2012年08月18日

(18)夏合宿レポート

 東鉢伏高原で行われていたファイターズの合宿の模様を報告したい。
 と大げさにいっても、練習を見たのは12日と16日の2日間だけ。ともに早朝、西宮を出発し、その夜に戻ってくる駆け足の見学だったから、微に入り細ををうがった報告はできない。表面をなぞっただけのことになる。けれども、そこはそれ、日ごろ上ヶ原のグラウンドで彼らの様子を見続けているから、多少は報告の材料もある。
 これまでの合宿と比べて一番の違いは、かねいちやのグラウンドが人工芝に改装されたこと。ファイターズのホームページでも写真が紹介されているが、これまでの土のグラウンドとは文字通り雲泥の差だ。雨が降れば泥だらけ、晴れればパンパンに乾いたグラウンドは、その整備作業が大変だった。練習開始の前からトンボを持って整地し、バケツを持って水を逃がした。主に整備を担当するのはマネジャーだが、練習が始まると監督やコーチもトンボを持ち、水道からホースを延ばしてグラウンド整備に汗を流した。
 そんな作業が今年からは一切なし。昼間ににわか雨が降ろうが、夕方、夕立が来ようが、グラウンドの状態はいつだって完璧。まだ張り替えたばかりだから、芝の状態もよく、いつだってスケジュール通りの練習が保証されている。
 そうなると、練習内容も変わってくる。これまでは、練習が始まっても「グラウンド整備」や「ラインの引き直し」を名目に、多少は休憩できる時間があったけど、今年からはそんな時間は一切なし。すべて決められた通りのタイムテーブルに沿って進行していく。つまり、練習の密度が例年よりより濃くなっているということだ。
 もう一つは、味方同士の練習でありながら「がちんこ」の当たりが増えたこと。これは2、3年前から目立ってきたことだが、今年はいつも以上に気合いの入った当たり合いが多かった。とりわけ副将川端が率いるラインバッカーと突破力抜群の望月が率いるランニングバックのぶつかり合いは、味方同士とは思えないほどの真剣勝負。そのぶつかり合いや掛け声一つをとっても、互いに互いを意識し、刺激しあっていることが、見る者にひしひしと伝わってくる。
 ぶつかり合いといえば、ランニングバックやレシーバー陣の当たりも強くなっている。練習台になったOBたちが「○○の当たりは受けたくない」「ダミーを持って構えているだけでも肋骨が折れそう」などと、うれしい悲鳴を上げているのも聞いた。
 春のシーズンは、故障を癒やすことに専念し、ほとんど試合に出ていなかった昨年の主力メンバーも、大半が練習に復帰している。オフェンスではQBの畑やTEの副将金本がフル稼働で引っ張っているし、ディフェンスでは主将、梶原が先頭に立って練習している。ラインの前川、岸、朝倉、池永ら、春にはほとんど姿を見せなかった昨年のライスボウル戦士たちも元気に復帰し、さすがという動きを見せている。
 下級生も成長している。春のシーズンを主力として戦った2、3年生は夏に入って、一段と成長した。オフェンスではQB斎藤、RB鷺野、米田、飯田、WRの木戸や大園、樋之本は先発に名を連ねてもおかしくないし、3年生で占める大型ラインも健在だ。OLのリーダー和田も練習に復帰しているし、WR、RB、QBと一人で三つのポジションをこなす松岡弟も元気一杯だ。
 ディフェンスも、春のシーズンを先発で戦った2年生メンバーが成長し、層が厚くなった。DLの梶原弟、岡部、LBの小野、DBの国吉らは、故障から復帰してきた上級生とスタメンを争うことになるだろうが、その行方が注目される。
 上級生も黙ってはいない。昨年の甲子園ボウル、ライスボウルを戦ったDBの保宗、高、大森、鳥内弟、LBの池田らは、言葉よりもプレーでチームを盛り上げている。
 これに、将来有望な1年生が、すでに何人もVメンバーに加わっている。まだ顔と名前が一致しない選手もいるが、秋には何人かが交代出場という形で試合に出てくるはずだ。
 という次第で、今年のファイターズは例年になく、選手層が厚くなっている。先発メンバーが倒れたら、次がいないという状況だった数年前と比較すると、これが決定的に異なる点だ。
 では、本当にファイターズは強くなったのか。そう問えば、まだまだイエスとは答えられない。矛盾した言い方に思われるかもしれないが、現時点ではそうとしかいえない。
 アメフットは総合力の戦いである。個々のポジションの層がどれだけ厚くなっても、試合でそれが有機的に結合し、相乗効果を上げていかないと成果は出ない。練習の成果を試合結果につなげるためには、攻守蹴、そのすべてが互いに信頼し、高めあってもう一段上の境地を目指す必要がある。
 夏合宿の成果を成果とできるかどうかは、これからの取り組みにかかっている。それが秋の試合の結果につながり、試合の結果がさらなる成長の糧になっていく。その意味で、ファイターズは永遠に発展途上である。「層が厚くなった」「合宿でしっかり練習した」と満足した瞬間に、その成長が止まってしまうのである。上ヶ原に戻ってからのさらなる取り組みに期待したい。
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2012年08月08日

(17)自ら鍛える

 3度の食事は忘れても、活字を読むことだけは忘れない。それが学生時代から半世紀以上、続いている習慣である。山を縦走したりする時でも、荷物にならない文庫本をリュックに忍ばせているし、いよいよ身近に読む本がなくなった場合でも、代わりに地図を隅から隅まで眺めている。
 そういう暮らしをしていると、特段、目的を持って読まなくても、ちょくちょく気になる文章に出会うことがある。
 先日、たまたま読んだ「スポーツ随想」というコラムもその一つ。これは、帝京大学ラグビー部のフィジカルコーチをされている加藤慶さんが書き、共同通信が配信した文章だが、そこに次のような一節があった。要旨を引用させていただく。
 「腕立て伏せの肘の伸ばし具合を見ていると、その選手の特性が分かる場合がある」「腕立て伏せを練習の最後やランニングの直後、身体的に疲労が蓄積された状況で実施させる。しんどい状況なので、肘をほとんど伸ばさずに決められた回数をこなす選手がいる。一方で、多少時間がかかっても、肘をしっかり伸ばしきる者もいる」
 「前者は少し楽をしようとしており、練習や試合の追い込まれた状況でもやはり楽な方向へ逃げがちだ。自分に甘いため、コーチがいる場合と自分だけで練習するときの努力にも差が出る」「それに比べて後者は、窮地に陥っても逃げずにチャレンジできる傾向にある。どんな状況でも、常に自分に厳しい課題を設け、それをクリアしようと必死に取り組むので、安心して見ていられる」「厳しい状況でも怠けずに、自分の限界にチャレンジできる能力は、スポーツに限らず人間としても重要な資質だと思う」
 なるほど、と思った。ファイターズの諸君にこそ、読んでもらいたい文章だと思った。
 夏真っ盛り。室内で座り込んでいるだけでも暑い。炎天下で体を動かし、極限までの負荷を掛けて行う練習となれば、想像を絶するほど苦しいだろう。夏合宿の2部練、3部連ともなれば、日ごろから鍛えに鍛えた上級生にとっても、耐え難いほどの苦行になるだろう。まだ体のできあがっていない下級生にとっては、その苦しさはさらに倍加する。たとえ、それが高原の涼しい環境であっても、コーチもスタッフも特別に気合いを入れて臨む長期の合宿となれば、日ごろの練習の何倍もの負荷がかかってくるはずだ。
 そんなときに、どこまで自分を追い込めるか。与えられた課題を「肘を伸ばさず」に形だけでこなすのか。それとも、たとえコーチが見ていなくても、しっかり負荷を掛けてやり遂げるのか。その取り組み一つで、結果はがらりと変わってくる。楽な方に逃げる人間か、それとも、どんな状況に合ってもチャレンジすることのできる人間か。それが試されるのが10日から始まる夏の合宿だろう。
 週に1度か2度のことだが、上ヶ原での練習を見ていると、残念ながら、みんながみんな「自分の限界に挑戦している」とは言い切れない状況がある。プレーヤーだけでも約150人。負傷からの回復途上で、だましだまししか練習できない選手もいるし、授業が優先で、グラウンドに出るのが遅くなる選手もいる。それは仕方がないとしても、中には自分の中に何かの「言い訳」を設けて、もう一段上のレベルへのチャレンジを避けているような選手がいないわけではない。
 「甲子園ボウルの前の1週間も、春先の1週間も、同じ1週間。いつも甲子園ボウルの前の1週間という気持ちで取り組まないと間に合わない」と言い続けていたのは、昨年の主将、松岡君である。もちろん、毎日毎日、甲子園ボウル直前の雰囲気で練習に取り組めというのは無理なこと。気持ちを張り詰めてばかりでは、いつかは切れてしまう。適度な休養や気持ちのゆとりは、さらなる成長のために必要不可欠なことだろう。
 だが、松岡主将を中心とした昨年のチームは「どんな状況にあっても、常に自分で厳しい課題を設け、それをクリアしようと必死に取り組む」集団だった。「肘を伸ばして」課題に立ち向かう集団だった。
 「天知る地知る 我知る人知る」という言葉がある。手を抜いていれば、天が知っている。地が知っている。人も知っている。何より自分自身が知っている。自分に嘘をつかず、言い訳に逃げ込まず、限界にチャレンジしてほしい。夏合宿は、自らの決意と行動で、一段上のステージに上がれるチャンスである。自分と向き合い、自分を高めるために全力を尽くしてもらいたい。諸君の成長を祈る思いで待ち続けている。
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2012年08月03日

