2013年01月04日

(38)「俺たちのチーム」

 1本の蜘蛛の糸を頼りに、懸命に頂上を極める。今にも切れそうなその細い糸を必死につかみ、しがみついて、なんとか頂上に至る道を確保する。不眠不休で絞り出したアイデアと戦術、昼夜分かたぬ鍛錬で身につけた技を100%出し切って、少しずつ少しずつ、勝利をたぐり寄せようとする。そういうきわどく厳しい試合をファイターズの諸君は、見事に戦い抜いた。
 知恵、修練、献身、そういう言葉が表すすべてを、すべての構成員が出し切ったその先に、一瞬、頂上が見えた。誰の目にも攻略不能と見えたその険しい頂きに、確かに手を掛けることができた。けれども、梶原主将のいう「俺たちのチーム」は、それを手にすることはできなかった。
 2013年1月3日。東京ドームで行われたライスボウルは、本当に悔しい結末になった。
 オービックのレシーブで始まった立ち上がり。立て続けにパスを通され、ランで揺さぶられてディフェンス陣が対応できない。あれよあれよという間に陣地を進められ、何の抵抗もできないまま先制のタッチダウン(TD)を許してしまう。
 逆に、ファイターズの攻撃は全くの手詰まり。相手の強力な守備陣にあおられてランは進まず、パスを投げる余裕もない。前途に暗雲が立ちこめ、光明は全く見えない。おまけに守備のDL梶原、攻撃のQB畑という二人のエースがともに故障を抱えて、本来の動きができない。延々と続く絶体絶命のピンチ。観客席からは、声援というより悲鳴に近い声が上がる。
 けれども「昨年の借りを返す」という決意に燃えたグラウンドの戦士たちは、一歩もひるまない。どんなに苦しい状況にあっても、果敢なタックルを見舞い、ボールキャリアに殺到する。1人目が相手のブロックに跳ね飛ばされても、2人目、3人目が相手に襲いかかる。
 そういうひたむきな姿勢から、DB保宗のパスカット、LB池田雄のインターセプトなど、苦境を切り開くプレーが次々と生まれた。
 耐えに耐えた前半。2Qも残り2分を切って自陣37ヤードからの攻撃。畑が懸命に短いパスを通して活路を開く。ダウンを更新するたびにスパイクして時計を止め、WR南本に8ヤード、10ヤード、10ヤードと立て続けにヒットして相手ゴール前25ヤードに迫る。
 第4ダウンロング。誰もがフィールドゴールトライと見たその瞬間、ファイターズのとっておきのプレーが炸裂する。ホールダ−の位置についていた桜間がスナップされたボールを右サイドライン際を走る南本にパス、これが見事に通って22ヤード前進。関学高等部でQBをしていた桜間がその経験と、この日のためにずっと練習してきた成果を見事に表現したプレーだった。
 ゴール前3ヤードからの好機。そこでまたもや意表を突いたRB鷺野からRB望月へパス。それが見事に決まってTD。堀本のキックも決まって7−7。そのまま前半を終了し、期待を後半につなぐ。
 ファイターズのレシーブで後半開始。WR木戸の好リターンで、自陣39ヤードからの攻撃。ところがその第1プレー。畑の投じたパスを相手に奪われていきなりのターンオーバー。それをわずか4プレーでTDにつなげられ、ファイターズはまたもや7点を追いかける展開に。
