2015年07月01日

(13)巨樹の物語

 いま、仕事の合間に『木霊(こだま)の物語』という本を編集している。僕の務めている和歌山県田辺市の新聞社、紀伊民報の紙面に、2年間100回に渡って連載した巨樹・巨木の物語を1冊の本にまとめ、出版する作業である。
 原稿の校閲から表紙の作成、推薦の言葉の依頼、そしてあとがきの執筆まで、1冊の本を仕上げるためには、気を遣う作業が山ほどある。それでも楽しく取り組めるのは、取り上げた100本の巨樹それぞれに、興味の尽きない100の物語があるからだ。
 それぞれが興味深い。源平争乱の歴史を背景にした樹木があれば、熊野詣での人たちが眺めた樹木もある。500年、1000年の歴史を刻んで成長してきた樹木と、それに寄せる名もない村人たちとの交歓。時には役人の打算から売り払われそうになった巨木があれば、節だらけで使い物にならないからと放置されているうちに、気がつけば誰も手を出せないほどに成長した巨木もある。しめ縄を巻き、御神酒を供えてもらえる風格のある巨樹もあるし、子どもたちの遊び場を提供している巨木もある。
 そういう巨樹・巨木の物語を丹念に読んでいるうちに、ハタと気がついた。ファイターズもいま、関西学院につながるすべての人々が仰ぎ見る存在になったのではないか。毎年毎年、人々の胸を打つプレーで年輪を刻み、根を張り葉を茂らせて、気がつけば日本フットボール界を代表する巨大な樹木になったのではないか。
 そんな風に考えていると、思い当たることがいくつも浮かんできた。
 まずは種をまいた人がいる。1941年、関西で4番目のチームとして鎧球倶楽部を発足させた人たちである。その芽は、戦争の激化と排外主義の嵐の中で、あっという間に摘まれてしまったが、戦後、戦地から復員してきたメンバーを中心に再興され、工夫と努力で1949年、甲子園ボウルに初出場、初優勝。
 その後も歴代の部員が新しい芽を伸ばし、チームを成長させてきた。卒業後もコーチ、監督としてチームに関わり、水をやり肥料をやり続けた人たちも数多い。一人一人名前を挙げ、それぞれの物語を綴っていけば、それだけで一冊の本ができるだろう。
 何よりも新芽が顔を出した時から、もっと大きくなろう、もっと強くなろうと自分を鍛えてきた歴代の部員がいる。戦争中の空白期間を含め、75年という歴史はそういう作業の積み重ねだった。
 しかし、水をやりすぎたら根っこが腐る。肥料をやり過ぎても生育に支障が出る。病害虫がついたら駆除しなければならない。強い風に見舞われたこともあるし、日照りの夏にに枯死しそうになったこともあるだろう。
 時には、木の形を整えるためにあえて剪定(せんてい)ばさみを入れた人もおられるに違いない。
 そういう歴史を積み重ねて現在の偉容がある。諸々の困難を乗り越え、常に堂々と立ち続けた結果である。甲子園ボウル出場49回、優勝27回という、どの大学も成し遂げたことのない数字がそれを証明している。巨樹という名こそふさわしい。
 大事なことは、この巨樹が記憶という名の写真に収まっているのではなく、いまも大地に根を張り、日々成長していることである。試合という名の光を浴びて枝葉を茂らせ、深く土中に張り巡らせた鍛錬という根っこから水分と養分を吸い上げる。大きくなればなるほど、その成長速度は速くなり、さらに周囲を圧倒する。
 しかし、一方でその偉容を保ち、さらに成長を促すためには、チームのマネジメントがこれまで以上に重要になり、リスク管理にも目配りが求められる。最新の戦術を考案し、勝つための戦略を練ることの大切さはいうまでもない。
 そういう諸々が調和し、全体のベクトルがさらなる発展に向かった時、初めてもっと強いチーム、負けないチームが見えてくる。幹周りが太くなったからといって、しめ縄を巻き、御神酒を供えて拝んでいるだけでは、勝ち続けるチームにはなれないのである。
 こういう「巨樹の物語」の細部を観察し、これからも綴っていきたい。

 付記
 このところ、夏休み恒例となった小野宏ディレクターの講演会が18日午後6時半から、大阪・中之島の朝日カルチャーセンターで開かれます。申し込みはすでに100人を超えていますが、主催者によると、まだ少し受付は可能だということです。昨シーズンのポイントとなった試合のビデオ解説を中心に、小野さんの鋭い分析と解説に加えて、大村アシスタントヘッドコーチも参加してコメントしてくれるとのことでフットボールの魅力を堪能できそうです。申し込みは朝日カルチャーセンターへ。
https://www.asahiculture.jp/nakanoshima/course/169adf9f-d34e-2065-2c8b-55432f0469b9
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2015年06月24日

(12)「言霊」が宿る卒業文集

 先週のJV戦、大阪大学との試合は、どうしても外せない用事があって観戦できず。ファイターズのホームページで速報をチェックし、試合結果の数字を一通り眺めただけ。当然、報告できることはない。
 そこで今週は、かねてからどうしても書きたかったことを書かせていただく。昨年度卒業生が書いた卒業文集のことである。
 鷺野聡主将をはじめ41人の部員がそれぞれこの4年間を振り返り、読み応えのある文章を綴っている。さすがは日本1を目標に4年間、フットボール漬けの生活を送ってきた人間ばかりである。反省と後悔、自負とこだわり。そして後に続く者への伝言。どの部分から切り取っても、生涯にわたって座右に置いて読み返すに値する文章である。
 本当は、毎回、この文集から材料を見つけて紹介していきたいくらいだが、これは部内限定の冊子。同期の卒業生だけが読むことを想定して、互いに胸襟(きょうきん)を開き、煮えたぎる胸の内を文字にした作品である。同じ釜の飯を食い、喜怒哀楽をともにした同期の、いわば宝物である。余人が勝手に外部に公開することは慎まなければならない。
 そうはいっても、ファイターズという組織の一端、活動の真実を知るためには、どうしても紹介させていただきたい文章もある。そこで、筆者に連絡を取り、僕の気持ちを伝えた。電話に出た彼は、僕の小論文講座を2度も受講してくれた教え子でもあり、「先生のコラムに取り上げてもらえるならうれしい。ぜひお願いします」と快く了解してくれた。
 以下、原文を適宜引用しながら紹介する。
 タイトルは「ストーク」。筆者はワイドレシーバーの樋之本彬君である。文章はこんな風に始まる。[ ]内は本文の引用である。
 [WRがするブロックだが、これほど難しいものはない。相手に即内を行かせない、かつRBのコースとの距離感を背中で感じながらセットアップをかける。外手を強調しつつ、相手の外ナンバー目指してパンチする。そのときの外足のふところには瞬時に力を込め、半足分しか出せない踏み込み足に自分のすべてのパワーを乗せ、相手を止め、前にドライブする。相手はヘルメットを使ってヒットしてくることもあれば、前掛かりになると見るや手を狩りかわしてくる。ストークこそまさに駆け引きだ]
 まずはこんな風に、自分がWRとして求められる役割を明確にし、その役割を果たすためにどのように取り組んできたかを綴る。
 [コーチのいう理論を頭で理解していても、実践できない。相手は自分より小さく、力もないのに負ける。未経験者にやられたこともあった。よけられまいと相手の動きを見れば、体重があっても簡単に押し込まれることもあった]
 [そんな矢先の5月末、池田雄紀さんに相手してもらっているときだった。このタイミングで打てば勝てる。いわゆる1万1回目の感覚が得られた気がした。今日はなぜか英語がやたらよく解けるな、受験勉強でいえばそんな感覚だ]
 [しかし、それを自分の物にすることはできなかった。やがて春が終わり、夏合宿、秋のシーズンとしょうもないストークを続けていた]
 [それでもやるしかなかった。自分がWRである意味、一度やると決めたことを曲げるわけにはいかなかった]
 [そして迎えたライスボウルウイーク。雄紀さんとストークをしていると、再びあの感覚が現れた。その日は雄紀さん、次の日には香山さんと夢中でストークをし続けた。その感覚を忘れないためにライスボウルまで毎日フルで当たり続けた。みんながハーフスタイルでも一人フルスタイルでストークをし続けた]
 [そして迎えたライスボウル。自分には変な自信があった。あれだけやったのだから大丈夫、そう思えてならなかった。前日の4年生ミーティングでも、明日は自分から攻め、信じてやってきたストークでゲインさせると言い切ることができた]
 [結果、試合は負けたが、一対一のストークでは負けた気がしなかった。ある意味、自分の信じてやってきたことが通用したと分かって、むしろ誇らしかった]
 4年間、学生相手には負けを知らず、4年連続で甲子園ボウルを制覇した学年。しかし、ライスボウルではついに勝てず、悔しい思いを抱いて卒業していった選手の中に、ここまで自分を燃焼させた男がいた。「負けた気はしなかった、自分の信じてやってきたことが通用したと分かって、むしろ誇らしかった」と言い切って卒業した選手が存在した。そのことを知って、僕は異様な感動を覚えた。それは感動という言葉よりも、カタルシスと表現した方が適切かも知れない。
 4年連続の敗戦で、気分はずっと落ち込んでいたが、その黒い雲が一気に取り払われたような爽快感に包まれた。「雲外蒼天」である。
 「自分の信じてやってきたことが通用したと分かって、むしろ誇らしかった」。そんな言葉を残して卒業していける選手や部員がどれだけ存在するか。そこで勝敗は決まる。つまりは、試合の結果はすべて上ヶ原の第3フィールド、鉢伏山のグラウンドに帰すということであろう。
 秋から冬へ。大勢のファンが見守る中で華やかな試合が展開される。それを見守り、応援するのは楽しい。ワクワクどきどきする。しかし、ファイターズの戦いは試合会場だけではない。冬から春、春から夏、そして秋から冬へと、人の目に触れないところで続けられる地味な練習にこそ意味がある。1万回の工夫と失敗を積み重ねた末、1万1回目にほほえんでくれるフットボールの神様。
 樋之本君の文章には、その機微が見事に綴られていた。これこそ後に続く者を励まし、奮い立たせてくれる文章である。それは「言葉」ではなく「言霊」と言っても言い過ぎではないだろう。
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2015年06月16日