(16)アメフットの伝道師

 暑さと遊びにかまけて、すっかり遅くなったが、先日、大阪の朝日カルチャーセンターで行われた小野宏コーチの講演会の模様を報告する。
 「アメリカンフットボールの本当の魅力」と題して行われた講演会は、満員の盛況。カルチャーセンターで一番広い会場を埋め尽くす119人の聴衆が詰めかけた。親しくさせていただいているファイターズ後援会やファンクラブの方々の顔も大勢見える。東京から新幹線で見えられた方も少なくないようだ。KGファイターズの頭脳と呼ばれ、長い間オフェンスコーディネーターを務めたあと、近年はキッキングコーチを担当し、関西学院大学の企画室の担当課長として学院の将来構想・中期計画の策定や実行にも携わっている小野コーチの話に対する期待のほどがうかがえる。
 会場で配布されたレジュメによると、話は「人間の本質は遊びにある」「遊びそのものに人類にとっての崇高な価値があり、スポーツや経済活動など人間の活動のあらゆる局面にゲーム的な遊びの要素が組み込まれている」という前置きから始まり、昨年の甲子園ボウルの秘密を解説し、アメリカンフットボールの本質に迫る膨大な内容。途中、ビデオ画面を利用しながら、2時間の講演時間が予定されていたが、とうていその枠に収まる話ではない。結局、最後を急ぎ足でとりまとめ、質問の時間を短くして収拾されたが、それでも予定を30分近くオーバーする濃密な時間だった。
 冒頭の「甲子園ボウルの秘密」では、プレーのビデオを流しながら、キーとなるプレーを解説。キッキングによるゲームメイク戦略、奇跡を呼び込んだ計画されたパントカバーなどの舞台裏を説明した。途中、サプライズゲストとして、昨年の甲子園ボウル最優秀選手になったキッカーの大西君も登場。手近にあったペットボトルをボールに見立てて、勝敗を分けた逆回転キックや無回転キックの蹴り方や原理を解説する場面もあり、会場を大いにわかせた。
 さらには、ファイターズファンには、何度見ても感慨が新たになる2007年甲子園ボウルの逆転タッチダウンの場面。これをビデオで再現しながら解説する「逆転サヨナラ勝ちのシナリオ」や10年間、温めながら使う機会がなく、ようやく2007年の立命戦で成功させたゴール前3ヤードからのフェイクパスTDなど、数々のスペシャルプレーの舞台裏や興味深い話が次々に登場し、聴衆は興味津々だ。
 もちろん、成功したプレーばかりではない。1昨年のプレーオフ、関大との戦いで仕掛け、失敗に終わったフィールドゴールフェイクのプレーや、2007年の立命戦で、練りに練ったプレーが相手のより考え抜かれたブリッツで打ち壊された場面なども、ビデオ画像を見ながら解説。たった一つのプレーを1年間、互いに考え抜き、知恵を絞りあって工夫し、それをグラウンドでぶつけ合えるアメリカンフットボールの爽快感やワクワク感についても話した。
 これだけでも、この日の講演を聴きに来た人たちは満足、満足という様子だったが、これらはあくまで序の口。本題は、その後に展開された「フットボールの本質」についての話である。「メンバーチェンジの思想」「資本主義と分業」「数値のスポーツ」「数量化と視覚化」「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」などの柱立てをして、なぜアメリカンフットボールでは交代が自由に行えるのか、なぜスペシャリストが活躍できるのか、なぜ分業になっているのか、なぜ資本主義の国、アメリカでこのスポーツが発達したのか、というような点について解説してくれた。アダム・スミスの『国富論』やマックス・ウエーバー、果ては関西学院の創設者ウォルター・ランバスまでの言説を引用しながら、説き来たり説き去ったのである。
 聴講に来られていた関西学院大学名誉教授であり、かの「アメフット探検会」前会長の鈴木實先生が「大学教授も顔負け。素晴らしい講演です」と感嘆された内容だった。
 それを裏付けるように、講演会終了後に回収されたアンケートの回収率も上々。カルチャーセンターの講演会では珍しく69人もの受講生が提出。その大半が「素晴らしい講演だった」「機会があれば、是非また聞きたい」というようなことを書き込まれていたという。中には二人ばかり「次は石井さんの講演が聴きたい」という希望もあったそうだが、これはお愛想だろう。
 以上、小野コーチの講演会の概要である。僕のつたない文章では、その全容を伝えられないのが残念だが、幸い、ファイターズのマネジャーが会場の端っこでこの模様を「部内学習用」としてビデオに収録してくれている。ファイターズの諸君には是非、シーズンオフの時でもいいから、それを見ていただきたい。自分たちの関わっているアメリカンフットボールがいかに魅力あるものなのか、いかに奥行きの深いスポーツなのかということが理解でき、心から納得できるだろう。それを理解することで、このスポーツに取り組む意欲がさらにかき立てられ、技術も上達するに違いない。
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2012年07月24日

(15)期待の星

 関西学院大学はいま、前期試験のまっただ中。ファイターズの諸君はみな、ねじりはちまきで試験問題に取り組んでいる。
 当然ながら、僕が非常勤講師として教えている授業も終了。成績表もさっさと事務室に提出した(僕の授業では、毎週小論文を書かせ、それを採点し、それを元に成績を評価しているので、あらためて試験は実施しない。つまり授業終了=成績評価も完了となる)ので、いまは宿題を終えた生徒のように、ちょっとした開放感に浸っている。
 だが、大学の授業が終わるのを待ちかねたように、スポーツ推薦で関学を受験してくれる高校生を対象にした「小論文講座」を始めなければならない。今年も、大学の授業が終わった13日から週に一度、関西在住の高校生を対象にした勉強会がスタートした。
 今年、ファイターズからの推薦で受験してくれるのは、関西在住者だけで10人。ほかに関東地区から受験してくれる生徒もいるが、これはファクスをやりとりして指導することになる。
 振り返れば、こうした勉強会を始めたのは1999年。もう14年も前のことである。池田高校から受験する平郡雷太君と箕面高校から受験する池谷洋平君を相手に、小論文の書き方を手探りで教えたのが始まりだった。当時、僕は朝日新聞社で論説委員をしていたので、週に一度、仕事が終わった頃を見計らって大阪本社に来てもらい、社内の喫茶室や近所の喫茶店でマンツーマンの指導をした。
 だが、指導といえばかっこいいが、親子以上に年齢の離れた高校生にどのように教えたらいいのか、見当もつかない。どういう小論文を書けば大学の入試担当者に評価してもらえるのかも分からない。新聞記事を書くことには少しばかりの自負はあったが、大学受験の小論文なんて手がけたこともない。
 唯一の頼みは、朝日新聞で入社試験の小論文採点委員をした経験である。自分が採点したときに好感を持ったような小論文が書ければ、それでオーケーと決めて指導を始めた。
 指導というより「身近な人、おばあちゃんや妹に向かって話しかけるように書けば、読む人にもよく伝わる」「文章は短いほど分かりやすい。主語の次には述語、余計な形容詞や接続詞はない方がいい」「自分の体験を基に説明すれば、説得力のある主張ができる」などという、ごくごく大雑把な話をするだけ。それでも、平郡君も池谷君も頭脳明晰、感受性の豊かな高校生だったから、僕の話すことを即座に理解し、それを文章に反映させてくれた。彼らの進歩、上達に励まされて、高校生に対する指導法を勉強し、以来、毎年、この時期に高校生を相手に勉強会を続けている。
 もちろん、なぜ、関学の試験には小論文が課せられるか、小論文を書くことにどういう意味があるのか、ということについてもきちんと教える。大学は勉強する場所であり、スポーツは課外活動、しっかり授業に取り組み、成果を上げてこそアメフットも上達する。アメフットで成果を上げるためには、人の話を聞く能力を養わなければならないし、自分の主張を相手に伝える力も必要だ。そのためには、読み書きの能力が試される。具体的には小論文を書く能力が必要であり、それを身につけるために勉強会をしているのだよ、というようなことである。
 幸い、勉強会にきているメンバーは好感の持てる高校生ばかりである。大学生にも負けないくらいの大柄なメンバーがいるし、いかにもアスリートという生徒もいる。積極的に話しかけてくる生徒もいるし、小論文を一目見ただけで頭脳の明晰さを感じさせる生徒もいる。10人が10人とも期待の星、明日のファイターズを背負って立つ人材である。
 この顔ぶれを見ながら、リクルートを担当している宮本ディレクター補佐や3年生マネジャーの多田君らの努力に頭が下がる思いだった。足繁く試合会場に足を運び、関係者と接触を続けてきた鳥内監督や大村コーチの積極的なリクルート活動の成果といってもよいであろう。
 そしてもう一つ。忘れてならないのは、昨シーズンのファイターズの活躍である。プレーごとに火花が散るようだった立命との決戦、日大を翻弄した甲子園ボウルの頭脳的な試合運び、そして美しく戦い、堂々と散ったライスボウル。高校生のまぶたに焼き付けられたそれらの試合が「ぜひ、僕もファイターズでがんばりたい」と将来有望な選手たちの背中を押してくれたのである。
 ファイターズが美しく勝ち続けなければならない理由は、ここにもある。
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2012年07月15日

(14)アメフト探検会

 先日のことである。「アメフト探検会」という「秘密クラブ」の集まりに招待された。ずっと以前、このコラムに書いた記憶もあるが、ファイターズを熱狂的に支援して下さっている関西学院の先生方の集まりである。
 甲東園の居酒屋を借り切って開かれた今年度の集まりには、残念ながら会長が欠席(世話役をされている学会と重なったため)となったが、それでも前会長や前学長ら「とびきりのファイターズファン」が出席され、チームから参加した鳥内監督、大村コーチ、野原コーチらと杯を重ねた。
 「秘密結社」ゆえ、あえて名前は挙げないが、先生方はみな「ファイターズ命」の方々ばかり。甲子園ボウル勝利のビデオを自身で「50回は見た」と豪語し、ゼミの授業で観戦させている人がいるし、毎年のようにファイターズのメンバーをゼミ生として引き受けていただいている人もいる。遠く三田キャンパスから参加して下さった総合政策学部の先生もいる。
 「高等部時代の大村コーチの後輩」という国際学部の先生が「大村さんははあこがれであり、また怖かった」と打ち明けたり、ゼミで野原コーチを指導した商学部の先生が「彼はゼミでも特別にできがよかった」と紹介したり、KGファミリーならではの和気あいあいという雰囲気。アルコールのピッチが上がるにつれて、ファイターズへの注文も熱を帯び、コーチ陣もたじたじの様子だった。
 そんな賑やかな席で、僕は「ファイターズはなんと幸せなチームだろう」と、あれこれ考えていた。先生方がその職務を離れ、職場の壁を越えててわざわざ応援の会を設けてくれる。ゼミの学生にファイターズの魅力を伝え「応援に行くように」と薦めてくれる。文化系、体育会系、課外活動はいくつもあるが、その中で先生方にこのように支援してもらえるクラブはどれほどあるだろうか、と思いを巡らせていた。
 先生方だけではない。ファンの数が圧倒的に多いのもファイターズだ。ホーム、ビジター関係なく、どんな試合でもいち早く関西学院サイドから観客席が埋まっていく。収容人数の多い関西リーグ終盤の試合や甲子園ボウルになると、応援に来る人の数は相手チームの2倍にも5倍にもふくれあがる。それだけ熱心に応援してくださる方々がいるということだ。
 この凄さは、いつも数少ない応援の元で戦わなければならない相手チームと立場を変えて考えると、よくよく理解されるはずだ。ファイターズの好機には怒濤のような歓声が上がるのに、自らのチームの好プレーには反応がない。そんな進行では、士気を高めるのも容易ではない。
 このコラムへの読者の反応を見ても、ファイターズは幅広い方々に支援されていることが実感できる。先日、JV戦で活躍した下級生のことを取り上げたコラムに感想を寄せて下さった「高濱先生」もその一人である。その感想には「選手を遠方に送り出し、元気にやっているか? チームになじんでいるか? などといつも気にかけています」という言葉があったが、これもまた、形を変えた支援だろう。つまり、東京から遠く離れたファイターズに「手塩にかけた選手たちを送り出す」という形の支援である。チームに対する信頼がなければできないことである。
 しかし、ファンの方々からの応援も、高校指導者からの信頼も、それは一朝一夕に獲得したものではない。戦後、一貫して大学トップの座を争い、チームのモラルを高めてきた歴代の指導者と選手が築き上げてきた財産である。どんなに苦しい時でも弱音を吐かず、努力を怠らず、ファイターズ・スピリッツを体現してきた部員全員が分かち合うべき果実である。
 伝統という言葉で呼ぶしかない。
 最近は、どこのチームも試合が終わった後ライン沿いに整列し、観客席に向かって深々とお辞儀をする。そして「応援ありがとうございました」とキャプテンがお礼の言葉を述べる。それを指して、形式的だという人もいるが、僕はそうは思わない。これは支援する者と支援される者をつなぐ欠かせない儀式であり、この儀式を通して選手たちの感謝の気持ちと、支援する側の思いやりの気持ちが結び付けられるのだと思っている。
 ファイターズの諸君。より多くの人々に「支援したい」「応援してよかった」と思われるチームを目指してほしい。そのために、この夏、存分に鍛えてもらいたい。
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2012年07月05日

