ファイターズの試合後、スポーツ担当の記者が鳥内監督を囲んで取材する、いわゆる「囲み取材」を横合いから眺めることが多い。そのたびに「監督は、役所や企業の広報担当としても名を成される人ではないか」と思わせられた。
それほど、記者への対応がうまい。キャラも立っている。
どこがうまいのか。まず、記者の質問を正面から受けて立つ。試合の感想は、ずばっとひとこと。それがそのまま見出しになる。親しくしているベテラン記者から、チームの内情に関するややこしい質問が飛んでも「そんなん知らん」と言い切る。開けっ広げな大阪の「おっちゃん言葉」で応答し、特段、隠し立てもしているようには見えないから、記者も納得して次の質問に移る。
逆に、フットボールに詳しくなさそうな記者の質問には、少しばかり丁寧度を上げて応答する。
取材の切り上げ方もうまい。たいていは5分か10分。監督が「以上っ!」と言えば、それで全員が納得する。取材時間は短くても、記事を書くうえで必要な言葉が当意即妙で返ってくるから、記者にとっては記事にまとめやすい。監督の言葉がそのまま活字になり、見出しになる。何よりも嘘をついたり、曖昧な言葉でごまかしたりしないのが書き手にとってはたのもしい。試合後の短い時間に原稿を仕上げなければならない記者には、それが何よりありがたい。
監督といえば、一軍を率いる将である。ともすれば偉そうに威張ったり、何も考えていないのに考えている風に装ったりする人もいる。
僕も社会部記者として長年、スポーツ取材の現場も事件取材の現場も踏んできたからその呼吸はよく分かる。政治家の取材も、まちのじいちゃん、ばあちゃん、中学高校生の取材も続けてきた。新聞記者生活53年。今もコラムや記事を書き続けている現役の記者だ。徹夜でも1週間でも、話し続けても話しきれないほどの経験は積んでいる。
けれども、鳥内さんほど記者あしらいが上手な人にはお目に掛かったことはない。
その人が監督としてファイターズを率いて28年。チームづくりに苦労を重ね、実績を上げ、指導者として高い評価を得られてきた。それはもう、広く知られているが、それらと並んで、チームの広報面でも大きな役割を果たされてきた。その実績は、一度でも取材の現場に居合わせたことのある記者なら、全員が高く評価するはずだ。僕もまた、心から評価している。
KGファイターズのチーム作りが関西だけでなく、東京でも高く評価され、アメフット界で一番の観客動員力を持っている一因として、広報担当としての監督の力が大きく貢献していることは間違いない。
その監督が今期限りで退任される。チームには監督の後を継ぐ有能なコーチが育っているから、チームづくりという面では、特段の支障もないだろう。しかし、何かと難しい記者諸兄姉への対応を試合会場で一手に引き受けて来られた「広報部長」を失うのは大きい。身近でその対応ぶりに接してきた人間だからこそ、その喪失感が身に染みる。残念だ。
◇ ◇
鳥内監督の勇退を惜しみながら、新たに出発するチームのさらなる発展を祈って、今季のコラムを終了します。いつも長ったらしい文章で申し訳ありません。それでも懲りずに新たなシーズンもこのコラムを続けます。今後とも、ファイターズ、並びにこのコラムのお引き立てをよろしくお願い申し上げます。
2020年01月09日
(35)最高の広報部長
posted by コラム「スタンドから」 at 09:32| Comment(3)
| in 2019 Season
2020年01月06日
(34)敗戦。そして再出発
3日はライスボウル。社会人選手権の勝者と大学選手権の勝者が雌雄を決する大きな戦い試合である。舞台は東京ドーム。選手たちは前日から東京に入り、試合前、最後の練習を終えている。僕は3日の早朝、仁川の自宅を出て、新大阪駅8時20分発ののぞみで東京に向かう。
いつもの年なら、この車中から気分が高揚し、その日の試合展開を想像したり、注目選手の活躍ぶりに思いをはせたりしている。気がつけば新横浜、もうすぐ東京か、と思うことも再三だったが、今年はどうもそんな気分になれない。試合のことを考えると、どうしてもライスボウルの仕組みのことが思い浮かび、頭がモヤモヤしてくる。仕方なく、車中のほとんどを持参した文庫本を読んで過ごした。
東京駅に到着するとそのまま丸の内の改札口から出て皇居のお堀端に向かう。そこからお堀端の歩道を歩いて北の丸庭園、靖国神社の大鳥居を巡り、そこで気持ちばかりの「戦勝祈願」をした上で東京ドームへ。
この1時間あまりの散歩の間に、その日の試合展開を予想し、活躍してくれそうな選手の顔を次々に思い浮かべる。そして「どうか選手生命に影響するような大きなけががありませんように」と祈るのが最近の僕の決めごとだ。
それほど、近年は社会人チームと学生チームの体力差は大きくなっている。アメリカの本場で鍛え、頭角を現した外国人選手や各大学から選りすぐった選手を毎年補強している社会人。最近は、チームを支える企業の理解も深まり、チームを挙げて試合を想定した練習に取り組む時間も、それなりに確保できているようだ。
それに対して、ファイターズは22歳以下の発展途上の選手ばかり。中には大学に入るまでフットボールとは縁のなかった選手も少なくない。学生である以上、学業との両立が求められ、十分な練習時間の確保も難しい。各自が授業の空きコマに筋力トレーニングに励み、夏休みには早朝からの練習も取り入れているが、それでも肝心のチーム練習に割ける時間は限られている。
10年ほど前までは「学生が勝負をかけるのは後半。練習量の足りない社会人選手は、後半になると必ずバテてくる。そこで勝負すれば突破口が開ける」といわれていたが、ここ数年は正反対。社会人のサイドからは「基礎体力が勝る社会人が前半からガンガンいけば、学生を圧倒できる。必然的に(相手には)けが人も出る。主導権は終始社会人にある」という状況だ。
それは、近年のスコアが証明している。昨年は52−17、1昨年は37−9、その前は30−13でそれぞれ社会人の勝利。学生が最後に勝ったのは、2009年に立命が17−13でパナソニック電工に勝った試合まで遡らなければならない。
ここまで力の差が明確になれば、学生王者対社会人王者の対戦というライスボウルの在り方そのものを再考する必要がある。鳥内監督が再三、記者会見の席などで述べられているように「重大な事故が起きてからでは、遅い」のである。
この件に関しては、4日の朝日新聞紙上で榊原一成記者が丁寧に書き込んでいる。主催者に名を連ねる朝日新聞を含めて、それぞれの関係者がじっくりと議論し、主催者の都合だけではなく、選手も指導者も、そしてファンも納得するような結論を見いだしてもらいたい。
閑話休題
気がつけば、肝心の試合のことを書く前に、スペースが埋まってしまった。急いで、試合会場に戻ろう。
試合はファイターズのレシーブで開始。立ち上がりはQB奥野からWR阿部、糸川に立て続けに短いパスを決めてダウンを更新。続く攻撃もRB三宅の20ヤードのランなどで陣地を進める。もう少しでフィールドゴール圏内というところまで迫ったが、後が続かず攻守交代。
自陣16ヤードから始まった相手の攻撃は予想通りにすさまじい。ランとパスでぐいぐいと陣地を進め、わずか5プレーでTD。
ランが止まらないからパスも通る。でも、ランを止めるために人数を割けば、後ろが手薄になる。そうした混乱をあざ笑うように、相手は次の攻撃シリーズでもわずか3プレーでTD。14−0とリードが広がる。
それでもファイターズの士気は高い。WR阿部へのパス、QB奥野のキープ、RB三宅のランなどで懸命に陣地を進める。しかし、そのたびといってもいいほど攻撃陣に反則が出る。パスインターフェア、フォルススタート、交代違反。せっかく陣地を進めても、それを帳消しにするような反則が続いてリズムに乗れない。
逆に相手は、自陣7ヤードからの攻撃をラン、パス、パス、パス、パスとそれぞれ1プレーでダウンを更新。5プレー目もパスでTD。瞬く間に21−0。異次元の能力を持つ外国人選手のランを警戒して守備陣が前に上がっているから、パスは止めようがない状態が続く。
ここで一矢を報いたのがRB三宅。自陣36ヤード付近から一気に64ヤードを独走してTD。ファイターズ応援席を一気に沸かせる。相手ディフェンス陣を振り切って突っ走る姿は、とてつもなくかっこよかった。
しかし、相手も即座に反撃。エースランナーが40ヤードを独走してTD。ここもまた、わずか6プレーでのTDだ。数えてみれば、相手は前半だけで4本のTDを獲得しているが、それに要したのは都合20プレー。平均すると、わずか5プレーごとにTDに仕上げているのだから、手がつけられない。これはもう、守備隊形がどうの、スピードの違いがどうのというレベルの話ではなく地力の差そのものというしかないだろう。
後半になると、さすがにその勢いにも陰りが出てきたが、それも鳥内監督にいわせれば「相手がメンバーを落としてきたから」ということらしい。
しかし、そうした一方的な展開だったが、ファイターズの諸君はくじけず、一歩もひかずに戦った。攻守ともに、極端に言えば1プレーごとにけが人が出るような状態だったが、それでもひるまず、相手にぶつかった。
守備陣は立て続けにブリッツを繰り返して相手のボールキャリアに襲いかかり、QBサックも連発した。DLでは板敷、今井、寺岡、藤本、大竹、LBの繁治、海崎、DBの松本、畑中……。攻撃陣ではOL陣がなんとか相手の突進を支え、RBの三宅、前田、鶴留らに走路を開いた。阿部が率いるレシーバー陣も活躍、最後は鈴木が見事に奥野からのTDパスを確保して一矢を報いた。
最終盤、だれの目にもオンサイドキックが見えている状態でK安藤が蹴ったボールをキッキングチームが確保したのも、練習の成果であり、最後まで衰えぬ士気の高さがもたらしたものだろう。
最終的な得点は38−14。今年も大きな差がついたが、少なくとも士気の高さと運動量では相手に一歩も譲るところはなかった。それはこの日の戦い、特に第4Q残り38秒から展開した魂の攻撃が証明している。
今後、ライスボウルの在り方などについて様々な議論がなされるだろうが、この試合を戦った選手諸君にとっては、あの38秒が大きな財産となるに違いない。
それは試合後、グラウンドに降りて一言二言、声をかける機会のあった下級生たちの表情を見た僕が確信したことである。
冬来たりなば、春遠からじ。この試合を最後に卒業する4年生の奮闘を特筆すると同時に、この敗戦から次の一歩を踏み出す下級生たちの今後に期待する。さあ、再出発だ。
いつもの年なら、この車中から気分が高揚し、その日の試合展開を想像したり、注目選手の活躍ぶりに思いをはせたりしている。気がつけば新横浜、もうすぐ東京か、と思うことも再三だったが、今年はどうもそんな気分になれない。試合のことを考えると、どうしてもライスボウルの仕組みのことが思い浮かび、頭がモヤモヤしてくる。仕方なく、車中のほとんどを持参した文庫本を読んで過ごした。
東京駅に到着するとそのまま丸の内の改札口から出て皇居のお堀端に向かう。そこからお堀端の歩道を歩いて北の丸庭園、靖国神社の大鳥居を巡り、そこで気持ちばかりの「戦勝祈願」をした上で東京ドームへ。
この1時間あまりの散歩の間に、その日の試合展開を予想し、活躍してくれそうな選手の顔を次々に思い浮かべる。そして「どうか選手生命に影響するような大きなけががありませんように」と祈るのが最近の僕の決めごとだ。
それほど、近年は社会人チームと学生チームの体力差は大きくなっている。アメリカの本場で鍛え、頭角を現した外国人選手や各大学から選りすぐった選手を毎年補強している社会人。最近は、チームを支える企業の理解も深まり、チームを挙げて試合を想定した練習に取り組む時間も、それなりに確保できているようだ。
それに対して、ファイターズは22歳以下の発展途上の選手ばかり。中には大学に入るまでフットボールとは縁のなかった選手も少なくない。学生である以上、学業との両立が求められ、十分な練習時間の確保も難しい。各自が授業の空きコマに筋力トレーニングに励み、夏休みには早朝からの練習も取り入れているが、それでも肝心のチーム練習に割ける時間は限られている。
10年ほど前までは「学生が勝負をかけるのは後半。練習量の足りない社会人選手は、後半になると必ずバテてくる。そこで勝負すれば突破口が開ける」といわれていたが、ここ数年は正反対。社会人のサイドからは「基礎体力が勝る社会人が前半からガンガンいけば、学生を圧倒できる。必然的に(相手には)けが人も出る。主導権は終始社会人にある」という状況だ。
それは、近年のスコアが証明している。昨年は52−17、1昨年は37−9、その前は30−13でそれぞれ社会人の勝利。学生が最後に勝ったのは、2009年に立命が17−13でパナソニック電工に勝った試合まで遡らなければならない。
ここまで力の差が明確になれば、学生王者対社会人王者の対戦というライスボウルの在り方そのものを再考する必要がある。鳥内監督が再三、記者会見の席などで述べられているように「重大な事故が起きてからでは、遅い」のである。
この件に関しては、4日の朝日新聞紙上で榊原一成記者が丁寧に書き込んでいる。主催者に名を連ねる朝日新聞を含めて、それぞれの関係者がじっくりと議論し、主催者の都合だけではなく、選手も指導者も、そしてファンも納得するような結論を見いだしてもらいたい。
閑話休題
気がつけば、肝心の試合のことを書く前に、スペースが埋まってしまった。急いで、試合会場に戻ろう。
試合はファイターズのレシーブで開始。立ち上がりはQB奥野からWR阿部、糸川に立て続けに短いパスを決めてダウンを更新。続く攻撃もRB三宅の20ヤードのランなどで陣地を進める。もう少しでフィールドゴール圏内というところまで迫ったが、後が続かず攻守交代。
自陣16ヤードから始まった相手の攻撃は予想通りにすさまじい。ランとパスでぐいぐいと陣地を進め、わずか5プレーでTD。
ランが止まらないからパスも通る。でも、ランを止めるために人数を割けば、後ろが手薄になる。そうした混乱をあざ笑うように、相手は次の攻撃シリーズでもわずか3プレーでTD。14−0とリードが広がる。
それでもファイターズの士気は高い。WR阿部へのパス、QB奥野のキープ、RB三宅のランなどで懸命に陣地を進める。しかし、そのたびといってもいいほど攻撃陣に反則が出る。パスインターフェア、フォルススタート、交代違反。せっかく陣地を進めても、それを帳消しにするような反則が続いてリズムに乗れない。
逆に相手は、自陣7ヤードからの攻撃をラン、パス、パス、パス、パスとそれぞれ1プレーでダウンを更新。5プレー目もパスでTD。瞬く間に21−0。異次元の能力を持つ外国人選手のランを警戒して守備陣が前に上がっているから、パスは止めようがない状態が続く。
ここで一矢を報いたのがRB三宅。自陣36ヤード付近から一気に64ヤードを独走してTD。ファイターズ応援席を一気に沸かせる。相手ディフェンス陣を振り切って突っ走る姿は、とてつもなくかっこよかった。
しかし、相手も即座に反撃。エースランナーが40ヤードを独走してTD。ここもまた、わずか6プレーでのTDだ。数えてみれば、相手は前半だけで4本のTDを獲得しているが、それに要したのは都合20プレー。平均すると、わずか5プレーごとにTDに仕上げているのだから、手がつけられない。これはもう、守備隊形がどうの、スピードの違いがどうのというレベルの話ではなく地力の差そのものというしかないだろう。
後半になると、さすがにその勢いにも陰りが出てきたが、それも鳥内監督にいわせれば「相手がメンバーを落としてきたから」ということらしい。
しかし、そうした一方的な展開だったが、ファイターズの諸君はくじけず、一歩もひかずに戦った。攻守ともに、極端に言えば1プレーごとにけが人が出るような状態だったが、それでもひるまず、相手にぶつかった。
守備陣は立て続けにブリッツを繰り返して相手のボールキャリアに襲いかかり、QBサックも連発した。DLでは板敷、今井、寺岡、藤本、大竹、LBの繁治、海崎、DBの松本、畑中……。攻撃陣ではOL陣がなんとか相手の突進を支え、RBの三宅、前田、鶴留らに走路を開いた。阿部が率いるレシーバー陣も活躍、最後は鈴木が見事に奥野からのTDパスを確保して一矢を報いた。
最終盤、だれの目にもオンサイドキックが見えている状態でK安藤が蹴ったボールをキッキングチームが確保したのも、練習の成果であり、最後まで衰えぬ士気の高さがもたらしたものだろう。
最終的な得点は38−14。今年も大きな差がついたが、少なくとも士気の高さと運動量では相手に一歩も譲るところはなかった。それはこの日の戦い、特に第4Q残り38秒から展開した魂の攻撃が証明している。
今後、ライスボウルの在り方などについて様々な議論がなされるだろうが、この試合を戦った選手諸君にとっては、あの38秒が大きな財産となるに違いない。
それは試合後、グラウンドに降りて一言二言、声をかける機会のあった下級生たちの表情を見た僕が確信したことである。
冬来たりなば、春遠からじ。この試合を最後に卒業する4年生の奮闘を特筆すると同時に、この敗戦から次の一歩を踏み出す下級生たちの今後に期待する。さあ、再出発だ。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:23| Comment(2)
| in 2019 Season
2020年01月01日
(33)大きなギフト
31日朝、久方ぶりに上ヶ原のグラウンドへ顔を出した。空は晴れ、青い空が広がり、所々に白い雲が浮かんでいる。大晦日の朝、まだ10時にもならないというのに、少し動けば汗がにじみ出てきそうな暖かさだ。
グラウンドで体を動かしている選手は大半が長袖のトレーナー姿。中には半袖シャツだけという選手もいる。
何よりも日差しが明るく、強い。つい先日までは授業が優先で、練習開始は夕方の5時半、6時から。日はとっぷりと暮れ、正真正銘の夜間練習だった。照明があっても薄暗く、遠くからだと選手の動きはもちろん、表情などは全く見えない。六甲連山から吹き下ろしてくる風は冷たく、どんなに厚着をしていても、体の芯から凍えてきた。
そんな練習風景になじんでいたから、この日、久々に訪れたグラウンドは、まるで別世界。冬至も10日を過ぎれば一朝来復。このグラウンドから新しい年、新春が訪れたような気分だった。
選手の動きも軽快だ。関西リーグの終盤から甲子園ボウルを迎えるまで、ずっと漂っていた重苦しい空気は一掃され、すがすがしい空気が漂っている。大きな試合の直前とあって、練習の強度が軽くなっていることを考慮しても、なんだか別のチームの練習を見ているような気分になってくる。
どうしてここまで清々しい空間が生まれたのか。僕の勝手な解釈を言えば、立命館との2度の決戦は「絶対に負けられない戦い」、早稲田大学との甲子園ボウルは「絶対に勝ちたい戦い」、そして迎える1月3日のライスボウルは「思いっ切り自分たちの力を発揮する戦い」。そのように解釈すれば、重っ苦しい空気が一掃されたことも、いま挑戦者として、伸び伸びとした練習ができている理由も分かる気がする。
そう考えると、この季節までチームの全員が大きな目標を持って練習できることが、どれほど幸せかということに思いが至る。
関西リーグで敗退すれば、12月を迎える前にシーズンが終わってしまう。4年生は全員引退だ。迎えた西日本代表決定戦を勝ち抜いても、甲子園ボウルで敗退すれば、それでシーズン終了。かくしていま、次なる試合に備えて勝つための練習ができる環境にあるのはファイターズのみ。その練習が楽しくないはずがない。
ほんの1カ月前、立命館との決戦を前にしたチームと、いま社会人代表との戦いを前にしたチームでは、置かれた環境が一変している。雰囲気が明るくなった理由もよく分かる。こういう雰囲気の中で練習できることが、試合で先発するメンバーだけでなく、交代メンバーやスカウトチームメンバーの底上げに直結していることはいうまでもない。
さらにいえば、こういう環境があるからこそ、新しい戦術を開発し、それに習熟する時間も得られる。
振り返れば、ファイターズはこの10年間で7回も、こういう濃密な時間を持つことができている。その時間の積み重ねが、他のライバルたちを凌駕するための強力な武器になっているのではないか。
そう考えると、関西リーグはとっくに終わり、甲子園ボウルも終了したこの時期、大きな目的を持って練習に励めるというのは、とてつもない幸せな時間、大切な時間に思えてくる。それは今年のチームだけではなく、来年、再来年と続くチームにとっても大きなギフトであり、財産になるに違いない。
迎えて新年。1月3日、東京ドームでこの練習の成果を存分に発揮してもらいたい。僕はそれを心から願っている。
グラウンドで体を動かしている選手は大半が長袖のトレーナー姿。中には半袖シャツだけという選手もいる。
何よりも日差しが明るく、強い。つい先日までは授業が優先で、練習開始は夕方の5時半、6時から。日はとっぷりと暮れ、正真正銘の夜間練習だった。照明があっても薄暗く、遠くからだと選手の動きはもちろん、表情などは全く見えない。六甲連山から吹き下ろしてくる風は冷たく、どんなに厚着をしていても、体の芯から凍えてきた。
そんな練習風景になじんでいたから、この日、久々に訪れたグラウンドは、まるで別世界。冬至も10日を過ぎれば一朝来復。このグラウンドから新しい年、新春が訪れたような気分だった。
選手の動きも軽快だ。関西リーグの終盤から甲子園ボウルを迎えるまで、ずっと漂っていた重苦しい空気は一掃され、すがすがしい空気が漂っている。大きな試合の直前とあって、練習の強度が軽くなっていることを考慮しても、なんだか別のチームの練習を見ているような気分になってくる。
どうしてここまで清々しい空間が生まれたのか。僕の勝手な解釈を言えば、立命館との2度の決戦は「絶対に負けられない戦い」、早稲田大学との甲子園ボウルは「絶対に勝ちたい戦い」、そして迎える1月3日のライスボウルは「思いっ切り自分たちの力を発揮する戦い」。そのように解釈すれば、重っ苦しい空気が一掃されたことも、いま挑戦者として、伸び伸びとした練習ができている理由も分かる気がする。
そう考えると、この季節までチームの全員が大きな目標を持って練習できることが、どれほど幸せかということに思いが至る。
関西リーグで敗退すれば、12月を迎える前にシーズンが終わってしまう。4年生は全員引退だ。迎えた西日本代表決定戦を勝ち抜いても、甲子園ボウルで敗退すれば、それでシーズン終了。かくしていま、次なる試合に備えて勝つための練習ができる環境にあるのはファイターズのみ。その練習が楽しくないはずがない。
