2019年10月16日

(24)努力は報われる

 13日の日曜日、台風が通り過ぎた後の王子スタジアムで、久々に「パスの関学」のすごさを見せてもらった。
 驚いたのがファイターズ最初の攻撃。自陣29ヤードから始まったシリーズの第1プレーがQB奥野からWR鈴木へのロングパス。それが見事に決まって71ヤードのTD。長い間、ファイターズの試合を見てきたが、こんな場面の一部始終を現場で目撃したのは初めてだ。投げる方も思い切りよく投げたが、受ける方も完璧。奥野の速くて正確なパスをいつも練習を共にしている鈴木がトップスピードでキャッチし、そのままの勢いで相手デフェンスを抜き去った。
 次の攻撃シリーズ。今度は4年生のWR阿部が見せる。同じく奥野が攻撃側から見て右のゴールラインに走り込む阿部に投じた30ヤードのパスが見事にヒット。今度はキャッチと同時に審判の両手が上がってTD。安藤のキックも決まって14−0と引き離す。
 守備の第一列には、この1年間、けがで休んでいた主将の寺岡が戻り、藤本や板敷らも復帰して、ようやく本来の先発メンバーがそろってきた。LBにも前回は休んでいた海崎が戻って、繁治との二枚看板がそろう。DBも副将、畑中を中心にほぼメンバーが固定され、守備陣の全体が引き締まってきた。立ち上がりこそ、近大に16ヤードを走られたが、あとはダウンを更新されることもないままリズムよく守り、攻撃権を取り戻す。
 守備陣が安定すると、攻撃陣にもリズムが出てくる。ファイターズ3度目の攻撃シリーズでは、今季初登場のRB渡邊が元気に走り、RB三宅もスピードに乗った走りを見せる。相手守備陣がランプレーを警戒した瞬間、今度は阿部への短いパスでダウンを更新。相手ゴール前27ヤードと迫ったところで、続けて阿部へのパス。その前のTDパスとほとんど同じコースだったが、余裕でキャッチしてTD。第1Qだけで21−0と引き離す。
 第2シリーズに入っても守備陣の動きは素早い。相手キッカーが蹴ったパントをブロックし、相手攻撃陣に自陣2ヤードからの攻撃を強いる。相手はこの危険地帯から懸命に抜け出そうとするが、そうはさせないのがこの日のファイターズディフェンス。相手ゴール内でパントをブロックし、セイフティで2点をもぎ取る。
 しかし攻撃陣はここからがピリッとしない。大量にリードしながら、相次ぐ反則でリズムを失い、なかなか決め手がつかめない。ずるずると後退する場面が続いたが、これを食い止めたのが、奥野と三宅の3年生コンビ。奥野が投げた短いパスを三宅がハーフラインを過ぎたあたりでキャッチ。即座に加速して一気に相手ディフェンスを抜き去る。スピードとパワーを兼ね揃えた独走TDに結びつけた。
 場内で開設しているファイターズのミニFM局を担当している小野ディレクターが「三宅君は今季、一段とスピードが上がりましたね」と解説されていたが、まさにその通り。OLが開いたピンポイントの隙間を抜けた瞬間、トップスピードに乗って走る姿は、昨季のエースランナー、山口君を思わせる迫力がある。この日、ランとパスレシーブで154ヤードを記録したのも、そのスピードがあってこそとうなずける。
 得点は第3Q半ばまでに37−0。そこからファイターズがどんどん2枚目、3枚目の選手を投入する。故障などでずっとベンチを離れていた選手もいるし、今後の活躍が期待される1、2年生もいる。その中で、僕が注目していたのは、寺岡主将と同様、けがで1年以上も戦列を離れていたDB吉野と、これも出場機会が激減していた4年生DLの今井。
 吉野は守備について間もなく、値千金のインターセプトTDを決めたし、今井君も鋭い出足で相手を吹き飛ばす。ともに4年生、最後のシーズンにかける思いの詰まったプレーで期待に応えてくれる。試合に出られない苦しさに耐え、黙々と練習をしてきた成果でもあろう。まだまだ本調子ではないかも知れないが、これから続くライバルとの戦いに、経験豊富な二人が戻ってくれば、大いに期待が持てる。
 二人に限らない。この日、立ち上がりから目の覚めるようなプレーを連発したQB奥野、WR阿部と鈴木。地味な存在ながら、与えられた役割を確実に果たしたQB兼パンター兼ホールダーの中岡。そしてK安藤。彼らはチーム練習の始まる2時間も前からグラウンドに現れ、営々とパスを投げ、キャッチし、ボールを蹴っているメンバーである。全体の練習が始まる頃には、もう一仕事終えた状態と言ってもよいほどだが、もちろんチーム練習も一切手を抜くことなく、誠実に務める。
 オフェンス、ディフェンスの上級生メンバーも同様だ。何度も何度も実戦を想定した動きを反復し、より速く、より強く当たることに集中している。そういう背景を持った面々が試合で活躍する。「練習は裏切らない」という言葉を実感した試合だった。
 一方で、この試合でも続出した反則もまた、練習時から少なからず起きている。練習時と同じメンバーが実戦でも同じ反則を犯すというのもまた、別の意味で「練習は裏切らない」という言葉の表れである。
 リーグ戦は、これからの2試合が勝負である。熱と魂のこもった練習に取り組み、悔いなく戦える準備をしてもらいたい。そして、よい意味での「練習は裏切らない」を実証してもらいたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 06:07| Comment(3) | in 2019 Season

2019年10月07日

(23)うれしいニュース

 今週のファイターズホームページのトップに、二人の選手が登場している。3年生のOL高木慶太君とRB三宅昴輝君である。二人が並んで“表紙”を飾っているのを見て、僕は特別の感慨を覚えた。
 どういうことか。実は二人とも僕が今春まで、関西学院大学で受け持っていた「文章表現論」を過去に受講した学生であり、共に書く回数を重ねるたびに、文章を書く力が伸びていったことを記憶しているからである。
 僕は朝日新聞を定年で退職して以降、ずっと和歌山県田辺市にある紀伊民報で新聞記者をしている。その傍ら、関学でも10年以上前から今春まで、非常勤講師として「文章表現論」という講座を担当。学生たちに文章を書くことについて、現場からのアドバイスをしてきた。
 自分で言うのも何だが、結構な人気講座で、毎学期ごとに定員の4〜5倍の受講申し込みがあり、抽選で定員一杯の受講生を選んでいた。
 この3年間、現役の部員で受講してくれたメンバーには、4年生では寺岡主将をはじめマネジャーの安在君、OL川部君、DL藤本君、RB渡邊君、LBの藤田優貴君と田中君、DBの山本君と久下君といった名前が思い浮かぶ。3年生になると、上記の二人のほか選手ではWR高木宏規君、RB鶴留君、スタッフでは井上君、末吉君、島谷君、前川君。そして2年生の荻原さん。ほかに高等部や中学部、啓明学院でコーチをしているメンバーも数人が受講していた。
 一般の受講生を含めて出席率は高く、回を重ねるごとにそれがさらに高くなって行くのが、僕にとってはささやかな自慢だった。ファイターズの部員も、最近受講した面々は出席率もよく、毎週書き上げる800字の小論文の内容も、回を重ねるごとに上達していった。それもまた、僕にとってはうれしいことだった。
 一般の受講生の中には、毎回、信じられないほど上手な文章を書く学生がいたし、半面、書くことがまったく苦手という受講生も少なくなかった。60分という制限時間に800字の文章がまとめきれない学生もいたし、内容はいま一歩でも、なんとか頑張って書き上げる学生もいた。
 それは、ファイターズの諸君も同様で、いま名前を挙げた部員の中にも、書くことに苦しむ部員は何人もいた。
 しかし、素晴らしいのは、上記の諸君のうち、誰一人として「今日は書ききれません」と音を上げたことがなかったことだ。急なミーティングで欠席することはあっても、次の回には必ず欠席した日の課題を仕上げて提出したし、今春卒業したWR小田君のように、60分の制限時間内に2回分の小論文を一気に仕上げる猛者もいた。
 そうした受講生の中で、とりわけ僕が目を見張ったのが最初に紹介した三宅君と高木君、そしてWRの高木君だった。寺岡主将も含め、彼らは毎回、特別の輝きはないけれども、愚直な生活態度と考え方に裏付けられた文章を仕上げてくれた。その文章を読ませてもらうたびに「こういうきまじめな文章が書けるのは、部活も含めて、日々の生活が充実しているからに違いない」と確信していた。
 そうした見方、考え方は、グラウンドに出掛けて彼らの練習に対する取り組みを見ているときにも、頭から離れなかった。今回、彼ら二人が並んでホームページの“表紙”を飾り、チームの仲間からも彼らの取り組みが評価されているのを見て、特別の感慨を持ったのは、そういう事情が背景にあるからだ。
 ファイターズは、全国に聞こえたフットボールの名門である。それは過去の先輩たちが築いてきた名声であり、それを連綿と受け継いできた後輩たちが毎年の厳しい戦いを乗り越えて繋いできたバトンである。
 けれども、それが高く評価されるのは、運動競技のプロとしてではなく、本来の意味での大学の課外活動として取り組んできたからであり、だからこそ現役の学生、コーチらは日々「文武両道」を目指して活動しているのである。
 その「文」の面での取り組みを指導する側から評価してきた選手が「武」の面でもチームから高い評価を受けている。彼らの「文」の一端を知っている僕にとっては、それがなによりもうれしいのである。
posted by コラム「スタンドから」 at 23:37| Comment(4) | in 2019 Season