(13)春の決算、その2

 6月30日のJV戦、大阪学院大学との試合で、春のシーズンは終了。これから前期試験を挟んで、勝負の夏が巡ってくる。甲山での走り込み、鉢伏高原での長期合宿。存分に体を鍛え、技術を習得して、秋本番に備えなければならない。
 その前に、今年のチームは春のシーズンをどう過ごしたのか。個々の選手はどこまで技量を向上させたのか。どんな収穫があり、どんな課題が残ったのか。そういうことについて書いてみたい。
 まずは最終JV戦の収穫から。
 一番目立ったのは、DB鳥内弟。立ち上がり、ファイターズのキックをレシーブした大阪学院の攻撃を一人で封じた。第一プレーから立て続けに相手RBに強烈なタックルを見舞ってパントに追いやったかと思うと、さらには相手のスナップが乱れた隙をついてパンターに襲いかかりゴール前6ヤードで押さえつけた。
 この好機に、RB野々垣が6ヤードを走り切り、ファイターズは最初の攻撃でいきなりTD。ゲームの主導権を握った。
 鳥内はその後も、思い切りのよい動きで再三相手のボールキャリアにタックル。それは昨シーズン、立命戦で相手QBを一発で仕留めたDB香山を彷彿させるような当たりであり、迷いとか逡巡とかいう言葉とは無縁の動きだった。「オレが仕留める」という気持ちがそのまま表現された「魂のタックル」といってもよい。
 それが第4Q早々、29ヤードのインターセプトTDに結びついた。試合が13−3のまま膠着状態になっていたのを打破したというだけでなく、グラウンドでプレーしているすべての人間に「喝」を入れるプレーでもあった。迷いを吹っ切り、何かをつかんだ、一段上のステージに上がったということを、スタンドからでも確信させてくれるパフォーマンスだった。
 彼は昨年後半のビッグゲームでも、先発に名を連ね、2年生とは思えないほどの活躍をした。同時に、ライスボウルでは、日本1のレシーバーと自他共に許すオービックの木下選手に子どものようにあしらわれ、悔しい体験もしている。日本を代表するプレーヤーととの間に横たわる深い溝を見せつけられ、どうすればその溝を越せるかと迷い、苦しみ、悩みながら、この半年間、練習を続けてきたに違いない。本来なら、JV戦は出なくてもいいほどの経験があるのに、あえて出場したのには、それなりの思いと覚悟があったに違いない。その覚悟が一つ一つのプレー、タックルとして表現された。一番目立った選手として、とくに名を挙げるゆえんである。
 もう一人、何かをつかみかけている、と思わせるパフォーマンスを見せた選手がいる。LBの控え、キッキングのカバーチームの先発として出場した雑賀である。彼も鳥内と同様、高等部では野球部で活躍し、大学に入ってからアメフットに転向した選手である。チームでも1、2を争うスピードを持ちながら、タックルするのが苦手で、Vの試合ではなかなか出場機会がなかった。
 けれども、キッキングチームの練習などを見ていると、いつも誰よりも早く相手パンターの近くに到達、あわやパントブロックか、と思えるようなパフォーマンスを何度も見せていた。何かきっかけをつかむと、ファイターズの守りには欠かせない「スピードスターになる」という予感がいつもしていた。
 ようやくこの日、春のJVの最終戦になって、その予感が形になって見え始めた。LBでも、パントカバーでも、相手選手にタックルする場面が何度か見えたのである。あれだけのスピードスターがタックルすることを覚えたら、えげつないプレーヤーになるのに、という期待が実現しそうな動きが見え始めたのである。これも収穫だった。
 二人だけではない。この日、登場した1年生にも、才能を感じさせるパフォーマンスを見せてくれた選手が何人かいる。LBとロングスナッパーとして登場した作道、先輩に見劣りしない動きを見せたOL鈴木、落ち着いたプレーをしていたDL岡村、長いパスを1本、確実にキャッチしたWR西山らである。U19の世界大会に出場しているDL橋本、WR田中、木下を含め、この夏にどれほど鍛えることができるか。楽しみでならない。
 多分、いま名前を挙げた1年生のうち、何人かは秋のリーグ戦でも出場機会をつかみ、期待に応える働きをしてくれるのではないか。この日のJV戦で活躍した2、3年生を含め、彼らの成長を首を長くして待つことにしよう。
 付記
 最終のJV戦を含め、この数試合を見て、早急に取り組まなければならない課題がいくつか見えている。それについても書きたいところだが、気が重い。書き始めると個々の選手の批判になりかねないし、チームの運営に口出しするような結果になるかもしれない。しばらくは、一人で勝手に悩んでいるしかないだろう。
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2012年06月27日

(12)大ブレークの予感

 先週末のJV戦は、追手門大学との対戦。期待の新戦力が大挙して出場し、わくわくするようなプレーを見せてくれた。試合経過を追いながら、順を追って紹介すればよいのだが、それでは焦点がぼやけてしまう。今回はあえて、2年生の新戦力に絞って紹介させていただく。
 先発に名を連ねた2年生は、攻撃ではラインの武内、TE松島、WR松岡、QB斎藤、RB米田。守備がラインの岡部、梶原弟、LB西山、森岡、DB村岡、国吉、林。これに主な交代要員として、WR樋之本、片岡、RB吉澤、DL国安、北本、DB吉原らがフィールドを駆け巡った。
 中でも目についたのは、身長が186、7センチもある樋之本、松島、片岡の巨漢レシーバー陣。記録を見ると、片岡が4回98ヤード、松島が4回55ヤード、樋之本が3回64ヤードを獲得。陣地を進める原動力になった。それぞれが相手守備陣より一回り背が高く、QBが安心してパスを投げられる。松島はブロック力に優れ、樋之本はキャッチがうまい。片岡は高校時代、バスケットボールをしていたということで、パスを受けてからの身のこなしが素早く、確実におまけのヤードを稼げる。
 こうした特徴を持った巨漢が代わる代わるにパスを受け、相手守備陣を崩していくのだから、見ている方はわくわくする。
 パスが通ると、必然的にラン攻撃も進む。前半は斎藤、後半は松岡がQBを務めたが、特段、難しい攻撃を組み立てなくても、ランとパス、そしてQBキープという単純な組み合わせだけで都合540ヤードを稼いだ。
 3本のTDを決めたRB米田、QB、WRというよりランナーとして活躍した松岡、それに1年生とは思えないほど「人に強い」ラッシュを見せたRB三好の活躍も特筆される。それぞれに持ち味は異なるが、潜在能力の高さを感じさせる活躍だった。
 もう一人。彼らの派手な活躍の陰に隠れているが、忘れてならないのがFB吉澤。昨年、FBとして強烈なタックルをほしいままにし、相手守備陣を悩ませた兵田君とそっくりの体型で、当たりの強さも兵田君ばり。加えてボールを扱うセンスもよく、ここ一番という場面で頼りになるプレーヤーになりそうな予感を抱かせてくれた。
 守備陣も多士済々。ラインの岡部と梶原弟は今春、Vのメンバーとして経験を積んだことが自信になったのだろう。ラインとは思えないほど素早い動きと強い当たりで、相手のオフェンスを切り裂いた。
 LBの要として守備陣をリードした西山はボールキャリアへの寄りが速く、笛が鳴ったときには大抵、キャリアに絡む形を作っていた。高校時代、アメフットは未経験というLB森岡も動きがスムーズになり、いつかその身体能力の高さを生かして大化けしそうな予感を与えてくれた。
 DBもまた人材が多い。国吉と村岡は、ともに動きが素早く、鮮やかなインターセプトを決めた。守備陣の最後の砦としての役割を果たしながら、積極的にキャリアに当たる決断もできる。昨年のDBを引っ張ってくれた香山君、重田君の穴を埋めるのは、この二人かな、という予感すら感じるほどだった。
 このように、目についた2年生に限って名前を挙げていくだけでも、今年は多士済々。新チームになってからずっと、目先の勝敗、試合にこだわらず、ひたすら体を鍛え、試合のできる体づくりに徹してきたチームの方針が実り始めているのだろう。春季はひたすら若手に経験を積ませ、試合の中で成長を促すという試みが、JV戦とはいえ、形に表れてきたのだろう。
 これだけの能力を持った選手たちが春学期の試験を終えて走り込み、夏合宿で鍛えていけば、秋の試合でブレークするのは必至である。その日が来るのが楽しみでならない。今からわくわくする。

付記
 もちろん、2年生以外にも成長途上にあるメンバーは大勢いる。1年生にも有望なメンバーが並んでいる。その辺の話は、次回、春の最終戦となる大阪学院大学との試合でチェックを入れたい。
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2012年06月20日