ほんの1カ月前、立命館との決戦を前にしたチームと、いま社会人代表との戦いを前にしたチームでは、置かれた環境が一変している。雰囲気が明るくなった理由もよく分かる。こういう雰囲気の中で練習できることが、試合で先発するメンバーだけでなく、交代メンバーやスカウトチームメンバーの底上げに直結していることはいうまでもない。
さらにいえば、こういう環境があるからこそ、新しい戦術を開発し、それに習熟する時間も得られる。
振り返れば、ファイターズはこの10年間で7回も、こういう濃密な時間を持つことができている。その時間の積み重ねが、他のライバルたちを凌駕するための強力な武器になっているのではないか。
そう考えると、関西リーグはとっくに終わり、甲子園ボウルも終了したこの時期、大きな目的を持って練習に励めるというのは、とてつもない幸せな時間、大切な時間に思えてくる。それは今年のチームだけではなく、来年、再来年と続くチームにとっても大きなギフトであり、財産になるに違いない。
迎えて新年。1月3日、東京ドームでこの練習の成果を存分に発揮してもらいたい。僕はそれを心から願っている。
posted by コラム「スタンドから」 at 00:38| Comment(2)
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2019年12月17日
(32)爆発する笑顔
15日夕、早稲田大学との死闘を終え、表彰式やテレビ・新聞のインタビューや写真撮影など、すべての公式行事が終わった後のことだ。チームの全員が改めて1塁側アルプススタンドに向かって整列し、最後まで声援を送り、大学王者となった瞬間を見届けてくださった応援の人たちに向かって深々と頭を下げた。
改めて大きな拍手を浴びた後、今度は選手・スタッフ全員がグラウンドの側を向く。その瞬間、寺岡主将がはじけるような笑顔になり、今季一番の大きな声で鬨(とき)の声をあげる。僕は、すぐ目の前でその場面を目撃していたが、彼がなんと叫んだかは覚えていない。とにかく顔全体が破裂してしまいそうな笑顔になり、両手を広げ、大声をあげ、全身で喜びを爆発させている。周囲の仲間も男女、選手、スタッフ、学年を問わずに大声をあげ、喜びを全身で表現する。
まさに歓喜の時。それは近年、甲子園で勝ったどの年度のチームにも増して、大きな喜びのように僕には感じられた。
それだけ、主将にとっても、チームにとっても、今季は苦しかったということだろう。リーグ戦が始まり、中盤になっても、なかなか調子は上がってこない。神戸大との試合では、相手にいいように攻められ、わずか2点差の辛勝。関西大との戦いはなんとか乗り越えたが、立命館大との決戦はスコア以上にチーム力の差を感じさせられる敗戦だった。
それから毎週、西南学院大、神戸大という、十分にファイターズを研究してきたチームと戦い、迎えた西日本代表決定戦。立命館との今季2度目の対戦は、工夫に工夫を重ねたノーハドルオフェンスを駆使して勝利を収めたが、そこまできても、チームには重苦しい雰囲気が拭いきれない。
昨秋のけがで、ほぼ1年間のブランクがあった寺岡主将はシーズンも半ばを過ぎて戦列に復帰したが、当初は「思うように動けない」と自分のプレーに納得のいかない言葉が続いていた。ようやく立命戦のあたりから本来の調子を取り戻してきたが、入れ替わるように守備の要である4年生の藤本や畑中がけがで戦列を離れる。シーズンも最終盤というのに、チームのまとまりもよくない。
何よりも、早々に甲子園を見据えて動き始めた早稲田大学に比べ、毎週のように試合が続いたファイターズは、相手を研究し、対策を立て、ゲームプランを練る時間が圧倒的に足りていない。
そんなチーム事情を誰よりもよく知っている主将にとっては、プレーでチームを引っ張っていけないもどかしさと悔しさ、言葉を尽くしても結束して戦う姿が見えてこないチームの状況は、焦りと危機感ばかりを募らせたに違いない。本来は気さくで明るい性格だが、けがの回復状況が思わしくなく、チームの状態も上がってこない時期は、本当に苦しそうだった。
そういう苦しみが少し吹っ切れたように見えてきたのは、立命館との西日本代表決定戦に勝ってから。チームの結束が強くなったのか、ハドルでの声はグラウンド全体に響き渡るほど大きくなり、チームメートを鼓舞する言葉にも自信が戻ってきたように見えた。
主将が変わればチームも変わる。迎えた甲子園ボウルでは、十分に相手を研究し、対策を練る時間のあった強敵を相手に、戦士たちは一歩も引かずに戦った。
前半は、QB奥野からWR阿部や糸川へのパスが面白いように決まり、ファイターズが20−14と優位に試合を進める。
しかし、後半は一転して早稲田のペース。第3Qの立ち上がりこそ、ファイターズがRB前田公の42ヤード独走TDで27−14と点差を広げたが、即座に相手が反撃。ともに国内最高級の能力を持つQBとエースレシーバーのホットラインが機能して立て続けにTDを決め、第3Q終了時点では28−27と逆転。ファイターズの応援席からは「やばい!」という悲鳴が聞こえてくる。
しかし、関西リーグで1度地獄を見たファイターズは、ここから踏ん張る。RB三宅や前田公のランなどで一気に相手ゴール前に迫り、仕上げは前田公の中央ダイブ。再度逆転し、トライフォーポイントは三宅のランプレー。見事に決まってリードを7点に広げる。
前田公は次の攻撃シリーズでも38ヤードを独走。その好機にK安藤が決定的なFGを決めて勝負はついた。
この試合と同様、今季は試練と苦しい場面が交錯する試合を次々と乗り越えてきた。その果てに手にした学生王者の座である。試合中はもちろん、試合後も公式の儀式が続く間は「よそいきの顔」で、ぐっと押さえていた喜びが、応援席への最後の挨拶を終え、仲間との時間が戻った瞬間に爆発したのはよく分かる。
今季、苦しみ抜いた主将が顔全体をくしゃくしゃにして喜びを爆発させ、それにチームの全員が応えた場面を撮影したカメラマンは多分、いないであろう。もちろん僕も撮影していない。それほど突然の出来事だった。けれども、その場に居合わせた僕は、そのシーンを目に焼き付けている。
その画像は今季、折あるごとに監督やコーチから「4年生が足を引っ張っている」といわれ、もがき苦しみ、その状況を突破しようと全力で取り組んできた主将や幹部の姿を見続けてきた僕にとって、最高の宝物となった。ありがとう、寺岡主将。よく戦ったぞ、ファイターズの諸君。
改めて大きな拍手を浴びた後、今度は選手・スタッフ全員がグラウンドの側を向く。その瞬間、寺岡主将がはじけるような笑顔になり、今季一番の大きな声で鬨(とき)の声をあげる。僕は、すぐ目の前でその場面を目撃していたが、彼がなんと叫んだかは覚えていない。とにかく顔全体が破裂してしまいそうな笑顔になり、両手を広げ、大声をあげ、全身で喜びを爆発させている。周囲の仲間も男女、選手、スタッフ、学年を問わずに大声をあげ、喜びを全身で表現する。
まさに歓喜の時。それは近年、甲子園で勝ったどの年度のチームにも増して、大きな喜びのように僕には感じられた。
それだけ、主将にとっても、チームにとっても、今季は苦しかったということだろう。リーグ戦が始まり、中盤になっても、なかなか調子は上がってこない。神戸大との試合では、相手にいいように攻められ、わずか2点差の辛勝。関西大との戦いはなんとか乗り越えたが、立命館大との決戦はスコア以上にチーム力の差を感じさせられる敗戦だった。
それから毎週、西南学院大、神戸大という、十分にファイターズを研究してきたチームと戦い、迎えた西日本代表決定戦。立命館との今季2度目の対戦は、工夫に工夫を重ねたノーハドルオフェンスを駆使して勝利を収めたが、そこまできても、チームには重苦しい雰囲気が拭いきれない。
昨秋のけがで、ほぼ1年間のブランクがあった寺岡主将はシーズンも半ばを過ぎて戦列に復帰したが、当初は「思うように動けない」と自分のプレーに納得のいかない言葉が続いていた。ようやく立命戦のあたりから本来の調子を取り戻してきたが、入れ替わるように守備の要である4年生の藤本や畑中がけがで戦列を離れる。シーズンも最終盤というのに、チームのまとまりもよくない。
何よりも、早々に甲子園を見据えて動き始めた早稲田大学に比べ、毎週のように試合が続いたファイターズは、相手を研究し、対策を立て、ゲームプランを練る時間が圧倒的に足りていない。
そんなチーム事情を誰よりもよく知っている主将にとっては、プレーでチームを引っ張っていけないもどかしさと悔しさ、言葉を尽くしても結束して戦う姿が見えてこないチームの状況は、焦りと危機感ばかりを募らせたに違いない。本来は気さくで明るい性格だが、けがの回復状況が思わしくなく、チームの状態も上がってこない時期は、本当に苦しそうだった。
そういう苦しみが少し吹っ切れたように見えてきたのは、立命館との西日本代表決定戦に勝ってから。チームの結束が強くなったのか、ハドルでの声はグラウンド全体に響き渡るほど大きくなり、チームメートを鼓舞する言葉にも自信が戻ってきたように見えた。
主将が変わればチームも変わる。迎えた甲子園ボウルでは、十分に相手を研究し、対策を練る時間のあった強敵を相手に、戦士たちは一歩も引かずに戦った。
前半は、QB奥野からWR阿部や糸川へのパスが面白いように決まり、ファイターズが20−14と優位に試合を進める。
しかし、後半は一転して早稲田のペース。第3Qの立ち上がりこそ、ファイターズがRB前田公の42ヤード独走TDで27−14と点差を広げたが、即座に相手が反撃。ともに国内最高級の能力を持つQBとエースレシーバーのホットラインが機能して立て続けにTDを決め、第3Q終了時点では28−27と逆転。ファイターズの応援席からは「やばい!」という悲鳴が聞こえてくる。
しかし、関西リーグで1度地獄を見たファイターズは、ここから踏ん張る。RB三宅や前田公のランなどで一気に相手ゴール前に迫り、仕上げは前田公の中央ダイブ。再度逆転し、トライフォーポイントは三宅のランプレー。見事に決まってリードを7点に広げる。
前田公は次の攻撃シリーズでも38ヤードを独走。その好機にK安藤が決定的なFGを決めて勝負はついた。
この試合と同様、今季は試練と苦しい場面が交錯する試合を次々と乗り越えてきた。その果てに手にした学生王者の座である。試合中はもちろん、試合後も公式の儀式が続く間は「よそいきの顔」で、ぐっと押さえていた喜びが、応援席への最後の挨拶を終え、仲間との時間が戻った瞬間に爆発したのはよく分かる。
今季、苦しみ抜いた主将が顔全体をくしゃくしゃにして喜びを爆発させ、それにチームの全員が応えた場面を撮影したカメラマンは多分、いないであろう。もちろん僕も撮影していない。それほど突然の出来事だった。けれども、その場に居合わせた僕は、そのシーンを目に焼き付けている。
その画像は今季、折あるごとに監督やコーチから「4年生が足を引っ張っている」といわれ、もがき苦しみ、その状況を突破しようと全力で取り組んできた主将や幹部の姿を見続けてきた僕にとって、最高の宝物となった。ありがとう、寺岡主将。よく戦ったぞ、ファイターズの諸君。
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2019年12月08日
(31)『どんな男になんねん』
ファイターズに寄り添っていれば、たまに得をすることがある。例えば、ファンはもちろん、チームの関係者でもほとんどご存じない朗報を一足早く知ることができることがあるし、損か得かはわからないが、悪い情報もまた同様である。
今回は、チーム関係者でもごく一部しか目にしていない鳥内監督の著書『どんな男になんねん』(ベースボールマガジン社)の校正用ゲラを見せていただく幸運に恵まれた。金曜日の夜に後書きや著者の紹介文までを含めた263ページ分のゲラを入手、一気に読み上げた。
監督をひいきして言うわけではないが、めちゃくちゃ面白い。長い間、チームに関係していた僕も知らなかった話がいっぱいあるし、なによりも教科外教育としてのスポーツ活動、課外活動としてのアメリカンフットボールを考える上で大切なことがどっさり盛り込まれている。日本のアマチュアスポーツの現在地とその問題点を知り、それを突き破っていくための処方箋というかヒントも随所にちりばめられている。
何よりも読みやすい。この本は鳥内さんとスポーツライター、生島淳さんの共著の体裁をとっているが、二人が分担して書いたのではなく、生島さんが鳥内さんに何回かに分けてインタビューした内容を整理し、それを一冊の本に仕上げている。そのため、監督の語り口調(つまり、いつもの大阪弁)が生き生きと再現されている。
つまり、本を「読む」というよりも、いつもの鳥内節を「聞く」といってもよい仕掛けになっており、その分、内容が頭に入りやすい。もちろん、大学の研究者の論文にありがちな説教臭は全くないし、スポーツライターと称する方々のひねくり回した表現もない。
素のまんまの鳥内さんがいつも通りにハドルの中でしゃべり、学生との個人面談でやりとりしている言葉を整理整頓しているだけ。そういえば言い過ぎかもしれないが、そういう仕立て方になっているから、とにかく理解しやすい。本を読むのは苦手という人でも、一気に読み終え、その主張が(100%共感するかどうかは人さまざまだろうが)100%理解できることだけは保証できる。
能書きはこれくらいにして、内容にちょっと踏み込んでみたい。とは言いながら、あんまり書き込むと本を手に取って読む楽しみを奪うことになるから、書店でざっと立ち読みするくらいの感覚で。まずは、僕が気になった見出し、小見出しを並べてみよう。
「4年の時の京大戦、ファイトオンを歌っとったら、なんや知らん、涙が出てきたで」
「4年生になったら、失敗できないからね。そこに成長の鍵があるんです」
「コーチになったばかりのことを思い出すと反省ばかりやな」
「自分の弱さを認めることがかっこええで」
「けが人をいたわることもチームの強さになるよ」
「4年生にはみんなキャプテンと同じ気持ちでやってくれ、言うてます」
「学生が育つよう、できることはたくさんあるよ」
「観察や、観察。練習前の学生を見ているといろいろなことが分かるで」
「教育いうのは奥が深いで」
「指導の基本はやっぱり言葉やね」
「学校と教室と、フットボールのフィールドでは、決定的な違いがあると気づいたね」 「スポーツの楽しさって、どこにあると思う? 勝つために考えることやで」
「関西学院いうのは、負けないチームやと思う。関西学院のフットボールは、泥臭いよ」「いまも申し訳ない学年があんねん」
「自分の不安を受け入れる。それが大切」
「教え方がうまい4年生は慕われるものですよ」
「効率、合理性。これもフットボールやるうえでは大事なことです」
「スポーツは、損得でかなりなの部分説明できるで」
「効率化を考えたら、もっと日本のスポーツは良くなると思うねん」
「スーパーな相手を止めるのは、やっぱりせこいヤツやな」
……こうしたキーワードを使いながら、ファイターズのフットボールと自身の指導理念、方法を語り、結論の部分は「世界一安全なチームをつくる」。自身の学生時代は、根性練もあったと振り返りながら「意味なかったな。根性を鍛えたからいうて、勝たれへんからな。めちゃめちゃな追い込み方して練習したからって勝てるものでもない。けがをするリスクを増やしているだけです」と強調。
最後に「2003年8月16日のことは忘れたことありません」と、その日、東鉢伏での夏合宿中に4年生の平郡雷太君を亡くしたことを取り上げながら、関西学院を世界一安全なチームにすると誓ったことを説明。そこから生まれた「ファイターズ コーチング基本方針」を紹介している。
大阪人が普段の暮らしの中で使っている言葉で軽妙に展開される教育論はもちろん、その巻末に世界一安全なチームづくりの方針を公開しているところに、鳥内監督の真実があると僕は考えている。願わくは、この方針が日本のあらゆるスポーツ指導者に共有されること。それがファイターズに寄り添ってコラムを書き続けている僕の願いである。
その期待に応えてくれるであろうこの終章が設けられたことだけでも「この本を手にする価値がある」と強くオススメしたい。もちろん「青い血の流れている」ファイターズファンにとっては必携の書である。
追伸
本は12月下旬の発売ですが、甲子園ボウルの会場でも部数限定で「先行販売」されるそうです。
◆どんな男になんねん 関西学院大アメリカンフットボール部 鳥内流「人の育て方」
鳥内秀晃・生島 淳 / 著
ベースボール・マガジン社
https://www.bbm-japan.com/_st/s16778973
今回は、チーム関係者でもごく一部しか目にしていない鳥内監督の著書『どんな男になんねん』(ベースボールマガジン社)の校正用ゲラを見せていただく幸運に恵まれた。金曜日の夜に後書きや著者の紹介文までを含めた263ページ分のゲラを入手、一気に読み上げた。
監督をひいきして言うわけではないが、めちゃくちゃ面白い。長い間、チームに関係していた僕も知らなかった話がいっぱいあるし、なによりも教科外教育としてのスポーツ活動、課外活動としてのアメリカンフットボールを考える上で大切なことがどっさり盛り込まれている。日本のアマチュアスポーツの現在地とその問題点を知り、それを突き破っていくための処方箋というかヒントも随所にちりばめられている。
何よりも読みやすい。この本は鳥内さんとスポーツライター、生島淳さんの共著の体裁をとっているが、二人が分担して書いたのではなく、生島さんが鳥内さんに何回かに分けてインタビューした内容を整理し、それを一冊の本に仕上げている。そのため、監督の語り口調(つまり、いつもの大阪弁)が生き生きと再現されている。
つまり、本を「読む」というよりも、いつもの鳥内節を「聞く」といってもよい仕掛けになっており、その分、内容が頭に入りやすい。もちろん、大学の研究者の論文にありがちな説教臭は全くないし、スポーツライターと称する方々のひねくり回した表現もない。
素のまんまの鳥内さんがいつも通りにハドルの中でしゃべり、学生との個人面談でやりとりしている言葉を整理整頓しているだけ。そういえば言い過ぎかもしれないが、そういう仕立て方になっているから、とにかく理解しやすい。本を読むのは苦手という人でも、一気に読み終え、その主張が(100%共感するかどうかは人さまざまだろうが)100%理解できることだけは保証できる。
能書きはこれくらいにして、内容にちょっと踏み込んでみたい。とは言いながら、あんまり書き込むと本を手に取って読む楽しみを奪うことになるから、書店でざっと立ち読みするくらいの感覚で。まずは、僕が気になった見出し、小見出しを並べてみよう。
「4年の時の京大戦、ファイトオンを歌っとったら、なんや知らん、涙が出てきたで」
「4年生になったら、失敗できないからね。そこに成長の鍵があるんです」
「コーチになったばかりのことを思い出すと反省ばかりやな」
「自分の弱さを認めることがかっこええで」
「けが人をいたわることもチームの強さになるよ」
「4年生にはみんなキャプテンと同じ気持ちでやってくれ、言うてます」
「学生が育つよう、できることはたくさんあるよ」
「観察や、観察。練習前の学生を見ているといろいろなことが分かるで」
「教育いうのは奥が深いで」
「指導の基本はやっぱり言葉やね」
「学校と教室と、フットボールのフィールドでは、決定的な違いがあると気づいたね」 「スポーツの楽しさって、どこにあると思う? 勝つために考えることやで」
「関西学院いうのは、負けないチームやと思う。関西学院のフットボールは、泥臭いよ」「いまも申し訳ない学年があんねん」
「自分の不安を受け入れる。それが大切」
「教え方がうまい4年生は慕われるものですよ」
「効率、合理性。これもフットボールやるうえでは大事なことです」
「スポーツは、損得でかなりなの部分説明できるで」
「効率化を考えたら、もっと日本のスポーツは良くなると思うねん」
「スーパーな相手を止めるのは、やっぱりせこいヤツやな」
……こうしたキーワードを使いながら、ファイターズのフットボールと自身の指導理念、方法を語り、結論の部分は「世界一安全なチームをつくる」。自身の学生時代は、根性練もあったと振り返りながら「意味なかったな。根性を鍛えたからいうて、勝たれへんからな。めちゃめちゃな追い込み方して練習したからって勝てるものでもない。けがをするリスクを増やしているだけです」と強調。
最後に「2003年8月16日のことは忘れたことありません」と、その日、東鉢伏での夏合宿中に4年生の平郡雷太君を亡くしたことを取り上げながら、関西学院を世界一安全なチームにすると誓ったことを説明。そこから生まれた「ファイターズ コーチング基本方針」を紹介している。
大阪人が普段の暮らしの中で使っている言葉で軽妙に展開される教育論はもちろん、その巻末に世界一安全なチームづくりの方針を公開しているところに、鳥内監督の真実があると僕は考えている。願わくは、この方針が日本のあらゆるスポーツ指導者に共有されること。それがファイターズに寄り添ってコラムを書き続けている僕の願いである。
その期待に応えてくれるであろうこの終章が設けられたことだけでも「この本を手にする価値がある」と強くオススメしたい。もちろん「青い血の流れている」ファイターズファンにとっては必携の書である。
追伸
本は12月下旬の発売ですが、甲子園ボウルの会場でも部数限定で「先行販売」されるそうです。
◆どんな男になんねん 関西学院大アメリカンフットボール部 鳥内流「人の育て方」
鳥内秀晃・生島 淳 / 著
ベースボール・マガジン社
https://www.bbm-japan.com/_st/s16778973

posted by コラム「スタンドから」 at 11:10| Comment(5)
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2019年12月03日
(30)会心の勝利
会心の勝利、といえば言い過ぎかもしれない。けれども、強豪・立命館に立ち向かう直前に、ファイターズの練習を見せてもらう機会のあった僕にとっては、十分に予測できた勝利であり、会心の勝利であった。
予測は当然、外れることもある。身内をひいきするあまり、眼鏡が曇ることもあるだろう。しかし、間近でファイターズの練習を見てきた目で見ると、そこには1ヵ月前の練習とは明らかに異なる空気が流れていた。
例えば、選手一人一人の練習に取り組む姿勢が敗戦前と、敗戦後では明らかに変わった。仲間同士で知恵を出し合い、一つ一つのプレーに惜しみなくアドバイスを交わす場面も増えてきた。逆に、不用意な落球や不注意から起きたミスについては、選手の中から厳しい言葉が飛ぶようになった。ハドルの中心にいる寺岡主将の声の調子、勢いも変わった。
