2013年08月07日

(18)「集散」

 長い間、ファイターズの練習を見てきて、僕の中にはそのチーム状態を計る目安が生まれている。それは練習時の「集散のスピード」である。
 春先のチームは例年、新加入のメンバーが多いせいか、それともチーム練習のメニューが少ないからか、練習が始まる時間になっても「集散」は何となくのんびりしている。もちろん、マネジャーの「練習開始10分前」という大きな声が響き、「ハドル」という声に合わせて、選手がグラウンド中央に集まってくるのだが、ここの選手の「さあ、始めるぞ」という気合いは感じても、集団としての熱気は感じられないのが常態である。
 ところが、春のシーズンが終わり、前期試験も済ませて8月になった瞬間、ギアが一気に加速される。チームとしてのある種の高ぶりが生まれる。グラウンドのあちこちから、場合によっては40ヤードも50ヤードも全力疾走して中央のハドルに集まってくる部員の姿から、1年生も4年生も関係ない、ついてこれないヤツは振り落とす、というようなオーラが出てくるのである。
 本当に自分と勝負する、夏合宿を間近に控えていることもあるだろう。秋のシーズン開幕まで1カ月、立命戦まで100日余り、という時間的なリミットが具体的な日数で数えられるところまで来たということもあるだろう。とりわけ4年生や3年生は、ここで頑張らなければ一生後悔する、という切羽詰まった気持ちにもなるだろう。
 チームを構成する全員のそういった気持ちが、練習開始時、あるいは5分間のブレークタイムやサプリメントタイムが終わった後の集りの速さとなって具象化されるのである。「集散のスピードがチーム状態を反映する」というのは、そういう意味である。
 実際、今年も8月になった瞬間に、集散のスピードがアップした。選手だけではなく、マネジャーやトレーナー、アナライジングスタッフなど、グラウンドにいる全員が全力疾走でハドルに参加し、また水分やサプリメントの補給に散っていくのである。
 ファイターズの練習は、細部にまでこだわったタイムテーブルに沿って進行する。監督やコーチの助言を生かしながら、マネジャーを中心に4年生の幹部らがメニューを作り、その時間割に沿って、分刻み、秒刻みで進められていく。ユニットの練習も、オフェンス、ディフェンスそれぞれに本数が決められており、失敗しても成功しても、予定した本数が終われば、その練習は終わる。チーム練習についても、キッキング練習についても、同様である。失敗したからもう一度、というよいうな甘ったれたことは許されない。
 そういう緊迫した練習を実りあるモノにするためには、いつも実戦を想定した動きと、緊張感が求められる。その緊張感を体全体で高めて行くためにも、練習開始時の数十ヤードの全力疾走に意味があるのだ。
 だから、練習が始まる前、ブレークやサプリタイムが終わった後のハドルへの集散のスピードが、そのままチームとしての集中力、緊張感を計る物差しになるのである。
 先週末、上ヶ原のグラウンドで、そうした練習ぶりを眺めていたら、たまたま「オープンキャンパス」で大学を訪問した何人かの高校生がその練習の様子を見学しているのに出くわした。
 それぞれ、高校でフットボールをやっている選手たちだったが、一様に驚いていたのがその集散のスピードと、一つ一つの練習メニューが短時間で効率よく進められていくこと。彼らも炎天下で、ハードな練習をしているようだったが、ファイターズのメンバーが練習に取り組むスピード感には、度肝を抜かれたような表情だった。
 けれども、本番はこれからである。いまは試験期間中の休みが終わった後の久々のチーム練習であり、合宿を前に気持ちが高ぶっているだけの時期かもしれない。これからは長い合宿、そしてシーズン開始へと、厳しいチーム内競争の日々が始まる。体力的にも精神的にも厳しい毎日が続くに違いない。そういう日々を、いまのような「やる気満々」の集散のスピードで乗り切っていけるかどうか。
 試されるのは、まずこれからの1カ月。そして関西リーグが始まってからの2カ月半である。そこで現在の自分を1段階も2段階も向上させた者にのみ、栄冠は輝く。関西リーグから甲子園、そして東京ドームへと続く道を、いまの集散のスピードを落とすことなく走り切ってほしい。頑張ろう。 
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2013年07月30日

(17)「ファイターズの魅力」

 何を血迷ったか、先週の土曜日、関学会館で開かれたファイターズ後援会の総会で記念講演をしてしまった。副会長の井上さんから与えられたお題は「ファイターズの魅力」。新入会員の歓迎会を兼ねているので、日ごろこのコラムに書いているような話をしてもらえれば、という注文である。
 「僕は新聞記者。書く方にはそれなりの経験を積んでいますが、まとまった話なんて無理ですよ。第一、講師先生という柄でもないし」と、一度は辞退したのだが、かねてからスタンドで一緒にファイターズを応援している仲間であり、ご長男で2005年度の副将を務めた井上暁雄君とは、何かと縁があったので、むげには断れない。コラムに書いている内容の「おさらい」でよければとお断りしたうえで引き受けることにした。
 ところが、慣れないことはするもんじゃない。どういうわけか、先週は通院ウイーク。火曜日は田辺の病院で目の手術、木曜、金曜はかかりつけの内科医へ。金曜の午後と土曜の朝は西宮に戻って仁川の西村接骨院へ。週の半分以上も医療機関に通う羽目になってしまった。おまけに金曜日の夜は高校生の勉強会が入っている。これで、仕事に穴を開けず、後援会の準備も怠りなく、というのだから、僕の業務管理の技術もなかなかだ。とはいっても、さすがにこのコラムにまでは手が回らない。とうとう更新をサボってしまった。申し訳ない。
 で、講演会の話である。まずは1昨年の秋に発行されたアエラムックの「関西学院特集」に書いた「ファイト・オン」チームソングがつなぐ栄光と軌跡……の自慢話ではなく、「ファイト・オン」の歌詞に込められたチームのたたずまいについての紹介である。
 この歌がどのようにして生まれ、チームソングとして歌い継がれるようになったかという由来を簡単に紹介し、この歌に込められた「清く戦い、勝利者の名を誇りに思い、その名に恥じない品性を持て」という意味の解説をしながら、日本のスポーツ界に根強く残る暴力的な支配、上級生と下級生の支配と従属の関係とは無縁なファイターズというチームについて、その生い立ちから説明させていただいた。
 続いて、戦後の草創期からこのチームに吹いていた「アメリカの風」について説明。卒業後10年間、チームの監督を務められた米田満さん、その2年後輩で関西アメリカンフットボール協会の組織作りと財政基盤の確立に尽力された古川明さん、3年後輩で後にヘッドコーチとして、テレビの解説者として、理論的な指導者として、日本に「アメリカの風」を持ち込んだ武田建さんらの功績を語りながら、そうした先輩たちの話が「昔話」ではなく、いまのファイターズにも脈々と受け継がれていることに話を展開した。
 それが「自発性と自主性」という言葉で表現されるチームのたたずまいである。そのことを端的に表しているのが、昨年11月28日付けのこのコラムに「透明な空気」という見出しで紹介した二つのエピソードである。詳しくはバックナンバーでお読みいただけばよいが、関西リーグの最終戦、立命との決戦を前に4年生が全員、下級生の前に整列し、主将と副将が「この1年、厳しいことも言ってきたけど、よく支えてくれた。本当にありがとう」と下級生に感謝の言葉を述べたこと、その後で4年生以下全員がグラウンドの隅々まで清掃したことを紹介した。
 そして、ファイターズというチームは、本当にしんどいことを4年生が引き受ける。それは、去年や今年に限ったことではない。長年、チームを支えてきた上級生が「当然のこととして」取り組んできたことであり、そういう上級生の姿を見て育った下級生が学年が進むにつれて「自ら引き受ける」人間に成長していくからこそ生まれるたたずまいであると説明した。
 それが鳥内監督がいつも口にされる「学生たちが日本1になるというてるから」という言葉につながり「日本1になるために、君はどんな男になんねん」「チームにどんな貢献ができんねん」という問い掛けになっていく。決して監督やコーチが「オレは日本1になりたい。だからああしろ、こうしろ」というのではない。学生の側が「日本1になる」という目標を立て、監督、コーチがそれを手助けするという順序である。
 本当に強いチーム、たくましいチームを作るには、グラウンドで戦う選手、それを支えるスタッフが自発的、主体的に取り組まなくては本物ではない。指導者が暴力で支配したり、怒鳴り付けて従わせたりしているようなチームとは180度違う。これがファイターズの伝統であり、魅力でありましょう、と話した。
 そして、そのことが実は、校訓にいう「マスタリー・フォー・サービス」を体現することにつながると話を続けた。つまり、ファイターズでの活動が、この校訓を作ったベーツ院長のいう「私たちは強くあること、さまざまなことを自由に支配できる人(マスター)になることを目指します。マスターとは知識を身につけ、チャンスを自らつかみ取り、自分自身を抑制できる、自分の欲や飲食や所有への思いを抑えることができる人です」「本校の理想は強くて役に立つ人になることであり、弱くて使いものにならない人になることではありません」「(マスターとは)成功する人、事業の基本原理を理解し、なすべきことを知っている人、他の人なら失敗しかねない場合でも、勤勉と正直により成功を収める能力のある人」につながるのである。
 これがファイターズの魅力である。僕はこういう「自分の足で立っている」チームのたたずまいに惹かれている……。
 講演会では、概要、こんな話をした。つたない語り口だったが、みなさん、熱心に聞いて下さったようだから、ほっとした。
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2013年07月17日

