2019年06月11日

(10)勝ちきれない

 9日、炎天下の王子スタジアムで行われたエレコム神戸との戦いは、ファイターズのいいところと悪いところをともにさらけ出した。
 まずは、いいところから。一つは想定内のプレーにはしっかり対応できたこと。とりわけ現時点でのベストメンバーを組んだディフェンスは、1列目、2列目がきちんと役割を分担し、積極的に相手ラインを押し込むプレーを展開。スピードと思い切りの良さで、相手ランナーを思い通りに進ませなかった。
 社会人の実力チームと戦う経験を十分に積んだ相手も、自分よりずっと経験値の少ない「学生さん」に、あそこまで押し込まれるとは想定外だったのではないか。
 オフェンスも渡邊、三宅、前田、鶴留とそれぞれ特徴を持ったランナーが活躍。先発QB山中の判断の速いプレー、阿部、鈴木、糸川と揃えたレシーバー陣の奮起もあって、経験豊富な相手と対等以上に渡り合った。
 まずはスタッツを見てみよう。総獲得ヤードはエレコムが263ヤード、ファイターズが322ヤード。パスは相手が211ヤード、ファイターズは173ヤードで相手が上回っているが、ランでは相手の52ヤードに対してファイターズは149ヤードを獲得している。ランプレーが進むから、攻撃時間も相手の20分57秒に対し、ファイターズは27分3秒。この数字を見てもファイターズが優位に試合を進めていたことがよく分かる。
 それでいて、最終のスコアは14−14。ひいき目で見ると勝ち切れたはずの試合だったが、結果は引き分け。鳥内監督が試合後の囲み取材で開口一番「勝てとったな」といわれたのもよく分かる。寺岡主将が関学スポーツの取材に「勝てる試合を引き分けた」と残念がっていた気持ちもよく分かる。
 それでもスコアはスコア。たとえ途中までは「よく頑張っている」と評価できても、相手QBが一度ファンブルしたボールを拾い上げ、それを18ヤードのTDパスに仕上げた相手にとってはラッキー、ファイターズにとってはアンラッキーなプレーがあったとしても、さらにいえば、終了間際、安藤君なら確実に決められる距離と思えたFGが相手にブロックされる不運があったとしても、それらをすべて含めての14−14。引き分けである。
 現場で応援している僕が見ても「勝てる試合」であり「勝ちきらなければならない試合」だった。
 もちろん「想定外」のことはいくつもあった。相手がファンブルし、大きく後方にそらしたボールをQBが拾い上げ、それを18ヤードのTDパスに仕上げるという芸当は、フットボールを観戦して半世紀近くになる僕でも、初めて目にした。ファイターズのレシーバーが素早い動きでTDパスを捕球する態勢に入っているのに、それをはるか上空でカットしてしまう長身DBのプレーもそうそうお目にかかれる動きではない。
 それぞれが想定外、あるいは規格外れの動きであり、攻守ともに緻密に練り上げた作戦で勝負を挑むのが得意なファイターズの辞書には書き込まれていないプレーだった。
 そうした規格外のプレーに、チームとしてどう対応し、個人としてどのような動きをすればよいのか。そのヒントはこの日の試合の中に埋もれている。
 1枚目、2枚目関係なく、埋もれているヒントを掘り起こし、目の前のプレーヤーを圧倒するための力を身に付けよう。
 並行して、そうした相手にどう対処すればよいのかと考える。さらには、チームを勝たせるために一人一人のプレーヤーがどう動けばよいのか。試合展開や残り時間、ボールの位置から相手選手のほんのちょっとした仕草に至るまですべてを観察し、それを記憶し、対処法を磨いていこう。
 そういうことをチームの全員が考えていかなければならない。そのきっかけとしてこの日の「悔しい引き分け」試合があった。そう位置付けると、今後、ファイターズに身を置く部員たちの取り組まなければならない課題がいくつも見えて来るはずだ。
 その課題に、チームの全員が取り組もう。幹部だけ、4年生だけに任せるのではなく、ファイターズで活動する全員が「わがこと」として取り組もう。選手もスタッフも、上級生も未経験者も関係ない。最善を求め、最高のパフォーマンスをすることだけを目標に頑張ろう。その取り組みが勝利につながる。「学生圧倒」という言葉が嘘ではないことも証明されるだろう。
 春の試合は、今回のエレコム戦で終わり、後はJV戦が2試合残っているだけだ。考える時間もあるし、相手の動きや自分たちの動きを分析するための素材もある。しっかり自分たちのチーム、あるいはパート、はたまた個々の部員同士で本音を交わし、勝つための努力を続けてもらいたい。
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2019年06月04日