(11)JV戦の楽しみ

 6月もまだ半ばというのに、またも台風の襲来である。僕の働いている紀州・田辺では昼過ぎから風雨が強くなり、昼の食事にちょこっと出ただけで、ズボンもシャツもびしゃ濡れ。傘を差していても、何の効果もない。夕方には紀伊半島の南部に上陸したそうで、帰宅するときも風がビュンビュン吹いていた。
 それでも天気図を見れば、田辺はまだ被害は少ない方で、昨年秋、甚大な被害の出た熊野川流域や古座川流域は雨の被害、土砂災害が懸念される。現場を駆け巡っている若い記者たちは大変だろうが、僕は明朝まで特段、することもない。自宅待機ということで、少し時間ができたから、台風と何の関係もないこのコラムを書こうとパソコンに向かっている。
 さて本題である。春のファイターズは、昨年の関西リーグ終盤から甲子園ボウル、ライスボウルと続くハードな戦いの中で負傷し、体調が万全ではない主力選手を休ませながらの試合が続いた。その間、チームは攻守とも試合経験の少ないメンバーを積極的に起用し「試合の中で技量を身につけ、鍛えて行く」という方針に徹してきた。その辛抱強い起用に応えて、攻守とも若いメンバーがずいぶん力を付けてきた。それは、先日のパナソニック・インパルスとの試合で証明された。
 しかし、これで本当に秋のシーズンを戦えるだろうか。春に先発に名を連ねた選手たちが夏に鍛え、心技体とも万全の状態で秋のシーズンに臨むことができたら、今後復帰してくるだろう昨年のメンバーと合わせて、そこそこの陣容は整うだろう。しかし、アメフットにけがはつきもの。どこでアクシデントが起きるか分からない。それに備えなければならないし、それ以上に先発メンバーを脅かす控え選手の成長、追い上げがなければ、チームは沈滞してしまう。
 何しろリーグ戦で戦う相手はどこも力を付けている。ほんの数年前までは上位チームと下位チームには、僕のような素人が見ても、その力に顕著な差があったが、いまはどこのチームも戦力が充実している。「調整」気分で戦えるようなチームは一つもないといっていいだろう。そんなチームに勝つには、当方も常に控え選手の底上げ、奮起が要請されるのである。
 そういう側面から考えると、昨年まではベンチを温めていた控えのメンバーが成長したといっても、とうてい安心できる状態ではない。監督やコーチに聞いても、誰もが「もっとチーム内の競争が激しくならないと。とりあえず先発メンバーが組めるというだけではリーグ戦は戦えない」と口を揃える。
 その意味で、これから2週間連続で行われるJV戦が注目される。
 一つは今春入部した1年生たちが本格的にデビューする試合であるということ。昨年もこの時期のJV戦で、いまVのメンバーとして活躍しているRB鷺野、松岡、吉澤、QB斎藤、WR木戸、大園、DL梶原、岡部、LB小野、西山、DB国吉、市川、村岡、K三輪らが次々に登場。期待に応えるプレーを見せてくれた。
 今年も、スポーツ推薦で入部した部員はもとより、ラグビーやハンドボールなど他競技で全国大会に出場経験のあるアスリートが何人も入部している。春からずっと筋力トレーニングや体幹強化訓練を続けて、ようやく試合に出られる状態にまで体調を整えてきた。すでに、Vの試合やJV戦に登場したメンバーもいるが、今度の2試合が彼らにとっては「晴れの舞台」になる。そこでどんなプレーを披露してくれるか。胸がわくわくする。
 もう一つは、けがなどでなかなか出場機会のなかった3、4年生や、素質はあってもVの試合に出るには力不足と見られていた2、3年生がアピールする舞台であること。毎年のことだが、このJVの試合で首脳陣にアピールし、それが自信となって夏合宿で格段に成長を遂げる選手がいる。いまやファイターズのエースであり、タッチダウン誌の表紙を飾るまでになったRB望月も、LBとして出場した2年生の時のJV戦で頭角を現し、秋にはスタメンをとった選手である。
 こういう選手が何人出現するか。これもまた見所である。
 こんな試合が無料で、ファイターズのホームグラウンドで行われる。母校の訪問を兼ねて、ぜひとも足を運んでいただきたい。期待の選手の活躍を身近で見守っていただきたい。彼らが納得のいく試合をしてくれたら、拍手を送り、入場料代わりにファイターズへの指定寄付をしていただきたい。そんな寄付がどっさり集まることを夢見ている。
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2012年06月12日

(10)練習は裏切らない

 10日のパナソニックインパルスとの試合は見応えがあった。逆転、逆転、また逆転という試合の経過を追うだけでも面白かったが、個人的に注目している選手がそれぞれ見せ場を作ってくれたことがうれしかった。
 筆頭は、第3Qの終盤、逆転の39ヤードTDパスをキャッチ、試合終了間際には決勝点となる92ヤードのキックオフリターンTDを挙げたWR木戸。次いで、終始冷静なプレーぶりで社会人王者相手のタフな試合を戦い抜いたQB斎藤、そして、余り目立たなかったけれども、何度も「あわや独走」という場面を演出したRB鷺野。まずは、この2年生3人の活躍を特筆しておきたい。
 木戸は、試合を決める92ヤードのキックオフリターンTDもすごかったが、僕が目を見張ったのは、その前の39ヤードのTDパスキャッチ。相手のフィールドゴール失敗からつかんだ好機に、まずはRB望月が41ヤードを独走して相手陣に攻め込む。相手守備陣が次の対応を決めかねている一瞬の隙を突いて、斎藤がゴールめがけて長いパス。それを超スピードで走り込んだ木戸が相手守備陣のカバーをかいくぐってキャッチ。一度ははじいて空中に浮かんだボールを執念で確保した見事なプレーだった。
 このプレーもすごかったが、本当にすごいのは、これと全く同じ状況のスーパーキャッチを1週間ほど前の練習で彼が実現していたこと。誰もが捕れない、パス失敗、と思ったボールを彼が確保し、チームメートも思わず拍手を送った現場を見ている僕は「練習通りのプレーが出た。練習は裏切らない」と一人快哉を叫んでいた。
 同じことは、この日の斎藤のプレーからも確信させられた。彼は昨年、中央大学附属高校からファイターズの門を叩き、数々のカルチャーショックを経験しながら、懸命にチームに溶け込んできた。1年生のシーズンが終わった後、小野コーチからパスのフォーム改造を提案され、来る日も来る日も、理想とする新しいフォームを身につけようと練習に励んできた。しかし、春先の試合ではなかなか成果が出ず、エースQBの畑が欠場した穴を埋めるのに四苦八苦していた。
 しかし、腐ることなく、ひたすら練習に取り組み、ようやく春季最後の試合で、光明を見いだした。途中、チームの反則をきっかけにリズムを崩し、ずるずると後退した場面もあったけれども、強力なパナソニックの守備陣に臆することなくパスを投げ、走り続けた。とりわけ、第4Qの半ば、ゴール前11ヤードからの攻撃でWR梅本に投じたパスがよかった。梅本と相手DBの身長差を見極めて軽く浮かせて投げたパスは、思惑通り梅本の頭上に飛び、それを計算通り梅本がキャッチしてTD。ひいき目かもしれないが「試合を自分でコントロールしている」という自信が生み出したプレーに見えた。彼もまた「練習は裏切らない」ということを証明した一人である。
 この試合では、びっくりするような記録は残さなかったが、鷺野もキックオフリターンとラッシュで、何度も非凡な走りを見せた。鋭角に切れ込み、かつスピードのある彼のラッシュは、いつでも1発TDの魅力があり、相手守備陣を幻惑する。彼のスピードと望月の突破力が相乗効果を上げれば、ファイターズのラン攻撃の威力は倍増する。相手チームから見れば、とてもやっかいなことになりそうだ。
 彼も冬場から6月まで、一度も試合に出ることなく、ずっと地味な練習に専念してきた一人である。
 攻撃の3人だけではない。守備でも2年生LB小野が鋭い動きを見せていた。遠く離れたスタンドからでも、持ち前のスピードを生かしてボールキャリアに襲いかかり、何度もピンチを食い止めている彼の姿が目立った。彼もまた、毎日、練習が楽しくて仕方がない、という表情で取り組んでいる選手の一人である。
 この試合では、大村コーチの指導で特別な練習をしている3年生のOL(左から田渕、石橋、上沢、長森、木村が先発)も練習の成果を見せてくれた。昨年のライスボウルのスタメンからは濱本、谷山、和田、友國と4人が欠け、残っているのは田渕だけだったが、強力な相手守備陣の強くて速い動きに、粘り強く対応し続けた。彼らもまた、練習は裏切らないということを実証した面々である。
 守備陣も、日ごろからしっかり練習に取り組んでいるメンバーが先発した。DLの朝倉、梶原弟、岡部、寺本、LBの川端、小野、池田、DBの高、大森、保宗、鳥内弟。この日、先発に名を連ねたのは、いつもそれぞれのパート練習で、先頭に立って声を上げ、汗をかいているメンバーである。
 こういう面々が活躍し、関西の社会人王者を下したことを喜びたい。そして「練習は裏切らない」「練習でできないことは試合でもできない」という当たり前のことを、チームの全員が共有し、秋に向けて取り組んでほしい。
 ファイターズに「所属」していることが目的ではない。そこで「活動」し「活躍」することを目標に、全員がもう一段上のステージを目指して励んでもらいたいと願っている。
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2012年05月31日

