2015年12月03日

(33)何を遺すか、何を引き継ぐか

 先週木曜日の夕方、紀州・田辺市の新聞社から西宮市に戻り、第3フィールドでチームの練習を見ていたときのことである。急に腹部がけいれんし、激痛が走った。グラウンドが恐ろしく寒かったから、腹が冷えたのかと思ったが、別段、下痢の症状も出てこない。どうしたことかと思っているうち、痛みはさらにひどくなり、背中にまで広がってくる。
 必死の思いで自宅に帰り、まずは風呂で体を温めたが、いっこうに症状は改善しない。脂汗は出る。痛みは広がる。耐え切れずに救急車を要請。生まれて初めて救急車で病院に搬送された。
 救急病院に到着。担当医の診察、腹部のCT撮影などがあり、尿管結石と診断される。そのまま入院し、栄養剤と痛み止めの点滴を受けたが、激痛は一晩中続く。夜明けを待って、泌尿器科のある西宮中央病院に転院、そこでさらなる検査を受け、病状の説明を受ける。幸い、結石は小さく「1週間ほどで、自然に排出されるでしょう」とのこと。鎮痛剤で痛みを抑えて退院した。
 週明けとともに職場に復帰。昨日(水曜日)の再診で「完治しています。何の問題もありません」という診断をいただいた。
 その言葉に安心し、その足でグラウンドに出掛け、ようやくチームの練習を見学することができた。
 不安、激痛、小康が交互に襲ってきたこの7日間。痛みが和らぐと、気にかかるのはチームのこと。関西リーグの最終決戦で立命に敗れたチームがどうなっているか。まだ1試合「東京ボウル」が残されているけど、モチベーションは保てているか。そんなことが気になって仕方なかった。
 なんせ、この4年間、公式戦で学生相手には敗れたことのないチームである。それが関大戦では、キッキングチームがボコボコにされ、立命戦では相手の思い通りの試合展開を許してしまった。
 もちろん、ファイターズも反撃して3点差まで追い上げ、見せ場は作った。さすがはファイターズと思ったが、内容的にみると「攻めきれない」「守りきれない」展開。加えて関大戦の後遺症か、キッキングチームは終始精彩を欠き、最後まで自分たちのペースに持ち込めないまま、試合が終わってしまった。
 「もっとやれたはずだ」「あそこでなぜ、もっとチャレンジしなかったのか」と後悔の残る試合。明らかに実力の差があっての敗戦ならまだしも、戦いようによっては活路が開けた内容だっただけに、選手もスタッフも気持ちの整理が付いていないに違いない。そんな状態で、もう1試合、といわれても、その気になれるかどうか。僕はそれが気になって仕方なかった。だから、グラウンドに出て、選手やスタッフの表情を見てみたい、というのが切なる希望だった。
 だが、病気がそれを許さない。痛みと闘いながら、悶々としていたとき、チームのスタッフが東京ボウルに寄せて、チームのホームページに次のような文言を書き込んでいるのを見つけた。
 「2015 FIGHTERS ラストゲーム。目標の頂にはたどり着けなかった。だが、これまでの想いをぶつける機会を与えられた。何を遺すか、何を受け継ぐか。FIGHTERSの誇りをかけて」
 誰が書き込んだのかは聞いていないけど、意味はよく分かる。ほっとした。チームは、敗戦という苦い汁を飲みながら、それでも戦おうとしている。「何を遺すか、何を受け継ぐか。誇りをかけて」という文言に、大いに勇気づけられた。
 加えて11月27日に行われた「TOKYO BOWL」の記者会見の模様が伝えられた。
 そこで鳥内監督は「ああいう形で立命に負けてしまった。4年生にとっては最後の試合になってしまうところだったが、ここにきてもう1試合やることができる。今年の集大成として臨みたい」と発言。橋本主将も「今年の関学がどんなチームだったかを見せるためにも、日大に勝って終わらなくてはアカン」と宣言している。
 モチベーションの上げ方について、監督は「立命館に負けたことで最初はへこんでいたが、4年生を勝たせて終わりたいということで心配はない。今年のチームは発展途上。完成させて終わろうという話をした」ともいっている。
 その通りである。発展途上のチームをしっかり仕上げて、ライバルとの試合に臨んでほしい。甲子園から東京ドームに続く道は絶たれたけれども、戦いを前に、モチベーションがどうの、敗戦のショックがどうの、なんていっている場合ではない。いまは目の前にいる相手に存分の戦いを見せるときだ。それが「何を遺すか、何を引き継ぐか」という問いに対する答えになる。
 後に続く者への「伝言となる試合」を期待する。
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2015年11月24日

(32)「必死三昧」

 江戸の中・後期に平山行蔵という剣客がいた。字(あざな)は子龍。体は大きくなかったが、14、5歳の時から一人前の武士の風格があり、文武に堪能。兵学をよくし、武芸は十八般、ことごとく習得した。昼は武芸、夜は兵書と、一日も勤めぬことはなく、著述は数百巻にのぼり、和漢の蔵書1800部を集めていた。
 常に二尺(約60センチ)四方の槻(ケヤキ)の板を敷物とし、これに両の拳を突き当て、突き当てしながら読書に励んだから、拳が固まって石のようになり、胸板ぐらいはこれで付き砕いたそうだ。毎朝7尺(約2・1メートル)の棒を500回、4尺(約1・2メートル役)の居合い刀を抜くこと300回。常在戦場を心掛け、食は玄米に味噌を塗るだけ、61歳まで布団の上で寝たことがない。想像を絶する武人であり、実際、18世紀末から19世紀の初めに活躍した剣客の中でも、群を抜いた腕前だったという。
 この人が「剣術の要は敵を打つ気持ちをひたすら敵の心へ貫通させること。すなわち必死三昧でなければいけぬ」「受けつ流しつの技が上手だとて、いっこう役にたたぬ。一人二人の立ち会いならまだしも、槍ぶすまを作って向かってくる戦場の時には、ただただ精一無雑に飢えたる鷹の如く、怒れる虎の如く、躊躇なく突撃して、初めて妙境自在がある」といっている。
 こんな話を持ち出したのはほかでもない。立命との決戦で、勝敗を分けたのは、ただ一点にあると思ったからだ。つまり、チームの全員がただただ相手を倒すという一心で立ち向かえたか否か、ということである。
 明鏡止水。なんの憂いもなく、ひたすら目前の相手を叩きのめす、という心境で立命戦のキックオフを迎えることができた選手は、果たしてファイターズに何人いたことだろう。ある者は、自身のけが、仲間のけがの回復状況が気にかかり、またある者は前節までの苦しい戦いの原因を引きずっていた可能性がある。試合前の記者会見での発言などを聞くと、オフェンス、ディフェンスともに、練習で詰め切れない点を残したまま、キックオフを迎えたのかもしれない。
 さらにいえば、この4年間、大学生相手の公式戦では一度も負けていない、という楽観的な気持ちがどこかにあったかもしれないし、それがある種のプレッシャーとなっていた選手もいただろう。
 実際、今季は主力にけが人が相次いだ。立命戦にもぶっつけ本番で出場し、活躍した選手が何人もいる。攻撃ではWR木下、守備ではDB岡本。ともにほんの数日前までびっこをひいていた選手とは思えないほどのはつらつとしたプレーを見せた。LB山岸、RB橋本、OLの井若や藏野も、けがによる練習の空白がなければ、もっともっと活躍できた選手である。
 キッキングチームも今季は終始、不安定な状況が続いた。リターナーがボールをファンブルしたことは一度や二度ではないし、フィールドゴールやパントは何度もブロックされた。結果、相手にロングリターンを許す場面が相次いだ。攻撃陣は自陣奥深くからの攻撃を余儀なくされることが多く、逆に相手のリターンチームには大きく陣地を挽回された。その集大成が前節の関大戦であり、今回の立命戦である。
 キッカーやパンターの責任というよりも、その状況を克服できなかったチームの責任であろう。
 主力にけが人が続出したことによる不安やキッキングチームに安定感を取り戻せないことへの懸念を抱えたまま、決戦に臨まざるを得なかったという時点で、すでに平山行蔵のいう「必死三昧」の境地には至らなかったのかもしれない。
 そういう状況で迎えた立命との決戦。結果は30−27。普段の試合では考えられないようなミスが相手より多く出たファイターズが敗れた。相手に先制点を許し、終始、追いかける展開になった試合内容から、得点差以上の差があったという人も周辺にはいるが、僕はそうは思わない。一歩状況が変われば、ファイターズが勝っていても、不思議ではなかったと思っている。
 実際、スタッツをみれば、総獲得ヤードは274ヤード対338ヤードでファイターズが勝っている。パスの成功率も、インターセプトの回数もファイターズの方が上である。
 相手もよく走ったが、ファイターズも負けていない。相手ボールを奪ったDB田中があわやTDというロングリターンを決めたし、QB伊豆も鉄壁の守備陣をかいくぐって44ヤードのラッシュを決めた。故障上がりのWR木下は要所でキーになるパスをキャッチし、TDパスも確保した。期待の1年生WR松井は強力な相手守備陣のマークを振り切り、2本のTDパスをキャッチした。
 前日まで、歩くのも苦しそうだったDB岡本が相手QBに激しいタックルを浴びせて倒したし、インターセプトも決めた。守備の第一列も素早い動きで、相手のランナーを食い止めた。そうしたプレーの総和としての3点差である。
 負けは負けだが、僕は攻守、さまざまなところで不安を抱えたまま試合に臨み、実際、終始リードを許しながらの苦しい試合を、よくぞここまで盛り返したことよ、と感心している。
 それだけに、なおのこと明鏡止水。チームとして、雑念を振り払って決戦に臨めなかったことが残念でならない。
 今季はもう一戦、日大との戦いが控えている。甲子園ボウルへの道は途絶えたが、4年生には今季の総決算という覚悟で試合に臨んでほしい。下級生には新しいシーズンに向けて、日々、拳でケヤキの板を叩き付けながら学ぶ覚悟で稽古に励んでもらいたい。
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2015年11月19日

(31)男伊達

 江戸三男(えどさんおとこ)という言葉がある。江戸時代、粋な男の筆頭にあげられた与力、相撲取り、火消しのことを指す。時代考証家、稲垣史生さんの『江戸考証読本U』(KADOKAWA)によると、この言葉は単に男前という意味ではなく「男子の面目、男伊達の意味にとるべきだ」「伊達の内容は、侠気に満ちて華美(はで)、持てる力を内に秘めて奥床しいところがある」と解説している。
 加えて与力は「威あって猛からず、スタイリストでさばけたところがある」「侠気といえば侠気、頼もしくて話せる」。相撲取りは「待ったなしを尊ぶ心意気」「意気は意気地であり、男伊達の本領」。火消しの頭は「信望と統率の才能を要し、貫禄と義侠心と腕っ節の強さが不可欠」と説明する。
 なるほど、粋な男たちだ、と本を読み進めながら「ちょっと待て。そういう男なら、ファイターズにもいっぱいいるぞ。江戸三男の向こうを張って、ファイターズ10人衆でも20人衆でもいい、なんなら50人衆の名前を挙げてみようか。粋な女子の名前も一人や二人ではないぞ」と思った。
 いつもグラウンドで仲間を鼓舞している橋本主将。体重は約130キロ。腹の底から張り上げる大声は、少なくともこの10年間では一番デカイ。練習を仕切るだけでなく、全体練習が始まるはるか前からグラウンドに顔を出し、時にはダミー、時には早出のOLを相手に、激しく当たりあっている。
 副将の3人、作道、田中、木下君も、練習時はもちろん、練習が始まる前からそれぞれが属するパートの練習や下級生の指導に余念がない。チーム練習を終えた後、アフターと称する練習まで、いつも先頭に立ってプレーするのはもちろん、寸暇を惜しんで1センチ単位の足の動き、スタートのタイミングの取り方、そして効果的な当たり方などを繰り返し繰り返し仲間に指導している。けがからの回復途上でシーズン当初は練習もままならなかったDL小川君、一時は社会復帰さえ危ぶまれたRB三好君も、それぞれパートのリーダーとして周囲を盛り立て、下級生を懸命に育ててきた。それぞれが男伊達と呼ぶにふさわしい腕っ節と奥ゆかしさをもった面々である。
 4年生だけではない。3年生でエースとなったQB伊豆君は毎日、誰よりもストイックに練習と向き合っている。例えば、今年の夏合宿、僕が1泊2日の日程で見学に行った時のことである。早朝、まだ5時半を過ぎたばかりというのに、いち早くグラウンドに降りてきたのが彼だった。連日の猛練習で疲れ切っているはずなのに、清々しい表情でウオーミングアップを始めた彼の姿を見たとき「今年のオフェンスは、この男に任せて大丈夫」と確信した。
 彼と簡単な挨拶を交わした後、グラウンドに目をやると、主務の西村君とマネジャーの今川さんが分担してラインを引いているのが見えた。トレーナーも徐々に集まり、補給用の水を用意し始めている。それぞれ、プレーヤーが降りてきた時には、すぐに早朝練習をスタートできるようにするための準備である。監督もコーチも、選手の多くも疲れ果て、1分でも多く眠っていたい時間に、自発的に起床し、グラウンドに出て黙々とチームに貢献する彼、彼女らもまた粋でいなせな面々である。
 こうして上級生、下級生、選手とスタッフが営々と努力を重ね、作り上げてきたのがファイターズである。全日本の代表メンバーに選ばれるほどの力量を持った選手は少なくても、十人並みの選手の力を最大限に引き出して勝ち続けて来たのがこのチームである。監督やコーチの指示を待って行動する大方のチームとは、ひと味もふた味も異なっている。
 そのチームの真価が問われる試合が目前に迫っている。11月22日午後2時、大阪・長居でキックオフとなる立命館との決戦である。双方がこれまでの6試合を勝ち続けて迎えた今季関西リーグ最終戦。勝てば優勝、負ければ地獄の釜が開く。
 聞くところでは、相手はめちゃめちゃ強いそうだ。これといった死角もないという。それをどのように崩し、甲子園ボウルからライスボウルへの道を切り開くか。
 侠気と腕っ節の強さを持ち、信望と統率力のある男伊達の出番である。
 監督が常々問い続けている「どんな男になんねん」という問い掛けに応える場面は目の前にある。どんなに苦しい場面に遭遇しても、奥ゆかしくほほえんで仲間の信頼に応える心意気を示してもらいたい。
 健闘を祈る。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:07| Comment(2) | in 2015 season

