしたリターナーの久司が一気に88ヤードを走りきり、キックオフリターンTDを決めたのだ。冬の間、しっかり、走りモノで鍛えてきた努力が実ったのだろう。彼は続く第4Qにも、28ヤードを走りきってTDを決めた。
 下級生のころから試合に出て活躍してきた4年生の河原や萬代、3年生の松原はともかく、3年生の久司も稲村も、これまではあまり試合に出してもらえなかった選手である。それが新しいシーズンになった途端に、素晴らしい活躍を見せてくれる。この日、インサイドレシーバーとして確実なキャッチを披露してくれた3年生の春日を含め、長い間の努力がようやく開花しているようで、うれしい限りである。
 けれども、それはこの試合の一面である。チームの全体を振り返れば、うれしいなんていっておれない寒い内容だった。
 毎試合、試合が始まる前のお祈りで選手を鼓舞しておられる前島先生の言葉を借りれば「宿題を一杯もらいましたねえ」である。鳥内監督は「得点は関係ない。今日のようなプレーで満足するのか、これで立命や社会人に勝てるのか、ということですわ」といい、大村コーチは「これでシゴク材料ができましたね」と、ニコニコ話している。
 試合後、僕の出会った選手たちもそれぞれ、48−7で勝ったチームの選手とは思えない不満そうな表情だった。中には、自分の出来が歯がゆいのか、悔しそうに顔をゆがめた選手もいた。
 その悔しさを今後、どのように乗り越えていくのか。初戦で与えられた宿題に、どのように答えを出すのか。じっくり見させていただこうと思っている。
posted by コラム「スタンドから」 at 12:09| Comment(2) | in 2009 season

2009年04月13日

(3)ワクワクする季節

 先週末は金、土、日曜の3日間、連続して上ケ原に通った。仕事、散策、そしてファイターズの練習が目当てである。
 土曜日。幼稚園に通う孫と日本庭園のベンチに座って昼飯を食っていると、一瞬の風にあおられて、桜の花びらが無数に舞い降りてきた。それはもう、誰もが吹雪と形容するしかない光景。孫も「ワーッ、雪みたい」といいいながら、花びらを受け止めようと両手を開いて走り回る。まるで、雪の降るのを喜んで駆け回る犬ころみたいだ。
 上ケ原は、まさに春爛漫(らんまん)。構内のあちこちにあるクスノキやケヤキも鮮やかな新芽を出している。中央芝生の周囲にある植え込みは、日に日に緑を増しているし、正面玄関右手の駐車場にあるユリノキの新芽はことに美しい。芽吹いたばかりの淡い緑が、空に向かってそびえる大木を彩っている。第3フィールドでは、平郡君の記念碑の背後にあるヤマモモの木がすっかり大きくなり、記念碑を覆い尽くすように枝を伸ばしている。
 記念碑に刻まれた碑文に目を通した後、グラウンドに目をやると、そこにも春がある。大勢のフレッシュマンがグラウンドのあちこちで、練習を始めているのだ。
 今春入部した1年生は13日現在で53人。いま、このホームページに名前が記されているのは38人だが、その後も志願者が相次ぎ、これだけの人数に上ったそうだ。大変な数である。その中にはスポーツ推薦やAO入試で入った13人がいるし、高校では野球やラグビーの選手として活躍していたアスリートが何人もいる。体力と素質に恵まれた、文字通り期待の星である。
 鳥内監督の口を借りれば「いいですよ、今年の1年は。即戦力になりそうな子もいるし、すぐに上の練習に参加させたい子もいます。未経験者にも、期待できる子が何人もいますよ。これだけいい子が入ってくれたら、チーム内の競争も激しくなるでしょう」。
 QBとWRの練習につきあっておられた武田建先生も同様の感想を口にされる。「いいですね、今年の新人は。レシーバーにも、すぐに使えそうな子が何人もいますよ」
 確かに、体のデカい子が多い。185センチ級が何人もいるし、体重も100キロを越す選手がいる。ただデカいだけでなく、運動能力も高そうだ。僕のような素人が見ても、ワクワクする選手が何人もいる。
 例えば、練習の仕上げに20分間、グラウンドの外周を走る取り組み。それぞれのペースで淡々と走っているのだが、手を抜いている選手は一人もいない。中には、軽々と周回遅れの選手を抜き去り、さらにスピードを上げる選手もいる。監督に名前を聞けば、僕の高校の後輩だという。よけいにうれしくなってくる。
 気持ちもしっかりしているようだ。先日、東京地区からきた5人の新人と話をする機会があったが、それぞれに期待通りの人材だとの印象を受けた。スポーツ推薦で入ってきた関西地区の新人は全員、昨年夏に小論文の勉強会を続けてきたから、その性格についても、ある程度は分かっている。この面々も元気な子ばかりだから心配はない。
 桜は散っても、上ケ原では新しい芽がいっせいに芽吹いてきたのである。この芽をどう伸ばすか。
 その点でも、今年は心配なさそうだ。新しくフルタイムのコーチとして大村和輝氏が就任され、連日グラウンドに降りて指導をされているから、昨年までとは様子が違う。もちろん、チーム全体を見るのが仕事で、新人の練習にまで目を配るゆとりはないだろうが、それでも、練習の空気が変わり、チームの雰囲気が変わってきたから、それが1年生の取り組みにも、いい影響を及ぼすことは間違いない。
 期待の持てる春。ワクワクする春である。今度の土曜日、日体大との開幕戦が待ち遠しい。
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2009年04月06日