(16)暑さに負けず勉強会

 春のシーズンが終わり、関西学院大学は今日から前期試験。文武両道を目指すファイターズの諸君はいま、暑さに立ち向かって学業にいそしんでいる。
 僕も非常勤講師として授業を担当しているが、評価は普段の授業で毎回のように書かせる小論文の点数が中心だから、あらためて試験はしない。つまり最終の授業日限りで、採点の仕事も終了。翌日には成績表をさっさと事務室に提出したから、本来、今頃は楽しい夏休みに突入、というところだが、そうは世間は甘くない。最終の授業が終了したその日の夜から、今度はスポーツ推薦でファイターズを目指す高校生を対象に「課外授業」が始まった。
 この勉強会は、このコラムにも何度か書いたことだが、1999年の夏、当時、リクルートを担当されていた小野コーチの要請で、池田高校の平郡雷太君と箕面高校の池谷陽平君を相手に初めて実施して以降、毎年、この季節になると、僕が「先生役」を務めて続けている。
 当時、僕は朝日新聞の論説委員をしていたので、大阪・中之島の本社に2人を呼んで、勤務時間の合間に近くの喫茶店で小論文の指導をした。2人とも頭脳明晰、打てば響くような高校生だったから、僕が少々説明不足でも、ポイントをすぐに理解し、毎回、1時間で800字という小論文を見事に仕上げてくれた。
 これに味を占め、翌年からはそれなりのペーパーを準備。会場も確保して「困った時はおばあちゃんにお小遣いをねだるつもりで書けばいい」「とにかく800字を書ききろう」と教えてきた。小論文を書きなさいというだけではなく、書き終わった後のご褒美に、ケーキセットや簡単な食事があれば、勉強もはかどることを発見。勉強会の後には「お食事タイム」を設け、しばらく歓談するようにもした。距離が遠くて参加できない場合は、ファクスで小論文を送信してもらい、それを添削し、講評を添えて送りかえす仕組みも作った。
 数えてみれば、今年でなんと15年。最初の年は2人だった生徒もやがて5人、10人と増えていき、今年は14人が参加している。合計の参加者は数えたことはないが、もう100人近くになっているのではないか。
 うれしいのは、この勉強会に参加し、無事推薦入試に合格してくれた諸君が入学後、必ず僕を「先生」と呼んで慕ってくれること。そして大半のメンバーがファイターズの主力選手として活躍してくれることである。
 今年の4年生で言えば、主将の池永君、副将の友國君、オフェンスの田渕君、上沢君、油谷君、石橋君、野々垣君、ディフェンスの吉田君、植屋君、片桐君、大森君はみな、この勉強会のメンバーである。これは彼らに限らず、ファイターズのメンバー全員に対して僕が心掛けていることだが、練習や試合でいいプレーを見せたときには、いち早く声を掛けるし、けがをしてリタイアしたときには、必ず激励の言葉を掛ける。
 そんな中でも、勉強会に参加したメンバーについては、とりわけ親しみを感じる。時間が合えば、大学の食堂で昼飯を一緒にすることもある。
 彼らとの勉強会は、夏休み中のごくごく限られた時間のつきあいだが、勉強会に参加したメンバーにとっては、高校時代を思い出す懐かしいシーンを共有した印象が残っているのだろう。僕にとっても、懐かしい記憶がいっぱいある。顔を見ただけで、当時、彼らが書いた小論文の出来、不出来、その字の上手、下手までが思い起こされる。
 こうした関係は卒業してからも続き、顔を合わせるたびにみんなが親しく挨拶してくれる。最近出会ったり、電話で話したりしたOBに限っても池谷君(2003年度卒)、佐岡君、石田貴祐君(04年卒)、井上君(05年卒)、生田君(06年卒)、坂戸君、藤本君(08年卒)、亀井君(09年卒)、松原君(10年卒)、糟谷君、香山君、重田君、谷山君、佐藤君、東元君、長島君(11年卒)、押谷君、梶原君、小山君、望月君らはみな、この勉強会に参加したメンバーである。
 勉強会を通じて、来年からのファイターズを担ってくれる有望なメンバーとの関係がチーム関係者の誰よりも早く始まる。暑いの、疲れたのなんて言ってはおれない。夏休みをゆっくりなんて、考えたこともない。
 もちろん、高校生にとっても合宿だ、日米交流戦だと、なにかと日程の立て込んだ毎日である。その貴重な時間を有意義なものにするために、しっかりと文章の書き方を教えたい。大学に入ってからも戸惑うことのないように、少しばかりの手助けをしたい。
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2013年07月10日

(15)スタッフの力

 春の試合がすべて終わり、ファイターズの諸君はいま、前期試験に向けて追い込みをかけている。もちろん、その間も「走りモノ」と呼ばれるしんどい練習や筋力トレーニングのメニューがパートごと、個人ごとに与えられている。チームとしての練習がないだけで、試験期間中も体の手入れは怠れない。8月からの厳しい練習に耐えるため、暑さに慣れる取り組みも必要だ。
 だが、とにもかくにも大学は来週から試験期間。ファイターズの諸君には十分な対策を練って、単位を獲得してもらいたい。
 という次第で、今回は春の総括。一番印象に残ったことを書きたい。
 それは、チームのマネジメント能力の高さということである。今春は、上ヶ原の第3フィールドでの試合が多かった関係で、ビジターチームのベンチの動きを目の前で見る機会が多かった。以前は、ビジターチームのベンチは観客席から離れたサイド、ファイターズのベンチは観客席の前と決まっていたのだが、遠来のチームを応援に来て下さる方々の便宜を図って、2年ほど前からビジターチームが観客席の前に陣取るようになったのである。
 日ごろの試合はファイターズのベンチばかりを見ているが、視点を変えて相手チームのベンチの動き、具体的にはコーチや控え選手、マネジャーらの動きを見ていると、また気付くことがいくつかある。それをあれこれ言うと、相手チームの批判にもなりかねないので、詳細は控えさせていただくが、あえて一つだけ気付いたことを書きたい。マネジャーを中心にした学生スタッフの動きである。
 ファイターズの主役は学生。監督やコーチをはじめ、チームに関わる大人たちは、その学生たちが「日本1になりたい」という目的を達成するためのお手伝いをしている、と僕は思っている。もちろん、監督やコーチ、ディレクターやディレクター補佐など、チームの運営に直接、間接、関わっている人たちは、それぞれに経験と知識、そして学生たちを指導するための哲学と教授力を持った有能な指導者である。こうした大人たちがチームの実情を見据えた上で、適切な方針を示し、必要な手助けをしていかなくては、とうてい「日本1」なんて達成出来るはずはない。
 それでも、実際にチームを動かしているのは主将、副将、パートリーダー、そしてマネジャーやトレーナー、アナライジングスタッフらである。彼らの献身的な活動なしには、チームはたちまち立ち往生してしまうのもまた事実である。
 だからこそ、大人たちは学生に大幅な権限を与え、チーム運営にも責任を持たせているのである。つまり、学生たちは文字通りチームをマネジメントする人であり、トレーナーであり、アナライジングスタッフである。単なるお茶くみや声援係、担架運び要員ではない。ビデオを撮るだけが仕事でもない。
 アナライジングスタッフは、試合のビデオを撮影、編集し、それを基に相手チームの長所、短所を丸裸にする。チームの練習ビデオを基に、自分たちの弱点についても徹底的に分析する。それを基に作戦の立案や戦術の提案をし、実際の練習で、その有効性を確かめていく。昨年のキッキングチームが日本フットボール史に残る見事なキッキングゲームを披露した陰に、担当の小野コーチの手足となって働いた分析スタッフの藤原君の活躍があったことは、記憶に新しい。
 マネジャーも同様だ。主務を中心に練習のスケジュールを管理し、試合の細かい準備もすべて担当する。有望な高校生のリクルート活動にも励むし、チームのイヤーブックも作成する。最近では、勉強が苦手で単位取得に苦労する部員を対象にした勉強会まで組織し、その指導も担当する。昨年、この勉強会を担当した木戸マネジャーが壮行会で特別賞を受賞したが、これもまたチームに対する献身的な功績として認められたからである。
 トレーナーの仕事も多岐にわたる。トレーニング担当コーチに協力してトレーニングメニューの作成からその指導、監督、さらには理学療法士の指導を受けながらテーピングやアイシングも担当する。近年はチームが学生会館の食堂と契約して、下宿生を中心に毎朝、朝食会を開催。選手を栄養面から支えているが、その実務を取り仕切るのもトレーナーの役割だ。
 こうした「芝生の上に立たない」スタッフたちがチームをマネジメントし、戦術を分析し、選手を鍛え、健康管理を徹底しているのがファイターズである。専門的な技術と知識を持った「大人」たちの指導、手助けを受けながら、あくまでも学生たちが主体的に行動しているのが僕たちのチームである。
 対戦相手のベンチの動きを見ながら、そのことを再確認できたことが、選手一人一人の成長を確かめたことと同様、僕にとっては、この春、最大の収穫だった。
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2013年07月04日

