2021年01月05日

(15)敗戦の中に来季への希望

 新型コロナの感染拡大で東上できず、ライスボウルは西宮の自宅で観戦。テレビ中継を見ながらの応援となった。東京ドームでファイターズを応援することがかなわなかったのは、東京・有楽町駅付近で火災があり、新幹線が全面的にストップした年以来である。
 今年も当初は、現場で選手に声をかけ、声を張り上げて応援するつもりだったが、新型コロナには勝てない。「大都市圏への往来は避けるように」という勤務先の方針もあり、それを部下に指示する立場の人間として「自分だけは勝手にします」とはいえない。
 かくして、3日はテレビ観戦。しかし、もどかしい。一つ一つのプレーはしっかりと映し出してくれるのだが、ベンチの様子やプレーが始まる前、終わった後の選手の表情など、大事な情報が手に入らない。試合後にグラウンドに降りて、選手や監督、コーチと声をかわすこともできない。
 そんな状況で、コラムを書くのは難しい。第一、取材もせずに書くという行為自体が、自分にとって納得がいかない。
 そういう次第だから、今回はテレビに映し出された試合の様子、選手たちの表情などを見ての感想だけを書かせていただく。読者のみなさまにとっては、歯がゆいことだろうが、許されたい。
 感想の第一は、存分に資金を投入して人材を集めることのできる社会人チームと、厳しい入試を突破して入部しても、4年間で卒業してしまう大学生チームとの基礎的条件の差である。その差は年々開く一方。いまや練習への取り組みや戦術面での工夫だけでは埋め切れないところまで来てしまった。
 例えば、相手守備の最前列。そこには関西リーグで名を馳せた強力なラインが並んでいる。打倒!関学、を合い言葉に立ち向かってきた立命館や関西大学で主力選手として活躍した面々である。体重130`を超えるラインメンの圧力は半端ではなく、素早い動きが持ち味のQB奥野に圧力をかけ続けた。ランニングバックやレシーバー陣にも、名前を聞いただけで往事の活躍ぶりが目に浮かんでくるメンバーが数多く並んでいる。
 ファイターズで時代を画した強力な先輩たちも後輩たちとの対決を心待ちにしている。この日、相手側最初のTDを挙げたRBの望月や試合の流れを一変させるパントブロックを決めた平澤はその代表である。
 こうした豪華メンバーに対応するだけでもやっかいなのに、QBやDB、WRには、本場・アメリカで鍛えた才能あふれる選手たちが並んでいる。楽々と45ヤードから50ヤードのパスを通し、TDを重ねていくその姿を見ていると、戦術を工夫し、緻密な設計で試合を進めていくファイターズの戦いぶりが否定されたかのような気分にさえなってくる。
 それでも、ファイターズの面々はおめず臆さずに戦った。QB奥野が短いパスを通し、スピードとパワーのあるランニングバック3人を使い分けて陣地を進める。ベンチからの的確な指示もあって、相手の隙を突いたプレーが矢継ぎ早に繰り出される。立ち上がりの狙い澄ませた短いキックとそれをカバーしたLB都賀の機敏な動き。前半終了間際、RB三宅の84ヤード独走TD。それぞれが日頃の練習で取り組んできた成果である。
 パワフルな鶴留、スピードの三宅、パワーとスピードを兼ねそろえた前田。それぞれ特徴を持った3人のRB陣をフルに稼働させる作戦も機能し、とにもかくにも3本のTDを獲得した。相手の強力な守備陣を考慮に入れると、それだけでも大きな成果である。
 もう一つ、僕が注目したのは、守備の最後列に位置するDB陣である。秋のシーズンが始まった当初は、メンバーをそろえるのも難しかったようなパートだが、関西大会、甲子園ボウルと強力な攻撃陣を擁する相手と戦う中で下級生が経験を積み、試合ごとに動きが良くなってきた。
 この日も、体格が大きく、スピードもある相手レシーバー陣に振り回されながら、必死に立ち向かっていった。先発で出場した北川、竹原、宮城は3年生。山本は2年生、波田は1年生である。途中から交代メンバーとして投入された3年生の西脇、永嶋はともに未経験者。高校時代、西脇は野球部、永嶋はテニス部で活躍した選手である。そうした選手が持ち前のスピードを生かして相手のエースレシーバーに食いついて行く姿に、僕は感動さえ覚えた。途中、けがで退出した山本を含め、来季はこのパートがチームを引っ張っていく予感さえ抱いた。
 ことはDBのパートに限らない。オフェンスラインの4年生は副将の高木だけ。それ以外は3年生と2年生で戦った。レシーバーやランニングバックにも下級生に人材が揃っている。デイフェンスラインにも、この日活躍した2年生、小林や3年生の青木がおり、1年生にも有望なメンバーが何人もいる。
 そう、ここに学生スポーツの魅力があるのだ。年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず。ファイターズという花は毎年咲くが、それを咲かせる顔ぶれは毎年変わっていく。終始、相手に押される苦しい展開だったが、その中にあっても新しい希望が見えてきた。
 この敗戦を糧にした彼らが新しいシーズン、どんな風に成長し、どんなプレーを見せてくれるのか。そんな期待が抱けるからこそ、学生スポーツは面白い。来季のファイターズに期待すること大である。
posted by コラム「スタンドから」 at 14:38| Comment(4) | in 2020 Season

2021年01月01日

(14)充実の時、うれしい時間

 ファイターズの諸君にとって、今が一番充実している時ではないか。
 世間は大晦日だ、正月だ、カウントダウンだと浮ついているが、ファイターズにとってそれらは一切関係なし。3日に控えた社会人王者との決戦に向けて、ひたすら自分たちを高め、チームを最高の状態に持って行くための毎日である。
 大晦日も元旦も、ともに午前10時から練習開始。その1時間以上前からは準備運動を兼ねたパートごとの練習がある。通学に時間がかかる部員にとっては練習に参加するだけでも一苦労だ。
 けれども、当の本人にとっては、毎日が充実感でいっぱいだろう。今日はこういう風に頑張ろう、昨日の反省をこのように生かしていこうと考えながらの登校は、わくわくする時間であるに違いない。
 実際、練習が始まれば、社会人の王者を意識したプレーがどんどん投入される。チームの長所を生かし、短所をカバーするための工夫であり、練習である。練習のための練習ではなく、勝つための工夫を仲間とともに重ねていく日々。それはとてつもなく楽しく、充実した時間であるに違いない。日本にフットボールに取り組む学生は多くても、こういう時間を持てるのは俺たちだけ、という選ばれた人間だけが感じられる日々と言ってもよいだろう。
 都合のつく限り練習を見学させてもらっている僕にとっても、それは胸弾む日々である。関西大会では立命館大学、甲子園ボウルでは日本大学。ともに強力な陣容を備えたチームに勝利したからこそ得られたこの時間。ライバルチームがすべて来季を見据えてスタートしているこの時期に、今年度の陣容のままでさらなる高みを目指して練習に取り組む日々。その1分1秒を慈しむように練習に励む選手やスタッフの動きを見るたびに、心から「勝ってよかった。いまこの時、この練習が明日のファイターズにつながって行く」という実感を手にすることができる。
 俳人、高浜虚子に「去年今年(こぞことし)貫く棒のようなもの」という句がある。川端康成が戦後間もなく、この句を知って感嘆したことから、俳句関係者以外にも知られるようになった。
 鑑賞する人それぞれに受け止め方は違うだろうが、僕はこの句をファイターズに当てはめ「棒のようなもの」を「ファイターズ魂」と受け止めている。それがこの時期の練習からも培われているのだろう。
 他のチームにはなくて、ファイターズにだけ与えられたこの時間。それがどれほど貴重なことか。この10年間に甲子園ボウルに出場すること9回、そのうち大学王者になること8回。つまり、この10年間に8回も暮れから元旦にかけて「勝負に直結する」練習に取り組む機会を与えられているのがファイターズである。
 毎年のように優れた素質を持つ高校生が次々と加わってくるライバル校を相手に勝利を収めることができるのも、こういう充実した時間をこのチームがほぼ独占的に有しているからではないかと僕はにらんでいる。
 それは、ライスボウルという大きな舞台を前にしたメンバーに限らない。彼らの練習相手を務める控えのメンバーにとっても、貴重な時間である。守備のメンバーは、なんとかして先発メンバーが並ぶ攻撃陣を止めたいと知恵を絞り、攻撃の選手はこれまたリーグを代表する守備陣の穴をかいくぐろうと工夫する。そういう実戦的な練習の積み重ねが知らず知らずチームの底上げにつながり、新しい年度を迎えたときの力になっていくのではないか。
 時には、1軍のメンバーの練習が終わった後、短い時間ではあるが、JVメンバーだけが攻守に分かれて試合形式の練習をすることもある。普段は本番で先発するメンバーの練習台になるのが役割だが、この時ばかりは攻守ともにJVの1、2年生が先発として出場し、互いに相手を凌駕しようと力を出し合う。
 高校時代に華々しい活躍をしてきたメンバーもいるし、推薦入試でファイターズの門を敲いた選手もいる。高校時代は野球やサッカーなどに取り組んでいたが、ファイターズで日本一を目指したいと志願して入部したメンバーもいる。普段の年なら春に数回、JVメンバーが出場する試合が組まれ、そこで活躍した選手が秋には新しい戦力として登用されていくが、今季はコロナ禍ですべての活動が停止され、彼らにとっては、その能力を発揮する場面が極端に少なかった。
 それを補う意味もあってか、今季は社会人代表との決戦を控えたこの時期に、あえてJVのメンバー限定で、試合形式の練習を取り入れ、新しいシーズンに備えているのである。
 背番号を着けた選手はほとんどおらず、僕は交互に出場したQB二人の動きを追うことしかできなかったが、今はビデオ班が充実している。監督やコーチが後日、手の空いたときにこのビデオを見て、普段の練習では見えない部分まで細かくチェックし、来季のチーム作りの参考にされるのであろう。
 目の前の試合に集中するだけでなく、そんなときにも、新しいシーズンを見据えた準備を怠らない。年末年始の慌ただしいこの時に、こういう濃密な時間を持てるのも、シーズンの最後まで目標を持って戦えるチームにだけ与えられたアドバンテージであろう。それをとことん生かそうとするチームのたたずまいに接して、僕はファイターズというチームの奥の深さを改めて感じた。
posted by コラム「スタンドから」 at 21:54| Comment(0) | in 2020 Season

