悔しくてならない。ライスボウルが終わって6時間。夜道を和歌山県田辺市まで戻り、ようやくパソコンの前に座ったが、それでも悔しくて悔しくて、なかなか気持ちの整理がつかない。
34−16。ライスボウルでは3年連続の敗退である。この現実は潔く受け止める。
しかし、しかしである。主力選手が全員、万全の状態で試合に臨んでいたらどうだったか。勝負に「たら」も「れば」もないことは重々承知している。選手も監督やコーチも、試合結果についてぐだぐだと言い訳するようなことは、100%あり得ない。
だが、シーズンが深まるとともに攻守とも主力メンバーに故障が相次ぎ、それぞれが極めて厳しい状況だったことを知っている僕には、もし彼らが万全な状態で出場し、真っ向から社会人チームと渡り合っていたらと、ついつい考えてしまうのである。
ある選手は立命戦の直前、練習中のけがで救急車で病院に運ばれ、そのまま入院した。ある選手は、脱臼で片腕が使えないまま、試合に出続けた。またある選手は、昨年の試合中に重傷を負い、手術で回復したものの、試合で激しい動きをすると熱が出る、だましだましやるしかありません、と苦しい胸の内を明かしてくれた。
これらがみな、攻守の主力選手である。それぞれが何事もないような顔をして試合に出続け、目を見張るような素晴らしいプレーを何度も披露してくれた。そして関西リーグ優勝の立役者になり、甲子園ボウルでも日大を圧倒する主役を務めた。
痛む体を引きづり、だましだましのプレーを、何食わぬ顔でやり続けてきた彼らがいてくれたから、何とかライスボウルまで駒を進めることができた。だが、LB池田雄紀君の場合はそうはいかなかった。甲子園ボウルを前にした練習で左足を痛め、松葉杖なしでは歩けない状態で甲子園に登場した姿は、相手チームに焼き付いている。ぶっつけ本番で、この日の試合には出場したが、いつもの速くて強くてシャープな彼ではないことは、即座に見破られてしまった。
当然だろう。12月最後の練習を見に行ったときには、まだ軽いジョグしかできない状態。今日、東京ドームでジャージを着てグラウンドに立っていること自体が奇跡のようなことだったのだ。
しかし、彼は副将であり、ファイターズ守備の要である。足が痛いの動けないのとは、口が裂けても弁解しない。黙って役割を果たし、執拗にブリッツをかけ続けた。それがわずかに届かず、相手に交わされる姿をテレビの画面(そう、この日は新幹線が全面的にストップし、チームのスタッフの多くや一部の交代メンバー、それにゲーム進行にベンチで重要な役割を果たすメンバーらが試合開始に間に合わなかった。僕も急きょ、新大阪駅から西宮に引き返し、自宅でテレビを見ながら応援するしかなかった。これもまた悔しい出来事だった)で見ながら、思うようにプレーができない彼の胸中を思うと、僕は悔しくて悔しくてならなかったのである。
池田君が万全に動けなかったら、その分、同じLBの小野君らにかかる負担は倍加する。今季ファイターズの強力な守備陣を支えてきたLB陣の動きが制約されれば、DLやDBの動きにも影響は避けられない。その結果、相手にランプレーを自信をもって通され、気分的にも余裕を与えてしまう。
実力のある相手に余裕をもってプレーされたら、当然のことだがゲーム展開は相手のペースになる。ファイターズの戦術的な工夫も思い切った作戦も、相手をあわてさせるところまでには至らない。そういうことの総和が34−16というこの日の結果である。
この試合の結果から、ネットではもう「学生は社会人に勝てないのでは」というような議論が持ち上がっている。今朝の朝日新聞によると、相手チームの監督も「どこかのタイミングでXリーグと大学フットボールは乖離(かいり)していくものだと思う」と話していたそうだ。
そういう勝手な議論がおきることもまた口惜しい話である。
だが、口惜しい、悔しいと騒いでいるのは僕だけである。試合後のインタビューやフェイスブックの発言などを聞いても、チームの当事者は黙ってこの敗北をかみしめている。そして、コンチクショウ!次は倍返しだ!と奥歯をかみしめているに違いない。
「花いちもんめ」という歌がある。「勝ってうれしい花いちもんめ」「負けて悔しい花いちもんめ」と子どもたちがはやし立てて遊ぶ。この歌の深い意味は知らないが、僕にとっては、結構、深い意味のある歌である。
思い返せば若いころ、職場で理不尽な仕打ちを受けるたびに、なぜかこの歌詞を思い浮かべた。そして「負けて悔しい花いちもんめ」とつぶやきながら「もう一丁、やったろかい」と気持ちを新たにしてきた。今日もまた、そんな心境である。
ファイターズの明日を担うメンバーもまた、それぞれ苦い汁を飲みながら、今日の悔しさをかみしめているに違いない。
けれども、これですべてが終わったわけではない。1年間、懸命にチームを引っ張ってくれた4年生を失うのはつらいが、今日からは新しいチームがスタートする。悔しさを力に変え、胸に花を抱いて「もう一丁、やったろかい」と、残された諸君が立ち上がってくれることを心から祈っている。
2014年01月04日
(38)花いちもんめ
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| in 2013 season
2013年12月31日
(37)稽古に神変あり
「稽古に神変あり」という言葉がある。
倦まずたゆまず、営々と稽古を重ねているうちに、気がつけば「神変」としかいいようのないほどの劇的な変化を遂げ、高い境地に到達していることをいう。
もちろん、営々と努力するといっても、ただの反復稽古ではない。上級生やコーチに言われたことを漫然と繰り返し、与えられた時間を過ごすだけの稽古ではない。
毎回毎回、稽古の手法を工夫し、創意を盛り込み、得意なところを伸ばしていく。自分の創意工夫だけでなく、同じポジションの仲間から助言をもらい、相対するポジションのメンバーから欠けているところを指摘してもらって、自らの足りないところを補い、改善していく。
そういう創意と工夫、改革に裏付けられた稽古を営々と続けることで、気がつけば当初は及びもつかなかったほどの高い境地に進んでいる。それを指して、昔の人は「神変」と呼んだのである。
関西リーグで立命館と引き分けてから1カ月余り。途中、西日本代表決定戦、甲子園ボウルの2試合を挟んで、今も同じメンバーで、社会人代表との決戦に向けた練習を続けているファイターズ諸君の練習ぶりを見ていると、なぜかこの言葉が浮かんできた。
僕のような素人が見ても、それほど攻守蹴すべてにおける選手の成長が感じられるのである。ディフェンスでは、巨漢揃いのラインがまるでダンスを踊るように素早くリズミカルな動きをしている。バックの面々も、最初の一歩が確実に早くなっている。いまは試合直前の練習とあって、火花の散るようなタックルは自制しているが、それでもボールキャリアに駆け寄るスピードは、この秋、関西リーグが開幕した当初より、数段速くなっている。1年生を含めた交代メンバーも試合経験を積んで驚くほど力をつけてきた。
オフェンスも同様である。昨年からの不動のメンバーが並ぶラインの結束は固いし、一人一人の動きにもリズム感が出てきた。足の運びの一歩一歩にこだわるその稽古ぶりからは、強力な守備陣を揃える社会人に、一歩たりとも下がるな、という強い気持ちが現れている。
QBはもちろん、RBやレシーバー陣の動きも軽快だ。斎藤君からのパスの精度も上がっている。たとえて言えば、立命戦の前の成功率が85%とすれば、甲子園ボウルの前は90%、いまは95%というところか。もちろん、スカウトチームを相手にした練習だから、実戦とはQBにかかる圧力が全く異なるが、それでも、ピンポイントのパスを気持ちよく決め続けているのを見ていると、神変と呼ぶにふさわしい成長ぶりを実感する。
関西リーグの激闘を制して1カ月あまり。チーム全員がずっと大きな目標を持ち続けて練習に取り組んできた成果であろう。なんせ、いまこの時期に、日本中を探しても、これだけ高い目標を持ち、密度の濃い練習に日々取り組んでいるのは、ファイターズともう一つのチーム以外にないのである。その濃密な練習の中から周囲をあっと驚かせるプレーがいくつも生まれ、その精度が日増しに上がっていくのである。
シーズンの始まる前、「社会人を倒して日本1」を目標に掲げ、手探りでチームを作ってきた2013年のファイターズがいま、決戦の時を迎える。12月30日、13年最後のチーム練習を終えるにあたって、主将の池永君がチーム全員の前に立って短い挨拶をした。「ライスボウルまでまだ日が残されている。その残された期間、詰めるべき点を詰め、やるべきことを絶対にやり遂げよう」。たったこれだけの言葉だったが、最後の最後までやるべきことをやろうという主将の強い意志が伝わってきた。
最後の瞬間まで、どん欲に自らを鍛える。工夫すべきことを考える。勝つための手段、方法を磨く。そして、考えに考え抜いたプレーを成功させるために、グラウンドで稽古を重ねる。そのストイックな営みが年末年始、浮ついた世間と関係なく続くのである。
練習が休みの12月31日午後。一人で第3フィールドに向かった。1年間、多くの学生たちを成長させてくれたグラウンドに感謝の気持ちをささげるために、毎年の歳末、自らに課した習慣である。
大学は休み、学生会館も休館日。グラウンドの出入り口も閉じられている。それでも通用口から入って、グラウンドに向かう。まず平郡君の記念樹の前に立ち、頭を下げ、碑銘を読む。そしてグラウンドに向かって一礼する。周囲はファイターズの諸君が前日にきれいに掃き清めたのだろう。落ち葉一つ落ちていない。人に気配はまったくないが、それでも体育棟を見上げると、一つの部屋に明かりがともっている。分析スタッフかマネジャーの誰かが、数少ない「残された日」になすべきことをしているのだろう。
池永君が言うとおり、チームの全員が「詰めるべき点を詰め、なすべきことをなした」時、チームは神変する。それを1月3日、東京ドームでしっかり見届けたい。
倦まずたゆまず、営々と稽古を重ねているうちに、気がつけば「神変」としかいいようのないほどの劇的な変化を遂げ、高い境地に到達していることをいう。
もちろん、営々と努力するといっても、ただの反復稽古ではない。上級生やコーチに言われたことを漫然と繰り返し、与えられた時間を過ごすだけの稽古ではない。
毎回毎回、稽古の手法を工夫し、創意を盛り込み、得意なところを伸ばしていく。自分の創意工夫だけでなく、同じポジションの仲間から助言をもらい、相対するポジションのメンバーから欠けているところを指摘してもらって、自らの足りないところを補い、改善していく。
そういう創意と工夫、改革に裏付けられた稽古を営々と続けることで、気がつけば当初は及びもつかなかったほどの高い境地に進んでいる。それを指して、昔の人は「神変」と呼んだのである。
関西リーグで立命館と引き分けてから1カ月余り。途中、西日本代表決定戦、甲子園ボウルの2試合を挟んで、今も同じメンバーで、社会人代表との決戦に向けた練習を続けているファイターズ諸君の練習ぶりを見ていると、なぜかこの言葉が浮かんできた。
僕のような素人が見ても、それほど攻守蹴すべてにおける選手の成長が感じられるのである。ディフェンスでは、巨漢揃いのラインがまるでダンスを踊るように素早くリズミカルな動きをしている。バックの面々も、最初の一歩が確実に早くなっている。いまは試合直前の練習とあって、火花の散るようなタックルは自制しているが、それでもボールキャリアに駆け寄るスピードは、この秋、関西リーグが開幕した当初より、数段速くなっている。1年生を含めた交代メンバーも試合経験を積んで驚くほど力をつけてきた。
オフェンスも同様である。昨年からの不動のメンバーが並ぶラインの結束は固いし、一人一人の動きにもリズム感が出てきた。足の運びの一歩一歩にこだわるその稽古ぶりからは、強力な守備陣を揃える社会人に、一歩たりとも下がるな、という強い気持ちが現れている。
QBはもちろん、RBやレシーバー陣の動きも軽快だ。斎藤君からのパスの精度も上がっている。たとえて言えば、立命戦の前の成功率が85%とすれば、甲子園ボウルの前は90%、いまは95%というところか。もちろん、スカウトチームを相手にした練習だから、実戦とはQBにかかる圧力が全く異なるが、それでも、ピンポイントのパスを気持ちよく決め続けているのを見ていると、神変と呼ぶにふさわしい成長ぶりを実感する。
関西リーグの激闘を制して1カ月あまり。チーム全員がずっと大きな目標を持ち続けて練習に取り組んできた成果であろう。なんせ、いまこの時期に、日本中を探しても、これだけ高い目標を持ち、密度の濃い練習に日々取り組んでいるのは、ファイターズともう一つのチーム以外にないのである。その濃密な練習の中から周囲をあっと驚かせるプレーがいくつも生まれ、その精度が日増しに上がっていくのである。
シーズンの始まる前、「社会人を倒して日本1」を目標に掲げ、手探りでチームを作ってきた2013年のファイターズがいま、決戦の時を迎える。12月30日、13年最後のチーム練習を終えるにあたって、主将の池永君がチーム全員の前に立って短い挨拶をした。「ライスボウルまでまだ日が残されている。その残された期間、詰めるべき点を詰め、やるべきことを絶対にやり遂げよう」。たったこれだけの言葉だったが、最後の最後までやるべきことをやろうという主将の強い意志が伝わってきた。
最後の瞬間まで、どん欲に自らを鍛える。工夫すべきことを考える。勝つための手段、方法を磨く。そして、考えに考え抜いたプレーを成功させるために、グラウンドで稽古を重ねる。そのストイックな営みが年末年始、浮ついた世間と関係なく続くのである。
練習が休みの12月31日午後。一人で第3フィールドに向かった。1年間、多くの学生たちを成長させてくれたグラウンドに感謝の気持ちをささげるために、毎年の歳末、自らに課した習慣である。
大学は休み、学生会館も休館日。グラウンドの出入り口も閉じられている。それでも通用口から入って、グラウンドに向かう。まず平郡君の記念樹の前に立ち、頭を下げ、碑銘を読む。そしてグラウンドに向かって一礼する。周囲はファイターズの諸君が前日にきれいに掃き清めたのだろう。落ち葉一つ落ちていない。人に気配はまったくないが、それでも体育棟を見上げると、一つの部屋に明かりがともっている。分析スタッフかマネジャーの誰かが、数少ない「残された日」になすべきことをしているのだろう。
池永君が言うとおり、チームの全員が「詰めるべき点を詰め、なすべきことをなした」時、チームは神変する。それを1月3日、東京ドームでしっかり見届けたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 23:45| Comment(1)
| in 2013 season
2013年12月25日
(36)続・強さの秘密
ファイターズはなぜ勝てたのか。甲子園ボウルが終わって10日。暇さえあれば、そのことを考えている。
関西リーグには、立命をはじめ関大、京大と、それぞれ特色を持った強力なチームがひしめいている。そこを何とか突破し、西日本代表決定戦にも勝って甲子園ボウルに進んでも、これまた強力なメンバーを擁する関東のチームが手ぐすねを引いて待ち構えている。
1昨年は日大、昨年は法政、そして今年は再び日大。それぞれ運動能力の高い選手を揃えたチームが「打倒!関学」を目標に、万全の態勢で向かってくる。
なんせ、タッチダウン誌が選考した「学生プレオールジャパン」をみれば、ファイターズからはDLの池永主将、LBの池田副将の名前が挙がっているだけ。立命は6人、関大は3人、京大からはチームの司令塔が選ばれている。ちなみに関東からは日大から4人、法政からは3人が選出されている。
優勝争いに加わるチームはみな傑出した能力を持つ選手をそろえ、攻守ともに決め手となる仕組みを作っているのだ。一瞬の判断ミス、展開のあやで、ファイターズが敗れることがあっても不思議ではない。実際、昨年の甲子園ボウルでは、法政にあわや、というところまで追いつめられた。今年の関西リーグでも、立命とは両者譲らぬ0−0の引き分けになった。
勝敗は時の運。どこでどんなことが起きるかは誰にも予測できない。昨年で言えばエースQB畑君のけが、今年でいえばディフェンスとキッキングチームの要であるLB池田君の負傷。甲子園球場のダイアモンドに張り付けられた芝生が何かの拍子にはがれるアクシデントも想定しておかなければならない。
そういう中、ファイターズは涼しい顔で今年も勝った。甲子園ボウル3連覇である。そんなに強いチームだったのか。
このことについて、一つの答えらしきものは「強さの秘密」と題して、前回のコラムに書いた。でも、もっともっと深い理由があるはずだ。今回はそのことについて想像をめぐらせたい。
手元に「経営情報12月号」という冊子がある。星和ビジネスリンクという会社の発行で、僕はマネジャーの野瀬君から「何かの参考に」ともらった。そこに鳥内監督の「スペシャル・インタビュー」が掲載されている。
その中に、監督のこんな発言が収録されている。
「試合は予測できない展開の連続。それにいかに対応するかの危機管理能力が何よりも求められます。日頃からそれぞれのポジションの選手がさまざまなシミュレーションをして予定外のことが起きた時、どう対応するか、あるいは逆にどう相手の裏をかいて混乱させるか。それができるようになるには、結局練習を積み重ねるしかありません」
「受け身の練習、受け身の生き方では何も成長しません。今の自分に何が必要か、どうすればチームに貢献できるかを考えられる選手を育成したいと考えています」
「上から押し付けられたことをこなすだけでは、試合でもそれ以上の力を発揮できないし、社会に出てからも主体的な生き方はできない」「アメリカンフットボールというツールを通じた人間教育、社会にでる土台作りこそが究極の目標です」
さらには「下級生でも自分の思っていることをはっきり意見できる風土づくり」の大切さを説き、「4年生には、プレーヤーとしての役割に加え、下級生に対するコーチや兄貴としての役割を求める。いま何が大切なのかを説明し、説得できる技術も必要」という言葉もある。
ふだんはここまで丁寧に説明されることは少ないが、取材した人の聞き出し方がうまかったのだろう。監督のチーム作りの哲学が過不足なく表現されている。「強さの秘密」を考えるにあたって、こうした発言は何かと参考になった。
とりわけ注目したいのは@試合では危機管理能力が何よりも求められるA受け身の練習、受け身の生き方では何も成長しない。考えられる選手を育成したいB4年生には、下級生に対するコーチや兄貴分としての役割を求め、下級生でも自分の思っていることをはっきり意見できる風土づくりに気を配る、という点である。
チームの練習を見ていると、この三つのことがいろんな場面で顔をのぞかせている。4年生が練習の準備をすべて引き受けるのは毎年のことだし、下級生が思ったことをいろんな形で提案している場面もしばしば見かける。それぞれのポジションで、少人数に分かれてさまざまな工夫をしながら自発的に練習しているのもいつもの光景だ。
こういうことの積み重ねと、それを促す監督やコーチ陣の存在。そして、日夜繰り広げられている戦術の工夫と検討。その場面を部外者が目にする機会はないが、それでも検討に当たっては、監督やコーチの長年の経験、知的蓄積が活用され、分析スタッフからの提言が遠慮なく披露されていることは想像に難くない。
そういう風通しの良いチームのたたずまいと、グラウンド外で繰り広げられている知的な戦いに集中できるところが、実はファイターズの本当の強さの秘密ではないか。僕はそのように見当をつけている。
僕がこんなコラムを書いているいま、このときにも監督やコーチ、選手やスタッフは対戦相手のビデオを徹底的にチェックし、弱点があれば見つけ出し、相手の強さを逆手に取る工夫を重ねているに違いない。今はその成果を見ることはできないが、1月3日になれば、それは惜しみなく披露されるはずだ。楽しみでならない。
関西リーグには、立命をはじめ関大、京大と、それぞれ特色を持った強力なチームがひしめいている。そこを何とか突破し、西日本代表決定戦にも勝って甲子園ボウルに進んでも、これまた強力なメンバーを擁する関東のチームが手ぐすねを引いて待ち構えている。
1昨年は日大、昨年は法政、そして今年は再び日大。それぞれ運動能力の高い選手を揃えたチームが「打倒!関学」を目標に、万全の態勢で向かってくる。
なんせ、タッチダウン誌が選考した「学生プレオールジャパン」をみれば、ファイターズからはDLの池永主将、LBの池田副将の名前が挙がっているだけ。立命は6人、関大は3人、京大からはチームの司令塔が選ばれている。ちなみに関東からは日大から4人、法政からは3人が選出されている。
優勝争いに加わるチームはみな傑出した能力を持つ選手をそろえ、攻守ともに決め手となる仕組みを作っているのだ。一瞬の判断ミス、展開のあやで、ファイターズが敗れることがあっても不思議ではない。実際、昨年の甲子園ボウルでは、法政にあわや、というところまで追いつめられた。今年の関西リーグでも、立命とは両者譲らぬ0−0の引き分けになった。
勝敗は時の運。どこでどんなことが起きるかは誰にも予測できない。昨年で言えばエースQB畑君のけが、今年でいえばディフェンスとキッキングチームの要であるLB池田君の負傷。甲子園球場のダイアモンドに張り付けられた芝生が何かの拍子にはがれるアクシデントも想定しておかなければならない。
そういう中、ファイターズは涼しい顔で今年も勝った。甲子園ボウル3連覇である。そんなに強いチームだったのか。
このことについて、一つの答えらしきものは「強さの秘密」と題して、前回のコラムに書いた。でも、もっともっと深い理由があるはずだ。今回はそのことについて想像をめぐらせたい。
手元に「経営情報12月号」という冊子がある。星和ビジネスリンクという会社の発行で、僕はマネジャーの野瀬君から「何かの参考に」ともらった。そこに鳥内監督の「スペシャル・インタビュー」が掲載されている。
その中に、監督のこんな発言が収録されている。
「試合は予測できない展開の連続。それにいかに対応するかの危機管理能力が何よりも求められます。日頃からそれぞれのポジションの選手がさまざまなシミュレーションをして予定外のことが起きた時、どう対応するか、あるいは逆にどう相手の裏をかいて混乱させるか。それができるようになるには、結局練習を積み重ねるしかありません」
「受け身の練習、受け身の生き方では何も成長しません。今の自分に何が必要か、どうすればチームに貢献できるかを考えられる選手を育成したいと考えています」
「上から押し付けられたことをこなすだけでは、試合でもそれ以上の力を発揮できないし、社会に出てからも主体的な生き方はできない」「アメリカンフットボールというツールを通じた人間教育、社会にでる土台作りこそが究極の目標です」
さらには「下級生でも自分の思っていることをはっきり意見できる風土づくり」の大切さを説き、「4年生には、プレーヤーとしての役割に加え、下級生に対するコーチや兄貴としての役割を求める。いま何が大切なのかを説明し、説得できる技術も必要」という言葉もある。
ふだんはここまで丁寧に説明されることは少ないが、取材した人の聞き出し方がうまかったのだろう。監督のチーム作りの哲学が過不足なく表現されている。「強さの秘密」を考えるにあたって、こうした発言は何かと参考になった。
とりわけ注目したいのは@試合では危機管理能力が何よりも求められるA受け身の練習、受け身の生き方では何も成長しない。考えられる選手を育成したいB4年生には、下級生に対するコーチや兄貴分としての役割を求め、下級生でも自分の思っていることをはっきり意見できる風土づくりに気を配る、という点である。
チームの練習を見ていると、この三つのことがいろんな場面で顔をのぞかせている。4年生が練習の準備をすべて引き受けるのは毎年のことだし、下級生が思ったことをいろんな形で提案している場面もしばしば見かける。それぞれのポジションで、少人数に分かれてさまざまな工夫をしながら自発的に練習しているのもいつもの光景だ。
こういうことの積み重ねと、それを促す監督やコーチ陣の存在。そして、日夜繰り広げられている戦術の工夫と検討。その場面を部外者が目にする機会はないが、それでも検討に当たっては、監督やコーチの長年の経験、知的蓄積が活用され、分析スタッフからの提言が遠慮なく披露されていることは想像に難くない。
そういう風通しの良いチームのたたずまいと、グラウンド外で繰り広げられている知的な戦いに集中できるところが、実はファイターズの本当の強さの秘密ではないか。僕はそのように見当をつけている。
僕がこんなコラムを書いているいま、このときにも監督やコーチ、選手やスタッフは対戦相手のビデオを徹底的にチェックし、弱点があれば見つけ出し、相手の強さを逆手に取る工夫を重ねているに違いない。今はその成果を見ることはできないが、1月3日になれば、それは惜しみなく披露されるはずだ。楽しみでならない。
posted by コラム「スタンドから」 at 11:11| Comment(1)
| in 2013 season
2013年12月16日
(35)強さの秘密
12月15日、めっきり冷え込んだ甲子園球場を舞台に、2年ぶりに繰り広げられた赤の日大と青の関学の決戦は、青の勝利で幕を閉じた。あの強力な陣容を揃えた日大を全く寄せ付けない戦いを展開したファイターズは、こんなにも強いチームだったのか。
スポーツ紙や専門誌を読むと、記者の予想は五分と五分。東京発の記事を見ると、どちらかといえば日大に分のあるような書き方をしている人が多かった。
ところが、ふたを開けてみると、ファイターズが終始先手をとり、主導権を握ったままで試合を進めた。立ち上がり2度にわたってゴール前1ヤードまで陣地を進め、まずはK三輪のFGで3点。続いて相手ゴール前7ヤードからQB斎藤がWR木戸へTDパスを通して10−0。相手にも1本FGを返されたが、前半は10−3で折り返した。
後半に入っても、三輪が2本のFGを決めて16−3。さらに、斎藤がWR木下、大園、梅本へのパスを次々と通し、相手ゴール前9ヤード。ここで狙い澄ませたように木戸へのパスを成功させ、23−3。第4Q残り6分17秒という時間、相手オフェンスを確実に止めるファイターズの守備。双方を考えると、この時点で勝負の行く末は見えた。
この日、甲子園に登場した日大のメンバーは、評判通りの素早い動きを見せた。関西リーグの最後に戦った立命の選手と同様、みんな体がでかいし、動きにキレがある。選手一人一人の潜在的な力量を比べれば、明らかにファイターズの面々を圧倒しているようなメンバーも少なくなかった。新聞や専門誌の記者が予想する通り、そして鳥内監督が何度も言っておられた通りに「強い日大」の登場だった。
にもかかわらず、得点は最後、ファイターズ守備陣が交代メンバーを大量に出場させたシリーズで奪われた6点を含めても23−9。スタッツを見ても、関学がパスで281ヤード、ランで66ヤードの計347ヤードを獲得しているのに、日大は計185ヤードと大きな開きがある。
どうしてこのような結果になったのか。
少なくとも、ファイターズに関しては、それを考えるためのヒントになりそうな場面がいくつかある。紹介させてもらおう。
一つは、春のシーズン中のことである。ラインバッカーの練習台に入っていたRB鷺野君に、LBの池田雄紀君がまともに当たった場面があった。味方同士の練習とは思えないほどの突き刺すような当たりを鷺野君も一歩も引かずに受け止めたが、体格の差はどうしようもない。鷺野君はその時に足を痛め、しばらく練習から離脱するしかなかった。
味方同士だからと、いわゆる「寸止め」の当たりではなく、互いにしっかり当たりあう。その結果、不運にも片方がけがをすることになったが、そのけがが癒えた時には、鷺野君の当たりは1段レベルアップし、同時に相手のタックルを交わす身体操作も身に着けていた。動きの素早い鷺野君を相手に、素早いタックルを見舞った池田君の動きにキレが生まれ、当たりが強さを増したことはいうまでもない。
二つ目は、チーム練習が始まる前のQBとWR、TEの練習風景である。QBは4年生の橘君と3年の斎藤君、レシーバーは4年の梅本君と松下君、TEは松島君と樋之本君、それにけがをする前の木戸君らが練習開始の2時間以上前にグラウンドの中央に集まり、営々とパスを投げ、パスを受ける。梅本君や橘君が練習のメニューを組み、何度もコースとスピード、ボールの角度や強さを確認しながら、とにかく投げ続け、走り続け、受け続ける。
そういう練習の中で、斎藤君はこの日の試合で見せたようなピンポイントのパスを通す技術を身に着け、レシーバーは走る方向、タイミング、スピードなどを身に沁みこませてきた。実際、春先は精度の低かったパスが春のシーズンの終わりごろから通りはじめ、秋も終盤になると9割ぐらいは確実に成功するようになった。投げる方も受ける方も、毎日毎日、工夫しながら練習を続けることによって、1段も2段も高いステージでパスをやり取りできるように成長していった。そこから互いを信頼する気持ちが醸成され、どんな場面であっても「斎藤はここに、このタイミングで投げ込んでくる」「梅本さんは必ず目標の場所にいてくれる」「木戸や樋之本は絶対に相手DBに競り勝ってくれる」と、互いが確信をもってプレーできるようになったのだ。
これは、前にも書いたことがあるが、攻守のラインにしても、LBやDB、RBやキッキングメンバーにしても同様である。QBとレシーバーのような派手さがないから目立たないだけで、それぞれのパートごとにリーダーを中心として、選手たちが自発的、自主的に自らを鍛え、仲間同士を高めあっている。そういう練習の積み重ねが、鉄壁というのにふさわしい強力なOLをつくり、相手オフェンスを突き破るDLのスピードを養成していった。
日大戦の直前、たまたま練習を見に行ったとき、DLの池永君とLBの小野君、作道君がOLの友國君らを相手に、何度も何度もブリッツの練習をしている場面に出くわした。足の運び方から体の寄せ方まで、コンマ何秒のタイミング、1センチ単位の足の踏み出し方を納得いくまで調整している。その姿をみて、必ず彼らが活躍してくれるはず、と確信を持った。
この日、何度も相手QBに襲い掛かり、パスをカットした3人の活躍ぶりを見れば、その確信にはしっかりとした裏付けがあったことが証明された。練習は裏切らない。納得できるだけの練習ができて、初めて試合でも結果が出せるのである。
そしてもう一つ。それは今日、試合が終わってからの場面である。ひとつは、松葉づえをついた副将の池田君が同じ副将の鳥内君の肩を借りて日大サイドに足を運び、きちんと副将としての挨拶をしていた姿、もう一つは表彰式の際、同じく鳥内君が池田君を介助していた姿である。今季のチームを池永主将、友國副将とともに引っ張ってきた二人が互いに肩を貸し、借りてグラウンドを歩む姿を見て、僕は思わず「これがファイターズだ」という思いを強くした。まるで「スポ根漫画」と思われる方もあるかもしれないが、二人をはじめ、4年生たちがすべてをフットボールにかけ、懸命にチームを成長させてきた長い道のりの一端を知っているだけに、その団結の象徴ともいうべき二人の姿を見て、思わず目頭が熱くなった。
以上、ここに挙げた4つの場面が、今年のファイターズである。本気の練習で互いを高めあい、自主的、自発的な取り組みでプレーの精度を上げる。なすべきことは徹底的に詰め切って自分のものにする。そして、仲間をいたわり、励まし、互いに助け合って、より一層高い境地を目指す。
そういったことのすべてを、あの強力な立命や日大との試合で発揮することができたから、厳しい戦いではあったが、終始、主導権をもって試合を進めることができたのだ。その証が試合終了後のグラウンドで選手やスタッフに配られた白い帽子、そう、チャンピオンキャップである。
今年で連続3つ目となる「勝利者の白い帽子」をかぶり、パートごとに集まって互いに写真を取り合っている選手やスタッフの晴れやかな顔を見ながら、僕はもう、次の試合に思いを走らせていた。
残るはもう1試合。ここまで自分たちがやってきた取り組みに自信を持ち、誇りをもって、心置きなく挑んでほしい。まだまだできることはある。やらねばならないこともある。がんばろう!