2015年11月09日

(30)信じられない数字

 強いのか、弱いのか。スタンドから見ているだけでは、まったく分からない試合だった。7日の関大戦。試合が終わった時には、ファイターズが33−7で勝っていたから、数字の上では圧勝である。
 実際、試合後のスタッツを見ても、すべてにファイターズが上回っている。第1ダウンの獲得数は24回と13回。総獲得ヤードは442ヤード対232ヤード。ランでもパスでもほぼ相手の2倍の距離を稼いでいる。関大には2回の反則があり、15ヤード陣地を下げられているが、ファイターズはゼロ。
 こういう数字を見た人は、ファイターズが終始、主導権を握って試合を進めたと思われるに違いない。けれども、とてもとてもそんな「お気楽な」気分で観戦できる状態ではなかった。
 立ち上がり、関大陣18ヤードから始まった相手の攻撃を3&アウトで抑えたところまでは、いい感じだった。続くファイターズの攻撃は自陣46ヤードからの好位置。まずはQB伊豆からWR木下へのパスがヒットして19ヤードの前進。そこからRB野々垣と橋本が交互にボールを持ち、第4ダウンインチの攻撃も成功させてダウンを更新。次は野々垣が10ヤードを獲得してゴール前10ヤード。
 しかし、ここからの攻撃が進まず、第4ダウンはフィールドゴールを選択。ところがK西岡の蹴ったボールを相手にブロックされ、関大陣28ヤードまで押し戻される。キックの弾道が低かったのか、キッカーをガードしている誰かが突破されたのか、スタンドからではよく見えなかったが「やばい。関大は徹底的に研究している」と思わせるに十分なプレーだった。
 次の関大の攻撃は、一度ダウンを更新されたが、2度目はDL藤木、柴田の素晴らしいタックルで何とか抑えて攻守交代。自陣17ヤードから始まった攻撃は、伊豆から木下へのパス1本でダウンを更新。久々に復帰した副将はやはり頼りになる。次はまた伊豆からWR松井に23ヤードのパスをヒット、相手陣48ヤードに進む。
 パスを2本続けた後は野々垣のランとRB山本のドロープレー。途中、WR前田への短いパスを挟んで橋本と高松のラン、野々垣へのショベルパス、さらにはFB山崎、RB橋本の突破力を生かしてゴール前1ヤード。仕上げは橋本の中央ダイブでTD。パスとランをかみ合わせた攻撃が見事に決まって7−0。
 しかし、キッキングのカバーが破られ、相手はゴール前3ヤードから46ヤード地点までリターン。反撃ののろしを上げる。ここはDB山本、小池らのロスタックルで防ぎ、攻撃権を奪い返したが、次に伊豆が敵陣深く投じた長いパスが奪われ、再び関大の攻撃。関大の攻撃を断ち切ってベンチに戻った守備陣は、一息つく間もなく、再びグラウンドへ。突然の出動で、心の準備が間に合わなかったのか、相手のランとパスを組み合わせた攻撃を支えきれず、わずか7プレーで84ヤードを運ばれ、TDを奪われてしまう。
 7−7。同点という数字もさることながら、目の前で相手の破壊力のあるオフェンスを見せつけられて、これはやばいぞ、という気持ちが芽生えてくる。
 逆に関大は守備陣も勢いづいてくる。次のファイターズの攻撃を3&アウトに防ぎ、再び関大の攻撃。しかし今度は、心の準備ができていたのだろう。LB山岸のロスタックルなどで、ファイターズも相手を3&アウトで退ける。
 自陣23ヤード、前半残り時間は2分21秒。ここからファイターズの華麗なパス攻撃が始まる。木下、松井、亀山への長短織り交ぜたパスを次々にヒットさせ、あっという間にゴール前9ヤード。前半残り時間はほとんどなかったが、伊豆が8ヤードを走り切ってTD。時計は残り3秒を指していた。
 しかし、キッキングチームは不安定なまま。この場面でもTDの後のキックをブロックされ、得点は13−7。とてもリードしているという実感は持てないまま、後半戦に入る。 第3Qは関学のレシーブ。ここはWR池永の好リターンで自陣46ヤードからの攻撃。橋本、高松のランで陣地を進め、敵陣32ヤードからまたも松井に22ヤードのパス。難しいコースだったが、余裕で確保し、ベンチを奮い立たせる。前半終了間際の緊迫した場面で、23ヤードと13ヤードのパスを確実にキャッチしたのとあわせ、スーパー1年生としての存在感を見せつけた。
 ゴール前8ヤードからの攻撃はランを3度止められたが、第4ダウンの攻撃で伊豆が5ヤードを走り切ってTD。リードを広げる。しかし、この場面でもPATが蹴れず、またもや得点は6点のまま。
 第3Q10分32秒にもファイターズは伊豆から前田への15ヤードのパスを通して加点したが、この場面ではキックを蹴る選択をあきらめ、野々垣のランで2点を追加した。プレーが成功したのはうれしかったが、PATを蹴るのをあきらめるというのは、まさに異常事態。長い間ファイターズの試合を見てきたが、過去にも例のないことだった。
 結局、この日はゴール前5ヤードからのフィールドゴールを1回試みて失敗。PATのキックも4回のうち3回失敗している。相手チームが十分に研究してきていることは割り引いても、理解に苦しむ状況である。キッカーの状態が悪かった、ということだけではなく、システムや習熟度に問題があったとしか考えられない。その証拠に、キックオフカバーも、終始不安定だった。この数年間、卓越したキッキングゲームで相手を圧倒してきたファイターズを見てきた人間としては、目の前の惨状が信じられなかった。
 得点は33−7。圧勝だが、まったく勝った気がしないというのは、ここに原因がある。この点にどうメスを入れるか。シーズンが終盤になったいまでは、できることは限られているだろうが、何とか手を打ってもらいたい。
 次の立命は、攻守とも関大をさらに上回るメンバーを揃えている。打倒関学、に燃える気概も並々ならぬものがあると聞いている。そういう難敵に対するに、不安を抱えたままでは戦えない。何とかしてくれ、と祈るばかりである。
posted by コラム「スタンドから」 at 20:32| Comment(3) | in 2015 season

2015年11月02日

(29)練習台のプライド

 今週は、ファイターズでは一番目立たないが、チーム浮沈の鍵を握るポジションのことについて書きたい。そう、フルバック(FB)のことである。
 先日の近大戦では、35番の山崎君が97キロの巨体を利して突進に次ぐ突進。5回のボールキャリーで60ヤードを走った。珍しくカットを切って23ヤードを独走し、TDを挙げる場面もあった。彼がボールを持つたびに、スタンドからは大きな歓声が沸き、一躍、人気者になった。その前の神戸大戦では、94番の市原君がゴール前で、QB中根君の投じた逆方向の難しいパスを体を反転させてキャッチした。地味ではあったが、ここで落としてなるものか、という気迫を見せつけたプレーであり、ファイターズFBの存在感を示した。
 けれども、彼らのプレーが多くのファンから注目されるのは通常、1試合に1度か2度。あとはひたすらブロッカーとしてボールキャリアの走路を開き、あるいは相手のブリッツからQBを守る仕事に徹している。
 しかし、ファイターズが多彩な戦術を遂行し、試合を勝利に導く上で、彼らに与えられた役割は限りなく大きい。
 例えば、2007年の甲子園ボウル。ライバル日大を相手に二転三転するゲームを制するキーになったのは、ファイターズが34−38と逆転されて迎えたゲームの終盤、第4ダウンショートという状況でQB三原君がFB多田羅君に投じた短いパスだった。それを多田羅君がしがみつくようにして確保したことで攻撃が続き、第4ダウンゴール前1ヤード、残り時間6秒という場面を作り、RB横山君の逆転TDランに結びついた。
 あの学年は、QBに三原君、レシーバーに榊原君や秋山君を擁し、史上最高のパスオフェンスを繰り広げたチームだったが、ここぞというポイントで、誰もがマークしていないFBへのパスをヒットさせ、勝利に結び付けたのだ。あのキャッチひとつで多田羅君は、僕の中では「記録ではなく、記憶に残る選手」にノミネートされたのである。
 昨年度の4年生FB梶原君のDLとして鍛えた強力なブロックも記憶に新しい。中でも立命戦の冒頭、相手がキックしたボールを受けたリターナーの田中君の走路を、梶原君がえげつないブロックで切り開き、ビッグリターンに結び付けた場面が印象に残っている。彼もまた地味な役割だったが「記憶に残る」選手の一人である。2011年卒の兵田君が小さいけど力強い「小型ダンプ」のような体型を利用して、常に相手の下からまくり上げるブロックをしていた場面も記憶に残っている。
 しかし、試合で活躍している彼らの姿は、実際に彼らがチームで果たしている役割からいえば、氷山の一角。水面下に隠れて見えない部分にこそ、彼らの値打ちがある。
 それは、チームの練習台としての役割である。彼らはテールバックと呼ばれるボールキャリーが中心の選手ほどには素早いカットは切れない。けれども当たりは強いし、動きもラインよりは数段速い。上級生ともなると、体ができあがっているから、少々の当たりにも動じることがない。
 そういう特徴を持っているから、LBやDBの練習相手には欠かせない。チーム練習の前に、FBの彼らを相手チームの当たりが強くてスピードのある選手に見立てたLBやDBの選手が「もう一丁、もう一丁」とぶつかっている姿は、いつだって見ることができるし、スピード派の味方RBの練習台として、相手LBの役割を果たしてぶつかり合っている場面も日常の光景だ。
 FBのメンバーは常に自分たちの練習と同時に、LBやRBの練習台として、仲間を鍛える役割を担っている。つまり、FBの面々が、チームメートのためにしんどい練習台を本気で務めることで、優秀なLBやRBを育てているのである。
 外部からは目立たないが、その地味な役割を果たし続けて自らを鍛えてきた面々が、試合の重要なポイントでいぶし銀のような活躍を見せる。走る姿は少々かっこわるくても、スマートなボールキャッチができなくても、そんなことは知ったことではない。
 確実に走り、確実に相手を倒し、確実にボールを捕捉する。試合中、1度めぐってくるか、3度のチャンスが与えられるか。それはゲームの展開次第。その数少ない機会を確かに成功させる山崎君や市原君のプレーは、練習台としてのプライドの表現である。そういう背景があるから、僕は彼らのプレーが成功するたびに、心からの拍手を贈るのである。
 さあ、今週末は、関西大との決戦だ。彼らがブロッカーとして活躍する場面は間違いなくある。ボールを持って活躍する場面がめぐってくるかどうかは保証の限りではないが、彼らが鍛えたLBやDB、そしてRBの面々が活躍する場面はきっとある。そういう場面に出合うたびに、チームで一番地味で重要な役割を営々と果たし続ける彼らに思いを馳せていただきたい。フットボールを見る楽しみが倍加することを約束します。
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2015年10月28日