2020年12月19日

(13)人が育ち、人を育てる

 ファイターズのホームページに、甲子園ボウル表彰式の後、多彩なトロフィーを手に、壇上に表彰台に勢揃いした選手たちの写真がアップされている。主将の鶴留君を真ん中にして、向かって左から最優秀選手賞を授与されたRB三宅君、副将の海崎、繁治君、主将の右手には副将高木君、LBの川崎君、そして年間最優秀賞チャック・ミルズ杯を受賞した奥野君が並んでいる。
 これが2020年、コロナ禍の中で苦しみながら、学生界の頂点にチームを率いてきた主要な面々だと思って眺めれば、特別の感慨がある。試合で華々しい活躍をしたメンバーもいれば、普段からチーム運営に気を配り、それぞれの役割を果たしてきたメンバーもいる。けがなどで練習に加われない悩みを抱えつつ、それでもチームに貢献したいと僕に相談してきた選手もいる。
 その中で、今回注目したいのは背番号57、LBの川崎君である。昨年までは、2年生の頃から華々しい活躍をしてきた同じパートの繁治君や海崎君の陰に隠れたような存在だったが、今季は違う。彼ら2人がけがなどで練習が十分にできないときに、率先してパートを支え、自らを鍛え、後輩たちを鼓舞してきた。その努力が秋のシーズンに開花し、今季はすべて先発で出場。甲子園ボウルでも守備の要として、日大の強力なオフェンス陣に対抗してきた。
 甲子園のアルプス席でチームのFM放送を担当されていた小野ディレクターが放送の中で思わず「今のは川崎君ですか。成長しましたね。こういう風に4年生になってからでも急激に成長していく選手がいるというのが、ファイターズというチームですね」と、思わず名前を挙げて感嘆される場面があった。僕も全く同感だった。
 振り返れば、ファイターズには毎年、4年生になってから急激に成長した姿を見せてくれる選手がいる。昨年のチームでいえばDLの板敷君。シーズン後半からQBサックを連発。天下分け目の立命戦や甲子園ボウルの早大戦でも華々しい活躍をしてくれた。下級生の頃はけがに悩まされ、練習もおぼつかなかったWR阿部君も、3年生になって力を発揮し、4年生になってからは華々しい活躍を見せてくれると同時に、抜群の指導力を発揮した。今季大活躍した鈴木君や糸川君らもその薫陶を受けて成長したメンバーである。
 その前のシーズンではDBの荒川君やリターナーの尾崎君。それぞれの闘志を前面に出してプレー姿が、今も目に浮かんでくる。
 こうして、選手の名前を思い出し、振り返っていけば、ファイターズにはそれぞれの学年ごとに、最後のシーズンに思いっきり大きな花を咲かせたメンバーが必ず存在していることが分かる。チームに人を育て、人が育つ土壌があるからだろう。
 もちろん、下級生の頃から頭角を現し、卒業するまでチームを支え続けてくれる選手は多い。彼らは卓越したプレーでチームに貢献するだけでなく、自ら獲得した「技術」や「体験」を同期や下級生に惜しみなく伝授してくれる。仲間に教えることで、チーム内に競争相手が生まれては困る、というようなケチな考えを持った選手はいない。
 卒業後も、グラウンドに足を運び、アシスタントコーチとして後輩を見守ってくれる選手も少なくない。今季も、会社からの帰途、スーツに革靴という姿で上ヶ原のグラウンドを訪れ、運動靴に履き替えて後輩たちを指導している卒業生の姿を何回も見た。
 一方、コーチの多くは、大学の幹部職員。コロナ禍の中で、大学を運営するのに心血を注ぎながら、チームの指導にも一切手抜きはない。「コロナの流行以来、一切アルコールは口にしていない。もし、何かあれば対応しなければならないから、気持ちは24時間体制で働いている」というコーチもいるし、就業時間が終わった後、いったん、業務の手を止めてグラウンドに足を運び、チームの練習が終わった後、再び職場に戻って深夜まで仕事の続きに取り組む幹部職員もいる。
 先日、野暮用があって学院の財務課を訪れた時、親しくしている課長から「部長の熱心さには頭が下がります。僕らには、とてもできません」と聞いた。彼は水泳部のコーチをしているが、とても上司の真似はできないと言うのである。そういうコーチたちがプロのコーチである大村監督や香山コーチを助け、部員たちを公私にわたって指導されているのである。
 さらに小野ディレクターをはじめディレクター補佐の役割も大きい。ファイターズにはいま、宮本、石割、野原という3人のディレクター補佐がいて、選手たちの活動を支えている。それぞれが現役部員への指導や対外的な折衝、新たな人材のリクルートなどの「兵站部分」を担い、チームの根底を支えている。
 加えて、ファイターズOB会の支援も大きい。OB会費の納入率はなんと9割近い。「金は出すけど、口は出さない」という信念でチームを全面的に支援して下さる。今季、世間でマスク不足が騒動になっているときに、つてをたどって「ファイターズマスク」を特注し、それをまとめてチームに寄贈されたことがあった。その場面に居合わせた僕は「ここまで細やかな気配りができる組織は聞いたことも、見たこともない」と驚いたことを思い出す(その時、OB会長からいただいたブルーのマスクは僕の宝物である)。
 こうしたチームのたたずまいが、実は人を育て、人が育つ組織を形成しているのではないか。だから毎年、シーズンが終盤になってからも新たなチームの担い手が輩出する。その実績が後輩たちの励みとなり、それが新たな活力の源になっていく。関西大会を制し、甲子園ボウルで栄冠を勝ち得たのも、そういう裏付けがあってのことである。勝つべくして勝つチームといってもいい。
posted by コラム「スタンドから」 at 21:27| Comment(1) | in 2020 Season