(2)昨日とは違う風景

 たまにしか練習を見ていない人間がいうのもなんだが、3月と4月とでは、上ケ原の第3フィールドの風景がガラリと変わった。
 一言でいえば、練習の密度が濃くなったのである。練習のための練習ではなく、試合を想定した練習。試合に向かうための練習になりつあるといってもいいだろう。
 もちろん、まだ春先である。夏の合宿に見られるようなガチンコの練習ではない。試合に向けての細かいプレーをチェックしているわけでもない。すべての基本になるような内容を練習計画に沿ってひとつひとつこなしているだけである。連日のように、他の大学から多くの選手が練習に参加していることもあって、特別なことは何一つしていない。地味な練習である。
 けれども、グラウンドの空気はガラリと変わった。選手たちの取り組みも変わった。
 例えば、パスのコース取りの練習で、レシーバーが当たりにきたDBを仰向けに突き倒す場面があった。それを悔しがったDBたちが、レシーバー陣により厳しいチェックをする場面も目撃した。オフェンスラインとディフェンスラインの攻防でも、これまでなら当たりあった瞬間、台になる選手が力を抜いていたのに、いまはきちんと当たりあっている。全体の練習から見れば、ほんの些細な違い、局地的なやりとりではあるが、いわば、シャドーボクシングからスパーリングへの変化。「寸止め空手」から「実戦空手」への発展と見られるような練習をしているのである。
 理由はいくつか考えられる。4月1日から、全体練習が始まったこと、監督をはじめコーチも全員が顔をそろえてグラウンドに降りて練習を見ておられること、新しくフルタイムのコーチとして社会人のコーチとして実績を積んでこられた大村和輝氏が加わったこと。それらが相乗効果を及ぼして、グラウンドの空気を引き締めているのだろう。
 もちろん新谷主将以下、選手やスタッフが今季にかける熱い思いを持っているからこそ、練習も熱くなるのだろう。「馬を岸辺に連れて行くことはできても、(馬が飲む気にならないと)水を飲ませることはできない」という言葉がある。選手の気持ちが高まって初めて、コーチも腕を発揮できるし、全体練習も効果が上がるのである。
 さらに、もう一つ。僕の「岡目八目」では、練習の取り組みをほんの少しばかり変更したことが、想像以上にチームの雰囲気を変えているように思える。どういうことか。
 一言でいうと、これまではパートの自主性を優先し、それぞれのリーダーに任せていた練習の進行を、チームの練習を優先させるようにしたことである。もちろん、パートごとの練習はそれぞれのリーダーを中心にしっかりやっているのだが、それに少しばかりチームとしての練習を繰り入れることで、グラウンドの風景が変わってしまったのだ。少なくとも昨年の春とは違うし、ほんの1週間前とも様子が違う。
 まだほんの数日のことだが、その変化が練習に活気をもたらせ、チームとしてより高い次元に到達したいという願望を具体化しているように、僕には感じられる。外見的には、ほんの些細な変化だが、質的には大きな変化であり、極めて好ましい変化であると、僕には思えるのである。
 この光景から、数年前、武術家の甲野善紀さんが上ケ原のグラウンドを訪れ、練習中の部員に、古武術に想を得た体の使い方を披露されたときのことを思い出す。そのとき甲野さんはファイターズの部員やOBの山田晋三氏らを相手にタックルを受けられたのだが、ヘルメットを装着したときにはまったくタックルをかわせなかったのに、ヘルメットを外した途端にすべてのタックルをかわしてしまわれた。甲野さんに聞くと、ヘルメットを着けていたときは、ガードの部分で瞬間的に目が切れるので体が思い通りに動かなかったけれども、外してみると相手の動きが「スローモーションのように見えて」すべてタックルを外すことができたとのことだった。
 当事者以外には、まったく気付かない些細なことだが、その些細なことが技の切れに直接影響していたのである。この話を聞いたときに、技とは、そういう微細な部分の積み重ねで成り立っている、そういう細部を丁寧に追求するからこそ、技と呼ぶに値する体の使い方ができるのだと感心した。
 ファイターズの練習も同様である。「ほんの少しのゆるみ」であっても、そこにメスを入れるのと、入れないまま漫然と前例通りの練習法を踏襲しているのでは大違いである。ちょっとした工夫が、効果を発揮し、グラウンドの風景を変えたのだと僕は思った。
 これを一過性の変化に終わらせてはならない。昨年の悔しさをかみしめるだけではなく、反省を教訓として、小さくてもいい、新たな手を打ち続けてほしい。監督もコーチも、選手もスタッフも、全員が営々と「細心の注意」を払って練習に取り組み、昨年、ライバルチームが到達したレベルを超える次元にチームを作り上げてほしい。
posted by コラム「スタンドから」 at 23:56| Comment(1) | in 2009 season