2019年10月02日

(22)記憶に刻む場面

 9月29日の夜、神戸大学との試合が終わった後のことである。双方の応援団によるエールの交換が終わり、選手全員がサイドライン際に整列して応援席に向って深々と頭を下げ、寺岡主将が「本日は応援ありがとうございました」とお礼を述べた。
 ここまでは、普段と同じ光景だったが、この日はこれだけでは終わらなかった。寺岡主将の「ハドル」というひと声で、選手全員が集まり、ハドルを組んだ。いわば公式のあいさつ、セレモニーを終えた後、今度はチームの全員でこの日の試合をどのように総括し、今後、どのようにチームをつくりあげて行くのかと全員に問い掛けたのである。
 中央で、しばらく全員を見つめ、黙って噴き出る汗と涙をぬぐう主将。それはたったいま、味わった苦しい現実を受け止め、自らを落ち着かせ、語るべき言葉を探すための時間であったのだろう。守備の要を担うプレーヤーとして、グラウンドで苦しむ仲間を奮い立たせたいと願いながら、けがでグラウンドに立てなかった悔しさをかみしめる時間でもあっただろう。
 やがて顔を上げ、チームの全員に語りかける主将の表情が僕の目に焼き付いている。その言葉、決意もハドルの後ろで聞かせてもらったが、僕にはその言葉よりも、彼の苦しみに満ちた表情が全てを語っているように思えた。
 主将を注視し、彼が腹の底から絞り出す言葉を聞いている選手も、多分、同じ思いだったのではないか。試合に出て背中でチームを引っ張ることのできない主将をここまで追い詰めてはならない。これ以上、主将を苦しめてはならない。自分のやれることは全てやろう。やれなかったことにも全力で取り組み、今度は主将の気持ちに答えてみせる。そんなことをチームの全員が自分に誓った時間であったと、僕は思いたい。
 試合は、攻守とも存分にファイターズを研究し、自分たちの長所を最大限に発揮するためのプレーを準備してきた神戸大にいいように振り回された。
 立ち上がりは、ファイターズペース。守備は相手攻撃を完封し、攻撃陣もいきなりRB三宅が23ヤードを走る。続いてQB奥野からWR鈴木へのパス。わずか2プレーで相手陣24ヤード。そこからRB三宅、斎藤が走ってゴール前10ヤードに迫る。
 しかし、ここから手痛いミス。奥野からWR阿部へのパスが相手に奪われ、攻守交代。せっかくの先制機を自ら手放してしまう。
 守備陣もやることがちぐはぐだ。せっかく2年生DB竹原が鋭い出足で相手QBをサックしたのに、上級生がつまらない反則をしてリズムを崩す。彼は、前回の京都大学との試合でも、素晴らしいプレーを見せたが、その際にも同じようなアクションをしており、首脳陣から注意を受けたばかり。こんなことを続けていると、チームはバラバラになるぞ、と懸念が募る。
 それでもこの場面は、守備陣の奮闘で何とかしのぎ、再び、ファイターズの攻撃。2Qに入って最初のプレーで奥野がWR糸川に14ヤードのパスを決めて相手陣45ヤード。そこから斎藤が45ヤードを独走してTD。K安藤のキックも決まって7−0。ようやくファイターズが先制に成功する。
 しかし、この日の相手は、動きに自信がある。自分たちのやってきたことを信じて、攻守ともに確信を持ったプレーを展開。攻撃が進まない場合でもパントもファイターズ陣奥深くまで蹴り込んで陣地を挽回する。
 逆に、ファイターズは思うような試合展開にならず、次第に浮き足立ってくる。何とか窮地を抜け出したいと焦ったQBの反則もあってセーフティーをとられ、7−2。勢いづいて神戸は意表を突くスクリーンパスなどで陣地を進め、仕上げは48ヤードのTDパス。8−7と逆転し、前半終了。
 後半に入っても神戸の勢いは衰えない。攻守とも思い切ったプレーを連発してファイターズの面々を振り回す。逆に、ファイターズの攻撃は手詰まりになっていく。
 ようやく3Qも半ばとなったあたりで奥野から阿部へのパスが2本、立て続けに通る。仕上げはWR鈴木への23ヤードパス。これが決まって14−8。奥野は、最も信頼している二人に確信を持ったパスを投げ、ピンポイントで投げ込まれた速いパスを阿部と鈴木が確実に確保する。上ヶ原の練習時に取り組んでいるプレーをそのまま再現したコールであり、僕は思わず「練習は裏切らない」と独り言をいっていた。
 それでも結果は17−15。相手にフィールドゴールを決められたら、そのまま逆転負けという辛勝である。
 自らのミスで墓穴を掘り、傲慢な態度で相手に付け入る隙を与える。それを食い止めるのが経験を積んだ上級生の役割だが、それも十分に機能しない。監督が試合後、思わず口にされた「普段からチーム全員が甘いねん。4年生があれだけおって、半分以上が足を引っ張っとる」という言葉通りの試合内容に、チームを率いる主将も、悔しさがこみ上げたに違いない。
 この悔しさをどれだけの部員が共有し、新たな戦いへのエネルギーとしていくか。ポイントはそこにある。
 試合後、寺岡主将が涙をこらえ、声を振り絞って訴えた言葉を、チームの全員が「わがこと」と出来るかどうか。「わがこと」と受け止めた部員が、それをどのように行動に表し、練習に取り組み、試合で実現するか。
 勝負はこれからだ。ファイターズの名簿に名前を連ねているのは伊達ではない。チームの全員が火の玉になって取り組んでくれることを願っている。
posted by コラム「スタンドから」 at 15:08| Comment(5) | in 2019 Season

2019年09月23日

(21)評価の難しい試合

 京大との試合が終わった後、監督やコーチの話を聞こうとグラウンドに降りると、親しくしている新聞記者がいた。普段の人なつこい表情とは違って、苦虫をかみつぶしたような顔をしている。
 「久しぶり。元気か」と声を掛けると、挨拶もそこそこに「見所のない試合でしたね」「これが鳥内監督最後の関京戦か、と思うと残念ですわ」と口を開く。
 彼にとって、京大と関学の戦いとは、ほかのどの試合にも増して、血湧き肉躍る試合。選手もスタッフも、もちろんコーチも監督も、いわばチームを挙げて特別の思いで臨む特別の試合である。それがシーズン開幕3戦目、まだまだ双方ともに発展途上の状態で戦い、双方ともにつまらない反則やミスで好機をつぶし合う試合展開に我慢がならなかったようだ。
 確かに、立ち上がりから、双方に「防げるはずの」ミスが出た。最初につまずいたのが先攻の京大。わずか2プレーでダウンを更新し、ハーフライン付近まで進んだのはいいが、そこから一気に陣地を進めようとしたパスの手元が狂う。それを逃さずDB平尾がインターセプト。相手守備陣はそれでもくじけず、関学に前進を許さない。簡単にパントに追い込み、再び京大の攻撃。
 「相手に振り回されている。いやだな」と思った瞬間、ここでLBのファインプレーが出る。相手ランプレーの動きだしを見切って、一直線でRBに突撃し、ロスタックル。そこで第4ダウン。たまらず相手はゴールライン間際からのパントを選択するが、そこで相手に致命的なミスが出る。パンターがボールをファンブルし、自らボールをリカバーせざるを得なかった。棚ぼたのようなゴール前2ヤードからRB三宅が中央を突破しTD。K安藤のキックで1点を追加し、7−0とリードする。
 思わぬ形で先制点を手にしたファイターズは、次の京大の攻撃を簡単に抑え、再びハーフライン付近からの攻撃。ここからファイタ−ズのラン攻撃が冴える。まずはWR糸川が14ヤードを走り、残る37ヤードをRB斎藤が2度に分けてゴールラインまで走り切る。
 第1Q終了間際に、ファイターズディフェンスが不用意な反則を犯し、それに乗じた京大が2Q早々、FGを決めたが、ファイターズの攻撃は順調。2Qに入って最初の攻撃は自陣25ヤードから。ここで奥野がWR阿部に17ヤードのパスを通し、RB三宅の17ヤードのラン、さらに三宅へのショベルパスとたたみかけてゴール前8ヤード。ここも最後は三宅が飛び込んでTD。21−3とリードを広げる。
 気がつけば、ファイターズは立ち上がりの第1シリーズこそ進まなかったが2、3、4シリーズはそれぞれTDで締めくくっており、今季初めてといっていいほどの安定した戦い振りだった。
 それは、オフェンスラインが今季初めてといってよいほど安定していたからだろう。故障でしばらく戦列を離れていたメンバーが相次いで復帰し、力強く相手ディフェンスを押し込んだからこそ、QBとWR、RBそれぞれの動きもよくなったと思われる。
 それでも、点差が思うように開かなかったのは、簡単に通ると思えたパスをレシーバーが落としたり、ターゲットへのコントロールが微妙に狂ったりしたからだろう。試合後、「レシーバーとQBのコミュニケーションが悪くて」とか「捕れるボールは捕らな」とかの言葉が選手や監督から出ていたが、その通りである。
 その辺のもどかしさを、冒頭に紹介した新聞記者も感じていたのだろう。これで、関大に勝ち、立命に勝てるのか。甲子園ボウルで相手を圧倒できるのか。もっと頑張れ、もっと練習に励めという、メッセージが込められていたのだろう。
 その気持ちは、僕にもよく理解できる。この日の試合でできたこと、学んだことをさらに伸ばし、できなかったことは謙虚に反省して練習に励み、次なる試合に備えて欲しい。関京戦は他の試合にも増して学ぶべきこと、反省することは多くある。この日の経験を自信として生かし、反省として生かす。そういうことができるのも、学生スポーツならではのことと僕は思っている。
posted by コラム「スタンドから」 at 07:22| Comment(1) | in 2019 Season

2019年09月17日

(20)イチローさんの言葉

 日米通算で4367安打を記録したイチローさん(45)がマリナーズから「球団に貢献し、大きな功績を残した人」に贈られる「フランチャイズ・アチーブメント賞」(特別功労賞)を贈られた。マリナーズの本拠地Tモバイルパークで行われた授与式での挨拶がめちゃくちゃかっこいい。
 原文は英語だが、ネットでそのニュースを伝える「full Count」の翻訳を引用して、そのさわりの部分を紹介したい。
 冒頭、シアトルのファンに対し「みなさんからの何年にもわたるサポートに対して感謝の気持ちを表したい」とあいさつ。「2001年に私がシアトルに来た時、それまで日本から来た野手は一人もいませんでした。みなさんが見たのは27歳の、小柄で、細い、無名の選手でした。みなさんが私を受け入れない理由は多くありました。しかし、大きな心で私を受け入れてくれました。そしてそれは、私がここを離れても、そして戻ってきたときも、決して止むことはありませんでした。2018年にここへ戻ってくるチャンスを与えて頂き、本当にありがたく思っています。その理由はみなさん、ファンの方々です」と続ける。
 そのうえで「野球をこよなく愛し、リスペクトしてやまない人たちの前でプレーすることは、私にとっても幸せなことでした」「私が知っている最も素晴らしい選手たちと共に、またはそのような選手を相手にプレーできたことは、大きな誇りです」と続ける。
 最後に、キャリアを振り返って「私が誇りに思うことが少しでもあるとすれば、毎日、困難を乗り越え、毎日、同じような情熱を持って2001年の最初の日から2019年の最後の日まで臨むことができたことです」「選手たちに思い出してほしいのは、プロフェッショナルであると言うことの意味です。シーズンが終わりに近づいた日々は、シーズンの初めの日々、そしてその間の日々と同じように重要です。毎日、同じ情熱を持って仕事に臨んでいかなければなりません。それが自身のパフォーマンスに与える、そしてこの特別な試合を楽しんでいるファンに与える最高のギフトとなります」と結ぶ。
 自らの人生をかけて野球に生きたプロフェッショナルならではの言葉である。日本で比類なき実績を挙げてきた選手であっても、メジャーリーグでは「27歳の、小柄で、細い、無名の選手」が、「毎日、困難を乗り越え、毎日、同じような情熱を持って、2001年の最初の日から2019年の最後の日まで、臨むことができたことを誇りに思う」と言い切る、その長い歳月とたゆまぬ努力に思いを馳せたとき、僕には言いしれぬ感動が押し寄せてきた。そして、この感動をファイターズの諸君にも共有してもらい、自己研鑽の道標にしてもらいたいと思った。
 イチローさんの言葉は、競技種目は異なり、プロとアマとの違いはあっても、日々、向上心を持ってフットボールに取り組んでいるファイターズの諸君の胸にも、きっと響くに違いない。というより、こういう言葉にインスパイアされないようでは、フットボールのレベルも人間としての感受性も養われるはずがないとまで思う。
 イチローさんはファイターズにとっても、縁の深い選手だった。毎年、シーズンが始まる前には、オリックスの選手時代からなじみのある球場で自主トレーニングをされるのが習慣になっていたが、そのトレーニングを共にする機会を与えられた選手が何人もいる。特別サービスで、打席に立たせてもらい、氏の投げるボールを打たせてもらった選手もいる。
 氏の取材を都合19年間にわたって取材し「イチローの流儀」(新潮社)という読み応えのある著書もある小西慶三氏(1988年度卒)から、イチロー選手の野球に対する取り組みについて講義を受けた学年もある。
 そうした体験が選手にどんな影響を及ぼしたかは僕の知るところではない。しかし、少なくとも僕は今春、ほんの短時間だったが、イチロー選手が自主トレーニングされている場に同席させていただき、大きな刺激を受けた。今回の授与式でのイチローさんの言葉もまた、僕の胸に突き刺さる。ファイターズの諸君の胸にもきっと強い影響を与えると思って、たまたまネットで見つけた話を紹介させていただいた(full Countさん、ありがとうございます)。
 最後にひとこと。小西氏とイチローさんとの関わりは、今年のイヤーブックの巻末にある「社会で輝く青い星」でも紹介されている。示唆に富む内容であり、選手諸君にはぜひとも熟読してもらいたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 18:56| Comment(2) | in 2019 Season

