2022年12月20日

(17)そしてバトンは渡された

 終わって見れば34−17。12月18日、阪神甲子園球場で、東日本代表の早稲田大学を相手に行われた第77回甲子園ボウルは、ダブルスコアでファイターズが勝利。5年連続33度目の優勝を果たした。
 試合を振り返るに際し、まずはこの日の記録を紹介しておこう。ダウンの更新数は関学が26回、早大が16回。獲得ヤードはランが239ヤード対106ヤード、パスが同じく220ヤード対253ヤード。ターンオーバーの回数は、それぞれ1回と2回。ファイターズの攻撃がパスとランのバランスがとれていたのに対し、早稲田の攻撃はパスに偏っていたことがよく分かる。
 こうした数字を見ると分かるように、ファイターズの攻撃はランとパスのバランスが良く、相手の攻撃はパス中心。徹頭徹尾パス中心に攻め込んできた。
 1Q12分の戦いなら、少々、攻撃パターンが偏っていても、先取点を奪い、その勢いで試合の主導権を手にすることも可能になる。しかし、1Q15分の戦いは長い。相手が事態を冷静に見極め、態勢を立て直せば、やがて自分たちのペースで試合を進めることが可能になる。この日のファイターズは、その模範ともいえる戦いで勝利を手にした。
 試合はファイターズの攻撃からスタート。いきなりRB池田がダウンを更新したが、思わぬファンブルで瞬時に早大に攻撃権が移る。このピンチは守備陣の奮闘で切り抜けたが、相手の士気は上がっている。1年生QB星野が右や左に展開しながらパスを投げるが、思い通りに陣地は進まない。しばらく双方の守り合いが続き、気がつけば0−0のまま1Qが終了。
 第2Qに入ると星野も落ち着き、相手ゴール前26ヤード付近からWR糸川に絶妙のパス。通ればTDというプレーだったが、なぜかボールはレシーバーの胸からこぼれ落ちてしまう。しかし、K福井が43ヤードのFGを決めて待望の先取点。3−0とリードを奪う。 続く早大の攻撃は、DB中野やDLショーンの好守でしのぐが、ファイターズの攻撃もかみ合わない。結局、もう1本フィールドゴールを決めたが、第2Q終了間際に相手にもFGを決められ、6−3のまま前半終了。
 ここまでを総括すれば、ファイターズは押し気味に試合を進めながら自らのミスでチャンスを逃がし、相手は逆に、思い切りのよいパス攻撃で活路を開こうとする。それがそのまま得点に表れたような試合展開。どちらにせよ、後半の立ち上がりが勝敗を分けそうな予感を抱きながら、寒風の吹きすさぶスタンドで待機する。
 しかし、後半戦に入っても双方の守り合いが続く。試合が動いたのは、第3Q2度目のファターズの攻撃から。1年生QBの星野から交代した3年生の鎌田が立て続けにWR衣笠と河原林にパスを通して相手陣深くに迫る。RB伊丹のランプレー2本を挟んで、今度はTE小林への短いパス。相手の守備陣が混乱した隙を突いてRB伊丹が相手ゴールを突破して待望のTD。リードを13−3と広げる。
 これで自信を付けたのか、鎌田の動きがさえてくる。衣笠へのパスを立て続けに決めて相手にパスへの警戒心を持たせたと思ったら、一転して伊丹や星野を走らせて陣地を進める。仕上げはゴール前5ヤードからRB前島が走り込んでTD。20−3と差を開く。
 こうなると試合はファイターズペース。前島がさらに2本のTDを追加し、終わってみれば34−17でファイターズが勝利した。
 振り返ってみると、前半こそ相手の思い切りの良いパス攻撃と、アグレッシブな守備に手こずったが、相手の手の内が見えてきたところでQBを星野から鎌田に交代させたベンチの作戦がピタリとはまった。その作戦に応えた攻撃陣も素晴らしかったが、相手の思いきったパス攻撃に耐え続けた守備陣も素晴らしかった。素早い動きで相手QBに圧力をかけ続けるDLの山本やショーン。低くて鋭いタックルで走者を釘付けにするLB永井や浦野。狙い澄ませたようなジャンプで相手のTDパスをもぎ取ったDB山村。彼らの名前を挙げていくと、関西リーグで関大や立命の強力なオフェンスに対抗してきた彼らの自信がそのままプレーに反映しているように思えた。
 別の言い方をすれば、個々のプレーヤーの力は拮抗していても、チーム全体で見ればファイターズが少しばかり上回っていたということであり、その力には関大や立命館との試合を戦い抜いた自信が宿っていたということだろう。
 強力なライバルがあってこそのチーム力の充実。表面的な力は互角に見えても、ここ一番という場面で発揮されたその力がファイターズ5連覇の支えになった。関大や立命との厳しい対戦を耐え抜いてきたことが力になり、その力で勝ち取った勝利。別の言葉で言えば、ライバルとの厳しい戦いがあったからこその勝利と言ってもよい。
 そのバトンは、この日グラウンドに立った全員でつないだ。その結果としての5年連続日本1。渡されたバトンは、新しいシーズン、3年生以下のメンバーがつないでくれるに違いない。
 試合後、グラウンドに降りて大村監督と握手を交わした際、シーズン中、守備陣は褒めても、攻撃陣には厳しい評価を続けてこられた監督の表情が、いつになく和んでいたのが印象的だった。
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2022年12月12日

(16)特別な時間、特別な成長

 午後も4時を過ぎると、決まったように冷たい六甲おろしが吹き込む上ヶ原の第3フィールド。そこでいま、毎日のように大学王者を目指し、凝縮された実戦練習を繰り広げているのがファイターズである。
 関西リーグで優勝を決め、途中、西日本代表決定戦を挟んで三週間。大学選手権5連覇を目指し、中身の濃い練習を続けている部員の姿を見るたびに、これが関西リーグにおけるファイターズのアドバンテージ。目の前の大きな目標を、自分たちの代でも必ず達成するという、強い気持ちを持って、今この時期に特別な時間を過ごしている諸君だけに許された特権。それが個々の選手はもちろん、チームの血となり肉となってファイターズという強力な集団を築き挙げてきたのだ、という思いを新たにする。
 時間が許す限り、その模様を見学させていただこうと、週の半ばからグラウンドに詰めかけている私にとっては、そういう諸君の練習が見られることが、とてつもなく幸せな時間である。少々、寒くても、体がガタガタ震えても、じっと選手やスタッフの動きに目をこらしている。
 不思議なことに、私のように全く選手経験のない人間でも、同じ選手の動きを長期間、定期的に眺めていると、必ず成長曲線が見えてくる。それまで出来なかったことが急に出来るようになったり、体のこなしがより精妙になったりしているのを目の当たりにする。そのたびに「なるほど、実戦的な練習を続ければ、ある日突然、次元の違う世界が見えてくるんだ」と理解できる。
 先日も、あるコーチと個人的な用件でメールをやり取りしている時、同じ選手の動きについて、双方の見解がぴったり合っていることを知って驚いた。
 僕のような部外者ではなく、実際、グラウンドで練習している選手らにとっては、その実感はより確かに感得出来るに違いない。その実感が自信になり、さらにもう一つ上のプレーを身に付けたいという動機付けになるに違いない。
 そういう気持ちを持って、目の前の練習に取り組むメンバーが増えれば増えるほど、チームの力は上がっていく。関西リーグが終了してから甲子園ボウルまでの3週間がファイターズの力量をアップさせる特別な時間であると考える、それが理由である。
 もちろん、そういう時間は秋のシーズンがスタートしたときから続いている。1年生や2年生が実戦の中で経験を積み、一つ一つのプレーの失敗を糧に、成功を自信にして自らの力を伸ばしてきたからこそ、強力なタレントをそろえた関西大や立命館大を相手に、勝利を収めることが出来た。
 そうした苦しい試合を自分たちの力で突破して迎える甲子園ボウルである。
 もちろん、相手もリーグ戦で同じような体験をし、東日本代表となってからも、もう一段上の力を付けているに違いない。厳しい戦いになることは予想できるが、ファイターズの諸君がこの3週間に積み上げ、築いてきた力を発揮すれば、存分に戦えるはずだ。私のような部外者がみても、急激に成長しているメンバーは何人もいる。それは控えのメンバーとして位置づけられていた下級生だけではない。ずっと先発メンバーとして活躍してきた3年生や4年生にとってもいえることだ。
 自分たちが個人として、またチームとして積み重ねてきたことを信じ、それを力に変えて存分に活躍してもらいたい。勝利への道は必ず開ける。
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2022年11月29日