(28)手応えあり

 25日の日曜日。関西リーグ第5節の相手は近大。前半の4試合は、下位チームを相手に1勝3敗と今ひとつ波に乗り切れていないが、実績のあるRBを中心に才能を感じさせる選手が少なくない。後ろに控える関大、立命との戦いを前に、すっきりと勝って勢いを付けたい相手だった。
 試合は関学がレシーブを選択。それを計算したように、近大はいきなりのオンサイドキック。両軍がもみ合い、近大がボールを確保したかに見えたが、審判の判定は10ヤード転がる前に手を触れたということで、相手陣43ヤードからファイターズの攻撃。
 第1プレーはQB伊豆がRB野々垣にハンドオフしたが、その瞬間、近大デフェンスに突っ込まれてマイナス3ヤード。最初のオンサイドキックといい、このプレーといい、近大が周到に準備したことがうかがえるプレーが二つも続いて、スタンドがざわつく。
 しかし、伊豆はあくまで冷静。第2ダウン13ヤードからWR亀山にヒッチパス。それを確保した亀山が右サイドを駆け上がり、23ヤードのゲイン。続いて左サイドのWR前田泰に9ヤードのパス。残る14ヤードをRB高松が走り抜けてTD。わずか4プレー、1分少々の鮮やかな攻撃だった。西岡のKも決まって7−0。試合の主導権をがっちり確保する。
 攻撃にリズムが出ると、守備も集中する。相手陣17ヤードから始まった近大の3プレー目のパスをLB松本和がインターセプトし、14ヤードを走って攻守交代。ゴール前12ヤードからの攻撃を野々垣のランで2ヤード。次は伊豆がゴール左隅に浮かせたパスを長身のWR松井がキャッチしたが、わずかにラインを超えて失敗。しかし、残る8ヤードを伊豆のキープと高松のランであっさりTDに結び付け14−0。試合開始から4分も経たない間の速攻だった。
 こうなると守備陣も調子づく。DL小川のQBサックなどでまたも相手を完封。自陣46ヤードからファイターズの攻撃につなげる。
 ファイターズ3回目のオフェンスは、パス、パス、パス。亀山、松井、TE山本に短いパスを3本続けて通し、ゴール前17ヤード。仕上げは野々垣が中央を走り抜けてTD。近大陣46ヤードから始まった4回目のオフェンスも伊豆からWR藤原へのパス、RB山口のランの2プレーでゴール前6ヤードに迫る。ここでホールディングの反則があったが、高松が委細構わず15ヤードを走り切って4本目のTD。
 この間、時間にして11分少々。まだ第1Qも終わっていないのに得点は28−0。グラウンドはファイターズ祭りの様相である。
 第2Qに入ってもファイターズの攻守はかみ合う。近大陣36ヤードから始まったファイターズの第5シリーズは、いきなり伊豆から松井に35ヤードのパスが決まり、ゴール前1ヤード。ここは山口が簡単に走り込み、わずか2回の攻撃でTD。ここでQBを控えの中根に交代させたが、その中根も自陣34ヤードからWR水野にスクリーンパスをヒットさせる。ボールを確保した水野が抜群のスピードで左サイドを走りきってまたまたTD。
 試合開始から15分少々。オフェンスのプレー数は合計22回。わずかそれだけのプレーで6本のTDを奪取。西岡もキックをことごとく決めて42−0。守備もその間、一度も相手にファーストダウンを与えない健闘だった。
 長い歳月、ファイターズの試合を見ているが、攻守ともここまで完璧な試合は見たことがない。試合開始の第1プレー。練りに練ったオンサイドキックが不成功になって、一瞬動揺した相手の隙を突いてたたみかけたとはいえ、6回の攻撃シリーズを短い時間でことごとくTDに結び付けたオフェンス。1列目と2列目、そして3列目が有機的に連携し、アリ一匹通さないような守備を続けたデフェンス。ともに素晴らしい内容だった。ベンチも選手も、次に控える関大、立命戦を前に「手応え有り」と確信したのではないか。
 しかし、この試合の前日に戦われた立命と関大の試合を見た人によると、立命の守備陣がすごいそうだ。攻撃でも「異次元」のRBが縦横に走っており、とてもとてもやっかいな相手らしい。
 その前に戦わなければならない関大も、立命相手には攻撃がちぐはぐだったというが、捲土重来、ファイターズ相手には何を仕掛けてくるか分からない。元々力のあるタレントが揃っているうえ、ファイターズを破れば優勝の可能性が残る。当然、死にものぐるいの戦いになるのは目に見えている。
 そんな二つの強敵にどう挑むか。これからの1分、1秒が勝負である。近大との戦いでつかんだ「手応え」に、さらに磨きをかけ、存分に戦ってもらいたい。これからの試合に焦点を当て、長いリハビリ生活を続けてきた選手たちを含め、まだまだ、時間は残されている。
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2015年10月21日

(27)丸刈りのコーチ

 新聞記者の名刺を持って48年。長ければいいということでもないが、それでも半世紀近く一つの仕事に専念していると、目に映るものを捉える感覚は磨かれてくる。目に映った景色の奥にあるものを想像する力もそれなりに備わってくる。そして、それを言葉にする技術も、といいたいところだが、それに関してはまだ自信がない。
 例えば、先日の神戸大学との試合会場では、こんな光景を見つけた。
 アシスタントコーチを務めている梅本君が頭をつるつるに丸めていたのである。
 試合の始まる前に、あれっと気付いたのだが、キックオフを前にした緊張した場面で、本人に声を掛けるのは、あまりにも失礼だ。だが、なぜ、どうして、と疑問が頭を駆け巡る。リーグ戦が始まって3試合。レシーバーとQBの連携が今ひとつしっくりいかないからか。あるいは、自分が担当しているレシーバー陣がなかなか力を発揮できないことにムカついたのか。日ごろの取り組みに、コーチが頭を丸めなければならないほどの問題が起きたのか。想像が想像を呼ぶ。
 それでも、試合中はとにかくゲームのレポートに集中。試合終了を待ちかねて、本人に話を聞いた。
 「気合いを入れようと思って」「レシーバーがあまりにピリッとしないので、ここは僕がカタチに表すしかないと思いました」。そう答えてくれた彼の表情は真剣そのもの。
 たしか前々日までは、就職先の内定式に出るような髪型をしていたのに、というと「昨日、橋本(主将)に刈ってもらいました」という答えが返ってきた。
 たしかに、副将の木下君が先発した2戦目の京大戦こそ、彼の活躍と1年生WR松井君の衝撃的なデビューがあってパス攻撃が機能したが、初戦の桃山学院、3戦目の龍谷大との戦いでは、明らかにレシーバー陣がQB伊豆君の足を引っ張っていた。目立つのは守備陣とランオフェンスばかり。難敵が次々に登場するリーグの後半戦を見据えると、期待の1、2年生レシーバーもQBも、さらには歴代最強といわれるOL陣も、もう1段階も2段階も上げていかなければならないというのが、正直な感想だった。
 その辺を危惧した話は、龍谷大との試合後のコラムに書いたが、思わず「パスの関学はどこへ行ったんや」と嘆きたくなるほどの3試合だった。
 そんなときに「橋本に刈ってもらった」という梅本君の話を聞き、新聞記者の想像力にスイッチが入った。
 場所は、4年生の幹部が住み込んでいるファイターズホール。夜遅くまで続いたミーティングで、いろんな反省の言葉が出た後、腹を固めたアシスタントコーチが「俺、坊主になるわ。橋本、刈ってくれ」と、主将に声を掛ける。
 「ええっ」と思いながら、それでも電動バリカンを手にする主将。いざ、先輩の髪にバリカンを入れる時、胸中にどんな思いがよぎったろう。
 「俺たちが至らないばかりに、先輩が坊主になる」「先輩に、コーチに、こんな思いをさせたらあかん」「俺たち4年生が死ぬ気になって頑張らなあかん」「言葉でなく、行動で見せな!」
 僕が思うに、丸坊主にしてくれ、といった方も、それを実行する方も、多分、こんな言葉は口にしなかっただろう。けれども、新聞記者半世紀の経験から想像すれば、互いに胸の奥深いところで、上記のような「会話」を交わし、よし、俺がチームを覚醒させる、俺たちがチームを変えてやる、と固く誓ったに違いない。
 アシスタントコーチと主将。いまは立場が異なっているが、現役時代でいえば4年生と2年生。同じファイターズで同じ楕円球を追い、日本1を目指して頑張ってきた仲間である。だからこそ無言の「会話」が成り立つ。言葉に表さなくても、胸の奥深く、腹の底まで染み込む「会話」が交わされたに違いない。
 4戦目、神戸大学戦で見せた、まるで別のチームのようなパス攻撃がそれを証明している。2年生前田泰が8回147ヤード、1年生松井が4回118ヤード、そして先週紹介したJVリーダーの木村が2回47ヤード。QB伊豆や中根、百田のパスもよかったが、それをしっかり受け止めたWR陣の活躍は「奮起」「覚醒」という言葉こそふさわしい。
 大げさに言えば、ここにファイターズにおけるアシスタントコーチの役割がある。監督やコーチと選手、スタッフの関係は、他のどのチームにもないほど風通しがよいが、それでも、相手は年齢の離れた大人であり、どうしても指示を出す側と、それを受け止める側の関係になる。
 けれども、留年してアシスタントコーチを務めているメンバーは、つい先日まで、同じグラウンドで汗を流し、涙をともにした仲間である。立場からいえば指導する側ではあるが、学生にとってはなにかと頼りになる兄貴であり、時には格好の練習台を務めてくれる存在である。
 梅本君だけではない。今年も就職活動が終わった順に、次々とアシスタントコーチを務める5年生がグラウンドに顔を出し、練習台を務めている。OLの油谷君、OLとTE、DLとLBを必要に応じて使い分ける森岡君、同じくRBとLBの双方を務める西山君、スカウトチームのQBとレシーバーを務める松岡君。RBの飯田君は夏合宿で膝に大けがをし、手術を終えたばかりというのに、足を引きずりながら練習に顔を出し、にこにこと後輩の動きを見守っている。ディフェンスでは神様と呼ばれるLBの吉原君が常連だ。トレーナーの黒田君やK三輪君の顔も見える。
 彼らもまた、僕の気付かないところで、後輩たちの悩みを聞き、飯をおごり、そして問題解決の手掛かりを与えているのだろう。
 毎年、顔ぶれは変わっても、こういう頼もしい先輩に支えられて成長し、一人前の人間になっていくのがファイターズである。
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2015年10月12日

