くそったれ!
ライスボウルが終了したとき、思わずこんな言葉が口から飛び出した。あまりにも品のない言葉であり、それを文章にするなんてもってのほかだ。
けれども、試合が終わって3日目の今朝、なんとかパソコンに向かって今季の最終回となるコラムを書こうとしても、この汚い言葉が頭の中を走り回っている。とても原稿を書く気分ではない。いっそ、前回のコラムのままで、光藤ファイターズの今季を締めくくってしまおうかとも考えた。
けれども、いかに苦しくても、戦いを最期まで見届けるのが「従軍記者」の務めである。顔を洗い、口をすすいで、あらためてパソコンと向き合っている。
試合そのものについては、主催者の一員でもある朝日新聞がしっかり書いてくれている。その筆者のリーダー格がファイターズOBの榊原一生君(2001年度卒)と大西史恭君(2007年度卒)。ともにファイターズの内部情報にも通じており、専門記者ならではの冷静、公平な記事を仕上げている。
だから、僕はあえて試合の進行状況とは離れ、ライスボウルの位置付けと大学スポーツが目指す方向の2点から、僕なりの感想を綴ってみる。見苦しい言葉があるかもしれないが、ご寛恕を賜りたい。
1、ライスボウルとは
いうまでもなく、社会人王者と大学王者がフットボール日本1を決める戦いとして位置づけられている。以前は学生チームの東西対抗戦として開催されていたが、1984年以降は社会人トップと学生トップが日本1の座を競う日本選手権となった。当時は、社会人の選手層も薄く、加盟チームの力量も学生側と大差はなかった。逆に大学側には、その前の甲子園ボウルに勝つことを最終目標としているチームが多く、ライスボウルはその勝者に対するご褒美という程度の位置づけをしていたような印象がある。
少なくともファイターズにとっては、甲子園ボウルに勝つことが至上命題であり、その前に、80年代は京大に勝って甲子園ボウルに、そして90年代は京大、立命に勝って甲子園ボウルに出ること、甲子園ボウルで関東代表を倒して、名実ともに日本1となることが最大の目標とされていたように僕は理解している。だから関西リーグは盛り上がり、互いが互いを意識して切磋琢磨し、全体のレベルも上がった。京大と関学の戦いには3万人の観衆が詰めかけることも珍しくなく、甲子園ボウルで関西リーグの代表が勝っても「当たり前」というような状況が生まれた。
課外活動としてのフットボールに情熱を傾ける学生と学生が、互いに4年間という対等の時間の中で錬磨し、知恵を巡らせて戦い、純粋に勝つことに誇りを持てた時代といってもよい。
90年代に入ると、社会人チームの取り組みが本格化し、学生チームもまたライスボウルで勝つことを最終目標にするようになった。とりわけ社会人チームは、大学のスター選手を次々確保するようになり、2000年代に入ると、それがさらに加速された。専任のプロコーチを置いたり、アメリカから選手を呼び込んでチームを強化したりするチームが増え、その実力も年々アップしている。
さらにいえば、アメリカからの選手が増えるにつれて、試合そのものも「興行・イベント」としての色彩が濃くなり、チアリーダーの応援もショウアップされた。スポーツイベントだから、観客動員が重要視され、それに伴って大音響のクラウドノイズも当たり前になった。
逆に学生チームは4年間という年限があることに加え、近年はフットボール選手である前に大学生であれ、という流れが定着してきた。ファイターズのように、授業優先の練習時間を設定し、所定の単位を取得しなければ、試合には出場させないとか、練習も制限するとかのルールを決めて取り組んでいるチームもある。
「興行」である以上、強くあらねばならない。その目的を達成するために人材の補強、指導者の招請、スタッフの強化などチームマネジメントに取り組む社会人チームと、4年限りの短い時間で学生を育て、手持ちの資源だけで勝負する学生チーム。双方のフットボール哲学、目的の乖離は年々大きくなり、それに応じてチーム力の差も開き続けている。その集大成が今年のライスボウルであったといっても過言ではなかろう。
2、大学スポーツとは
では、大学スポーツも社会人と同じ方向を目指せばいいのか。日本選手権(ライスボウル)の在り方が現行通りなら、そこで勝つためには、大学側も社会人チームと同等の取り組みをしなければならない。しかし、大学生が取り組む課外活動として位置づける限り、野放図なことは許されない。
大学生活は20歳前後の4年間。その限られた時間で、学業に取り組みながら課外活動にも力を注ぐ。そこで人格を養い、忍耐力や協調性、思考力や発想力を身に付ける。「どんな男(人間)になんねん」と問い続けて自ら奮起し、明日を信じて身を処していく。
それが人間としての成長につながり、その成長を担保する仕組みが大学における課外活動であり正課外教育である。
ファイターズの活動もそうした活動の一つであり、だからこそ、学生たちはその活動に4年間集中して取り組み、涙を流し、喜びを爆発させる。仲間との絆を深め、生涯の友人に巡り会う。
それはこの1年間、光藤ファイターズが歩んできた道のりそのものである。5月、雨の中での日体大との試合で敗れたところから再スタートしたチームは、何度も奈落の底に落ちそうになりながら踏みとどまった。苦しい関大戦を残り2分からの逆襲でなんとか引き分けに持ち込んだ。2度にわたる立命との決戦も、チームが一体となって乗り切った。手の内が分からないままの甲子園ボウル、早稲田との戦いも、ファイターズならではの戦術を駆使して乗り切った。コーチ陣を含めたチームの総合力でつかんだ勝利といってもよいだろう。
そうしてたどり着いたライスボウル。試合は大差がついたが、学生代表の戦いとして堂々と胸を張れる試合だったと僕は思っている。大差の中でも必死に走り、パスを投げ、捕り続けたQB、RB、WR陣。それを支えたOLの面々。三笠を中心とする守備陣も頑張った。立ち上がりから強力なタックルで相手エースを止め続けたDLとLB。とりわけ2年生の海崎、繁治の懸命のプレーには涙が出そうだった。DBの横澤、西原、木村、畑中らも終始、相手のレシーバーに食らいついた。
その結果としての52−17。興行ではなく、大学生が課外活動として取り組んだフットボールの試合として、胸が張れる結果だと僕は思っている。
ありがとう。光藤ファイターズ。シーズン半ばから急激に成長し、ライスボウルで懸命に戦って散った諸君の姿を僕は忘れない。
2019年01月05日
(33)課外活動と興行
posted by コラム「スタンドから」 at 22:26| Comment(5)
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2018年12月24日
(32)祈りと浪花節
「ファイターズはよく祈る」と、ファイターズの顧問であり、関西学院の宗教総主事やファイターズの副部長を務められた前島宗甫先生が神学部の「後援会便り」にお書きになっている。
こんな内容である。
@ 1月末の卒業生壮行会、4月1日、新チームの練習スタート時、8月1日は秋本番の練習に向けて、そして春、秋のそれぞれの試合前、最終のライスボウルまで勝ち上がると、祈りの時間は都合20回近くなる。
A 始まりは1977年11月。後に「涙の日生球場」と語り次がれる京大との激戦の前に、チームドクターだった今は亡き杉本公允医師(塚口教会員)が自然発生的に選手たちと祈られたのがきっかけ。その後、元コーチで宗教センターの職員だった古結章司さんが渡米された際カレッジの試合で祈りが持たれていることを知り、取り入れることを進言。ビッグゲームなどで祈りが行われるようになった。
B 2003年の夏、平郡雷太君が急死した。(ファイターズの副部長だった私は)学生らの要望で記念会を行い、それ以降、試合の直前に祈るようになった。以来今日まで全試合前に行われている。私は退職した後も顧問に任じられ、祈りを担当してきた。これは部長や監督が命じたものではない。部員たちの自主性による。毎年新チームになると、主務が「今年もお願いします」と依頼に来る。
C 試合開始10分前。選手、コーチ、スタッフ全員が集まる。プレッシャーが最高にかかる瞬間である。聖書を読み、それにちなんで語り掛け、祈る。その間、約2分と決めている。選手たちのテンションの高さは半端ではない。クールダウンさせつつ、モチベーションは下げない。「腑に落ちる」言葉が求められる。
D 学生たちはどう受け止めているだろうか。「気持ちがぐっと引き締まる瞬間」(2011年、長島義明副将)、「一つになるために必要な時間」(2014年、鷺野聡主将)……。
以上のようなことを書き「ファイターズは祈りを育ててきた。学生たちが自らの思い、志を育ててきた。グラウンドでまたミーティングで思いをぶつけ合い体現してきた」「強いファイターズであると同時にファイター一人一人の人間性が問われる。関西学院という教育機関の課外教育の意味がここにある」と結ばれている。
前島先生の祈りだけではない。ファイターズでは、毎年新しいシーズンが始まる前、鳥内監督が新しく4年生になる一人一人の部員と時間を掛けて面談し「どんな男になんねん」「どんな風にチームに貢献すんねん」と問い掛けられる。ビッグゲームの試合前日には必ず4年生とホテルに泊まり込み、選手一人一人の覚悟を問われる。
小野宏ディレクターは、コーチの時代、これまたビッグゲームの前には第3フィールドの中央に選手を集め、「堂々と勝ち、堂々と負けよ」から始まるカール・ダイムの詩を読み上げ、戦いに挑む戦士の士気を鼓舞されていた。それぞれが魂の深いところに問い掛けるスピリチュアルな試みであり「やらされる」フットボールではなく、「部員自らが思い、志を育てる」手助けである。
こんな風に書いていくと、ファイターズはなんと窮屈なチームだろう、と早とちりされるかもしれない。しかし、現場でチームに寄り添っていると、決してそんなことはない。
この前の甲子園ボウル。試合終了間際のファイターズの攻撃シリーズを思い浮かべてみると、それが即座に理解されるはずだ。
残り時間約1分30秒。得点は37−20でファイターズがリード。タッチダウンを2本とっても追いつかない局面でファイターズの攻撃が始まる。相手陣45ヤードからの第一プレーはQB西野からWR阿部への34ヤードパス。ゴール前11ヤードからの攻撃ではRB富永に立て続けにボールを持たせて第4ダウン残り1ヤード。相手ゴールまで残り2ヤードという局面で足の負傷で試合に出られないRB山口がチームメートに支えられるようにしてRBのポジションに着く。
ファイターズファンが陣取ったレフト側アルプス席と外野席から万雷の拍手が送られる。立命との決戦で鮮やかな独走TDを挙げただけでなく、今季の攻撃陣を終始リードしてきた彼をどうしても甲子園のグラウンドに立たせたいというコーチとチームメートの思いを汲んだベンチの計らいだった。
試合後、グラウンドに降り、喜びで顔をくしゃくしゃにしているQB奥野やRB中村らの右腕にそれぞれマジックで「34」と書き込まれているのを見、それが山口自身の手で書き込まれたと聞いたとき、僕は思わず「よっしゃー。これがファイターズや」とコブシを握った。
近くの大村コーチに聞くと「早稲田さんに失礼かとも思ったんですけど、どうしても最後の場面ではけがで苦労したメンバーを出したかった。山口はもちろん、最後にけがをした西野にも思い切りパスを投げさせられたし、この1年以上、ずっとけがで苦しみながらパートを引っ張ってきた富永も走らせることができた。4年生最後の甲子園。努力してきたヤツが思い残すことのないようにしてやりたかった」という答えが返ってきた。
まるで浪花節の世界である。けれども、ファイターズにとっては、こうした浪花節のよう気配りは珍しいことではない。2013年、日大と戦った甲子園ボウルでは直前に大けがをした池田雄紀君を副将の鳥内将希君や主将の池永健人君らが抱きかかえるようにしてサイドラインに並ばせたし、翌年はこれまた甲子園ボウル直前にけがをしたWRの横山公則君を周囲の4年生が包み込むようにして入場門を入っていった。
共同通信の宍戸博昭さん(日大OB)が最近の自身のコラムにこんなことを書いておられる。「全盛期の日大は、篠竹監督の個人商店、ファイターズは組織で勝負する総合商社」「ゲームプラン、プレーのデザイン、コールを含めて、よくコーチングされた関学の選手は相手の弱点を見逃さないしたたかさと高い遂行力を備えていた」……。
少々褒めすぎのような気もするが、選手に高い精神性を求め、魂の根幹に触れる祈りと、人間の感情に訴え、熱き血を奮い立たせ、涙を共有する浪花節が共存し、融合するファイターズのたたずまいに接していると、なるほど、これが総合商社と呼ばれる理由かも知れないという気がしてきた。
こんな内容である。
@ 1月末の卒業生壮行会、4月1日、新チームの練習スタート時、8月1日は秋本番の練習に向けて、そして春、秋のそれぞれの試合前、最終のライスボウルまで勝ち上がると、祈りの時間は都合20回近くなる。
A 始まりは1977年11月。後に「涙の日生球場」と語り次がれる京大との激戦の前に、チームドクターだった今は亡き杉本公允医師(塚口教会員)が自然発生的に選手たちと祈られたのがきっかけ。その後、元コーチで宗教センターの職員だった古結章司さんが渡米された際カレッジの試合で祈りが持たれていることを知り、取り入れることを進言。ビッグゲームなどで祈りが行われるようになった。
B 2003年の夏、平郡雷太君が急死した。(ファイターズの副部長だった私は)学生らの要望で記念会を行い、それ以降、試合の直前に祈るようになった。以来今日まで全試合前に行われている。私は退職した後も顧問に任じられ、祈りを担当してきた。これは部長や監督が命じたものではない。部員たちの自主性による。毎年新チームになると、主務が「今年もお願いします」と依頼に来る。
C 試合開始10分前。選手、コーチ、スタッフ全員が集まる。プレッシャーが最高にかかる瞬間である。聖書を読み、それにちなんで語り掛け、祈る。その間、約2分と決めている。選手たちのテンションの高さは半端ではない。クールダウンさせつつ、モチベーションは下げない。「腑に落ちる」言葉が求められる。
D 学生たちはどう受け止めているだろうか。「気持ちがぐっと引き締まる瞬間」(2011年、長島義明副将)、「一つになるために必要な時間」(2014年、鷺野聡主将)……。
以上のようなことを書き「ファイターズは祈りを育ててきた。学生たちが自らの思い、志を育ててきた。グラウンドでまたミーティングで思いをぶつけ合い体現してきた」「強いファイターズであると同時にファイター一人一人の人間性が問われる。関西学院という教育機関の課外教育の意味がここにある」と結ばれている。
前島先生の祈りだけではない。ファイターズでは、毎年新しいシーズンが始まる前、鳥内監督が新しく4年生になる一人一人の部員と時間を掛けて面談し「どんな男になんねん」「どんな風にチームに貢献すんねん」と問い掛けられる。ビッグゲームの試合前日には必ず4年生とホテルに泊まり込み、選手一人一人の覚悟を問われる。
小野宏ディレクターは、コーチの時代、これまたビッグゲームの前には第3フィールドの中央に選手を集め、「堂々と勝ち、堂々と負けよ」から始まるカール・ダイムの詩を読み上げ、戦いに挑む戦士の士気を鼓舞されていた。それぞれが魂の深いところに問い掛けるスピリチュアルな試みであり「やらされる」フットボールではなく、「部員自らが思い、志を育てる」手助けである。
こんな風に書いていくと、ファイターズはなんと窮屈なチームだろう、と早とちりされるかもしれない。しかし、現場でチームに寄り添っていると、決してそんなことはない。
この前の甲子園ボウル。試合終了間際のファイターズの攻撃シリーズを思い浮かべてみると、それが即座に理解されるはずだ。
残り時間約1分30秒。得点は37−20でファイターズがリード。タッチダウンを2本とっても追いつかない局面でファイターズの攻撃が始まる。相手陣45ヤードからの第一プレーはQB西野からWR阿部への34ヤードパス。ゴール前11ヤードからの攻撃ではRB富永に立て続けにボールを持たせて第4ダウン残り1ヤード。相手ゴールまで残り2ヤードという局面で足の負傷で試合に出られないRB山口がチームメートに支えられるようにしてRBのポジションに着く。
ファイターズファンが陣取ったレフト側アルプス席と外野席から万雷の拍手が送られる。立命との決戦で鮮やかな独走TDを挙げただけでなく、今季の攻撃陣を終始リードしてきた彼をどうしても甲子園のグラウンドに立たせたいというコーチとチームメートの思いを汲んだベンチの計らいだった。
試合後、グラウンドに降り、喜びで顔をくしゃくしゃにしているQB奥野やRB中村らの右腕にそれぞれマジックで「34」と書き込まれているのを見、それが山口自身の手で書き込まれたと聞いたとき、僕は思わず「よっしゃー。これがファイターズや」とコブシを握った。
近くの大村コーチに聞くと「早稲田さんに失礼かとも思ったんですけど、どうしても最後の場面ではけがで苦労したメンバーを出したかった。山口はもちろん、最後にけがをした西野にも思い切りパスを投げさせられたし、この1年以上、ずっとけがで苦しみながらパートを引っ張ってきた富永も走らせることができた。4年生最後の甲子園。努力してきたヤツが思い残すことのないようにしてやりたかった」という答えが返ってきた。
まるで浪花節の世界である。けれども、ファイターズにとっては、こうした浪花節のよう気配りは珍しいことではない。2013年、日大と戦った甲子園ボウルでは直前に大けがをした池田雄紀君を副将の鳥内将希君や主将の池永健人君らが抱きかかえるようにしてサイドラインに並ばせたし、翌年はこれまた甲子園ボウル直前にけがをしたWRの横山公則君を周囲の4年生が包み込むようにして入場門を入っていった。
共同通信の宍戸博昭さん(日大OB)が最近の自身のコラムにこんなことを書いておられる。「全盛期の日大は、篠竹監督の個人商店、ファイターズは組織で勝負する総合商社」「ゲームプラン、プレーのデザイン、コールを含めて、よくコーチングされた関学の選手は相手の弱点を見逃さないしたたかさと高い遂行力を備えていた」……。
少々褒めすぎのような気もするが、選手に高い精神性を求め、魂の根幹に触れる祈りと、人間の感情に訴え、熱き血を奮い立たせ、涙を共有する浪花節が共存し、融合するファイターズのたたずまいに接していると、なるほど、これが総合商社と呼ばれる理由かも知れないという気がしてきた。
posted by コラム「スタンドから」 at 21:49| Comment(2)
| in 2018 Season
2018年12月17日
(31)「日本1」
甲子園ボウルの激闘が終わり、インタビューや表彰式が終わった後の最後のハドルで、光藤主将が腹の底から絞り出すように声を張り上げた。「ニホン イチ」。しばらく間を置いて「オレらが日本1や」と続ける。その言葉の力強さに、苦しみの中でも決して折れることなく戦ってきた「チーム光藤」の万感の思いがこもっていた。
2年振りに顔を合わせた早稲田は、前評判通りの強さだった。攻撃では高いパス能力を持つQBとたぐいまれなスピード、捕球力を持ち合わせた複数のレシーバーがおり、突破力を持ったRBも複数いる。主将を中心とした守備のラインも強力だ。全体的にやや前よりに位置したLBの動きも鋭い。
こういうやっかいな相手に、どこから突破口を開くのか。とにかく立ち上がりの攻防が勝負だ。そう思いながらキックオフを待つ。 幸いなことにファイターズのレシーブから試合が始まる。自陣26ヤードから最初のシリーズ。さて、どう攻めるかと注目した第1プレーはQB奥野からWR阿部へのパス。それが見事に通ってダウンを更新。次はRB中村がするするっと抜け出して13ヤードのラン。わずか2プレーで相手陣に入る。次のパスは通らなかったが、今度はRB渡邊が右オープンを抜けて駆け上がり、一気にゴール前1ヤードまで攻め込む。ここできっちり中村が中央へのダイブを決める。K安藤のキックも、お約束のように決まって7−0。わずか6プレーで欲しかった先制点を奪い、チーム全体に落ち着きをもたらす。
しかし、相手も強い。最初の攻撃シリーズからランとパスをバランスよく織り交ぜて一気に攻め込んで来る。途中、ファイターズはDL三笠が強烈なQBサックで相手を追い込んだが、相手はそれにひるまず、思い切りのよいパスを投げ込んで陣地を進め、これまたわずか8プレーで同点。
懸念していた通り、やっかいな相手だ。難しい試合のなるぞ、と懸念していた矢先、DB畑中が絶妙のインターセプトを決める。地面すれすれの低いパスに、一瞬の迷いもなく飛び込み、ボールを確保する。
この好機に、安藤がFGを決めて10−7。再びファイターズがリード。
圧巻は2Qに入ってからの攻守の動き。まずは開始早々、安藤が2本目のFGを決めて13−7。この前後から守備のリズムがよくなり、DB荒川のパスカット、三笠の2本目のQBサックなどが飛び出す。極めつけは、その次のプレー。第4ダウンで蹴った相手パントをLB板敷がブロック、こぼれたボールをLB海崎が確保し、16ヤードをリターンして相手ゴール前1ヤードに迫る。
その好機にQB光藤がするするとラインの穴をついてTD。勢いに乗ったファイターズは次の攻撃シリーズでもRB三宅が41ヤードの独走TDを決め、27−7とリード。そのまま前半終了。
後半になってもファイターズの攻守のリズムは崩れない。最終的には相手に2本のTDを許したが、ファイターズもしっかりTDとFGで10点を追加し、37−20で試合終了。昨年、日大を相手に敗戦を喫した悔しさを晴らした。
さて、勝因はどこにあるのだろう。結果はすべてグラウンドにあるという。
その視点で見れば、まずは守備陣の健闘が挙げられる。リズムに乗れば、ランでもパスでも、一気にTDまで持ち込む能力のある選手を揃えた早稲田を相手に、彼らはその力を存分に発揮させないまま、試合終了まで耐え続けた。1列目の中央を支えた藤本、エンドから再三、スピードに乗ってQBに襲いかかり、二つのQBサックと、生涯初めてというインターセプトを記録した三笠。これぞ最前列を守る豪傑というプレーで、相手の選択肢を一気に狭めてしまった。
2列目の中心を担った海崎、繁治の2年生コンビ。さらにはDLとの兼任で能力を開花させた二人の3年生、大竹と板敷の活躍も光った。3列目は4年生の横澤、西原、荒川、木村が適切な反応で相手のボールキャリアに食いつき、最後の砦を3年生の畑中が守った
攻撃陣の動きも安定していた。先発したQB奥野はもちろん、途中から出場した光藤と西野がそれぞれの持ち味を発揮して攻撃のリズムをつくり上げた。松井、小田、阿部という傑出したメンバーが代表するレシーバー陣が的確なブロックと捕球でそれを支えた。OLもシーズン当初はバタバタしていたが、リーグ戦の後半から、見違えるような安定感をみせた。RB陣では大黒柱の山口がけがで欠場したが、その穴を同じ4年生の中村や傑出したスピードを持つ3年生の渡邊、2年生の三宅が埋め、痛手を感じさせなかった。
キッカーの安藤、スナッパーの鈴木、ホールダーの中岡を中心としたキッキングチームの安定感も素晴らしかった。
このように名前を挙げて行くと、今季のファイターズには、甲子園という舞台で輝いた星が数え切れないほどいることが分かる。傑出した能力を持った「豪傑」と呼ぶにふさわしいプレーヤーもいるし、彗星のように表れた新星もいる。グラウンドに立つそれぞれの選手がそれぞれの分野で活躍する場面を自らつかみ取り、あるいは仲間を輝かせた。そういう集団であるからこそ、やっかいな相手にも真っ向から立ち向かい、勝負を決することができたのだろう。
それを証明したのがこの日、第3ダウンロングという場面で再三登用され、相手攻撃陣に果敢に切り込んでいったDL斎藤らの活躍であろう。
