2023年12月22日

(19)「強さの源」

 関西学院大学ファイターズの強さの源はどこにあるか……。それを問い掛けた記事が甲子園ボウルの前日、朝日新聞阪神版に掲載された。日頃、私が考えていることと全く同じ考え方であり、それをフットボール専門記者が分かりやすく紹介されていることに、心から感動した。
 朝日新聞のネットでも配信されたので、読まれた方は少なくないだろう。けれども、阪神版という地域限定の記事であり、未読の方もおられると思うので、記事の大筋を補足の説明も加えて紹介しよう。
 アメフットは1プレーごとに次の作戦を決める。攻撃陣は練り上げたプレーを次々に繰り出し、守備陣はそれに対応し、時には仕掛けていく。選手は無制限に交代できるので、誰を起用して追う攻めるか(守るか)という戦略がカギを握る。
 当然、相手のデータを集めるスタッフ、戦略を組み立てるコーチ陣、選手の能力を伸ばす練習やトレーニング施設が必要であり、そのための資金も含めた総合力が問われる。そうした問題意識を持って(ファイターズは)「指導者体制の質量の拡大、リクルート網の強化、トレーニングセンターなど施設・財政面の拡充、OB会との連携協力体制の構築」などを挙げ、それを細部まで詰めて実行してきた。
 その姿を、指導者としてチームに戻った頃の大村監督の感想として「めちゃくちゃ細かい所まで突き詰めてやってて、これがほかのどのチームにもない関学の強みやなと実感した」と紹介。「めんどくさくても、それと向き合うことで身体能力で負けていてもチームとして勝負できる可能性が出てくる。突き詰めていく文化は非常に大事で、それは社会に出ても生きてくる」と続けている。
 続けて筆者は、東京から関学に進学した3年生OL、近藤剣之助選手の言葉を引いて、ファイターズの活動の一端を説明する。
 彼は「ボールを持った選手以外の10人の役割分担(アサイメント)が、一つのプレーに対して何通りもあることに驚かされた」「関学では、何でこうなっているか、を大事にする。すると、無限に考え方が膨らむ。強い理由を実感した」という。
 巧みな戦術であっても、選手が体現できなければ意味がない。だから関学では1年を通じて各ポジションで基本技術を徹底して積み上げ、戦うための土台を作る。
 毎年のように日本1を目指せる環境が整っているから高校の優秀な選手がやってくる。そしてまた、いいチームが出来るという好循環が生まれている、と結ぶ。
 筆者は朝日新聞の篠原大輔記者。全盛期の京大ギャングスターズでラインメンの一人として活躍。卒業後は朝日新聞に入社し、アメフットの専門記者として活躍。長くスポーツ部で務め、いまは別の部署に移っているが、土曜と日曜は全てアメフットの取材に捧げるというアメフット愛にあふれた記者である。朝日新聞の読者なら「関学大 最多6連覇」「61得点圧倒 精度高めた攻撃」という大見出しで9面に掲載された甲子園ボウルの記事と見開きになった関西学院大学の全ページカラー広告をご覧になったと思うが、そのコピーを書いた記者でもある、と紹介すれば、その見識の深さが想像できるはずだ。
 (この広告は関西学院広報室が大阪本社管内の近畿地区に限定して出稿・掲載したものだが、反響が非常に大きく、東京本社管内(関東地区)の24日付け朝刊に改めて掲載することが急きょ決まったという)
 実は、私もこのコラムでこうしたファイターズの魅力を存分に書きたかった。とりわけ長年のライバル校の不祥事が連日のように新聞紙上を賑わせ、大学の課外活動の在り方そのものに社会の関心が集まっているいま、「ちょっと待って。不祥事を起こした大学の例だけで、部活動全体を語らないでほしい。学生を主役にして毎年人材を育て、全国の頂点を極め続けてる部活動もありますよ」「その内容を詳しく紹介しましょうか。学生はもちろん、指導者にとっても目からうろこというような事例がいくらでもありますよ」とこのコラムで声を上げたかった。
 けれども、私がこの文章を書いているのはファイターズのホームページ。自画自賛と受け取られがちでもあり、あえて避けてきた。
 その隙間を埋めてくれたのが16日付朝日新聞の篠原記者の記事であり、18日付の関西学院大学の全面広告である。ライターの一人として心から感謝します。

(今回を持って今季のコラムは終了します)
posted by コラム「スタンドから」 at 01:07| Comment(2) | in 2023 Season

2023年12月19日

(18)うれし涙の甲子園

 関西学院大学ファイターズが17日、甲子園球場で開かれた第78回甲子園ボウルで、関東代表の法政大学を相手に61ー21で圧勝。過去にどのチームも成し遂げたことのない6年連続の優勝を果たした。
 18日付け朝日新聞9面には「関学大 最多6連覇」「61得点圧倒 精度高めた攻撃」という大きな見出しが踊り、その詳細を伝えている。これだけでもすごいことなのに、その隣の8面には「史上初の甲子園ボウル6連覇達成」「背負っていたモノを下ろしました」という見出しを付けた関西学院大学の全ページカラー広告が掲載された。グラウンドの真ん中で互いに肩を組み、気合いを入れている選手の姿が映し出されたその紙面を眺めながら、特別な感慨を抱かされた。
 スコア以上の圧勝だった。三塁側アルプススタンドの中央で、ファイターズが開設している場内限定の「放送席」近くから応援していても、試合の開始から終了まで、攻守の選手が躍動している姿が大きく見える。自軍の得点シーンだけでなく、得点につながるプレーの一つ一つが夢を運んでくれる。
 立ち上がりこそ、相手の思い切ったパスプレーに戸惑ったが、DB東田君の好プレーでそれを防ぎ、攻撃権をつかんでからはファイターズのショータイム。
 まずは自陣26ヤードから始まった初の攻撃シリーズ。第1プレーはQB星野君からWR鈴木君へのミドルパス。それがドンピシャで通ってダウン更新。次はRB前島君のランと星野君のキープ。途中、鈴木君への2度目のパスを挟んで再び星野君のラン。相手陣32ヤードに迫ったところで前島君が短いパスを受けて走り、ゴール前18ヤード。そこから今度は星野君が走ってTD。
 相手守備陣がランを警戒している場面ではパス。パスを警戒すればラン。双方に目配りしているときには、自身のキーププレー。まさに変幻自在の攻撃であり、日頃の練習で繰り返してきたプレーが面白いように決まる。当然のように、攻守共に盛り上がる。
 オフェンスの盛り上がりに呼応して、ディフェンスが発憤する。相手陣24ヤード付近から始まった法政の第1プレーはラン。それをLB海崎君が見事な出足で仕留め、7ヤードのロス。7ヤードのランプレーを挟んだ第3ダウンでは、相手QBの投じたパスにDB高橋君が思い切りよく飛び込んでカット。ここしかないというタイミングで見せたビッグプレーだ。
 ディフェンスに好プレーが続けば、攻める方も気合いが乗る。
 自陣47ヤード付近から始まったファターズ2度目の攻撃シリーズ。まずはRB伊丹君が5ヤードのラン。守備陣にランアタックを警戒させたところで、星野君がWR五十嵐君へ長いパス。それが見事に決まってTD。わずか2プレー(PATを含めて3プレー)で14−0とリードを広げる。
 攻守がかみ合えば、全体の意気が上がる。次の攻撃シリーズこそ陣地を進められなかったが、今度はキッキングチームが役割を果たす。自分たちの蹴ったボールを相手ゴール前1ヤードで押さえ、相手の攻め手を制約したのだ。次のプレー。動きのよいDB東田君がエンドゾーン内でボールキャリアを仕留めてセーフティ。2点を追加して16−0。
 第2Qに入ってもファイターズペースで試合が進む。まずはK大西君が32ヤードのフィールドゴールを決めて19−0。次のシリーズでは相手のリターナーがファンブル。それをキッキングチームが押さえて相手ゴール前25ヤード付近からファイターズの攻撃。RB澤井君と伊丹君のランでゴール前13ヤードと進んだところで、今度はQB星野君が走ってTD。26ー0とリードを広げる。
 こうなると、守備陣も余裕をもってプレーできる。DB波田君がナイスタックルを見せれば、DLショーン君が長身を利して相手のパスをインターセプト。そのままゴールまで50ヤード近くを走り切ってTD。
 今季は足のけがで苦しみ、ほとんど出場機会がなかった選手とは思えないような動きで「ショーンタイム」を演じてくれた。
 攻守それぞれが持ち味を発揮して前半だけで33点。後半にも、さらに28点を追加し、終わってみれば61−21。控えのメンバーも下級生たちも次々に出場し、応援席の期待に応えてくれた。ほんの3週間前、関大に悔しい敗戦を喫し、絶望の淵に落とされたチームが、甲子園の晴れ舞台でその悔しさを糧に、見事な試合を見せてくれた。
 その象徴が、甲子園ボウルの最優秀選手に選ばれた星野君である。彼が試合後、報道陣のインタビューを終えた後に涙を拭っている姿を見て、これがこの日グラウンドで戦ったチーム全員の涙、うれし涙だと思った。
 それは仲間を支え、仲間に支えられて今季を戦ってきたファイターズの全員が共有できる涙でもあろう。関西リーグ最終戦では同点、逆転のチャンスを逃がして関大に敗れ、一瞬、甲子園が見えなくなった。ある時期はコロナ禍に苦しみ、インフルエンザの集団感染にも見舞われた。けがで長期間、試合から離脱せざるを得ない選手も少なくなかった。この日、活躍したメンバーの中にもそういう選手は少なくない。先に挙げたショーン君もこの試合でほぼ完全に復帰。同じく、今季は戦列を離れることが多かった前島君も、この試合では完全復帰。素晴らしい活躍をしてくれた。
 星野君もまた、今季はけがに見舞われ、つい先日まではチーム練習にも加われなかった一人である。
 そうしたメンバーが今季最後の晴れ舞台で復活し、活躍してくれた。6連覇も嬉しいが、けがで苦しんだ面々が復帰し、甲子園で輝いてくれたことが本当に嬉しかった。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:55| Comment(2) | in 2023 Season