リーグ戦で立命館に敗れるまでは、正直に言って、どこかに緩い空気が漂っていた。緩いというと語弊があるかもしれないが、練習でプレーが失敗しても、当該の選手が本気で悔しがっている姿はほとんど見られず、仲間の明らかな失敗を本気で叱っている場面も見たことがない。チームを率いる4年生の言葉も、ありきたりで上滑りしている。もちろん主将と副将が怒鳴りあい、殴り合いになる寸前、というような場面にも遭遇したことがない。
そんな空気が前回の敗戦で一変したように僕には思えた。練習の時間は同じでも、テンポは早くなり、より正確性を追求する。立命館の強くて素早いプレーヤーの動きを想定し、それを逆手にとる仕組みを一つ一つ周到に準備する。勝負すべきところでは大胆な作戦を仕掛け、相手の意図を外す仕掛けにも工夫を凝らす。
立ち上がりから矢継ぎ早に展開し、相手守備陣を混乱させたノーハドルオフェンスは、そうした工夫の総仕上げといってもよい。
RB三宅の立て続けの独走タッチダウンも、QB奥野の持つ高いポテンシャルとチームで一番のスピードを持つ三宅の能力を生かすために練り上げてきた作戦の成果である。もっといえば、攻撃のキーとなるOLやTEのメンバーを個人指導で徹底的に鍛えてきたコーチの指導のたまものといってもよい。
前半を14−3で折り返し、後半戦が始まると同時に仕掛けたオンサイドキックも、チームにとっては必然であり、キッキングチームのリーダー、安藤君を中心に周到に練り上げてきたプレーである。
立命館の強さは、前回の試合で骨身に染みて知った。個々の選手の反応の速さもただごとではない。それを理解しているからこそ、相手の意表を突く場面で、意表を突くプレーが求められる。それを具体化し、勝負をかけたのが、立ち上がりからのテンポの速いノーハドルオフェンスであり、ワイルドキャット隊形からの三宅のランである。そして、その仕上げが後半開始早々のオンサイドキックとその成功である。
こうした仕掛けで、ファイターズが先手をとり、チームは終始、落ち着いてプレーを展開することができた。逆に先手をとられた相手には「こんなはずじゃない」という焦りが生まれる。その焦りがプレーのリズムを微妙に狂わせ、イージーなパスを落とすような場面が出てくる。それがまた焦りを増幅し、チームから余裕が失われる。
そこにつけ込んだのがファイターズの守備陣である。DLは鋭い出足で相手のボールキャリアに襲いかかり、QBにパスを投げる余裕を与えない。あわやTDという場面ではファイターズのDBが懸命にパスに飛びつく。ここ一番の場面で必殺のパスをもぎ取ったDB宮城をはじめLB海崎、DB松本が各1本のインターセプトを記録。QBサックに至ってはDL板敷が4本、LB海崎、DB三村、DL寺岡がそれぞれ1本という「大豊作」だった。
それもこれも、試合開始々、2本のTDを立て続けに奪ったノーハドルオフェンスの成果である。それを仕掛けたベンチの果敢な決断であり、その期待に応えた選手たちの勇気である。
試合の2日前、大村コーチに話しかけると「結果は神のみぞ知るです」と、冗談めかしていいながら、「でも、プレーの準備では、どこにも負けていない自信があります」という返事があった。その言葉を鮮やかに証明したような試合内容と結果に、僕はまたフットボールという競技の持つ奥の深さと魅力を知ったのである。
予測は当然、外れることもある。身内をひいきするあまり、眼鏡が曇ることもあるだろう。しかし、間近でファイターズの練習を見てきた目で見ると、そこには1ヵ月前の練習とは明らかに異なる空気が流れていた。
例えば、選手一人一人の練習に取り組む姿勢が敗戦前と、敗戦後では明らかに変わった。仲間同士で知恵を出し合い、一つ一つのプレーに惜しみなくアドバイスを交わす場面も増えてきた。逆に、不用意な落球や不注意から起きたミスについては、選手の中から厳しい言葉が飛ぶようになった。ハドルの中心にいる寺岡主将の声の調子、勢いも変わった。
リーグ戦で立命館に敗れるまでは、正直に言って、どこかに緩い空気が漂っていた。緩いというと語弊があるかもしれないが、練習でプレーが失敗しても、当該の選手が本気で悔しがっている姿はほとんど見られず、仲間の明らかな失敗を本気で叱っている場面も見たことがない。チームを率いる4年生の言葉も、ありきたりで上滑りしている。もちろん主将と副将が怒鳴りあい、殴り合いになる寸前、というような場面にも遭遇したことがない。
そんな空気が前回の敗戦で一変したように僕には思えた。練習の時間は同じでも、テンポは早くなり、より正確性を追求する。立命館の強くて素早いプレーヤーの動きを想定し、それを逆手にとる仕組みを一つ一つ周到に準備する。勝負すべきところでは大胆な作戦を仕掛け、相手の意図を外す仕掛けにも工夫を凝らす。
立ち上がりから矢継ぎ早に展開し、相手守備陣を混乱させたノーハドルオフェンスは、そうした工夫の総仕上げといってもよい。
RB三宅の立て続けの独走タッチダウンも、QB奥野の持つ高いポテンシャルとチームで一番のスピードを持つ三宅の能力を生かすために練り上げてきた作戦の成果である。もっといえば、攻撃のキーとなるOLやTEのメンバーを個人指導で徹底的に鍛えてきたコーチの指導のたまものといってもよい。
前半を14−3で折り返し、後半戦が始まると同時に仕掛けたオンサイドキックも、チームにとっては必然であり、キッキングチームのリーダー、安藤君を中心に周到に練り上げてきたプレーである。
立命館の強さは、前回の試合で骨身に染みて知った。個々の選手の反応の速さもただごとではない。それを理解しているからこそ、相手の意表を突く場面で、意表を突くプレーが求められる。それを具体化し、勝負をかけたのが、立ち上がりからのテンポの速いノーハドルオフェンスであり、ワイルドキャット隊形からの三宅のランである。そして、その仕上げが後半開始早々のオンサイドキックとその成功である。
こうした仕掛けで、ファイターズが先手をとり、チームは終始、落ち着いてプレーを展開することができた。逆に先手をとられた相手には「こんなはずじゃない」という焦りが生まれる。その焦りがプレーのリズムを微妙に狂わせ、イージーなパスを落とすような場面が出てくる。それがまた焦りを増幅し、チームから余裕が失われる。
そこにつけ込んだのがファイターズの守備陣である。DLは鋭い出足で相手のボールキャリアに襲いかかり、QBにパスを投げる余裕を与えない。あわやTDという場面ではファイターズのDBが懸命にパスに飛びつく。ここ一番の場面で必殺のパスをもぎ取ったDB宮城をはじめLB海崎、DB松本が各1本のインターセプトを記録。QBサックに至ってはDL板敷が4本、LB海崎、DB三村、DL寺岡がそれぞれ1本という「大豊作」だった。
それもこれも、試合開始々、2本のTDを立て続けに奪ったノーハドルオフェンスの成果である。それを仕掛けたベンチの果敢な決断であり、その期待に応えた選手たちの勇気である。
試合の2日前、大村コーチに話しかけると「結果は神のみぞ知るです」と、冗談めかしていいながら、「でも、プレーの準備では、どこにも負けていない自信があります」という返事があった。その言葉を鮮やかに証明したような試合内容と結果に、僕はまたフットボールという競技の持つ奥の深さと魅力を知ったのである。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:20| Comment(7)
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2019年11月22日
(29)心に残る言葉
先週末の西南学院大学との試合は、仕事の都合で応援に行けなかった。今週末の神戸大戦も以前から約束していた仕事がらみの催しが和歌山県新宮市であり、どう工夫しても時間の調整がつかない。2週続けてファイターズの試合が観戦できないなんて、いまだかつてないことだ。試合だけではなく、今週は新聞社の仕事があって西宮の自宅にも帰れず、チームの練習を見ることもできない。
歯がゆいことだが、心は二つ、身は一つ。鳥ではないので、空を飛んで行き来することもできない。仕方なく紀州・田辺の仮住まいで以前に自分が書いたこのコラムの集刷版やファイターズの卒業生が書いた文集を繰りながら、この10年ほどの4年生がこの時期、どんな思いで練習に取り組み、試合に臨んでいたかに思いを馳せ、心に残る彼らの言葉をどう現役の諸君に伝えようかと苦心している。
例えば、2007年の11月には作家、村上春樹の『走ることについて語るときに僕の語ること』(文藝春秋)にある「苦しみは選択事情」という言葉を取り上げている。
村上さんはその言葉について次のように説明している。「例えば、マラソンランナーが走っているとき、ああ、きつい、もう駄目だと思ったとして、きついというのは避けようのない事実だが、もう駄目かどうかは本人の裁量に委ねられている。つまり、痛みは避けがたいが、苦しみはオプショナル。つまり本人の選択次第である」と。
この言葉は今季、毎週、ハードな試合に臨んでいるファイターズの諸君にこそふさわしい言葉であろう。体はああ、きつい、もう駄目だ、と悲鳴を上げたとしても、それを駄目だと思うか否かは本人の選択。いまはとことんきついけど、これが勝利への一里塚。この道を突き進んで初めて栄光への道が開けると腹をくくって突き進むしかないということだろう。
2011年、松岡主将がチームを率いたシーズンのこの時期には、朝日新聞社が発行したアエラムック『関西学院大学 by AERA』にこんな文章を書いている。「たとえ戦力的に劣っている時でも、戦術を工夫し、知恵を絞り、精神性を高めて、いつも力を最大限に発揮するチームを作ってきたのがファイターズであり、戦後一貫してアメフット界の頂点を争い続けてきたチームの矜持(きょうじ)である。関西学院のスクールスポーツとして敬意を払われ、部員たちもそのことに特別の思いを持つ基盤はここにある」。
この言葉は、苦しい戦いの続く今季のチームについても、そのまま通用する。リーグの最終戦でライバルに苦杯を喫し、苦しい条件の中で再度のチャレンジを続けているチームにとって「いつも力を最大限に発揮するチームを作ってきた」先輩たちの軌跡は、心強い味方のなるはずだ。
2016年、山岸主将が率いるチームが立命の強さを存分に見せつけられながら一歩も引かずに戦い、最後は26−17で制した戦いを「魂のフットボール」と表現。試合後に鳥内監督のインタビューにある「選手が腹をくくってやってくれた。それを最後まで示してくれた。きわどい場面でも押し負けなかったのが勝因」という言葉を紹介している。
「腹をくくってやり切る」「それを最後まで示す」という言葉。これこそ、いま目の前に迫った試合に求められることであろう。
学生界の頂点に上り詰めたチームだけではない。惜しくも甲子園に進めなかったチームにも、素晴らしい言葉を残して卒業していったメンバーがいる。例えば、2015年度に卒業した作道圭吾君は「卒業文集」に次のような言葉を残している。
「昨年のシーズン、私には多くの反省はあれども、後悔はない。もちろん君たちには勝つてほしい、ただそれ以上に後悔を持ってほしくない。やり切ってほしい。そのためにも目の前に「しんどい道」と「そうでない道」があるとき、迷ってもいいから「しんどい道」を選んでほしい。」
まるで宮本武蔵のようなこの言葉を、最終決戦に向かう諸君に贈らせていただく。作道君には了解を得ていないが、彼もまた同じ気持ちであること、さらにいえば、過去に同じような苦しい場面に遭遇し、その難局をことごとく切り開いてきた数多くの先輩たちもまた、同じ言葉を胸の内で現役の諸君に贈っておられるであろうことを信じて疑わない。
歯がゆいことだが、心は二つ、身は一つ。鳥ではないので、空を飛んで行き来することもできない。仕方なく紀州・田辺の仮住まいで以前に自分が書いたこのコラムの集刷版やファイターズの卒業生が書いた文集を繰りながら、この10年ほどの4年生がこの時期、どんな思いで練習に取り組み、試合に臨んでいたかに思いを馳せ、心に残る彼らの言葉をどう現役の諸君に伝えようかと苦心している。
例えば、2007年の11月には作家、村上春樹の『走ることについて語るときに僕の語ること』(文藝春秋)にある「苦しみは選択事情」という言葉を取り上げている。
村上さんはその言葉について次のように説明している。「例えば、マラソンランナーが走っているとき、ああ、きつい、もう駄目だと思ったとして、きついというのは避けようのない事実だが、もう駄目かどうかは本人の裁量に委ねられている。つまり、痛みは避けがたいが、苦しみはオプショナル。つまり本人の選択次第である」と。
この言葉は今季、毎週、ハードな試合に臨んでいるファイターズの諸君にこそふさわしい言葉であろう。体はああ、きつい、もう駄目だ、と悲鳴を上げたとしても、それを駄目だと思うか否かは本人の選択。いまはとことんきついけど、これが勝利への一里塚。この道を突き進んで初めて栄光への道が開けると腹をくくって突き進むしかないということだろう。
2011年、松岡主将がチームを率いたシーズンのこの時期には、朝日新聞社が発行したアエラムック『関西学院大学 by AERA』にこんな文章を書いている。「たとえ戦力的に劣っている時でも、戦術を工夫し、知恵を絞り、精神性を高めて、いつも力を最大限に発揮するチームを作ってきたのがファイターズであり、戦後一貫してアメフット界の頂点を争い続けてきたチームの矜持(きょうじ)である。関西学院のスクールスポーツとして敬意を払われ、部員たちもそのことに特別の思いを持つ基盤はここにある」。
この言葉は、苦しい戦いの続く今季のチームについても、そのまま通用する。リーグの最終戦でライバルに苦杯を喫し、苦しい条件の中で再度のチャレンジを続けているチームにとって「いつも力を最大限に発揮するチームを作ってきた」先輩たちの軌跡は、心強い味方のなるはずだ。
2016年、山岸主将が率いるチームが立命の強さを存分に見せつけられながら一歩も引かずに戦い、最後は26−17で制した戦いを「魂のフットボール」と表現。試合後に鳥内監督のインタビューにある「選手が腹をくくってやってくれた。それを最後まで示してくれた。きわどい場面でも押し負けなかったのが勝因」という言葉を紹介している。
「腹をくくってやり切る」「それを最後まで示す」という言葉。これこそ、いま目の前に迫った試合に求められることであろう。
学生界の頂点に上り詰めたチームだけではない。惜しくも甲子園に進めなかったチームにも、素晴らしい言葉を残して卒業していったメンバーがいる。例えば、2015年度に卒業した作道圭吾君は「卒業文集」に次のような言葉を残している。
「昨年のシーズン、私には多くの反省はあれども、後悔はない。もちろん君たちには勝つてほしい、ただそれ以上に後悔を持ってほしくない。やり切ってほしい。そのためにも目の前に「しんどい道」と「そうでない道」があるとき、迷ってもいいから「しんどい道」を選んでほしい。」
まるで宮本武蔵のようなこの言葉を、最終決戦に向かう諸君に贈らせていただく。作道君には了解を得ていないが、彼もまた同じ気持ちであること、さらにいえば、過去に同じような苦しい場面に遭遇し、その難局をことごとく切り開いてきた数多くの先輩たちもまた、同じ言葉を胸の内で現役の諸君に贈っておられるであろうことを信じて疑わない。
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2019年11月13日
(28)ようし、もう一丁
10日、万博記念競技場での立命戦は、試合の始まる2時間前から応援席に座っていた。しかし、不愉快なことが相次ぎ、キックオフの1時間前には、もう疲れ果てていた。
その内容は、ここで説明するようなことではないが、ファイターズの応援に通うようになって数十年、最も不愉快な1日であったことは間違いない。
けれども、試合が始まると、その進行を追うのに熱中した。ファイターズは終始後手に回ったが、本当に強い立命を見て、ようし、もう一丁という闘志がわいて来た。
午後3時、待ちに待ったキックオフ。ファイターズが自陣25ヤードから攻撃を始める。QB奥野からRB三宅やTE勝部へのパスがポンポンと決まってわずか4プレーでゴール前21ヤードまで進む。しかし、そこから相手の壁を突破できない。やむなくK安藤がFGに挑むが、それが外れ、先制点を逃がす。
がくっと来るファイターズとは対照的に相手のベンチは盛り上がる。パスとランを織り交ぜた力強い攻撃で着実にダウンを更新。守備陣が早い動きで止めようとするが、重戦車のような相手の圧力を止めるのは容易ではない。FGの3点でしのぐのが精一杯だった。
なんとか反撃をと祈るような気持ちで応援していても、事態は好転しない。逆にパスを奪い取られてまたFGの3点を献上。前半終了間際にも3本目のFGを決められ9−0で折り返す。
後半に入った頃から、守備陣の動きがよくなり、互いにパントを蹴り合う展開。均衡を破ったのはファイターズ。奥野から糸川、三宅、阿部、鈴木、また三宅へと、ターゲットを次々と変えたパスが立て続けに決まり、ゴール前1ヤードに迫る。仕上げはRB前田公。ゴール中央へ飛び込んで待望のTD。安藤のキックも決まって9−7と追い上げる。
しかし、そこからの攻撃が続かない。相手守備陣の的確な対応でパスコースがふさがれ、ランも止められる。あげくにファンブルで相手に攻撃権を渡し、勢い付いたオフェンスに決定的なTDを奪われる。
苦しい戦いは試合後に公表された両チームのスタッツを見れば理解できよう。ダウンの更新はわずかに7回。それもパスばかりでランによる更新は一度もない。獲得ヤードも相手の258ヤードに対してわが方は155ヤード。ランでは計13ヤードしか進めていない。逆に被インターセプトが2回、ファンブルが1回あるのだから、苦しいことこの上ない。わずかな光明といえば、QBサックが3回という、守備陣のがんばりを象徴する数字があるだけだ。
結果は18−7。点差以上に圧倒されたという印象の残る試合となった。
試合後、鳥内監督から「インセプやファンブルがあんなにあったら勝てんわな。捕れる球も落としてたし…」という言葉があったが、まさにその通り。せっかく反撃ムードが盛り上がってきたのに、落球やファンブルでそれに水を差す。耐え続けた守備陣も徐々に疲労が積み重なり、戦列を離れる選手が出てくる。そこを突くように相手がパワフルなラン攻撃でたたみかける。なかなか勝利への道筋の見えてこない試合だった。
悔しい敗戦だが、それでもシーズンが終わったわけではない。今週末から2週連続で行われる試合を勝ち抜けば、再度雌雄を決する機会が手に入る。その間、じっくりと次の試合に備えることのできる相手と比べると、苦しい状況であることは間違いないが、それでも名誉挽回のチャンスは残されている。
その試合を見据えて、どのようにチームの状態をアップしていくか。骨のきしむような今回の戦いで、その強さを実感した相手に、どう立ち向かうのか。どこに突破口を見つけるのか。タイトなスケジュールではあるが、時間はまだ残されている。気持ちを強く持って練習に励み、再度の戦いに挑み続けてもらいたい。
合い言葉は捲土重来。こんなところでくたばってたまるか、である。
その内容は、ここで説明するようなことではないが、ファイターズの応援に通うようになって数十年、最も不愉快な1日であったことは間違いない。
けれども、試合が始まると、その進行を追うのに熱中した。ファイターズは終始後手に回ったが、本当に強い立命を見て、ようし、もう一丁という闘志がわいて来た。
午後3時、待ちに待ったキックオフ。ファイターズが自陣25ヤードから攻撃を始める。QB奥野からRB三宅やTE勝部へのパスがポンポンと決まってわずか4プレーでゴール前21ヤードまで進む。しかし、そこから相手の壁を突破できない。やむなくK安藤がFGに挑むが、それが外れ、先制点を逃がす。
がくっと来るファイターズとは対照的に相手のベンチは盛り上がる。パスとランを織り交ぜた力強い攻撃で着実にダウンを更新。守備陣が早い動きで止めようとするが、重戦車のような相手の圧力を止めるのは容易ではない。FGの3点でしのぐのが精一杯だった。
なんとか反撃をと祈るような気持ちで応援していても、事態は好転しない。逆にパスを奪い取られてまたFGの3点を献上。前半終了間際にも3本目のFGを決められ9−0で折り返す。
後半に入った頃から、守備陣の動きがよくなり、互いにパントを蹴り合う展開。均衡を破ったのはファイターズ。奥野から糸川、三宅、阿部、鈴木、また三宅へと、ターゲットを次々と変えたパスが立て続けに決まり、ゴール前1ヤードに迫る。仕上げはRB前田公。ゴール中央へ飛び込んで待望のTD。安藤のキックも決まって9−7と追い上げる。
しかし、そこからの攻撃が続かない。相手守備陣の的確な対応でパスコースがふさがれ、ランも止められる。あげくにファンブルで相手に攻撃権を渡し、勢い付いたオフェンスに決定的なTDを奪われる。
苦しい戦いは試合後に公表された両チームのスタッツを見れば理解できよう。ダウンの更新はわずかに7回。それもパスばかりでランによる更新は一度もない。獲得ヤードも相手の258ヤードに対してわが方は155ヤード。ランでは計13ヤードしか進めていない。逆に被インターセプトが2回、ファンブルが1回あるのだから、苦しいことこの上ない。わずかな光明といえば、QBサックが3回という、守備陣のがんばりを象徴する数字があるだけだ。
結果は18−7。点差以上に圧倒されたという印象の残る試合となった。
試合後、鳥内監督から「インセプやファンブルがあんなにあったら勝てんわな。捕れる球も落としてたし…」という言葉があったが、まさにその通り。せっかく反撃ムードが盛り上がってきたのに、落球やファンブルでそれに水を差す。耐え続けた守備陣も徐々に疲労が積み重なり、戦列を離れる選手が出てくる。そこを突くように相手がパワフルなラン攻撃でたたみかける。なかなか勝利への道筋の見えてこない試合だった。
悔しい敗戦だが、それでもシーズンが終わったわけではない。今週末から2週連続で行われる試合を勝ち抜けば、再度雌雄を決する機会が手に入る。その間、じっくりと次の試合に備えることのできる相手と比べると、苦しい状況であることは間違いないが、それでも名誉挽回のチャンスは残されている。
その試合を見据えて、どのようにチームの状態をアップしていくか。骨のきしむような今回の戦いで、その強さを実感した相手に、どう立ち向かうのか。どこに突破口を見つけるのか。タイトなスケジュールではあるが、時間はまだ残されている。気持ちを強く持って練習に励み、再度の戦いに挑み続けてもらいたい。