これは今季の関西リーグを振り返ってもいえることだが、対戦相手はそれぞれに強力だった。守備のラインが傑出していた近大、闘志を前面に出して挑みかかってきた京大、ファイターズ守備陣を翻弄し、ほとんど勝利を手にしていた関大、例年通り攻守ともに強力なメンバーを揃えた立命。そしてこの日、その高い能力の片鱗を随所で見せた早稲田。
こういう強豪を相手に、ファイターズがどうして勝ち、日本1になれたのか。僕自身、まだ十分に納得できる答は出せていないが、あえていえば、次のようなことではなかろうか。
一つは自らグラウンドに活躍の場を求めた選手達の精進と努力。それを支えたマネジャーやトレーナー、アナライジングスタッフの献身。それによって技量がアップし、試合ごとに活躍の場が広がって、選手自らが半歩、一歩と前進し続けたからではないか。
二つ目は、そうした選手たちの力量を見極め、それぞれの力を生かす攻め方、守り方を決めていったベンチの采配やコーチ陣の能力の高さである。その要求を受け止め、自ら活躍の場を求めた選手たちのフットボール理解力の向上も勝利に大きく貢献したはずだ。
さらにいえば歴代のチームが培ってきたチームのたたずまい、OBの方々の物心両面の支援も含めて、ファイターズはそれぞれの分野でほんの少しずつかもしれないが、ライバルたちを上回っていたのではないか。
そのトータルがこの日、甲子園で戦う権利をもたらし、その勝者となる道を開いたのだろう。試合終了後のハドルで、光藤主将が「日本1」と雄叫びを上げ、しばらく間を置いて「俺たちが日本1や」と叫んだ言葉にはそれだけの重みがある。
2年振りに顔を合わせた早稲田は、前評判通りの強さだった。攻撃では高いパス能力を持つQBとたぐいまれなスピード、捕球力を持ち合わせた複数のレシーバーがおり、突破力を持ったRBも複数いる。主将を中心とした守備のラインも強力だ。全体的にやや前よりに位置したLBの動きも鋭い。
こういうやっかいな相手に、どこから突破口を開くのか。とにかく立ち上がりの攻防が勝負だ。そう思いながらキックオフを待つ。 幸いなことにファイターズのレシーブから試合が始まる。自陣26ヤードから最初のシリーズ。さて、どう攻めるかと注目した第1プレーはQB奥野からWR阿部へのパス。それが見事に通ってダウンを更新。次はRB中村がするするっと抜け出して13ヤードのラン。わずか2プレーで相手陣に入る。次のパスは通らなかったが、今度はRB渡邊が右オープンを抜けて駆け上がり、一気にゴール前1ヤードまで攻め込む。ここできっちり中村が中央へのダイブを決める。K安藤のキックも、お約束のように決まって7−0。わずか6プレーで欲しかった先制点を奪い、チーム全体に落ち着きをもたらす。
しかし、相手も強い。最初の攻撃シリーズからランとパスをバランスよく織り交ぜて一気に攻め込んで来る。途中、ファイターズはDL三笠が強烈なQBサックで相手を追い込んだが、相手はそれにひるまず、思い切りのよいパスを投げ込んで陣地を進め、これまたわずか8プレーで同点。
懸念していた通り、やっかいな相手だ。難しい試合のなるぞ、と懸念していた矢先、DB畑中が絶妙のインターセプトを決める。地面すれすれの低いパスに、一瞬の迷いもなく飛び込み、ボールを確保する。
この好機に、安藤がFGを決めて10−7。再びファイターズがリード。
圧巻は2Qに入ってからの攻守の動き。まずは開始早々、安藤が2本目のFGを決めて13−7。この前後から守備のリズムがよくなり、DB荒川のパスカット、三笠の2本目のQBサックなどが飛び出す。極めつけは、その次のプレー。第4ダウンで蹴った相手パントをLB板敷がブロック、こぼれたボールをLB海崎が確保し、16ヤードをリターンして相手ゴール前1ヤードに迫る。
その好機にQB光藤がするするとラインの穴をついてTD。勢いに乗ったファイターズは次の攻撃シリーズでもRB三宅が41ヤードの独走TDを決め、27−7とリード。そのまま前半終了。
後半になってもファイターズの攻守のリズムは崩れない。最終的には相手に2本のTDを許したが、ファイターズもしっかりTDとFGで10点を追加し、37−20で試合終了。昨年、日大を相手に敗戦を喫した悔しさを晴らした。
さて、勝因はどこにあるのだろう。結果はすべてグラウンドにあるという。
その視点で見れば、まずは守備陣の健闘が挙げられる。リズムに乗れば、ランでもパスでも、一気にTDまで持ち込む能力のある選手を揃えた早稲田を相手に、彼らはその力を存分に発揮させないまま、試合終了まで耐え続けた。1列目の中央を支えた藤本、エンドから再三、スピードに乗ってQBに襲いかかり、二つのQBサックと、生涯初めてというインターセプトを記録した三笠。これぞ最前列を守る豪傑というプレーで、相手の選択肢を一気に狭めてしまった。
2列目の中心を担った海崎、繁治の2年生コンビ。さらにはDLとの兼任で能力を開花させた二人の3年生、大竹と板敷の活躍も光った。3列目は4年生の横澤、西原、荒川、木村が適切な反応で相手のボールキャリアに食いつき、最後の砦を3年生の畑中が守った
攻撃陣の動きも安定していた。先発したQB奥野はもちろん、途中から出場した光藤と西野がそれぞれの持ち味を発揮して攻撃のリズムをつくり上げた。松井、小田、阿部という傑出したメンバーが代表するレシーバー陣が的確なブロックと捕球でそれを支えた。OLもシーズン当初はバタバタしていたが、リーグ戦の後半から、見違えるような安定感をみせた。RB陣では大黒柱の山口がけがで欠場したが、その穴を同じ4年生の中村や傑出したスピードを持つ3年生の渡邊、2年生の三宅が埋め、痛手を感じさせなかった。
キッカーの安藤、スナッパーの鈴木、ホールダーの中岡を中心としたキッキングチームの安定感も素晴らしかった。
このように名前を挙げて行くと、今季のファイターズには、甲子園という舞台で輝いた星が数え切れないほどいることが分かる。傑出した能力を持った「豪傑」と呼ぶにふさわしいプレーヤーもいるし、彗星のように表れた新星もいる。グラウンドに立つそれぞれの選手がそれぞれの分野で活躍する場面を自らつかみ取り、あるいは仲間を輝かせた。そういう集団であるからこそ、やっかいな相手にも真っ向から立ち向かい、勝負を決することができたのだろう。
それを証明したのがこの日、第3ダウンロングという場面で再三登用され、相手攻撃陣に果敢に切り込んでいったDL斎藤らの活躍であろう。
これは今季の関西リーグを振り返ってもいえることだが、対戦相手はそれぞれに強力だった。守備のラインが傑出していた近大、闘志を前面に出して挑みかかってきた京大、ファイターズ守備陣を翻弄し、ほとんど勝利を手にしていた関大、例年通り攻守ともに強力なメンバーを揃えた立命。そしてこの日、その高い能力の片鱗を随所で見せた早稲田。
こういう強豪を相手に、ファイターズがどうして勝ち、日本1になれたのか。僕自身、まだ十分に納得できる答は出せていないが、あえていえば、次のようなことではなかろうか。
一つは自らグラウンドに活躍の場を求めた選手達の精進と努力。それを支えたマネジャーやトレーナー、アナライジングスタッフの献身。それによって技量がアップし、試合ごとに活躍の場が広がって、選手自らが半歩、一歩と前進し続けたからではないか。
二つ目は、そうした選手たちの力量を見極め、それぞれの力を生かす攻め方、守り方を決めていったベンチの采配やコーチ陣の能力の高さである。その要求を受け止め、自ら活躍の場を求めた選手たちのフットボール理解力の向上も勝利に大きく貢献したはずだ。
さらにいえば歴代のチームが培ってきたチームのたたずまい、OBの方々の物心両面の支援も含めて、ファイターズはそれぞれの分野でほんの少しずつかもしれないが、ライバルたちを上回っていたのではないか。
そのトータルがこの日、甲子園で戦う権利をもたらし、その勝者となる道を開いたのだろう。試合終了後のハドルで、光藤主将が「日本1」と雄叫びを上げ、しばらく間を置いて「俺たちが日本1や」と叫んだ言葉にはそれだけの重みがある。
posted by コラム「スタンドから」 at 10:54| Comment(2)
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2018年12月11日
(30)プライズマーク
ファイターズには、公式戦で活躍した選手を称えるために「プライズマーク」を贈呈する仕組みがある。僕のように観客席から眺めているだけの人間の目にも明らかな活躍をした選手はもちろん、たとえ地味であっても、控えのメンバーであっても、経験を積んだコーチから見れば高く評価できるプレーをした選手に与えられる。
もちろん、どんなに能力の高い選手でも、けがなどで戦列を離れてしまえば、1枚ももらえない。逆に下級生であっても、試合に出場し、目を見張る活躍をした選手にはその活躍に応じて1枚、2枚、3枚と与えられる。
だからそのマークをより多く獲得した選手がシーズンを通じて活躍した選手であり、チームのためにより多く貢献した選手といってもよい。
その証しがプライズマークであり、選手はそれをヘルメットに貼り付けて自身の励みとし、より一層、チームに貢献しようと努力するのである。
先日の西日本代表決定戦、立命館大学との戦いでは、そのプライズマークが驚くほど多くの選手に、驚くほど大量に与えられた。例えば、ディフェンスでは先発メンバー全員に3枚ずつ、オフェンスでは攻撃のリズムを作る華麗なパスキャッチを何度も見せてくれたWRの小田や阿部にそれぞれ5枚。試合の流れを引き寄せたQB光藤や奥野、DB横澤、畑中、さらには終始オフェンスの中央を支えきったラインの高木、森、松永らにも数多くのマークが与えられた。
特記されるのは、前回の試合で一気に10枚を贈られる選手が、同時に二人出たことである。通常の試合では1枚、あるいは2枚と限定的に贈られ、5枚も贈られること自体が珍しい。それが前回の試合では、二人の選手に一挙に10枚ずつが贈られた。そんなことは、僕の記憶にはない。それほどコーチの目から見て、二人の活躍が突出していたのだろう。
その選手の名前はOLの森とLBを務めた大竹である。ともに3年生。それぞれ高等部時代から活躍していた選手だが、けがなどで伸び悩み、なかなか「不動のメンバー」にはなれなかった。大竹は今季、何度も先発していたが、同じポジションで活躍している2年生の海崎や繁治の影に隠れていた。森にいたっては高校時代の同期、森田に先発の座を占められ、けがもあってほとんど出場機会がなかった。
それがあの大一番で大活躍。大竹は果敢な突進で相手ラインを突破し、強烈なロスタックルを何度も決めた。森は終始ラインの中央を死守してQBを守り、ランナーの走路を開けた。QBを守って当たり前とされる地味なポジションだが、その役割を交代出場にも関わらず、完璧にこなした森と、能力の高い立命のラインを突破し、ボールキャリアに食らいついた大竹。
二人の動きに目を止め、それをビデオで確認した上で高く評価したのがそれぞれの担当コーチである。スタンドから、常にボールのあるところばかりを追いかけている僕らの目には見えないところをきちんとチェックしているコーチの目に驚くと同時に、活躍した選手にはその活躍振りに応じて「プライズマーク」を惜しげもなく贈呈し、活躍を称えるベンチの冷静にして的確な判断に、いまさらながら感動した。
さて、今度の日曜日は大学王者を決める甲子園ボウルである。昨年、日大を相手に悔しい敗北を喫したその舞台に、ファイターズが全員で戻ってくる。今季の総決算ともいえるその試合で活躍するのは誰か。東の強豪を相手に、誰が突破口を開き、誰が守護神の役割を果たすのか。
僕としては出場選手全員に3枚、あるいは5枚とプライズマークが贈られ、その上で試合の流れをつかみ、決定づけるプレーをした選手に3枚、5枚と奮発されるような試合を期待する。さらにいえば、サイドラインに並んだ選手、スタッフ全員に3枚、5枚と出したくなるような試合になれば、もっとうれしい。
もちろん、どんなに能力の高い選手でも、けがなどで戦列を離れてしまえば、1枚ももらえない。逆に下級生であっても、試合に出場し、目を見張る活躍をした選手にはその活躍に応じて1枚、2枚、3枚と与えられる。
だからそのマークをより多く獲得した選手がシーズンを通じて活躍した選手であり、チームのためにより多く貢献した選手といってもよい。
その証しがプライズマークであり、選手はそれをヘルメットに貼り付けて自身の励みとし、より一層、チームに貢献しようと努力するのである。
先日の西日本代表決定戦、立命館大学との戦いでは、そのプライズマークが驚くほど多くの選手に、驚くほど大量に与えられた。例えば、ディフェンスでは先発メンバー全員に3枚ずつ、オフェンスでは攻撃のリズムを作る華麗なパスキャッチを何度も見せてくれたWRの小田や阿部にそれぞれ5枚。試合の流れを引き寄せたQB光藤や奥野、DB横澤、畑中、さらには終始オフェンスの中央を支えきったラインの高木、森、松永らにも数多くのマークが与えられた。
特記されるのは、前回の試合で一気に10枚を贈られる選手が、同時に二人出たことである。通常の試合では1枚、あるいは2枚と限定的に贈られ、5枚も贈られること自体が珍しい。それが前回の試合では、二人の選手に一挙に10枚ずつが贈られた。そんなことは、僕の記憶にはない。それほどコーチの目から見て、二人の活躍が突出していたのだろう。
その選手の名前はOLの森とLBを務めた大竹である。ともに3年生。それぞれ高等部時代から活躍していた選手だが、けがなどで伸び悩み、なかなか「不動のメンバー」にはなれなかった。大竹は今季、何度も先発していたが、同じポジションで活躍している2年生の海崎や繁治の影に隠れていた。森にいたっては高校時代の同期、森田に先発の座を占められ、けがもあってほとんど出場機会がなかった。
それがあの大一番で大活躍。大竹は果敢な突進で相手ラインを突破し、強烈なロスタックルを何度も決めた。森は終始ラインの中央を死守してQBを守り、ランナーの走路を開けた。QBを守って当たり前とされる地味なポジションだが、その役割を交代出場にも関わらず、完璧にこなした森と、能力の高い立命のラインを突破し、ボールキャリアに食らいついた大竹。
二人の動きに目を止め、それをビデオで確認した上で高く評価したのがそれぞれの担当コーチである。スタンドから、常にボールのあるところばかりを追いかけている僕らの目には見えないところをきちんとチェックしているコーチの目に驚くと同時に、活躍した選手にはその活躍振りに応じて「プライズマーク」を惜しげもなく贈呈し、活躍を称えるベンチの冷静にして的確な判断に、いまさらながら感動した。
さて、今度の日曜日は大学王者を決める甲子園ボウルである。昨年、日大を相手に悔しい敗北を喫したその舞台に、ファイターズが全員で戻ってくる。今季の総決算ともいえるその試合で活躍するのは誰か。東の強豪を相手に、誰が突破口を開き、誰が守護神の役割を果たすのか。
僕としては出場選手全員に3枚、あるいは5枚とプライズマークが贈られ、その上で試合の流れをつかみ、決定づけるプレーをした選手に3枚、5枚と奮発されるような試合を期待する。さらにいえば、サイドラインに並んだ選手、スタッフ全員に3枚、5枚と出したくなるような試合になれば、もっとうれしい。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:26| Comment(3)
| in 2018 Season
2018年12月03日
(29)魂のドラマ
ファイターズが劇的な逆転勝利をつかんだ後、選手に一言掛けたくてグラウンドに降りた。しかし、全員で試合終了後の挨拶を終えたばかり。まだ新聞記者やテレビ局のヒーローインタビューが続いているさなかでもあり、なかなか個々の選手には声が掛けづらい。
とりあえず、手の空いたコーチに「ありがとうございました」と片っ端から声を掛ける。「勝ったのは良かったけど、素直に喜べませんね」という渋い表情のコーチもいるし、感極まったような表情をしているコーチもいる。それぞれ担当している部署の出来不出来を目の当たりにし、さらにこれからの試合を見据えているからこその反応だろう。
そんな中で、一人「オフェンスは新喜劇みたいやったな」と話し掛けてきたコーチがいる。自他共に許す吉本新喜劇のファンで、普段から「新喜劇は奇想天外。その面白さが分かって初めて、臨機応変、いいプレーヤーになれる」と言い続けているコーチである。
一瞬、「なんで新喜劇」という表情をすると、「うちのディフェンスは元々、新喜劇やったけど、今日の試合はオフェンスも新喜劇やった」という言葉が続いた。
その言葉の意味が解せないまま、何とか会話を続け、しばらくしてからその意味を考えた。多分、そのコーチは「新喜劇」という言葉に次のような意味合いを含めていたのだろう。
「吉本新喜劇は常に前半がドタバタ。番組の終わるまでにどのように収拾するか訳が分からん」「けれども最後はいつものお約束の通りに物語の収拾がついて、見ている方もめでたしめでたし。腹を抱えて笑っているうちに、目出度く番組はお開きになる」と。
このお約束をこの日のオフェンスに当てはめると、試合の途中まではインターセプトが3回、うち1本はそのままタッチダウン。ファンブルで攻撃権を奪われた分を合わせると、ターンオーバーが4つという、近来にないドタバタ劇だった。しかし、物語の後半になると、それぞれの役者がしっかり役割を果たして劇の進行を支え、気がつけば最後のプレーで逆転サヨナラ勝ち。見事な大団円に仕上げている。この試合を形容するには、喜劇という言葉も悲劇という言葉も似合わない。余りにも結末が鮮やかすぎて人情劇と呼ぶのもためらわれる。ここはやっぱり新喜劇。「ファイターズファンのすべてが喜びの涙を浮かべる新喜劇」と表現するのが一番だろうと勝手に納得した。
めちゃくちゃなローカルな話で前置きが長くなった。本題に入る。
12月2日、晴れ渡った万博記念競技場で開かれた西日本代表校決定戦、立命館大学と関西学院大学の試合は、スポ根漫画も顔負けのドラマチックな幕切れとなった。
ファイターズは前半からリードされ、第3Q終了時点でも16−10と立命がリード。その後、4Q途中にもだめ押しとも思えるFGを決められ、19−10と差が広がる。
起死回生の一発に賭けようとしても、エースランナーの山口は負傷で退場。エースレシーバーの松井も足を引きずっている。QB奥野のパスで突破口を開きたいところだが、前半から手痛いインターセプトを3発も食らっている。おまけに随時、交代出場し、プレーの選択肢を広げていたQB西野もベンチに下がっている。
残り時間は7分56秒。ボールは自陣25ヤード。さてどうする。まずは奥野から同学年のWR鈴木に6ヤードのパス。一つおいて次のプレーもWR阿部へのパス。それが見事に決まって相手陣45ヤード。よしっ、と思った瞬間、ホールディングの反則で10ヤード後退。ヤバイ、と思った瞬間、奥野がスクランブルで一気に陣地を回復。あらためて敵陣34ヤードからの攻撃につなげる。
ここで交代したQB光藤がまたもや17ヤードのスクランブル。相手の反則もあって一気に相手ゴールに迫る。再び光藤が走ってゴール前1ヤードに攻め込んだ後、仕上げはRB中村のダイブで19−17と追い上げる。
残り時間は3分44秒。相手攻撃を絶対に3&アウトに押さえなければならない局面だ。奮起した守備陣が鉄壁の守りを見せて攻撃権を奪い返す。そのときボールは自陣41ヤード、残り時間は1分56秒。何とかフィールドゴール圏内までボールを持ち込みたいが、残された時間は少ない。
さてどうするか。ここでも突破口を開いたのは奥野からWR陣へのパス。松井、そして阿部へとミドルパスを立て続けに通し、一気に相手ゴール前12ヤードに迫る。
ここからはRB渡邊を走らせて時間を消費。残り2秒となったところでK安藤にチームの命運を託した。恐ろしく緊張する場面だったが、安藤が見事に24ヤードのFGを決め、劇的な逆転サヨナラ勝ちを手にした。
この場面、距離は短かったが、この一蹴りにチームの命運がかかっている。キッカーの安藤はもとより、スナッパーの鈴木、ホールダーの中岡も、さらにいえばキッキングチーム全員の胸中が波立っていたに違いない。けれども、11人がそれぞれの役割を完璧に全うして勝利を呼び込んだ。
振り返れば、故障明けの4年生レシーバー松井と小田が局面を打開し、それに呼応して同じポジションの阿部が神がかり的な捕球を続ける。試合の終盤、ここぞという場面で登場した主将・光藤の必死のプレーがチームを奮い立たせる。上級生をここで終わらせてはならない、と腹をくくった奥野が前半とは打って変わって正確なパスを投げ続ける。スクランブルで局面を打開する。
こうしたオフェンスの必死懸命のプレーに守備陣が呼応。4Qに入ってからは厳しく思い切りのよいタックルで相手の攻撃の芽をことごとく摘み取っていった。
試合の前日、練習後のハドルで主将が叫んだ言葉が耳に残っている。「こんなところで終わってなるものか、俺たちは日本一になるんだ」。その言葉を苦しい試合展開の中で思い出し、グラウンドに立つ全員が体を張って共有したからこその勝利である。吉本新喜劇では、ここまでのストーリーは描けない。ファイターズならではの魂のドラマであると僕は思っている。
さて、次は甲子園。もう一丁、気合いを入れて頑張ろう。
とりあえず、手の空いたコーチに「ありがとうございました」と片っ端から声を掛ける。「勝ったのは良かったけど、素直に喜べませんね」という渋い表情のコーチもいるし、感極まったような表情をしているコーチもいる。それぞれ担当している部署の出来不出来を目の当たりにし、さらにこれからの試合を見据えているからこその反応だろう。
そんな中で、一人「オフェンスは新喜劇みたいやったな」と話し掛けてきたコーチがいる。自他共に許す吉本新喜劇のファンで、普段から「新喜劇は奇想天外。その面白さが分かって初めて、臨機応変、いいプレーヤーになれる」と言い続けているコーチである。
一瞬、「なんで新喜劇」という表情をすると、「うちのディフェンスは元々、新喜劇やったけど、今日の試合はオフェンスも新喜劇やった」という言葉が続いた。
その言葉の意味が解せないまま、何とか会話を続け、しばらくしてからその意味を考えた。多分、そのコーチは「新喜劇」という言葉に次のような意味合いを含めていたのだろう。
「吉本新喜劇は常に前半がドタバタ。番組の終わるまでにどのように収拾するか訳が分からん」「けれども最後はいつものお約束の通りに物語の収拾がついて、見ている方もめでたしめでたし。腹を抱えて笑っているうちに、目出度く番組はお開きになる」と。
このお約束をこの日のオフェンスに当てはめると、試合の途中まではインターセプトが3回、うち1本はそのままタッチダウン。ファンブルで攻撃権を奪われた分を合わせると、ターンオーバーが4つという、近来にないドタバタ劇だった。しかし、物語の後半になると、それぞれの役者がしっかり役割を果たして劇の進行を支え、気がつけば最後のプレーで逆転サヨナラ勝ち。見事な大団円に仕上げている。この試合を形容するには、喜劇という言葉も悲劇という言葉も似合わない。余りにも結末が鮮やかすぎて人情劇と呼ぶのもためらわれる。ここはやっぱり新喜劇。「ファイターズファンのすべてが喜びの涙を浮かべる新喜劇」と表現するのが一番だろうと勝手に納得した。
めちゃくちゃなローカルな話で前置きが長くなった。本題に入る。
12月2日、晴れ渡った万博記念競技場で開かれた西日本代表校決定戦、立命館大学と関西学院大学の試合は、スポ根漫画も顔負けのドラマチックな幕切れとなった。
ファイターズは前半からリードされ、第3Q終了時点でも16−10と立命がリード。その後、4Q途中にもだめ押しとも思えるFGを決められ、19−10と差が広がる。
起死回生の一発に賭けようとしても、エースランナーの山口は負傷で退場。エースレシーバーの松井も足を引きずっている。QB奥野のパスで突破口を開きたいところだが、前半から手痛いインターセプトを3発も食らっている。おまけに随時、交代出場し、プレーの選択肢を広げていたQB西野もベンチに下がっている。