(26)涙の出るプレー

 木曜日は紀州・田辺の新聞社から上ヶ原のグラウンドに直行。金曜日は大学の授業。土曜日は早朝から前日の授業で受講生に書かせた小論文の採点と講評。半分だけ済ませて王子スタジアムに駆けつけ、ファイターズの応援。一度西宮の自宅に帰って喪服に着替え、夕方、三田市の葬儀場へ。子どもの頃から世話になった親戚のおじさん(享年92歳)のお通夜である。
 今週は、日曜日も本業の新聞社で仕事があるので、夜明け前に西宮を出発して紀州・田辺に直行。半分、寝ぼけた頭から「TPPと紀州のミカン農家」をテーマにしたコラムをひねりだし、なんとか役割を果たす。世間は3連休というのに、今月末で71歳になる爺さんは東奔西走。この3日間の車の走行距離は400キロを超えている。
 今夜は、手作りの夕食を「うまい! 俺はなんて料理がうまいんだろう」と自分で自分をほめながら腹を満たし、疲れた体を長風呂でほぐしてほっと一息。コーヒーを一杯飲んで、ようやくいま、ファイターズのコラムを書く順番がめぐってきた。
 さて、本題である。
 午前11時30分キックオフという早い時間帯から始まった神戸大学との試合は、終始、ファイターズのペース。立ち上がり、先攻の神戸の攻撃をいきなりDL小川のパスカット、LB作道の激しいタックルで簡単にパントに追い込み、自陣25ヤードからファイターズの最初の攻撃シリーズが始まる。
 まずQB伊豆がWR前田に3本連続でパスをヒット。3ヤード、10ヤード、32ヤードと確実に陣地を進める。守備陣の意識をパスに引きつけた後、4プレー目はRB山口が16ヤードを走り、仕上げはRB野々垣が中央14ヤードを突き抜けてTD。わずか5プレーで75ヤードを進める鮮やかな攻撃を展開する。
 次の神戸の攻撃も3プレーでパントに追いやり、自陣34ヤードから再びファイターズの攻撃。今度は第1プレーで伊豆からWR松井に47ヤードのパス。簡単に相手ゴール前18ヤードに陣地を進め、そこから今度はRB高松、山口、野々垣に連続してボールを持たせ、ここもわずか5プレーでTDに結び付ける。K西岡のキックも決まって、1Q半ばというのに14−0とリードを広げる。
 2回の攻撃シリーズに要したプレー数は計10回。そのうち短いパス2本、長いパス2本をすべて成功させて陣地を進め、残る6回は野々垣、高松、山口に2回ずつボールを持たせてTDにつなげる。守備は2度とも相手を完封し、攻撃はこれ以上は望めないほどの美しいプレーで、相手を圧倒する。ともに「これが今年のファイターズだ」と宣言したような立ち上がりで、過去3戦とは雲泥の差があった。
 伊豆の仕上がり具合に満足したのか、ベンチは2Qの半ばからQBを中根にスイッチ。中根もまた万全のオフェンスラインに守られてのびのびとプレーする。前田にいきなり35ヤードのパスを通してゴール前17ヤードに迫ると、そこからは山口、野々垣が走って残り3ヤード。そこはお約束のように山口が走ってTD。自陣35ヤードから始まった続くシリーズでも松井への54ヤードパスなどで一気に陣地を進め、仕上げはFB市原への1ヤードパス。これまた二つのシリーズあわせて12プレーという無駄のない攻撃で前半を28−0で折り返す。
 驚いたのは後半の立ち上がり、自陣30ヤードから始まったファイターズの攻撃。中根からピッチを受けた山口があれよあれよという間に左サイドを駆け上がり、70ヤードを走り切ってTD。ボールを手にしてからの縦に上がるスピード、守備陣とブロッカーの動きを見ながら走る余裕。この日、2本のロングパスをこともなげに捕球した松井とともに、今春入部した1年生とは思えないほどのすごみを見せたシーンだった。
 場内の興奮、相手カバーチームの動揺が冷めやらぬ中、ファイターズのPATはロンリーセンターの体型からホールダーの石井がWR池田にパス。それが見事に決まって2点をもぎ取る。油断も隙もないチャレンジで、試合を支配し続ける。
 4Q残り3分少々というところで、ファイターズはQBを2年生の百田に交代させ、前節の龍谷大戦で8本中7本のパスを通した力が本物かどうかを試す。
 1回目のシリーズは2本のパスを失敗し、簡単にパントに追いやられたが、2回目のシリーズ、自陣42ヤードから始まった攻撃では、いきなりWR木村に43ヤードのパスをヒット。自慢の強肩を披露する。さらに同じ木村に今度は短いパスを通して残り10ヤード。そこから自身のスクランブルでゴール前1ヤードに迫り、仕上げはRB山本の中央ダイブ。試合経験の少ない百田にとっては、首脳陣にアピールする貴重なTDとなった。
 ただし、このシリーズで僕が拍手を送ったのは、百田のパスをキャッチした4年生の木村である。1本目の長いパスも、2本目の短いパスも結構難しいコースに飛んできたが、2本とも見事に捕球したからだ。彼は2年生の頃はJV戦で活躍していたが、上級生になってからはもっぱらJVレシーバーたちのリーダー役。今季の関西リーグで試合に出場したのも、パスが飛んできたのもおそらく初めてではなかったか。その滅多にない機会を2度とも成功させたのだが、そこに僕は控えプレーヤーの意地を見た。チームの期待が集まる後輩QBを俺のキャッチで育ててやるというプライドを感じたのである。
 彼の二つのプレーを見て、これがファイターズの上級生だ、これが控え選手のプライドだと思うと、なんだか心がぽかぽかし、涙が出そうになった。
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2015年09月30日

(25)評価は難しい

 関西リーグ第3節、龍谷大との試合は、極めて評価が難しい。評価の基準をどこに置くかによって180度異なる結論が出る気がする。コップの水が半分になっているのを見て「まだ半分ある」と思う人なら満足できる結果だったかも知れないが、「もう半分しかない」と思う人にとっては、課題山積という結論が出てくるだろう。
 たいていの場合、僕は「まだ半分ある」と思う人間であり、このコラムでもよい方の側面に光を当てて書くことを心掛けている。人は褒められた方がモチベーションが上がると信じているからだ。僕自身、人からあれこれと言われると、それだけで「うるさい!ほっといてくれ」といいたくなるし、逆に、少しでも褒められると、それだけで有頂天になり「よっしゃ、今日も頑張っていこう!」と元気が出てくる。70の爺さんにしてこんな調子だから、20歳前後、成長途上の青年たちにとっては、外野からあれこれいわれても、うっとうしいだけだろう。
 それは承知の上で、今回は普段とは調子を変え、少々意地悪な目で試合を振り返ってみたい。
 まず最初に、最終スコアは49−0となったが、本当にそれだけの力量差はあったのか。
 僕はなかったと見る。それは、双方がベストのメンバーでスタートした最初の攻撃シリーズが証明している。
 先攻のファイターズは、相手キッカーが微妙な位置に蹴り込んだキックをWR木下が判断よく確保し、自陣36ヤードからの攻撃。しかし、第1ダウンはQB伊豆から木下へのパスがオーバースローとなって失敗。第2ダウンは野々垣のランで7ヤードを進めたが第3ダウンのパスが相手DBの好守にはばまれてまた失敗。せっかくの好位置からの攻撃を簡単にパントに追い込まれた。
 これに対して、龍大の攻撃は自陣ゴール前14ヤードから。難しい位置からの攻撃だったが、相手はパスとラン、そしてQBのキープやドロープレーをキーに、テンポよく攻めてくる。あれよあれよという間に3度のダウンを更新し、わずか8プレーで関学ゴール前30ヤードまで攻め込んできた。
 ここでLB陣とDB陣が奮起し、何とかパントに追い込んだ。しかし、ここでスピードのある強力なRB2人を有する相手がランプレーに特化して攻め込んでいたらどうだったか。パスだけでなく走る能力も高いQBを加えた3人で右や左に揺さぶられたら危なかったのではないか。
 このピンチをしのいだファイターズの攻撃は自陣28ヤードから。ここは慎重にRB高松と野々垣のランを中心に陣地を稼ぎ、ようやく最初のダウンを更新。次の攻撃で伊豆からWR亀山へ34ヤードのパスが通って相手ゴール前28ヤード。さらにTE山本、WR水野への短いパスを通してゴール前12ヤード。そこから高松が2度のラッシュでようやくTD。西岡のキックも決まって7−0。
 主導権を握ると、いまのファイターズは地力がある。次の龍大の攻撃を守備陣ががっちり受け止め、簡単に攻守交代。相手パントが悪く、相手陣48ヤードからファイターズの攻撃が始まる。ここは確実に計算できる山口、野々垣のランでぐいぐいと陣地を進めてゴール前3ヤード。相手が中央のランプレーを警戒している逆をついて伊豆がWR前田泰一への3ヤードのパスを決めてTD。14−0となって、攻守ともに落ち着きを取り戻した。
 その後、ファイターズは第2Q9分に野々垣のラン、第3Qに入っても高松、山口が確実なランプレーでTDを重ね、第4Qの半ばからは控えのQB百田を投入する。攻守のメンバーも次々に2枚目、3枚目の顔ぶれに交代している。その中には、DB横沢、LB稲付など期待の1年生の顔も見える。
 期待の百田は、自陣ゴール前から3年生WR芝山に95ヤードのTDパスを通すなど、8回の試投で7回のパスを成功させた。長いパスを受けた芝山や前田耕作、渡辺らとともに、大いに自信をつけたに違いない。
 しかし、これはあくまでファイターズが主導権を握ってからの得点経過であり、論評である。この試合全体についての評価を、その裏側の事情(試合後、龍大のヘッドコーチ村田さんから聞いた話なども参考になる。村田さんはその昔、ファイニーズのヘッドコーチをしておられた頃から、親しくしている友人である)まで含めて、辛口の量りにかけたら、どんな答えが出るか。
 答えは平均点以下である。理由を箇条書きにしてみよう。
 1、相手には、QBをはじめRBやWRなどスキルポジションに強力な選手がいたが、ラインはそれほど強くはなかった。
 2、相手は元々、選手層が薄いのにけが人が続出し、途中からはファイターズに対抗出来るメンバーが組めなくなっていた。特にラインには1、2年生が多く、ファイターズの2枚目とは明らかに力量差があった。そこで挙げた得点を、自分たちの能力で勝ち取ったと思うと大きな勘違いになるのではないか。
 3、相手QBの能力は高かったが、点差が開いてからは淡泊なプレーになっていた。
 4、一方、ファイターズはパスが思うように通らなかった。QBのコントロールが悪かったのか、レシーバーのボールへの執着心が薄かったのか。僕には判断する材料はないが、少なくとも昨年の木戸君や横山君、樋之本君なら確実にキャッチしていたようなボールを捕球できなかったのは事実である。
 5、なるほど、この日の百田君のパス成功率は高かった。それは称賛に値する。しかし、久方ぶりに試合に復帰した彼にいうのは酷かもしれないが、最初の短いパスを失敗したことが気になる。よーし、百田君頑張れ、という仲間の信頼を、この一投でくじいたからだ。
 これは先発した伊豆君にも、あるいはどのチームQBにも言えることだが、チームの信頼があってこそ、QBはそのミッションが果たせる。例え勝負の行方が見えていたとしても、短い1本のパスさえおろそかにしてはならないのである。
 勝負がかかる緊張した場面で、決めるべきパスが決まらないとどうなるか。昨年のライスボウルで、ここぞというパスが1本通らなかったばかりに逆転に追い込まれた例を挙げるまでもないだろう。
 社会人に勝って日本1になるというのなら、最も厳しい状況を想定して試合に臨まなければならない。相手はオールジャパン級のメンバーであり、フットボールの本場から来た強力な選手たちである。ランも通らなければパスもはじかれるという場面が連続するということは、容易に想像出来る。逆に、どんなに気合いを入れても相手のランが止まらないという苦い経験もしている。それはこの4年間、先輩たちが身にしみて味わったことである。
 龍大との試合、そして先日の京都大との試合。双方がベストメンバーを組んできたときの苦しい立ち上がりを見ただけでも、まだまだ「社会人に勝って日本1」というようなことを口にするのはおこがましいのではないか。攻守のラインも、レシーバーも、デフェンスバックも、まだまだ体を鍛え、技術を習得していく必要がある。1本目のメンバーが次々にけがをし、控えのメンバーで戦ったチームに勝ったからといって、それを喜んでいるようでは、話にならない。

付記
 お知らせが一つあります。30日発売の「タッチダウン11月号」に僕が書いた原稿が掲載されます。見出しでいうと「KGリベラルと大阪商人の知恵」。堂々4ページです。興味のある方は本屋さんに走って下さい。多分、アメフットの専門記者なら誰も書かないし、思いもつかない話だと自負しています。
posted by コラム「スタンドから」 at 21:23| Comment(1) | in 2015 season

2015年09月24日

(24)メンタルコーチ

 ラグビーのワールドカップイングランド大会で、日本代表が南アフリカに勝ち、日本中が盛り上がっている。僕の働いている和歌山県田辺市の新聞社でも、これまで高校ラグビーの県予選ぐらいしか見たことのない記者がにわかに専門家のような口ぶりで、あれこれと解説してくれるくらいだから、東京や大阪など大都市圏では、大変な騒動になっているのは想像に難くない。
 そんな中で一つ、興味深い記事を見つけた。共同通信が配信した「南ア戦勝利、陰の立て役者」という記事である。スポーツ心理学者であり、代表のメンタルコーチを務めている兵庫県立大学准教授、荒木香織さん(42)を取り上げ、彼女が日本代表のメンタル面をどのようにサポートしたかを報じている。
 例えば、正確なキックで勝利に貢献したFB五郎丸選手がプレースキックを蹴る前の動作である。拝むように両手を合わせ、前屈みになってからキックを蹴る「ルーティン(決めごと)を一から一緒に作り上げた」と書き、それは「どんな状況でも蹴ることに集中できる」ようにするための決めごとだったと表現している。
 五郎丸選手だけでなく、重圧でナーバスになっていく選手に「W杯や五輪のような非日常では、緊張して当たり前」と説き、ニュージーランド代表などの研究事例を挙げて意識的な呼吸法など具体的な対処法を授けたそうだ。同じ話は、毎日新聞も社会面で扱っていたから、目にされたファンも多いだろう。大きな大会になればなるほど、目の前のプレーに集中することが難しいことを考えると、選手を精神的に支えるコーチの存在が脚光を浴びるのはよく理解出来る。
 しかし、読後、一呼吸置いてみると、実はこうしたルーティンやメンタル面のサポートは、ファイターズではとっくに標準になっているのではないか、という気がしてきた。
 例えば、TDの後のキックやフィールドゴールを狙うとき、ファイターズのキッカーはみな、独特のルーティンを持っている。ボールがスナップされる位置からホールダーの位置までを自分の歩幅で正確に計り、蹴る場所が決まったらゴールポストに向けてまっすぐ片腕を伸ばし、ボールの軌道を頭に描く。大西志宣君、堀本大輔君、三輪隼也君、そして千葉海人君、西岡慎太朗君と続くファイターズのキッカーは、すべて一連のその動作を判で押したように繰り返す。まるで神様、仏様に祈るような動作だが、そうした約束事を何一つ違えずに繰り返すことで、目の前のキックに集中する環境をつくっているのである。
 ことはキッカーに限らない。チーム全体でいえば、前島先生による試合前のお祈りは、選手の精神性を高めるための重要な儀式だし、大きな試合の前に、必ず全員で「Fight on, KWANSEI」を歌うのも、チームをひとつにし、士気を高めるためのルーティンである。
 もとをたどれば、理由やきっかけが明確な決めごともあるし、個人が自分で決めた約束事もある。メンタルサポートというよりは「験担ぎ」に類することも少なくない。それでも、そうした決めごとを墨守することによって、それぞれの部員、指導者がそれぞれ目の前の試合に全力を投入できる精神状態を作り上げてきたのである。
 ファイターズはそれを一歩進めて、学問的な裏付けのあるメンタル面のサポートに、他のチームに先駆けて取り組んできた。10年以上も前から、臨床心理を専門とする池埜聡人間福祉学部教授をメンタルサポートのスタッフ(現在は副部長)として迎え、選手や部員の不安を取り除くための助言をもらっている。その助言は、ときには選手のプレーをサポートする場合もあるし、部活動そのものに対する不安を取り除く場合もある。
 例えば、三輪君が3年生のとき、秋のシーズンで一度もフィールドゴールを決められなかったのに、4年生では100%成功させたことの背景を考えれば、メンタルコーチの役割の一端を理解してもらえるのではないか。
 小野ディレクターからの伝聞だが、池埜先生は2013年度にアメリカのUCLAへ1年間留学した際に学んできた「マインドフルネス」という新しい領域の研究成果を応用し、昨年度三輪君に集中力を高めるトレーニングを行った。三輪君も「とても大きな効果があった」とシーズン終了後、その成果を小野さんに打ち明けたという。
 こういう専門家やトレーナーに支えられて、選手たちは日ごろ鍛えた力をグラウンドで発揮しているのである。
 ラグビー日本代表の大活躍で、一躍脚光を浴びたメンタルコーチとルーティンワーク。しかしファイターズは、10年以上も前からその役割の重要性に目を向け、専任のコーチを雇ったのと同様の活動を専門家に担ってもらっている。毎試合、お祈りの時間を持って下さる前島先生も含め、そういう役割を快く引き受けて下さる先生方の存在がファイターズという「人が育つ」組織を支えているのである。
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2015年09月15日