(11)待ちかねたJV戦

 14日、上ヶ原の第3フィールドで開かれたJV戦、西南学院大学との試合は、見所が満載だった。
 @期待の新入生がその素晴らしい能力の片鱗を見せたAやっとチームの雰囲気に馴染んできた2年生が試合で躍動したBすでに上の試合にも出場している選手だけでなく、けがなどで出遅れていた3年生がようやく試合で実力の片鱗を見せた、というのがその理由である。
 順番にその活躍ぶりを紹介しよう。
 1年生でこの日の試合に出場したのは、背番号の若い順にDB山田(池田)、QB光藤(同志社国際)、QB西野(箕面自由)、RB山口(横浜栄)、DL川合(関西学院)、DL国安(足立学園)、DL松田(同)、OL森本(啓明学院)、OL光岡(箕面自由)、DL三笠(追手門学院)。スナッパー鈴木(関西学院)の名前もメンバー表にあったが、出場機会があったかどうか、僕は確認できていない。
 このうち山口と光岡は先日のエレコム戦にも出場、1年生とは思えないほどの活躍を見せてくれたが、ほかのメンバーは事実上、この試合が初出場。それでも全員、さすがはこの時季にメンバー表に名前が掲載されるだけのことはある。それぞれ、将来に期待が持てる動きを披露してくれた。
 中でも、ひときわ目立ったのがQB光藤と西野。ともに身長は172センチほどだが、動きが俊敏で、パスも上手に投げる。この日は第3Qの終盤から二人が交互に登場。攻撃シリーズが代わるたびに交代でチームを率いた。
 最初に登場したのは西野。自陣20ヤードからの攻撃だったが、RB木村の独走とWR安西と水野へのパスで、あっという間に相手陣に入る。残り22ヤードからの攻撃は木村のラン2発で即座にTD。1年生とは思えない落ち着いたプレーを見せてくれた。
 交代で出た光藤はさらにすごい。この日が初登場のDB山田がインターセプトしてつかんだ相手陣32ヤードからの攻撃。第1プレーはRB木村へのハンドオフで14ヤードを獲得。続くプレーもRBへのハンドオフと見せかけたプレーだったが、そのまま自分がキープ。右に左にカットを切りながら一気に18ヤードを走り切ってTD。
 次のシリーズを西野が木村の独走でTDに結び付ければ、光藤も負けてはいない。任された2回のシリーズをそれぞれWR安西と渡辺への2本のTDパスで締めくくる。
 相手の主力選手が攻撃と守備の両面で出場し、体力を消耗して足が止まっていたという点を割り引いたとしても、二人の新人QBのデビューは鮮烈だった。これから卒業までの二人の長い競り合いを予感させるに十分な活躍ぶりに、胸がわくわくした。
 胸が躍るといえば、先輩主将の梶原君や池永君のデビューを彷彿させるような活躍を見せたのが91番を付けて登場したDL三笠。瞬間的に相手OLを割るスピード、ボールキャリアへの寄りの速さ。どちらもデビューした頃の梶原君や池永君に匹敵する動きの良さだった。秋には、二人の先輩の後を追うように、1年生であっても守備のフロントを背負ってくれるのではないかと期待が高まる。
 彼らに加えて、すでにVの試合で実績を残している山口や光岡は、いずれもスポーツ推薦でファイターズの門を叩いた期待の人材。だが、この日はスポーツ推薦以外で入部したDB山田が切れのよい動きを見せてくれた。瞬間的な動きの速さ、思い切りのよいヒット。DBに必要な資質を存分に持った彼には、しばらくは目が離せないと印象づけられた。
 2年生で目についたのは、つい先日、QBからWR経由でRBになったばかりの木村。10回のキャリーで126ヤードを走り切った。試合も終盤に入り、相手守備陣の足が止まっていたとはいえ、センスがなくてはそうそう走れるものではない。今後、RBとしての当たり方、身の交わし方を身に付けてくれば、秋には期待が持てそうだ。
 WR安西の動きもよかった。派手さはないが、いつもボールの落下地点に走り込み、確実なキャッチを見せてくれた。同じ2年生WRですでにVの試合にも出場して活躍している中西や前田、渡辺らと競争しながら腕を上げてくれることを期待したい。
 守備では、けがで出遅れていたLBの松本、鳥内、石川、それに高校時代は野球部だったDB田中の動きが目についた。つい先日、けがから復帰したばかりのDL三木も無難に回復しているようだ。
 そうそう、忘れてならないのはK泉山。距離は短かったとはいえ、2本のFGを決めたほかキックやパントも安定しており、今後に期待が持てる動きを見せた。
 さて、3年生である。一人一人を取り上げて論評していけば、字数が尽きてしまうが、あえて一人、この日の収穫としてWR水野の名前を挙げたい。とにかく足が速い。JVの試合ということも関係していたのかもしれないが、Vの試合とは見違えるような軽快な動きを見せた。とりわけ第3Q半ば、相手陣20ヤード付近からQB中根が投じた短いパスを受け、そのままサイドライン際を一気に走り切ってTDに持ち込んだプレーが光った。
 秋の本番でも、このスピードを生かすことができれば、十分に活躍できそうな予感を抱いた。
 そしてもう一人、密かに注目しているプレーヤーが顔を見せてくれた。交代のTEとして登場した西田である。1年生の時、動きのよいLBとして登場。同じポジションの山岸と競り合っていた選手と言えば、思い出して下さる方も多いだろう。けがなどで、長い雌伏の期間を過ごしていたが、久々に僕たちの前に姿を見せてくれた。
 動きはまだまだぎこちなく、19ヤードのパスを1本キャッチしただけだったが、TEとしてのプレーに習熟すれば、大いに活躍してくれるのではないかと期待できる内容ではあった。
 このように振り返って見るだけでも、JV戦は面白い。今週末には春シーズンの最後を締めくくる大阪大学との試合である。会場は上ヶ原の第3フィールド。ぜひとも足を運んで母校を応援していただきたい。新しい戦力を見つける楽しみ、フットボールの隠された魅力を探す楽しさを堪能していただけることを請け負います。
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2015年06月09日