(9)ガッツを求む

 2日は、関西学院の第3フィールドで甲南大学とのJV戦。途中、小雨の降る嫌な天気だったが、期待の新戦力が続々登場したので、そこに注目して観戦した。
 新戦力といっても、二つのコースがある。一つは今春入部したばかりだが、高校時代から非凡な才能を発揮してきたメンバーであり、もう一つは高校時代は他の競技に集中し、大学に入って初めてアメフットに取り組んでいるメンバーである。
 例年、この時期のJV戦にはそうしたフレッシュマンと、この1年、フットボールのできる体作りに励み、ルールを覚え、基本的なプレーの習得に務めてきた2年生が次々に登場してくる。
 甲南戦でいえば、1年生では背番号の若い順にWR糸川(箕面自由)、DB小林龍斗(日大三高)、DL山本大地(大阪学芸)、WR河原林佑太(高等部)、WR福田徳馬(豊中)、TE小林陸(大産大付)がメンバー表に登録され、それぞれ先輩にも負けないプレーを見せた。糸川は立ち上がりからQB山中からの長いパスをこともなげにキャッチし、先日の関大戦で鮮やかにTDを決めたプレーがフロックではないことを証明した。
 小林陸も185センチ96キロというラインも顔負けの体を生かして相手守備陣を圧倒し、短いパスを2本、確実にキャッチした。先日の神戸大戦では途中から出場し、相手OLを下から突き上げるように崩していた山本は、この日も堂々と相手のラインと渡り合っていた。LBとDBの二役を引き受ける小林龍斗の動きもいい。初めてのスタメンというのに、相手のボールキャリアに的確に反応。今後の成長が大いに期待できる動きを披露してくれた。
 さすがは、高校時代からそれぞれのチームを背負って活躍してきたメンバーである。先輩たちに混じっても、ひけをとらないほどの活躍振りであり、今後の期待値の高さがうかがえるデビューだった。
 一方、高校時代は野球部員で、フットボールは未経験だったLB都賀と細辻の動きも素晴らしかった。相手の動きに機敏に反応して的確なタックルを決め、パスプレーでも反応のよい動きを見せていた。同じく高校時代はラグビー部だったDB宮城はゴール前に投じられた相手のパスを奪い取り、反撃の目を摘んだ。高校時代、バスケットボール部でインターハイなどに出場をしているDBの前田も、まだまだ動きは初々しいが、さすがはアスリートという片鱗を見せていた。
 すでに一軍の試合で活躍しているDBの井澤や吉田、TE亀井、DL野村らの3年生を含め、こうした他競技経験者に共通するのは、ガッツがあること。入部したその日から1年間、試合に出ることはかなわず、ひたすらルールを覚え、体をつくり、基礎的な動きを身に付けることに専念してきた苦労はダテではない。ある部員はその俊足を生かし、ある選手は反射神経の良さや鍛えた体力を生かしてチームに貢献する。
 それを支えているのが中学、高校時代からフットボールに取り組んできたメンバーに追いつき、追い越したいという強い気持ちである。その気持ちが試合になればプラスに働く。その意味で、どちらかといえばスマートなタイプが多い高等部や啓明学院出身者とは、ひと味違う「雑草派」と表現してもいいだろう。
 今春入部し、いまは体力づくりに専念しているメンバーもまた、こうした「雑草派」のガッツと取り組みに学んでもらいたい。
 勝敗は、一人一人の部員が一人も欠けることなく「死にものぐるいになれるかどうか」にかかっている。
 その意味では、正直に言って甲南大とのJV戦も物足りないことが多かった。上級生が不用意な反則を犯して得点機を逃したこともあったし、スナップが悪くてFGをしっかり蹴ることができなかったこともある。それは今季、慶応大や神戸大との試合から続いていることであり、こうした点に改善の跡が見えないことが残念だ。「学生を圧倒する」というのなら、圧倒できるだけの練習とそれを貫徹するためのガッツが不可欠である。
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2019年05月28日

(8)うれしい予感

 その昔、竹内まりやが「うれしい予感は、いつでもあたるの」と歌っていた。
 どんな歌だったか、全く覚えていないが、このフレーズだけは、いいことがあるたびに浮かんでくる。26日、真夏のような王子スタジアムで関大と戦っている折りにも、何度も何度も僕の耳の奥では、あの甘ったるいまりやの歌声が聞こえていた。
 例えば立ち上がり。今季初めて先発した2年生QB山中がいとも簡単に1年生WR糸川にミドルパスを決めたとき。このプレーでダウンを更新した後、たたみかけるように次のプレーでも、WR阿部に長いパスを投じたとき。これは、運悪く阿部の足がもつれ、攻撃側の反則となって、ダウンは更新できなかったが、それでも臆さず、今度はWR鈴木に19ヤードのパスを通す。かと思えば、2度目の攻撃シリーズでは思い切りのよいスクランブルで21ヤードの前進。さらにRB三宅などのランでダウンを更新した後、相手ゴール前23ヤードからエースWR阿部に長いパスをヒット。一気に先制点を奪った。
 これが初めての先発、それもこの試合にQBとして出場することが決まってから4日ほどしか練習していないというのに、まったく試合の雰囲気に飲まれず、堂々とプレーを続けている。僕は先週の木、金、土の3日間、上ヶ原でチームの練習を見せていただいたが、そのときに、すらっとした長身のQBが中心になってパスを投げ、チーム練習に参加しているのを初めて見た。素人が見ても、投げ方に無理がないし、思い切りよく走ることもできる。その判断が的確だし、動きにも無駄がない。
 思わずコーチに「あの子いい動きをしてますね」と声を掛けると「いいですよ。今度は先発させます」との返事。それからは3日間、彼の姿ばかりを追い続けた。練習中、本人に話しかけるのは気が引けるので、休み時間にレシーバーの鈴木や糸川に話題を振ってみる。二人とも「受けやすいボールを投げてくれる」「初めてとは思えないほどやりやすい」と口を揃える。そのとき、関大戦ではきっと彼が活躍するに違いないという予感がした。そしてそれは当たった。
 あと二つ、3日間の練習を見ていて予感があった。一つは今度の試合では、阿部は警戒される、その分、糸川と鈴木の動きに注目しよう、この3人が役割を分担し、山中のパスで必ず見せ場を作ってくれるという予感である。それもぴたりと当たった。まずは第2シリーズ。糸川と鈴木にミドルパスを決め、仕上げ阿部君への先制TDパス。安藤君のキックも決まって予感通りに7−0とリード。
 次の攻撃シリーズも鈴木へのパスや三宅や前田のランでゴール前まで陣地を進めたが、反則などもあって、安藤のFGによる3点止まり。
 しかし、4度目の攻撃シリーズでは、センターライン付近から山中が投じた48ヤードのパスが糸川に通ってTD。投げる方も堂々としていたが、受ける方も相手ディフェンスを鮮やかに振り切り、ゴールポストの下で余裕を持ってキャッチする。これが今春入部したばかりの1年生かと驚くほどだったが、上ヶ原の練習で彼の動きを何度も見ていた僕は「予想通り。うれしい予感はいつでも当たる」と独り言を言っていた。
 もう一つの予感は、DBの北川の活躍。なぜかこの日も複数回、インターセプトを決めそうな予感があった。この前の慶応との試合中、彼がインターセプトできそうなボールをLB赤倉がいち早くカット。その瞬間、僕がインセプできたのに、と全身で悔しがっていた姿を見ていたからだ。試合後、思わず声を掛けて「次もチャンスはある、きっちり決めような」と声を掛けたが、そのときに、この集中力、この気持ちがある限り、きっと次の試合でも目を見張る活躍をするに違いないと、これは予感というより確信していた。
 案の定、第4Qの半ばから後半にかけて、立て続けに2本のインターセプト。ともに相手が8点を返し、必死に反撃している時間帯だっただけに値千金プレーだった。
 「うれしい予感は、いつでも当たる」といえば、もう一つ付け加えておきたい。K安藤の安定したキックのことである。週末の練習では「この子、昨シーズンより飛距離が伸びている」と思わされる場面が何度もあった。最初は風のせいか、とも思ったが、逆風でも苦にしない。「力が付いたんや」と思って、試合前から密かに彼の動きに注目していた。結果はキックもFGも完璧。この日の彼のプレーを見て「目的を持った練習は裏切らない」という言葉を実感した次第である。
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2019年05月25日