(9)ピンチをチャンスに

 ファイターズに血をたぎらせている友人から電話があった。先日の関大戦を観戦していて、チームの現状に居ても立ってもいられない気持ちになったという。
 「あれが今年の実力か? 攻守ともなんだかちぐはぐで、心配になるんだけど」
 「昨年活躍した梶原や畑は、いまどんな状態なん? 秋には出てこられるの? 彼らが活躍してくれないとヤバイんと違う?」
 こんな彼の質問は、あの日、王子スタジアムで観戦されていた多くのファンに共通する疑問だと思う。実際、攻守ともミスというか不本意なプレーがいくつもあった。立ち上がり、ファンブルという形で相手が与えてくれた2度のチャンスを攻めあぐね、フィールドゴールの3点しか取れなかった攻撃。相手にはここ一番というプレーをびしばしと決められたのに、自分たちはせっかくのインターセプトの機会を2度も失敗した守備。
 キッキングチームも精彩を欠いた。前半、短いフィールドゴールは外すし、パントも不安定。終盤、WR木戸の好リターンからつかんだ好機にRB陣が奮起、最後はRB鷺野が11ヤードを走り切ってTD。K堀本もキックを決めて同点に追いついたのに、その直後に、95ヤードのキックオフリターンTDを許して、再び追いかける展開を強いられた。
 試合終了まで残り3分ほどという状況で、ようやくQB斎藤からWR梅本へのTDパスが決まって1点差。しかし、勝ち越しを狙った2点コンバージョンは、相手の反則でゴール前1.5ヤードからの攻撃となったのに、それが決められなかった。
 いわばこのプレーが、春シーズンの象徴。絶対に決めなければならないところで決められない。ここをしのげば明かりが見えるという場面で、しのぎきれない。歯がゆい気持ちばかりが募っていく。古い友人が心配して、わざわざ電話をかけてきた気持ちがよく分かる。
 だが、現状を憂い、悲観するだけでは、年寄りの繰り言。チームは生きている。適当な水分を与え、新たな養分を注ぎ込まなければ成長しない。時には剪定や間引きも必要だろう。失敗は失敗、できなかったことはできなかったことと現実を直視し、そこから対策を立て、次の手を打っていかなければ、話は前に進まない。
 あのような不本意な試合になったことをどう受け止めるのか。そこから何を学び、何を成長の糧にしていくのか。そういう方向で話を進めて行かないと、チームとして脱皮することも成長することもできない。
 この世には2種類の人間がいるという。物事を悲観的な側面から見る人と、楽観的な側面から見る人である。何かの行動を起こし、判断をするとき、もしもの場合を考えて、あらゆる注意を怠らない人と、あえて渦中に飛び込み、浮かぶ瀬を探し出す人。走る前に考える人と、走り出してから考える人といってもいいだろう。
 それぞれに、いい面、悪い面がある。どちらの生き方が正しい、とは言い切れない。はっきりしているのは、僕が明らかに楽観的な側面から眺める人間であるということだ。物事を突き詰めて考えることが苦手で、いつも「ぐじゃぐじゃいう前にやれ」「とにかく走れ、理屈は後からついてくる」という生き方を選択してきた。「くよくよするのは今夜だけ。明日は明日の風が吹く」という信条で、この60数年を生きてきた。
 なんせ、新聞記者だ。抜いた抜かれたは世の習い。いちいち抜かれたことにくよくよしたり、落ち込んでいたりしたら、その日の新聞が作れない。「抜かれたのは昨日のこと。明日はまた別の日が始まる」。そう思って、日々、心を新たにしないとやっていける仕事ではない。
 ファイターズの諸君にとっても同じこと。最長でもわずか4年しかない競技人生だ。昨日の失敗を引きずっている時間はない。たとえ失敗があったとしても、不本意なことがあったとしても、それを乗り越え、糧にして、新たな一歩を踏み出すことが大切だ。
 幸い、あの日の試合で関大はたぐいまれな戦力があり、いろんな戦い方ができることを見せてくれた。個人として傑出した能力を持った選手が何人もいること、途中から出場した1年生QBが、とてつもない可能性を持った選手であることも分かった。
 収穫である。あのような傑出した選手たちとどのように戦うのか、そのためにはどんな練習が必要なのか、そのためにチームのリーダーである4年生はどのように振る舞えばよいのか。具体的な課題がいくつも与えられた。いまこの時期に、そのような課題が与えられたというのは、幸運というしかない。
 この幸運を生かしたい。チームが一丸となって対策を立て、取り組みを深める。その取り組みができるように心身を鍛える。足らざるを補い、長所をさらに伸ばしていく。そういう機会とすれば、あの不本意な試合も、笑顔で振り返えれる日がくるに違いない。
 落ち込んでいる時間はない。他人を責めている暇もない。いまは、ひたすら練習に取り組むしかないのである。
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2012年05月25日

(8)春の決算、その1

 26日は、王子スタジアムで関西大学との対戦。毎年、この時期に厳しい戦いを繰り広げているライバルとの試合である。この春、試合経験を積んできた若い選手たちが、どんな戦いぶりをするか、強敵を相手にその力が存分に発揮できるか。例年、春シーズンの仕上げとして、特別の思いを持っ戦ってくれる相手だけに、見所は一杯だ。
 なんせ関西大学には、攻守とも恐ろしいほどの才能を持った選手が何人もいる。オフェンスの前田、高崎らはオールジャパン級の選手だし、デフェンスバックを中心にした守りも堅い。そんな選手がライバル意識をむき出しに戦ってくれるのだから、これ以上の舞台はない。
 この春、明治、日大、日体大と関東勢との対戦を終え、秋の関西リーグで戦う龍谷大とも手合わせをした。しかし、それぞれの試合で登用されたのは、伸び盛りの若手が中心。昨年秋のシーズンから甲子園ボウル、ライスボウルへと続くタフな試合に出場し、試合ごとに力をつけていった選手たちの多くは、ベンチを温めることが多かった。
 オフェンスではQB畑、RB望月、鷺野、WR小山らがほとんど登場しなかったし、ラインの和田も一度も試合に出なかった。
 デフェンスも同様。昨年、スタメンで出場したラインの梶原、前川、岸、池永らはこの春、一度も試合に出ていない。LB池田、小野、DB大森、鳥内将らも前半だけは出るが、後半からは若手に出場機会を譲ることが多かった。
 その分、下級生を中心に、これまで出場機会のあまりなかった選手たちがスタメンで登場。試合を任される形で出場を続けた。QBの斎藤、前田、RBの飯田、米田、WRの木戸、梅本、ラインの木村、上沢、長森、月山らである。守備ではラインの中前、植屋、岡部、梶原弟、LBの坂本、雑賀、片桐、DBの国吉、市川、森岡らである。先日の日体大戦では、フレッシュマンのDL橋本、WR田中、木下らも登場、才能の片鱗を見せた。
 試合では、その恵まれた能力を発揮した選手もいたし、思わぬミスをしたり、思い通りにプレーできなかった選手もいた。大村コーチが「掘り出し物」と目を細めた選手もいるし「まだしばらく時間がかかりますね」と首をかしげる選手もいる。いま、素晴らしいプレーをしたと思っても、次にはそれを帳消しにするようなミスをした選手もいる。
 間違いなくいえることは、全員がまだまだ発展途上、ということ。昨シーズンの終盤、試合に出るたびに力をつけていった上級生と同様、試合を経験することで、どんどん伸びる余地があるということである。
 その成果を試す絶好の機会が今度の関大戦である。何しろ、能力の高い選手が多い。とりわけオフェンスには昨年RBで活躍した前田やWR、QBとしてスピード感あふれるプレーを連発した高崎らがいる。昨秋のリーグ戦では、それをDB香山や重田の魂のタックルが防いだが、二人はもう5年生。試合には出られない。
 果たしてLB、DBに彼らのような活躍をしてくれる選手がいるのかどうか。ラインは関大勢のスピードにどこまで対抗できるのか。見所が多いというのは、この点である。もちろん、能力の高い相手守備陣は、ファイターズの攻撃を宗やすやすとは通してくれないだろう。その警戒網をくぐってパスを通し、ランで突破するのは誰か。QBにとってもWRにとっても、もちろんRBにとっても、挑戦しがいのある相手である。
 こうして攻守とも、春のシーズンにどれだけ仕上がったのか、冬から続けてきた取り組みは間違っていなかったのか。そういう問いにも答えが出るだろう。楽しみである。ファンのみなさまも、ぜひ王子スタジアムに足を運び、自分の目で選手たちの成長ぶりを確かめていただきたい。

 さて、ファイターズファンだけでなく、日本のフットボールを愛する方々にご案内が一つあります。ファイターズのキッキング担当コーチ、小野宏氏の講演会のお知らせです。
 講演会は7月28日夜、大阪市北区中之島3丁目の朝日新聞社ビル内にある朝日カルチャーセンター中之島教室で開かれます。演題は「アメリカンフットボールの本当の魅力」。昨年、驚異的な成功を収め、日本アメフット界の話題を呼んだファイターズのキッキングゲームについて、裏話を盛り込んだ興味深い話を「ファイターズの頭脳」と呼ばれる小野氏が明快に解説し、フットボールの奥の深さと本当の魅力を教えてくれます。希望者が殺到する可能性がありますので、申し込みはお早めに。
 詳細はこちらからご覧下さい。
http://www.asahiculture.com/LES/detail.asp?CNO=166532&userflg=0
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2012年05月19日

(7)常住坐臥の心構え

 このところ、週末ごとに試合がある。秋のリーグ戦は2週間に1回だが、それでも試合が終わればすぐに次の準備に追われる。時間がいくらあっても足りない状況だ。それが毎週ということになれば、選手やスタッフにとっては、その準備や運営に振り回される毎日だといっても過言ではなかろう。
 しかし、それでも毎週、試合のスケジュールは組み込んでいかなければならない。本気で向かってくる対戦相手と、本気で向き合うことで、自らの弱さを知り、また自分の力が思い通りに伸びていることを実感できるからだ。ここ一番というプレーを成功させることで自信をつけ、失敗することで自らの至らなさを実感する。そんな機会は、日ごろ仲間内で重ねている練習ではなかなか得られない。
 とりわけ、試合経験の少ない下級生にとっては、どんなに少ない出場機会であっても、試合に出てプレーをすることが最高の練習になる。日ごろの練習でできていることが試合でもできるか。相手が本気になってぶつかってきたときに、それを跳ね返せるか。相手のスピードにどこまで対抗できるか。仲間が失敗したときにそれをどうカバーするか。試したいことはいっぱいある。
 かといって、毎週末に対戦する相手に備えた練習だけを意識していたら、基礎的な技術の習得や体力作りの時間が足りなくなる。ミーティングの時間も必要だし、大学生だから授業にも出なければならない。もちろん、休息の時間を確保することは大切だし、栄養も適切に補給する必要がある。さもないと、体力作りもままならない。
 そういう「どれだけ時間があっても足りないような毎日」だからこそ、チームとしても、一人一人の部員にとっても、日ごろの心構え、取り組みが大切になる。グラウンドでチームの練習に参加しているときだけではなく、常住坐臥、生きているこの一瞬一瞬が自らを鍛える大切な時間となるのである。
 江戸後期に活躍した平山行蔵(1759〜1829)という武士がいる。剣術、槍術、柔術、弓術、馬術から大砲を撃つ術や水泳まで、あらゆる武芸に堪能で、儒学や兵法、農政から土木事業にまで通じていたという化け物のような人物である。道場の玄関に「他流試合勝手次第なり。飛び道具矢玉にても苦しからず」と書いていたというから、自分の技量には絶対の自信を持っていたのだろう。
 体は当時としても小柄だったというから、多分、160センチにも達していなかったのではないか。
 それでも、数え13、14歳ぐらいの時には土を詰めた俵(約60キロ)を担ぎ上げて両親を喜ばせた。中年の頃には、相撲界で一番の怪力とうたわれた大関・雷電が来訪。力比べを挑んできたときに、雷電が手に持つだけでやっとだった大筒を簡単に持ち上げたり、3度、互いに胸板を押し合い、3度とも相手を圧倒したりして「武士は違い候」と屈服させたエピソードがある。
 この人の鍛え方がすさまじい。例えば「不断は朝起きして、幹周り3尺ばかりの立木を相手に8尺ばかりの樫の棒にて百遍づつ打たれ、その音で近所の人たちが起床した」とか「書物を読むときには、2尺四方の槻の木(ケヤキ)の板に座り、両方の拳をその板に打ち付けながら読む。そうして拳を鍛えた」という。
 さらに、食事は玄米に味噌をつけて食べるだけ、着物は冬でも薄っぺらな袷(あわせ)一枚、足袋もはかなかった。寝るときも60歳を過ぎるまでは夜具を持たず、甲冑のまま土間に寝た。すべてはいざというときの備えであり、武士としての心構えだったという。
 「夜具を持たず、土間に寝ている」という話に付随して、こんなエピソードも伝えられている。彼をひいきにしている老中、松平定信公があるとき、この話を当人に確認した上で、ならば布団を贈ろう、といってプレゼントしてくれたため、ようやく夜分は布団を掛けて寝るようになったが、それでも「初めの内は夜分、気味悪く候ひしが、慣れ候故か、次第に年寄る故か、いまは温かにしてよしと語られける」と語ったそうだ。
 これらの話の多くは、平山のもとに親しく出入りしていた勝海舟の父、勝小吉が「平子龍先生遺事」(平凡社ライブラリー「夢粋独言」所収)という著書に「先生から直接聞いた話」として書き残している。
 以上、常住坐臥、日ごろの心構えが大切、という話である。ファイターズの諸君にあっても、何かと参考になるのではないか。
 グラウンドで練習している時間だけが自分を鍛える時間ではない。朝起きてから夜寝るまで、あらゆる機会を捉えて自らを鍛え、高めて行く。その成果を試合で確かめ、それを成長の糧にしていく。そういう舞台として、試合を位置づけていけば、毎試合「大漁」が期待できる。毎週の連戦を、収穫の場、試練の場として生かしてもらいたい。
 今日も昼から日体大との対戦。かねてから期待している選手たち、とくに試合経験の少ない2年生が素晴らしいパフォーマンスを見せてくれそうな予感がする。楽しみだ。
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2012年05月12日