合い言葉は捲土重来。こんなところでくたばってたまるか、である。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:02| Comment(6)
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2019年11月06日
(27)コーチの目
ファイターズに密着していると、いろんなことが見えてくる。上ヶ原のグラウンドに集まる部員たちの足取りや表情。練習中のちょっとした振る舞い。学生会館や学内の通路で顔を合わせた時の仕草。ほんの少しでも言葉を交わせば、その選手がいま、どんな気持ちで練習に取り組んでいるか、どんな悩みや課題を抱えているかも見えてくる気がする。
週末の短い時間だけしか顔を出さない僕でさえそうだから、日々行動を共にされているコーチの目には、もっともっと多くのことが見えているはずだ。この部員はいま勢いに乗っている、練習に取り組む様子が変わってきた、笛が鳴るまで絶対に足を止めない。そういったことが一目で見えているに違いない。同時に、そういう姿を見て、求める水準を上げたり、練習時に特に目をかけたりされていることは想像に難くない。
そのことを裏付ける格好の材料がある。試合が終わるたびに部の掲示板に張り出されるプライズマークの一覧表である。
例えば、先日の関大戦の直後に掲示された表を見てみよう。ディフェンスでは「スタメンプラス今井、吉野に×3枚」(ゲームプラン通りプレッシャーをかけ続け、一発タッチダウンをやらず、相手を3点に抑えた)「DL寺岡、藤本、板敷、今井、大竹に×5枚」(ランプレーにも当たり勝ち、LOS上をコントロール。QBにもプレッシャーをかけ続けた。ユニットとして3サック)「LB繁治に×5枚」(よくボールに絡めていた。勝負どころでのサックもチームを助けた)「DB竹原に×5枚」(マン、ズレともに安定していた。ビンゴもタイムリーでチームを助けた)「DB渡部に×3枚」(タックルに成長が見られた。足を止めずに向かう姿勢が良くなっている)。
このほか、近大戦の追加として「北川に×3枚」(パントリターンで相手をナイスブロック)とある。
オフェンスも同様だ。ラインのスタメン全員に×3枚、亀井、三宅、斎藤に×1枚、鈴木に×5枚、鶴留、糸川と奥野に×3枚が贈られ、それぞれを評価した理由が具体的に書き込まれている。
驚くのは、試合では活躍する場面のなかった1年生OL牛尾に対する評価と、4年生DL山本と本田に対する評価。牛尾については「ほとんど出番がないが、練習を通して上達しており、評価に値する」とあり、山本と本田については「スカウトDLはOLのレベルアップのために一役かっているが、その中でも日々当たり続けた二人に」と評価されている。
試合で華々しい活躍をした選手と同様に、練習台として黙々と汗を流す選手や向上心を持って取り組むフレッシュマンにも光を当てているのがファイターズのファイターズである所以であろう。
こうした評価を試合ごとに攻撃のコーディネーターと守備のコーディネーターがきちんと行い、それを掲示板で伝えて部員の士気を鼓舞し、向上心を刺激する。それも、見た目の派手なプレーだけではなく、チームに貢献したプレー、日ごろの努力が証明されたプレー、さらにはチームを支える地味な役割にも目を向け、それを果たしている選手を目に見える形で称えているところに価値がある。
感情の赴くままに殴ったり蹴ったりしてして世間の批判を浴びているコーチとの違いがここにある。ファイターズは有能なコーチを揃えていると他のチームから評価され、学内のほかのクラブからも羨望の目で見られている理由は、こういったところにもうかがえるのだ。
逆に言えば、このように指導者の目が働いている限り、選手は言い訳も手抜きもできない。やるべきことをやり遂げ、さらなる高みを目指して練習に取り組む。どんなに苦しくても自分に課した目標はやり遂げ、仲間から託された役割をはたす。その繰り返し。それがあってこそ、試合でその力が発揮できる。その結果が試合ごとに与えられるプライズマークであり、選手はそれをヘルメットに貼り付けて自らのプライドとするのである。
さて、今週末は立命戦。天下分け目の戦いである。残された時間は短いが、まだまだやることはある。やれる時間もある。勝利に向かって全員がやるべきことをやり遂げ、清々しい気持ちで決戦に臨んでもらいたい。
週末の短い時間だけしか顔を出さない僕でさえそうだから、日々行動を共にされているコーチの目には、もっともっと多くのことが見えているはずだ。この部員はいま勢いに乗っている、練習に取り組む様子が変わってきた、笛が鳴るまで絶対に足を止めない。そういったことが一目で見えているに違いない。同時に、そういう姿を見て、求める水準を上げたり、練習時に特に目をかけたりされていることは想像に難くない。
そのことを裏付ける格好の材料がある。試合が終わるたびに部の掲示板に張り出されるプライズマークの一覧表である。
例えば、先日の関大戦の直後に掲示された表を見てみよう。ディフェンスでは「スタメンプラス今井、吉野に×3枚」(ゲームプラン通りプレッシャーをかけ続け、一発タッチダウンをやらず、相手を3点に抑えた)「DL寺岡、藤本、板敷、今井、大竹に×5枚」(ランプレーにも当たり勝ち、LOS上をコントロール。QBにもプレッシャーをかけ続けた。ユニットとして3サック)「LB繁治に×5枚」(よくボールに絡めていた。勝負どころでのサックもチームを助けた)「DB竹原に×5枚」(マン、ズレともに安定していた。ビンゴもタイムリーでチームを助けた)「DB渡部に×3枚」(タックルに成長が見られた。足を止めずに向かう姿勢が良くなっている)。
このほか、近大戦の追加として「北川に×3枚」(パントリターンで相手をナイスブロック)とある。
オフェンスも同様だ。ラインのスタメン全員に×3枚、亀井、三宅、斎藤に×1枚、鈴木に×5枚、鶴留、糸川と奥野に×3枚が贈られ、それぞれを評価した理由が具体的に書き込まれている。
驚くのは、試合では活躍する場面のなかった1年生OL牛尾に対する評価と、4年生DL山本と本田に対する評価。牛尾については「ほとんど出番がないが、練習を通して上達しており、評価に値する」とあり、山本と本田については「スカウトDLはOLのレベルアップのために一役かっているが、その中でも日々当たり続けた二人に」と評価されている。
試合で華々しい活躍をした選手と同様に、練習台として黙々と汗を流す選手や向上心を持って取り組むフレッシュマンにも光を当てているのがファイターズのファイターズである所以であろう。
こうした評価を試合ごとに攻撃のコーディネーターと守備のコーディネーターがきちんと行い、それを掲示板で伝えて部員の士気を鼓舞し、向上心を刺激する。それも、見た目の派手なプレーだけではなく、チームに貢献したプレー、日ごろの努力が証明されたプレー、さらにはチームを支える地味な役割にも目を向け、それを果たしている選手を目に見える形で称えているところに価値がある。
感情の赴くままに殴ったり蹴ったりしてして世間の批判を浴びているコーチとの違いがここにある。ファイターズは有能なコーチを揃えていると他のチームから評価され、学内のほかのクラブからも羨望の目で見られている理由は、こういったところにもうかがえるのだ。
逆に言えば、このように指導者の目が働いている限り、選手は言い訳も手抜きもできない。やるべきことをやり遂げ、さらなる高みを目指して練習に取り組む。どんなに苦しくても自分に課した目標はやり遂げ、仲間から託された役割をはたす。その繰り返し。それがあってこそ、試合でその力が発揮できる。その結果が試合ごとに与えられるプライズマークであり、選手はそれをヘルメットに貼り付けて自らのプライドとするのである。
さて、今週末は立命戦。天下分け目の戦いである。残された時間は短いが、まだまだやることはある。やれる時間もある。勝利に向かって全員がやるべきことをやり遂げ、清々しい気持ちで決戦に臨んでもらいたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:50| Comment(2)
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2019年10月30日
(26)堅い守りと一瞬の攻め
27日、満員の王子スタジアムであった関西大学との試合を一言で表せば「固い守りと、一瞬の攻め」といってもよいのではないか。それほど守備陣の健闘が目立った試合であった。攻撃陣もその固い守りに支えられ、鮮やかな決め技を見舞って勝ち切った。
前半、先攻のファイターズは、パスが通ればランが進まず、ランが進んでも、肝心の第3ダウンショートが取り切れない。陣地は進めているのに、TDに持ち込めず、フィールドゴール圏内にも進めない。あげくの果てに、相手パントの処理を誤って、ゴール付近からの攻撃に追いやられる。そんなもどかしい場面が2度、3度と続く。
並のチームなら、そんな攻撃が続けば、守備陣にも悪い影響が出てくるのに、この日の守備陣はひと味違った。ディフェンスラインの中央を寺岡、藤本ががっちり固め、両サイドの板敷や大竹が遠慮なく相手QBに襲いかかる。それに呼応してLBの繁治、海崎、アウトサイドLBの北川が狙い澄ましたようにボールキャリアに襲いかかる。最後の砦となるDB畑中は、強烈なタックルを連発する。
立命に勝って勢いに乗る関大のオフェンスも、これでは陣地が進められない。結局、前半は互いに決め手がないまま0−0でハーフタイム。
後半になると、ファイターズ守備陣がさらに勢い付く。第3Qでは相手に一度もダウンを更新させず得点を許さない。その間に、ファイターズは安藤のFGで3点を先取する。
しかし、好事魔多し。第4Q早々、安藤のパントが短く、相手にゴール前40ヤード付近からの攻撃を許してしまう。ここでも守備陣が頑張ったが、1本のパスでダウンを更新され、あげくにFGで同点にされてしまう。
やっかいな試合になったなあ、と思った瞬間、今度は攻撃陣が切れ味の鋭い攻めを見せる。最初はQB奥野。第3ダウンロングの状況で相手がパスを警戒した瞬間、一気に15ヤードを走ってダウン更新。続く自陣46ヤードからの攻撃も第3ダウン8ヤード。今度はWR糸川に地面すれすれにパスを投げ、それを糸川が好捕して再びダウン更新。
ようやく相手ゴール前41ヤード。しかし、相手に押し込まれ、またまた第3ダウンロング。今度はRB三宅が持ち前のスピードで中央を抜けて26ヤード。一気に相手ゴール前14ヤードまで攻め込む。続く攻撃は再びRBのラッシュ。小柄な斎藤が上手く中央を抜けてゴール前5ヤード。
このあたり、ようやくランアタックが機能して、押せ押せムードになってくる。残り5ヤードも、一気にランプレーで押し切ると思った瞬間、ベンチが選択したのは、奥野からWR阿部へのパス。ゴール右サイドに走り込んだ阿部に見事なパスが決まりTD。安藤のキックも決まって7点をリードする。
こうなると、守備陣も勢いづく。相手陣35ヤードから始まった最初のプレーで、LB繁治が10ヤードのQBサック。さらにもう一人のLB海崎が相手パスをカットするなどして相手を完封。相手ゴール前25ヤードという絶好の位置で攻撃権をファイターズにもたらす。最終盤になって攻守がかみ合い、押せ押せムードのファイターズ。
その勢いに乗せられたのか、続くファイターズの攻撃では、RB鶴留が一気に25ヤードを走り切ってTD。今季、パワーバックとして、相手が密集したポイントに突き刺さるようなラッシュをかけ続けた男が、この大一番で奪った止めのTDである。身長168センチ、体重89キロ。ベンチプレス152.5キロ、スクワット225キ
ロ。歴代のパワーバックの中でも、突き抜けたパワーとスピードを誇る突貫小僧がその存在感を見せつけた。
このように試合を振り返って見ると、前後半を通じて固い守りでゲームを作ったのが守備陣であり、最終盤、一瞬の隙を突いて立て続けにTDを挙げたのが攻撃陣であることがよく分かる。
それはこの試合の記録を見ても明らかである。総獲得ヤードはファイターズが310ヤード。内訳はランが139ヤード、パスが180ヤード。それに対して関大はランがマイナス8ヤード、パスが98ヤード。QBサックは計4回で、内訳は繁治10ヤード、板敷8ヤード、今井5ヤード、大竹4ヤード。インターセプトは竹原が1回記録している。
試合後、守備の要として復帰した寺岡主将が「正直、ディフェンスやっていて負ける気はしなかった。いいリズムで抑えられたと思う」といっていたのも、正直な感想だろう。
攻撃陣も、常に深い位置からの攻撃を強いられながら、オフェンスラインが踏ん張り、粘りに粘って我慢の攻撃を続けた。そしてQB、RB、WRが互いに協力して、ここぞというときにたたみかけた。その切れ味は、昨年より一段と鋭くなっているように僕には思えた。
この勢いを続く立命戦でも見せてもらいたい。なんせ相手はアニマルと呼ばれるチームである。どこに隙があるのか、どういう切り崩し方が可能なのか。分析スタッフも含め、チームの総力を挙げて対策を練り、戦術を磨いてもらいたい。まだ時間は残されている。
前半、先攻のファイターズは、パスが通ればランが進まず、ランが進んでも、肝心の第3ダウンショートが取り切れない。陣地は進めているのに、TDに持ち込めず、フィールドゴール圏内にも進めない。あげくの果てに、相手パントの処理を誤って、ゴール付近からの攻撃に追いやられる。そんなもどかしい場面が2度、3度と続く。
並のチームなら、そんな攻撃が続けば、守備陣にも悪い影響が出てくるのに、この日の守備陣はひと味違った。ディフェンスラインの中央を寺岡、藤本ががっちり固め、両サイドの板敷や大竹が遠慮なく相手QBに襲いかかる。それに呼応してLBの繁治、海崎、アウトサイドLBの北川が狙い澄ましたようにボールキャリアに襲いかかる。最後の砦となるDB畑中は、強烈なタックルを連発する。
立命に勝って勢いに乗る関大のオフェンスも、これでは陣地が進められない。結局、前半は互いに決め手がないまま0−0でハーフタイム。
後半になると、ファイターズ守備陣がさらに勢い付く。第3Qでは相手に一度もダウンを更新させず得点を許さない。その間に、ファイターズは安藤のFGで3点を先取する。
しかし、好事魔多し。第4Q早々、安藤のパントが短く、相手にゴール前40ヤード付近からの攻撃を許してしまう。ここでも守備陣が頑張ったが、1本のパスでダウンを更新され、あげくにFGで同点にされてしまう。
やっかいな試合になったなあ、と思った瞬間、今度は攻撃陣が切れ味の鋭い攻めを見せる。最初はQB奥野。第3ダウンロングの状況で相手がパスを警戒した瞬間、一気に15ヤードを走ってダウン更新。続く自陣46ヤードからの攻撃も第3ダウン8ヤード。今度はWR糸川に地面すれすれにパスを投げ、それを糸川が好捕して再びダウン更新。
ようやく相手ゴール前41ヤード。しかし、相手に押し込まれ、またまた第3ダウンロング。今度はRB三宅が持ち前のスピードで中央を抜けて26ヤード。一気に相手ゴール前14ヤードまで攻め込む。続く攻撃は再びRBのラッシュ。小柄な斎藤が上手く中央を抜けてゴール前5ヤード。
このあたり、ようやくランアタックが機能して、押せ押せムードになってくる。残り5ヤードも、一気にランプレーで押し切ると思った瞬間、ベンチが選択したのは、奥野からWR阿部へのパス。ゴール右サイドに走り込んだ阿部に見事なパスが決まりTD。安藤のキックも決まって7点をリードする。
こうなると、守備陣も勢いづく。相手陣35ヤードから始まった最初のプレーで、LB繁治が10ヤードのQBサック。さらにもう一人のLB海崎が相手パスをカットするなどして相手を完封。相手ゴール前25ヤードという絶好の位置で攻撃権をファイターズにもたらす。最終盤になって攻守がかみ合い、押せ押せムードのファイターズ。
その勢いに乗せられたのか、続くファイターズの攻撃では、RB鶴留が一気に25ヤードを走り切ってTD。今季、パワーバックとして、相手が密集したポイントに突き刺さるようなラッシュをかけ続けた男が、この大一番で奪った止めのTDである。身長168センチ、体重89キロ。ベンチプレス152.5キロ、スクワット225キ
ロ。歴代のパワーバックの中でも、突き抜けたパワーとスピードを誇る突貫小僧がその存在感を見せつけた。
このように試合を振り返って見ると、前後半を通じて固い守りでゲームを作ったのが守備陣であり、最終盤、一瞬の隙を突いて立て続けにTDを挙げたのが攻撃陣であることがよく分かる。
それはこの試合の記録を見ても明らかである。総獲得ヤードはファイターズが310ヤード。内訳はランが139ヤード、パスが180ヤード。それに対して関大はランがマイナス8ヤード、パスが98ヤード。QBサックは計4回で、内訳は繁治10ヤード、板敷8ヤード、今井5ヤード、大竹4ヤード。インターセプトは竹原が1回記録している。
試合後、守備の要として復帰した寺岡主将が「正直、ディフェンスやっていて負ける気はしなかった。いいリズムで抑えられたと思う」といっていたのも、正直な感想だろう。
攻撃陣も、常に深い位置からの攻撃を強いられながら、オフェンスラインが踏ん張り、粘りに粘って我慢の攻撃を続けた。そしてQB、RB、WRが互いに協力して、ここぞというときにたたみかけた。その切れ味は、昨年より一段と鋭くなっているように僕には思えた。
この勢いを続く立命戦でも見せてもらいたい。なんせ相手はアニマルと呼ばれるチームである。どこに隙があるのか、どういう切り崩し方が可能なのか。分析スタッフも含め、チームの総力を挙げて対策を練り、戦術を磨いてもらいたい。まだ時間は残されている。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:52| Comment(2)
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2019年10月22日
(25)指導者の哲学
先月発行されたファイターズOB会報「Fight On」103号のトップ記事は、今季限りで退任される鳥内監督へのインタビューである。
聞き手は朝日新聞スポーツ部の大西史恭記者。2007年度卒業のOBであり、甲子園ボウルであの日大に41−38で勝利し、ライスボウルでも史上最高のパスゲームを展開したチームのキッカーである。
監督の退任を前に、監督の指導を受けて社会に巣立ったOB・OGたちから「最後に何か聞いておきたいことはないか」と質問を募り、集まった質問を基に監督にインタビューして絶妙の記事にまとめている。本来はファイターズのOBだけを読者に想定した会報だが、その一問一答があまりに面白い。ぜひ、このコラムでも紹介させてもらいたいと、監督と大西記者に頼み、その了解が得られたので、そのエキスを抜粋して紹介する。
……監督人生の中で最も記憶に残っている良かったプレーは。
「ないねん。勝ったことより負けたことが残ってるねん。絶対に。いかにスポーツはメンタルが大事かってこと」
……唯一、ライスボウルに勝った試合のプレーはどうでしょうか。
「一生(榊原、TE・K)のやつ(筆者注・2001年、ライスボウルの第2Q,第4ダウン3ヤードの場面で、パンターを務めた榊原がパントを蹴るふりから中央に突っ込み、DLをはじき倒してダウンを更新、一気に流れを引き寄せたプレー)もな、勝手にやれって言うてるねん。行けそうやったら行けって。でも、あれで行くかと思ったけど。まだ、大分残ってたらからな」
……良かったこと、何か絞り出してください」
「なんやろう…石田力哉のLB作戦やな。なんでもできるやつはやらせたらええねんってことよく分かったわ」
……良かった試合もないですか。
「うーん、ないな。いや、勝って当たり前でやってるやん。勝って当たり前やから、良かったとかちゃうねん」
……日々の癒やしはなんですか。
「酒飲んで、寝てる。気分転換やな。ずっとおったら考えてしまうねん。大村にも寝れるかと聞いたことあんねん。小野も堀口も、大寺も神田も、責任者はみな寝られへんと思うで。香山も同じやと思う」
……自分をどういう性格だと思っていますか。
「ずる賢くなかったら、やってられへん。スポーツはみな、そうやねん。だましあいやってんねんから」「俺は周りを気にしてない。気にしたら、やってられへん。どう見られるか、って行動なんかしてない。なんかあれば言うてきたらええやん、と」
……4年生との個人面談について。
「目見て話さな分からへん。心の中まで知りたいなら、目見て話さな分からへんで」
……勝ち続ける秘訣は。
「秘訣ちゃうねん。毎年毎年、勝ちたいねん。それだけのことや。毎年、俺らも甲子園出たいという4年生の気持ちが長い歴史につながってるねん。OBの歴史を自分が一緒に背負っていった時に初めてパワーくれるねん。これはよそのチームにないこと。俺もファイターズやねん。俺の代では負けるわけにはいけへんねん、というだけのことや」
……今後のファイターズにどうなってほしいか。
「このまま勝っていってほしい。それと同時に、どんな人間をつくっていくのか。勝つためにはリーダーになれる人材を育てないとあかん。フットボールというツールを使いながら、そいつの人間的成長を手助けしてあげるだけや。社会に迷惑をかけへん。社会に役立つ人間を育てる。それが世界で活躍する。世界に目を向けてやってほしいな」
ざっとこんな話である。途中、はしょったところもあるが、鳥内さんの指導者としての哲学が随所に表れている。選手として、監督から直接の指導を受けた記者ならではのインタビューであり、内輪を良く理解している取材記者だからこそ、監督も心を開いて答えていることが良く分かる。
監督として27年、その前のコーチの時代から数えれば34年にも及ぶ指導者生活。その中には、監督として学生の成長を手助けするだけでなく、高い能力を有した何人ものOBをチームに迎え入れてチームを強化し、同時にファイターズという組織を運営するための人材を育ててきた歴史も含まれる。
そこに一貫しているのが、勝ちたいのは選手であり、監督やコーチはそれを手伝うだけ、という哲学であろう。それが最後の「フットボールを通じて、その人間的成長を手助けしてあげるだけや」という言葉に集約されている。
主役はあくまでファイタ−ズの部員。その勝ちたいという気持ちが本物か否か。今季の天下を分ける戦いは目前に迫っている。