残り時間は7分56秒。ボールは自陣25ヤード。さてどうする。まずは奥野から同学年のWR鈴木に6ヤードのパス。一つおいて次のプレーもWR阿部へのパス。それが見事に決まって相手陣45ヤード。よしっ、と思った瞬間、ホールディングの反則で10ヤード後退。ヤバイ、と思った瞬間、奥野がスクランブルで一気に陣地を回復。あらためて敵陣34ヤードからの攻撃につなげる。
ここで交代したQB光藤がまたもや17ヤードのスクランブル。相手の反則もあって一気に相手ゴールに迫る。再び光藤が走ってゴール前1ヤードに攻め込んだ後、仕上げはRB中村のダイブで19−17と追い上げる。
残り時間は3分44秒。相手攻撃を絶対に3&アウトに押さえなければならない局面だ。奮起した守備陣が鉄壁の守りを見せて攻撃権を奪い返す。そのときボールは自陣41ヤード、残り時間は1分56秒。何とかフィールドゴール圏内までボールを持ち込みたいが、残された時間は少ない。
さてどうするか。ここでも突破口を開いたのは奥野からWR陣へのパス。松井、そして阿部へとミドルパスを立て続けに通し、一気に相手ゴール前12ヤードに迫る。
ここからはRB渡邊を走らせて時間を消費。残り2秒となったところでK安藤にチームの命運を託した。恐ろしく緊張する場面だったが、安藤が見事に24ヤードのFGを決め、劇的な逆転サヨナラ勝ちを手にした。
この場面、距離は短かったが、この一蹴りにチームの命運がかかっている。キッカーの安藤はもとより、スナッパーの鈴木、ホールダーの中岡も、さらにいえばキッキングチーム全員の胸中が波立っていたに違いない。けれども、11人がそれぞれの役割を完璧に全うして勝利を呼び込んだ。
振り返れば、故障明けの4年生レシーバー松井と小田が局面を打開し、それに呼応して同じポジションの阿部が神がかり的な捕球を続ける。試合の終盤、ここぞという場面で登場した主将・光藤の必死のプレーがチームを奮い立たせる。上級生をここで終わらせてはならない、と腹をくくった奥野が前半とは打って変わって正確なパスを投げ続ける。スクランブルで局面を打開する。
こうしたオフェンスの必死懸命のプレーに守備陣が呼応。4Qに入ってからは厳しく思い切りのよいタックルで相手の攻撃の芽をことごとく摘み取っていった。
試合の前日、練習後のハドルで主将が叫んだ言葉が耳に残っている。「こんなところで終わってなるものか、俺たちは日本一になるんだ」。その言葉を苦しい試合展開の中で思い出し、グラウンドに立つ全員が体を張って共有したからこその勝利である。吉本新喜劇では、ここまでのストーリーは描けない。ファイターズならではの魂のドラマであると僕は思っている。
さて、次は甲子園。もう一丁、気合いを入れて頑張ろう。
posted by コラム「スタンドから」 at 06:42| Comment(4)
| in 2018 Season
2018年11月28日
(28)檄文
「2018FIGHTERSの挑戦に参戦お待ちしております」という檄文がファイターズのディレクター補佐、石割淳さんから届いた。
12月2日に迎える立命館大学との今季最終決戦を目前に、ファイターズOB会のメンバーらに宛てた、いわば決起文である。
この檄文を読む直前、僕もまた幕末に活躍した長州藩士であり、奇兵隊開闢(かいびゃく)総督でもある高杉晋作が元治元年(1864年)12月、拠点にしている長州・功山寺で開かれた奇兵隊幹部会議で長州藩の正規軍相手に決起を呼び掛けた時の言葉を思い浮かべていた。
「1里行けば1里の忠、2里行けば2里の忠。たとえ反逆者と呼ばれようと、それが僕の忠節じゃ」。「真(まこと)があるなら今月今宵。明けて正月たれも来る」。
先週の関西リーグ最終戦は、強敵・立命を相手に勝利を手にした。だからといって、その2週間後の戦いとなる西日本王座決定戦でも勝てるという保証はどこにもない。「絶対にやり返してやる」と牙をむき、全力で立ち向かってくる相手に一歩も引かず、持てる力を100%発揮して初めて、互角の戦いになると見るのが順当だろう。
実際、リーグ戦の勝者と敗者が逆の立場になった昨年は、リーグ戦で敗れたファイターズが決死の覚悟で戦い、なんとか代表決定戦で勝利することができた。1昨年は、リーグ戦で勝利したファイターズが代表決定戦でも前半、大きくリードしたが、後半は一気に追い上げられ、最後まで勝敗の行方が分からない激戦となった。
そういうライバルとの戦いである。チームが一丸となり、全員が気力、体力、技術のすべてを発揮して戦わなければ、展望は開けない。どんなに苦しい局面でも、全員が「1歩前に」という気持ちをぶつけなければ戦争にならないのだ。文字通り「1歩進めば1歩の忠、2歩進めば2歩の忠」である。
とりわけ大事なことがある。攻撃、守備ともに、どんなに苦しい時でも耐え忍び、局面を打開する道を見つけることだ。「真があるなら今月今宵。明けて正月、誰も来る」という言葉がその機微を表現している。
これを試合に置き換えて解釈すると「苦しい時に突破口を開いてこそ意味がある。点差が開き、試合の行方が見えてからなら、誰でも活躍できる」という意味であろう。
つまり、先日の立命戦でいえば、先制の独走TDを決めたRB山口の動きであり、彼のために進路を開いたOLの諸君、ブロッカーの役割を果たしたレシーバー陣のプレーがそれに相当する。あるいは絶妙のタイミングで正確なパスをレシーバー陣に投じたQB奥野、そのパスを見事にキャッチし、そのままTDにつなげたWR阿部と小田。奥野に代わって随時出場し、相手守備陣を幻惑したQB西野と光藤。
相手攻撃を素早い動きと激しいタックルで食い止め続けたディフェンス陣の動きもそれに該当するし、終始、的確なパントを蹴って陣地を回復し続けたキッキングチームの活躍も忘れてはならない。
彼らはすべて「真があるなら今月今宵」と参集したメンバーである。
その気持ちを12月2日に控えた決戦で、もう一段高められるかどうか。
そこに勝敗の分岐点がある。
先週末は、和歌山知事選などの関係で上ヶ原まで練習を見に行くことはできなかった。だからいま、チームがどんな状態にあるかは分からないし、報告もできない。けれども、遠く離れていても激励の言葉は送れる。
そう思って僕が思いついたのが高杉晋作の「真があるなら今月今宵」であり「1里歩めば1里の忠、2里歩めば2里の忠」という言葉である。
1歩でもいい、2歩でもよい。2018年度ファイターズのすべてをかけて進んでもらいたい。「真があるなら今月今宵」という覚悟で決戦に臨んでこそ、道は開ける。
12月2日に迎える立命館大学との今季最終決戦を目前に、ファイターズOB会のメンバーらに宛てた、いわば決起文である。
この檄文を読む直前、僕もまた幕末に活躍した長州藩士であり、奇兵隊開闢(かいびゃく)総督でもある高杉晋作が元治元年(1864年)12月、拠点にしている長州・功山寺で開かれた奇兵隊幹部会議で長州藩の正規軍相手に決起を呼び掛けた時の言葉を思い浮かべていた。
「1里行けば1里の忠、2里行けば2里の忠。たとえ反逆者と呼ばれようと、それが僕の忠節じゃ」。「真(まこと)があるなら今月今宵。明けて正月たれも来る」。
先週の関西リーグ最終戦は、強敵・立命を相手に勝利を手にした。だからといって、その2週間後の戦いとなる西日本王座決定戦でも勝てるという保証はどこにもない。「絶対にやり返してやる」と牙をむき、全力で立ち向かってくる相手に一歩も引かず、持てる力を100%発揮して初めて、互角の戦いになると見るのが順当だろう。
実際、リーグ戦の勝者と敗者が逆の立場になった昨年は、リーグ戦で敗れたファイターズが決死の覚悟で戦い、なんとか代表決定戦で勝利することができた。1昨年は、リーグ戦で勝利したファイターズが代表決定戦でも前半、大きくリードしたが、後半は一気に追い上げられ、最後まで勝敗の行方が分からない激戦となった。
そういうライバルとの戦いである。チームが一丸となり、全員が気力、体力、技術のすべてを発揮して戦わなければ、展望は開けない。どんなに苦しい局面でも、全員が「1歩前に」という気持ちをぶつけなければ戦争にならないのだ。文字通り「1歩進めば1歩の忠、2歩進めば2歩の忠」である。
とりわけ大事なことがある。攻撃、守備ともに、どんなに苦しい時でも耐え忍び、局面を打開する道を見つけることだ。「真があるなら今月今宵。明けて正月、誰も来る」という言葉がその機微を表現している。
これを試合に置き換えて解釈すると「苦しい時に突破口を開いてこそ意味がある。点差が開き、試合の行方が見えてからなら、誰でも活躍できる」という意味であろう。
つまり、先日の立命戦でいえば、先制の独走TDを決めたRB山口の動きであり、彼のために進路を開いたOLの諸君、ブロッカーの役割を果たしたレシーバー陣のプレーがそれに相当する。あるいは絶妙のタイミングで正確なパスをレシーバー陣に投じたQB奥野、そのパスを見事にキャッチし、そのままTDにつなげたWR阿部と小田。奥野に代わって随時出場し、相手守備陣を幻惑したQB西野と光藤。
相手攻撃を素早い動きと激しいタックルで食い止め続けたディフェンス陣の動きもそれに該当するし、終始、的確なパントを蹴って陣地を回復し続けたキッキングチームの活躍も忘れてはならない。
彼らはすべて「真があるなら今月今宵」と参集したメンバーである。
その気持ちを12月2日に控えた決戦で、もう一段高められるかどうか。
そこに勝敗の分岐点がある。
先週末は、和歌山知事選などの関係で上ヶ原まで練習を見に行くことはできなかった。だからいま、チームがどんな状態にあるかは分からないし、報告もできない。けれども、遠く離れていても激励の言葉は送れる。
そう思って僕が思いついたのが高杉晋作の「真があるなら今月今宵」であり「1里歩めば1里の忠、2里歩めば2里の忠」という言葉である。
1歩でもいい、2歩でもよい。2018年度ファイターズのすべてをかけて進んでもらいたい。「真があるなら今月今宵」という覚悟で決戦に臨んでこそ、道は開ける。
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| in 2018 Season
2018年11月20日
(27)第一関門突破
関西リーグ最終戦、立命館との試合は、何とも評価が難しかった。現場で応援している時も、試合が終わってからも、喜んでいいのか、喜んでいる場合ではないのか、僕には判断がつきかねた。
最終スコアは31−7。得点と試合経過だけを見れば、前半で先行し、後半の勝負どころで攻守がかみ合って、余裕で逃げ切ったと言っても間違いはないだろう。
でも、現場で一つ一つのプレーを見ている限り、とてもそんな余裕はなかった。
前半、先攻のファイターズはRB山口が魂の走りで52ヤードの独走TD。さらに第2Q半ばにはQB奥野がWR阿部に19ヤードのTDパスを決めて14−0。
互いにディフェンスが踏ん張り、攻撃陣が非凡なプレーを見せつける中で、ファイターズがなんとか先手を取ったが、攻守ともに傑出したプレーヤーがいる相手も強い。RBにもWRにも一発タッチダウンの危険性を漂わせた選手が何人もいる。一つ流れが変われば、2本や3本のTDは立て続けに奪われそうな予感さえする。
悪い予感はよく当たる。第2Qの終了間際、相手ゴール前7ヤードに迫り、ようやくリードと呼べるほどの差がつくかと思ったが、案の定、そこを決めきれない。短いフィールドゴールがゴールポストに当たってしまい、決定的な3点を取り損ねてしまう。やばい。勝利の女神が逃げ去ってしまうのではないかという、嫌な予感さえ浮かんだ。
案の定、後半は立命が盛り返す。立命陣13ヤードから始まった第3Q最初のシリーズ。相手はテンポのよいラン攻撃で立て続けに3度、ダウンを更新。存分にランに注意を引きつけた上で、関学陣35ヤード付近からゴールをめがけて長いパス。ファイターズDB陣と競り合った相手のエースがそれを横取りするような形でキャッチしてTD。たちまち14−7と追い上げられる。
相手は勢いに乗っている。前半は得点差こそついたが、見た目には互角の攻防だった。それが後半、相手は最初のシリーズでTDをもぎ取り、攻撃のリズムをつかんだ。やっかいな相手が調子づくとヤバイ。ファイターズがどう立ち向かうか。何とか、この流れを断ち切ってくれ。祈るような気持ちで応援する。
そんな状況を切り開いたのはファイターズの誇るQBとレシーバー陣。第3Q終了間際に奥野からのミドルパスがWR松井と阿部にヒット。一気に相手ゴール前に迫る。その好機に安藤がFGを決め17−7と差を開く。
この3点が守備陣を落ち着かせ、勇気付ける。それまでは強力なランと短いパスをかみ合わせ、テンポ良く攻め込んでくる相手に、受けて立っていた面々が俄然、攻撃的になってくる。LBの2年生コンビ、海崎と繁治が競うように相手に襲いかかり、DBが低くて強烈なタックルを決める。三笠と藤本を中心にしたDL陣も素早い動きでQBサックを連発する。
こうなると、攻撃陣にも余裕が出る。相手ゴール前45ヤードから始まった次の攻撃シリーズ。その第1プレーでQB奥野からWR小田へパスがヒット。それを確保した小田が一気に相手ゴールまで突っ走って45ヤードのTD。さすがは元高校球児。夏の甲子園で余裕の盗塁を決めた快足と、大学4年間で習得した捕球センスは、レベルが違う。
得点は24−7。ここで立命サイドは緊張の糸が切れたのか、それともファイターズ守備陣が自信を持ったのか。相手が起死回生を狙って投じたパスをDB畑中と横澤が立て続けに奪い取って攻撃の芽を摘み取っていく。それまで試合に出ていなかった交代メンバーのDL斎藤、春口らも低い姿勢から突き刺さるようなタックルでQBに仕事をさせない。
最後はRB渡邊が19ヤードを走り切ってTD。終わって見れば31−7と点差は開いた。
試合中、1プレーごとにノートに記録したメモを手元に置き、このように試合の流れを再現してみたが、ここまでに名前を挙げたメンバーの大半が4年生。奥野と併用されて相手守備陣を混乱させたQB西野と光藤も4年生だ。試合を通じて安定したパントを蹴り続けた安藤に、正確なスナップを出し続けたスナッパーの鈴木も含めて4年生が腹をくくって戦ったことがよく分かる。試合後、報道陣に囲まれた鳥内監督も「4年生は今日ぐらい頑張らな意味がない」と独特の表現で称賛していた通りである。
けれども監督は続けて「今度はもっと大変な試合になるんとちゃいますか」と釘を刺していた。立命は強い、この日の得点差を地力の違いと勘違いしていたら、大変な目に会う、という戒めだろう。
実際、今回はファイターズがいち早く試合の流れをつかんだが、次も同じようになる保証はどこにもない。
逆に相手は、昨年のファイターズと同じ立場であり、必死に立ち向かってくるはずだ。途中、名城大学との試合に勝ち抜いてこそ、という条件付きだが、2週間後には、昨年と全く立場を変えて双方が戦うことになる。
その試合にどう臨むか。残された時間は2週間足らず。その短い時間に、どこまで集中して練習するのか。未解決な課題をどのように解消していくのか。今回の決戦で、個人としてもチームとしても、相手の力量にそれなりの手応えを得たはずである。それにどのように対応し、どう突破しようというのか。
12月2日。決戦の日は目の前だ。だからこそ、向こう10日余り。集中して練習に取り組み、死にものぐるいで勝負しようではないか。
この試合で覚醒した4年生、それに負けじと奮闘した下級生諸君。君たちは第一関門を突破した。関西リーグの優勝者である。その自信と誇りを胸に刻み、チームの総力を挙げて次なる戦いに挑んでもらいたい。これからが本番だ。
最終スコアは31−7。得点と試合経過だけを見れば、前半で先行し、後半の勝負どころで攻守がかみ合って、余裕で逃げ切ったと言っても間違いはないだろう。
でも、現場で一つ一つのプレーを見ている限り、とてもそんな余裕はなかった。
前半、先攻のファイターズはRB山口が魂の走りで52ヤードの独走TD。さらに第2Q半ばにはQB奥野がWR阿部に19ヤードのTDパスを決めて14−0。
互いにディフェンスが踏ん張り、攻撃陣が非凡なプレーを見せつける中で、ファイターズがなんとか先手を取ったが、攻守ともに傑出したプレーヤーがいる相手も強い。RBにもWRにも一発タッチダウンの危険性を漂わせた選手が何人もいる。一つ流れが変われば、2本や3本のTDは立て続けに奪われそうな予感さえする。
悪い予感はよく当たる。第2Qの終了間際、相手ゴール前7ヤードに迫り、ようやくリードと呼べるほどの差がつくかと思ったが、案の定、そこを決めきれない。短いフィールドゴールがゴールポストに当たってしまい、決定的な3点を取り損ねてしまう。やばい。勝利の女神が逃げ去ってしまうのではないかという、嫌な予感さえ浮かんだ。
案の定、後半は立命が盛り返す。立命陣13ヤードから始まった第3Q最初のシリーズ。相手はテンポのよいラン攻撃で立て続けに3度、ダウンを更新。存分にランに注意を引きつけた上で、関学陣35ヤード付近からゴールをめがけて長いパス。ファイターズDB陣と競り合った相手のエースがそれを横取りするような形でキャッチしてTD。たちまち14−7と追い上げられる。
相手は勢いに乗っている。前半は得点差こそついたが、見た目には互角の攻防だった。それが後半、相手は最初のシリーズでTDをもぎ取り、攻撃のリズムをつかんだ。やっかいな相手が調子づくとヤバイ。ファイターズがどう立ち向かうか。何とか、この流れを断ち切ってくれ。祈るような気持ちで応援する。
そんな状況を切り開いたのはファイターズの誇るQBとレシーバー陣。第3Q終了間際に奥野からのミドルパスがWR松井と阿部にヒット。一気に相手ゴール前に迫る。その好機に安藤がFGを決め17−7と差を開く。
この3点が守備陣を落ち着かせ、勇気付ける。それまでは強力なランと短いパスをかみ合わせ、テンポ良く攻め込んでくる相手に、受けて立っていた面々が俄然、攻撃的になってくる。LBの2年生コンビ、海崎と繁治が競うように相手に襲いかかり、DBが低くて強烈なタックルを決める。三笠と藤本を中心にしたDL陣も素早い動きでQBサックを連発する。
こうなると、攻撃陣にも余裕が出る。相手ゴール前45ヤードから始まった次の攻撃シリーズ。その第1プレーでQB奥野からWR小田へパスがヒット。それを確保した小田が一気に相手ゴールまで突っ走って45ヤードのTD。さすがは元高校球児。夏の甲子園で余裕の盗塁を決めた快足と、大学4年間で習得した捕球センスは、レベルが違う。
得点は24−7。ここで立命サイドは緊張の糸が切れたのか、それともファイターズ守備陣が自信を持ったのか。相手が起死回生を狙って投じたパスをDB畑中と横澤が立て続けに奪い取って攻撃の芽を摘み取っていく。それまで試合に出ていなかった交代メンバーのDL斎藤、春口らも低い姿勢から突き刺さるようなタックルでQBに仕事をさせない。
最後はRB渡邊が19ヤードを走り切ってTD。終わって見れば31−7と点差は開いた。
試合中、1プレーごとにノートに記録したメモを手元に置き、このように試合の流れを再現してみたが、ここまでに名前を挙げたメンバーの大半が4年生。奥野と併用されて相手守備陣を混乱させたQB西野と光藤も4年生だ。試合を通じて安定したパントを蹴り続けた安藤に、正確なスナップを出し続けたスナッパーの鈴木も含めて4年生が腹をくくって戦ったことがよく分かる。試合後、報道陣に囲まれた鳥内監督も「4年生は今日ぐらい頑張らな意味がない」と独特の表現で称賛していた通りである。
けれども監督は続けて「今度はもっと大変な試合になるんとちゃいますか」と釘を刺していた。立命は強い、この日の得点差を地力の違いと勘違いしていたら、大変な目に会う、という戒めだろう。
実際、今回はファイターズがいち早く試合の流れをつかんだが、次も同じようになる保証はどこにもない。
逆に相手は、昨年のファイターズと同じ立場であり、必死に立ち向かってくるはずだ。途中、名城大学との試合に勝ち抜いてこそ、という条件付きだが、2週間後には、昨年と全く立場を変えて双方が戦うことになる。
その試合にどう臨むか。残された時間は2週間足らず。その短い時間に、どこまで集中して練習するのか。未解決な課題をどのように解消していくのか。今回の決戦で、個人としてもチームとしても、相手の力量にそれなりの手応えを得たはずである。それにどのように対応し、どう突破しようというのか。
12月2日。決戦の日は目の前だ。だからこそ、向こう10日余り。集中して練習に取り組み、死にものぐるいで勝負しようではないか。
この試合で覚醒した4年生、それに負けじと奮闘した下級生諸君。君たちは第一関門を突破した。関西リーグの優勝者である。その自信と誇りを胸に刻み、チームの総力を挙げて次なる戦いに挑んでもらいたい。これからが本番だ。
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2018年11月12日
(26)4年生の覚醒
シーズンが押し詰まってくると、古い友人たちから電話やメールが届く。
「先日の関大戦、なんであんなに苦しんだんや。あれが今季の実力か」「振り返ってみれば、京大戦ももう一つしっくりいってなかったな」。大体がこんな風に、連絡をしてきた人が自分の見解を披露し、あれやこれやと話して落ち着く先は「立命戦、大丈夫ですかね」。
これがファン心理というのか、ひいきのチームに寄せる愛情なのか。僕自身も似たようなことを考えているけれども、もっぱら熱心な友人たちの聞き役に回っている。多少はチームの内情にも通じ、選手やスタッフと話すことはあるけれども、チームのことを部外者があれこれいうのは好みではない。せいぜい紀州・田辺の篤農家が栽培した美味しいミカンを差し入れ、練習後の疲労回復に役立ててもらうことぐらいしかできない。
それでも時には、これだけは読者の方々にもお伝えしたい、ということがある。例えば、先週末の練習で見掛けたこんな光景である。
木曜日の夕方、練習前恒例の自主練をパートごとにやっていた時のことである。4年生のスタッフが一人、にこにこして僕に話しかけてきた。
「明日は防具を着けて練習に参加します。背番号はもちろん42です」
「ええっ。体は動くんか。張り切ってけがしたらしゃれにならんぞ」
「大丈夫です。いまはスタッフに転向していますが、元はOL。体は鍛えているので、何とかやれるでしょう。相手のエースになりきって、うちのDBに思いっきり当たります」
その言葉は嘘ではなかった。翌日の練習前の自主練では、彼が立命館カラーのジャージ姿で練習台を務めた。背番号はもちろん相手エースの42番。よく見れば、その場には大柄な2年生スタッフも防具を着けて参加し、二人とも一切の手抜きなしで練習台を務めていた。
がつんとぶつかる音、それに勢いよくタックルする守備選手。その姿を見ながら、こういう部員が出てくると本物だ。こういう場面が自発的に生まれることからファイターズの魂が鍛えられる。そう思うと、その練習が終わるまで、その場を離れることはできなかった。
練習後、思わず声を掛けた。「けがはせんかったか」。「大丈夫です。でも、明日の朝はあちこちが痛いでしょうね」。彼はそういって日焼けした顔をほころばせた。
プレーの話は書けなくても、こういう話ならいくらでも書きたい。
例えば練習中、ここ1、2週間で急に存在感が大きくなった4年生が何人かいる。よく見れば、それぞれ長い間、けがで苦しんできた選手たちである。
例えば、攻撃の中心を担う二人の選手。けがで練習もままならない時期は、遠慮があったのか、練習もままならない体をもてあましていたように見えたが、いまは違う。自分にできることをひたすら続けていた春先からシーズン序盤にかけてとは打って変わって、いまは100%の力で練習に取り組み、超人的なプレーを見せている。もちろんハドルの中でも常に声を張り上げ「全員、オレについてこい」とばかりに周囲を鼓舞している。