(15)我慢の勝利、勇気の力

 27日、吹田市の万博記念競技場で行われた関西リーグ最終戦・立命館大との戦いは、互いに力を出し合い、身体をぶつけ合う熱戦。リーグの王者を決めるにふさわしい戦いとなった。
 今季、最終戦を前にしてファイターズは6勝0敗。対して、立命は関大に敗れ、関大は関学に敗れてそれぞれ1敗を喫している。しかし、この日の試合で関学が敗れると、3者がそれぞれ6勝1敗となって同率優勝。甲子園ボウルへの出場権は、3者の抽選で決めるということになっている。立命は何が何でも勝たなければならない試合。対する関学も勝ちきって無条件での甲子園出場を果たしたい。それ以前に、この20年余り、関西、いや日本の学生フットボール界を牽引してきたトップチームの歴史とプライドを賭けた試合である。勝ちたい、負けられない、という気持ちは、フィールドに立つ選手全員が共有していたことだろう。
 もちろん、監督やコーチ、そしてチームを支えるスタッフらも、この試合に備えて万全の準備を整え、知恵を絞ってこられたに違いない。
 コイントスで勝った関学がレシーブを選択し、立命のキックで試合開始。自陣24ヤードから始まったファイターズ最初のアタックはQB星野のキーププレー。1年生とは思えない落ち着いた動きで6ヤードを前進。続けてRB伊丹が走ってダウンを更新。
 これでパスが決まればペースがつかめる、と思ったが、相手の守りは想像していた以上に堅い。結局はパントに追いやられる。
 守りが堅いのはファイターズも同様だ。相手の第1プレーをDLトゥロター・ショーン礼が素晴らしい突っ込みで封じ込め、これまたパントに追いやる。さらに立命の第2シリーズでも守備陣の踏ん張りが目につく。DL浅浦がラッシュし、相手が浮かせた球をショーンが確保してインターセプト。試合後、大村監督が「守備は100点。ショーンはいいし、海崎の穴を永井が完全に埋めてくれた」と絶賛されていたが、その一端が試合開始早々から目についた。
 対する立命の守備も強固だ。ファイターズのRBが持つボールへタックルしてファンブルを誘ってリカバーし、すぐさまインターセプトの返礼。互いに守備陣が踏ん張り、あっという間に第1Qが終了する。
 第2Qに入っても、ファイターズは押し気味。だが、フィールドゴールの失敗などもあってスコアは0−0のまま。
 試合を動かしたのはファイターズの1年生QB星野。自ら走ると同時に、WR衣笠、RB前島、WR糸川へ次々とパスを決めてゴール前1ヤード。そこから糸川に1ヤードのパスを決めてTD。キックも決まって7ー0と均衡を破る。
 後半に入ると立命が攻勢に出る。自陣20ヤード付近からパス中心で陣地を進め、ファイターズの陣地に迫る。ここでも守備陣が健闘し、相手もFGを狙うしかなくなったったが、ここでファイターズに手痛い反則。ホールディングを取られ、ゴール前3ヤードからの攻撃を許す。相手は難なくTD。しかし、相手はすでに1敗を喫しており、引き分けでは優勝はおぼつかない。勝つことが至上命題とあって、当然のように2点を狙ってきた。
 だが、ファイターズ守備陣の意気は高い。それを見事に防いで試合は7−6。
 1点差のまま第4Qに入り、迎えたファイターズの攻撃は自陣46ヤード付近から。わずか1点とはいえ、リードしている側は時間を消費しながらの攻撃が中心になる。その期待に応えてRB伊丹、前島が機敏な走りで陣地を進める。エースWR糸川までがランナーとして走るのだから、「時間を消費しながら攻める」というベンチの意図は徹底している。選手もよくそれに応え、陣地を進める。仕上げはゴール前25ヤード付近からのFG。K福井が決めて10−6。
 残り時間は5分24秒。リードを守る方には長く、追いかける方には短い時間である。当然追いかける方はパス中心のプレーになるが、守る方もそれを予期している。パスを投げる側に強烈なプレッシャーを掛け、自由に投げさせないようにする。
 そうなると、勝つも負けるも守備陣の対応次第。「この日は100点の出来」と監督に賞賛された守備陣が相手QBに圧力をかけ続け、完全に試合をコントロールして10−6のまま試合終了。ファイターズが全勝でリーグ戦を締めくくった。
 以上、試合の経過を追ってきたが、最後に僕の個人的な感想を一つ。それは、誰よりも積極的な姿勢で練習してきた下級生がこの日の試合で躍動したことである。
 ファイターズはいつの時代も「4年生のチーム」と呼ばれる。実際、今年も攻守共に4年生が中心になってチームを牽引してきた。オフェンスでは牛尾や小林、糸川、梅津、河原林らのWR陣、デフェンスではこの日も大活躍したDL山本、LB浦野らの名前がすぐに思い浮かぶ。
 けれども、4年生だけでは勝てない。下級生の底上げが常に求められる。
 僕が日頃、練習を見学させて頂く中で、常に注目しているのが、いつも前向きに練習に取り組む下級生、とりわけ新入部員と故障明けの選手の存在である。新入生といえば、この日先発したQBの星野、DBの東田(もっとも、彼とは言葉を交わしたことがない。背の高いDBとして注目しているだけだ)。昨年でいえば、LB永井(彼はスポーツ推薦入試の小論文の勉強会で、いつも気合いのこもった文章を書いていた)。
 故障上がりといえばこの日、大活躍したDLショーンやOL近藤らの名前が浮かぶ。それぞれが必死になって練習に取り組み、一つ一つのプレーを身に付けよう、より強く、より素早く動けるようになろうと励む姿を見て、常に心の中で「頑張れよ。君たちの取り組みは、必ず神様が見てくれている」とエールを贈っていた。
 その選手らが素晴らしい活躍をしてくれた。わがことのように嬉しい。
posted by コラム「スタンドから」 at 14:36| Comment(1) | in 2022 Season

2022年11月14日

(14)道を開く

 日本のスポーツ界には「死闘」とか「血で血を洗う決戦」「肉弾相打つ熱戦」とかいう表現がある。13日、吹田市の万博記念競技場で行われた関西大学との試合こそ、そのような表現がふさわしいと思った。
 試合開始は午後3時。その時点では、その前の立命−近大戦まで降り続いていた雨が残っていたが、試合が始まると間もなく降り止む。共にパス攻撃を得意とするチームだけに、互いにほっとしたことだろう。
 試合開始。その第一プレーでファイターズにビッグプレーが生まれる。相手がゴール前近くまで蹴り込んだボールをキャッチしたRB前島が一気に相手ゴール前15ヤード付近まで76ヤードもリターンしたのだ。巧みなステップで相手を交わす前島の技術と、その前を走るRB伊丹の的確なブロックが組み合わさったビッグプレーである。
 ボールの位置は相手ゴール前16ヤード付近。一気にTDと攻めたい場面だったが、相手の守りは堅い。ギリギリのところでダウンの更新はならなかったが、K福井が26ヤードのFGを決めて3−0。互いに欲しかった先取点をファイターズが手にする。
 しかし、相手の攻撃も鋭い。わずか5プレーでファイターズゴール前に迫り、FGを決めて3−3。互いに譲らぬ攻防が続く。
 試合が動いたのは、第2Q早々。ファイターズがQB鎌田のパス、RB伊丹、池田、前島のランなどで陣地を進め、最後はゴール前5ヤード付近から前島のランでTD。とはいっても、RB任せのプレーではない。ボールを抱えた前島をOL陣がひとかたまりになって包み込み、全員で相手ゴールまで押し込んだプレーである。
 ラグビーでいえば、フォワードが「モール状態」になってボールキャリアを包み込み、ラインごと相手ゴールになだれ込むプレーである。今季、スタンドからその「ひ弱さ」をたびたび指摘されてきたOL陣が奮起し、それを形にしてもぎ取った得点である。
 通常の試合なら、このプレーをきっかけにファイターズがペースをつかみ、そのまま試合の主導権を握るところだが、相手は強い。QB須田からWR溝口へのパスをキーにして一挙に陣地を進め、わずか9プレーでTD。キックも決めて10−10。そのまま前半終了。
 後半になっても、関大の攻勢は続く。動きの素早いQB須田と長身、俊足のレシーバー溝口を中心にぐいぐいと陣地を進める。対するファイターズも山村、永井、高橋らを中心にしたDB陣と、長身でスピードのあるショーン、怪力で相手オフェンス陣を押し込む山本を中心にしたDL陣が奮起。相手に決定的なチャンスは与えない。
 一発TDの威力を秘めた相手の攻撃をなんとか食い止めているうち、ファイターズにビッグプレーが飛び出す。相手QBが一番信頼し、この試合でも長いパスをビシビシと決めていたWR溝口に投じたパスを、ファイターズの2年生DB中野がインターセプト。そのまま相手ゴールまで走り込んだのだ。時間は第3Q7分32秒。まだまだ勝敗を云々する場面ではないが、ずっと押され気味だったファイターズにとっては、まさに起死回生のプレーだった。
 しかし、試合はまだ第3Qの終盤。まだまだ勝敗の行方は分からない。けれども再びリードしてからは、なぜかファイターズに好プレーが続く。特筆したいのは、キッキングチーム。攻撃が手詰まりとなり、何度も苦しい位置からのパントを強いられたが、そのことごとくをK福井が相手陣奥深くまで蹴り込み、自軍守備陣に余裕を与えた。
 それに守備陣も奮起し、相手に決定的なチャンスを与えない。気がつけば試合終了までの時間が迫っている。最後はファイターズのニーダウンで試合終了。得点は17−10。終始押され続けた試合だったが、数少ない好機をすべて得点に結びつけたファイターズの、チームとしての結束力がもたらした勝利だったといえよう。
 たとえ押されていても、チームとして結束し、攻守蹴が互いに助け合って取り組めば道は開ける。この日、全員で勝ち取った成果を次の立命戦につなげてもらいたい。君たちの前に道があるのではない。君たちが結束して道を開くのだ。
posted by コラム「スタンドから」 at 23:33| Comment(0) | in 2022 Season