スポーツ紙や専門誌を読むと、記者の予想は五分と五分。東京発の記事を見ると、どちらかといえば日大に分のあるような書き方をしている人が多かった。
ところが、ふたを開けてみると、ファイターズが終始先手をとり、主導権を握ったままで試合を進めた。立ち上がり2度にわたってゴール前1ヤードまで陣地を進め、まずはK三輪のFGで3点。続いて相手ゴール前7ヤードからQB斎藤がWR木戸へTDパスを通して10−0。相手にも1本FGを返されたが、前半は10−3で折り返した。
後半に入っても、三輪が2本のFGを決めて16−3。さらに、斎藤がWR木下、大園、梅本へのパスを次々と通し、相手ゴール前9ヤード。ここで狙い澄ませたように木戸へのパスを成功させ、23−3。第4Q残り6分17秒という時間、相手オフェンスを確実に止めるファイターズの守備。双方を考えると、この時点で勝負の行く末は見えた。
この日、甲子園に登場した日大のメンバーは、評判通りの素早い動きを見せた。関西リーグの最後に戦った立命の選手と同様、みんな体がでかいし、動きにキレがある。選手一人一人の潜在的な力量を比べれば、明らかにファイターズの面々を圧倒しているようなメンバーも少なくなかった。新聞や専門誌の記者が予想する通り、そして鳥内監督が何度も言っておられた通りに「強い日大」の登場だった。
にもかかわらず、得点は最後、ファイターズ守備陣が交代メンバーを大量に出場させたシリーズで奪われた6点を含めても23−9。スタッツを見ても、関学がパスで281ヤード、ランで66ヤードの計347ヤードを獲得しているのに、日大は計185ヤードと大きな開きがある。
どうしてこのような結果になったのか。
少なくとも、ファイターズに関しては、それを考えるためのヒントになりそうな場面がいくつかある。紹介させてもらおう。
一つは、春のシーズン中のことである。ラインバッカーの練習台に入っていたRB鷺野君に、LBの池田雄紀君がまともに当たった場面があった。味方同士の練習とは思えないほどの突き刺すような当たりを鷺野君も一歩も引かずに受け止めたが、体格の差はどうしようもない。鷺野君はその時に足を痛め、しばらく練習から離脱するしかなかった。
味方同士だからと、いわゆる「寸止め」の当たりではなく、互いにしっかり当たりあう。その結果、不運にも片方がけがをすることになったが、そのけがが癒えた時には、鷺野君の当たりは1段レベルアップし、同時に相手のタックルを交わす身体操作も身に着けていた。動きの素早い鷺野君を相手に、素早いタックルを見舞った池田君の動きにキレが生まれ、当たりが強さを増したことはいうまでもない。
二つ目は、チーム練習が始まる前のQBとWR、TEの練習風景である。QBは4年生の橘君と3年の斎藤君、レシーバーは4年の梅本君と松下君、TEは松島君と樋之本君、それにけがをする前の木戸君らが練習開始の2時間以上前にグラウンドの中央に集まり、営々とパスを投げ、パスを受ける。梅本君や橘君が練習のメニューを組み、何度もコースとスピード、ボールの角度や強さを確認しながら、とにかく投げ続け、走り続け、受け続ける。
そういう練習の中で、斎藤君はこの日の試合で見せたようなピンポイントのパスを通す技術を身に着け、レシーバーは走る方向、タイミング、スピードなどを身に沁みこませてきた。実際、春先は精度の低かったパスが春のシーズンの終わりごろから通りはじめ、秋も終盤になると9割ぐらいは確実に成功するようになった。投げる方も受ける方も、毎日毎日、工夫しながら練習を続けることによって、1段も2段も高いステージでパスをやり取りできるように成長していった。そこから互いを信頼する気持ちが醸成され、どんな場面であっても「斎藤はここに、このタイミングで投げ込んでくる」「梅本さんは必ず目標の場所にいてくれる」「木戸や樋之本は絶対に相手DBに競り勝ってくれる」と、互いが確信をもってプレーできるようになったのだ。
これは、前にも書いたことがあるが、攻守のラインにしても、LBやDB、RBやキッキングメンバーにしても同様である。QBとレシーバーのような派手さがないから目立たないだけで、それぞれのパートごとにリーダーを中心として、選手たちが自発的、自主的に自らを鍛え、仲間同士を高めあっている。そういう練習の積み重ねが、鉄壁というのにふさわしい強力なOLをつくり、相手オフェンスを突き破るDLのスピードを養成していった。
日大戦の直前、たまたま練習を見に行ったとき、DLの池永君とLBの小野君、作道君がOLの友國君らを相手に、何度も何度もブリッツの練習をしている場面に出くわした。足の運び方から体の寄せ方まで、コンマ何秒のタイミング、1センチ単位の足の踏み出し方を納得いくまで調整している。その姿をみて、必ず彼らが活躍してくれるはず、と確信を持った。
この日、何度も相手QBに襲い掛かり、パスをカットした3人の活躍ぶりを見れば、その確信にはしっかりとした裏付けがあったことが証明された。練習は裏切らない。納得できるだけの練習ができて、初めて試合でも結果が出せるのである。
そしてもう一つ。それは今日、試合が終わってからの場面である。ひとつは、松葉づえをついた副将の池田君が同じ副将の鳥内君の肩を借りて日大サイドに足を運び、きちんと副将としての挨拶をしていた姿、もう一つは表彰式の際、同じく鳥内君が池田君を介助していた姿である。今季のチームを池永主将、友國副将とともに引っ張ってきた二人が互いに肩を貸し、借りてグラウンドを歩む姿を見て、僕は思わず「これがファイターズだ」という思いを強くした。まるで「スポ根漫画」と思われる方もあるかもしれないが、二人をはじめ、4年生たちがすべてをフットボールにかけ、懸命にチームを成長させてきた長い道のりの一端を知っているだけに、その団結の象徴ともいうべき二人の姿を見て、思わず目頭が熱くなった。
以上、ここに挙げた4つの場面が、今年のファイターズである。本気の練習で互いを高めあい、自主的、自発的な取り組みでプレーの精度を上げる。なすべきことは徹底的に詰め切って自分のものにする。そして、仲間をいたわり、励まし、互いに助け合って、より一層高い境地を目指す。
そういったことのすべてを、あの強力な立命や日大との試合で発揮することができたから、厳しい戦いではあったが、終始、主導権をもって試合を進めることができたのだ。その証が試合終了後のグラウンドで選手やスタッフに配られた白い帽子、そう、チャンピオンキャップである。
今年で連続3つ目となる「勝利者の白い帽子」をかぶり、パートごとに集まって互いに写真を取り合っている選手やスタッフの晴れやかな顔を見ながら、僕はもう、次の試合に思いを走らせていた。
残るはもう1試合。ここまで自分たちがやってきた取り組みに自信を持ち、誇りをもって、心置きなく挑んでほしい。まだまだできることはある。やらねばならないこともある。がんばろう!
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| in 2013 season
2013年12月11日
(34)語り継ぐ記憶
師走である。普段はおっとりした先生までが走り回るほど、世間はせわしく忙しい。
僕は、週末にちょこっと大学の仕事をしながら、週の大半は現役の新聞記者として働いている。新聞は毎日発行されるから、当然、毎日が飛ぶように過ぎていく。いまは正月紙面と、日常の紙面の制作が同時並行で進んでいるから、特別に忙しい。
一応、編集の長という立場にあるから、職場の責任者としての仕事もある。絵画コンクールの審査員を務めたり、小学校で臨時の講師を務めたりすることもある。酒は飲まないが、義理がからんで、夜の飲み会につきあうこともある。もちろん、記者だから日々の原稿を書くのは本業だ。
というような次第で、先週は1度も練習を見に行くことが出来なかった。立命戦が終わり、名城大との戦いが終わって、いまは日大との決戦に向けて、一番大事な時なのに、そんなときに選手やスタッフの動きを見ることが出来ないのは、本当につらい。このコラムを書くための最新の材料も仕入れられない。
ということで、今回はいつもとは少し違った視点で書いてみる。
アシスタントコーチ、とくに5年生、6年生たちの働きのことである。彼らがどんな風にチームに関わり、どんな気持ちで後輩の部員と接しているか。その実態は、外部からはなかなかうかがえるものではない。でも、注意して見ていると、少なくともこの2年間、つまりそれぞれ4年生のときに主将を務めた松岡君と梶原君が5年生でアシスタントコーチを務めてくれた2年間は、彼らの働きがあって、初めてチームが機能したと思わせられる場面がいくつかあった。
監督やコーチと部員との架け橋として、彼らが果たす役割はもちろん大きい。けれどもそれ以上に、強力な練習台として、あるいは体を張って自らが習得した技術を後輩に伝達する役割がある。さらに大きいのは、部員たちの兄貴分として、精神的な支えになり、同時に厳しいことも指摘する役割である。
昨年は、松岡君や香山君、重田君らが毎日のようにグラウンドに顔を出し、献身的に後輩を育ててくれた。今年も梶原君や畑君、高吹君、廣田君らがグラウンドに足を運び、練習台になり、いろいろなアドバイスをしてくれている。前主務の鈴木君は高校生の試合にまで足を運び、リクルーターの仕事も手伝っている。香山君は2年続けてDBを鍛える役割を果たしている。今季の守備陣が突出して安定しているのも、香山君や梶原君の存在を抜きには考えられない。
彼らがどんな気持ちで後輩に接し、どんな風に彼らのことを思っているか。その一端がうかがえる文章を立命戦の1週間ほど前、DBを指導している香山君がつづってくれた。本人の了解が得られたので、その一部を紹介する。
「(前略)春先や夏ごろまでは、4年生に腹の立つことが多々あった。口先だけで、本気ではなかったからだ。しかしいまは、そんな風に感じることはない。それは、幹部の存在が大きい。幹部は見ていても、本当にいろんな意味で成長したし、他の4年も必死に戦う人間が増えてきている。まだまだこのチームは強くなる可能性を秘めている」
「だが、どれだけ長くても、2か月足らずでこのチームは終わり、また新しいチームに変わる。だからこの時期はより一層、1日1日を大切にしなければならない。チームが最高の状態で立命戦に挑まなければ勝てない。それが立命というチームである。シーズンを通して4年生が中心となってチームを成長させ、最後に長居で戦う。そこで勝利するにはチームとしての完成度、4年の意地しかないと私は思う」
「相手がどれだけ強かろうが、うまかろうが関係ない。今まで取り組んできたことにプライドを持ち、不安を自信に変え、ただただ無心に戦えば、結果はついてくる。今年の4年にはそれが出来るはずだ。残り1週間をすべて立命に懸け、分析し、第3フィールドで戦う。結局、練習でできることしか試合ではできない。本当に残り時間を有意義なものにしてほしい」
「私自身も今年で最後だが、今年の4年には私が4年の時にすごく助けられた。だから最後には、絶対こいつらを男にして卒業する。その強い意志をもって取り組みたい」
以上のような内容である。彼の気持ち、心情が胸に響くではないか。
ファイターズでは現役選手だけが戦っているのではない。5年生、6年生になってアシスタントコーチを務める彼らもまた戦っている。その戦いを通して「戦いの記憶」や「悔しい記憶」を語り継ぎ、それが歴史となり伝説となって、チームに残されていく。こうした無形の財産をどのチームより多く保有し、またいまも積み重ねているのがファイターズである。
舞台は長居から甲子園に移り、相手も立命から日大に変わる。でも、先ほど引用した香山君の言葉は、固有名詞を立命から日大に変えただけで、そのまま通用する。
「今まで取り組んできたことにプライドを持ち、不安を自信に変え、ただただ無心に戦えば結果はついてくる」。そのために、残る短い期間、第3フィールドでの戦いに全力をつくしてほしい。
僕は、週末にちょこっと大学の仕事をしながら、週の大半は現役の新聞記者として働いている。新聞は毎日発行されるから、当然、毎日が飛ぶように過ぎていく。いまは正月紙面と、日常の紙面の制作が同時並行で進んでいるから、特別に忙しい。
一応、編集の長という立場にあるから、職場の責任者としての仕事もある。絵画コンクールの審査員を務めたり、小学校で臨時の講師を務めたりすることもある。酒は飲まないが、義理がからんで、夜の飲み会につきあうこともある。もちろん、記者だから日々の原稿を書くのは本業だ。
というような次第で、先週は1度も練習を見に行くことが出来なかった。立命戦が終わり、名城大との戦いが終わって、いまは日大との決戦に向けて、一番大事な時なのに、そんなときに選手やスタッフの動きを見ることが出来ないのは、本当につらい。このコラムを書くための最新の材料も仕入れられない。
ということで、今回はいつもとは少し違った視点で書いてみる。
アシスタントコーチ、とくに5年生、6年生たちの働きのことである。彼らがどんな風にチームに関わり、どんな気持ちで後輩の部員と接しているか。その実態は、外部からはなかなかうかがえるものではない。でも、注意して見ていると、少なくともこの2年間、つまりそれぞれ4年生のときに主将を務めた松岡君と梶原君が5年生でアシスタントコーチを務めてくれた2年間は、彼らの働きがあって、初めてチームが機能したと思わせられる場面がいくつかあった。
監督やコーチと部員との架け橋として、彼らが果たす役割はもちろん大きい。けれどもそれ以上に、強力な練習台として、あるいは体を張って自らが習得した技術を後輩に伝達する役割がある。さらに大きいのは、部員たちの兄貴分として、精神的な支えになり、同時に厳しいことも指摘する役割である。
昨年は、松岡君や香山君、重田君らが毎日のようにグラウンドに顔を出し、献身的に後輩を育ててくれた。今年も梶原君や畑君、高吹君、廣田君らがグラウンドに足を運び、練習台になり、いろいろなアドバイスをしてくれている。前主務の鈴木君は高校生の試合にまで足を運び、リクルーターの仕事も手伝っている。香山君は2年続けてDBを鍛える役割を果たしている。今季の守備陣が突出して安定しているのも、香山君や梶原君の存在を抜きには考えられない。
彼らがどんな気持ちで後輩に接し、どんな風に彼らのことを思っているか。その一端がうかがえる文章を立命戦の1週間ほど前、DBを指導している香山君がつづってくれた。本人の了解が得られたので、その一部を紹介する。
「(前略)春先や夏ごろまでは、4年生に腹の立つことが多々あった。口先だけで、本気ではなかったからだ。しかしいまは、そんな風に感じることはない。それは、幹部の存在が大きい。幹部は見ていても、本当にいろんな意味で成長したし、他の4年も必死に戦う人間が増えてきている。まだまだこのチームは強くなる可能性を秘めている」
「だが、どれだけ長くても、2か月足らずでこのチームは終わり、また新しいチームに変わる。だからこの時期はより一層、1日1日を大切にしなければならない。チームが最高の状態で立命戦に挑まなければ勝てない。それが立命というチームである。シーズンを通して4年生が中心となってチームを成長させ、最後に長居で戦う。そこで勝利するにはチームとしての完成度、4年の意地しかないと私は思う」
「相手がどれだけ強かろうが、うまかろうが関係ない。今まで取り組んできたことにプライドを持ち、不安を自信に変え、ただただ無心に戦えば、結果はついてくる。今年の4年にはそれが出来るはずだ。残り1週間をすべて立命に懸け、分析し、第3フィールドで戦う。結局、練習でできることしか試合ではできない。本当に残り時間を有意義なものにしてほしい」
「私自身も今年で最後だが、今年の4年には私が4年の時にすごく助けられた。だから最後には、絶対こいつらを男にして卒業する。その強い意志をもって取り組みたい」
以上のような内容である。彼の気持ち、心情が胸に響くではないか。
ファイターズでは現役選手だけが戦っているのではない。5年生、6年生になってアシスタントコーチを務める彼らもまた戦っている。その戦いを通して「戦いの記憶」や「悔しい記憶」を語り継ぎ、それが歴史となり伝説となって、チームに残されていく。こうした無形の財産をどのチームより多く保有し、またいまも積み重ねているのがファイターズである。
舞台は長居から甲子園に移り、相手も立命から日大に変わる。でも、先ほど引用した香山君の言葉は、固有名詞を立命から日大に変えただけで、そのまま通用する。
「今まで取り組んできたことにプライドを持ち、不安を自信に変え、ただただ無心に戦えば結果はついてくる」。そのために、残る短い期間、第3フィールドでの戦いに全力をつくしてほしい。
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| in 2013 season
2013年12月03日
(33)覚悟が問われる
日曜日に王子スタジアムであった西日本地区代表決定戦の結果を伝えるデイリースポーツの記事がツイッタ−で紹介されていた。
「鳥内監督 思わぬ苦戦に怒り」という見出しのついたこんな記事である。
……主力を温存したとはいえ、ふがいない戦いぶりに鳥内監督は「真剣にやれよ」と怒り心頭だった……。
僕もスタンドから応援していて、全く同じ心境だった。ほんの1週間前、鬼気迫るプレーを連発する立命を相手に一歩も譲らず、骨をきしませ、気力と知恵の限りを尽くして戦った、これが同じチームの戦いぶりとは、全く思えなかった。
それを象徴する場面が、ファイターズの最初の攻撃シリーズから現れた。自陣37ヤードからの攻撃。QB前田が木戸への短いパスを通し、RB鷺野が12ヤードまずはダウンを更新。相手陣45ヤードからの攻撃もRB西山と野々垣が走って3ダウン2ヤード。次もランプレーだったが、この2ヤードが進めない。相手陣37ヤードから伊豆が相手ゴール前に転がる絶妙のパントを蹴ったが、それをカバーチームの3人がお見合いする形で譲り合い、結局はタッチバック。
相手にとっては、ゴール前1ヤード付近からの攻撃を労せずして20ヤードからの攻撃としてもらったのだから、こんなおいしい話はない。もっといえば、いきなりパスとランでダウンを更新され、関西代表の力を見せ付けられて浮き足立った相手に、力比べのランを1ヤードで止められ、あげくにこんな失敗をして、相手に「関学は油断している。やれるぞ」と思わせてしまったのだ。
鳥内監督だけでなく、スタンドから応援している身としても「もっと真剣にやれよ」といいいたくなる。
結局、第1Qは0−0。第2QになってようやくK三輪のFGで3点を先行したが、ひたすらランプレーを続ける名城の攻撃を食い止めることが出来ず、逆に相手にTDを奪われ、2点コンバージョンも決められて8−3。今季初めて相手にリードを許す展開となる。
次のファイターズの攻撃は、1年生RB池永弟のナイスリターンで自陣45ヤードから。ここで前田がWR木戸、梅本、松下に立て続けにパスを通して相手ゴール前に迫ったが、ここも肝心なところでパスが通らず、三輪のFGで3点を挙げただけ。依然相手にリードを許したままの苦しい試合である。
ようやく次の攻撃シリーズ。自陣21ヤードから連続して短いパスを決めて陣地を進め、残り時間が40秒を切ったところで前田から木戸へのTDパスが決まって逆転。14−8で前半を折り返す。
後半は、一度はグラウンドから離れていた主力選手を次々と投入。まず守備を固めてから主導権の確保に努める。ようやく第3Q6分30秒、三輪がこの試合3本目のFGを決めて17−8。TD1本では追いつかれないところまで引き離すことが出来た。
この辺りから、攻守の歯車がかみ合う。第4Qに入ると、最初のシリーズは三輪が4本目のFGを決めて20−8。相手は自陣30ヤード付近から強引に第4ダウンのプレーを仕掛けてきたが、これを冷静に止めて攻守交代。相手陣21ヤード付近からの攻撃をRB三好の18ヤードTDランに結び付けて27−8。その後は互いに1本ずつTDを挙げて結局は34−14で試合は終了した。
試合から一晩がたち、少し冷静になったから、こうして試合を振り返ることが出来るが、スタンドで応援しているときは、それどころではない。「今日は交代メンバーが、その実力を披露するチャンス」「出来れば立ち上がりに3本ほどTDをとって、1年生にも出場機会を与えてほしい」なんて、勝手に想像していたのに、それが思いもよらない苦戦である。
なんせ、あの強い立命や京大を零点に封じてきたファイターズである。関西リーグではまともに相手にTDを許さなかったチームである。それがなぜ、こんな試合を演じてしまったのか。主力を少なからず温存したとはいえ、スタメンはほとんどが先日の立命戦を戦ったメンバーである。交代メンバーの選手たちもそれぞれ監督やコーチが抜擢してグラウンドに送り出した期待の人材である。さらにいえば、甲子園ボウルの1Q15分の試合を心置きなく戦えるように交代メンバーの層を厚くしたいという願望のこもった選手起用である。
その期待に応えられなかった選手が多かったのはどうしてか。監督の談話にある通り「もっと真剣にやれ」ということなのか。それとも、日ごろの取り組みに問題があるのか。
こうした疑問に対して、僕なりの回答というのか、感慨はあるのだが、あえてここでは触れない。それよりも、この日の試合に交代メンバーとして出場した選手全員にいっておきたいことがある。
ファイターズのメンバーとしてグラウンドに出る以上、そのすべてがあの立命戦を戦ったメンバーと同等の覚悟をもって試合に臨まなければならないということだ。もちろん、口先だけではダメ。日ごろの練習から、常時、その覚悟を確かめ、その覚悟にふさわしい取り組みが求められる。
甲子園ボウルまで2週間足らず。練習出来る日は限られている。その限られた時間をチームの全員が火の玉となって過ごせるかどうか。チームに関わる者すべての覚悟が問われている。
「鳥内監督 思わぬ苦戦に怒り」という見出しのついたこんな記事である。
……主力を温存したとはいえ、ふがいない戦いぶりに鳥内監督は「真剣にやれよ」と怒り心頭だった……。
僕もスタンドから応援していて、全く同じ心境だった。ほんの1週間前、鬼気迫るプレーを連発する立命を相手に一歩も譲らず、骨をきしませ、気力と知恵の限りを尽くして戦った、これが同じチームの戦いぶりとは、全く思えなかった。
それを象徴する場面が、ファイターズの最初の攻撃シリーズから現れた。自陣37ヤードからの攻撃。QB前田が木戸への短いパスを通し、RB鷺野が12ヤードまずはダウンを更新。相手陣45ヤードからの攻撃もRB西山と野々垣が走って3ダウン2ヤード。次もランプレーだったが、この2ヤードが進めない。相手陣37ヤードから伊豆が相手ゴール前に転がる絶妙のパントを蹴ったが、それをカバーチームの3人がお見合いする形で譲り合い、結局はタッチバック。
相手にとっては、ゴール前1ヤード付近からの攻撃を労せずして20ヤードからの攻撃としてもらったのだから、こんなおいしい話はない。もっといえば、いきなりパスとランでダウンを更新され、関西代表の力を見せ付けられて浮き足立った相手に、力比べのランを1ヤードで止められ、あげくにこんな失敗をして、相手に「関学は油断している。やれるぞ」と思わせてしまったのだ。
鳥内監督だけでなく、スタンドから応援している身としても「もっと真剣にやれよ」といいいたくなる。
結局、第1Qは0−0。第2QになってようやくK三輪のFGで3点を先行したが、ひたすらランプレーを続ける名城の攻撃を食い止めることが出来ず、逆に相手にTDを奪われ、2点コンバージョンも決められて8−3。今季初めて相手にリードを許す展開となる。
次のファイターズの攻撃は、1年生RB池永弟のナイスリターンで自陣45ヤードから。ここで前田がWR木戸、梅本、松下に立て続けにパスを通して相手ゴール前に迫ったが、ここも肝心なところでパスが通らず、三輪のFGで3点を挙げただけ。依然相手にリードを許したままの苦しい試合である。