(10)君の可能性

 斎藤喜博先生は、僕が心から尊敬する師匠の一人である。群馬県の小さな小学校で校長を務め、そこでの実践は1960年代の日本教育界に旋風をもたらせた。定年退職後は宮城教育大学の教授を務められた教育学者でもある。その教育論や実践の足跡をまとめた「斎藤喜博全集18巻」で、第25回毎日出版文化賞を受賞されている。
 1981年に70歳で亡くなられたが、僕が朝日新聞の前橋支局で働いていたとき、縁あって先生のお宅に何度もお邪魔した。親しく話を聞かせてもらうだけでなく、近くの河原に出掛けて石を投げて遊んだりもした。駆け出し記者は、先生の言葉と行動をすべて、スポンジが水を吸い込むように吸収し、今も胸に刻んでいる。
 先生に「君の可能性」(筑摩書房)という本があり、そこに「一つのこと」という詩が掲載されている。
 ずっと前、QB三原君が4年生の時代、甲子園ボウルで勝ってライスボウルに向かう直前にこのコラムでも紹介したことがあるが、今回はまた違った意味で紹介したい。全文を紹介する。

   一つのこと
 いま終わる一つのこと
 いま越える一つの山
 風わたる草原
 ひびきあう心の歌
 桑の海光る雲
 人は続き道は続く
 遠い道はるかな道
 明日のぼる山もみさだめ
 いま終わる一つのこと

 大学生の諸君、あるいはこれをお読みの皆さんには、特段の解説は不要だろう。「一つのこと」という言葉をファイターズでの活動、学習、鍛錬という言葉に置き換えて読めばそのまま意味は通じる。
 まだ春のシーズンが一区切りついただけの時期ではあるが、それでも神戸ボウル、エレコムとの試合で一つのことが終わり、一つの山を越えたことに間違いはない。
 この春はけが人が多く、メンバーも揃えられないほど厳しい試合が続いた。日大との試合は東京まで出掛けて敗れた。日体大との試合も、終始押されっぱなし。登山路は厳しかったが、それでも、なんとか山の上にたどり着いた。心地よい風が吹いている。遠くに桑畑が海のように見え、雲が美しく光っている。振り返ればいま登って来た道を人が次々と登って来る。
 ようし、もう一丁。明日、登る山は見定めた。さらに高い頂き目指して登っていくぞ。
 ざっとこんな意味だろう。
 ポイントは二つある。一つは「ひびきあう心の歌」という言葉が象徴する「みんなと心を合わせ、力を合わせて」目標に挑むということ。もう一つは、必死の思いで頂上に到達しても、さらなる高い山がある。それを目標に、互いがよいものを出し合い、影響し合って、一人ではとうてい到達不能と見えるこの高い山にチャレンジすること。ファイターズで活動する意味は、そこにあると僕は考えている。
 エレコムとの試合を振り返りながら、もう少し説明してみよう。
 あの試合、相手チームには現役時代、練習ではとうてい歯が立たないと仰ぎ見ていた先輩たちが何人も出場、胸を貸してくれた。ファイターズの最初の攻撃。最初にQB伊豆が投じたパスをあわやインターセプト、という形ではじき出したDB重田。終始、ファイターズのボールキャリアに絡み、後輩たちに思い通りにプレーさせてくれなかったLB池田。攻撃ではTE松島が強烈なブロックと確実な捕球を見せていた。
 そうした先輩たちのいるチームを相手に、結局は1本のTDを与えることもなく、45−3の圧勝。攻撃では伊豆がWR中西、亀山へのTDパスをピンポイントでヒット。RB野々垣と1年生RB山口も代わる代わる中央を突破し、チャンスを確実にTDに結び付けた。
 守備陣も、踏ん張った。怪力松本を中心に柴田、大野という動きのよいメンバーで固めたDL。作道、山岸、奥田という経験豊富なメンバーが揃ったLB。そしてDBも岡本、田中、小池、山本泰、小椋という、どこに出しても通用する布陣。これだけのメンバーが揃えば、いかに社会人といえども、そうそう負けるものではない。
 試合後、鳥内監督に聞くと、ハーフタイムで「社会人に勝つ、ライスボウルで勝って日本1というのなら、それらしい試合を。先日、パナソニックはエレコムを相手に42点を取っている。それを上回る得点を」と発破を掛けたそうだ。
 終わって見れば、田中、小椋の両CBとLB高がそれぞれインターセプト。DB山本泰も相手のファンブルをカバーしてターンオーバーを記録した。
 攻撃陣も6本のTDとK西岡の47ヤードFGで都合45点。鳥内監督の檄に応えた。
 こうした展開を見ると「いま終わる一つのこと いま越える一つの山」という表現も過言ではない。実際、精度の上がった伊豆のパスやこの日はRBで出場した池永を含めた2年生WRの活躍ぶりを見ると、やっと次の視界が広がったと実感する。
 しかし、目指すべき頂上はまだまだ高い。これから夏、そして秋と厳しく鍛えて初めて登るべき頂上が見えてくる。「それぞれの可能性」を求めて、やっと出発点に立ったというのが現状ではないか。神戸ボウルが終わって一区切りついたとはいえ、ゆっくり休んでいる場合ではない。
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2015年06月01日

(9)ライバルの意味

 どこのどなたかは存じ上げないが、英語のライバルを「好敵手」という日本語に翻訳した人は、本当にエライと思う。それは戦うべき相手であり、同時に「よき相手」であれという意味を「好」の字に託したところがお手柄である。
 そんなことを思い浮かべたのは、ほかでもない。先日の関大との試合が、文字通りライバル、好敵手との一戦、と呼ぶにふさわしい戦いだったことによる。
 本当に見応えのある試合だった。
 五月晴れの夕方。午後4時20分のキックオフといいながら、まだまだ日暮れには遠い。風は穏やか。前日の予報では、雨が心配されたが、雨雲はどこにもない。絶好のフットボール日和である。
 関大がキックを選択。RB池永のリターンで試合開始。自陣17ヤードからファイターズの攻撃が始まる。QB伊豆がRB池永、野々垣、山崎のランを中心にWR渡辺、中根への短いパスを通して、じりじりと陣地を進める。ダウンを4回更新し、相手陣20ヤードまで進めたところで第4ダウン、残り3ヤード。ここはK西岡が確実にFGを決めてファイターズが3点を先制。
 自陣17ヤードから始まったファイターズ最初の攻撃シリーズは合計15プレー、要した時間は7分3秒。大きなミスもなく攻め続けたファイターズも強かったが、守った関大も強い。結局はFGで3点をリードしたが、ファイターズに先攻の利があることを考えると、全くの五分、どちらかといえば関大の守備陣に軍配を上げたくなるほどの内容だった。
 実際、ファイターズが3点を先行した後は、互いに守備陣が踏ん張り、パントの応酬。都合5回、パントを蹴り合った後、第2Q残り3分にファイターズのK西岡が再び45ヤードのFGを決めて6−0。
 しかし、そこから関大が反撃。それまで一度も試みていなかったパスを連続して決め、途中、何度もスパイクで時間を止めながら、ついに前半最後のプレーでFGを決める。消費時間、獲得ヤードでは圧倒的に押していたはずのファイターズだったが、前半が終わって見れば6−3。後半は関大から攻撃が始まることを考えると、全く互角の展開。というより、前半終了間際、立て続けにパスを決められたことを考慮すれば、後半は厳しい戦いになりそうな予感さえした。
 僕はこの試合を場内のFM放送で中継している小野ディレクターや解説を担当しているOBの片山さん、小川原さんと並んで観戦していたが、ハーフタイムの間、ずっと一人で「これがライバルの戦いというものか」と自問していた。
 攻撃陣は互いにこの試合に臨む「ポリシー」「哲学」を持って勝負をかける。守備陣は、どちらも相手の意図を予想し、最善の策を凝らして守り続ける。互いにちょっとした手違いはあっても、決定的なミスは犯さない。春の試合とはいえ、というか春の試合だからこそ許される「実験」を急所、急所にちりばめ、それでいて決定的な手の内は明かさない。秋の決戦に備えて、相手の情報は徹底的に収集する。そのために必要なプレーも随所にちりばめる。
 この前半、24分に限っても、見るべき人が見、考えるべき人が考えれば、宝の山と思えるほどの情報が隠されていたのに違いない。
 おそらくこの試合の後、両軍の選手もコーチも、この試合のビデオを徹底的に分析し、秋の試合に備えるはずだ。相手が強ければ、それ以上に自軍を鍛える。自軍の弱点は徹底的にカバーし、逆に相手のいやがるプレーを準備する。互いに互いを「強い相手」「好敵手」と認識し、敬意を持っているからこそ出来ることである。
 そういうことを想像しながら、僕は「これがライバルという言葉の本来の姿か」と考えた。「チームが本当に強くなるのは、ライバルがいてこそ」「あいつには負けたくない、という強い気持ち、具体的な目標があって初めて、それを凌駕(りょうが)するプレーヤーになる、なってみせるというモチベーションが本物になる」とも考えた。
 そう考えると、ファイターズは本当に恵まれたチームである。西には、この日戦った関大のほか、毎年のように死闘を繰り広げている立命、ファイターズには目の色を変えて立ち向かってくる京大がいる。東には日大、法政というタレント集団がいる。そして、社会人チームは、ライバルというより、どうしても勝ちたいチーム、勝たなければならない目標である。
 そういう強力な相手、敬意を表すことの出来る存在があって初めてチームは鍛えられる。この日の試合は後半、伊豆からWR亀山と池永に2本の長いTDパスがヒットし、最終的には23−3となったが、それでもなお「関大恐るべし」という印象が強かった。
 強いといえば、この日の試合、両チームとも一つの反則も犯さなかった。これもまた互いに敬意を持って戦う「ライバル」ならではの試合内容。ともに真っ向から存分に戦った証しのように、僕には思えた。
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2015年05月23日