 試合は一進一退。どちらかといえば、ファイターズが押されたままで試合が進む。その間、互いの強力なヒットでファイターズには負傷者が相次ぐ。この日も大活躍の池田雄やDB鳥内弟が相次いで戦線を離脱。元々足や膝に故障を抱えていた梶原や畑も、本来の動きとはほど遠い。それでも、交代選手を含め、ファイターズの勇士たちは誰一人臆することなく戦い、追加点を許さない。
 第4Q早々には、オービックに立て続けにパスを通され、ゴール前1ヤードまで追い詰められた。しかしここで、ファイターズは果敢なタックルで相手ファンブルを誘い、それをLB吉原がカバーして絶体絶命のピンチを切り抜けた。
 迎えたファイターズの攻撃。まずは望月が9ヤードを走って、陣地を盛り返したが、続く2回の攻撃は不発に終わりダウン更新まで8ヤードを残してパント隊形に。誰もがパントと思ったその瞬間に、再びファイターズのとっておきのスペシャルプレーが炸裂。パントを蹴ると見せかけた堀本が浮かせたボールを背後に回り込んだWR小山がキャッチしてそのまま11ヤードを走り、ダウン更新。自陣ゴール前の極めて危険なゾーンから繰り出した果敢なプレーコールで、愁眉を開く。
 相手が動揺している隙をつくように、畑がWR大園、梅本にそれぞれ13ヤードと20ヤードのパスをヒット。さらに足を痛めているいるのに、畑が3回連続のキーププレーでダウンを更新する。これを鬼気迫るプレーというのだろう。足が痛くて走れないと思い込んだ相手守備陣の裏をかく見事な走りで活路を開いた。
 ゴール前のショートヤードを望月のパワープレーでねじ込み14−13と1点差。ここでファイターズはキックで同点を狙わず、一気に逆転を狙ってまたまたとっておきのプレーを繰り出す。まずは畑が左に展開した望月にバックパス、それをキャッチした望月がそのままゴールに走り込むと見せかけて守備陣を引きつけ、その頭越しに小山に山なりのパス。このスペシャルプレーが見事に決まって2点コンバージョンは成功。15−14とリードを奪った。
 残り時間は2分55秒。苦しい戦いを耐えに耐え、忍びに忍んできたファイターズ守備陣がにわかに勢い付く。勢いよく相手オフェンスにぶつかり、QBに圧力を掛ける。梶原が痛い膝をかばうそぶりも見せずにQBに襲いかかる。そこで苦しい姿勢のまま相手QBが投じた縦への長いパスを鳥内弟がインターセプト。攻撃権を奪い返す。残り時間は1分39秒。これを使い切れば勝利が手にできる。一瞬、頂上が見えた瞬間だった。
 だが、勝負の神様は非情。ファイターズの攻撃が4回で終わったそのとき、まだ相手に34秒の攻撃時間を残していた。それを相手は冷静にパスをつないでTDに結び付けて再度逆転。そのまま試合は終わった。
 悔しい結末だった。知恵を絞り、戦術を練り、習得した技のすべてを出し切って戦った3時間。傷ついた選手たちがその痛みを苦にせず、仲間を信頼して戦い抜いた堂々の試合だったが、それでも勝利できなかった。
 悔しい。本当に悔しい。この1年間で驚くほどに成長した選手たちが懸命に戦い、この1年間の成果を見事に発揮しただけに、なんとしても勝たせたかった。けれども、結果は結果。受け入れるしかない。
 あとに続くファイターズの諸君が、この日の悔しさを受け継ぎ、また一段と成長してこの場所に戻り、堂々の勝利を手にしてくれることを期待する。梶原主将率いる「俺たちのチーム」は、そういう期待をつなぐに十分な試合を見せてくれた。そのことを特筆して、今季のコラムを閉じる。