2023年12月11日

(17)充実した時間

 今、日本の学生フットボール界において、一番充実した時間を過ごしているのは、東の法政、西の関西学院であろう。双方共に、17日に阪神甲子園球場で開催される甲子園ボウルに向けて懸命に努力し、目的を持った練習に励んでいるからだ。
 今季のファイターズは、関西学生リーグ最終戦で関西大学に敗れた。その結果、先にリーグ戦を終えていた立命館とあわせ、三校がいずれも6勝1敗で優勝を分け合うことになった。試合後の抽選で甲子園ボウルへの出場権を手にしたのがファイターズ。当然、出場権を逃がしたライバルチームの思いも背負って戦わなけれればならない立場にある。
 そういう条件下、師走に入っても関西では唯一、大学王者になるべく「目的を持った時間」を過ごし、「目的を持った練習」に励んでいるのがファイターズである。私の記憶している限りでは、少なくとも5連覇を成し遂げた昨年までのチームは、この期間にさらなる技術を身に付け、新たなパワーを手にして、甲子園ボウルに臨んでいた。とりわけ4年生は毎年、関西リーグで勝ち続けた喜びを一端、棚に上げ、自分たちだけにに与えられた「戦うための時間」を、より有意義に過ごそうと、懸命に取り組んでいた。
 別の言い方をすれば、こうした「特別な時間」を与えられた喜びを力に変え、チームが一致結束して戦ったからこそ、それぞれの年次のチームが賜杯を手にし、5連覇という結果を呼び込んだのだろう。
 さて、今季のチームはどうか。ライバルチームの面々が今季を終了し、来季への準備をしているこの時期に、関西では唯一許された大学王者への挑戦が出来る「特別な時間」を有効に使えているだろうか。関西リーグで見えた欠点や弱点を克服するために、さらなる努力を重ねているだろうか。
 とりわけ4年生にとっては、文字通り今度の試合が最後になる。その試合を悔いなく戦うための準備はできているか。主将や副将だけでなく、それぞれのパートに責任を持つリーダーやプレーヤー。さらにはスタッフも含めて「学生日本一」と呼ばれるにふさわしい行動を重ねているか。
 下級生もまた、4年生を助けてチームの底上げを果たす役割を果たさなければならない。スタッフを含め、チームで活動する全員が懸命に働き、チームの底上げに貢献していかなければならない。
 そういう貴重な期間がこの3週間であり、その間の活動を通じてチームに新たな「伸びしろ」が生まれる。過去、勝ち続けてきたチームは、そういう「ライバルたちが持てない時間」を生かし切ったからこそ5年連続で学生王者の座に着くことができた。僕はそう考えている。
 さて、残すところあと数日。その間に甲子園練習もあるから、自分たちだけが他者の目を気にせず、存分に練習できる時間は限られている。監督やコーチから指摘されるから頑張る、ではなく、自分たちが勝ちたいから、もう一段階上を目指した練習に励む。それが出来るのがファイターズの選手であり、スタッフであるはずだ。
 残された時間は短い。それを有意義に使って準備を進めてもらいたい。それは待ったなし、言い分けなしの時間でもある。
posted by コラム「スタンドから」 at 21:02| Comment(1) | in 2023 Season

2023年11月28日

(16)悔しい試合を糧に

 26日、吹田市の万博記念競技場で開かれた関西学生アメリカンフットボールの最終戦、関西大との決戦は、16−13で関西大に軍配が上がった。スタンドから応援している限り、両者ともに気力・体力・思考力、そしてチームの結束力の限りを尽くした戦いだと思えたが、そのいずれかで相手がわずかに上回っていたのだろう。相手にとっては歓喜の勝利、ファイターズにとっては悔やんでも悔やみきれぬ結果に終わった。
 ちなみに、ファイターズのホームページにアップされている数字を関学サイドから見てみよう。タッチダウンは1本−2本、PATは1本−1本、フィールドゴールは2本、1本。ファーストダウンを成功させた回数は17回−11回、総獲得ヤードは332ヤード−250ヤード、インターセプトをされた回数は0−1。攻撃時間は関学が31分40秒で関大は16分20秒。
 すべての記録でファイターズが優っているのに、肝心の得点は13-16。
 一体、どういうことだろう。なぜこうした結末を迎えたのだろう。
 13-16で迎えた4Q終盤。相手がフィールドゴールを決めて3点をリードした場面から以降の展開を振り返ってみよう。ファイターズの攻撃はRB澤井の好リターンで自陣37ヤード付近から。まずはエースRB伊丹が立て続けに走ってハーフライン付近まで陣地を進める。次はパスで前進かと思ったところでQB鎌田のキーププレー。これが決まって相手陣に進出。次のプレーはTE安藤へのパス。それも決まってダウン更新。さらにRB澤井が相手陣21ヤードまで走り、フィールドゴールを狙える位置までたどり着く。
 しかし、相手守備陣も必死である。次のパスプレーで起死回生のタックルを決めてQB鎌田の腕の中からボールをはじき出す。こぼれたボールにファイターズのオフェンス陣が食いつき、なんとか攻撃権を維持するが、このプレーで相手の守備陣が一気に燃え上がった。LBやDBが素早い上がりでファイターズのボールキャリアに向かい、陣地を押し戻す。
 残り時間が1分を切って迎えた。第4ダウンの攻撃。相手ゴールは遠く、同点につながるフィールドゴールを決めるには、あまりにもリスクが高い。最後は遠投力のあるQB鎌田から彼が一番信頼するWR鈴木への長いパスしかないという場面。だが、相手もそれを十分に警戒し、二人のDBが連携して守っている。
 さて、勝負はいかに、という場面。期待通りゴール中央付近に走り込んだ鈴木にパスが投じられたが、横合いから飛び込んできた相手DBに阻まれ、敗北が事実上、確定した。
 両チームともに守備陣が見せ場を作り、攻撃陣が一瞬の隙を突いて陣地を進める。互いに譲らぬ戦いだった。しかしながら、すでに立命館との試合に敗れ、失うモノが何もないという状況でこの試合に臨んだ相手と、立命に勝ち、6勝を挙げて優勝を決めていたファイターズの面々との間には、勝敗にこだわる気持ちの持ちようが微妙に違っていたのかもしれない。その微妙な差異が勝負の明暗を分けたのではないか。
 それはこの日、フィールドで戦った選手たち全員が身に染みて感じたことだろう。それこそがチームの財産である。
 勝負事は天の時、地の利、人の和によって決まるという。この日は幸い、試合後の抽選会で海崎主将が当たりくじを引き、甲子園ボウルにつながる試合への出場権を獲得してくれた。
 確かにこの日の敗戦は悔しい。けれども、再度、学生フットボール界の頂点に挑める機会は与えられた。それは「諸君、もっともっと頑張ってみなさい。自分たちの力で新しいページを開きなさい」という勝負の神様からのお告げであろう。
 16−13という結果を胸に刻み、チームに属する全ての人間が協力し、鍛えあって、甲子園ボウル6連覇を目指す。それはファイターズの諸君だけに与えられたチャンスである。このギフトを生かそうではないか。
posted by コラム「スタンドから」 at 19:59| Comment(6) | in 2023 Season

2023年11月13日

(15)決戦!ヤンマースタジアム

 11日は立命館との決戦。関西リーグの試合を克明に追っている観戦仲間によれば、今季の学生フットボール界では、実力No.1ではないかという強敵である。
 彼の言葉を借りれば「2年生のQBが素晴らしい。パスも一流だし、自分でも走れる。RBにはスピードでぶっちぎれるメンバーがいるので、一発TDの怖さが常にある」という。
 そんな相手にファイターズはどう対応するか。攻撃では自分たちの長所を最大限に発揮し、守備では相手の長所を無効化できればベストだが、そうは問屋が卸さない。ベンチが知恵を絞って作戦を練り、それを全ての選手が完璧に実行する。そこから道が開ける。さて、その作戦は?と、メンバー表をチェックしながらキックオフを待った。
 ファイターズのレシーブで試合開始。しかし、最初の攻撃シリーズはダウンを更新できず、簡単に攻撃権が相手に移る。これはしんどい試合になるぞ、と思った瞬間、相手RBが最初のプレーでファンブル。相手ゴール前12ヤードという絶好の位置でファイターズに攻撃権が移る。
 よっしゃ、行け!と、周囲の応援席から声が上がる。その声が届く前に、グラウンドではQB星野が相手ゴールに駆け込んだTE安藤にふわっとしたパス。それが見事に通ってTD。相手のミスを逃さずに先制点につなげた。
 立命の次の攻撃は、相手陣30ヤード付近から。スピードのある相手リターナーの独走を防ぐため、あえて奥深くまでは蹴らなかったのでしょう、とスタンドの放送席でファイターズファンに向けた放送をされていたディレクターの小野宏さんが解説されている。
 なるほど、と頷きながら見つめた立命の攻撃。その第1プレーで相手QBが投じたパスをDB中野がインターセプト、一気に相手ゴール前まで走り込む。
 わずか1プレーで攻守交代。それも相手ゴール前10数ヤードの好位置。この好機に体重90`、突破力抜群のRB大槻がボールを託された。期待に違わず、2度のランで相手ゴールに突入。チームとして2本目のTDに仕上げ、K大西のキックも決まって14−0とリードを広げる。
 しかし立命の攻撃陣には突破力がある。スピードのあるRB、どこへでも自在にパスを投じるQB。双方の威力を見せつけながら攻め込むから、守備陣は大変だ。なんとかその攻撃をファイターズ守備陣が食い止め、フィールドゴールの3点を与えただけでしのぐ。
 立命は第2Qの次のシリーズも強力なランであっという間に関学のゴール前に迫る。一気にエンドゾーンを落とされるかと覚悟したが、ここからファイターズ守備陣が粘って、最後は4thダウンのギャンブルプレーをロスタックルで阻止した。
 守備陣の頑張りに応えたのがQBの星野。直後の自陣6ヤードからの攻撃で、ロングパスをヒットさせて敵陣に侵入し、その後はランプレーで陣地を進め、残る12ヤードを自身が走りきってTD。21−3と突き放す。今季はけがや病気のため、練習もままならない状態が続いていたが、ようやく回復。自在にフィールドを駆け巡った。その姿を見ながら、決戦を前に、よくぞ戻ってきてくれたと胸をなで下ろす。
 胸をなで下ろすといえば、ディフェンスのキーマン、ショーンも今季初めてフィールドに立ってくれた。ほんの短い時間の出場にとどまったが、その長身を生かしたセンスあふれるプレーは健在。大事な場面で相手のパスをカットするなど期待に違わぬプレーを見せてくれた。難敵・立命が相手だけに、完全回復近しというプレーに、ファンの一人としてほっとした。
 そうこうしているうちに前半は終了。あっという間に後半に入ったが、双方の我慢比べは続く。立命はQBを中心にランとパスを組み合わせた堂々たる攻めを繰り返すが、ファイターズ守備陣が的確に反応し、なかなか陣地を進めさせない。ファイターズもまたランとパスを組み合わせたプレーで陣地を進めるが、TDを奪うところまでは攻めきれない。
 第3Qも半ば近くなったところでファイターズがFGを決め24−3。ようやく優位に立ったと思った瞬間、今度は立命が反撃。ランとパスをたくみに組み合わせて陣地を進め、残り2分を切ったところでTD、14点差に迫る。
 並の相手なら14点の差があれば、そんなに心配することはない。けれども、目の前で切れの良いプレーを展開する相手のオフェンスを見ていると、とても安全圏とは思えない。
 そんな流れを断ち切ったのがDB中野。相手QBがサイドライン際に投じたショートパスを奪い取り、そのまゴールまで64ヤードを駆け込んでTD。31−10と引き離す。彼自身、この日2本目のインターセプトが、そのまま相手の息の根を止めた。
 けれども、スタンドから見ている限り、双方の実力に、この得点差ほどの差はなかったように思える。攻守ともに決定力を持ったライバルを相手に攻守蹴がかみ合ったからこその勝利であろう。
 2年生QBを守り切ったオフェンスライン、たぐいまれな能力を有する相手オフェンスの勢いを1列目、2列目、3列目が互いにカバーし、助け合ってそいだ守備陣。数少ない得点チャンスを確実に得点に結びつけたQB星野とRB、WR陣。さらに言えば、普段の練習時から彼らの長所、短所を掌握し、それぞれの長所が生きるような選手起用、プレー選択を続けた監督、コーチ陣。まさに総力を挙げてつかんだ勝利である。
 リーグ戦も残り1試合。しかし、相手の関大には昨シーズン、悔しい思いをさせられている。この日、活躍の場がなかったメンバーを含め、チームが一丸となってその雪辱を期し、完全優勝を目指してさらなる努力を重ねてもらいたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:34| Comment(4) | in 2023 Season