(8)楽しみな試合

 ある日は、高校1年生を相手に「新聞の読み方」についての授業。またある日は、長野市在住の仲間がやっている個人通信に長文の「時評」の寄稿。少し時間が空いたら、紀伊半島南部の地質遺産(ジオサイト)巡り。これがまた和歌山県内だけでなく、奈良県の玉置山、三重県の鬼ヶ城、花の窟など、興味をそそる場所がいくつもあって、巡り始めればやみつきになる。
 診療の予約日がくれば病院に通い、別の日には主治医の診察を受けて薬も頂戴する。毎週末には大学の授業もある。もちろん本業の新聞記者の仕事は手抜きできない。
 そんなこんなで気がつけば5月も下旬。コラムの更新がすっかり滞ってしまった。
 練習こそ、週末ごとに見せてもらっているが、いまこの時期はチームの底上げを図るファンダメンタル中心のメニューだから、特段報告することもない。将来のファイターズを背負うフレッシュマンも大勢入部し、元気にトレーニングに励んでいるが、まだまだあれこれいう時期でもなかろう。
 「さて、何を書こうか」と思案しているときに「いらっしゃいませ」という元気な声とともに、都合よくネタが舞い込んできた。
 先日、甲東園の駅前にある銀行に固定資産税と車の税金を振り込みに行った時のことである。いきなり黒いスーツ姿の大柄な銀行員に声を掛けられた。見上げると、今春卒業したばかりのTE松島君である。胸には「実習生」のカードがついている。
 「配属先を見て驚きました。なぜか甲東支店なんですよ」と松島君。
 「そう、土地勘のあるとこでよかったやないの。ファイターズファンの学生を根こそぎお客さんにしなさい、ということでしょう」と僕。互いに、よろしく、と挨拶しながら、彼は少し小さな声で「実は、エレコムでやることになりました。池田雄紀さんも一緒です」と内緒の打ち明け話。先輩行員の目を意識してか、さも親しい「お客様」に業務の話をしている振りをして近況を明かしてくれた。
 「先輩のWR和田君と南本君もエレコムに移るらしいな」と僕も声をひそめる。「そうなんです。大園も来てくれるそうです」と彼。「今度の試合が楽しみやな」というと「楽しみにしています。後輩たちとやるって、どんな気持ちでしょうね」。お互いニコニコしながらのやりとりを続けた後、少し大きな声で「配属祝いに、少しばかり定期預金させてもらうわ。君の顔を立てて」といって別れた。
 元々、定期預金は嫌いだし、僕の懐には株やマージャンが似合う金はあっても、銀行の金庫に収まりたいなんて上品なことをいう金はない。「それにしても調子のいいことを。どの口がいうねん」と自分でもあきれる発言だったが、彼はもう次のお客さんに向かって「いらっしゃいませ」と声を張り上げている。頑張れよ、と好漢の前途を祝福しながら、気持ちよく税金を振り込んだ。
 松島君や池田君、和田君や南本君などの新しい顔ぶれに加えて、昨年、Xリーグ西地区優勝の原動力になったLB香山君、DB重田君、QB糟谷君、OL東元君、WR松田君らが活躍するエレコムファイニーズとの試合は6月7日、王子スタジアムで「神戸ボウル」として行われる。
 先輩後輩として、あるいはアシスタントコーチと選手として、何度も胸を借り、指導を受けた現役の諸君が、かつては仰ぎ見た先輩たちにどんな戦いを見せてくれるか、想像するだけでも楽しくてならない。
 しかし、その前に「前門の虎」との戦いがある。今度の日曜日、同じ王子スタジアムで行われる関大との試合である。対抗心をむき出しに襲いかかってくる関大とは例年、厳しい試合が続いている。今年もまた難儀なことになりそうだ。
 今季のファイターズは、途中、プリンストン大学との試合を挟みながら、チーム全体のレベルアップを目指し、ファンダメンタルを重視したトレーニングを続けている。これまで慶応、日体大、日大と3試合を戦ったが、それぞれの試合では2枚目、3枚目のメンバーも思いきって起用し、試合経験を積ませることを続けてきた。
 一方で、負傷者には無理をさせず、治療と体力づくりのトレーニングを最優先に取り組ませている。ライバル関大との戦いといえども、その方針を変更するとは思えない。どんどん新しいメンバー、期待のメンバーを投入して、その潜在能力を見極める試合を展開してくれると、勝手に期待している。
 その意味では、ファンにとっても「素顔のチーム力」を見る絶好の機会である。強敵を相手に、新しいメンバーがどんな活躍をしてくれるか、秋にスタメンを獲得する名前は誰か、そんなことを予想しながら応援するのは楽しい限りである。
 試合は24日午後4時20分キックオフ。ぜひとも王子スタジアムでお会いしましょう。
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2015年05月05日