2022年11月03日

(13)見所満載の近大戦

 3日は文化の日。この休みに近大戦を振り返ろうと考えていた。だが、肝心の「観戦メモ」がない。勤務先の和歌山県田辺市の住まいに持ち込んだまま、西宮の自宅に持ち帰るのを忘れたようだ。
 さあ、困った。試合の流れは記憶しているが、メモ帳がなければ試合を振り返るのは難しい。かといって、今から田辺まで往復することは無理だ。思い切って、書くのを諦めようかとも考えたが、それも無責任だ。
 それでなくとも、今季は京大戦を「紀伊半島に台風接近」という情報で急きょ、前日に田辺に戻り、欠席したばかりだ。シーズン6試合(今季は同志社大には不戦勝)のうち、2試合も「欠席」とは、いくら何でもひどすぎる。
 幸い、チームのホームページに先日の試合結果がアップされている。それを頼りにいくつかの場面を振り返り、私的な感想を綴ってみたい。
 立ち上がり、ファイターズは遠投力のあるQB鎌田と強力なレシーバー陣を生かして陣地を進め、相手陣に迫る。しかし、中央左よりから右手ゴール前に投じたパスが深めに守っていた相手DBの胸に入り、インターセプト。
 先制の好機が瞬時に暗転。相手陣は一気に勢いづく。守備陣の心の準備が間に合わないのを見越したようにパスを投げ続け、ぐいぐいとファイターズ陣地に迫る。ここはなんとかFGによる3点に食い止めたが、それでも先制点を取れば、相手の気持ちはほぐれる。勢いもつく。
 2Qに入ると、ファイターズが短いパスとラン攻撃で相手陣に迫り、仕上げはRB澤井が7ヤードを走り込んでTD。K福井のキックも決まって7−3。
 ようやくチームは落ち着く。鎌田からのパスが決まり始め、ラン攻撃も進むようになって仕上げはWR河原林への4ヤードTDパス。相手との競り合いに強い河原林の持ち味を遺憾なく発揮したプレーで14−3。
 守備陣が完封して迎えた次の攻撃も、RB伊丹の中央突破でTD。第2Qは攻守ともファイターズペースで進み、前半は21−3で終了。
 後半になると、ファイターズは1年生QB星野を起用。「投げてよし、走ってよし、まるで奥野君のようですね」「鎌田君とはタイプが異なるから、双方を想定して準備をしなければならない相手にとっては厄介でしょうね」と場内限定でファイターズが流しているFM放送で、小野ディレクターが解説。「まだ1年生ですからね」と解説の片山OBも相づちを打たれる。
 その間にも試合は進行。近大攻撃陣がパスを投げ、QBのランも織り込んで果敢に攻撃する。仕上げはQBランでTD。21−10と追い上げる。
 4Qに入るとファイターズは星野がゴール左隅に走り込んだWR鈴木にドンピシャのパスを通してTD。さらに次のシリーズではRB前島や伊丹の走力を生かして相手陣深く迫り、仕上げは伊丹が3ヤードを突破してTD。2週間前の神戸大戦では相手の守備陣に幻惑されいたオフェンスラインも、ようやく落ち着いてきたようだ。
 一方、守備陣の動きは1列目、2列目、3列目の動きが試合を重ねるごとにかみ合ってきた。1列目の両翼を守るトゥロター・ショーン礼と亀井は共に動きが素早いし、2列目の海崎、浦野の対応も早い。それに加えて強烈なタックルが持ち味のDB永井が臨機応変の対応をするから、相手にしてみれば厄介な守備陣だろう。DBにはこの日も1、2年生を多く起用しており、彼らが実戦に慣れてくれば、さらに安定してくるはずだ。これから控える関大、立命という強力な攻撃陣を相手に、より攻撃的な守りを期待したい。
 最後に個人的な感想を一つ。この試合、残り時間1秒という状況で、星野からWR林へ投じられたパスのことである。ゴールライン左端へのパスを林がキャッチしたのだが、僕はその瞬間、思わず立ち上がり、歓声を挙げた。彼らが上ヶ原の第3フィールドで黙々とそのパスを投じ、キャッチする場面を何度も何度も見てきたからである。
 以前にも書いたことだが、ファイターズのレシーバー陣には素晴らしいタレントがそろっている。4年生には糸川、河原林、梅津がおり、3年生には1年時から活躍している鈴木に加え、成長著しい衣笠がいる。TEの小林もここ一番のプレーに強い。
 そういう中で、高校時代は野球部だった彼が全く未経験のアメフットに挑戦。黙々と練習を重ね、最終学年の秋になって、ようやく1軍メンバーに上がってきた。主としてキッキングゲームのリターナーとして出場しているが、レシーバーとしてタッチダウンパスを受けるような場面では、ほとんど起用されていなかった。
 それが秋本番。勝敗の行方は見えた場面とはいえ、与えられた一度のチャンスを見事TDパスキャッチという形で締めくくってくれた。高校時代から脚光を浴びてきたメンバーに負けじと、必死に努力している姿を見てきただけに、ここに特筆しておきたい。彼に絶妙のパスを投じた1年生、星野の勝負強さと共に。
posted by コラム「スタンドから」 at 23:10| Comment(0) | in 2022 Season

2022年10月25日

(12)「君の可能性」

 新聞記者生活50有余年、数多くの方々にお会いして見聞を広め、その一端を記事にしてきた。
 今も取材の場面や相手の発言を鮮明に記憶していることが少なくない。1971年の春、朝日新聞社での初任地・前橋支局で働いていた時に知り合った斎藤喜博先生との出会いもその一つである。
 私は当時、信濃毎日新聞社を2年8カ月で依願退職し、朝日新聞に入社して3カ月余り。新人記者が受け持つ所轄警察署担当を卒業し、前橋市政担当兼群馬版の文化面担当になったばかりだった。文化面の担当は読者が投稿してくださる俳句や短歌欄の世話係もする。そこで群馬県の小学校で教育史に残る実践を展開されると同時に、アララギ派の歌人としても知られた斎藤先生と知り合い、先生のファンになった。
 初めてご挨拶に伺った日は、ご自宅の庭に植えられている草木の説明などを受けながら、よもやま話を交わしたのだが、その時の応答が先生に気に入られたのだろう。帰り際に「私は毎月1度、自宅を開放して教員を対象に教授法の勉強会をしている。各地から熱心な先生が参加されるから、お出かけください。教育に関心があるなら、何かと参考になることがあるはずです」とお誘いを受け、以来、前橋支局を離れるまで7か月間ほど、欠かさず勉強会に参加した。
 気安く話し合えるようになって数カ月後、先生と2人、近くの川辺へ散歩に出掛けた。岩場がゴツゴツした景勝地で休憩した時、先生から「今日はここで的当て競争をしましょう」と提案された。標的は25メートルほど離れた対岸にある岩塊。大きさは50センチ四方ほどだ。互いに手頃な石を5個ずつ手に取り、交互に的に投げ合った。
 結果は4対4。でも、60歳を過ぎている先生と20代の僕との戦いだから、明らかに僕の負けだ。どうしてそんなにうまく投げられるのですかと聞くと、こんな答えが返ってきた。
 「あなたは遠くの岩を目当てに投げていたでしょう。でも僕は、どう投げれば的に当たるか、その軌道を頭の中に描き、その軌道に石を乗せるようにして投げています」「教育も同じです。到達可能な目標を近くに設定し、それに向けて指導する。具体的な目標を達成することで自信がつき、それが子どもの可能性を引き出すことにつながるのです」と付け加えられた。
 この話だけではない。先生の「一つのこと」という詩からも大きな影響を受け、いつもその詩を心の支えにしてきた。筑摩書房から出ている「君の可能性」という本(単行本と文庫本がある)に掲載されているので、紹介しよう。

 一つのこと

いま終わる一つのこと
いま越える一つの山
風わたる草原
ひびきあう心の歌
桑の海光る雲
人は続き道は続く
遠い道はるかな道
明日のぼる山もみさだめ
いま終わる一つのこと

 以下、先生の説明を引用しよう。
 ……この詩は、いま自分たちは、みんなと力をあわせて一つの仕事(学習)をやり終わった。それは、ちょうど一つの山にのぼったようなものである。山の上に立ってみると、草原にはすずしい風が吹いている。そこに立つと、いっしょに登ってきた人たちと、しみじみ心が通い合うのを感じる。そこから見ると、はるか遠くに桑畑が海のように見え、雲が美しく光っている。そしていま登ってきた道を人がつづいて登ってくるのが見える。自分たちはいま、一つの山を登り終わったが、目の前にはさらに高い山が見えているのだ。今度はあの山に登るのだ、という意味である。
 学校の学習とは、こういうことをみんなと力をあわせてつぎつぎとやっていくのである。一つの山をのぼり終わると、次のより高い、よりきびしい山に向かって出発するのである。そういうことがおもしろくて楽しくてならないように、クラス全体、学校全体で力をあわせて学習していくのである。
 続けて、こんな説明もある。
 ……ひとりがよいものを出すことによって、それが他のみんなに影響し、より高いものになって自分のところへ返ってくるのである。それぞれがよいものを出し合い、影響しあうから、ひとりだけでは出せないような高いものを自分のものとすることができるのである。
 ひとりひとりの人間が、より高い、よりよいものに近づこうとするねがいを持ち、そのためにはどんなほねおりでもしようとするようになり、またどんなほねおりでもできるようになるためには、学校でのこういう経験がどうしても必要になる。(中略)そういう努力を続けていくことによって、ねばり強い心とか、困難にくじけない心とかもつくられていく。また、苦しい思いをしても、目の前にある困難を一つ一つとっぱしていくことこそ、本当に張り合いのあることであり、楽しいことだということも体験として覚えていくようになる。
 そういうことこそ、もっとも大切な能力である(以下略)。
 先生の主張は、ファイターズの活動にも、そっくり当てはまるのではないか。みんなと力をあわせ、次々と課題に挑戦する。一つのことを成し遂げると、さらに高い目標に向かって出発し、チーム全体で力をあわせて学習していく。より高い目標を達成するためにはどんな骨折りでもしようと心に決め、それができるように努力する。そういう経験がより高いものへの憧れをもたせ、その憧れを達成しようとすることで自ら成長する。
 監督やコーチに言われたからやるのではなく、ひとり一人の部員が自覚を持って取り組み、切磋琢磨することで自身を鍛え、その後ろ姿で仲間を鼓舞する。そういう循環を生み出すことができれば、チームは必ず強くなる。逆に、そこを突き詰めなければ、道は開けない。
 僕はこの詩を、このように理解し、長々と紹介させてもらった。ファイターズでいま、自らの可能性を切り開こうと努力を続けている諸君に響けば幸いである。
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2022年10月17日