(14)聞いて納得の講演会

 このところ、毎晩、ジャム作りに励んでいる。いまが収穫の最盛期である完熟のスモモを鉄鍋で煮詰め、丁寧にあくを取り除くだけの作業だが、やり始めると、結構手間がかかる。どんなに弱火にしていても、油断すると吹きこぼれるし、取っても取ってもあくは出る。下ごしらえから煮上がるまでの約2時間は、台所で立ちっぱなしである。
 僕が働いている紀州・田辺とその周辺は知る人ぞ知る果樹王国。生産量、品質とも日本1を誇る南高梅があるし、80種類も栽培されているミカンは、ほぼ1年中収穫される。そして今はスモモの収穫が最盛期。地元の農産物直売店に行けば、完熟のうまそうなのがびっくりするほどの安値で販売されている。ついつい大量に買い込み、処理に困ってジャムづくり、という次第である。ファイターズのコラムを書いている暇はない。
 でも今週は、どうしても紹介しなければならない催しがある。ファイターズが主催する講演会「ライスボウル秘話」のことである。「ファイターズはいかに王者に挑んだか、コーチが語る舞台裏」という副題の付いたこの催しは、すでに6月21日に大阪・梅田の毎日新聞社にある「毎日インテシオ」で開催された。OB会員、ファンクラブ会員、後援会会員、そしてシニアファイターズのメンバーに限定した催しだったが、定員一杯の聴衆が詰めかけ、大いに盛り上がった。
 今年1月3日、東京ドームで行われたライスボウルのビデオを小野ディレクターが1週間かけて夜な夜な編集。勝敗のポイントとなった場面を一つ一つ取り上げて解説し、その場面場面に応じて監督やコーチの意図したことを聞き出そうという趣向である。その場面ごとにベンチはどんな意図でプレーをコールしたか、そのときに監督やコーチはどんな動きをしたか。観客席だけでなく日本のフットボール関係者のすべてを驚嘆させたスペシャルプレーは、どういう手順、どういう状況判断で連発されたのか。そのためにチームや選手はどんな準備をし、どんな伏線を張ったのか。
 大げさに言えば、日本のフットボール関係者のすべてが大枚をはたいても聞きたい裏話が、会費3000円を支払うだけで納得いくまで聞けたのである。会場で顔を合わせた「関学アメフット探検会」の先生たちが口々に「大学教授も顔負けの説明力」「理路整然とした話し方、的確な分析、どれを取っても最高。こういう話が聞ける私たちは幸せ者です」と脱帽される内容だった。
 なんといっても司会の小野ディレクターと講師を務めた鳥内監督、大村アシスタントヘッドコーチの掛け合いが面白かった。
 小野ディレクターは、恐ろしいほどの分析力と説明力があるし、彼から話を振られた時の監督の間合いが絶妙。さすが、吉本新喜劇を生んだ大阪で育った人である。勝敗の機微に関係する質問(それは、往々にして当事者としてはなかなか答えにくい)はさらりとかわし、それでいて聴衆の「聴きたい願望」には、絶妙の大阪弁でやんわりと答える。意図したかどうかは聞いていないが、笑いを取るせりふもふんだんに盛り込む。説明の足りないところは大村コーチが補完し、気がつけば聴衆は3人の掛け合いに完全に引き込まれていた。
 圧巻は試合の終盤、ファイターズが逆転に成功。その直後の相手攻撃をDB鳥内弟がインターセプトで断ち切ってからの話である。それまではリードされても泰然自若としてびくともしなかったベンチがなぜ、あの場面に限ってあたふたとし始めたのか。的確なプレーコールが出せなくなったのか。もう一度タイムアウトをとる選択はなかったのか。僕はかねがねそんな疑問を持っていたのだが、その疑問も監督の「打ち明け話」で一気に解消した。(その詳細については、あえて触れません。今度の講演会の楽しみにして下さい)
 講演後の質問の時間に、会場から「こんなに微妙な舞台裏まで話して大丈夫ですか」という質問が出たが、それはこの日の講演を聴いた誰もが感じたことだろう。そういう、普通のチームなら「部外秘」にしておく内容までをあっけらかんと公開し、それをビデオの画面で見せながら「フットボールとは細部にまで神経を行き届かせたチームが勝つスポーツ」であり、そういうチームを作っていくところに「フットボールの本当の魅力」があると訴える。そういう情報を惜しみなく開示するところに、ファイターズの魅力があると感じたのは、僕だけではあるまい。
 この講演会13日(土)に再び開催される。前回は金曜の夜だったので「仕事の都合が付かず、参加できなかった」という人が多く、あらためて土曜の夕方に、同じ内容の講演会をセットしたという。「部外には伏せておきたい内容」も含まれているため、前回と同様、OB会、後援会、ファンクラブ、シニアファイターズ、アメフト探検隊などの会員限定の催しとなる。
 また、OB会東京支部からも強い要請があり、8月上旬に東京で同じ講演会が開催される予定とのことだ。
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2013年06月27日

(13)眺めのよい場所

 6月22日午後6時半。名古屋大学とのJV戦が終わったばかりの上ヶ原第3フィールドで、熱狂的なファイターズファンの早藤名誉教授とふたり、スタンドに座って話し込んだ。
 グラウンドでは、試合が終わったばかりだというのに、試合に出た選手や出場機会のなかった選手がアフター練習を続けている。それぞれこの日の試合で出た課題をチェックしているのだろう。左手の奥ではDB陣が何度も反復練習を続け、中央ではQBたちが小野ディレクターの指導でパスのフォームを確認している。その右手前では大寺コーチがWR陣を相手に足の運び方を細かく刻んで教えている。遠くてよく見えないが、屋根下の近くでは、ラインのグループが当たりの基本を確認している。
 「気持ちのいい眺めですね」と先生。
 「まだ暮れるに暮れず、それでも日が落ちて涼しい。一番いい時間ですね」と僕。
 「こうして、試合の後も自発的に練習に取り組んでいる姿がいいですね」
 「そうです。誰も大声を挙げたり怒鳴ったりしないけど、ぴーんと張り詰めた空気の中で、真剣に動いています。その日の宿題はその日のうちに仕上げてしまうという取り組みが何ともいえませんね」
 いつしか青空があかね色に変わり、甲山からの風は涼しい。試合が終わったばかりの余熱の中でファイターズ談義が弾む。気分が弾むのも「むべなるかな」である。
 先生は日ごろからファイターズのために分析ソフトの開発など、多大な貢献をされている。ゼミ生を引率して試合の観戦に見えることもある。関西学院の先生たちで組織されたアメフット探検会の熱心なメンバーでもあった。これまでも顔を合わせるたびに言葉はかわしていたが、じっくり話し込むのはこの日が初めてだった。
 落ち着いた会話が出来たのも、この日の試合内容に、二人とも大いに満足していたからである。
 この日は、新しいメンバーの力を見たい、という監督やコーチの意向で、1年生が大量に登場した。2年生で、まだまだ出場経験の少ないメンバーも次々に出場したし、けがの治療で1年間近く苦しんでいた選手もようやく顔を揃えた。そんなメンバーが全力でぶつかってくる名古屋大学の精鋭たちと真っ向から渡り合ってくれたのである。
 スタメンに顔を並べた1年生はオフェンスではOLの高橋(啓明学院)、RBの野々垣弟(高等部)、ディフェンスではDLの安田(高等部)、大野(関西大倉)、Pの伊豆(箕面)。ほかに交代メンバーとして、OLではDLから転向したばかりの巨漢、堀川(大阪学芸)のほか、松田(浪速)、TE安田(啓明学院)、蔵野(岸根)、RB松本(啓明学院)、橋本(清教学園)、幸田(箕面)、WRでは水野(池田)や西山(足立学園)らが出場した。
 中でも目立ったのは、第3Qの後半から登場したQB伊豆(箕面)。強肩と素早いプレー判断、そしてRBを思わせる俊敏な走りで相手守備陣と渡り合い、3つの攻撃シリーズのうち2回をTDに仕上げた。パンターでスタメン出場したことでも分かる通り、パントを蹴る能力も備えており、今後の成長が楽しみでならない。
 ディフェンスでは、ラインの安田と大野、LBの松尾、辰巳(ともに高等部)、元原(関西大倉)らの動きが目についた。これに、この日は「上でやれることは分かったから」という理由で出場機会を与えられなかったDL松本(高等部)、LB西田(啓明学院)、山岸(中央大付属)、DB小池(箕面自由)らを加えると、上級生もうかうかしておれないに違いない。
 加えて、この日は長い間けがで苦しんでいた期待の2年生、DL濱(箕面自由)や岡村(大阪学芸)が試合に出場。非凡な才能を見せてくれた。けがで落ちた筋力を取り戻し、夏合宿で存分に鍛えてくれたら、と胸が弾む。
 もちろん、未経験で入部し、今春から試合に出始めた2年生も、ようやく才能を見せ始めた。DBの奥田、伊藤、梅本弟、林本、LBの山崎、赤井らである。JV戦とはいえ、能力の高いQBを中心に、全力でぶつかってくれた名古屋大学との試合を体験して、得たものは少なくないはずである。その貴重な体験を生かし、次のステップに上がってくれれば、これほどうれしいことはない。
 そんなことを思いながら、眺めた試合後の練習である。その日の課題をその日のうちにおさらいしよう、できればもう一段上のレベルに手を届かせよう、そういう積極的な姿勢の選手とコーチを見て、先生と僕は思わず「いい眺めですね」「気持ちのいい時間ですね」と言葉を掛け合ったのである。文字通り至福の時間であった。
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2013年06月20日

(12)学ぶは真似ぶ

 前回のコラムでは、今季のチームが直面している課題について、素人が勝手なことを書き散らしてしまった。まるで本職のフットボール解説者のような言い方であり、読み返して、少々恥ずかしくなった。王子のスタジアムで開局していた臨時のFM放送で、小野ディレクターが試合の解説をされているのに刺激されて、ついつい自分も解説者のような視点でゲームを見ていたのだろう。身のほど知らずとはこのことである。
 とはいいながら、今週もまたあの話の続きである。身のほど知らずの二乗といわれるかもしれないが、我慢しておつきあいを願いたい。
 というのはほかでもない。先週の文章は、一言で言えば「課題がいくつも見つかりました。これからしっかり練習して、その課題を解決してくださいね」といっているだけ。これでは、少々、無責任ではないかと思ったのである。
 解説者、評論家としてはそれでいいのかもしれないが、僕は解説者でも評論家でもない。ファイターズが強くて品位のあるチームになってくれることを勝手に願っている「一人サポーター」である。同時に、現役の新聞記者であり、関西学院でささやかな講座を受け持ち、学生を相手に文章の書き方を指導している教員でもある。サポーターであり、教員の立場からすれば、課題解決の助けになるヒントの一つも出してみるのが、その責任ではないかと考えたのである。
 ということで、本題に入る。「学ぶことは真似ぶこと」である。これは、人が知らない知識や技術を身に付けるには、真似することから始めるのが何より、ということを表した言葉である。
 例えば、幼い子どもの成長、発達の課程を考えてみよう。幼児には、周りの人の言葉や行動をひたすら真似する時期がある。2歳か3歳の頃だろう。まるでオウムのように、上の子と同じ言葉を発し、鏡のように相手の行動を真似する。上の子が食べ物の好き嫌いを言えば、下の子も同じように好きだ、嫌いだという。自分の知らないことを知っている人(例えば兄や姉)の言葉や行動をひたすら真似ることで言葉を覚え、なすべき行動を身に付けていくのである。
 これは幼児に限らない。小学校に上がっても、下級生は先生や上級生の真似をしながら、やらねばならないことと、してはいけないことを区別し、知識を身につけ、社会常識を体感していく。社会人になって、仕事を覚えるのも同様だ。「プロの仕事にマニュアルなんてない。先輩の後ろ姿を見て覚えろ」なんてことを言われながら、とにかく先輩に追いつけ追い越せと頑張る。中には頑張るのが嫌で、さっさと別の道に進む人もいるが、そんな人であっても、別の道でまた先人の真似をして技術や知識を身につけていかねばならないことに変わりはない。
 独創だ、個性だ、といっても、スタートはとりあえず真似することから始まるのが、猿から進化した人間の習性である。だから、学校であれ、企業であれ、生き生きした組織には必ず真似をするに値する指導者(それは時には先輩であり、コーチであり、教員でもあろう)が存在するのである。
 ファイターズにとっても、それは例外ではない。多様な専門知識や特別の技術を持ったコーチやトレーナーが複数存在し、いつもチームの全体に目を配っている。5年生コーチは、自らが4年間に身につけた技術と知識をプレーやミーティングで惜しみなく披露してくれる。4年生は、自分たちのチームを寄り強くしたい一心で、自らのライバルになる下級生にその技術と知識を惜しみなく与える。
 下級生から見れば、4年生はあこがれであり、同時に打ち倒してポジションを奪わなければならないライバルである。だから上級生の持っている技術を真似し、身につけようと、常に目を光らせている。部外者から見れば、矛盾だらけのこうした関係の中から、しかし、互いに惜しみなく与え、遠慮なく奪いあって、より強力なチームを作ってきたのがファイターズである。
 コーチや先輩たちのよいところを思いっきり真似し、その技を盗んで、自らを向上させてほしい。学ぶは真似ぶ。ファイターズには真似をするに値する技術や知識を持ったコーチや先輩が一杯いる。それは選手だけではない。チームに対する献身、貢献という視点で見れば、スタッフの面々もまた、後輩が目標にするに値する活動を日々続けている。
 身近なところに「先輩のようなプレーヤーになりたい」「先輩の行動を自分も心掛けたい」と思える人材が豊富に存在するのが、ファイターズならではの特別な資産である。その資産を生かそうではないか。「学ぶは真似ぶ」である。
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2013年06月12日