(7)アナログに意味がある

 4月27日の日経新聞を見て驚いた。なんと、われらが爆走28番星、鷺野前主将が伊藤忠商事の全面広告のモデルになって登場しているではないか。写真ではなく肖像画。りりしくたくましく、そして見るからに聡明な表情が見事に描かれている。
 肖像画の下には、こんなコピーがさりげなく付け加えられている。
 「小学生の頃は、ケンカさえしたことがなかった。大学時代はアメフト部のキャプテンでランニングバック。5年後の自分、どうしてるんでしょうね」
 思わず、突っ込みを入れた。三つある。
 @「男前に生んでもらってよかったな。ご両親に感謝せなあかんで」
 Aこの広告費はなんぼやろ。相場からいえば1500万円ほどか。つまり鷺野君は、入社早々、1500万円の仕事をしたということ。すごいなあ。
 B小学生の頃は、ケンカもしたことがなかったというコピーに、大学では部活を卒業するまで、フェイスブックなんかに見向きもしなかった、と付け加えて欲しかった。
 この三つである。
 一番目と二番目は冗談である。でも三番目については、ファイターズというチームの在り方を考える時、常々、どこかで紹介しておきたいと考えていたことだった。どういう意味か。
 話は先日、信州大学の入学式で山沢清人学長が新入生を前にぶち上げた「スマホやめますか、それとも信大生やめますか」というあいさつに関係する。
 学長はそのあいさつで、日本が活力ある社会を維持し、世界に貢献していくためには独創性や個性を発揮することが必要であると主張。自分で考えることを習慣付けよう、決して考えることから逃げないことだ、自ら探求的に考える能力を育てることが大切だと呼び掛けた。
 そして創造性を育てる上で、とくに心掛けなければならないことは時間的、心理的なゆとりを持つこと、物事にとらわれ過ぎないこと、豊かすぎないこと、飽食でないことなどが挙げられますと説き、スマホ依存症は知性、個性、独創性にとって毒以外の何物でもありません。スマホの「見慣れた世界」にいると、脳の取り込み情報は低下し、時間は早く過ぎ去ってしまいます。「スマホやめますか、それとも信大生止めますか」。スイッチを切って本を読みましょう。友達と話をしましょう。そして、自分で考えることを習慣づけましょう、と結んでいる。
 この最後の言葉だけが一人歩きして、ネットで賑やかなことになったのは、ご承知の通り。でも大事な話は、新入生に独創性や個性の大切さを説き、そのための心掛けを説いた部分にある。それは、信州大学のホームページに紹介されている「学長あいさつ」の全文を読めば、誰でも分かる。大学生諸君には一読をオススメする。
 さて、この話がどうしてファイターズに関係するのか、ということである。
 これは、知る人ぞ知る話だが、昨年度、鷺野主将が率いたチームは、部内の連絡にスマホを使うことを止め、必要な情報はすべて部室の掲示板で公開することにした。練習のタイムスケジュールからチケットの情報、体重管理の必要性や筋力数値の一覧表、そして熱中症予防の心掛けに至るまで、すべての情報(連絡事項)は部員が部室に顔を出さなければ手に入らないようにしたのである。
 受け身で部活動に参加することは止めよう。ファイターズでは指示を待ち、情報を待つのではなく、自ら求め、自ら行動することが大切であり、それは普段の行動から改めていくしか身につかない。そのためには、たとえ便利な情報機器があっても、それに頼らず、掲示板の利用というアナログの手法を大事にしたい。そのように主将や幹部が話し合い、監督やコーチの了解を得て決めた「決めごと」だそうだ。
 以前、このコラムで紹介した「足下のごみ」に注意を促す1年生部員の張り紙も、こういう素地があったから、部員全員の目にとまり、その胸に響いたのであろう。
 ファイターズは、何事によらず、合理性を重んじ、最先端の知識や機器を導入することに積極的である。それでも、その便利さが時として部員の自発性、自主性をスポイルする要因になる。そうと分かれば、直ちにその便利さを捨て去る柔軟な思考力も持っている。融通無碍、流れる水のような自在さがファイターズの真骨頂であろう。
 スマホによる情報伝達は部員の自主性、自発性を阻害すると考えた主将の直感。信州大学の学長が具体的な根拠を示しながら約2500字(あいさつの全文は字4500)を費やして述べた情報機器の落とし穴を、ファイターズの幹部は瞬時にかぎ取り、さっさとその対策を講じてチームの独創性を育ててきたのである。
 細部に神は宿る。チームが強くなる秘密はこういう些細なところに潜んでいる。「当たり前」のことを「当たり前」に実行出来るチームのたたずまいに、あらためて感心した次第である。

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2015年04月29日

(6)期待の芽

 新聞社で働いていると、世間が休みになるときは、決まって忙しい。年末年始、春休みにお盆休み、そしてゴールデンウイーク。もちろん、それなりに休みは取っているが、休みに備えて、仕事を前倒しで進めていかなければならないので、日常の業務と前倒しで進める仕事が重なってくる。そうなると、自動的にコラムを書く時間が制限される。
 そんなときに限って、楽しいお遊びの誘いがある。4人でポン、ロンと遊んでいるときはいいのだが、70歳を過ぎると、さすがに徹夜のアミューズメントはこたえる。へろへろの体で仕事にかかるのだが、作業の効率は上がらない。でも、読者は裏切れない。いつも以上に気合いを入れてコラムを書こうとムキになる。そうなると、次は睡眠時間を削るしかない。
 そんなときにファイターズのコラムを書いても、言葉が荒くなるのは目に見えている。とくに、先日の日体大戦のようなミスの目立った試合をテーマに書くには、少し冷静になってからの方がよかろうと、ついつい更新が遅くなった。
 以上、長い長い言い訳である。見苦しい。本題に入る。
 日体大戦は23−21。ファイターズが残り3秒で19ヤードのフィールドゴールを決めてなんとか勝った。
 しかし、ファイターズの戦いぶりは、寂しい限りだった。とくに第2Q後半、QB伊豆、RB山本ら先日のプリンストン大戦にも登場して頑張ったメンバーを引っ込め、期待の若手を登用してからは、相手に押されっぱなし。攻守ともバタバタするばかりで、試合を支配するという面では、完全に相手に主導権を握られた。
 そういう場面では、キッキングチームが冷静、沈着なプレーで陣地を回復させ、いつの間にか試合の主導権を奪い返すというのが、従来のファイターズだったが、悲しいかな春のシーズンが開幕して2試合目。キッキングチームもまた、新しいメンバーで再建途上ということで、逆にPATのキックをブロックされたり、自陣ゴール前でパントをブロックされたり。自軍を落ち着かせるどころか、逆に相手を勢いづけてしまう始末だった。
 加えて、試合に出場した経験がほとんどないQBとRB、WRの呼吸もなかなか合わない。自陣のゴール前でピッチしたボールを落とし、相手に得点されるという、思わず目を覆いたくなるような場面もあった。
 もちろん、割り引いて考えなければならない点も多々ある。この日は主将のOL橋本がスタメンに登場し、昨年から試合経験のある伊豆と二人で攻撃を引っ張ったが、後はほとんどが試合経験の少ない選手。とりわけデフェンスには、1月のライスボウルで先発したメンバーが一人もいない状態だった。キッキングもキッカーの西岡を始めリターナーに至るまで、昨年はほとんど試合に出ていなかったメンバーで構成していた。
 昨年のリーグ戦を戦い、甲子園ボウルからライスボウルへとコマを進めてきたメンバーと同列に扱うことがそもそも間違っている。逆に、昨年のJVのメンバーがアスリート揃いの日体大と戦った、という目で見た方がいいのかもしれない。
 そのように考えると、苦しい戦いの中で、きらりと光るメンバーも少なくなかった。
 攻撃では、いずれも2年生のWR亀山、中西、RB山本。亀山は惜しくもラインの内側に踏みとどまれなかったと判定されたが、2本の長いパスを相手DLと競り合ってキャッチしたプレーが出色。秋には大活躍をしてくれるのではないかと期待された。中西も短いパスを確実にキャッチし、この日、55ヤードのTDパスをキャッチした3年生荻原とともに、成長が期待される。
 RB山本は、昨春、彗星のように登場し、あれよあれよという間に関西でもトップを競うRBに成長した3年生橋本を思わせるようなパワーランナー。大学での試合経験を積んで、周囲が見えるようになれば、さらに一段階上の活躍をしてくれそうだ。
 守備ではともに2年生のDL柴田とDB横山。ともに上背があり、動きもよい。今後スタメン争いに加わってくるのは間違いないと期待している。
 そしてもう一人がKの西岡。彼は3年生だが、この日はPATのキックと、自陣ゴール前からのパントをブロックされ、相手を勢いづける原因を作ってしまった。これだけ見れば、並の選手だが、僕が注目したのは、そういう失敗を引きずらず、最後にフィールドゴールをきちんと決めたこと。ゴール正面、距離は19ヤードという、失敗するはずのない状況だったが、これを失敗すれば敗戦という追い詰められた状況でもあった。
 さらに、シーズンを通じてもほとんどないパントやキックのブロックをこの日だけで2本も相手に許しており、3本目をと勢い込んでくる相手の士気の高さを考えると、そうやすやすと決められる状況ではなかった。そういう厳しい場面で、感情を波立たせることなく、しっかりと蹴ることができるというのは、心強い。
 この日の悔しさを糧にして練習に取り組めば、キッキングゲームで状況を突破するファイターズのキッカーとして、主役を張ってくれると期待が持てた。
 23−21。試合は薄氷を踏む内容だったが、一人一人のプレーヤーを見ていけば、悪い話ばかりではないということがよく分かった試合だった。
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2015年04月21日