(11)山積する課題

 スタンドから観戦していても、まだまだ課題が多いことが見えた試合だった。
 15日、王子スタジアムで行われた今季第4戦、神戸大学との戦いは29−0。試合そのものは終始、ファイターズが先手を取り、優位に進めていた。試合後、公表されたスタッツを見ても、それは理解できる。総獲得ヤードは309ヤード(ラン121ヤード、パス188ヤード)、逆に相手に奪われた陣地は114ヤード(ラン10ヤード、パス124ヤード)。相手の攻撃権を奪うインターセプトの回数はファイターズが5回、相手が2回。この数字だけを見れば、ファイターズが優位に試合を進めていたと受け止める人も多いだろう。
 しかし、スタンドから見ている限り、そういう楽観的な気分とはほど遠かった。どうしてか。例えば、反則回数を見てみよう。相手は1回、マイナス10ヤードなのに、ファイターズは6回、マイナス60ヤード。それだけでも驚きだが、それらの反則がすべて攻撃時に出ていることに、もっと驚く。自分たちが必死になって攻め込んでいるのに、それを自分たちで帳消しにしてしまっているのだ。
 大村監督にとっても、これは想定外だったのだろう。試合後も記者団の取材を受けて「やることは山積み」「これ以上、オフェンスが足を引っ張るわけにはいかない」と厳しい言葉を連ねておられた。
 もちろん、試合には相手がある。神戸大が自分たちの戦術を練り、とにかく積極的に攻め、守り続けようと、終始、意表を突くプレーを出し続けたことも影響している。その守備の揺さぶりに対応しようとしたファイターズのOL陣が思わず反則をしてしまったように見える場面も少なくなかった。
 もちろん、この日は攻守とも積極的に下級生を起用していたせいもあるのだろう。それにしてもこの日の攻撃陣にはミスが多かった。これを克服しない限り、到底、関大や立命を相手に勝利はおぼつかない。
 そこをどう克服していくのか。この日起用された下級生たちはもちろん、試合経験豊富な上級生にも奮起を促したい。
 一方で、いくつかのうれしい場面にも出会えた。一つは、けがでずっと試合から遠ざかっていたレシーバーの4年生、河原林と梅津の2人がフィールドに戻ってきたこと。共に的確なブロックや鮮やかなパスキャッチを披露し、さすがは数々の修羅場をくぐってきた4年生というプレーを見せてくれた。同じ4年生の糸川や3年生の鈴木、衣笠らと共に、今季のKGパスオフェンスを一層の高みに導く活躍を期待したい。
 もう一つは、ディフェンスバックとして起用された下級生の活躍である。苦しい場面でインターセプトTDを決めたDB中野は2年生、同じDBの東田と磯田(ともに1年生)も、それぞれ巧みな位置取りとカバーで鮮やかなインターセプトを決めた。競り合いの中で2度のインターセプトを決めた松島も2年生である。
 場内のFM放送席で解説を務めておられたOBの片山さんが試合中、何度も1年生2人の動きを絶賛されていただけに、彼らがパスを奪い取ったときには思わず拍手をしてしまった。
 アメフットは「戦術のスポーツ」であり、「交代自由」な競技である。この特徴を最大限に生かすためには、選手層を厚くしなければならない。そのためには、日頃の練習だけではなく、試合から学ぶことも数多い。そういう意味では、いくつものミスがあり、苦しい展開を強いられたこの日の試合は、最高の教材になるはずだ。
 ファイターズのみなさん。監督のいわれる「山積みになっている課題」に、懸命に取り組み、自らを鍛え、仲間を高みに引き上げてもらいたい。栄光への道は、自分たちで切り開くしかない。
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2022年10月11日

(10)胸に響く記事が満載「ファイターズ80周年記念誌」

 出来上がったばかりのファイターズの80周年記念誌が届いた。近々、発行されるとは聞いていたが、読んで驚いた。恐ろしいほど内容が充実しているのである。
 これは機能する組織を作るための実践例であり、大学の正課外教育の活動を進めるための教科書でもある。組織の危機管理のあり方を考えるための手引きにもなるし、もちろんチームを強化するための教科書にもなる。
 余計なことながら、これがライバルチームの手に渡ったら、ファイターズに勝つチームをつくるための格好の手引きになるのでは、と心配になるほどの内容がびっしりと詰め込まれている。
 驚いたのが、この企画を立て、出版にまでこぎ着けた人たちも、原稿の筆者も、インタビューする人も、そのすべてがファイターズで卒業生であること。つまり、編集者から筆者まで、さらにいえば出版を企画し、費用も受け持った一般社団法人「KG FIGHTERS CLUB」(旧OB会)を含めた関係者全員が同じ釜の飯を食い、同じ上ヶ原の空気を吸った仲間であるということである。
 僕も仕事柄、会社の社史や地域の案内誌、観光ガイドブックなどの企画や出版の相談に乗ったり、その宣伝を手伝ったりしたことは何度もあるが、こんな風にすべてを自分たちで企画し、原稿を書き、出版の費用までをまかなうなんて話は、自費出版以外、聞いたことがない。それだけではなく、出来上がった本の内容が正課外教育の教科書にそのまま使えるほど充実しているなんて例には出会ったこともない。
 と、驚いてばかりではなく、具体的に記念誌の内容を順を追って紹介してみよう。
 まず、プロローグで「勝利への執念」「自主の尊重」「自由な風土」「チームワーク精神」、その中で培われてきたファイターズスピリット……とうたい、幾多の苦難と真摯に対峙し、挑戦を重ねて来た足跡を回顧し、新たなる飛躍への糧にしたい、と出版の目的を宣言。第1部には「変革の30年」と見出しを付けて、この30年間の軌跡を追い、第2部には「時に刻まれた、栄光の軌跡」として1941年の創部から1990年まで50年の歴史を振り返っている。その50年間については、フィターズ草創期のことを熟知されていた元監督の米田満先生や関西アメリカンフットボール界の生き字引と呼ばれる古川明さんたちを中心に刊行されたファイターズの「50年史」に克明に記されていることもあり、今回はその後の30年を中心に記録している。
 「変革の30年」の冒頭は、鳥内前監督へのインタビュー。朝日新聞社でスポーツ担当記者をしていた大西史恭氏(2008年卒)の質問に、鳥内さんがいつもの口調でズバリズバリと答えている。例えば、「監督のやりがいは」との質問には「社会に出て役に立つ人間を送り出すだけやん」「学生があんな人になりたいな、って思ってくれる、憧れの先輩になって欲しいねん」と答える。
 「勝ったら4年生のおかげ、負けたら監督の責任でええねん」という言葉もある。なんせ6ページに渡るインタビューである。読み応えはたっぷりだ。
 読み応えといえば、有馬隼人氏(2000年卒)による大村監督へのインタビューも中身が濃い。これまた8ページにわたるロングインタビューで、現場の雰囲気が手に取るように伝わってくる。僕がもし、ライバル校の監督やコーチだったら、この8ページ分のコピーをとってメモ帳に挟み、毎日、練習の始まる前に読み上げて「ようし、負けるもんか」と自分を叱咤するに違いない。
 そうした記事だけではない。現場のコーチやトレーナーがこの30年間に取り組んで来られた取り組みを克明に紹介。ファイターズというチームのよって立つところ、現在地を具体例を上げて説明している。詳細は現物を読んでいただくとして、筆者(敬称略)とタイトルだけを紹介しておく。
 1「Reborn−KG」(宮本敬士)、2「ディレクター部門(マネジメント体制)の確立」(石割淳)、3「ファイターズ阪神淡路大震災ドキュメント」(小野宏)、4「ファイターズと国際交流」(野原亮一)、5「平郡雷太君の事故について」(小野宏)、6「安全を追求した30年の取り組み」(西岡宗徳)、7「普及活動・地域貢献活動の展開」(石割淳)、8「OB・OG会の歩みと、これから」(徳永真介)、9「コーチングスタッフの変遷」(宮本敬士)、10「女子スタッフと分析スタッフの誕生」(小野宏・宮本敬士)、11「30年間の戦術の変遷・オフェンス1991〜2001」(小野宏)、12「同・デイフェンス1991〜1999」(堀口直親)、13「同オフェンス2002〜2010」(小野宏)、14「同ディフェンス2000〜2010」(堀口直親)、15「同オフェンス2011〜2021」(大村和輝)、16「同デイフェンス2011〜2021」(大寺将史)、17「キッキング」(小野宏)、18「ショートヤードの魂」(神田有基)、19「トレーニング革命の時代の先に」(油谷浩之)
 それぞれが指導者として苦しみ、努力を重ね、発想を飛躍させて取り組んできた軌跡を具体例を上げて紹介しており、現役の部員はもちろん、今後入部してくるメンバーにも「ファイターズの真実」を知り、ここで学ぶことの励みになるに違いない。
 毎年、僕が続けているファイターズ志望の高校生を対象にした文章表現の勉強会でも教材にしたいような記念誌である。
 一般の方も神戸大戦から試合会場のグッズ販売テントで3000円で購入することができる。
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2022年09月12日