(6)背中で勝負

 新聞社で若い人たちと仕事をしていると、折りにふれて「人を育てるのは難しい」と実感する。
 読者がすらすら読める文章が書けない。これはニュースだ、と思うようなことでも、即座に反応しない。怒るべき時に怒らない。読者と喜怒哀楽をともにする感受性がない。何より向上心がない。
 こう書くと、ろくでもない怠け者ばかりのように誤解されるかもしれないが、その実像に接すると、決してそんなことはない。みんな人間としてはいい子ばかり。日常の会話をしていても、いやな気持ちになることがない。取材相手にもかわいがられていることは、彼らの書いてくる原稿からも伺える。
 だが、新聞記者を45年も続けて、それなりにこの仕事に愛着と誇り、自負と自信を持っている人間の基準で見ると、足りないことばかりである。「新聞記者というより、人間として必要なのは向上心。昨日より今日、今日より明日。一歩でも半歩でも前に進むように努力することが肝心」「努力の成果はなかなか目には見えない。でも、そこであきらめたらおしまい。懸命に足を動かし続けていたら、ある日突然、一段上の景色が見えるようになる。ある日気がつけば、こんなに高いところまで登ってきたんだ、と実感できる時が必ずある」というようなことを話し続け、懸命に激励しているのだが、それがなかなか通じない。
 入社して間もない記者はそれほどでもない。昨日できなかったことが今日はできるようになった、1カ月前には2時間もかかった原稿がいまは1時間で書けるようになった、と成長を実感する機会が多いからだろう。人は、自らの成長の手応えをエネルギーにして、さらに成長していく。
 ところが、それなりに仕事を覚えてきたと自分なりに安心している中堅からベテランにかけての記者たちになるとそうはいかない。気持ちでは懸命に仕事に取り組んでいるのだが、その成果がなかなか実感できない。逆に、手を抜いた取材でも、そこそこの記事は書ける。その結果、努力してもしなくても、結局は同じこと、と思うようになったとしても不思議ではない。
 僕の目から見れば、今日は昨日の続きでよし、としている記者と、今日は昨日より一段上の記事が書きたいと思って努力する記者の差は歴然としているのだが、幸か不幸か、その成果は即座には現れない。だから、よほど心してかからないと、昨日の続きでよしとする気分が蔓延する。その結果、職場全体を怠惰な雰囲気が支配し、気がつけば、手の施しようがなくなってしまう。
 そういう事態に陥らないように、老骨にむち打って「人間は成長が命。昨日より今日、今日より明日、という気持ちだ何より大切」と、若い人たちを励ましているのだが、なかなか成果につながらない。他者が「励ます」だけでなく、本人の内部からふつふつと「やる気」が出てこない限り、向上心を喚起させることにはならないのだろう。
 大阪に「やる気とお日さんは出すもんやない。出てくるもんや」という言い方がある。「明日はやったる」「今度こそがんばろう」と自分に言い聞かせているうちは本物ではない。「やる気はあって当たり前」「がんばるのは標準」。それを意識せず、周囲からあれこれいわれる前に、自主的に課題に取り組めるようになって初めて成果につながる、という感覚を表現したものだろう。僕はこの言い回しが気に入っている。
 職場の話から、とりとめもないことをだらだらと書いてきたが、ここからが本題である。ファイターズの諸君も「やる気があって当たり前」「がんばるのは標準」という感覚を是非とも身につけてほしい。コーチや上級生にいわれて「やらされる」のではなく、自らが「俺がやる」「男は黙って、背中で勝負」という感覚で練習に取り組み、試合で力を発揮するのである。
 実際、春からの練習や試合を見ていると、そういう「背中で勝負」という姿を見せている上級生が何人か存在する。WRの南本、小山、LBの川端……。決して口数は多くないが、彼らの見せる一つ一つのパフォーマンスから、今季にかける「気持ち」が伝わってくる。そういう選手をお手本に、それぞれの構成員が自らのやる気を引き出してほしい。
 いまは少数かもしれないが、彼らが特別の存在ではなく「ファイターズの標準」になったとき、このチームは「えげつないチーム」に成長を遂げるに違いない。
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2012年05月03日

(5)生涯の友

 先日のコラムで紹介した「2011年度卒業生文集」の後記に、小野宏コーチが次のような挿話を書いている。ファイターズの同期生で、現在は奈良県御所市の市長を務めている東川裕氏を巡るエピソードである。
 小野コーチはQB、東川氏はトレーナー。役割は違ったが、ともにファイターズで4年間を過ごし、5年生のときは二人とも初めての5年生コーチを務めた。
 東川氏は卒業後、家業の酒屋を継ぎ、そのかたわら街づくりやNPO活動に取り組んでいたが、4年前、周囲から市長に担ぎ出され、全国でも北海道・夕張市に次いで財政状況の悪かった市政の運営を託された。自分の給与を大幅に下げ、退職金も返納。職員の給与も下げ、各種補助金も大胆にカットした。市民から怒鳴りこまれ、議会ではつるし上げられ、大変な苦労をしながら、ようやく「財政健全化団体」から抜け出すところまでこぎ着けた。
 そんな東川氏が市長という孤独で重い職責を遂行するにあたり、いつも心掛けていたことがあるという。それは、小野コーチの後記から引用すれば「苦しい決断は自分一人でするしかない。あれもこれもと迷ってばかりです。そんなとき、いつも川原(同期の主将)やったらどう判断するやろか、小野やったらどう考えるやろか、と考えます」ということだった。
 このエピソードを読んだとき、思わず「生涯の友」という言葉が浮かんだ。自分がもっとも苦しい時に、友達の存在が確かな実感となって脳裏に浮かぶ。「川原ならどう判断するか」「小野ならどう考えるか」
 こうした問いを自らに投げかけた瞬間、迷いは消える。なぜなら、ファイターズで苦楽をともにしたとき、彼らはいつも、こうした問いに的確な回答を示してくれた「友達」であるからだ。「川原が判断するのなら間違いはない」「小野がこう答えるのなら、それに従えばいい」。そういう信頼があるからこそ「問いを投げかけ」ているからだ。
 同期といっても、ファイターズで活動するのは、基本的に4年間。実質的には3年半ぐらいのものだろう。もっと厳密にいえば、自らがチーム運営に責任を持つ4年生の1年間だけといってもよい。その短い期間を互いに支え、互いに励まし、互いに叱咤し、互いに目標達成を目指して精進する中で「生涯の友」と呼べる関係が生まれる。
 しかし、注意しなければならないことがある。たまたま、同じ学年だったとか、同じポジションだったとかいうだけでは、そうした密度の高い関係は生まれない。同好の士が集まり、愉快に楽しい時間が過ごせればそれで目標達成、というサークル活動と、常に日本1の座を目指し、どんなに苦しい状況にあっても、その目標を完遂することに学生生活をかけるファイターズの活動とは、自ずから違いがあるのだ。
 目標が高ければ、要求される内容も高度になる。体力の養成から技術の習得、戦術の理解から精神力の錬磨、チームの運営や下級生の指導、果たさなければならないことは、山ほどある。監督やコーチと信頼関係を築き、卒業生や家族の期待にも応えなければならない。もちろん学業もおろそかにできない。
 毎日毎日、汗にまみれ、体力の限界まで自分を痛めつけ、それでも思い通りにプレーできないことの方が多い。チームメートやライバルチームの選手らが簡単にこなしている技法をマスターできずに、悔しい思いをすることも多いだろう。仲間からののしられ、コーチから罵声を浴びて、うちひしがれることもあるだろう。
 そんな毎日に耐え、日付が変わればまたグラウンドに顔を出す。そしてまたもや苦しい練習に挑んでいく。
 そういう活動の中で、一番頼りになるのは何か。もっとも、心が解放されるのは、どういうときか。
 「生涯の友」はそういう場面で姿を現す。「こいつのためならトコトンやったる」「あいつ一人につらい目はさせない。俺がカバーしてやる」「俺があいつを日本1の主将にする」。置かれた立場で言葉は異なるだろうが、一人一人に「生涯の友」という存在がくっきりとした輪郭を持って立ち上がってくるはずだ。
 「雨の日の友」という言葉がある。晴れた日、つまり物事がうまくいっているときには、相手の方から寄ってくる。けれども、落ち目になったときには誰も見向きもしない。そんな雨天の日にも快く声をかけてくれるのが本当の友である、というような意味である。
 組織がスムーズに運営され、業績も右肩上がりで伸びているとき、個人的にいえば順調に出世の階段を上っているとき、そんなときには周囲のみんなが友人のように振る舞う。けれども、どこかでつまづき、具合が悪くなったときには、そういう友人はいつの間にか姿を消してしまう。世間にはよくあることである。
 そんな友人関係をいくら築き上げても意味はない。ファイターズで活動する以上、雨の日にも互いに傘を差し掛けることのできる友人、生涯の友を得るための努力を日々続けてほしい。それは、汗と涙にまみれ、身も心もさらけ出した戦いの果てに、手にすることができるものだと僕は信じている。
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2012年04月26日