◇付記
 1年間のご愛読ありがとうございました。今季のコラムは今回で終了し、新しいシーズンの到来と同時に、再度、ファイターズの成長物語を綴っていきます。ご期待下さい。
posted by コラム「スタンドから」 at 23:49| Comment(4) | in 2012 season

2012年12月26日

(37)それぞれの役割

 先週末、少し時間が空いたので、録画していた甲子園ボウルの映像をじっくりと見返した。何度見ても、苦しい試合であり、見事な結末だった。
 第4Qも残り6分を切って、得点は10−17。前半リードしていたファイターズは、第3Q途中から法政に厳しく追い上げられ、逆転された。残り時間からいっても、両チームの勢いからいっても、敗色濃厚である。
 進退窮まったこの状況で、4年生のQB畑が足の痛みをおして登場。試合前の練習もできなかったエースが懸命にパスを投げる。残り4分42秒、畑がセンターライン付近から右サイドライン付近に投じた長いパスをWR木戸がキャッチ、そのまま相手コーナーバックとセーフティーを振り切ってTD。堀本のキックも決まって同点に追いつく。
 スタンドから見ていたときは、木戸が余裕でキャッチしたように見えたが、ビデオで確認すると、思いの外きわどい状況だった。右手からはCB、左手からはSFが挟み撃ちにするように詰めている。その真ん中にピンポイントで投げ込まれたパスを確保し、スピードで相手を振り切り、一気に25ヤードほどを走り切っていた。
 驚いたのは、このときの木戸の表情である。もちろん、喜んではいるのだが、それよりも「キャッチして当然」「独走して当たり前」。どちらかといえば涼しい顔に見えた。これは第3Q開始早々のキックを自陣6ヤードでキャッチし、そのまま94ヤードを独走してTDに結び付けたプレーの時にも見られたのだが、ともに勝敗を左右するビッグプレーの当事者とは思えないほどの冷静さだった。
 後日、練習前のグラウンドでその辺のことを聞いた。リターンTDの時は「前がぱっと開き、ブロッカーが大勢出て役割を果たしてくれ、走路が確保されていた。僕はそのコースを走っただけです」。TDパスをキャッチしたときは「二人のDBに挟まれたけど、畑さんのパスがその真ん中にきたので、そのまま走り切りました」。つまり、ブロッカーやQBがきちんと役割を果たしてくれたから、自分も役割を果たしただけ、というような趣旨の説明をしてくれた。
 その返事を聞いて、僕は驚き、また感心した。
 ファイターズはチーム練習を切り上げるとき、必ずハドルを組み、主将や副将、主務らが一言ずつコメントする。そこではよく「それぞれの役割をきっちり果たそう。やることをやって必ず勝とう」という意味の檄が飛ぶ。「それぞれの役割を果たす」ことに価値を置き「チームへの献身」が重んじられることを、4年生から1年生まで、構成員すべてが了解している組織といってもよい。
 試合に出る選手はもちろん、出られないけれどもスカウトチームを務める選手、練習の進行を管理するマネジャー、選手のトレーニングを担当し、食事から体調管理までを担当するトレーナー、ゲームプランを立てるために不可欠な資料を集め、分析するアナライジングスタッフ……。約200人の大所帯を構成する全員に、それぞれの役割があり、その役割を全員が確実に果たすことでチームが運営される。その総和が勝利に結びつく。
 ファイターズとは、そういうチームである。だから、試合の流れを変えるようなビッグプレーをしても、それは「ブロッカーが走路を確保してくれたから」であり「QBがいいパスを投げてくれたから」という言葉になるのだろう。自らの手柄は「役割を果たしただけ」と控えめに語れるのである。そういうたたずまいを持ったヒーローがいることに、僕はただただ感動する。そのヒーローがたゆまぬ鍛錬で、チームでも1、2を争う頑強な肉体を鍛え上げている事実を知っているだけに、その控えめな言葉がなおさら清々しく感じられるのである。
 「役割を果たす」ということでいえば、オフェンスラインが今季、営々と続けてきた「特訓」のことも忘れられない。主に3年生が中心になって通常の練習とは別にグラウンドに集合し、大村コーチの指導の下、2班に分かれて特別の練習を続けてきた。普段の練習だけでは力がつかないからということで始めた試みだが、これで木村、長森らのOLが格段に力を付けたという。これもまたOLとしての役割を果たすために取り組んだ努力の一端である。
 朝の食事会も行われた。生協食堂に協力を求め、主に大学周辺に下宿している部員を対象に、栄養面で配慮した朝食を提供する集まりだが、そこでもトレーナーの柿原君や楳田さんらが重要な役割を果たした。栄養面からの選手の体力作りに心を配ったのである。
 このように、それぞれの持ち場で200人の部員が「役割を果たした」結果が、大学日本1につながった。それもまた「仲間への信頼」「チームへの献身」の具体的な姿といえるだろう。
 こういうチームだからこそ、是非とも社会人代表を倒して日本1になってほしい。頂点に立つことによって、全国のフットボーラーに、青少年に「信頼」とか「献身」とかに、みんなが思っている以上に価値があることを知らしめてほしい。僕はそれを心から願っている。
posted by コラム「スタンドから」 at 11:06| Comment(1) | in 2012 season