(9)イヤーブックの3人

 毎年のことながら、ファイターズのイヤーブックは読み応えがある。今年も占部雄軌主将の「勝つべくして勝つチームを体現する」という決意表明から始まり、ポジションごとにリーダーたちがそれぞれのポジションを代表して覚悟のほどを言葉にしている。
 読み応えのあるのがKG野球部OBで、オリックス・バファローズのコーチである田口壮氏とファイターズの大村和輝監督、そして占部主将によるオンライン対談である。「目指すべきリーダー像」をテーマに、4段組5ページに渡って語り合っている。それぞれが現場を預かる人たちであり「勝つべくして勝つ」チームをつくるために努力されているだけに、話が具体的で興味深い。試合会場でも販売しているので、興味のある方はどうぞ、ご購入を。
 そのイヤーブックで、僕が特に注目したのは「ファイターズをめざす君へ」というテーマで、いま注目される3人の選手が語っている内容である。登場するのは4年生WRの林篤志(阪南大学高校・高校時は野球部)、3年生DB高橋情(大阪仰星高校・同サッカー部)、同じくWR衣笠吉彦(関学高等部・同サッカー部)の3君である。
 それぞれ大学入学を機会に、それまで続けてきた競技を離れてアメフット部に入部。全くの初心者としてこの競技に取り組んでいる。「下級生時には、練習を終えて帰ってから毎日、戦術ノートを書き写し、復唱しながら覚えていました。現在も新しいプレーは必ずノートに繰り返し書いて覚えるようにしている」(林君)、「経験者よりもプラスで練習するなど、今、どの立場で、何をしなければならないのかを理解し、それを実行することで成長を肌で感じる」(高橋君)、「1日に5食食べることを意識している。後世に名を残す選手になることを目標にしている」(衣笠君)など、それぞれの目標を胸に刻み、練習に励んでいる。
 その努力が報われ、今ではそれぞれのポジションにとって欠かせぬ選手の地位を確保しつつある。高橋君は昨季から先発メンバーに名を連ね、衣笠君も50ヤード走4秒4というチーム1の俊足を生かして今季は初戦からスタメンで出場、1年生QBの投げるパスをしっかり確保していた。
 林君も多士済々のレシーバー陣の中で徐々に頭角を現し、今季はキッキングゲームでもリターナーを務めている。多分、公式戦での先発は初めてだったと思うが、初戦では安定したキャッチを見せていた。チームがスタンドで開設しているFMラジオで解説を担当されている小野宏デレクターが試合中、2度に渡って「今のはいいプレーです。安定していますね」と賛辞を贈られているのを隣で聞きながら「努力は報われる」と、わがことのようにうれしかった。
 この3人だけではない。ファイターズには、高校時代までは他の競技に熱中し、大学に入ってからアメフットの転じて活躍している選手が何人もいる。現役の部員だけをみても、主将の占部君は高等部時代はラグビー部の主将だったし、初戦に先発したDL亀井君も報徳学園のバスケットボール部出身だ。試合の後半、DEとして出場し、QBサックを決めた太田君も青森県の弘前学院聖愛高では野球をしていた選手である。
 今春、入学したばかりで、出場経験がないだけでなく、まだルールも覚えていないようなメンバーの中にも、コーチ陣から「あの子は将来、大いに期待できる」と名指しで保証されたメンバーもいる。
 そういうメンバーが高い目標を持って練習に励み、自ら鍛えてチームを背負っていく。その見本のような3人にスポットを当てたイヤーブックの「ファイターズをめざす君へ」。彼らだけではなく、後に続くメンバーが彼らを目標に練習に励み、自らを鍛えてチームをリードしていく。そういう循環が生まれるのも、ファイターズというチームの奥の深さであり、ファイターズという組織が目指している課外活動の魅力であろう。
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2022年09月06日

(8)ベンチの意図が貫かれた試合

 2022年度ファイターズの初戦、甲南大学との戦いは、ベンチの意図が最初から最後まで貫かれた試合だった。
 どういうことか。具体的に見ていこう。
 一つは新しく戦力になる可能性のある選手を大胆に起用し、存分に活躍できる場面を与え続けたこと。ゲームを指揮するQBに、大学生としては一度も試合経験のない1年生の星野(足立学園)を初めて起用し、最後までゲームの指揮を執らせ続けたことがそれを象徴している。
 もう一つはDBの先発メンバーに1年生の東田隆太郎と磯田啓太郎(ともに高等部)を起用したほか、交代メンバーとして1年生のWR五十嵐太郎(高等部)、川崎燿太焉i鎌倉学園)、Kの大西悠太(高等部)らを次々に起用し、それぞれに活躍の場を与えたこと。もちろん、2年生でこれまで実戦で活躍した経験がほとんどないメンバーも数多く起用し、活躍する場を与えた。先発メンバーとして起用されただけでもOLの近藤剣之介(佼成学園)、金川理人、巽章太郎、森永大為(いずれも高等部)、DLでは川村匠史(清風)などの名前が挙がる。昨年から活躍しているDBの永井(関西大倉)は、守備の最後列から何度も相手QBに襲いかかっていた。
 驚いたのは、そうしたメンバーが全員、それぞれの持ち味を発揮し、スタンドから応援している私たちに将来の可能性を見せつけてくれたことである。
 とりわけすごかったのが冒頭に紹介したQBの星野。173cm、75kgと小柄だが、その分、動きは素早い。パスもしっかり投げられるし、コントロールも上々だ。何よりも状況判断が素晴らしい。試合開始の第1プレーで、いきなりゴールライン間際まで40ヤードのパスをWR鈴木にヒットさせる度胸と技術。これが大学生としての第一プレ一だというのだから、スポーツ漫画の書き手も真っ青だろう。そのプレーを当然のように決める技術と勝負度胸。
 この日のスタッツを見ると、星野はパスで260ヤードを獲得。自身のランプレーでも8回63ヤードを稼いでいる。もちろんチームでトップの記録である。
 試合終了後、大村監督に「今日は、最初から最後まで星野君で行くつもりだったんですか。その意図は」と聞くと、「昨年は2番手のQBを育てていなかったから、鎌田がけがをしたときに苦労した。今年はそんなことがないように、最初から星野に経験を積ませるつもりで試合を任せた。よくやってくれた」との答えが返ってきた。
 なるほど、そういうことかと納得した。他のポジションでも、成長途上にある下級生やけがから復帰した上級生を次々と起用した意図もまた同様だろう。万一のけがに備えて選手の層を厚くする。それがチーム内での競争を激化させ、結果として層の厚いチームが出来上がる。
 そのような意図を持って、シーズンの初戦から大学生として一度も戦いの場に立ったことのない選手を起用し、その選手にゲームを委ねる。その意図をくみ取った試合経験豊富な上級生らが下級生をフォローし、伸び伸びとした環境で試合経験を積ませる。
 その好循環。そう思って試合中に取ったメモを読み返すと、試合開始直後の第一プレーで40ヤードのパスを当然のように確保したWR鈴木君も、第2Qの終盤、ライン際へのミドルパスを確保すると、そのまま相手守備陣を振り切ってゴールラインまで駆け込み、ダメ押しともいえるTDを挙げたWR糸川君も、それぞれのプレーで新人QBをもり立てていたことがよく分かる。
 とりわけ鈴木君は、普段の練習時、星野君がウオーミングアップをする際には、必ずと言ってよいほど相手役を務め、双方の呼吸を会わせるように務めている。
 そういう練習時からの積み重ねが、シーズンの初戦、大学生として初めての試合に先発した1年生QBを落ち着かせ、その力を存分に発揮する場を与えたのだろう。「練習は嘘をつかない」と言う言葉をそれぞれのプレーで実証した試合に、たった4年間しかない学生スポーツの神髄を見たような気分になって帰途についた。
posted by コラム「スタンドから」 at 12:44| Comment(1) | in 2022 Season

