2015年01月06日

(39)そして、挑戦は続く

 メモを取るのは、新聞記者の習性である。1968年3月、信濃毎日新聞社で「記者」の名刺を持ったその日から約47年。所属先は朝日新聞社、定年後はまた紀伊民報と移っても、その間ずっとメモを取る習性は抜けない。基本的には小型のノートを使うが、ノートがないときは箸袋にも書くし、手近にある新聞紙をちぎって、その片隅に要点をメモすることもある。警察取材を担当していたときの「夜回り」では、ノートを取り出せば相手が話してくれないから、要点を頭にたたき込み、固有名詞はトイレを借りて掌に記した。
 ファイターズの試合を観戦していても、JV戦から公式戦まで、必ずメモを取る。雨が降ってメモ帳が濡れても、寒くて手がかじかんでも、どんなに試合が白熱しても、その習性は変わらない。
 しかし、ライスボウルでは、第4Qからのメモが乱れている。いま、このコラムを書くために読み返しているが、その乱れた文字がそのまま僕の動揺を表現しているようで、読み返すのもつらい。
 始まりはこんな場面だった。ファイターズが3Q終盤、QB斎藤君からWR木下君へのパスでゴール前20ヤードまで攻め込み、同じくWR木戸君へのパスでTDを奪った。K三輪のキックも決まって24−23とリードしたところで第3Q終了。迎えた第4Q、相手陣44ヤードからの攻撃をDL松本君とLB山岸君のロスタックルで押し込み、さらにはDB岡本君のインターセプトで、攻撃権を奪い返した。
 強力な相手の守備陣をかいくぐり、知略の限りを尽くして手にした逆転劇。その勢いに乗って、今度は守備陣が魂のタックル、捨て身のインターセプトで手にした攻撃権。勢いは完全にファイターズ、と思ったところに落とし穴が待っていた。
 まずは斎藤君が6ヤードを走り、セカンドダウン4ヤード。この好位置からWR大園君に投じた長いパスが運命を分けた。ライン際で一度は大園君が確保したように見えたが、それを相手DBがかき出し、パス失敗。成功しておれば、相手ゴール前からさらに4度の攻撃機会があり、一気に引き離せる好機だったが、帳消しになった。
 これに動揺したのか、それまでは追い詰められた場面でも確実に試合をコントロールしていた斎藤君の動きが乱れる。ベンチの勝負手も不発に終わる。第4ダウンのプレーでも、あえてパスを投げようとしたが、守備陣の突っ込みが速く、逃げ回ったあげくに投じたパスは相手に奪われてしまった。
 この好機に相手はエースRBに集中してボールを持たせ、わずか3プレーでTD。この試合、三度目のリードである。こうなると相手は落ち着き、逆にファイターズには焦りが出てくる。第3Q終盤まで、あれほど積極的に攻め続けていたオフェンスも、有効なプレーが続かず、押し切られてしまった。
 その間、目の前のプレーを追うのに必死だったのだろう。メモは乱れ、正確にプレーがたどれない。新幹線がストップして東京に行くのをあきらめ、自宅でテレビ応援した昨年は別として、1昨年も、その前の年も、終盤に山場が続いたが、メモを取る手が動揺したのは、今年が初めてだった。この勢いがあれば勝てる、と思っていた場面が、ほんの数分で暗転してしまったからだろう。
 それほど勝負の分岐点はきわどかった。終わってみれば「地力の差が出た」ということだろうが、もしあのとき、大園君へのパスが通っておれば、もしあのときスナップが正確なタイミングで出ておれば、もし、ゴール前でジョーダンと名付けたパスが通っておれば……と、ひとつひとつの練りに練ったプレーを思い返すにつけても、悔しくてならなかった。試合終了後、ディレクターの小野さんたちがFM放送で解説されている席から、グラウンドに降りるまでの間も、悶々としていた。
 その悔しさは、選手もスタッフも、監督もコーチも、全員が共有しているに違いない。練習ではほとんど成功していたプレーにミスが出るなんて、誰もが予測出来なかったに違いない。
 試合後、選手全員を前にして鷺野主将が語りかけていた。その声が聞こえてくる。「下級生はよく助けてくれた。不甲斐ないのは4年や。4年がとことん詰め切れんかったからや。申し訳ない」「この悔しい気持ちを次につなぐんや。これで終わりにしたら、なんにもならない。4年生はこれで終わりではない。自分の持っているものをみんなにつないでいけ。俺はやる。俺の出来ることは何でもする。俺の持っているものをみんな、つないでいく」
 メモを取らず、頭に刻んだだけだから、正確な表現ではないかも知れない。しかし、こういって自分たちの積み重ねてきたもの、先輩たちから受け継いできたものをすべて、下級生に引き継ぐ、つないでいく。これからのチームを担う者がそれを確かなものにすることによって、本当に強いファイターズが生まれる……。悔し涙をぬぐいもせず、ひたすらその言葉を強調。そして最後、「よし、上げよか」の声を掛け、ハドルを組んで「関学フットボール。フレッ、フレッ、フレー」とドーム全体に響き渡るエールを送った。
 悔しい敗戦の中で、この主将の言葉を聞いて、僕は何だがほっとした。少しばかりうれしくなった。
 「俺の持っているものはすべてお前らにつないでいく。やれることは何でもする。俺はやる。だから社会人に勝つチームを作ってくれ」。そういって下級生に頭を下げる。そういう主将を先頭に、ファイターズは全員が結束して魂のフットボールを展開した。その結果としての33−24。
 この結果を潔く受け入れるところから、新たなチームがスタートする。主将が涙ながらに振り絞ったこうした言葉、思いを受け継ぐところから新たな「挑戦」が始まる。「チーム鷺野」の「挑戦」を土台に、新たな「挑戦」をスタートさせる。そこから、ファイターズの「魂のフットボール」が生まれる。
 そう、挑戦は続く。僕もまた、新たな歩みを始めよう。そう思うと、悔しさも少しは薄らいだ。鷺野君や斎藤君、横山君や大園君。顔を合わせたメンバーに心の底から「ごくろうさん」と声を掛け、晴れ晴れとした気持ちで握手を交わすこともできた。こうした面々と下級生が結束して「魂のフットボール」を展開してくれたことをわが手で確認した。
posted by コラム「スタンドから」 at 21:55| Comment(3) | in 2014 season

2015年01月01日

(38)校歌を歌う

 甲子園ボウルで勝利した数日後、第3フィールドで鷺野主将に会った。そのときの短い会話である。
 「おめでとう。本当に素晴らしい試合やったな。事前の準備がビシッと決まったし、みんな集中していた。感動したわ」と僕。
 彼はニコッと笑いながら「ええ、今度は勝負をかけます」と答える。
 勝利の余韻に浸っている僕と、もう次の試合のことしか頭にない彼。あれだけ素晴らしい試合を仕上げたことより、最後の決戦に向けて「今度は勝負をかけます」と言い切った主将。チームに責任を負う人間と、それをスタンドから応援している人間との気持ちの持ちようの違いが、こんな会話のすれ違いにも鮮明に表れたことに僕は驚いた。
 もちろん、ライスボウルで勝つ、社会人を倒して日本1になる、という目標を達成するためには強豪がひしめく関西リーグで勝たなければならない。さらに、甲子園ボウルで関東の代表にも勝って、初めてライスボウルの舞台に立てる。その間、どの試合についても周到な準備をし、練りに練った戦術を駆使しなければならない。実際は、試合ごとに勝負をかけてきたはずだ。
 しかし彼は、そんな勝利を振り返って喜ぶそぶりも見せず「今度は勝負をかけます」と言い切った。あえて「今度は」といった言葉に彼の心中に期すものの大きさが表れている。「絶対に勝ってやる」という強い気持ちが表現されている。
 「よっしゃ!その心意気や」。僕はニコッと笑いを返し、ひたすら前を向いて進む好漢に幸あれ!と心から願った。
 さて、ここからが本題である。グラウンドで戦う人間ではなく、ファイターズを応援する人間の一人として「校歌を歌える幸せ」について書いておきたい。
 甲子園ボウルで勝利が決まった直後、関係者の配慮で僕はグラウンドに降りることが許された。表彰式では甲子園ボウルのMVPとしてRB橋本君、年間最優秀選手として主将の鷺野君が表彰される。勝利監督やヒーローのインタビューが終わると、部員全員がスタンドに向かって整列し、主将の「応援ありがとうございました」の声にあわせて、全員が深々と頭を下げる。
 スタンドからは盛大な拍手。やがてブラスバンド部の演奏と応援団総部のリードで校歌「空の翼」の大合唱が始まる。スタンドの大応援団、そしてグラウンドの選手やスタッフ、監督やコーチが声を合わせ、高らかに「風に思う、空の翼」と歌う。
 ほんの数分の時間。しかし、その短い時間に、僕は関西学院という学校を誇りに思い、ファイターズというチームを応援できることの幸せを心ゆくまでかみしめた。多分、スタンドで応援されている方も、グラウンドで力一杯戦ったメンバーも、それを支えたコーチやスタッフも、みんな同じ思いだろう。一緒に歌っていた小野ディレクターが「こうして校歌を歌えることって、本当に幸せですね」と話しかけられたが、全くその通りである。
 けれども、そういう幸せな時間、誇りを胸に刻む時間を、関西学院大学で学ぶ2万4千人の学生の何%が共有しているだろうか。その前に2万4千人の学生のうち、譜面を見ないで校歌を歌える学生がどれほどいるだろうか。
 校歌に限らず、歌には人々を奮い立たせ、アイデンティティーを共有させる力がある。フランス革命から生まれたフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」、太平洋戦争で学徒出陣の学生たちが斉唱した「海ゆかば」はその代表だろう。その昔、野球の早慶戦が東都のファンを二分したときの「都の西北」と「若き血」にも、それぞれの存立基盤を確認し、母校への強い絆を確かめる役割があった。
 時は移り、世は変わって、いまは社会のあらゆる分野で、そうした「共通の基盤」が失われつつある。校歌を歌えない学生だけではない。校歌が代表する「母校」への帰属意識の薄い学校関係者も年々増えていると聞く。関西学院の創立125周年寄付者名簿を見ても、卒業生の数に比べて、寄付した人の数のいかに少ないことか。
 そういう時代だからこそ、スタンドとグラウンドが一緒になって勝利を喜び、高らかに校歌を歌えることに大きな意味がある。価値がある。関西学院につながる者すべてが互いに共通の存在基盤を確かめ、母校への絆を確認することの大切さが実感できる。
 チームとともに校歌を歌える幸せ。それを考えていくと「清く戦い、その名に恥じないチームとして品性を持て」と歌い、「懐かしく慕わしい関西学院、それはこの地上で一番の学校、その母校のために戦おう」と歌い上げる「Fight on, Kwansei」と表裏一体の関係にあることがよく理解できる。
 1月3日、東京ドームでの戦いで、ファイターズの諸君が高らかに「ファイト オン」を歌い、スタンドとグラウンドが一体となって勝利の校歌を歌えることを切望している。「今度は勝負をかけます」と言い切った主将が率いるチームの奮闘を心から祈っている。
posted by コラム「スタンドから」 at 01:06| Comment(0) | in 2014 season