(23)京大がすごい

 2015年の関西リーグ第2節。例年とは全く異なる時季に迎えた京大との試合は、前回のコラムで予想した通りの厳しい展開だった。
 9月13日午後5時、ファイターズのキックオフで試合開始。自陣23ヤードから始まった京大の攻撃は、まずは中央のランで4ヤード、次はパスで14ヤードと簡単に陣地を進める。ここでロンリーセンターの体型からパスで3ヤード。思わぬ奇襲でファイターズ守備陣を揺さぶった次のプレーは、エースレシーバーへの長いパス。それがずばりと通っていきなり先制のTD。187センチの身長と40ヤード4.6秒のスピードを持つ相手に、鉄壁を誇るファイターズのDB陣が太刀打ちできない。試合開始から1分37秒、わずか4プレーでの鮮やかな先制攻撃だった。
 「これは容易な相手ではないぞ」と観客席がざわめく。ファイターズの攻撃は、相手の反則もあって自陣35ヤードから。QB伊豆がこの試合から復帰したWR木下に4ヤードのパスを通した後、RB野々垣へのスイングパス。これを受けた野々垣が51ヤードを独走して相手ゴール前7ヤード。相手のパスインターフェアの反則もあってゴール前2ヤードでダウンを更新。ここは1年生RB山口が中央のダイブプレーを一発で決めてTD。西岡のキックも決まって7−7。最初の攻撃シリーズでなんとか同点に追いつく。
 しかし、この日の京大は、先日の立命戦とは全く違ったチームだった。攻めては大胆なパスをびしびし通すし、中央のランプレーも進む。逆にファイターズの攻撃はハンドオフのミスでターンノーバーを喫したり、45ヤードのFGを失敗するなど、今ひとつ波に乗れない。何とかLB山岸を中心にした守備陣の踏ん張りで均衡を保つのが精一杯という状況が続く。
 第2Qも終盤。ここでファイターズDB小池が値千金のパス・インターセプト。関学陣35ヤード付近から相手QBが投じたパスを見事に奪って、チームを奮い立たせる。
 前半の残り時間は1分11秒。自陣20ヤードから始まった攻撃を伊豆が見事にリードする。まずは自身のスクランブルで11ヤード、続いて木下への29ヤードパスをヒットさせて相手陣40ヤードに進む。ここで再び伊豆がスクランブルで13ヤードを獲得、ゴール前27ヤードに攻め込む。残り時間は37秒。FG圏内に入ったところで伊豆からWR松井に27ヤードのパスが通ってTD。14−7と均衡を破る。
 このパスをこともなげにキャッチしたのは1年生。春はけがでJV戦にも出場しておらず、この日が大学生としては初めての試合。相手が反則すれすれの激しいプレーを連発している京大ということもあって、相当緊張していたはずだが、185センチの長身とスピードのある走りで相手DBを寄せ付けず、さも当然のようにパスをキャッチ、残る5ヤードを走り切ってTDに結び付けた。
 さすがは鳥内監督が記者会見で「関学史上最高のレシーバーになりますよ」と豪語し、大村アシスタントヘッドコーチが桃山大戦の後「次は木下と松井で勝負します」と自信たっぷりに話していた通りの逸材である。
 後半はファイターズの攻撃でスタート。自陣25ヤードから、野々垣のラン等でダウンを更新した後、再び伊豆が木下へ31ヤードのパスを通してゴール前23ヤードに前進。山口のランや相手の不要な反則などでゴール前4ヤード。ここで伊豆が木下にゴール左隅に浮かしたパスを成功させTD。21−7とリードを広げる。
 これで試合が落ち着くかと思う間もなく、京大の反撃が始まる。中央のランプレーをキーに陣地を進め、ランをカバーすればパスを通す。変幻自在の攻撃で3Q6分38秒にFG、10分14秒にはTDを挙げて、5点差に追い上げる。この辺の迫力は、全盛期の京大攻撃そのもの。守るファイターズの面々も、普段とは勝手の違う試合の進行に、どこか浮き足立っているようにも見える。
 しかし、そういう状況でも、伊豆は落ち着いてプレーをリードする。自陣18ヤードから始まった攻撃シリーズ、木下へのパス2本で陣地を進め、最後はRB高松が右サイドを切れ上がってTD。12点差をつけてチームを落ち着かせる。
 続くファイターズの攻撃シリーズでも、伊豆のドロープレーやスクランブルをキーに時間を消費しながら陣地を進める。相手守備陣が仕掛けてくるブリッツを逆手にとったようなプレーコールが功を奏し、野々垣、山本らのランプレーが前半とは見違えるように進む。仕上げはまたも高松。右オフタックルを抜け、そのまま26ヤードを駆け上がってTD。得点は35−16、残り時間は2分少々。ようやく結末が見えた。
 しかしながら、この試合では、どんな状況にあっても関学に的を絞り、真っ向から立ち向かってくる京大の意地と恐ろしさをまざまざと見せつけられた。シーズン開幕前、相手の監督が「関学−京大戦に1万人の観客を動員しよう」と豪語されていた理由がよく分かった。
 実際、勝つための準備は十分になされていた。攻めては鉄壁を誇るファイターズのDB陣を突破してTDパスを通し、中央のランを面白いほど進める。守っては反則も辞さない激しいカバーでレシーバーに詰め寄る。毎回のようにブリッツを仕掛け、QBの動きを制約する。シーズンをかけてライバルを研究し尽くした成果がたっぷりと堪能出来た。こういう試合を現場で見ることができる幸せを実感した。
 こういう試合が続けば、関西学生リーグはさらに盛り上がる。少なくとも来年の関学−京大戦は、もっと収容力のあるスタジアムを用意しないと大変なことになりそうだ。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:07| Comment(1) | in 2015 season

2015年09月10日

(22)はや京大戦

 まだ9月。フットボールシーズンは始まったばかりというのに、今週末はもう京大との戦いである。毎年、シーズン最後の関京戦で雌雄を決していた往事を知る人間にとっては「なんじゃ、こりゃ!」というしかない。
 振り返れば、ファイターズとギャングスターズの戦力が拮抗し、互いに食うか食われるかの戦いをスタートさせたのは、1975年から。ファイターズは最上級生にQB玉野、RB谷口、WR小川というスター選手を擁し、甲子園ボウルでも連覇をスタートさせていた。
 当時、僕は朝日新聞の阪神支局員で、関学も重要な取材源にしていたから、フットボール部にもちょこっと顔を出し、監督だった武田先生に「何かニュースになることはないですかね」なんて聞いていた。そのとき、初めて書いたのが、いまでいうスナッパー、吉川宏さんの話。「フットボールには、目立たないけれども、重要な役割を受け持つ選手がいる。キッカーもそうだし、キッカーに安定したボールを供給するスナッパーもそうだ」といって、武田先生から紹介されたのがきっかけだった。
 その記事が首尾よく写真付きで社会面に掲載され、それがきっかけで、チームが甲子園ボウルで勝利した後、武田先生を「ひと」欄で紹介するという、支局の下積み記者にしては望外な幸運にも恵まれた。
 76年には、京大出身の新人記者を連れ出して「母校の活躍ぶりをよく見ておきなさい」なんて調子こいていたら、あにはからんや結果は0−21。あまりの出来事に、西宮球場からの帰りのことはすべて記憶にない。
 そういう試合を重ねることで関京戦は、関西リーグの天下を分ける戦いと注目され、毎年、3万人から4万人もの観客が詰めかけるキラーカードとなった。
 そんな京大との決戦について書き始めると夜が明ける。そこで今夜は、どうしても現役の諸君に伝えておきたい試合を二つ取り上げてみたい。
 一つは1983年、両チームとも全勝で迎えたリーグ最終戦。ファイターズが28−30で敗れた試合である。その日、ファイターズはエースQB小野をけがで欠き、1年生の芝川が先発したが、前半で14−30とリードを許していた。後半になっても、ファイターズは反撃のきっかけをつかめない。苦し紛れに3Q半ば、数日前まで松葉杖をついていた小野を起用、局面の転換を図る。
 すると、それまで京大の強力な守備陣に抑えられていたオフェンス陣が奮起。走れなくても4年生エースがフィールドに立ったことで、生まれ変わったような攻撃を展開する。前半、押しまくられていたディフェンスも相手を完封。試合の主導権を取り戻し、ついに2本のTDを決めて28−30と追い上げた。差は2点。残り時間は少ない。当然、2ポイントコンバージョンでを選択、小野がパスを投じる。
 そこで相手がインターフェアの反則。小野ディレクターによると、これは意図的にとった反則だという。ゴールまでの半分、1.5ヤード地点にボールを進めところで、ベンチが選択したのは、足首の捻挫で思うように動けないエースQBではなく、元気のよい1年生QBにボールを持たせて飛び込ませるランプレー。しかし、わずかに届かず、試合終了。優勝はかなわなかった。
 当時もいまも、僕はベンチの作戦を批判するのは好みではない。勝敗は外野の声ではなくグラウンドに帰すと信じているが、この場面だけは別である。なぜ後半、チームを炎の集団に変えた選手を交代させたのか、勝負には勢いこそが肝心なのに、その流れを理屈で断ち切ってしまったのかと、今も残念でならない。
 この話は、小野さんとはもう50回以上は話したことだが、勝負の綾は、理屈だけではない。勢い、集団の圧力、ある種の熱狂状態があってはじめて、選手は120%の力を発揮し、その総和であるチームは150%の力を発揮できる。そこから必勝の道が開けると、僕は信じて疑わないのである。
 もう一つ、記憶から消えない試合がある。2004年、佐岡主将の代が宿敵立命館を破った直後に迎えた京大戦である。その前節、2年連続で敗れていた立命と死闘を演じ、30−28で勝ったばかりのファイターズは、試合直後からどこかちぐはぐだった。立ち上がりから主導権を握っていたが、相手パントをゴール前でリターナーがファンブルし、攻撃権を奪われたのをきっかけに、あれよあれよという間に14点を奪われ、逆転されてしまった。
 相手の得点は、リターナーのファンブル、QBのバックパスの失敗という、ともにファイターズのミスにつけ込んだもの。攻め合い、守り合いでは、圧倒的にファイターズが押していただけに、勝負の怖さを存分に思い知らされた。まさかあの立命に勝ったチームが、そのときすでに優勝戦線から脱落していた京大に敗れるなんて、ファイターズのファンも選手も想像だにしていなかったに違いない。
 しかし、そういうことが起きるのが京大との戦いである。それは1970年代後半からの両チームの歴史が証明している。それを語り継ぐ歴史の証人も、監督、コーチ、スタッフに何人も存在する。いや現役選手以外の全員がその証人と言ってもよい。
 そういう歴史を刻んできたチームとの戦いである。開幕2節目の試合だといって、ゆめゆめ軽視できる相手ではない。必勝の決意で臨んでもらいたい。
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2015年09月03日