(11)試金石となる試合

 「試金石」という言葉がある。本来は貴金属をすりつけてその金属の品位を判断するための黒くて硬い石のことだが、転じて「ある物事の価値、人物の力量を見極める試験になるような物事」と辞書にある。
 この前の日曜日、春のシーズンの総決算として行われたパナソニック・インパルスとの決戦がまさにそんな試合だった。攻守とも社会人トップクラスのチームを相手に、昨年とはメンバーを一新したファイターズがどのように戦うか。春の試合で経験を積み、力を付けてきたはずの新戦力が、どこまで通用するか。春先からずっと不安定だったキッキングチームの完成度は上がっているか。そういうことを試合を通じてテストする格好の相手である。僕は勝敗以上に、ひたすらそういった点に注目して観戦した。
 結果は24−8。各クオーターに万遍なく得点された結果が示しているように、試合は終始先手をとられたままで終わった。実際、オフェンス陣が反撃に転じたのは、後半に入ってから。得点を挙げたのも第4Qに入って24−0とリードされた局面からで、勝敗だけに注目していたら、全く面白くない試合だったろう。
 でも、この試合をチームの力量、現状をテストする「試金石」としてみれば、見所が一杯。極めて有意義な内容だった。思いついたことを順不同で箇条書きにしてみよう。
@昨年、1昨年の甲子園ボウル、ライスボウルの経験者と、それ以外の選手との試合に臨む姿勢にまだまだ大きな差があった。大舞台を経験した選手たちは社会人のトップチームが相手でも物怖じせず、真っ向から渡り合っていたが、経験の浅い選手は、相手の強さ、速さを意識するあまり、動きが相対的にぎこちなかった。この落差を埋めるのは、シーズン当初からの課題だったが、いまだに解消されていない。秋のシーズンを戦い、立ちはだかるライバルたちとの試合を勝ち抜くためには、なんとしても選手層の底上げを図らなければならないことが判明した。
A逆に、1年生でこの試合に登場したメンバー(LBの西田、山岸、松尾、DBの小池、DLの松本ら)は「怖い者知らず」というか、まったくひるむことなく相手に向かっていた。期待通りの働きで、秋の活躍を予感させてくれたが、それでもタックルやブリッツのコース取りなどには、まだまだ改善の余地がある。これから夏合宿をはさんで、どれだけ基礎体力を上げるか、一つ一つのプレーに力強さを加えるか、課題が明確になった。
BQBの斎藤が「チームを引っ張るのはオレだ」という意識をむき出しにして、果敢にパスを投げ、思い切りのいいスクランブルで陣地を回復していった。今回ほど無防備な状態に置かれ、QBサックを浴びせられた経験はなかったはずだが、少しもひるまず、終始チームを奮い立たせた。パスを投じるタイミングに課題はあったが、それでも成功率は約6割。とりわけ、第4Q自陣19ヤードから始まった攻撃シリーズでは、短いパスとランを使い分けて5回連続でダウンを更新。仕上げはTE樋之本へのTDパスを通し、一矢を報いた。このTDは、苦しい試合を最後まで崩れずに戦い抜いたことに対するアメフットの神様からのご褒美だろう。今回の経験を生かして精進すれば、まだまだ成長できる可能性が見えてきた。
C春先からずっと不安定だったパントチームの連携がこの日も効果的に作動せず、立ち上がりにいきなりパントブロックをくらい、相手に主導権を渡してしまった。その後も、パントは不安定なまま。昨年まではキッキングチームで相手に差を付けてきたチームの思わぬ弱点が明らかになり、秋のシーズンに向けて大きな課題を残した。
D学生チーム相手には、十分に機能していたオフェンスラインが相手守備陣に何度も破られ、QBを孤立させる場面が再三あった。社会人の代表に勝つ、というのなら、ラインの5人がもう1段階上の力量を身に付けないと、戦いきれないのでは、という課題を残した。同様に、学生相手なら格の違いを見せつけていた鷺野を中心としたRB陣も、この日は自由に走らせてもらえず、ラン攻撃が手詰まりになったときの打開策に課題が残された。
E前列に3人を配した守備は健闘したが、それでも再三、ランプレーを通された。DB陣もピンポイントでパスを投げ込んでくる相手に対処しきれなかった。11人の守備陣が連携し、それぞれの役割を完遂して守るという意識を徹底しないと、強力なライバルには対処できない、という課題が判明した。
 春とはいえ、社会人のトップチームと本気で戦ったことで、こうした課題が次々と明らかになった。課題が分かれば、これまでの練習で欠けていたことも明らかになる。対処の仕方も工夫出来る。そういうたくさんの宿題をもらえた試合である。得点経過だけを見れば一方的な敗戦だったが、有意義な試合だったと、僕は喜んでいる。
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2013年06月05日

(10)時には講座の案内を

 先週末は、明治大学との定期戦。チームは東上したが、僕は西宮に居残り、授業とカルガモの観察に専念していた。だから、ゲームに関係したレポートは出来ない。
 代わりに大学構内にある新月池、つまり大学の学長室や企画部、広報室などのある本部棟の裏手にある農業用ため池に住み着き、そこで可愛い赤ん坊を産んだカルガモの話をしてみたい(フットボール以外のことには関心がない、という方はここからの数十行は飛ばして下さい。母校の消息なら何でもオーケーという方は、しばらくおつきあい下さい)。
 毎年、この時期になると、カルガモの2世誕生を心待ちにしている広報室員の話では、今年、最初に子どもが産まれたのは5月27日。4羽のベビーが誕生したが、そのうち3羽は翌日、水路伝いに流されてしまい、残ったのは1羽だけ。でも、30日には、別の親から6羽の子が生まれたそうで、先週末には、この2組7羽のカルガモが泳いでいた。
 この池の近くにある教室で毎週金曜日に授業を持ち、学生諸君に文章表現の講義をしている僕は、さっそく「今日の講義はなし。代わりにカルガモの親子を見に行こう。その感想を小論文にまとめてくれ」と提案。全員を池の畔に連れ出した。
 ほかの教室では、みんなが授業を受けている時間に、何を好きこのんで、といわれるかも知れない。でも、学生たちにとっては、教室から外に出て、見たこと、感じたことを書く方が、僕の支離滅裂な講義より、はるかに楽しいだろう。外の空気を吸えるだけでも、気分が爽快になる。
 たかがカルガモの親子である。天下国家の話ではない。でも、彼らが子どもを産み、育てる様子を観察することで、センスのある学生は景観保全から、親子の関係、教育の在り方まで、いくつもの切り口を見つける。切り口が見つかれば、まとめる作業は簡単。あれよあれよという間に800字の小論文が書き上がる。
 これは、昨年のいまごろ、同じ新月池でカルガモが産まれたのを機会に取り入れた手法だが、今年も大成功。みんな普段以上に、精彩のある文章を綴ってくれた。
 こんな授業をしていると、カルガモには特段の愛着が生まれてくる。新たに産まれた子どもは流されていないか、カラスにつつかれていないか、などと考え始めると、居ても立ってもいられない。土曜日もわざわざ登校して、カルガモの保護活動にいそしんだ。
 なんせ、その可愛い姿を撮影しようと、大きなカメラを持った人が次々と来るし、子どもは遠慮なしに騒ぐ。目に余る時は「子育て中のカルガモは神経が過敏になっています。驚かせないようにお願いします」などと、丁寧に声を掛けるしかない。時には、注意した人からふくれっ面をされることもある。そんなときには、思わず「世話焼き親父」になっている自分を反省し、一体僕は何をやっているのだろう、と考え込んでしまう。
 ファイターズの練習を見ているときの方が気楽だし、はるかに楽しい。
 以上、主力選手が東京に出掛けて留守だった週末の報告である。
 本題に入る。大阪・中之島の中之島フェスティバルタワー18階の朝日カルチャーセンターで開かれる二つの講座のお知らせである。
 一つは元監督にして「アメフットの伝道師」武田建先生による『「怒鳴る」から「ほめる」へ』。もう一つは、昨年まではコーチを務め、いまはチームのディレクターをされている小野宏氏の『アメリカンフットボールの本当の魅力』である。ともに、朝日カルチャーセンター中之島教室の開講35周年記念講座として開かれる。
 武田先生の講座は7月20日(土)午後6時半から。学校やスポーツの指導現場で相次ぐ体罰問題を受け、体罰による指導とは対極にある「褒めて育てる指導」について、心理学者の立場から、あるいはフットボール指導者としての体験から、話をされる。
 小野氏の講座は8月31日(土)午後6時半から。昨年度の「甲子園ボウル」や「ライスボウル」の映像を解説しながら、戦術を駆使し、知恵と知恵をぶつけ合って戦うフットボールの魅力に迫る。戦後一貫して、日本のアメリカンフットボール界のてっぺんで活動してきた関西学院大学ファイターズの成長の核心に触れる話が期待できる。
 料金はともに税込み2,940円(会員は2,520円)。朝日カルチャーセンター中之島教室(06-6222-5222)で受け付けている。

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◆朝日カルチャーセンター中之島教室

・7月20日『「怒鳴る」から「ほめる」へ』講師:武田 建
詳細こちら⇒http://www.asahiculture.com/LES/detail.asp?CNO=206489&userflg=0