2019年09月11日

(19)チャンスは前髪しかない

 「チャンスは前髪しかない」という。後ろは禿げているから、つかもうとしてもつかめない。いま、この瞬間につかまなくては、後からではつかむことはできないという意味である。
 秋のリーグ戦2試合を週末ごとに観戦して、思わずこの言葉をファイターズの諸君に贈りたくなった。
 どういうことか。説明する。
 今季のファイターズは初戦の同志社戦、2戦目の龍谷戦ともに、昨年秋には試合経験のほとんどなかったメンバーを次々に投入している。初戦の先発メンバーで、昨年の甲子園ボウルでも先発していたのはOLの高木、WR阿部、QB奥野、LB海崎、繁治、DB畑中ぐらいだ。2戦目の龍谷大戦のスタメンを見ても、このメンバーにOL森田、DL大竹が加わる程度。交代メンバーとして出場経験のある選手を見ても、オフェンスではRB三宅、WR鈴木、山下、OL村田、藤田兄、DL板敷、松永弟、DB北川、それにキッキングチームのフォールダーやパンターとして活躍していたQB中岡の名前が浮かぶくらいだ。
 つまり、昨シーズンの終盤、関大と引き分けた試合や2度に渡る立命との死闘を経験した主力メンバーをほとんど欠いたままで、この2戦を戦ったのだ。
 その理由として、一つは数多くの故障者が出ていること、そしてもう一つは監督やコーチが意図的に新しいメンバーを登用し、彼らに実戦の経験を積ませて、チームの底上げを図りたいという意図が秘められているからだろう。とりわけ2、3年生にはフレッシュな顔ぶれが揃っている。
 2戦目の先発に名前を連ねたメンバーに限っても、昨年は交代メンバーとして先発メンバーと肩を並べる活躍をしたWR鈴木やRB三宅は別として、オフェンスでは3年生の亀井、2年生の牧野、田中がOLの先発、QB平尾弟、TE遠藤、K永田もスタメンに名を連ねた。ディフェンスでもDB5人中、3年生の中村、2年生の北川、和泉、竹原の4人が先発として起用された。
 驚くのは、1年生でもWR糸川が先発で出場し、同じく1年生の河原林とともに、鮮やかなパスキャッチを見せたこと。交代メンバーとして出場したTE小林陸、DL山本、DB小林龍斗らの動きも目についた。
 とりわけ驚くのは、DLの交代メンバーとして出場した3年生野村。鋭いラッシュで再三相手のラインを割り、2試合ともQBサックを決めた。高校時代は野球部でフットボールは全くの未経験者だが、いまではすっかりファイターズの水に馴染み、先発メンバーを脅かす存在として注目されている。
 このように新鮮な名前を何人も挙げてみたが、それ以外の交代メンバーも含めて、出場した選手全員が、ベンチの期待する力量を発揮できたかどうか。せっかくのチャンスを見事につかめたか。首尾よくチャンスの前髪がつかめたかどうか。そこが問題だ。
 僕が試合前の練習を見る機会は、週末の1日か2日しかないが、そこではいま名前を挙げたメンバーはみな、素晴らしい動きを見せている。パスは次々に通るし、ランも描いた通りに出る。攻守とも、相手がJVのメンバーということを割り引いても、大いに期待の持てるプレーが次々と成功する。
 しかし、その動きが本番で思い通りに再現できたかどうか。ロースコアで展開されている試合でも、あえて交代メンバーを次々と送り込み、実戦での動きに注目していたベンチの期待に応えることのできたメンバーはどれほどいるか。
 試合後の鳥内監督の談話が興味深い。「なんでこんなミスが起こっているのかを見極めなあかん」「交代メンバーがあかん。チャンスをものにせんと」。言葉は思いっきり省略されているが、言わんとされていることはよく分かる。
 前半を終わって10−0、3Q終了時点でも点差は広がらず。安全圏というにはほど遠い状況でも、ベンチは次々とメンバーを入れ替え、緊迫した状況での実戦経験を積ませようとしているのに、それを挑戦の好機と捉えず、失敗を怖れて守りに入っているプレーヤーが多いことを指摘されていたのに違いない。
 アメフットは、どのスポーツにも増して、チームの総合力が試される。攻撃には攻撃の役割があるし、守備には守備の役割がある。先発で出場する選手に託された役割は大きいが、交代メンバーの役割も同じように大きい。今年のように試合の間隔が短くなり、1カ月間に4試合を本気で戦い、そのすべてに勝たなければならない状況では、交代メンバーの役割は例年以上に重要になる。
 頼りになるそうしたメンバーをどれだけ育成できるか。先発メンバーだけでなく、チームの総合力が勝敗を分けるのが今季の特徴である。
 だからこそ、緊迫した試合でも、あえて多くのメンバーにチャンスを与えているのが今季のファイターズであると言ってもよい。その期待にどれだけの選手が応えられているか。前髪をしっかりつかめたメンバーがどれだけいるか。次戦の京大との戦いでその真価が試される。ここが勝負、と腹をくくって頑張ってもらいたい。チャンスは前髪しかない。
posted by コラム「スタンドから」 at 05:29| Comment(3) | in 2019 Season

2019年09月03日

(18)苦戦を良薬に

 1日夜、同志社との戦いが終わった直後、新聞記者に囲まれて取材を受ける鳥内監督の表情は厳しかった。
 「今日は全部、意識の問題」「頭の準備ができてないねん」「みんな誰かに頼っている。そんな集団が勝てるわけない」。口から出てくる言葉も厳しかった。
 けれども、囲み取材が解けて記者団が離れた後、僕が「一昨日言われていた通りの内容でしたね」と声をかけると、ニコニコしながら「そうでしょう。想定外のことをされた時にどうするか。もっと練習の時から考えてやらんと」という答えが返ってきた。
 その言葉は、一昨日の練習を監督の隣で見学していたときに聞いたばかり。その予測をきっちり裏付けるような試合展開だったから、監督も思わず笑ってしまわれたのだろう。同時に、これが初戦でよかった。まだ修正する時間はある。この日の苦戦を肝に銘じて練習に励めば、まだまだ成長出来る。苦い薬も良薬になる。そういう、選手たちへの期待もあって、思わず口元がほころんだのだろう。
 確かに苦しい試合だった。ファイターズのレシーブから試合開始。いきなりQB奥野からWR阿部に28ヤードのパスを通した時には、今日は何点とれるかなというお気楽な感じだったが、後が続かない。奥野のパスはなぜかうわずり、OLも相手守備陣に簡単に割られる。あげくに頼みの奥野が相手のヘルメットを腹部に受けて倒れてしまう。
 やばい、と思ったが、ここはディフェンスが踏ん張って、即座に攻撃権を取り戻す。交代で出たQB平尾が冷静にRB三宅へピッチし、三宅が相手ゴール前15ヤードまで進む。さらに1年生WR河原林への短いパスを決め、ゴール前1ヤード。これをRB前田弟が一発でゴールに持ち込んでTD。K永田のキックも決まって7−0。
 1Q終了前には、奥野が復帰。幸い大きなけがではなさそうで、応援しているファンもほっとする。ボールも手に馴染んできたようで、WR山下や鈴木へのパスが決まり始まる。第2Qに入るとすぐ、奥野からWR阿部への長いパスが通るが、惜しくもゴールラインをオーバーしてTDにはならず。しかし、その3プレー後には奥野がWR鈴木への13ヤードのパスを決めてTD。14−0とリードを広げる。
 続く相手の攻撃も、守備陣が一発で仕留め、再びファイターズの攻撃。ここでも奥野が阿部や鈴木へのパスを立て続けに決めて相手陣30ヤード。このチャンスに再び前田弟が30ヤードを独走してTD。21−0とリードして前半終了。
 前半の戦い振りを見れば、明らかにファイターズペース。しかし後半、交代メンバーを起用し始めると、一気に流れは同志社に傾く。相手にリードを許して開き直ったのか、攻守とも思い切ったプレーを連発。逆にファイターズのメンバーは、それに対応できない。攻めてはラインが割られてQBが孤立。守ってはロングゲインを許してあっという間にTDを返される。
 勢い付く相手に対して、ファイターズの攻撃は進まない。ラインが簡単に割られてQBが孤立する場面が相次ぎ、守備陣もまた浮き足立つ。負の連鎖である。
 このピンチを救ったのが2年生RB斎藤。168センチ、74キロの小柄な選手だが、トップスピードに乗ると一気にゴールまで走り込む快足を持っている。第4Qの半ば。ファイターズが反則で自陣37まで下げられた場面でボールを手にすると、一気に相手守備陣を抜き去り、63ヤードを独走してTD。永田のキックも決まって28−7と
リードを広げ、浮き足立ったチームを落ち着かせる。
 逆に同志社はこの独走で反撃の意欲をそがれたのか、雑なプレーが多くなってくる。終了間際には永田がFGを決め、最終スコアは31−7。
 このように得点経過だけを追うと、ファイターズペースで試合が進んだように思われるかも知れない。しかし、現場ではとてもとても。そんなお気楽な気分ではなかった。意味不明な反則はあるし、タイプの異なる二人のQBを使い分けて攻め込んで来る相手の攻撃も防ぎ切れない。逆にファイターズの攻撃は、相手守備陣の変幻自在の動きに振り回される。これが昨年度の優勝チームと今季1部リーグに復帰したばかりのチームの戦いとは到底思えないような内容だった。
 それを目の前で見せつけられたばかりだから、鳥内監督も取材陣を前にして、厳しい発言を連発されたのだろう。
 さて、この厳しい発言を選手たちはどう受け止め、どのように行動するのか。次の龍谷ととの試合は8日、その翌週21日は、早くも京大との試合が迫っている。
 その短い時間に、初戦の苦しい戦いを良薬として消化できるかどうか。部員全員の覚醒を刮目(かつもく)して待っている。
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2019年08月31日

(17)いざ!いざ!いざ!