2012年12月17日

(36)勝者の白い帽子

 冬にはまれな暖かい日差しを浴びて始まった甲子園ボウル。グラウンドでは、ファイターズとトマホークスの互いにねじり合うようなタフな試合が展開されている。
 得点は17−17。自陣14ヤード、残り時間は1分45秒。ここからファイターズの攻撃が始まる。
 まずは畑からWR小山に19ヤードのパスが通ってダウン更新。次は畑からWR梅本への5ヤード、同じくWR南本へのパスがヒットして再びダウンを更新、中央付近まで陣地を進める。
 すぐにスパイクで時間を止め、残り時間は1分14秒。ここで畑からWR大園へ25ヤードのパスが通り、相手ゴール前27ヤード。ぎりぎりでフィールドゴールを狙える地点までたどり着く。しかし、甲子園ボウルの舞台は野球場。この付近は急きょ、この試合に備えて土のグラウンドに芝生を張った場所であり、足下が微妙に狂う可能性がある。だからこそ、タッチダウンを狙いたい。それが無理でも、ゴールになるだけ近付き、中央から余裕を持って蹴りたい。
 残り時間は1分2秒。だが、畑から小山へ投じた2本のパスがともに目標をそれて失敗。最後のターゲットはレシーバーのパートリーダー南本。左サイドライン際に投じられたパスを南本が懸命にキャッチしてゴール前7ヤード。
 17−17。味方のちょっとしたミス、相手のビッグプレーで、直ちに勝敗がひっくり返る緊迫した状況で、一つ一つのプレーを確実につなぎ、1分足らずの間に、畑とレシーバー陣はパスだけで79ヤードを進めた。練習で築き上げた互いの信頼関係があったからだ。4年生の畑、小山、南本、3年生の梅本、2年生の大園。これにこの日、94ヤードののキックオフリターンTDと48ヤードTDパスキャッチの離れ業を演じた2年生の木戸を加えたワイドレシーバー陣の信頼関係は、攻撃の司令塔であり、先発を予定されていた畑のアクシデントがあっても崩れることはなかった。
 日ごろから、どのパートよりも早くグラウンドに降り、グラウンドの真ん中に陣取って短いパス、長いパスを投げ分け、距離やタイミングを合わせてきた。南本が精神的な支柱になり、小山がプレーをリードし、梅本や木戸が体を張って続けてきたレシーバー陣とQB陣の努力が、この79ヤードのドライブとして表現されたのである。
 足を痛め、試合前の練習もできなかった畑が懸命にパスを投げ、時には軌道の乱れるそのパスをレシーバー陣が必死に確保する。鬼気迫るプレーとは、こういう場面をいうのだろう。それはファイターズの面々がこの1年間、必死に追い求めてきた「仲間への信頼」が形になった瞬間だった。
 遠く離れたスタンドからでは、選手の表情は見えない。けれども、チームのために、勝利のために気高く戦おう、美しく戦おうと、全身全霊を込めてプレーしている選手たちの必死さは、痛いほど伝わってくる。見ているだけで涙がにじんできた。
 そしてサードダウンゴール。RB望月がゴール前2ヤードまで持ち込んで、中央付近からフィールドゴールトライ。慎重にタイムアウトを取って、残り時間2秒とした後、安定感抜群のキッキングチームに守られた堀本が確実に決めて20−17。それとともに試合終了。エースQBを欠いたままで進めた苦しい戦いに勝利した。
 ただちに勝利監督の放送用のインタビューや表彰式。それが終わるのを待ちかねたように、ライン沿いに整列した選手全員が3塁側内野席からアルプス席を埋めたファンの方に向き直る。校歌「空の翼」の大合唱。選手の後方に並んでいるコーチやスタッフも、懸命にそれに唱和する。事前に、グラウンドに降りられるカードを用意していたので、僕も選手たちの後方に立って、思い切り歌う。
 進行の合間に、選手とチーム関係者全員に白い帽子が配られる。「2012 CHAMPIONS」と書き、ファイターズのロゴマークを入れた優勝キャップ。昨年の甲子園ボウルに続いて、アンダーアーマー社から提供されたという。勝利者だけが着用できる特別の帽子である。
 選手たちは全員、それをかぶり、互いに喜びを分かち合っている。集合写真の撮影が終われば、パートごとの写真。携帯カメラを構え、インタビューを受けている仲間にも声を掛けて呼び集める。
 全員、はじけるような笑顔である。コーチたちもニコニコとそれを見つめている。冗談を言って笑わせるコーチもいる。日ごろは厳しい兄貴分として振る舞う5年生コーチも、選手と一緒になって写真に収まっている。手を上げ、帽子を振り回す選手がいる。鳥内監督と二人の息子(LBの貴央君とDBの將希君)を並ばせて記念のスナップを撮る、気の利いたスタッフがいる。二人の息子の肩を抱いた監督の笑顔が何よりもこの勝利の喜びを物語っている。
 夕日が落ちると、空に弦月。僕たち関西学院に連なる者にとっては、特別の意味を持つ三日月が輝き始めた。
 僕は生涯、三日月を見るたびに、白い帽子を見るたびに、この日の苦しい勝利、試練に耐えて、また耐えてつかんだ劇的な勝利を思い出すことだろう。最後の攻撃シリーズをクライマックスに演出したディフェンス陣、苦しい中、懸命に試合を作ったオフェンスラインとRB陣、そして大舞台の経験がないのに、必死で試合をリードした2年生QBの斎藤……。彼らの顔と、握手を交わした手の感触が忘れられない。
posted by コラム「スタンドから」 at 22:02| Comment(4) | in 2012 season