2014年12月23日

(37)足下のゴミ

 先週の金曜日、授業の前に、学生会館の1階一番奥にある部室の前を通りかかったら、部室の横手にある倉庫のドアに新しい張り紙があった。A4判の紙には、少し角張った字で「足下のゴミ一つ拾えぬほどの人間に何ができましょうか……」と書かれていた。
 「おお、やるなあ」「勝っても浮かれず、しっかり足下を見ているヤツがいる」「誰が書いたのか。多分、4年生のマネジャーが下級生に注意を促したんだろう」。そう思って、たまたま通りがかった4年生トレーナーの辻本君に聞いてみた。
 「○○が書いたんです」。答えを聞いて驚いた。ひっくり返りそうになったといってもよい。「えっ、彼が……」。絶句していると「そうなんです。自分たちが用具を置き、着替えもする場所だから、いつも整理・整頓しておきたい。そのためには利用する人間全員に、そのことに注意を促したい。そういってこの張り紙をしてもいいですか、と聞かれたから、いいよと言ったんです」と辻本君。
 ますます驚いた。1年生が先頭に立って先輩たちに整理・整頓を呼び掛ける。それも上級生や監督、コーチに注意された結果ではなく、自発的にそういう行動を起こす。そのことにまず驚いた。もう一つは、1年生のそうした自発的な行為が「当たり前」になっているほど、このチームの風通しがよいことに驚愕した。
 日ごろから上級生、下級生の隔てなく、部員同士がフランクに言葉を交わし、練習にも互いに要求し合って取り組んでいる姿はいつも見ている。それは少なくとも僕が練習を見せてもらうようになったこの10数年に限っては、ごく当たり前の光景である。そういう上下分け隔てなく、同じ目標に向かってチャレンジしていくところに、このチームの素晴らしさがあることは、試合前のグラウンドの清掃や日ごろの練習の準備などを材料に、このコラムにも何度か書いてきた。
 しかし、下級生が部員全員に注意を喚起する言葉を自発的に張り出すなんてことは、初めて聞いた。チームの一員として、大人としてのマナーを守ることの重要性が1年生にいたるまで徹底しているからだろう。
 この話から、幕末、幕府と激しく対立し、興廃の瀬戸際に立たされた長州藩にあって、急きょ、高杉晋作が結成し、強力な軍事力を振るった奇兵隊の「諭示」を思い出した。「諭示」とは、隊員の心得、というようなものだが、そこには「農事の妨げをするな」「狭い道で牛馬に出合ったら道をよけて速やかに通させるように」「田畑を踏み荒らすな」「言葉使いは丁寧に」など、武人としてのマナーを守れということが7か条にわたって書かれている。そして最後、7条目には「強き百万といえども恐れず、弱き民は一人と雖も恐れ候こと、武道の本意と候こと」とある。
 武人たる者は、その武力を背景に弱い民、百姓に威張り散らすのではなく、自ら身を慎み、その行いをもって、民、百姓を味方に付けなさい。弱い農民の手本になるような行いがあってこそ、彼らに支持され、戦いにも勝てる。そう言っているのである。
 そういえば、鳥内監督もことあるごとに「一人前の大人として恥ずかしくない行動をしなさい」「グラウンドにいるときだけがファイターズではない。私生活から学校の行き帰りまでを含めて君たちはファイターズの人間である。その一員として、ふさわしい行動をしなさい」と部員に注意を喚起されている。
 部員たちもまた、グラウンドに下りる前には「平郡君のヤマモモ」に頭を下げ、その下にある碑文を読んで、心を新たにしている。そういう自発的な行動が、誰に強制されることなく「当たり前」になっているから、僕のような爺さんにも、快く挨拶をしてくれるのだろう。
 そういう土壌があるから、チームとしての精神性も自ずから高められていく。今季、強力なライバルたちを相手に、終始、堂々とした試合を続けてこられたのは、そうして鍛えたチームとしてのたたずまい、高い精神性、モラルがあったからではないか。
 そう考えていくと、1年生が張り出した一枚の注意書きにも、このチームの本領が表現されていることがよく分かるではないか。
 以上、ファイターズの本当の強さは、グラウンドで奮闘している場面だけでは測れないぞ、と言う話でした。このエピソードを知って「いいね!」と思われた人は、ぜひとも1月3日、東京ドームに足を運んで下さい。そして上級生、下級生の垣根を越えた学びの場で、足下のゴミにも目を配って成長し続ける好漢たちの奮闘を心から応援して下さい。お願いします。
posted by コラム「スタンドから」 at 22:21| Comment(5) | in 2014 season

2014年12月17日

(36)強い絆、熱い仲間

 ファイターズ55−10フェニックス。第69回甲子園ボウル。数えて28回目となるライバル日本大学との決戦は、関西学院大学が大差で制した。
 獲得した距離は、ファイターズが516ヤード(ラン319、パス197)、フェニックスが246ヤード(ラン60、パス186)。これに加えてファイターズには3回のインターセプトと2回のファンブルリカバーがある。その点までを考慮すると、ファイターズが終始、試合を支配し続けたと言っても過言ではない。実際、スタンドから応援している僕たちも、ファイターズが立ち上がり、RB橋本君と鷺野君の強力な中央突破で陣地を進め、立て続けに2本のTDを獲得したあたりから、気持ちに余裕が出てきた。
 しかし、グラウンドで戦っている選手にとっては、攻守ともにひとつひとつのプレーを遂行するのに必死だったに違いない。
 なにしろ相手は、日大である。攻守とも強力なタレントが揃っている。一発で試合の流れを変えてしまうプレーもあるに違いない。実際、リードしているとはいえ、第2Qには10点を返された。
 そういう状況にあっても、ファイターズの面々は焦らず、おごらず、自らに与えられた使命をプレーで表現した。大量のリードに支えられて登場した交代選手(そこにはけがなどで試合にする機会を失っていた4年生もいたし、今後のために甲子園の舞台を経験させておきたい下級生も数多くいた)もまた、それぞれの持ち味を発揮した。思い描いた通りのパフォーマンスを見せた者(例えば強力なラッシュで10ヤードのQBサックを決めたDL國安君、あわやインターセプトという、パスカバーをを見せたDB市川君)もいた。普段はサイドラインからサインを送っている控えQBの前田君も、ほんの数プレーだったが、甲子園の晴れ舞台に立つ機会が得られた。
 そういう選手たちの活躍は、観客の目の前で繰り広げられ、中継のテレビが写し出している。とくに活躍した選手を表彰する甲子園ボウルの最優秀選手にはRB橋本君、年間最優秀選手に贈られるチャック・ミルズ杯にはRB鷺野君が輝き、彼らへのインタビューも行われた。
 試合会場にお見えになった方はもちろん、テレビで観戦されていた方々も、そうしたファイターズの選手たちの躍動を目の当たりにされている。試合で活躍した選手たちのことは、翌日の新聞も丁寧に伝えていた。
 だから、僕はこの場を借りて、そのように広く顕彰されることのない場面を2、3紹介したい。
 それは試合開始直前、レフト側入場口に並んだ選手たちが大会役員から入場の合図を待つ間に見せた三つの行動である。一つは、先頭に並んでいた副将の小野君が、高ぶった気持ちを抑えきれないように同じLBの後輩、作道君に声を掛けた。言葉は聞こえなかったが、一言「頼むぞ」といったように見えた。
 彼は、先日の西日本代表決定戦で負傷し、しばらくはチーム練習から遠ざかっていた。この日の試合には先発で出場したが、日ごろのパフォーマンスができるかどうか、不安を抱えていたに違いない。その悔しさと不安を「頼むぞ」という一言に込め、後輩の活躍にチームの命運を託した副将の胸の内。短いやりとりに万感の思いを託した言葉に、日ごろから兄弟のように練習している仲間との強い絆を垣間見た気がした。
 強い絆といえば、WR横山君を囲む4年生の仕草にも、胸を打つものがあった。横山君もまた立命戦で傷つき、しばらくチーム練習に加わっていない。WRのパートリーダーであり、ロングスナップを投げる場面では欠かせない選手として、練習には参加していたが、彼も自身の回復状況に不安を抱えたままの出場だった。
 緊張した表情の彼に、隣にいた同じパートで彼より頭一つほど背の高い樋之本君が彼の肩を抱き、何かをささやいた。多分「今日は俺に任せておけ。必ず勝って、ライスボウルの舞台に立たせる」というような約束をしていたのだろう。それを聞く横山君も「頼んだぞ」と気持ちのこもった目で樋之本君や副将の松島君を見つめた。ここにも、普段から寝食をともにして互いを刺激し、向上させてきた4年生ならではの「一言で通じ合える」強い絆があった。
 開会のセレモニーの直前、入場を待つほんの短い時間に交わされた気持ちのこもった交情。そこでは、文字通り目と目、顔と顔で互いの意志を通じあう選手同士の濃密な関係が描き出されていた。
 こうした関係は、グラウンドでの練習だけでなく、ミーティングや食事などの時間も含めて、日ごろから濃密な時間を共有し、同じ目的に向かってベクトルを一致させている仲間だからこそであろう。そういう仲間がいるから、どんなに厳しい局面になっても心は折れないし、逆に厳しい場面になればなるほど力が発揮できるのだろう。ここにこそファイターズの強さがあると、見ていた僕は胸が熱くなった。
 感激しているうちに、今度は先頭の鷺野主将と目があった。思わず右手に握り拳を作ってエールを送ると、彼も握り拳を上げ、にこっと笑ってくれた。「大丈夫! 主将には余裕がある。この試合はもらった」と思った瞬間だった。
posted by コラム「スタンドから」 at 07:34| Comment(2) | in 2014 season

2014年12月09日

(35)明日もまた、練習ができる

 ここ数年、12月に入ると、上ヶ原の第3フィールドには独特の空気が張り詰める。時間の流れも濃密になり、決戦のときがきたことがひしひしと感じられる。
 似たような気配は、関西リーグの終盤にも感じるが、関西リーグを制覇する前と後では自ずから違いがある。適切な表現が見つからないが、乱暴に言い切ってしまえば、関西リーグの前は、負ければ地獄という崖っぷちに立たされた気分、甲子園ボウルの前は、やっと頂上が見えた、ここからが本当の勝負、とでもいえばよいのだろう。
 選手やスタッフの表情を見ていれば、それがよく分かる。立命戦の前の、口をきくのもはばかられるような雰囲気ではなく、いまこの時期に、目標を持って練習出来ることの喜びがどの顔にも表れている。練習時間も内容も、関西リーグの終盤とはほとんど変わりがないけれども、関西リーグを勝ちきったことが自信になっているのだろう。誰もが一段、階段を上ったような表情で練習に取り組んでいる。
 「練習開始10分前」「練習開始3分前」「ラストみっつ」などと叫ぶマネジャーの声には張りがあるし、ハドルへの集散も早い。やるべきこと、やらねばならないことが部員に共有されているからだろう。ハドルでの鷺野主将の発言も簡潔になっている。練習メニューは試合を想定して歯切れよく展開され、スカウトチームの動きもなめらかになる。
 5年生のアシスタントコーチはもちろん、卒業して間もないOBたちが勤務の合間を縫って次々と練習に加わってくれるのもこの時期ならではの光景だ。先日は、日大の重くて速いDL陣を想定して、12年度卒業の安井君や梶原君、岸君らが顔を出し、オフェンスの相手を務めてくれた。安井君の体重は145キロ。135キロという日大の巨漢DLを想定した練習にはうってつけだった。昨年と1昨年の主将、池永君と梶原君が両サイドのエンドを務め、中央を友國君や長森君らが固めるスカウトディフェンスは強力そのもの。彼らと真っ向から対峙するのだから、現役の諸君にとっても、いい実戦練習になったに違いない。
 ディフェンスの練習には、日大のパスオフェンスを想定して、ある社会人チームのエースQBが参加してくれた。彼も実戦そのものの鋭いパスを投げ、切れのよいスクランブルも披露して、守備陣を鍛えてくれた。どれもこれもが甲子園ボウルに向けた実戦的な練習であり、無駄な練習はひとつもない。
 こうした練習が流れるように続くから、練習時間そのものは同じでも、グラウンドの気配が違う。それは濃密な時間、張り詰めた空気と表現するしかない。
 甲子園ボウルやライスボウルの前になると毎年、第3フィールドにはこういう時間が流れ、空気が張り詰める。いわば、目的の山の頂上を見据え、最後のアタックを掛けている状態である。
 取り組む選手たちは真剣だし、真剣だからこそ、プレーの精度も上がる。精度が上がれば、それは自信となり、さらに一段階上を目指して努力するエネルギーになる。交代選手やスカウトチームの選手を含め、みんなが具体的な目標を前に手応えのある練習を続けているから、上達の速度はさらに加速する。いまは1年間の、いや3年、4年と積み重ねてきた努力の成果を「収穫する」ための期間である。1日、1時間、10分の練習がすべて血となり肉となる期間と言ってもよい。
 この時期、そういう濃密な練習を続けているのは東西あわせて2チームだけ。文字通り選ばれた2チームである。鷺野主将の言葉を借りれば「あすもまた練習が出来る。幸せです」。その幸せをじっくり味わい、それをエネルギーにしてほしい。そして14日、甲子園の舞台ですべてを爆発させてほしい。存分な戦いを期待している。
posted by コラム「スタンドから」 at 00:32| Comment(0) | in 2014 season