2023年11月10日

(14)初めてのフットボール記事

 職業として新聞記事を書き始めたのは、1968年3月。長野県にある信濃毎日新聞社に入社した翌日のことだ。そこで2年9カ月勤めて朝日新聞社に転職。60歳の定年まで勤めた後、和歌山県にある紀伊民報に再就職し、今年3月末まで一途に記事を書き続けてきた。
 けれども、新聞にフットボールに関係する記事を書いたことは、数えるほどしかない。信濃毎日新聞では地方支局の勤務経験しかなく、朝日新聞では社会部関係の取材、紀伊民報では編集の責任者として論説やコラムを書いてきたからだ。
 野球が好きだったから、それでも野球に関係する記事やコラムを書く機会は少なくなかった。いま話題の阪神タイガースに関係する記事も、その昔、阪神支局や大阪の社会部で働いているときに何本も書いている。
 阪神支局で働いていた1975年11月には、人気絶頂の江夏投手が秋季練習中の甲子園球場に病いに苦しむ小学生を招き、「学校に通えるようになったら、試合で使うボールをプレゼントします」と約束していた「約束のボール」を手渡して励ました話題を特ダネとして社会面のトップに書いた。これは社内の特別の賞を受けたし、1985年に優勝して日本一になった時には、これまた社会面のトップに「生きててよかった」という大見出しの躍る記事を書いた。
 2003年には「週刊朝日」から依頼されて、シーズンの優勝が決まるはるか前の7月15発行の「阪神優勝」と銘打った増刊号に「伊勢神宮で20年に一度、行われる遷宮という聖なる神事と同じように、タイガースもまた、20年単位で応援しなければやっていけないチームである。(中略)試合のたびに一喜一憂せず、優勝という言葉も胸の奥深くにしまって、いまは心静かに20年に一度の聖なる秋に備えようではないか」という長文の署名記事を書いたこともある。
 けれども、アメフット関係の取材にはなぜか縁がなく、初めて社会面に記事を書いたのは1975年の秋。当時、監督だった武田建先生に「アメフットの魅力を伝えたいので、それにふさわしい部員を」と声を掛けて紹介してもらったスナッパー、吉川宏さんの話だった。
 先生によると「RBの谷口君、QBの玉野君など、僕が期待している選手はたくさんいますが、せっかくの機会ですから、一番地味な役割でありながら、得点に直結する仕事をしている部員を」ということで紹介された選手である。
 当時の僕は、アメフットには好守共にいくつものポジションがあり、足の速い人、腕力のある人、身体のでかい人など、それぞれの長所を組み合わせ、総合力て戦うスポーツだということは知っていたが、ゴールキックの時だけに登場し、スナップを投じるだけでチームに貢献している人がいることは知らなかった。その驚きを写真付きの記事にして送稿すると、担当デスクも驚き、社会面に掲載してくれた。
 以上、昔のことをあれこれを紹介させていただいたのは、ほかでもない。この話もまたアメフットの魅力を伝えていると考えるからだ。足の速い人、多少、動きが悪くてもそれを補って余りある腕力や体力のある人、誰よりもボールを正確に投げられる人、相手の動きに誰よりも素早く反応出来る人、戦術や戦略を考えることが得意な人、ビデオの撮影やそれを練習教材として編集することに長けている人、ミスをして落ち込んだ仲間を慰め、励ますことの出来る人……。そうした多様な才能を持った人の持ち味を生かし、それをチームの総合力として戦える点がアメフットの最大の特徴である。選手の交代自由、ポジシの位置取りも基本的に自由。プレーごとに間合いがとられ、ベンチから作戦を指示し、グラウンドに出ている選手とベンチが共に戦えることも、他のスポーツにはない特徴といえるだろう。
 そのトータルが勝敗を決める。そういう魅力を持ったスポーツがアメフットである、と武田先生は教えてくださったのだろう。
 半世紀近く前、初めてのフットボール取材でそのことを教わって以来、フットボールはチームの総合力をどう高め、どのように結集し、どう発揮出来るかが勝敗を分けると、僕は思い定めている。週末の立命館との戦いでは、その総合力を存分に発揮してもらいたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:56| Comment(2) | in 2023 Season

2023年10月30日

(13)驚きの京大戦

 ついこの間、今年度のリーグ戦が始まったばかりと思っていたのに、もう5戦目。28日は、京都大との戦い。一昔前までは「宿命のライバル」として、熾烈な覇権争いを続けてきた相手である。
 この日の試合を場内限定のFM放送で解説された小野宏ディレクターも、放送が始まると同時に「京大は本当に厄介な相手。現役時代から何度も痛い目に遭わされました。リーグ戦で勝ったのは2年生の時だけで、後は28−35、7−17、28−30で敗戦。コーチとしてチームに戻ってからも、何度も痛い目に遭いました」と、それぞれの試合展開を振り返って解説。「今年も、相手のQBが素晴らしいから、今日も厄介な試合になりますよ」と予想されていた。
 悪い予感はよく当たる。ファイターズのキックで始まった京大の第1シリーズがその典型。自陣18ヤードから始まった攻撃は、いきなりパスプレーの連発。それにQBのランプレーを交えてぐいぐいと陣地を進める。あっという間に関学陣に入り、仕上げも10ヤードのパスでTD。7−0と先手を奪う。
 これはこれは、と驚いているのは観客席。グラウンドの選手の胸中も同様だったろうが、ファイターズのオフェンス陣は、そんな気配は毛頭見せない。伊丹と澤井が立て続けにダウンを更新し、相手の守備陣をランプレーに集中させる。それを見極めたベンチはパスプレーを選択。それに応じてQB鎌田がWR鈴木に65ヤードのパスを通し、TD。大西のキックも決まって7−7と追い付く。
 しかし相手も、QBの変幻自在のプレーを中心に一歩も譲らない。相手のキッキングチームも同様だ。次のファイターズの攻撃は自陣5ヤードから。ゴールラインを背負って、どう陣地を回復するのだろうと注目した第1プレー。ファイターズには、予想していなかったようなビッグプレーが飛び出した。
 主役はRB伊丹。自陣ゴールライン上でQB鎌田からボールを渡された瞬間にカットを切り、そのまま右サイドライン際を駆け上がってTD。記録された獲得距離は95ヤード。伊丹の走力も素晴らしかったが、彼を守って追走し、相手守備陣のタックルを防ぎ切ったレシーバー陣の協力も見事だった。
 このプレーに刺激されたのか、今度は守備陣が次々と素晴らしいプレーを連発する。DB波田と山村が立て続けにボールキャリアにタックルを見舞い、DL浅浦が素早い出足で何度も相手QBに襲いかかる。
 好守がかみ合えば、試合は落ち着く。能力の高いQBを生かすべく「考えに考え抜かれたたプレー」(小野ディレクター)で攻め込んでくる相手の反撃をしのぎ、21−7で前半終了。
 後半の立ち上がり、ファイターズは思わぬファンブルで相手に7点を返されるが、前半のリードがあるから慌てない。まずはK大西のフィールドゴールで3点。DB高橋のインターセプトでつかんだ相手ゴール前からの攻撃でQB鎌田がWR小段に10ヤードほどのTDパスを通し、キックも決めて7点を追加。31−14とリードを広げる。
 こうなると、守備陣にも余裕が出てくる。立ち上がりは相手QBの変幻自在なパスに苦しんでいたが、徐々に反応できるようになってくる。まずはDB中野が相手のパスを反応良くインターセプト。そのままゴールまで駆け込んでTDに仕上げる。
 ファイターズに勢いが出ると、相手も焦り出す。相手リターナーが自陣奥深くからリターン中にボールをファンブル。それを確保したファイターズが相手ゴール前26ヤード付近から攻撃に移る。QB星野がWR鈴木、五十嵐に短いパスを通し、自らのキーププレーで陣地を稼いで、RB澤井のTDランに結びつける。
 終わってみれば45−20。高い能力を持ったQBを中心に、練りに練った作戦で長年のライバルを倒そうとする相手を、ファイターズは攻撃と守備が互いに助け合って倒した。
 互いに知恵を絞り、力を尽くして戦う戦士たち。その奮闘に拍手を送りながら「こういうライバルがいるからこそ、アメフットは面白い。応援したい」という気持ちが募ってくる。
 同時に、なぜ、こんなに魅力的なスポーツなのに観客席が満席にならないのか、不思議でならない。何度も繰り返すが、なんとかしてこの魅力をより多くの方々に共有してもらい、試合会場に足を運んでもらえるような方策はないのだろうか。
 次週は立命館が相手。これまた、最終戦の関大戦とともに、絶対に見逃せない試合である。1人でも多く友人、知人を連れ出してスタンドに参集してもらいたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:25| Comment(4) | in 2023 Season