(21)ワクワク開幕

 秋というにはほど遠い暑さだが、待望のフットボールシーズンが始まった。ファイターズの初戦の相手は桃山学院。関西リーグには37年ぶりの復帰だという。
 8月30日午後5時。王子スタジアムの天候は何とか持ち直して曇り。風もほとんどない。摩耶山から六甲山にかけ、頂上付近は白いガスがかかっている。おかげで多少とも暑さは和らぎ、この時季としては絶好のフットボール日和である。チームから配られたメンバー表を見ているだけで、ワクワクしてくる。
 先発メンバーには、攻守とも昨年の優勝を支えた面々が数多く顔を揃えている。オフェンスライン(OL)では、TEの松島が欠けただけだし、ディフェンスに至っては大半が昨年から先発や交代メンバーで出場していた選手たちだ。
 それでもQBの伊豆は、秋のリーグ戦では初めての先発だし、WRの3人も一新された。RBの先発は、なんと1年生の山口(横浜栄)である。よほど期待されているのだろう。RBに限らず、秋の初戦に1年生がスタメンに名を連ねるというのは近来、記憶にない。しかし、春のJV戦での活躍や夏合宿の取り組みなどを見て、首脳陣は「ぜひ使ってみたい」と登用したのだろう。
 ディフェンスでも、LBの山本祐輝やDBの松嶋という新鮮な顔が見える。ともに春の試合で頭角を現したメンバーだ。そういう新しい名前を見ると、季節が一回りしたと実感する。
 ファイターズのキックで試合開始。シーズン初戦はどんな選手でも緊張するというが、いまのファイターズにとっては、杞憂でしかない。最初のランプレーをLB山岸のタックルで止めた後の2プレー目。相手QBの投じたパスをいきなり松嶋がインターセプト。たった2プレーで攻撃権を奪取し、相手陣27ヤードからファイターズの攻撃が始まる。
 まずは伊豆からWR水野へのパス、山口のランでダウンを更新。3プレー目に伊豆からピッチを受けたRB野々垣が16ヤードを走り切ってTD。西岡のキックも決まって7−0。早々にファイターズがペースをつかむ。
 続く相手の攻撃を簡単に抑え、自陣40ヤード付近から2度目の攻撃シリーズ。ここも山口と野々垣のランですいすいと陣地を進め、仕上げは再び野々垣のラン。絶妙のカットバックで24ヤードを走ってTD。2点コンバージョンも成功させて15−0と引き離す。
 相手の続く攻撃もDL藤木、LB山岸のタックルで簡単に抑えて攻守交代。ファイターズの3シリーズ目も、WR池永へのパス、伊豆のキープなどで陣地を進め、仕上げは1年生山口。伊豆からオプションピッチを受けると、そのまま24ヤードを駆け上がってTD。期待に違わぬ活躍ぶりに場内がどよめく。
 ここまでに要した時間は10分足らず。ファイターズOLの圧力の強さとDLの反応の速さがやたらと目につく。2Qに入っても守備陣が相手を完封。3分57秒には野々垣が46ヤードを独走して自身3本目のTD。2Q終了間際には伊豆からTE山本へのTDパスが決まって、前半だけで36−0。勝敗の帰趨は見えた。
 こうなると、後半の関心は、どんな交代メンバーが登場し、どんな風に活躍してくれるかという点。期待の1年生QB光藤はいつ登場するのか。OLの交代メンバーは先発の面々にひけをとらないだろうか。パスキャッチがもう一つピリッとしないレシーバー陣はどこで覚醒するか。けがから回復したデフェンスの交代メンバーがどれだけ動けるのか。早くメンバーをチェンジして、そういった点を確かめたいというぜいたくな考えが頭をもたげてくる。
 自分でも欲張りだとあきれながら「いやいやシーズンは長い。余裕のあるうちに交代メンバーの底上げをし、誰がけがをしても対応できるようにして置かなければ」と、まるで監督やコーチになった気分でグラウンドを眺めている。
 やがて期待に違わず、次々と新しいメンバーが登場する。その大半は、春の試合やJV戦での活躍、そして夏合宿で顔と名前が一致するようになった選手だが、そのうち名前を聞いたこともないし、素顔も知らない選手が活躍し始める。DBの泉、1年生RBの中村(啓明学院)らである。とくに中村は光藤のハンドオフを受け、あれよあれよという間に中央を抜け出し、22ヤードを走り切ってTDまで奪ってしまった。
 閑さえあれば練習を見に行っているのに、全く知らない選手が活躍したというのは新鮮な驚き。同時に、こういう選手が出てくるからファイターズは強いんだ、と感心した。
 さて、次週は京大戦。9月の半ばに京大と当たるというのも、これまた記憶にないが、相手は京大である。ゆめゆめ油断できるチームではない。じっくり練習に取り組み、互いの力が出し切れる試合を期待している。
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2015年08月27日

(20)ああ10年、333回

 高校生の夏休みを利用して毎週1度、開催している勉強会でのことである。先日は、実際のスポーツ選抜入試を想定して、過去問にチャレンジしてもらった。
 チームのスタッフが用意してくれた昨年の問題を見て驚いた。村上春樹の『走ることについて語るときに僕の語ること』(文藝春秋)から出題されているではないか。
 「おお懐かしい。この本については、僕も以前、このコラムで書いたことがある」。そう思って、過去のコラムを繰ってみると、ありました。2007年11月10日に「苦しみは選択事項」というタイトルで書いている。
 そこにはこんな言葉がある。「この本の急所に当たる言葉が『痛みは避けがたいが、苦しみはオプショナル(選択事項)』であり、オプショナルとしての苦しみを通して学んだメモワールを綴ったのがこの本である」「気持ちの持ち方ひとつ、取り組む姿勢ひとつで、すべての景色が変わってくる。諸君の人生のありようまでが変わってくる。苦しみを力に替え、エネルギーにして、勝利への道を突っ走ってもらいたい」
 そのコラムを読み返しながら、毎年、飽きもせず、同じようなことを書いているな、としばし感慨にふけった。
 振り返れば、このコラムをファイターズのホームページに書き始めたのは2006年5月。柏木君が主将、いまオフェンスのコーチをしてくれている野原君が副将の時代だった。それから数えて今季は10シーズン目。その間、チームは甲子園ボウルに6回出場し、5度の優勝を飾っている。
 その間に書いたコラムは、前回までで計333回。毎回、ざっと2000字を書いたとすると66万6千字、400字詰め原稿用紙にして1665枚になる。
 そのうち甲子園ボウルを制覇した5シーズンは、部員にプレゼントするためにその年のコラムを冊子「栄光への軌跡」にまとめて発行しているから、それぞれの年に関しては、即座に手元で原稿を確認できる。いま、2007年版の「栄光への軌跡」を懐かしく読み返しながら「よくぞまあ、書き続けてきたことよ」と半ばあきれ、半ば感心している。
 「塵も積もれば山となる」か、それとも「ただのマンネリ」か。評価は読む人に任せるが、本人としては、ファイターズという魅力たっぷりのチームにこの10年、ずっと伴走し、その成長ぶりをつぶさに観察し続けてこられたことに、ある種の幸福感と充実感を味わっている。
 よい機会だから、最近、このコラムを読んでくださるようになった読者に、僕がなぜ、このコラムを書くようになったか、そのいきさつを紹介しておきたい。ちょうど「苦しみは選択事項」というコラムを書いた前の週、2007年11月1日にそのことについて書いているので、興味のある人は過去のコラムから引っ張り出して読んでもらうと、事情は明らかだが、ひとことでいえば、こんな話である。
 そもそもファイターズのOBでもない、ただの新聞記者(それもスポーツの担当ではなく、生粋の社会部記者)の僕に「ファイターズを中心にしたスポーツコラムを書いてほしい」と声を掛けてくれたのが、当時、オフェンスのコーディネーターをされていた小野コーチだった。
 僕はその4年前から、朝日新聞のニュースサイト「アサヒ・コム」に、その名も「スポーツ・ジャーナル」というコラムを毎週書き続けていた。いまは亡き親友がそのサイトの編集長をしていた縁で依頼された仕事だったが、それを書きながら、いつも日本のスポーツジャーナリズムの底の浅さに不信感を持っていた。試合に勝った負けたのことしか関心がなく、なぜ勝ったのか、なぜ敗れたのか、スポーツを通して何を学び、どのように自己実現を図ったのか、というような部分に光を当てたコラムがほとんどないことにいらついていた。
 スポーツの専門家が書かない(書けない)のなら、僕が書いてやる。スポーツを興行とか娯楽とか趣味とかいう視点ではなく、もっと文化的、教育的な側面からとらえる見方があってもよかろう。そのためには「素人」の視点こそが不可欠だ。ならば、僕がチャレンジしてやる。そういう野心と心意気でスタートしたのがこのコラムである。
 以来、10年。そのトータルが333回、66万字である。当初の目的が達成されたかどうかは、読者の判断に委ねるしかないが、少なくとも僕は「目指す方向性は間違っていなかった」と思っている。
 それはこの春、プリンストン大学を招いた際に関西学院大学が開催したシンポジウム「プリンストン大学と考えるグローバル人材の育て方」の中で、双方のパネリストが「課外活動は、人間力を育む」として「文化としてのスポーツ、教育の一環としての課外活動」に焦点を当てて議論を交わしいるのを聴いて、確信に変わった(アリソン体育局副局長の基調講演日本語訳)。
 今季もいよいよ関西リーグが開幕する。リーグが始まれば、最終の立命戦まではあっという間。首尾よくライバルたちを倒して甲子園、東京ドームへと駒を進めることができたとしても、ほんの4カ月余の期間である。
 けれども、その短い時間の中で、橋本主将を中心にしたファイターズの諸君は、必ずや心に刻む試合を演じてくれるに違いない。そう思うと、週末の開幕戦が待ちきれない。
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2015年08月19日

(19)夏合宿

 先週末の2日間、休みを利用して東鉢伏に出掛け、ファイターズの夏合宿を見学してきた。監督、コーチ、スタッフ、そして選手が全員、ここが勝負どころと気合いを入れて取り組んでいた。張り詰めた空気。とても半端な取材が出来る雰囲気ではない。2日間、じっとグラウンドの片隅で目に映る光景を眺めていた。以下、そこで見たことの一端を報告する。
 @練習の密度
 合宿といっても、部員たちが一日中、グラウンドに出ているわけではない。日によってスケジュールは異なるが、午前の練習はJVは8時半から9時半、Vチームは9時半から11時、その後少しばかりアフター練習をすることもある。Vチームが練習をしている時間、JVのメンバーは体幹トレーニングなどに取り組む。
 昼食後、簡単なミーティングや休憩をとり、午後の練習はおおむね3時から。ここもJVチームが先にグラウンドで練習、その後にVチームの練習。6時にはすべてを切り上げて食事。その後入浴や洗濯を済ませ、ミーティングが続く。日によっては、ほかに早朝、食事前に短い練習を組み込む日もあるし、キッキングの練習をする日もある。
 こうした時間の流れを見れば、意外に練習時間が短い、と感じられる方も多いだろう。しかし、問題は時間ではない。密度である。とにかく練習の開始から終了まで、途中サプリメント補給の短い休憩を挟んで、秒刻みで練習メニューが進んでいく。一つのメニューから次のメニューに移るまでの移動も、スタッフを含めた全員が駆け足。手を抜いて休憩する時間もない。
 これは上ヶ原のグラウンドでも同じことだが、合宿に来ると練習の密度がさらに濃密になる。事前にその日のスケジュールと練習メニューを全員に周知し、全員が秒刻みで行動することが習慣になっているからこそ可能なことだろう。
 密度だけではない。練習の内容がまた濃い。オフェンスとディフェンスがガチンコで対決し、互いに譲らない。仲間内の練習だからといって手をゆるめたりする部員は一人もいない。当然、けが人も出るが、それも織り込み済みのように思えるほどの迫力のある練習が続く。
 僕が夏合宿の見学をするようになって10年ほどになるが、チーム内の競争と練習内容の濃度は毎年、より激しくなっているように思える。
 A合宿に参加するOB
 ここ数年に限っても、合宿の激励に来てくれるOBは毎年増えている。今年は古いOBの姿も目立った。もちろん、練習台を務めてくれる若手OBも多い。僕が出掛けた日にはなんと最近4年間の主将が全員顔を揃え、練習に加わってくれた。11年卒業の松岡君、12年の梶原君、13年の池永君、そして14年の鷺野君である。それぞれの学年の仲間を誘い合ってきているから、まるで同窓会のようだ。
 現役の頃とはまるで違った体型になったOBもいるが、それぞれがファイターズの歴史に残る名選手であり、学生相手に4年間負け知らずのチームを築いた闘将である。それが練習を手伝い、後輩たちに胸を貸してくれた。梶原君のような社会人チームの現役選手もいるし、鷺野君のように「合宿に備えて急きょ、筋トレをしてきました」というOBもいる。
 こうした「オールスターメンバー」に加えて5年生でアシスタントコーチを務めている面々が練習台を務めてくれるのだから、現役選手にとっては何よりの刺激になる。仲間内の練習だけでは気付かない気付きも得られる。当然、練習の内容は濃くなっていく。本当にありがたいことだ。
 久々に顔を出してくれた古いOBが増えたことも含め、ファイターズというチームが先輩たちの魂のふるさと、帰るべき場所になっているからこそのことだろう。ここに、ファイターズの特徴があり、それがチームの財産になっていると痛感する。
 そんな感想を夜、一緒にテーブルを囲んだOB会の役員の方々に話すと、こんな答えが返ってきた。「ファイターズが懐かしくて帰って来るOBはもちろん多い。けれども最近は、自分が現役の頃にやり残したことに再度挑戦しようという気持ちで会に貢献してくれるOBが増えています」
 なるほど。そうしたOBも含めて「現役を支援する活動」が盛んになってきたのか。ファイターズ・ホールの設立に尽力し、OB会費の納入率を上げ、夏合宿の激励に訪れるOBが年々増えていくというのは、同じ根っこから育った兄弟なんだ、とこれまたチームの奥行きの深さに感動する。
 B平郡君に誓う
 8月16日は、平郡雷太君が2003年にこの東鉢伏で亡くなられた日。部員、コーチは全員午前6時半にグラウンドの前に集合し、鳥内監督の言葉を聞いた後、黙祷を捧げた。彼を知っている現役の部員は一人もいないが「平郡雷太」という名前は、全員が知っている。上ヶ原の第3フィールドを見下ろす「平郡君のヤマモモ」の根方にある「平郡君の碑」に毎日頭を下げ、プレートに刻まれた文章を読んでから毎日の練習に取り組んでいるからである。
 この合宿にも、平郡君への誓いを刻んだプレートが持ち込まれ、グラウンド入り口の机の上に置かれている。選手たちはグラウンドに降りる前には必ず「平郡さん、勇気を与えて下さい。僕らが高き頂きに挑むために」の言葉で始まるこの誓いを読んで、練習に取り組む。その意味で、平郡君もまた、毎年、この合宿に参加し、後輩たちを励ましてくれる得難い先輩である。
 こういう先輩に終始見守られ、励まし、叱咤されているファイターズというチーム。その濃密な練習とOBとの絆、チームのたたずまいの一端をご紹介できるのは、何よりもうれしいことである。
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2015年08月10日