(7)ニューカマーの群像

 先週、東京で行われた明治大学との試合は観戦できなかった。今年75歳になるいまも、現役の新聞記者として働いている身にとっては、東京までの往復に必要な時間を捻出するのが難しかったからである。
 チームのホームページでその経過をチェックし、今週末には監督やコーチから少しばかり話を聞いたが、結構、問題点の多い試合だったようだ。先日の慶応大学との試合や神戸大学とのJV戦などで見せつけられたチームの課題がいっこうに解消されず、前途の厳しさがいくつも浮き彫りになったのだろう。
 問題は、その課題を「ひとごと」ではなく「わがこと」として受け止め、それを自らの課題として立ち向かえる部員がどれほどいるか。とりわけスタッフを含めてチームを背負って行く立場の4年生がどのように覚醒するか。焦点はそこにある。今週末の関大戦は、その覚悟を問う格好の機会になるだろう。
 その辺のことは今後、じっくり見させていただこうと思っている。今回の主題は新しくファイターズに入部した1年生、ニューカマーのことである。
 チームのホームページにはいま、今年もスタッフ志望者を含めて42の1年生が入部したことを伝えている。当初、入部者が少なかった高等部や啓明学院からのメンバーも連休明けから少し増え、いまはグラウンドの端っこで体力づくりのトレーニングに励んでいる。4月初めからスタートしたメンバーの多くは体もできあがってきたようだ。すでに上級生の練習に組み入れられ、試合形式の練習に参加しているメンバーもいる。
 とりわけ、スポーツ選抜入試でファイターズの門を叩いたメンバーは意識が高い。先日の神戸大戦ではDLの山本大地(大阪学芸)が後半から出場し、低い姿勢から、相手を押し上げる場面を何度も見せてくれた。明治大との試合では、WRの糸川幹人(箕面自由)が先発で出場。評判通りのパスキャッチを披露してくれたそうだ。僕は先日来、上ヶ原の練習で彼の動きを見ているが、上級生に混じっても臆するところがない。このチームにずっといるような雰囲気で、難しいパスにも判断よく走り込む。キャッチするのが当たり前という表情をみていると、これが4月に入部したばかりの新入生かと驚くほどだ。
 まだ、出場機会には恵まれていないが、今春入部したメンバーには、末頼もしい選手が何人もいる。昨年夏、一緒に小論文の勉強会をしたメンバーに限っても、TE小林陸(大阪産大)、DB小林龍斗(日大三)、WRには高野一馬(佼成学園)、福田彦馬(池田)、大山将史(千葉日大)、DB長田穣(同)。フットボールは未経験だった亀井大智(報徳学園)、馬淵太誠(大垣日大)も入部前からトレーニングを積んできたようで、すっかりチームに溶け込んでいる。
 高等部や啓明学院からいち早く入部したメンバーにも、さすがと思える動きをする選手が何人かいる。物覚えの悪い僕が彼らの名前を覚えるようになった頃には、きっとチーム練習でも注目される存在になっているに違いなかろう。
 今季は今後、7月に前期試験が始まるまでの短い期間にJV戦が3度も組み込まれている。そういった機会には、是非ともこれらの選手に目を向けてもらいたい。4年間、応援したくなる名前が必ず見つかるはずだ。
 さて、ここで話題は一変。夏恒例の朝日カルチャーの講座案内である。今年は小野宏ディレクターによる「アメリカンフットボールの本当の魅力」に加えて、鳥内秀晃監督が縦横無尽に語る「ファイターズのすべて」が開かれる。聞き手は選手時代からコーチ、ディレクターとして苦楽をともにしてきた小野ディレクター。混迷する日本スポーツ界にあって独特の指導法を確立し、選手の成長を助けてきた監督と名参謀のコンビで、ファイターズの打ち明け話が大いに楽しめそうだ。
 小野ディレクターの講義は7月15日午後1時半から、鳥内監督の講義は7月27日午後6時半から。ともに阪急・川西能勢口駅前のアステホールで。料金など詳細は、朝日カルタ−センター川西教室(072・755・2381)へ。
posted by コラム「スタンドから」 at 10:10| Comment(2) | in 2019 Season