2023年10月17日

(12)練習の成果

 先週日曜日は、近畿大学との戦い。10月も半ばとあって暑さは和らぎ、雨の心配もない快適な環境で試合が始まった。
 先攻はファイターズ。自陣36ヤードから始まった最初の攻撃シリーズこそ反則で陣地を進められなかったが、自陣32ヤードから始まった2度目の攻撃はRB伊丹と前島を交互に起用。個人技に優れた2人の多彩な攻撃で確実に陣地を進めていく。
 最初にボールを託されたのは伊丹。短いスイングパスを受けて走ったかと思えば、次はドロープレーから一気に中央を抜け出す。一瞬、相手守備陣に捕まりそうな場面でも、独特のステップで身をかわして陣地を稼ぐ。
 仕上げは前島。相手ゴールまで29ヤードを一気に走ってTD。相手守備陣が迫ると、急ブレーキをかけて相手をかわし、その瞬間、ギアをトップスピードに上げて走る彼ならではの先制点である。K大西のキックも決まって7−0。
 先制すると、守備陣は落ち着く。相手は、レベルの高いQBを中心に多彩な攻撃を仕掛けてくるが、浅浦を中心とした守備のフロントと、LB海崎、永井、DB波田という経験豊富なメンバーが核になったバックスが互いに助け合って攻撃を食い止める。
 第2Qに入っても一進一退の攻防が続く中、均衡を破ったのはファイターズ。DBのリーダー波田が相手QBがセンターライン付近から投じたパスを確保すると、そのままゴールまで駆け込んでTD。大西のキックも決まって14−0。
 ビッグプレーが出ると、チーム全体が盛り上がる。相手陣23ヤードから始まった次の攻撃シリーズでは、QB鎌田からTE安藤への8ヤードのパス、RB前島のオフタックルを抜けた鋭い走りでTD。21−0とリードを広げる。
 後半になってもファイターズの勢いは止まらない。自陣45ヤードから始まった第3Q最初の攻撃ではQB鎌田がWR衣笠、五十嵐、小段へのパスを立て続けに通し、相手ゴール前11ヤード。そこからは一転、RB伊丹のランを2本。残り2ヤードはRB大槻の中央ダイブでTD。堅実なプレーでリードを広げていく。
 こうした攻撃の中で光ったのは、QB鎌田のパス。レシーバー陣のリーダー鈴木へのミドルパスを立て続けに通し、合間には衣笠や小段へのパスを交えて変化を付ける。この日のトータルスコアを見ると、WR鈴木に6回101、小段に3回42、衣笠に3回39、TE安藤に2回25、五十嵐に1回6ヤードを通している。思い通りにパスが通らずに苦しんでいた前節とは異なり、調子が上がってきたようだ。
 QBといえば、けがで戦列を離れていた2年生の星野もこの試合、ほんの数プレーだったが出番があり、元気な姿を見せてくれた。これまた心強い。
 リーグ戦も前半の4試合を終わり、佳境に入ってきた。これから立ち塞がる京大、立命、関大は好守ともにそれぞれの特徴を持った強敵である。ファイターズの一員として闘うメンバー全員が、この日までの4試合でつかんだ自身の特徴を生かし、足らずを補って全力で相手にぶつかる態勢を構築してもらいたい。
 幸い、けがやインフルエンザなどで戦列を離れていたメンバーも徐々に復帰している。この日の試合で、久しぶりに元気な姿を見せ、いい動きを見せてくれたメンバーもいるし、シーズン当初から起用されている1年生も試合ごとに力を発揮している。
 もちろん、2年生や3年生にもチームの主力と言ってよい人材が何人もいる。この日の先発メンバーを見ても、守備ではDL村田、山本、LB永井、DB東田らが名を連ね、1年生からはDB藤田が起用された。
 オフェンスでもLT近藤、C巽、RT森永、RB伊丹、スナッパー柴原は3年生、2年生にはLG紅本、TE川口、K大西が起用され、WR小段に至っては1年生である。
 こうしたメンバーが4年生を支え、チームを盛り上げていくことで、チーム力は上がっていく。強力なメンバーをそろえている立命や関大とも対抗出来るはずだ。若いメンバーが試合ごとに力を付け、急激な成長曲線を描いていくのを見られるのも、学生スポーツの大きな魅力である。
posted by コラム「スタンドから」 at 12:41| Comment(2) | in 2023 Season

2023年10月10日

(11)大学生の課外活動

 前回のコラムは、次のような言葉で結んでいる。
 「チームとしては苦しい戦いであったとしても、自分のプレーが通用するという自信を付けたメンバーもいるだろうし、自ら改善しなければならない点があることを体感した者もいるだろう」
 「その気づきを個人として、またチームとして、どう止揚していくか。それを考え、明日の試合につなげ、実行していくのが、大学生が集団で取り組むスポーツの魅力であり、神髄であると僕は考えている」
 どうしてこんなことを書いたのか。
 一つはいま、あちこちの大学で、課外活動構成員の不祥事が次々と表面化しているからだ。指導という名を借りた下級生に対する暴力行為、薬物の不法所持や不法接種、女性に対する集団暴行事件……。ここ半年、1年ほどの間に大きく報じられた記事だけでも、その一端がうかがえる。
 大学生の部活動だけではない。高校生の部活動でも、監督やコーチによる部員への私的制裁が後を絶たない。その一端は、日本高野連が定期的に公表している情報からでもうかがえる。
 そんなニュースに接するたびに思い出すことがある。僕が現役記者時代、懇意にしており、後に日本高野連の理事としても席を同じくした、ある公立高校野球部指導者のことである。
 彼はある日、こんな思い出話をして下さった。「僕も昔は熱血指導者。朝から晩まで高校生のことばかり考えていました。本気で怒った時はほっぺたを張り飛ばすし、言葉も荒くなる」「それでも、結果がついてこない。考えあぐねた末に、ふと思いついた。逆の発想で接したらどうか。そう思って、腹の立つときはニコニコ笑うようにしたのです」「ニコニコしながら、次は頑張れよ、期待してるで、と声を掛けるようにしたら、相手は『頑張ります』と答える。そんなことを繰り返しているうちに、チームの雰囲気も変わってくる。監督と選手の間に、目標を共有しているという実感が生まれてくる。そのご褒美が甲子園での優勝。選手が自ら目標を持って行動できるようにするだけで、優勝旗が手にできたのです。指導者としてこんなに嬉しいことはありませんでした」
 これは、18歳未満の生徒を主役にした高校野球指導者の話である。大学生ともなれば、相手はもう大人である。自らが考え、互いに協力しあって、目標に向かって突き進んで行くのは当然だろう。
 そういえば、ファイターズの前監督、鳥内さんも、こんな言葉をしばしば口にされていた。「ほんまに勝ちたいのは、お前らやろ。勝ちたいんやったら、勝てるようにチームをつくっていかなあかん。主役はお前らやで」
 そのような考え方がチームに浸透し、4年生を中心に一丸となってお互いを高めあい、毎年、前年以上のチームをつくってきた歴史があるからこそ、手強い相手が立ちはだかるこの世界で勝ち続けているのだろう。
 今年のチームも、そうした歴史の延長上にある。学生が主役となり、監督やコーチがそれを助ける。チームが一丸となって向上心を持ち、練習の成果を明日の試合につなげていく。
 それが大学生が集団で取り組むスポーツの魅力であり、それを当たり前のこととして実行しているのがファイターズであろう。いつまでも応援したいチームであり続けるゆえんである。
posted by コラム「スタンドから」 at 16:20| Comment(3) | in 2023 Season

2023年10月02日

(10)大学スポーツの魅力

 先週の土曜日、王子スタジアムで行われた神戸大学レイバンズとの試合は31−10でフィターズの勝利。スコアだけをみれば、ファイターズが順当に勝利したように思われるかもしれないが、現場で応援していた感覚ではまったく異なる。まずは試合の経過から追ってみよう。
 先攻のレイバンズが入念に準備したオフェンスでファイターズ守備陣を振り回し、わずか6プレーでTD。キックも決めて7−0。 ファイターズが試合開始早々、わずか2分足らずの間に得点されるなんて、全く想定していなかったし、その得点が相手が練りに練ったプレーを完遂した結果だと思えたから、二重に驚いた。
 前節、ファイターズが登場する前の京大戦で、変則的な攻撃で相手守備陣を振り回しているのを見ていたので、ファイターズとの試合でも、多彩な手法で攻めてくるだろうとは思っていたが、その想定を上回る大胆な攻めだった。
 幸いなことに、先攻されてすぐ、ファイターズもRB前島、伊丹のランとQB鎌田からWR鈴木へのミドルパスで相手ゴール前に迫り、最後はRB澤井が20ヤードを走り込んでTD。大西のキックも決まって同点に。次のレイバンズの攻撃を完封し、センターライン付近から始まったファイターズの次の攻撃は、鎌田からWR五十嵐への短いパスがたて続けに決まって相手ゴールに迫る。しかし、TDを奪うには至らず、大西のキックで10−7とようやくリードを奪う。
 しかし、これで落胆するような相手ではない。少々攻撃が手詰まりになっても、手を変え、品を変えて攻め込んで来る。並外れたスピードを持つWRやRBへの大胆なパス、QBの果敢なスクランブル、意表を突くランプレーなどを組み合わせ、少々のロスは平気で攻め込む姿勢が厄介だ。
 ファイターズファンに向けたFMラジオで解説と実況を担当されている小野ディレクターも、守備コーチとして経験の豊かな相手コーチがオフェンスコーチとなり、守る側にとっては厄介なプレーを次々と仕掛けている、その意図を実現する足の速いプレーヤーがいるし、何よりもファイターズに一泡吹かせてやろうというチームとしての意思が伝わってきます、と述べられている。
 コーチの気持ちが選手に乗り移ったのか、相手守備陣は懸命にフィターズの攻撃をしのぎ、攻撃は手詰まりになっても、常に一発ロングゲイン、一発TDを狙った攻めを仕掛けてくる。その積極的な攻めが実り、第2Q終了間際には、FGを決めて追いつき、10−10のままハーフタイム。
 短い休憩中に、双方共にさまざまなことを考えてきたせいか、第3Qは互いの守備陣が相手攻撃の芽を消し合って0−0。
 4Qに入って均衡を破ったのはファイターズ。RB伊丹のドロープレーなどで陣地を進め、仕上げはQB鎌田からWR小段への13ヤードパス。サイドライン際に投じられたパスを確保した小段が相手守備陣を振り切ってゴールに駆け込んだ。小段はこのシリーズの直前、相手パントを確保した際も、相手守備陣を交わしてセンターライン付近まで陣地を回復するなど、1年生とは思えないプレーを続けている。練習時から、常に「一球入魂」の姿勢で取り組んでいる成果が、このような競り合った試合でも実ったのだろう。
 1年生の活躍に刺激されたのか、守備陣も奮起。次の相手攻撃を完封。その次の相手攻撃もDB中野のインターセプトで封じ込める。
 攻撃陣もそれに応える。続く相手陣38ヤードからの攻撃では、RB前島が中央突破で陣地を進め、残る16ヤードをQB鎌田のラン、RB伊丹のランでTD。キックも決まって24−10。
 こうなると、さすがのレイバンズも息が上がり、攻撃が単調になる。それを守備陣が完封する。
 残り時間2分39秒からのファイターズ攻撃は、相手ゴール前29ヤードから。まずはQB鎌田がWR鈴木に短いパスを通し、RB前島、伊丹が交互に走り、仕上げは前島の中央ダイブ。キックも決まって31−10。
 このように試合の流れを回顧していくと、前半の苦しい戦いが嘘のように思えるが、心配性の僕は、とてもそんな気持ちにはなれなかった。前半、相手が積極的に投じてきたTD狙いのパスが、たとえ1本でも通っていたら、試合展開はがらりと変わっただろう。ファイターズの守備陣、特にLBやDBの対応が少しでも遅れていたら、局面は変わったろうし、フロントを固めるDLの圧力が少しでも弱まっていたら、そこにつけ込まれたに違いない。
 もちろん、それは部外者の勝手な思い込みであり、現場で対戦している選手諸君の感覚にはまた異なる点も多くあるだろう。チームとしては苦しい戦いであったとしても、自分のプレーが通用するという自信を付けたメンバーもいるだろうし、自ら改善しなければならない点があることを体感した者もいるだろう。
 その気づきを個人として、またチームとして、どう止揚していくか。それを考え、明日の試合につなげ、実行していくのが、大学生が集団で取り組むスポーツの魅力であり、神髄であると僕は考えている。
posted by コラム「スタンドから」 at 20:57| Comment(2) | in 2023 Season