2020年12月15日

(12)勝敗を分けた総合力

 コロナ禍で、開催さえ懸念された甲子園ボウル。日本大学と関西学院大学の決戦は、両者が存分に持ち味を発揮し、期待に違わぬ激戦になった。
 第1シリーズ。相手がファターズ陣奥深くに蹴り込んだボールを受けたリターナー木下が走り始めるとすぐ、目の前を交差したRB三宅にリバース。ハンドオフを受けた三宅が快足を飛ばして一気に相手陣21ヤードまで攻め込む。このチャンスをQB奥野からWR梅津へのTDパスに結びつけ、K永田のキックも決まってあっという間に7−0。
 観客は大喜びだったが、日頃、チームの練習を見る機会の多い僕にとっては、事前に準備してきた通りの展開であり、上ヶ原で積み重ねてきた練習が報われたとほっとする。
 ところが悪い予想もよく当たる。前評判通り相手OLの圧力が強く、ランプレーが止まらない。ラン、ラン、ランと押し込まれ、あっという間に同点。次の相手攻撃も、要所にスクリーンパスを混ぜた攻撃に振り回されて逆に14−7と逆転された。
 やっかいな相手だ、どうすれば止まるんだろう、と頭を抱えているのはスタンドのファン。だが、グラウンドの選手の士気は衰えない。RB三宅や前田の強力なランとQB奥野のピンポイントのパスで反撃し、仕上げは三宅のランでTD。永田のキックも決まって、あっという間に同点に追いつく。
 こうなると守備陣も落ち着き、相手の強力な動きに対応し始める。守備が落ち着くと攻撃も安定してくる。三宅と前田のラン、奥野からWR糸川や鈴木へのパスが次々と決まる。それぞれ相手守備陣の手が届かないコースへピンポイントに投じられるパスであり、日頃からともに練習を積んで仲間だからこそ確保できるボールである。
 前半終了間近には、第4ダウン、インチという状況でWR大村が相手ゴールに走り込みTD。21−14とリードして折り返す。
 後半に入っても、ファイターズの意気は軒昂。攻撃がミスをすれば守備がカバーし、守備陣が踏ん張れば攻撃陣がそれに呼応する。そういう好循環の中から、今度は鶴留、三宅、前田とそれぞれ異なる特徴を持ったランナーが各自の特徴を生かした走りで陣地を進める。最後は三宅が3ヤードを走りきって28−14。
 ようやく一息、と思った瞬間、落とし穴が待っていた。日大のエースランナーが一気に78ヤードを独走してTD。球場の雰囲気を一変させる。
 やばい。なんとか雰囲気を変えてくれと祈るような気持ちで迎えたファイターズの攻撃シリーズ。そこで今度はRB三宅が独走のお返しという場面を演出する。しかし、その前に手痛い反則があり、せっかくの独走が取り消し。ヤバイ!の2乗である。
 迎えた第3ダウン。観客は浮き足だったが、選手は慌てない。奥野が普段通りに鈴木へピンポイントの長いパスを通して相手陣37ヤード。しかし、次のシリーズ。相手にQBサックを食らって第3ダウン、ダウン更新まで18ヤードという厳しい状況に追い込まれた。それでも奥野が鈴木へのパスをお約束のように通し、仕上げは奥野から糸川への24ヤードTDパス。どれもこれもピンポイントの難しいパスだったが、練習時から常に呼吸を合わせている鈴木と糸川が確実にキャッチし、7点を追加して相手に傾きかけていた流れを取り戻した。
 終わってみれば、42−24。守備の1、2列はスピードで相手の強力なラインに対抗し、攻撃陣は互いに協力し合って相手の突入を食い止める。下級生でそろえたDB陣も、必死に相手ランナーを追い、パスに食らいつく。相手の動きと傾向を分析したベンチが的確な指示を出し、それに呼応した守備陣が相手のダウン更新を許さない。
 そうなれば、攻撃陣も準備してきたとっておきのプレーを確信を持ってコールできる。それが成功するたびに、相手は疑心暗鬼となり、ファイターズの動きに過剰に反応してしまう。
 そうした積み重ねと、ファイターズ攻撃陣の複雑な動きが相手守備陣を惑わす。その間隙を突いて、奥野がギリギリのパスを投じ、レシーバーが練習通りにキャッチする。この循環が始まれば、ファイターズのペース。後半の得点差は、実力の差というよりは、ベンチと分析班を含めた総合力の差が結果に現れたと考えてもいいのではないか。
 関西大会で攻守ともに強力な陣容を整えた立命館に勝ち、甲子園ではこれまた強力なラインと豊富なタレントをそろえた日本大学に勝利する。それは、こうした準備と総合力において、多少なりともファイターズが上回っていた結果と言ってもよいだろう。
 試合はグラウンドに出ている選手だけで戦うモノにあらず。監督やコーチはもちろん、ビデオによる相手チームの分析から、当日の彼我の選手の動きのチェックまで、すべての担当者の冷静で、地味な努力があって初めてグラウンドの選手たちが花開く。
 試合後、大村監督やオフェンス担当の香山コーチから彼我の力関係を中心にした冷静な分析を聞きながら、なるほど、なるほどとうなずき、アメフットはどこまで行っても準備と総合力の勝負であると実感した。
posted by コラム「スタンドから」 at 21:01| Comment(3) | in 2020 Season

2020年12月03日

(11)文と武が助け合う

 13日に迫った甲子園ボウルを前に、チームの練習風景を報告したいところですが、うかつなことを書いては内部情報の暴露にもなりかねません。かといって、決戦当日までこのコラムを更新しないというのも、芸のないことです。
 そこで今回は一つ、ファイターズに関するクイズを提出します。多分、出題者(つまり僕のことです)以外には誰も解けないのではないでしょうか。
 問題=今季ファイターズの主将鶴留輝斗、主務末吉光太郎、AS島谷隆也、副将高木慶太、WR高木宏規、AS前川空、RB三宅昂輝、トレーナー萩原楓と8人の名前を並べて見ました。さて、ファイターズの部員であるということ以外に、この8人に共通することは何でしょう。
 ヒント=この8人にプラスしてオフェンスコーディネーターの香山俊裕さんやアシスタントコーチの池田雄紀さんの名前を加えて考えて下さい。余計に分かりにくくなるかもしれませんが、正解が分かれば、なんだ、そんなことだったのかというようなことです。
      ◇    ◇
 と、大げさな前振りをしましたが、正解は全員、大学で僕の授業(文章表現)を履修し、それぞれ立派に単位を取得してくれたメンバーであるということです。
 僕は関西学院で昨年の春まで10年余り、非常勤講師として週に1回、(どの学部の学生にも開放されている)「文章表現講座」を担当していました。講座は2コマ、定員はそれぞれ20人。自分でいうのも何ですが、なかなかの人気講座で、毎回二つの講座にそれぞれ80人〜100人の申し込みがありました。
 事務局の担当者が抽選で受講生を決めるのですが、その際(例えばファイターズの学生だからよろしくといった)情実は一切なし。くじ運のよい学生だけが受講できる講座でした。上記の8人はその狭き門を突破して履修してくれたメンバーです(香山氏と池田氏は10年ほど前に社会学部で担当していた講座ですから、少し事情が異なります)。
 なんせ、2コマ合わせてわずか40人の受講生です。彼、彼女らに毎回、800字の小論文を書かせ、それを添削して返却するのが中心の授業でしたが、文章を紡ぐ者とそれを添削する者の関係は、互いに思ったこと、考えたことを(文章を通じて)ぶつけ合いますから、あっという間に距離が近くなります。
 例えば授業で「あいつだけは許せない」といった題を出せば、それぞれの成長過程で出会った「許せない」ことについて、具体的な事例を挙げ、その場面を描写しながら、「だからあいつを許せない」とか「その時はめちゃくちゃ腹が立ったけど、いまは自分にも足りないことがあったと反省している」などという言葉を連ねて800字の文章をまとめ上げてくれます。「思い出に残る本」という題を出せば、高校時代に読んで共感した本や練習の合間に読んだ本のことなどを生き生きと書き込んでくれます。
 そうした文章に僕が青ペンでチェックを入れ、少し言葉を足したり、逆に削ったりしながら、より分かりやすい表現になるよう具体的にアドバイスしていくのです。
 そういうやりとりをしていると、受講生と講師の距離は一気に縮まります。彼らが紡ぎ出した文章を手がかりに、より文章の内容を鮮明にしたり、分かりやすくしたりする作業を通じて、受講生は新たな発見をし、自分との対話を深め、文章を書くコツをつかんでいきます。その繰り返しの中から「自分は今、本気でこの授業に取り組んでいる」という実感を手にし、いい点数がついた時の喜びを自分の胸に刻みます。その繰り返しの中で、文章を書くことや本を読むことに対する抵抗感が解消され、気がつけば受講前よりもはるかに高いステージで物事を考え、表現する力を身につけていくのです。
 たかが3カ月、12回ほどの授業ですが、そういう場を共有した部員たちが、ある者は主将として、ある者は主務として、またある者はエースランナー、AS、トレーナーとして、今年のチームを牽引し、支えてくれたのです。こんなにうれしいことはありません。
 ことは僕が担当した受講生に限りません。それぞれの部員がそれぞれのやり方で授業と課外活動の両立を心掛け、大学生としての本分を尽くしてきたことが自らの力量を高めることにつながり、結果として強力なライバルを倒す要因にもなったということでしょう。
 学業と課外活動を両立させ、その努力を支えにしてプレーヤー、スタッフとしての活動に突き進む。褒めすぎかもしれませんが、たとえ短い時間とはいえ、授業を通じて彼らの成長の一端に関わった者として、こうしたことも一度は報告しておきたいと考え、あえてこの時期に紹介させていただきました。
 いわば、文と武の双方を追求し、双方が互いに助け合う形で自らの力を引き出し、伸ばしてきたのが彼、彼女らです。それは他の講義を受講し、苦労して文武の道を歩んでいるほかの部員にとってもいえることでしょう。
 これからも本を読むこと、考えること、それを文章にすることが自らを高め、成長させると信じて努力を続けて下さい。まずは目の前の甲子園での活躍を祈っています。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:18| Comment(1) | in 2020 Season