守備の最前列にいる二人の4年生も同様だ。二人とも長い間けがで戦列を離れていたが、いまは常に練習の先頭に立ち、体を張って下級生に見本を見せている。この二人はどちらかと言えば口数は少ない方だが、その分、ともに自らのスピード、体のこなし方を身をもって下級生に体感させている。
これまで、どちらかと言えば、物静かな紳士が多かった今年の4年生だが、ここまでくると変わらざるを得ないということだろう。選手にもスタッフにも、彼らのように自らが先頭に立ち、実践で見せるメンバーが少しでも多く出てほしい。そしてそれがファイターズのスタンダードになれば、結果は自ずからついてくるはずだ。
決戦は日曜日。その日までチームの全員が高いモラルを持って練習に取り組み、悔いなく戦ってもらいたい。
「先日の関大戦、なんであんなに苦しんだんや。あれが今季の実力か」「振り返ってみれば、京大戦ももう一つしっくりいってなかったな」。大体がこんな風に、連絡をしてきた人が自分の見解を披露し、あれやこれやと話して落ち着く先は「立命戦、大丈夫ですかね」。
これがファン心理というのか、ひいきのチームに寄せる愛情なのか。僕自身も似たようなことを考えているけれども、もっぱら熱心な友人たちの聞き役に回っている。多少はチームの内情にも通じ、選手やスタッフと話すことはあるけれども、チームのことを部外者があれこれいうのは好みではない。せいぜい紀州・田辺の篤農家が栽培した美味しいミカンを差し入れ、練習後の疲労回復に役立ててもらうことぐらいしかできない。
それでも時には、これだけは読者の方々にもお伝えしたい、ということがある。例えば、先週末の練習で見掛けたこんな光景である。
木曜日の夕方、練習前恒例の自主練をパートごとにやっていた時のことである。4年生のスタッフが一人、にこにこして僕に話しかけてきた。
「明日は防具を着けて練習に参加します。背番号はもちろん42です」
「ええっ。体は動くんか。張り切ってけがしたらしゃれにならんぞ」
「大丈夫です。いまはスタッフに転向していますが、元はOL。体は鍛えているので、何とかやれるでしょう。相手のエースになりきって、うちのDBに思いっきり当たります」
その言葉は嘘ではなかった。翌日の練習前の自主練では、彼が立命館カラーのジャージ姿で練習台を務めた。背番号はもちろん相手エースの42番。よく見れば、その場には大柄な2年生スタッフも防具を着けて参加し、二人とも一切の手抜きなしで練習台を務めていた。
がつんとぶつかる音、それに勢いよくタックルする守備選手。その姿を見ながら、こういう部員が出てくると本物だ。こういう場面が自発的に生まれることからファイターズの魂が鍛えられる。そう思うと、その練習が終わるまで、その場を離れることはできなかった。
練習後、思わず声を掛けた。「けがはせんかったか」。「大丈夫です。でも、明日の朝はあちこちが痛いでしょうね」。彼はそういって日焼けした顔をほころばせた。
プレーの話は書けなくても、こういう話ならいくらでも書きたい。
例えば練習中、ここ1、2週間で急に存在感が大きくなった4年生が何人かいる。よく見れば、それぞれ長い間、けがで苦しんできた選手たちである。
例えば、攻撃の中心を担う二人の選手。けがで練習もままならない時期は、遠慮があったのか、練習もままならない体をもてあましていたように見えたが、いまは違う。自分にできることをひたすら続けていた春先からシーズン序盤にかけてとは打って変わって、いまは100%の力で練習に取り組み、超人的なプレーを見せている。もちろんハドルの中でも常に声を張り上げ「全員、オレについてこい」とばかりに周囲を鼓舞している。
守備の最前列にいる二人の4年生も同様だ。二人とも長い間けがで戦列を離れていたが、いまは常に練習の先頭に立ち、体を張って下級生に見本を見せている。この二人はどちらかと言えば口数は少ない方だが、その分、ともに自らのスピード、体のこなし方を身をもって下級生に体感させている。
これまで、どちらかと言えば、物静かな紳士が多かった今年の4年生だが、ここまでくると変わらざるを得ないということだろう。選手にもスタッフにも、彼らのように自らが先頭に立ち、実践で見せるメンバーが少しでも多く出てほしい。そしてそれがファイターズのスタンダードになれば、結果は自ずからついてくるはずだ。
決戦は日曜日。その日までチームの全員が高いモラルを持って練習に取り組み、悔いなく戦ってもらいたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:44| Comment(3)
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2018年11月06日
(25)求む!サムライ
その昔、朝日新聞京都支局のデスクになったとき、前任者から「京都の茶漬け」という助言を受けたことがある。ご存じの方も少なくないと思うが、こんな話である。
取材先で「ちょうど、時分どきどすな。お茶漬けでもどうどす」なんて誘われても、決して「いただきます」と答えてはいけない。なぜなら、京都人がその言葉を口にするのは「もう話は切り上げてお帰り下さい」という合図である。露骨に帰ってくれと言うと角が立つので「お茶漬けでも」と誘いをかけたような言葉で「お引き取り下さい」と伝えているという説明だった。
さらにその前任者は、そうした婉曲なサインに気付かないのは野暮な人、もう、おつきあいはごめんこうむります、となってしまうからご用心をといったことを丁寧に説明してくれた。
京都の人ほど極端ではないが、私たちが日常使用する言葉には、たいてい二つや三つの意味合いがある。それぞれ正反対の意味で使用されることも少なくない。
例えば、ファイターズでは「相手は強い。全員でやろう。全員で」という言葉を、いろんな場面で耳にする。少なくとも、その言葉を口にしたメンバーは、本気で「全員が団結し、全員でチームを盛り上げ、勝利をつかもう」という意味で使っているはずだが、誰かがその言葉を口にした瞬間、「そうだ、全員だ、きっと誰かがやってくれる」と他人任せにしてしまうメンバーもいるのではないか。
逆の場合もある。「オレが突破口を開く」「オレがやってやる」と本気で口にしても「アメフットはチームプレー。一人が勝手なことをすると周囲が迷惑する」と言われるかもしれないし、「勝手なプレーは御法度」と叱られるかもしれない。
そうなると、チームの全員が「安全第一」を志向するようになり、気がつけば個人技で相手陣を切り裂いてやるというサムライは、一人もいないという状態になってもおかしくない。
今季、いろんな場面で「全員でやろう」という声を聞くにつけても、僕はひそかに、そういう事態に陥るのではないかと危惧していた。チームの団結を強調する余り、一人で局面を突破するサムライのとげがなくなってしまうのではないかと怖れていた。4日、万博記念競技場での関大戦を応援しながら、僕の頭の中にはそんな考えが駆け巡っていた。
試合はファイターズのキックで開始。相手陣40ヤード付近から関大が攻め寄せる。中央へのラン攻撃と短いパスを駆使して、立て続けにダウンを更新。一気にゴール前まで攻め込み、FGで3点を先制。続く関大の攻撃シリーズも中央のランと素早いパスでぐいぐいと攻め込み、あっという間にファイターズのゴール前に迫る。第2Q入った直後には今度はパスでTD。あっという間に9−0とされ、試合の流れは一気に相手に傾く。
このピンチを救ったのがQB奥野とWR陣のサムライ魂。自陣25ヤードからの攻撃でまずはWR阿部に短いパス。続くRB山口のランでダウンを更新した直後に、奥野からWR小田への長いパスが通る。そのまま小田が快足を飛ばして一気にゴールまで駆け込んだ。実に63ヤードのTDパスである。
これで6−9と追い上げたが、この日は守備陣が踏ん張れない。パスとランを織り交ぜ、変化を付けて攻め込んで来る相手攻撃を有効に食い止められず、結局6−12で前半終了。今季初めて相手にリードされた状態でハーフタイムを迎えた。
後半はファイターズの攻撃からスタート。ここでもWR松井、小田へのパスでそれぞれダウンを更新。さらに奥野から松井へのパスでゴール前7ヤードまで攻め込んだが、残る7ヤードが進めず、K安藤のFGで3点を返しただけ。
続くファイターズの攻撃も、QB西野から小田、松井、阿部へのパスで相手ゴールに迫ったが、最後の詰めが甘く、結局はFGによる3点で同点に追いつくのがやっとだった。
逆に関大は、ゴール前の攻防をしのいで勢いを取り戻し、次の攻撃シリーズで簡単にTD。再びリードを7点差に開く。
残る時間は6分36秒。しかし、西野からWR陣へのパスが通らず、あっという間に攻撃権を相手に渡してしまう。
しかし、ここは守備陣がぎりぎりで踏ん張り、残り2分2秒で再びファイターズに攻撃権を取り戻してくれた。しかし、ボールは自陣25ヤード付近。これを限られた時間でどうTDに結び付けるか。まさしく全員の結束と、相手守備陣を突き破るサムライの個人技が求められる場面である。
この局面を突破しなければ明日はない。腹をくくったファイターズオフェンスがようやく一つにまとまる。まずは奥野から小田へのパスを2回連続で通して2度ダウンを更新。一度は奥野が逃げ遅れて10ヤードも陣地を後退したが、今度は松井、小田、阿部へと3発のパスをことごとく決めてダウンを更新。相手ゴール前24ヤードに迫る。残り時間は41秒。タイムアウトは一つも残っていない。ここをどう攻めるか。
ここでもベンチが選んだのは小田へのパス。相手も徹底的に警戒している場面で小田が確実にキャッチしてゴール前11ヤード。残り時間は11秒。この緊迫した場面で奥野が阿部へのパスを一発で決めてTD。安藤のキックも決まって19−19。やっとの思いで引き分けに持ち込んだ。
このように試合展開を振り返ると、絶体絶命の場面で、局面を切り開いたメンバーが誰か、という答えはただちに見つかる。すなわち冷静に正確なパスを投げ続けた奥野。そのパスを相手守備陣のマークをことごとく振り切り、すべてキャッチしたレシーバー陣。具体的には松井、小田、阿部の名前が真っ先に浮かぶ。もちろん、おとりになって相手を振り回した鈴木もいるし、奥野を守ったOL陣の結束も特記したい。
一番緊張する場面で、冷静にキックを決めた安藤の活躍も大きく記しておかなければならない。
もちろん、その直前の関大の攻撃を3&アウトに仕留めた守備陣の奮闘も称賛に値する。もし、あの場面で一度でもダウンを更新されていれば、この劇的な幕切れに至る前に、試合が終わっていたかも知れないのだ。
このように試合を振り返って見ると、いくら「全員でやろう」といったとしても、全員がその主人公にならない限り意味はない。オレが相手を倒してやるという強い意志を行動で示せるサムライの存在が不可欠だ。
天下分け目の立命戦までに残された時間は10日余り。求む!サムライ、求む!主人公である。
取材先で「ちょうど、時分どきどすな。お茶漬けでもどうどす」なんて誘われても、決して「いただきます」と答えてはいけない。なぜなら、京都人がその言葉を口にするのは「もう話は切り上げてお帰り下さい」という合図である。露骨に帰ってくれと言うと角が立つので「お茶漬けでも」と誘いをかけたような言葉で「お引き取り下さい」と伝えているという説明だった。
さらにその前任者は、そうした婉曲なサインに気付かないのは野暮な人、もう、おつきあいはごめんこうむります、となってしまうからご用心をといったことを丁寧に説明してくれた。
京都の人ほど極端ではないが、私たちが日常使用する言葉には、たいてい二つや三つの意味合いがある。それぞれ正反対の意味で使用されることも少なくない。
例えば、ファイターズでは「相手は強い。全員でやろう。全員で」という言葉を、いろんな場面で耳にする。少なくとも、その言葉を口にしたメンバーは、本気で「全員が団結し、全員でチームを盛り上げ、勝利をつかもう」という意味で使っているはずだが、誰かがその言葉を口にした瞬間、「そうだ、全員だ、きっと誰かがやってくれる」と他人任せにしてしまうメンバーもいるのではないか。
逆の場合もある。「オレが突破口を開く」「オレがやってやる」と本気で口にしても「アメフットはチームプレー。一人が勝手なことをすると周囲が迷惑する」と言われるかもしれないし、「勝手なプレーは御法度」と叱られるかもしれない。
そうなると、チームの全員が「安全第一」を志向するようになり、気がつけば個人技で相手陣を切り裂いてやるというサムライは、一人もいないという状態になってもおかしくない。
今季、いろんな場面で「全員でやろう」という声を聞くにつけても、僕はひそかに、そういう事態に陥るのではないかと危惧していた。チームの団結を強調する余り、一人で局面を突破するサムライのとげがなくなってしまうのではないかと怖れていた。4日、万博記念競技場での関大戦を応援しながら、僕の頭の中にはそんな考えが駆け巡っていた。
試合はファイターズのキックで開始。相手陣40ヤード付近から関大が攻め寄せる。中央へのラン攻撃と短いパスを駆使して、立て続けにダウンを更新。一気にゴール前まで攻め込み、FGで3点を先制。続く関大の攻撃シリーズも中央のランと素早いパスでぐいぐいと攻め込み、あっという間にファイターズのゴール前に迫る。第2Q入った直後には今度はパスでTD。あっという間に9−0とされ、試合の流れは一気に相手に傾く。
このピンチを救ったのがQB奥野とWR陣のサムライ魂。自陣25ヤードからの攻撃でまずはWR阿部に短いパス。続くRB山口のランでダウンを更新した直後に、奥野からWR小田への長いパスが通る。そのまま小田が快足を飛ばして一気にゴールまで駆け込んだ。実に63ヤードのTDパスである。
これで6−9と追い上げたが、この日は守備陣が踏ん張れない。パスとランを織り交ぜ、変化を付けて攻め込んで来る相手攻撃を有効に食い止められず、結局6−12で前半終了。今季初めて相手にリードされた状態でハーフタイムを迎えた。
後半はファイターズの攻撃からスタート。ここでもWR松井、小田へのパスでそれぞれダウンを更新。さらに奥野から松井へのパスでゴール前7ヤードまで攻め込んだが、残る7ヤードが進めず、K安藤のFGで3点を返しただけ。
続くファイターズの攻撃も、QB西野から小田、松井、阿部へのパスで相手ゴールに迫ったが、最後の詰めが甘く、結局はFGによる3点で同点に追いつくのがやっとだった。
逆に関大は、ゴール前の攻防をしのいで勢いを取り戻し、次の攻撃シリーズで簡単にTD。再びリードを7点差に開く。
残る時間は6分36秒。しかし、西野からWR陣へのパスが通らず、あっという間に攻撃権を相手に渡してしまう。
しかし、ここは守備陣がぎりぎりで踏ん張り、残り2分2秒で再びファイターズに攻撃権を取り戻してくれた。しかし、ボールは自陣25ヤード付近。これを限られた時間でどうTDに結び付けるか。まさしく全員の結束と、相手守備陣を突き破るサムライの個人技が求められる場面である。
この局面を突破しなければ明日はない。腹をくくったファイターズオフェンスがようやく一つにまとまる。まずは奥野から小田へのパスを2回連続で通して2度ダウンを更新。一度は奥野が逃げ遅れて10ヤードも陣地を後退したが、今度は松井、小田、阿部へと3発のパスをことごとく決めてダウンを更新。相手ゴール前24ヤードに迫る。残り時間は41秒。タイムアウトは一つも残っていない。ここをどう攻めるか。
ここでもベンチが選んだのは小田へのパス。相手も徹底的に警戒している場面で小田が確実にキャッチしてゴール前11ヤード。残り時間は11秒。この緊迫した場面で奥野が阿部へのパスを一発で決めてTD。安藤のキックも決まって19−19。やっとの思いで引き分けに持ち込んだ。
このように試合展開を振り返ると、絶体絶命の場面で、局面を切り開いたメンバーが誰か、という答えはただちに見つかる。すなわち冷静に正確なパスを投げ続けた奥野。そのパスを相手守備陣のマークをことごとく振り切り、すべてキャッチしたレシーバー陣。具体的には松井、小田、阿部の名前が真っ先に浮かぶ。もちろん、おとりになって相手を振り回した鈴木もいるし、奥野を守ったOL陣の結束も特記したい。
一番緊張する場面で、冷静にキックを決めた安藤の活躍も大きく記しておかなければならない。
もちろん、その直前の関大の攻撃を3&アウトに仕留めた守備陣の奮闘も称賛に値する。もし、あの場面で一度でもダウンを更新されていれば、この劇的な幕切れに至る前に、試合が終わっていたかも知れないのだ。
このように試合を振り返って見ると、いくら「全員でやろう」といったとしても、全員がその主人公にならない限り意味はない。オレが相手を倒してやるという強い意志を行動で示せるサムライの存在が不可欠だ。
天下分け目の立命戦までに残された時間は10日余り。求む!サムライ、求む!主人公である。
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2018年10月30日
(24)ファイターズの窓
窓という言葉を『広辞苑』は次のように説明している。
@採光または通風の目的で、壁または屋根にあけた開口部A比喩的に外と内をつなぐものB(山言葉)山稜がV字形に切れ込んで低下したところ。
僕が毎週のように書き連ねているこのコラムも、いわば広辞苑の言う「外と内をつなぐもの」である。「ファイターズの窓」と呼んでも差し支えはないのではないか。
ところが、シーズンも深まってくるこの季節には、この窓の機能が衰えてくる。採光も風通しも悪くなってくるのだ。
練習は毎週末、よほどのことがない限り、見学させてもらっている。部員やコーチの方々と会話する機会も減っていない。情報は目から、耳から、いくつも入ってくる。
けれども、それをそのまま外部に提供すればいいということではない。
フットボールは情報戦であり、知能の戦いである。相手に応じた戦術とその徹底が勝敗を左右する。戦いに勝つためには選手一人一人の努力と精進、チーム挙げての士気の向上といった要素に加えて、より多く、より質のよい情報を入手し、分析し、自分たちの有利なように生かしていかなければならない。
逆にいえば、相手に利用される情報が流出する機会は最小限にしなければならない。たとえ兄弟、親子の関係であっても、チームの事情については保秘を徹底するのは常識であり、ファイターズは常にそのことを部員に指導している。
そんな事情を知っている以上、たとえ「ファイターズの窓」であっても、部内で仕入れた情報をストレートに紹介することにはためらいがある。これは大丈夫だろうと思ったことでも、見る人が見、聞く人が聞けば、即座に有用な情報になり得る。その情報を生かせる者が勝者になり、情報を失った者は敗退する。
だから、この時季になると、読者の皆さんにとって興味深いこと、面白いことがあっても、慎重に選別してからでないと紹介できないのだ。大げさに言えば、両手両足を縛られ、口でペンをくわえながら書いているといった状態がこの時季のコラムであり、なんとも不自由な話である。
けれども、僕も新聞記者の端くれ。取材した話、見聞したことは、ほんの一部でも伝えていきたいという気持ちはある。さてどうしよう。
考えた末に出てきたのが「ファイターズ自慢」である。
関西リーグが終盤にさしかかり、この週末は関大、そしてその次の節は立命との戦いが控えているこの状況で、何をいまさらと思われるかもしれない。批判は甘受し、以下、最近思うことを箇条書きにして綴ってみたい。
@練習環境
ファイターズには放課後は事実上、ファイターズが専用で利用できる人工芝グラウンドが大学に隣接している。だから4時限、5時限の授業が終了後に駆け込んで来ても、それなりの練習時間が確保できる。授業と練習の両立も工夫次第で可能になる。硬式野球部の隣で土のグラウンドを使い、4年生が水を撒き、トンボを使って整備していた2005年までのことを思うと隔世の感がある。
学内にはトレーニングルームやミーティングルームも完備しており、授業の空きコマを利用して筋力トレーニングやミーティングにも取り組める。グラウンドのすぐ近くには、OB会がファイターズホールを建設してくださったから、そこで深夜にわたる会議もできるし、練習中に怪我した部員の治療もできる。
現役の諸君は、この環境を天与のものと思っているかもしれないが、グラウンドとキャンパスが離れている大学や占有で使用できるグラウンドがない大学から見れば、うらやましい限りであろう。こうした環境で課外活動ができることのメリットは計り知れない。
Aチームの一体感
創部間もないころから、ファイターズには「俺たちは家族や。仲良くやろう」という不文律がある。上級生は下級生に助けてもらうことを徳として練習の準備をすべて担当し、下級生は上級生へのあこがれを胸に練習に励む。シーズンが押し詰まり、練習の緊迫度が増していくこの時期でさえ、上級生が思い通りに動けない下級生を罵倒したりすることは一切ない。
いまの時代、そんなことは当たり前だと思われるかも知れないが、決してそうではない。国内の大学のクラブでは、未だに下級生に練習着を洗濯させるのが当然と振る舞う4年生がいると聞くし、グラウンドでの練習さえさせてもらえないこともあるという話も、当の部員から聞いたこともある。
B工夫のある練習
練習のやり方に、さまざまな工夫を取り入れているのもファイターズの特色だ。その詳細は書けないが、たまに訪れたOBがあっと驚く工夫がしばしば見られる。先日、グラウンドで見掛けたチーム練習でもそういう場面に遭遇。「誰が考えたか知らないが、恐ろしく頭がいいな」と驚いたことがある。
練習のスケジュールが秒単位で管理され、運用されているのも特筆されることだろう。20年近く前、縁あって、社会人チームの練習を注視していた時期があったが、時間が限られている社会人チームのタイム管理より、はるかにきめ細かい運用の仕方には、見るたびに舌を巻く。とりわけ、この季節になると、全体の集散がスピードアップする。幹部からの指示も簡単明瞭で、無駄が一切ない。
毎年、卒業生を送り出し、新しい戦力を育てていかなければならない学生チームには、無駄な時間はない。そういう考え方が、選手にもスタッフにも浸透しているからだろう。
もちろん、僕が知らないだけで、どのチームにもそれぞれの自慢があり、チーム運営の秘訣があるはずだ。ファイターズだけが特別というのは言い過ぎであり、傲慢であろう。
だから、今回は他チームとの比較で述べたことではなく「僕の見たファイターズ」という限定を付けて読んでもらいたい。ほんの小さな窓ではあるが、いま、この時期の緊迫したチームのたたたずまいの一端を感じとってもらえれば幸いである。
@採光または通風の目的で、壁または屋根にあけた開口部A比喩的に外と内をつなぐものB(山言葉)山稜がV字形に切れ込んで低下したところ。
僕が毎週のように書き連ねているこのコラムも、いわば広辞苑の言う「外と内をつなぐもの」である。「ファイターズの窓」と呼んでも差し支えはないのではないか。
ところが、シーズンも深まってくるこの季節には、この窓の機能が衰えてくる。採光も風通しも悪くなってくるのだ。
練習は毎週末、よほどのことがない限り、見学させてもらっている。部員やコーチの方々と会話する機会も減っていない。情報は目から、耳から、いくつも入ってくる。
けれども、それをそのまま外部に提供すればいいということではない。
フットボールは情報戦であり、知能の戦いである。相手に応じた戦術とその徹底が勝敗を左右する。戦いに勝つためには選手一人一人の努力と精進、チーム挙げての士気の向上といった要素に加えて、より多く、より質のよい情報を入手し、分析し、自分たちの有利なように生かしていかなければならない。
逆にいえば、相手に利用される情報が流出する機会は最小限にしなければならない。たとえ兄弟、親子の関係であっても、チームの事情については保秘を徹底するのは常識であり、ファイターズは常にそのことを部員に指導している。
そんな事情を知っている以上、たとえ「ファイターズの窓」であっても、部内で仕入れた情報をストレートに紹介することにはためらいがある。これは大丈夫だろうと思ったことでも、見る人が見、聞く人が聞けば、即座に有用な情報になり得る。その情報を生かせる者が勝者になり、情報を失った者は敗退する。