聞き手は朝日新聞スポーツ部の大西史恭記者。2007年度卒業のOBであり、甲子園ボウルであの日大に41−38で勝利し、ライスボウルでも史上最高のパスゲームを展開したチームのキッカーである。
監督の退任を前に、監督の指導を受けて社会に巣立ったOB・OGたちから「最後に何か聞いておきたいことはないか」と質問を募り、集まった質問を基に監督にインタビューして絶妙の記事にまとめている。本来はファイターズのOBだけを読者に想定した会報だが、その一問一答があまりに面白い。ぜひ、このコラムでも紹介させてもらいたいと、監督と大西記者に頼み、その了解が得られたので、そのエキスを抜粋して紹介する。
……監督人生の中で最も記憶に残っている良かったプレーは。
「ないねん。勝ったことより負けたことが残ってるねん。絶対に。いかにスポーツはメンタルが大事かってこと」
……唯一、ライスボウルに勝った試合のプレーはどうでしょうか。
「一生(榊原、TE・K)のやつ(筆者注・2001年、ライスボウルの第2Q,第4ダウン3ヤードの場面で、パンターを務めた榊原がパントを蹴るふりから中央に突っ込み、DLをはじき倒してダウンを更新、一気に流れを引き寄せたプレー)もな、勝手にやれって言うてるねん。行けそうやったら行けって。でも、あれで行くかと思ったけど。まだ、大分残ってたらからな」
……良かったこと、何か絞り出してください」
「なんやろう…石田力哉のLB作戦やな。なんでもできるやつはやらせたらええねんってことよく分かったわ」
……良かった試合もないですか。
「うーん、ないな。いや、勝って当たり前でやってるやん。勝って当たり前やから、良かったとかちゃうねん」
……日々の癒やしはなんですか。
「酒飲んで、寝てる。気分転換やな。ずっとおったら考えてしまうねん。大村にも寝れるかと聞いたことあんねん。小野も堀口も、大寺も神田も、責任者はみな寝られへんと思うで。香山も同じやと思う」
……自分をどういう性格だと思っていますか。
「ずる賢くなかったら、やってられへん。スポーツはみな、そうやねん。だましあいやってんねんから」「俺は周りを気にしてない。気にしたら、やってられへん。どう見られるか、って行動なんかしてない。なんかあれば言うてきたらええやん、と」
……4年生との個人面談について。
「目見て話さな分からへん。心の中まで知りたいなら、目見て話さな分からへんで」
……勝ち続ける秘訣は。
「秘訣ちゃうねん。毎年毎年、勝ちたいねん。それだけのことや。毎年、俺らも甲子園出たいという4年生の気持ちが長い歴史につながってるねん。OBの歴史を自分が一緒に背負っていった時に初めてパワーくれるねん。これはよそのチームにないこと。俺もファイターズやねん。俺の代では負けるわけにはいけへんねん、というだけのことや」
……今後のファイターズにどうなってほしいか。
「このまま勝っていってほしい。それと同時に、どんな人間をつくっていくのか。勝つためにはリーダーになれる人材を育てないとあかん。フットボールというツールを使いながら、そいつの人間的成長を手助けしてあげるだけや。社会に迷惑をかけへん。社会に役立つ人間を育てる。それが世界で活躍する。世界に目を向けてやってほしいな」
ざっとこんな話である。途中、はしょったところもあるが、鳥内さんの指導者としての哲学が随所に表れている。選手として、監督から直接の指導を受けた記者ならではのインタビューであり、内輪を良く理解している取材記者だからこそ、監督も心を開いて答えていることが良く分かる。
監督として27年、その前のコーチの時代から数えれば34年にも及ぶ指導者生活。その中には、監督として学生の成長を手助けするだけでなく、高い能力を有した何人ものOBをチームに迎え入れてチームを強化し、同時にファイターズという組織を運営するための人材を育ててきた歴史も含まれる。
そこに一貫しているのが、勝ちたいのは選手であり、監督やコーチはそれを手伝うだけ、という哲学であろう。それが最後の「フットボールを通じて、その人間的成長を手助けしてあげるだけや」という言葉に集約されている。
主役はあくまでファイタ−ズの部員。その勝ちたいという気持ちが本物か否か。今季の天下を分ける戦いは目前に迫っている。
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2019年10月16日
(24)努力は報われる
13日の日曜日、台風が通り過ぎた後の王子スタジアムで、久々に「パスの関学」のすごさを見せてもらった。
驚いたのがファイターズ最初の攻撃。自陣29ヤードから始まったシリーズの第1プレーがQB奥野からWR鈴木へのロングパス。それが見事に決まって71ヤードのTD。長い間、ファイターズの試合を見てきたが、こんな場面の一部始終を現場で目撃したのは初めてだ。投げる方も思い切りよく投げたが、受ける方も完璧。奥野の速くて正確なパスをいつも練習を共にしている鈴木がトップスピードでキャッチし、そのままの勢いで相手デフェンスを抜き去った。
次の攻撃シリーズ。今度は4年生のWR阿部が見せる。同じく奥野が攻撃側から見て右のゴールラインに走り込む阿部に投じた30ヤードのパスが見事にヒット。今度はキャッチと同時に審判の両手が上がってTD。安藤のキックも決まって14−0と引き離す。
守備の第一列には、この1年間、けがで休んでいた主将の寺岡が戻り、藤本や板敷らも復帰して、ようやく本来の先発メンバーがそろってきた。LBにも前回は休んでいた海崎が戻って、繁治との二枚看板がそろう。DBも副将、畑中を中心にほぼメンバーが固定され、守備陣の全体が引き締まってきた。立ち上がりこそ、近大に16ヤードを走られたが、あとはダウンを更新されることもないままリズムよく守り、攻撃権を取り戻す。
守備陣が安定すると、攻撃陣にもリズムが出てくる。ファイターズ3度目の攻撃シリーズでは、今季初登場のRB渡邊が元気に走り、RB三宅もスピードに乗った走りを見せる。相手守備陣がランプレーを警戒した瞬間、今度は阿部への短いパスでダウンを更新。相手ゴール前27ヤードと迫ったところで、続けて阿部へのパス。その前のTDパスとほとんど同じコースだったが、余裕でキャッチしてTD。第1Qだけで21−0と引き離す。
第2シリーズに入っても守備陣の動きは素早い。相手キッカーが蹴ったパントをブロックし、相手攻撃陣に自陣2ヤードからの攻撃を強いる。相手はこの危険地帯から懸命に抜け出そうとするが、そうはさせないのがこの日のファイターズディフェンス。相手ゴール内でパントをブロックし、セイフティで2点をもぎ取る。
しかし攻撃陣はここからがピリッとしない。大量にリードしながら、相次ぐ反則でリズムを失い、なかなか決め手がつかめない。ずるずると後退する場面が続いたが、これを食い止めたのが、奥野と三宅の3年生コンビ。奥野が投げた短いパスを三宅がハーフラインを過ぎたあたりでキャッチ。即座に加速して一気に相手ディフェンスを抜き去る。スピードとパワーを兼ね揃えた独走TDに結びつけた。
場内で開設しているファイターズのミニFM局を担当している小野ディレクターが「三宅君は今季、一段とスピードが上がりましたね」と解説されていたが、まさにその通り。OLが開いたピンポイントの隙間を抜けた瞬間、トップスピードに乗って走る姿は、昨季のエースランナー、山口君を思わせる迫力がある。この日、ランとパスレシーブで154ヤードを記録したのも、そのスピードがあってこそとうなずける。
得点は第3Q半ばまでに37−0。そこからファイターズがどんどん2枚目、3枚目の選手を投入する。故障などでずっとベンチを離れていた選手もいるし、今後の活躍が期待される1、2年生もいる。その中で、僕が注目していたのは、寺岡主将と同様、けがで1年以上も戦列を離れていたDB吉野と、これも出場機会が激減していた4年生DLの今井。
吉野は守備について間もなく、値千金のインターセプトTDを決めたし、今井君も鋭い出足で相手を吹き飛ばす。ともに4年生、最後のシーズンにかける思いの詰まったプレーで期待に応えてくれる。試合に出られない苦しさに耐え、黙々と練習をしてきた成果でもあろう。まだまだ本調子ではないかも知れないが、これから続くライバルとの戦いに、経験豊富な二人が戻ってくれば、大いに期待が持てる。
二人に限らない。この日、立ち上がりから目の覚めるようなプレーを連発したQB奥野、WR阿部と鈴木。地味な存在ながら、与えられた役割を確実に果たしたQB兼パンター兼ホールダーの中岡。そしてK安藤。彼らはチーム練習の始まる2時間も前からグラウンドに現れ、営々とパスを投げ、キャッチし、ボールを蹴っているメンバーである。全体の練習が始まる頃には、もう一仕事終えた状態と言ってもよいほどだが、もちろんチーム練習も一切手を抜くことなく、誠実に務める。
オフェンス、ディフェンスの上級生メンバーも同様だ。何度も何度も実戦を想定した動きを反復し、より速く、より強く当たることに集中している。そういう背景を持った面々が試合で活躍する。「練習は裏切らない」という言葉を実感した試合だった。
一方で、この試合でも続出した反則もまた、練習時から少なからず起きている。練習時と同じメンバーが実戦でも同じ反則を犯すというのもまた、別の意味で「練習は裏切らない」という言葉の表れである。
リーグ戦は、これからの2試合が勝負である。熱と魂のこもった練習に取り組み、悔いなく戦える準備をしてもらいたい。そして、よい意味での「練習は裏切らない」を実証してもらいたい。
驚いたのがファイターズ最初の攻撃。自陣29ヤードから始まったシリーズの第1プレーがQB奥野からWR鈴木へのロングパス。それが見事に決まって71ヤードのTD。長い間、ファイターズの試合を見てきたが、こんな場面の一部始終を現場で目撃したのは初めてだ。投げる方も思い切りよく投げたが、受ける方も完璧。奥野の速くて正確なパスをいつも練習を共にしている鈴木がトップスピードでキャッチし、そのままの勢いで相手デフェンスを抜き去った。
次の攻撃シリーズ。今度は4年生のWR阿部が見せる。同じく奥野が攻撃側から見て右のゴールラインに走り込む阿部に投じた30ヤードのパスが見事にヒット。今度はキャッチと同時に審判の両手が上がってTD。安藤のキックも決まって14−0と引き離す。
守備の第一列には、この1年間、けがで休んでいた主将の寺岡が戻り、藤本や板敷らも復帰して、ようやく本来の先発メンバーがそろってきた。LBにも前回は休んでいた海崎が戻って、繁治との二枚看板がそろう。DBも副将、畑中を中心にほぼメンバーが固定され、守備陣の全体が引き締まってきた。立ち上がりこそ、近大に16ヤードを走られたが、あとはダウンを更新されることもないままリズムよく守り、攻撃権を取り戻す。
守備陣が安定すると、攻撃陣にもリズムが出てくる。ファイターズ3度目の攻撃シリーズでは、今季初登場のRB渡邊が元気に走り、RB三宅もスピードに乗った走りを見せる。相手守備陣がランプレーを警戒した瞬間、今度は阿部への短いパスでダウンを更新。相手ゴール前27ヤードと迫ったところで、続けて阿部へのパス。その前のTDパスとほとんど同じコースだったが、余裕でキャッチしてTD。第1Qだけで21−0と引き離す。
第2シリーズに入っても守備陣の動きは素早い。相手キッカーが蹴ったパントをブロックし、相手攻撃陣に自陣2ヤードからの攻撃を強いる。相手はこの危険地帯から懸命に抜け出そうとするが、そうはさせないのがこの日のファイターズディフェンス。相手ゴール内でパントをブロックし、セイフティで2点をもぎ取る。
しかし攻撃陣はここからがピリッとしない。大量にリードしながら、相次ぐ反則でリズムを失い、なかなか決め手がつかめない。ずるずると後退する場面が続いたが、これを食い止めたのが、奥野と三宅の3年生コンビ。奥野が投げた短いパスを三宅がハーフラインを過ぎたあたりでキャッチ。即座に加速して一気に相手ディフェンスを抜き去る。スピードとパワーを兼ね揃えた独走TDに結びつけた。
場内で開設しているファイターズのミニFM局を担当している小野ディレクターが「三宅君は今季、一段とスピードが上がりましたね」と解説されていたが、まさにその通り。OLが開いたピンポイントの隙間を抜けた瞬間、トップスピードに乗って走る姿は、昨季のエースランナー、山口君を思わせる迫力がある。この日、ランとパスレシーブで154ヤードを記録したのも、そのスピードがあってこそとうなずける。
得点は第3Q半ばまでに37−0。そこからファイターズがどんどん2枚目、3枚目の選手を投入する。故障などでずっとベンチを離れていた選手もいるし、今後の活躍が期待される1、2年生もいる。その中で、僕が注目していたのは、寺岡主将と同様、けがで1年以上も戦列を離れていたDB吉野と、これも出場機会が激減していた4年生DLの今井。
吉野は守備について間もなく、値千金のインターセプトTDを決めたし、今井君も鋭い出足で相手を吹き飛ばす。ともに4年生、最後のシーズンにかける思いの詰まったプレーで期待に応えてくれる。試合に出られない苦しさに耐え、黙々と練習をしてきた成果でもあろう。まだまだ本調子ではないかも知れないが、これから続くライバルとの戦いに、経験豊富な二人が戻ってくれば、大いに期待が持てる。
二人に限らない。この日、立ち上がりから目の覚めるようなプレーを連発したQB奥野、WR阿部と鈴木。地味な存在ながら、与えられた役割を確実に果たしたQB兼パンター兼ホールダーの中岡。そしてK安藤。彼らはチーム練習の始まる2時間も前からグラウンドに現れ、営々とパスを投げ、キャッチし、ボールを蹴っているメンバーである。全体の練習が始まる頃には、もう一仕事終えた状態と言ってもよいほどだが、もちろんチーム練習も一切手を抜くことなく、誠実に務める。
オフェンス、ディフェンスの上級生メンバーも同様だ。何度も何度も実戦を想定した動きを反復し、より速く、より強く当たることに集中している。そういう背景を持った面々が試合で活躍する。「練習は裏切らない」という言葉を実感した試合だった。
一方で、この試合でも続出した反則もまた、練習時から少なからず起きている。練習時と同じメンバーが実戦でも同じ反則を犯すというのもまた、別の意味で「練習は裏切らない」という言葉の表れである。
リーグ戦は、これからの2試合が勝負である。熱と魂のこもった練習に取り組み、悔いなく戦える準備をしてもらいたい。そして、よい意味での「練習は裏切らない」を実証してもらいたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 06:07| Comment(4)
| in 2019 Season
2019年10月07日
(23)うれしいニュース
今週のファイターズホームページのトップに、二人の選手が登場している。3年生のOL高木慶太君とRB三宅昴輝君である。二人が並んで“表紙”を飾っているのを見て、僕は特別の感慨を覚えた。
どういうことか。実は二人とも僕が今春まで、関西学院大学で受け持っていた「文章表現論」を過去に受講した学生であり、共に書く回数を重ねるたびに、文章を書く力が伸びていったことを記憶しているからである。
僕は朝日新聞を定年で退職して以降、ずっと和歌山県田辺市にある紀伊民報で新聞記者をしている。その傍ら、関学でも10年以上前から今春まで、非常勤講師として「文章表現論」という講座を担当。学生たちに文章を書くことについて、現場からのアドバイスをしてきた。
自分で言うのも何だが、結構な人気講座で、毎学期ごとに定員の4〜5倍の受講申し込みがあり、抽選で定員一杯の受講生を選んでいた。
この3年間、現役の部員で受講してくれたメンバーには、4年生では寺岡主将をはじめマネジャーの安在君、OL川部君、DL藤本君、RB渡邊君、LBの藤田優貴君と田中君、DBの山本君と久下君といった名前が思い浮かぶ。3年生になると、上記の二人のほか選手ではWR高木宏規君、RB鶴留君、スタッフでは井上君、末吉君、島谷君、前川君。そして2年生の荻原さん。ほかに高等部や中学部、啓明学院でコーチをしているメンバーも数人が受講していた。
一般の受講生を含めて出席率は高く、回を重ねるごとにそれがさらに高くなって行くのが、僕にとってはささやかな自慢だった。ファイターズの部員も、最近受講した面々は出席率もよく、毎週書き上げる800字の小論文の内容も、回を重ねるごとに上達していった。それもまた、僕にとってはうれしいことだった。
一般の受講生の中には、毎回、信じられないほど上手な文章を書く学生がいたし、半面、書くことがまったく苦手という受講生も少なくなかった。60分という制限時間に800字の文章がまとめきれない学生もいたし、内容はいま一歩でも、なんとか頑張って書き上げる学生もいた。
それは、ファイターズの諸君も同様で、いま名前を挙げた部員の中にも、書くことに苦しむ部員は何人もいた。
しかし、素晴らしいのは、上記の諸君のうち、誰一人として「今日は書ききれません」と音を上げたことがなかったことだ。急なミーティングで欠席することはあっても、次の回には必ず欠席した日の課題を仕上げて提出したし、今春卒業したWR小田君のように、60分の制限時間内に2回分の小論文を一気に仕上げる猛者もいた。
そうした受講生の中で、とりわけ僕が目を見張ったのが最初に紹介した三宅君と高木君、そしてWRの高木君だった。寺岡主将も含め、彼らは毎回、特別の輝きはないけれども、愚直な生活態度と考え方に裏付けられた文章を仕上げてくれた。その文章を読ませてもらうたびに「こういうきまじめな文章が書けるのは、部活も含めて、日々の生活が充実しているからに違いない」と確信していた。
そうした見方、考え方は、グラウンドに出掛けて彼らの練習に対する取り組みを見ているときにも、頭から離れなかった。今回、彼ら二人が並んでホームページの“表紙”を飾り、チームの仲間からも彼らの取り組みが評価されているのを見て、特別の感慨を持ったのは、そういう事情が背景にあるからだ。
ファイターズは、全国に聞こえたフットボールの名門である。それは過去の先輩たちが築いてきた名声であり、それを連綿と受け継いできた後輩たちが毎年の厳しい戦いを乗り越えて繋いできたバトンである。
けれども、それが高く評価されるのは、運動競技のプロとしてではなく、本来の意味での大学の課外活動として取り組んできたからであり、だからこそ現役の学生、コーチらは日々「文武両道」を目指して活動しているのである。
その「文」の面での取り組みを指導する側から評価してきた選手が「武」の面でもチームから高い評価を受けている。彼らの「文」の一端を知っている僕にとっては、それがなによりもうれしいのである。
どういうことか。実は二人とも僕が今春まで、関西学院大学で受け持っていた「文章表現論」を過去に受講した学生であり、共に書く回数を重ねるたびに、文章を書く力が伸びていったことを記憶しているからである。
僕は朝日新聞を定年で退職して以降、ずっと和歌山県田辺市にある紀伊民報で新聞記者をしている。その傍ら、関学でも10年以上前から今春まで、非常勤講師として「文章表現論」という講座を担当。学生たちに文章を書くことについて、現場からのアドバイスをしてきた。
自分で言うのも何だが、結構な人気講座で、毎学期ごとに定員の4〜5倍の受講申し込みがあり、抽選で定員一杯の受講生を選んでいた。
この3年間、現役の部員で受講してくれたメンバーには、4年生では寺岡主将をはじめマネジャーの安在君、OL川部君、DL藤本君、RB渡邊君、LBの藤田優貴君と田中君、DBの山本君と久下君といった名前が思い浮かぶ。3年生になると、上記の二人のほか選手ではWR高木宏規君、RB鶴留君、スタッフでは井上君、末吉君、島谷君、前川君。そして2年生の荻原さん。ほかに高等部や中学部、啓明学院でコーチをしているメンバーも数人が受講していた。
一般の受講生を含めて出席率は高く、回を重ねるごとにそれがさらに高くなって行くのが、僕にとってはささやかな自慢だった。ファイターズの部員も、最近受講した面々は出席率もよく、毎週書き上げる800字の小論文の内容も、回を重ねるごとに上達していった。それもまた、僕にとってはうれしいことだった。
一般の受講生の中には、毎回、信じられないほど上手な文章を書く学生がいたし、半面、書くことがまったく苦手という受講生も少なくなかった。60分という制限時間に800字の文章がまとめきれない学生もいたし、内容はいま一歩でも、なんとか頑張って書き上げる学生もいた。
それは、ファイターズの諸君も同様で、いま名前を挙げた部員の中にも、書くことに苦しむ部員は何人もいた。
しかし、素晴らしいのは、上記の諸君のうち、誰一人として「今日は書ききれません」と音を上げたことがなかったことだ。急なミーティングで欠席することはあっても、次の回には必ず欠席した日の課題を仕上げて提出したし、今春卒業したWR小田君のように、60分の制限時間内に2回分の小論文を一気に仕上げる猛者もいた。
そうした受講生の中で、とりわけ僕が目を見張ったのが最初に紹介した三宅君と高木君、そしてWRの高木君だった。寺岡主将も含め、彼らは毎回、特別の輝きはないけれども、愚直な生活態度と考え方に裏付けられた文章を仕上げてくれた。その文章を読ませてもらうたびに「こういうきまじめな文章が書けるのは、部活も含めて、日々の生活が充実しているからに違いない」と確信していた。
そうした見方、考え方は、グラウンドに出掛けて彼らの練習に対する取り組みを見ているときにも、頭から離れなかった。今回、彼ら二人が並んでホームページの“表紙”を飾り、チームの仲間からも彼らの取り組みが評価されているのを見て、特別の感慨を持ったのは、そういう事情が背景にあるからだ。
ファイターズは、全国に聞こえたフットボールの名門である。それは過去の先輩たちが築いてきた名声であり、それを連綿と受け継いできた後輩たちが毎年の厳しい戦いを乗り越えて繋いできたバトンである。
けれども、それが高く評価されるのは、運動競技のプロとしてではなく、本来の意味での大学の課外活動として取り組んできたからであり、だからこそ現役の学生、コーチらは日々「文武両道」を目指して活動しているのである。
その「文」の面での取り組みを指導する側から評価してきた選手が「武」の面でもチームから高い評価を受けている。彼らの「文」の一端を知っている僕にとっては、それがなによりもうれしいのである。
posted by コラム「スタンドから」 at 23:37| Comment(4)
| in 2019 Season
2019年10月02日
(22)記憶に刻む場面
9月29日の夜、神戸大学との試合が終わった後のことである。双方の応援団によるエールの交換が終わり、選手全員がサイドライン際に整列して応援席に向って深々と頭を下げ、寺岡主将が「本日は応援ありがとうございました」とお礼を述べた。