2012年12月13日

(35)タフであること

 寒い。南国・紀州。黒潮の洗う田辺市でさえ、夜は凍えそうになるくらい寒い。夕食後の1時間、日課としている散歩に出るのも、フリースの手袋、毛糸の帽子、ファイターズのネックウオーマー、そしてダウンジャケットという重装備である。
 けれども、先週末の上ヶ原、第3フィールドの寒さに比べたら、まだまだ暖かい。それほど金曜、土曜のグラウンドは寒かった。同じ関西学院のキャンパスといいながら、中央芝生付近に比べると、体感温度は確実に3度は低い。学生会館の裏まで行けばマイナス1度、上ヶ原の八幡神社の角を曲がるとマイナス1度、グラウンドに出れば、甲山からの寒風が吹き付けてさらにマイナス1度。都合マイナス3度である。吹きさらしのベンチに腰かけて、練習を眺めていると、寒さが全身に襲いかかってくる。足はしびれて感覚がないし、ほっぺたは凍り付く。
 それでも、選手たちはいつも通り、平然と練習に取り組んでいる。レシーバーにいたっては、長袖にするとボールを扱う感覚が狂うからだろう。大半が半袖だ。太い腕をむき出しにしてボールをキャッチしている。
 小山君に「寒くないか」と声を掛ける。
 「寒いです。でも練習しているときは集中しているから大丈夫です」
 元気な答えが返ってくる。
 甲子園ボウルは目の前。寒いの、痛いのなんていってる場合じゃないのだろう。
 土曜日は、5年生コーチや留年生、社会人チームで活動している若手OBが何人も来て、練習台を務めてくれた。パナソニックの生田君、アサヒ飲料の平澤君らである。日本IBMで監督を務めている山田氏も顔を見せ、鳥内監督と熱心に話し込んでおられた。
 さすがに社会人のトップチームの主力選手たちである。練習台に入っても動きが違う。あっという間にラインを突破して、ボールキャリアに襲いかかる。QBも、普段と勝手が違うのか、パスを投げるタイミングがつかみにくそうに見えた。
 でも、これから戦う相手を想定すれば、こうした一線級の選手の動きは、すべてが参考になる。より素早い相手、より強力な相手にどう対応するか。プレーが崩れた時の対応までを含め、すべてが得難い練習になる。
 実際、練習でできていないことが試合でできるはずがない。今季、印象に残ったオフェンスのプレーはすべて、日ごろから練習を重ねてきた成果である。例えば、WR木戸君から梅本君へのロングパス、QB畑君からWR南本君、RB鷺野君へとパスが渡ったスペシャルプレーも、普段から何度も何度もタイミングを合わせ、磨きに磨いてきたプレーだった。
 デフェンスやキッキングカバーのパフォーマンスも同様だ。細かいところを何度も何度もチェックし、タイミングを合わせ、ここしかないというポイントを突いてファインプレーを生み出している。観客には偶然が味方したように見えるパントのブロックも、ファンブルボールのカバーも、もちろんインターセプトも、すべて緻密な計算と、1プレーごとに結果をチェックし、微妙な修正を繰り返す濃密な練習によってもたらされた果実である。