(4)視点の違いが評価を変える

 21日の土曜日は、明治大学との今季開幕戦。「KG,BOWL」と名付け、新入生歓迎の意味を込めた試合だった。
 木曜日に理髪店に行き、髪を切って気分を一新し、金曜日は上ヶ原のグラウンドで試合前の練習を見学。ついでに上ヶ原の八幡神社にもお参りして、勝利と選手の無事を祈願。準備万端整えて土曜日は元気よく王子スタジアムへ。
 いよいよシーズンが始まる。天気は晴れ。スタジアムを取り囲む木々の若葉は一斉に芽吹き、六甲山と摩耶山から吹き下ろしてくる風は肌に心地よい。「薫風香る」という表現がぴったりの天候だ。
 いつもの席に着き、いつもの観戦仲間と試合前の練習を眺めていると、それだけで身も心も高ぶってくる。自分が試合をするわけではないけれども、グラウンドに降りた選手がみな親しい身内、かわいい子どもたちのように思えるからだろう。これから来年1月3日までの長い戦いの火ぶたが切られる、と考えるだけで、気分が高揚する。
 さて、試合である。先発メンバーを見て驚いた。昨年の甲子園ボウルとはがらりとメンバーが入れ替わっている。ディフェンスラインはLBから川端がディフェンスエンドに回り、残る3人は岡部、中前、国安という2、3年生のメンバー。LBの西山、DBの保宗、高も、昨年は交代メンバーだった。
 オフェンスはもっと新顔が多い。甲子園ボウルでスタメンだったのはOLの友國とWR梅本だけ。残りは全員が交代メンバーだった。OLの月山やQBの斎藤はこの春、2年生になったばかり。キッカー、パンターの堀本も、昨年までは大西君の陰に隠れて、ほとんど出番のなかった選手だ。
 4年生が卒業していったという事情を考慮しても、ここまで多くの新しいメンバーが先発するとは思っていなかった。意外でもあったが、同時にまた「冬場に努力したメンバーの力を試合で試してみたい」という監督やコーチの強い意志を感じた。
 とはいえ、これで関東の強豪、明治大学の強力なラインと対等に戦えるのだろうか、という不安がよぎる。というのはほかでもない。前日の練習では、試合に備えたチーム練習をほとんどせず、もっぱら基本的なスキルを身につける練習に力を入れているのを見てきたばかりだったからだ。
 ファイターズのキックで試合開始。立ち上がりはファイターズがDB高のファンブルリカバーやLB坂本のインターセプトなど守備陣の踏ん張りで押し気味に試合を進めた。だが、急所で反則が続出。QB斎藤からWR木戸へのTDパスをふいにしたりして、両軍とも無得点。
 ところが、第2Q開始早々、ファイターズのパントが相手守備陣にブロックされ、そのままTD。思わぬ形で相手に主導権を奪われた。その後も互いにターンオーバーを繰り返す雑な攻撃が続いたが、梶原弟のファンブルリカバーで得た好機にK堀本が40ヤードのフィールドゴールを決め、ようやく試合が落ち着いた。ファイターズは前半終了間際に斎藤からWR梅本、南本、大園へのパスが次々ヒット。相手ゴール前に陣地を進め、最後はRB榎本が2ヤードを走り切ってTD。10−7で前半を折り返した。
 ファイターズは後半、2度目の攻撃シリーズで、RB野々垣のランと斎藤から南本への長いパスで相手ゴール前に迫り、仕上げは斎藤からWR森本への15ヤードTDパス。その直後、明治の攻撃シリーズでTDを返されたが、ファイターズもすぐさまRB後藤が左オープンを走り切ってTD。相手の反撃をDB森岡のインターセプトで断ち切り、主導権を握ったままで試合終了。終わって見れば29−14でファイターズの勝利だった。
 さて、この結果をどう評価するか。
 「ライスボウルの雪辱を」「今年こそ社会人に勝って日本1に」という視点で見れば、攻守ともに物足りない点がいくつもあった。試合後のハドルでも副将の金本君が「こんな試合してて、日本1になれるんか」と大きな声で檄を飛ばしていた。梶原主将も「試合に出ているメンバーはともかく、ベンチの雰囲気が悪すぎる。チームが一丸になって戦っている姿が見えない」と厳しい表情だった。
 では、春の試合は新しい戦力を試す場という視点で見ればどうだろう。実のところ、鳥内監督や大村コーチは、試合の前日になっても「今季は試合前に特別な準備はしない。春は、普段やっていることがどこまで強い相手に通用するか、それが見たい」と話していた。
 その視点で見れば、攻守とも新しい戦力の芽生えがあった。2年生に限ってもOLの月山、RB吉澤は十分使えそうだ。LBの小野と西山も動きがよいし、DBには高校時代から実績のある国吉のほか、バスケットボール部から転じてきたアスリート森岡の動きが目についた。村岡も経験を積めば使えそうだ。DLの岡部と梶原弟の高等部コンビの動きもよい。これからもどんどん試合に出て、経験を積んでほしい。
 もちろん、斎藤と前田という2人のQBにも期待がかかる。昨シーズン、急速に成長した4年生の畑と比較すれば、すべてにおいて見劣りするが、経験を積み、試合の雰囲気に慣れてくれば、持っている才能をもっともっと発揮してくれるだろう。それはRB米田や松岡弟にもいえることだ。
 そう考えると、初戦の結果だけで、今季のファイターズのことを判断するのは早計だ。不満もあり、期待もあるという、ニュートラルな立場で今後を見守りたい。
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2012年04月18日

(3)ファイターズ・デー

 春季シーズンの開幕を前に14日、上ヶ原の第3フィールドでファイターズ・デーが開かれた。午前はファイターズの紅白戦、午後はブルーナイツ、関西学院初等部ファイターズ、中学部ファイターズ、高等部ファイターズ、OBチーム、シニアファイターズ、それにファイターズに入ったばかりのフレッシュマンのチームが参加して、フラッグフットボールとタッチフットボールの試合があった。
 前夜からの雨もあがり、お目当ての紅白戦が始まるころには、初夏のような爽やかな日差し。紅白戦は2年生QB斎藤君が率いるブルーチームと、同じく2年生QB前田君がリードするホワイトチームの対戦。けがで調整中の部員や就職活動中の4年生は参加できなかったが、その分、普段の試合ではあまり見ることのできないメンバーが多数出場することができたので、観戦しているファンとしてはうれしい限りである。
 前後半、各20分の2クオーター制。互いに50ヤード地点から攻撃し、激しいタックルも禁止という「安全第一」のルールだったが、そこは格闘技。試合に熱が入るにつれて、プレーも激しさを増す。前半は、ブルーチームがゴール前9ヤードからQB斎藤君が左オープンに走って先制のTD。ホワイトチームの反撃をフィールドゴール1本に抑えて7−3でリード。
 後半に入るとホワイトチームも反撃。互いにTD1本を奪い合うシーソーゲームとなったが、最後はホワイトチームの前田君がWR南本君にTDパスを決め、17−14で逆転勝ち。紅白戦ならではの和やかな雰囲気の中で、新戦力の台頭と試合の楽しさを味うことができた。
 午後のタッチフットとフラッグフットの試合は、さらに和やかな雰囲気。シニアファイターズチームでは、小野コーチがQBとして出場、びしばしと正確なパスを決める場面があったし、フレッシュマンチームでは、期待の新人が次々に登場。日頃の練習とはひと味違う楽しげな表情で伸び伸びとプレーしていた。ともにKGファミリーが一堂に会し、フットボールを楽しむファイターズ・デーならではの場面。選手の素顔を見ようと駆けつけたファンクラブの人たちも満足げな様子だった。
 本当はその模様を、もっと詳しくお伝えしたいのだが、実は試合の様子をほとんど見ていない。スタンドのいすに腰掛け、主将の梶原君や副将の川端君らと、延々2時間近く話込んでいたからだ。普段、練習を見る機会は多いが、彼らは練習に身を入れている。当然、ゆっくり話す時間はない。けれども、この日は紅白戦の後は、選手たちも比較的手が空いている。そこで、タッチフットの試合を見ながら、今季のチームの運営やリーダーとしての心構えなどについて、彼らの話をじっくりと聞いていたのだ。
 彼らとの話の内容は、チーム内部のことなので、ここでは省略。
 代わりに夕方から、今春チームを巣立っていった前主将の松岡君とDBリーダーだった香山君と会食しながら話したことの一端をご紹介しよう。
 彼らとはこの1年、グラウンドとスタンドとの違いはあっても、互いに熱中してフットボールに打ち込んだ。昨年のチーム作りについての思い出話から、それぞれの成長のきっかけ、リーダーとして心に決めたことやプレーの回顧談。同じ場面を共有したものが同じ関心を持ってフットボールのことを話すだから、どんな前置きも説明も必要ない。いきなり本題に入れる。
 例えば、立命のエースQB谷口君とファイターズの突貫RB望月君の当たりの強さの違いを説明する香山君の話。彼は、二人に本気でぶつかった当事者のみが表現できる言葉で、その強さの違いを説明してくれた。そして、そんなに強い相手に真正面からぶつかって負けなかった自らの修練、そこに至る道筋を話してくれた。
 松岡君は、昨年の夏合宿で練習中に意識を失いかけた時の心境について、これまた当事者ならではの言葉で語ってくれた。
 具体的な言葉は、あえて省略させていただくが、ともに「俺がチームを引き受ける」という責任感があって初めて口にすることのできる表現だった。そういう表現が自然に口から出てくるところに、彼らのこの1年間の取り組みの真実が垣間見えた。その取り組みが二人を成長させたことが実感できた。
 ほんの数時間前、これからの1年、ファイターズをどのようにリードしていこうかと悩み、苦しんでいる新しい幹部たちと話したばかり。新幹部の意気込みとそれに付随する戸惑い、悩みを耳にしたばかりとあって、1年間の重責を果たし、その苦しさを糧に成長し、卒業していく二人の言葉がとりわけ胸にしみた。ファイターズの4年生の背負う荷物の重さを知り、またそれを背負いきったときの果実の大きさを知ることができた。
 新しい4年生もまた、この1年間の重い任務を果たし、来年のいまごろには、松岡君や香山君のような言葉を口にするようになっているに違いない。なぜなら、上ヶ原のグラウンドには、人を人として成長させる磁場があるからだ。
 梶原君、川端君、そして金本君。リーダーの責任は重いけど、それぞれのやり方、手法で壁を突破し、目標を完遂してほしい。その責任を果たしてほしい。どんなに苦しくても、それを自分の力で突破したとき、諸君の前には新たな世界が広がるだろう。松岡、香山の両先輩がそれを証明している。
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2012年04月12日