2019年05月14日

(6)現在地を知る

 「今日の試合は書きにくいでしょうね」。11日、上ヶ原の第3フィールドで行われた神戸大学との試合中、旧知の観戦仲間から、そう話題を振られた。
 前半を終わって21−0。いくら相手が関西リーグの実力校であり、ファイターズがJVメンバー主体のメンバーで臨んだ試合とはいえ、相手に好きなように走られ、パスを通されてTDを決め続けられる状況に、観戦仲間も思わずさじを投げたのだろう。隣で不満げに独り言を口にしている僕の様子を見て、一言、慰めの言葉をかけなければという配慮だったかのかもしれない。
 それほどシンドイ試合だった。なんとかいいところを見つけてそこに焦点を当てよう、まずい点、物足りない点についての指摘は監督やコーチに任せよう。そう考えて、懸命に選手の動きに目を凝らすのだが、単発ではいい動きがあっても、それが線になり、面になる場面はほとんど見られない。
 それは後半になって守備が相手を0点に抑え、攻撃が2つのTDを奪って7点差に追い上げた時でも同様である。目を見張るような新戦力は見えず、上級生にもVのメンバーを蹴散らすような存在が見あたらない。攻撃の起点になるスナップがばらつき、フィールドゴールのスナップも乱れる。せっかく相手ゴール前まで攻め込んでも、不用意な反則が出てTDを決めきれない。これでは攻守共に周到に準備してきた相手につけ込まれるのも当然だろう。
 その結果としての21−14。試合後、鳥内監督の口から出た「まあ、こんなもんやろう。試合があると分かっているのに準備せんかったのが悪い」という言葉通りの結果だった。
 チームが公開した記録を見ても、ファイターズが獲得したのはランが218ヤード、パスが134ヤードの計352ヤード。相手はランが188ヤード、パスが104ヤードの計292ヤード。攻撃時間を見ればファイターズが30分14秒、相手は17分46秒。数字ではファイターズが押しているはずなのに、得点は21−14。何と効率の悪い攻撃を重ねたことだろうと改めて気がつく。
 そんな試合をどのように書くのか。観戦仲間が「書きにくいでしょうね」と同情してくれるのもよく分かる。
 しかし、週が明け、少し見方を変えると、また違う感慨が浮かんできた。「これが現在地。いいも悪いも、ここから出発するしかない」という感慨である。
 山に登るときには、常に現在地を確認しながら行動する。どんなに雨が降っても、霧が出ても、現在地さえ正確に把握しておけば、次の行動に迷いがない。迷いがなければ道は開ける。逆に、現在地を見失えば、何もできない。あえて動いても事態を悪化させるばかりで、ついには遭難という事態になるかもしれない。これは、僕が山登りを始めた頃に指導してくれた山の先輩たちから何度も何度も叩き込まれたことだ。
 フットボールも同様だろう。敵を知り己を知る。とりわけ自分たちの現在地を知ることが何よりも大切だ。いまチームに何が欠けているのか。オフェンスに欠けているモノ、ディフェンスに欠けているモノ、試合に出ている選手もベンチサイドで見ているメンバーも、後日、ビデオでそれをチェックする際にも、それぞれ事態を正確に見つめ、問題点を見つけて一つずつ解消していかなければならない。個人の力量、チームの力量に問題があれば、そこをの手立てを考える。練習の取り組みはもちろん、練習時以外の過ごし方にも注意を払い、全身全霊をかけて自らを鍛え、チーム力をアップしていかなければならない。
 前回の慶応戦、そして11日の神戸大戦で明らかになった「欠けたるところ」を見つけ、問題の所在を明らかにして対処するしかない。自分たちの現在地を正確に把握し、そこから最善の行動をとるしかないのである。
 試合に出たメンバーはもちろん、出場機会のなかった面々であっても「JV戦だから」とか「春だから」とかいう気持ちがかけらでもあれば、それはチームとして現在地を見失うきっかけになる。そうなれば目的地に着くことはかなわず、チームは遭難してしまう。
 自分たちの現在の実力、つまり現在地を正確に把握し、夏から秋に備えてもらいたい。それは過去の先輩たちがそれぞれのやり方で克服してきた試練の道である。全員のベクトルが「俺たちは勝ちたいんや」「学生を圧倒するんや」という方向に向かったとき、それぞれの個人が成さねばならないことは必ず見えてくる。それを全うして初めて、秋のシーズンを戦う資格が生まれる。

追伸
 書く場所が見つからなかったので、以上の文では触れなかったが、11日の試合で最も印象に残った選手の名前を記しておきたい。それはRBのスターターを務めた鶴留君である。21回ボールを持って154ヤードを獲得したこともすごいが、毎回、密集の中に突っ込み相手のタックルをはね飛ばし、ふりほどいて突き進んだ姿が目に焼き追いている。久々に見るパワーランナーであり、チームの士気をプレーで鼓舞した立役者である。これまで、重要な場面で起用されることは少なかったが、今回のパフォーマンスをきっかけに大いに飛躍してくれることを願っている。
posted by コラム「スタンドから」 at 06:39| Comment(2) | in 2019 Season