ここまでは、普段と同じ光景だったが、この日はこれだけでは終わらなかった。寺岡主将の「ハドル」というひと声で、選手全員が集まり、ハドルを組んだ。いわば公式のあいさつ、セレモニーを終えた後、今度はチームの全員でこの日の試合をどのように総括し、今後、どのようにチームをつくりあげて行くのかと全員に問い掛けたのである。
中央で、しばらく全員を見つめ、黙って噴き出る汗と涙をぬぐう主将。それはたったいま、味わった苦しい現実を受け止め、自らを落ち着かせ、語るべき言葉を探すための時間であったのだろう。守備の要を担うプレーヤーとして、グラウンドで苦しむ仲間を奮い立たせたいと願いながら、けがでグラウンドに立てなかった悔しさをかみしめる時間でもあっただろう。
やがて顔を上げ、チームの全員に語りかける主将の表情が僕の目に焼き付いている。その言葉、決意もハドルの後ろで聞かせてもらったが、僕にはその言葉よりも、彼の苦しみに満ちた表情が全てを語っているように思えた。
主将を注視し、彼が腹の底から絞り出す言葉を聞いている選手も、多分、同じ思いだったのではないか。試合に出て背中でチームを引っ張ることのできない主将をここまで追い詰めてはならない。これ以上、主将を苦しめてはならない。自分のやれることは全てやろう。やれなかったことにも全力で取り組み、今度は主将の気持ちに答えてみせる。そんなことをチームの全員が自分に誓った時間であったと、僕は思いたい。
試合は、攻守とも存分にファイターズを研究し、自分たちの長所を最大限に発揮するためのプレーを準備してきた神戸大にいいように振り回された。
立ち上がりは、ファイターズペース。守備は相手攻撃を完封し、攻撃陣もいきなりRB三宅が23ヤードを走る。続いてQB奥野からWR鈴木へのパス。わずか2プレーで相手陣24ヤード。そこからRB三宅、斎藤が走ってゴール前10ヤードに迫る。
しかし、ここから手痛いミス。奥野からWR阿部へのパスが相手に奪われ、攻守交代。せっかくの先制機を自ら手放してしまう。
守備陣もやることがちぐはぐだ。せっかく2年生DB竹原が鋭い出足で相手QBをサックしたのに、上級生がつまらない反則をしてリズムを崩す。彼は、前回の京都大学との試合でも、素晴らしいプレーを見せたが、その際にも同じようなアクションをしており、首脳陣から注意を受けたばかり。こんなことを続けていると、チームはバラバラになるぞ、と懸念が募る。
それでもこの場面は、守備陣の奮闘で何とかしのぎ、再び、ファイターズの攻撃。2Qに入って最初のプレーで奥野がWR糸川に14ヤードのパスを決めて相手陣45ヤード。そこから斎藤が45ヤードを独走してTD。K安藤のキックも決まって7−0。ようやくファイターズが先制に成功する。
しかし、この日の相手は、動きに自信がある。自分たちのやってきたことを信じて、攻守ともに確信を持ったプレーを展開。攻撃が進まない場合でもパントもファイターズ陣奥深くまで蹴り込んで陣地を挽回する。
逆に、ファイターズは思うような試合展開にならず、次第に浮き足立ってくる。何とか窮地を抜け出したいと焦ったQBの反則もあってセーフティーをとられ、7−2。勢いづいて神戸は意表を突くスクリーンパスなどで陣地を進め、仕上げは48ヤードのTDパス。8−7と逆転し、前半終了。
後半に入っても神戸の勢いは衰えない。攻守とも思い切ったプレーを連発してファイターズの面々を振り回す。逆に、ファイターズの攻撃は手詰まりになっていく。
ようやく3Qも半ばとなったあたりで奥野から阿部へのパスが2本、立て続けに通る。仕上げはWR鈴木への23ヤードパス。これが決まって14−8。奥野は、最も信頼している二人に確信を持ったパスを投げ、ピンポイントで投げ込まれた速いパスを阿部と鈴木が確実に確保する。上ヶ原の練習時に取り組んでいるプレーをそのまま再現したコールであり、僕は思わず「練習は裏切らない」と独り言をいっていた。
それでも結果は17−15。相手にフィールドゴールを決められたら、そのまま逆転負けという辛勝である。
自らのミスで墓穴を掘り、傲慢な態度で相手に付け入る隙を与える。それを食い止めるのが経験を積んだ上級生の役割だが、それも十分に機能しない。監督が試合後、思わず口にされた「普段からチーム全員が甘いねん。4年生があれだけおって、半分以上が足を引っ張っとる」という言葉通りの試合内容に、チームを率いる主将も、悔しさがこみ上げたに違いない。
この悔しさをどれだけの部員が共有し、新たな戦いへのエネルギーとしていくか。ポイントはそこにある。
試合後、寺岡主将が涙をこらえ、声を振り絞って訴えた言葉を、チームの全員が「わがこと」と出来るかどうか。「わがこと」と受け止めた部員が、それをどのように行動に表し、練習に取り組み、試合で実現するか。
勝負はこれからだ。ファイターズの名簿に名前を連ねているのは伊達ではない。チームの全員が火の玉になって取り組んでくれることを願っている。
ここまでは、普段と同じ光景だったが、この日はこれだけでは終わらなかった。寺岡主将の「ハドル」というひと声で、選手全員が集まり、ハドルを組んだ。いわば公式のあいさつ、セレモニーを終えた後、今度はチームの全員でこの日の試合をどのように総括し、今後、どのようにチームをつくりあげて行くのかと全員に問い掛けたのである。
中央で、しばらく全員を見つめ、黙って噴き出る汗と涙をぬぐう主将。それはたったいま、味わった苦しい現実を受け止め、自らを落ち着かせ、語るべき言葉を探すための時間であったのだろう。守備の要を担うプレーヤーとして、グラウンドで苦しむ仲間を奮い立たせたいと願いながら、けがでグラウンドに立てなかった悔しさをかみしめる時間でもあっただろう。
やがて顔を上げ、チームの全員に語りかける主将の表情が僕の目に焼き付いている。その言葉、決意もハドルの後ろで聞かせてもらったが、僕にはその言葉よりも、彼の苦しみに満ちた表情が全てを語っているように思えた。
主将を注視し、彼が腹の底から絞り出す言葉を聞いている選手も、多分、同じ思いだったのではないか。試合に出て背中でチームを引っ張ることのできない主将をここまで追い詰めてはならない。これ以上、主将を苦しめてはならない。自分のやれることは全てやろう。やれなかったことにも全力で取り組み、今度は主将の気持ちに答えてみせる。そんなことをチームの全員が自分に誓った時間であったと、僕は思いたい。
試合は、攻守とも存分にファイターズを研究し、自分たちの長所を最大限に発揮するためのプレーを準備してきた神戸大にいいように振り回された。
立ち上がりは、ファイターズペース。守備は相手攻撃を完封し、攻撃陣もいきなりRB三宅が23ヤードを走る。続いてQB奥野からWR鈴木へのパス。わずか2プレーで相手陣24ヤード。そこからRB三宅、斎藤が走ってゴール前10ヤードに迫る。
しかし、ここから手痛いミス。奥野からWR阿部へのパスが相手に奪われ、攻守交代。せっかくの先制機を自ら手放してしまう。
守備陣もやることがちぐはぐだ。せっかく2年生DB竹原が鋭い出足で相手QBをサックしたのに、上級生がつまらない反則をしてリズムを崩す。彼は、前回の京都大学との試合でも、素晴らしいプレーを見せたが、その際にも同じようなアクションをしており、首脳陣から注意を受けたばかり。こんなことを続けていると、チームはバラバラになるぞ、と懸念が募る。
それでもこの場面は、守備陣の奮闘で何とかしのぎ、再び、ファイターズの攻撃。2Qに入って最初のプレーで奥野がWR糸川に14ヤードのパスを決めて相手陣45ヤード。そこから斎藤が45ヤードを独走してTD。K安藤のキックも決まって7−0。ようやくファイターズが先制に成功する。
しかし、この日の相手は、動きに自信がある。自分たちのやってきたことを信じて、攻守ともに確信を持ったプレーを展開。攻撃が進まない場合でもパントもファイターズ陣奥深くまで蹴り込んで陣地を挽回する。
逆に、ファイターズは思うような試合展開にならず、次第に浮き足立ってくる。何とか窮地を抜け出したいと焦ったQBの反則もあってセーフティーをとられ、7−2。勢いづいて神戸は意表を突くスクリーンパスなどで陣地を進め、仕上げは48ヤードのTDパス。8−7と逆転し、前半終了。
後半に入っても神戸の勢いは衰えない。攻守とも思い切ったプレーを連発してファイターズの面々を振り回す。逆に、ファイターズの攻撃は手詰まりになっていく。
ようやく3Qも半ばとなったあたりで奥野から阿部へのパスが2本、立て続けに通る。仕上げはWR鈴木への23ヤードパス。これが決まって14−8。奥野は、最も信頼している二人に確信を持ったパスを投げ、ピンポイントで投げ込まれた速いパスを阿部と鈴木が確実に確保する。上ヶ原の練習時に取り組んでいるプレーをそのまま再現したコールであり、僕は思わず「練習は裏切らない」と独り言をいっていた。
それでも結果は17−15。相手にフィールドゴールを決められたら、そのまま逆転負けという辛勝である。
自らのミスで墓穴を掘り、傲慢な態度で相手に付け入る隙を与える。それを食い止めるのが経験を積んだ上級生の役割だが、それも十分に機能しない。監督が試合後、思わず口にされた「普段からチーム全員が甘いねん。4年生があれだけおって、半分以上が足を引っ張っとる」という言葉通りの試合内容に、チームを率いる主将も、悔しさがこみ上げたに違いない。
この悔しさをどれだけの部員が共有し、新たな戦いへのエネルギーとしていくか。ポイントはそこにある。
試合後、寺岡主将が涙をこらえ、声を振り絞って訴えた言葉を、チームの全員が「わがこと」と出来るかどうか。「わがこと」と受け止めた部員が、それをどのように行動に表し、練習に取り組み、試合で実現するか。
勝負はこれからだ。ファイターズの名簿に名前を連ねているのは伊達ではない。チームの全員が火の玉になって取り組んでくれることを願っている。
posted by コラム「スタンドから」 at 15:08| Comment(5)
| in 2019 Season
2019年09月23日
(21)評価の難しい試合
京大との試合が終わった後、監督やコーチの話を聞こうとグラウンドに降りると、親しくしている新聞記者がいた。普段の人なつこい表情とは違って、苦虫をかみつぶしたような顔をしている。
「久しぶり。元気か」と声を掛けると、挨拶もそこそこに「見所のない試合でしたね」「これが鳥内監督最後の関京戦か、と思うと残念ですわ」と口を開く。
彼にとって、京大と関学の戦いとは、ほかのどの試合にも増して、血湧き肉躍る試合。選手もスタッフも、もちろんコーチも監督も、いわばチームを挙げて特別の思いで臨む特別の試合である。それがシーズン開幕3戦目、まだまだ双方ともに発展途上の状態で戦い、双方ともにつまらない反則やミスで好機をつぶし合う試合展開に我慢がならなかったようだ。
確かに、立ち上がりから、双方に「防げるはずの」ミスが出た。最初につまずいたのが先攻の京大。わずか2プレーでダウンを更新し、ハーフライン付近まで進んだのはいいが、そこから一気に陣地を進めようとしたパスの手元が狂う。それを逃さずDB平尾がインターセプト。相手守備陣はそれでもくじけず、関学に前進を許さない。簡単にパントに追い込み、再び京大の攻撃。
「相手に振り回されている。いやだな」と思った瞬間、ここでLBのファインプレーが出る。相手ランプレーの動きだしを見切って、一直線でRBに突撃し、ロスタックル。そこで第4ダウン。たまらず相手はゴールライン間際からのパントを選択するが、そこで相手に致命的なミスが出る。パンターがボールをファンブルし、自らボールをリカバーせざるを得なかった。棚ぼたのようなゴール前2ヤードからRB三宅が中央を突破しTD。K安藤のキックで1点を追加し、7−0とリードする。
思わぬ形で先制点を手にしたファイターズは、次の京大の攻撃を簡単に抑え、再びハーフライン付近からの攻撃。ここからファイタ−ズのラン攻撃が冴える。まずはWR糸川が14ヤードを走り、残る37ヤードをRB斎藤が2度に分けてゴールラインまで走り切る。
第1Q終了間際に、ファイターズディフェンスが不用意な反則を犯し、それに乗じた京大が2Q早々、FGを決めたが、ファイターズの攻撃は順調。2Qに入って最初の攻撃は自陣25ヤードから。ここで奥野がWR阿部に17ヤードのパスを通し、RB三宅の17ヤードのラン、さらに三宅へのショベルパスとたたみかけてゴール前8ヤード。ここも最後は三宅が飛び込んでTD。21−3とリードを広げる。
気がつけば、ファイターズは立ち上がりの第1シリーズこそ進まなかったが2、3、4シリーズはそれぞれTDで締めくくっており、今季初めてといっていいほどの安定した戦い振りだった。
それは、オフェンスラインが今季初めてといってよいほど安定していたからだろう。故障でしばらく戦列を離れていたメンバーが相次いで復帰し、力強く相手ディフェンスを押し込んだからこそ、QBとWR、RBそれぞれの動きもよくなったと思われる。
それでも、点差が思うように開かなかったのは、簡単に通ると思えたパスをレシーバーが落としたり、ターゲットへのコントロールが微妙に狂ったりしたからだろう。試合後、「レシーバーとQBのコミュニケーションが悪くて」とか「捕れるボールは捕らな」とかの言葉が選手や監督から出ていたが、その通りである。
その辺のもどかしさを、冒頭に紹介した新聞記者も感じていたのだろう。これで、関大に勝ち、立命に勝てるのか。甲子園ボウルで相手を圧倒できるのか。もっと頑張れ、もっと練習に励めという、メッセージが込められていたのだろう。
その気持ちは、僕にもよく理解できる。この日の試合でできたこと、学んだことをさらに伸ばし、できなかったことは謙虚に反省して練習に励み、次なる試合に備えて欲しい。関京戦は他の試合にも増して学ぶべきこと、反省することは多くある。この日の経験を自信として生かし、反省として生かす。そういうことができるのも、学生スポーツならではのことと僕は思っている。
「久しぶり。元気か」と声を掛けると、挨拶もそこそこに「見所のない試合でしたね」「これが鳥内監督最後の関京戦か、と思うと残念ですわ」と口を開く。
彼にとって、京大と関学の戦いとは、ほかのどの試合にも増して、血湧き肉躍る試合。選手もスタッフも、もちろんコーチも監督も、いわばチームを挙げて特別の思いで臨む特別の試合である。それがシーズン開幕3戦目、まだまだ双方ともに発展途上の状態で戦い、双方ともにつまらない反則やミスで好機をつぶし合う試合展開に我慢がならなかったようだ。
確かに、立ち上がりから、双方に「防げるはずの」ミスが出た。最初につまずいたのが先攻の京大。わずか2プレーでダウンを更新し、ハーフライン付近まで進んだのはいいが、そこから一気に陣地を進めようとしたパスの手元が狂う。それを逃さずDB平尾がインターセプト。相手守備陣はそれでもくじけず、関学に前進を許さない。簡単にパントに追い込み、再び京大の攻撃。
「相手に振り回されている。いやだな」と思った瞬間、ここでLBのファインプレーが出る。相手ランプレーの動きだしを見切って、一直線でRBに突撃し、ロスタックル。そこで第4ダウン。たまらず相手はゴールライン間際からのパントを選択するが、そこで相手に致命的なミスが出る。パンターがボールをファンブルし、自らボールをリカバーせざるを得なかった。棚ぼたのようなゴール前2ヤードからRB三宅が中央を突破しTD。K安藤のキックで1点を追加し、7−0とリードする。
思わぬ形で先制点を手にしたファイターズは、次の京大の攻撃を簡単に抑え、再びハーフライン付近からの攻撃。ここからファイタ−ズのラン攻撃が冴える。まずはWR糸川が14ヤードを走り、残る37ヤードをRB斎藤が2度に分けてゴールラインまで走り切る。
第1Q終了間際に、ファイターズディフェンスが不用意な反則を犯し、それに乗じた京大が2Q早々、FGを決めたが、ファイターズの攻撃は順調。2Qに入って最初の攻撃は自陣25ヤードから。ここで奥野がWR阿部に17ヤードのパスを通し、RB三宅の17ヤードのラン、さらに三宅へのショベルパスとたたみかけてゴール前8ヤード。ここも最後は三宅が飛び込んでTD。21−3とリードを広げる。
気がつけば、ファイターズは立ち上がりの第1シリーズこそ進まなかったが2、3、4シリーズはそれぞれTDで締めくくっており、今季初めてといっていいほどの安定した戦い振りだった。
それは、オフェンスラインが今季初めてといってよいほど安定していたからだろう。故障でしばらく戦列を離れていたメンバーが相次いで復帰し、力強く相手ディフェンスを押し込んだからこそ、QBとWR、RBそれぞれの動きもよくなったと思われる。
それでも、点差が思うように開かなかったのは、簡単に通ると思えたパスをレシーバーが落としたり、ターゲットへのコントロールが微妙に狂ったりしたからだろう。試合後、「レシーバーとQBのコミュニケーションが悪くて」とか「捕れるボールは捕らな」とかの言葉が選手や監督から出ていたが、その通りである。
その辺のもどかしさを、冒頭に紹介した新聞記者も感じていたのだろう。これで、関大に勝ち、立命に勝てるのか。甲子園ボウルで相手を圧倒できるのか。もっと頑張れ、もっと練習に励めという、メッセージが込められていたのだろう。
その気持ちは、僕にもよく理解できる。この日の試合でできたこと、学んだことをさらに伸ばし、できなかったことは謙虚に反省して練習に励み、次なる試合に備えて欲しい。関京戦は他の試合にも増して学ぶべきこと、反省することは多くある。この日の経験を自信として生かし、反省として生かす。そういうことができるのも、学生スポーツならではのことと僕は思っている。
posted by コラム「スタンドから」 at 07:22| Comment(1)
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2019年09月17日
(20)イチローさんの言葉
日米通算で4367安打を記録したイチローさん(45)がマリナーズから「球団に貢献し、大きな功績を残した人」に贈られる「フランチャイズ・アチーブメント賞」(特別功労賞)を贈られた。マリナーズの本拠地Tモバイルパークで行われた授与式での挨拶がめちゃくちゃかっこいい。
原文は英語だが、ネットでそのニュースを伝える「full Count」の翻訳を引用して、そのさわりの部分を紹介したい。
冒頭、シアトルのファンに対し「みなさんからの何年にもわたるサポートに対して感謝の気持ちを表したい」とあいさつ。「2001年に私がシアトルに来た時、それまで日本から来た野手は一人もいませんでした。みなさんが見たのは27歳の、小柄で、細い、無名の選手でした。みなさんが私を受け入れない理由は多くありました。しかし、大きな心で私を受け入れてくれました。そしてそれは、私がここを離れても、そして戻ってきたときも、決して止むことはありませんでした。2018年にここへ戻ってくるチャンスを与えて頂き、本当にありがたく思っています。その理由はみなさん、ファンの方々です」と続ける。
そのうえで「野球をこよなく愛し、リスペクトしてやまない人たちの前でプレーすることは、私にとっても幸せなことでした」「私が知っている最も素晴らしい選手たちと共に、またはそのような選手を相手にプレーできたことは、大きな誇りです」と続ける。
最後に、キャリアを振り返って「私が誇りに思うことが少しでもあるとすれば、毎日、困難を乗り越え、毎日、同じような情熱を持って2001年の最初の日から2019年の最後の日まで臨むことができたことです」「選手たちに思い出してほしいのは、プロフェッショナルであると言うことの意味です。シーズンが終わりに近づいた日々は、シーズンの初めの日々、そしてその間の日々と同じように重要です。毎日、同じ情熱を持って仕事に臨んでいかなければなりません。それが自身のパフォーマンスに与える、そしてこの特別な試合を楽しんでいるファンに与える最高のギフトとなります」と結ぶ。
自らの人生をかけて野球に生きたプロフェッショナルならではの言葉である。日本で比類なき実績を挙げてきた選手であっても、メジャーリーグでは「27歳の、小柄で、細い、無名の選手」が、「毎日、困難を乗り越え、毎日、同じような情熱を持って、2001年の最初の日から2019年の最後の日まで、臨むことができたことを誇りに思う」と言い切る、その長い歳月とたゆまぬ努力に思いを馳せたとき、僕には言いしれぬ感動が押し寄せてきた。そして、この感動をファイターズの諸君にも共有してもらい、自己研鑽の道標にしてもらいたいと思った。
イチローさんの言葉は、競技種目は異なり、プロとアマとの違いはあっても、日々、向上心を持ってフットボールに取り組んでいるファイターズの諸君の胸にも、きっと響くに違いない。というより、こういう言葉にインスパイアされないようでは、フットボールのレベルも人間としての感受性も養われるはずがないとまで思う。
イチローさんはファイターズにとっても、縁の深い選手だった。毎年、シーズンが始まる前には、オリックスの選手時代からなじみのある球場で自主トレーニングをされるのが習慣になっていたが、そのトレーニングを共にする機会を与えられた選手が何人もいる。特別サービスで、打席に立たせてもらい、氏の投げるボールを打たせてもらった選手もいる。
氏の取材を都合19年間にわたって取材し「イチローの流儀」(新潮社)という読み応えのある著書もある小西慶三氏(1988年度卒)から、イチロー選手の野球に対する取り組みについて講義を受けた学年もある。
そうした体験が選手にどんな影響を及ぼしたかは僕の知るところではない。しかし、少なくとも僕は今春、ほんの短時間だったが、イチロー選手が自主トレーニングされている場に同席させていただき、大きな刺激を受けた。今回の授与式でのイチローさんの言葉もまた、僕の胸に突き刺さる。ファイターズの諸君の胸にもきっと強い影響を与えると思って、たまたまネットで見つけた話を紹介させていただいた(full Countさん、ありがとうございます)。
最後にひとこと。小西氏とイチローさんとの関わりは、今年のイヤーブックの巻末にある「社会で輝く青い星」でも紹介されている。示唆に富む内容であり、選手諸君にはぜひとも熟読してもらいたい。
原文は英語だが、ネットでそのニュースを伝える「full Count」の翻訳を引用して、そのさわりの部分を紹介したい。