2020年11月30日

(10)諦めない、絶対に

 「勝負は下駄を履くまで分からない」という言葉がある。それはその通りだが、この言葉のポイントは、それに続く「だから、どんなに苦しくても諦めたらあかん」にある。
 28日、万博記念競技場で行われた立命館大学との決戦がま、さにその言葉を証明するような試合だった。
 関学のキック、立命のレシーブで始まった試合は、立ち上がりから立命館のペース。強力なラインがファイターズ守備陣に圧力を掛け、主将の立川がパワフルな走りで陣地を稼いでいく。わずか6プレーでゴール前10ヤード。そこで投じられたパスをDB北川が奪い取り、なんとかピンチをしのぐ。
 しかし、相手の勢いは止まらない。相手陣39ヤードから始まった次のシリーズもパワーで圧倒し、わずか10プレーでTD。ゴールも決まって7−0。
 なんとか挽回したいファイターズだが、なんせ相手の守備陣が強力だ。ライン戦を支配し、ファイターズの強力RB陣に走る隙を与えない。それでも怖めず臆せず、守備も攻撃も相手に立ち向かっていく。
 守備の第一列が相手QBに襲いかかって攻撃を食い止めると、ファイターズはRB三宅、前田のランで陣地を進める。仕上げはQB奥野からWR鈴木へのパスでTD。普段から「僕ら仲がいいんです」と公言し、常に行動を共にしているコンビが息の合ったところを見せる。K永田のキックも決まって同点。苦しい試合を振り出しに戻す。
 しかし、地力のある相手は一向に動じない。第3Qの第一プレーでファイターズのパスを奪い取ると、わずか3プレーでTD。再び14−7として主導権を握る。守備陣はパスを奪い取り、攻撃陣は強力なランアタックで前進する。
 なんとか追いつきたいファイターズは、自陣9ヤードから粘り強く攻め続ける。三宅、前田、鶴留という3人ランナーを使い分け、合間に鈴木へのパスを織り込んで、なんとかFG圏内まで持ち込み、永田のFGで14−10。TD一本で逆転というところまで持ち直す。
 これに守備陣が応える。続く相手の第一プレー、QBが投じたパスをDBの2年生山本がインターセプト。直ちにファイターズに攻撃権を取り戻す。TDにはつなげられなかったが、それでもK永田が冷静にFGを決めて14−13。1点差にまで追い上げる。
 しかし、そこで立命の攻撃陣が覚醒。主将立川のランでぐいぐいと陣地を進める。守備陣は相手の攻撃パターンが予想されていても、それが止められない。相手陣12ヤードから始まった攻撃はラン、ラン、ランと進み、あっという間にゴール前4ヤード。ファイターズが知能と体力、精神力の限りを尽くして手にした6点があっという間にひっくり返される場面に直面した。
 残り時間は4分少々。ここでTDを決められると、勝敗はほぼ決まってしまう。
 「あかん、なんとか踏ん張ってくれ」と神に祈るような気持ちで見ていると、やってくれました。DB竹原が相手が投じたパスを狙い澄ませたようにゴールライン際で奪い取り、絶体絶命のピンチを逃れた。
 そこから互いにパントを蹴り合って迎えたファイターズの攻撃。しかし、ボールは自陣32ヤード。残り時間は1分42秒。タイムアウトはあと1回。ここで奥野が選んだのは、日頃からともに練習しているレシーバー陣。鈴木への長いパスをピンポイントで決めて、相手ゴール前32ヤード。そこから糸川、鈴木に連続してパスを決め、ゴール前9ヤード。その後は、これまた信頼するRB前田と三宅にボールを渡して時間を進める。FGに一番都合のよい場所にボールを持ち込み、すべてを永田に託す。
 このキックが成功すれば、逆転勝ち。失敗すれば、地獄を見る。そういう場面で永田がしっかり足を振り切ってボールを蹴り、見事なFGがゴールポストの真ん中を抜けて行く。
 素晴らしい勝利だった。
 しかし、それはチームの全員が最後まで諦めずにプレーした結果だった。相手に圧倒されて不利な局面になっても、絶対に諦めず、仲間を信じて自分のプレーをやりきる。相手の力が上回っていることを目の前で見せつけられても、ファイターズで培ってきたことを信じて、黙々と自らの務めを果たす。グラウンドに立つ11人が常に結束して相手に立ち向かい、自らの能力を最大限に発揮する。
 そういう姿勢があったからこそ、終始押しまくられていた戦局を挽回し、自分たちのフィールドにすることができたのだろう。
 こういう「無私の精神」「無私のプレー」の積み重ねに勝利の女神が微笑んだ。泥臭くても美しい勝利である。おめでとう。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:44| Comment(2) | in 2020 Season

2020年11月25日

(9)濃密な時間

 このところ、西宮に帰宅するたび、近所におわす神々にお参りし、お祈りを捧げている。一番身近なのは、旧段上村の若宮八幡神社。立派な松林に囲まれた静かなたたずまいの「お宮さん」であり、散歩の途上に立ち寄っては、賽銭を投じてファイターズの勝利を祈っている。
 子どもの頃、わが家のすぐ裏手の山にも「戦いの神様」として近所の人たちから信仰されていた八幡さまがあり、正月の注連飾りを奉納するのがわが家の役割だった。小さなお宮だったが、毎年1月19日には餅撒きもあり、田舎の小学生にとってはそれが一大イベント。そんな頃から親しんでいる神様だから、いまだに願い事となれば、まず八幡神社が思い浮かぶ。
 もう一つのお宮は仁川の弁天池に近い高台にある熊野神社。現在、僕が働いている和歌山県田辺市におわす熊野本宮大社とのご縁もあって、これまた散歩の途上にお参りするのが楽しみだ。住宅街の中にあるとは思えないほどの雰囲気のあるお社であり、急な階段を上るだけで、世俗の塵が払われていくような気持ちになれる。
 ここでもお祈りするのはファイターズの勝利。なんだか節操がない気もするが、もう一つ関西学院大学の学生会館から第3フィールドに向かう途中にある上ヶ原の八幡様にも、もちろん頭を下げる。ここは第3フィールドが開設されて以来、毎年この時季にお参りしている地元の神様であり、不信心者の僕でも、特別に気合いが入る。
 そして仕上げが第3フィールドを見晴らす平郡君の記念樹と彼への誓いの言葉を記した銘板。その言葉をじっくり読み上げ、在りし日の彼を偲びながら、彼がいまも勝利に向かって全力で取り組んでいる後輩たちを見守ってくれていることに感謝の気持ちを捧げる。
 彼こそ僕がファイターズを目指す高校生に小論文の指導を始めた第1期生。今は追手門学院で教鞭をとっている池谷君とともに、朝日新聞大阪本社の喫茶室や地下の食堂でケーキとコーヒー、あるいは紅茶を注文して勉強会を重ねたのも懐かしい思い出だ。
 彼もまた黄金期の立命館を相手に「打倒立命」を胸に刻み、全身全霊で立ち向かっていった勇士である。顔つきはとてつもなく柔和だが、いったんグラウンドに出れば、ファイターズと言う言葉が誰よりも似合う彼のことを思い出すと、懐かしく、また胸が熱くなってくる。
 なんだか、話が脇道にそれてばかりだが、本筋に戻る。
 11月28日、今週土曜日は、待ちに待った立命館との決戦。4年生はもちろん、チームの全員が待ち望んでいた戦いであり、この1年間のすべてをぶつける試合である。
 今季は新型コロナウイルスの感染拡大で練習はもちろん、課外活動のすべてが長期間、停止される事態に直面したが、それでも選手・スタッフ、そして監督・コーチを中心にしたチーム関係者の努力、それに物心両面で支援していただいたOB会の協力で、なんとか関西リーグの頂点を競うところまでこぎ着けた。
 その間、練習時間やグラウンドに入れる人数の制限など部の活動には数々の制約があり、チームの全員がかつてない苦境に立たされた。その制約は現在も続いている。例えば、練習の途中、一定の時間ごとに全員に手指の消毒を義務づけているのもその一つ。せっかく練習が盛り上がってきたところでそれを中断。全員が新品のマスクを着用し、オフェンスとディフェンスのメンバーが分散して消毒に向かう行列を見るたびに「本当に大変だ」という気持ちになる。
 そうした苦労をすべて乗り越えて迎える決戦である。前例のない1年間、耐えに耐えてきた濃密な時間をぶつけてもらいたい。目の前に立ち塞がる強敵に一歩も引かずに戦ってもらいたい。
 練りに練った戦術もあるだろうし、相手の分析もそれなりにできているだろう。けれども相手もそれ以上に準備を整えているはずだ。ここ20数年間の両チームの戦いを思い出せば、そうは簡単に勝てるチームではない。
 そんな強力なチームを相手にどう活路を開くか。全員が結束し、火の玉になって立ち向かうしかない。過去には、絶対的に相手が有利と言われた状況を跳ね返して勝った学年もあるし、逆にちょっとした手違いで敗れた学年もある。リーグ戦で苦汁を飲まされながら代表決定戦で勝った試合もいくつもある。不思議の負けはあっても、不思議の勝ちはない。勝つべくして勝つためには、チームに名を連ねるメンバー全員がそれぞれの役割を果たせるかどうかにかかっている。
 まだ、時間はある。互いにもたれ合うことなく、全員が最後の最後まで準備を徹底し、詰めるところを詰めて、試合に臨んでもらいたい。濃密な時間を重ねれば、その分、喜びも大きくなるはずだ。存分に戦い、存分に勝ってもらいたい。天に向かって拳を振り上げ、勝利の雄叫びをとどろかせてもらいたい。
 健闘を祈る。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:32| Comment(0) | in 2020 Season