(18)ファイターズ・ホール

 7日も雷、8日も雷。上ケ原の第3フィールドは朝方、快晴の天気だったのに、夕方は2日続けて雷が襲来し、2日ともチーム練習が中止になった。10日から始まる夏合宿を前に、監督・コーチも選手たちも、いい加減に勘弁してくれ、という気持ちだったろう。
 でも、地震、雷、火事、親父。ぐだぐだ文句を言っても勝てるわけがない。ピカッ、ゴロゴロ、バリバリ、ドーンという賑やかな天の協奏曲を聞かされては、練習は中止するしかない。
 ということで、今日はチームから少し離れて、ファイターズ・ホールの紹介をしたい。
 このホールのことは、OBの皆さんにとっては、これまでも節目節目に会議があり、その都度、進行状況も報告もされているようなので、いまさら、ということになるかも知れないが、一般のファンの方には、まだ正式なお披露目が終わっていない。そこで今回はその詳細をご紹介したいと思い、OB会長の竹田行彦さんに取材した。
 ファイターズ・ホールは、西宮市上ケ原山手町の住宅街の一角にある。学生会館からは約300歩、第3フィールドまでは400歩ほど。昔の高等部と「松本商店」の間の通りを山側に突き当たったところの道路の上といえば、関学で学んだ人なら迷うことなく到着できる。ライトブルーの塗装をした瀟洒な2階建てが目的のホールである。
 この施設は、鉄骨木造2階建ての民家(敷地は110坪、建物は66・52坪の2階建て)をOB会が購入し、全面的に改装した。費用はあわせて約1億円。「建築関係の仕事に携わるOBたちが全面的に協力し、相場より相当安い価格で改装工事と外構工事を引き受けてくれたので助かりました」と竹田会長。
 以前は立派な庭のあった正面に、駐車スペースと自転車置き場が新設されている。とんとんと短い階段を上がれば玄関である。室内に入れば、米田満先生の寄贈になる戦後再スタートしたばかりの頃のユニフォームが迎えてくれる。まるでセーターのように見える立派な仕立てだ。戦後、すべての物資が窮乏していた時代に、誰がどういう手立てで、このような立派なユニフォームを調達されたのか。ファイターズの「兵站部門」の底力を目の当たりにする気持ちである。
 玄関を入って右手の部屋がOBの方々を迎える応接室兼事務室兼管理室。真新しいフローリングの床、優勝カップやトロフィー、チームの関係資料や懐かしい試合を収録したDVDなどが壁面に飾られている。聞けば、ホールを管理するOBが在室の時には、室内の見学やDVDの鑑賞も可能だという。
 しかし、このホールの心臓部は、玄関を入って正面の広間。ここは食堂にもなり、小規模なミーティングの場所にもなる。そして一角は治療スペースになっていて、専門的なメンテナンスを受けることも受けられるようになるそうだ。
 グラウンドからほんの数分の距離に、こうした施設が出来ることで、通院時間やそれに伴う交通費などが不要になり、部員の負担は大いに軽減する。けがなどの早期治療が可能になり、回復を早める効果も期待できる。チームからOB会に「是非ともこうした設備をつくってほしい」という要望に応えた施設だという。
 もう一つある。1階に設置された風呂場である。建物の規模の割には大きな風呂で、練習後の部員がさっさと入浴することができる。これもまた「シャワーだけでは疲労はとれない。ゆっくり入浴できる設備がほしい」というチームからの要請に応えた設備である。
 そして2階。この日は見学できなかったが、ここの3室で4年生6人が共同生活をしている。毎日の練習やミーティングが終わり、解散した後もチームの運営について話し合い、互いの意思疎通をよくするためだ。自宅通学でも、4年生になると学校の近くに下宿し、24時間フットボール漬けの生活を送る幹部は以前からいたので、希望者に対して世間相場より安い部屋代でバックアップしようという目的だという。
 こうしたある場面では現役学生の集会所であり、治療施設であり、宿泊施設。またある場面ではOBたちの心のふるさと、帰るべき場所となる施設。それがファイターズ・ホールである。
 この施設をOB会が作り上げた。すごいことである。さすがは1460人のOB会員を擁し、そのうち会費支払いが免除となる65歳以上の会員を除く8割以上が年間2万円の会費を納入する(昨年度の納入率は88%、最近の卒業生では納入率100%の学年もあるそうだ)ファイターズOB会である。母校を応援し、後輩たちのため
に、少しでもよい環境をと努力される姿には頭が下がる。
 しかし、それでもまだ、ホールの購入や改装に要した資金がすべてまかなえたわけではなく、OB会は今後10年間に3千万円の寄付を募るそうだ。今後は運営にも費用がかかる。大事業に取り組むファイターズOB会のパワーには敬意とともに驚きを禁じ得ない。
posted by コラム「スタンドから」 at 21:42| Comment(0) | in 2015 season

2015年07月28日

(17)開かれたチーム

 ファイターズの諸君はいま、前期試験の終盤戦。部活動も制約を受け、チームとしての練習も停止されている。上ヶ原の第3フィールドを訪ねても「暑熱順化期間」ということで、試験の終わったメンバーが交代で日中の短時間、グラウンドに集まり、暑さに慣れるために体を動かしている程度である。本格的な夏の練習は8月1日から始まる。
 その、いわば空白期間を利用して、先日、大阪の朝日カルチャーセンターで開かれた小野宏ディレクターの講演の話をしたい。
 講演のタイトルは「アメリカンフットボールの本当の魅力」。これに2014シーズンのターニングポイント、という副題がついている。目次でいえば
1、立命戦の戦略
2、甲子園ボウル 爆発したインサイドパワーシリーズ
3、ライスボウル第4ダウンギャンブルの裏表
4、スーパーボウルのプレー選択は大失敗か
5、1983年関京戦〜2ポイントで考える人生哲学
 それぞれのシーンを、ビデオで再現しながら、コーチの視点で具体的に解説された。
 聴衆は約130人。試合会場でいつも一緒になる知人やアメフットが大好きと公言される関学の先生らの顔が見える。参加者の名簿を拝見すると、選手の保護者も何人かはお見えになっていたようだ。今年で4年目という人気講座であり、わざわざ東京からお見えになった方もいる。他大学の関係者らしき人も散見される。
 そうした中で、関西リーグの優勝を決める立命戦で展開した「クイックノーハドル・オフェンスの意図と実際」について、最初のタッチダウンにつながる10プレーについて、1プレーずつ解説。なぜ、ここでWRへのドロップバックパスを選んだのか。なぜRB橋本に3回連続で中央のランプレーをコールしたのか。10プレー目で橋本がファンブルしたボールを、なぜC松井がカバーし、TDに結び付けることができたのか。その前に、なぜこのクイックノーハドル・オフェンスを選んだのか。そこにどういう意図があったのか。そしてそれは、どのような効果を挙げたのか。成功に導くために、選手やスタッフはどのような行動をしたのか、というようなことについて、具体的な解説が続く。
 コアなアメフットファンなら、誰もが知りたい内容であり、ライバル校にとっては大金をはたいてでも入手したい情報である。それを惜しげもなく公開し、それぞれに懇切丁寧な解説を付ける。そして、急所なる点については、この日、特別ゲストとして関係者席に座っていた大村アシスタントヘッドコーチにマイクを向け、現場の生の感覚を聞き出す。聞いていて、ここまで情報を公開して大丈夫かいな、と心配になるほどのサービスぶりだった。
 これは立命戦の解説だけではない。日大と戦った甲子園ボウルで展開した「インサイドパワー・シリーズ」の狙いと成果、そのための工夫と勘所。パスとランの有機的な組み合わせ、それぞれの裏に秘められたフェイクプレー。さらには、ライスボウルで徹頭徹尾追求した第4ダウンギャンブルの狙い。それぞれについて、これまた丁寧な解説を続け、フットボールがいかに知能を使うスポーツであり、かつ合理的なスポーツであるという点について力説する。
 その上に、おまけが二つ。今年のスーパーボウル、24−28で迎えた最終盤、ゴール前1ヤードで追い上げるシーホークスが選択したプレーの解説と、小野さん自身がQBとして出場した1983年、京大との戦いの最終局面の解説。
 二つの解説を聴きながら、フットボールのコーチは、なんと緻密に試合展開を考えているのか、一つ一つのプレーコールに、そこまでの深い意味があるのか、とあらためて感慨を覚えた。そして、理詰めに考え、あらゆる可能性を考慮した選択であっても、時には理屈通りには行かないのがフットボールであり、それも魅力の一つなんだと感じ入った。
 フットボールには、競技そのもののおもしろさに加えて、その背後に宿っているコーチやプレーヤーの人生哲学までを視野に入れて楽しめるスポーツである。その面白さ、楽しさを広く知ってもらいたい。そして文化としてのフットボールを広くこの社会に普及させたい。そんな小野さんの願い、ひいてはファイターズの希望を込めて開かれたのがこの日の講演だった。
 そういう大きな目的から考えれば、たとえチームにとっては秘密にしておきたいプレーであっても、惜しみなくその内実を公開する。その考え方が広く共有され、フットボールの奥行きの深さに目覚めたファンが仲間を誘ってスタジアムにきてくれるのなら、それで満足。一人でも多くのフットボールファンを開拓することが、トップチームの使命であり、責任だと割り切って解説を続ける。それに現場のコーチも全面的に協力する。
 お二人の姿を目の前に見て、ファイターズは本当に開かれたチームであることよ、こうした姿勢があるから、常に新しい戦術、戦略を考え、導入し、それを遂行することが出来るチームに育っていくのだよ、と感じ入った次第である。
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2015年07月21日