(5)初戦の感想

 今日、20日は穀雨。24節季の一つで、穀物の成長に欠かせない雨が降る時季をいう。紀州・田辺も朝から雨。それも風雨とも強烈な雨だった。
 ほんの短時間でも、外に出るとびしょ濡れ。農家には恵みの雨でも、当方は気が滅入るだけ。仕方がないから、先日の慶応戦の報告でも、というのは嘘で、今日は一日中仕事に追われていた。
 やっと一息ついたので、原稿にかかろう。
 とはいうものの、気分は弾まない。チームにけが人があまりにも多いからだ。主力選手を含め、先日の試合の出場を見送った選手だけでもざっと40人。それに慶応戦でも、今季の活躍が期待されている選手が次々に倒れた。これで社会人に勝つためのチーム作りが出来るのだろうかと考えると、本当に目の前が暗くなる。
 昨シーズンだけでなく、このところ毎年のように1月3日まで、一瞬たりとも気の抜けない過酷なシーズンが続いている。その後、1月中旬からの試験期間を挟んで、2月からは冬季のトレーニングが始まる。加えて今年は3月にプリンストン大学との交流試合があり、デカイ体と強力なパワー、そして抜群のフットボールセンスを持つアメリカ人選手と真っ向からぶつかった。
 シーズン後半の負けられない試合の中で消耗した選手たちが十分な休養をとれていなかったせいかもしれない。あるいは「今年こそ社会人を倒して日本1」という目標を達成するために休んでなんかおれるか、という強い気持ちが災いしたのかもしれない。本当にけが人が多い。
 こうした事態を受けて迎えた慶応戦。先発メンバーを見ても、昨年とはがらりと変わっている。これで、どこまで戦えるのか、と心配していたが、ふたを開けてみると杞憂(きゆう)だった。オフェンスラインは終始相手守備陣を押し込み、彼らがこじ開けた穴をスピードのある2年生RB山本と高松が走り抜ける。山本は先制の53ヤードTDを含め5TD。獲得ヤードはランで164ヤード、パスキャッチで21ヤード。
 高松も負けずに1回、17ヤードを走り切った。これに、現在は休んでいるエースランナーの橋本が復帰してくると、今季は「ランのファイターズ」が期待できるのではないか。強力なラインに守られて落ち着いたプレーを見せたQB伊豆の存在も心強い。
 守備はどうだったか。こちらも故障者が相次ぎ、先発のラインはM、柴田、岩田。昨シーズンは2枚目、3枚目の役割に甘んじていたメンバーだった。これで関東1ともいわれる相手RBを止められるだろうかと危ぶんだが、どっこい彼らは強かった。とくにノーズガードに入ったMは公称119キロの体重を存分に生かして相手オフェンスを崩し、2列目、3列目のメンバーの動きを助けた。
 2列目では作道、3列目では田中と岡本が際立った動きを見せた。精妙なパスと強力なランを組み合わせて攻め込んでくる相手と存分に渡り合い、突き刺さるようなタックルを見舞う。今季も頼りになるメンバーたちだということをファンの目に焼き付けた。
 終わって見れば49−26。球技場の得点掲示板を見れば両チームとも、各クオーターに万遍なく得点が記録されている。学生相手には珍しいほどの失点だったが、それは相手に力があったからだ。実際、巧妙にパスを投じるQBとそれを確実にキャッチするレシーバー陣。加えて突破力のあるRBのいる慶応は、なかなか地力のあるチームに思えた。しかし、つい先日、プリンストン大の大型ラインと渡り合った攻守のラインにとっては、思いの外、相手が軽く感じられたのかも知れない。
 このように振り返っていくと、今季もファイターズは大いに期待が持てそうだ。そう受け取られる方が大半だろう。
 しかし、この試合で見えた未完成な部分も少なくない。とりわけキッキングチームは未完成であり、リターナーは何度もキックされたボールを受け損なった。レシーバー陣の成長にも期待したが、この日はそれほどでもなかった。昨年まで出場機会の少なかった選手が数多く出場し、それなりに活躍したが、昨シーズン、QB斎藤と安定したレシーバー陣が展開した華麗なパス攻撃を見てきた目からいうと、少々物足りなかった。
 もちろん、春のシーズンは始まったばかりである。これからの試合で経験を積み、夏の合宿で鍛えていけば、この日は顔を見せただけの選手も含め、まだまだ成長していく余地がある。その意味で、直近の試合、つまり今週末の日体大戦で、今季から新たに登場するメンバーたちがどんな活躍を見せてくれるか、大いに注目している。
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2015年04月06日

(4)さあ、出発だ

 4月。上ヶ原は桜が満開。3日、花のトンネルをくぐり抜けて大学に行き、第3フィールドに向かう。花見には絶好のタイミングだが、グラウンドは雨。時折、風までが強く吹く。「花に嵐」という通りの悪天候だ。
 しかしこの日は、新しいシーズンを迎えて、チームの全員がお祈りをする日である。雨だから風だからとひるんではおれない。雨の中、傘を差し、いそいそとグラウンドに降りていく。
 鳥内監督をはじめチームの全員が「屋根下」と呼ばれる簡単なトレーニングやテーピングの出来るスペースに集まる。顧問の前島先生(元宗教総主事)が聖書の一節を読み上げ、人は何のために生きているのかと問い掛け、学院の理念である「マスタリー・フォー・サービス」について、それが意味する二つの側面から説かれる。人に奉仕することの大切さと、奉仕の出来る人間になれるように自分を鍛え上げることの必要性。
 50年も前、学生時代にチャペルの時間などでさんざん聞かされた内容であり、当時は「ふーん、そうですか」という感じで聞き流していたが、憂き世を50年も生き延びてきたいまは、ずしりと胸に響く。とりわけ、「弱虫は要らない」「奉仕の出来る強い人間に自らを鍛えよ」という部分に共感し、思わずわが身を振り返る。
 シーズン開幕に当たってのお祈りは、毎年恒例の行事である。それは選手やスタッフに向けた語りかけだが、その場に立ち会うたびに、気持ちが改まり、よーし、今年も頑張るぞ、と気分が高揚してくる。新しい年の門出であり、新年のみそぎでもある。
 とはいっても、今年は3月21日にプリンストン大学との日米大学交流戦「LEGACY BOWL」があったから、実質的に新しいチームはスタートを切っている。その試合は36−7。ファイターズの完敗だった。完敗からのスタートとなると、前途の多難が予想されるが、ものは受け止めようである。
 あの試合はもちろんのこと、アメリカを代表する大学のメンバーと交流した1週間を通じて何を学んだのか。彼らの高いモラル、高い目的意識、合理的な時間の使い方、学問とスポーツを両立させている取り組み……。
 そして、当日の試合で彼らが見せてくれた数々のパフォーマンス。闘争心、試合に対する準備、ひとつひとつのプレーに対する集中力、そしてボールに対する執着心。ひとつひとつのプレーは激しく戦うけれども、スポーツマンとしての矜持は決して失わない彼らのたたずまい。
 さらに、試合の前々日にあった「課外活動と人材育成」をテーマにしたシンポジウムを含め、プリンストン大学の選手、スタッフから学ぶべきことは数限りなくあった。それらはファイターズが今後、どう歩んでいくべきかという羅針盤であり、課題解決のヒントでもあった。
 それを一人一人の選手がプレーの中で体験し、体に染みこませた。その価値は、計り知れないほど大きい。
 試合だけでない。日常の振る舞いの端々に至るまで、将来、アメリカを背負って立つ人間としての高い使命感をもって行動していた彼らの残していったことを、チームの全員が共有し、わがこととして骨や肉に出来るかどうかである。
 お祈りがあった翌日の夕方。一足先に練習を終えた中学部の主将が、スタンドの一角で着替えをしている部員たちに「みんな、宿題をしっかり仕上げるように。宿題を仕上げられないような人間は……」と声を大にして呼び掛けていた。
 同じ頃、大学のチーム練習が終わった時、グラウンド中央に集まった選手たちを前に、鳥内監督が普段以上に語気を強めて訓示をされていた。円陣の後方にいたので、途切れ途切れにしか聞き取れなかったが、多分、こんな話だった。
 「プリンストン大学の連中は、日本滞在中も勉学に励み、奉仕活動も続けていた。ファイターズのメンバーも、しっかり授業を受けて勉強し、あの試合でもらった課題をやりきるように。口先だけでなく、自分たちの課題をやりきって初めて、人として成長出来る」
 まったく同感である。
 プリンストン大学との交流を通じて見つけた課題に真摯(しんし)に取り組み、それを一つずつ解決していくことで道は開ける。多くの課題とともにスタートを切った今季、橋本主将が率いるチームがどこまで成長していくか。新しいシーズンが楽しみでならない。
posted by コラム「スタンドから」 at 07:57| Comment(1) | in 2015 season