だから、この時季になると、読者の皆さんにとって興味深いこと、面白いことがあっても、慎重に選別してからでないと紹介できないのだ。大げさに言えば、両手両足を縛られ、口でペンをくわえながら書いているといった状態がこの時季のコラムであり、なんとも不自由な話である。
けれども、僕も新聞記者の端くれ。取材した話、見聞したことは、ほんの一部でも伝えていきたいという気持ちはある。さてどうしよう。
考えた末に出てきたのが「ファイターズ自慢」である。
関西リーグが終盤にさしかかり、この週末は関大、そしてその次の節は立命との戦いが控えているこの状況で、何をいまさらと思われるかもしれない。批判は甘受し、以下、最近思うことを箇条書きにして綴ってみたい。
@練習環境
ファイターズには放課後は事実上、ファイターズが専用で利用できる人工芝グラウンドが大学に隣接している。だから4時限、5時限の授業が終了後に駆け込んで来ても、それなりの練習時間が確保できる。授業と練習の両立も工夫次第で可能になる。硬式野球部の隣で土のグラウンドを使い、4年生が水を撒き、トンボを使って整備していた2005年までのことを思うと隔世の感がある。
学内にはトレーニングルームやミーティングルームも完備しており、授業の空きコマを利用して筋力トレーニングやミーティングにも取り組める。グラウンドのすぐ近くには、OB会がファイターズホールを建設してくださったから、そこで深夜にわたる会議もできるし、練習中に怪我した部員の治療もできる。
現役の諸君は、この環境を天与のものと思っているかもしれないが、グラウンドとキャンパスが離れている大学や占有で使用できるグラウンドがない大学から見れば、うらやましい限りであろう。こうした環境で課外活動ができることのメリットは計り知れない。
Aチームの一体感
創部間もないころから、ファイターズには「俺たちは家族や。仲良くやろう」という不文律がある。上級生は下級生に助けてもらうことを徳として練習の準備をすべて担当し、下級生は上級生へのあこがれを胸に練習に励む。シーズンが押し詰まり、練習の緊迫度が増していくこの時期でさえ、上級生が思い通りに動けない下級生を罵倒したりすることは一切ない。
いまの時代、そんなことは当たり前だと思われるかも知れないが、決してそうではない。国内の大学のクラブでは、未だに下級生に練習着を洗濯させるのが当然と振る舞う4年生がいると聞くし、グラウンドでの練習さえさせてもらえないこともあるという話も、当の部員から聞いたこともある。
B工夫のある練習
練習のやり方に、さまざまな工夫を取り入れているのもファイターズの特色だ。その詳細は書けないが、たまに訪れたOBがあっと驚く工夫がしばしば見られる。先日、グラウンドで見掛けたチーム練習でもそういう場面に遭遇。「誰が考えたか知らないが、恐ろしく頭がいいな」と驚いたことがある。
練習のスケジュールが秒単位で管理され、運用されているのも特筆されることだろう。20年近く前、縁あって、社会人チームの練習を注視していた時期があったが、時間が限られている社会人チームのタイム管理より、はるかにきめ細かい運用の仕方には、見るたびに舌を巻く。とりわけ、この季節になると、全体の集散がスピードアップする。幹部からの指示も簡単明瞭で、無駄が一切ない。
毎年、卒業生を送り出し、新しい戦力を育てていかなければならない学生チームには、無駄な時間はない。そういう考え方が、選手にもスタッフにも浸透しているからだろう。
もちろん、僕が知らないだけで、どのチームにもそれぞれの自慢があり、チーム運営の秘訣があるはずだ。ファイターズだけが特別というのは言い過ぎであり、傲慢であろう。
だから、今回は他チームとの比較で述べたことではなく「僕の見たファイターズ」という限定を付けて読んでもらいたい。ほんの小さな窓ではあるが、いま、この時期の緊迫したチームのたたたずまいの一端を感じとってもらえれば幸いである。
posted by コラム「スタンドから」 at 20:34| Comment(1)
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2018年10月22日
(23)難解な試合
18日の京都大学戦は、極めて評価の難しい試合だった。見る者の視点、立場によって正反対の採点がなされても、僕にはなんら不思議でないと思えた。
僕自身は「さすが京大。強かった」と思ったが、京大を応援する立場で考えると「せっかくあそこまで押し込んでいるのに、なぜ、TDが取れないんだ。もったいない」と不満が出るかもしれない。
逆に、ファイターズの関係者やファンの中には、今後、関大や立命と戦い、勝利するためには「あんな試合ではどうにもならん。もっともっと練習し、力をつけなくては」と奮起を促す声も多いはずだ。
結果は23−3。この数字だけを見れば、ファイターズが順当に勝利したと評価しても間違いではない。だが、現場で一つ一つのプレーに汗を握り、一瞬たりとも目を離さなかった僕からいえば「薄氷を踏む思い」という言葉がぴったりだった。
まずは得点経過から振り返ってみよう。ファイターズのレシーブで開始された第1シリーズ。いきなりQB奥野からWR松井への11ヤードパスがヒットしてダウンを更新。「さすが松井、今季初めてのスタメンなのに、エエ感じや」と喜んだが、喜びはそこまで。京大の強力な守備ラインに阻まれて、ランプレーが進まず、第3ダウンの短いパスも通らず、あっという間に攻守交代。
自陣35ヤード付近から始まった2度目のシリーズは、奥野からWR小田への20ヤードほどのパスが決まり、そこからRB山口、中村の粘り強い走りで陣地を進めた。しかし、相手ゴール前9ヤードからの攻撃が続かず、K安藤のFGによる3点にとどまった。
次の攻撃シリーズも、相手の反則などで陣地を進めながら攻撃がかみ合わず、またもやパント。4度目の攻撃シリーズも、RB渡邊のラン、WR阿部への長いパスで陣地を進めたものの、結局は安藤のFGによって3点を追加しただけ。京大に1本TDを決められただけで、即、逆転もというしんどい試合展開が続く。
逆に、京大守備陣は苦しい場面を2度、3度と跳ね返すことで徐々に調子を上げてくる。それに呼応して攻撃陣も奮起する。ライン同士のせめぎ合いで主導権を握り、RBがひたむきに陣地を稼ぐ。これはやばい、一本パスが通れば逆転されるぞ、と思っていたところでなんとか前半終了。
後半は京大のレシーブから。それを守備陣が3アンドアウトにしとめ、ファイターズの攻撃は自陣11ヤードから。今度も山口のランや松井へのパスで陣地を進めるが、結局はTDに持ち込めない。なんとかゴール前15ヤードから安藤が3本目のFGを決めて9−0。依然として油断できない状況が続く。
逆に、3度に渡ってゴール前まで攻め込まれながら、一度もTDを許さなかったことで京大の士気が上がる。案の定、次のシリーズは完全に京大ペース。ラインが押し込み、バックが走る。スタンドから見ていると、同じ画面の繰り返しのようなランプレーでひたすら攻め込み、4Qが始まったときには関学ゴール前3ヤード。そこから3度の攻撃は何とか守備陣が踏ん張って食い止めたが、それでもFGで3点を返し、再びTD1本で逆転という状況に持ち込む。
苦しいせめぎ合いの中で、突破口を開いたのがリターナーに入ったWR尾崎。自陣奥深くにけり込まれたパントを確保すると、一気に34ヤードをリターンし、絶好ポジションから攻撃陣にボールを託す。
奥野から交代していたQB西野がここで走り、小田への長いパスを決めてゴール前5ヤードに迫る。まずは突破力のある山口にボールを託して4ヤード。残る1ヤードを山口のダイブでTDに仕上げる。
この場面、一発で決まったと見えたが、相手DLも強力だ。空中で山口のダイブを止め、態勢を建て直して再度、右側から駆け込もうとする山口を止めにかかる。その瞬間、西野が山口の背後を押して無理矢理ゴールラインに押し込む。攻める方も守る方も一歩も譲らず、これぞ関京戦というプレーの応酬だ。わずかにファイターズ攻撃陣の意地が勝り、TDにつながったといってもよいだろう。
ここで16−3。残り時間も少なく、勝負の帰趨は見えた。こうなると、さすがの京大も緊張の糸が切れる。相手がファンブルしたボールをFS畑中が確保して攻守交代。渡邊が17ヤードのTDランを決めて勝負あった。
この結果をどう見るか。関学サイドに立てば、徹底したランプレーで攻め込む京大の攻撃を必死に食い止めた守備陣の健闘に注目する人もあるだろう。相手守備ラインに押し込まれ、思い通りにプレーできなかった攻撃陣に注文を付ける人もいるだろう。それでも死にものぐるいでTDを奪った攻撃陣の気力を称賛する声もあるはずだ。さらに、監督やコーチの立場に立てば、これから予定される関大や立命との戦いには、攻守とももう1段レベルアップを図る必要があると叱咤する声が挙がってもおかしくない。
京大サイドから見れば、ライン戦で一歩も引かなかった攻守のラインに「よくやった」という声が上がってもおかしくないし、RB陣の奮闘に注目する人も多いはずだ。大学に進学してからフットボールを始めたメンバーが多いのに、これだけのチームを創り上げた指導者を称える人もあれば、ラン一辺倒の攻撃に「もう少しパス攻撃で変化を付けられなかったのか」と残念がる人がいるかもしれない。
久々に手に汗握った伝統の一戦。それはスタンドから見れば、かくも難解な試合だった。
けれども、グラウンドで戦う選手諸君にはもうそれぞれの答が出ているはずだ。自分の力の及ばなかった点も、ここは通用するという手応えも、十分に実感したはずだ。それを徹底的に突き詰め、もう一段のレベルアップを図ろう。
手本になるのは、この日、けがから回復したばかりで出場。随所にさすがというプレーを見せた松井や山口、横澤らの闘魂である。その攻撃的な姿勢から学び、成長の糧にしてもらいたい。ピンチはチャンス。今が脱皮の時である。
僕自身は「さすが京大。強かった」と思ったが、京大を応援する立場で考えると「せっかくあそこまで押し込んでいるのに、なぜ、TDが取れないんだ。もったいない」と不満が出るかもしれない。
逆に、ファイターズの関係者やファンの中には、今後、関大や立命と戦い、勝利するためには「あんな試合ではどうにもならん。もっともっと練習し、力をつけなくては」と奮起を促す声も多いはずだ。
結果は23−3。この数字だけを見れば、ファイターズが順当に勝利したと評価しても間違いではない。だが、現場で一つ一つのプレーに汗を握り、一瞬たりとも目を離さなかった僕からいえば「薄氷を踏む思い」という言葉がぴったりだった。
まずは得点経過から振り返ってみよう。ファイターズのレシーブで開始された第1シリーズ。いきなりQB奥野からWR松井への11ヤードパスがヒットしてダウンを更新。「さすが松井、今季初めてのスタメンなのに、エエ感じや」と喜んだが、喜びはそこまで。京大の強力な守備ラインに阻まれて、ランプレーが進まず、第3ダウンの短いパスも通らず、あっという間に攻守交代。
自陣35ヤード付近から始まった2度目のシリーズは、奥野からWR小田への20ヤードほどのパスが決まり、そこからRB山口、中村の粘り強い走りで陣地を進めた。しかし、相手ゴール前9ヤードからの攻撃が続かず、K安藤のFGによる3点にとどまった。
次の攻撃シリーズも、相手の反則などで陣地を進めながら攻撃がかみ合わず、またもやパント。4度目の攻撃シリーズも、RB渡邊のラン、WR阿部への長いパスで陣地を進めたものの、結局は安藤のFGによって3点を追加しただけ。京大に1本TDを決められただけで、即、逆転もというしんどい試合展開が続く。
逆に、京大守備陣は苦しい場面を2度、3度と跳ね返すことで徐々に調子を上げてくる。それに呼応して攻撃陣も奮起する。ライン同士のせめぎ合いで主導権を握り、RBがひたむきに陣地を稼ぐ。これはやばい、一本パスが通れば逆転されるぞ、と思っていたところでなんとか前半終了。
後半は京大のレシーブから。それを守備陣が3アンドアウトにしとめ、ファイターズの攻撃は自陣11ヤードから。今度も山口のランや松井へのパスで陣地を進めるが、結局はTDに持ち込めない。なんとかゴール前15ヤードから安藤が3本目のFGを決めて9−0。依然として油断できない状況が続く。
逆に、3度に渡ってゴール前まで攻め込まれながら、一度もTDを許さなかったことで京大の士気が上がる。案の定、次のシリーズは完全に京大ペース。ラインが押し込み、バックが走る。スタンドから見ていると、同じ画面の繰り返しのようなランプレーでひたすら攻め込み、4Qが始まったときには関学ゴール前3ヤード。そこから3度の攻撃は何とか守備陣が踏ん張って食い止めたが、それでもFGで3点を返し、再びTD1本で逆転という状況に持ち込む。
苦しいせめぎ合いの中で、突破口を開いたのがリターナーに入ったWR尾崎。自陣奥深くにけり込まれたパントを確保すると、一気に34ヤードをリターンし、絶好ポジションから攻撃陣にボールを託す。
奥野から交代していたQB西野がここで走り、小田への長いパスを決めてゴール前5ヤードに迫る。まずは突破力のある山口にボールを託して4ヤード。残る1ヤードを山口のダイブでTDに仕上げる。
この場面、一発で決まったと見えたが、相手DLも強力だ。空中で山口のダイブを止め、態勢を建て直して再度、右側から駆け込もうとする山口を止めにかかる。その瞬間、西野が山口の背後を押して無理矢理ゴールラインに押し込む。攻める方も守る方も一歩も譲らず、これぞ関京戦というプレーの応酬だ。わずかにファイターズ攻撃陣の意地が勝り、TDにつながったといってもよいだろう。
ここで16−3。残り時間も少なく、勝負の帰趨は見えた。こうなると、さすがの京大も緊張の糸が切れる。相手がファンブルしたボールをFS畑中が確保して攻守交代。渡邊が17ヤードのTDランを決めて勝負あった。
この結果をどう見るか。関学サイドに立てば、徹底したランプレーで攻め込む京大の攻撃を必死に食い止めた守備陣の健闘に注目する人もあるだろう。相手守備ラインに押し込まれ、思い通りにプレーできなかった攻撃陣に注文を付ける人もいるだろう。それでも死にものぐるいでTDを奪った攻撃陣の気力を称賛する声もあるはずだ。さらに、監督やコーチの立場に立てば、これから予定される関大や立命との戦いには、攻守とももう1段レベルアップを図る必要があると叱咤する声が挙がってもおかしくない。
京大サイドから見れば、ライン戦で一歩も引かなかった攻守のラインに「よくやった」という声が上がってもおかしくないし、RB陣の奮闘に注目する人も多いはずだ。大学に進学してからフットボールを始めたメンバーが多いのに、これだけのチームを創り上げた指導者を称える人もあれば、ラン一辺倒の攻撃に「もう少しパス攻撃で変化を付けられなかったのか」と残念がる人がいるかもしれない。
久々に手に汗握った伝統の一戦。それはスタンドから見れば、かくも難解な試合だった。
けれども、グラウンドで戦う選手諸君にはもうそれぞれの答が出ているはずだ。自分の力の及ばなかった点も、ここは通用するという手応えも、十分に実感したはずだ。それを徹底的に突き詰め、もう一段のレベルアップを図ろう。
手本になるのは、この日、けがから回復したばかりで出場。随所にさすがというプレーを見せた松井や山口、横澤らの闘魂である。その攻撃的な姿勢から学び、成長の糧にしてもらいたい。ピンチはチャンス。今が脱皮の時である。
posted by コラム「スタンドから」 at 23:29| Comment(5)
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2018年10月16日
(22)ファイターズと校訓
先週末、チームの練習を見せてもらって、素人目にも、何かが変わったという印象を受けた。どういうことか。思いつくままに書いてみよう。
一つは、ゲーム前の練習の密度が濃くなったように見えたことである。それは僕が見学した日だけかも知れないが、例えばQBとレシーバーの練習前の自主練では、QB3人が実戦を想定したパスを次々と投げ込み、それをレシーバーが全力でキャッチする。そのテンポとパスの精度が甲南戦の前よりもはるかによくなっていた。
二つめは、練習開始となってからの動きの強度が一段と上がったように見えたこと。例えばレシーバーがダミーを持った選手を跳ね上げる場面。味方同士の練習であり、通常なら当たった瞬間に力を抜き、受け手のダメージを少なくするのだが、この日の4年生は全く力を抜かない。基本に忠実に、実戦通りのスピードで受け手にぶつかり、全力で押し上げる。
受けた方はあまりにも強い当たりを受けきれず、仰向けに倒れ、信じられないという表情をしている。これぞ、実戦を想定した練習である。その場面を目のあたりにした選手全員がその一瞬、凍りつき、グラウンドの空気がピーンと張り詰めた。サイドラインから見ていても分かるほどだから、当の選手たちは全員、練習のギアが一段と上がったことを身にしみて感じたに違いない。
三つめは、試合に出るメンバーとJVのメンバーが敵味方に分かれて進めるチーム練習である。それぞれの担当コーチやアシスタントコーチが一つ一つのプレーに口を出し、アドバイスを送る場面が一気に増えた。リーグ戦がスタートして4戦目までは、そこまでの緊迫感は見られなかっただけに、いよいよ決戦の時だとぞくぞくした。
もう一つある。これはチームの練習内容とは直結しないが、グラウンドに通じる階段が練習前に美しく掃き清められていることだ。知る人ぞ知る話だが、この階段は練習が終わった時にはいつも、恐ろしく汚くなる。グラウンドに敷き詰められている人工芝のピッチが選手のスパイクに付着し、それが階段に落ちるからだ。
それを練習前、丁寧に掃き清めているのが主務の安西君。先日、たまたま、練習開始の1時間半ほど前に出掛けたら、一人、黙々と掃除している姿を見掛けた。聞けば、みんなが気持ちよく練習に参加できるようにと思って、毎日、練習前の掃除を心掛けているそうだ。「幸い、単位も取れているので、授業に出る必要がない。主務の仕事をやりくりすれば、掃除の時間は捻出できますから」という話だった。
そういえば、先日、僕はこのコラムに「試合前の練習後には決まって部員全員がグラウンドのごみを拾う。グラウンドを美しくした上で試合に臨む」と書いた。その中に、溝の掃除を除いて、と書いているのを見つけた光藤主将が安西君を誘って、二人で溝掃除をしたそうだ。これもまた、日々、当たり前のようにグラウンドを使用できることに感謝している部員たちの気持ちの表れだろう。そういうことを下級生ではなく、チームのリーダーである4年生が率先して実行するところにファイターズの真実がある。
話は飛ぶが、関西学院のスクールモットーは「Mastery for Service」である。その言葉は通常「奉仕のための練達」と訳されるが、1915年、ベーツ先生(後に4代目院長に就任)は学生たちに向かって演説する中でその意味について「人は富や財産のためではなく、広く社会に奉仕するために生きている。そのためには自らを鍛え、強くあらねばならない。弱虫はいらない」といった説明をされている。
いま、ファイターズの諸君が日々、ストイックに取り組んでいることは、その校訓の実践に他ならない。そう僕は考えている。
主将が率先してグラウンドを周る溝を掃除し、主務が毎日のように箒を手にグラウンドへの階段を清掃する。試合に出る4年生のメンバーは、たとえ仲間内であっても本気の練習を普段から心掛ける。レシーバーもクォターバックも、練習開始のずっと前からグラウンドに出て営々と実戦練習に励む。
これらはすべて弱虫はいらない、強くあらねばならない、有能であらねばならない、という強い覚悟があるからこそではないか。その意味ではファイターズの諸君は日々、ベーツ先生の校訓を実践している面々であると言い切ってもよいだろう。
こういうストイックな取り組みを、当然のように実践できるところがファイターズの魅力であり、だからこそグラウンドでも躍動できるのだと僕は信じている。今週、金曜日の京大との戦い、それに続く関大、立命との戦いで、その成果を見せてもらいたい。健闘を期待する。
一つは、ゲーム前の練習の密度が濃くなったように見えたことである。それは僕が見学した日だけかも知れないが、例えばQBとレシーバーの練習前の自主練では、QB3人が実戦を想定したパスを次々と投げ込み、それをレシーバーが全力でキャッチする。そのテンポとパスの精度が甲南戦の前よりもはるかによくなっていた。
二つめは、練習開始となってからの動きの強度が一段と上がったように見えたこと。例えばレシーバーがダミーを持った選手を跳ね上げる場面。味方同士の練習であり、通常なら当たった瞬間に力を抜き、受け手のダメージを少なくするのだが、この日の4年生は全く力を抜かない。基本に忠実に、実戦通りのスピードで受け手にぶつかり、全力で押し上げる。
受けた方はあまりにも強い当たりを受けきれず、仰向けに倒れ、信じられないという表情をしている。これぞ、実戦を想定した練習である。その場面を目のあたりにした選手全員がその一瞬、凍りつき、グラウンドの空気がピーンと張り詰めた。サイドラインから見ていても分かるほどだから、当の選手たちは全員、練習のギアが一段と上がったことを身にしみて感じたに違いない。
三つめは、試合に出るメンバーとJVのメンバーが敵味方に分かれて進めるチーム練習である。それぞれの担当コーチやアシスタントコーチが一つ一つのプレーに口を出し、アドバイスを送る場面が一気に増えた。リーグ戦がスタートして4戦目までは、そこまでの緊迫感は見られなかっただけに、いよいよ決戦の時だとぞくぞくした。
もう一つある。これはチームの練習内容とは直結しないが、グラウンドに通じる階段が練習前に美しく掃き清められていることだ。知る人ぞ知る話だが、この階段は練習が終わった時にはいつも、恐ろしく汚くなる。グラウンドに敷き詰められている人工芝のピッチが選手のスパイクに付着し、それが階段に落ちるからだ。
それを練習前、丁寧に掃き清めているのが主務の安西君。先日、たまたま、練習開始の1時間半ほど前に出掛けたら、一人、黙々と掃除している姿を見掛けた。聞けば、みんなが気持ちよく練習に参加できるようにと思って、毎日、練習前の掃除を心掛けているそうだ。「幸い、単位も取れているので、授業に出る必要がない。主務の仕事をやりくりすれば、掃除の時間は捻出できますから」という話だった。
そういえば、先日、僕はこのコラムに「試合前の練習後には決まって部員全員がグラウンドのごみを拾う。グラウンドを美しくした上で試合に臨む」と書いた。その中に、溝の掃除を除いて、と書いているのを見つけた光藤主将が安西君を誘って、二人で溝掃除をしたそうだ。これもまた、日々、当たり前のようにグラウンドを使用できることに感謝している部員たちの気持ちの表れだろう。そういうことを下級生ではなく、チームのリーダーである4年生が率先して実行するところにファイターズの真実がある。
話は飛ぶが、関西学院のスクールモットーは「Mastery for Service」である。その言葉は通常「奉仕のための練達」と訳されるが、1915年、ベーツ先生(後に4代目院長に就任)は学生たちに向かって演説する中でその意味について「人は富や財産のためではなく、広く社会に奉仕するために生きている。そのためには自らを鍛え、強くあらねばならない。弱虫はいらない」といった説明をされている。
いま、ファイターズの諸君が日々、ストイックに取り組んでいることは、その校訓の実践に他ならない。そう僕は考えている。
主将が率先してグラウンドを周る溝を掃除し、主務が毎日のように箒を手にグラウンドへの階段を清掃する。試合に出る4年生のメンバーは、たとえ仲間内であっても本気の練習を普段から心掛ける。レシーバーもクォターバックも、練習開始のずっと前からグラウンドに出て営々と実戦練習に励む。