ようやく次の攻撃シリーズ。自陣21ヤードから連続して短いパスを決めて陣地を進め、残り時間が40秒を切ったところで前田から木戸へのTDパスが決まって逆転。14−8で前半を折り返す。
後半は、一度はグラウンドから離れていた主力選手を次々と投入。まず守備を固めてから主導権の確保に努める。ようやく第3Q6分30秒、三輪がこの試合3本目のFGを決めて17−8。TD1本では追いつかれないところまで引き離すことが出来た。
この辺りから、攻守の歯車がかみ合う。第4Qに入ると、最初のシリーズは三輪が4本目のFGを決めて20−8。相手は自陣30ヤード付近から強引に第4ダウンのプレーを仕掛けてきたが、これを冷静に止めて攻守交代。相手陣21ヤード付近からの攻撃をRB三好の18ヤードTDランに結び付けて27−8。その後は互いに1本ずつTDを挙げて結局は34−14で試合は終了した。
試合から一晩がたち、少し冷静になったから、こうして試合を振り返ることが出来るが、スタンドで応援しているときは、それどころではない。「今日は交代メンバーが、その実力を披露するチャンス」「出来れば立ち上がりに3本ほどTDをとって、1年生にも出場機会を与えてほしい」なんて、勝手に想像していたのに、それが思いもよらない苦戦である。
なんせ、あの強い立命や京大を零点に封じてきたファイターズである。関西リーグではまともに相手にTDを許さなかったチームである。それがなぜ、こんな試合を演じてしまったのか。主力を少なからず温存したとはいえ、スタメンはほとんどが先日の立命戦を戦ったメンバーである。交代メンバーの選手たちもそれぞれ監督やコーチが抜擢してグラウンドに送り出した期待の人材である。さらにいえば、甲子園ボウルの1Q15分の試合を心置きなく戦えるように交代メンバーの層を厚くしたいという願望のこもった選手起用である。
その期待に応えられなかった選手が多かったのはどうしてか。監督の談話にある通り「もっと真剣にやれ」ということなのか。それとも、日ごろの取り組みに問題があるのか。
こうした疑問に対して、僕なりの回答というのか、感慨はあるのだが、あえてここでは触れない。それよりも、この日の試合に交代メンバーとして出場した選手全員にいっておきたいことがある。
ファイターズのメンバーとしてグラウンドに出る以上、そのすべてがあの立命戦を戦ったメンバーと同等の覚悟をもって試合に臨まなければならないということだ。もちろん、口先だけではダメ。日ごろの練習から、常時、その覚悟を確かめ、その覚悟にふさわしい取り組みが求められる。
甲子園ボウルまで2週間足らず。練習出来る日は限られている。その限られた時間をチームの全員が火の玉となって過ごせるかどうか。チームに関わる者すべての覚悟が問われている。
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2013年11月26日
(32)負けない試合
お見事!という言葉がこれほど似合う試合は、そうそうお目にかかれない。11月24日、長居スタジアムで行われた関西リーグの最終戦。甲子園出場権をかけた関学と立命の決戦は、両チームの力と力、技と技、意地と誇りが真っ向からぶつかり、それに両軍ベンチの采配が火花を散らせる熱戦だった。
結果は0−0。長いフットボール観戦歴で初めて体験するスコアだった。
両チームともに点をとることが出来なかったが、それほど試合は拮抗していた。互いの守備が相手の得意とする攻撃を徹底的に封じ込め、ミスを最小限に抑え、にもかかわらず両チームのオフェンス陣が果敢に攻め続けた、これが結果である。得点は1点も入らなかったが、見応えは満点だった。
コイントスに勝ったファイターズが前半は守備からという選択をしたところから、ゲームはスタートした。いつもの立命戦なら「先行、逃げ切り」を目指すはずだが、ベンチに「今日は守り合い」というこの日のシナリオがあったからに違いない。
今シーズン、ファイターズは攻守が互いに連携して順調に勝ち星を重ねてきた。ところが立命は前節、京大に完敗して遅れをとった。それを挽回するには、この日の試合に勝ち、再度、甲子園出場権をかけてファイターズに勝つしかない。もちろん、ファイターズも負けられない。たとえ1敗しても決定戦があるなんて甘いことを考えた瞬間に、相手を勢いづかせてしまう。まして相手は、手負いである。死にものぐるいで立ち向かってくる。それを受けて立つには、相手を上回る強い意志とチームの結束が必要だ。
「とことん守りきって勝つ。点を与えなければ負けることはない」。守備を担当する堀口コーチの言葉の意味するところがチームの全員に浸透し、攻守ともにその方針に徹した結果が0−0というスコアである。
互いに爆発的な攻撃力を持ち、パスでもランでも、いかようにも得点する力を持っている。キッキングチームも鍛えられているし、守備陣が点を取って突破口を開いてきた試合もある。スペシャルプレーを入念に準備してきたことも、過去の戦いを振り返れば、ともに想定の範囲だろう。
そういう両チームが試合終了の笛が鳴るまで、互いに相手の攻撃の芽を摘み、得意技を封じ、ミスを防ぎあって戦った試合である。ファイターズの守備陣があの強力な立命オフェンスを相手に、ラン攻撃を0ヤードに封じたという一事を見ても、その素晴らしさが証明されている。見事というしかない。
それでも、互いに付け入るチャンスはあった。ファイターズにとっては、第2Qの半ば、自陣40ヤード付近からの第4ダウン、パンター伊豆がスナッパーの横山にパントフェイクのパスを通して敵陣38ヤード付近に攻め込んだ場面はそのひとつである。だが、この好機も、立命守備陣の奮起で逸してしまう。
立命も2Qの終盤、アグレッシブなパントカバーチームのプレーで好機をつかむ。高く上がったパントをキャッチしたWR木戸が相手DB二人から強烈なタックルを浴び、腕からボールをもぎ取られてしまったのだ。ターンオーバー。ゴール前23ヤードで攻撃権を失うという厳しい局面だったが、ここでもファイターズ守備陣が奮起した。
立命の第1プレー、QBからのパスをLB池田が指先ではじき、少し浮いたボールを今度はLB吉原がカット。大きく跳ね上がったボールをDB大森がキャッチして、またまた攻撃権を奪い返した。
この場面、最初にQBの前に立ちはだかった池田、飛び上がってボールをカットした吉原、そのボールを冷静に確保し11ヤードをリターンした大森の3人の息がぴたりとあって、絵に描いたようなインターセプトが完成した。
こうなると、後半は完全に守り合いと時間のつぶし合いである。
ここでも特筆すべきは、ファイターズ守備陣の活躍だった。相手にレシーバーを捜す余裕を与えない機敏な動きでパスを封じ、決定的なチャンスを一度も与えなかった。なんせあの強力な立命オフェンスを相手に、前後半に5度のQBサックを決め、ロスタックルを何度も浴びせて、(繰り返しになるが)ラン攻撃を0ヤードに封じ込めたのである。
攻撃陣もこれに呼応して、徹底的に時間を消費する作戦を展開する。力の梶原、技の飯田、スピードの鷺野という3人のRBと、終始冷静に判断して自らボールをキープするQB斎藤のキーププレーを組み合わせ、ごりごりと陣地を進め、時計を進めていく。
記録を見れば、この試合の攻撃時間は立命が約20分、ファイターズ約28分。ファイターズがいかにリスク管理をしながら、負けない試合運びをしたかかが、こうした時間の使い方からも理解できるだろう。
時間の使い方で、特筆しておきたいことがひとつある。タイムアウトの取り方をめぐる両軍ベンチの駆け引きである。
立命はこの試合、前半と後半に2回ずつまとめてタイムアウトを取った。ともに第4ダウンショート。ファイターズはパント隊形をとったが、立命ベンチは何か不穏なものを感じたのだろう。プレーの直前にタイムアウトをとって、万一のフェイクプレーに備えた。
なにしろ、まだ第2Qに入ったばかりなのに伊豆から横山へのパントフェイクのパスを成功させてダウンを更新しているファイターズである。過去にもこうしたフェイクプレーで、ファイターズは活路を開いてきた。その記憶が相手ベンチに刻まれているから、入念な打ち合わせでカバーチームに備えさせたのはよく分かる。
もちろん、僕のような部外者にはファイターズベンチがそれぞれの場面で、どんなプレーを用意していたのかは分からない。それでも、グラウンドで戦う者同士、互いに不穏な気配が流れていたのだろう。だからこそタイムアウトを連発したのだろうが、結果として終盤、ファイターズの「時間を消費する攻撃」が進めやすくなったことは確かである。
こういう両軍ベンチの微妙な駆け引きを含めて、本当に奥の深い見事な試合であり、見応えがあった。
結果は0−0。長いフットボール観戦歴で初めて体験するスコアだった。
両チームともに点をとることが出来なかったが、それほど試合は拮抗していた。互いの守備が相手の得意とする攻撃を徹底的に封じ込め、ミスを最小限に抑え、にもかかわらず両チームのオフェンス陣が果敢に攻め続けた、これが結果である。得点は1点も入らなかったが、見応えは満点だった。
コイントスに勝ったファイターズが前半は守備からという選択をしたところから、ゲームはスタートした。いつもの立命戦なら「先行、逃げ切り」を目指すはずだが、ベンチに「今日は守り合い」というこの日のシナリオがあったからに違いない。
今シーズン、ファイターズは攻守が互いに連携して順調に勝ち星を重ねてきた。ところが立命は前節、京大に完敗して遅れをとった。それを挽回するには、この日の試合に勝ち、再度、甲子園出場権をかけてファイターズに勝つしかない。もちろん、ファイターズも負けられない。たとえ1敗しても決定戦があるなんて甘いことを考えた瞬間に、相手を勢いづかせてしまう。まして相手は、手負いである。死にものぐるいで立ち向かってくる。それを受けて立つには、相手を上回る強い意志とチームの結束が必要だ。
「とことん守りきって勝つ。点を与えなければ負けることはない」。守備を担当する堀口コーチの言葉の意味するところがチームの全員に浸透し、攻守ともにその方針に徹した結果が0−0というスコアである。
互いに爆発的な攻撃力を持ち、パスでもランでも、いかようにも得点する力を持っている。キッキングチームも鍛えられているし、守備陣が点を取って突破口を開いてきた試合もある。スペシャルプレーを入念に準備してきたことも、過去の戦いを振り返れば、ともに想定の範囲だろう。
そういう両チームが試合終了の笛が鳴るまで、互いに相手の攻撃の芽を摘み、得意技を封じ、ミスを防ぎあって戦った試合である。ファイターズの守備陣があの強力な立命オフェンスを相手に、ラン攻撃を0ヤードに封じたという一事を見ても、その素晴らしさが証明されている。見事というしかない。
それでも、互いに付け入るチャンスはあった。ファイターズにとっては、第2Qの半ば、自陣40ヤード付近からの第4ダウン、パンター伊豆がスナッパーの横山にパントフェイクのパスを通して敵陣38ヤード付近に攻め込んだ場面はそのひとつである。だが、この好機も、立命守備陣の奮起で逸してしまう。
立命も2Qの終盤、アグレッシブなパントカバーチームのプレーで好機をつかむ。高く上がったパントをキャッチしたWR木戸が相手DB二人から強烈なタックルを浴び、腕からボールをもぎ取られてしまったのだ。ターンオーバー。ゴール前23ヤードで攻撃権を失うという厳しい局面だったが、ここでもファイターズ守備陣が奮起した。
立命の第1プレー、QBからのパスをLB池田が指先ではじき、少し浮いたボールを今度はLB吉原がカット。大きく跳ね上がったボールをDB大森がキャッチして、またまた攻撃権を奪い返した。
この場面、最初にQBの前に立ちはだかった池田、飛び上がってボールをカットした吉原、そのボールを冷静に確保し11ヤードをリターンした大森の3人の息がぴたりとあって、絵に描いたようなインターセプトが完成した。
こうなると、後半は完全に守り合いと時間のつぶし合いである。
ここでも特筆すべきは、ファイターズ守備陣の活躍だった。相手にレシーバーを捜す余裕を与えない機敏な動きでパスを封じ、決定的なチャンスを一度も与えなかった。なんせあの強力な立命オフェンスを相手に、前後半に5度のQBサックを決め、ロスタックルを何度も浴びせて、(繰り返しになるが)ラン攻撃を0ヤードに封じ込めたのである。
攻撃陣もこれに呼応して、徹底的に時間を消費する作戦を展開する。力の梶原、技の飯田、スピードの鷺野という3人のRBと、終始冷静に判断して自らボールをキープするQB斎藤のキーププレーを組み合わせ、ごりごりと陣地を進め、時計を進めていく。
記録を見れば、この試合の攻撃時間は立命が約20分、ファイターズ約28分。ファイターズがいかにリスク管理をしながら、負けない試合運びをしたかかが、こうした時間の使い方からも理解できるだろう。
時間の使い方で、特筆しておきたいことがひとつある。タイムアウトの取り方をめぐる両軍ベンチの駆け引きである。
立命はこの試合、前半と後半に2回ずつまとめてタイムアウトを取った。ともに第4ダウンショート。ファイターズはパント隊形をとったが、立命ベンチは何か不穏なものを感じたのだろう。プレーの直前にタイムアウトをとって、万一のフェイクプレーに備えた。
なにしろ、まだ第2Qに入ったばかりなのに伊豆から横山へのパントフェイクのパスを成功させてダウンを更新しているファイターズである。過去にもこうしたフェイクプレーで、ファイターズは活路を開いてきた。その記憶が相手ベンチに刻まれているから、入念な打ち合わせでカバーチームに備えさせたのはよく分かる。
もちろん、僕のような部外者にはファイターズベンチがそれぞれの場面で、どんなプレーを用意していたのかは分からない。それでも、グラウンドで戦う者同士、互いに不穏な気配が流れていたのだろう。だからこそタイムアウトを連発したのだろうが、結果として終盤、ファイターズの「時間を消費する攻撃」が進めやすくなったことは確かである。
こういう両軍ベンチの微妙な駆け引きを含めて、本当に奥の深い見事な試合であり、見応えがあった。
posted by コラム「スタンドから」 at 13:09| Comment(2)
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2013年11月19日
(31)見届ける人
時は晩秋。上ヶ原のキャンパスは日ごとに紅葉が進んでいる。日本庭園のカエデは赤く色づき、中央芝生の回りを取り巻くピラカンサの実も赤くなってきた。社会学部と文学部の間の広場にあるイチョウも黄色くなって秋の日差しに映えている。
第3フィールドの入り口近くにあるアメリカ楓の葉っぱは真っ赤になって散り始め、野球場のコンリート壁を覆うツタも秋色になった。「つるべ落としの秋の暮れ」というが、日が暮れるのも早い。甲山から吹き下ろす風は、真冬のような冷たさだ。
グラウンドに目をやれば、チーム練習の2時間も前から試合を担うQBとWRがパスの練習に励んでいる。日に日に完成度が上がり、投げる方も受ける方もほとんど失敗することがない。片隅では、攻守のラインがダミーに向かってヒットの練習。みんな真剣そのものだ。シーズン当初とは違って、明らかに体も表情も引き締まっている。
4時限、5時限まで授業のある2年生や1年生がかさばる防具を肩にグラウンドまでの坂道を駆け上がってくるのも、この季節ならではのこと。シーズン当初、仲間とのんびり談笑しながらゆっくりと集まっていたころの甘ったれた面影は、もうどこにもない。
こういう季節になると、それは例年のことだが、このメンバーたちがそろってプレーできるのは、もうほんの短い期間しかないことを実感する。もちろん人生は長い。大学時代の仲間は、かけがいのない存在として、これからも生涯のつきあいが続くだろう。でも、このメンバーでプレーできるのは、最長でも1月3日まで。それが分かっているから、その短い時間がいとおしくてならない。それは横から見ている僕の勝手な感傷だが、実際にグラウンドに立っている部員にとっては、もっともっと感じることの多い時間だろう。
だからこそ、監督やコーチはもちろん、アシスタントコーチを務める先輩たちを含め、言葉の一つひとつ、所作のひとつ一つにメリハリが生まれてくる。プレーの流れは秒刻みになり、ハドルへの集散は自然に早くなる。スタッフを含め、みんなが自発的にその場に必要な行動をとるから、もう怒鳴り声が聞こえてくることもない。張り詰めた空気、透明な空間があるだけだ。
そういう場に居合わせると、僕にできることはほとんどない。元々、チームを「見守る人」というのが、僕の立ち位置だが、この時期になると顔を合わせた選手に少しばかり声を掛けるだけで、気持ちは通じる。
代わりに思うことはただひとつ。勝っても負けても、僕はこのチームを見届け続けよう、ということだ。
ファイターズを応援して下さる方は、どのチームよりも多い。スタジアムに足を運ぶだけでなく、合宿と聞けば差し入れをして下さる方、支援金を集めてチームに贈って下さる方々も多い。もちろん、OB会長は率先して激励に来て下さる。
そんな中で、少しばかり社会経験の豊富な年長者として、僕に出来るのは、ひたすら選手たちを見守ること。部員の動きを細かく見届けること。そして、見届けた結果をこういう場を通じて記録しておくことである。
2013年、池永主将を中心とするチームは、確かに一丸となって戦う態勢を整えた。僕はそれを見届けた。たったこれだけの言葉ですべてが言い尽くされている。
あとは、心置きなく戦うだけ。今までやってきた取り組みに自信を持ち、仲間を信頼する。それだけでいい。
相手がいかに強力であろうと、死にものぐるいの戦いを挑んでこようと、そんなことは関係ない。ひるまず、臆せずに戦い続ければ、必ず道は開ける。諸君が勝者の名にふさわしい取り組みをしてきたことは、この1年間、じっくりと見せてもらった。
11月24日、長居スタジアム。「ファイト オン」の歌詞にある通りの戦いを期待する。
第3フィールドの入り口近くにあるアメリカ楓の葉っぱは真っ赤になって散り始め、野球場のコンリート壁を覆うツタも秋色になった。「つるべ落としの秋の暮れ」というが、日が暮れるのも早い。甲山から吹き下ろす風は、真冬のような冷たさだ。
グラウンドに目をやれば、チーム練習の2時間も前から試合を担うQBとWRがパスの練習に励んでいる。日に日に完成度が上がり、投げる方も受ける方もほとんど失敗することがない。片隅では、攻守のラインがダミーに向かってヒットの練習。みんな真剣そのものだ。シーズン当初とは違って、明らかに体も表情も引き締まっている。
4時限、5時限まで授業のある2年生や1年生がかさばる防具を肩にグラウンドまでの坂道を駆け上がってくるのも、この季節ならではのこと。シーズン当初、仲間とのんびり談笑しながらゆっくりと集まっていたころの甘ったれた面影は、もうどこにもない。
こういう季節になると、それは例年のことだが、このメンバーたちがそろってプレーできるのは、もうほんの短い期間しかないことを実感する。もちろん人生は長い。大学時代の仲間は、かけがいのない存在として、これからも生涯のつきあいが続くだろう。でも、このメンバーでプレーできるのは、最長でも1月3日まで。それが分かっているから、その短い時間がいとおしくてならない。それは横から見ている僕の勝手な感傷だが、実際にグラウンドに立っている部員にとっては、もっともっと感じることの多い時間だろう。
だからこそ、監督やコーチはもちろん、アシスタントコーチを務める先輩たちを含め、言葉の一つひとつ、所作のひとつ一つにメリハリが生まれてくる。プレーの流れは秒刻みになり、ハドルへの集散は自然に早くなる。スタッフを含め、みんなが自発的にその場に必要な行動をとるから、もう怒鳴り声が聞こえてくることもない。張り詰めた空気、透明な空間があるだけだ。
そういう場に居合わせると、僕にできることはほとんどない。元々、チームを「見守る人」というのが、僕の立ち位置だが、この時期になると顔を合わせた選手に少しばかり声を掛けるだけで、気持ちは通じる。
代わりに思うことはただひとつ。勝っても負けても、僕はこのチームを見届け続けよう、ということだ。
ファイターズを応援して下さる方は、どのチームよりも多い。スタジアムに足を運ぶだけでなく、合宿と聞けば差し入れをして下さる方、支援金を集めてチームに贈って下さる方々も多い。もちろん、OB会長は率先して激励に来て下さる。
そんな中で、少しばかり社会経験の豊富な年長者として、僕に出来るのは、ひたすら選手たちを見守ること。部員の動きを細かく見届けること。そして、見届けた結果をこういう場を通じて記録しておくことである。
2013年、池永主将を中心とするチームは、確かに一丸となって戦う態勢を整えた。僕はそれを見届けた。たったこれだけの言葉ですべてが言い尽くされている。
あとは、心置きなく戦うだけ。今までやってきた取り組みに自信を持ち、仲間を信頼する。それだけでいい。
相手がいかに強力であろうと、死にものぐるいの戦いを挑んでこようと、そんなことは関係ない。ひるまず、臆せずに戦い続ければ、必ず道は開ける。諸君が勝者の名にふさわしい取り組みをしてきたことは、この1年間、じっくりと見せてもらった。
11月24日、長居スタジアム。「ファイト オン」の歌詞にある通りの戦いを期待する。
posted by コラム「スタンドから」 at 06:19| Comment(1)
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2013年11月11日
(30)神は細部に宿る
関大との試合は、長居第二陸上競技場。ファイターズの応援席は観客席の極端に少ないバックスタンド。メーンスタンドに比べ、収容力が極端に少ない。グラウンドとスタンドの間にトラックのレーンが広くとられているうえ、メーンスタンドとは違って、観客席の目の位置が低いから、プレーの展開がよく見えない。
加えて、午後3時の試合開始とあって、晩秋の西日がもろに目に入る。サイドラインにあるヤード表示の数字さえ、逆光でよく見えなかったといえば、スタンドに足を運べなかった人にも観戦環境の悪さが分かってもらえるだろう。せっかくファイターズの応援に来たのに、メーンスタンドに回るファンも少なくなかった。
そういう厳しい環境だったが、試合はスコア以上に白熱。ミスが流れを変えてしまう怖さと、なすべきことをきっちり仕上げることの大切さを身にしみて教えてくれた。
ファイターズのレシーブで試合開始。関大のキックがゴールライン近くでサイドラインを割る反則で、ファイターズは自陣35ヤードからの攻撃。QB斎藤が随所にランプレーを織り込みながらWR木戸、大園、木下にピンポイントで短いパスを連発。仕上げはWR梅本へ19ヤードのパスを決めてTD。K三輪のキックも決まって7点を先制。その間、わずか10プレートいうテンポのよさだった。
関大も負けてはいない。関大陣30ヤード付近から始まった最初のシリーズ。QB岸村がランとパスを織り交ぜてぐいぐいと陣地を進める。あっという間にファイターズ陣24ヤードまで迫ったが、ここでDB鳥内が値千金のパスインターセプト。相手が勢いに乗っているときだけに、その勢いを断ち切った副将のプレーがチームを救った。
ところが、次のファイターズの攻撃で、手痛いミスが出る。一度ダウンを更新した後、自陣35付近からのパントとなったが、こともあろうにロングスナップがあらぬ方向に流れて、パンター伊豆がキャッチ出来ない。そのままゴールラインに転がるのをかろうじて伊豆が抑えたが、セーフティーで相手に2点を献上してしまった。
今度は関大が勢いに乗る。自陣41ヤード付近からの攻撃はランを2度続けた後、第3ダウン5ヤードから短いパス。これを今度はLB池田雄がインターセプトし、そのまま20ヤードのリターン。ここでも相手に傾きかけた試合の流れを副将が食い止める。