冒頭、シアトルのファンに対し「みなさんからの何年にもわたるサポートに対して感謝の気持ちを表したい」とあいさつ。「2001年に私がシアトルに来た時、それまで日本から来た野手は一人もいませんでした。みなさんが見たのは27歳の、小柄で、細い、無名の選手でした。みなさんが私を受け入れない理由は多くありました。しかし、大きな心で私を受け入れてくれました。そしてそれは、私がここを離れても、そして戻ってきたときも、決して止むことはありませんでした。2018年にここへ戻ってくるチャンスを与えて頂き、本当にありがたく思っています。その理由はみなさん、ファンの方々です」と続ける。
そのうえで「野球をこよなく愛し、リスペクトしてやまない人たちの前でプレーすることは、私にとっても幸せなことでした」「私が知っている最も素晴らしい選手たちと共に、またはそのような選手を相手にプレーできたことは、大きな誇りです」と続ける。
最後に、キャリアを振り返って「私が誇りに思うことが少しでもあるとすれば、毎日、困難を乗り越え、毎日、同じような情熱を持って2001年の最初の日から2019年の最後の日まで臨むことができたことです」「選手たちに思い出してほしいのは、プロフェッショナルであると言うことの意味です。シーズンが終わりに近づいた日々は、シーズンの初めの日々、そしてその間の日々と同じように重要です。毎日、同じ情熱を持って仕事に臨んでいかなければなりません。それが自身のパフォーマンスに与える、そしてこの特別な試合を楽しんでいるファンに与える最高のギフトとなります」と結ぶ。
自らの人生をかけて野球に生きたプロフェッショナルならではの言葉である。日本で比類なき実績を挙げてきた選手であっても、メジャーリーグでは「27歳の、小柄で、細い、無名の選手」が、「毎日、困難を乗り越え、毎日、同じような情熱を持って、2001年の最初の日から2019年の最後の日まで、臨むことができたことを誇りに思う」と言い切る、その長い歳月とたゆまぬ努力に思いを馳せたとき、僕には言いしれぬ感動が押し寄せてきた。そして、この感動をファイターズの諸君にも共有してもらい、自己研鑽の道標にしてもらいたいと思った。
イチローさんの言葉は、競技種目は異なり、プロとアマとの違いはあっても、日々、向上心を持ってフットボールに取り組んでいるファイターズの諸君の胸にも、きっと響くに違いない。というより、こういう言葉にインスパイアされないようでは、フットボールのレベルも人間としての感受性も養われるはずがないとまで思う。
イチローさんはファイターズにとっても、縁の深い選手だった。毎年、シーズンが始まる前には、オリックスの選手時代からなじみのある球場で自主トレーニングをされるのが習慣になっていたが、そのトレーニングを共にする機会を与えられた選手が何人もいる。特別サービスで、打席に立たせてもらい、氏の投げるボールを打たせてもらった選手もいる。
氏の取材を都合19年間にわたって取材し「イチローの流儀」(新潮社)という読み応えのある著書もある小西慶三氏(1988年度卒)から、イチロー選手の野球に対する取り組みについて講義を受けた学年もある。
そうした体験が選手にどんな影響を及ぼしたかは僕の知るところではない。しかし、少なくとも僕は今春、ほんの短時間だったが、イチロー選手が自主トレーニングされている場に同席させていただき、大きな刺激を受けた。今回の授与式でのイチローさんの言葉もまた、僕の胸に突き刺さる。ファイターズの諸君の胸にもきっと強い影響を与えると思って、たまたまネットで見つけた話を紹介させていただいた(full Countさん、ありがとうございます)。
最後にひとこと。小西氏とイチローさんとの関わりは、今年のイヤーブックの巻末にある「社会で輝く青い星」でも紹介されている。示唆に富む内容であり、選手諸君にはぜひとも熟読してもらいたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 18:56| Comment(2)
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2019年09月11日
(19)チャンスは前髪しかない
「チャンスは前髪しかない」という。後ろは禿げているから、つかもうとしてもつかめない。いま、この瞬間につかまなくては、後からではつかむことはできないという意味である。
秋のリーグ戦2試合を週末ごとに観戦して、思わずこの言葉をファイターズの諸君に贈りたくなった。
どういうことか。説明する。
今季のファイターズは初戦の同志社戦、2戦目の龍谷戦ともに、昨年秋には試合経験のほとんどなかったメンバーを次々に投入している。初戦の先発メンバーで、昨年の甲子園ボウルでも先発していたのはOLの高木、WR阿部、QB奥野、LB海崎、繁治、DB畑中ぐらいだ。2戦目の龍谷大戦のスタメンを見ても、このメンバーにOL森田、DL大竹が加わる程度。交代メンバーとして出場経験のある選手を見ても、オフェンスではRB三宅、WR鈴木、山下、OL村田、藤田兄、DL板敷、松永弟、DB北川、それにキッキングチームのフォールダーやパンターとして活躍していたQB中岡の名前が浮かぶくらいだ。
つまり、昨シーズンの終盤、関大と引き分けた試合や2度に渡る立命との死闘を経験した主力メンバーをほとんど欠いたままで、この2戦を戦ったのだ。
その理由として、一つは数多くの故障者が出ていること、そしてもう一つは監督やコーチが意図的に新しいメンバーを登用し、彼らに実戦の経験を積ませて、チームの底上げを図りたいという意図が秘められているからだろう。とりわけ2、3年生にはフレッシュな顔ぶれが揃っている。
2戦目の先発に名前を連ねたメンバーに限っても、昨年は交代メンバーとして先発メンバーと肩を並べる活躍をしたWR鈴木やRB三宅は別として、オフェンスでは3年生の亀井、2年生の牧野、田中がOLの先発、QB平尾弟、TE遠藤、K永田もスタメンに名を連ねた。ディフェンスでもDB5人中、3年生の中村、2年生の北川、和泉、竹原の4人が先発として起用された。
驚くのは、1年生でもWR糸川が先発で出場し、同じく1年生の河原林とともに、鮮やかなパスキャッチを見せたこと。交代メンバーとして出場したTE小林陸、DL山本、DB小林龍斗らの動きも目についた。
とりわけ驚くのは、DLの交代メンバーとして出場した3年生野村。鋭いラッシュで再三相手のラインを割り、2試合ともQBサックを決めた。高校時代は野球部でフットボールは全くの未経験者だが、いまではすっかりファイターズの水に馴染み、先発メンバーを脅かす存在として注目されている。
このように新鮮な名前を何人も挙げてみたが、それ以外の交代メンバーも含めて、出場した選手全員が、ベンチの期待する力量を発揮できたかどうか。せっかくのチャンスを見事につかめたか。首尾よくチャンスの前髪がつかめたかどうか。そこが問題だ。
僕が試合前の練習を見る機会は、週末の1日か2日しかないが、そこではいま名前を挙げたメンバーはみな、素晴らしい動きを見せている。パスは次々に通るし、ランも描いた通りに出る。攻守とも、相手がJVのメンバーということを割り引いても、大いに期待の持てるプレーが次々と成功する。
しかし、その動きが本番で思い通りに再現できたかどうか。ロースコアで展開されている試合でも、あえて交代メンバーを次々と送り込み、実戦での動きに注目していたベンチの期待に応えることのできたメンバーはどれほどいるか。
試合後の鳥内監督の談話が興味深い。「なんでこんなミスが起こっているのかを見極めなあかん」「交代メンバーがあかん。チャンスをものにせんと」。言葉は思いっきり省略されているが、言わんとされていることはよく分かる。
前半を終わって10−0、3Q終了時点でも点差は広がらず。安全圏というにはほど遠い状況でも、ベンチは次々とメンバーを入れ替え、緊迫した状況での実戦経験を積ませようとしているのに、それを挑戦の好機と捉えず、失敗を怖れて守りに入っているプレーヤーが多いことを指摘されていたのに違いない。
アメフットは、どのスポーツにも増して、チームの総合力が試される。攻撃には攻撃の役割があるし、守備には守備の役割がある。先発で出場する選手に託された役割は大きいが、交代メンバーの役割も同じように大きい。今年のように試合の間隔が短くなり、1カ月間に4試合を本気で戦い、そのすべてに勝たなければならない状況では、交代メンバーの役割は例年以上に重要になる。
頼りになるそうしたメンバーをどれだけ育成できるか。先発メンバーだけでなく、チームの総合力が勝敗を分けるのが今季の特徴である。
だからこそ、緊迫した試合でも、あえて多くのメンバーにチャンスを与えているのが今季のファイターズであると言ってもよい。その期待にどれだけの選手が応えられているか。前髪をしっかりつかめたメンバーがどれだけいるか。次戦の京大との戦いでその真価が試される。ここが勝負、と腹をくくって頑張ってもらいたい。チャンスは前髪しかない。
秋のリーグ戦2試合を週末ごとに観戦して、思わずこの言葉をファイターズの諸君に贈りたくなった。
どういうことか。説明する。
今季のファイターズは初戦の同志社戦、2戦目の龍谷戦ともに、昨年秋には試合経験のほとんどなかったメンバーを次々に投入している。初戦の先発メンバーで、昨年の甲子園ボウルでも先発していたのはOLの高木、WR阿部、QB奥野、LB海崎、繁治、DB畑中ぐらいだ。2戦目の龍谷大戦のスタメンを見ても、このメンバーにOL森田、DL大竹が加わる程度。交代メンバーとして出場経験のある選手を見ても、オフェンスではRB三宅、WR鈴木、山下、OL村田、藤田兄、DL板敷、松永弟、DB北川、それにキッキングチームのフォールダーやパンターとして活躍していたQB中岡の名前が浮かぶくらいだ。
つまり、昨シーズンの終盤、関大と引き分けた試合や2度に渡る立命との死闘を経験した主力メンバーをほとんど欠いたままで、この2戦を戦ったのだ。
その理由として、一つは数多くの故障者が出ていること、そしてもう一つは監督やコーチが意図的に新しいメンバーを登用し、彼らに実戦の経験を積ませて、チームの底上げを図りたいという意図が秘められているからだろう。とりわけ2、3年生にはフレッシュな顔ぶれが揃っている。
2戦目の先発に名前を連ねたメンバーに限っても、昨年は交代メンバーとして先発メンバーと肩を並べる活躍をしたWR鈴木やRB三宅は別として、オフェンスでは3年生の亀井、2年生の牧野、田中がOLの先発、QB平尾弟、TE遠藤、K永田もスタメンに名を連ねた。ディフェンスでもDB5人中、3年生の中村、2年生の北川、和泉、竹原の4人が先発として起用された。
驚くのは、1年生でもWR糸川が先発で出場し、同じく1年生の河原林とともに、鮮やかなパスキャッチを見せたこと。交代メンバーとして出場したTE小林陸、DL山本、DB小林龍斗らの動きも目についた。
とりわけ驚くのは、DLの交代メンバーとして出場した3年生野村。鋭いラッシュで再三相手のラインを割り、2試合ともQBサックを決めた。高校時代は野球部でフットボールは全くの未経験者だが、いまではすっかりファイターズの水に馴染み、先発メンバーを脅かす存在として注目されている。
このように新鮮な名前を何人も挙げてみたが、それ以外の交代メンバーも含めて、出場した選手全員が、ベンチの期待する力量を発揮できたかどうか。せっかくのチャンスを見事につかめたか。首尾よくチャンスの前髪がつかめたかどうか。そこが問題だ。
僕が試合前の練習を見る機会は、週末の1日か2日しかないが、そこではいま名前を挙げたメンバーはみな、素晴らしい動きを見せている。パスは次々に通るし、ランも描いた通りに出る。攻守とも、相手がJVのメンバーということを割り引いても、大いに期待の持てるプレーが次々と成功する。
しかし、その動きが本番で思い通りに再現できたかどうか。ロースコアで展開されている試合でも、あえて交代メンバーを次々と送り込み、実戦での動きに注目していたベンチの期待に応えることのできたメンバーはどれほどいるか。
試合後の鳥内監督の談話が興味深い。「なんでこんなミスが起こっているのかを見極めなあかん」「交代メンバーがあかん。チャンスをものにせんと」。言葉は思いっきり省略されているが、言わんとされていることはよく分かる。
前半を終わって10−0、3Q終了時点でも点差は広がらず。安全圏というにはほど遠い状況でも、ベンチは次々とメンバーを入れ替え、緊迫した状況での実戦経験を積ませようとしているのに、それを挑戦の好機と捉えず、失敗を怖れて守りに入っているプレーヤーが多いことを指摘されていたのに違いない。
アメフットは、どのスポーツにも増して、チームの総合力が試される。攻撃には攻撃の役割があるし、守備には守備の役割がある。先発で出場する選手に託された役割は大きいが、交代メンバーの役割も同じように大きい。今年のように試合の間隔が短くなり、1カ月間に4試合を本気で戦い、そのすべてに勝たなければならない状況では、交代メンバーの役割は例年以上に重要になる。
頼りになるそうしたメンバーをどれだけ育成できるか。先発メンバーだけでなく、チームの総合力が勝敗を分けるのが今季の特徴である。
だからこそ、緊迫した試合でも、あえて多くのメンバーにチャンスを与えているのが今季のファイターズであると言ってもよい。その期待にどれだけの選手が応えられているか。前髪をしっかりつかめたメンバーがどれだけいるか。次戦の京大との戦いでその真価が試される。ここが勝負、と腹をくくって頑張ってもらいたい。チャンスは前髪しかない。
posted by コラム「スタンドから」 at 05:29| Comment(3)
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2019年09月03日
(18)苦戦を良薬に
1日夜、同志社との戦いが終わった直後、新聞記者に囲まれて取材を受ける鳥内監督の表情は厳しかった。
「今日は全部、意識の問題」「頭の準備ができてないねん」「みんな誰かに頼っている。そんな集団が勝てるわけない」。口から出てくる言葉も厳しかった。
けれども、囲み取材が解けて記者団が離れた後、僕が「一昨日言われていた通りの内容でしたね」と声をかけると、ニコニコしながら「そうでしょう。想定外のことをされた時にどうするか。もっと練習の時から考えてやらんと」という答えが返ってきた。
その言葉は、一昨日の練習を監督の隣で見学していたときに聞いたばかり。その予測をきっちり裏付けるような試合展開だったから、監督も思わず笑ってしまわれたのだろう。同時に、これが初戦でよかった。まだ修正する時間はある。この日の苦戦を肝に銘じて練習に励めば、まだまだ成長出来る。苦い薬も良薬になる。そういう、選手たちへの期待もあって、思わず口元がほころんだのだろう。
確かに苦しい試合だった。ファイターズのレシーブから試合開始。いきなりQB奥野からWR阿部に28ヤードのパスを通した時には、今日は何点とれるかなというお気楽な感じだったが、後が続かない。奥野のパスはなぜかうわずり、OLも相手守備陣に簡単に割られる。あげくに頼みの奥野が相手のヘルメットを腹部に受けて倒れてしまう。
やばい、と思ったが、ここはディフェンスが踏ん張って、即座に攻撃権を取り戻す。交代で出たQB平尾が冷静にRB三宅へピッチし、三宅が相手ゴール前15ヤードまで進む。さらに1年生WR河原林への短いパスを決め、ゴール前1ヤード。これをRB前田弟が一発でゴールに持ち込んでTD。K永田のキックも決まって7−0。
1Q終了前には、奥野が復帰。幸い大きなけがではなさそうで、応援しているファンもほっとする。ボールも手に馴染んできたようで、WR山下や鈴木へのパスが決まり始まる。第2Qに入るとすぐ、奥野からWR阿部への長いパスが通るが、惜しくもゴールラインをオーバーしてTDにはならず。しかし、その3プレー後には奥野がWR鈴木への13ヤードのパスを決めてTD。14−0とリードを広げる。
続く相手の攻撃も、守備陣が一発で仕留め、再びファイターズの攻撃。ここでも奥野が阿部や鈴木へのパスを立て続けに決めて相手陣30ヤード。このチャンスに再び前田弟が30ヤードを独走してTD。21−0とリードして前半終了。
前半の戦い振りを見れば、明らかにファイターズペース。しかし後半、交代メンバーを起用し始めると、一気に流れは同志社に傾く。相手にリードを許して開き直ったのか、攻守とも思い切ったプレーを連発。逆にファイターズのメンバーは、それに対応できない。攻めてはラインが割られてQBが孤立。守ってはロングゲインを許してあっという間にTDを返される。
勢い付く相手に対して、ファイターズの攻撃は進まない。ラインが簡単に割られてQBが孤立する場面が相次ぎ、守備陣もまた浮き足立つ。負の連鎖である。
このピンチを救ったのが2年生RB斎藤。168センチ、74キロの小柄な選手だが、トップスピードに乗ると一気にゴールまで走り込む快足を持っている。第4Qの半ば。ファイターズが反則で自陣37まで下げられた場面でボールを手にすると、一気に相手守備陣を抜き去り、63ヤードを独走してTD。永田のキックも決まって28−7と
リードを広げ、浮き足立ったチームを落ち着かせる。
逆に同志社はこの独走で反撃の意欲をそがれたのか、雑なプレーが多くなってくる。終了間際には永田がFGを決め、最終スコアは31−7。
このように得点経過だけを追うと、ファイターズペースで試合が進んだように思われるかも知れない。しかし、現場ではとてもとても。そんなお気楽な気分ではなかった。意味不明な反則はあるし、タイプの異なる二人のQBを使い分けて攻め込んで来る相手の攻撃も防ぎ切れない。逆にファイターズの攻撃は、相手守備陣の変幻自在の動きに振り回される。これが昨年度の優勝チームと今季1部リーグに復帰したばかりのチームの戦いとは到底思えないような内容だった。
それを目の前で見せつけられたばかりだから、鳥内監督も取材陣を前にして、厳しい発言を連発されたのだろう。
さて、この厳しい発言を選手たちはどう受け止め、どのように行動するのか。次の龍谷ととの試合は8日、その翌週21日は、早くも京大との試合が迫っている。
その短い時間に、初戦の苦しい戦いを良薬として消化できるかどうか。部員全員の覚醒を刮目(かつもく)して待っている。
「今日は全部、意識の問題」「頭の準備ができてないねん」「みんな誰かに頼っている。そんな集団が勝てるわけない」。口から出てくる言葉も厳しかった。
けれども、囲み取材が解けて記者団が離れた後、僕が「一昨日言われていた通りの内容でしたね」と声をかけると、ニコニコしながら「そうでしょう。想定外のことをされた時にどうするか。もっと練習の時から考えてやらんと」という答えが返ってきた。
その言葉は、一昨日の練習を監督の隣で見学していたときに聞いたばかり。その予測をきっちり裏付けるような試合展開だったから、監督も思わず笑ってしまわれたのだろう。同時に、これが初戦でよかった。まだ修正する時間はある。この日の苦戦を肝に銘じて練習に励めば、まだまだ成長出来る。苦い薬も良薬になる。そういう、選手たちへの期待もあって、思わず口元がほころんだのだろう。
確かに苦しい試合だった。ファイターズのレシーブから試合開始。いきなりQB奥野からWR阿部に28ヤードのパスを通した時には、今日は何点とれるかなというお気楽な感じだったが、後が続かない。奥野のパスはなぜかうわずり、OLも相手守備陣に簡単に割られる。あげくに頼みの奥野が相手のヘルメットを腹部に受けて倒れてしまう。
やばい、と思ったが、ここはディフェンスが踏ん張って、即座に攻撃権を取り戻す。交代で出たQB平尾が冷静にRB三宅へピッチし、三宅が相手ゴール前15ヤードまで進む。さらに1年生WR河原林への短いパスを決め、ゴール前1ヤード。これをRB前田弟が一発でゴールに持ち込んでTD。K永田のキックも決まって7−0。
1Q終了前には、奥野が復帰。幸い大きなけがではなさそうで、応援しているファンもほっとする。ボールも手に馴染んできたようで、WR山下や鈴木へのパスが決まり始まる。第2Qに入るとすぐ、奥野からWR阿部への長いパスが通るが、惜しくもゴールラインをオーバーしてTDにはならず。しかし、その3プレー後には奥野がWR鈴木への13ヤードのパスを決めてTD。14−0とリードを広げる。
続く相手の攻撃も、守備陣が一発で仕留め、再びファイターズの攻撃。ここでも奥野が阿部や鈴木へのパスを立て続けに決めて相手陣30ヤード。このチャンスに再び前田弟が30ヤードを独走してTD。21−0とリードして前半終了。
前半の戦い振りを見れば、明らかにファイターズペース。しかし後半、交代メンバーを起用し始めると、一気に流れは同志社に傾く。相手にリードを許して開き直ったのか、攻守とも思い切ったプレーを連発。逆にファイターズのメンバーは、それに対応できない。攻めてはラインが割られてQBが孤立。守ってはロングゲインを許してあっという間にTDを返される。
勢い付く相手に対して、ファイターズの攻撃は進まない。ラインが簡単に割られてQBが孤立する場面が相次ぎ、守備陣もまた浮き足立つ。負の連鎖である。
このピンチを救ったのが2年生RB斎藤。168センチ、74キロの小柄な選手だが、トップスピードに乗ると一気にゴールまで走り込む快足を持っている。第4Qの半ば。ファイターズが反則で自陣37まで下げられた場面でボールを手にすると、一気に相手守備陣を抜き去り、63ヤードを独走してTD。永田のキックも決まって28−7と
リードを広げ、浮き足立ったチームを落ち着かせる。
逆に同志社はこの独走で反撃の意欲をそがれたのか、雑なプレーが多くなってくる。終了間際には永田がFGを決め、最終スコアは31−7。
このように得点経過だけを追うと、ファイターズペースで試合が進んだように思われるかも知れない。しかし、現場ではとてもとても。そんなお気楽な気分ではなかった。意味不明な反則はあるし、タイプの異なる二人のQBを使い分けて攻め込んで来る相手の攻撃も防ぎ切れない。逆にファイターズの攻撃は、相手守備陣の変幻自在の動きに振り回される。これが昨年度の優勝チームと今季1部リーグに復帰したばかりのチームの戦いとは到底思えないような内容だった。
それを目の前で見せつけられたばかりだから、鳥内監督も取材陣を前にして、厳しい発言を連発されたのだろう。
さて、この厳しい発言を選手たちはどう受け止め、どのように行動するのか。次の龍谷ととの試合は8日、その翌週21日は、早くも京大との試合が迫っている。
その短い時間に、初戦の苦しい戦いを良薬として消化できるかどうか。部員全員の覚醒を刮目(かつもく)して待っている。
posted by コラム「スタンドから」 at 14:29| Comment(3)
| in 2019 Season
2019年08月31日
(17)いざ!いざ!いざ!