・8月31日『アメリカンフットボールの本当の魅力』講師:小野 宏
詳細こちら⇒http://www.asahiculture.com/LES/detail.asp?CNO=207734&userflg=0
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20130605_02.jpg
↑↑上ケ原キャンパス・新月池のカルガモ親子↑↑
(関西学院広報室撮影)
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2013年05月28日

(9)「雲外蒼天」

 いま働く若い女性から熱狂的な支持を受けている小説に「みをつくし料理帖」シリーズ(角川春樹事務所)がある。第一作の「八朔の雪」から始まり、7作目の「夏天の虹」まで、文庫の書き下ろしで7作が刊行され、それぞれがベストセラーになっている。もちろん、男が読んでも面白い。作者は阪急今津線沿線にお住まいの高田郁さんである。
 主人公は澪(みお)。8歳の時、大阪の洪水で肉親を失い、いまは江戸で小さな店を持ち、数々の試練を克服しながら、一途に料理人の修行を続けている。
 そんな彼女を、子どもの頃に占った易者の見立てが「雲外蒼天」。そう、澪はいま、どんよりとした雲の中で、自身の運命を切り開くため、悪戦苦闘しているが、そこを突き抜ければ「蒼天」すなわち突き抜けるような青い空が広がっている。そういう話である。
 長々と余計なことを書いてきた。でも、ファイターズのQB斎藤がいま、まさにそのような状況、つまり「雲外蒼天」の場面を迎えようとしていると思えてならないので、あえて本筋と関係のない話を持ち出した次第であえる。忙しい人は、ここから読んでいただきたい。
 26日、晴天の王子スタジアムで行われた関大との戦いは、秋本番のような緊迫したゲームになった。
 第1Qこそ、互いに攻撃が続かず0−0だったが、第2Qに入ると、斎藤からのパスが立て続けに通り始める。自陣7ヤードから始まった攻撃だったが、WR林、梅本、樋之本、さらにはRB飯田へと4本連続してパスを成功させ、あっという間にゴール前8ヤード。ここで斎藤がパスのフェイクからそのまま右オープンを切れ上がってTD。K三輪のキックも決まって7−0とリードする。
 すぐさま関大が反撃。松田、地村というスピード豊かなRB陣が立て続けにラッシュを決め、ランプレーだけでTDに持ち込み、あっという間に同点。
 しかし、ファイターズも負けてはいない。自陣36ヤードからの攻撃では、またまた斎藤のパスが炸裂。WR木戸、横山、梅本に長短織り交ぜたパスを3本続けてヒットさせ、わずか5回の攻撃でゴール前1ヤード。ここからRB三好が走り込んで、再び14−7とリードして前半は終了。
 しかし、本当の勝負は後半に入ってから。第3Qファイターズの最初の攻撃シリーズでは斎藤のスクランブル、斎藤から木戸への46ヤードパスであっという間に敵陣に入り、仕上げは斎藤から梅本への38ヤードTDパス。21−7とリードしたが、それもつかの間。相手のエース高崎に約95ヤードのキックオフリターンTDを決められ、再び勝負の行方へは分からなくなる。
 なんせディフェンスが、相手の切れのよいランに対応出来ない。要所要所で1年生のLB西田、山岸、松尾が競うようにロスタックルやQBサックを決め、しのいできたが、ついに終了直前にゴール前15ヤードからTDパスを決められて21−20。勢いに乗る関大はここでキックではなく逆転を狙ってプレーを選択。このパスが失敗して、何とかファイターズが勝利を収めた。
 このように得点経過をたどっていけば、ファイターズは斎藤のパスが攻撃のキーになっていたことがよく分かる。この日は能力の高いレシーバー陣がそろっていたこともあり、糸を引くような美しいパスが何度も成功した。パスが通るから、時折見せるQBドローやパスフェイクのランも余裕で決まる。シーズン当初の日大や神戸大との試合、さらには昨年の甲子園ボウルでパスが通らず、もがき苦しんでいた姿はすっか
り消えていた。
 まさに「雲外蒼天」を絵に描いたような変身ぶりである。前回のコラム「晴れたらいいね」で書いたように、この前の日体大戦から変身の兆候は見えていたが、正直言って、ここまで素晴らしいプレーを見せてくれるとは想像外だった。
 でも、変身は偶然のたまものではない。試合ごとにインターセプトを喫し、先発メンバーからも外れるなど苦しい状況が続く中でも腐らず、誰よりも早くグラウンドに出て黙々とパスの練習に励んできたからこそ、重苦しい雲、分厚い雲を突破できたのである。
 その相手を必ずといっていいほど務めてきたのが梅本や木戸、そして横山。この日のパスゲームの一方の主役を務めた面々である。
 練習は裏切らないという言葉は、生きている。この日、主力選手の何人かを欠いて、いまひとつ関大のラン攻撃に対応仕切れなかった守備陣もまた、この言葉を胸に刻んで頑張ってくれることを期待する。
posted by コラム「スタンドから」 at 22:38| Comment(3) | in 2013 season

2013年05月20日

(8)「晴れたらいいね」

 ドリカムの吉田美和が「晴れたらいいね」と元気よく歌っていたのは、もう20年ほど前。その頃、僕は社会部のデスクで、深夜というか未明までの勤務が多かった。当時、結構気の合った上司が新地で飲んだ後、朝刊の締め切り間際に上機嫌でデスク席に顔を出し、ゲラ刷りを見ながら、この歌を鼻歌で歌っていたので、なぜかよく覚えている。
 18日の日体大戦は快晴。大阪湾から吹き上げてくる風は強かったが、これ以上の天候は望めないほどの好天のもと、上ケ原の第3フィールドで行われた。
 ファイターズのQBにとっては、まさに「晴れたらいいね」の試合内容。先発が斎藤、後半が前田、最後が1年生伊豆という順番に登場したが、それぞれ雨とゴムボールに苦しんだ1週間前の神戸大戦とは見違えるような軽快な動きを見せた。
 まずは斎藤。立ち上がりこそ、RB三好、榎本を使ったランプレーが中心だったが、2シリーズ目からはTE山本、WR木村に短いパスをびしびしと決めていく。そして3シリーズ目。自らのスクランブルとWR西山へのパスを足がかりに相手ゴール前に迫り、仕上げはRB榎本、吉澤、榎本とランを3本続けてTD。主導権を握った。
 次の日体大の攻撃シリーズでは鮮やかなTDパスを通されてしまったが、自陣20ヤードから始まった次のシリーズでファイターズが反撃。榎本の20ヤードラン、斎藤から山本への53ヤードのパスで、あっというまに敵陣7ヤード。そこから吉澤が中央を切れ上がってTD。わずか3プレーで逆転に成功。2点を狙った斎藤からWR横山へのパスも通って、上々の攻撃だ。
 自陣40ヤードから始まった次の攻撃シリーズも、吉澤のラン、WR木村へのパス、RB池永のラン、WR林へのパスで陣地を進め、仕上げは三好の18ヤードランでTD。ランとパスを交互に使った攻撃で相手守備陣に的を絞らせなかった。さらに残り1分24秒、自陣28ヤードから始まった次のシリーズも、WR宮原、横山、TE山本へのパスを立て続けにヒット、最後は三好のランでTD。その間、攻撃に要した時間はわずかに40秒ほどだった。
 振り返れば、第1Q終了間際から始まった4回の攻撃シリーズをすべてTDに仕上げるテンポのよい攻撃。前の週まで、雨の中でパスが通らず、四苦八苦していた斎藤とは別人のような試合運びだった。まさに「晴れたらいいね」である。
 後半に登場した前田もまた、先週までとは見違えるような動きを見せた。要所要所で自らのキープで陣地を稼ぎ、急所では木村への62ヤードのTDパスや山本へのTDパスに代表されるパスを決めた。
 とにかく獲得したヤードが500ヤードを超えているのだから、QBを中心にオフェンス陣が頑張ったことは間違いない。そういえば、ラインが割られてQBが逃げ回る場面はほとんどなかった。
 守備はどうか。こちらは、よい点も悪い点もいっぱいあった。なんせ、出場したのが下級生中心で、ほとんどが試合経験の少ないメンバーだ。彼らがプレーごとに入れ替わり立ち替わり登場するのだから、タイミングを合わせるだけでも大変だ。無用なオフサイドなど反則が多かったのも、その影響だろう。
 しかし、それでも見せ場はいくつもあった。その象徴が日体大の流れを断ち切った4本のインターセプト。そのままリターンTDに持ち込んだDB伊藤(2年)をはじめ、市川(3年)、菊山(2年)、LB山岸(1年)と、相手のパスを見事に奪った選手の名前を挙げていっても、よほど熱心なファン以外はご存じないだろう。
 神戸大戦で活躍した2年生LB山崎、1年生LB西田(啓明学院)、山岸(中央大付属)らがこの日も上級生顔負けの動きを見せ、1年生DL松本、安田(ともに高等部)、堀川(大阪学芸)らも、強い当たりで相手攻撃の芽を摘んだ。
 そしてもう一人、この日初めて登場し、いきなりTDランを見せた1年生RBパング(横浜栄)が注目される。高校ではDLをやっていたが、動きの良さを買われてRBに転向、最初の試合で結果を出した。
 試合内容をビデオで分析すれば、問題点はいくつもあるに違いない。立ち上がり、ずるずると日体大に押され、簡単に陣地を進められていたこと、無用な反則が多く、せっかくの攻撃のリズムに水を差していたことなど、昨年の関西リーグ終盤からライスボウルまでの道のりを経験している上級生との力の差は歴然としている。
 しかし、いまは春である。秋に備えてチームの底上げを図り、選手に経験を積ませることが何よりも優先する。その意味で、QB陣をはじめ、期待の新戦力が存分に活躍してくれたこの日の試合は「晴れたらいいね」と総括したい。
posted by コラム「スタンドから」 at 18:57| Comment(2) | in 2013 season