 今日で暑すぎた8月も終わり。自分が勝手にとったコラムの夏休みも終了である。
 開けて1日、2019年ファイターズの真価が問われるシーズンが始まる。校歌にある「いざ いざ いざ 上ヶ原ふるえ」の季節到来である。
 事実上、シーズン開幕前最後となる30日の練習で、興味深い場面があった。初戦を想定した「チームタイム」と呼ばれる練習の、最後のプレーが終わると同時に稲妻が光り、雷が鳴った。即座に全員が「屋根下」と呼ばれるグラウンド脇のスペースに退避する。
 雷が鳴ると、即座に一番近くの建物に避難し、不測の事故を防ごうとするのがファイターズのルール。たとえ、練習終了予定時間の10分前であっても、それがはるか遠くであったとしても、雷鳴が聞こえると同時に「練習中止」「屋根下に退避」という指示があちこちから飛び、即座に安全な場所に避難し、30分近く待機することになっている。その間にまた雷鳴がとどろくと、再び待機の時間が延長され、あっという間に1時間は練習がストップしてしまう。
 前日の練習中にも、そういう場面に遭遇したばかり。やっかいな雷だが、この日はちょうど「チームタイム」が終了した瞬間に鳴った。なんというタイミング。グッドタイミングというのか、ラッキーといえばいいのか。あまりにも区切りがいい。今年は何かいいことがあるのだろうか。
 狭い屋根下で、練習後のハドル。鳥内監督がシーズンに向かう心得を説き、汗だくになった副将、主将がそれぞれの言葉で開幕戦に向けて檄を飛ばす。
 「俺たちは挑戦者や。周囲の評価は関係ない。挑戦者であることにこだわって徹底的にやろう」「自分のやれることを全部やろう。まだまだやれることはある。突き詰めていこう」。静かに語り掛ける幹部がいれば、何度も同じ言葉を熱く繰り返す幹部もいる。しかし、語りの口調は違っても、今季の初戦に向けた強い決意はしっかりと伝わってくる。
 マネジャーやトレーナーからの注意事項を含めて、こういう切羽詰まった発言を聞いていると、いよいよシーズンが始まるという実感が湧いてくる。
 この夏は天候が不順で雨も多かった。暑い日も続いた。前期試験後の暑気馴化トレーニング期間も含めて、練習環境は相対的に恵まれなかった。それでも、2度にわたる学内合宿と例年より2日長くなった東鉢伏での合宿を敢行し、チームとしての地力を上げてきた。日々の練習は、時間的には短いが、その分濃密な練習を積んだ。そのせいもあってか、攻守ともにけが人も相次いだ。
 一方で、新しい戦力も台頭してきた。これまでほとんど試合に出場実績のなかった3年生や2年生が何人も1軍のメンバーに名を連ね、経験豊富なメンバーとも対等に戦っている。側から見ているだけでも当たりが強くなった、走るスピードが上がったと目を見張らされる選手が何人もいる。
 うれしいことに、今春、入部したばかりの1年生にも、開幕戦から登用され、活躍してくれそうな選手が何人もいる。彼らが初めての夏を乗り越えてどこまで成長してきたのか。それを実戦で確かめるのも大きな楽しみである。
 チーム全体の底上げを目指し、春は数多くの選手に次々と試合経験を積ませてきたチームの方針が実りつつあるのだろう。彼らの成長曲線が秋の試合を通じて、さらに右肩上がりになるのか。格言をなぞっていえば「乞う 刮目(かつもく)して夏の成果を見よ」というところだ。
 一方で、彼らにポジションを奪われてなるものか、と実績のあるメンバーがさらに奮起するのか。いまはけがでリハビリに励んでいるメンバーがどの時期から戦列に復帰してくれるのか。
 そんなことを考えながら、グラウンドの練習を眺めていると、本当に選手層が厚くなったなあと実感する。帰宅後、できあがったばかりのイヤーブックを読み返し、彼らのグラウンドでの振る舞いを思い浮かべるたびに、初戦のメンバー表を予想するのが楽しみになってくる。
 初戦は1日午後5時、王子スタジアムでキックオフ。「いざ いざ いざ 上ヶ原ふるえ」と声を張り上げて送り出したい。
posted by コラム「スタンドから」 at 14:33| Comment(1) | in 2019 Season

2019年08月14日

(16)東鉢伏から

 先週末、仕事の隙間を縫って東鉢伏に車を走らせた。8日から始まったファイターズの合宿を見学するのが目的である。
 午前4時半過ぎに仁川の自宅を出発。辺りは薄暗いが、その分、行き交う車は少なく、普段は混雑している宝塚西トンネル付近も快調に走れる。赤松峠付近から舞鶴道に入ればさらに車が少なくなり、快適なドライブが続く。高速道路を降りると、コンビニに立ち寄ってサンドイッチと野菜ジュースを購入。ファイターズが合宿している「かねいちや」から1kmほど行き過ぎた場所にある県指定天然記念物「別宮の大カツラ」の駐車場で食べる。ここには高さ27mにも達するカツラの木が密集して生育し、その付近からこんこんと清流が流れている。その水で顔を洗い、口をすすいで見学の臨戦態勢を整える。
 しばらく時間を調整し、7時前には「かねいちや」に到着。宿舎のロビーで監督に挨拶した後、すぐに人工芝のグラウンドに向かう。すでにJVメンバーの練習が始まっている。
 毎年のことだが、夏合宿の朝は早い。まずはJVのメンバーが約1時間、パートごとの練習に取り組み、それが終わると朝食に向かう。入れ替わって、今度は準備運動を終えたVのメンバーが練習を始める。
 驚くのは、その取り組みの密度が年々濃くなっていること。初めてこの合宿を見学にきた十数年前も、さすが夏合宿、密度が濃いと感心したが、いまはそれに強度が上積みされている。以前は意識的に「寸止め」にするプレーが主体だったが、いまはオフェンスとディフェンスのメンバーが対抗心をむき出しにして渡り合う。
 しかし、練習密度が濃くなれば、その分、負傷する選手も増える。ホテルのロビーに立てかけられた練習メニュー表の隣には、日々、その日の練習に加わるメンバーが書き込まれるが、その中には「練習不可」とされている選手名が何人も見える。
 練習の密度を上げれば、負傷者も増える。しかし、間延びした練習では、実戦で使える動きは身につかない。双方の利害、得失を計算し、選手の疲労度を考慮したうえで、日々の練習メニューを決めていくのがチームの方針であろう。
 そんなあれこれを考えている間にも、グラウンドでは練習が続いている。けれども、時間を決めて休憩時間をとり、水分や栄養補給ゼリーを規則的に摂取させる時間は必ず設けている。グラウンドの両側にはチームの持ち込んだテントが何張も立てられ、休憩タイムの選手に日陰を提供する。
 合宿地は、冬場はスキー客で賑わう高原にあるが、下界と同様、日が昇れば強い日差しが照りつける。朝、車で走っているときは、高速道路脇の表示に「22.5度」とあったので、これは涼しいぞ、と思っていたが、太陽が照りつける時間になれば、気温はぐんぐん上がる。午前9時ごろには、木陰のない場所ではもう30度近くまで上昇しており、過去十数年の見学時には記憶がないほどの暑さである。
 しかし、そこは合理的な思考をするファイターズである。一番暑い時間帯には、グラウンドのチーム練習はすべてストップし、食事と昼寝、そして簡単なミーティングの時間に充てる。練習が再開されるのは午後3時。湿気の少ない高原なので、この時間になると、太陽が照りつけていても、風さえ通れば幾分暑さも緩和される。
 まずはJVのメンバーから始まり、より強度の上がるVチームの練習は4時から6時までと決めている。さらに合宿中には合計2日間、全員にグラウンドでの練習を休ませ、体力の回復に充てる日も設けている。
 体力を養い、新たなプレーを習得し、チームの士気を上げるための合宿だが、フルに練習プログラムを組むのではなく、途中に休憩時間や休息日を設けて、より安全に、より効率的にと心掛けているのがファイターズである。その発想は上ヶ原でも東鉢伏でも変わらない。
 変わりつつあると見えたのは、合宿に参加しているメンバーの気持ちの持ち方である。この日、僕が声を掛けたりその行動に接したりしたメンバーの名前や行動を具体的に挙げて、彼らがこの合宿にかける思いの強さを紹介したいところだが、いまは個々の名前を挙げる場面ではない。いつか別の機会にでも紹介したいと考えている。
 ただし、この合宿でチームの何かが変わりつつあるという印象を持ったことだけは伝えておきたい。僕はいま、その変化の行き着く場所に、大きな期待を持っている。
posted by コラム「スタンドから」 at 07:05| Comment(1) | in 2019 Season

2019年08月04日

(15)いきなり学内合宿

 雨続きの梅雨が明けた瞬間、連日、熱射病になりそうな天気が続いている。体調維持のために、毎日、1万歩以上の速歩を自分に義務付けている僕にとっては、この暑さはけっこう厳しい。
 幸い、僕の働いている和歌山県田辺市の海沿いは、海からの風が通り、朝夕はそれなりに涼しく、夜の散歩も支障なくできる。しかし、週末、西宮に帰ると、そうはいかない。日中はもちろん、朝夕もとんでもなく暑い。ほんの15分も歩けば、汗が噴き出すし、のども渇く。太陽のある方向を常に確認し、日陰から日陰を伝うようなコースを選ばなければならない。それも、日陰があればオーケーとはならない。場所によっては風が通らず、蒸し風呂のような道路もあるから注意が必要だ。もちろん、歩道を走る自転車にも、常に注意しなければならない。
 たかが年寄りの散歩コースでさえ、ここまで考えなければならない。同じ西宮で夏季練習に励んでいるファイターズの諸君は、この時季の練習をどんな風に工夫しているのか。どのように熱中症から身を守っているのか。
 今回は、7月31日から本格的に始まった夏季練習の一端を報告しよう。ファイターズの合理的な発想を知るための一助としていただければ幸いである。
・夏季練習は前期試験が終わり、大学が夏季休暇に入った7月31日から始まる学内合宿からスタートする。この合宿は、途中に設けた1日の休養日を挟んで、2泊3日の日程で2度行われる。合宿では朝食前にグラウンドに集合し、午前7時から8時過ぎまで練習に取り組む。練習前には、アスリートパンとフルーツジュースを摂り、練習中には2度の休憩時間を設ける。
・8時過ぎに朝練を切り上げ、8時半ごろから朝食。その後、いくつかの班に分かれて交互にミーティングと仮眠。昼食を摂った後も、仮眠班と筋トレ班、ミーティング班に分かれてそれぞれの課題に取り組む。
・夕方はグラウンドの気温と湿度を計測した上で、その数値が基準内に下がっておれば午後5時から、そうでなければ午後6時からグラウンドで練習。夕方もまた1時間少々で練習(途中短い休憩時間を2度設けている)を切り上げ、その後は夕食とミーティング。
 こんな日程で2度に渡る2泊3日の合宿を続け、その後1日、休養日を設けた後、今度は鉢伏山の長い合宿に向かう。
 どうしてこのような短い練習時間しか設けないのに2度も学内での合宿をするのか。高校でも、夏休みには朝の9時過ぎに登校し(途中、筋力トレーニングなどの時間は設けていても)、夕方の8時過ぎまではグラウンドで練習というチームが少なくないというのに、大学のてっぺんを目指し、社会人とも渡り合おうとするチームがこんなに短い練習で成果が上がるのだろうか。そうした疑問を持つ人も少なくないはずだ。
 けれども、ここにファイターズの合理性というか工夫があるのだ。
 具体的にいえば、自宅通学者の往復に要する時間を省き、その時間をミーティングや筋トレ、仮眠の時間に充てる。炎天下の練習を避け、代わりに適度な睡眠・休養をとらせる。栄養バランスのとれた食事を全員に摂らせ、それが体に吸収される時間を確保する。グラウンドでの練習時間を短くしているのは、練習のための練習をだらだらと続けるのではなく、実戦を想定し、一つ一つのプレーに集中して取り組むためともいう。
 多少、プログラムに違いはあっても、近年、この時季にこうした取り組みを続けているのがファイターズである。全員が高い目的意識を持ち、短時間であっても、密度の濃い練習に集中的に取り組む。そのビデオを即座にチェックし、一つ一つのプレーについて問題点、反省点を明らかにし、プレーの精度を上げていく。そうした取り組みのために十分な時間を注ぎ込む。これはというプレーは夏合宿で完成させて実戦での武器とする。そのためには、この時期、時間はいくらあっても足りない。とりあえず大学と自宅を往復する時間だけでも有効に使いたいというのが、この時期、2度も連続して行われる学内合宿の目的となるのである。
 なんだか、理屈っぽい話になったが、要は「根性出せ」「死ぬ気で頑張れ」と気合いを入れるだけではなく、選手として、チームとして最高のパフォーマンスができるようにするためには何が必要か、それを身に付けるためにどうするか。そういったことを、コーチはもちろん、上級生もスタッフもトコトン突き詰めて考え、実戦に生かすための工夫をしているのが、この時期のファイターズである。大いなる成果を期待したい。
posted by コラム「スタンドから」 at 22:13| Comment(1) | in 2019 Season