2019年05月08日

(5)悲惨な試合

 5日、王子スタジアムは晴れ。五月晴れという言葉がぴったりだった。ほんの8日前、同じ場所で開かれた法政大学との試合では、六甲山から摩耶山にかけての山肌はまだまだ淡い緑の新芽が主流だったが、ほんの1週間で樹木は緑を濃くし、初夏本番の色合いに染まっている。
 風もほとんどない。こんな日にファイターズの試合を一番見やすい場所から、小野ディレクターらの解説付きで観戦できるなんて極楽、極楽。そんな気持ちでゆったり構えていたが、どっこい試合展開は最悪。試合が終わるまで、ファイターズは攻守共にドタバタ劇が続き、1プレーごとに天国と地獄が逆転するような試合となった。
 立ち上がりは、攻撃の司令塔となるQB以外は、攻守ともに現時点でのベストメンバーを起用したファイターズのペース。攻撃はダウンを一度更新しただけで二の矢が続かなかったが、即座に守備陣が奮起。相手が自陣22ヤード付近から投じたパスを、LBの位置に入った2年生の北川がインターセプトし、そのままゴールまで独走してTD。安藤のキックも決まって早々に7点をリードした。守備も安定しており、相手に付け入る隙を与えない。
 しかし、安心して見ておられたのはここまで。第2シリーズからは攻撃陣がばたつく。パントリターナーは滑って転ぶし、ボールキャリアはファンブルして相手に攻撃権を献上する。ランプレーに偏った攻撃は相手に見透かされて進まない。FGも入らない。あげくにインターセプトで攻撃権を失う。数えて見れば第1Qだけで4度の攻撃機会があったのに、オフェンスでは1度も得点に結びつけられなかった。
 第2Qの立ち上がり、相手陣23ヤードから巡ってきた5度目の攻撃機会をQB安西、RB渡邊らのランでTDに結び付けてリードを広げる。しかし、確実に決めなければならないPATはスナップが悪くて失敗。続く攻撃シリーズもまたインターセプトで攻撃権を失う。
 ここまで失敗が続くと、相手も勢い付く。前半終了まで2分を切ったところでTDを返して13−6。続くファイターズの攻撃シリーズもインターセプトで攻撃権を失い、前半終了。数えて見れば、前半だけで7回の攻撃シリーズがあったのに、ファンブルで1回、インターセプトで3回も攻撃権を失っている。通常なら、試合にならないほどの惨状だ。当然、相手は勢い付き、後半の立ち上がり早々にTDを決めて13−13。
 やばいぞ、と思ったところで、リターナーに入った2年生RB斎藤が90ヤードを独走してキックオフリターンTD。相手のTDを帳消しにする。
 しかし、今度は交代メンバーが入った守備が踏ん張れない。相手にいいように走られ、同じプレーを連続して決められてあっという間に20−20。そこで再びRB斎藤が90ヤードのリターンを決めて気を吐いたが、ここは安藤のFGによる3点のみ。
 その後、ファイターズはFGで3点を追加し、4Q早々には相手がゴール前でスナップを落としたのをDB出光が素早い反応で確保、そのまま4ヤードを走り切ってファンブルリターンTD。33−20とリードを広げる。
 しかし、この日は守備陣の動きが悪い。相手に走られ、パスを決められて6点差にまで追い上げられる。あげくに、残り時間が1分前後まで迫ったときにファイターズに手痛いスナップミスが出る。自陣ゴール前から大きくパントを蹴って、それで決着を付けようとしたのに、スナップがホールダーに届かず、ゴール前5ヤード付近で相手にボールが渡る。そこから互いにタイムアウトを繰り返し、ゴール前インチの攻防が続いた。何とかファイターズがしのぎきったが、どちらが勝ってもおかしくない試合だった。
 先週、法政を42−0と完封したチームがどうしてここまで苦しんだのか。
 まずは攻撃の司令塔となるエースQBを欠いた試合であったこと。先発した2年生の安西は関西大倉高校時代、走れるQBとして活躍していたが、大学ではずっとRBとしての練習を積んできた。交代要員としてユニフォームを着た3年生の林も、高等部時代はQBとして活躍していたが、けがで昨シーズンを棒に振り、今春復帰してからも、主にWRの練習に励んでいた。
 いくら高校時代に実績があるといっても、練習していないメンバーにすべてを託すのは厳しい。周囲がカバーできればよいが、パスは通らない、ランも相手に読まれて進まない。苦し紛れに投じたパスはインターセプトされるということでは攻撃のリズムが作れない。守備も崩れてくる。そこを相手が突き、一度通ったプレーを何度もたたみかけてくる。ランもパスも面白いように通される。そうなれば、挑戦者の気持ちでぶつかってきた相手の方が有利になる。
 逆に守りに入ったファイターズは、攻守とも無難に無難にという傾向が強くなり、状況を突破するプレーが生まれない。それがスコアにそのまま反映された。
 先週のコラムで「次回は4年生に注目したい」と書いた。しかし、目立ったのは今度も2年生だ。攻撃では2度のビッグリターンを決めたRB斎藤と、パスを捨ててランナーに殺到してくる相手守備陣の密集に何度も飛び込み、ヤードを稼いだRB前田弟。そしてラインの牧野、福田、二木。守備ではインターセプトリターンTDなど派手な見せ場を作ったLB北川に加えて1列目には青木、2列目に赤倉、3列目に竹原という有望な選手がいる。高校時代はバスケットボールの選手だった報徳学園出身の3人にも注目したい。3年生の亀井、2年生の辰巳は、ともにTEとして存在感を発揮したし、同じ2年生の前田はDBに回り、最後の大事な場面を託された。相手との競り合いに負けてTDを奪われたが、それもまた勉強だ。この日は力を発揮できず、悔しい思いをしたQB安西を含め、慶応戦に出場した2年生全員に大きな希望を託したい。彼らの成長なしには、今季は戦えないという印象さえ持った試合だった。
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2019年04月29日