2013年05月15日

(7)楽しみな新戦力

 11日の神戸大学戦の会場は、上ケ原の第3フィールド。普段、フットボールとは疎遠な関西学院の学生たちにも気軽に足を運んでもらい、フットボールの魅力に触れてもらおうと、いつもの王子スタジアムではなく、自分たちのホームグラウンドで行われた。
 せっかくの試みだったが、当日は雨。前日からの雨が上がらず、グラウンドはびしょびしょ。選手もやりにくそうだったが、見ている方も、体は濡れるし、寒いし、というさんざんな観戦日和だった。
 この日は、これまであまり試合に出ていなかったメンバーに経験を積ませる、できれば今春入部した1年生の能力も確認したい、という目的があったせいか、先発メンバーの大半がいわゆる「2枚目」「3枚目」の選手。QBなど要所要所には、試合経験のあるメンバーも出場していたが、彼らだって、昨年までは2枚目、3枚目の扱いだった。そんなメンバーが秋のリーグ戦で対戦する神戸大学を相手にどこまで戦えるか。この日オフェンスの指揮を執った野原コーチ、ディフェンスの指揮を執った佐藤コーチの試合運びとともに「新戦力」の力を計るには格好の試合だった。
 ところが、試合は終始、落ち着かない。雨でゴムボールを使っていたせいか、試合開始直後から両チームともなかなかボールが手につかない。最後までファンブルとインターセプトの競演となった。記録を見ると、ファイターズの被インターセプトが3本、神戸大が1本。ファンブルで攻守が交代したのがファイターズ3回、神戸大2回。ファイターズはTD後のキック時にスナップされたボールをファンブルしたホールダ−の橘君がそれを拾って2点を獲得した場面があったが、逆に相手にパントブロックからのリターンTDを許す場面もあった。
 雨の中、経験の少ないメンバーならではの戦いぶりというのか。それとも、練習不足という方が当たっているのか。そういえば、前日も雨の中で、この日の出場メンバーが中心になって練習していたが、その時もQBからのパスがほとんど通らなかった。ストライクボールをレシーバーが次々に落とし、見ていてもつらくなるような惨状。ついには練習中のハドルで、リーダー格の4年生WRが「何をやっとんねん。こんな練習で試合に出るつもりか。もっと本気でやらな、絶対に勝てんぞ」と怒気もあらわに、後輩たちを叱り飛ばしていたシーンが印象に残っている。
 そんなドタバタゲームだったが、見どころはいくつもあった。一番は、今春入部したばかりの1年生諸君が素晴らしい才能を披露してくれたこと。ディフェンスではラインの松本君(高等部)がQBサックを見舞ったかと思えば堀川君(大阪学芸)が鋭い出足からロスタックルを奪った。LBとして後半から登場した山岸君(中央大付属)は180センチ、90キロの体格を生かした奔放な動きで相手キャリアに何度も襲いかかったし、西田君(啓明学院)は1年生とは思えない頭脳的な位置取りで相手の動きに対応していた。
 もっとすごかったのはDBの小池君。後半開始早々、オプションピッチを受けた相手RBが独走しているのを、逆サイドから追いかけ、そのままタックルして一発TDを防いだ。その後もタックルよし、パスカバーよし、という動きで、強力にアピールしていた。身長、体重から見ても、1昨年のチームで日本1のSFとして活躍した香山君に匹敵し、今後、しっかり体を鍛え、練習を積んでいけば末恐ろしいプレーヤーになりそうな予感がした。
 オフェンスにも人材がいる。ディフェンスと違って、チームのシステムを覚えなければならないので、いきなり試合に出て活躍するのは難しいが、それでもこの日、出番のあった選手はみな、物怖じせず堂々とプレーしていた。RB池永君(同志社国際)は、委細構わず相手ディフェンスに突っ込んでいたし、最後にちょこっと顔を見せたQBの伊豆君も、初めての試合とは思えないほどの落ち着きぶりだった。ラインにも何人かの選手が出たようだったが、それは遠すぎてよく見えなかった。次回からはオフェンスラインの動きにも注目したい。
 試合を振り返って、鳥内監督は「全体的に課題だらけ。どのポジションもレベルが下がっていることを自覚しないといけない」と厳しい口調だったが、こと1年生に関しては別。「今日出ていた1年生は、秋には十分、バックアップとして使える」と、今後の成長に大きな期待感を表明していた。
 その通りである。なんせ1年生だけで70人近くが入部してくれたのである。あえて名前は挙げないが、この日、試合に出なかったメンバーの中にも、秋には必ず活躍してくれそうな選手が何人もいる。選手層の薄いチームなら、即スタメンというメンバーもいる。
 こういう面々のプレーが見られたのである。見た目はドタバタの試合だったが、それでも、収穫は多かったと僕は思っている。さらに言えば、今週18日の日体大との試合も上ケ原の第3フィールドである。天気予報はまたしても雨のようだが、是非、若い友達を連れて足を運んで欲しい。期待の新戦力の活躍ぶりが、心を豊かにしてくれることを保証する。
posted by コラム「スタンドから」 at 20:36| Comment(2) | in 2013 season

2013年05月09日

(6)フットボールの魅力

 4日の日大フェニックスとの試合は、小野ディレクターに解説してもらいながら観戦した。
 彼はファイターズファンなら誰もが知っている「ファイターズの頭脳」であり、対戦相手からグラウンドで戦う選手以上に警戒されてきた人である。つい5カ月前までは、ファイターズのコーチとして、試合のたびにスポッター席でゲームの展開をチェックし、作戦を立て、チームを勝利に導いてきた人でもある。
 本業の大学職員としての業務が年々多忙になり、ついに今季から現場を離れ、ディレクターというチームのマネジメントなど後方支援としての役割を担われている。それで、今季からは座りなれたスポッター席ではなく、一般観客席で観戦されている。それをめざとく見つけ、隣に座ってもらって「専属の解説者」を務めてもらった次第である。
 その解説がとてつもなく面白かった。現場のコーチならではの、選手の頭の中まで見透かしたようなコメントが次々と飛び出すのである。余りに生々しい内容なので、ここでその詳細を紹介すると差し障りがあるかも知れない。ほんのさわりだけを書いてみよう。
 例えば、立ち上がり、ファイターズの攻撃が思うように進まず、自陣35ヤード付近からK三輪君がパントを蹴ろうとした場面。
 「三輪がちゃんと蹴れるかなあ」と小野さんがつぶやいた途端に、そのパントが日大守備陣にブロックされ、自陣8ヤードで相手に攻撃権を渡してしまった。部外者にはそのつぶやきが漏れた理由は理解不能だが、さすがは昨年までのキッキングコーチである。三輪君のちょっとした仕草に、不安要素を見つけ出し、それがつぶやきとなり、不幸にも的中してしまったということだろう。
 同じ三輪君について、今度はよい方に予測が外れた場面がある。第2Qが始まって間もなく、RB鷺野君の52ヤード独走を足がかりに相手ゴール前に攻め込み、RB飯田君の中央突破で2本目のTDを獲得して13−3とファイターズがリードした直後のことだった。
 三輪君のキックしたボールを確保した日大のリターナーが巧みなステップでファイターズのカバーを突破、残るのは三輪君一人という状況で、見事に彼がリターナーをタックルし、相手の独走を食い止めたのである。
 「三輪がタックルした!」「去年の今ごろは、あんな場面でタッチしかできなかった三輪が、今年はなんと一発のタックルで相手を仕留めた!」。喜びを爆発させ、踊り上がって喜ぶ元キッキングコーチ。同じ場面を見ている僕は、隣で「キッカーが残ってくれていたので助かった」と胸をなで下ろしていただけだった。
 同じ場面を見ても、喜びの質が違う、喜びの深さが違う。ここに現場を預かるコーチと、一所懸命、試合に没入しているように思っていても、所詮はスタンドの観客に過ぎない物書きとの決定的な違いがある。両者の間に横たわる深い谷間を知って、僕はフットボールの奥の深さをあらためて思い知ったのである。
 フットボールの奥深さ、といえば、もう一つの場面での小野さんの解説も紹介しておきたい。それは第2Q後半、ファイターズが自陣深くからの攻撃でRB鷺野君が左オープンに出ようとフェイクした後、反転して内側に切れ込み、ダウンを更新した場面である。
 鷺野君はその前に2度、左オープンをついてライン際を切れ上がり、最初は44ヤードのTD、2度目は52ヤード独走の離れ業を演じている。それを警戒した相手守備陣が必ず外側への動きに敏感に反応するはず、と見越してフェイクを入れ(あるいは本当に外に出ようと仕掛けて)、その逆をついて内側に切れ込んだ動きに、小野さんは思わず「うまい!鷺野だけにできる動きです。すごく成長していますね」と感心しきりだった。
 僕は同じそのプレーを見ながら「鷺野君は敏捷に動ける。当たりも強くなった。少しぐらいのタックルははねのけて走れるようになった。すごい」という程度。その俊敏な動作が相手の動き、警戒網を逆手にとった頭脳的な動きであることがまったく見えていなかったのだ。いつも注目している鷺野君の動きでありながら、現場のコーチとスタンドの物書きとの間にはとうてい渡れないような深い谷間が横たわっていたのである。
 こういうことを教えてもらいながら、フットボールを観戦すると、文字通り「目から鱗が落ちる」。その奥の深さを感じる。
 そしていま、このコラムを書きながら、これからは見たことは書いてもよい、でも中途半端に知ったかぶりは書くまい、と決心しているのである。
 鍛え抜かれた体力と技、練習に裏付けられた深い知恵と洞察、そして感情の爆発。フットボールは、本当に奥が深い。ますますのめり込みそうだ。
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2013年05月03日