2023年09月23日

(9)苦しい戦い

 甲南大との対戦の数日前、上ヶ原のでグラウンドで、厄介な話を聞いた。試合前だというのに、部員の間にインフルエンザの感染者が急増しているという。
 その時、「コロナ禍が落ち着いたと思ったら、次はインフルエンザか。厄介なことだ。なんとか食い止めて欲しい」と、思わず天を仰いだ。
 試合が始まる前、グラウンドで軽く練習するメンバーの背番号に目をこらす。人数が多いから、遠くスタンドから欠場者を確定するのは難しい作業だったが、レギュラークラスで姿の見えない選手が何人もいる。やばい。彼らの欠場が試合に影響しなければよいが、と祈るような気持ちでキックオフを待つ。
 結果は35−3でファイターズの勝利。前半だけで28−0とリードし、控えのメンバーを次々と投入した後半も相手の反撃をフィールドゴール1本に抑えた。
 スタンドから応援している方々には、順当な勝利と思えたかもしれないが、僕にとっては、不用意な反則の多さを含め、今ひとつ物足りない結果であり、反省点の多い試合だった。
 しかし、それは部外者がとやかくいうことではない。まずは試合の流れを見たままに追っていこう。
 ファイターズのレシーブで試合開始。第1シリーズはRB前島へのスイングパス、RB澤井のドロープレーでダウンを更新。次はQB星野からWR小段への短いパスで陣地を進める。しかし、相手陣に入ったところから攻めが続かず、攻守交代。
 相手陣奥深くから始まった甲南の攻撃は進まず、逆に第3ダウンで相手QBが投じたパスをDB東田がインターセプト。相手陣19ヤードという好位置からファイターズの攻撃。まずはRB澤井が中央を突いてダウンを更新。ゴールまでの距離が短くなったところで突破力のあるRB大槻が登場。その第1プレーで中央を突進してTD。初戦の龍谷大戦、同じような状況で中央を突破しながら、相手DBにボールをはじき出されて悔しい思いをした彼が、今度は見事に先制点を奪った。
 得点が入れば、チームは落ち着き、相手には焦る気持ちが芽生える。相手陣25ヤードから始まった甲南大の攻撃は進まず、あげくに第4ダウン、パントといういう状況で痛恨のスナップミス。そのボールをファイターズが押さえ、ゴール前1ヤードで攻守交代。
 この好機にRB澤井が中央を突いてTD。相手にプレゼントしてもらったような得点で14−0とリードを広げる。
 第2Qに入っても、ファイターズのリズムは崩れない。自陣21ヤードから始まった攻撃ではRB前島の10ヤードランから始まり、WR五十嵐、衣笠へのパスを立て続けに決めて敵陣深く迫る。仕上げも五十嵐へのパスでTD。大西のキックも決まって21−0。
 それでも相手は、WRのランなど工夫をこらした攻めで活路を開こうとする。しかし、DB東田のセンスあふれるプレーやDL林のQBサックなどで相手を押し込む。逆にファイターズは前半終了間際にRB澤井へのパス、伊丹のラン、WR百田へのパスなどで陣地を進め、仕上げはQB星野からWR五十嵐へ45ヤードのTDパス。大西のキックも決まって28−0。大きくリードを広げて前半終了。
 しかし後半になり、好守とも控えのメンバーが次々と登場するようになると、徐々に攻撃のリズムが崩れてくる。交代メンバーが限られていることもあったのだろうが、後半の得点は第3Q終了間際にQB星野からWR百田へパスを通し、ランプレーのシリーズを一つ挟んで、WR衣笠に26ヤードのパスを通して挙げた7点だけ。前節の龍谷大戦で84点を挙げて大勝したチームと同じチームとは思えないほどの苦しい戦いだった。
 もちろん、インフルエンザの感染者が急増した影響もあってのことだろう。しかし、チームにとっては、これからが本番。まずは神戸大との対戦が迫っている。先週、能力の高いQBと、それを支える強力なラインを擁する京大を相手に、一歩も引かず、真っ向から渡り合っていたチームである。その力はあなどれない。
 フィールドに立つメンバーはもちろん、控えのメンバーも一丸となって闘ってもらいたい。病床で苦しむ仲間の分まで頑張ってこそ「ファイター」である。
posted by コラム「スタンドから」 at 22:53| Comment(1) | in 2023 Season

2023年09月15日

(8)躍動する新戦力

 今季の初戦となった龍谷大との試合では、今春入学したばかりの1年生が躍動した。先発メンバーに名を連ねたRT谷内(箕面自由)、WR小段(大産大)、DB永井(佼成学園)の3人はもとより、交代メンバーとして出場した面々も、鮮やかなパスキャッチやQBサックを次々に披露してくれた。
 もちろん、スタンドから双眼鏡で眺めているだけだから、見過ごしてる部分は多い。それでも、場内限定のFM放送で臨場感あふれる実況をされている小野宏さんやそれを補佐されているOBの片山昌人さん、小川原秀哉さんの解説を聞いていると、好守共に注目すべきプレーヤーは見えてくる。
 とりわけ目に付いたのはレシーバー陣。QBの投げたボールにいち早く駆け寄り、捕球し、相手の守りを突破して走るのが主たる役割だから、出来不出来が分かりやすい。春の試合から先発メンバーとして活躍している小段はもちろん、この日は百田(啓明)も大活躍。途中からの出場だったが、34ヤードのTDパスを捕球したのを含め、5回の捕球で78ヤードを確保している。
 振り返れば、4月半ばの頃だった。それまでは上級生とは別メニューで身体作りや基礎練習に専念していた1年生の中から、上級生に交じって練習できるメンバーが選ばれ始めた頃に、特別に目立つ新入生が3人いた。当時はQBとして長いパスを当然のように投じていたリンスコット(箕面自由)、そしてレシーバーの小段と百田である。
 WRの二人は当時、練習時には高校時代のヘルメットを着用していたから、ときおり練習を見学している僕にもその存在にすぐに気付いた。二人ともボールが吸い付いてくるように捕球し、捕球してから身のこなしが素早く、足も速い。試合経験の豊富な上級生DBを易々と抜いていく。上級生レシーバーも顔負けの動きに「これが新入生か」と魅了されたことを思い出す。
 その小段は、春から先発メンバーとして活躍しているが、秋の初戦でも2本のTDパスをキャッチし、パントリターンTDも1本決めた。負けじと百田もこの日、5回の捕球で78ヤードを稼ぎ、TDも決めた。この二人が競り合い、励まし合って成長していけば、チームにとっては鬼に金棒、なくてはならない存在になるのは疑いない。
 もちろん2年生WRには、この日5回の捕球で97ヤードを獲得、2本のTDパスを確保した五十嵐もいる。彼は試合の最終盤、自軍の選手がゴール前でファンブルしたボールを素早い動きで確保し、この日3本目のTDに結びつけている。彼もまた、今後とも大いに期待できる選手である。
 ほかにも、この試合で活躍した1、2年生は少なくない。1年生に限っても、先発メンバーに入ったDB永井は、第2Qに相手パスをインターセプト。初戦から期待に応えたし、交代メンバーで出たLB倉田(高等部)も第3Qにインターセプトを決めた。交代メンバーで出場したDL馬久地(高等部)とLB油谷(箕面自由)はともにQBサックやロスタックルを決めている。
 春の試合から交代メンバーとして出場しているOL谷内はこの日、スタメンで出場。この日は出番が少なかったDBリンスコットも後半、鮮やかなパスカットでその潜在能力の高さを見せてくれた。
 こうしたフレッシュなメンバーが試合経験を積み、その力を存分に発揮出来るようになれば、チーム内の競争はより激しくなる。それがチーム全体の底上げにつながり、負けないチームを形成していく。次の試合でも、彼らの動きを注目したい。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:19| Comment(0) | in 2023 Season