2014年12月02日

(34)フットボールの魅力

 11月30日、王子スタジアムで行われた全日本大学選手権西日本地区代表校決定戦は、名城大を相手に55−0の勝利。ファイターズは4年連続で甲子園ボウルの出場を決めた。
 立ち上がり、レシーブを選択したファイターズは、相手キックをゴール前10ヤード付近でキャッチしたDB田中が右サイドライン沿いを一気に駆け上がり、74ヤードのビッグリターン。HB梶原を中心にしたリターンチームの強烈なブロックと、周囲をよく見た田中の冷静でスピードのあるラッシュで、いきなり相手陣15ヤードまで攻め込んだ。
 まるで先週の立命大戦のリプレイを見るような見事なリターンである。
 このチャンスをRB飯田の9ヤードラン、同じくRB加藤の6ヤードランでTD。K三輪のキックも決まって、わずか2プレー、49秒で先手をとった。
 次は名城大の攻撃シリーズ。ゴール前13ヤードから強烈なランプレーでぐいぐいと陣地を進めてくる。ダウンを2度更新され、ファイターズ自慢の守備陣もたじたじだった。ここを何とか踏ん張り、相手は第4ダウンでパント。これをLB山岸(多分。遠くて詳細は見えなかった)がブロック、こぼれたボールをLB作道が拾い上げ、そのまま72ヤードを走り切って2本目のTD。立ち上がりのわずか3分少々で14−0。ファイターズが主導権を握った。
 その後も三輪のFG、QB伊豆からTE松島へのTDパス、RB加藤の2本目のTDで前半だけで31−0。第2Q途中からは攻守とも交代メンバーを次々と繰り出す余裕の采配で、終わって見れば55−0。得点経過を見れば、ファイターズの圧勝だった。
 さて、ここからが本題である。スタジアムで観戦されていた方々は、前半、第1Qから第2Qの相手攻撃をみて、両者のチーム力をどのように評価されただろうか。両チームの選手の個々の能力に、この点差ほどの開きがあったと思われた方は、むしろ少数派だったのではないか。デフェンスラインを突破してぐいぐいと突進するランナーの動きを見ているだけでも、これは油断ならない、と思った人が多かったと思う。
 実際、当日の記録を見ても、攻撃時間はファイターズが20分51秒、名城が27分9秒。獲得ヤードは489ヤード対259ヤード。1stダウン獲得回数は23対12。ファイターズが2Qの半ばから次々と交代メンバーを投入したことを考慮しても、点差ほどの開きがあるチームとはとうてい思えない。
 これは、先週戦った立命戦、その前の関大戦、そしてその前の京大戦や龍谷大戦でも感じたことだが、関西リーグの1部で戦うチームの戦力は年々向上している。個々の選手を見ても、当たりが強くて早く走れる選手、パスキャッチが得意な選手、恐ろしいほど強いランナーがどのチームにもいる。立命には大柄な選手を並べたオフェンスラインを筆頭に、攻撃に高い能力を持ったタレントが何人もいた。守備陣にもDL、LB、DBともに、いつもボールキャリアに絡む強力な選手がいた。関大にも、ひとつ対応を誤れば、そのままTDに持ち込まれてしまいそうなスピードランナーがいたし、スクランブル能力に優れた2人のQBは脅威だった。
 そういうチームを相手に、ファイターズは終始先手をとり、危うげなく勝ち続けた。その理由は何か。どこに勝者と敗者を分けるポイントがあったのか。
 僕はファイターズしか見ていないので、他のチームについては論評出来ない。もちろん双方の優劣を比較する能力もないし、資格もない。論評出来るのは、ファイターズというチームの素顔というか、たたずまいを報告することぐらいである。
 このことについては、折りに触れてこのコラムでも書いている。しかし、シーズンが大詰めに近づいてくるにつれて、毎年、これぞファイターズ、と思わされる事例が増えてくる。そうした事例が積み重なるにつれて、だからフットボールは面白い、最高のチームスポーツだと思わされる。
 例えば、対戦相手ごとの戦術の立案と習熟訓練、そして実行力。試合の始まる1年も前から戦術を練り、それを試合で成功させるために、繰り返し繰り返し習熟練習をする。キーとなる選手やパートには、コーチが付きっきりになり、納得いくまで指導を続ける。そうした指導の際には、基本的に相手選手を想定したメンバーを張り付け、実戦と同じ状況を作って、その練度と精度を上げていく。
 戦術を練るためには、相手チームの分析が欠かせない。ファイターズは、理工学部の先生や学生の協力で独自のビデオ編集装置を開発し、それを利用して、より早く、より効率よく相手を分析する仕組みを作り上げた。その仕組みを利用して相手チームを「丸裸」にするのは、分析室に詰めっきりの分析スタッフである。彼らの貢献度も年々上がっている。
 本場アメリカの最新の戦術に接し、その中からチームにとって必要な情報を取捨選択することも重要だ。チームは毎年のように、短期間ではあるがコーチをアメリカに送り、現地のコーチから学ばせている。その成果の一端が毎年、相手チームを驚かせる「とっておきのプレー」として披露される。それが成功したとき、勝利への道が開かれる。
 戦術だけではない。チームを育て、発展させていくための戦略も監督やコーチ、そしてフットボールを熟知したディレクターやアシスタントディレクターを中心に、いろんな方向から練り上げている。その一端は、先日、タッチダウン誌(14年8月号)でも紹介されたが、多彩な部活動に必要な資金集めから、部員のリクルート活動、学生を育てるためのコーチング体制の構築。さらには栄養指導や授業のサポート体制の充実まで、驚くほど多岐にわたる。チームの機密に関することが多く、その内容を細かく報告出来ないのは残念だが、実態を知れば知るほど、このチームの奥の深さが見えてくる。
 来年3月21日には、チームが主宰し、関西学院大学が協力して、アイビーリーグの強豪、プリンストン大学を招待。大阪で日米大学交流戦を実施するが、これもまた、長期的な視野に立ったチーム作りの戦略のひとつである。
 こうしたチーム作りの戦略と、ライバルとの戦いを見据えた戦術。双方がかみ合い、トータルとして、ライバルチームを少しばかり上回ったことが関西リーグ5連覇、4年連続甲子園ボウル出場という結果につながったのではないか。もちろん、選手やスタッフが「日本1にチャレンジする」という高い目標を掲げ、この1年間、日夜努力した結果であることは論をまたない。
 フットボールには、試合会場でコイントスをする前段に、こうした戦略や戦術の戦い、もっといえばチーム作りの哲学が存在する。そのトータルが試合結果として現出する。これがフットボールが最高のチームスポーツだと断定する由縁である。
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2014年11月25日

(33)会心の勝利

 ライバル立命を相手に21−7。弱い弱いといわれ続けたチームが会心の勝利をもぎ取った。
 ファイターズ最後の攻撃は相手陣21ヤード付近から。残り時間は30秒を切り、相手はタイムアウトを使い切っている。QB斎藤が当然のようにニーダウンで時計を進める。満員の応援席から送られるカウントダウンコールを聞きながら、笑顔で勝利の瞬間を迎えるチームの姿を見ながら、僕は不覚にも涙が出そうだった。
 それほど感動的な試合だった。
 実力は拮抗。というより、ファイターズ関係者からは、異口同音に「勝つのは難しい」「分析すればするほど、相手の攻撃が止まりそうにない」と、悲観的な声が出ていた。鳥内監督の口からは「今年の4年はまだまだ本気になってない。学生相手に負けた悔しさを知らんからや」と、いつも辛口の評が聞こえてきた。
 そうした言葉を聞くと、僕も不安が募ってくる。立命戦の前日は決まって、上ヶ原の八幡神社にお参りするのだが、この3年間はなぜか「きっと勝ってくれる」という確信めいた考えを抱いていた。しかし今年は「ひょっとして、明日でシーズンが終わってしまうのではないか」とか「どこかでとんでもないミスが出るのではないか」という不安ばかりが募っていた。
 しかし、試合が始まると、それは杞憂だった。レシーブを選択したファイターズはDB田中の狙い澄ませた63ヤードのキックオフリターンで、相手陣32ヤードから攻撃開始。RB鷺野と橋本のラッシュを中心に、WR横山、樋之本への短いパスを織り込んであっという間に相手ゴール前に。仕上げは橋本のランでTDというところだったが、相手の強烈なタックルでボールをファンブル。それを冷静にC松井が押さえ込んでTD。K三輪のキックも決まって7−0と先行する。
 ファイターズはこの1年間、この日のために準備してきたノーハドルオフェンス。それを速いテンポで展開するから、相手の守備陣は的が絞れない。考える間も、一息入れる時間もない。攻撃権を失おうが、パスを失敗しようが委細構わず、用意したプレーを次々と展開、陣地を進めて行く。相手守備陣に考えるゆとりを与えない、というファイターズの戦略が見事に的中しているのがスタンドからでもうかがえた。
 2Qも半ば。ファイターズは横山の思い切りのいいパントリターンで陣地を回復。相手陣46ヤードから攻撃をスタート。ここでも斎藤から鷺野やWR木下、RB飯田へのパスと橋本の豪走で陣地を進め、最後は鷺野が中央にダイブしてTD。待望の2本目を決め、14−0で前半終了。
 2本差のリードを持って迎えた後半もファイターズペース。途中、斎藤のパスがインターセプトされ、そのままゴールに駆け込まれるという予期せぬ出来事もあったが、ファイターズは自分たちのペースを崩さない。手痛いTDを奪われた直後の攻撃シリーズでは、斎藤がWR木下、木戸、大園、横山にパスを投げ分け、自身のスクランブルを効果的に決めてあっという間にゴール前残り2ヤード。ここでも鷺野がゴールに飛び込んでTD。再び14点差に引き離す。
 オフェンスが自在に攻撃できたのは、守備陣の活躍があったからだ。なんせ、立命オフェンスの第1シリーズでDB小椋がパスをインターセプトしたのを皮切りに、DB国吉、LB小野、DB田中が立て続けに相手パスを奪い取った。相手がファンブルしたボールをカバーしたプレーを含めて攻撃権を奪ったのは都合5回。QBサックもDL安田が2回、LB小野と作道がそれぞれ1回。さらにもう一人のLB山岸も獅子奮迅の活躍だった。
 これだけ2列目、3列目が安定していたら、DLも安心して前に突っ込める。「人間山脈」とも例えられるほど強力な相手OLを毎プレーのように突破して、ボールキャリアを自在に走らせない。ランが止まれば、パスも怖くない。気がつけばファイターズ守備陣が完全に主導権を握っていた。
 このように書き進めていくと、両軍の力に差があったように受け止められる方が多いかも知れない。しかし、スタンドから見ている限りでは両軍の力は拮抗。個々のスキルを比べると、相手の方が上だったかも知れない。
 そんな強力な相手に、どうして終始、主導権を握って試合を進めることが出来たのか。
 結論からいえば、事前の準備、構想の立て方という点で、ファイターズの方に多少、分があったということではないか。この試合のために周到に準備してきたノーハドルオフェンスが功を奏して、相手を混乱させたことはその一例である。最初のシリーズで、松井が見せた見事なファンブルカバーも、そういう場面を想定して毎日、毎日、ファンブルカバーの練習を積み重ねてきた成果である。この試合では、とりわけ相手DBに対するWR陣の執拗なブロックが効果的だったが、それも日ごろからブロックの練習をメニューに組み込み、営々と積み重ねてきたからできたことである。
 特筆したいのは、3年生の橋本、山本、2年生の松井、高橋、1年生の井若で固めたOL陣の活躍。これにTE松島を加えたラインの強さは、関西リーグ最強といわれた相手にも、まったくひけをとらなかった。
 彼らの活躍も、日ごろの密度の濃い練習、鍛錬があったからだ。大村コーチや神田コーチが見守る中、相手ディフェンスの動きに対応出来るように、何度も何度も繰り返して練習する姿を僕は目撃している。時にはコーチから厳しい叱声を浴びることもあったし、5年生のアシスタントコーチに歯が立たない場面もあった。それでもめげず、臆せず、地道な練習を営々と続けて来た。
 その練習台を務めてきたのがDLの浜。相手DLの中心となる選手と同じ93番、マルーンのユニフォームを着け、来る日も来る日も味方の当たりを受け止めてきた。双子の弟が務める相手QBに扮して練習台となったQB前田の献身とともに、あえてこの場で紹介しておきたい。
 こうした準備をひとつひとつ積み重ね、プレーの精度を追求し続けたチーム。「まだ時間はある。もっともっと詰めろ。詰め切れ。やりきろう」と、最後まで声を張り上げ続けた鷺野主将のゲキに4年生が応え、下級生が呼応した結果としての21−7。
 練習は裏切らない。言い古された言葉だが、その言葉の意味を体現し、会心の勝利を収めたファイターズの面々。その晴れ晴れとした表情を見て、僕は思わずこみ上げてくるものがあった。
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2014年11月18日

(32)張り詰めた空気

 今日、パソコンでファイターズに関係する情報を見ていたら、どこかで「今日、立命に勝ったか」という文言を見掛けた。どなたがお書きになったのかは確認しなかったが、ずしりと響くフレーズだった。
 そう、今度の日曜日、互いに関西リーグの頂点を目指すライバルとの戦いは、試合当日だけではない。昨日も今日も明日も、ずっと続いている。今日は勝ったか、明日も勝てるか、毎日そのように問い掛け、毎日、ライバルより半歩でも前に行く。365日のその積み重ねの結果が今度の日曜日に出ると、このフレーズをお書きになった方は問い掛けている。ずしりと胸に響くはずである。
 先週末は、3日間連続で上ヶ原のグラウンドに出掛けた。急な冷え込みで恐ろしく寒かったが、グラウンドは緊迫した空気に包まれていた。
 練習開始のハドルから、練習終わりの「関学フットボール、フレー!フレー!フレー!」の掛け声まで、鷺野主将がよく通る声でゲキを飛ばす。練習は分刻み、秒刻みでリズムよく進み、サプリ補給のための休憩時間さえ惜しんで体を動かしている選手がいる。けがをしてプレーできない選手も防具を着け、黙々とダミーに向かっている。
 スタッフも例外ではない。男女を問わず、全員の動きが極端に速くなる。グラウンドを移動するときは、全員がダッシュ。チーム練習が始まると、審判のユニフォームをまとったスタッフが反則をチェックし、怪しいプレーには迷わずイエローフラッグを投げる。ルールに詳しいOBの方々も顔を出し、微妙なプレーについて、反則になるかならないかの判断を示してくれる。
 こうした張り詰めた空気が支配するグラウンドである。当然、練習にもリズムが出てくる。サイドラインに控える選手たちの動きも、シーズン当初とは全く異なっている。パートごとにプレーヤーの動きに目をこらし、いいプレーが出れば「ナイスキャッチ!」「ナイスカバー!」」の声が上がる。誰かがミスをすれば、たちまち仲間から怒声が飛ぶ。
 監督やコーチの表情も張り詰めている。普段は穏やかなコーチが選手を叱り飛ばす場面も少なくない。日ごろは、その場の空気を和らげるのが僕の仕事と広言し、笑いのネタを提供することに心を砕いているように見えるコーチの目つきや表情も激変している。食い入るように選手の動きを見つめ、プレーごとに即座に選手に注意を与える。
 この季節、毎年のように繰り広げられるこうした場面に接すると、見ている方まで気持ちが高ぶってくる。同時に、本番でも練習通りにやれるだろうか、いや、これだけ練習しているんだからきっと大丈夫だ、と気持ちが揺れ動く。これもまた例年のこと。この4年間、ずっと選手たちを見てきた爺さんの、老婆心ならぬ「老爺心」である。
 試合当日まで、この張り詰めた空気を維持し、突き詰めた練習を重ねてほしい。実際、3日続けて練習を見ていると、素人目にも1日目より2日目、2日目より3日目とプレーの精度は上がっている。言い換えれば、突き詰めた練習をすればするほど、可能性が広がるということだ。同時に、少しでも妥協すれば精度の低いまま試合に臨まなければならないということでもある。
 本気でライバルに勝ちたい、甲子園ボウルでも勝ち、社会人を倒して日本1、というのなら、残された5日間が勝負である。この5日間、チームの全員が「今日は、立命に勝ったか」と問い続け、「勝った」といえるだけの練習を積み上げてほしい。
「心が変われば行動が変わる。
 行動が変われば習慣が変わる。
 習慣が変われば人格が変わる。
 人格が変われば運命が変わる」
 ファイターズの諸君! チーム鷺野のみなさん! 残された5日間で、運命を変えようではないか。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:04| Comment(0) | in 2014 season