2022年08月29日

(7)いざ、開幕

 コロナ禍の中、仕事の時以外は大抵、家の中に引きこもって本を読んでいる。日課の散歩こそ欠かさないが、それも早朝、人の動きが少なく、太陽が照りつけない時間帯を狙って義務的に歩いているだけだから、何の楽しみもない。最近は、自宅近くの西宮市段上町の農家が早朝から畑で収穫し、販売されているイチジクを買いに行くのだけが楽しみという単調な生活である。
 もう一つの楽しみは、自転車で上ヶ原のグラウンドに出掛け、ファイターズの練習を見ること。これだけは熱中症注意報が出ようが、夕立が来そうであろうが関係なく、喜々として出掛けるのだから、自分でも物好きなことよと感心する。
 こんな毎日を過ごしておりながら、肝心の応援コラムはまるまる1カ月、勝手に休載。読者の皆さまに何の情報も提供せず、誠に申し訳ない。ともかく気持ちも新たに今週から再開させていただきます。
 さて、どこから書き始めようか。読者の方々が一番お知りになりたいことは何か。昨年も活躍した上級生たちは、コロナ禍にも負けず、元気でプレーしているか。新しく入部したメンバーで秋のシーズンに登場するのはどんな面々か。そんなことが一番の関心事だろうが、そのことはあえて書きません。
 シーズン開幕と同時に登場し、活躍しそうな有望株が何人も存在するというだけを紹介し、後は試合会場でその魅力、可能性を自分の目で確かめていただきたい。その楽しみを横取りするようなことはしてはいけないと思っています。
 ただし、僕のようなアメフットを体験したことがない人間から見ても、この子はすごい、と思える選手が何人もいます。そうした選手を自分の目で見つけ、その素晴らしさを堪能してください。僕は、私はこの選手を4年間、応援し続けたいと思える選手が複数いることだけは保証できます。
 もちろん、昨年から活躍している上級生たちも元気いっぱいだ。攻守の主力メンバーは学年が一つ上がってチームをリードする立場になり、それにふさわしい行動、プレーを練習時から見せている。昨季から試合に出ている新3年生、新2年生の多くも一段と力を付けてきたようだ。ともに初戦から、その力を発揮してくれるのは間違いなさそうだ。
 このようなことを書き並べていると、僕の中では改めてファイターズというチームの特徴が見えてくる。それは、どの選手にもチャンスを与え、そのチャンスをつかんだ者を登用するという仕組みである。
 そんなことは当たり前、と思われる方も多いだろうが、僕が新聞記者として、あるいは日本高校野球連盟の理事として、高校野球の有名な指導者らと関わってきた中では、控えの選手まで含めた全部員の実力や将来の可能性を正確に評価するのは難しそうだった。もちろん優れた監督やコーチは日々、選手たちと接しているからチームの状況は把握されているのだが、その対象はあくまでレギュラーが中心。選手登録された控えメンバーまでは目が行き届いても、それ以外の部員にまでは目が届かないことも多かったようだ。
 これに対してアメフットは選手の交代が自由で、それぞれの役割も分担されている。少々動きが鈍くても、当たりが強ければ活躍できることがあるし、逆に、視野が広い、足が速いというだけで十分にポジションを任せることができる選手もいる。
 とりわけファイターズの場合は、プロの監督やコーチ、それに大学職員のコーチやボランティアのコーチまで、数多くの有能な指導者がグラウンドに詰めかけ、それぞれのパートごとに選手の一挙一動を注視されている。さらには有能な学生スタッフが練習時からすべてのプレーをビデオに収録。それをコーチが克明にチェックして個々の選手の指導にも生かされる。
 そういう仕組みの中で、練習時には見えていなかったプレーにもすべて目を通し、これは、という動きをする選手がいれば、今度は現場でその選手の動きをチェックする。他の選手にはない長所や動きが見えれば、その長所を伸ばす具体的な手法を考える。
 こういう連環の中で素材を見つけ、成長を促すための手立てを考える。その仕組みを長い歴史の中で日々リセットしながら、よりよいシステムにしているチームだから、才能のある選手が埋もれてしまう可能性は少ない。
 こうした中で発掘された素材がさて、公式戦でどんな活躍をするか。応援の方々も、王子スタジアムでの選手諸君の動きを刮目(かつもく)して見て頂きたい。期待は裏切られないはずです。
posted by コラム「スタンドから」 at 07:37| Comment(1) | in 2022 Season

2022年07月19日

(6)本当の魅力

 コロナ禍がぶり返し、前期試験もあって第3フィールドから、すっかり人影が消えた。週末は、自転車をこいで仁川からの坂道を上り、ファイターズの練習を見学するのが日課だった僕も、練習がないのではなすすべがない。家にこもって昔読んだ藤沢周平や辻原登、それに山田風太郎らの本を次々に引っ張り出し、読んでは眠り、起きては読むことの繰り返しで日を送っている。
 そんな怠惰な週末、待ちかねていた小野宏ディレクターの講演会のニュースが届いた。「アメリカンフットボールの本当の魅力」。主催する朝日カルチャーセンター川西の案内によると、8月26日18時半、川西駅前のアステホール(アステ川西6階)、オンライン講座も併設とある。
 これはファイターズの保護者やファンの方々にとびきり人気のある講座。毎回、100人、200人単位でファイターズファンが詰めかけ、小野ディレクターの理詰めの解説を聞く。要所要所にビデオの映像を交え、ファイターズの戦術やプレーについて詳細に解説し、なぜそのプレーが企画され、どうした仕組みで成功したのか(あるいは防がれたのか)といったことを分かりやすく解説してもらえる。
 現役の頃からファイターズの頭脳と呼ばれ、卒業後は朝日新聞に就職。記者として将来を期待されていたのに、大学職員に転職してコーチとしてチームに戻り、ずっとファイターズを育ててこられた人の解説である。いまは幹部職員として忙しく、第3フィールドで顔を会わせる機会もほとんどないが、それでも試合のたびに場内だけのFM放送で試合の解説を担当されている。それを隣で聞きながら、なるほど、なるほどとうなずくのが僕の楽しみである。
 今年の講座では、昨年秋、関西リーグと甲子園出場校決定戦の2度にわたって死闘を繰り広げた立命館との試合を中心に解説。なぜ、ファイターズが勝てたのか、その戦術やプレーについて、映像を交えて話してもらえる。現場で応援していた人はもちろん、テレビの解説者らも見逃していた場面を取り上げ、なぜ、そのプレーが選択されたのか、そのプレーを成功させるためにどんな工夫があったのかといった点について説明してもらえる。
 そこからフットボールの持つ奥行きの深さや、現場を預かる監督やコーチの役割の大きさ、向上心を持った選手を育てることの重要性などを説明し、フットボールという競技の持つ独特の魅力について語られる。
 同じボールゲームでありながら、野球やサッカーなどとは異なり、フットボールは1プレーごとに試合が中断し、選手が交代できる。代わりに競技時間は厳格に管理され、決められた時間の中で勝敗が決まる。そういう他の競技にない特徴を片方は生かそうとし、もう片方のチームはそれを無効化させるために知恵を絞る。その駆け引きと奥の深さが理解できるようになれば、応援する側の楽しさもより深まる。
 チーム作りから実際の試合まで、それぞれの場面に秘められている「フットボールの本当の魅力」。それを昨年の2度にわたる立命館との戦いを中心にビデオで振り返り、解説しましょうという講座である。ファイターズファンなら、何があっても見逃せない。
 オンライン講座を含め、申し込みは朝日カルチャーセンターのホームページから。参加費は3190円(会員は2750円)。

※編集者注:講座の詳細は以下からご参照ください。
http://www.kgfighters.com/topics_detail2/id=1458
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2022年06月16日

(5)実戦こそ成長の場

 12日、王子スタジアムで行われた東大との試合は、これまで観戦したどの試合とも異なる味わいがあった。
 互いに勝利を目指して戦っているのだが、それだけではない。自分たちの日頃の取り組みが力のあるチームに通用するのか、普段の練習とは異なる相手のスピードや当たりに、どこまで対応できるのか、チーム内の意思確認は練習時と同様、スムーズに運ぶのか。
 そうした数多くの課題をそれぞれのチームが実戦で試す機会としてこの日の試合を位置づけ、一つ一つのプレーに全力を尽くしたのだと僕は受け止めている。
 もちろん、双方ともに思い通りにいかなかったことが多かっただろう。公式戦なら致命傷になるようなミスもあったし、メンバーが交代すると同時に、まったく別のチームになったような場面も数多くあった。
 けれども双方のベンチはまったく動じた様子はなく、ひたすら自分たちの課題を追求し続けた。東大のオフェンスでいえば、終始一貫して続けたオプションプレー。1990年代、強力なQBとオフェンスラインを要した京大が工夫し、ファイターズやパンサーズを圧倒したフレックスボーン体系からの攻撃を次々に展開した。
 ただし、この日の相手は悪かった。ファイターズのベンチには、京大が強力な攻撃力を誇った時代に、その対応に日夜頭を悩まし続けた指導者が何人も存在する。グラウンドでプレーする選手たちには珍しく、対応が難しいプレーであっても、ベンチの対応力は別だ。相手が仕掛けてくる攻撃をしっかりと受け止め、次々に無力化していく。
 一方、ファイターズは遠投力のあるQB鎌田がお約束のようにパスを投げる。立ち上がりからWR糸川、衣笠に連続してミドルパスを通して陣地を進める。相手守備がパスに備えるとRB前島、澤井のランプレーを挟み、仕上げはWR河原林への19ヤードのパス。余裕でキャッチしてTD。試合が始まって2分少々、5プレー目の攻撃だった。
 驚いたのは次のシリーズ。東大最初のオフェンスは5プレー連続で同じような隊形からのランプレー。全盛期の京大が得意としてきたプレーである。最初のシリーズでそれが立て続けに決まり、ダウンを更新された時には、本当に驚いた。
 守備陣の対応で、なんとか次のシリーズを封じ込め第4ダウンはパント。これがまた素晴らしい。滞空時間も飛距離も長く、落ちてくるのを待ちかねたレシーバーがファンブルするおまけまでついた。何とか本人が確保して攻撃権を取り戻したが、観客席からも思わず驚きの声が上がった。
 けれども、能力の高いQBとWRを擁する攻撃陣は慌てない。QB鎌田が同学年のWR衣笠、鈴木へポンポンとパスを決め、仕上げは副将糸川への20ヤードのパス。福井のキックも決まって14ー0。ファイターズのパス攻撃のすごさを見せつける。
 次の東大の攻撃を4プレーで封じて迎えた次の攻撃は一転してランアタック。RB澤井、藤原が立て続けにドロープレーで陣地を進め、仕上げはRBのリーダー前島が55ヤードを走り切ってTD。まだ第一Qも終わっていないのに21ー0。
 手元のメモ帳を見てもわずか1ページの空間に赤い丸で囲んだTDとKの字がそれぞれ3箇所ずつ記されており、完全にファイターズペースで試合が進んでいることが裏付けられる。
 けれども、東大のオフェンスはひたすら似たような隊形からのランプレーを続ける。自分たちのプレーがどうすれば通るのか、どこに強みがあり、弱点があるのかとひたすら試し続けているようなプレーコール。そこには一つ一つのプレーと相手の反応をすべて映像に記録し、今後の改善につなげ、より洗練された攻撃スタイルを確立しようという執念のようなものが感じられた。東大がこの試合に求めていたものの正体が見えたようにも思えた。
 目先の成否ではなく、今後のチーム作りに資するものすべてをこの試合から吸収したいという高い目的意識。東大にとっては、それこそがこの試合に期待するすべてだったのではないか。そう考えると、さすが東大、という気持ちがふつふつとわいてきた。
 それはまた、この日の試合に出場したファイターズの諸君にとっても、大いに参考になる考え方ではないか。一つの失敗、一つの成功。相手との力比べ、臨機応変の競り合い、そしてスピード競争。そうした競り合いのすべてが成長の糧になる。高い目的意識を持って臨んだ実戦の経験は、悔しさも含め、すべてが成長のきっかけになる。
 先日、大村監督と少しばかり話した時の言葉が耳に残っている。「選手が成長するには実戦が一番。そこで悔しい思いをしてこそ、人は成長する。これからの試合にもどんどん下級生を起用して、成長のきっかけをつかませます」。春シーズンは残り少ないが、これから続くJV戦が一層、楽しみになってきた。
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2022年06月14日