2015年03月26日

(3)ファイターズの底力

 14年ぶりに開かれたプリンストン大学との日米大学交流戦「LEGACY BOWL」は36−7。ファイターズの完敗だった。完敗とは穏やかならぬ表現だが、立ち上がりから相手に主導権を握られ、終始押しまくられていた試合内容を見れば、こういう言い方も許されるだろう。
 しかし、今回の交流戦を全体で見ると、様相は全く異なってくる。新聞やネットで流布されている厳しい評価とは違って、ファイターズが底力を発揮した催し、チームがさらに飛躍するきっかけとなった試合であったと僕は評価している。なぜか。以下の3点を中心に理由を述べる。
 @今回の催しをファイターズがOB、現役の総力を挙げて成功させたこと。
 A大学における課外活動の価値・意義について、明確な位置づけが出来たこと。
 B学生自身が成長したこと。あるいは成長へのきっかけをつかんだこと。
 今回の交流戦は企画、立案から運営資金の手当て、相手校との折衝、航空機やホテルの手配、試合会場や練習会場の確保、日本滞在中のシンポジウム開催まで、すべてをファイターズのOB、スタッフ、コーチや現役部員が総力を挙げて担った。
 なんせアメリカのトップに位置する大学のチームを丸ごと1週間、日本に招聘する事業である。来日を価値あるものと認めてもらうための交渉一つとっても、相当な人脈が必要になる。チームとして、大学としての信用がなければ、交渉にも入れない。
 交渉がまとまっても、今度は招聘のための資金を捻出しなければならない。なんせ選手だけでも約80人、コーチやスタッフを入れると100人を超す選手団である。往復航空機運賃から日本滞在中のホテル費用まで、その大半を負担するのだから、大変だ。歓迎パーティー、夕食会、さよならパーティーの費用も必要だし、試合の開催経費も用意しなければならない。
 その総額はざっと4千万円。大学の創立125周年事業として、ある程度は大学からの援助が見込めたが、それでもその大半をファイターズが捻出するのだ。OB、保護者、そしてファンからの寄付を集め、大口、小口のスポンサーを確保して協賛金を集める。運賃や滞在費の値引き交渉、チケット販売への協力依頼。試合を成功させるためにやらねばならないことは数限りなくある。
 それをチームが総力を挙げてやりきったのである。「見たか、ファイターズの底力」と言う理由である。
 二番目は、今回の試合に併せ、チームと大学が協力してシンポジウム「プリンストン大学と考える グローバル人材の育て方」を成功させたことである。
 こちらは関西学院大学が昨秋、文部科学省の「スーパーグローバル大学創成支援事業」に採択されたことを記念した催し。大学が費用を負担し、読売新聞社の後援で開催したが、これもまたファイターズが前面に出て成功させた。当初予定の200人を大きく上回る400人の聴衆が詰めかけただけでなく、内容が飛び切り濃かった。
 第一部は「グローバルリーダーを育てる課外活動の価値」と題したプリンストン大学学生生活局副部長の講演。第二部はこの副部長に両校のヘッドコーチらが参加したパネルディスカッション「グローバル人材の育て方」。約2時間半にわたって、大学の課外活動の意味や位置づけについて示唆に富む内容が話し合われた。
 僕は前から2番目の席に座り、終始、メモを取りながら聴講したが、スポーツを通じた人材育成、人の成長、学業との両立など、かねてから興味のあるテーマについて、日ごろ僕の考えている通りのことが話し合われた。そのことで自分の立ち位置が間違っていないと確認するとともに、そこで話し合われた内容がファイターズの日ごろの活動と完全に一致していることに大きな満足を覚えた。「ファイターズの目指す方向は間違っていない。この道を突き進めば人は育っていく」と確認できただけでも、今回、シンポジウムを開催できたことには大きな意味があった。
 そして三つ目。多くの学生が成長のきっかけをつかんだことである。
 確かに試合は完敗だった。しかし、個々のプレーを振り返って見ると、本場アメリカの大学チームに通用した部分も少なくなかった。体格は明らかに劣っていたが、それでも相手の攻撃ラインを力で突破した守備のラインがいたし、相手レシーバーに競り勝ってインターセプトを奪った選手もいた。一回りも二回りも大きくてスピードのあるデフェンスラインを相手に懸命にQBを守ったOLの姿も見えた。
 確かに、プレーに対する集中力、対応力、球際の強さは相手チームの方が1枚も2枚も上だった。けれども、その違いを自ら同じグラウンドに身を置き、同じボールを競り合う中で体験できた意味は大きい。
 「負けて覚える大相撲」という言葉がある。試合後、何人かの選手に話を聞いたが、彼らはみなこの言葉通りの感想を口にした。これが今回の敗戦を「成長のきっかけ」と僕が評価する由縁である。
 そしてもう一つ、付け加えて起きたい場面がある。それは試合後、両チームの選手が記念撮影を終え、試合後のハドルも解いた後の光景である。ある上級生が相手チームの選手と英語で親しく話し合い、互いに握手しながら自身が身に付けていた用具を交換していたのだ。これだけなら、よくある光景だが、その選手の顔を見て驚いた。
 彼は単位の取得に苦しみ、留年が決まっている。中でも英語が苦手だと聞いたことがある。そんな選手が英語しか話せない相手と堂々と会話し、意志を通じあっている。その姿を見たとき、スポーツは国境を越える、と言うことを実感した。英語の苦手な彼が堂々と相手と言葉を交わし、意思の疎通を図る。この試合をきっかけに、その一歩を踏み出したことで、彼らは間違いなく成長のきっかけをつかんだと確信した。
 これもまた、今回の催しが総体として成功したと評価する由縁である。学生スポーツは勝敗だけに意味があるのではない。たとえ試合には敗れても、その試合を通して生涯の仲間を得た者、助け合うことの喜びを知った者、成長のきっかけをつかんだ者、すべてが勝者である。
 こうしたことを次々と確認できたことが、今回の日米交流戦であり、シンポジウムだった。少しばかりだがチームに寄付をし、この催しを応援するコラムを書いてきて、本当によかったと思っている。
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2015年03月11日