(5)ファミリーの断面

 Xリーグのエレコム・ファイニーズは、かつての湖北ファイニーズ、その後はサンスターファイニーズという名前で知られた由緒あるチームである。いまはパソコンの周辺機器を販売するエレコムから全面的な支援を受け、西地区で活躍している。
 このチームには、ひとかたならぬ思い入れがある。10数年前、サンスターがスポンサーから撤退し、チームが存亡の危機に立ったときに、少々関わりを持ったことがあるからだ。「日本のアメフット界にも市民球団を」と選手やコーチが立ち上がり、自らお金を出し合ってチームを運営しているのに共鳴し、当時働いていた朝日新聞に紹介記事を書いたり、サポーターになったりして、少しばかりの支援をしてきた。チームのホームページでは、いまファイターズで書いているのと同じようなスタンスで応援コラムも書いていた。
 当時の選手兼ヘッドコーチがいま龍谷大のヘッドコーチをしている村田氏、コーチが神戸大の監督をしている万谷氏。その後輩の井場氏は当時、関西を代表するパワフルRBとして活躍していた。ファイターズOBでは、LB浜田氏がチームの支柱だったし、QB埜下氏はもう現役を引退していたが、チームの催しには必ず顔を出していた。
 そのチームが今春から、ファイターズOBを大量に受け入れている。チームのゼネラルマネジャーに2009年度卒のQB浅海氏(4年生の時、最終の立命戦でワンポイントQBとして4回出場、そのたびにトリッキーなパスを成功させて31−7の勝利に貢献した選手といえば、覚えておられるファンも多いだろう)が就任し、精力的にリクルート活動をしているからだ。
 すでに、このチームに参加しているOBには、僕が知り得ただけでも、QB糟谷氏、WR松原、勝本、寺元の各氏。ラインには東元、岸君という今春卒業のメンバーがおり、1昨年の甲子園ボウルで大活躍したDB香山君も来春から入社が内定している。さらに、まだ名前は公表できないが、最近の2連覇に貢献した複数の若手OBにも声をかけているそうだ。
 浅海氏に聞くと、アメフットに対する取り組みがしっかりしているファイターズOBを積極的に補強してチームを強化し、同時に若手OBの活動の場を広げて、交流を図るのが狙いという。ゆくゆくはファイターズに社会人チームのノウハウを提供して行くことも視野に入れているそうだ。
 近年、ファイターズの選手層が厚くなったのに比例してXリーグで活躍するファイターズ卒業生が増えている。関西ではパナソニックやアサヒ飲料、西宮ブルーインズ。関東では富士通や鹿島、IBM、アサヒビールなどで多くの卒業生が活躍。あのオービックにもOL松本氏がいるし、今季からはRB望月君が参加する。
 そのエレコムとファイターズの合同練習があると聞いて、この前の日曜日、第3フィールドに出掛けた。僕がファイニーズを支援していた当時からのなじみの選手やコーチが何人もあいさつに来てくれる。それはそれで懐かしかったが、それ以上に驚いたのは、久しぶりで顔を合わせたOBたちがことのほか懐かしかったことだ。
 卒業以来、初めて出会う松原君は相変わらず男前だったし、寺元君は学生時代と少しも変わっていなかった。岸君は、祝勝会以来の顔合わせだったが、すっかり社会人の顔になっていた。つい数ヶ月前まで、ディフェンスの最前線で相手を圧倒していた「キン肉マン」がジミー大西に変身してしまったような印象だった。
 練習が始まる。さすがに松原君の華やかなプレーが目立つ。ハワイ大出身の能力の高いQBが素早く繰り出すパスを確実にキャッチし、どんどん陣地を進めていく。こんなQBやレシーバーが目の前で模範プレーを見せてくれるのだから、現役の選手たちも大いに励みになったに違いない。
 昨年のシーズン終盤もそうだったが、これまでは、折りにふれてパナソニックの選手たちがグラウンドに顔を見せ、後輩の練習台を務めてくれた。それに今季からはエレコムが加わる。さらに、多くのOBが活動している西宮ブルーインズなども来てくれるかも知れない。
 このように卒業生がフィールドに戻って、気軽に後輩を指導し、目の前で水際だったプレーを見せてくれることの意味は大きい。彼らのプレーをヒントに現役の諸君が技術を磨き、社会人に対抗できる体力を養う。そういう循環が生まれてくると、チームはますます強くなる。手の内を知り尽くしている内輪の練習では得られない「なにか」を手にすることも可能になる。
 卒業生が気軽に顔を見せてくれることは、チームにとって心強い。卒業生にとっても、心温まる時間になるに違いない。そういう関係が構築できるのがファイターズであり、このチームがファミリーと呼ばれる由縁である。
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2013年04月22日

(4)朝鍛夕錬

 4月20日、土曜日。2013年シーズンは、慶応大学との戦いから始まった。王子スタジアムは前日からの戻り寒波、おまけに試合途中から小雨の降るあいにくの天候だったが、開幕を待ちかねたファンで、ファイターズ応援席は満員。同じ王子スタジアムで行われる秋のリーグ戦よりも多くの観客が詰めかけた。
 この試合が春恒例の新入生歓迎試合として、すべてをファイターズの仕切りで行われたこともあって、スタンドには大学の新入生はもちろん、中学部や啓明学院の新入生も大勢詰めかけている。この2年間、甲子園ボウルで勝ち、ライスボウルでも記憶に残る名勝負を演じたことが影響したのだろう。今年はとりわけ若い女性が多く、いつもの開幕戦とはひと味もふた味も異なって見えた。
 これは、かねがね言っていることだが、新しいフットボールを開拓するためには、若い女性に来てもらうのが一番。流行に敏感な女性の人気に火がつけば、男性は勝手について来てくれる。そうなれば、一気に人気が盛り上がり、競技人口が増え、よりレベルの高い試合が展開される。それが評判を呼んで、日本でもフットボールがメジャーになる。この日がそういうストーリーの幕開けかもしれない……そう思うと、主催者でもいないのに、ワクワクしてきた。
 ということで、試合の話である。
 この評価が難しい。得点は45−9。数字だけを見れば、ファイターズの圧勝である。だが、双方の記録を見ると、様子は一変する。獲得ヤードは335ヤードと302ヤード、ファーストダウンの獲得回数は16回と14回。パス成功回数はともに24回投げて12回。全くの互角である。攻撃時間にいたっては、ファイターズが16分56秒しかないのに、慶応が31分4秒。まるでどちらが勝ったのか分からないような内容である。
 原因ははっきりしている。ファイターズがRB鷺野とWR木戸が都合3度に渡って、独走タッチダウン(TD)を獲得主導権を握ってしまったからだ。最初は鷺野が64ヤードを独走。次は木戸が78ヤードのパントリターンTD、第3Qの開始直後に再び鷺野がキックオフリターンTD。こんなスポ根ドラマのような場面が連続したのだから、見ている方は満足、満足である。
 だが、それ以外の攻撃が振るわない。単発では、パスもランもいいプレーが出るのだが、一つ一つのプレーに物語を盛り込んだような攻撃がシリーズとして展開出来ないのである。前半は斎藤、後半は前田という3年生QBが急所でパスを投じ、RB三好やRB飯田のランがあって、なんとか3本のTDを獲得したが、鷺野と木戸の個人技で挙げた3本のTDがなかったら、もっともっと競り合ったゲームになっていただろう。
 守備も苦しかった。DL池永、LB小野、DB池田、鳥内というライスボウルで活躍した選手たちが出ているときは、相手を完封していたが、メンバーが交代すると、一気につけ込まれる。同じ第3ダウンロングという状況から、同じようなパスを同じレシーバーに何度も通されたし、中央の同じようなランプレーでも陣地を稼がれた。
 とにかくランとパスで計300ヤード以上進まれたのだ。そんな試合は、昨シーズンほとんどなかった。それは、慶応のスキルポジションに、能力の高い選手が何人もいたことが一番の原因だろう。だが、試合経験のほとんどないメンバーがどう動けばいいか、迷いに迷った点にも一因はあった。
 その意味では、試合経験の少ない下級生に彼我の力の差を体感させる、極めて収穫の多い試合だったともいえる。同時にそれは、まだまだ練習して身につけなければならないことがたくさんある、ということの裏返しでもある。
 幸いDB陣を中心に、下級生にはポテンシャルの高い選手が何人もいる。2年生の田中はこの日の先発だったし、交代要員として登場した奥田や伊藤、梅本弟ら、フットボール未経験者の素早い動きも特筆される。同じ未経験者で3年生の森岡は、この日の試合には出なかったが、先日の紅白戦ではピカイチの活躍だった。
 この日登場した3年生QB二人とともに、今後、しっかり練習を積めば、十分試合を担えるプレーヤになれるに違いない。
 振り返れば、この日、立て続けにビッグプレーを披露した木戸も鷺野も、1年生の時から、同期の誰よりも熱心に練習に取り組んできた選手である。トレーニングセンターでの筋力トレーニング、グラウンドでの当たりモノ。それらを徹底することで、想像を絶する強靱(きょうじん)な体を作り上げてきた。少々、相手のタックルを受けても倒れない体をつくり、ふりほどける動きを身に付けてきたのである。
 彼らの努力、精進がお手本になる。たとえいまは不本意でも、その失敗を糧にして練習に励めば道は開けるのだ。
 キーワードは鍛錬である。宮本武蔵の言う「朝鍛夕錬」。その大切さに気付き、トレーニングに取り組むことが出来たなら、この日の苦しみもやがては思い出話になるに違いない。頑張ろう。
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2013年04月17日

(3)70人のニューカマー

 アメフットは攻守それぞれ11人。分業が進んだ最近では、それにキッカーやホールダー、スナッパーが専門職のようになっているから、とりあえず25人のメンバーを揃えれば、試合は可能である。
 でも、出来ればそれぞれのポジションに1人ずつは交代メンバーがほしい。それらのメンバーがけがや体調不良で出場できない時に備えて、もう1組(合計3組75人)のメンバーが集まれば、日本の大学では上々の部類だろう。これにマネジャーやトレーナー、分析スタッフがそれぞれ何人か集まれば、計算上は立派なチームが出来る。
 ところが、ファイターズには、今春入学した1年生が4月半ばの時点で、なんと70人近くも入部している。平均的な大学なら、4年生まですべてを足した人数である。えらいこっちゃ。
 先週の土曜日、チーム練習の後で、彼、彼女らが全員集合し、上級生に向かって自己紹介をしている現場に居合わせたが、ほんの一言ずつの紹介なのに、30分以上はかかった。その内容を紹介すれば、それはそれで楽しいけど、今回はカット。代わりにこの70人の内訳をざっと紹介してみる。
 一番多いのは高等部と啓明学院でフットボールをしていたメンバー。両校は昨年の兵庫大会決勝で、追いつ追われつの熱戦を展開した実力校。高等部はその余勢をかって関西大会で勝ち、クリスマスボウルに進出した。そのメンバーの多くが入部しているのだから頼もしい。
 さらに高等部からは、野球部で活躍していた5人も団体で入部している。4年生のDB鳥内君やWR梅本君ら野球部出身者がチームの中心選手に育っている現状を見ると、彼らの中から第2、第3の鳥内君や梅本君が出てくれることが期待できる。
 もう一つの固まりはスポーツ選抜入試で合格したメンバー。総勢10人あまりだが、こちらにはタッチダウン誌のトップボーイズに選ばれた選手が何人もいる。体がでかくて動ける選手、俊敏な選手、そして見るからにクレバーな選手。まだまだ体はできあがっていないが、身長だけなら巨漢揃いのOLにひけをとらないメンバーも少なくない。加えてAO入試でもトップボーイズや実績のある選手が何人も入部している。
 いまはまだ、大半が上級生とは別メニューで、練習に参加できる体を作り、基本的な動きを反復している段階だが、鳥内監督が優先的にその練習を見て、指導者役のトレーナーや上級生に細かい点を注意しているのを見ても、期待の高さが分かる。
 もちろん、入学前からしっかり体作りをしてきた数人の選手(ほとんどがトップボーイズに選出されたメンバーである)は、先週末から上級生の練習に参加し(当たりモノなどハードな内容は別にして)、その実力の片鱗を披露している。試合に出るまでには時間がかかるだろうが、それでも春の後半には複数の選手に出場機会がありそうだ。
 つい先日、親しくつきあってきた多くの4年生を送り出したばかりのグラウンドだが、こうした状況で、あっという間ににぎやかになった。
 さて、こうした原石をどのように宝石に磨き上げるか。ここからがファイターズの勝負である。真価が問われるところである。
 スポーツ選抜や高等部の経験者を鍛えるだけで、勝てるチームが出来るのなら苦労はない。本当に強いチームは、この世界では無名の高校からの出身者や他のスポーツ経験者、それに全くの未経験者を育てて初めてできあがる。近年、甲子園ボウルで優勝したときのメンバーには、そういう選手が必ずいた。例えば、2007年度にはWR秋山君、11年度にはOLのスーパーサブ小林君、12年度は野球部出身のDB保宗君。3年生だった梅本君や鳥内君の活躍も特筆される。
 つまり、ファイターズは高校時代にフットボールをしていなかったメンバーを大学進学後に部内で鍛え、重要な戦力に育て上げるノウハウと環境を持っているということだ。
 未経験者でも甲子園ボウルの舞台に立てる、ライスボウルでも活躍できる選手に育てる、というファイターズのシステムは、もっと評価されていい。その意味でも、70人を数えるニューカマーのこれからが期待される。この中から2年後、3年後にどんな選手が活躍してくれるか、大いに注目している。
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2013年04月10日