(4)新星登場

 意外に思われる方が多いかも知れないが、鳥内監督は「言葉の達人」である。
 試合中、グラウンドで仁王立ちになっている姿だけを見ている人には、なんだか近寄りがたい雰囲気があるかもしれないが、近くで接していると、短いけれどもずばりと核心を突いた言葉に出くわすことが少なくない。折々に部員に問い掛ける「どんな男になんねん」という言葉は、ファイターズに籍を置いた人間なら誰もが聞かされた言葉だろう。「君らが日本1になる言うから、僕らが手伝ってんねん。主役は君らや。勘違いしたらあかんで」という言葉も何度も聞いた。
 そんな語録のなかで、僕が一番好きなのは「君らは(下級生に)助けてもらう立場やで」。これは、経験値の高い上級生がミスをした下級生を怒鳴りつけたり、威張ったりするような場面を見たときに発せられる。チームの運営は、その年の4年生に任せ、その指導力、リーダーシップに期待する。しかし、上級生がその立場を背景に、下級生を頭ごなしに叱ったりすることは許さない。チームに属する全員が日本1という目標に向かって互いに高め合うこと、そういう部活動であってこそ下級生も成長する。下級生の成長があってこそ、上級生ももう一段上の段階を目指して精進し、全体のレベルが上がっていく。そういう活動こそがファイターズの目指す部活動であるという信念に基づいた言葉であろう。
 そうした視点でファイターズの試合を観戦すれば、楽しみは一段と深くなる。2019年春の初戦。法政大学との試合は、その意味では見所が満載だった。
 まず新しく2年生になったばかりの新星が次々に登場し、それぞれがきらりと光るところを見せてくれた。先発メンバーに名前を連ねた2年生は7人。OLの福田、牧野、WRの鏡味、DLの青木、DBの北川、和泉、竹原である。先発ではなかったが、LB赤倉、都賀、DB前田、DL小林、OL二木、田中、RB前田、齋藤、安西、WR遠藤らも交代メンバーとして活躍。経験豊富な3、4年生とも対抗出来るような動きみせてくれた。
 昨秋の試合にも出場した北川や青木、赤倉のことを知っているファンは多いだろうが、残る2年生にはほとんど公式戦の出場経験がない。高校時代は別のスポーツをやっていたメンバーさえいる。
 それが1年間の雌伏期間を経て、開幕戦でしっかり存在感を見せてくれた。RBの前田弟や齋藤は互いに何度もボールを託され、そのたびにパワフルな走りを見せた。上級生を押しのけて先発したOLの牧野と福田は、強烈なパワーで相手ラインを押し込み、ライン戦の主導権をもたらせた。同様、ディフェンスの青木や北川、竹原らも物怖じせずに動き回り、今季の期待値をふくらませてくれた。
 昨秋の厳しい試合で経験を積んだ3年生も昨季より一回り成長した姿を見せてくれた。投じられた9回のパスをすべてキャッチし、都合137ヤードを稼いだWR鈴木は、この試合のMVPといってもよいほどのできばえだったし、先発したQB奥野も前半だけの出場だったが、終始、沈着冷静なプレーを見せてくれた。初戦の緊張した雰囲気の中で、16回パスを投げて13回成功。パスだけで154ヤードを稼いでいるのだから文句の付けようがない。同じ3年生ではRB三宅がチームトップの69ヤードを走り、前半だけで2本のTDを挙げた。高校時代はバスケットボール選手だったTE亀井も、未経験者とは思えないほどの強い当たりとパスキャッチで、今季の期待値を大いに高めた。
 昨シーズンからチームを背負ってきた4年生に加えて、この日はこうした下級生が次々に登場し、存分に活躍してくれた。今季に期待される新星の見本市といってもいい。
 結果は42−0。相手側の攻撃がシンプルで、守りやすかったこと、前半にファイターズがペースをつかみ、終始、落ち着いてプレーできたことなどを割り引いても、今季の初戦としては上々の滑り出しである。
 冒頭の話に戻ると、期待の新星が力を発揮すれば、それに負けじと上級生が頑張る。頑張る上級生の活動を見て、下級生がさらに熱心に練習に取り組む。そういうサイクルを定着させていくために、今度は4年生が踏ん張る番だ。次戦、5月5日の慶応戦は、そういう視点で4年生の動きに注目したい。
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2019年04月22日