2014年11月11日

(31)勝負の綾

 9日の関大戦は神戸ユニバー記念競技場。その昔(具体的には1985年8月、日航機が群馬県の御巣鷹山で墜落し、乗客520人が亡くなられた年である)、神戸で開かれたユニバーシアード大会のメーン競技場になった競技場である。その大会で僕は、朝日新聞取材班のキャップを務めていたため、ずっとこの競技場に通った。懐かしく、思い出深い場所だが、最近はもっぱらファイターズの応援が中心だ。
 9日は、試合が始まる頃からずっと小雨が降り続き、思わず雨の中で行われた1昨年の関大戦を思い出しながらの観戦となった。
 ファイターズのキックで試合開始。相手陣25ヤードから関大の攻撃が始まる。いきなり8ヤードのパス。次はランでダウンを更新。かさにかかったように相手は2回続けてパスを投じたが、ともにDB国吉と田中がうまくカバーし、パスは不成功。なんとか相手の攻撃をしのいだ。
 ところがファイターズの攻撃がぎこちない。QB斎藤からWR木下へのパスで1度はダウンを更新したが、急所のパスがつながらない。簡単にパントで相手に攻撃権を渡してしまう。
 最初のシリーズのパス攻撃で餌をまいた関大は次のシリーズ、今度は目先を変えて得意のQBスクランブルで40ヤード、25ヤードと陣地を進める。あっというまにゴール前14ヤード。ここはLB作道と山岸が立て続けにロスタックルを決め、何とかフィールドゴールによる3点で食い止めたが、ファンにとっては前途多難を感じる立ち上がりだった。
 しかし、グラウンドの選手たちはそういうマイナス思考には陥っていない。ファイターズ陣14ヤードから始まった次の攻撃シリーズは、ファイターズがとっておきのプレーを連発。斎藤からRB鷺野への短いパスやRB橋本の豪走で陣地を進める。途中、斎藤からハンドオフされたボールを鷺野が斎藤にバックパス、それを斎藤が相手陣深く走り込んだWR横山にパスするというトリッキーなプレーを盛り込んで一気に相手ゴールに迫る。ここでも橋本が相手をなぎ倒すような走りでダウンを更新、最後は鷺野が3ヤードを走り込んでTD。K三輪のキックも決まって7−3と逆転する。
 しかし、関大のラン攻撃も強力だ。QBのスクランブルとRBのラッシュを組み合わせてぐいぐいと陣地を進めてくる。ランばかりで44ヤードを前進し、あっという間にゴール前23ヤード。これはやばいぞ、と思った瞬間、DL安田とLB山岸が連続して見事なタックルを決め、相手の勢いを止めた。
 第4ダウン残り13ヤード、ボールはゴール前25ヤード。さてどうするか。
 フィールドゴールの狙える位置だが、関大が選択したのはパントの隊形。当然フェイクプレーが考えられる。案の定、ホールダーがボールを受けてパスを狙う。しかし、ターゲットが見つからず、フェイクプレーは失敗。得点は7−3のまま、攻撃権はファイターズに移る。
 その攻撃シリーズをファイターズは鷺野、橋本のランと斎藤からWR木戸へのパス、斎藤のスクランブルなど、次々と目先を変えるプレー選択で前進させ、仕上げは橋本が2ヤードを走り込んでTD。三輪のキックも決まって14−3。試合の主導権を握った。
 振り返れば、相手がゴール前25ヤード付近からフィールドゴールを狙わず、思い切ったフェイクプレーに出たところに勝負の綾があった。さらにいえば、そういう「勝負せざるを得ない」状況を作り出した2年生の安田と山岸の思い切ったタックルが試合の分岐点になったといってもよい。
 得意のラン攻撃でぐいぐいと陣地を進めてくる関大。それをぎりぎりのところで食い止め、相手が犯したちょっとした判断の乱れを逆手にとって、一気に追加点に結び付けたファイターズの攻撃。
 振り返れば、2年前の雨の中の試合でも、似たような場面があった。前半終了まで2分少々、得点は0−0。相手陣49ヤードという場面で迎えたファイターズの攻撃。ちょうど雨が小降りになったのを見極めたベンチが審判団に、それまでのゴムボールから皮のボールに交換を要求。投げやすいゴムボールを手にしたQB畑がWR梅本、大園、木戸、小山にポンポンとパスを決めてダウンを更新、あっという間にゴール前に迫り、最後は畑が中央ダイブのフェイクから左オープンに走ってTD。均衡を破って、そのまま勝利につなげた。
 雨のユニバー競技場。互いに持ち味は異なるが、戦力は拮抗したライバルとの戦い。ミスした方が負け、というきわどい試合で、ファイターズは今年も「勝負の綾」となる場面をしのいで勝利をもぎ取った。試合展開や17−10という試合結果を見れば、辛勝というしかないが、それでもこういう勝負への執着心、我慢強さがある限り道は開ける。
 関西リーグ最終節は、立命との決戦。ともに無敗で迎えるライバルとの試合を前に、詰めるべき点を詰め、思い残すことのなくなるまで練習をやりきって、決戦に臨んでほしい。関大との戦いで見せた我慢強さと勝利への強い気持ちをもう一度見せてほしい。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:02| Comment(1) | in 2014 season

2014年11月03日

(30)外科医の本

 この3連休は関西学院の大学祭。その準備に充てるということで、先週金曜日は上ヶ原のキャンパスは休講。自称「カリスマ講師」として文章表現を教えている僕の授業もお休みである。
 しかし、本業の新聞社で急ぎの仕事があり、日本新聞協会から依頼されていた原稿の締め切りも迫っていたので西宮の自宅には帰らず、紀州・田辺で原稿書きに追われていた。
 当然、練習は見にいけない。いつも、練習や試合を見て、コラムの材料を探している僕にとっては、とても困ったことである。だからといって、シーズンが佳境に入っているのに、応援コラムを書かないというのも気が利かない。どうしようか、と考えたときにひらめいた。東京で弁護士事務所を開いている友人が「面白いから」といって送ってくれた2冊の本を素材に書いてみよう、と。
 著者は、京都大学肝胆膵移植外科・臓器移植医療部准教授、海道利実さん。最初の1冊は『もし大学病院の外科医がビジネス書を読んだら』(中外医学社)、2冊目は『外科医の外科医による外科医以外にもためになる学会発表12カ条』である。
 どちらも、僕にとっては本屋さんでは「絶対に買わない」本である。医学、それも臓器移植の現場から発せられる専門書の棚を見ることだってあり得ない。小学校低学年の頃から本を読むのが大好きで、親から買ってもらった童話や偉人の伝記はもちろん、親戚のおじさんが読み終えた「野球界」や「ベースボールマガジン」から家にあった「家の光」(わが家は専業農家でした)、さらには吉川英治の「宮本武蔵」全6巻まで、片っ端から読んできた僕でも、臓器移植の最先端にいる人の話に挑戦しようなんて無謀なことは考えない。
 ところが、送ってくれた人が、もう30年近く仲よくしている聡明な弁護士。彼女の推薦なら読むしかない、とチャレンジしてみたら、これが面白かった。ファイターズの諸君にもお裾分けしたいような言葉がいっぱい引用されていた。
 前後の脈絡を抜きにして紹介すると、こんな名言が並んでいる。「成功する秘訣は、創意工夫を365日続けることだ」(京セラ創業者、稲盛和夫氏)「エリートはできない理由を100でも考える。できる理由を一つでも考えてみよ」(元伊藤忠会長・元中国大使、丹羽宇一郎氏)。
 ふたつの言葉はそのまま、ファイターズの活動にも言えることだ。困難な相手に365日、ずっと戦術を考え、創意と工夫で相手を上回ることで活路を開く。あるいはまた「偏差値の高いやつはまず、言い訳から入る。あれは出来ない、これは失敗する可能性がある」と。当たり前だ。どんな戦術でも、失敗の確率がゼロなんてことはない。自分で限界を設けて何もしないヤツはいらない。それより「出来る理由」を一つでも考え、そこから突破口を開いていく。そういうヤツがほしい。そのチャレンジ精神。そこから事態は打開できるのだ。
 ゲキを飛ばすだけではない。失敗した人には、松下幸之助氏の部下にかけた言葉が用意されている。「君、心配せんでいい。それより、志をなくしたらあかんで」
 表現の仕方は180度異なるが、この言葉は、あの有名なスティーブ・ジョブズ氏の「パッション(情熱)を持つ人のみが世界を変えられる」という言葉に呼応している。そう、志をなくさないこと。パッションを持つこと。チャレンジする気持ちを失わない限り、人は死なない。世界を変えることも出来る。
 チャレンジということでいえば、2冊目の本には阪急・東宝グループの創業者であり、鉄道事業のビジネスモデルや宝塚歌劇を作り上げた小林一三氏のこんな言葉を紹介している。「下足番を命じられたら、日本1の下足番になってみろ。そうしたら、誰も君を下足番にはしておかぬ」。チームの中で一人一人が果たすべき役割の大切さと、それをやり遂げる意志の重要性を説いている。これもまた、ファイターズというチームを運営していく上で、欠かせぬ視点ではないか。
 そして最後が、巨人やヤンキースで活躍した松井秀喜氏に星陵高校の恩師、山下智茂監督が贈ったという言葉が紹介されている。
 「心が変われば行動が変わる。
 行動が変われば習慣が変わる。
 習慣が変われば人格が変わる。
 人格が変われば運命が変わる」
 (元はヒンズー教の言葉とも、アメリカの心理学者ウィリアム・ジェームズの言葉ともいわれているそうだ)
 そういうことだ。今度の日曜日には関大、そして次の節には立命館。ライバルとの戦いに備えて、今がまさに胸突き八丁ともいうべき時である。ファイターズの諸君には、高い志を持ち、挑戦者の気持ちを持ち続け、気力を振り絞ってがんばってほしい。遠く紀州・田辺の地から声援を送る。
posted by コラム「スタンドから」 at 22:32| Comment(2) | in 2014 season