2023年09月04日

(7)見所満載の初戦

 待ちに待った2023年シーズンが開幕した。時は9月2日午後5時半、所はおなじみ神戸市の王子スタジアム。入場門が開かれるはるか前から開門を待つファンの列に並び、脳裡に選手の顔を描きながら、さて、今日はどんなメンバーが活躍してくれるだろうか、春の試合には縁のなかった新入生の中からどんなメンバーが頭角を現すのか。上ヶ原のグラウンドで、日に日に成長している1年生や2年生の中から、今日はどんなメンバーが登場し、どんな活躍を見せてくれるのか。
 あれこれと考えているうちに、ようやく開門。まずはチームの小野ディレクターたちが場内限定で実況放送される放送席の隣に席を確保し、鳥内前監督からいただいた両チームのメンバー表に目を注ぐ。
 1年生だけでも16人。2年生は24人。そこには春のシーズンから出場し、派手な活躍で注目された選手もいるが、試合会場で名前を見るのは初めてというメンバーもいる。昨年夏、スポーツ選抜入試の勉強会で縁のあった新入生だけでも、背番号の若い順にDBリンスコット・トバヤス(箕面自由)、同じく永井慎太郎(佼正学園)、北村翼(宝塚)、LB油谷壮馬、OL谷内史郎(箕面自由)、WR小段天響(大産大附)が名を連ねている。スポーツ選抜以外では、上ヶ原のグラウンドで、小段とともに突出した動きを見せていたWR百田真吾(啓明学院)の名前もあり、彼らがこの日、どんな動きを見せてくれるか、試合前から密かに注目していた。
 午後5時半、キックオフ。先攻は龍谷。DB波田の素早いタックルなどで相手は全く陣地を進めることが出来ず、自陣ゴール前からパント。それをキャッチしたWR小段がナイスリターン。相手陣42ヤード付近からファイターズの攻撃が始まる。最初のプレーはQB星野からWR衣笠へのパスで17ヤード。次は星野のスクランブルで9ヤード、衣笠への短いパスでゴール前5ヤードと陣地を進め、仕上げはRB澤井が中央を走り抜けてTD。K大西のキックも決まって7−0。
 攻撃がテンポ良く進めば、守備陣はさらに勢いづく。ライン戦で相手を押し込み、苦し紛れに相手が投じたパスをDB山村がインターセプト。相手陣38ヤード付近から再びファイターズの攻撃が始まる。ここでも星野とレシーバー陣との呼吸はぴったり。まずはWR鈴木が短いパスを受けて走り、ゴール前28ヤード。次は星野のスクランブルで陣地を稼ぎ、仕上げはRB伊丹が9ヤードを走り抜けて2本目のTD。リードを広げる。
 守備のラインが終始、相手を押し込んでいるから、相手の攻撃は進まない。その結果、相手は自陣奥深くで釘付けになるから、余計にプレーの選択肢が限られる。第4ダウンでパントを蹴っても、ハーフライン付近までしか届かないという状態に陥る。
 そんな状況で迎えたファイターズ3度目のの攻撃は相手陣43ヤード付近から。そこでQB星野からWR小段へのパスが決まりTD。21−0とリードを広げる。
 相手攻撃を完封した守備陣の活躍で、次の攻撃シリーズも相手陣41ヤードから。まずはRB前島が21ヤードを走り、QB星野のキープを挟んで、星野からWR衣笠へミドルパスを投じてTD。わずか3プレーで28−0。
 こうなると、試合経験の少ないメンバー、本番になると緊張して力が出し切れない選手にもゆとりが出てくる。逆に、相手の集中度は下がってくる。相手は、攻守とも苦しいプレーを余儀なくされているのに、ファイターズは下級生や交代メンバーが伸び伸びとプレーする。
 相手QBが自陣10ヤード付近から投じたパスをDB杉本が確保し、攻守交代。相手陣41ヤード付近でファイターズの攻撃となり、それを機にQBが星野から鎌田に交代。その第1プレーでWR鈴木に短いパスを通して気持ちを落ち着かせると、次はWR小段へ長いパスを投じてTD。わずか2プレーでさらにリードを広げる。
 続く相手の攻撃を守備陣が簡単に封じた後、ファイターズの攻撃は相手陣40ヤードから。鎌田は、ここでも立て続けに短いパスを2本通してダウンを更新。相手ゴールまで23ヤードと迫ったところで、エースRB前島に短いパスを通し、それを確保した前島がゴールまで走りきってTD。この二つの攻撃シリーズ。登場したばかりの鎌田は、都合5プレーで2本のTDを挙げた。
 昨秋から今季の前半、思い通りにパスが通らず、後輩の星野にスターターの地位を奪われてきた4年生QB鎌田。最後の秋の初戦で見違えるような切れの良い動きを見せた彼を見て、僕はある種の感動を覚えた。
 もちろん、前半で大差が付き、相手の戦意が落ちたときのプレーである。彼ほどの才能を持ったプレーヤーにとっては、出来て当たり前、というプレーだったかもしれない。けれども、昨秋から今春、試合でも練習でも、もう一つ物足りないプレーを繰り返し、もがき続ける彼の姿を見続けてきた私にとっては、「これが鎌田だ、本来の姿だ」と、思わず叫びたくなるようなプレーだった。
 4年生の秋。初戦で披露してくれた彼の姿が本物であって欲しい。立命や関大などとの厳しい戦いでも、彼の才能が存分に発揮されることを願っている。
 追記
 この日の試合では、WRやDBを中心に下級生たちの活躍も目立った。彼らのことは、次の機会に書かせていただきます。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:42| Comment(2) | in 2023 Season

2023年07月02日

(6)わくわくJV戦

 この3週間、週末ごとに上ヶ原の第3フィールドで、ファイターズの試合があった。交流試合と銘打っているけれども、ファイターズにとってはJV戦。普段、試合に出る機会の少ないメンバーに実戦経験を積ませるための貴重な機会である。
 1週目の対戦相手は中京大学。選手層は薄いが、関西の1部リーグでも活躍できそうなメンバーが好守ともにそろっている。逆に、ファイターズにとっては、好守共にキラリと光る才能を秘めた下級生が何人もいる。けがやポジションの都合で、実戦経験を積む機会に恵まれないまま3年生、4年生になった選手も少なくない。そういったメンバーがそれぞれどんな活躍をしてくれるか。手元のメンバー表にある名前と背番号を頼りに、グラウンドの戦いに目をこらす。
 ファイターズの攻撃陣で最初に目に付いたのがRBの大槻。相手ゴール前13ヤード付近から3回連続でボールを託され、ダウンを更新。ゴール前までの1ヤードが残ったが、次のプレーも大槻に託され、見事TDに持ち込んだ。
 大槻って誰?、そんなRBいたのか、という周囲の人たちの声を聞きながら、当日のメンバー表を見て「彼って、ひょっとしてLBをやってた子ちゃうん? 福知山共栄で野球部だった子」と思いあたり、彼がファイターズを志望した際に一度だけ会って話したことの記憶のある選手だと判明した。
 彼の動きを注目していると、彼はその後も短いヤードを確保したり、相手ゴール前に迫ったりした場面にはことごとく登場。そのたびに相手を跳ね飛ばす、文字通りのパワーランで陣地を進め、終わってみれば3本のTDをもぎ取っていた。
 試合終了後に、顔を合わせた香山コーチに聞くと、「面白かったでしょう。うちのRBにはいないタイプですから。まだ、RBに転向して1週間ほど。これから、RBの走り方を覚えてくれると、楽しみな存在です」と、ニコニコしながら説明してくれる。その顔を見ていると、こちらまでわくわくしてきた。
 急造RB大槻は、次の桃山大戦でもファンの関心事。ファターズ最初の攻撃シリーズから、短い距離を確実に進めたい場面には必ず登場。そのたびにパワフルなランで陣地を進めていく。スタンドのファンの歓声も大きくなる。
 攻撃陣だけではない。この試合では守備でも僕にはなじみのないメンバーの活躍が目立った。DBの加藤、酒井は共に東京から志願してファイターズの門を叩いた2年生。ともに意識してプレーを見るのは初めてだったが、それぞれが注意深い位置取りで備え、相手の動きが見えた瞬間に素早く反応し、容易にプレーを通させない。3戦目の日体大戦で、相手パスに素早く反応してパスをカット、浮いたボールをそのまま確保してインターセプトに成功した新井イケンナを含め、東京からファイターズを志願してくれた面々が、ようやくチームになじんくれたようで、これまた嬉しいニュースである。
 嬉しいニュースといえば、JV戦の2試合で鮮やかなTDパスをキャッチしたWR川崎の成長も心強い。1年生の時から注目されている長身のレシーバーだが、けがが多く、なかなか真価が発揮出来なかったが、この3試合では要所要所でパスをキャッチ。パスの捕り方もうまくなっており、秋シーズンに期待の持てる活躍ぶりだった。
 秋シーズンへの期待といえば、日体大戦で先発したQB林のプレーも見応えがあった。これまでは、素早い身のこなしで、瞬時にランナーとしての威力を見せてくれる選手だと理解していたが、先発した中京大戦では、パスQBとしても成長していることを見せつけてくれた。同じポジションにはパスを得意とする鎌田や星野がいるから、なかなか出番はないかもしれないが、あの俊敏な走りに加えてパスプレーまで警戒しなければならないとなると、相手守備陣にとって厄介な存在になるに違いない。数年前、左利きの走れるQBとして存在感があった光藤君のようなプレーヤーになってくれるのではないかと、一人、胸の内でつぶやいていた。
 見所の多かったJV戦3試合。好守のラインを含め、ここで名前を挙げきれなかった選手を含め、今後の成長に期待したい。前期試験が終わり、夏休みになれば、夏季の厳しいトレーニングが待っている。JV戦には出場しなかったレギュラー陣はもちろん、まだ大学の練習に耐えるための基礎的なトレーニングに打ち込んでいる新入生を含め、体力を養い、向上心を持った取り組みを続けて、秋にはさらに1段アップした勇姿を見せてもらいたい。
 以上がスタンドから眺めた「交流戦という名のJV3試合」の感想である。今季もファイターズには、大いに期待が持てる。
posted by コラム「スタンドから」 at 21:30| Comment(2) | in 2023 Season