(4)深い縁、不思議なご縁

 12日は東大との戦い。僕にとっては初めて見る組み合わせで、どんな試合になるのかと興味津々で王子スタジアムへ出掛けた。
 いつものように場内だけのFM放送を開局されるファイターズの席に付く。ところが、この日はいつもの試合とは異なり、ビシッとスーツ姿を決めた竹田OB会長や、その前のOB会長の奥井さんらが近くのファイターズ関係者席に陣取り、その周囲にはフットボール会場では余り見掛けることのない紳士や淑女の姿も見える。その人たちが互いに親しく挨拶を交わされている。
 一体、どういうことなんだろう、と新聞記者の血が騒ぐ。目は試合前の練習を追いながら、耳は周囲の会話の断片を聞き取り、忙しいことこの上ない。おまけに、この日の放送席のゲストは、今春、大学を卒業して社会人になったばかりの元トレーナーにして今春の卒業時にはアンサングヒーロー賞を受賞された萩原楓さん。僕が非常勤講師をしていた最後のころの受講生であり、いつもしっかりした小論文を提出し、グラウンドでも気持ちよく挨拶を交わしてくれていた部員である。
 やがて、FM放送を仕切る小野ディレクターが着席されるが、普段以上に忙しそうである。周囲のOB会長らに挨拶を交わし、ご婦人たちにもあれこれと、段取りを話されている。その会話から、目の前の試合より、ハーフタイムの儀式の段取り、その後の東大関係者との懇親会の手配など、あれこれとなさねばならないことが積み重なっていることが推測され、この日の試合が二つの大学にとって特別の意味を持っていることが見えてくる。
 そう、この日の試合は、60年以上も前、東大にアメフット部が誕生した時から結ばれてきたファイターズとの縁を思い出し、その繋がりの延長上に、新たな一歩を記す親善試合でもあるのだ。
 どういうことか。
 会場での小野さんの放送を聞き、帰宅後、小野さんから送信されていたメールで確認すると、東大アメフット部の誕生には関学の関係者が大きな役割を果たしており、この日の試合は、その時の繋がりを再確認し、現代につなげるという役割を持っていたのである。
 一つは、東大にアメフット部を作ろうと都立戸山高校でタッチフットボールをしていた市川氏が声を上げたとき、マネジャーを担当させてもらいたいと名乗りを上げたのが小宮太郎氏。僕が関西学院に在学中、院長をされていた小宮孝先生のご子息であり、関学高等部でもマネジャーをされていた人である。
 小宮氏は即座にマネジャーに任命され、その帰り際、「関西学院大学のコーチの方が来年1年間、国内留学で東大に来られる。その方にコーチをお願いしてはどうですか」と提案された。その提案が採用され、その方、つまり米田満先生が東大アメフット部の草創期を支えることが決まったそうだ。
 米田先生(僕にとっては保健体育の先生であり、新聞記者としての大先輩でもある)は、こういう因縁があって東大の監督に就任、同時に研究生と言う立場を生かし、寄せ集めで発足したチームの主力選手としてもプレーされたそうだ。
 小宮院長も米田先生も、60年近く前、僕が関西学院大学に在学中は雲の上の人だった。米田先生とはその後、いろんな形でお世話になり、甲東園のご自宅にうかがったり、関学会館のロビーで長時間話し込んだりしてきたが、そんな方々の名前が次々と出てくる。そこにフットボールが取り持つ不思議な縁を感じて、この日の試合は特別の感慨があった。
 そういえば、隣で放送されている小野ディレクターも、放送の合間に「東大にアメフット部を作った市川新さんは、戸山高校の先輩であり、僕が在学中は監督をされていた方です。不思議なご縁を感じますね」と話されていた。
 不思議な縁といえば、この日の東大の攻撃を仕切ったコーチは、ファイターズで強肩のQBとして活躍された加藤翔平氏(2010年度卒。香山コーチの1年先輩である)。試合後のグラウンドで「お元気ですか、加藤翔平です」と挨拶されて驚いた。聞けば、プロコーチとして東大アメフット部に採用され、チーム作りに励んでいるという。「近いうちに甲子園で会いましょう」と挨拶したが「頑張ります」と勢いよく応じてくれた。
 こういう深い縁(えにし)で結ばれた東大と関西学院の試合。その詳細は、稿を改めて書かせて頂くつもりである。
posted by コラム「スタンドから」 at 19:58| Comment(1) | in 2022 Season

2022年05月31日

(3)現在地を知る

 28日、エキスポフラッシュフィールドで行われた関西大学との試合後、帰途に着く僕の頭の中に、ずっと同じ言葉が聞こえていた。「現在地を知る」と言う言葉である。
 春とはいえ、双方がライバル心をむき出しにしてぶつかる戦いである。試合前の練習から、互いの動向に目をこらし、相手の一挙一動に注意を払って観戦。場内だけに流されるファイターズのFM放送で小野さんの解説を聞きながら、双方の動きを注視してきた。
 試合前の練習で目に付いたのが関大の選手の動き。この日に向けて調子を整えてきた様子がひしひしと伝わってくる。これは、厳しい勝負になるぞ、という予感がする。
 ファイターズのレシーブで試合開始。最初のランプレーこそ進まなかったが、2プレー目はQB鎌田からWR衣笠への素早いパス。11ヤードを稼いでダウンを更新。続けて今度は鎌田からWR糸川への10ヤードパスでダウン更新。次は再び衣笠への8ヤードほどのパス。立て続けに短いパスを成功させ、ハーフライン付近まで進む。
 けれども関大の守備陣は手強い。DLはでかいし、LBの動きは素早い。とりわけランプレーに対する反応の早さに驚く。スタンドから眺めていても、驚嘆するほどだから、体をぶつけ合っている選手はなおさらだろう。 そんなときに、ファイターズに手痛い反則が出る。交代違反で5ヤード後退させられ、せっかくの好位置を生かすことができない。パスプレーもまた、相手の目が慣れてきたのか、カバーが早く、思い通りには進まない。結局、パントに追いやられたが、そこで今度はスナップが乱れ、ほとんど元の位置に近いところで攻守交代。
 これは、悪循環。なんとか踏ん張らないとと思った瞬間、DL浅浦が相手QBをサックし勢いを取り戻す。
 それでもひるまないのがこの日の関大。第3ダウンで一気に30ヤード余り陣地を回復。ゴール前20ヤード付近でダウンを更新する。これはやばい、と思ったところで、今度は守備陣が奮起する。
 第1プレーはDB波田、第2プレーはLB海崎、第3プレーはDL山本征太郎がそれぞれ見事なタックルを決めて相手を後退させる。それで動揺したのか、相手はFGを外し、得点には至らない。
 一進一退の試合が動いたのは、第3Qに入ってから。ファイターズ守備陣が頑張って相手を進ませず、自陣34ヤード付近から始まった攻撃で、今度はRB陣が奮起。途中、ホールディングの反則で10ヤードを後退させられたが、RB伊丹が15ヤード、20ヤード、前島が3ヤードと陣地を進める。相手守備陣がランを警戒したところで今度は鎌田が衣笠へのミドルパスを2本続けてヒット。途中、RB池田のランプレーを挟んで、仕上げもWR鈴木へのTDパス。K福井のキックも決まって7−0。
 しかし、相手の攻撃は手強い。素早い動きが持ち味のQBを中心に立て続けに陣地を進め、あれよあれよという間にTD。キックも決まって7−7。
 第4Qも残り時間は10分少々。その場面で迎えたファイターズの攻撃。自陣25ヤードからQB鎌田がWR鈴木、糸川への短いパスを立て続けに決めてダウンを更新。センターライン付近で一度、RB池田へのランを入れ、ラン攻撃もあるぞと見せかけた後、今度はWR糸川への35ヤードパス。それが見事に決まってゴール前8ヤード。残り時間を考えると、何が何でもTDを取りたい場面である。
 そこでファイターズが選択したのが徹底したランアタック。勢いのあるRB伊丹を立て続けに走らせて第4ダウン、残り1ヤード。そこでもランプレーを選択したが、結局、その1ヤードが取り切れずに攻守交代。試合は7ー7で終了した。
 どちらにも勝つチャンスはあった。しかし、スタンドから見ている限り、ファイターズが押され気味に見えた試合だった。
 さて、ここまで試合展開を追ってきたが、ここでようやく本題の「現在地を知る」である。どういうことか。
 一つは、秋のシーズンに立ち向かってくるライバルたちの現在地を知ること。この日は関大の現在地(攻守とも、厳しい戦いを繰り広げた昨年よりもさらに力を付けている。ベンチの取り組みも、以前と様相を一変し、ははるかに重層的になっている)を見せてもらったが、同じように立命もまた、昨年以上に力を付けて立ち向かってくるだろう。つまり、昨年もきわどい勝負を繰り広げたライバル2校は、昨年以上に手強い相手になるということである。
 対して、ファイターズの現在地はどうか。正直に言って、今春卒業したメンバーたちの穴を埋め切れていないと感じる部分が多々あった。それは、個々のプレーだけではなく、普段の練習時の取り組み方にも及んでいるように思えた。
 急成長を遂げている下級生は少なくない。この日、目立った選手だけでもオフェンスではWR衣笠やRB伊丹、ディフェンスではDL浅浦や山本、DBの山村や永井の成長が著しい。けれども、練習時のプレーや行動などを見ていると、まだまだ昨年度の最上級生には及ばないというのが正直な感想である。
 試合後、大村監督と少し言葉を交わしたが、「(選手たちも)これで(チームの)現実が分かったでしょう。しっかり取り組ませます」という言葉が耳に残っている。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:06| Comment(2) | in 2022 Season