2020年11月13日

(8)選ばれるチーム

 ファイターズを応援している中で、最近、とりわけ身に染みて感じることがある。このチームが高校生や高校で他競技を指導されている先生方から「選ばれるチーム」になったということである。少し前から、そのことを実感する機会が増えているが、今年はとりわけその感が深い。
 どういうことか。
 私がこの20年余り関係している高校生のリクルート活動、具体的にいえば文章表現の指導などを通じて接する高校生の様相がこの数年、がらりと変わってきたのである。先日、今年のスポーツ選抜入試合格者が発表された。ファイターズが勧誘した11人は全員が合格したが、その中にアメフットとは縁もゆかりもないメンバーが4人も含まれていた。内訳は野球、ラグビー、バスケットボール、陸上競技でそれぞれ活躍してきたメンバーであり、しかも関西以外の地域から受験してくれたメンバーが複数いる。
 なぜ、ファイターズともアメリカンフットボールとも接点のなさそうなこうしたメンバーが関西学院のファイターズを志願してくれたのか。チームのディレクター補佐として高校生のリクルートも担当している宮本氏や野原氏に聞くと、「それぞれの高校で高校生を指導されている先生方からの紹介です。先生がファイターズを信頼して薦めてくださる場合もあるし、高校生がファイターズに憧れ、先生の紹介で受験してくれる場合もあります」「これまでは、関西や関東のアメフットの試合やそのビデオを見て、将来が有望な選手を発掘し、こちらから勧誘していましたが、最近は高校の指導者からさまざまなルートをたどって声を掛けてくださるケースが増えました。一昨年に卒業したWRの小田君(近江・野球部)など、他の競技から来た選手がアメフットに転向し、大活躍してる姿を見て、このチームなら大丈夫という信頼感が高まっているようです」ということだった。
 そんな話を聞いて、改めて、最近のスポーツ選抜入試で入部してきた顔ぶれを見ると、確かに高校生が自らファイターズを選んでくれたケースが増えていることに気がつく。
 現役メンバーに限っても、これまであまり入学実績のなかった高校から自らの意志でファイターズを選び、入部してくれた部員が何人もいる。今季の2試合に出場したメンバーだけでみても、オフェンスでは二木佑介(海陽中等教育)、小林陸(大阪産大高)、ディフェンスでは小林龍斗(日大三高)、亀井大智(報徳学園・バスケット)らである。彼らは高校時代、アメフットで活躍した選手が多いが、今春、入部したメンバーには、高校では他の競技に取り組みながら、アメフット選手だった父親や顧問の先生の勧めでファイターズの門を敲いてくれた橋(東海大仰星、サッカー部)、大槻(京都共栄、野球部)らがいる。
 スポーツ選抜入試による合格者だけではない。一般入試で関西学院大学に入学し、自ら選んでファイターズに加入した選手の中にも、高校時代は他競技に打ち込んでいたメンバーが増えている。今季、初戦から活躍しているDL野村(龍野・野球)、DB西脇(東京都市大塩尻・野球)、DB宮城(洛北・ラグビー)、K永田祥太郎(浜松西・サッカー)らである。OLのスタメンに名を連ねている田中や初戦で大活躍したLBの都賀(ともに高等部)も高校時代は野球部で活躍した選手である。
 高校時代から華やかなフットボール歴を持ち、注目されたきた選手に交じって、それに追いつき追い越せと努力する選手たちが日々成長し、チームを支えているのが昨今のファイターズである。
 その姿が高校の指導者らから信頼され、志願者が集まる。入学した部員らは、そこでファイターズ指導者らの見識に触れ、学生が主体となって運営されるチームの在り方に目を見張る。その喜びがこのスポーツに取り組む熱気を呼び起こし、そこからさらなる成長を遂げていく。
 大雑把に言えば、そういう循環の中で、20歳前後の若者たちが自らの可能性を切り開いていくファイターズ。そういうチームのたたずまいがいま、高校の指導者から注目され、多彩な人材が集まってくるようになったのではないか。
 そうした人々の期待にどう答えるか。28日に迫った関西代表を決める立命館大学との決戦がその舞台となる。ファイターズに連なる全員が最後まで準備を尽くし、選手もスタッフも一丸となって立ち向かってもらいたい。相手が強いほど、こちらも強く、たくましくなれる戦士をファイターズと呼ぶ。
posted by コラム「スタンドから」 at 16:24| Comment(2) | in 2020 Season

2020年11月09日

(7)強いファイターズ、発展途上のファイターズ

 トーナメントの2回戦、神戸大学との戦いは35−14。ファイターズが前半だけで5本のTDを決め、力の差を見せつけた。けれども、課題もいっぱい見つかった。いわば強いファイターズと発展途上のファイターズ。双方が同時に出現し、見所は満載だった。
 関学のレシーブで始まった立ち上がり。QB奥野が立て続けにWR糸川、梅津にポンポンと短いパスを決め、合間にRB三宅が当たり前のように10ヤードを走る。奥野のキープで相手陣に入ると、再び梅津に26ヤードのパス。残り22ヤードをRB前田と鶴留が交互に走り、仕上げは前田の中央突破。わずか8プレーでTDに仕上げ、福井のキックも決まって7−0。パスとランを適度に使い分け、時には自らボールをキープして陣地を稼ぐ奥野の余裕あるプレーが際立つ先取点だった。
 これで落ち着いたのか守備陣も健闘。LB繁治、川崎らが厳しいタックルで相手の出足を止め、ダウンの更新を許さない。
 互いにパントを蹴り合った後の第5シリーズ。相手陣35ヤードから始まったファイターズの攻撃は、まずは奥野のスクランブルで11ヤード、続いて鶴留の力で押すランで7ヤード、仕上げも前田のラン。相手を跳ね飛ばすようにして17ヤードを走りきってTD。ぐいぐいと相手を押し込むOL陣のパワーと、適切な奥野の判断、鶴留のパワー、そして技とスピードがかみ合った前田の個人技。ファイターズの底力を見せつけるような攻撃で14−0とリードを広げる。
 順調そのものと見えた試合が暗転したのはその直後のキックオフ。相手リターナーに幻惑されて83ヤードのビッグリターン。守備陣の準備が整わないうちに簡単にTDパスを決められ、14−7と追い上げられる。
 「くそっ、やり返したる」と思ったかどうか。思わぬ展開となった次のファイターズの攻撃。今度は奥野から梅津への長いパスで一気に相手陣に攻め込む。前田のランを一つ挟んで今度はWR鈴木へのパス。それが絵に描いたように決まってTD。再びリードを広げる。
 けれども、相手もしっかり準備を整えている。今度は関学がキックオフしたボールをキャッチしたリターナーが反対サイドのリターナーに後ろパス。それをキャッチしたリターナーががら空きになったライン際を走り抜き、そのままTD。立て続けのビッグリターンであっという間に21−14と追いすがる。
 二つのビッグリターンは、相手にとっては会心の作品だったに違いない。とりわけTDに結びつけた2本目には、周到な準備がこらされていたように思える。というのは、その少し前のプレーでこのリターナーが足がつったような仕草をしてベンチに下がった場面があったからだ。その選手が見事な走りでファイターズの守備陣を置き去りにする場面に「はめられた!」と思ったのは僕だけではあるまい。ともあれ、この試合にかける相手チームの思いの深さが見えた場面だった。
 けれども、そこで慌てないのがファイターズの攻撃陣。2年生の時から攻撃の柱として場数を踏んできた奥野と三宅のコンビが粛々と仕事をこなし、仕上げは三宅の32ヤード独走TD。あっという間に相手守備陣を抜け出し、ゴールまで独走したスピードがすごかった。上ヶ原での練習時でも当たり前のように披露している走りだが、それを試合でも平然と披露できる冷静さに改めて驚かされた。
 DB竹原のインターセプトでつかんだ次の攻撃シリーズは一転してパスアタック。第2Q終了までの時間が迫っていることもあり、奥野がWR糸川、梅津に立て続けにパスを通す。最後は梅津が好捕してTD。前半を35−14で折り返す。
 後半は、奥野が退き、QBには平尾と山中が登場。レシーバー陣や守備陣にも次々に交代メンバーが投入された。フレッシュな1年生も起用されるし、出場機会が限られていた4年生も登場する。ガラッとメンバーが入れ替わったが、そういうときこそ交代メンバーにとってはアピールのチャンス。可能性を試す舞台である。今季は試合が少なくアピールする機会も少なかっただけに、下級生にとってはたとえ失敗しても、それが薬になり経験となって次につながるはずだ。
 そこで目に付いた1人が、2年生DLの亀井弟。見事なパスカットとQBサックを立て続けに決めて、潜在能力の高さを見せつけた。DBの1年生、海崎弟の動きも鋭かった。途中から出場し、さすが副将と思わせる動きを披露したLBの兄と同時に2列目の左右を固める場面もあって、今後に大いに期待が持てた。
 ほかにもこの日のメンバー表には、背番号の若い順にWR鈴木(箕面自由)、RB前島(高等部)、DB波田(箕面自由)、DB山村(足立学園)が名を連ねていた。それぞれがセンスとスピードを持った選手であり、上ヶ原の練習でも存在感を発揮している。大学での試合経験を積むたびに成長していく人材だと期待している。
posted by コラム「スタンドから」 at 10:03| Comment(1) | in 2020 Season