2019年07月20日

(14)苦労は買ってでも

 日本の高度成長期に働き始めた人間は、おおむね働き中毒の症状がある。この秋75歳、堂々の「後期高齢者」にカウントされる僕もその一人である。
 雨が降っても風が吹いても体を動かし、頭に刺激を与えておかないと落ち着きが悪い。一日ゆっくり寝転んで、といった暮らしは、考えたこともない。いまも週に4日は現役の新聞記者、編集局長として働き、後の3日はファイターズの活動に費やしたり、近場の山を歩いたりしている。
 ファイターズの諸君はいま、前期試験まっただ中で、みんな揃って練習という日程は組まれていない。だから、第3フィールドまで足を運ぶことは少ないが、代わりに今秋、スポーツ選抜の入試に挑む高校生を対象にした勉強会を週末ごとに続けている。チームのマネジャーに西宮市の学生交流センターに場所を確保してもらい、授業や練習を終えた高校生にチャーミングな文章の書き方を指導し、最後には志望理由書を書く時のアドバイスや面接試験の心得までを伝授するのである。
 もう20年も続けている仕事だから、指導する側はすっかりその段取りが身についている。しかし、試験に挑む側のメンバーは毎年、新しくなる。いきなり1時間以内に800字の文章を書きなさいといわれて戸惑う生徒もいるし、周囲の雰囲気に押されて書き始めても、途中で手が止まってしまう子もいる。
 そこを数回の指導で、余裕で800字を書ききれるようにするのが僕の役割。幸い、大抵の生徒は書けば書くほど上達するから、そんなに心配することはない。いかに気持ちよく原稿用紙に向かい、過去に出題された問題に取り組めるかという点にだけ注意を払えば、間違いなく上達する。それを体験的に知っているから、焦ることはない。
 ただし、この夏はほかのクラブのコーチからも指導の依頼があり、そちらもいそいそと引き受けたから、仕事量は倍増し、金曜日も土曜日も予定が詰まってしまった。春休みの頃からは、就職活動に挑む新4年生や5年生の希望者を対象に「必ず勝ち残れる」エントリーシートの書き方を伝授したり、これまた面接の心得を指導したりしてきたから、シーズンはオフでも、折々の仕事はしっかり天から降ってくるのである。
 いま流行の「働き方改革」という言葉になじめず、職場でも、若い記者諸君に「自分を鍛え、自身の能力が上がっていく実感を持ったとき、仕事にやりがいが生まれる。その手応えが生きがいに通じる」といった言葉を、折あるごとに口にしているのが、ほかならぬ新聞記者最長老の僕である。
 それをパワハラと呼びたい人は、どうぞご随意に。自らを鍛え、向上させずに何が楽しい。苦あれば楽あり。逆に言えば、楽あれば苦あり。少々苦しい時期があっても、その先にお花畑が待っている、頂上からの絶景が待っていると思えば、一歩一歩を踏みしめる山登りも楽しくなる。
 人生も同様である。若い頃の苦労は買ってでも、と先人が言い伝えてきたのには、理由があるのだ。ファイターズを志願する高校生にも、ファイターズでてっぺんを目指す選手やスタッフにもこの言葉を贈りたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 12:44| Comment(1) | in 2019 Season

2019年07月03日

(13)それぞれの可能性

 春シーズン最終戦は中京大学とのJV戦。今春は例年以上にJV戦が多く組まれており、この試合は神戸、甲南、名古屋戦に続く4戦目である。
 より多くの選手に実戦の経験を積ませ、選手層の底上げを図る。同時に、けがから復帰したメンバーにも試合の感覚を取り戻させたいというチームの配慮であろう。Vの試合で交代メンバーとして出場している上級生から今春入部したばかりの1年生まで、それぞれのメンバーの置かれた状況に合わせて出場機会をつくり、その可能性を拓いていきたいという思惑が例年以上に感じ取れる。
 とりわけ今回の試合は、春シーズンの総決算とあって、上級生から新入生まで多彩なメンバーが登場した。今春、入部したばかりの1年生をはじめ、けがなどで長期間、実戦から離れていたメンバー、フットボールは未経験で、昨年1年間はもっぱら体力づくりとフットボールのルールや仕組みを覚えることに専念してきたメンバーも数多く出場した。
 その中で、一番に目に付いたのが2年生WR戸田。1年生の時から熱心にVのメンバーと練習に取り組み、レシーバー陣の主力だった松井君や小田君にも負けないようなセンスのよい動きを見せていた選手だ。常に穏やかな表情をしているし、体も小さい。知らない人が見たら、とてもフットボール選手とは思えないだろう。
 ところが、その動きは1年生とは思えないほどすばしこく、必ずボールの飛んでくるコースに走り込む。手に触れたボールは確実にキャッチする。こんな1年生見たことがないと思って注目していたが、いつの間にかグラウンドで姿を見ることが減ってしまった。聞けば、けがで練習することさえままならない状態だったという。チームにとっても残念だが、本人が一番つらい思いをしていたに違いない。
 そんな雌伏の時間を経て、ついに春期シーズン最後の試合にユニフォームを着てサイドラインに立った。よしっ、今日は戸田君を注視し続けよう。そう思って観戦していると、見せ場は次々とやってくる。簡単にDBを振り切り、少々、QBのパスが悪くても、長いパス、短いパス関係なく、こともなげにキャッチし、次々に陣地を進める。久々の実戦であり、後半から登場したQBはこの日が初出場の1年生だったにも関わらず、31ヤードのTDパスを含め、5回のキャッチで138ヤードを獲得した。苦しい時期にもくじけず、復活を期して自らを鍛えてきた成果だろう。
 彼のような選手がいる一方で、この日は、大学に入ってからフットボールに取り組んでいるメンバーの活躍も目立った。順不同で目に付いた選手の名前と高校時代の経験スポーツを挙げてみたい。
 まずはディフェンスから。一番目立ったのはDLの3年生、野村(野球部)。体はDLとしては小柄な方だが、瞬発力があり、この日は3本のQBサックを決めた。2年生の頃からキッキングチームで活躍している選手だが、この日はDLとしても出場。相手の動きが見やすくなったのか、後半に入ると立て続けに相手ラインを割ってQBに襲いかかった。昨年秋、LBからDLに移って素晴らしい活躍をしている板敷選手のような存在になるのではと期待がかかる。
 2年生LBの都賀と細辻は、ともに野球部出身。相手を怖がらず、小気味良い動きでボールキャリアに立ち向かう。物怖じしない動きは、並のフットボール経験者より小気味よい。
 2年生DB宮城はラグビー部出身。この日も思い切りの良いパスカバーを見せ、自らの反応の良さでインターセプトを奪った。たまたま隣で見ていた守備担当の堀口コーチも「あの動きはよかった。思い切りが良いから決まった」と褒めていたから、本物だろう。
 1年生でもフットボールは未経験のDL亀井弟が出場した。高校時代はバスケットボールの国体選手。彼も今春からアメフットに転向したばかりとは思えないほどスムーズな動きに驚いた。何よりも未経験者とは思えないほど下半身が鍛えられているのが素晴らしい。今後の成長に期待が持てる。
 オフェンスでは、以前にも紹介したが、TE3人組が注目される。報徳学園バスケットボール部出身の3年生、亀井兄はVのメンバーとして活躍しているし、1年後輩の2年生、TE辰巳も成長著しい。同じTEには、高校時代はラグビー部だった3年生尾関もおり、長身を生かしたブロックが身に着いてきた。
 さらに言えば、この日、キッカーとして先発、2本のFGと5本PATを確実に決めた永田もサッカー部の出身。すでにVの試合に出場しているメンバーにもラグビー部や野球部出身者が何人もいる。大学に入って初めてフットボールに取り組んだメンバーであっても、高校時代、他競技で活躍したメンバーには大いなる可能性が広がっているということだろう。
 それは昨年、俊足のWRとして存分に活躍した小田君の例でも証明されている。1年生の時から、足の速さと俊敏性は突出していたが、入部当初はアメフットの仕組みが理解できおらず、パスルートの取り方さえ手探りだった。それが4年生になると、学生界を代表するWRとして活躍。昨季の大学日本一にも大いに貢献した。
 そういう可能性を持った未経験者が今後、どんな風に成長していくか。けがから復帰したメンバーが夏に鍛えて、さらなる活躍をしてくれるか。今後もじっくり見ていきたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 19:49| Comment(2) | in 2019 Season

2019年06月24日

(12)「僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう」

 しばらく前に『僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう』(文春新書)という本を読んだ。朝日歌壇の選者なども務める歌人で、京都大学名誉教授でもある永田和宏さんが、勤務先の京都産業大学に4人の知識人を招いて講演してもらい、その講演内容と、その後の対談を記録した本である。難しい内容をやさしく語り合った刺激的な本であり、大いに触発された。
 永田さんが対談相手に選んだのはノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥さん、将棋の羽生善治さん、映画監督の是枝裕和さん、そして京大総長の山極壽一さん。それぞれの専門分野で頂点を極めた人である。その4人が永田さんの招きで京産大を訪れ、学生の前で講演し、永田さんと対談した記録を採録しているのだから、面白くないはずがない。興味のある学生は本屋に走れ! 本を読まない学生は、今回、僕がその中でも印象に残ったフレーズを引用して説明するので、それをきっかけに何かをつかめ!
 という次第で、今回はフットボールやファイターズの活動から少し距離を置き、学生とは何者か、学生時代の4年間がいかに大切かということを書いてみたい。文武両道を目指すファイアターズの諸君に、少しでも参考になるることがあれば幸いである。
 例えば山中さんは、永田さんとの対談でこんなことをいっている。「20歳前後の5年間というのは、何にも代えられない宝物みたいな時間だ」「この時間に何をやったら正解というのは全然ないと思います。でも何もしないのだけはやめてほしい。どんなことでもいいから、あのときはこんなことに夢中になっていたな、というのがあったら、それがうまく行こうが行くまいが、絶対自分自身の成長につながっていきます」。いま、諸君がファイターズの活動に夢中になっていること、それがうまく行こうが行くまいが、それが絶対に諸君の成長につながっているということに直結する言葉ではないか。
 続く羽生さんの言葉にも、印象的なフレーズがある。「人間は誰でもミスをする。ですから挑戦していくときに大切なのは、ミスをしないこと以上に、ミスを重ねて傷を深くしない、挽回できない状況にしないことだと思っています」「ところが、実際にはミスの後にミスを重ねてしまうことが多い。どうしてそうなってしまうかというと、動揺して冷静さや客観性、中立的な視点を失ってしまうこと」「もう一つ、ミスにミスを重ねてしまうのは、その時点からみる、という視点が欠けてしまうことがあると思います」といっている。
 つまり「将棋でいえば、先の手を考えていくときには、過去から現在、未来に向かって一つの流れに乗っていることが大切」「ところがミスをすると、それまで積み重ねてきたプランや方針が、全て崩れた状態になり、それまでの方針は一切通用しない」「そのときにしなければならないのは、今、初めてその局面に出会ったのだとしたらという視点で、どう対応すればよいかを考えること。それがその時点から見る、ということです」と解説している。
 これもまた勝負師ならではの味わい深い言葉であり、フットボールの試合にも即座に応用できる考え方だろう。ミスはしない方がいい。それでも起きてしまったら、それを受け入れた上で次なる最善手を考える。そのように心掛けることで気持ちも鎮まる、新たな対応策も生まれてくるに違いない。
 羽生さんの言葉でもう一つ印象に残った部分がある。「将棋では、いい形、悪い形、美しい形、醜い形という識別がより深くなってくることが、イコール強くなる、上達したといえるのだと思います」。フットボールで言えば、美しい形でパスを通せる、いい形でタックルが出来るといったことを感覚的に理解できるようになったときに、その選手のステージが一つ上がったことになるという意味でもあろう。これもまた深い言葉である。
 「万引き家族」で一気に世界の「コレエダ」となった映画監督の是枝裕和さんにも、胸に刻みたい言葉がある。「演出って、何を面白いと思うかということが常に問われている。どこにカメラを向けて、何を発見して、今起きているうちの何が頭の中に最初からあったものではなく、今ここで生まれたものなのか。それを発見し続けて行く動体視力とか反射神経というものを、自分の中ではなく自分と目の前で広がっている世界とのやりとりの中で見つけていく作業が、映像作家として一番おもしろいところで、一番難しいところで、いまだにはっきりとはつかめていないところです」。これもまた、DBやLB、あるいはRBやWR、何よりもQBの感覚に通じることではないか。
 こんな風に、書いていたら切りがない。興味のある人は即座に本屋に走って下さい。
 対談を仕切った永田さんも、対談に応じた4人の方も、どちらかといえばフットボールとは縁の遠い場所で仕事をし、業績を上げて来られた方々だが、その人たちの言葉の中にも、フットボール選手にも即座に適用できる言葉がこんなにたくさんある。
 ファイターズの諸君にも、オフの日にはこうした本を読んで、新たな挑戦を始めるエネルギーにしてもらいたい。ファイターズが掲げる文武両道は、こうしたことの積み重ねから開けていくと、僕は確信している。
posted by コラム「スタンドから」 at 23:09| Comment(1) | in 2019 Season