今日で暑すぎた8月も終わり。自分が勝手にとったコラムの夏休みも終了である。
開けて1日、2019年ファイターズの真価が問われるシーズンが始まる。校歌にある「いざ いざ いざ 上ヶ原ふるえ」の季節到来である。
事実上、シーズン開幕前最後となる30日の練習で、興味深い場面があった。初戦を想定した「チームタイム」と呼ばれる練習の、最後のプレーが終わると同時に稲妻が光り、雷が鳴った。即座に全員が「屋根下」と呼ばれるグラウンド脇のスペースに退避する。
雷が鳴ると、即座に一番近くの建物に避難し、不測の事故を防ごうとするのがファイターズのルール。たとえ、練習終了予定時間の10分前であっても、それがはるか遠くであったとしても、雷鳴が聞こえると同時に「練習中止」「屋根下に退避」という指示があちこちから飛び、即座に安全な場所に避難し、30分近く待機することになっている。その間にまた雷鳴がとどろくと、再び待機の時間が延長され、あっという間に1時間は練習がストップしてしまう。
前日の練習中にも、そういう場面に遭遇したばかり。やっかいな雷だが、この日はちょうど「チームタイム」が終了した瞬間に鳴った。なんというタイミング。グッドタイミングというのか、ラッキーといえばいいのか。あまりにも区切りがいい。今年は何かいいことがあるのだろうか。
狭い屋根下で、練習後のハドル。鳥内監督がシーズンに向かう心得を説き、汗だくになった副将、主将がそれぞれの言葉で開幕戦に向けて檄を飛ばす。
「俺たちは挑戦者や。周囲の評価は関係ない。挑戦者であることにこだわって徹底的にやろう」「自分のやれることを全部やろう。まだまだやれることはある。突き詰めていこう」。静かに語り掛ける幹部がいれば、何度も同じ言葉を熱く繰り返す幹部もいる。しかし、語りの口調は違っても、今季の初戦に向けた強い決意はしっかりと伝わってくる。
マネジャーやトレーナーからの注意事項を含めて、こういう切羽詰まった発言を聞いていると、いよいよシーズンが始まるという実感が湧いてくる。
この夏は天候が不順で雨も多かった。暑い日も続いた。前期試験後の暑気馴化トレーニング期間も含めて、練習環境は相対的に恵まれなかった。それでも、2度にわたる学内合宿と例年より2日長くなった東鉢伏での合宿を敢行し、チームとしての地力を上げてきた。日々の練習は、時間的には短いが、その分濃密な練習を積んだ。そのせいもあってか、攻守ともにけが人も相次いだ。
一方で、新しい戦力も台頭してきた。これまでほとんど試合に出場実績のなかった3年生や2年生が何人も1軍のメンバーに名を連ね、経験豊富なメンバーとも対等に戦っている。側から見ているだけでも当たりが強くなった、走るスピードが上がったと目を見張らされる選手が何人もいる。
うれしいことに、今春、入部したばかりの1年生にも、開幕戦から登用され、活躍してくれそうな選手が何人もいる。彼らが初めての夏を乗り越えてどこまで成長してきたのか。それを実戦で確かめるのも大きな楽しみである。
チーム全体の底上げを目指し、春は数多くの選手に次々と試合経験を積ませてきたチームの方針が実りつつあるのだろう。彼らの成長曲線が秋の試合を通じて、さらに右肩上がりになるのか。格言をなぞっていえば「乞う 刮目(かつもく)して夏の成果を見よ」というところだ。
一方で、彼らにポジションを奪われてなるものか、と実績のあるメンバーがさらに奮起するのか。いまはけがでリハビリに励んでいるメンバーがどの時期から戦列に復帰してくれるのか。
そんなことを考えながら、グラウンドの練習を眺めていると、本当に選手層が厚くなったなあと実感する。帰宅後、できあがったばかりのイヤーブックを読み返し、彼らのグラウンドでの振る舞いを思い浮かべるたびに、初戦のメンバー表を予想するのが楽しみになってくる。
初戦は1日午後5時、王子スタジアムでキックオフ。「いざ いざ いざ 上ヶ原ふるえ」と声を張り上げて送り出したい。
開けて1日、2019年ファイターズの真価が問われるシーズンが始まる。校歌にある「いざ いざ いざ 上ヶ原ふるえ」の季節到来である。
事実上、シーズン開幕前最後となる30日の練習で、興味深い場面があった。初戦を想定した「チームタイム」と呼ばれる練習の、最後のプレーが終わると同時に稲妻が光り、雷が鳴った。即座に全員が「屋根下」と呼ばれるグラウンド脇のスペースに退避する。
雷が鳴ると、即座に一番近くの建物に避難し、不測の事故を防ごうとするのがファイターズのルール。たとえ、練習終了予定時間の10分前であっても、それがはるか遠くであったとしても、雷鳴が聞こえると同時に「練習中止」「屋根下に退避」という指示があちこちから飛び、即座に安全な場所に避難し、30分近く待機することになっている。その間にまた雷鳴がとどろくと、再び待機の時間が延長され、あっという間に1時間は練習がストップしてしまう。
前日の練習中にも、そういう場面に遭遇したばかり。やっかいな雷だが、この日はちょうど「チームタイム」が終了した瞬間に鳴った。なんというタイミング。グッドタイミングというのか、ラッキーといえばいいのか。あまりにも区切りがいい。今年は何かいいことがあるのだろうか。
狭い屋根下で、練習後のハドル。鳥内監督がシーズンに向かう心得を説き、汗だくになった副将、主将がそれぞれの言葉で開幕戦に向けて檄を飛ばす。
「俺たちは挑戦者や。周囲の評価は関係ない。挑戦者であることにこだわって徹底的にやろう」「自分のやれることを全部やろう。まだまだやれることはある。突き詰めていこう」。静かに語り掛ける幹部がいれば、何度も同じ言葉を熱く繰り返す幹部もいる。しかし、語りの口調は違っても、今季の初戦に向けた強い決意はしっかりと伝わってくる。
マネジャーやトレーナーからの注意事項を含めて、こういう切羽詰まった発言を聞いていると、いよいよシーズンが始まるという実感が湧いてくる。
この夏は天候が不順で雨も多かった。暑い日も続いた。前期試験後の暑気馴化トレーニング期間も含めて、練習環境は相対的に恵まれなかった。それでも、2度にわたる学内合宿と例年より2日長くなった東鉢伏での合宿を敢行し、チームとしての地力を上げてきた。日々の練習は、時間的には短いが、その分濃密な練習を積んだ。そのせいもあってか、攻守ともにけが人も相次いだ。
一方で、新しい戦力も台頭してきた。これまでほとんど試合に出場実績のなかった3年生や2年生が何人も1軍のメンバーに名を連ね、経験豊富なメンバーとも対等に戦っている。側から見ているだけでも当たりが強くなった、走るスピードが上がったと目を見張らされる選手が何人もいる。
うれしいことに、今春、入部したばかりの1年生にも、開幕戦から登用され、活躍してくれそうな選手が何人もいる。彼らが初めての夏を乗り越えてどこまで成長してきたのか。それを実戦で確かめるのも大きな楽しみである。
チーム全体の底上げを目指し、春は数多くの選手に次々と試合経験を積ませてきたチームの方針が実りつつあるのだろう。彼らの成長曲線が秋の試合を通じて、さらに右肩上がりになるのか。格言をなぞっていえば「乞う 刮目(かつもく)して夏の成果を見よ」というところだ。
一方で、彼らにポジションを奪われてなるものか、と実績のあるメンバーがさらに奮起するのか。いまはけがでリハビリに励んでいるメンバーがどの時期から戦列に復帰してくれるのか。
そんなことを考えながら、グラウンドの練習を眺めていると、本当に選手層が厚くなったなあと実感する。帰宅後、できあがったばかりのイヤーブックを読み返し、彼らのグラウンドでの振る舞いを思い浮かべるたびに、初戦のメンバー表を予想するのが楽しみになってくる。
初戦は1日午後5時、王子スタジアムでキックオフ。「いざ いざ いざ 上ヶ原ふるえ」と声を張り上げて送り出したい。
posted by コラム「スタンドから」 at 14:33| Comment(1)
| in 2019 Season
2019年08月14日
(16)東鉢伏から
先週末、仕事の隙間を縫って東鉢伏に車を走らせた。8日から始まったファイターズの合宿を見学するのが目的である。
午前4時半過ぎに仁川の自宅を出発。辺りは薄暗いが、その分、行き交う車は少なく、普段は混雑している宝塚西トンネル付近も快調に走れる。赤松峠付近から舞鶴道に入ればさらに車が少なくなり、快適なドライブが続く。高速道路を降りると、コンビニに立ち寄ってサンドイッチと野菜ジュースを購入。ファイターズが合宿している「かねいちや」から1kmほど行き過ぎた場所にある県指定天然記念物「別宮の大カツラ」の駐車場で食べる。ここには高さ27mにも達するカツラの木が密集して生育し、その付近からこんこんと清流が流れている。その水で顔を洗い、口をすすいで見学の臨戦態勢を整える。
しばらく時間を調整し、7時前には「かねいちや」に到着。宿舎のロビーで監督に挨拶した後、すぐに人工芝のグラウンドに向かう。すでにJVメンバーの練習が始まっている。
毎年のことだが、夏合宿の朝は早い。まずはJVのメンバーが約1時間、パートごとの練習に取り組み、それが終わると朝食に向かう。入れ替わって、今度は準備運動を終えたVのメンバーが練習を始める。
驚くのは、その取り組みの密度が年々濃くなっていること。初めてこの合宿を見学にきた十数年前も、さすが夏合宿、密度が濃いと感心したが、いまはそれに強度が上積みされている。以前は意識的に「寸止め」にするプレーが主体だったが、いまはオフェンスとディフェンスのメンバーが対抗心をむき出しにして渡り合う。
しかし、練習密度が濃くなれば、その分、負傷する選手も増える。ホテルのロビーに立てかけられた練習メニュー表の隣には、日々、その日の練習に加わるメンバーが書き込まれるが、その中には「練習不可」とされている選手名が何人も見える。
練習の密度を上げれば、負傷者も増える。しかし、間延びした練習では、実戦で使える動きは身につかない。双方の利害、得失を計算し、選手の疲労度を考慮したうえで、日々の練習メニューを決めていくのがチームの方針であろう。
そんなあれこれを考えている間にも、グラウンドでは練習が続いている。けれども、時間を決めて休憩時間をとり、水分や栄養補給ゼリーを規則的に摂取させる時間は必ず設けている。グラウンドの両側にはチームの持ち込んだテントが何張も立てられ、休憩タイムの選手に日陰を提供する。
合宿地は、冬場はスキー客で賑わう高原にあるが、下界と同様、日が昇れば強い日差しが照りつける。朝、車で走っているときは、高速道路脇の表示に「22.5度」とあったので、これは涼しいぞ、と思っていたが、太陽が照りつける時間になれば、気温はぐんぐん上がる。午前9時ごろには、木陰のない場所ではもう30度近くまで上昇しており、過去十数年の見学時には記憶がないほどの暑さである。
しかし、そこは合理的な思考をするファイターズである。一番暑い時間帯には、グラウンドのチーム練習はすべてストップし、食事と昼寝、そして簡単なミーティングの時間に充てる。練習が再開されるのは午後3時。湿気の少ない高原なので、この時間になると、太陽が照りつけていても、風さえ通れば幾分暑さも緩和される。
まずはJVのメンバーから始まり、より強度の上がるVチームの練習は4時から6時までと決めている。さらに合宿中には合計2日間、全員にグラウンドでの練習を休ませ、体力の回復に充てる日も設けている。
体力を養い、新たなプレーを習得し、チームの士気を上げるための合宿だが、フルに練習プログラムを組むのではなく、途中に休憩時間や休息日を設けて、より安全に、より効率的にと心掛けているのがファイターズである。その発想は上ヶ原でも東鉢伏でも変わらない。
変わりつつあると見えたのは、合宿に参加しているメンバーの気持ちの持ち方である。この日、僕が声を掛けたりその行動に接したりしたメンバーの名前や行動を具体的に挙げて、彼らがこの合宿にかける思いの強さを紹介したいところだが、いまは個々の名前を挙げる場面ではない。いつか別の機会にでも紹介したいと考えている。
ただし、この合宿でチームの何かが変わりつつあるという印象を持ったことだけは伝えておきたい。僕はいま、その変化の行き着く場所に、大きな期待を持っている。
午前4時半過ぎに仁川の自宅を出発。辺りは薄暗いが、その分、行き交う車は少なく、普段は混雑している宝塚西トンネル付近も快調に走れる。赤松峠付近から舞鶴道に入ればさらに車が少なくなり、快適なドライブが続く。高速道路を降りると、コンビニに立ち寄ってサンドイッチと野菜ジュースを購入。ファイターズが合宿している「かねいちや」から1kmほど行き過ぎた場所にある県指定天然記念物「別宮の大カツラ」の駐車場で食べる。ここには高さ27mにも達するカツラの木が密集して生育し、その付近からこんこんと清流が流れている。その水で顔を洗い、口をすすいで見学の臨戦態勢を整える。
しばらく時間を調整し、7時前には「かねいちや」に到着。宿舎のロビーで監督に挨拶した後、すぐに人工芝のグラウンドに向かう。すでにJVメンバーの練習が始まっている。
毎年のことだが、夏合宿の朝は早い。まずはJVのメンバーが約1時間、パートごとの練習に取り組み、それが終わると朝食に向かう。入れ替わって、今度は準備運動を終えたVのメンバーが練習を始める。
驚くのは、その取り組みの密度が年々濃くなっていること。初めてこの合宿を見学にきた十数年前も、さすが夏合宿、密度が濃いと感心したが、いまはそれに強度が上積みされている。以前は意識的に「寸止め」にするプレーが主体だったが、いまはオフェンスとディフェンスのメンバーが対抗心をむき出しにして渡り合う。
しかし、練習密度が濃くなれば、その分、負傷する選手も増える。ホテルのロビーに立てかけられた練習メニュー表の隣には、日々、その日の練習に加わるメンバーが書き込まれるが、その中には「練習不可」とされている選手名が何人も見える。
練習の密度を上げれば、負傷者も増える。しかし、間延びした練習では、実戦で使える動きは身につかない。双方の利害、得失を計算し、選手の疲労度を考慮したうえで、日々の練習メニューを決めていくのがチームの方針であろう。
そんなあれこれを考えている間にも、グラウンドでは練習が続いている。けれども、時間を決めて休憩時間をとり、水分や栄養補給ゼリーを規則的に摂取させる時間は必ず設けている。グラウンドの両側にはチームの持ち込んだテントが何張も立てられ、休憩タイムの選手に日陰を提供する。
合宿地は、冬場はスキー客で賑わう高原にあるが、下界と同様、日が昇れば強い日差しが照りつける。朝、車で走っているときは、高速道路脇の表示に「22.5度」とあったので、これは涼しいぞ、と思っていたが、太陽が照りつける時間になれば、気温はぐんぐん上がる。午前9時ごろには、木陰のない場所ではもう30度近くまで上昇しており、過去十数年の見学時には記憶がないほどの暑さである。
しかし、そこは合理的な思考をするファイターズである。一番暑い時間帯には、グラウンドのチーム練習はすべてストップし、食事と昼寝、そして簡単なミーティングの時間に充てる。練習が再開されるのは午後3時。湿気の少ない高原なので、この時間になると、太陽が照りつけていても、風さえ通れば幾分暑さも緩和される。
まずはJVのメンバーから始まり、より強度の上がるVチームの練習は4時から6時までと決めている。さらに合宿中には合計2日間、全員にグラウンドでの練習を休ませ、体力の回復に充てる日も設けている。
体力を養い、新たなプレーを習得し、チームの士気を上げるための合宿だが、フルに練習プログラムを組むのではなく、途中に休憩時間や休息日を設けて、より安全に、より効率的にと心掛けているのがファイターズである。その発想は上ヶ原でも東鉢伏でも変わらない。
変わりつつあると見えたのは、合宿に参加しているメンバーの気持ちの持ち方である。この日、僕が声を掛けたりその行動に接したりしたメンバーの名前や行動を具体的に挙げて、彼らがこの合宿にかける思いの強さを紹介したいところだが、いまは個々の名前を挙げる場面ではない。いつか別の機会にでも紹介したいと考えている。
ただし、この合宿でチームの何かが変わりつつあるという印象を持ったことだけは伝えておきたい。僕はいま、その変化の行き着く場所に、大きな期待を持っている。
posted by コラム「スタンドから」 at 07:05| Comment(1)
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