こうなると攻撃陣も奮起する。相手陣35ヤード付近から斎藤がTE樋之本に約20ヤードのパスを決めてダウンを更新。ランプレーを2度続けた後、再び梅本へのTDパスをヒットさせて14−2。続く自陣6ヤードからの攻撃シリーズも、梅本やRB池永弟へのパス、RB西山の40ヤード独走などで一気に相手陣31ヤード。ここでもサイドラインを駆け上がる梅本に29ヤードのパスをヒットさせ、残る2ヤードをRB三好が駆け上がってTD。前半を21−2で折り返す。ここまでは、守備陣の活躍もあって、明らかに流れはファイターズに来ていた。
ところが後半に入ると、その流れが一変する。関大は最初の攻撃シリーズ、ランとパスを織り交ぜて、じわじわと陣地を進め、約6分半を費やしてTD。追い上げムードを盛り上げる。それに火を注いだのがファイターズのミス。大園の好リターンで始まった2プレー目に、RBが痛恨のファンブル。相手に自陣49ヤード付近で攻撃権を渡してしまったのだ。
勢い込む関大はすぐさま25ヤードのパスを通してあっという間にゴール前24ヤード。ここはLB小野の激しいタックルでなんとか第4ダウンロングという状況に持ち込んだが、相手は流れをつかんでいる。勢いに乗ってFGフェイクのプレーでダウンを更新、ゴール前12ヤードまで攻め込んでくる。ここはLB吉原のパスカットや相手反則でかろうじてTDを食い止めたが、流れは相手に傾いたままだ。得点は21−9とファイターズがリードしているが、勢いは明らかに関大にある。
実際、第4Qに入った最初の攻撃シリーズは関大ゴール前9ヤードから始まったが、次々とダウンを更新し、あれよあれよという間にファイターズ陣36ヤード。
「今度こそ、TDを覚悟するしかない。その後の相手のオンサイドキックをどう処理するか。勝負はそこで決まる」と勝手に想像していたところで、またもや副将・池田雄がビッグプレー。相手がハンドオフの際にファンブルしたボールを機敏に拾い上げ、そのまま70ヤードを走り切ってTD。嫌な流れをぶった切るビッグプレーでファイターズに勢いを取り戻した。
生き返ったファイターズは、三輪が勢いのあるゴロキックを狙い通りに相手選手に当て、跳ね返ったボールをカバーチームに入っていた1年生DB小池がカバーして相手陣30ヤード付近で攻撃権を獲得。ここからRB鷺野が約25ヤードを走り切ってTD。35−9として試合を決めた。
こうして振り返ると、たった2時間ほどの間に試合の流れが2転、3転していたことがよく分かる。ミスで流れを失い、起死回生のビッグプレーで流れを取り戻す。最終的には流れが来たときに確実に得点を重ねたファイターズに勝利の女神がほほえんだ。
以上が、試合会場を去るときの僕の総括である。だが、フットボールは奥が深い。日曜の早朝、録画していたYTVの録画中継を見ていると、また別のことに気がついた。それぞれは細かいことだけれども、随所にファインプレーが隠されていたのである。
順に列挙していく。
@最初のキックオフのボールをリターナーの大園が絶妙の判断でサイドラインを割ると判断して見送ったこと。その結果、ファイターズは35ヤードから攻撃することが可能になり、その攻撃が先制点に結びついたこと。
ADB鳥内が相手のエースランナー、前田との最初のコンタクトで、正面から強烈なタックルを見舞っていたこと。あの一発で、相手に警戒心を植え付けたのは間違いない。
B梅本と木戸がパスキャッチの後、必ずといっていいほど相手DBを引きずって走り、確実に数ヤードから10数ヤードを進んでいたこと。キャッチしただけで満足せず、一歩でも相手ゴールに近づこうという姿勢がチームを奮い立たせていたことがよく分かった。
C斎藤が相手ディフェンスの動きを冷静に見て、ピンポイントのパスを投げ続けていたこと。それに応えて樋之本や梅本、木下が相手DBの包囲網を一切気にせず、確実にキャッチしていたこと。その安定感が斎藤に安心感を植え付けていたことがよく理解出来た。
Dキッキングのカバーチームに入った小池が三輪のキックしたボールを相手がはじくことを予測した上で、そのボールを確保する態勢に入っていたこと。1年生とは思えないほど冷静的確な動きだった。……。
以上、いずれもグラウンドでは遠すぎて見えなかったプレーである。ビデオで細部を確認して初めて「それぞれの選手がやるべきことを細部まで詰めて」チームに貢献していることがよく分かった。こういうプレーがあったから、選手個人の能力の高い関大に何とか勝利することが出来たのである。まさに「神は細部に宿る」である。
さあ、関西リーグはあと1試合。細かいところまでしっかりこだわり、悔いの残らない練習でチームを仕上げて、立命館との戦いに臨んで欲しい。
加えて、午後3時の試合開始とあって、晩秋の西日がもろに目に入る。サイドラインにあるヤード表示の数字さえ、逆光でよく見えなかったといえば、スタンドに足を運べなかった人にも観戦環境の悪さが分かってもらえるだろう。せっかくファイターズの応援に来たのに、メーンスタンドに回るファンも少なくなかった。
そういう厳しい環境だったが、試合はスコア以上に白熱。ミスが流れを変えてしまう怖さと、なすべきことをきっちり仕上げることの大切さを身にしみて教えてくれた。
ファイターズのレシーブで試合開始。関大のキックがゴールライン近くでサイドラインを割る反則で、ファイターズは自陣35ヤードからの攻撃。QB斎藤が随所にランプレーを織り込みながらWR木戸、大園、木下にピンポイントで短いパスを連発。仕上げはWR梅本へ19ヤードのパスを決めてTD。K三輪のキックも決まって7点を先制。その間、わずか10プレートいうテンポのよさだった。
関大も負けてはいない。関大陣30ヤード付近から始まった最初のシリーズ。QB岸村がランとパスを織り交ぜてぐいぐいと陣地を進める。あっという間にファイターズ陣24ヤードまで迫ったが、ここでDB鳥内が値千金のパスインターセプト。相手が勢いに乗っているときだけに、その勢いを断ち切った副将のプレーがチームを救った。
ところが、次のファイターズの攻撃で、手痛いミスが出る。一度ダウンを更新した後、自陣35付近からのパントとなったが、こともあろうにロングスナップがあらぬ方向に流れて、パンター伊豆がキャッチ出来ない。そのままゴールラインに転がるのをかろうじて伊豆が抑えたが、セーフティーで相手に2点を献上してしまった。
今度は関大が勢いに乗る。自陣41ヤード付近からの攻撃はランを2度続けた後、第3ダウン5ヤードから短いパス。これを今度はLB池田雄がインターセプトし、そのまま20ヤードのリターン。ここでも相手に傾きかけた試合の流れを副将が食い止める。
こうなると攻撃陣も奮起する。相手陣35ヤード付近から斎藤がTE樋之本に約20ヤードのパスを決めてダウンを更新。ランプレーを2度続けた後、再び梅本へのTDパスをヒットさせて14−2。続く自陣6ヤードからの攻撃シリーズも、梅本やRB池永弟へのパス、RB西山の40ヤード独走などで一気に相手陣31ヤード。ここでもサイドラインを駆け上がる梅本に29ヤードのパスをヒットさせ、残る2ヤードをRB三好が駆け上がってTD。前半を21−2で折り返す。ここまでは、守備陣の活躍もあって、明らかに流れはファイターズに来ていた。
ところが後半に入ると、その流れが一変する。関大は最初の攻撃シリーズ、ランとパスを織り交ぜて、じわじわと陣地を進め、約6分半を費やしてTD。追い上げムードを盛り上げる。それに火を注いだのがファイターズのミス。大園の好リターンで始まった2プレー目に、RBが痛恨のファンブル。相手に自陣49ヤード付近で攻撃権を渡してしまったのだ。
勢い込む関大はすぐさま25ヤードのパスを通してあっという間にゴール前24ヤード。ここはLB小野の激しいタックルでなんとか第4ダウンロングという状況に持ち込んだが、相手は流れをつかんでいる。勢いに乗ってFGフェイクのプレーでダウンを更新、ゴール前12ヤードまで攻め込んでくる。ここはLB吉原のパスカットや相手反則でかろうじてTDを食い止めたが、流れは相手に傾いたままだ。得点は21−9とファイターズがリードしているが、勢いは明らかに関大にある。
実際、第4Qに入った最初の攻撃シリーズは関大ゴール前9ヤードから始まったが、次々とダウンを更新し、あれよあれよという間にファイターズ陣36ヤード。
「今度こそ、TDを覚悟するしかない。その後の相手のオンサイドキックをどう処理するか。勝負はそこで決まる」と勝手に想像していたところで、またもや副将・池田雄がビッグプレー。相手がハンドオフの際にファンブルしたボールを機敏に拾い上げ、そのまま70ヤードを走り切ってTD。嫌な流れをぶった切るビッグプレーでファイターズに勢いを取り戻した。
生き返ったファイターズは、三輪が勢いのあるゴロキックを狙い通りに相手選手に当て、跳ね返ったボールをカバーチームに入っていた1年生DB小池がカバーして相手陣30ヤード付近で攻撃権を獲得。ここからRB鷺野が約25ヤードを走り切ってTD。35−9として試合を決めた。
こうして振り返ると、たった2時間ほどの間に試合の流れが2転、3転していたことがよく分かる。ミスで流れを失い、起死回生のビッグプレーで流れを取り戻す。最終的には流れが来たときに確実に得点を重ねたファイターズに勝利の女神がほほえんだ。
以上が、試合会場を去るときの僕の総括である。だが、フットボールは奥が深い。日曜の早朝、録画していたYTVの録画中継を見ていると、また別のことに気がついた。それぞれは細かいことだけれども、随所にファインプレーが隠されていたのである。
順に列挙していく。
@最初のキックオフのボールをリターナーの大園が絶妙の判断でサイドラインを割ると判断して見送ったこと。その結果、ファイターズは35ヤードから攻撃することが可能になり、その攻撃が先制点に結びついたこと。
ADB鳥内が相手のエースランナー、前田との最初のコンタクトで、正面から強烈なタックルを見舞っていたこと。あの一発で、相手に警戒心を植え付けたのは間違いない。
B梅本と木戸がパスキャッチの後、必ずといっていいほど相手DBを引きずって走り、確実に数ヤードから10数ヤードを進んでいたこと。キャッチしただけで満足せず、一歩でも相手ゴールに近づこうという姿勢がチームを奮い立たせていたことがよく分かった。
C斎藤が相手ディフェンスの動きを冷静に見て、ピンポイントのパスを投げ続けていたこと。それに応えて樋之本や梅本、木下が相手DBの包囲網を一切気にせず、確実にキャッチしていたこと。その安定感が斎藤に安心感を植え付けていたことがよく理解出来た。
Dキッキングのカバーチームに入った小池が三輪のキックしたボールを相手がはじくことを予測した上で、そのボールを確保する態勢に入っていたこと。1年生とは思えないほど冷静的確な動きだった。……。
以上、いずれもグラウンドでは遠すぎて見えなかったプレーである。ビデオで細部を確認して初めて「それぞれの選手がやるべきことを細部まで詰めて」チームに貢献していることがよく分かった。こういうプレーがあったから、選手個人の能力の高い関大に何とか勝利することが出来たのである。まさに「神は細部に宿る」である。
さあ、関西リーグはあと1試合。細かいところまでしっかりこだわり、悔いの残らない練習でチームを仕上げて、立命館との戦いに臨んで欲しい。
posted by コラム「スタンドから」 at 13:33| Comment(1)
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2013年11月05日
(29)団結と連帯、奉仕のための練達
前回のコラムでは「守備が試合を作る」と書いた。京大戦での守備陣の活躍ぶりを目の当たりにして、その素晴らしさに感銘を受けたからだ。しかし、当然のことながら、フットボールは守備だけではない。守備の活躍に呼応して攻撃陣、とくにラインの面々が踏ん張ったから28−0という勝利を収めることが出来たのである。そのことをしっかり書いておかなければ、不公平というものだろう。
ということで、今回はオフェンス、とくにラインの活躍を中心に書いてみたい。
注意深く観戦されていた方はお気づきになったと思うが、あの試合でQB斎藤君が相手守備陣にタックルされる場面は一度もなかった。パスターゲットを探しているうちに追いつかれそうになってパスを投げ出した場面はあったが、あの強力な守備陣を相手に、指1本触れられなかったのである。
プレーによっては、自ら走るだけでなくQBを守る役割も与えられたTEやRBの諸君を含めて、ラインの面々が最初から最後まで素晴らしい動きをしたことの、これは証明である。
友國、田渕、上沢、橋本、木村。春のシーズンでスタメンを張っていた5人全員が、秋のリーグ戦で初めてそろったことが一番の原因だろう。彼らは全員、昨年から大村コーチの指導で「朝練」と称する特別練習に励んできた選手である。毎日、授業の始まる前に、2班に分かれて互いに本気でぶつかり合い、体幹を鍛えてきた成果が、いまになって現れてきたといってもよい。
彼らはまた、大なり小なり、けがに泣き、一度はリハビリの苦しさを経験した選手ばかりである。時には監督から「どんくさい」といわれてきた選手たちが互いに団結し、連帯して、あの強力な京大守備陣から終始、QB斎藤を守りきったのである。そこはしっかり記録しておかなければならない。
タックルやインターセプトを決めれば、ただちに脚光を浴びる守備陣に比べて、攻撃のラインは地味である。失敗したときはすぐに目につくが、正常に機能しているときには、彼らの働きはよほど注意していなければ観戦者の目にとまらない。観客は、ついついボールの行方、ボールキャリアを追うことにかまけてしまうからだ。
うまくやって当たり前。相手守備陣に割り込まれ、QBを守りきれなかったときには、すぐにもっとしっかり守れ、と罵声が飛んでくる。毎回毎回、体を張ってプレーしているのに、めちゃくちゃ損な役回りである。オフェンスラインになったその瞬間から、チームのために、どこまでも自分を犠牲にし続ける任務を与えられている、文字通りの「縁の下の力持ち」である。
彼らの「自己犠牲」について、僕の授業に出席している2年生DLの濱拓麻君がこの前の授業で次のような小論文を書いてくれた。その日の課題は、関西学院の4代目院長、ベーツ先生が書かれた「マスタリー・フォオー・サービス」についての文章を読んで「あなたにとってマスタリー・フォー・サービスとは」と考えることだった。
彼はその課題文にある「自己犠牲」という言葉に注目し、こんなことを書いてくれた。本人の了解を得たので、さわりの部分を紹介する。
……アメリカンフットボールほど「自己犠牲」という言葉が当てはまるスポーツはない。普通に試合を見ていれば、ボールにばかり目のいく人がほとんどであろう。しかし、詳しく細かく見ていけば「自己犠牲」のシーンが毎プレーあることが分かる。オフェンスラインは、すべてのプレーがその言葉通りである。プレーのたびに激しい当たりを繰り返し、花形ポジションであるクオーターバックやランニングバックを守り、時にはランニングバックと一緒に走り続ける。まさに縁の下の力持ちのようなポジションである。(中略)
自己犠牲といえば、1軍の練習相手は務めるが試合には出ないメンバーにも、その言葉が当てはまる。それは1軍と2軍のようなものだが、2軍は1軍のために相手チームの動きをして、1軍メンバーに相手のプレーをイメージさせ、試合につなげるようにする。それはスカウトチームと呼ばれ、シーズンになると、2軍はこの練習の方が多い。
しかし、すべてが自己犠牲ではない。(中略)1軍との練習で頑張れば1軍に上がる可能性もある。チームのために貢献していれば、コーチの方は見てくれているし、1軍で活躍する可能性もある……。
フットボールにおける「縁の下の力持ち」の大切さを余すことなく書いている。そしてこの文章は、ベーツ院長の提唱された「マスタリー・フォー・サービス」の精神、つまり「自分の欲望を満足させるためではなく、社会に奉仕できる人間になりなさい」「そのために自らを強い人間に鍛えなさい」という主張のポイントをフットボールを例にして、しっかり書いているのである。
とりわけ僕は「フットボールにおける自己犠牲」を強調しながら、同時に彼が「チームに貢献していれば、コーチの方は見てくれている」と書いた点に感銘を受けた。そこに、選手と指導者の深い信頼関係、強い絆が表現されているからである。ファイターズというチームの奥の深さが表現されていたからである。
これは神戸女学院大学名誉教授の内田樹さんが『街場の憂国論』(晶文社)にも書かれているが、人間がぎりぎりまで努力するのは「自分のため」ではなく、「他の人のため」に働くときである。「俺がここで死んでも、困るのは俺だけだ」と思う人間と、「彼らのために、俺はこんなところで死ぬわけにはいかない」と思う人間では、ぎりぎりの場面での踏ん張り方がまるで違うのである。
そういう「仲間のため」「チームのため」にがんばれる人間が団結し、連帯すれば、怖いものは何もない。選手と指導者の強い絆、信頼関係があれば、無から有を生み出すことも可能になる。ベーツ院長の唱えた「奉仕のための練達」という言葉は、いまも私たちのチームの根っこを支えているのである。
団結と連帯を力に、信頼と絆を武器にして、関大、立命と続く困難な試合を存分に戦ってもらいたい。
ということで、今回はオフェンス、とくにラインの活躍を中心に書いてみたい。
注意深く観戦されていた方はお気づきになったと思うが、あの試合でQB斎藤君が相手守備陣にタックルされる場面は一度もなかった。パスターゲットを探しているうちに追いつかれそうになってパスを投げ出した場面はあったが、あの強力な守備陣を相手に、指1本触れられなかったのである。
プレーによっては、自ら走るだけでなくQBを守る役割も与えられたTEやRBの諸君を含めて、ラインの面々が最初から最後まで素晴らしい動きをしたことの、これは証明である。
友國、田渕、上沢、橋本、木村。春のシーズンでスタメンを張っていた5人全員が、秋のリーグ戦で初めてそろったことが一番の原因だろう。彼らは全員、昨年から大村コーチの指導で「朝練」と称する特別練習に励んできた選手である。毎日、授業の始まる前に、2班に分かれて互いに本気でぶつかり合い、体幹を鍛えてきた成果が、いまになって現れてきたといってもよい。
彼らはまた、大なり小なり、けがに泣き、一度はリハビリの苦しさを経験した選手ばかりである。時には監督から「どんくさい」といわれてきた選手たちが互いに団結し、連帯して、あの強力な京大守備陣から終始、QB斎藤を守りきったのである。そこはしっかり記録しておかなければならない。
タックルやインターセプトを決めれば、ただちに脚光を浴びる守備陣に比べて、攻撃のラインは地味である。失敗したときはすぐに目につくが、正常に機能しているときには、彼らの働きはよほど注意していなければ観戦者の目にとまらない。観客は、ついついボールの行方、ボールキャリアを追うことにかまけてしまうからだ。
うまくやって当たり前。相手守備陣に割り込まれ、QBを守りきれなかったときには、すぐにもっとしっかり守れ、と罵声が飛んでくる。毎回毎回、体を張ってプレーしているのに、めちゃくちゃ損な役回りである。オフェンスラインになったその瞬間から、チームのために、どこまでも自分を犠牲にし続ける任務を与えられている、文字通りの「縁の下の力持ち」である。
彼らの「自己犠牲」について、僕の授業に出席している2年生DLの濱拓麻君がこの前の授業で次のような小論文を書いてくれた。その日の課題は、関西学院の4代目院長、ベーツ先生が書かれた「マスタリー・フォオー・サービス」についての文章を読んで「あなたにとってマスタリー・フォー・サービスとは」と考えることだった。
彼はその課題文にある「自己犠牲」という言葉に注目し、こんなことを書いてくれた。本人の了解を得たので、さわりの部分を紹介する。
……アメリカンフットボールほど「自己犠牲」という言葉が当てはまるスポーツはない。普通に試合を見ていれば、ボールにばかり目のいく人がほとんどであろう。しかし、詳しく細かく見ていけば「自己犠牲」のシーンが毎プレーあることが分かる。オフェンスラインは、すべてのプレーがその言葉通りである。プレーのたびに激しい当たりを繰り返し、花形ポジションであるクオーターバックやランニングバックを守り、時にはランニングバックと一緒に走り続ける。まさに縁の下の力持ちのようなポジションである。(中略)
自己犠牲といえば、1軍の練習相手は務めるが試合には出ないメンバーにも、その言葉が当てはまる。それは1軍と2軍のようなものだが、2軍は1軍のために相手チームの動きをして、1軍メンバーに相手のプレーをイメージさせ、試合につなげるようにする。それはスカウトチームと呼ばれ、シーズンになると、2軍はこの練習の方が多い。
しかし、すべてが自己犠牲ではない。(中略)1軍との練習で頑張れば1軍に上がる可能性もある。チームのために貢献していれば、コーチの方は見てくれているし、1軍で活躍する可能性もある……。
フットボールにおける「縁の下の力持ち」の大切さを余すことなく書いている。そしてこの文章は、ベーツ院長の提唱された「マスタリー・フォー・サービス」の精神、つまり「自分の欲望を満足させるためではなく、社会に奉仕できる人間になりなさい」「そのために自らを強い人間に鍛えなさい」という主張のポイントをフットボールを例にして、しっかり書いているのである。
とりわけ僕は「フットボールにおける自己犠牲」を強調しながら、同時に彼が「チームに貢献していれば、コーチの方は見てくれている」と書いた点に感銘を受けた。そこに、選手と指導者の深い信頼関係、強い絆が表現されているからである。ファイターズというチームの奥の深さが表現されていたからである。
これは神戸女学院大学名誉教授の内田樹さんが『街場の憂国論』(晶文社)にも書かれているが、人間がぎりぎりまで努力するのは「自分のため」ではなく、「他の人のため」に働くときである。「俺がここで死んでも、困るのは俺だけだ」と思う人間と、「彼らのために、俺はこんなところで死ぬわけにはいかない」と思う人間では、ぎりぎりの場面での踏ん張り方がまるで違うのである。
そういう「仲間のため」「チームのため」にがんばれる人間が団結し、連帯すれば、怖いものは何もない。選手と指導者の強い絆、信頼関係があれば、無から有を生み出すことも可能になる。ベーツ院長の唱えた「奉仕のための練達」という言葉は、いまも私たちのチームの根っこを支えているのである。
団結と連帯を力に、信頼と絆を武器にして、関大、立命と続く困難な試合を存分に戦ってもらいたい。
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2013年10月30日
(28)「守備が作る試合」
野球は、守りから、といわれる。華々しい打ち合いを制して勝つというのは、見ている者には楽しいが、長いシーズンを乗り切った結果、リーグのてっぺんに君臨するのは、結局は投手力、守備力がしっかりしているチームである。いま、日本シリーズを戦っている楽天にしても、巨人にしても、互いに絶対的に信頼できる先発投手が複数おり、試合を締めくくる投手も充実している。
僕の記憶では、ひたすら打ちまくって勝ったのは、1985年のタイガースくらいである。先頭が長打力があって堅実な打撃も出来る真弓、クリーンアップがバース、掛布、岡田。甲子園球場のバックスクリーンに3人が連続して本塁打を放った年のことである。
フットボールも同様である。守備陣のしっかりしているチームは、少々のことでは崩れない。何かの事情で攻撃が振るわなくても、守りさえ安定しておれば、やがて攻撃陣も突破口を見つけてくれる。守備陣のビッグプレーで試合を動かすことも出来る。安定した守備力に攻撃力がかみ合えば、これはもう万全の戦い、王者の試合ができる。
この前の日曜日、長居のキンチョウスタジアムで行われた京大との戦いがその典型だった。