2019年06月19日

(11)新しい芽

 世の中には2種類の人間がいる。
 例えば、半分近くになった一升瓶を前において酒を飲んでいるときに「もう半分しかない。大変だ」と思う人間と、「まだ半分あるじゃないか。じっくりやろう」と考える人間だ。物事を考える時、常に最悪の事態を想定して考えを進める人間と、なんとか明るい面を見て、それを明日への活力にしようと考える人間と言ってもよい。
 僕は間違いなく後者である。小心者のくせに、目の前に問題が山積していても「まずは寝よう。ややこしい事はまた明日」と考えてしまうし、職場で嫌なことがあっても、「しゃーない。今日のことは今日のこと。明日はきっといい風が吹く」と根拠もなく思ってしまえる人間だ。大学を卒業してから52年目の記者生活。それは波瀾万丈であり、他人さまから見たら、なんという不条理な世界と思われるかも知れないが、そんな仕事をいまだに機嫌良く続けていられるのも、生まれつきその性格を持っているからだろう。
 そういう人間だから、フットボールではJV戦が大好きだ。公式戦で手に汗を握るような場面に遭遇すると、思わず立ち上がったり、くそったれと悪態をついたりもするが、まだまだ未熟なメンバーが必死懸命にプレーするJV戦の魅力もまた別の意味で捨てがたい。ファイターズの明日を担う新星が次々に登場し、力いっぱいのプレーを見せてくれるからだ。
 16日、上ヶ原の第3フィールドであった名古屋大との試合も存分に楽しませてもらった。
 まずは、秋のシーズンが楽しみな1年生から紹介しよう。この日の出場メンバーで一番目についたのはWR河原林(高等部)。絶妙のコース取りで長短取り混ぜて5本のパスをキャッチし、85ヤードを稼いだ。先週末の練習を見学したときも、難しいパスをこともなげにキャッチしていたから注目していたのだが、期待は裏切られなかった。どんなパスでもゆとりを持って確保し、TDパスもキャッチした。身長179センチ、76キロと体格的にも恵まれており、一足先にデビューしたWR糸川(箕面自由)とともに、秋シーズンには先発争いに加わってくるのでは、という期待さえ抱かせてくれた。
 この日、TEに入った小林陸(大産大高)の動きも素晴らしかった。身長185センチ、体重96キロと公表されているが、筋肉の付き方から考えたら、すでに100キロは超えているのではないか。ライン並みの体型だが、走るスピードはWRにもひけをとらず、球際にも強い。同じポジションには、今季急成長した3年生の亀井兄がいるので、二人を同時に起用すれば、プレーの選択肢も破壊力も一気に増加する。大いに期待したい。
 期待したいと言えば、すでに前の試合でも起用されているDL山本大地(大阪学芸)、DB小林龍斗(日大三高)の才能にも注目したい。山本は1年生とは思えないほどのパワーがあり、小林龍斗のプレーセンスの良さは、スタンドからでもよく分かる。今後、試合に出場する時間に比例して、活躍する場面が増えると期待できる。
 ほかにこの日、メンバー表に登録された1年生には、WRの福田彦馬(池田)と高野一馬(佼成学園)がいる。福田は体格に恵まれており、高野にはキャッチングに非凡なところがある。この日は終盤から登場し、TDを1本決めた。
 2年生に目をやると、この日もQBは山中と平尾が務め、ともに活躍した。平尾には高いパス能力、山中には素早く状況を俯瞰し、決断できる能力がある。現状ではどちらが先行しているかは流動的だろうが、双方が刺激しあってプレーの精度を高めていくと、コーチ陣にとってはどちらを優先して起用するのか悩ましいことにもなるだろう。
 けがでしばらく練習を見合わせていたWR戸田も元気に復帰し、パスキャッチのうまさを何度も披露した。同じくけがから戻ってきたWR鳩谷も独走TDを決めた。
 独走と言えば、すでにVのメンバーに混じって活躍している2年生RB斎藤の走りにも注目が必要だ。この日も中盤、鮮やかに独走TDを決めた(ように見えた)場面があったが、残念なことにラインの反則で取り消し。ファンにとっては悔しい一幕だった。
 このように「新しい芽」を数えあげていくだけで、予定していた分量を超えてしまう。でも幸いなことに、春学期の終了までにまだもう1試合、JV戦が予定されている。29日の中京大戦だ。この試合を楽しみに、今回のコラムは終わりにしたい。
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2019年06月11日

(10)勝ちきれない

 9日、炎天下の王子スタジアムで行われたエレコム神戸との戦いは、ファイターズのいいところと悪いところをともにさらけ出した。
 まずは、いいところから。一つは想定内のプレーにはしっかり対応できたこと。とりわけ現時点でのベストメンバーを組んだディフェンスは、1列目、2列目がきちんと役割を分担し、積極的に相手ラインを押し込むプレーを展開。スピードと思い切りの良さで、相手ランナーを思い通りに進ませなかった。
 社会人の実力チームと戦う経験を十分に積んだ相手も、自分よりずっと経験値の少ない「学生さん」に、あそこまで押し込まれるとは想定外だったのではないか。
 オフェンスも渡邊、三宅、前田、鶴留とそれぞれ特徴を持ったランナーが活躍。先発QB山中の判断の速いプレー、阿部、鈴木、糸川と揃えたレシーバー陣の奮起もあって、経験豊富な相手と対等以上に渡り合った。
 まずはスタッツを見てみよう。総獲得ヤードはエレコムが263ヤード、ファイターズが322ヤード。パスは相手が211ヤード、ファイターズは173ヤードで相手が上回っているが、ランでは相手の52ヤードに対してファイターズは149ヤードを獲得している。ランプレーが進むから、攻撃時間も相手の20分57秒に対し、ファイターズは27分3秒。この数字を見てもファイターズが優位に試合を進めていたことがよく分かる。
 それでいて、最終のスコアは14−14。ひいき目で見ると勝ち切れたはずの試合だったが、結果は引き分け。鳥内監督が試合後の囲み取材で開口一番「勝てとったな」といわれたのもよく分かる。寺岡主将が関学スポーツの取材に「勝てる試合を引き分けた」と残念がっていた気持ちもよく分かる。
 それでもスコアはスコア。たとえ途中までは「よく頑張っている」と評価できても、相手QBが一度ファンブルしたボールを拾い上げ、それを18ヤードのTDパスに仕上げた相手にとってはラッキー、ファイターズにとってはアンラッキーなプレーがあったとしても、さらにいえば、終了間際、安藤君なら確実に決められる距離と思えたFGが相手にブロックされる不運があったとしても、それらをすべて含めての14−14。引き分けである。
 現場で応援している僕が見ても「勝てる試合」であり「勝ちきらなければならない試合」だった。
 もちろん「想定外」のことはいくつもあった。相手がファンブルし、大きく後方にそらしたボールをQBが拾い上げ、それを18ヤードのTDパスに仕上げるという芸当は、フットボールを観戦して半世紀近くになる僕でも、初めて目にした。ファイターズのレシーバーが素早い動きでTDパスを捕球する態勢に入っているのに、それをはるか上空でカットしてしまう長身DBのプレーもそうそうお目にかかれる動きではない。
 それぞれが想定外、あるいは規格外れの動きであり、攻守ともに緻密に練り上げた作戦で勝負を挑むのが得意なファイターズの辞書には書き込まれていないプレーだった。
 そうした規格外のプレーに、チームとしてどう対応し、個人としてどのような動きをすればよいのか。そのヒントはこの日の試合の中に埋もれている。
 1枚目、2枚目関係なく、埋もれているヒントを掘り起こし、目の前のプレーヤーを圧倒するための力を身に付けよう。
 並行して、そうした相手にどう対処すればよいのかと考える。さらには、チームを勝たせるために一人一人のプレーヤーがどう動けばよいのか。試合展開や残り時間、ボールの位置から相手選手のほんのちょっとした仕草に至るまですべてを観察し、それを記憶し、対処法を磨いていこう。
 そういうことをチームの全員が考えていかなければならない。そのきっかけとしてこの日の「悔しい引き分け」試合があった。そう位置付けると、今後、ファイターズに身を置く部員たちの取り組まなければならない課題がいくつも見えて来るはずだ。
 その課題に、チームの全員が取り組もう。幹部だけ、4年生だけに任せるのではなく、ファイターズで活動する全員が「わがこと」として取り組もう。選手もスタッフも、上級生も未経験者も関係ない。最善を求め、最高のパフォーマンスをすることだけを目標に頑張ろう。その取り組みが勝利につながる。「学生圧倒」という言葉が嘘ではないことも証明されるだろう。
 春の試合は、今回のエレコム戦で終わり、後はJV戦が2試合残っているだけだ。考える時間もあるし、相手の動きや自分たちの動きを分析するための素材もある。しっかり自分たちのチーム、あるいはパート、はたまた個々の部員同士で本音を交わし、勝つための努力を続けてもらいたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:34| Comment(2) | in 2019 Season