2020年10月29日

(6)新しい息吹

 同志社大学戦を振り返るに際して、ファイターズは今春、どんなメンバーを失ったかを確かめたい。
 手元にある1月3日のライスボウルの先発メンバーを参考にすると、オフェンスではOLの村田、森田、松永、WRの阿部、ディフェンスではDL板敷、藤本、寺岡、大竹、DBでは渡部、畑中、松本、そしてK・Pを務めた安藤が卒業している。攻守蹴合わせて12人を失った穴をどのように埋めるのか。それを試合で確認するのが、大きな関心事だった。
 結論からいうと「随所に新しい息吹が見えている。しかし、まだまだ底上げが必要」というのが、スタンドから観戦した僕の感想である。
 OLでは2年生時からスタメンを張っている副将・高木を中心に、3年生の二木、牧野、田中、そして2年生の速水が先発。目立たないけれども、基本に忠実なプレーで攻撃陣を支えた。今季のチーム練習が始まった頃から、OL担当の香山コーチや神田コーチに厳しく指導された成果だろう。TEには遠藤、小林陸など昨年から随時出場していたセンスのよいメンバーがそろっているので、今後の成長が楽しみだ。
 前回も絶賛したように、攻撃の起点になるQB奥野は健在、三宅、前田、斎藤、鶴留で回すRBの完成度も高い。WR陣も昨年から主力メンバーとして出場している鈴木、糸川、河原林らが健在。しばらく試合から遠ざかっていた戸田も安定した捕球をしていた。昨年はけがで出場機会のなかった2年生の梅津も、センスの良さを見せてくれた。
 特記したいのは、1年生WRの鈴木(箕面自由)。今季は練習もままならず、アピールする機会が少なかったにもかかわらず、上ヶ原での練習時から目に付いた選手だが、試合でもその力を発揮。第4Q後半、QB山崎が投じた30ヤードのパスをキャッチ。TDを奪った。スピードだけでなく、コース取りや相手を抜き去るセンスにも非凡なところがあり、今後が楽しみな新人である。
 デイフェンスでは、第一列が期待される。この日は、野村、青木という昨シーズンの後半から存在感を増していたメンバーに加えて、昨年はほとんどVチームでの経験がない2年生の吉田と亀井弟が先発したが、立ち上がりから相手を圧倒。「今年の1列目はいいですよ」という大村監督の言葉を裏付けるような活躍だった。
 2列目は、昨年大活躍した海崎と繁治の両副将が欠場したが、その穴を昨年から交代メンバーで出場している4年生の川崎と3年生の都賀が埋めた。とりわけ高等部時代は野球部だった都賀がフットボールの仕組みに慣れたのか、随所で果敢なプレーを見せ、相手に自由なプレーを許さなかった。
 問題はDB陣。昨年から試合に出ている北川と竹原は、よくボールキャリアに絡んでいたが、経験の薄いメンバーの動きは今ひとつ。スピードはあっても、相手が本気でぶつかってくる試合での経験がほとんどないから、つい相手の動きに惑わされ、肝心のボールキャリアのカバーが遅れる。そのたびに「くそっ、次は仕留めたる」と気合いを入れるから、逆に力が入りすぎて相手にその逆を突かれる。
 今後、試合経験を積んでいけば、その辺の呼吸は身に付いてくるだろうが、時間は限られている。この日、交代メンバーとして出場したメンバーを含め、攻守ともに、さらに実戦を想定した練習を積み重ね、才能を発揮してくれることを願うばかりだ。
 同じように試合経験の少ないのがキッカーとパンターを兼務する永田。今季は試合形式の練習が十分にできず、キッキングのメンバーは大変な苦労をしたようだが、初戦という重圧にも負けず、すべてのキックをしっかりと蹴っていたのが印象的だった。
 このように初戦を振り返っていけば、一発勝負のトーナメント、それも2回勝てば決勝という今季のスケジュールの厳しさが身に染みる。
 現状では、試合経験を積ませて新しい戦力を育てるということは極めて難しい。けれども新しい戦力の台頭なしには戦えない。この難しい条件をどう突破していくか。監督・コーチの指導を待つだけでなく、選手自身がこの状況を理解し、1分、1秒を惜しみ、覚醒した練習に取り組まなければならない。立ち上がりからの華々しい攻撃で圧勝した試合はまた、そのことを痛感させられた試合でもあった。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:38| Comment(1) | in 2020 Season

2020年10月20日

(5)灯りの見える勝利

 前例のないシーズンが前例のない形で始まった。2020年度の関西リーグ。今季は、一部の8チームが二つのブロックに分かれてトーナメントで戦い、勝ち抜いた2校で優勝を争う仕組みになった。
 逆に言えば、初戦で負ければそこでシーズンが終わる。18日朝のどこかの新聞に「京大、2時間あまりでシーズン終了」との見出しが出ていたが、それが衝撃的だった。リーグ戦ならば、たとえ初戦で敗れても、くじけずに戦い続ければ逆転優勝の目が残る。けれどもトーナメントは一発勝負。どんなに素晴らしい試合をしても、負ければそれでシーズン終了。残酷なことよ、と思いながら王子スタジアムに向かった。
 この日の僕の役割は、コロナ禍で試合会場から閉め出されたファンや選手の保護者の方々に、このコラムを通じて試合のポイントをお伝えすること。もちろんRTVの実況中継やサンテレビの録画放送があるが、そうした文明の利器が見落としたようなところにも目を配ってファイターズファンにお届けすることである。
 初戦の相手は同志社大学。相手のキック、ファイターズのレシーブで試合が始まる。リターナーは4年生RB三宅。昨季もライスボウルであの富士通を相手に独走TDを決めたスピードランナーである。相手のキックを自陣10ヤード付近で確保すると、そのまま右のサイドライン付近を駆け上がる。相手ディフェンスも必死に止めようとするが、それを軽快なステップで交わし、そのたびにスピードを上げてそのままタッチダウン。K永田のトライフォーポイントも決まって7−0。わずか10秒ほどで主導権を握る。
 しかし、驚くのはこれからだ。相手の最初の攻撃シリーズを完封して、再び自陣30ヤード付近からファイターズの攻撃。今度はQB奥野からTE遠藤、WR糸川への短いパスが続け様に決まり、続けて三宅のラン、糸川へのパスを決めてあっという間に相手陣29ヤード。そこから今度はRB前田が中央を突破してTD。スピードだけではなく、パワーで相手を圧倒していく豪快な走りだった。
 しかし、驚くのはまだ早い。相手の攻撃をこれまた完封してファイターズ3度目の攻撃シリーズがまたまた鮮やかに展開する。今度は奥野からWR鈴木に27ヤードのパス、RB前田のラン、再び鈴木へのパス、そして仕上げはRB前田が中央2ヤードを飛び込んでTD。相手が警戒しているにもかかわらず、鈴木と前田を交互に使い、それぞれのプレーをすべて成功させてTDに結びつけるというのは尋常ではない。
 思い通りの試合展開で、選手たちの気持ちもほぐれてきたのだろう。続く第4シリーズの主役は3人目のRB斎藤。相手守備が奥野からのパスを警戒している裏をかいて、一気に34ヤードを走り、ゴール前2ヤード。これを三宅のランでTDに結びつけ、なんと第1Qだけで27−0とリードを広げる。
 第2Qに入っても勢いが止まらない。ファイターズ5回目の攻撃シリーズはRB三宅、前田、鶴留を交互に走らせ、合間にWR梅津へのパスを挟んで確実に陣地を進める。仕上げは三宅のラン。永田のキックも決まって34ー0。ここまで5回の攻撃シリーズを攻撃陣はすべてTDに結びつけ、守備陣は相手を完封する見事な展開である。
 その内容が素晴らしい。主将の鶴留を加えたRB4人がそれぞれ持ち味を出して大きなゲインを重ねれば、レシーバーも確実にボールをキャッチして陣地を進める。センターの高木とタックルの牧野以外は試合経験の少ないOLも、しっかりボールキャリアを守り、走路を開く。
 奥野はこの日、第2Q早々に5本目のTDを取ったところで交代したが、その間、9回パスを投げて失敗したのは1回だけ。ランが出るからパスが通るのか。パスが通るから相手守備陣は、ランプレーへの警戒がおろそかになるのか。さすがは2年生の時からエースQBとしてチームを引っ張ってきた選手である。毎年のように厳しい試合を戦う中で積み重ねてきた経験は伊達ではない。
 奥野と言えば、試合の前々日、チーム練習が一段落した時に、僕は珍しい場面に遭遇した。ワイドレシーバーのリーダー、鈴木がレシーバー全員に集合をかけ、そこで奥野が真剣な表情で檄を飛ばしていたのである。僕は、少し離れた場所にいたので、彼の言葉は聞き取れなかったが、今度の試合に臨むにあたって、レシーバー陣に気合いを入れていたことは間違いない。
 昨年まではプレーで引っ張っていた彼が、今年は言葉でも引っ張っている姿に、僕は彼の最後のシーズンに臨む熱い気持ちを見た気がした。
 追伸
 鮮やかな攻撃陣の先制パンチに目を奪われて、守備陣や途中から出場したメンバーの活躍ぶりに触れることができなかった。申し訳ない。次回には必ず守備陣や、攻撃を支えたラインのことも紹介します。しばらくお待ちください。
posted by コラム「スタンドから」 at 21:25| Comment(3) | in 2020 Season