(16)続・スタッフの力

 前回のコラムでは、ファイターズはスタッフが支えていると書いた。しかし、なぜスタッフが成長するのか、という点までは書ききれなかった。そこで今回は、その点について僕なりの考えを書いてみたい。
 まずは、スタッフについて語る上で必要と思える二つの場面を紹介しよう。
 一つは数年前、王子スタジアムでの出来事だった。選手証を首からぶら下げた控えの選手数人が一般客の入場するゲートから入ろうとしているのを見とがめた女子のマネジャーが「あんたら、どこから入ってんの。選手の出入口に回りなさい」と厳しく注意した。選手たちが不服そうな表情をすると、重ねて「選手は選手専用の出入口から出入りすることに決まってんねん。ちゃんと守って」とより厳しく命令する。その剣幕に押されて、大の男数人がすごすごと選手入口に回るのを見たとき、ファイターズのマネジャーは男女関係なく、すごい権力を持っていることを実感した。
 もう一つある。これは2年前、秋のシーズンも深まったころのことである。上ヶ原の第3フィールドでチームが練習中、準備したメニューが一区切りついた時を見計らって女子のトレーナーの一人が「スタッフ、全員集まって!」と声を掛け、主務をはじめスタッフ全員にハドルを組ませた。そこで「あんたら、やる気あんのん。スタッフがこんなことで、チームを勝たせられんのん」と怒鳴り上げた。
 わざわざ練習を止めてまで、スタッフをしかり飛ばしたその剣幕。彼女の言い分には確かな理由があったのだろう。男女問わず、集まったスタッフ全員が彼女の檄に従い、全力疾走で練習に戻って行くのを見て「これはすごい。こんなチームは日本中、どこを探してもないぞ」と僕は恐れ入った。
 ここにあげたマネジャーもトレーナーも、日ごろは優しい女子大生である。普段、顔を合わせても礼儀正しい応対をしてくれる。ともに嫌な思いをしたことは一度もない。しかし、いざ鎌倉!というときには、大の男でもしかり飛ばすエネルギーを全開にする。
 その凄さはどこからくるのか。
 僕のたどり着いた答えは一つである。彼女らには、日ごろから全力でチームのために尽くしているという自負があるからだ。日本1を目指すチームに男と女の区別はない。選手とスタッフという違いもない。同じ目標に向かって、学生生活のすべてを捧げているという自負を持ち、そのための行動を24時間、365日とり続けているという自信があるからだ。だから、ちんたらしている人間が許せない。心の底から声を上げてしかり飛ばすことが出来るのである。
 実際、ファイターズにおいてマネジャーやトレーナー、そしてアナライジングスタッフが担っている役割は果てしなく大きい。いま紹介した場面は、たまたま女子のことだったが、男子スタッフもそれぞれが自分の役割を全うするために全力を挙げている。マネジャーの中には、単位を取るのが苦手な部員のために、わざわざ勉強会を開き、授業のポイントを指導している部員がいるし、選手の栄養管理のためのメニューを準備するトレーナーもいる。選手から転向してきたメンバーも多いアナライジングスタッフは、練習の段取りを整え、ビデオを編集する。練習が始まればダミーとなって選手の当たりを受け止め、パスを受け続ける。
 グラウンドで称賛を受けるのは選手だが、その活躍を支えているのはこうしたスタッフであることは、当の本人が知っているし、選手もまた熟知している。同じ目標に向かってともに戦う仲間だとチームの全員が承知、承認しているから、当然、それぞれの役割に対する敬意も生まれる。互いをリスペクトする土壌があるから、スタッフが時に激しい怒声を浴びせても、その指摘に理由がある限り、上級生、下級生、選手、スタッフ、男と女、関係なく全員が一つになれる。
 だからこそ、監督やコーチも、女子のトレーナーが練習を止め、スタッフをしかり飛ばす現場を目撃しても、黙って見ているのだ。
 鳥内監督に先日、なぜファイターズの女子スタッフは敬意を払われるのか、と聞いてみた。答えは「うちに必要なスタッフは何でもどーんと受け止める肝っ玉母さんか、ばりばり仕事のできるキャリアウーマンタイプ。それ以外は要りませんねん」。
 なるほど、と思った。それは女子部員に限ったことではない。アナライジングスタッフもトレーナーもマネジャーも、それぞれの現場で全力を尽くす。それが特別のことではなくチームの標準になる。その標準をクリアし、なお一段上のレベルにチームを引き上げよと全員が努力する土壌があるから、その努力はリスペクトされる。
 創部以来、20歳前後の学生が主体となってそういう環境を作り、育て続けてきたからこそ、人は育つのである。

追記
ちなみに、今回紹介した二人の女子スタッフは卒業後、ともに誰もが知っている名門企業に就職。うち一人は、入社式で新入社員の代表として「入社の辞」を述べたと聞いている。これもまた、ファイターズが人を育てる組織であることの証拠であろう。
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2015年07月16日

(15)スタッフの力

 いま、ネットで台風情報をチェックしていたら、リクルート担当の小桜マネジャーから電話があった。
 「明日の勉強会、午後3時の時点で阪神間に警報が出されていたら、中止にします。学校が休校になるので、課外活動についても、それに準じた扱いになるということです。よろしくお願いします」
 こんな内容だった。必要なことが要領よくまとめられているので、即座に話が了解できる。当方から連絡をとる前に、適切な電話を入れ、礼儀正しく必要な情報を伝えて、すぐに電話を切る。簡単なことだが、社会人でもこれが出来ない人が少なくない。こういう電話連絡一つをとっても、ファイターズスタッフのレベルの高さが分かる。
 これは小桜君だけではない。いつも部室に陣取っている主務の西村君、マネジャーの五嶋さんや重田君。部室を訪ね、用件を依頼して彼、彼女らの応対に不愉快な思いをしたことは一度もない。
 もちろん、マネジャーはグラウンドでの練習も仕切っている。トレーナーの毛利君、平田君、田中君ら、アナライジングスタッフの加納君や押谷君らを加えたスタッフが日本1のチームを動かしているということを折に触れて実感する。
 さて、勉強会の話である。この勉強会とは毎年、この時季にスポーツ選抜入試で関西学院大学を受験したいという高校生を対象に、小論文を指導する集まりである。監督やコーチをはじめ、ファイターズの誇るリクルートスタッフが勧誘したメンバー10余人が先週末から参加している。
 関東のメンバーは、ファックスなどでのやりとりになるが、関西地区のメンバーは毎週末、部活動の終わった後に西宮市内の会場に集合し、僕が提示した課題を基に小論文を書く。僕がそれを添削し、講評や注意点を書きこんで翌週の勉強会で返却する。書き方の実際についてもそれなりに指導するが、基本は高校生が「自分の考え」をまとめて文章に紡ぐこと。60分という時間制限の中で800字を書くのだから、日ごろ、まとまった文章を書き慣れていない高校生にとっては、なかなかの難行だ。
 けれども、これは毎年のことだが、回数を重ねるごとに急激に上達する。最初の1、2回こそ書きやすいテーマを与えるが、それをクリアすると、少々書きにくそうなテーマでも、何とか制限時間内に、規定の分量を書き上げる。その内容もしっかりしている。もともと運動神経の発達している生徒だから、ちょっとしたコツを指摘しても、それを理解するのが早いのだろう。書くことに不安がなくなると、ますます上達する。
 振り返れば、こうした「特訓」を始めたのは1999年の夏。あの平郡君と池谷君が第一期生である。今は取り壊されて新しい高層ビルの建設が始まっている大阪・中之島の朝日新聞に集まってもらい、社内にある従業員専用の喫茶室などで、寺子屋のような指導を始めたのがスタートである。喫茶店のおばちゃんたちが物珍しそうに眺めていた光景が懐かしい。
 次の佐岡君たちの代になると、人数が増えたので、1階に新設された読者のサービスコーナーや地下の喫茶店に場所を変えて、飲み食いをともにしながら勉強した。どうみても高校生とは思えないイカツイ体つきの兄ちゃんたち(佐岡君や石田貴祐君ら)が本社の受付に集合する様子を見て、受付のかわいい女性が目を白黒させていたことを思い出す。
 この勉強会を世話してくれるのが担当のマネジャー、小桜君。昨年と1昨年はいま主務をしている西村君。卒業生でいうと、新しい順に多田健一郎、鈴木裕章、森田義樹、蔀保裕、酒井祐輔、岩辺憲昭、佐々木啓、水野康二、祝翼、澤井紘平という名前が浮かんでくる。1年間の付き合いだった人もいるし、2年、3年とつきあったマネジャーもいる。出合った当初は「頼りない子やなあ」と思ったメンバーもいるが、4年生の時にはそれぞれチームを支えるスタッフとして活躍してくれた。
 こういうメンバーとつきあっていると、ファイターズという組織は、実はスタッフで持っているという気がしてならない。逆にいうと、毎年毎年、選手とともにスタッフが成長を続けているからこそ、大学選手権で勝ち続けることが可能になるのだろう。
 では、こういうスタッフはどうして成長していくのか。その話はまた機会を改めて説明したい。
posted by コラム「スタンドから」 at 23:20| Comment(0) | in 2015 season

2015年07月09日

(14)躍動するKGブルー

 遅くなったが、4日夕、雨の降りしきる王子スタジアムで行われた「NEW ERA BOWL」の報告をする。
 一言で言えばファイターズの選手たちが存分に活躍し、その力量を見せつけた試合だった。
 もちろん、ファイターズが所属する「BLUE STARS」の主力となったUCLAの4人は別格の動きを見せた。強くてスピードがあり、リズム感がある。何よりも体幹のバランスがよいから、少々のタックルはふりほどいてしまう。立ち上がり、いきなり61ヤードのキックオフ・リターンを決め、QB伊豆から2本のTDパスをキャッチしたWRリッキー・マーヴレイ。最初の攻撃で左サイドを駆け上がって19ヤードを獲得したRBジョーダン・ジェームス。彼は第1Q終了間際に70ヤードを独走してTDを挙げた選手だが、余裕がありすぎてゴール直前で宙返りをしたために反則をとられた選手でもある。さらにヘルメットをKGブルーに塗って登場したDBトニー・ダイは攻守両面で活躍したし、191センチのWRテイラー・エンブリーは、相手DBにとって、とてもやっかいな選手だった。
 こういう強力な援軍がチームに溶け込んで活躍したから、試合は終始、ブルーチームが主導権を握って展開した。その中心になったのがKGブルーのヘルメットを着けたファイターズのメンバーである。主将の橋本を中心に松井や清村らが活躍したOL陣。彼らに守られて雨の中、重くなった皮のボールを自在に投げ分けた伊豆。記録は17回投げて7回の成功に終わっているが、失敗の多くは初めて顔を合わせた他チームのレシーバーと呼吸が合わなかっただけで、急所では正確なパスを投じ、終始、試合を有利に進めた。
 守備陣の活躍はさらにすごかった。LBの山本祐輝は立ち上がり、相手が勢いに乗りかかった途端に相手パスをインターセプト。約50ヤードをリターンしてゴール前4ヤードに迫った。同じくDB小池は鋭い出足でロスタックルを奪ったかと思えば相手パスを自在にカットする。当然のようにインターセプトも奪った。1年生の時から大きな試合で活躍してきた選手だが、この日はもう一段階上のゾーンに入ったような活躍ぶりだった。試合後、優秀選手に贈られるギャツビー賞を受賞したが、UCLAの選手がいなければMVPに選ばれても不思議ではないほどだった。
 ほかにも突き刺すようなタックルを見舞ったDB岡本、インターセプトを奪ったDB菊山、守備陣の中心としてチームを指揮したLB山岸。DLでは真ん中から再三鋭い突進を見せた浜、鋭い動きでボールキャリアに襲いかかった安田。この日活躍したファイターズの選手の名前を挙げて行けばきりがない。
 それはつまり、彼らがブルースターズの勝利に大きく貢献したということ。秋のリーグ戦で戦う他のチームにとっては、混成チームでありながら、まるでファイターズの単独チームであるかのように躍動する面々は脅威に写ったに違いない。
 しかし、これがファイターズの本当の力ではない。実は、けがなどが原因で出場できなかったメンバーがほかに何人もいる。中心選手では、副将のLB作道、DB田中、WR木下が出場していないし、DLの柱となる松本も小川も出ていない。2年生でレギュラーとして活躍しているDB小椋、WR亀山、OL井若も出場していない。ランアタックの中心になるRB橋本、池永、山本もメンバー表になかった。
 こうした選手たちが夏の合宿で鍛え、秋になれば戦列に復帰してくる。もちろん、この日の試合で自信をつけた面々が簡単にスタメンの座を譲るとも思えない。当然チーム内の競争は激化する。その競争の中から、さらにもう一段階上の舞台に上がってくる選手も出てくるだろう。第2、第3の小池選手の登場である。
 もちろん、ライバルチームの中にも、秋にはやっかいな相手になりそうな選手が何人もいた。この日の試合で、まるでアメリカからの招待選手のような走りを見せた龍谷大のRB藤本、岩崎、関大ではQB石内、立命ではLB浦野、長谷川選手らである。ブルースターズの仲間として活躍した近大の塚本、神戸大の岡本選手らも、それぞれ特別の対策が必要な選手である。
 上には上がある。それはこの日、アメリカからの招待選手や上記選手らの活躍で思い知った。いつまでも喜んでいる場合ではない。試合後のインタビューで橋本主将が発言した通り、この日の収穫、教訓を自分のものにすることが大切である。そこから道が開ける。
 17日からは前期試験。まずその難関をクリアし、暑さに耐える体を取り戻した上で、8月からの鍛錬、合宿、そして秋のシーズンへと駒をすすめてほしい。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:44| Comment(0) | in 2015 season