試合は、コイントスに勝ったファイターズが珍しくレシーブを選択。自陣12ヤードの位置から攻撃が始まった。第1プレーはQB斎藤からWR横山へのパスでいきなりダウンを更新。RB鷺野の4ヤードランを挟んでWR木下、TE松島へのパスを立て続けにヒットさせ、今度は野々垣の14ヤードラン。さらにWR大園へのパス、鷺野の13ヤードランで、一気にゴール前9ヤードに迫る。そこからRB飯田、FB梶原が相手の壁を破壊するようなランでTD。この間のプレー数はちょうど10回。自陣ゴール前からの88ヤードをひとつの無駄もなく前進させ、試合の主導権を握った。
続く京大の攻撃は京大陣25ヤードから。これを守備陣が完璧に抑え、第4ダウン22ヤード。ここで京大がパント隊形からまさかのフェイクパス。一瞬、ひやりとしたが、DB大森が冷静にレシーバーにタックルして、ダウンの更新を防ぐ。観客はもちろん、ベンチも選手も当然のようにパントを警戒している局面で、意表を突いたフェイクパスであり、それが見事に決まったが、それでもダウンの更新を許さなかった大森の冷静さが光る。
この好守備で、続くファイターズの攻撃は相手陣32ヤードから。ここでも斎藤から木下、鷺野への短いパスが連続して決まってゴール前19ヤード。ランプレーを一つ挟んで、今度は野々垣がゴール寸前まで走ったが、そこで痛恨のファンブル。そのボールをゴール内で相手に抑えられ、14−0と引き離すチャンスを逃がしてしまった。
これで流れは一気に京大に傾く。ゴール前25ヤードから始まった攻撃でパスとランを織り交ぜてダウンを更新。さらに自陣40ヤード、第4ダウン7ヤードという状況から仕掛けてきたギャンブルプレーが成功して50ヤード付近から新たな攻撃が始まる。
フットボールの常識にないギャンブルプレーを2回連続で成功させ、勢いに乗る京大の攻撃を止めたのがまたも大森。第1プレーでセンターライン付近からQBが投げたロングパスを見事なジャンプでインターセプトしてしまった。スタジアム内のFM放送を担当していた小野ディレクターが「相手QBの動きを冷静に見ていた大森君のファインプレーです。レシーバーの動きだけをマークしていたら、絶対に捕れないボールでした」と解説されていたが、まさに「守備が試合を動かす」という言葉通りのビッグプレーだった。
ところが、攻撃陣がいま一つ波に乗りきれない。自陣28ヤードから斎藤がいきなりWR梅本に36ヤードのパスをヒットさせ、一気に相手陣深くまで攻め込んだが、そこでまたRB飯田が痛恨のファンブル。相手にカバーされて、またも攻撃権は京大に。
それでも守備陣が踏ん張って簡単に第4ダウンロングの状況に追いやったが、ここでも京大はわざと反則を犯して5ヤード下がった上で、ギャンブルプレーを仕掛けてくる。リバースプレーを3回重ねたような複雑な動きで守備陣を幻惑したが、ここもLB池田雄が相手の動きを冷静に見極めてタックル。再び攻撃権を奪い取り、相手ゴール前31ヤードからファイターズの攻撃。
ここは鷺野、飯田ががっちりボールを確保して確実に18ヤードを前進。残る13ヤードを斎藤からショベルパスを受けた鷺野が走り込んでTD。三輪のキックも決まって14−0。ようやく試合が落ち着く。後半に入ると、ファイターズの攻撃陣が安定感を取り戻し、斎藤のキープ、斎藤から梅本へのパスで立て続けに2本のTDを決め、結局は28−0。ファイターズの完封だった。
それにしても、京大は思い切ったプレーコールでたたみかけてきた。第1Qに3度あった自陣内での第4ダウンのプレーで1度もパントを蹴らず、練りに練ったフェイクプレーを仕掛け、それをすべて成功させた。それでもダウンを更新できたのは1度きり。後は大森と池田が相手の動きに幻惑されず、しっかり止めきった。守りのよいチームが勝つ、という場面をこれほど如実に示した試合は、そうそうあることではない。
後半に登場したDB小池、LB西田の1年生が連続して見せた鮮やかなインターセプトを含め、守備陣がことごとく攻撃の芽を摘んでくれたから、いつもの年なら必ず冷や汗を握る京大との試合が、やっと安心して観戦できた。ありがとう。
僕の記憶では、ひたすら打ちまくって勝ったのは、1985年のタイガースくらいである。先頭が長打力があって堅実な打撃も出来る真弓、クリーンアップがバース、掛布、岡田。甲子園球場のバックスクリーンに3人が連続して本塁打を放った年のことである。
フットボールも同様である。守備陣のしっかりしているチームは、少々のことでは崩れない。何かの事情で攻撃が振るわなくても、守りさえ安定しておれば、やがて攻撃陣も突破口を見つけてくれる。守備陣のビッグプレーで試合を動かすことも出来る。安定した守備力に攻撃力がかみ合えば、これはもう万全の戦い、王者の試合ができる。
この前の日曜日、長居のキンチョウスタジアムで行われた京大との戦いがその典型だった。
試合は、コイントスに勝ったファイターズが珍しくレシーブを選択。自陣12ヤードの位置から攻撃が始まった。第1プレーはQB斎藤からWR横山へのパスでいきなりダウンを更新。RB鷺野の4ヤードランを挟んでWR木下、TE松島へのパスを立て続けにヒットさせ、今度は野々垣の14ヤードラン。さらにWR大園へのパス、鷺野の13ヤードランで、一気にゴール前9ヤードに迫る。そこからRB飯田、FB梶原が相手の壁を破壊するようなランでTD。この間のプレー数はちょうど10回。自陣ゴール前からの88ヤードをひとつの無駄もなく前進させ、試合の主導権を握った。
続く京大の攻撃は京大陣25ヤードから。これを守備陣が完璧に抑え、第4ダウン22ヤード。ここで京大がパント隊形からまさかのフェイクパス。一瞬、ひやりとしたが、DB大森が冷静にレシーバーにタックルして、ダウンの更新を防ぐ。観客はもちろん、ベンチも選手も当然のようにパントを警戒している局面で、意表を突いたフェイクパスであり、それが見事に決まったが、それでもダウンの更新を許さなかった大森の冷静さが光る。
この好守備で、続くファイターズの攻撃は相手陣32ヤードから。ここでも斎藤から木下、鷺野への短いパスが連続して決まってゴール前19ヤード。ランプレーを一つ挟んで、今度は野々垣がゴール寸前まで走ったが、そこで痛恨のファンブル。そのボールをゴール内で相手に抑えられ、14−0と引き離すチャンスを逃がしてしまった。
これで流れは一気に京大に傾く。ゴール前25ヤードから始まった攻撃でパスとランを織り交ぜてダウンを更新。さらに自陣40ヤード、第4ダウン7ヤードという状況から仕掛けてきたギャンブルプレーが成功して50ヤード付近から新たな攻撃が始まる。
フットボールの常識にないギャンブルプレーを2回連続で成功させ、勢いに乗る京大の攻撃を止めたのがまたも大森。第1プレーでセンターライン付近からQBが投げたロングパスを見事なジャンプでインターセプトしてしまった。スタジアム内のFM放送を担当していた小野ディレクターが「相手QBの動きを冷静に見ていた大森君のファインプレーです。レシーバーの動きだけをマークしていたら、絶対に捕れないボールでした」と解説されていたが、まさに「守備が試合を動かす」という言葉通りのビッグプレーだった。
ところが、攻撃陣がいま一つ波に乗りきれない。自陣28ヤードから斎藤がいきなりWR梅本に36ヤードのパスをヒットさせ、一気に相手陣深くまで攻め込んだが、そこでまたRB飯田が痛恨のファンブル。相手にカバーされて、またも攻撃権は京大に。
それでも守備陣が踏ん張って簡単に第4ダウンロングの状況に追いやったが、ここでも京大はわざと反則を犯して5ヤード下がった上で、ギャンブルプレーを仕掛けてくる。リバースプレーを3回重ねたような複雑な動きで守備陣を幻惑したが、ここもLB池田雄が相手の動きを冷静に見極めてタックル。再び攻撃権を奪い取り、相手ゴール前31ヤードからファイターズの攻撃。
ここは鷺野、飯田ががっちりボールを確保して確実に18ヤードを前進。残る13ヤードを斎藤からショベルパスを受けた鷺野が走り込んでTD。三輪のキックも決まって14−0。ようやく試合が落ち着く。後半に入ると、ファイターズの攻撃陣が安定感を取り戻し、斎藤のキープ、斎藤から梅本へのパスで立て続けに2本のTDを決め、結局は28−0。ファイターズの完封だった。
それにしても、京大は思い切ったプレーコールでたたみかけてきた。第1Qに3度あった自陣内での第4ダウンのプレーで1度もパントを蹴らず、練りに練ったフェイクプレーを仕掛け、それをすべて成功させた。それでもダウンを更新できたのは1度きり。後は大森と池田が相手の動きに幻惑されず、しっかり止めきった。守りのよいチームが勝つ、という場面をこれほど如実に示した試合は、そうそうあることではない。
後半に登場したDB小池、LB西田の1年生が連続して見せた鮮やかなインターセプトを含め、守備陣がことごとく攻撃の芽を摘んでくれたから、いつもの年なら必ず冷や汗を握る京大との試合が、やっと安心して観戦できた。ありがとう。
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2013年10月23日
(27)幸せなチーム
先日、サンテレビが放映した神戸大学との試合を録画で見ていて驚いた。協賛者の中に「米田豊」という名前があったからである。そう、3代前のOB会長だったあの米田さんである。
「えっ、何で!」と驚いて画面を戻してみると、協賛企業として、亀井堂本舗とかアシスタントコーチをして下さっている島野さんの会社とか、ファイターズに関係する人たちの会社名がいくつも出てくる。おまけにわが関西学院大学までがスポンサーとして、また協賛団体としてしっかり名前を連ねている。
そうか! 当初、放映予定のなかった神戸大学との試合がUHFの地域限定放送とはいえ、しっかり放映されたのは、こうした「ファイターズ愛」にあふれる企業や大学、そして個人の協力があったからだと、ようやく合点がいった。そして、そこまで応援してもらえるファイターズは、なんて幸せなチームだろうと思った。
幸せなチームといえば、関西学院の体育会の中で一番、OB会費の納入率が高いのはファイターズである。なんと8割ものOBが毎年、2万円の会費を納入して下さるという。ほかのクラブから見れば、この納入率は「奇跡」としか思えない数字らしい。
もちろん、その陰には学年ごとに活動されている幹事の苦労がある。鳥内監督も若手OBの結婚式に招かれるたびに、OB会費の納入状況を示す一覧表を持参し、同学年の仲間に未納者に納入を促すように声を掛けておられる。
一般からの寄付もある。先日の中継にゲストとして出席し、サンテレビのアナウンサーだった西沢さんと「カレッジフットボール」を中継していた頃の思い出話をされていた武田建先生は「コーチのフットボール留学の一助になれば」と、著書の印税や講演会の講師料をせっせとファイターズのために寄付されている。小野ディレクターも先日来、2度にわたって行われた朝日カルチャーセンターでの講演会(2度とも大好評だった)の講師料をチームに還元されている。
そういう方々を見習って、僕もほんの少しずつではあるが、この数年、チームに寄付を続けている。大きな試合の前にスポーツセンターで行う合宿には紀州・田辺特産のうまいミカンを差し入れるし、時には最高級南高梅の梅干しも持参する。
別に自慢したいわけではない。これもまた、校訓にいう「マスタリー・フォー・サービス」の一つだと思うからだ。
関西学院の4代目院長を務められたベーツ先生は1915年、高等学部の学生が作った「商光」という冊子の創刊号に「私たちの校訓『マスタリー・フォー・サービス』」という講演録を寄せておられる。関西学院が発行した「輝く自由」という冊子から、そのポイントを列挙してみる。
「私たちは強くあること、さまざまなことを自由に支配できる人(マスター)になることを目指します」「マスターとは知識を身につけ、チャンスを自らつかみ取り、自分自身を抑制できる、自分の欲や飲食や所有への思いを抑えることができる人です」
「私たちがマスターになろうとする目的は、自分自身を富ますことではなく、社会に奉仕することです」「人の偉大さは、どれだけ社会に奉仕したかによって決まるのです。それゆえ、本校の理想は強くて役に立つ人になることであり、弱くて使いものにならない人になることではありません。それぞれがマスターと呼ばれる人になることです」
ここまで言われると、ベーツ先生が礎を築かれた大学を卒業した劣等生の一人として、多少は何かをしたい、何かをしなければという気になるのではないか。
奉仕というキーワードでいえば、よくいわれるのが「お金のある者はお金を、知恵のある者は知恵を提供しよう。どちらもない者は汗を流そう」という言葉である。これをそれぞれの世界でマスターを自認する人が「惜しみなく」提供することによって、事態が動き出す。OB会費の納入からテレビ放映への協賛、チームへの指定寄付。現役学生の就職活動に力を貸したり、相談に乗ったりすることも立派な奉仕活動である。
もちろん、仲間を誘い合って試合会場に足を運び、チームに声援を送ることも、チケットや応援グッズをチームから購入して、クラブの運営をバックアップするのも立派な協力の仕方である。
そういう奉仕・協力活動まで含めて、どのチームよりも多くの方々に応援してもらっているのがファイターズである。幸せなチームと呼ぶ由縁である。
さあ、今度の日曜日は、京大との戦いである。ともに無傷のままで迎える戦いの必勝を期して、長居まで足を運ぼうではないか。応援席を盛り上げるのも、ファンにとっては大事な役割である。
「えっ、何で!」と驚いて画面を戻してみると、協賛企業として、亀井堂本舗とかアシスタントコーチをして下さっている島野さんの会社とか、ファイターズに関係する人たちの会社名がいくつも出てくる。おまけにわが関西学院大学までがスポンサーとして、また協賛団体としてしっかり名前を連ねている。
そうか! 当初、放映予定のなかった神戸大学との試合がUHFの地域限定放送とはいえ、しっかり放映されたのは、こうした「ファイターズ愛」にあふれる企業や大学、そして個人の協力があったからだと、ようやく合点がいった。そして、そこまで応援してもらえるファイターズは、なんて幸せなチームだろうと思った。
幸せなチームといえば、関西学院の体育会の中で一番、OB会費の納入率が高いのはファイターズである。なんと8割ものOBが毎年、2万円の会費を納入して下さるという。ほかのクラブから見れば、この納入率は「奇跡」としか思えない数字らしい。
もちろん、その陰には学年ごとに活動されている幹事の苦労がある。鳥内監督も若手OBの結婚式に招かれるたびに、OB会費の納入状況を示す一覧表を持参し、同学年の仲間に未納者に納入を促すように声を掛けておられる。
一般からの寄付もある。先日の中継にゲストとして出席し、サンテレビのアナウンサーだった西沢さんと「カレッジフットボール」を中継していた頃の思い出話をされていた武田建先生は「コーチのフットボール留学の一助になれば」と、著書の印税や講演会の講師料をせっせとファイターズのために寄付されている。小野ディレクターも先日来、2度にわたって行われた朝日カルチャーセンターでの講演会(2度とも大好評だった)の講師料をチームに還元されている。
そういう方々を見習って、僕もほんの少しずつではあるが、この数年、チームに寄付を続けている。大きな試合の前にスポーツセンターで行う合宿には紀州・田辺特産のうまいミカンを差し入れるし、時には最高級南高梅の梅干しも持参する。
別に自慢したいわけではない。これもまた、校訓にいう「マスタリー・フォー・サービス」の一つだと思うからだ。
関西学院の4代目院長を務められたベーツ先生は1915年、高等学部の学生が作った「商光」という冊子の創刊号に「私たちの校訓『マスタリー・フォー・サービス』」という講演録を寄せておられる。関西学院が発行した「輝く自由」という冊子から、そのポイントを列挙してみる。
「私たちは強くあること、さまざまなことを自由に支配できる人(マスター)になることを目指します」「マスターとは知識を身につけ、チャンスを自らつかみ取り、自分自身を抑制できる、自分の欲や飲食や所有への思いを抑えることができる人です」
「私たちがマスターになろうとする目的は、自分自身を富ますことではなく、社会に奉仕することです」「人の偉大さは、どれだけ社会に奉仕したかによって決まるのです。それゆえ、本校の理想は強くて役に立つ人になることであり、弱くて使いものにならない人になることではありません。それぞれがマスターと呼ばれる人になることです」
ここまで言われると、ベーツ先生が礎を築かれた大学を卒業した劣等生の一人として、多少は何かをしたい、何かをしなければという気になるのではないか。
奉仕というキーワードでいえば、よくいわれるのが「お金のある者はお金を、知恵のある者は知恵を提供しよう。どちらもない者は汗を流そう」という言葉である。これをそれぞれの世界でマスターを自認する人が「惜しみなく」提供することによって、事態が動き出す。OB会費の納入からテレビ放映への協賛、チームへの指定寄付。現役学生の就職活動に力を貸したり、相談に乗ったりすることも立派な奉仕活動である。
もちろん、仲間を誘い合って試合会場に足を運び、チームに声援を送ることも、チケットや応援グッズをチームから購入して、クラブの運営をバックアップするのも立派な協力の仕方である。
そういう奉仕・協力活動まで含めて、どのチームよりも多くの方々に応援してもらっているのがファイターズである。幸せなチームと呼ぶ由縁である。
さあ、今度の日曜日は、京大との戦いである。ともに無傷のままで迎える戦いの必勝を期して、長居まで足を運ぼうではないか。応援席を盛り上げるのも、ファンにとっては大事な役割である。
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2013年10月16日
(26)「成長の実感」
たいていの草花は、種をまいてから1年以内に花を咲かせる。学校で子どもたちが観察日記を書かされるアサガオやゴーヤなんて、種をまいて3カ月もたてば、花が咲き、実が収穫できる。
けれども樹木はそうはいかない。「桃栗3年、柿8年」というのは、極めて短い方で、スギやヒノキが用材として利用できるようになるまでには少なくとも60年から70年の歳月が必要だ。
人間となると、さらにやっかいである。歳月を重ね、身体は一人前になっても、それが直接、人としての成長にはつながるわけではない。孔子は数えの40歳を不惑といい、60歳を耳順といって、人の成長の一つの理想を説いた。けれども、そういうことをいうこと自体、40歳になっても惑う人が多く、60歳になっても耳に従う、すなわち人の言うことに耳を傾けることの出来ない人が多かったからだろう。僕も例外ではない。間もなく69歳になるというのに、未だに惑いっぱなし。人の言うことも素直に聞けない。馬齢を重ねてきたというしかない。
けれども、馬齢を重ねることにも、時にはいいことがある。こんなことを言うと、腹を抱えて笑われるだろうが、この年齢になっても、何かの折に「俺って、文章書くのがうまくなったんちゃうか」とか、「この年齢になって新聞記者の仕事のおもしろさが分かってきた」とかいうようなことを実感することがあるからだ。
それは、人からみれば自己満足のたわごとだが、別の言葉でいえば、発展途上の人間にのみ許される「成長の実感」である。その手応えはそのまま、明日も頑張ろうというエネルギーになって自分に返ってくる。そのエネルギーがまた、明後日の成長、発展の足がかりになってくれる。
大事なことは、そういう「成長の実感」を人はどのようにして手に入れることが出来るか、という点にある。
だらだらとこんなことを書き連ねているのは、ファイターズの諸君のうち何人かがいま、確かにそうした実感を手にしつつある、その実感を土台にさらなる成長を遂げようとしていると感じるからである。
先日の神戸大学との試合を振り返って見よう。ファイターズの諸君は、スタンドで観戦している多くのファンの前で、これまでとは見違えるようなリズミカルな動きを見せてくれた。
攻撃では、QB斎藤がWR大園、梅本、木下、横山、TE松島らに長短のパスが次々と成功させる。時にはRB鷺野や飯田へのパスを交えて目先を変え、なんとパスだけで298ヤード、4本のTDを獲得した。勢いに乗って、短い出番だったが、QB前田もWR片岡へのTDパスをヒットさせ、華麗なパスアタックを締めくくった。
守備では池田雄、小野、作道、そして1年生の山岸で構成する盤石のLB陣を中心に、池永を柱にしたライン、鳥内、大森が率いるDBの動きが補完しあって、相手に得点を許さない。これまでの試合では、前半は完璧でも、後半、交代メンバーが出てきた途端にまったく別のチームのようになっていた守備陣が、この日は最後までしっかり守りきった。
特筆すべきは、ベンチのプレーコールである。どこまでもランにこだわったこれまでの3戦とは打って変わって、パスを中心にした思い切りのよい作戦を貫き通した。
圧巻は第2Q後半、ファイターズ5回目の攻撃シリーズ。自陣32ヤードから大園へのリバースプレーで6ヤードを獲得したのを皮切りに6回連続のパスプレーをコールし、5回を成功させた。パスをキャッチしたのは順に大園(20ヤード)、木下(19ヤード)、横山(6ヤード)、HB梶原(7ヤード)、仕上げが梅本へ浮かせた10ヤードTDパス。
長い間、ファイターズの試合を見てきたが、試合終盤の時間に追われる場面以外で、ここまで徹底してパスで攻め続けた攻撃は記憶にない。ベンチのコールもひと味違ったし、それ以上に、ターゲットをすべて変え、長短、左右を投げ分けて、次々とピンポイントのパスを成功させた斎藤の成長に目を見張った。これだけのプレーを立て続けに成功させれば、自分の感覚の中で、例えば「ぱっと電球がともる」というような瞬間があったに違いない。それが僕のいう「成長の実感」である。
人は、決して右肩上がりの曲線を描いて成長するのではない。時には停滞し、後退することもある。重い荷物を背負って、その重さにつぶされてしまいそうになるときもある。予期せぬ事態に、思わずひるむこともあるだろう。
それでも、音を上げず、ひたすら練習に取り組み、自分を鍛える。奥歯をかみしめてならぬ我慢もする。その我慢が出来ずに、思わず手近にある湯飲みを床にたたきつけるようなことがあるかもしれない。
けれども、ある日突然、そういう停滞期が嘘のように消え、突き抜けた青空が広がることがある。そのときは気がつかないかもしれないが、後から振り返れば、あのとき確かに階段を一つ上がった、昨日とは違う舞台で戦っている自分がいた、というようなことを思い知るのである。それが僕のいう「成長の実感」である。実際に何かをつかんだ瞬間にそれが訪れることもあるし、振り返ってその手応えをつかんだことを実感することもある。
つまりそれは、停滞期、後退期に悩み、もがき抜いて、それでも自分を信じて目標に挑み、自らを鍛え続けた者だけが手にすることのできる「実感」である。
先日の神戸大戦だけではない。その前の龍谷や近大との戦い、そして普段の練習の中でも、あえて名前は挙げないが、そういう「実感」を手にしつつある人材が少しずつ現れてきているような気がする。それは僕のひいき目だろうか。
けれども樹木はそうはいかない。「桃栗3年、柿8年」というのは、極めて短い方で、スギやヒノキが用材として利用できるようになるまでには少なくとも60年から70年の歳月が必要だ。
人間となると、さらにやっかいである。歳月を重ね、身体は一人前になっても、それが直接、人としての成長にはつながるわけではない。孔子は数えの40歳を不惑といい、60歳を耳順といって、人の成長の一つの理想を説いた。けれども、そういうことをいうこと自体、40歳になっても惑う人が多く、60歳になっても耳に従う、すなわち人の言うことに耳を傾けることの出来ない人が多かったからだろう。僕も例外ではない。間もなく69歳になるというのに、未だに惑いっぱなし。人の言うことも素直に聞けない。馬齢を重ねてきたというしかない。