2014年10月28日

(29)ライバルとの戦い

 26日は京大との戦い。場所は西京極陸上競技場、天気は快晴。ファイターズはここまで4連勝、逆にギャングスターズは1勝3敗。なぜか成績が上がっていない。
 これは2004年、佐岡主将のチームが迎えた状況とほとんど同じ。あの年も初戦から順当に勝利を収め、なかなか勝てなかった立命にも30−28で勝利してファイターズの意気は上がっていた。逆に京大は負けが込んで優勝の望みが絶たれ、ファイターズに勝つことだけに価値を見つけるような状態だった。
 試合が始まると、ファイターズが簡単に13−0でリード。前半はずっと主導権を握っていた。ところが、相手のパントを自陣ゴール前でリターナーがファンブル、それを相手に抑えられ、簡単にTDに結び付けられたところから、一気に試合は暗転する。QBのRBへの前パスがわずかに後方へ流れてファンブル。これがターンオーバーとなった場面で、相手の1年生QBにロングバスを決められ、試合はあっという間に逆転。結局、17−13で敗れ、立命との甲子園ボウル出場決定戦にも惜敗してしまった。当日の抜けるような青空と緑の芝生、そして二つのファンブルの場面、一か八かで投じたようなロングパスの軌道が、いまも僕の心に残っている。
 こういうトラウマのような記憶があるから、あの日と同じような快晴の空を見上げながら「あなどったらあかん」「油断してたら、ひどい目にあうぞ」と、何度も何度も自分に言い聞かせていた。
 ファイターズのレシーブで試合が始まる。最初のシリーズはQB斎藤からWR横山へのパスで12ヤード、RB橋本の中央突破で12ヤード。たたみかけるようにダウンを更新して陣地を進めたが、第3プレーでRBがファンブル。それを相手に抑えられて、いきなりのターンオーバー。10年前の嫌な記憶が頭をよぎる。
 この場面は一度ダウンを更新されただけで守備陣が抑えたが、続くファイターズの攻撃は簡単にパントに追いやられてしまう。逆に京大は2度続けてダウンを更新、そのたびに士気が上がってくる。
 こういう状況にストップをかけけたのが斎藤のパス。主将鷺野の渾身のランを一つはさんで、WR木下、横山、大園に立て続けにパスをヒット。一気にゴール前に迫り、仕上げは横山への5ヤードTDパス。続く相手方の攻撃をディフェンス陣の踏ん張りでなんとか抑え、再びファイターズの攻撃。ここでも橋本、鷺野のランプレーが進み、大園へのパス、鷺野へのショベルパスなどを交えながらどんどん陣地を進める。途中、経験の少ない下級生が立て続けに反則を犯すというミスもあったが、斎藤や橋本のドロープレーで活路を開き、仕上げはWR水野がゴール右隅に走り込んでTD。K三輪のキックも決まって14−0。何とかリードを保って前半終了。
 しかし、この展開は10年前の試合とそっくり。後半は相手のレシーブから攻撃が始まることを考えると、まだまだ安心できるリードではない。
 3Qが始まる。恐れていた京大の最初の攻撃は相手のファンブルで攻守交代。相手ゴール前23ヤードからファイターズの攻撃が始まる。まずは横山へのパスで残り10ヤード。ところがここでもスナップの受け渡しがうまくいかずにマイナス5ヤード。残り12ヤードから投じたTDパスはインターセプトされてタッチバック。嫌な予感がする。
 自陣20ヤードから始まった京大の攻撃は、パスとランを混ぜながら確実に進む。ダウンを6回続けて更新し、ついにゴール前8ヤード。練りに練ったプランで攻撃を続ける相手の勢いに飲まれたのか、ファイターズはずるずると陣地を進められ、強力な守備陣も完全に後手を踏んでいる。
 「これはやばいぞ」と身構えた瞬間、ファイターズにビッグプレーが生まれた。相手QBがTDを狙って投じたパスをLB山岸がブロック、空中に跳ねたボールをLB小野が素早くキャッチしてターンオーバー。一瞬にして危機を脱した。
 こうなると、攻撃も目が覚める。自陣9ヤードから始まった攻撃は、まず橋本がランで5ヤードを獲得。そこから今度は斎藤が木下に46ヤードのパス。相手陣40ヤードからの攻撃は、橋本が一気に中央を駆け抜けてTD。それまでのぎくしゃくした攻撃が嘘のような鮮やかな3プレーでリードを21−0と広げる。
 これに呼応するように、次はまた守備陣にビッグプレーが出る。相手陣45ヤードから始まった京大の攻撃だったが、3プレー目にQBがボールをファンブル。それを拾い上げた山岸が一気に36ヤードを走り切ってファンブルリターンTD。先ほどの橋本の独走TDとあわせ、ほんの2分、相手攻撃も含めて6プレーの内に14点を挙げて試合を決めた。
 このように試合経過を追っていくと、終始ファイターズが主導権を握って試合を進めたように思われるかもしれない。しかし、現場で見ている限り、観客にはそんな余裕はまるでない。パスとランを織り交ぜ、ひたひたと攻め込んでくる京大のオフェンスは迫力があったし、懸命に守る守備陣の動きも鋭かった。攻守どちらを見ても、開幕から3連敗したチームとは思えなかった。
 結果的には点差がついたが、ファイターズ戦になると、見違えるような動きをするギャングスターズは、今年も健在だった。鳥内監督が常々選手に説いている「強力なライバルがいるから、チームは強くなる。強い相手に勝とう、勝ちたいという気持ちを持って、そのための取り組みを懸命にすることで、初めてチームは強くなる。ライバルはリスペクトせなあかん」という言葉通りの試合だった。
 次節からは、これまた攻守ともに強力なタレントを揃えた関大、立命との試合が続く。ともに京大に勝るとも劣らぬ「強力なライバル」である。そういう相手と戦えることの幸せをチーム全員が共有し、存分な対策と準備を続けてほしい。
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2014年10月20日

(28)「俺がやる。俺は本気や」

 快晴の日曜日。一番暑い時間帯に、長居第2陸上競技場(いまはヤンマーフィールド長居と呼ぶそうだ)に出掛けた。Xリーグ西地区のファーストステージ最終戦、エレコム神戸ファイニーズとアズワンブラックイーグルスの試合を観戦するためである。
 社会人同士の試合を見るのは、10数年ぶり。その昔、まだエレコムがスポンサーに加わっておらず、ファイニーズが市民球団として悪戦苦闘していたころ以来である。その当時は、日本に初めて誕生したアメフットの「市民チーム」を何とか盛り上げたいと、よく応援に出掛けていた。夜、仕事を終えてから練習を見に行っていたし、チームの応援コラムも書いていた。ヘッドコーチをされていた村田斉潔氏(現在は龍谷大のヘッドコーチである)と食事をともにしながら、日本のアメフット界はどうすれば発展するか、というようなことを熱く語り合ったこともある。
 しかし、朝日新聞社を定年退職し、和歌山県田辺市の紀伊民報に再就職してからは、ファイターズの応援で精一杯。とても、社会人の試合にまで足を運ぶゆとりはなかった。
 ところがこの1、2年、ファイターズの卒業生が大量に入団して大活躍。とりわけ今季は、西地区の強豪、パナソニックやアサヒ飲料を破って、ついに全勝優勝に王手を掛けている。ここは自宅で学生の小論文を添削している場合ではない。何がなんでもスタジアムに足を運び、ファイターズOBたちを応援しなければならない。そう思って、開門前から並んで待ったのである。
 試合は28−0でファイニーズの勝利。ファーストステージは全勝でセカンドステージに駒を進めた。試合の説明は省略。活躍が目についたファイターズOBについて紹介する。
 順不同でいうとオフェンスではQB糟谷君、WR松田君、OL東元君(以上、2012年卒)、WR榎君(13年卒)、ディフェンスではLB香山君、DB重田君(以上2012年卒)、DL岸君(13年卒)が先発、あるいは主要な交代メンバーとして出場した。香山君は守備の要として、ほとんどのプレーに絡み、炎のタックルと冷静なパスカバーで鉄壁の守りを見せた。重田君の魂のタックルも健在。まともにタックルを食らった相手が本当に痛そうにしているのが印象的だった。岸君はラインの真ん中を死守。相変わらず鋭い出足でQBに襲いかかり10ヤードのQBサックを奪った。
 オフェンス陣も負けていない。糟谷君はスタメンで出場、前半こそWRとの呼吸が合わなかったが、後半は持ち味の豪快なスクランブルで陣地を稼ぎ、チームを引っ張った。パンターとしても飛距離のあるパントを的確に決め、何度も味方のピンチを救った。松田君は学生時代よりプレーが進化したように見え、決定的なTDパスをキャッチした。東元君はOLのパートリーダーにふさわしい安定したプレーを続けた。TEからWRに転じた榎君は故障から回復したばかりで、この試合が今季初めての登場だったが、的確なブロックは健在だった。
 このように書き進めていくと、エレコム躍進のキーマンは1、2年前までファイターズの選手として、あるいはアシスタントコーチとしてがんばってきた選手たちであることがよく分かる。これは彼らに注目している僕のひいき目だろうか。
 本題に入る。
 エレコムの優勝について、世間では「番狂わせ」という人が多い。僕も、春の試合でファイターズをこてんぱんに破ったパナソニックに勝つのは容易じゃない、と見ていた。
 しかし、初めから今季の優勝を公言していた人物が、僕の知っている範囲で少なくとも一人はいる。今季からエレコムに入社し、チームに加わった香山君である。今年2月、宝塚ホテルでに行われたファイターズの祝勝会で、今季の幹部となった新4年生たちに「おれは社会人の代表としてライスボウルに行く。おまえらと本気で試合をしたいんや」と宣言した。ちょうどその場に居合わせたので、そのときの様子を克明に覚えているが、みんなは「まさかエレコムが……」という表情だった。僕も、パーティーの席を盛り上げるためのリップサービスだと思っていた。
 だが、彼は本気だった。「俺がやる、俺がチームを変えて行くと言い切らないと、チームは変わらない。目標を口にしてチームを変える。俺がやる。東京ドームで会おう」といっていた。
 今日の試合後、とりあえず第一目標は達成出来たな、と声をかけると「僕は本気であいつらとライスボウルで戦いたいんです。どんなに楽しいことか」と言い切った。
 彼はファイターズにスポーツ推薦で入部。3年生までは人並みの取り組みで「才能はあるが、それが十分に発揮できていない」という印象を受ける選手だった。それが4年生になって一変。守備の要として大活躍した。関西リーグの優勝を決める立命戦で、相手のエースQBに激突した炎のタックルを記憶されている方も少なくないだろう。留年してからは2年間、アシスタントコーチとして後輩を育て「俺がやる、俺がチームを変える、という気持ちで取り組まないと、何も変わらん」と、叱咤し続けてきた。
 同じことをエレコムでも言い続け、有言実行でチームを変えた。その結果の全勝優勝である。ファイターズの諸君にとっても、大いに参考になる話ではないか。
 いま、チームに「俺がやる」「俺がチームを変える」と公言し、それを実行する部員がどれだけ存在するか。先輩は「あいつらとライスボウルで戦いたいねん」という目標に向かってばく進している。後輩も負けてはいられない。東京ドームに乗り込み、勝利するためには、目の前のライバルたちに勝ち続けなければならない。そのためには「俺がチームを変える」「俺がやる」と言い切れる人間にならなければならない。
 残されたシーズンは短い。いまこそ全員が「俺がやる」「私がやる」と腹をくくる時だ。自分との戦いに勝利してもらいたい。
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2014年10月13日

(27)強いチームと並のチーム

 11日の龍谷大戦は、僕が予想というか懸念していた通りの展開だった。
 ファイターズのレシーブで試合開始。RB鷺野のナイスリターンで自陣40ヤードから攻撃が始まる。まずは鷺野が中央を突破して14ヤード、続いてRB飯田が7ヤードのランで陣地を進める。2本のランで相手が中央を固めたところでQB斎藤からWR中西への18ヤードのパスがヒット。一気に相手陣21ヤードに迫る。そこから橋本、鷺野、飯田という安定感と決め手のあるRBが中央をついてダウンを更新。残る9ヤードを橋本が走り切ってTD。わずか3分、7プレーで先制点を挙げる。
 続く龍谷の攻撃をLB山岸のパスブロックなどで抑えた後、再び自陣40ヤードの好位置からファイターズの攻撃。ここも飯田と橋本のランで一気に相手陣29ヤードに迫り、斎藤のスクランブルと宮原へのパスでゴール前12ヤード。この好機も鷺野が巧みなスピンで相手守備をすり抜け、一発でTD。ここも6プレーでTDに結び付け、完全に主導権を握った。
 攻撃が進むと守備にもリズムが出る。松本、藤木の1,2年生DLが素早い出足で中央を完封、2列目の山岸、岩田の2年生コンビが自由に相手QBに襲いかかる。藤木や岩田がロスタックルを見舞い、岩田がQBサックを浴びせる。スタジアム限定のFM放送を担当されていた小野ディレクターが「前の動きがこんなにいいと、DBの働く場面が見られませんね、ぜいたくな悩みですけど」と思わず口走ってしまうほど素晴らしいできだった。
 ところが、次のシリーズから様子が一変する。相手陣47ヤードから始まった攻撃を斎藤から鷺野へのパスなどわずか4プレーでゴール前15ヤードに進めたところまでは完璧だったが、そこで投じたTDパスが痛恨のインターセプト。パスはきれいな軌道を描いて飛んでいったが、レシーバーとのコースが合わず、相手に奪い取られてしまった。
 ここから歯車が狂い始める。次の攻撃シリーズではファイターズに立て続けに2本の反則が発生。パスで陣地を進めるたびに罰退を余儀なくされる。嫌な雰囲気は守備陣にも伝染、急所でパスインターフェアーの反則が出て、逆に相手にTDを献上してしまった。
 ここで奮起したのがリターナーとして登場したDB田中。相手のキックしたボールを一気に60ヤードもリターンして、チームに喝を入れる。これに呼応して斎藤がWR宮原へ見事なロングパス。一度ランプレーのフェイクを入れてから思い切ってゴールポストの下に投げ込む。コースもタイミングもドンピシャで、宮原が難なくキャッチし、TD。わずか1プレーでゲームの流れを引き戻した。
 前半残り2分から始まった相手の攻撃を簡単に止め、残り1分少々、自陣38ヤードからファイターズの攻撃。斎藤がWR木下、宮原へとポンポンとパスを通し、時間を使わずに陣地を進める。仕上げはWR横山への23ヤードTDパス。一度外に出ると見せかけて相手DBを吊り出し、逆に内側に切れ込んでパスをキャッチした横山の個人技が光った。
 ここで前半終了。途中、反則でリズムを崩す場面もあったが、日ごろから試合に出ているメンバーの活躍で何とか持ち直し、28−7とリードを保って後半戦につなぐ。これだけ点差が開くと交代メンバーも起用しやすい。ハーフタイムでは、後半、どんなメンバーが活躍してくれるかとワクワクしながらメンバー表を眺めていた。
 第3Qが始まる。だが、前半、あれだけスムーズに進んでいた攻撃が次第に手詰まりになる。きっかけは攻撃陣の不要な反則。せっかくリズムよく陣地を進めているのに、不用意な反則でそれを崩してしまった。
 攻撃陣のリズムが崩れると、守備にも余波が及ぶ。常時、試合に出ているメンバーなら、一発で流れを変えるプレーも期待できるが、試合経験の少ないメンバーは「ここで失敗してはいけない」と思うせいか、プレーが萎縮する。すると相手に押し込まれ、その不安定さが攻撃にも悪影響を及ぼす。負の連鎖である。
 結局、後半は終了間際にQB伊豆からWR中西に投じたTDパスを含めて2本のTDを挙げただけ。相手には1本TDを返されているから、気分的には互角の試合だった。
 こうして試合を振り返ると、二つのことが浮かんでくる。5回、65ヤードという数字が表す不用意な反則の多発と、交代メンバーが出てきたときの準備不足である。
 攻守とも先発メンバーが揃ったときは、恐ろしいほどの力を発揮するのに、交代メンバーが出てきた途端に並のチームになってしまう。並のチームが相手なら相手にも勢いが出てくる。プレーも進むし、場合によってはTDもとれる。逆に当方は、相手の勢いに押され、受け身に回った途端に反則が多発する。この悪循環を食い止めなければならない。
 そのために何をなすべきか。それはチームを率いる選手自身が試合後のインタビューでそれぞれの言葉で表現している。
 副将の松島君は「いらない反則が出たのは実力が低いから。一人一人の意識を変えていかなければならない」。OLの橋本君は「OLの1枚目はほとんど下級生だけど、1枚目である以上、部員全員の思いを背負ってプレーしなければならない」。WRのパートリーダー横山君は「1枚目がけがしたとき、出ることができるように、練習からもっと求めていかなければならない」。
 その通りである。練習からもっと上を求め、新たな自分にチャレンジする。自分の力を高め、自分に自信をつける。この二つをやり遂げるしかない。不用意な反則を犯してしまうのは、自分に自信がないからであり、「反則はしないように」と呪文を唱えているだけでは、気持ちが委縮することはあっても、いまの状態を突破できない。鷺野君が言うとおり「交代メンバーは試合に出ながら成長している」。その成長を確かなものにするために日々、もう一段上を求めて練習に取り組むしかないのである。人はそれを「チャレンジ」と呼ぶ。
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2014年10月02日