2019年06月04日

(9)ガッツを求む

 2日は、関西学院の第3フィールドで甲南大学とのJV戦。途中、小雨の降る嫌な天気だったが、期待の新戦力が続々登場したので、そこに注目して観戦した。
 新戦力といっても、二つのコースがある。一つは今春入部したばかりだが、高校時代から非凡な才能を発揮してきたメンバーであり、もう一つは高校時代は他の競技に集中し、大学に入って初めてアメフットに取り組んでいるメンバーである。
 例年、この時期のJV戦にはそうしたフレッシュマンと、この1年、フットボールのできる体作りに励み、ルールを覚え、基本的なプレーの習得に務めてきた2年生が次々に登場してくる。
 甲南戦でいえば、1年生では背番号の若い順にWR糸川(箕面自由)、DB小林龍斗(日大三高)、DL山本大地(大阪学芸)、WR河原林佑太(高等部)、WR福田徳馬(豊中)、TE小林陸(大産大付)がメンバー表に登録され、それぞれ先輩にも負けないプレーを見せた。糸川は立ち上がりからQB山中からの長いパスをこともなげにキャッチし、先日の関大戦で鮮やかにTDを決めたプレーがフロックではないことを証明した。
 小林陸も185センチ96キロというラインも顔負けの体を生かして相手守備陣を圧倒し、短いパスを2本、確実にキャッチした。先日の神戸大戦では途中から出場し、相手OLを下から突き上げるように崩していた山本は、この日も堂々と相手のラインと渡り合っていた。LBとDBの二役を引き受ける小林龍斗の動きもいい。初めてのスタメンというのに、相手のボールキャリアに的確に反応。今後の成長が大いに期待できる動きを披露してくれた。
 さすがは、高校時代からそれぞれのチームを背負って活躍してきたメンバーである。先輩たちに混じっても、ひけをとらないほどの活躍振りであり、今後の期待値の高さがうかがえるデビューだった。
 一方、高校時代は野球部員で、フットボールは未経験だったLB都賀と細辻の動きも素晴らしかった。相手の動きに機敏に反応して的確なタックルを決め、パスプレーでも反応のよい動きを見せていた。同じく高校時代はラグビー部だったDB宮城はゴール前に投じられた相手のパスを奪い取り、反撃の目を摘んだ。高校時代、バスケットボール部でインターハイなどに出場をしているDBの前田も、まだまだ動きは初々しいが、さすがはアスリートという片鱗を見せていた。
 すでに一軍の試合で活躍しているDBの井澤や吉田、TE亀井、DL野村らの3年生を含め、こうした他競技経験者に共通するのは、ガッツがあること。入部したその日から1年間、試合に出ることはかなわず、ひたすらルールを覚え、体をつくり、基礎的な動きを身に付けることに専念してきた苦労はダテではない。ある部員はその俊足を生かし、ある選手は反射神経の良さや鍛えた体力を生かしてチームに貢献する。
 それを支えているのが中学、高校時代からフットボールに取り組んできたメンバーに追いつき、追い越したいという強い気持ちである。その気持ちが試合になればプラスに働く。その意味で、どちらかといえばスマートなタイプが多い高等部や啓明学院出身者とは、ひと味違う「雑草派」と表現してもいいだろう。
 今春入部し、いまは体力づくりに専念しているメンバーもまた、こうした「雑草派」のガッツと取り組みに学んでもらいたい。
 勝敗は、一人一人の部員が一人も欠けることなく「死にものぐるいになれるかどうか」にかかっている。
 その意味では、正直に言って甲南大とのJV戦も物足りないことが多かった。上級生が不用意な反則を犯して得点機を逃したこともあったし、スナップが悪くてFGをしっかり蹴ることができなかったこともある。それは今季、慶応大や神戸大との試合から続いていることであり、こうした点に改善の跡が見えないことが残念だ。「学生を圧倒する」というのなら、圧倒できるだけの練習とそれを貫徹するためのガッツが不可欠である。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:13| Comment(2) | in 2019 Season

2019年05月28日

(8)うれしい予感

 その昔、竹内まりやが「うれしい予感は、いつでもあたるの」と歌っていた。
 どんな歌だったか、全く覚えていないが、このフレーズだけは、いいことがあるたびに浮かんでくる。26日、真夏のような王子スタジアムで関大と戦っている折りにも、何度も何度も僕の耳の奥では、あの甘ったるいまりやの歌声が聞こえていた。
 例えば立ち上がり。今季初めて先発した2年生QB山中がいとも簡単に1年生WR糸川にミドルパスを決めたとき。このプレーでダウンを更新した後、たたみかけるように次のプレーでも、WR阿部に長いパスを投じたとき。これは、運悪く阿部の足がもつれ、攻撃側の反則となって、ダウンは更新できなかったが、それでも臆さず、今度はWR鈴木に19ヤードのパスを通す。かと思えば、2度目の攻撃シリーズでは思い切りのよいスクランブルで21ヤードの前進。さらにRB三宅などのランでダウンを更新した後、相手ゴール前23ヤードからエースWR阿部に長いパスをヒット。一気に先制点を奪った。
 これが初めての先発、それもこの試合にQBとして出場することが決まってから4日ほどしか練習していないというのに、まったく試合の雰囲気に飲まれず、堂々とプレーを続けている。僕は先週の木、金、土の3日間、上ヶ原でチームの練習を見せていただいたが、そのときに、すらっとした長身のQBが中心になってパスを投げ、チーム練習に参加しているのを初めて見た。素人が見ても、投げ方に無理がないし、思い切りよく走ることもできる。その判断が的確だし、動きにも無駄がない。
 思わずコーチに「あの子いい動きをしてますね」と声を掛けると「いいですよ。今度は先発させます」との返事。それからは3日間、彼の姿ばかりを追い続けた。練習中、本人に話しかけるのは気が引けるので、休み時間にレシーバーの鈴木や糸川に話題を振ってみる。二人とも「受けやすいボールを投げてくれる」「初めてとは思えないほどやりやすい」と口を揃える。そのとき、関大戦ではきっと彼が活躍するに違いないという予感がした。そしてそれは当たった。
 あと二つ、3日間の練習を見ていて予感があった。一つは今度の試合では、阿部は警戒される、その分、糸川と鈴木の動きに注目しよう、この3人が役割を分担し、山中のパスで必ず見せ場を作ってくれるという予感である。それもぴたりと当たった。まずは第2シリーズ。糸川と鈴木にミドルパスを決め、仕上げ阿部君への先制TDパス。安藤君のキックも決まって予感通りに7−0とリード。
 次の攻撃シリーズも鈴木へのパスや三宅や前田のランでゴール前まで陣地を進めたが、反則などもあって、安藤のFGによる3点止まり。
 しかし、4度目の攻撃シリーズでは、センターライン付近から山中が投じた48ヤードのパスが糸川に通ってTD。投げる方も堂々としていたが、受ける方も相手ディフェンスを鮮やかに振り切り、ゴールポストの下で余裕を持ってキャッチする。これが今春入部したばかりの1年生かと驚くほどだったが、上ヶ原の練習で彼の動きを何度も見ていた僕は「予想通り。うれしい予感はいつでも当たる」と独り言を言っていた。
 もう一つの予感は、DBの北川の活躍。なぜかこの日も複数回、インターセプトを決めそうな予感があった。この前の慶応との試合中、彼がインターセプトできそうなボールをLB赤倉がいち早くカット。その瞬間、僕がインセプできたのに、と全身で悔しがっていた姿を見ていたからだ。試合後、思わず声を掛けて「次もチャンスはある、きっちり決めような」と声を掛けたが、そのときに、この集中力、この気持ちがある限り、きっと次の試合でも目を見張る活躍をするに違いないと、これは予感というより確信していた。
 案の定、第4Qの半ばから後半にかけて、立て続けに2本のインターセプト。ともに相手が8点を返し、必死に反撃している時間帯だっただけに値千金プレーだった。
 「うれしい予感は、いつでも当たる」といえば、もう一つ付け加えておきたい。K安藤の安定したキックのことである。週末の練習では「この子、昨シーズンより飛距離が伸びている」と思わされる場面が何度もあった。最初は風のせいか、とも思ったが、逆風でも苦にしない。「力が付いたんや」と思って、試合前から密かに彼の動きに注目していた。結果はキックもFGも完璧。この日の彼のプレーを見て「目的を持った練習は裏切らない」という言葉を実感した次第である。
posted by コラム「スタンドから」 at 06:50| Comment(3) | in 2019 Season

2019年05月25日

(7)ニューカマーの群像

 先週、東京で行われた明治大学との試合は観戦できなかった。今年75歳になるいまも、現役の新聞記者として働いている身にとっては、東京までの往復に必要な時間を捻出するのが難しかったからである。
 チームのホームページでその経過をチェックし、今週末には監督やコーチから少しばかり話を聞いたが、結構、問題点の多い試合だったようだ。先日の慶応大学との試合や神戸大学とのJV戦などで見せつけられたチームの課題がいっこうに解消されず、前途の厳しさがいくつも浮き彫りになったのだろう。
 問題は、その課題を「ひとごと」ではなく「わがこと」として受け止め、それを自らの課題として立ち向かえる部員がどれほどいるか。とりわけスタッフを含めてチームを背負って行く立場の4年生がどのように覚醒するか。焦点はそこにある。今週末の関大戦は、その覚悟を問う格好の機会になるだろう。
 その辺のことは今後、じっくり見させていただこうと思っている。今回の主題は新しくファイターズに入部した1年生、ニューカマーのことである。
 チームのホームページにはいま、今年もスタッフ志望者を含めて42の1年生が入部したことを伝えている。当初、入部者が少なかった高等部や啓明学院からのメンバーも連休明けから少し増え、いまはグラウンドの端っこで体力づくりのトレーニングに励んでいる。4月初めからスタートしたメンバーの多くは体もできあがってきたようだ。すでに上級生の練習に組み入れられ、試合形式の練習に参加しているメンバーもいる。
 とりわけ、スポーツ選抜入試でファイターズの門を叩いたメンバーは意識が高い。先日の神戸大戦ではDLの山本大地(大阪学芸)が後半から出場し、低い姿勢から、相手を押し上げる場面を何度も見せてくれた。明治大との試合では、WRの糸川幹人(箕面自由)が先発で出場。評判通りのパスキャッチを披露してくれたそうだ。僕は先日来、上ヶ原の練習で彼の動きを見ているが、上級生に混じっても臆するところがない。このチームにずっといるような雰囲気で、難しいパスにも判断よく走り込む。キャッチするのが当たり前という表情をみていると、これが4月に入部したばかりの新入生かと驚くほどだ。
 まだ、出場機会には恵まれていないが、今春入部したメンバーには、末頼もしい選手が何人もいる。昨年夏、一緒に小論文の勉強会をしたメンバーに限っても、TE小林陸(大阪産大)、DB小林龍斗(日大三)、WRには高野一馬(佼成学園)、福田彦馬(池田)、大山将史(千葉日大)、DB長田穣(同)。フットボールは未経験だった亀井大智(報徳学園)、馬淵太誠(大垣日大)も入部前からトレーニングを積んできたようで、すっかりチームに溶け込んでいる。
 高等部や啓明学院からいち早く入部したメンバーにも、さすがと思える動きをする選手が何人かいる。物覚えの悪い僕が彼らの名前を覚えるようになった頃には、きっとチーム練習でも注目される存在になっているに違いなかろう。
 今季は今後、7月に前期試験が始まるまでの短い期間にJV戦が3度も組み込まれている。そういった機会には、是非ともこれらの選手に目を向けてもらいたい。4年間、応援したくなる名前が必ず見つかるはずだ。
 さて、ここで話題は一変。夏恒例の朝日カルチャーの講座案内である。今年は小野宏ディレクターによる「アメリカンフットボールの本当の魅力」に加えて、鳥内秀晃監督が縦横無尽に語る「ファイターズのすべて」が開かれる。聞き手は選手時代からコーチ、ディレクターとして苦楽をともにしてきた小野ディレクター。混迷する日本スポーツ界にあって独特の指導法を確立し、選手の成長を助けてきた監督と名参謀のコンビで、ファイターズの打ち明け話が大いに楽しめそうだ。
 小野ディレクターの講義は7月15日午後1時半から、鳥内監督の講義は7月27日午後6時半から。ともに阪急・川西能勢口駅前のアステホールで。料金など詳細は、朝日カルタ−センター川西教室(072・755・2381)へ。
posted by コラム「スタンドから」 at 10:10| Comment(2) | in 2019 Season