けれども、馬齢を重ねることにも、時にはいいことがある。こんなことを言うと、腹を抱えて笑われるだろうが、この年齢になっても、何かの折に「俺って、文章書くのがうまくなったんちゃうか」とか、「この年齢になって新聞記者の仕事のおもしろさが分かってきた」とかいうようなことを実感することがあるからだ。
それは、人からみれば自己満足のたわごとだが、別の言葉でいえば、発展途上の人間にのみ許される「成長の実感」である。その手応えはそのまま、明日も頑張ろうというエネルギーになって自分に返ってくる。そのエネルギーがまた、明後日の成長、発展の足がかりになってくれる。
大事なことは、そういう「成長の実感」を人はどのようにして手に入れることが出来るか、という点にある。
だらだらとこんなことを書き連ねているのは、ファイターズの諸君のうち何人かがいま、確かにそうした実感を手にしつつある、その実感を土台にさらなる成長を遂げようとしていると感じるからである。
先日の神戸大学との試合を振り返って見よう。ファイターズの諸君は、スタンドで観戦している多くのファンの前で、これまでとは見違えるようなリズミカルな動きを見せてくれた。
攻撃では、QB斎藤がWR大園、梅本、木下、横山、TE松島らに長短のパスが次々と成功させる。時にはRB鷺野や飯田へのパスを交えて目先を変え、なんとパスだけで298ヤード、4本のTDを獲得した。勢いに乗って、短い出番だったが、QB前田もWR片岡へのTDパスをヒットさせ、華麗なパスアタックを締めくくった。
守備では池田雄、小野、作道、そして1年生の山岸で構成する盤石のLB陣を中心に、池永を柱にしたライン、鳥内、大森が率いるDBの動きが補完しあって、相手に得点を許さない。これまでの試合では、前半は完璧でも、後半、交代メンバーが出てきた途端にまったく別のチームのようになっていた守備陣が、この日は最後までしっかり守りきった。
特筆すべきは、ベンチのプレーコールである。どこまでもランにこだわったこれまでの3戦とは打って変わって、パスを中心にした思い切りのよい作戦を貫き通した。
圧巻は第2Q後半、ファイターズ5回目の攻撃シリーズ。自陣32ヤードから大園へのリバースプレーで6ヤードを獲得したのを皮切りに6回連続のパスプレーをコールし、5回を成功させた。パスをキャッチしたのは順に大園(20ヤード)、木下(19ヤード)、横山(6ヤード)、HB梶原(7ヤード)、仕上げが梅本へ浮かせた10ヤードTDパス。
長い間、ファイターズの試合を見てきたが、試合終盤の時間に追われる場面以外で、ここまで徹底してパスで攻め続けた攻撃は記憶にない。ベンチのコールもひと味違ったし、それ以上に、ターゲットをすべて変え、長短、左右を投げ分けて、次々とピンポイントのパスを成功させた斎藤の成長に目を見張った。これだけのプレーを立て続けに成功させれば、自分の感覚の中で、例えば「ぱっと電球がともる」というような瞬間があったに違いない。それが僕のいう「成長の実感」である。
人は、決して右肩上がりの曲線を描いて成長するのではない。時には停滞し、後退することもある。重い荷物を背負って、その重さにつぶされてしまいそうになるときもある。予期せぬ事態に、思わずひるむこともあるだろう。
それでも、音を上げず、ひたすら練習に取り組み、自分を鍛える。奥歯をかみしめてならぬ我慢もする。その我慢が出来ずに、思わず手近にある湯飲みを床にたたきつけるようなことがあるかもしれない。
けれども、ある日突然、そういう停滞期が嘘のように消え、突き抜けた青空が広がることがある。そのときは気がつかないかもしれないが、後から振り返れば、あのとき確かに階段を一つ上がった、昨日とは違う舞台で戦っている自分がいた、というようなことを思い知るのである。それが僕のいう「成長の実感」である。実際に何かをつかんだ瞬間にそれが訪れることもあるし、振り返ってその手応えをつかんだことを実感することもある。
つまりそれは、停滞期、後退期に悩み、もがき抜いて、それでも自分を信じて目標に挑み、自らを鍛え続けた者だけが手にすることのできる「実感」である。
先日の神戸大戦だけではない。その前の龍谷や近大との戦い、そして普段の練習の中でも、あえて名前は挙げないが、そういう「実感」を手にしつつある人材が少しずつ現れてきているような気がする。それは僕のひいき目だろうか。
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2013年10月09日
(25)勝負の秋
寓話を二つ紹介したい。
一つは、巨人の元エース、桑田真澄さんと作家、佐山和夫さんの対談をまとめた『野球道』(ちくま新書)で佐山さんが紹介している、こんな話である。
ある旅人がヨーロッパの町を歩いていたら一人の男が煉瓦を積んでいるのに出合った。つまらなそうに作業をしている。「あなたは何をしているのですか」と旅人が尋ねると、その男は「ごらんの通りだ。煉瓦を積めというから積んでいるだけよ」と答えた。
しばらく行くと、今度はすごく楽しそうに煉瓦を積んでいる青年に出合った。「あなたは何をしているのか」と尋ねると、青年は元気な声でこう答えた。「私ですか。私はいまここに立派な教会を建てているのです」
同じ作業をしていても、目的が明確であれば、こんなに答えが違ってくる。作業の効率も当然違ってくる。
煉瓦を積むという行為をフットボールの練習と置き換えたら分かりやすい。
練習のための練習、自己満足のための練習では「煉瓦を積めというから積んでいるだけよ」と答えた男と同じである。しんどいばかりでその成果が見えてこない。
逆に「教会を建てる」という崇高な目的のために労力を提供し、献身していると信じることが出来たら、その作業は楽しい。少々苦しくても、困難があっても、崇高な目標が支えになって「もう一丁、やったろかい」という気持ちになる。その気持ちが支えになってさらに一段上の高みを目指すことができる。
もう一つの寓話は、こんな話である。社会学部で僕の講義に出席しているWR大園君が「ネットで見つけた話」として先週の課題文で紹介してくれた。
あるところでリーダー1人と下っ端3人からなる二つのグループが働いていた。
一つ目のグループでは、リーダーがえらそうに3人に命令するだけで、命令された3人はうんざりしながら働いている。当然、作業効率は上がらない。するとリーダーは余計いらついて頭ごなしに命令する。ますます作業の効率は悪くなる。
二つ目のグループでは、リーダーが率先して働き、部下の3人もそれにつられて汗を流す。当然、作業効率は上がる。作業効率が上がるから、目標を達成する道筋がより具体的になり、その目標が支えになって、さらに作業効率が上がっていく。つまり、リーダーたる者は上から傍観者のように命令するだけではなく、当事者になって目標達成のために汗をかくべきだ、というような話だった。
これもまた、フットボールに置き換えて考えると、理解しやすい。つまり日本のフットボール界のてっぺんに立つという崇高な目標に向かって、上級生も下級生もともに協力し、力を合わせて戦うこと。それによって、チームは一段上のレベルに到達できる、というようなことだろう。
二つとも、極めて分かりやすい寓話ではないか。
秋のシーズンは、これからが正念場。今週末の神戸大戦から、京大、関大と戦い、関西リーグ最終の立命戦までは、もう1カ月半である。思い通りに活躍できない選手、けがから回復途上にある選手を含めて、もうぐずぐず言っている場合ではない。全身全霊を込めて練習に打ち込み「教会を建てる、つまりは日本1になる」という高い目標に向かって突き進むときだ。
それを誰よりも分かっているのがグラウンドに出る選手であり、それを支えるスタッフである。実際、練習を見に行くと、この時期、練習を取り仕切るマネジャーの声はかすれている。ハドルへの集散のスピードも、春先とは全く異なっている。
そういう取り組みはしかし、少なくともこの2、3年のファイターズでは「当たり前」のことだった。
問題は、前年までの「当たり前」のさらに上を行く取り組みが求められることである。ライバルと見られるチームはすべて、全身全霊を込めて「打倒!ファイターズ」「くたばれ!ファイターズ」と向かってくる。
それを迎え撃つためにどうするか。それは春からずっと考え、実行してきたはずだが、少なくとも前例を踏襲しているだけでは展望は開けない。卒業生を送り出して、前年より力が低下した、というようなことでは、話にならないのである。
本当に、これからの1カ月半が正念場である。一人一人が高い目標を持ち、互いに助け合って互いを高め合い、協力し合ってその目標に突き進もう。勝負の秋である。
一つは、巨人の元エース、桑田真澄さんと作家、佐山和夫さんの対談をまとめた『野球道』(ちくま新書)で佐山さんが紹介している、こんな話である。
ある旅人がヨーロッパの町を歩いていたら一人の男が煉瓦を積んでいるのに出合った。つまらなそうに作業をしている。「あなたは何をしているのですか」と旅人が尋ねると、その男は「ごらんの通りだ。煉瓦を積めというから積んでいるだけよ」と答えた。
しばらく行くと、今度はすごく楽しそうに煉瓦を積んでいる青年に出合った。「あなたは何をしているのか」と尋ねると、青年は元気な声でこう答えた。「私ですか。私はいまここに立派な教会を建てているのです」
同じ作業をしていても、目的が明確であれば、こんなに答えが違ってくる。作業の効率も当然違ってくる。
煉瓦を積むという行為をフットボールの練習と置き換えたら分かりやすい。
練習のための練習、自己満足のための練習では「煉瓦を積めというから積んでいるだけよ」と答えた男と同じである。しんどいばかりでその成果が見えてこない。
逆に「教会を建てる」という崇高な目的のために労力を提供し、献身していると信じることが出来たら、その作業は楽しい。少々苦しくても、困難があっても、崇高な目標が支えになって「もう一丁、やったろかい」という気持ちになる。その気持ちが支えになってさらに一段上の高みを目指すことができる。
もう一つの寓話は、こんな話である。社会学部で僕の講義に出席しているWR大園君が「ネットで見つけた話」として先週の課題文で紹介してくれた。
あるところでリーダー1人と下っ端3人からなる二つのグループが働いていた。
一つ目のグループでは、リーダーがえらそうに3人に命令するだけで、命令された3人はうんざりしながら働いている。当然、作業効率は上がらない。するとリーダーは余計いらついて頭ごなしに命令する。ますます作業の効率は悪くなる。
二つ目のグループでは、リーダーが率先して働き、部下の3人もそれにつられて汗を流す。当然、作業効率は上がる。作業効率が上がるから、目標を達成する道筋がより具体的になり、その目標が支えになって、さらに作業効率が上がっていく。つまり、リーダーたる者は上から傍観者のように命令するだけではなく、当事者になって目標達成のために汗をかくべきだ、というような話だった。
これもまた、フットボールに置き換えて考えると、理解しやすい。つまり日本のフットボール界のてっぺんに立つという崇高な目標に向かって、上級生も下級生もともに協力し、力を合わせて戦うこと。それによって、チームは一段上のレベルに到達できる、というようなことだろう。
二つとも、極めて分かりやすい寓話ではないか。
秋のシーズンは、これからが正念場。今週末の神戸大戦から、京大、関大と戦い、関西リーグ最終の立命戦までは、もう1カ月半である。思い通りに活躍できない選手、けがから回復途上にある選手を含めて、もうぐずぐず言っている場合ではない。全身全霊を込めて練習に打ち込み「教会を建てる、つまりは日本1になる」という高い目標に向かって突き進むときだ。
それを誰よりも分かっているのがグラウンドに出る選手であり、それを支えるスタッフである。実際、練習を見に行くと、この時期、練習を取り仕切るマネジャーの声はかすれている。ハドルへの集散のスピードも、春先とは全く異なっている。
そういう取り組みはしかし、少なくともこの2、3年のファイターズでは「当たり前」のことだった。
問題は、前年までの「当たり前」のさらに上を行く取り組みが求められることである。ライバルと見られるチームはすべて、全身全霊を込めて「打倒!ファイターズ」「くたばれ!ファイターズ」と向かってくる。
それを迎え撃つためにどうするか。それは春からずっと考え、実行してきたはずだが、少なくとも前例を踏襲しているだけでは展望は開けない。卒業生を送り出して、前年より力が低下した、というようなことでは、話にならないのである。
本当に、これからの1カ月半が正念場である。一人一人が高い目標を持ち、互いに助け合って互いを高め合い、協力し合ってその目標に突き進もう。勝負の秋である。
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2013年10月01日
(24)スタメンに互して
9月28日は、関西学院の創立記念日。124年前、学院が産声を上げた「原田の森」に近い王子スタジアムで近畿大学との試合が組まれた。
天気は秋晴れ。突き抜けるような青い空、爽やかな風。秋の日差しを浴びて六甲の山並みがすぐ近くに見える。台風の大雨に見舞われた前節の龍谷大戦とは、打って変わって絶好のフットボール日和である。
ファイターズは第1Q最初の攻撃シリーズこそ相手守備陣の魂のこもったプレーで、簡単にパントに追いやられたが、2度目のシリーズでは、同じ轍を踏むわけにはいかない。自陣38ヤード付近から、RB梶原と飯田の立て続けのランで相手陣45ヤード付近に進む。次のプレーはQB斎藤からRB鷺野へのハンドオフ。ボールを手にした鷺野が絶妙の身のこなしで相手守備陣を交わし、そのまま45ヤードを走り切ってTD。K三輪のキックも決まって7−0。
次の近大の攻撃もDB大森や鳥内の強烈なタックルで簡単に封じ、自陣22ヤードから再びファイターズの攻撃。いきなりOLの反則で5ヤードを罰退させられたが、斎藤がWR大園に9ヤードのパス。続けて鷺野にショベルパスを決め、鷺野が49ヤードを独走。スタンドからの歓声が消えないうちに、今度は斎藤がWR横山へ30ヤードのパスを決めてTD。
次の近大の攻撃は、LB小野が立て続けに強烈なタックルを決めて完封。当然、オフェンスも勢い付く。斎藤がWR木下への短いパスを決め、自身のドロープレーやRB野々垣、鷺野のラッシュであっという間に陣地を進める。残った1ヤードを鷺野が飛び込んでTD。21−0として試合の主導権を握った。
次のファイターズの攻撃シリーズでも、鷺野が信じられないような身のこなしで相手タックルをふりほどき、33ヤードを前進する離れ業を見せ、斎藤の18ヤードランもあって、あっという間に相手ゴール前13ヤード。だが、ここから突然、快調なリズムが崩れてしまう。スクリーンパスの失敗、反則、そして仕上げは28ヤードのFG失敗。
確実に点を取れる場面を逃がすと、相手は勢い付く。ここからは攻守とも完全に相手のペース。逆に、ファイターズはけが人が出たり、スペシャルプレーのパスがインターセプトされたり。4Qに入ってQBをはじめ、次々と交代メンバーを出場させたこともあって、インターセプトはされる、反則はする、FGは失敗する、と失敗のオンパレード。あげくに、P伊豆のパントをゴール前で押さえられる場面があったのに、それを逃してタッチバックにするという信じられないミスまで飛び出した。
爽やかな秋晴れが、突然、梅雨空に変わったような試合。しかし、それは秋のリーグ戦が始まって以来、ずっと続いている「空模様」である。先発メンバーが出ているときは、爽快なゲーム運びをする。だが、ひとたび交代メンバーが出てくると、別のチームのようになってしまう。それに引きずられて、スタメンで出ていた選手のプレーまでがおかしくなってくる。この3試合、リプレーを見るように、そんな試合運びを繰り返している。
試合後のインタビューで、鳥内監督は冗談とも本音ともとれる口調で「ぼろくそに書いといて下さい」と発言されていた。毎試合のように繰り返される成長の見えない試合運びに我慢がならなかったからではないか。
社会人王者を倒して日本1を目指す、というのなら、まずは関西リーグを勝ち上がり、甲子園ボウルにも勝たなければならない。そのためには、先発メンバーの力に加えて、交代メンバーの底上げが不可欠だ。だからこそ、リーグ戦では次々に新しいメンバーを登用し、いくつものプレーを試している。なのに、なかなか成長の跡が見えない。梅雨空としか言いようのない試合である。
もちろん、交代メンバーや先発した新戦力で目を見張るプレーをした選手はいる。この日はスタメンで登場し、新人離れしたプレーを見せ続けたLB山岸、狙いすませたインターセプトを決めたDB伊藤、そして結果はインターセプトとなったが、QB顔負けの遠投力を見せ、どんなプレーにも対応出来る器用さを見せつけたWR横山らである。
こういう選手が続々出てくる試合を見たいのである。先発メンバーに互して、一歩も引かないプレーを見せる交代メンバーがどれだけ出てくるか。これからの厳しい戦いを勝ち抜くためには、グラウンドに立つ全員がさらに自らを鍛え、チームに貢献できる技量を磨くしかない。
校訓にいう「マスタリー・フォー・サービス」とは、そういう「強い人」になるために自らを鍛えることである。
天気は秋晴れ。突き抜けるような青い空、爽やかな風。秋の日差しを浴びて六甲の山並みがすぐ近くに見える。台風の大雨に見舞われた前節の龍谷大戦とは、打って変わって絶好のフットボール日和である。
ファイターズは第1Q最初の攻撃シリーズこそ相手守備陣の魂のこもったプレーで、簡単にパントに追いやられたが、2度目のシリーズでは、同じ轍を踏むわけにはいかない。自陣38ヤード付近から、RB梶原と飯田の立て続けのランで相手陣45ヤード付近に進む。次のプレーはQB斎藤からRB鷺野へのハンドオフ。ボールを手にした鷺野が絶妙の身のこなしで相手守備陣を交わし、そのまま45ヤードを走り切ってTD。K三輪のキックも決まって7−0。
次の近大の攻撃もDB大森や鳥内の強烈なタックルで簡単に封じ、自陣22ヤードから再びファイターズの攻撃。いきなりOLの反則で5ヤードを罰退させられたが、斎藤がWR大園に9ヤードのパス。続けて鷺野にショベルパスを決め、鷺野が49ヤードを独走。スタンドからの歓声が消えないうちに、今度は斎藤がWR横山へ30ヤードのパスを決めてTD。
次の近大の攻撃は、LB小野が立て続けに強烈なタックルを決めて完封。当然、オフェンスも勢い付く。斎藤がWR木下への短いパスを決め、自身のドロープレーやRB野々垣、鷺野のラッシュであっという間に陣地を進める。残った1ヤードを鷺野が飛び込んでTD。21−0として試合の主導権を握った。
次のファイターズの攻撃シリーズでも、鷺野が信じられないような身のこなしで相手タックルをふりほどき、33ヤードを前進する離れ業を見せ、斎藤の18ヤードランもあって、あっという間に相手ゴール前13ヤード。だが、ここから突然、快調なリズムが崩れてしまう。スクリーンパスの失敗、反則、そして仕上げは28ヤードのFG失敗。
確実に点を取れる場面を逃がすと、相手は勢い付く。ここからは攻守とも完全に相手のペース。逆に、ファイターズはけが人が出たり、スペシャルプレーのパスがインターセプトされたり。4Qに入ってQBをはじめ、次々と交代メンバーを出場させたこともあって、インターセプトはされる、反則はする、FGは失敗する、と失敗のオンパレード。あげくに、P伊豆のパントをゴール前で押さえられる場面があったのに、それを逃してタッチバックにするという信じられないミスまで飛び出した。
爽やかな秋晴れが、突然、梅雨空に変わったような試合。しかし、それは秋のリーグ戦が始まって以来、ずっと続いている「空模様」である。先発メンバーが出ているときは、爽快なゲーム運びをする。だが、ひとたび交代メンバーが出てくると、別のチームのようになってしまう。それに引きずられて、スタメンで出ていた選手のプレーまでがおかしくなってくる。この3試合、リプレーを見るように、そんな試合運びを繰り返している。
試合後のインタビューで、鳥内監督は冗談とも本音ともとれる口調で「ぼろくそに書いといて下さい」と発言されていた。毎試合のように繰り返される成長の見えない試合運びに我慢がならなかったからではないか。
社会人王者を倒して日本1を目指す、というのなら、まずは関西リーグを勝ち上がり、甲子園ボウルにも勝たなければならない。そのためには、先発メンバーの力に加えて、交代メンバーの底上げが不可欠だ。だからこそ、リーグ戦では次々に新しいメンバーを登用し、いくつものプレーを試している。なのに、なかなか成長の跡が見えない。梅雨空としか言いようのない試合である。
もちろん、交代メンバーや先発した新戦力で目を見張るプレーをした選手はいる。この日はスタメンで登場し、新人離れしたプレーを見せ続けたLB山岸、狙いすませたインターセプトを決めたDB伊藤、そして結果はインターセプトとなったが、QB顔負けの遠投力を見せ、どんなプレーにも対応出来る器用さを見せつけたWR横山らである。
こういう選手が続々出てくる試合を見たいのである。先発メンバーに互して、一歩も引かないプレーを見せる交代メンバーがどれだけ出てくるか。これからの厳しい戦いを勝ち抜くためには、グラウンドに立つ全員がさらに自らを鍛え、チームに貢献できる技量を磨くしかない。
校訓にいう「マスタリー・フォー・サービス」とは、そういう「強い人」になるために自らを鍛えることである。
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| in 2013 season
2013年09月25日
(23)いま、でしょう
先週末、数人のマネジャー、トレーナーらと焼き肉屋に出掛けた。日ごろ、リクルート活動のお手伝いなどを通じて、密接な関係にあるにもかかわらず、じっくり話し込んだことがなかったので、激励会を兼ねて食事をともにしようという目的だった。
その話を聞きつけて「それなら、僕にも話したいことがある」と駆けつけてくれたアシスタントコーチの香山君も交え「食べ放題コース」に舌鼓を打ちながら、あれやこれやと話し込んだ。
みんな胸にしまい込んでいることがたくさんあるようだった。マネジャーやトレーナーという仕事柄、選手のプレーそのものの論評はしにくい。けれども、4年生として、同じ学年の幹部たち、あるいは下級生たちの練習に対する取り組み方については、言いたいことがいっぱいある。練習をマネジメントする立場、選手を鍛える立場からは、指摘しなければならないことがいくつも見えている。そういう自負があるのだろう。彼らの舌鋒は鋭かった。
加えて、コーチの香山君からも厳しい現状認識と鋭い指摘が個人名を挙げて具体的に出された。自分が4年生の時に取り組んだ内容、昨年コーチとして見たチームと、現状との違い。その指摘が一つ一つ具体的になされるから、説得力がある。いつしか食事会が遠慮のない「反省ミーティング」のような雰囲気になってきた。
詳しい内容を話せば、このコラムの注目度は一気に上がるだろう。でも、チームにとっては内緒にしたい、ここだけの話にしておきたいことが一杯含まれている。とうていすべての話を書けることではない。
それでも、こんなエピソードなら差し障りはないだろう。紹介する。それは香山君が4年生の時、毎晩のように幹部で話し合い、時には議論が感情的になって「○○(同級生の幹部)に殺されるかと思った」という場面があったという話や、議論の後、泊まり込んだ松岡主将の部屋で、先に就寝した松岡君が突然「お前、何回言っても、なんでできひんねん」と叫び出した話。彼は寝ていてもチームの練習を夢に見て、必死に仲間に檄を飛ばしていたのだ。
「こいつ、ここまでチームのことを気にかけているんや。オレも死ぬ気でやらなあかんと思った」と香山君。
それに呼応して、4年生マネジャーの野瀬君が「似たような話は昨年の夏合宿でもありました」と次のような話を紹介してくれた。