(26)教える力、教わる力

 9月28日、関西学院の創立125周年の当日、神戸大学との試合が始まる2時間半も前に家を出て、王子スタジアムに向かった。
 阪急西宮北口駅で今津線から神戸線の各駅停車に乗り換えると、大寺コーチの顔が見えた。隣に座ると、熱心にプレーブックをチェックしている。「大変ですね」と声を掛けると「僕は小心者ですねん。最後までチェックしておかないと、気持ちが落ち着かないんです」ということだった。
 「それはそれは。準備は細心に、プレーは大胆に、ということですな」とねぎらいながら、僕は車内で読もうと持参した文庫本(その日は谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」。一応、元は全国紙の論説委員、今はローカル紙の編集局長。いつもいつもハードボイルドやエンターテイメント小説ばかりを読んでいるのではなく、シブい本も普通に読んでいるのです)に目をやった。
 ファイターズのレシーブで試合が始まる。この日の先発QBはエース斎藤ではなく、進境著しい2年生の伊豆。さて、どんなプレーを見せてくれるか、と考える間もなく、3プレー目、自陣28ヤード付近からWR木下へミドルパス。それがドンピシャで通り、50ヤード付近でキャッチした木下はそのまま一気にゴールまで走り込んでTD。三輪のキックも決まっていきなり7点のリードである。
 今日も気楽に観戦できるかな、と思っていたら、それが大違い。守備は相手を完璧に抑えているが、攻撃がつながらない。パスのコントロールは乱れる、RBはボールをファンブルするという苦しい状況で2、3シリーズ目はダウンを更新することも出来ないまま、相手に攻撃権が渡ってしまう。
 「やばいな」と思っていたところが、今度は相手のファンブルしたボールを守備陣がカバー。ゴール前29ヤードという絶好の位置で攻撃権を手にする。ここはRB橋本、高松の手堅いランプレーで陣地を進め、第2ダウン残り7ヤードという場面で伊豆からゴール左端に高いパス。それを木下が冷静にキャッチし、ようやく2本目のTD。
 その後も、相手のパントのミスから手にしたゴール前10ヤードからの攻撃を橋本のランでTDに結び付けるなどしたが、前半は23ー0。後半になっても、状況は好転せず、攻撃陣はTD2本とFG1本を決めただけ。最後に交代メンバーとして出場していたDB山本泰が相手パスをインターセプト。そのまま69ヤードを走り切ってTDに仕上げたが、45ー0という得点ボードの数字からは想像出来ないほど重苦しい試合となった。
 原因ははっきりしている。QB斎藤、RB鷺野という攻撃陣の支柱になるメンバーを使わず、もっぱら交代メンバー中心で試合に臨んだが、その交代メンバーが思い通りにプレーできなかったからだ。その辺の事情について、試合後、監督や主将らが異口同音に語っている。関学スポーツの「インタビュー」から引用させてもらおう。
 鳥内監督 「今日の試合は層の厚さを確かめたかったが、オフェンスメンバーは全然できていなかった。4年生がけがしたときに試合に出るのは下級生。4年生がもっと下級生を育てなければならない」
 鷺野主将 「今日は内容、結果ともに最悪の試合だった。練習から意識できていなかった結果だと思う。下級生も自分が出たときのプレーをイメージできていない。もっと基本に忠実にプレーできないとダメ。一方でディフェンスはよかった」
 松島副将 「今日のオフェンスはほとんど0点。一番よくなかったのは、いつも出ていない選手が出ると分かっていたのに、準備ができていなかった」
 QB伊豆選手 「今日はスターターで、少し気持ちが浮ついていた。練習が足りない」
 それぞれ、まるで試合に敗れたチームのコメントのようだ。
 監督のコメントにあるように、この日はあえて攻撃の主力選手を温存し「下級生を中心とした交代要員の力を見たい」という明確な意志を持って臨んだ試合だった。それは相手を「格下」と侮るのではなく、京大を破った勢いに乗って全力でぶつかってくる相手に、これまでは「勝敗の行方が見えてから出場していた下級生たちがどれだけ戦えるか」ということをテストする意味でもある。その期待に多くの選手が応え切れなかったから、監督や主将の辛口コメントが出たのだろう。
 そうした事態が想定されるから、冒頭に紹介した大寺コーチの「僕は小心者ですから」という言葉の意味が生きてくる。「準備は細心に、プレーは大胆に、ということですか」と僕が問い掛けたのも、同じ意味である。
 問題は、試合経験を積んできた上級生が下級生にそのことをどう徹底させるか。下級生は、自らの経験のなさからくる「不安と過信」にどう対処するか。この2点である。
 答えは日ごろの取り組み、練習にある。あるいはこの日、過去に甲子園ボウルやライスボウルで過酷な試合を経験してきた上級生たちのプレーにある。
 例えば、この日、相手QBの投じたパスを背走し、身をよじるようにして奪い取ったDB田中のプレーを見ればよい。彼はファイターズ守備陣のベストプレーヤーであり、普通は相手QBがパスを投じるのを自制してしまう選手である。にもかかわらず、彼はいつパスがとんできてもいいように万全の備えをし、たった一度投じられたパスを信じられないような身のこなしで奪い取ってしまった。日ごろから「自分の方向に飛んできたパスは全部奪ってやる」と準備し、そのための練習、備えがあってこそ生まれたプレーといえるだろう。
 あるいはまた、立ち上がり、伊豆から投じられたパスを2本とも確実にキャッチし、ともにTDに結び付けた木下のプレーがある。彼は今年、ずっと手術後のリハビリ生活を余儀なくされてきたが、その間、いつもレシーバーの練習につきあい、下級生にパスを投げ、コース取りやブロックの仕方を教えてきた。下級生を教えることで自らのプレーを脳裏に描き、理想のプレーをイメージしてきた。体が動かせるようになり、練習に復帰すると、そのイメージを現実のプレーに反映させた。教える力を自らの技術を向上させるエネルギーにしたといってよい。
 「馬を水辺に連れて行くことはできる。しかし、水を飲ませることはできない」という言葉がある。教える側がいくら力を尽くしても、教わる側に「水を飲みたい」という意識がないと、水は飲めないのである。
 もちろん、逆も真なり、である。「水が飲みたい。上級生のようなプレーがしたい」と渇望して下級生がいるのに、その期待に応えられない上級生では話にならない。教える側と教わる側の歯車がかみ合ったときに初めて、チームの層は厚くなる。そういうことを教えてくれたのが、創立125周年記念日の試合だった。
  ◇   ◇
 いま発売中の「タッチダウン11月号」に僕の原稿が掲載されています。
 「ファイターズを育む土壌」というタイトルに「アメリカの合理主義と大阪商人の知恵」という副題がついています。ファイターズの選手、関係者、ファンの方々、そして関西学院大学の先生方に、ぜひ読んでいただきたい内容です。他チームのファンからは「面白くない。読みたくもない」と叱られるかも知れませんが、タッチダウン誌オーナーの大きな度量と推薦に甘えて、思うところを書かせていただきました。回し読みでもコピーでも結構です。目を通していただければ、これに勝る幸せはありません。
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2014年09月25日

(25)最強のチームへ

 先週末は、今期の直木賞を受賞した友人、黒川博行さんの講演会とサイン会。僕も対談の相手役兼司会者の役割を振り当てられ、いそいそと大阪・中之島の朝日カルチャーセンターに出掛けた。
 日ごろは一緒に食事をしたり、マージャン卓を囲んだりして気楽につきあっているが、いざ講演会、それも有料の集まりとあれば、それにふさわしい話をしなければならない。当然、準備も必要だ。という次第で、この2週間ほどは、毎晩のように黒川さんの過去に出版された本を読み、薄れかけた記憶を引っ張り出すのに必死だった。
 でも、心配は無用。聞きに来て下さった方々はみな黒川さんのファン。顔を見るだけで満足、創作の舞台裏が聞けたら元が取れた、普段の生活ぶりやペットとのつきあい方なんぞが聞けたら、楽しくて仕方がない、という方が多かったから、司会者は適当でも、会は大いに盛り上がった。
 そんな次第で、週末の練習は見ることが出来なかった。その代わり、木曜と金曜の練習はしっかり見せてもらった。
 そのときのことである。あるコーチと立ち話をしている中で「この10年間では、松岡主将の代が一番強かったのではないか」という話になった。
 理由は、4年生に松岡君や長島君、谷山君や香山君がいてチームを引っ張り、大西君や和田君という職人肌の選手もいた。それに加えて、下級生に梶原君や池永君、池田君という全日本級の元気なメンバーがおり、好き放題、のびのびと暴れ回っていた。畑君や小山君、望月君や川端君といった伸び盛りの選手も多く、チーム内の競争が活発だった。そんな話だった。
 なるほど、そういう見方もあるか、と聞きながら、僕は「それをいうなら、今年も同様ではないか」と思った。
 4年生では、鷺野君や斎藤君、松島君や木戸君ががんばっている。デフェンスでも小野君や吉原君が活躍しているではないか。3年生にも橋本君や田中君、作道君や小川君がいる。2年生には松井君、橋本君、松本君や山岸君という化け物のような選手がいる。伊豆君や小池君もまだまだ伸びてくるだろう。彼らが存分に活躍してくれたら、松岡主将の代にも負けないチームが出来るのではないか。そう思ったのである。
 当のコーチは練習を見るのに忙しく、それ以上、込み入った評定をすることはできなかった。そこで、僕は一人「彼は一体、何を言おうとしたのだろうか」と考えた。すぐに答えが出た。推測するに、こういうことである。箇条書きにしてみよう。
 1、秋のシーズンが始まり、チームはこの2試合、順調に勝ち進んできた。でも、相手は昨年の下位チーム。甲子園ボウルで4連覇し、ライスボウルで社会人に勝つというのなら、下位チームに勝ったくらいで喜ぶな。
 2、なるほど、4年生も下級生もがんばっている。でも、見る者が見たら失敗も少なくない。見た目の得点差だけでいい気になっていたら、足下をすくわれるぞ。
 3、下級生には高い潜在能力を持った選手が何人もいることは間違いない。しかし、まだ、本当に強いチームと戦って、その力を発揮したわけではない。京大や関大、立命館と正面からぶつかり合い、そこで力を発揮してこそ、下級生のころの梶原君や池永君、池田君や川端君のパフォーマンスと比較が可能になる。評価はそれからでも遅くはない。
 そういう話だったのだろう。言い換えれば「昨年の下位チームに勝ったぐらいでいい気になってたらダメですよ」と言いたかったのだろう。それは、選手に向けての発言であり、このコラムで「爆走!28番星」と書いたり、ライバルチームのコーチに若手が評価されたことをうれしそうに披露している僕に対する「忠告」でもあったのだろう。
 確かにその通りである。昨年まで、甲子園ボウルで3連覇してきたけれども、それは別のチームが成し遂げたこと。今年は全く新しい気持ちでより強いチームを作り上げなければならない。リーグ戦で、負けてもよい試合は一つもない。勝って当たり前であり、勝ち続けることが最低限の仕事である。首尾よくそこを勝ち抜いても甲子園ボウルで勝たなければ、社会人への挑戦権は得られない。これからが本当の勝負であり、まだまだ長く苦しい戦いが続く。
 そこを突破するためにどうするか。日ごろの真摯(しんし)な取り組み以外にない。周囲に評価されたとか、大差で勝利したとかいって喜ぶのではなく、しっかり足下を見つめて練習に励むことだ。「社会人に勝つ」という目標に向かって、一日一日を有意義に過ごすことだ。
 それは、鷺野主将が毎日のハドルで言っていることでもある。ファイターズで活動する全員が、主将やコーチの意のあるところを理解し、自らを鍛え、高めたときに、初めて「松岡主将の代」よりも強いチームが完成するのである。がんばろう。
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2014年09月18日