2020年10月12日

(4)前例のない戦いへ

 2020年度の関西学生アメリカンフットボールDiv.1の試合がこの週末から始まる。コロナ禍の中で、日程的にも試合そのものにも制約がある中での開幕である。全体の試合数を少なくするためにリーグ戦ではなくトーナメントで戦い、それも4チームずつを二つのグループに分け、それぞれ勝ち上がったチーム同士が戦い、勝ったチームが関西代表として甲子園ボウルに出場するという前例のない戦いとなる。
 ファイターズの初戦は18日。本拠地ともいえる神戸の王子スタジアムで同志社を相手に戦う。観客は入れず、スタンドからの応援もない中での試合であり、負ければそれでシーズンが終わる。リーグ始まって以来の事態であり、過去のどの世代も経験したことのない戦いとなる。
 その戦いにどう臨むのか。チームの状態をどのように盛り上げていくのか。その前に、春季は試合はおろかチームとしての練習も禁じられていた中で、チームの状態はどこまで上がっているのか。昨年度の4年生が抜けた穴をどのように埋めるのか。先発メンバーだけでなく交代メンバーの仕上がり具合はどうなっているのか。
 ファンにとっては、気にかかることが山積しているはずだ。もちろん、試合は自分たちのチームの仕上がり具合だけでなく、対戦相手の状態とも直接関係する。
 聞くところでは、関西学院大学の課外活動に対する制約は、他のチーム以上に厳しく、チームとしての練習もそれを反映して大きく出遅れているそうだ。
 しかしそれでも、シーズンが始まれば、そうした環境・条件の違いは言い訳にならない。用意!ドン!と笛が鳴れば、一斉にスタートを切らなければならない。目の前の勝利をつかむために全力で挑んで来る相手に必ず勝ち続けなければならない。その条件はどこまで整ったのか。
 僕の感想を言えば、昨年のシーズンをグラウンドで戦ったメンバー(交代出場のメンバーを含む)と、それ以外のメンバーとの間には、正直言って見た目以上の落差がある。キッキングチームを含め、攻守ともにチームとしての練習がほとんどできていないのだから仕方がないといえばそれまでだが、メンバーがそろっている割には、チームとしての完成度が低い。こういう完成度の低さで目の前に迫った試合を戦い切れるのかという不安がつきまとう。
 攻撃でいえばパスも通るし、ランも出る。何より昨年の戦いを経験し、大活躍したメンバーがQBをはじめRB、WR、そしてOLそれぞれに存在し、チームをリードしている。何度も大きな舞台を経験し、苦しい思いもうれしい思いも人一倍味わっているメンバーが全員、大きなけがもなく練習を続けているのは、本当に心強い。
 守備陣も同様だ。昨年の関西代表決定戦から甲子園ボウル、ライスボウルと華やかな舞台で活躍してきたメンバーには、そこで得た自信がある。彼ら全員が自分の持てる力を発揮できれば、そうそう大きな崩れは見せないだろう。
 けれども、それに続くメンバーがどれだけ成長したのか。キッキングのメンバーを含めて、それぞれのポジションで今春卒業したメンバーの穴を埋めることができるかどうか。もちろん練習では、鮮やかなタックルも決まるし、ボールをはたき落とすこともできる。しかし、時には信じられないミスが出ることもある。
 今春入部した1年生を含めて、本来ならこの半年間に相当実力をアップしているはずの2枚目、3枚目のメンバーがどこまで仕上がっているか。僕が勝手に推測するのは、そうしたメンバーの仕上がり具合が勝敗を分けるということだ。
 アメフットはチームスポーツ。攻守ともにグラウンドに出ている11人(キッキングチームでは、その時フィールドに出ている全員)がそれぞれの役割を完璧に果たしてこそ勝利への道が見えてくるスポーツである。同時に試合中、しばしばけがが発生するスポーツでもある。交代メンバーの層の厚さを抜きにして勝利はおぼつかない。
 もちろん、実戦の感覚がつかめていないのは、相手チームも似たような状況であろう。問題は、試合までに残された時間に、自分たちの状況をどれだけ好転させていけるかどうかにかかっている。
 幸いなことに、チームには昨年、1昨年と先発メンバーとして試合経験を積んできたメンバーが何人もいる。彼らを中心に泥臭く努力し、必死懸命に取り組んでいくことだ。上級生が本気になれば、後輩たちも奮い立つ。そこから下級生たちも実戦の感覚を身に付け、試合で活躍できるようになっていく。
 そういう姿が見られることを切望しながら18日を待ちたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 06:34| Comment(1) | in 2020 Season

2020年10月04日

(3)空白の半年を埋めよう

 この一カ月、週末ごとに上ヶ原の第3フィールドを訪れ、ファイターズの練習を遠くから眺めている。そのたびに、新型コロナウイルスの感染が広がったこの社会の変容に思いを馳せ、それが大学生活や課外活動に与えた影響の大きさを実感する。
 第一に、例年なら大学の後期試験が終わった後、2月から新しいチームがスタートし、「虎の穴」とも形容される千刈キャンプ場でのトレーニング合宿などが進んでいたが、3月には学内スポーツセンターで予定されていた二度の合宿が中止となった。4月になって大学への立ち入りが禁止され、チームとしての活動はすべてストップ。練習はおろかミーティングもできなくなった。
 6月下旬から練習が再開されたが、1日に1時間、グラウンドに入れるのは20人以内という条件付き。部員同士が距離をとってのフィールドトレーニングだけ。
いつもの年ならこの時期には関東のチームとの交流戦や社会人との試合が組まれ、JV戦も3試合程度は組まれる。その間、グラウンドでの練習がない日には、パートごと、あるいは全体でミーティングの時間を持ち、練習や試合のビデオを見て、それぞれのプレーの精度を高める工夫もする。新しく入部した1年生もそうした機会を通じて徐々にファイターズというチームになじみ、その文化を吸収していく。
 その仕上げになるのが東鉢伏高原での夏合宿であり、チームはそこで骨格を整えて秋のシーズンを迎える。
 しかし、今年はその機会がすべて失われた。体力・技術・精神面を含めたチームの土台作りが不十分なまま秋のシーズンを迎えなければならないのである。
7月には再び活動が止まり、8月1日から練習が再開されたが、人数制限が維持され、人と人が接触する練習は禁止といった限定付きでそれでだけではできることは限られている。学内の食堂なども閉鎖されていたから、日々の食事にも苦労した。
 ようやく8月も下旬になって、徐々に練習の機会が増え、9月23日に授業が再開されてからはほぼ例年通りの練習ができるようになったが、この半年間のブランクは大きい。
 それは、グラウンドでの部員の動きを見れば、即座に分かる。昨年の秋、あの厳しい関西リーグを戦い、立命館との決戦を制して甲子園の舞台に立ち、さらには東京ドームで社会人代表と戦ったメンバーたちの姿がやたらと目立つのだ。逆の言い方をすれば、新しいメンバーの台頭が見えてこないということである。今季のチームは、昨年卒業した4年生を欠いたままの戦力で、戦いに挑まなければならない可能性がある。
 試合を想定したチーム練習になると、それはさらに明確になる。キッキングの練習でも同様だ。チームとしての練習量が決定的に少ないのだから、ミスも出る。当然と言えば当然だろうが、例年、この時期には春のシーズンを通して急激に伸びてきた選手がけっこう目に付くのに、今年はそれが少ない。
 大量に入部した1年生には、素人目に見ても有望な選手が何人もいる。けれども、彼らにはまだまだ先輩に対する遠慮が見える。僕のような「観客席の人間」でさえ素晴らしい才能を感じ、実際に1年生とは到底思えないようなプレーができていても、大学での試合を経験していないせいか、なんとなく「お客さん」という感じがしてしまうのである。
 本来なら、こうした1年生も春のJV戦から出場の機会をつかみ、そこで堂々のアピールをしてチームに溶け込み、今頃は名実ともに試合に出るのが当たり前となっていたはずなのに、今年はその機会が失われている。そこがつらい。
 今季はリーグ戦でなくトーナメント。負ければ終わりの一発勝負である。そこでどれだけ新しい戦力が活躍できるか。と言うよりも、学年に関係なくそうした選手の台頭なしには今季は戦い切れないだろう。
 開幕までの時間は限られている。だからこそ、昨年活躍したメンバーを追い抜いて活躍してやると心に誓い、努力してくれる選手の登場を待ちたい。新しく入部したメンバーも遠慮は無用。自らの才能を信じて努力を重ね、戦列に加わってもらいたい。ここからが本当の勝負である。一所懸命。努力で空白の半年を埋めようではないか。
posted by コラム「スタンドから」 at 18:34| Comment(3) | in 2020 Season