(3)今季初の紅白戦

 27日は春恒例の「FIGHTERS DAY」。シーズン開幕を前にファイターズファミリーとファン、支援者が集い、フットボールを共通のテーマにして親交を深める1日である。
 午前中は大学生の練習と紅白戦。午後は小学生やOBらが参加してフラッグフットボールなどを楽しめるようにプログラムがセットされている。天気は晴れ。風もなく穏やかな一日となり、応援のお父さんやお母さんも含めて多くの人たちで賑わった。
 しかし、午前のチーム練習と紅白戦を見せてもらっただけで、早々に引き上げた。時間にして2時間弱。紅白戦だけでは1時間ほど。今季の予告編というのもおこがましいほどの時間だったが、いい意味でも悪い意味でも、見るべき点は少なくなかった。
 まずはいい方から。一言でいえば、昨年秋のシーズン、特に関西リーグの後半戦以降の試合に出場し、苦しい試合を勝ち抜いてきたメンバーはみな、その修羅場を踏んだ経験を糧にして、終始、堅実なプレーを見せてくれた。勝手知ったチームメートとの戦いという点を割り引いても、それぞれに一段と成長していた。攻撃ではラインの村田、藤田統、森、松永、WRの阿部、鈴木、大村、RBでは三宅、前田公。そしてQBは、昨年度甲子園ボウルMVPの奥野。これに昨年はほとんど出場チャンスがなかったTE亀井やRB斎藤、WR鏡味、OL牧野らも元気なところを見せてくれた。
 守備で先発したのはDLが今井、板敷、藤本、青木。LBは実績のある大竹と海崎。DBは逆に北川、和泉、竹原、平尾、中村という新鮮な顔ぶれ。これに加えてDLの春口、LB松永らがスピードに乗った動きで攻撃陣を押し込み、再三、インターセプトやロスタックルを奪った。
 攻撃側で活躍したメンバーを含めて、昨秋の終盤、苦しい試合を経験したことが糧となり、自分の足らざるところを補い、長所を伸ばすべく、春先からの練習に取り組んできた成果だろう。
 問題は2枚目、3枚目として出場したメンバーである。攻撃側でいえば、捕れそうなパスを簡単に落とす。ブロックを振り切られる。スナップを取り損なう。ラインも簡単に割られるといった点だ。昨秋の修羅場をくぐってきたメンバーがそれなりに成長したプレーをしているのを見るに付けても、昨秋の経験値の違いがそのまま成長度の違いに結びついているように思えた。
 もちろん、新2年生は昨年、一度も試合に出してもらえなかったメンバーが大半である。3、4年生でも、昨季の後半、山場の試合にはほとんど出ていないメンバーが何人もいる。4年生が卒業し、学年が一つ上がったからといって、全員が急激にプレー理解が進み、動きにキレが出てくる訳ではない。
 しかしながら、そうしたメンバーが一人でも二人でも、昨季活躍したメンバーに追いつき追い越していかなければ、卒業したメンバーの後は埋められない。当然、勝利への道も遠ざかる。
 それでなくても、ライスボウルに出場した翌年はチーム作りのスタートが遅れる。昨年の関西リーグで敗れたチームはすでの昨年の12月、場合によっては11月末から新チームをスタートさせている。対するファイターズは1月3日にライスボウルを戦った後は、すぐに後期試験。実質的には新しいチームは2月からのスタートである。
 加えて今季は、グラウンドの改修工事が入って3月末まで本拠での練習ができなかった。チームの仕上がりが例年にも増して遅いのは、仕方のないことかも知れない。
 しかし、対戦相手にとっては、そんなことは知ったことではない。春に対戦を予定している関東勢も、社会人チームも相手がファイターズとなれば、全力で立ち向かってくる。それは例年、春先に戦うチームには、決まって苦しい戦いを余儀なくされている前例を見れば明らかだ。
 この日の試合後、鳥内監督とすれ違ったとき、開口一番「今度の試合、負けますよ」と言われたのも理由のあることである。
 グラウンドの端で少し話を聞いた寺岡主将も似たような言葉を口にしていた。「試合形式で行うのは今季初めて。そこで、プレーのレベルの低さがいくつも見られた。きちんと(選手に)言わなければならないことがある」といった話である。
 春先、じっくり筋力トレーニングに取り組めば、その分、試合形式の練習に割ける時間は少なくなる。だからといって、試合形式の取り組みに重点を置くと、肝心の体幹を鍛え、相手を圧倒するパワーを身に付ける時間がなくなる。そのジレンマを解消するためには、選手一人一人が自ら工夫して練習に取り組み、同時に遅れている仲間を引っ張っていくしかない。
 もちろん、たとえ紅白戦であっても、勝手知った身内にさえボコボコにやられた選手は、その屈辱を成長へのエネルギーに換え、これまで以上に真剣に練習に取り組まなければならない。
 今日の紅白戦で、一つだけはっきりしたことがある。それは、学年が一つ上がったからといって、自動的に実力が1ランク上がるとわけではないこと。このことを肝に銘じて練習に励んでもらいたい。
 男子3日会わざれば刮目(かつもく=目を見開いて)して見よ、という。今週後半の練習、あるいは土曜日の試合で、この日、不本意な動きしかできなかったメンバーがどんな動きを見せてくれるのか。刮目して見たい。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:31| Comment(3) | in 2019 Season

2019年04月15日

(2)4年生の365日

 新しい年度が始まり、大学のキャンパスには初々しい新入生が満ちあふれている。昼休みともなれば、中央芝生は人でいっぱいだし、銀座通りも学生会館もラッシュアワーのターミナルのような混雑振りだ。
 大学生活に慣れ、春休みはバイトや旅行に忙しかった上級生も、今の時期は、新しく履修した授業の要領をつかむためにせっせと大学に顔を出しているし、4年生は2月の後半から就職活動やその情報収集に目の色を変えている。
 ファイターズのメンバーにとっても、それは逃れられない。練習や合宿の合間に時間を捻出してOBを訪問して情報を集め、エントリーシートの作成に頭を悩ませている。僕の元にも相談に来る4年生が少なくない。
 僕はファイターズの応援コラムを書いたり、ファイターズを志望する高校生に小論文を指導するだけではない。実は、朝日新聞の論説委員の頃から(会社の提携講座で)都合5年間、立命館宇治高校や立命館大学で小論文の書き方を教えてきた経験がある。朝日新聞を退職後は、関西学院大学の非常勤講師として今春まで、文章表現やマスコミ志望者のための文章講座を担当し、就職活動の相談に乗ってきた。
 そうした経験を多少ともチームの諸君に還元できたらということで、春先は毎年、エントリーシートの書き方や面接の心得などといったことについて、ささやかではあるが相談に乗っている。
 その中で感じることがある。ファイターズの4年生は多分、どのクラブの学生、どの学部、どの学年の学生と比較しても、より充実した365日を過ごしているであろうということだ。
 どういうことか。同じようにエントリーシートを書いても、新しく4年生になったばかりの部員と、4年目を留年し、5年目の春に就職活動に取り組む部員とでは、書いている文章の背景にある「覚悟」とか「事実」とかに明らかに差があるということだ。
 今年も10人以上の部員からエントリーシート作成の相談を受け、仕上げた文章を見せてもらったが、5年生の書いた文章は、出来不出来という以前に、そこに盛り込まれている「事実の強さ」が新4年生のそれに比べると、確実に奥が深いのである。
 それは新しく4年生となった部員のレベルが低いということではまったくない。そうではなく、この1年間、チームに責任を持って活動してきた人間と、これからの1年、チームのリーダーを引き受けようとする新4年生の置かれた状況の違いである。
 その差に、僕はファイターズの4年生が過ごす365日の重みを感じるのである。
 その重みとは何か。言葉ではなかなか表しにくいが、あえていえばチームを背負っていく覚悟、言葉だけではなく自らの行動で範を示すリーダーシップ、練習や試合に対する取り組み、そういったことのすべてが集積されて、初めて「ファイターズの4年生」が誕生するということだろう。
 その大きな荷物を背負って、どのように来年の1月3日までの長い道のりを歩くのか。長い坂を上っていくのか。
 その行く末は現段階では見通せないが、ひとつだけはっきりしていることがある。その荷物を背負うのが、新しいチームを率いる4年生一人一人であり、それを背負い切ってこそ「ファイターズを卒業しました」と胸を張って言えるのである。
 鳥内監督はつねづね「どんな男(人間)になんねん」と問い掛けられる。その言葉をこれから毎日、自分に問い続け、答えを出し続けることこそが「ファイターズの4年生」になることだと僕は思っている。4年生の365日にはそれだけの重みがある。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:16| Comment(1) | in 2019 Season