これらはすべて弱虫はいらない、強くあらねばならない、有能であらねばならない、という強い覚悟があるからこそではないか。その意味ではファイターズの諸君は日々、ベーツ先生の校訓を実践している面々であると言い切ってもよいだろう。
こういうストイックな取り組みを、当然のように実践できるところがファイターズの魅力であり、だからこそグラウンドでも躍動できるのだと僕は信じている。今週、金曜日の京大との戦い、それに続く関大、立命との戦いで、その成果を見せてもらいたい。健闘を期待する。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:36| Comment(3)
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2018年10月10日
(21)強いチームと並のチーム
関西リーグ第4戦。甲南大との試合は、ファイターズの二つの側面を浮き彫りにした。攻守ともに勢いのあるメンバーを並べた前半のチームと、交代メンバーが次々と登場した後半のチームでは、その試合振りがまるで別のチームのように見えた。名付けてみれば、強いチームと並のチームである。
試合経過を見れば、このことは即座に理解できる。
ファイターズのレシーブで試合開始。自陣25ヤードから始まった第1プレーでは、RB中村が中央をついて4ヤード前進。続いてQB奥野からWR阿部へのパスでダウンを更新。続く第3プレーでRB渡邊が中央を突破。そのまま61ヤードを独走してタッチダウン。K安藤のキックも決まって7−0とリード。キックオフからわずか3プレー、消費時間でいえば1分ほどで試合の主導権を握った。
守備陣もこのリズムを崩さない。わずか3プレーで相手をパントに追いやり、相手陣33ヤードから再び攻撃権を手にする。
これに呼応して攻撃陣も勢いよく攻め込む。奥野から阿部やWR鈴木へのミドルパスが続けさまにヒット。ゴール前3ヤードに迫ると、今度はRB三宅が左サイドを駆け上がってタッチダウン。
続く相手の攻撃では、相手がファンブルしたボールをファイターズ守備陣が素早くカバーし、相手陣48ヤード付近で攻守交代。即座に奥野からWR小田へ45ヤードのパスがヒットしてゴール前5ヤード。今度はRB中村が中央を抜けてTD。思わぬターンオーバーで相手守備陣が混乱している隙をついたリズミカルな攻撃でリードを広げる。
ファイターズ4度目の攻撃も、奥野から阿部へのパスから始まり、RB陣のパワープレー、奥野のキープなどで簡単に陣地を進める。ラインがしっかり相手を押し込んでいるからこそであろう。仕上げはWR鈴木へのパスで4本目のTD。第2クオーターが始まったばかりというのに28−0とリードを広げた。
この間、守備陣は相手の攻撃をことごとく押さえ、即座に攻撃権を奪回。オフェンスもまた4回の攻撃シリーズをすべてTDで締めくくった。理想の展開であり、強いファイターズという形容がぴったりだった。
ところが第2Qの途中から、徐々に交代メンバーが出場し、QBも西野に交代したあたりから様子が一変する。パスは通らず、ランも進まない。守備陣も、二人のQBを交互に入れて攻め込んでくる相手に振り回されるようになる。強いチームが並のチームになってしまったのである。
結局、後半のTDは第4Qに渡邊とRB富永のランで挙げた2本だけ。立ち上がりの勢いのある攻撃はどこへ行ったのか。パスの成功率が一気に下落してしまったのはどうしてか。僕の頭の中には、消化不良のままの疑問がいまも残っている。同時に、こうした並のチームで、無敗で前半戦を切り抜けてきた立命や関大のタレント軍団に対抗出来るのか。そんな疑問が次々と噴出してきた。
そこで試合後、新聞記者のインタビューの隙を見て鳥内監督に質問。試合の感想と、今後の練習への取り組みなどについて聞いた。
次のような断片的な言葉が返ってきた。
「攻守とも、4年生にどれだけの危機意識があるかとうことですね。もっと危機感を持って練習せなあきません」「練習はしているようだけど、それが勝つための練習になっているのかどうか。4年生はいつもそう問い掛け、工夫をしていかなあきません」
毎年、新たな人材を発掘し、その人材が大事な試合を任せられるかどうかを常に気にかけている監督ならではの言葉だった。
光藤主将が率いる今季のファイターズは強いチームなのか、それとも本当に強い相手から見たら並のチームなのか。
僕にはまだ、答えは出せない。分かっているのは、アメフットは先発メンバーだけでは戦いきれないということ。まずは交代メンバーの底上げを図らなければならないこと。そのためには、グラウンドに立つ全員が高い意識と目的を持った練習を徹底すること。日々の練習から本番を想定し、それに向かって全力を出し切ること。そうした点に注目するしかない。
そう考えた上で、今週末は上ヶ原のグラウンドでの部員の動きをしっかり目に焼き付けてみたい。けがから回復途上にあるメンバーを励ますことも忘れないようにしよう。
次節から始まる3試合は、チームに属するすべての人間の本気度をあぶり出す戦いである。言い訳は通用しない。やるか、やられるか。そういう戦いである。それに向かって、部員全員がどこまで集中できるか。
先発メンバーはもちろん、交代メンバーたちの動向から目が離せない。
試合経過を見れば、このことは即座に理解できる。
ファイターズのレシーブで試合開始。自陣25ヤードから始まった第1プレーでは、RB中村が中央をついて4ヤード前進。続いてQB奥野からWR阿部へのパスでダウンを更新。続く第3プレーでRB渡邊が中央を突破。そのまま61ヤードを独走してタッチダウン。K安藤のキックも決まって7−0とリード。キックオフからわずか3プレー、消費時間でいえば1分ほどで試合の主導権を握った。
守備陣もこのリズムを崩さない。わずか3プレーで相手をパントに追いやり、相手陣33ヤードから再び攻撃権を手にする。
これに呼応して攻撃陣も勢いよく攻め込む。奥野から阿部やWR鈴木へのミドルパスが続けさまにヒット。ゴール前3ヤードに迫ると、今度はRB三宅が左サイドを駆け上がってタッチダウン。
続く相手の攻撃では、相手がファンブルしたボールをファイターズ守備陣が素早くカバーし、相手陣48ヤード付近で攻守交代。即座に奥野からWR小田へ45ヤードのパスがヒットしてゴール前5ヤード。今度はRB中村が中央を抜けてTD。思わぬターンオーバーで相手守備陣が混乱している隙をついたリズミカルな攻撃でリードを広げる。
ファイターズ4度目の攻撃も、奥野から阿部へのパスから始まり、RB陣のパワープレー、奥野のキープなどで簡単に陣地を進める。ラインがしっかり相手を押し込んでいるからこそであろう。仕上げはWR鈴木へのパスで4本目のTD。第2クオーターが始まったばかりというのに28−0とリードを広げた。
この間、守備陣は相手の攻撃をことごとく押さえ、即座に攻撃権を奪回。オフェンスもまた4回の攻撃シリーズをすべてTDで締めくくった。理想の展開であり、強いファイターズという形容がぴったりだった。
ところが第2Qの途中から、徐々に交代メンバーが出場し、QBも西野に交代したあたりから様子が一変する。パスは通らず、ランも進まない。守備陣も、二人のQBを交互に入れて攻め込んでくる相手に振り回されるようになる。強いチームが並のチームになってしまったのである。
結局、後半のTDは第4Qに渡邊とRB富永のランで挙げた2本だけ。立ち上がりの勢いのある攻撃はどこへ行ったのか。パスの成功率が一気に下落してしまったのはどうしてか。僕の頭の中には、消化不良のままの疑問がいまも残っている。同時に、こうした並のチームで、無敗で前半戦を切り抜けてきた立命や関大のタレント軍団に対抗出来るのか。そんな疑問が次々と噴出してきた。
そこで試合後、新聞記者のインタビューの隙を見て鳥内監督に質問。試合の感想と、今後の練習への取り組みなどについて聞いた。
次のような断片的な言葉が返ってきた。
「攻守とも、4年生にどれだけの危機意識があるかとうことですね。もっと危機感を持って練習せなあきません」「練習はしているようだけど、それが勝つための練習になっているのかどうか。4年生はいつもそう問い掛け、工夫をしていかなあきません」
毎年、新たな人材を発掘し、その人材が大事な試合を任せられるかどうかを常に気にかけている監督ならではの言葉だった。
光藤主将が率いる今季のファイターズは強いチームなのか、それとも本当に強い相手から見たら並のチームなのか。
僕にはまだ、答えは出せない。分かっているのは、アメフットは先発メンバーだけでは戦いきれないということ。まずは交代メンバーの底上げを図らなければならないこと。そのためには、グラウンドに立つ全員が高い意識と目的を持った練習を徹底すること。日々の練習から本番を想定し、それに向かって全力を出し切ること。そうした点に注目するしかない。
そう考えた上で、今週末は上ヶ原のグラウンドでの部員の動きをしっかり目に焼き付けてみたい。けがから回復途上にあるメンバーを励ますことも忘れないようにしよう。
次節から始まる3試合は、チームに属するすべての人間の本気度をあぶり出す戦いである。言い訳は通用しない。やるか、やられるか。そういう戦いである。それに向かって、部員全員がどこまで集中できるか。
先発メンバーはもちろん、交代メンバーたちの動向から目が離せない。
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2018年10月03日
(20)報告を一つ
先日、自宅に送られてきた関西学院同窓会の「母校通信」と2018年の「ファイターズイヤーブック」に、それぞれ興味深い数字が紹介されていた。
母校通信では、副学長、小菅正伸副学長と小野宏総合企画部長(ファイターズのディレクターという方が分かりやすいかもしれない)との対談の中で紹介されている「2017年度有名企業400社の就職率」(サンデー毎日調べ)にある関西学院大28.4%という数字である。大学通信の調べでは「トップは一橋大の58.9%で、関学は
全国20位。関西では阪大、京大、同志社に次いで4位」とランクされている。
これだけでも、鼻が高いのに、ファイターズのイヤーブックでは、東洋経済が調べた2018年度「人気企業300社」に就職したファイターズの卒業生は71%に達していることが紹介されている。同じ調査ではないから、単純に比較することはできないが、大学全体では日本で一番の実績を誇る一橋大よりも、ファイターズの諸君の方が人気企業への就職率が高いというのだ。
すごい!と驚かれる方も多いだろう。もっと驚くのは、こうした実績を1年や2年ではなく、毎年のように積み重ねていることである。ここ数年はずっと人気企業300社への就職率は7割前後で推移しているというから、就活に四苦八苦している一般の学生にとっては驚愕(きょうがく)という言葉しかないだろう。
今季、練習と試合の合間を縫って就活を続けてきた4年生の実績(一部、留年中の5年生を含む)の実績も素晴らしい。僕が知るところでは三井物産、東京海上日動火災、三井住友銀行、富士通にそれぞれ3人。三菱UFJ銀行、野村證券、ファーストリテーリング、ニトリに各2人。ほかにも三井住友海上、旭化成ホームズ、帝人フロンティア、三菱電機、富士フイルム、コクヨ、ソフトバンク、池田泉州銀行、キャノン、サッポロビール、第一三共、日本航空、本田技研工業、日立製作所、長瀬産業、住友電工、博報堂DYデジタル、伊藤忠、日本生命、川重商事、新日鐵住金、メタルワン、第一生命、リンクアンドモチベーションなどの人気企業から続々と内定をもらっている。
来春卒業予定の4年生は45人。うち10余人は留年し、来年の就活に挑むという。その結果、「来春に卒業を予定している全員が内定をもらっています」というから、さすがファイターズというしかない。
驚くのは、こうした実績をたたき出したのが有名選手だけでなく、マネジャーやアナライジングスタッフ、トレーナー、中高の学生コーチまでを含めた部員全員であること。選手もスタッフも関係なく、全員がファイターズの構成員として練習に励み、自覚を持って就職活動に取り組んできた成果であることが誇らしい。
一部のスター選手だけに光が当たるのではない。それぞれの部署に分かれ、責任を持ってその任務を果たす中で人間的に成長し、その姿を企業の採用担当から評価されたからこその実績である。ここにファイターズの真価がある。
もちろん、ファイターズというチームに対する高い評価が大きな力になっていることは間違いない。人気企業に勤めている先輩たちの活躍振りを通じて、ファイターズという組織の底力が評価されたという側面もあるだろうし、後輩のために何かと相談に乗って下さった先輩諸氏のご協力も大きかったに違いない。
僕も今春、新4年生が就活の準備を始める春休みに、就職希望者全員を対象に「チャーミングなエントリーシートの書き方」というテーマで、勉強会の講師を担当した。希望する部員には、エントリーシートの作成について具体的な指導や添削作業もした。
その昔、朝日新聞社で入社試験の小論文の採点委員や面接担当を何年も続けた経験と、この10数年、関西学院大学で非常勤講師を務め、「文章表現論」を担当している経験を生かして、懇切丁寧に「内定に直結するエントリーシート」の作成に協力したのである。手間のかかる仕事だが、多少は時間にゆとりのある年寄りならではの仕事でもある。その結果、僕が相談に乗った全員が希望する企業から内定を勝ち取り、僕自身も大きな喜びを手にした。
そうした時間を通じて、ファイターズの諸君が練習や試合だけでなく、就職活動にも懸命に努力する場面を何度も見せてもらった。これもまた学生スポーツ、課外活動の大事な姿であろう。
目の前の部活だけに集中するのではない。学業にも、就職活動にも全力で取り組む。今日、一つの山の頂きを極めたら、明日登る山の頂上を見定め、また一歩ずつ歩を進めていく。そうした努力を重ねることで目標の「日本1」という頂上が見えてくる。
今季、残された時間は短い。その頂上を見定め、さらなる努力、精進を期待する。
母校通信では、副学長、小菅正伸副学長と小野宏総合企画部長(ファイターズのディレクターという方が分かりやすいかもしれない)との対談の中で紹介されている「2017年度有名企業400社の就職率」(サンデー毎日調べ)にある関西学院大28.4%という数字である。大学通信の調べでは「トップは一橋大の58.9%で、関学は
全国20位。関西では阪大、京大、同志社に次いで4位」とランクされている。
これだけでも、鼻が高いのに、ファイターズのイヤーブックでは、東洋経済が調べた2018年度「人気企業300社」に就職したファイターズの卒業生は71%に達していることが紹介されている。同じ調査ではないから、単純に比較することはできないが、大学全体では日本で一番の実績を誇る一橋大よりも、ファイターズの諸君の方が人気企業への就職率が高いというのだ。
すごい!と驚かれる方も多いだろう。もっと驚くのは、こうした実績を1年や2年ではなく、毎年のように積み重ねていることである。ここ数年はずっと人気企業300社への就職率は7割前後で推移しているというから、就活に四苦八苦している一般の学生にとっては驚愕(きょうがく)という言葉しかないだろう。
今季、練習と試合の合間を縫って就活を続けてきた4年生の実績(一部、留年中の5年生を含む)の実績も素晴らしい。僕が知るところでは三井物産、東京海上日動火災、三井住友銀行、富士通にそれぞれ3人。三菱UFJ銀行、野村證券、ファーストリテーリング、ニトリに各2人。ほかにも三井住友海上、旭化成ホームズ、帝人フロンティア、三菱電機、富士フイルム、コクヨ、ソフトバンク、池田泉州銀行、キャノン、サッポロビール、第一三共、日本航空、本田技研工業、日立製作所、長瀬産業、住友電工、博報堂DYデジタル、伊藤忠、日本生命、川重商事、新日鐵住金、メタルワン、第一生命、リンクアンドモチベーションなどの人気企業から続々と内定をもらっている。
来春卒業予定の4年生は45人。うち10余人は留年し、来年の就活に挑むという。その結果、「来春に卒業を予定している全員が内定をもらっています」というから、さすがファイターズというしかない。
驚くのは、こうした実績をたたき出したのが有名選手だけでなく、マネジャーやアナライジングスタッフ、トレーナー、中高の学生コーチまでを含めた部員全員であること。選手もスタッフも関係なく、全員がファイターズの構成員として練習に励み、自覚を持って就職活動に取り組んできた成果であることが誇らしい。
一部のスター選手だけに光が当たるのではない。それぞれの部署に分かれ、責任を持ってその任務を果たす中で人間的に成長し、その姿を企業の採用担当から評価されたからこその実績である。ここにファイターズの真価がある。
もちろん、ファイターズというチームに対する高い評価が大きな力になっていることは間違いない。人気企業に勤めている先輩たちの活躍振りを通じて、ファイターズという組織の底力が評価されたという側面もあるだろうし、後輩のために何かと相談に乗って下さった先輩諸氏のご協力も大きかったに違いない。
僕も今春、新4年生が就活の準備を始める春休みに、就職希望者全員を対象に「チャーミングなエントリーシートの書き方」というテーマで、勉強会の講師を担当した。希望する部員には、エントリーシートの作成について具体的な指導や添削作業もした。
その昔、朝日新聞社で入社試験の小論文の採点委員や面接担当を何年も続けた経験と、この10数年、関西学院大学で非常勤講師を務め、「文章表現論」を担当している経験を生かして、懇切丁寧に「内定に直結するエントリーシート」の作成に協力したのである。手間のかかる仕事だが、多少は時間にゆとりのある年寄りならではの仕事でもある。その結果、僕が相談に乗った全員が希望する企業から内定を勝ち取り、僕自身も大きな喜びを手にした。
そうした時間を通じて、ファイターズの諸君が練習や試合だけでなく、就職活動にも懸命に努力する場面を何度も見せてもらった。これもまた学生スポーツ、課外活動の大事な姿であろう。
目の前の部活だけに集中するのではない。学業にも、就職活動にも全力で取り組む。今日、一つの山の頂きを極めたら、明日登る山の頂上を見定め、また一歩ずつ歩を進めていく。そうした努力を重ねることで目標の「日本1」という頂上が見えてくる。
今季、残された時間は短い。その頂上を見定め、さらなる努力、精進を期待する。
posted by コラム「スタンドから」 at 06:46| Comment(1)
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2018年09月25日
(19)試行錯誤
試行錯誤という言葉がある。手元の辞書は「課題が困難なとき、何回もやってみて、失敗を重ねながらも段々と目的に迫っていくやり方」と説明している。
関西リーグの第3戦、龍谷大学との試合を観戦しながら、思わずこの言葉が脳裏に浮かんだ。
「失敗を重ねながらも」「何回もやってみて」という点ではその通りだった。初戦から指摘されてきたつまらない反則が出ていたし、パスもなかなか通らない。ランプレーが思うように進まない場面があったし、レシーバーが手の届く範囲のパスを落とす場面もあった。交代メンバーが出場してからは、ラインが割られる場面も何度か見掛けた。
前半から大きくリードしていたこと、守備陣が終始安定していたこと、そして相手ディフェンスの動きのよかったことなどを割り引いても、正直にいえば「これで上位チーム、とりわけ立命に通用するのだろうか」と心配になるような内容だった。
もちろん、個々のプレーでは見るべき点がいくつもあった。立ち上がり、いきなりロングリターンを決め、相手守備陣を驚かせたWR小田の快走。そこでつかんだチャンスにきっちり44ヤードのFGを成功させたK安藤の安定感。相手の攻撃を立て続けに3&アウトに仕留めた守備陣の活躍。一気に左サイドを駆け上がってTDを決めたRB渡邊の快足。さらにはゴール前ショートの場面で、3回連続でTDを奪ったRB中村のすばしこい動き。
レシーバー陣では小田と阿部がスピードとセンスの良さを見せつけたキャッチを重ね、いまひとつ球筋の定まらないQB西野を大いに助けた。1、2戦目で不安定な場面を見せたOLも、この日はしっかり前に押し込んでいた。久々にパントのリターナーに入ったWR尾崎も思い切りのよいプレーで陣地を進めた。
ディフェンスでは1列目の寺岡、青木、藤本、板敷が安定した動きを見せ、2列目、3列目も相手にロングゲインを許さなかった。1年生のDL青木、LB赤倉、DB北川らもはつらつとした動きを見せた。
このように書いていけば、どこが「試行錯誤」だ、どこが「失敗を重ねながらも」だ、といわれるかもしれない。
けれども、現場で観戦している僕の目は、この日の対戦相手の向こうに立命や関大、京大を見ている。強力な立命の守備陣を相手に同じようなプレーが成功するのか、立命のオフェンスを向こうに回して、守備陣はこの日のように自由自在に動けるのだろうかと考えている。一つのミス、一つの反則が命取りになるのではないかと怖れている。
そういう視点で見ると、得点は38−0、総獲得ヤードは406ヤード対101ヤードと、ともにファイターズが相手を凌駕(りょうが)していても、まったく気持ちが落ち着かない。不要な反則が3回、ファンブルも3回(そのうち攻撃権を失ったのが2回)という数字が、その不安に拍車をかける。「失敗を重ねながら」という言葉そのものではないかと思ってしまうのである。
問題は「失敗を重ねながらも」「段々と目的に向かっている」かどうかという点にある。初戦で出た反省点が生かされているか。2戦目で出た反省点はクリアできたか。先発で出場したメンバーだけでなく、交代メンバーの力はどこまで上がっているのか。勝敗の行方が見えてからのプレーではなく、攻撃も守備も、拮抗した場面でどこまで力を出し切れたか。そうした点を自分に問い掛けながら、「段々と目的に向かっているかどうか」をチェックしなければならないと考えているのである。
僕にはまだ、その答えは見えてこない。これからの練習への取り組みと、4戦目、5戦目と続く試合の中で見ていくしかないと考えている。
その意味では、選手、スタッフはリーグ戦3戦目までの戦い振りを丁寧に分析し、良い点、悪い点、改良すべき点をすべて洗い出すしかない。評価すべき点は評価し、改良すべき点は改良していかなければならない。それができるかどうかによって、今後の命運が決まる。勝っておごらず、失敗にくじけず、目の前にある問題点を一つ一つ乗り越えていくしかないのだ。
そうすることで初めて「段々と目的地に向かっていける」。がんばろう。もう1段も2段も上のステージを目指し、努力を続けようではないか。
関西リーグの第3戦、龍谷大学との試合を観戦しながら、思わずこの言葉が脳裏に浮かんだ。
「失敗を重ねながらも」「何回もやってみて」という点ではその通りだった。初戦から指摘されてきたつまらない反則が出ていたし、パスもなかなか通らない。ランプレーが思うように進まない場面があったし、レシーバーが手の届く範囲のパスを落とす場面もあった。交代メンバーが出場してからは、ラインが割られる場面も何度か見掛けた。
前半から大きくリードしていたこと、守備陣が終始安定していたこと、そして相手ディフェンスの動きのよかったことなどを割り引いても、正直にいえば「これで上位チーム、とりわけ立命に通用するのだろうか」と心配になるような内容だった。
もちろん、個々のプレーでは見るべき点がいくつもあった。立ち上がり、いきなりロングリターンを決め、相手守備陣を驚かせたWR小田の快走。そこでつかんだチャンスにきっちり44ヤードのFGを成功させたK安藤の安定感。相手の攻撃を立て続けに3&アウトに仕留めた守備陣の活躍。一気に左サイドを駆け上がってTDを決めたRB渡邊の快足。さらにはゴール前ショートの場面で、3回連続でTDを奪ったRB中村のすばしこい動き。