2009年03月29日

(1)「今季に期す」

 春である。寒の戻りで震え上がっていても、桜が咲けば、やっぱり春である。上ケ原の第3フィールドに出掛ければ、ファイターズの面々が元気な顔をそろえ、もう春本番というような表情で練習している。
 もちろん、六甲山から吹き下ろす風は冷たい。たまらんほど寒い。練習を見に行くときには、しっかり着込んで、防寒対策はしているつもりだが、それでも鼻水が垂れてくる。
 けれども、選手たちは元気いっぱい。体から湯気を立てている。みぞれが降ろうかという日でも半パンTシャツ姿の元気者もいるし、もう初夏のように日焼けした選手もいる。
 長いご無沙汰だった。昨年11月30日、神戸のユニバースタジアムで立命に敗れた試合の報告を最後に、長い冬眠に入ったこのコラムだが、フィールドの元気な選手たちにたたき起こされる形で、今日から再開する。
 もちろん、コラムは冬眠していても、僕はせっせと第3フィールドに出掛け、選手たちの表情を眺めてきた。2月、3月はまだ、パートごとの基本練習。それと走りモノである。余りにも地味だから、ボヤーと見ているだけでは面白くも何ともない。
 しかしながら、僕のような素人でも、真剣に目を凝らしていると、いろんな事が見えてくる。今年にかけるチームの意気込み。コーチの取り組み。新しくリーダーになって表情が変わった選手。リベンジに燃える選手。走りモノで最後まで手を抜かない選手の姿も確認できるし、昨年や1昨年のチームが滑り出したときとの比較も興味深い。
 見るべき所はいくつもある。地味でも、寒さに震えていても、この時期の練習を見るのは、楽しいのである。
 これらの細部を報告すれば、それだけで興味深い読み物になりそうだ。だが、それは同時に、ライバルチームに手の内を明かすことにもなりかねない。そこで、この手の話は胸の内にしまって、代わりに、新しい幹部たちの今季にかける抱負をお伝えしたい。まずは主将の新谷太郎君から。
……今季は、2位からスタートするチーム。昨年は残念ながら、オフェンスもディフェンスも、立命に歯が立たなかった。その悔しさを忘れず、その現実を直視して、何事にもチャレンジしていくチームにしたい。
……4年生が中心となって、学年の上下関係なくチームの雰囲気を上げていく。立命に対抗するためには、チームの力を付けるしかない。そのためには、自分自身がより上のレベルを追求する姿勢で取り組み、その姿を下級生に見せるしかない。
……主将になったことで、これまで以上にファイターズの名前に恥じない行動を心掛けている。今年がアメフットをする最後の年だと思っているので、両親をはじめ、これまで支えてくださった人に感謝するためにも、勝たなければならない。そのためには、練習あるのみだと思って取り組む。
 続いて、副将の古下義久君の抱負。
……まずは、新谷主将を支えていくこと。僕の考える「支える」とは、下から支えるのではなく、存在感や技術面で主将を超えに行くこと、よきライバルとなること。そのためには、僕自身が声を出して激しくプレーすることだと思っている。
……昨年の立命戦で一番悔しかったことは、ベンチでもプレーでも声が出なかったこと。やられたらシュンとしてしまう部分が大きくて、言葉がない、気持ちがない状態で負けたことが悔しい。今年は、そういう悔しさを味わいたくないので、練習の段階から僕自身が先頭に立って厳しく取り組んでいきたい。
……普段から、上下関係を気にせず、上級生も下級生も互いに厳しく要求しあえるチームにしたい。学年を問わず、間違っていることは間違っているといえる、本当の意味での信頼関係を築きたい。
 もう一人の副将、亀井直樹君には取材の時間がとれなかったので、最後に主務の三井良太君の抱負を。
……なにより大切にしたいのは団結力。昨年のチームは、パートごとの自主性を重んじる余り、この面で欠けていた。オフェンスもディフェンスも、スタッフの中でも、団結ができていなかった。それでは互いに厳しいことも要求できないし、本当の意味での信頼感も生まれない。今年は、少々波紋を起こしても、言いたいことは言い合い、そこから本当の信頼を築きたい。
……これまで関学のフットボールといえば、戦術というか、ポイントをずらせて、こちらが勝てる状況を作って勝ってきた。けれども今年は、団結力にこだわり、正面から勝てる状況を作っていきたい。
……根本的な所では、どんな人間になりたいんや、ということを一人一人の部員に突き詰めさせたい。学生スポーツだから、一人一人が「一人前」の人間になってこそ価値がある。付いてこられないヤツとは徹底的に対話し、つねに「日本1の集団になりたい」という気持ちで行動したい。
  ◇  ◇
 以上、練習の合間に時間をとってもらって取材したさわりの部分である。「今季に期す」彼らの気持ちを感じていただけただろうか。来週からまた、報告を続けたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 23:29| Comment(1) | in 2009 season