2019年05月14日

(6)現在地を知る

 「今日の試合は書きにくいでしょうね」。11日、上ヶ原の第3フィールドで行われた神戸大学との試合中、旧知の観戦仲間から、そう話題を振られた。
 前半を終わって21−0。いくら相手が関西リーグの実力校であり、ファイターズがJVメンバー主体のメンバーで臨んだ試合とはいえ、相手に好きなように走られ、パスを通されてTDを決め続けられる状況に、観戦仲間も思わずさじを投げたのだろう。隣で不満げに独り言を口にしている僕の様子を見て、一言、慰めの言葉をかけなければという配慮だったかのかもしれない。
 それほどシンドイ試合だった。なんとかいいところを見つけてそこに焦点を当てよう、まずい点、物足りない点についての指摘は監督やコーチに任せよう。そう考えて、懸命に選手の動きに目を凝らすのだが、単発ではいい動きがあっても、それが線になり、面になる場面はほとんど見られない。
 それは後半になって守備が相手を0点に抑え、攻撃が2つのTDを奪って7点差に追い上げた時でも同様である。目を見張るような新戦力は見えず、上級生にもVのメンバーを蹴散らすような存在が見あたらない。攻撃の起点になるスナップがばらつき、フィールドゴールのスナップも乱れる。せっかく相手ゴール前まで攻め込んでも、不用意な反則が出てTDを決めきれない。これでは攻守共に周到に準備してきた相手につけ込まれるのも当然だろう。
 その結果としての21−14。試合後、鳥内監督の口から出た「まあ、こんなもんやろう。試合があると分かっているのに準備せんかったのが悪い」という言葉通りの結果だった。
 チームが公開した記録を見ても、ファイターズが獲得したのはランが218ヤード、パスが134ヤードの計352ヤード。相手はランが188ヤード、パスが104ヤードの計292ヤード。攻撃時間を見ればファイターズが30分14秒、相手は17分46秒。数字ではファイターズが押しているはずなのに、得点は21−14。何と効率の悪い攻撃を重ねたことだろうと改めて気がつく。
 そんな試合をどのように書くのか。観戦仲間が「書きにくいでしょうね」と同情してくれるのもよく分かる。
 しかし、週が明け、少し見方を変えると、また違う感慨が浮かんできた。「これが現在地。いいも悪いも、ここから出発するしかない」という感慨である。
 山に登るときには、常に現在地を確認しながら行動する。どんなに雨が降っても、霧が出ても、現在地さえ正確に把握しておけば、次の行動に迷いがない。迷いがなければ道は開ける。逆に、現在地を見失えば、何もできない。あえて動いても事態を悪化させるばかりで、ついには遭難という事態になるかもしれない。これは、僕が山登りを始めた頃に指導してくれた山の先輩たちから何度も何度も叩き込まれたことだ。
 フットボールも同様だろう。敵を知り己を知る。とりわけ自分たちの現在地を知ることが何よりも大切だ。いまチームに何が欠けているのか。オフェンスに欠けているモノ、ディフェンスに欠けているモノ、試合に出ている選手もベンチサイドで見ているメンバーも、後日、ビデオでそれをチェックする際にも、それぞれ事態を正確に見つめ、問題点を見つけて一つずつ解消していかなければならない。個人の力量、チームの力量に問題があれば、そこをの手立てを考える。練習の取り組みはもちろん、練習時以外の過ごし方にも注意を払い、全身全霊をかけて自らを鍛え、チーム力をアップしていかなければならない。
 前回の慶応戦、そして11日の神戸大戦で明らかになった「欠けたるところ」を見つけ、問題の所在を明らかにして対処するしかない。自分たちの現在地を正確に把握し、そこから最善の行動をとるしかないのである。
 試合に出たメンバーはもちろん、出場機会のなかった面々であっても「JV戦だから」とか「春だから」とかいう気持ちがかけらでもあれば、それはチームとして現在地を見失うきっかけになる。そうなれば目的地に着くことはかなわず、チームは遭難してしまう。
 自分たちの現在の実力、つまり現在地を正確に把握し、夏から秋に備えてもらいたい。それは過去の先輩たちがそれぞれのやり方で克服してきた試練の道である。全員のベクトルが「俺たちは勝ちたいんや」「学生を圧倒するんや」という方向に向かったとき、それぞれの個人が成さねばならないことは必ず見えてくる。それを全うして初めて、秋のシーズンを戦う資格が生まれる。

追伸
 書く場所が見つからなかったので、以上の文では触れなかったが、11日の試合で最も印象に残った選手の名前を記しておきたい。それはRBのスターターを務めた鶴留君である。21回ボールを持って154ヤードを獲得したこともすごいが、毎回、密集の中に突っ込み相手のタックルをはね飛ばし、ふりほどいて突き進んだ姿が目に焼き追いている。久々に見るパワーランナーであり、チームの士気をプレーで鼓舞した立役者である。これまで、重要な場面で起用されることは少なかったが、今回のパフォーマンスをきっかけに大いに飛躍してくれることを願っている。
posted by コラム「スタンドから」 at 06:39| Comment(2) | in 2019 Season

2019年05月08日

(5)悲惨な試合

 5日、王子スタジアムは晴れ。五月晴れという言葉がぴったりだった。ほんの8日前、同じ場所で開かれた法政大学との試合では、六甲山から摩耶山にかけての山肌はまだまだ淡い緑の新芽が主流だったが、ほんの1週間で樹木は緑を濃くし、初夏本番の色合いに染まっている。
 風もほとんどない。こんな日にファイターズの試合を一番見やすい場所から、小野ディレクターらの解説付きで観戦できるなんて極楽、極楽。そんな気持ちでゆったり構えていたが、どっこい試合展開は最悪。試合が終わるまで、ファイターズは攻守共にドタバタ劇が続き、1プレーごとに天国と地獄が逆転するような試合となった。
 立ち上がりは、攻撃の司令塔となるQB以外は、攻守ともに現時点でのベストメンバーを起用したファイターズのペース。攻撃はダウンを一度更新しただけで二の矢が続かなかったが、即座に守備陣が奮起。相手が自陣22ヤード付近から投じたパスを、LBの位置に入った2年生の北川がインターセプトし、そのままゴールまで独走してTD。安藤のキックも決まって早々に7点をリードした。守備も安定しており、相手に付け入る隙を与えない。
 しかし、安心して見ておられたのはここまで。第2シリーズからは攻撃陣がばたつく。パントリターナーは滑って転ぶし、ボールキャリアはファンブルして相手に攻撃権を献上する。ランプレーに偏った攻撃は相手に見透かされて進まない。FGも入らない。あげくにインターセプトで攻撃権を失う。数えて見れば第1Qだけで4度の攻撃機会があったのに、オフェンスでは1度も得点に結びつけられなかった。
 第2Qの立ち上がり、相手陣23ヤードから巡ってきた5度目の攻撃機会をQB安西、RB渡邊らのランでTDに結び付けてリードを広げる。しかし、確実に決めなければならないPATはスナップが悪くて失敗。続く攻撃シリーズもまたインターセプトで攻撃権を失う。
 ここまで失敗が続くと、相手も勢い付く。前半終了まで2分を切ったところでTDを返して13−6。続くファイターズの攻撃シリーズもインターセプトで攻撃権を失い、前半終了。数えて見れば、前半だけで7回の攻撃シリーズがあったのに、ファンブルで1回、インターセプトで3回も攻撃権を失っている。通常なら、試合にならないほどの惨状だ。当然、相手は勢い付き、後半の立ち上がり早々にTDを決めて13−13。
 やばいぞ、と思ったところで、リターナーに入った2年生RB斎藤が90ヤードを独走してキックオフリターンTD。相手のTDを帳消しにする。
 しかし、今度は交代メンバーが入った守備が踏ん張れない。相手にいいように走られ、同じプレーを連続して決められてあっという間に20−20。そこで再びRB斎藤が90ヤードのリターンを決めて気を吐いたが、ここは安藤のFGによる3点のみ。
 その後、ファイターズはFGで3点を追加し、4Q早々には相手がゴール前でスナップを落としたのをDB出光が素早い反応で確保、そのまま4ヤードを走り切ってファンブルリターンTD。33−20とリードを広げる。
 しかし、この日は守備陣の動きが悪い。相手に走られ、パスを決められて6点差にまで追い上げられる。あげくに、残り時間が1分前後まで迫ったときにファイターズに手痛いスナップミスが出る。自陣ゴール前から大きくパントを蹴って、それで決着を付けようとしたのに、スナップがホールダーに届かず、ゴール前5ヤード付近で相手にボールが渡る。そこから互いにタイムアウトを繰り返し、ゴール前インチの攻防が続いた。何とかファイターズがしのぎきったが、どちらが勝ってもおかしくない試合だった。
 先週、法政を42−0と完封したチームがどうしてここまで苦しんだのか。
 まずは攻撃の司令塔となるエースQBを欠いた試合であったこと。先発した2年生の安西は関西大倉高校時代、走れるQBとして活躍していたが、大学ではずっとRBとしての練習を積んできた。交代要員としてユニフォームを着た3年生の林も、高等部時代はQBとして活躍していたが、けがで昨シーズンを棒に振り、今春復帰してからも、主にWRの練習に励んでいた。
 いくら高校時代に実績があるといっても、練習していないメンバーにすべてを託すのは厳しい。周囲がカバーできればよいが、パスは通らない、ランも相手に読まれて進まない。苦し紛れに投じたパスはインターセプトされるということでは攻撃のリズムが作れない。守備も崩れてくる。そこを相手が突き、一度通ったプレーを何度もたたみかけてくる。ランもパスも面白いように通される。そうなれば、挑戦者の気持ちでぶつかってきた相手の方が有利になる。
 逆に守りに入ったファイターズは、攻守とも無難に無難にという傾向が強くなり、状況を突破するプレーが生まれない。それがスコアにそのまま反映された。
 先週のコラムで「次回は4年生に注目したい」と書いた。しかし、目立ったのは今度も2年生だ。攻撃では2度のビッグリターンを決めたRB斎藤と、パスを捨ててランナーに殺到してくる相手守備陣の密集に何度も飛び込み、ヤードを稼いだRB前田弟。そしてラインの牧野、福田、二木。守備ではインターセプトリターンTDなど派手な見せ場を作ったLB北川に加えて1列目には青木、2列目に赤倉、3列目に竹原という有望な選手がいる。高校時代はバスケットボールの選手だった報徳学園出身の3人にも注目したい。3年生の亀井、2年生の辰巳は、ともにTEとして存在感を発揮したし、同じ2年生の前田はDBに回り、最後の大事な場面を託された。相手との競り合いに負けてTDを奪われたが、それもまた勉強だ。この日は力を発揮できず、悔しい思いをしたQB安西を含め、慶応戦に出場した2年生全員に大きな希望を託したい。彼らの成長なしには、今季は戦えないという印象さえ持った試合だった。
posted by コラム「スタンドから」 at 21:01| Comment(3) | in 2019 Season