レシーバー陣では小田と阿部がスピードとセンスの良さを見せつけたキャッチを重ね、いまひとつ球筋の定まらないQB西野を大いに助けた。1、2戦目で不安定な場面を見せたOLも、この日はしっかり前に押し込んでいた。久々にパントのリターナーに入ったWR尾崎も思い切りのよいプレーで陣地を進めた。
ディフェンスでは1列目の寺岡、青木、藤本、板敷が安定した動きを見せ、2列目、3列目も相手にロングゲインを許さなかった。1年生のDL青木、LB赤倉、DB北川らもはつらつとした動きを見せた。
このように書いていけば、どこが「試行錯誤」だ、どこが「失敗を重ねながらも」だ、といわれるかもしれない。
けれども、現場で観戦している僕の目は、この日の対戦相手の向こうに立命や関大、京大を見ている。強力な立命の守備陣を相手に同じようなプレーが成功するのか、立命のオフェンスを向こうに回して、守備陣はこの日のように自由自在に動けるのだろうかと考えている。一つのミス、一つの反則が命取りになるのではないかと怖れている。
そういう視点で見ると、得点は38−0、総獲得ヤードは406ヤード対101ヤードと、ともにファイターズが相手を凌駕(りょうが)していても、まったく気持ちが落ち着かない。不要な反則が3回、ファンブルも3回(そのうち攻撃権を失ったのが2回)という数字が、その不安に拍車をかける。「失敗を重ねながら」という言葉そのものではないかと思ってしまうのである。
問題は「失敗を重ねながらも」「段々と目的に向かっている」かどうかという点にある。初戦で出た反省点が生かされているか。2戦目で出た反省点はクリアできたか。先発で出場したメンバーだけでなく、交代メンバーの力はどこまで上がっているのか。勝敗の行方が見えてからのプレーではなく、攻撃も守備も、拮抗した場面でどこまで力を出し切れたか。そうした点を自分に問い掛けながら、「段々と目的に向かっているかどうか」をチェックしなければならないと考えているのである。
僕にはまだ、その答えは見えてこない。これからの練習への取り組みと、4戦目、5戦目と続く試合の中で見ていくしかないと考えている。
その意味では、選手、スタッフはリーグ戦3戦目までの戦い振りを丁寧に分析し、良い点、悪い点、改良すべき点をすべて洗い出すしかない。評価すべき点は評価し、改良すべき点は改良していかなければならない。それができるかどうかによって、今後の命運が決まる。勝っておごらず、失敗にくじけず、目の前にある問題点を一つ一つ乗り越えていくしかないのだ。
そうすることで初めて「段々と目的地に向かっていける」。がんばろう。もう1段も2段も上のステージを目指し、努力を続けようではないか。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:20| Comment(5)
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2018年09月18日
(18)桑田真澄氏の講演
先日、和歌山県田辺市で桑田真澄氏の講演会があった。氏は全盛期のPL学園で1年生からエースとして活躍。その後、プロ野球の巨人に進んで輝かしい実績を残した投手である。40歳近くなってから大リーグに挑戦し、けがを乗り越えてメジャーのマウンドを踏んだ実績も持っている。
僕は、氏が見事に復活し、カムバック賞を受賞した2002年秋、氏が師匠と仰ぐ武術家、甲野善紀さんとの縁で氏を取材し、朝日新聞の「一流を育てる」という連載で3回にわたって紹介したことがある。
一方、甲野さんのことは、このコラムでも何度か紹介している。親しくファイターズの練習にも顔を出し、武術的な身体操法を披露しながら、それをアメフットに応用する可能性を選手やコーチとともに考え、ヒントをくださっている武術家である。いわば、桑田さんとファイターズの諸君は、同じ師匠に連なる兄弟弟子といってもよい関係にある。
そういう人の講演会である。何をおいても聴講しなくてはと、主催した田辺ロータリークラブの方に頼んで話を聴かせてもらった。
講演は、期待以上に素晴らしかった。
「野球からは、素晴らしいことをたくさん経験させてもらいました」。そう語り始めた氏は、続けて「僕の人生は、挫折という言葉がふさわしい」。そういって、一つは小学校低学年のころから学校の勉強についていけずに苦しんだこと。もう一つは、中学校3年生の時には出場した全ての大会でエースの座を守り、その全てで優勝という実績を上げてPL学園に入ったが、環境の違いから思うように投げられず、3カ月後には、学校を辞めようというところまで追い込まれたこと。この二つの挫折体験を話し始めた。
6月のある日、「おかん、僕はもうやっていけんわ。学校を辞めようと考えてんねん」と母親に相談したが、「もうちょっと頑張ってみたら……。あんたらしくやったらエエねん」と慰め、激励されて何とか踏みとどまったという。
そうした話の展開からは、これは僕の思い過ごしかもしれないが、思わず聴く方も昨今、何かと話題になっているスポーツ界のいじめや暴力的な指導法の片鱗がうかがえたような気もした。
閑話休題。
さて、そのピンチを桑田氏はどう乗り越えたのか。ここからがファイターズの諸君にとっても参考になる話だと思い、概略を紹介させていただく。
授業について行けない、という問題点を克服するためには授業を集中して聞くこと、宿題は授業の間の休み時間に終わらせること。この二つを徹底し、短時間集中型の勉強法を身につけることで突破したという。集中的に勉強することで分からない点、理解が行き届かない点が明確になり、それを周囲の仲間に聞くことで一つ一つ理解する。それによって一気に成績が上がってきたという。成績が上がると自信が付き、さらに集中して勉強することが出来るようになる。そうした循環で中学校入学当初は学年で200番以下だった成績がぐんぐん伸び、ついには一桁台になったという物語を紹介してくれた。
もう一つの取り組みが練習のやり方。「自分らしくやること。自分の信じたことを実行すること」。この覚悟を持って練習に臨むことで、ぐんぐん調子が上がり、1年生の夏の大会前にはエースの座をつかむことが出来たそうだ。具体的には、時には肩を休めるために監督に申し出て「ノースロー」の日を設け、代わりにその日は徹底的に走り込んで足腰を鍛えたという。それによって投球内容が安定したから監督からも信頼され、練習法にはある程度の自由を与えられるようになったそうだ。
とりわけ興味深かったのが、二つの挫折体験から努力すること、行動することで授業が分かるようになり、野球にも自信が付いたという話だった。「努力ってすごいな、楽しいな、という成功体験が生きる力になった」という桑田氏の言葉に共感し、思わず拍手を送った。
「君らが日本一になりたいいうから、僕らは手伝っているだけ」(鳥内監督)というファイターズとは別次元の話だが、多くの部活では、指導者は教わる側よりも、教える側の立場を優先しがちである。けれども、その前に指導を受ける側の自発性にもっと期待してもよいのではないか。「努力ってすごいな、楽しいな」と、教わる側が心から思えるような指導法に目を向けることである。
それはグラウンドでの練習に限らない。練習後のダッシュ10本でもよい。読書でもよい。毎日、5行の練習日記を書かせてもよい。教わる側がそれを続けることで自信を持ち、成長へのエネルギーにしていけるような「何か」なら、何でもよい。
指導者がそういう指導法にも目を配れるようになったとき、教わる側にも何かの化学反応が起き、一気にプレーヤーとしての能力も開花するのではないか。過去のファイターズで、平均的なレベルと見られていながら、ある日突然、飛躍的な成長を遂げ、大活躍した選手は、みんなそんな体験を持っているのではないかと僕はにらんでいる。
僕は、氏が見事に復活し、カムバック賞を受賞した2002年秋、氏が師匠と仰ぐ武術家、甲野善紀さんとの縁で氏を取材し、朝日新聞の「一流を育てる」という連載で3回にわたって紹介したことがある。
一方、甲野さんのことは、このコラムでも何度か紹介している。親しくファイターズの練習にも顔を出し、武術的な身体操法を披露しながら、それをアメフットに応用する可能性を選手やコーチとともに考え、ヒントをくださっている武術家である。いわば、桑田さんとファイターズの諸君は、同じ師匠に連なる兄弟弟子といってもよい関係にある。
そういう人の講演会である。何をおいても聴講しなくてはと、主催した田辺ロータリークラブの方に頼んで話を聴かせてもらった。
講演は、期待以上に素晴らしかった。
「野球からは、素晴らしいことをたくさん経験させてもらいました」。そう語り始めた氏は、続けて「僕の人生は、挫折という言葉がふさわしい」。そういって、一つは小学校低学年のころから学校の勉強についていけずに苦しんだこと。もう一つは、中学校3年生の時には出場した全ての大会でエースの座を守り、その全てで優勝という実績を上げてPL学園に入ったが、環境の違いから思うように投げられず、3カ月後には、学校を辞めようというところまで追い込まれたこと。この二つの挫折体験を話し始めた。
6月のある日、「おかん、僕はもうやっていけんわ。学校を辞めようと考えてんねん」と母親に相談したが、「もうちょっと頑張ってみたら……。あんたらしくやったらエエねん」と慰め、激励されて何とか踏みとどまったという。
そうした話の展開からは、これは僕の思い過ごしかもしれないが、思わず聴く方も昨今、何かと話題になっているスポーツ界のいじめや暴力的な指導法の片鱗がうかがえたような気もした。
閑話休題。
さて、そのピンチを桑田氏はどう乗り越えたのか。ここからがファイターズの諸君にとっても参考になる話だと思い、概略を紹介させていただく。
授業について行けない、という問題点を克服するためには授業を集中して聞くこと、宿題は授業の間の休み時間に終わらせること。この二つを徹底し、短時間集中型の勉強法を身につけることで突破したという。集中的に勉強することで分からない点、理解が行き届かない点が明確になり、それを周囲の仲間に聞くことで一つ一つ理解する。それによって一気に成績が上がってきたという。成績が上がると自信が付き、さらに集中して勉強することが出来るようになる。そうした循環で中学校入学当初は学年で200番以下だった成績がぐんぐん伸び、ついには一桁台になったという物語を紹介してくれた。
もう一つの取り組みが練習のやり方。「自分らしくやること。自分の信じたことを実行すること」。この覚悟を持って練習に臨むことで、ぐんぐん調子が上がり、1年生の夏の大会前にはエースの座をつかむことが出来たそうだ。具体的には、時には肩を休めるために監督に申し出て「ノースロー」の日を設け、代わりにその日は徹底的に走り込んで足腰を鍛えたという。それによって投球内容が安定したから監督からも信頼され、練習法にはある程度の自由を与えられるようになったそうだ。
とりわけ興味深かったのが、二つの挫折体験から努力すること、行動することで授業が分かるようになり、野球にも自信が付いたという話だった。「努力ってすごいな、楽しいな、という成功体験が生きる力になった」という桑田氏の言葉に共感し、思わず拍手を送った。
「君らが日本一になりたいいうから、僕らは手伝っているだけ」(鳥内監督)というファイターズとは別次元の話だが、多くの部活では、指導者は教わる側よりも、教える側の立場を優先しがちである。けれども、その前に指導を受ける側の自発性にもっと期待してもよいのではないか。「努力ってすごいな、楽しいな」と、教わる側が心から思えるような指導法に目を向けることである。
それはグラウンドでの練習に限らない。練習後のダッシュ10本でもよい。読書でもよい。毎日、5行の練習日記を書かせてもよい。教わる側がそれを続けることで自信を持ち、成長へのエネルギーにしていけるような「何か」なら、何でもよい。
指導者がそういう指導法にも目を配れるようになったとき、教わる側にも何かの化学反応が起き、一気にプレーヤーとしての能力も開花するのではないか。過去のファイターズで、平均的なレベルと見られていながら、ある日突然、飛躍的な成長を遂げ、大活躍した選手は、みんなそんな体験を持っているのではないかと僕はにらんでいる。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:27| Comment(2)
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2018年09月10日
(17)ゲームを見る目
関西リーグ第2戦は8日の夕方5時にキックオフ。夜間照明の下で始まったが、王子スタジアムの照明は暗い。その上、グラウンドは雨で濡れているし、試合中も雨が降ったり止んだり。なかなかの悪条件で始まった。
それでも試合は熱かった。まずはファイターズのレシーブで始まった第1シリーズ。自陣25ヤードからの攻撃だったが、第1、第2プレーともに通らず、第3ダウン10ヤードという苦しい立ち上がりだったが、ここでこの日も先発したQB奥野がWR阿部にピンポイントのミドルパスを通してダウン更新。次の攻撃も同じく阿部にパスを通して14ヤード。一つ奥野のキーププレーを挟んで再度、阿部にミドルパスをヒットさせ、あっというまにゴール前18ヤード。ここからはRB三宅のラン、同じく中村のランで陣地を進め、残り1ヤードを中村が走り抜けてTD。K安藤のキックも決まって7−0。
次の神戸大の攻撃を守備陣が完封して再びファイターズの攻撃。今度も奥野から阿部へのパスで活路を開き、さらには久々に登場したWR小田へのパスを立て続けにヒットさせて再びゴール前。今度は中村が中央に見事なダイブを決めて14−0。2度の攻撃シリーズを2度ともTDで締めくくる完璧な立ち上がりだった。
しかしながら、ここからがもたつく。QBとレシーバーの呼吸が合わず、せっかくレシーバーが相手を抜き去っているのに、肝心のパスが短く、相手に奪われてしまったり、捕ればそのまま走り切ってTDという場面をつくりながら胸に入ったボールを確保出来なかったり。投げる方にも受ける方にもミスが出て、決定的なチャンスを2度も失う。
ファイターズが自滅しそうな場面だったが、今度は守備陣が奮起。DB畑中が見事な個人技で相手パスを奪い取って再び相手陣31ヤードからの攻撃。ここで、ファイターズRB陣で一番のスピードを誇る渡邊がドロープレーからのランで一気にゴールまで走り込んでTD。自滅に近い形で相手に渡した試合の流れを一気に取り戻した。
第3Qに入ると、ファイターズQBは西野に交代。初戦ではレシーバーとして出場してほとんど活躍の場面がなかったが、この日は本職のQBとしての登場である。自陣40ヤード付近からの攻撃だったが、立て続けにキーププレーで連続のダウン更新。相手がQBのランを警戒したと思えば次はWR小田へのロングパス。それを半身になりながら小田が好捕。わずか3プレーでゴール前5ヤードに攻め込んだ。浮き足立つ相手を尻目に、ここはRB三宅が走り込んでTD。28−0とリードを広げる。
こうなると、試合はファイターズのペース。次々と交代選手を投入して試合の雰囲気に馴染ませる。期待の1年生諸君も次々と登場し、結構な動きを披露してくれたのが頼もしかった。とりわけ目立ったのは、ランプレーのたびにボールキャリアになり、相手のディフェンスをパワーで突破して2度のTDを決めたRB前田(高等部)。彼は高校の頃から注目されていた選手だが、大学に入って一段と力を付け、同じポジションの先輩、山口の交代要員の候補の一人になっている。
OLではセンターの朝枝(清教学園)。彼は学年で1番の元気印で、JV戦でもOLの中心になって士気を鼓舞していた。この日も4年生のように頭をつるつるにそり上げて登場。気合いの入ったところを見せつけた。2番手のリターナーとして起用された鏡味(同志社国際)も、小柄だが気持ちの勝ったプレーで存在感を発揮した。
ディフェンスで目に付いたのはDLの青木(追手門)、LBの赤倉、北川(ともに佼成学園)、DBの竹原(追手門)。それぞれがしばしばプレーに絡み、1年生とは思えないほどのセンスの良さを見せてくれた。北川にいたっては2試合連続のインターセプト。ともに試合の行方が決まってからのプレーだったが、フットボールセンスの良さを見せてくれた。
試合は42−0。ファイターズの完勝と見えたが、この結果に対する監督やヘッドコーチの評価は素っ気なかった。
「相手の守備陣を考えたら、これぐらいできて当たり前。問題は、立命の守備陣を相手に勝負できるかどうか。まだまだ鍛えなあきません」と鳥内監督。大村ヘッドコーチからも「相手が疲れてからのプレーは参考になりませんよ。こんなんでいい気になっていたら痛い目にあいます」という言葉が返ってきた。
スタンドから試合を眺め、その展開に一喜一憂している僕と、リーグ戦のこれからを見据えて、現状を冷静に分析する監督やコーチ。立場の違いといえばそれまでだが、常に足りない所に目を向け、それを克服するためにはどうするか。あるいは、いまは目に見えていない選手の潜在的な可能性を見つけ、その長所をどうすれば生かせるか。そういった点に焦点を当て、一瞬の油断もなく試合展開を見つめ、知恵をしぼっている人々。そうした存在がこのチームを支えているのである。
スタンドから眺めている僕にとっても、ゲームを見る目が1段階上がったように思える試合後の談話だった。
それでも試合は熱かった。まずはファイターズのレシーブで始まった第1シリーズ。自陣25ヤードからの攻撃だったが、第1、第2プレーともに通らず、第3ダウン10ヤードという苦しい立ち上がりだったが、ここでこの日も先発したQB奥野がWR阿部にピンポイントのミドルパスを通してダウン更新。次の攻撃も同じく阿部にパスを通して14ヤード。一つ奥野のキーププレーを挟んで再度、阿部にミドルパスをヒットさせ、あっというまにゴール前18ヤード。ここからはRB三宅のラン、同じく中村のランで陣地を進め、残り1ヤードを中村が走り抜けてTD。K安藤のキックも決まって7−0。
次の神戸大の攻撃を守備陣が完封して再びファイターズの攻撃。今度も奥野から阿部へのパスで活路を開き、さらには久々に登場したWR小田へのパスを立て続けにヒットさせて再びゴール前。今度は中村が中央に見事なダイブを決めて14−0。2度の攻撃シリーズを2度ともTDで締めくくる完璧な立ち上がりだった。
しかしながら、ここからがもたつく。QBとレシーバーの呼吸が合わず、せっかくレシーバーが相手を抜き去っているのに、肝心のパスが短く、相手に奪われてしまったり、捕ればそのまま走り切ってTDという場面をつくりながら胸に入ったボールを確保出来なかったり。投げる方にも受ける方にもミスが出て、決定的なチャンスを2度も失う。
ファイターズが自滅しそうな場面だったが、今度は守備陣が奮起。DB畑中が見事な個人技で相手パスを奪い取って再び相手陣31ヤードからの攻撃。ここで、ファイターズRB陣で一番のスピードを誇る渡邊がドロープレーからのランで一気にゴールまで走り込んでTD。自滅に近い形で相手に渡した試合の流れを一気に取り戻した。
第3Qに入ると、ファイターズQBは西野に交代。初戦ではレシーバーとして出場してほとんど活躍の場面がなかったが、この日は本職のQBとしての登場である。自陣40ヤード付近からの攻撃だったが、立て続けにキーププレーで連続のダウン更新。相手がQBのランを警戒したと思えば次はWR小田へのロングパス。それを半身になりながら小田が好捕。わずか3プレーでゴール前5ヤードに攻め込んだ。浮き足立つ相手を尻目に、ここはRB三宅が走り込んでTD。28−0とリードを広げる。
こうなると、試合はファイターズのペース。次々と交代選手を投入して試合の雰囲気に馴染ませる。期待の1年生諸君も次々と登場し、結構な動きを披露してくれたのが頼もしかった。とりわけ目立ったのは、ランプレーのたびにボールキャリアになり、相手のディフェンスをパワーで突破して2度のTDを決めたRB前田(高等部)。彼は高校の頃から注目されていた選手だが、大学に入って一段と力を付け、同じポジションの先輩、山口の交代要員の候補の一人になっている。
OLではセンターの朝枝(清教学園)。彼は学年で1番の元気印で、JV戦でもOLの中心になって士気を鼓舞していた。この日も4年生のように頭をつるつるにそり上げて登場。気合いの入ったところを見せつけた。2番手のリターナーとして起用された鏡味(同志社国際)も、小柄だが気持ちの勝ったプレーで存在感を発揮した。
ディフェンスで目に付いたのはDLの青木(追手門)、LBの赤倉、北川(ともに佼成学園)、DBの竹原(追手門)。それぞれがしばしばプレーに絡み、1年生とは思えないほどのセンスの良さを見せてくれた。北川にいたっては2試合連続のインターセプト。ともに試合の行方が決まってからのプレーだったが、フットボールセンスの良さを見せてくれた。
試合は42−0。ファイターズの完勝と見えたが、この結果に対する監督やヘッドコーチの評価は素っ気なかった。
「相手の守備陣を考えたら、これぐらいできて当たり前。問題は、立命の守備陣を相手に勝負できるかどうか。まだまだ鍛えなあきません」と鳥内監督。大村ヘッドコーチからも「相手が疲れてからのプレーは参考になりませんよ。こんなんでいい気になっていたら痛い目にあいます」という言葉が返ってきた。
スタンドから試合を眺め、その展開に一喜一憂している僕と、リーグ戦のこれからを見据えて、現状を冷静に分析する監督やコーチ。立場の違いといえばそれまでだが、常に足りない所に目を向け、それを克服するためにはどうするか。あるいは、いまは目に見えていない選手の潜在的な可能性を見つけ、その長所をどうすれば生かせるか。そういった点に焦点を当て、一瞬の油断もなく試合展開を見つめ、知恵をしぼっている人々。そうした存在がこのチームを支えているのである。
スタンドから眺めている僕にとっても、ゲームを見る目が1段階上がったように思える試合後の談話だった。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:57| Comment(4)
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2018年08月30日
(16)初戦の収穫
今シーズンの初戦、近大との戦いは31−7でファイターズの勝利。順当といえば順当であり、課題山積といえばその通りである。
なんせ相手は、今季から1部に復帰したばかりのチームであり、現在のチーム力を計る情報がほとんどない。それでも、かつては毎年のように厳しい戦いを繰り広げた強敵であり、チーム力が十分に整わない時期でも、必ず突出したタレントを有して個人技で攻め込まれたことが何度もある。
相手はどんな戦力を整え、どんな戦いを仕掛けてくるのか。情報が少ない相手に、ファイターズの諸君がどんな戦いをしてくれるのか。チームはどの程度まで仕上がっているのか。卒業生が抜けた穴を埋めるのはどんなメンバーか。興味津々でキックオフを待った。
コイントスに勝ったファイターズが守備から入り、近大の攻撃を受けて立つ。
ところが、相手は自陣25ヤードからは怖めず臆せず、思い切ったパスプレーで攻め込んでくる。合間に取り入れるランプレーとの組み合わせがよく、あれよあれよという間に2度もダウンを更新。気がつけばファイターズのゴール前、27ヤードまで攻め込まれている。ここはLB海崎の強烈なタックルなどで食い止め、相手のフィールドゴールの失敗にも助けられて攻守交代。
代わってファイターズの攻撃は自陣22ヤードから。近大の歯切れの良い攻撃に浮き足立っていたチームだったが、この試合で先発した奥野が軽業師のような動きで突破口を開く。自身のキーププレーを中心に、RB山口、中村のランプレーで陣地を進め、着実にダウンを更新。最後はゴール前3ヤードからRB山口がパワーで走り込んでTD。K安藤のキックも決まって7−0とリードする。