木戸さん(当時、4年生の女子マネジャー)が夜中に突然、「あと、みっつ」と叫んだのです。寝ていても、練習のことを夢に見ており、思わず声を挙げたのでしょう。それほど熱い気持ちを持ったマネジャーでした、という話だった。
僕はもっぱら聞き役で、相づちを打っているだけだが、こんなエピソードを交えて議論は白熱。最後にトレーナーの佐久間君が「明日からもっともっと走らせます」、主務の多田君が「今夜から、さらに気合いを入れていきます」とまとめて、ようやく一段落した。
幕末、倒幕軍のトップ、西郷隆盛と談判して、江戸城を無血開城し、徳川幕府の幕を引いた勝海舟が、剣術の修業についてこんな話を残している。「氷川清話」からその趣旨を引用する。
本当に修業したのは剣術ばかりだ。寒中になると、毎日、稽古がすむと、夕方から稽古着一枚で王子権現に行って夜稽古をした。まず拝殿の礎石に腰をかけて瞑目沈思、心胆を錬磨し、しかる後、起って木剣を振り回し、また元の礎石に腰をかけて心胆を錬磨し、また起って木剣を振り回し、こういう風に夜明けまで5,6回もやって、それから帰って朝稽古をやり、夕方になるとまた王子権現に出掛けて、一日も怠らなかった(中略)修業の効は(幕府)瓦解の前後に顕れて、あんな艱難辛苦に堪え得て、少しもひるまなかった……。
そう、若い頃は思い込んだら、とことん熱中できる。それが苦しいとか、いやだとかいう気持ちは毛頭ない。型ばかりではなく、本当の剣術をやりたい。心身ともに錬磨したい。そう発心したら、寒さも夜の寂しさも、睡眠不足もいっこうに気にならない。自らの発心だから、納得するまで突き詰める。苦しいとか疲れたとか、自分に言い訳している場合ではない。やり遂げてなんぼ、である。
そういう経験は、勝海舟に限らない。世の中に爪痕を残したような人なら、大なり小なり経験していることである。懸命に語学に取り組む。仕事を誰よりも速く成し遂げる。売り上げトップを達成する。新聞社でいえば誰もが驚く特ダネを書く。誰もが書いたことのないような記事を書く。それも次々と連打する。そういうことである。
そのための努力はやって当たり前。自分に言い訳するぐらいなら、はじめから尻尾を巻いて逃げ出せ。中途半端なことをされたら、周りが迷惑する。そんな言葉を言ったり聞いたりしたのは、僕だけではないはずだ。
そう。何事かを成し遂げた人はみなそういう努力を続けている。夢の中でも檄を飛ばし、仲間を鼓舞するような経験は、決して卒業した松岡主将や木戸マネジャーだけの専売ではない。
やるのは、いまでしょ。関西リーグ最終の立命戦まで2カ月。その前に近大、神戸大、京大、関大が手ぐすね引いて待っている。先日の龍大戦を振り返れば、今後、楽に戦える試合なんて、一つもないだろう。
やるのは、いましかない。それぞれが厳しく仲間に要求すること。要求できるだけの取り組みを自発的にすること。主務の多田君が先日のコラムに書いている通りである。
ファイターズの諸君に、それが出来ないはずはない。頑張れ! 期待している。
その話を聞きつけて「それなら、僕にも話したいことがある」と駆けつけてくれたアシスタントコーチの香山君も交え「食べ放題コース」に舌鼓を打ちながら、あれやこれやと話し込んだ。
みんな胸にしまい込んでいることがたくさんあるようだった。マネジャーやトレーナーという仕事柄、選手のプレーそのものの論評はしにくい。けれども、4年生として、同じ学年の幹部たち、あるいは下級生たちの練習に対する取り組み方については、言いたいことがいっぱいある。練習をマネジメントする立場、選手を鍛える立場からは、指摘しなければならないことがいくつも見えている。そういう自負があるのだろう。彼らの舌鋒は鋭かった。
加えて、コーチの香山君からも厳しい現状認識と鋭い指摘が個人名を挙げて具体的に出された。自分が4年生の時に取り組んだ内容、昨年コーチとして見たチームと、現状との違い。その指摘が一つ一つ具体的になされるから、説得力がある。いつしか食事会が遠慮のない「反省ミーティング」のような雰囲気になってきた。
詳しい内容を話せば、このコラムの注目度は一気に上がるだろう。でも、チームにとっては内緒にしたい、ここだけの話にしておきたいことが一杯含まれている。とうていすべての話を書けることではない。
それでも、こんなエピソードなら差し障りはないだろう。紹介する。それは香山君が4年生の時、毎晩のように幹部で話し合い、時には議論が感情的になって「○○(同級生の幹部)に殺されるかと思った」という場面があったという話や、議論の後、泊まり込んだ松岡主将の部屋で、先に就寝した松岡君が突然「お前、何回言っても、なんでできひんねん」と叫び出した話。彼は寝ていてもチームの練習を夢に見て、必死に仲間に檄を飛ばしていたのだ。
「こいつ、ここまでチームのことを気にかけているんや。オレも死ぬ気でやらなあかんと思った」と香山君。
それに呼応して、4年生マネジャーの野瀬君が「似たような話は昨年の夏合宿でもありました」と次のような話を紹介してくれた。
木戸さん(当時、4年生の女子マネジャー)が夜中に突然、「あと、みっつ」と叫んだのです。寝ていても、練習のことを夢に見ており、思わず声を挙げたのでしょう。それほど熱い気持ちを持ったマネジャーでした、という話だった。
僕はもっぱら聞き役で、相づちを打っているだけだが、こんなエピソードを交えて議論は白熱。最後にトレーナーの佐久間君が「明日からもっともっと走らせます」、主務の多田君が「今夜から、さらに気合いを入れていきます」とまとめて、ようやく一段落した。
幕末、倒幕軍のトップ、西郷隆盛と談判して、江戸城を無血開城し、徳川幕府の幕を引いた勝海舟が、剣術の修業についてこんな話を残している。「氷川清話」からその趣旨を引用する。
本当に修業したのは剣術ばかりだ。寒中になると、毎日、稽古がすむと、夕方から稽古着一枚で王子権現に行って夜稽古をした。まず拝殿の礎石に腰をかけて瞑目沈思、心胆を錬磨し、しかる後、起って木剣を振り回し、また元の礎石に腰をかけて心胆を錬磨し、また起って木剣を振り回し、こういう風に夜明けまで5,6回もやって、それから帰って朝稽古をやり、夕方になるとまた王子権現に出掛けて、一日も怠らなかった(中略)修業の効は(幕府)瓦解の前後に顕れて、あんな艱難辛苦に堪え得て、少しもひるまなかった……。
そう、若い頃は思い込んだら、とことん熱中できる。それが苦しいとか、いやだとかいう気持ちは毛頭ない。型ばかりではなく、本当の剣術をやりたい。心身ともに錬磨したい。そう発心したら、寒さも夜の寂しさも、睡眠不足もいっこうに気にならない。自らの発心だから、納得するまで突き詰める。苦しいとか疲れたとか、自分に言い訳している場合ではない。やり遂げてなんぼ、である。
そういう経験は、勝海舟に限らない。世の中に爪痕を残したような人なら、大なり小なり経験していることである。懸命に語学に取り組む。仕事を誰よりも速く成し遂げる。売り上げトップを達成する。新聞社でいえば誰もが驚く特ダネを書く。誰もが書いたことのないような記事を書く。それも次々と連打する。そういうことである。
そのための努力はやって当たり前。自分に言い訳するぐらいなら、はじめから尻尾を巻いて逃げ出せ。中途半端なことをされたら、周りが迷惑する。そんな言葉を言ったり聞いたりしたのは、僕だけではないはずだ。
そう。何事かを成し遂げた人はみなそういう努力を続けている。夢の中でも檄を飛ばし、仲間を鼓舞するような経験は、決して卒業した松岡主将や木戸マネジャーだけの専売ではない。
やるのは、いまでしょ。関西リーグ最終の立命戦まで2カ月。その前に近大、神戸大、京大、関大が手ぐすね引いて待っている。先日の龍大戦を振り返れば、今後、楽に戦える試合なんて、一つもないだろう。
やるのは、いましかない。それぞれが厳しく仲間に要求すること。要求できるだけの取り組みを自発的にすること。主務の多田君が先日のコラムに書いている通りである。
ファイターズの諸君に、それが出来ないはずはない。頑張れ! 期待している。
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| in 2013 season
2013年09月17日
(22)収穫は多かった
15日の龍谷大戦は雨。台風18号に伴う豪雨の中の戦いだった。試合終了後、和歌山県田辺市の勤務先に車で戻るまでの高速道路が、途中までは50キロ規制、和歌山県広川インターから田辺インターまでは通行止めになったといえば、その激しさが分かってもらえるだろう。
そんな中でも、アメフットの試合は決行される。人工芝のグラウンドには水が浮き、大粒の雨が目に入る。ゴムのボールは雨で滑るし、パスはコントロールしにくい。スナップの手元は狂うし、確保したはずのボールは簡単に飛び出す。おまけにナイターだから、雨粒が照明に光って何かと予期せぬことが起きる。
こういう条件だから、普段の試合以上に、試合経験の差が表面化する。経験が豊富な選手は、こういう悪条件をビッグプレーを起こすチャンスと捉えるし、実際、そういうプレーをいくつも見せてくれた。逆に、経験の少ない選手は、失敗してはいけない、と意識するせいか、あれやこれやとミスが出る。ファイターズの反則が7回54ヤードに及び、相手にセーフティーを奪われるという不本意なことになったのも、そういう条件を考慮すれば、簡単に説明できる。
それにしても、第3Q半ばまでのファイターズとそれ以降のファイターズは、同じチームとは思えないほど、その動きに差があった。つまり先発メンバーをきちんと揃えて戦った場合と、交代メンバーを入れて選手の力量をテストし、見定めようとした場合では、全く別のチームに変わってしまったのである。
得点経過を見れば、それは一目で分かる。
試合はファイターズのキック、龍谷のレシーブで始まったが、最初のシリーズでいきなりDB国吉が相手パントをブロック。相手陣31ヤードの好位置からファイターズの攻撃につなげる。このチャンスにRB鷺野と野々垣が確実なランで陣地を進め、仕上げは野々垣が8ヤードを駆け上がってTD。三輪のキックも決まって7−0。
このシリーズは6回連続のランプレー。それは、守備陣が作ってくれた好機を必ず生かそうという攻撃陣の意図が形になったものであり、雨の中、確実に得点に結びつけようというベンチの意図と選手の動きが呼応した得点だった。
自陣35ヤードから始まった3度目の攻撃シリーズも、基本的にはランプレーが中心。スピードのあるRB鷺野、野々垣、飯田の3人を使い分け、時にはドロープレーも織り込んで変化を付けながら確実に陣地を進め、仕上げは鷺野の8ヤードラン。スタンドから見ていても、ベンチの意図と選手の動きがかみ合って、全く危なげのない試合ぶりだった。
その直後の龍谷の攻撃は、守備陣が完封。おまけに相手のパントをカバーチームがブロック、転がったボールを拾ったDB鳥内が32ヤードを走り切ってTD。ここでも守備陣とキッキングチームの連携が見事に機能していた。
殊勲の鳥内は、次の龍谷の第1プレーで相手のパスをインターセプト。再び攻撃権を取り戻す。この活躍に今度は攻撃陣が呼応。鷺野が51ヤードを独走してまたもTD。点差は開くばかりである。
後半、第3Qに入ってもファイターズの勢いは止まらない。立ち上がり相手がキックしたボールを確保した鷺野がそのまま71ヤードを走り切りキックオフリターンTD。その直後にはLB池田が相手のファンブルルしたボールを拾い上げ、そのまま22ヤードを走り切ってTD。次の攻撃シリーズではQB斎藤がWR木戸、横山へのパスで陣地を進め、仕上げはWR梅本への22ヤードのTDパス。
豪雨の中、前半はランで確実に得点を重ね、ビッグプレーで試合の流れを確実にしたら、一転して華やかなパスプレーを続けてダメを押す。難しいグラウンドの状態を逆にチャンスと捉えて積極的に守り、攻めたファイターズは、まさに甲子園ボウル3連覇を目指すにふさわしい戦いぶりだった。
ところが、QBをはじめ攻守のメンバーを一新した第3Q後半からは全く別のチームのような戦いぶりに変わった。守備陣は相手のランプレーが止められず、攻撃も手詰まり。ダウンの更新さえままならず、あげくの果てにスナップミスから相手にセーフティーまで奪われた。
攻撃時間を見ればファイターズが19分7秒、龍谷が28分53秒。これで得点は45−2。二つの数字から、第3Q途中までにファイターズが効率のよい攻撃で得点を重ねたこと、その後は龍谷の一方的なペースで試合が進んだことがうかがえる。
もちろん、試合が進むにつれて相手が攻守ともファイターズの動きに対応し、時にはその動きの速さを逆手にとって攻め込んできたことが、後半相手に振り回された主要な原因である。同時に、交代で出場したメンバー、それは2年生や1年生が中心で、豪雨の中での試合経験がほとんどない。彼らが「雨は嫌だなあ」「失敗したらどうしょう」と消極的になったことにも原因があるのではないか、と僕は思っている。先発メンバーが「雨はチャンス」と喜び勇んでグラウンドに出たのとは好対照である。
さらにもう一つ。気になったことを付け加えておきたい。それは先発メンバーを揃えた前半、TDの後のボーナスポイントで、4度に渡って2点を狙ったプレーを仕掛けながら、一度も成功させることが出来なかったことである。言い換えれば、ゴール前3ヤードからの攻撃で、一度もTDがとれなかったのと同じこと。この短い距離で、下位チームに力負けしたことは事実である。華やかなTDを連発し、攻撃と守備、ベンチとグラウンドが互いに呼応して、理想的な試合を見せてくれただけに、1本目のメンバーで「残り3ヤードをフィニッシュ」出来なかったことの意味は、しっかり受け止めなければならない。
交代メンバーに経験を積ませつつ、やるべき宿題はきちんと仕上げる。そういう課題が明確になった試合である。雨の中、よい意味でも悪い意味でも、収穫は多かった。
そんな中でも、アメフットの試合は決行される。人工芝のグラウンドには水が浮き、大粒の雨が目に入る。ゴムのボールは雨で滑るし、パスはコントロールしにくい。スナップの手元は狂うし、確保したはずのボールは簡単に飛び出す。おまけにナイターだから、雨粒が照明に光って何かと予期せぬことが起きる。
こういう条件だから、普段の試合以上に、試合経験の差が表面化する。経験が豊富な選手は、こういう悪条件をビッグプレーを起こすチャンスと捉えるし、実際、そういうプレーをいくつも見せてくれた。逆に、経験の少ない選手は、失敗してはいけない、と意識するせいか、あれやこれやとミスが出る。ファイターズの反則が7回54ヤードに及び、相手にセーフティーを奪われるという不本意なことになったのも、そういう条件を考慮すれば、簡単に説明できる。
それにしても、第3Q半ばまでのファイターズとそれ以降のファイターズは、同じチームとは思えないほど、その動きに差があった。つまり先発メンバーをきちんと揃えて戦った場合と、交代メンバーを入れて選手の力量をテストし、見定めようとした場合では、全く別のチームに変わってしまったのである。
得点経過を見れば、それは一目で分かる。
試合はファイターズのキック、龍谷のレシーブで始まったが、最初のシリーズでいきなりDB国吉が相手パントをブロック。相手陣31ヤードの好位置からファイターズの攻撃につなげる。このチャンスにRB鷺野と野々垣が確実なランで陣地を進め、仕上げは野々垣が8ヤードを駆け上がってTD。三輪のキックも決まって7−0。
このシリーズは6回連続のランプレー。それは、守備陣が作ってくれた好機を必ず生かそうという攻撃陣の意図が形になったものであり、雨の中、確実に得点に結びつけようというベンチの意図と選手の動きが呼応した得点だった。
自陣35ヤードから始まった3度目の攻撃シリーズも、基本的にはランプレーが中心。スピードのあるRB鷺野、野々垣、飯田の3人を使い分け、時にはドロープレーも織り込んで変化を付けながら確実に陣地を進め、仕上げは鷺野の8ヤードラン。スタンドから見ていても、ベンチの意図と選手の動きがかみ合って、全く危なげのない試合ぶりだった。
その直後の龍谷の攻撃は、守備陣が完封。おまけに相手のパントをカバーチームがブロック、転がったボールを拾ったDB鳥内が32ヤードを走り切ってTD。ここでも守備陣とキッキングチームの連携が見事に機能していた。
殊勲の鳥内は、次の龍谷の第1プレーで相手のパスをインターセプト。再び攻撃権を取り戻す。この活躍に今度は攻撃陣が呼応。鷺野が51ヤードを独走してまたもTD。点差は開くばかりである。
後半、第3Qに入ってもファイターズの勢いは止まらない。立ち上がり相手がキックしたボールを確保した鷺野がそのまま71ヤードを走り切りキックオフリターンTD。その直後にはLB池田が相手のファンブルルしたボールを拾い上げ、そのまま22ヤードを走り切ってTD。次の攻撃シリーズではQB斎藤がWR木戸、横山へのパスで陣地を進め、仕上げはWR梅本への22ヤードのTDパス。
豪雨の中、前半はランで確実に得点を重ね、ビッグプレーで試合の流れを確実にしたら、一転して華やかなパスプレーを続けてダメを押す。難しいグラウンドの状態を逆にチャンスと捉えて積極的に守り、攻めたファイターズは、まさに甲子園ボウル3連覇を目指すにふさわしい戦いぶりだった。
ところが、QBをはじめ攻守のメンバーを一新した第3Q後半からは全く別のチームのような戦いぶりに変わった。守備陣は相手のランプレーが止められず、攻撃も手詰まり。ダウンの更新さえままならず、あげくの果てにスナップミスから相手にセーフティーまで奪われた。
攻撃時間を見ればファイターズが19分7秒、龍谷が28分53秒。これで得点は45−2。二つの数字から、第3Q途中までにファイターズが効率のよい攻撃で得点を重ねたこと、その後は龍谷の一方的なペースで試合が進んだことがうかがえる。
もちろん、試合が進むにつれて相手が攻守ともファイターズの動きに対応し、時にはその動きの速さを逆手にとって攻め込んできたことが、後半相手に振り回された主要な原因である。同時に、交代で出場したメンバー、それは2年生や1年生が中心で、豪雨の中での試合経験がほとんどない。彼らが「雨は嫌だなあ」「失敗したらどうしょう」と消極的になったことにも原因があるのではないか、と僕は思っている。先発メンバーが「雨はチャンス」と喜び勇んでグラウンドに出たのとは好対照である。
さらにもう一つ。気になったことを付け加えておきたい。それは先発メンバーを揃えた前半、TDの後のボーナスポイントで、4度に渡って2点を狙ったプレーを仕掛けながら、一度も成功させることが出来なかったことである。言い換えれば、ゴール前3ヤードからの攻撃で、一度もTDがとれなかったのと同じこと。この短い距離で、下位チームに力負けしたことは事実である。華やかなTDを連発し、攻撃と守備、ベンチとグラウンドが互いに呼応して、理想的な試合を見せてくれただけに、1本目のメンバーで「残り3ヤードをフィニッシュ」出来なかったことの意味は、しっかり受け止めなければならない。
交代メンバーに経験を積ませつつ、やるべき宿題はきちんと仕上げる。そういう課題が明確になった試合である。雨の中、よい意味でも悪い意味でも、収穫は多かった。
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2013年09月04日
(21)多士済々
待ちに待ったシーズンが始まった。
初戦は王子スタジアム。昼間の雨こそ上がったが、人工芝の上には水が浮いている。足下は悪いし、相手は2部から昇格したばかりで手の内の知れない大阪教育大学。初戦は、どんなに試合経験のある選手でも緊張するから、ひとつ間違えば、ややこしい試合になる可能性がある。
そんな心配はしかし、ファイターズのレシーブで始まった最初の攻撃で杞憂となった。相手のキックしたボールをキャッチしたRB鷺野がいきなり敵陣43ヤードまでリターン。そこからの第一プレーはRB飯田の40ヤードラッシュ。あわやTDかと思わせる快走でチームを勢いづける。残った3ヤードを鷺野と飯田のランでTDに結び付け、K三輪のキックも決まって、あっという間に7点を先制。チーム全体を落ち着かせた。
次の大教大の攻撃はディフェンスが完封。ファイターズの2回目の攻撃シリーズは、パスインターセプトで不発に終わったが、守備陣が踏ん張って、相手に攻撃のきっかけをつかませない。すぐさま攻撃権を取り戻し、ファイターズ3度目の攻撃シリーズは自陣20ヤードから。ここでQB斎藤が鷺野、TE樋之本、松島に立て続けにパスを通し、仕上げも樋之本へ9ヤードのTDパス。相手守備の意表を突いた2点コンバージョンも決まって15−0。
続く大教大の攻撃も、DB足立のインターセプトで断ち切り、迎えたファイターズの攻撃は相手陣43ヤードから。ここでは一転、鷺野と飯田の切れのよいランで立て続けにダウンを更新。仕上げは斎藤からWR梅本へ21ヤードのTDパス。三輪のキックも決まって22−0。
第2Qに入っても勢いは止まらない。守備陣が相手にダウンの更新を許さず、完封してくれるから攻撃のリズムもよい。2Q早々には飯田のドロープレーで一気に相手ゴール前まで陣地を進め、仕上げは斎藤から樋之本へのTDパス。ここでも松島へのパスを決めて2点を獲得。相手が対応出来ないのを見澄ました積極的な攻撃だった。
LB小野のインターセプトで得た相手陣25ヤードからの攻撃シリーズもRB野々垣のランで陣地を進め、残った14ヤードを1年生RB池永弟が走り切ってTD。相手陣37ヤードから始まった次の攻撃シリーズでは斎藤からWR木戸へのパスが決まり、一発でTD。その直後には1年生DB小池が相手のパスをインターセプト。そのまま約35ヤードを走り切ってTD。続くシリーズでは木戸の絶妙のパントリターンで残り4ヤードから攻め込み、鷺野が中央に走り込んでTD。前半だけで58−0という大差を付けた。
数えて見れば、先発メンバー中心で戦ったファイターズの前半の攻撃シリーズは8回。そのうち1度はインターセプトで攻撃権を失っているが、残りの7回はすべてTDに仕上げた。おまけに小池のインターセプトTDが加わって都合8TD58点。インターセプトされた攻撃も含め、わずか24回のプレーでこれだけの得点を挙げている。パスにランに、すさまじい破壊力を持ったチームといってよいだろう。
破壊力と言えば、攻撃陣だけではない。守備は前半、一度もダウン更新を許さず、3回もインターセプトを奪った。主将池永兄、1年生松本、4年生吉田で固めた1列目は破壊力抜群だし、LB陣には強力なタックルとスピードを持ち、プレーの読みも抜群の池田と小野、それに動きのよい森岡と作道がいる。副将鳥内が率いるDB陣には、安定した4年生足立に加え、進境著しい田中、小池というスピードスターがいる。これだけのメンバーがほとんど交代せず、チーム内で互いに競争しながら本気で戦ったのだから、相手は本当に苦しかったと思う。
しかし、これだけが今年のファイターズではない。後半になるとQBが松岡に代わり、ほかのポジションにも交代メンバーが次々に登場した。全部を紹介することはできないので、1年生を順不同で挙げていく。
攻撃では2本のTDを挙げたRB池永弟(同志社国際)、同じく41ヤードを巧妙なステップで走り切った小柄なRB松本(啓明学院)、OL期待の星、堀川(大阪学芸)。同じく松井、清村(ともに高等部)。最終盤に巧妙なスクリーンパスを池永弟に投じ、43ヤードのTDを挙げて試合を締めくくったQB伊豆(箕面)。突進力に魅力がある大型RBパング(横浜栄)、WRの藤原(高等部)と水野(池田)、そしてこの日はキッカーとして登場した西岡(足立学園)。
守備では、期待の大型LB山岸(中大付)と西田(啓明学院)。先発した松本と肩を並べるほど当たりの強いDL安田(高等部)、DBでは、小柄だが切れのよい動きをする岡本(高等部)が登場した。初戦からスタメンに名前を連ねて活躍したDL松本(高等部)、DB小池(箕面自由)の名前も再掲しておこう。
ほかにも出場した1年生がいると思うが、なんせ薄暗いナイターの試合。遠く離れたスタンドからでは、全員を確認するのは難しかった。名前の漏れた1年生はこれからの試合で頑張って存在感を見せて欲しい。