(2)卒業生文集

 今春もまた、卒業してゆくファイターズの諸君が書いた「卒業生文集」を頂戴した。B5判、48ページ。松岡主将をはじめ、選手、スタッフの皆さんの「4年間の取り組み」「ファイターズへの思い」が、心の底から絞り出した言葉で綴られている。
 最初は一気に読み終え、次はじっくりと読み返し、折に触れてまた読み返している。それぞれが素晴らしい文章である。新聞記者として45年、同時並行で大学生に文章表現を指導するようになって10年。文章を書くこと、鑑賞することについては、それなりの自負を持っている小生が読んでも、全員に「優」を進呈したい気分である。
 例えば、副将の谷山君はがこんなことを書いている。「ファイターズが好きではなかった」「ファイターズの一員として勝つことに取り組んでいたことはなく、個人的に勝つこと、いいプレーをすることしかなかった」「こんなクソみたいな考えしかなく、腐っていた時期も多くあった」と下級生のころを振り返り、「しかし、最後の1年間。4年として過ごした日々の中で私は変化した」「気がつけば抱いていた不満の元凶が見えてきた。それは、何もしないのに、変わらないのに、自ら行動しないのに、不満だけは吐き、不都合だけは大声で訴える。そのうえ、チームからおいしいところだけをとろうとしていた、クズの極みである自分自身である」と自分に刃を向ける。そして最後は「自ら行動し、自ら考え、自らが変え、自らの意思でやることこそが一番重要であるということを学んだ」とまとめる。
 領家杯を受賞したDBの香山君は「私は3回の終わりまでファイターズに必要ない人間だった。すべての物事をチーム単位で考えられる人間ではなかったからだ。何をするにも自分主体で考え、何かマイナスなことが起きたら、先輩や周りのせいにしようとする自分がいた。自分自身そのことに気付いていながらも、変わることにびびってしまうチキン野郎」と自らを省みる。
 しかし、あるコーチとの厳しいやりとりなどから「4回になるにあたって、チキン野郎の汚名を返上しようという闘争心に火が付いた」「サッカーの本田圭介選手の『成功すれば挫折は過程に変わる。だからあきらめない』という言葉にも励まされ、どんな逆境にあってもやり続けようと思えた」。
 その結果「最後の立命戦は、人生であれ以上はないというくらい楽しかった。試合前からの1分1秒が最高の瞬間だった。1年間ともに戦ってきたDEFを誇りに感じた。このままこのチームでずっとアメフトを続けたいと思った」と心情を吐露する。
 ともに挫折、自己否定から始まり、自問自答、自己との格闘を通じて、最後は自分自身の成長を実感して4年間を総括する。その過程を具体的に「自らの言葉」で綴っている。それが素晴らしい。
 二人だけではない。選手もトレーナーも、マネジャーも分析スタッフも、そして高等部や啓明学院のコーチ、5回生コーチも、それぞれがファイターズで学んだことや心残りだったこと、後輩に言い残したいことなどを赤裸々に綴っている。飾りもなければ、嘘もない。その文章が読む者の胸に迫る。名文というしかない。
 「進化し続けるからNO1」と言い切るWR和田君。「1年間の努力を持ってすれば、社会人にも決して負けない試合ができる」「私たちのしてきた努力は正しかった。ただ、ただ勝つためにはこの努力でも足りないということも分かった」と書いた濱本君。
 年間最優秀選手に選ばれ、大月杯も受賞したキッカー、パンターの大西志宜君は、3700字を超える長文の最後を「自分自身、良いキッカーパンターだったと思っているが、凄い4回生ではなかったと思う。後輩たちには、自分の信念を曲げずに、その問題から逃げずに勝負していってほしい。凄い4回生になってくれることを期待している」という言葉で締めくくる。
 それぞれが凄い言葉である。これだけの自信を持って4年間の活動を振り替えることができるというのは、ただごとではない。こういうサムライたちが日本1という目標に向かって努力を重ねてきたからこそ、昨年度のファイターズは「日本1」の座にたどり着くことができた。松岡主将のいう「生きてきて初めて真の仲間ができた」「かけがえのないものを手にすることができた」のである。
 文集を読みながら、卒業していく諸君がこれを座右に置き、人生の節目に読み返して、生きる糧にしてもらいたいと思った。そして後輩たちにも、来春の同じ時期に、こういう文章が書けるまでに自らを鍛え、高め続けてほしいと願っている。
posted by コラム「スタンドから」 at 20:17| Comment(0) | in 2012 season

2012年04月03日

(1)ファイターズファミリー

 気がつけば4月。僕が働いている紀州・田辺では、遅れていた桜もようやく満開。新しいシーズンの始まりである。
 そうなると、ライスボウル終了後、ぷっつり中断していたこのコラムも、再開のときが来たということ。ファイターズの諸君に負けないように、気合いを入れて書き始めなければならない。
 と、元気よく宣言したものの、チームはまだ基礎的な練習ばかり。ときおり上ヶ原のグラウンドに足は運んでいるけれども、特段、みなさまにお知らせするようなニュースもない。強いていうなら「4年生の抜けた穴は大きい」「でも、それぞれのポジション、それぞれの選手ごとに課題を見つけ、それを一つ一つ解消しようと、全員が体作りから取り組んでいる」「体力作りも基礎練習も、例年と同様、あるいはそれ以上に熱がこもっている」と報告すれば、それで完了だ。
 でもそれだけでは、コラムにならない。
 だから、冬場の練習で特別に興味深かった場面を一つ紹介して、1回目の報告とする。こんな場面である。
 たしか、1月末の土曜日だった。いつものようにグラウンドに顔を出すと、QBの諸君が熱のこもったキャッチボールをしていた。4年生の畑君、遠藤君、3年生の橘君、2年生の斎藤君に前田君。ほかにボールを受けるためにキッキングチームのメンバーやWRのメンバーが何人も協力している。その様子をビデオに収録するマネジャーや分析スタッフの顔も見える。
 それでも見知らぬ顔がある。高等部の諸君である。そう、この日は高等部と大学のQBが全員そろって、小野宏コーチからボールの投げ方のチェックを受け、よりよいフォームを探っていたのである。いわば、お兄ちゃんと弟が一緒になってお父さんの指導を受けている光景だった。
 その隣で、一回り大きな男前が二人。手慣れたフォームで悠然とキャッチボールをしている。彼らの顔を見て驚いた。投げているのが三原雄太氏、受けているのが秋山武史氏である。2007年の甲子園ボウルを勝ち、ライスボウルで史上最高のパスゲームを演じたときの主役二人が、現役の大学、高校生に混じって、楽しそうにキャッチボールに興じていたのだ。
 「秋山が体を動かしたいというので、つきあっている」と三原氏。「週末の大阪出張で時間が空いたから三原を引っ張り出した」と秋山氏。かくして2007年のライスボウル以来、初めて上ヶ原のグラウンドで名コンビが復活した。三原氏のパスも健在だが、今も日本のトッププレーヤーとして活躍している秋山氏のスピードはさらにすごみを増している。ターボエンジンが加速するような独特の走りで、三原氏が投げるどんなパスも確実にキャッチ。結局、30分ほどの練習中、1本のパスも落とさなかった。
 「久しぶりのグラウンドは気持ちがいい」と秋山氏がいえば、三原氏も「これからは、努めて週末に顔を出しますよ」と応じる。例えていえば、就職して実家を出た兄二人が久しぶりに実家に帰り、弟たちと旧交を温めている光景。たまたまその場に居合わせWRの小山君も「半端じゃないスピードですね」とびっくり。スピードをつけるためのトレーニングについて質問していた。
 話はそれだけでは終わらない。今度は防寒着をしっかり着込んだ武田建先生の登場である。JVの練習が終わった後、QBの練習を見に顔を出されたのだ。こんなたとえをすれば叱られるかもしれないが、まるで親子の練習を見守る好々爺、おじいちゃんである。
 ついでにいえば、そんな光景をうれしそうに眺めている僕は、親戚のおっちゃん。毒にも薬にもならないけれども、ただそこにいるだけで、なぜかしらその場が和む。そんな役回りをしているとでもいえばよいだろう。
 以上、六甲おろしが吹き下ろし、寒さの厳しい上ヶ原のグラウンドで見た「小春日和」のような光景である。
 それを見ながら、これが「KGファミリーだ、ファイターズファミリーの姿だ」となぜかしら感動した。
 年代を超え、境遇や社会的立場の違いを超えて、ファイターズにつながる多彩な人たちがファイターズのために集まる。そして自分たちの持っている貴重な資産(経験や知識、技術や心意気……)を現役の選手たちに惜しみなく提供する。誰に命令されたわけでもなく、それが当然のように、そして自然な形で実現する。こういう環境を70年余にわたって作り上げてきたのが、ファイターズというチームであり、ほかのチームとはひと味違ったたたずまいである、と僕は妙に感心し、また納得した。
 もちろん、試合会場に詰めかけて下さる熱心なファンやOBの方々、保護者のみなさまの応援は、どのチームにも増して心強い。それは昨季の関西リーグの終盤から甲子園ボウル、ライスボウルへと続く「Vロード」でも実証された。その結束力を指して「ファイターズの底力」という方も少なくない。
 けれども、本当にファイターズがすごいのは、オフシーズンの地味な練習にも、お父さんやおじいちゃん、それに就職して実家を離れたお兄ちゃんらが、当然のように顔を出し、弟たちを励ましてくれる、そんな「ファイターズ愛」にあると僕は思っている。
 以上、あまりにもうれしい光景であり、僕一人の胸に抱えておくのはもったいない話だと思って、紹介させていただいた。
      ◇   ◇
 お知らせが二つあります。
 @新しいシーズンの開幕にあわせて、このコラムを再開。原則として、1週間に1度のペースで更新を続けます。ご愛読いただければ幸いです。
 A昨季のコラムをまとめた冊子「2011年 ファイターズ 栄光への軌跡」を発行し、見事な戦いで大学王者になったファイターズの諸君に贈呈しました。2月の祝勝会でお披露目しましたが、一般の方々には試合会場でお求めできるようにします。1冊500円。売り上げはすべてファイターズに寄付させていただきます。ご協力いただければ幸甚です。
posted by コラム「スタンドから」 at 17:41| Comment(4) | in 2012 season