(2)英会話の特訓

 ファイターズの面々はこの2月、後期試験が終わった直後から英会話の特別授業に取り組んだ。21日に開く「LEGACY BOWL」プリンストン大学との日米大学交流戦に向けての特訓である。
 1年生から3年生までの現役学生は3回、コーチたちは4回、Xリーグで活躍しているアメリカ人選手とその家族を講師に招き、英語による日常会話の実戦的な講義を受けた。
 たった3〜4回の勉強で、日常会話のノウハウを身に付けようなんて考え方が甘い、と言われるかも知れない。どれほど上達するのかと疑問を持たれる方も多いだろう。
 けれども、部員もコーチも「特別授業料」という身銭を切って本気で取り組んだ。取り組むための強い動機があったからだ。
 どういうことか。主務の西村君やコーチに聞くとこんな話だった@アメリカのトップに位置する名門大学の選手たちと、それもフットボールという共通の話題がある選手やスタッフと交流の機会が持てるのに、会話も出来ないというのではもったいない。ただ握手だけしてグッバイでは、日米交流の成果が上がらないAせっかくチームと大学が少なからぬ資金を投入して今回の交流戦を企画、主催してくれたのだ。ゲームを本気で戦うだけででなく、学生同士、スタッフ同士が互いに胸襟を開いて交流してこそ「日米大学交流戦」の名に値する、ということだった。
 授業を受けた選手やスタッフに聞くと「ぼろぼろでした」というスタッフもいたし「積極的に話しかけていけば何とか通じる。それが分かっただけでも自信になりました」という部員もいた。
 この特訓を企画した大村コーチは「3回や4回の授業で英会話が身につくはずがない。けれども、講師が同じフットボールに取り組む在留アメリカ人選手ということで、部員たちもすんなり授業に入れたようだ。相手に話しかけてみよう、話しかけてみたいというきっかけを作れたことが何よりです。せっかくの日米交流戦ですから、歓迎パーティーや食事会の席で積極的に相手に話しかけ、貪欲に吸収してもらいたい」と話していた。
 こういうエピソード一つをとっても、ファイターズというチームの特徴というか魅力がうかがえる。
 これだけでもすごいのに、さらにすごいのは、日米の大学フットボール界の歴史と伝統を受け継ぐプリンストン大学と関西学院大学の交流戦をチーム単独で発案し、学院の創立125周年記念事業に位置づけて開催することである。アンダーアーマー社の製品を日本で独占的に販売するドーム社の協賛、往復の飛行機を飛ばす全日空の協力などを取り付けて、資金的な負担を軽くする。OB会や後援会からも全面的な協力をいただく。支援者からの寄付集めにも全力を尽くしている。
 相手チームの往復航空運賃や宿泊費を大半を負担し、宿舎の手配から練習会場の確保まで、すべてファイターズが責任を持つ。休養日には相手選手団の京都見学が盛り込まれているが、その案内役を国際学部の学生たちに引き受けてもらう段取りを整えたのもファイターズだ。
 なんといっても、学院からの財政支援を受けているとはいえ、総事業費の半分以上を部が自力で集めなければならない。その多くは募金と企業協賛、そして何より入場料収入による。有料入場者が1万人以上集まって初めて収支が合う計算という。そのリスクを背負ってのファイターズの大きな挑戦でもある。
 もう一つ重要なことがある。今回の交流戦のために来日したプリンストン大学の幹部を講師に迎えて「プリンストン大学と考える グローバル人材の育て方」というシンポジウムを19日に開催することである。学生生活部体育局のアリソン・リッチ氏の講演「グローバルリーダーを育てる課外活動の価値」と両校のヘッドコーチらが参加するパネルディスカッション「グローバル人材の育て方」で構成。正課のカリキュラムとスポーツ・社会貢献活動などの課外活動を組み合わせたグローバル人材の育成について意見を交わす。
 これもまた、日本が世界に打って出ようとしているいま、関西学院大学が文部科学省から「スーパーグローバル大学創生支援」事業に採択されたこの時期に、深い意味を持つ交流事業である。
 交流は試合だけではない。試合をきっかけに大学としては課外活動の在り方や世界に通用する人材の育成について考え、選手は身近な英会話を学び、人と人との交流の機会をつかもうとチャレンジする。グリコのCMをもじっていえば、一粒で2度、3度とおいしい企画である。
 それをファイターズという組織が単独で立案し、実行する。すごいというしかない。
 是が非でも成功させて、日本、いやアメリカにまで「関西学院」と「ファイターズ」の底力を見せつけようではないか。あとは、これを読んで「いいね!」を押していただいた方々に、友人知人を引き連れて21日午後1時、大阪・長居のキンチョウスタジアムに足を運んでいただくだけである。観戦することでぜひファイターズの挑戦を支援していただきたい。期待しています。
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2015年03月07日

(1)レガシーボウル

 「歳月、人を待たず」という。歳月は人の都合に関係なく過ぎ去り、しばしもとどまることがないという意味である。「光陰矢の如し」といえば分かりやすいだろうか。
 上ヶ原の第3フィールドに出掛けると、ほんの2カ月前までとはまったく異なる景色が広がっている。1月3日のライスボウルまで、懸命に戦った2014年度のメンバーはすでに引退。新たに橋本主将を中心としたチームが来年の1月3日、ライスボウルでの勝利を期して、恐ろしく地味だが、実はハードなトレーニングを続けている。
 この間、チームはファイターズファミリーの合同壮行会や甲子園ボウル優勝祝賀会、それに学生の本分である後期試験に取り組み、2月からは2015年シーズンに向け、試合のない季節だからこそ可能な基礎体力づくりに取り組んでいる。すでに第1次の春合宿は終え、選抜メンバーはファイターズの「虎の穴」といわれる千刈キャンプ場で、山野を駆け巡ってきた。
 この時期でなければできない筋肥大合宿や股関節の稼働域を広げ、体幹を鍛える訓練。外は寒くても、部員たちはTシャツ姿。それでも汗が吹き出すような激しい運動である。見慣れたゲーム形式の練習とは異質なトレーニングが2月一杯続けられてきた。
 そして3月。2日からようやく練習らしい練習が始まった。今春卒業する4年生も次々にグラウンドに顔を見せるようになった。21日に開かれるLEGACY BOWL(レガシーボウル)、プリンストン大学との日米大学交流戦に向けてのチーム練習である。
 今日(5日)、和歌山県田辺市での本業を午後2時に切り上げ、馬力のあるドイツ車で阪和道から阪神高速湾岸線をぶっ飛ばして上ヶ原へ。到着したらチーム練習が始まる前だというのに、パートごとの練習が始まっていた。シーズン中、いつものように見慣れた風景である。
 普段と違うのは、今春卒業する4年生がグラウンドのはしっこでひとかたまりになって練習していたこと。ライスボウルが終わって以降2カ月間、ほとんど体を動かしていなかったそうで、最初の1週間は「動ける体」を取り戻すトレーニングをしているという。
 鷺野、松島、小野の幹部はもちろん、背番号の若い順にいうと飯田、前田、国吉、森岡、吉原、国安、油谷、横山、岡部、梶原君らが顔を揃えている。スタッフでは、壮行会でアンサングヒーロー賞を受賞した松田君の顔も見える。みんな髪の毛が2カ月分伸びて、爽やかなスポーツ刈りになっているのが不思議なようでもあり、当然のようでもある。
 彼らもまた現役の選手に混じってレガシーボウルに出場する。この日、顔が見えなかった斎藤君や木戸君らももちろん出場する。15年のシーズンに向けて新たなスタートを切った橋本主将と木下、作道、田中の副将3人が率いるファイターズと「チーム・鷺野」を主導したメンバーが合体してアイビーリーグの名門、プリンストン大学に立ち向かうのである。
 楽しみではないか。まだ、シーズンが始まる前の、いわば端境期の試合ではある。けれどもグラウンドで戦うのは1869年にチームを創設、同年、ラトガースと、アメリカでは最初のフットボールゲームを戦ったプリンストン大学と、1949年に甲子園ボウルに初出場・初優勝を成し遂げて以降、甲子園ボウル出場49回、優勝27回を誇るファイターズである。
 いわば日米フットボール界の「LEGACY」(遺産、いやフットボール界の世界遺産と訳した方が適切かも知れない)同士の一戦。相手は来日する選手だけで約85人、コーチ・スタッフを含めると約110人。この試合にかける意気込みは、この選手団の規模にも表れている。
 両チームは過去に一度、2001年に大阪ドームで戦っている。そのときは25−27でファイターズが逆転負けだった。その借りを返す絶好の機会でもある。日米のフットボール史を背負って立つ両チームの熱戦を期待するとともに、私たちも熱い応援を繰り広げよう。
 メジャーリーグのLEGACYとなりつつあるイチロー選手は先日、マーリンズに移籍したときの記者会見で「応援よろしくとは、決していわない。応援してもらえる選手、応援するに値する選手になる」と言い切った。ファイターズもまた「応援してもらえるチーム、応援に値するチーム」になるべく日々精進している。その精進の成果を21日、長居のキンチョウスタジアムまで足を運んで、この目で確かめようではないか。試合は13時、キックオフである。
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 ライスボウルの敗戦にうちひしがれ、しばらくコラムを勝手に休載していました。シーズンの開幕は4月からですが、今年は今日から再開します。「ご愛読よろしく」とはいわず、愛読してもらうに値するコラムを目指して精進します。
 昨年度のコラムを「栄光への軌跡−2014年版」として出版し、選手やスタッフにお贈りしました。ファンの方にも、試合会場のグッズ売り場で販売し、売り上げはすべてファイターズに寄付させていただきます。こちらは「チームへの寄付のつもりでよろしく」と心からお願いします。

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posted by コラム「スタンドから」 at 09:03| Comment(0) | in 2015 season