2022年05月23日

(2)選ばれるチーム、育てるチーム

 当方の手違いで、先週はほとんど練習を見ることができなかった。グラウンドには3日連続で出掛けたのだが、1日は練習が休み、もう1日は練習が朝から開始。僕が第3フィールドに到着したときには、全体練習は終了。それぞれのパートで個別の練習に取り組んでいた。結局、最初から最後まで練習を見学できたのは1日だけ。われながら不細工な話である。
 けれども、先日の桜美林大との試合やその前の練習などを含めて振り返ると、このところ年々、素晴らしいメンバーがファイターズに集まっていることを実感する。
 どういうことか。一つはスポーツ選抜入試で、ファイターズを志願してくれるアメフット経験者が増えたこと。もう一つは高校時代、アメフットとは縁のなかったアスリートが、大学ではファイターズを最優先で志願してくれるケースが増えたことだ。
 以前なら、東西の実力校と奪い合いになっていたような高校生が「ファイターズでやりたい」と顧問の先生などを通じてチームに連絡を取ってくれることが多くなったと聞くし、高校時代は野球やラグビー、陸上競技など多様な分野で活躍していた選手が大学では是非アメフットをやりたい、日本一のチームで自分の可能性を試したい、という例も増えたそうだ。
 先日の桜美林との試合に出場し、活躍したメンバーにも、そうした面々が何人もいる。例えば、主将のOL占部君。関学高等部ではラグビー部の主将だったが、大学では迷わずファイターズへ。3年間、ずっと下積みの練習を続けてきたが、4年生になるとその積極的な姿勢が評価され、主将に推挙された。
 立ち上がり、いきなり40ヤードのパスをキャッチし、堂々のTDを奪ったWR衣笠君も高等部時代はサッカー部のゴールゴールキーパー。ファイターズ史上で例のないほどのスピードで相手ディフェンスを抜き去る豪快なプレーでファンを楽しませてくれる。梅本コーチによると、まだまだコース取りや捕球などに課題はあるが、末恐ろしいプレーヤーになる可能性を秘めているという。
 昨年秋、すい星のように現れ、2年生ながら背番号0を着けて先発メンバーに名を連ねたDB高橋君も、高校時代はサッカー部。とても未経験者とは思えないほど的確なプレーで守備に貢献した。
 先日の試合で存在感を見せつけたOLの鞍谷君は、最初の入試では失敗したが、どうしてもファイターズで活躍したいと、一浪して入学。2年生の時から、随時スタメンで起用されるほどの力を見せ、今や堂々の先発メンバーだ。
 先日の試合に起用された下級生にも、高校時代は野球部、というメンバーが何人かいたし、ようやくけがから回復した4年生DL亀井君のようなバスケットバール経験者もいる。
 こうした多彩な経歴を持ったアスリートに志願してもらえるチーム、それがファイターズであり、そうした面々に試合で経験を積ませ、やがてはチームのリーダーとして育て上げるのがファイターズというチームであり、指導者である。
 清少納言の言葉を借りれば、まだまだ「春はあけぼの やうやう白くなりゆく山ぎは 少し明かりて」という状態ではあるが、こうしたメンバーがアメフット経験者に追いつき、追い越して行く先には「いとおかし」という世界が展開するに違いない。
 それを期待して今週もグラウンドに足を運び、週末は万博のスタジアムに向かいたい。その前に、練習開始時間をしっかり確かめよう。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:11| Comment(2) | in 2022 Season

2022年05月17日

(1)今季初の応援席

 15日は、王子スタジアムで春季交流戦、桜美林大学との戦いだった。僕にとっては今季初めての試合であり、キックオフのはるか前から開門前の行列に並んだ。
 たまたま先週は時間的なゆとりがあり、水曜日と金曜日に上ヶ原の第3フィールドに出向いて練習を見せて頂いたので、チームの仕上がり具合はある程度、想像が付く。新しく幹部になって、下級生の頃とは練習に臨む態度が一変したメンバーもいるし、昨年秋の厳しい戦いを通じて急成長した選手もいる。
 入試対策の小論文指導を通じて、名前だけは知っていた新入生の中には、もう1軍の練習に加わっているメンバーもいる。
 そんな面々がどんな活躍をするか。まずはスタンドに座って当日のメンバー表を端から端まで眺める。
 毎年のことだが、新しいシーズンのはじめに見るメンバー表には、特別の感慨がある。前年まで活躍した4年生の名前がごっそり抜け、期待値の高い下級生の名前がどのポジションにも数多く並んでいる。その名前と顔を思い浮かべながら、さて、今日はどんなプレーを見せてくれるか。首尾よく1軍の試合で実力を発揮できるか。それとも気合いが空回りしてしまうか。すでに実績のある上級生から、新入部員まで、それぞれの名前と背番号をチェックしながら試合前の練習を見ている時間は、本当に充実している。
 午後1時半、相手のリターンで試合開始。第1プレーでいきなり13ヤードを走られ、ダウンを更新されたが、次のプレーをLB浦野が一発で止める。これで落ち着いたのか、続くランプレーもパスプレーも守備陣がきっちり受け止め、第4ダウンは相手陣35ヤード付近からのパント。
 このパントをキャッチしたWR糸川が鮮やかなステップで相手のタックルをかわし、相手がキックで稼いだ距離をそのままリータンして攻守交代。相手陣44ヤードからファイターズの攻撃が始まる。
 さて、どう攻めるか、と見ていたら、第1プレーも第2プレーもパスが通らない。けれども、そんなことでくじけるファイターズではない。第3プレーはQB鎌田からWR衣笠への長いパス。それが見事に決まってTD。記録上では44ヤードのパスだが、QBがいったん下がって投げているから、実際にパスが飛んだ距離は60ヤード近い。チーム史上でもまれな衣笠の走力と、鎌田の強肩が見事にかみ合って両軍の応援席がどよめくTDが生まれた。
 こうなるとファイターズベンチも落ち着く。守備陣はDB永井の素早いタックルなどで相手攻撃を完封。力強いOLに守られた攻撃陣は糸川や鈴木へのパスで陣地を進め、仕上げはRB池田のラン。あっという間に2本目のTDを奪って14ー0。2Qに入っても強力なラインに支えられたファイターズの勢いは衰えず、ランとパスを組み合わせ、仕上げは再び池田ランで21ー0。
 特筆すべきは、こうした攻撃を支えたOL陣と相手の攻撃を素早い出足で食い止めたディフェンス陣の力強さ。スタンドから見ていても、攻守ともにサイズ、筋力、スピード、ファンダメンタルをしっかり鍛えてきたことがうかがえ、今後の戦いに大いに期待が持てた。
 ベンチも同じような手応えを感じたのだろう。まだ第2Qの半ばというのに、次々と交代メンバーを起用。攻撃ではエースの鎌田まで引っ込めて、試合経験の少ない下級生QBに出番を作った。
 試合経験の少ないメンバーが多くなると、攻撃は思い通りには進まず、守備にもほころびが出る。2Q半ばからは双方にミスが続出し、互いに点を取り合う「乱打戦」になったが、終わってみれば45−21。ファイターズにとっては、攻守とも先発メンバーに地力が付いていることを確認できたこと、交代メンバーを次々に起用して彼らの現在地を確認できたことが一番の収穫と思える試合だった。
 付記
 @今季からキッカーとパンターを務めている福井君の成長ぶりに驚いた。昨年も折々に出場していたが、学年が一つ上がってボールの飛距離、滞空時間が長くなり、安定感も増している。昨年度、終始安定したキックを見せ、優秀スペシャルチーム選手として関西学生リーグから表彰されたK永田君に劣らぬ活躍を期待したい。
 A僕が密かに注目していた下級生メンバー(とりわけ、昨年はまったく出番のなかった面々)も次々に起用されたが、思い通りに動けなかったメンバーが多かったように思える。けれども、1年間、1軍の試合とは縁のない場所で鍛えてきた面々に、いきなりの実戦で経験者と同じ活躍を要求するのは無理がある。相手のスピード、当たりの強さを体験し、彼我の力の差を知っただけでも大きな収穫である。今季、入学したばかりのメンバーを含め、変に落ち込まず、この日の経験を今後の試合に生かすことを期して練習に励んでもらいたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:51| Comment(1) | in 2022 Season