2023年06月12日

(5)爽やかな試合

 雨上がりの日曜日。11日の王子スタジアムは厚い雲に覆われていたが、目の前で展開される試合は爽やかそのもの。両軍メンバーのメリハリの効いた動きが心地よく、久々にフットボールの魅力を堪能させてもらった。
 迎える相手は立教大学。過去の記録を見ると、ファターズとは戦後間もなくから互いに勝ったり負けたりの好勝負を繰り広げてきたライバル校である。僕がフットボールに興味を持ったその昔、今は亡き米田先生からファイターズの歴史や草創期のエピソードの中に登場したチームだが、目の前で両校の対戦を見るのは初めてだ。
 試合前の練習を眺めながら、場内のFM放送を担当されている小野ディレクターから立教大の話を聞き、相手QBらの動きを見ているうちに「今日はなんだか、爽やかな好勝負になりそう」との予感がわいてきた。
 ファイターズのキック、立教のレシーブで試合開始。試合前の練習で予想した通り、相手QBの動きがよく、レシーバーとの呼吸も合っている。ランとパスを織り交ぜて立て続けにダウンを更新する。
 けれども、ファイターズ守備陣も負けてはいない。DL浅浦の力強い動きとLB永井の鋭いタックルで、相手の勢いを食い止める。
 好守交代。今度はファイターズがテンポのよい攻撃を展開する。起点になるのはQB星野。今季、力強さを増した伊丹や澤井らのRB陣を走らせ、合間に1年生の小段や4年生の鈴木らWR陣へ短いパスを投じる。そのテンポがよいから、反応の早い相手守備陣も対応が難しい。
 あっという間に第2Q。RB伊丹や澤井らが次々と走り、仕上げはK大西。30ヤードのFGをスパッと決めて先制する。
 それでも相手はくじけない。攻めてはQBが鋭いパスを投じ、守ってはDB陣がパスを奪い取る。ファイターズの守備陣もまた、少々攻め込まれても動じない。DL浅浦が素早い動きで相手キャリアを食い止め、漏れたところはLB海崎や永井が確実に仕留める。
 双方ともに守備陣が健闘し、互いに相手の長所を消し合って前半終了。
 後半になっても、双方共に果敢なプレーが続く。互いに相手の長所を潰し合い、双方共になかなか得点機会をつかめない。
 膠着した場面を打ち破ったのはQB星野の思い切りの良いラッシュ。ハーフライン付近から一気に20ヤードを走って陣地を挽回。続けて今度はWR鈴木へ29ヤードのパス。それが見事に決まって待望のTD。投げた方の思い切りが良かったし、キャッチした方の技術も素晴らしかった。日頃、上ヶ原のグラウンドで互いに会話を交わし、技術的なことも含めて意思疎通を重ねているからこそ、ここぞという場面で「あうんの呼吸TD」を決めることが出来たのだろう。
 似たような場面は、第4Qの半ばにも訪れる。DB山村のインターセプトでめぐってきたファイターズの攻撃。今度は星野が相手陣45ヤード付近からWR小段に5ヤードのパスを投じて陣地を進める。続くプレーも標的は小段。相手ゴールまでは40ヤードもあったが、ここで投じた星野の長いパスを小段がキャッチ。決定的な2本目のTDに仕上げた。
 これを「あうんの呼吸」というのだろう。星野と鈴木との関係にもいえることだが、普段の練習時からプレーごとに会話を重ね、互いに求め合い、気持ちを交わし合ってきたからこそ、本番でも絶妙のパスが投じられ、それを確実にキャッチできる。投げる方は2年生。受ける方は4年生と1年生。学年の違いを感じさせない双方の濃密な関係が生み出したTDといってもいい。
 それは守備陣にもいえる。この日の試合ではDLのメンバーが相手に襲いかかり、漏れてきたランナーはLBとDBが仕留める、という場面が何度も見られた。その結果としての零封である。素早い動きが持ち味の相手QBやRBに、あわや、という場面を何度も作られながら、相手を無得点に封じることが出来たのも、1列目、2列目、3列目の連携がうまく機能し続けたからだろう。
 アメフトは、攻守ともグラウンドに出ている11人全員が、それぞれ助け合い、励まし合って戦うスポーツだということが改めて確認できた。空は曇っても心は快晴。爽快な気持ちで帰路についた。
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2023年05月30日

(4)現在地を知る

 28日は関西大学との戦い。会場は吹田市のMKタクシーフィールドエキスポだ。えっ、どこにあるん?、と一瞬戸惑ったが、昔のエキスポ球技場やがな、という友人の説明でようやく納得がいった。観客の収容力は少ないのが難点だが、フットボールがどこよりも身近に観戦できる球技場であり、数々の名勝負が展開されてきた舞台でもある。
 以前は、車で行き来していたが、いまは阪急電車とモノレールに乗り継いで行くので、片道1時間半はかかる。
 なんとか席を確保したところで試合開始。メンバー表を見ると、1週間前の中央大戦と同様、この日も1年生のWR小段君とDBリンスコット君が名前を連ねている。伸びしろのあるメンバーには積極的に経験を積ませ、秋本番に備えよう、他のフレッシュマンの励みにさせたい、というベンチの考え方にブレはない。
 考え方にブレがないというのは、先発メンバー全体を見てもうかがえる。攻撃の起点となるフロントラインの中央には紅本君、QBには星野君、WRに五十嵐君、DBに東田君を起用し、キッキングチームにもキッカー降矢君、パンター大西君、ホールダー山口君と、それぞれ2年生を登用している。関西大というスピードもパワーもあるメンバーをそろえたチームを相手に、若いメンバーがどこまで対抗できるかを見極め、彼らの成長を一段と促したいという、ベンチの思惑がひしひしと伝わってくる。
 ファイターズのリターンで試合開始。第1プレーはRB伊丹君のラン、第2プレーは星野君から小段君への短いパスが通ってダウンを更新。次のシリーズでは星野君が小段君への40ヤードのパスを通して相手陣21ヤードに迫る。一気にTDにまで持ってきたい場面だったが、相手守備陣は堅い。やむなくFGを狙ったが、これが外れて得点ならず。
 逆に、相手は小柄ながら正確なパスと的確な状況判断が持ち味のQBを中心に、確信に満ちたパスとランを使い分け、わずか2プレーでゴール前に迫る。ここは守備陣が奮起して、なんとかFGによる3点に抑えたが、関大オフェンスの強さをまざまざと見せつけた。
 第2Qに入っても、状況は変わらない。相手QBは自在に動き回り、パスとランで陣地を進めてくる。それにLB海崎、永井、DB波田、東田、中野らの守備陣が対抗し、パスをはじき、ランを食い止める。途中、DLの浅浦がジャンプ一番、相手パスをカットする好プレーを見せれば、DB山村も強力なタックルで相手を仕留める。仕上げはDB波田のインターセプト。
 守備陣が頑張れば、攻撃陣も奮起する。自陣32ヤードから始まったファイターズの攻撃は、星野から小段へのパスでダウンを更新。続くシリーズでは星野がRB前島に23ヤードのパスを成功させ、そこからはRB澤井、井上、東耕を次々と走らせ、仕上げは澤井が8ヤードを走りきってTD。ゴールも決まって7−3と逆転する。
 第3Qに入っても、ファイターズのランアタックは続く。星野から交代したQB鎌田が自陣ゴール前17ヤード付近からRB前島に長いパスを通して一気に相手陣に迫り、そこからは再びランアタック。RB澤井が4回連続で中央を突破。合計37ヤードを走り切ってTD。この場面では、OLの金川がフルバックの位置に入って相手守備陣を押し込み、開いた空間に澤井が走り込むという仕組みがうまく機能していた。
 第3クオーター10分を過ぎたところで14−3。相手の強力なパス攻撃を必死で防いだ守備陣と、自分たちの仕掛けを信じてパスを通し、相手陣を押し込んだファイターズ攻撃陣の面目躍如という戦いぶりだった。
 しかし、好事魔多し。第3Q終了直前、守りの中心だったLB永井君が退場になると、たちまち相手の攻撃が活気づく。それまでなんとか持ちこたえていたDB陣も、相手の的確なパス攻撃に振り回され、カバー態勢にほころびが見えてくる。そこを狙って相手はパス、パス、パスと陣地を進める。ファイターズ守備陣も懸命にそのパスをカットするが、それでも守り切れない。
 このあたりの攻防。これは私の勝手な想像だが、ファイターズの監督やコーチはあえて指示を出さず、グラウンドで闘う選手の動きを注視していたように思える。困ったときに個々の選手がどう振る舞うか、仲間とどう意思を通じ合うか。乱れたカバー態勢をどう再構築するか。それをグラウンドで闘うメンバーが考え、対処する。目先の勝敗を超えて、その力を試していたように思えてならない。
 それは、試合経験のほとんどない2年生や1年生を積極的に登用し、少々の失敗にもめげずに起用し続けたこの日の戦い方にも現れている。グラウンドで闘うメンバーはもちろん、交代メンバーやスタッフも含め、それぞれの現在地を知り、それぞれの課題を見つけ、克服することで、秋本番に備えよう。そのための戦いが今日の試合だったと思えてならない。
 そう考えると攻、守、投、走、蹴。時間の使い方を含め、この日の試合から学ぶことは数多い。願わくは、そうした課題にそれぞれの選手、スタッフ全員が真剣に取り組んでもらいたい。それは、ファイターズの諸君が最も得意とする分野だと信じている。
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2023年05月22日

(3)大きな収穫

 20日は、王子スタジアムで中央大学との交流戦。今季の第3戦だが、その先発メンバーに今春、入学したばかりの1年生2人が名前を連ね、共に目を見張るような動きを見せてくれた。
 一人はWRの小段天響君(大産大)。もう一人はDBのリンスコット・トバヤス君(箕面自由)。いつもの年なら、新入生はまだ基礎体力作りの段階で、チーム練習に参加できるのはほんの数人。試合に出場するのも、ある程度身体が出来てからのJV戦というのが通例だった。今季も例外ではなく、二人とも5月に入ってから練習メンバーに入ったばかり。とりわけ、リンスコット君の本職はQB。DBの練習を始めてからでは2週間にも満たない。
 そんな二人が先発メンバーとして起用された。ファイターズ応援歴半世紀以上という僕も、応援仲間も、全員びっくり。「これはどういうこと。そんなに素晴らしい選手なのか」と、試合前から盛り上がる。
 「第3フィールドでの練習を見ているだけだが、二人とも素晴らしい動きをしている。コーチや監督の発言からも、期待の大きさがうかがえる。僕のような素人が見ても、そのセンスの良さには目を見張る。共に高校時代から注目されてきた選手であり、度胸もありそうだ。きっと期待に応えてくれるだろう」と答えたが、共に期待に違わぬ活躍。とりわけ小段君は、先発QB星野君との相性も良く、見事なレシーブで先制点を挙げてくれた。
 その場面を見て、思わず、亡くなられて久しい斎藤喜博先生の言葉を思い出した。「君の可能性」という言葉である。
 新聞記者生活55年。途中、支局長とか論説委員、編集委員、さらには地方紙の編集局長とかいう名前の名刺を持って働いたが、その間、ずっと記事や論評を書き続けてきた。それを支えてきたのがこの言葉である。
 先生と初めてお会いしたのは1971年の春。3年近く働いた信濃毎日新聞を辞し、朝日新聞での初任地・前橋支局でのことだ。初めて自宅を訪れた時から先生の懐に飛び込み、その教授法の勉強会にも参加した。先生の著書も読みふけり、「可能性を引き出す教育」について大きな影響を受けた。
 先生に「一つのこと」という詩がある。全文を紹介しよう。

 いま終わる一つのこと
 いま越える一つの山
 風わたる草原
 ひびきあう心の歌
 桑の海光る雲
 人は続き道は続く
 遠い道はるかな道
 明日のぼる山もみさだめ
 いま終わる一つのこと