2Qに入ってすぐ、今度はRB山口が個人技で突破口を開く。自陣42ヤード付近でボールを受け取った瞬間から一気に加速、相手DBを次々と交わし、抜き去って58ヤードを独走。見事にTDに持ち込んだ。まさに個人技。スピードをほとんど落とさないままにカットを切るから、相手守備陣も捕らえようがない。昨シーズンまでは、相手を抜き去っても、なかなかタッチダウンまでは持ち込めなかったが、4年生になった今年はひと味違う。よりパワーアップした走りで、ファンの声援に応えた。
試合後のインタビューで「僕がチームを勝たせます」と力強く言い切っていたが、本当に頼もしいエースである。
このプレーで守備陣も落ち着きを取り戻し、14−0で前半を終了。3Q半ばにはK安藤が47ヤードのFGを決めて17−0。さらに4Qの初めにはファイターズの蹴ったパントを相手レシーバーがファンブル、ゴール内に転がったボールをパントチームの弓岡が抑え、ファンブルリカバーで7点を追加する。
ここでようやく、ファイターズも交代メンバーをグラウンドに送り出す余裕が生まれた。しかし、当初から試合に出ていたメンバーは落ち着いているが、交代メンバーはそうはいかない。相手のパスプレーが止まらず、ファイターズ守備陣にパーソナルファールの反則もあって、簡単にゴール前までボールを持ち込まれ、あれよあれよという間にTD。
結局、終わってみれば31−7。試合には勝ったが、もう一つすっきりしない内容だった。なぜか。理由はいくつかある。まずはパスを思い切って投げ込んできた近大の攻撃を守備陣が止めきれなかったこと。攻守ともに不必要な反則が続出し、せっかくのリズムを自ら壊していたこと。オフェンスラインが割られ、QBやボールキャリアが孤立する場面が何度も続いたこと。先発メンバーと交代メンバーとの差が大きく、せっかくのプレーコールが得点に結びつかなかったこと。物足りなかった点を挙げていけば、片手の指では足りそうにない。
それもこれも「練習でできていないことは試合でもできない」(大村コーチ)ということではないか。それが明確になったことが、この日一番の収穫であろう。
上級生はもちろん、下級生にも僕が期待していた通りに動けていた選手は少なくない。チャンスをつかもうと必死にボールに食らいつく姿も見えた。ファイターズのパントを相手がファンブルしたときのキッキングチームの基本に忠実な動きも素晴らしかった。全員がそれぞれの役割に集中していたからこそ、ご褒美のようなTDが転がり込んできたのだ。
忘れてならないのは、後半、試合の行方が見えてから交代メンバーとして登場したフレッシュマンの物怖じしない動きも魅力的だった。初登場でインターセプトを披露したLBの北川をはじめ、同じLBの赤倉、DLの青木、DBの竹原らは今後、出場機会が増えるにつれてその潜在能力を発揮してくれるに違いない。それもまたこの試合の収穫である。
マイナスの収穫は確実につぶし、プラスの収穫は大いに伸ばす。次の試合は、そんなところに注目して応援したい。
なんせ相手は、今季から1部に復帰したばかりのチームであり、現在のチーム力を計る情報がほとんどない。それでも、かつては毎年のように厳しい戦いを繰り広げた強敵であり、チーム力が十分に整わない時期でも、必ず突出したタレントを有して個人技で攻め込まれたことが何度もある。
相手はどんな戦力を整え、どんな戦いを仕掛けてくるのか。情報が少ない相手に、ファイターズの諸君がどんな戦いをしてくれるのか。チームはどの程度まで仕上がっているのか。卒業生が抜けた穴を埋めるのはどんなメンバーか。興味津々でキックオフを待った。
コイントスに勝ったファイターズが守備から入り、近大の攻撃を受けて立つ。
ところが、相手は自陣25ヤードからは怖めず臆せず、思い切ったパスプレーで攻め込んでくる。合間に取り入れるランプレーとの組み合わせがよく、あれよあれよという間に2度もダウンを更新。気がつけばファイターズのゴール前、27ヤードまで攻め込まれている。ここはLB海崎の強烈なタックルなどで食い止め、相手のフィールドゴールの失敗にも助けられて攻守交代。
代わってファイターズの攻撃は自陣22ヤードから。近大の歯切れの良い攻撃に浮き足立っていたチームだったが、この試合で先発した奥野が軽業師のような動きで突破口を開く。自身のキーププレーを中心に、RB山口、中村のランプレーで陣地を進め、着実にダウンを更新。最後はゴール前3ヤードからRB山口がパワーで走り込んでTD。K安藤のキックも決まって7−0とリードする。
2Qに入ってすぐ、今度はRB山口が個人技で突破口を開く。自陣42ヤード付近でボールを受け取った瞬間から一気に加速、相手DBを次々と交わし、抜き去って58ヤードを独走。見事にTDに持ち込んだ。まさに個人技。スピードをほとんど落とさないままにカットを切るから、相手守備陣も捕らえようがない。昨シーズンまでは、相手を抜き去っても、なかなかタッチダウンまでは持ち込めなかったが、4年生になった今年はひと味違う。よりパワーアップした走りで、ファンの声援に応えた。
試合後のインタビューで「僕がチームを勝たせます」と力強く言い切っていたが、本当に頼もしいエースである。
このプレーで守備陣も落ち着きを取り戻し、14−0で前半を終了。3Q半ばにはK安藤が47ヤードのFGを決めて17−0。さらに4Qの初めにはファイターズの蹴ったパントを相手レシーバーがファンブル、ゴール内に転がったボールをパントチームの弓岡が抑え、ファンブルリカバーで7点を追加する。
ここでようやく、ファイターズも交代メンバーをグラウンドに送り出す余裕が生まれた。しかし、当初から試合に出ていたメンバーは落ち着いているが、交代メンバーはそうはいかない。相手のパスプレーが止まらず、ファイターズ守備陣にパーソナルファールの反則もあって、簡単にゴール前までボールを持ち込まれ、あれよあれよという間にTD。
結局、終わってみれば31−7。試合には勝ったが、もう一つすっきりしない内容だった。なぜか。理由はいくつかある。まずはパスを思い切って投げ込んできた近大の攻撃を守備陣が止めきれなかったこと。攻守ともに不必要な反則が続出し、せっかくのリズムを自ら壊していたこと。オフェンスラインが割られ、QBやボールキャリアが孤立する場面が何度も続いたこと。先発メンバーと交代メンバーとの差が大きく、せっかくのプレーコールが得点に結びつかなかったこと。物足りなかった点を挙げていけば、片手の指では足りそうにない。
それもこれも「練習でできていないことは試合でもできない」(大村コーチ)ということではないか。それが明確になったことが、この日一番の収穫であろう。
上級生はもちろん、下級生にも僕が期待していた通りに動けていた選手は少なくない。チャンスをつかもうと必死にボールに食らいつく姿も見えた。ファイターズのパントを相手がファンブルしたときのキッキングチームの基本に忠実な動きも素晴らしかった。全員がそれぞれの役割に集中していたからこそ、ご褒美のようなTDが転がり込んできたのだ。
忘れてならないのは、後半、試合の行方が見えてから交代メンバーとして登場したフレッシュマンの物怖じしない動きも魅力的だった。初登場でインターセプトを披露したLBの北川をはじめ、同じLBの赤倉、DLの青木、DBの竹原らは今後、出場機会が増えるにつれてその潜在能力を発揮してくれるに違いない。それもまたこの試合の収穫である。
マイナスの収穫は確実につぶし、プラスの収穫は大いに伸ばす。次の試合は、そんなところに注目して応援したい。
posted by コラム「スタンドから」 at 18:25| Comment(2)
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2018年08月25日
(15)さあ開幕
8月25日午後7時10分、2018年度ファイターズの関西リーグ初戦が始まる。場所は吹田市のエキスポフラッシュフィールド。いつもの年の王子スタジアムとは少々勝手が違い、交通手段も異なるが、ファイターズの初戦であることは間違いない。より多くのファンの方々に会場までお運びいただき、応援をお願いしたい。
開幕に先立って24日午前、僕も毎年恒例の儀式をしっかり務めてきた。前夜からの台風が一段落するのを待ちかねて大学に足を運び、平郡君のヤマモモの木に手を合わせ、上ヶ原の八幡神社に勝利を祈願する。ついでに時計台に向かっても一礼し、選手諸君の健闘を祈る。賽銭の代わりという訳ではないけれども、財務課の窓口に足を運んで、ファイターズのためにささやかな寄付も届けた。
毎年のことだから旧知の財務課長も「ありがとうございます。いよいよですね」と声を掛けてくれる。彼は水泳部のコーチを務めているが、会うたびにファイターズ話で盛り上がる。
彼だけではない。院長をはじめ、僕の知っている大学職員の全員がファイターズには特別の感情を抱いておられるのだろう。顔を合わせるたびに、それぞれの言葉で応援の気持ちを伝えていただける。その言葉を聞くたびに、関西学院には数多くの課外活動団体があるが、その中でもファイターズは別格、という感慨を抱く。それもまた、現役の部員はもちろん歴代の部員、関係者が築き上げてきたチームの伝統に対する敬意の表れだろう。ありがたいことであり、僕もまたチームへの愛着が一層深くなる。
グラウンドでは、台風の余波が収まるのを待って、午前中からゲーム前の全体練習をしていた。23日深夜には、近畿地方に大きな被害をもたらせた台風20号が兵庫県に再上陸し、大雨と強風で各地に被害をもたらせたが、ファイターズはその間隙をついて23日も24日も練習を続けた。23日は、通常なら夕方からの練習時間を早朝からに切り替え、台風の影響が出る前に練習を終える。24日も台風の影響が収まるのを待って午前10時半から練習開始。固定観念に捕らわれないファイターズならではのやりくりで練習の時間を確保し、試合に備えていた。いつもながらの柔軟なチーム運営に驚きながら、全体練習を見せていただいた。
さらに昨日の試合前日の練習にも強い印象を受けた。いつもなら試合の前日はプレーの順序を確認するだけで短時間で終わるのだが、実際にパスも投げて例年以上に入念なプレーの確認をしていて、初戦に向けて少しでも精度を上げて臨みたいという意志が感じられた。
それは練習後のハドルでの大村コーチや光藤主将の言葉にもにじみ出ていた。「試合だからといっても、特別のことができるわけではない。練習でやったことしかできない。試合で失敗することがあったとすれば、それは練習できちんとやっていないからだ。やったことをしっかり発揮しよう」。そんな言葉である。
練習後は全員でグラウンドのごみ拾い。前夜の台風の影響で、小さな木の葉があちこちに飛び散っていたが、約200人の部員が手分けして拾い集めると、あっという間に美しくなった。これもまた試合前恒例の作業だが、こういうことをきちんとするところにも、ファイターズというチームのたたずまいが現れる。本当は簡単な掃除用具を準備して、側溝の泥まで片付けて欲しい所だが、これはこれからの課題としておこう。
さあ、今夜は2018年度チームのキックオフ。全員が「FIGHT ON」を体現する試合である。11月18日の立命戦まで「負けたら終わり」の厳しい戦いが2週間ごとに続く。前年度の成績がどうだとか、卒業したメンバーがどれだけいるかとかは関係ない。目の前の相手に必ず勝つという戦いを続けてこそ、西日本代表決定戦、から甲子園ボウル、ライスボウルへの道は開ける。日本1を掲げた以上は、どの試合も一つとして負けられない。目の前の相手に絶対に勝つという強い気持ちでシーズンに臨んでいただきたい。
開幕に先立って24日午前、僕も毎年恒例の儀式をしっかり務めてきた。前夜からの台風が一段落するのを待ちかねて大学に足を運び、平郡君のヤマモモの木に手を合わせ、上ヶ原の八幡神社に勝利を祈願する。ついでに時計台に向かっても一礼し、選手諸君の健闘を祈る。賽銭の代わりという訳ではないけれども、財務課の窓口に足を運んで、ファイターズのためにささやかな寄付も届けた。
毎年のことだから旧知の財務課長も「ありがとうございます。いよいよですね」と声を掛けてくれる。彼は水泳部のコーチを務めているが、会うたびにファイターズ話で盛り上がる。
彼だけではない。院長をはじめ、僕の知っている大学職員の全員がファイターズには特別の感情を抱いておられるのだろう。顔を合わせるたびに、それぞれの言葉で応援の気持ちを伝えていただける。その言葉を聞くたびに、関西学院には数多くの課外活動団体があるが、その中でもファイターズは別格、という感慨を抱く。それもまた、現役の部員はもちろん歴代の部員、関係者が築き上げてきたチームの伝統に対する敬意の表れだろう。ありがたいことであり、僕もまたチームへの愛着が一層深くなる。
グラウンドでは、台風の余波が収まるのを待って、午前中からゲーム前の全体練習をしていた。23日深夜には、近畿地方に大きな被害をもたらせた台風20号が兵庫県に再上陸し、大雨と強風で各地に被害をもたらせたが、ファイターズはその間隙をついて23日も24日も練習を続けた。23日は、通常なら夕方からの練習時間を早朝からに切り替え、台風の影響が出る前に練習を終える。24日も台風の影響が収まるのを待って午前10時半から練習開始。固定観念に捕らわれないファイターズならではのやりくりで練習の時間を確保し、試合に備えていた。いつもながらの柔軟なチーム運営に驚きながら、全体練習を見せていただいた。
さらに昨日の試合前日の練習にも強い印象を受けた。いつもなら試合の前日はプレーの順序を確認するだけで短時間で終わるのだが、実際にパスも投げて例年以上に入念なプレーの確認をしていて、初戦に向けて少しでも精度を上げて臨みたいという意志が感じられた。
それは練習後のハドルでの大村コーチや光藤主将の言葉にもにじみ出ていた。「試合だからといっても、特別のことができるわけではない。練習でやったことしかできない。試合で失敗することがあったとすれば、それは練習できちんとやっていないからだ。やったことをしっかり発揮しよう」。そんな言葉である。
練習後は全員でグラウンドのごみ拾い。前夜の台風の影響で、小さな木の葉があちこちに飛び散っていたが、約200人の部員が手分けして拾い集めると、あっという間に美しくなった。これもまた試合前恒例の作業だが、こういうことをきちんとするところにも、ファイターズというチームのたたずまいが現れる。本当は簡単な掃除用具を準備して、側溝の泥まで片付けて欲しい所だが、これはこれからの課題としておこう。
さあ、今夜は2018年度チームのキックオフ。全員が「FIGHT ON」を体現する試合である。11月18日の立命戦まで「負けたら終わり」の厳しい戦いが2週間ごとに続く。前年度の成績がどうだとか、卒業したメンバーがどれだけいるかとかは関係ない。目の前の相手に必ず勝つという戦いを続けてこそ、西日本代表決定戦、から甲子園ボウル、ライスボウルへの道は開ける。日本1を掲げた以上は、どの試合も一つとして負けられない。目の前の相手に絶対に勝つという強い気持ちでシーズンに臨んでいただきたい。
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2018年08月18日
(14)愛されるチーム
8月16日、平郡雷太君に会いに、ファイターズが夏合宿をしている東鉢伏の「かねいちや」を訪れた。
朝6時に到着する。涼しい。途中、高速道路脇の表示板には24度とあったから、高原の中腹にあるグラウンド付近は20度を少し上回る程度だろう。長袖のシャツを着ていても肌寒い。
まだ朝食前というのに、グラウンドではJVのメンバーが出て早朝練習の準備運動をしている。4年生も次々に宿舎から出て、練習用具を整えている。いつもながらの夏合宿の光景である。
グラウンドへ降りる手前の机の上には、例年通り平郡君への「誓いの言葉」を刻んだプレートが置かれている。この言葉を読むたびに、在りし日の彼の姿が浮かんでくる。2003年8月16日、ここで合宿中、不慮の事故で帰らぬ人となった彼を偲んで手を合わせ、しばらく黙祷することが僕にとっての大切な時間である。それは、後輩の諸君が日々、切磋琢磨している第3フィールドに出掛けるたびに、平郡君のヤマモモに手を合わせるのと同様、僕とファイターズとを結び付けている「誓いの絆」といってもよい。
練習はてきぱきと進み、無駄な時間は少しもない。JVのメンバーから順次早朝練習を切り上げて朝食。それが終わると小休止の後、今度はVのメンバーから朝の練習が始まる。10日からスタートした合宿も仕上げの段階とあって、恐ろしく密度が濃い。内容も午前中の練習とは思えないほど複雑だ。
聞けば、夕方からは雷が発生する予報が出ているとのことで、夕方の練習と朝の練習のメニューを入れ替えたそうだ。
いまはリーグ戦の開幕を目の前に控えた時期だが、照準は開幕戦ではない。秋のリーグを勝ち抜き、甲子園ボウルでも勝ってライスボウル制覇までを見据えた戦いである。今季はどんな戦いをするのか、どんな風にして強力なライバルたちに勝ち抜いていくか。それを見据えた練習である。シーズンが始まれば手が回らないような課題にじっくりと取り組む数少ない機会でもある。
当然、攻守とも求められる水準は高い。チームメート同士の練習であっても、第一プレーから白熱している。オフェンスが必死ならディフェンスも必死だ。本気で向き合い、本気でぶつかり合う。当然、けが人も出る。それでも、手加減はできない。上ヶ原での練習も密度は濃いが、鉢伏の合宿での練習の密度はさらに濃い。
毎年のことだが、この合宿には多数の卒業生が参加してくれる。今春、卒業したばかりのメンバーから監督やコーチと同じ世代の卒業生まで、メンバーは日々異なるが多くの卒業生が駆けつけ、差し入れを贈ったり、練習台を務めたりしてくれる。
お盆休みにも多くの若手が訪ねてくれたそうだが、僕がお邪魔した16日にも、懐かしい顔が何人も見えた。挨拶を交わしただけでも、14年卒の吉原直人、15年卒の木下豪大、田中雄大、橋本亮、17年卒の井若大知、高松祥生、山下司、片山薫平、松本和樹氏らの顔が見えた。
今春、卒業したばかりのメンバーは、普段の上ヶ原の練習にも顔を出し、コーチと同様の役割を果たしてくれているが、新鮮だったのは、いまも社会人のトップチームでプレーしている田中氏や吉原氏ら。いそいそと防具を着け、練習台を務めてくれた。田中氏に至っては、本来のディフェンスバックだけでなく、レシーバーのメンバーにも入って、全日本級の動きを惜しみなく披露してくれた。
さすがは「会費納入率8割」というOB会の構成員である。若手の社会人として日々、職務に精進しながら、つかの間の休日を返上して鉢伏の合宿に参加して後輩を激励し、鍛えてくれる。これは毎年のように見掛ける光景だが、彼らがこのチームを「魂のふるさと」と思い、手伝えることは何でもしようという気持ちになってくれているからだろう。
お金のある者はお金を、知恵のある者は知恵を、汗をかく者は汗を、それぞれ惜しみなく次の世代に注ぎ込む卒業生。そんな卒業生たちに「このチームだからこそお手伝いがしたい」と思わせる現役の部員たちとそれを支える監督やコーチ、指導者らのたたずまい。双方が渾然一体となって存在するのがファイターズである。それは歴代のOB、OG、そして指導者らが営々と築いてきた文化であり、日本の学生スポーツ界でも例を見ない組織の在り方だろう。
いま、いろんな面で学生スポーツの在り方の根本が問われている。こうした時期だからこそ、ファイターズの活動と組織にもっと光を当てる必要があるのではないか。この夏の合宿を見て、その思いはさらに強くなった。
朝6時に到着する。涼しい。途中、高速道路脇の表示板には24度とあったから、高原の中腹にあるグラウンド付近は20度を少し上回る程度だろう。長袖のシャツを着ていても肌寒い。
まだ朝食前というのに、グラウンドではJVのメンバーが出て早朝練習の準備運動をしている。4年生も次々に宿舎から出て、練習用具を整えている。いつもながらの夏合宿の光景である。
グラウンドへ降りる手前の机の上には、例年通り平郡君への「誓いの言葉」を刻んだプレートが置かれている。この言葉を読むたびに、在りし日の彼の姿が浮かんでくる。2003年8月16日、ここで合宿中、不慮の事故で帰らぬ人となった彼を偲んで手を合わせ、しばらく黙祷することが僕にとっての大切な時間である。それは、後輩の諸君が日々、切磋琢磨している第3フィールドに出掛けるたびに、平郡君のヤマモモに手を合わせるのと同様、僕とファイターズとを結び付けている「誓いの絆」といってもよい。
練習はてきぱきと進み、無駄な時間は少しもない。JVのメンバーから順次早朝練習を切り上げて朝食。それが終わると小休止の後、今度はVのメンバーから朝の練習が始まる。10日からスタートした合宿も仕上げの段階とあって、恐ろしく密度が濃い。内容も午前中の練習とは思えないほど複雑だ。
聞けば、夕方からは雷が発生する予報が出ているとのことで、夕方の練習と朝の練習のメニューを入れ替えたそうだ。
いまはリーグ戦の開幕を目の前に控えた時期だが、照準は開幕戦ではない。秋のリーグを勝ち抜き、甲子園ボウルでも勝ってライスボウル制覇までを見据えた戦いである。今季はどんな戦いをするのか、どんな風にして強力なライバルたちに勝ち抜いていくか。それを見据えた練習である。シーズンが始まれば手が回らないような課題にじっくりと取り組む数少ない機会でもある。
当然、攻守とも求められる水準は高い。チームメート同士の練習であっても、第一プレーから白熱している。オフェンスが必死ならディフェンスも必死だ。本気で向き合い、本気でぶつかり合う。当然、けが人も出る。それでも、手加減はできない。上ヶ原での練習も密度は濃いが、鉢伏の合宿での練習の密度はさらに濃い。
毎年のことだが、この合宿には多数の卒業生が参加してくれる。今春、卒業したばかりのメンバーから監督やコーチと同じ世代の卒業生まで、メンバーは日々異なるが多くの卒業生が駆けつけ、差し入れを贈ったり、練習台を務めたりしてくれる。
お盆休みにも多くの若手が訪ねてくれたそうだが、僕がお邪魔した16日にも、懐かしい顔が何人も見えた。挨拶を交わしただけでも、14年卒の吉原直人、15年卒の木下豪大、田中雄大、橋本亮、17年卒の井若大知、高松祥生、山下司、片山薫平、松本和樹氏らの顔が見えた。
今春、卒業したばかりのメンバーは、普段の上ヶ原の練習にも顔を出し、コーチと同様の役割を果たしてくれているが、新鮮だったのは、いまも社会人のトップチームでプレーしている田中氏や吉原氏ら。いそいそと防具を着け、練習台を務めてくれた。田中氏に至っては、本来のディフェンスバックだけでなく、レシーバーのメンバーにも入って、全日本級の動きを惜しみなく披露してくれた。
さすがは「会費納入率8割」というOB会の構成員である。若手の社会人として日々、職務に精進しながら、つかの間の休日を返上して鉢伏の合宿に参加して後輩を激励し、鍛えてくれる。これは毎年のように見掛ける光景だが、彼らがこのチームを「魂のふるさと」と思い、手伝えることは何でもしようという気持ちになってくれているからだろう。
お金のある者はお金を、知恵のある者は知恵を、汗をかく者は汗を、それぞれ惜しみなく次の世代に注ぎ込む卒業生。そんな卒業生たちに「このチームだからこそお手伝いがしたい」と思わせる現役の部員たちとそれを支える監督やコーチ、指導者らのたたずまい。双方が渾然一体となって存在するのがファイターズである。それは歴代のOB、OG、そして指導者らが営々と築いてきた文化であり、日本の学生スポーツ界でも例を見ない組織の在り方だろう。
いま、いろんな面で学生スポーツの在り方の根本が問われている。こうした時期だからこそ、ファイターズの活動と組織にもっと光を当てる必要があるのではないか。この夏の合宿を見て、その思いはさらに強くなった。
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