2020年09月23日

(2)出発の時

 19日からJVとVのメンバーがグラウンドの全面を使って練習できるようになった。彼らがグラウンドに出る前には、今年入部したフレッシュマンが合同で体幹作りのトレーニングをしているから、やっとフルに近い状態で練習できる環境が整ったのである。
 長い空白である。今年の9月19日は、例年なら4月1日に相当すると言ってもよいほどだ。単にグラウンドでの練習が許されなかっただけでなく、春の交流試合やJVメンバーによる新人戦はすべて中止。そして8月の鉢伏高原での夏合宿も中止になった。部員は登校もできず、実家に帰ったまま就職活動に集中する4年生も少なくなかった。
 ようやく6月後半から少しずつ、メンバーを20人に限って暑熱順化訓練程度の練習が始まったが、その内容も「合同準備運動」の延長という程度の軽い内容。選手同士のコンタクトもボールを使った練習もできなかったから、とても試合に向けて内実を高めていくような段階までは進めなかった。
 しかし、9月になり関西大会の日程が固まってくるに応じて、練習に対する大学側の規制も徐々に緩和され、ようやく19日から例年に近い状態で練習がスタートした。
 その意味では、今年の9月19日は記念すべき日であり、ファイターズの新しいシーズンがスタートする日でもあった。
 その練習をスタンドからずっと目をこらして眺めていると、それなりに感想はあった。しかし、たかだか週末だけの練習を見て、あれがよかった、ここが悪かったということにはためらいがある。
 代わりに動かぬ事実だけを書いておきたい。一つは、今季加入したばかりのフレッシュマンがこの日から攻守合わせて10人近く、JV・Vのメンバーに抜擢され、先輩たちに交じって元気よくプレーしていたこと。俊敏な動きで、とても新人とは思えないようなWRやRBがいたし、彼らを止めに回るDBにも動きのよい選手がいた。身体が大きくて動きのよいラインメンがいるし、肩の強さが先輩QBを凌駕するようなQBもいる。初めての試合形式の練習にも戸惑いを見せず、元気に振る舞う彼らの姿を見て、大いに希望が見えたことは特筆される。
 もちろん、上級生も久しぶりのチーム練習で生き生きと身体を動かせていた。幸い、軽いけがをしている選手は少数ながらいるが、大きなけがで休んでいる選手はおらず、今後練習を積んでいくにつれて、試合の感覚を取り戻してくれることは間違いなさそうだ。
 驚いたのは、チーム練習が一段落した時にチームのディレクター、小野宏氏が訓示されたこととその内容だ。僕はグラウンドに降りられないので、スタンドから耳を澄ませていたのだが、その内容はほとんど聞き取れない。ただ、ものすごく熱心に、熱を込めて部員に語りかけられているのを見て、一体、何が起きたのかと気になった。
 訓示の後、スタンドに上がってこられたのを待ち構えて聞くと、話の内容は新型コロナ禍の中での試合に臨む心得。その趣旨は、以下のようなことだった。
 今季は新型コロナウイルスの感染が広がってる中での試合であり、感染者が出ればチームは試合に出場できなくなる可能性がある。今季はリーグ戦ではなくトーナメント戦であり、出場がかなわなくなれば、それでチームは敗退が決まる。絶対に感染者を出さないという気持ちで日々の行動を慎み、学生生活を送ろう。
 23日からは大学は秋学期が始まり、一部の科目では対面授業が始まる。キャンパスへの学生の入構制限も解除される。そうすると、級友と食事などに出かける機会も増えるだろう。しかし、飲食をともにすることは、それだけ感染リスクが高まること。今の日本の感染者の比率から考えると、ファイターズから数人の感染者が出てもおかしくない。けれどもチームが試合に出るためには、それをゼロにしなければならない。部員全員が改めて日常生活に細心の注意を払う必要がある。ファイターズの諸君が関学生のモデルとなるような行動を心掛けていこう。
 以上のような話だった。この話を聞いて、本当に今季のメンバーは大変だなと改めて思った。けれども、そういう歴史的なシーズンに巡り合わせたのも何かの縁である。とにかく個人ができること、チームとしてできること、双方ともに、細心の注意を払い、最善の努力をして来たるべき開幕に備えようではないか。前途が見えないシーズン。だからこそ中途半端な行動は許されない。公私ともに、日々全力を挙げて取り組もう。
 終生、忘れることのできないシーズンが間もなく始まる。今はすべてを賭して旅立つときだ。
posted by コラム「スタンドから」 at 14:38| Comment(1) | in 2020 Season

2020年09月14日

(1)今季初めてのコラム

 今週末、久しぶりに上ヶ原の第3フィールドを訪れ、ファイターズの諸君の元気な顔とはつらつとしたプレーを見ることができた。その報告を皮切りに、長く中断していた今季のコラムを再開したい。
 新型コロナウイルスの感染が拡大し、2月以降、長い長い活動自粛期間を経て、ようやくグラウンドが使用できるようになったのが6月後半になってから。それでも感染拡大を防ぐために厳しい学内のルールがあり、人数も大幅に制限された。
 このため、8月が半ばを過ぎてもいくつかの班に分かれて登校し、基礎体力を養うためのトレーニングをするのが精一杯。ボールを使うこともできず、パートごとの練習も夢のまた夢。密集を避けるため、ミーティングにも制約があり、ハドルも組めない。
 それでも選手の様子が気になって、時たま第3フィールドに立ち寄ってはみたが、部員の苦労に思いをはせるだけで早々に引き上げていた。今季入部した新しいメンバーたちがどんな練習をしているのか、昨年、スポーツ選抜入試の勉強会で顔を合わせた面々がうまくチームに溶け込んでいるのか。
 気にかかることばかりだったが、何かと制約が多い中では、顔を合わせて話すこともできない。顔見知りの選手らがグラウンドの周囲を元気よく走る姿を見て「がんばれよ」と声を掛けるだけで精一杯だった。
 9月に入って少しずつではあるが一度に練習できる人数の制限が緩和され、ようやく試合に出場するメンバーのパートごとの練習も始まった。金曜、土曜とその練習を眺め、練習の合間に監督やコーチからも立ち話ではあるが、いくつかの話を聞かせてもらった。チームの機密に触れない範囲で僕の感想などを書き連ねて見たい。

(感想1)昨年、秋のリーグ戦やその後のボウルゲームで活躍したメンバーは、ほぼ全員が健在。と言うよりも、他のメンバーを圧倒する1段階上のプレーを見せていたことに驚いた。よほど自主練習を工夫してきたのだろう。身体作りも万全で、春から夏にかけての練習不足を感じさせない俊敏な動きだった。彼らには今季も大いに期待できるという印象を持った。
(感想2)その半面、新しくレギュラーの座を奪い取ろうとするメンバーの底上げがどこまでできているのか、少々、疑問を持った。今季は、春休み中のトレーニングも合宿もなくなり、春の試合もなくなった。本来なら、そこで力を発揮して注目を浴びるはずだったのに、今季はその機会が失われた。スタンドで見ている僕は、本来なら春の練習や試合を通じてそうした選手の成長ぶりを目に焼き付けるのだが、今季はその機会がない。だから昨年、交代メンバーや一軍半的な立場におかれていた彼らがどれほど成長したかを確かめる場がなかったという方が正解かもしれない。
(感想3)
 1年生の元気がよい。今季は高等部や啓明学院で活躍したメンバーが多く、それに加えて高等部時代は野球部で活躍した運動能力の高い選手や体力に恵まれた選手が多い。

 スポーツ選抜入試で入学したメンバーにも、高校時代に派手な活躍をして話題を呼んだ選手が何人もいる。サッカーや野球をしてきたメンバーもいて、新入生恒例の練習メニューとなっているグラウンド周辺のランニングでも元気よく先頭集団を走っている。
 僕の経験では、このランニングでトップ集団でゴールするメンバーは必ず学年が進むにつれて大活躍している。例えば2018年度卒業のRB山口君、WR小田君らがその代表だ。
 大村監督によれば、今季の新入生には、例年にも増して「運動能力の高い部員が何人もおり、大いに期待できますよ」と言うことだった。その際、何人かの固有名詞も上げてもらったが、それはいずれ紹介できる時もあるだろう。
 今季は、練習もミーティングも思い通りにならず、苦しいシーズンになることは間違いない。秋の試合も勝ち抜き戦で、負けたら終わり。大学ごとに練習環境にも大きな差がある中で、それでも勝ち進んでいかなくてはならない。選手はもとよりスタッフも一丸になって取り組まなければ道は開けない。苦しいだろうが、がんばろう。僕もまた限られた条件の中でチームに伴走し、報告を続けたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 20:23| Comment(3) | in 2020 Season