ともあれ、多士済々。近年にない1年生の充実ぶりである。この日は書くゆとりはなかったが、もちろん2年生や3年生にも期待できる選手は一杯いる。こうしたタレントたちが今後、どのように成長し、どれくらい上級生を脅かしてそのポジションを奪取するか。
面白いほどリズムよくゲームを進めた先発メンバーの活躍とともに、今年は下級生の「下克上」に注目したい。期待で胸がわくわくする初戦だった。
初戦は王子スタジアム。昼間の雨こそ上がったが、人工芝の上には水が浮いている。足下は悪いし、相手は2部から昇格したばかりで手の内の知れない大阪教育大学。初戦は、どんなに試合経験のある選手でも緊張するから、ひとつ間違えば、ややこしい試合になる可能性がある。
そんな心配はしかし、ファイターズのレシーブで始まった最初の攻撃で杞憂となった。相手のキックしたボールをキャッチしたRB鷺野がいきなり敵陣43ヤードまでリターン。そこからの第一プレーはRB飯田の40ヤードラッシュ。あわやTDかと思わせる快走でチームを勢いづける。残った3ヤードを鷺野と飯田のランでTDに結び付け、K三輪のキックも決まって、あっという間に7点を先制。チーム全体を落ち着かせた。
次の大教大の攻撃はディフェンスが完封。ファイターズの2回目の攻撃シリーズは、パスインターセプトで不発に終わったが、守備陣が踏ん張って、相手に攻撃のきっかけをつかませない。すぐさま攻撃権を取り戻し、ファイターズ3度目の攻撃シリーズは自陣20ヤードから。ここでQB斎藤が鷺野、TE樋之本、松島に立て続けにパスを通し、仕上げも樋之本へ9ヤードのTDパス。相手守備の意表を突いた2点コンバージョンも決まって15−0。
続く大教大の攻撃も、DB足立のインターセプトで断ち切り、迎えたファイターズの攻撃は相手陣43ヤードから。ここでは一転、鷺野と飯田の切れのよいランで立て続けにダウンを更新。仕上げは斎藤からWR梅本へ21ヤードのTDパス。三輪のキックも決まって22−0。
第2Qに入っても勢いは止まらない。守備陣が相手にダウンの更新を許さず、完封してくれるから攻撃のリズムもよい。2Q早々には飯田のドロープレーで一気に相手ゴール前まで陣地を進め、仕上げは斎藤から樋之本へのTDパス。ここでも松島へのパスを決めて2点を獲得。相手が対応出来ないのを見澄ました積極的な攻撃だった。
LB小野のインターセプトで得た相手陣25ヤードからの攻撃シリーズもRB野々垣のランで陣地を進め、残った14ヤードを1年生RB池永弟が走り切ってTD。相手陣37ヤードから始まった次の攻撃シリーズでは斎藤からWR木戸へのパスが決まり、一発でTD。その直後には1年生DB小池が相手のパスをインターセプト。そのまま約35ヤードを走り切ってTD。続くシリーズでは木戸の絶妙のパントリターンで残り4ヤードから攻め込み、鷺野が中央に走り込んでTD。前半だけで58−0という大差を付けた。
数えて見れば、先発メンバー中心で戦ったファイターズの前半の攻撃シリーズは8回。そのうち1度はインターセプトで攻撃権を失っているが、残りの7回はすべてTDに仕上げた。おまけに小池のインターセプトTDが加わって都合8TD58点。インターセプトされた攻撃も含め、わずか24回のプレーでこれだけの得点を挙げている。パスにランに、すさまじい破壊力を持ったチームといってよいだろう。
破壊力と言えば、攻撃陣だけではない。守備は前半、一度もダウン更新を許さず、3回もインターセプトを奪った。主将池永兄、1年生松本、4年生吉田で固めた1列目は破壊力抜群だし、LB陣には強力なタックルとスピードを持ち、プレーの読みも抜群の池田と小野、それに動きのよい森岡と作道がいる。副将鳥内が率いるDB陣には、安定した4年生足立に加え、進境著しい田中、小池というスピードスターがいる。これだけのメンバーがほとんど交代せず、チーム内で互いに競争しながら本気で戦ったのだから、相手は本当に苦しかったと思う。
しかし、これだけが今年のファイターズではない。後半になるとQBが松岡に代わり、ほかのポジションにも交代メンバーが次々に登場した。全部を紹介することはできないので、1年生を順不同で挙げていく。
攻撃では2本のTDを挙げたRB池永弟(同志社国際)、同じく41ヤードを巧妙なステップで走り切った小柄なRB松本(啓明学院)、OL期待の星、堀川(大阪学芸)。同じく松井、清村(ともに高等部)。最終盤に巧妙なスクリーンパスを池永弟に投じ、43ヤードのTDを挙げて試合を締めくくったQB伊豆(箕面)。突進力に魅力がある大型RBパング(横浜栄)、WRの藤原(高等部)と水野(池田)、そしてこの日はキッカーとして登場した西岡(足立学園)。
守備では、期待の大型LB山岸(中大付)と西田(啓明学院)。先発した松本と肩を並べるほど当たりの強いDL安田(高等部)、DBでは、小柄だが切れのよい動きをする岡本(高等部)が登場した。初戦からスタメンに名前を連ねて活躍したDL松本(高等部)、DB小池(箕面自由)の名前も再掲しておこう。
ほかにも出場した1年生がいると思うが、なんせ薄暗いナイターの試合。遠く離れたスタンドからでは、全員を確認するのは難しかった。名前の漏れた1年生はこれからの試合で頑張って存在感を見せて欲しい。
ともあれ、多士済々。近年にない1年生の充実ぶりである。この日は書くゆとりはなかったが、もちろん2年生や3年生にも期待できる選手は一杯いる。こうしたタレントたちが今後、どのように成長し、どれくらい上級生を脅かしてそのポジションを奪取するか。
面白いほどリズムよくゲームを進めた先発メンバーの活躍とともに、今年は下級生の「下克上」に注目したい。期待で胸がわくわくする初戦だった。
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2013年08月27日
(20)楽しみな「下克上」
世間は夏休みだが、昭和の高度成長期を生きてきた僕たち「モーレツ世代」に、そんな言葉はない。年齢を忘れて東奔西走、ひたすら走り回っている。この2週間ほどで愛車の走行距離は確実に3千キロを超えた。
その行程には、もちろん東鉢伏の合宿見学が含まれている。終了前日の17日。朝の5時起きで西宮を出発、深夜に帰宅という日程でファイターズの鍛錬ぶりを眺めてきた。
朝と夕方、JVとVに分けられた練習が秒刻みで進行していく。監督やマネジャーの話では、今年は天候に恵まれ(選手たちには暑すぎたようだが)、予定していた練習にじっくり取り組めたそうだ。大きなけがや事故もなかったという。
そんな練習を見ていて驚いたことがある。VとJVのメンバー分けである。春のシーズンを先発あるいは主要交代メンバーとして戦った上級生の何人もがJVに入り、代わってこれまでJV戦以外ではほとんど試合に出ていなかった1年生や2年生がVのメンバー入りしていたのである。
ポジションによっては、4年生と3年生が各1人、2年生が2人、1年生が3人という具合。オフェンス、ディフェンスともに、すべてのパートに1年生が参加し、上級生と堂々と渡り合う。「お客様」ではなく、秋の熾烈な戦いを担う戦力として期待され、1年生もまたそれに応えようと全力で取り組む。そんな光景は、この10年ほど見たことがなかったから、本当に驚いた。チーム内の「下克上」が始まっているのかもしれない。
もちろん、VとJVのメンバーを決めるに当たっては、監督やコーチのさまざまな思惑があったのだろう。
秋の試合を戦い、社会人に勝って日本1、という目標を達成するのは、並大抵のことではない。新たな戦力の確保、育成は何よりの優先課題だし、それが達成出来ればチームの層は厚くなる。そのためには、才能に恵まれた多くの下級生に、甲子園ボウルやライスボウルを戦ってきた上級生と本気でぶつかる場を用意しなければならない。9日間、文字通りフットボール漬けの毎日を送り、練習もミーティングも共にする夏の合宿こそ、そういうチャンスを与える絶好の機会である。
一方で、JVのメンバーも1年後、2年後を見据えてじっくり鍛えなければならない。彼らは「その他大勢」のメンバーではなく、近い将来、必ずファイターズを背負って立つ一員である。その選手たちに目標を持った練習をさせ、手本を見せるには、試合経験の豊富な上級生こそが適任である。
たまたまVのメンバーからははみ出してしまったとしても、下級生を指導する能力に長け、お手本を見せるのが上手な上級生は少なくない。だからこそ、あえて経験豊富な上級生をVのメンバーから外してJVメンバーの指導に当たらせる。そういう監督やコーチの思惑もあって、今年は特別にVとJVの入れ替えを活発に行ったのかもしれない。
たった1日だったが、練習を眺めていてそんなことを感じ取った。そして、その思惑は功を奏し、下級生の底上げ、層の厚さの確保につながっていると、勝手に結論を出した。
なんせ、半年前までは高校生だった1年生の面々が、練習とはいえ、ライスボウルを戦った上級生とまともに渡り合い、時には凌駕(りょうが)しているのである。そういう選手が特定のポジションではなく、どのパートにも1人や2人はいるのである。すごいことではないか。
チーム内部の戦力、戦略にも関係することだから、そうした選手たちの名前はあえて挙げない。でも、春の試合からは想像もつかないメンバーが秋の試合に先発し、活躍してくれる場面を想像するだけで、わくわくする。
今季、ファイターズの初戦は9月1日。相手は1部に昇格したばかりの大阪教育大である。対戦相手の情報は、僕にはまったくないが、夏に鍛えた選手たちが必ず活躍してくれると確信している。
◇ ◇
このコラムを読んでくださっているみなさん。当日は、友人と誘い合って、いそいそと王子スタジアムに出掛けようではありませんか。そして、ファイターズの諸君に心からの声援を送りましょう。
その前に、伝言が一つ。関西リーグ初戦の前夜、8月31日の夕方に、大阪・中之島の朝日カルチャーセンターで、小野ディレクターの講演会があります。聞くところでは、事前の申し込みはほぼ満席ですが、10人程度なら、まだ受け入れ可能とのこと。聴講をご希望の方は、朝日カルチャーセンターにお問い合わせ下さい。
◆朝日カルチャーセンター中之島教室
アメリカンフットボールの本当の魅力 − 学生日本一:関西学院大学のディレクターが語る、体験的コーチング論とともに
日時:8月31日(土)18:30-20:30
講師:小野 宏 ディレクター
詳細こちら⇒http://www.asahiculture.com/LES/detail.asp?CNO=207734&userflg=0
その行程には、もちろん東鉢伏の合宿見学が含まれている。終了前日の17日。朝の5時起きで西宮を出発、深夜に帰宅という日程でファイターズの鍛錬ぶりを眺めてきた。
朝と夕方、JVとVに分けられた練習が秒刻みで進行していく。監督やマネジャーの話では、今年は天候に恵まれ(選手たちには暑すぎたようだが)、予定していた練習にじっくり取り組めたそうだ。大きなけがや事故もなかったという。
そんな練習を見ていて驚いたことがある。VとJVのメンバー分けである。春のシーズンを先発あるいは主要交代メンバーとして戦った上級生の何人もがJVに入り、代わってこれまでJV戦以外ではほとんど試合に出ていなかった1年生や2年生がVのメンバー入りしていたのである。
ポジションによっては、4年生と3年生が各1人、2年生が2人、1年生が3人という具合。オフェンス、ディフェンスともに、すべてのパートに1年生が参加し、上級生と堂々と渡り合う。「お客様」ではなく、秋の熾烈な戦いを担う戦力として期待され、1年生もまたそれに応えようと全力で取り組む。そんな光景は、この10年ほど見たことがなかったから、本当に驚いた。チーム内の「下克上」が始まっているのかもしれない。
もちろん、VとJVのメンバーを決めるに当たっては、監督やコーチのさまざまな思惑があったのだろう。
秋の試合を戦い、社会人に勝って日本1、という目標を達成するのは、並大抵のことではない。新たな戦力の確保、育成は何よりの優先課題だし、それが達成出来ればチームの層は厚くなる。そのためには、才能に恵まれた多くの下級生に、甲子園ボウルやライスボウルを戦ってきた上級生と本気でぶつかる場を用意しなければならない。9日間、文字通りフットボール漬けの毎日を送り、練習もミーティングも共にする夏の合宿こそ、そういうチャンスを与える絶好の機会である。
一方で、JVのメンバーも1年後、2年後を見据えてじっくり鍛えなければならない。彼らは「その他大勢」のメンバーではなく、近い将来、必ずファイターズを背負って立つ一員である。その選手たちに目標を持った練習をさせ、手本を見せるには、試合経験の豊富な上級生こそが適任である。
たまたまVのメンバーからははみ出してしまったとしても、下級生を指導する能力に長け、お手本を見せるのが上手な上級生は少なくない。だからこそ、あえて経験豊富な上級生をVのメンバーから外してJVメンバーの指導に当たらせる。そういう監督やコーチの思惑もあって、今年は特別にVとJVの入れ替えを活発に行ったのかもしれない。
たった1日だったが、練習を眺めていてそんなことを感じ取った。そして、その思惑は功を奏し、下級生の底上げ、層の厚さの確保につながっていると、勝手に結論を出した。
なんせ、半年前までは高校生だった1年生の面々が、練習とはいえ、ライスボウルを戦った上級生とまともに渡り合い、時には凌駕(りょうが)しているのである。そういう選手が特定のポジションではなく、どのパートにも1人や2人はいるのである。すごいことではないか。
チーム内部の戦力、戦略にも関係することだから、そうした選手たちの名前はあえて挙げない。でも、春の試合からは想像もつかないメンバーが秋の試合に先発し、活躍してくれる場面を想像するだけで、わくわくする。
今季、ファイターズの初戦は9月1日。相手は1部に昇格したばかりの大阪教育大である。対戦相手の情報は、僕にはまったくないが、夏に鍛えた選手たちが必ず活躍してくれると確信している。
◇ ◇
このコラムを読んでくださっているみなさん。当日は、友人と誘い合って、いそいそと王子スタジアムに出掛けようではありませんか。そして、ファイターズの諸君に心からの声援を送りましょう。
その前に、伝言が一つ。関西リーグ初戦の前夜、8月31日の夕方に、大阪・中之島の朝日カルチャーセンターで、小野ディレクターの講演会があります。聞くところでは、事前の申し込みはほぼ満席ですが、10人程度なら、まだ受け入れ可能とのこと。聴講をご希望の方は、朝日カルチャーセンターにお問い合わせ下さい。
◆朝日カルチャーセンター中之島教室
アメリカンフットボールの本当の魅力 − 学生日本一:関西学院大学のディレクターが語る、体験的コーチング論とともに
日時:8月31日(土)18:30-20:30
講師:小野 宏 ディレクター
詳細こちら⇒http://www.asahiculture.com/LES/detail.asp?CNO=207734&userflg=0
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2013年08月17日
(19)平郡君に
8月16日は、平郡雷太君の命日である。
2003年8月16日、兵庫県東鉢伏高原で合宿中に彼が急性心不全で亡くなってから、この日がちょうど10年。いま同じ場所で合宿中の部員や監督、コーチたちは、早朝練習が始まる前、彼を偲んで黙祷を捧げた。
高校生の勉強会のため西宮にいる僕は、朝から上ヶ原の第3フィールドに出向き、平郡君の死を悼んで植えられた山桃の木に向かって黙祷し、彼に語りかけてきた。
チームは彼にいくつかのことを誓った。その内容は、山桃の木の下に設置されたプレートの碑文に刻まれている。@君のファイターズにおける生き様を記憶しA部が存続する限り君の事故を教訓にして、常に安全に対する意識を高めることを心掛けBフットボールに対する君のひたむきな情熱を部関係者全員が学び、心新たに日々の活動に邁進する……というようなことである。
そして「これからは、この地より後輩たちを見守り、励ましてください」とお願いして碑文を結び、最後に「一粒の麦は地に落ちなければ一粒のままである。だが死ねば多くの身を結ぶ」という新訳聖書の言葉が添えられている。
この碑文は、ただの追悼碑ではない。いまも練習のために集まって来る部員が全員、その前にたたずんで、この碑文を読み、碑文の内容を胸に刻んでグラウンドに降りる。チームで長く活動している4年生も、入部したばかりの1年生も、その姿に変わりはない。
もちろん、いまの部員で彼と面識のあった者は一人もいない。それでも、チームがいつも彼のことを語り継いでいるから、彼のことはすべての部員が知っている。チームの監督やコーチ、それに顧問の前島先生らが折に触れて彼のことにふれ、この記念樹が植えられた由縁を話し、プレートの碑文に込められた意味を語り継いできたからである。
「常に安全に対する意識を高めことに心掛け」ということについても、真剣に取り組んでいる。チームには何人ものチームドクターがいるのに加え(合宿中も交代で参加してくれている)、プロのトレーニングコーチや理学療法士を置いて、安全な練習、事故に対する素早い手当などを心掛けるようになったのは、彼の事故が起きてからのことだし、毎年、新しいチームがスタートするときには小野ディレクターによる安全講習会を行っている。もちろん、全員の健康状態のチェックも厳密に行っている。入学時の脳検診(MRI)によって、日常生活では気がつかなかった脳の症状が見つかった部員もいる。脳震盪を起こした部員が練習に復帰するための厳密なマニュアルを定め、それを厳守させてもいる。
気温の高い夏場は、練習開始時間も夕方5時以降に設定、熱中症に備えている。トレーナーは常に水分と塩分の補給を呼び掛け、休憩のたびに「頭の痛い者はすぐに申告を」と大きな声を掛ける。もちろん、練習自体も短く区切り、必ず水分やサプリメント補給の時間を設けている。
夏の合宿中には、決まってこんなシーンを見掛ける。監督が自らホースを持ち、部員のヘルメットを脱がせて頭から水をかけて回るシーンである。
すべてが安全に対する取り組みである。先日も久しぶりに合宿の慰問に行ったというOBの一人が「僕らの頃には、想像もつかない取り組み」とフェイスブックに投稿していたが、10年前といまでは安全に対する取り組みが変わってしまっている。
こんな風に書くと「そんな練習で日本1のチームが出来るのか。平郡君に約束した日本1のチームが作れるのか」という疑問をもたれる方もあるに違いない。
だが、それは杞憂である。いわゆる「根性練」でなくても、チームを強くする方法はある。チームの指導者が確信を持って、人間の身体構造から考えた合理的な練習、最新のメソッドを取り入れたより効率的なメニュー、食事の取り方や栄養バランス、そして適切な休養時間の確保。そうしたことに配慮しつつ練習メニューを組めば、十分に選手を鍛えることは出来る。それは、そうした取り組みに目を向けた以降のファイターズの成績が証明している。
この2年間の甲子園ボウル2連覇は、安全を最優先した練習の成果と言っても過言ではないのである。
平郡君! そういった次第です。チームに関係する全員があの日、君と約束した「君の事故を教訓にし、常に安全に対する意識を高めることを心掛け、フットボールに対する君のひたむきな情熱を全員が受け継いで」活動を続けています。安心して、これからもファイターズの活動を見守り続けてください。
2003年8月16日、兵庫県東鉢伏高原で合宿中に彼が急性心不全で亡くなってから、この日がちょうど10年。いま同じ場所で合宿中の部員や監督、コーチたちは、早朝練習が始まる前、彼を偲んで黙祷を捧げた。
高校生の勉強会のため西宮にいる僕は、朝から上ヶ原の第3フィールドに出向き、平郡君の死を悼んで植えられた山桃の木に向かって黙祷し、彼に語りかけてきた。
チームは彼にいくつかのことを誓った。その内容は、山桃の木の下に設置されたプレートの碑文に刻まれている。@君のファイターズにおける生き様を記憶しA部が存続する限り君の事故を教訓にして、常に安全に対する意識を高めることを心掛けBフットボールに対する君のひたむきな情熱を部関係者全員が学び、心新たに日々の活動に邁進する……というようなことである。
そして「これからは、この地より後輩たちを見守り、励ましてください」とお願いして碑文を結び、最後に「一粒の麦は地に落ちなければ一粒のままである。だが死ねば多くの身を結ぶ」という新訳聖書の言葉が添えられている。
この碑文は、ただの追悼碑ではない。いまも練習のために集まって来る部員が全員、その前にたたずんで、この碑文を読み、碑文の内容を胸に刻んでグラウンドに降りる。チームで長く活動している4年生も、入部したばかりの1年生も、その姿に変わりはない。
もちろん、いまの部員で彼と面識のあった者は一人もいない。それでも、チームがいつも彼のことを語り継いでいるから、彼のことはすべての部員が知っている。チームの監督やコーチ、それに顧問の前島先生らが折に触れて彼のことにふれ、この記念樹が植えられた由縁を話し、プレートの碑文に込められた意味を語り継いできたからである。
「常に安全に対する意識を高めことに心掛け」ということについても、真剣に取り組んでいる。チームには何人ものチームドクターがいるのに加え(合宿中も交代で参加してくれている)、プロのトレーニングコーチや理学療法士を置いて、安全な練習、事故に対する素早い手当などを心掛けるようになったのは、彼の事故が起きてからのことだし、毎年、新しいチームがスタートするときには小野ディレクターによる安全講習会を行っている。もちろん、全員の健康状態のチェックも厳密に行っている。入学時の脳検診(MRI)によって、日常生活では気がつかなかった脳の症状が見つかった部員もいる。脳震盪を起こした部員が練習に復帰するための厳密なマニュアルを定め、それを厳守させてもいる。
気温の高い夏場は、練習開始時間も夕方5時以降に設定、熱中症に備えている。トレーナーは常に水分と塩分の補給を呼び掛け、休憩のたびに「頭の痛い者はすぐに申告を」と大きな声を掛ける。もちろん、練習自体も短く区切り、必ず水分やサプリメント補給の時間を設けている。
夏の合宿中には、決まってこんなシーンを見掛ける。監督が自らホースを持ち、部員のヘルメットを脱がせて頭から水をかけて回るシーンである。
すべてが安全に対する取り組みである。先日も久しぶりに合宿の慰問に行ったというOBの一人が「僕らの頃には、想像もつかない取り組み」とフェイスブックに投稿していたが、10年前といまでは安全に対する取り組みが変わってしまっている。
こんな風に書くと「そんな練習で日本1のチームが出来るのか。平郡君に約束した日本1のチームが作れるのか」という疑問をもたれる方もあるに違いない。
だが、それは杞憂である。いわゆる「根性練」でなくても、チームを強くする方法はある。チームの指導者が確信を持って、人間の身体構造から考えた合理的な練習、最新のメソッドを取り入れたより効率的なメニュー、食事の取り方や栄養バランス、そして適切な休養時間の確保。そうしたことに配慮しつつ練習メニューを組めば、十分に選手を鍛えることは出来る。それは、そうした取り組みに目を向けた以降のファイターズの成績が証明している。
この2年間の甲子園ボウル2連覇は、安全を最優先した練習の成果と言っても過言ではないのである。
平郡君! そういった次第です。チームに関係する全員があの日、君と約束した「君の事故を教訓にし、常に安全に対する意識を高めることを心掛け、フットボールに対する君のひたむきな情熱を全員が受け継いで」活動を続けています。安心して、これからもファイターズの活動を見守り続けてください。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:01| Comment(2)
| in 2013 season