(2)練習2時間前

 この前の日曜日。前夜からの強風は衰えを見せず、天気予報は「爆弾低気圧」の襲来を警告していた。
 しかし、朝、目を覚ますと、暴風雨の気配はない。これなら予定通りに練習が始まるぞ、と勝手に決めて、さっさと会社の原稿を仕上げ、昼前には上ヶ原の第3フィールドに向かった。
 グラウンドに到着したのは正午前。チーム練習が始まるまでには、まだ2時間以上ある。けれども、もう4年生を中心に2,30人の部員が集まって防具を着け、簡単な準備運動を始めている。ファイアターズの諸君が「屋根下」と呼んでいる物置兼治療スペース兼準備室兼マッサージ室兼着替え室という便利なスペースでテーピングをしたり、練習前の用具を点検したりしている。その中心になっているのがトレーナーやマネジャーで、みんな忙しく立ち働いている。いつもと変わらぬ光景である。
 ふと見ると、その片隅で副将のDB鳥内君がせっせと練習に使うボールに空気を入れている。同じく4年生のRB野々垣君は大きなダミーを担いで何度もグラウンドを往復している。ともに練習のための準備である。主将の池永君や副将の友國君、池田君は、テーピングを巻き終わると同時にグラウンドに飛び出し、それぞれパートのメンバーと体をほぐしている。
 早くからグラウンドに出ていたキッカーたちは、強風に立ち向かうようにパントの練習を始め、中央ではQBの斎藤君が肩慣らしのキャッチボールをしている。これもまた、いつも通りの光景である。
 練習2時間前といえば、コーチや監督はまだグラウンドに顔を見せていない。大声を上げて命令する部員もいないし、何をしてよいのか分からずにうろうろする部員もいない。けれども部員たちは、誰に指示されるわけでもなく、自らのやるべきことに黙々と取り組んでいる。
 その先頭に立っているのが4年生である。練習の準備から進行、安全対策まで、すべてに責任を持ち、パートの先頭に立って練習を引っ張っている。3年生や2年生もそれに同調し、黙々とメニューをこなしていく。学年が変わり、新しいシーズンが始まっても、この流れは変わらない。
 その昔、まだ人工芝のグラウンドがなく、土のグラウンドで練習していたころの光景を思い出す。僕が熱心に練習を見学するようになったのは2001年、石田力哉君が主将の時代だったが、その頃も練習が始まる何時間も前から石田君がトンボでグラウンドをならし、副将の榊原君がホースで水をまいていた。それを横目に1年生の佐岡君や石田貴祐君がデカイ態度で談笑していた。
 そのときに石田主将から聞いた言葉が忘れられない。「体力のある4年生が(練習の下準備など)しんどいことをするのは当たり前。僕らは下級生に助けてもらうんですから」。いかつい体格に似合わない笑顔で、彼はそんなことを話してくれた。
 ファイターズは、常々、「4年生のチーム」と言われる。4年生がすべてを仕切り、すべてに責任を持つチームということだろう。しかし、それは4年生が威張ることではない。その権力を背景に、下級生を怒鳴ったり、いじめたりすることでもない。そうではなくて、4年生がしんどいこと、苦しいことに率先して取り組み、その振る舞いでチームを引っ張っていくことである。
 重いダミーを運ぶのも、ボールに空気を入れるのも、練習をスムーズに運ぶためには欠かせない行動である。それを4年生の幹部が自発的に、自然な形で行うところに「4年生のチーム」の本質がある。そして「しんどいことを4年生がするのは当たり前」という伝統が、誰かに命令されたり強制されたりすることなく受け継がれてきたところに、このチームの奥の深さがある。
 それはいま、世間で話題になっている体罰やいじめとは無縁の世界である。怒鳴り声とも暴力とも、遠く離れた世界である。
 チーム練習の始まる2時間も前から、そういう光景が見られるのだから「爆弾低気圧」の予報ごときにはひるんでおれない。かくして、僕はまた、せっせと仁川からの坂道を上っていくのである。
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2013年04月03日

(1)隠されたヒーロー

 桜が咲いて春。先週末、大学とその周辺を歩いたが、どこもかしこも桜が満開。学園花通りと名付けられて正門前の桜並木も、日本庭園の桜の園も、見事に咲きそろっていた。
 この花が咲く前に4年生は卒業し、散っていくころには新しい仲間を迎える。そして、フットボールの新しいシーズンがスタートする。それに伴って、しばらく休眠していたこのコラムも再開という段取りである。
 例年なら、さて何から書こうか、と思案するところだが、今季はこの話から書きたいと決めていた。いささか旧聞に属することではあるが、昨シーズンのアンサンヒーローのことである。
 ファイターズは毎年、シーズンが終わると中学部から高校、大学までが一堂に会して、壮行会を開いている。それぞれの組織を巣立っていく生徒や学生を送る合同送別会といえば分かりやすい。
 その席上、部員を対象にした各種の表彰がある。大学では、文武両道で活躍した部員に贈られる大月杯(今年はDB保宗君が受賞)、逆境を跳ね返す、豪傑と呼ぶに値する部員に贈られる領家杯(同じくLB川端君)、スペシャルチームに貢献したスペシャルチーム賞(アナライジングスタッフ、藤原君)、特別賞(アナライジングスタッフ多田君とマネジャーの木戸さん)、そして余り目立たないかも知れないが、身を挺してチームに貢献したヒーローに贈られるアンサンヒーロー賞(WR南本君が受賞)である。それぞれ、担当コーチが選出し、表彰する。
 この受賞者のそれぞれに、このコラムで紹介するにふさわしい物語がある。しかし今回は、あえてアンサンヒーローのことを紹介したい。
 白状すると、毎年、壮行会の当日、末席を汚しながら、今年はどんな選手、部員が表彰されるのだろうか、と考えるのが僕の密かな楽しみである。式の進行は聞き流し、ひたすらあの選手、この部員と思いをめぐらせているだけで、時間がどんどん過ぎていく。
 驚いたことに、今年は僕が予想した人たちが次々に名前を呼ばれた。気がつけば、僕がその活動ぶりを目にする機会のなかった一人を除いて、受賞者はすべて、僕が予想した通りの名前だった。
 中でも、絶対に間違いないと思っていたのがアンサンヒーローの南本君。競馬でいえばガチガチの本命、鉄板レースと確信していた。なぜか。それは、このコラムでも折りにふれて取り上げてきたが、練習でも試合でも、日ごろの取り組みでも、彼の行動が他の誰にも増して印象深かったからである。
 もちろん、梶原主将を先頭に、ほかの部員の言動にも、それぞれに印象深い場面があった。彼らと言葉を交わすたびに「この子は成長したな」と思わせられることが何度もあった。それでも、その中から一人を選べ、といわれると南本君以外は考えられなかった。
 思い起こせば、彼は春のシーズンからずっと、チームの練習をリードしてきた。WRのパートリーダーとしての役割を果たすのはもちろん、多くの4年生がけがなどで戦列を離れ、試合はもちろん練習にも加われない状態にあるときに、率先して下級生を引っ張り、先頭に立って練習を仕切ってきた。
 試合では、甲子園ボウルの最後のシリーズが象徴するように「ここ一番」という場面では必ずボールを確保。QBの畑君を助け、チームのピンチを救ってきた。トータルの数字では計りようのない活躍を続けてきたのである。
 隠れた場面でも手を抜かないというのは、昨年の33回目のコラム「透明な空気」で取り上げた試合前日のグラウンド掃除の場面でも見ることができた。みんなが避けたがる側溝のゴミを拾い、掃除するのはいつも、彼と畑君のコンビだったのだ。
 4年生のリーダーが率先して練習に取り組むのは当たり前のこと。試合で活躍するのも当然と言えば当然である。だが、人の目に触れないところ、隠れたところで手抜きをしない、というのは誰にも出来ることではない。それを何気ない態度で、当然のようにやり続け、チームのモラルを支えてきたのが南本君である。彼のような選手がいたから、昨年のチームは成長できた、どんな強敵にも勝つことができたと僕は確信している。
 そして、今年のチームにも、必ずそういう隠されたヒーローが出現してくれるはず、と期待している。それが一人ではなく、複数になって、「アンサンヒーローを選考するのが難しい」という日が来ることを、密かに願っている。
      ◇   ◇
 お知らせが一つ。
 昨シーズンのコラムをまとめた冊子「2012年ファイターズ 栄光への軌跡」を発行しました。ファイターズの諸君には贈呈しましたが、一般の方々には試合会場でお披露目します。1冊500円。ファイターズへのカンパとして、すべてチームに寄付します。ご協力をいただければ幸いです。
posted by コラム「スタンドから」 at 07:16| Comment(2) | in 2013 season