 この詩について、先生は次のように説明されている。
 …この詩は、いま自分たちは、みんなと力をあわせて一つの仕事(学習)をやり終わった。それは、ちょうど一つの山にのぼったようなものである。山の上に立ってみると、草原にはすずしい風が吹いている。そこに立つと、いっしょに登ってきた人たちと、しみじみ心が通い合うのを感じる。そこから見ると、はるか遠くに桑畑が海のように見え、雲が美しく光っている。そしていま登ってきた道を人がつづいて登ってくるのが見える。自分たちはいま、一つの山を登り終わったが、目の前にはさらに高い山が見えているのだ。今度はあの山に登るのだ、という意味である。
 学校の学習とは、こういうことをみんなと力をあわせてつぎつぎとやっていくのである。一つの山をのぼり終わると、次のより高い、よりきびしい山に向かって出発するのである。そういうことがおもしろくて楽しくてならないように、クラス全体、学校全体で力をあわせて学習していくのである。
 続けて、こんな説明もある。
 …ひとりがよいものを出すことによって、それが他のみんなに影響し、より高いものになって自分のところへ返ってくるのである。それぞれがよいものを出し合い、影響しあうから、ひとりだけでは出せないような高いものを自分のものとすることができるのである。ひとりひとりの人間が、より高い、よりよいものに近づこうとするねがいを持ち、そのためにはどんなほねおりでもしようとするようになり、またどんなほねおりでもできるようになるためには、学校でのこういう経験がどうしても必要になる。(中略)そういう努力を続けていくことによって、ねばり強い心とか、困難にくじけない心とかもつくられていく。また、苦しい思いをしても、目の前にある困難を一つ一つとっぱしていくことこそ、本当に張り合いのあることであり、楽しいことだということも体験として覚えていくようになる。
 そういうことこそ、もっとも大切な能力である(以下略)。
 この説明は、ファイターズの活動にも、そっくり当てはまるのではないか。この日の試合で鮮烈なデビューを果たした二人の1年生だけではなく、昨年から試合に出続ける選手も、それを支える選手やスタッフも、粘り強く、困難にくじけない心と身体をつくってチームを支えていく。
 その積み重ねが、有能なタレントをそろえたこの日の相手にも発揮されたのではないか。後半開始早々、96ヤードのキックオフリターンTDを決めたRBの伊丹君。相手のラン攻撃を再三、強く素早い当たりで食い止めたLBの永井君やDBの波田君、2年生DB東田君はその長身を生かして相手のパスをカットし続けた。みな日頃から目的を持った練習に励み、自らの可能性を拓いてきたからこその成果ではないか。
 黙々と好守の最前列で身体を張り続けたメンバーを含め、それぞれのポジションに、そういうお手本になるようなプレーを見せてくれる選手がいるからこそ、強力なタレントをそろえた相手にもチームとして対抗できる。それがファイターズの強みであり、チームの底上げにもつながっているのではないか。
 もちろん自軍の戦力や個々の選手の力量を冷静に見極めるベンチの目も鋭い。双方が相まって、好守共に優秀な能力を持ったメンバーをそろえた相手に、終始主導権を渡さず、試合を進めることができたのではないか。
 高い目標に向かって出発し、チーム全体で力をあわせて学習する。高い目標を達成するためにはどんな努力もいとわず、日々、努力を続ける。そういう経験がより高いもの達成するための道を拓いてくれる。
 そういう循環を生み出すことができれば、チームは必ず強くなる。そう考えると、4月に入部したばかりの新人を先発メンバーに起用し、新入生もその期待に応えたというこの日の試合は、チームにとっても大きな収穫になったに違いない。
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2023年05月08日

(2)悔しさを糧に

 7日の王子スタジアムは雨。「第1回神戸エレコムボウル」と銘打った試合の相手は、社会人のトップリーグに所属するエレコム神戸。10年近く前には、現在、ファイターズのコーチをされている香山氏が主将として活躍されていたチームであり、現在も、ファイターズの卒業生(当日の選手名簿によると、2020年卒業のOL松永、森田、22年卒業のOL朝枝、RB前田君ら)が名前を連ねている強豪である。昨年度の4年生が卒業し、メンバーが一新された2023年度ファイターズの現在地を確かめるための相手としては申し分なかろう。
 朝から降り続いていた雨は、試合が進むにつれて激しさを増し、グラウンドの所々に大きな水たまりが出来ている。選手はもちろん、応援するチアリーダーや観客にとっても、最悪のコンデションだ。
 グラウンドの状況が悪いと、攻める方も守る方も大きな制約を受ける。思いもよらないハプニングも起きる。それを象徴するような場面が試合早々に現れた。
 立ち上がり、ファイターズの攻撃は相手の激しい動きに押され、ランも進まず、パスもままならない。一度もダウンを更新出来ないまま、攻撃権が相手に渡る。
 ボールは相手ゴール前10ヤード。相手にとってはゴールポストを背負った苦しい場面だったが、好守共にメンバーのそろったラインは強力だ。右に左にと強力なラン攻撃を展開し、立て続けにダウンを更新し、あっという間にセンターラインを超えてくる。
 ここは、DB波田とLB海崎の機敏な動きでなんとか食い止め、相手をパントに追いやったが、そこでとんでもないハプニングが起きた。相手がゴール際まで蹴り込んだパントが水たまりに落ちてそのまま止まってしまったのだ。タッチバックを狙ってそのボールに触れなかったリターナーをよそに、相手チームがゴール前1ヤード付近でそれを確保。そのまま相手の攻撃が続くことになったのだ。
 球の勢いや落下地点から見て、必ずゴールラインを割るとみてスルーしたリターナーの判断が結果的に間違っていたのだが、当の本人を責めるのは酷な気もする場面だった。
 しかし、相手にとっては思わぬご褒美。逆にファイターズはゴールを背負った苦しい位置からの攻撃を強いられる。ダウンの更新もできず、結局は相手にフィールドゴールを決められ、3点のリードを許してしまう。
 第2Qに入っても、雨は激しく降り続ける。パスが投げづらいのか、互いに攻撃はランプレーが中心。ファイターズは伊丹のランを中心に陣地を進めるが、パスが機能しないから攻撃が手詰まりになる。逆に、相手は果敢にパスを投じてくる。それでもファイターズの守備陣が踏ん張り、相手に決定的なチャンスは与えない。
 膠着した状況で、再びファターズにミスが出る。相手の蹴ったパントを取り損ね、ゴール前2ヤードで相手に攻撃権を与えてしまったのだ。相手にとっては思わぬプレゼントである。即座にTDに結びつけ10−0とリードを広げる。
 ハーフタイムが終わっても、雨は降り続ける。雨脚はより強まり、グラウンドは水浸し。当初は双方のゴールポストの前面だけが水たまりになっていたが、後半に入ると、全面的に水が浮いている。こんなことを言っては失礼だが、スタンドで見ている当方には、試合の勝敗よりも、選手がけがなく、無事に試合を終えてくれるのを祈るような心境だ。
 試合は結局、後半にもう1本のTDを決めたファイニーズが17−0で勝利。ファイターズに取っては悔いの多い敗戦となった。
 試合後、ファイニーズの元主将でもある香山コーチに電話し、感想を聞いた。
 最初の一言が「雨の中での試合を経験したこと、自分たちの力のない点を知ることが出来たのが今日の収穫でしょう。応援してくださるファンにとっては物足りなかったでしょうが、学生チーム相手では得られない経験をしたのだから、これを今後に生かしていかないと……」との答えが返ってきた。
 その通りである。どんな相手であっても、どんな状況に置かれても、それを言い訳にせず、日々の練習に必死懸命に取り組んでこそ道は開ける。そういう意味では、雨の中、思い通りに進まなかった攻撃陣も、相手のパワーとスピードに押された守備陣も、この日の悔しい経験から学ぶことはいくつもあるはずだ。今季の開幕早々に、こうした経験が出来たことを糧として、チームに名を連ねる全員がさらなる努力を続けてくれることを期待したい。
posted by コラム「スタンドから」 at 23:41| Comment(0) | in 2023 Season

2023年04月24日

(1)芽吹きの季節

 春、4月。今季の初戦は22日。相手は日本大学。あの「悪質タックル騒動」以来、途絶えていた関係だが、ようやく試合を再開するまでの関係がよみがえった。双方の関係者はもちろん、ファンにとっても懐かしく、そして楽しい試合が展開されると想定されたのだろう。続々とファンが詰めかけ、ファイターズサイドの応援席は試合開始のはるか前からほぼ満員。
 この日は若手OB、OGらの発案で、試合前にファイターズが主催するイベントもグラウンドの一角で行われ、鳥内前監督のトークショーなどで盛り上がった。会費制でホットドッグ風の軽食やアルコール飲料も提供されるとあって、懐かしい卒業生が次々と顔を見せていた。僕が立ち話をした主なメンバーだけでも、2001年度卒業の石田力哉、2004年度卒の佐岡真弐、石田貴祐君らがいる。それぞれその昔、ファイターズを目指し、入試に備えた「小論文の書き方」の勉強会をした頃からの知り合いだが、いまは40歳を過ぎた貫禄たっぷりの「おっちゃん」たちだ。それでも、話し始めると、一気に20年以上も前に時間が戻る。あれこれ話していると、あっという間に試合時間が近づいてくる。
 定刻の1時半に試合開始。この日は、前述の通りにOB、OG組織が主催する催しがゴールポストの後方で行われていたため、小野ディレクターらによる場内限定のFM放送は取りやめ。いつもと勝手の違ったスタンドで、一人、メモを取りながら観戦したが、小野さんらの解説がないから、ボールを持った選手の動きを追うのに精一杯。その上、今季から新しく出場するようになったメンバーの名前がすぐには分からないため、1プレーごとにメモを取るのが追いつかない。
 加えて、この日の攻撃はランプレーが中心。入れ替わり立ち替わりタイプの異なるランナーが出場するので、プレーごとにその背番号と獲得ヤードを記録し続けるのも容易ではない。
 そういう試合で、目に付いたのが。RB陣の充実ぶり。エースの前島君はこの日、リターナーやレシーバーとしての出場はあったが、ランナーとしては出番がなく、代わって3年生以下のメンバーが活躍した。体が一回りも二回りも大きくなって突破力の付いた伊丹君を中心に、同じ3年生の澤井君、2年生の井上君らが活躍。ショートヤードが獲得したい場面では、昨年までほとんど出番のなかった3年生の住田君がパワフルなプレーを見せてくれた。
 試合後、記者団に囲まれた大村監督が「今日はランニングバックがよかった。思い切り褒めていたと書いといて下さい」と話されていたが、全くその通り。これに4年生の前島君らが加わると強力なランアタックが期待できる。さらに、この日は4年生のWRが一人も出場しなかったけれども、実績のある鈴木や衣笠が戻ってくると、攻撃の幅が一気に広がり、得点力も上がるに違いない。
 そうなれば、この日は目立たなかったQB陣の活躍の場が一気に広がるだろう。そういう意味では、この日のロースコアも全く悲観する必要はない。この日の試合で活躍したメンバーはもとより、思い通りに動けなかったメンバーも、その原因を見つめ、そこから新たな出発を期してもらいたい。
 2023年のシーズンは始まったばかり。日大を相手に、自信を付けたメンバーはもとより、苦しい試合を強いられたメンバーのさらなる発展を期待して、まずは今季の応援コラム第1回を締めくくろう。私もまた、せっせとグラウンドに通い、部員の動きを見学させてもらおう。
 胸弾むシーズンの開幕である。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:03| Comment(0) | in 2023 Season