2019年04月08日

(1)新しい年、新しいグラウンド

 4月。桜が咲き、年度が新たになって大学生活のすべてが一新される。
 ファイターズにとっても同様である。昨年度の活動をリードし、支えてきた4年生が卒業し、新たに寺岡主将をリーダーとする体制がスタート。「BLUE OUT」のスローガンを掲げて日々練習に励んでいる。ライスボウルの後、しばらく休んでいたこのコラムもまた、再スタートの季節である。
 ご存じの方も多いと思うが、毎年、新しいファイターズは後期試験が終った直後からスタートする。学内の施設を使った筋力トレーニングや甲山への登山道を走るメニューを嫌というほど続け、その後には2度に渡る千刈キャンプ場での合宿がある。人里離れた環境で、日夜アメフット漬けになって体力づくりに励み、筋力を養う。体がきしみ、悲鳴を上げる。限界すれすれまで選手を追い込むから、けがをする選手もいる。
 スマートな関学、戦術のファイターズという世間の評価とは裏腹な「千刈虎の穴」の猛訓練。しかし、冬、雪の降るような寒さの中で、そこまで追い込んだ練習を続けることで体は鍛えられ、意識も確実に上がる。ライスボウルの頃は、どちらかといえばスマートな体型だった選手がムキムキの筋肉マンになって上ヶ原に戻ってくる。
 今年は、とりわけその傾向が強い。本拠地としている第3フィールドが人工芝の張り替え工事で1月から3月末まで使えず、その分、基礎的なトレーニングに費やす時間が多かったからだ。
 けれども、春のシーズンまでの時間は限られている。どこかでボールを使った練習の時間を確保し、スキルアップの取り組みも必要になる。そこで3月からは、今日は第2フィールド、明日は野球部のグラウンド、その翌日は高等部のグラウンドと、日々、空いている時間と場所を探して練習を続けた。
 しかし、そのように努力しても、ほかのクラブの練習時間にはグラウンドは使えない。今日は朝から、明日は夕方からと、限られた時間の練習となるので、練習前の練習、練習後の練習の時間も十分にとれない。当然、グラウンドでの練習に割ける時間が足りなくなる。そのマイナス分と、体作りに取り組んだ時間の増加分との収支はどうなるのか。答えはシーズン終了後までは分からない。
 けれども、ひとつだけはっきりしていることがある。3月末に待望の芝生の張り替え工事が完了し、グラウンドの状態が一新されたことだ。それも人工芝の表面をはがして新たな人工芝を敷くだけではなく、その下の基礎部分から改修するという本格的な工事だ。当初は来年度に着手する計画だったというが、今秋の消費税増税を見越して、少しでも出費を少なくということで1年繰り上げて着工したそうだ。
 早速芝生に降りて、その感触を確かめた。人工芝が天然芝に近くなり、走りやすい。歩いてみた感触もいい。以前の人工芝よりも質感が数段上がっているのではないか。
 「すべては選手の安全のためです」と鳥内監督。「つるつるになった人工芝でけがをしたりする可能性を少しでも少なくしたかった。大学当局も僕らにヒアリングをしてくれ、しっかり整備してくれました。ありがたいことです」という。
 第3フィールドが完成し、ここがファイターズの本拠になったのは2006年度。柏木主将、野原副将の代で、その年は関西リーグを制覇しながら、甲子園ボウルでは法政に敗れている。第3フィールドが完成して学生日本1になったのはその翌年。QB三原君やWR秋山、岸、榊原、万代君らの活躍で華々しいパスオフェンスを展開。ライバルを圧倒して学生王者となり、ライスボウルでも敗れはしたが、史上最高のパスゲームを披露した。
 今年、第3フィールドは人工芝を全面的に張り替え、面目が一新された。ファイターズにとっても新たな出発の年になる。
 新たなグラウンドで、今季「BLUE OUT」というスローガンを掲げた面々はどこまで成長していくのか。首尾良く改装初年で「学生を圧倒」して日本1となり、自らの覚悟を証明してくれるのか。今季もまたチームに寄り添い、折々に報告していきたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 10:36| Comment(2) | in 2019 Season