(24)爆走!28番星

 「爆走!一番星」といえば、1975年に公開された「トラック野郎」シリーズの第2弾。菅原文太と愛川欣也のコンビが満艦飾のトラックを爆走させ、熱い熱気を爆発させた映画である。このシリーズはみな、少々下品な登場人物と、マドンナを想う主人公の純情のミスマッチが面白く、僕は結構好みだった。
 いま「爆走!28番星」といえば、ファイターズの主将、鷺野君。ボールを持つたびにグラウンドを爆走する姿は、トラック野郎も顔負けである。
 15日の近大戦では、8回のボールキャリーで208ヤードを獲得。82ヤードの独走を含めタッチダウンが3本。パントリターンでも一気に49ヤードを走るなど、その実力のほどを見せつけた。第3Qの初めに54ヤードを独走し、自身3本目のTDを決めた後は、下級生に出場機会を譲ってしまったが、最後まで走り続けていたら、RB史上でも類のない大記録を達成していたのではないかと、少々残念に思うほどだ。
 ファイターズには過去、何人もの記憶に残るRBがいた。この10年ほどをさかのぼっても、12年度卒の望月君や11年度卒の松岡君は傑出したランナーだった。09年度卒の河原君や08年度卒の稲毛君のカットバックも懐かしい。07年度卒では、4年間、けがでほとんど試合に出られなかったのに、最後の甲子園ボウルで決勝TDを挙げ、男を上げた横山君が記憶に残っている。
 そうした面々でも、1試合、たった8回のボールキャリーで208ヤードを獲得し、おまけにパントリターンでも49ヤードを稼ぐなんて離れ業は記憶にない。率先垂範。主将の面目躍如である。
 試合会場で、FM放送の解説をされていたディレクターの小野さんが「今のは鷺野君だから、相手ディフェンスを振り切れましたね」とか「さすがですね」とか、感嘆しきりだったということ一つとっても、その走りの凄さが分かってもらえるだろう。
 けれどもこれは、偶然の産物ではない。ファイターズの若いOLたちが懸命に走路を開いたことはもちろんだが、それ以上に鷺野君の相手守備陣を突破する技術とスピード、そして「俺がやる」という強い意志が上回っていたということだろう。
 振り返れば、今年のチームがスタートして以来、鷺野君は常に先頭に立ってチームを引っ張ってきた。高い目標を口にし、それを完遂するために、いま何をなすべきか、何が必要か、と常に仲間に問い掛けてきた。結果だけでなく練習の内容にもこだわり、チームメイトに「もう1段階も2段階も上のレベルに上げること」を求め、全員の士気を鼓舞し続けてきた。
 そうした言動には責任が伴う。口先だけ、言うだけではだれも付いてこない。常に先頭に立って行動し、激しい言葉で仲間を鼓舞し、時には後ろ姿でチームを引っ張る。
 そういう主将が試合で「俺がやる」という姿を見せつけた。それは鬼気迫る独走であり、渾身のセカンドエフォートだった。彼の日ごろの取り組みの一端を知っているだけに、見ていた僕は主将の活躍がうれしくてうれしくて、涙が出そうだった。
 うれしいことといえば、近大との試合ではもう一つ特筆しておきたいことがある。
 それはWRの木下君が9カ月ぶりにグラウンドに戻り、たちまちTDパスをキャッチしてくれたことである。
 彼は、昨年の関西リーグで大活躍した選手だが、ライスボウルの激戦の中でけがをし、長いリハビリ生活を続けてきた。しかし、まだ松葉杖をついているような状況からグラウンドに顔を出し、チームの練習を見守ってくれた。懸命のリハビリで少し状態が回復すると、レシーバー陣の練習を手伝い、パスを投げたり下級生にアドバイスしたりしてチームに貢献し続けた。けがをして試合に出ることは不可能でも「いま自分に出来る貢献」を自ら探し、その役割を果たし続けたのである。
 口で言うのは簡単だが、それはなかなか出来ることではない。自分のポジションに入った選手が活躍するのを見るのは複雑な気持ちだろうし、ほかの選手の活躍をベンチで見ているだけというのものもストレスが貯まる。しかし、そういうマイナス思考とは無縁のところで、彼はひたすら「自分に出来る貢献」を探し、それを見つけて実行してきた。
 そういう苦しい戦いを知っているだけに、この日、9カ月ぶりにグラウンドに登場し、たった1回、QB斎藤君から投じられたゴールポスト直下のパスをいとも簡単にキャッチしてTDを獲得したことに、僕は感動した。審判の両手が上がった瞬間「よくぞ戻ってきてくれた」という感謝の気持ちと、これからの活躍を期待して、心からの拍手を送ったことである。
 主将の活躍と木下君の復活。そして斎藤君の精密機械のようなパス・コントロール。こうしたうれしい場面を目に焼き付けて、その夜、僕は勤務地の和歌山県田辺市まで、満足感を道連れに車を走らせた。
 念のために付け加えておけば、当方は「爆走!一番星」ではなく、交通ルールを守った安全運転だった。
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2014年09月11日

(23)2年生に注目

 10月号のタッチダウン誌に興味深い記事があった。「いますぐ世界大学選手権があるとして」という仮定の下に、関西大学カイザーズのヘッドコーチ、板井征人氏が「2014 カレッジ・オールジャパン」を選んでいたのである。
 他チームのことは知らず、ファイターズに限って言えば、その人選は一部を除き、妥当であり、新鮮だった。ライバルチームのコーチの目に、ファイターズの選手がどのように写り、どのような点が評価されているのか、という意味でも興味深かった。
 まずは、その記事を未読の方のために、攻守蹴24人の中に、ファイターズから選ばれた選手の名前を列挙してみる。
 オフェンスからはC松井(2年)、WR木戸(4年)、QB斎藤(4年)、RB橋本(2年)。ディフェンスでは、NG松本(2年)、LB小野(4年)、CB田中(3年)。合計7人である。
 もっとも、該当者なしとしているKについて、板井氏はLBにも使えるマルチな選手として「山岸あたりがふさわしい」といっているので、LBと兼務で彼の名前を加えると8人。そしてRBの部門で「普通に考えればKGの鷺野に異論はないであろう」という表現があり、チームを統括するリーダーシップまで考えれば、主将枠として鷺野が選ばれてもなんら不思議ではないので、合計9人と考えても不自然ではないだろう。
 こうした板井氏の人選で、僕が注目したのは、ファイターズから2年生3人(山岸を入れると4人)がノミネートされた点である。上級生の4人は、実績は十分。これまでの活躍ぶりから見て、選ばれて当然、と僕も思っている。でも、2年生がここまで注目されているのは少々、意外だった。
 ともあれ、2年生の評価をタッチダウン誌の記事から要点を引用すると、C松井は「賢い、強い、センスがある、テクニックもある。こんな1年生がいるのか…。少しため息が出た」。RB橋本については「KGの先輩RB望月をきっと超える逸材だ。強豪チームとの試合数を重ねればもっと伸びていく気配が満載である」。NG松本は「昨年はどちらかといえば狙い目だったが、今年はそうはいかないであろう。KGのシステムにも慣れ、ヒット力自体も怪力分を乗せられる技術を磨いてくるに違いない」。
 そして22人の中には選ばれていないが、LB山岸については「DEもILBもさらにはTEもこなせる逸材。なによりあの過酷なU19の大会のMLBをほぼ一人でけがなしで乗り切ったタフネスは評価できる。サイズも将来性もあるので、NFLを本気で目指してほしい」とベタ褒めである。
 成長途上の2年生をここまで褒められると、なんだか「褒め殺し」のような気もしてくるが、ともかくライバルチームのヘッドコーチの観察眼に、彼らの動きが焼き付けられていることは、よく分かった。
 たしかに練習を見ていても、彼らは人目を惹きつける取り組みをしている。毎日「半歩でも強くなって練習を終える。一歩でも賢くなって家路につく」という気持ちが、その行動に現れている。山岸はU19の世界大会に出発する前に会ったとき「毎週7回筋トレをやっています」と元気に話していた。チームの練習を続けながら、おまけとして週に7回の筋トレを全力で続けるのは容易なことではあるまい。しかし彼は「海外勢との試合でけがして帰ってきました、なんてしゃれにもなりませんから」と、厳しく自分と向き合っていたのである。
 ベンチプレス175キロ、スクワット280キロという怪力を誇る松本は、ある日の練習で、アシスタントコーチの上沢君にこてんぱんにされていた。多分、10回ぐらい連続で1対1で当たりあったが、そのたびに一方的に押し込まれ、何度も首をひねっていた。「自分の当たりの方が絶対に強い。でも、押し返される。どこに問題があるのか」。それを確かめるために、押し戻されては当たり、当たっては押し戻される練習を、延々と続けていた。
 一区切りがついたとき、上沢君に聞くと「受ける方が本気で受けないと、相手は強くなりません。本気で受けてやるのが僕や友國の役割です」と答えてくれた。
 同じような場面は、RBの練習でも見られた。RB同士が当たり合うのだが、そこに4年生TEの松島が加わっている。公称187センチ98キロ。OLと比べても遜色のない松島に向かって、走るのが専門のRB陣が次々にヒットするのだが、大抵は簡単に跳ね返される。それでも、もう一丁、もう一丁とチャレンジする。その先頭にいたのが橋本であり、3年生の三好だった。
 思い返せば、板井氏の論評にも名前の出ていたRBの先輩望月君も、LBからコンバートされた当時、似たような練習を同期のLB川端君を相手に、延々と繰り返していた。そこで鍛え、甲子園ボウルやライスボウルで大活躍をしたのである。
 練習は裏切らない。まだ2年生とはいえ、杉山も含めた「オールジャパン」のメンバーは、日々、上級生やアシスタントコーチを相手に、強豪との試合を想定した厳しい取り組みを続けて来たからこそ、ライバルチームのヘッドコーチの目に、その将来性を期待されるようになったのである。
 タッチダウン誌と板井ヘッドコーチが選んだ「オールジャパン」には漏れているが、同じ2年生にはQBの伊豆、DBの小池など、傑出した才能を発揮しつつある選手が何人もいる。15日の近大戦では、そんな点に注目して応援するのも楽しいことだろう。
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2014年09月05日

(22)晴れ舞台は第3フィールド

 永井荷風が小説を書く者の心得として、こんな随筆を書いている。
 ……読書、思索、観察の三事は小説かくものの寸毫(すんごう)も怠りてはならぬものなり。読書と思索とは剣術使の毎日道場にて竹刀を持つがごとく、観察は武者修行に出でて他流試合をなすが如し。
 僕は小説家ではない。だが、新聞記者の端くれとして「世の中実地の観察」の大切さはよく理解出来る。だから、上ヶ原のグラウンドに顔を出すたびに、部員たちの練習ぶりや練習前の行動などについて、ひとかたならぬ関心をもって眺めている。フットボールの経験者ではないが、ファイターズのホームページでコラムを書くようになってからは、新聞記者の目で、部員の振るまいをより丁寧にチェックするようにもなった。その結果、最近は「試合会場で見る部員の姿は仮りの姿。本当の姿は上ヶ原の第3フィールドにある」と思うようになった。
 試合会場でライバルを相手に活躍している姿こそ、選手にとっての晴れ舞台。ファンの誰もがそう思っておられるに違いない。だが、僕は最近、第3フィールドこそ部員にとっての晴れ舞台であり、そこでもがき苦しんでいる姿が千両役者だと思えるようになっているのである。
 どういうことか。今季の初戦、同志社大との試合で、誰もが「おっ、やるじゃないか」と思うような活躍をした選手たちの名前を挙げて説明してみよう。
 まずは、正真正銘の新戦力として活躍した1年生から。初戦のメンバー表を見た人は、先発メンバーにOLの井若君(箕面自由)とWR前田泰一君(関大一)の二人が名前を連ねているのに驚かれたに違いない。試合が始まって間もなく、同じ1年生のRB高松君(箕面自由)、DB小椋君(同)、DL藤木、三木、柴田君の3人と、WR中西君(いずれも高等部)らが交代メンバーとして次々に登場し、スタメンで出た二人とともに縦横無尽に活躍した姿にもびっくりされただろう。
 この日が初めての公式戦なのに、前田君や中西君は当然のようにロングパスをキャッチし、高松君は30ヤードの独走TDを決めた。小椋君は、もう何年も試合に出続けているような安定した守備を見せたし、高等部のDL3人組も、それぞれが競い合うように鋭いフットワークでタックルを連発した。先発で左のタックルを任された井若君は、173センチという小柄な体からは想像も出来ない粘り腰で、QBの背後を守り切った。
 けれども、上ヶ原での練習ぶりを何度も観察していた僕は、彼らが活躍するのは「当然、当たり前のこと」だった。
 チーム練習の前に、前田君はアシスタントコーチの梅本君を相手に、何度も何度も同じ練習を続け、守備選手の交わし方のタイミングを身に付けようとしていた。井若君は、同じくアシスタントコーチ池永君の胸を借りて「強くて素早いDL」を相手にしたときの身のこなし、足の運び、腰の落とし方などを徹底的に追求、その動きを体に覚えさせようと必死だった。
 DLの高等部3人組も負けてはいない。4年生の岡部君や3年生の小川君らをお手本に、スタートのタイミングの取り方やタックルの練習を、これでもか、というほど続けていた。
 RBの高松君や山本君(立教新座)も、身のこなしが素早くて当たりが強い4年生の鷺野君や飯田君からマンツーマンの指導を受け、首の守り方からタックルの受け方、交わし方まで、徹底的な反復練習を続けていた。
 同じような取り組みは、2年生も同様だった。この日の試合でともにTDパスをキャッチしたTEの藏野君と杉山君も、数日前の練習で、大村コーチが見守る中、アシスタントコーチの池田君や長森君を相手に、スタートのタイミングや足の運び、タックルの交わし方などを、繰り返し繰り返し練習していた。
 そういう実戦を想定した練習、取り組みを徹底してきたから、彼らはみな本番でも軽快な動きが出来た。「準備してきたことを遂行するだけ。結果は付いてくる」という、極めてシンプルな考え方で試合に臨めたから、初戦というプレッシャーに動じることなく、堂々と戦えたのである。
 練習のための練習ではない。マニュアル通りの練習でもない。試合を想定した練習、それも初戦だけでなく、これから続く強烈な力を秘めたライバルたちを想定して、全日本級の力を持つ先輩やアシスタントコーチを相手に、何度も転がされ、徹底的に汗をかいてきた結果が、あの華々しいデビューとなったのである。
 相手は1、2年生とはいえ、本気になってその練習台を務めた上級生が活躍したことはいうまでもない。
 定例のチーム練習の前に、どのパートでもこうした真剣勝負が毎日行われているのが、上ヶ原の第3フィールドである。そこは練習グラウンドではなく、晴れ舞台であるという意味がここにある。
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2014年08月30日

(21)予測された失敗と成功

 8月29日午後6時40分、小雨のぱらつくエキスポフィールドに、2014年のファイターズが登場した。待ちに待った関西学生リーグの開幕。初戦の相手は2部から昇格した同志社大学である。
 この日の午前中、僕は上ヶ原の第3フィールドに向かっい、グラウンドを見下ろすヤマモモの木の下にある「平郡君へ」の碑に向き合った。まず一礼し、今年もチームが無事に開幕を迎えられたことを報告するとともに、その元気な戦いぶりを天上から見守って下さいとお願いしてきた。帰りに上ヶ原の八幡神社にも立ち寄り、お賽銭を上げ、鈴を鳴らして、戦いの勝利を祈願。ついでに、時計台やランバス礼拝堂にも向き合って、チームを見守って下さいとお願いしてきた。
 こちらはお賽銭はなし。代わりに財務課の窓口に立ち寄り、財布をはたいて、ファイターズのためにわずかばかりの寄付をしてきた。一連の行動は、毎年、シーズンがスタートする前に、自分に課した習慣であり、これを済ませないと落ち着かない。
 試合はコイントスに勝ったファイターズがレシーブを選択、同志社のキックオフで始まった。先発QBは斎藤。雨の中とあって、まずはRB鷺野、橋本、三好のランで陣地を稼ぐ。途中、TE藏野への短いパスを挟んで、あっという間に相手ゴール前12ヤードまで進む。そこから鷺野が左サイドを駆け上がってTD、という場面だったが、ここはオフェンスラインのスタートが合わず、反則を取られて、せっかくの先制TDが幻に。それどころか、次のプレーでは相手ブリッツを受けた斎藤がニーダウンしようとしてボールをファンブル、相手に攻撃権を奪われてしまった。
 「これはややこしい試合になるかも」と危惧したが、心配は無用。次のシリーズですぐさまDB小池が相手のパスをインターセプトして攻撃権を奪い返す。
 こうなると、チームも落ち着く。自陣41ヤードから始まったファイターズの攻撃は、鷺野のラン、WR樋之本へのパスであっという間にゴール前10ヤード。すかさず斎藤が藏野へのパスを決めて先制のTD。トライフォーポイントは、ロンリーセンター体型からスナップを受けたWR森岡がそのまま左隅に走り込んで2点を獲得。8点をリードして主導権を握った。
 なにかと固くなりがちな初戦だが、リードするとチームは落ち着く。次の相手の攻撃をDL小川やDB小池の鋭い突っ込みで簡単に抑えた後、ファイターズは森岡と木戸へのパスを折り込みながら、鷺野、橋本、三好が確実に陣地を進め、仕上げはゴール前1ヤードから三好の中央ダイブ。続くファイターズ4回目の攻撃シリーズも、斎藤から1年生WR前田、藏野、樋之本、木戸へのパスを次々とヒットさせ、ゴール前1ヤードから今度は橋本が中央のダイブ。相手守備陣を根こそぎなぎ倒すように押し込んで余裕のTDだった。 次のシリーズも斎藤から前田へのロングパス、1年生RB高松へのスイングパス、そしてWR横山へのTDパスとわずか3プレーでTD。ここで再び森岡が2点コンバージョンを成功させ、30−0として前半終了。
 後半はQBが2年生の伊豆に交代。攻守のメンバーも次々と交代する。だが、ファイターズの勢いは止まらない。相手陣37ヤードから始まった後半最初の攻撃は、伊豆が藏野への短いパスを決めたあと、高松が30ヤードを独走してTD。わずか2プレーで追加点を挙げた。
 次の相手攻撃は簡単にパントに追い込みながら、リターナーがファンブルして、相手に攻撃権を渡してしまう。その失態を交代で出場していた1年生DL藤木、2年生DL安田の強烈なタックルと、1年生DB小椋の的確なパスカバーで防ぎ、得点は許さない。
 逆にファイターズは自陣ゴール前「インチ」というぎりぎりの場面からスタートした次の攻撃シリーズも、伊豆が冷静な判断でパスとランを使い分けて陣地を進め、11プレー目にTE杉山にパスを通してTD。DB杉本のインターセプトでつかんだ次の攻撃シリーズも高松のラン、けがから復帰した飯田の独走、そしてWR水野へのパスでTDに結び付けた。最後の攻撃シリーズもK三輪が42ヤードのフィールドゴールを決め、終わって見れば、54−0の完勝だった。
 しかし、試合後の鳥内監督も、鷺野主将も、ともに渋い表情。「4年生がミスをしとってはあきませんわ」「4年生が練習失敗を犯している。練習の時から、もっともっと厳しい取り組みをしないとダメ」と、異口同音に厳しい言葉が出た。
 その通りである。これはまた次回のコラムで書くが、甘い取り組みは必ず悪い結果をもたらす。真剣な取り組みは、いつかは報われる。そのことを痛いほど見せつけられた開幕戦だった。
 そんな中、個人的には期待していた2年生や1年生が存分に活躍してくれた。それがこの日の何よりの収穫だった。その話は、またの機会に詳しくお伝えしたい。
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2014年08月26日

(20)いざ、出陣!

 8月29日、今週金曜日に、待ちに待ったシーズンがスタートする。鷺野主将率いる2014年度ファイターズがどんな戦いぶりを見せてくれるか、楽しみでならない。ワクワクして、くしゃみが出そうだ。
 振り返れば、2011年度、松岡主将の代から翌年の梶原主将、そして昨年の池永主将のチームは、それぞれ強敵揃いの関西リーグを制覇し、甲子園ボウルでも勝って、堂々の3連覇を果たした。その力強い戦いぶりから、専門誌は「ファイターズ王朝」なんて、読む方が面食らうような表現をしている。
 けれども学生スポーツは社会人チームとは違う。毎年毎年、成長し、チームの支柱となってきた4年生を送り出さなければならない。その分、春先には毎年、恐ろしいほど戦力が低下する。その戦力減をフォローし、前年を上回るチームを作り続けないと、明かりは見えてこない。「王朝」なんて言われていい気になっている場合ではない。3連覇の次は4連覇なんて気楽に言えることではないのである。
 だからこそ、鷺野主将をはじめ幹部たちは毎回、練習を切り上げるときにハドルを組んで4年生を叱咤し、後輩にゲキを飛ばして「一瞬のゆるみ」もないように、チームの士気を高めている。監督やコーチも、指導者としての長い経験に裏付けられた専門家の目でチームをチェックし、細部の細部に至るまで、油断はないか、漏れはないかと気を配っているのである。
 そういうチームがいよいよベールを脱ぐ。春の交流戦やJV戦とは全く異なる圧力のかかる試合にチャレンジするのである。いまは真夏。まだまだ未完成だが、今後試合を重ねるごとにチームに磨きをかけ、11月に迎える関西リーグの天王山に挑む。そして、そこを突破できれば甲子園、そして東京ドームへと歩を進めていく。そういう長い旅路の第一歩が29日の同志社大との戦いである。何があってもスタジアムに駆けつけるしかない。
 さて、今年のチームの見所である。あれこれと書きたいことはあるが、初戦では2年生に注目したい。毎年、チーム浮沈の鍵を握っているのは2年生の活躍にあり、というのが僕の持論であるからだ。
 実際、今年の4年生が2年生の時の活躍ぶりはすごかった。攻撃ではRB鷺野、飯田が頭角を現し、松岡主将の抜けた穴を感じさせないほどだったし、TEには松島、レシーバーには木戸、大園という才能豊かな選手がいた。守備では、現在副将を務めているLB小野が不動のスタメンを張っていたし、DB国吉、DL岡部も非凡な才能を見せていた。
 忘れてはならないのがキッカーの三輪。チャックミルズ杯(年間最優秀選手)に輝いたキッカー大西に代わり、大事なキックオフを任された。甲子園ボウルと言えばQB斎藤が負傷で出られないエースQB畑の穴を埋めるため登用されたことも忘れられない。
 彼らの活躍なしには、梶原主将が率いる強力なチームも関西リーグを突破し、甲子園ボウルでも勝ってライスボウルまで進み、勝利寸前まで奮闘することは不可能だったのではないか。
 昨年度、池永主将のチームでも、数は少なかったが、2年生が傑出した働きをした。守備ではDBの田中とLB作道。田中はチーム切ってのアスリートとして、ライスボウルでも2度のインターセプトを成功させているし、作道はラインバッカーの位置から再三のQBサックを決めた池永の相棒。相手OLを幻惑する動きを何度も演じたし、DLの小川も持ち前の鋭い動きで相手ラインを切り裂いた。
 攻撃ではWR木下がそのブロック力と確実な捕球で活躍した。QB斎藤の信頼も厚く、急所では彼のところにパスが飛んできた。OL橋本は4年生で固めたラインに割り込み、頭脳的な動きでチームを支えた。出番は少なかったが、RB三好の要所要所でのランも効果的だった。
 そういう視点で、今年の2年生に注目すると、魅力的な人材がわんさかいる。
 昨年からスタメン、あるいは有力な交代メンバーとして試合に出ている面々では、DLの松本、LBの山岸、DBの小池、岡本、真砂らがいる。オフェンスではQB伊豆、OL松井、高橋。これに今春、急成長したRB橋本、TE藏野、杉山らの活躍ぶりも見逃せない。キッカーには春の試合で安定したキックを見せた西岡がいる。
 このうち何人かは初戦から先発メンバーとして登場するだろうし、試合展開によってはエース級の働きをするかも知れない。彼らが活躍すればするほど、チームの底上げは出来るし、3年生や1年生との競争も熾烈になる。それがまた4年生への刺激になり、チームとしても盛り上がる。
 そういう役割を担っているのが2年生である。初戦には、まず彼らの活躍ぶりを目をこらして眺めることにしよう。いまからワクワクしてきた。
posted by コラム「スタンドから」 at 19:09| Comment(1) | in 2014 season