 そういう練習を営々と続けてきた1年間の成果が試されるのが、これからの試合である。京大、関大、立命館に勝って、一息入れている場合ではない。これからは1試合、1試合、肉体的、精神的に、どれだけタフな戦いができるかによって勝敗が決まる。現役OBたちがスカウトチームに入った練習が熱を帯びてくるのも当然である。寒いとか、痛いとかいってる場合ではない。
 タフといえば、先日読んだロバート・B・パーカーの小説「春嵐」に、こんな台詞があった。
 「喧嘩に勝つというのは、たんに喧嘩がうまいということ」「タフというのは、困難なものを正面から見据えて『これは困難だ。対処法を考えなければならない』といい、現実に対処すること」
 聖書にある「狭き門より入れ」という言葉にも通じる台詞である。
 タフになるチャンスは誰にでもある。しかし、実際にタフな人は少ない。困難な問題にぶつかったとき、それと向き合い、その壁を突破する対処法を考え、実行することから逃げてしまう人が大半だ。人は、そういう人間をチキンと呼び、弱虫という。
 ファイターズの諸君には全員、チキンではなく、タフな人間になってもらいたい。甲子園ボウルからライスボウルへと続く試合が、そのチャンスである。
posted by コラム「スタンドから」 at 15:12| Comment(0) | in 2012 season

2012年12月04日

(34)1年生の見本市

 2日、王子スタジアムで「全日本大学選手権西日本地区代表決定戦」が行われた。絶対に落とせない重要な試合であり、ファイターズにとっては、この試合にたどり着くまでが険しい道のりだったが、正直に言って、僕の興味は「どんな新戦力が登場するか」「先発メンバーが退いた後、交代メンバーがどれだけ活躍してくれるか」という点にあった。
 なんせ、ファイターズのメンバー表には、欠番になっているあの平郡君の5番を除いて、1番から99番までの番号と名前がびっしりと並んでいる。つまりこの日、出場可能な選手は98人。いくら大所帯のチームといえども、近年では記憶にないほど多くの選手が登録されていたのである。
 けがをして、今季はほとんど出場機会のなかった4年生、2番手、3番手の控えメンバーとして、これまたサイドラインから出場機会をアピールするのが主な役割だった3年生や2年生。そして、恵まれた才能を持ちながら、今季はもっぱら体力作りに明け暮れていた1年生。それぞれ固有の事情を抱えていた控えのメンバーが競うように出場してくれるというのだから、勝敗の行方よりも、誰がどんな場面で登場し、どんな役割を果たすのか、という方に興味が向かった。
 実際、勝敗としての興味は、第1Qまでだった。立ち上がり、WR大園の好リターンで敵陣39ヤードから始まったファイターズの最初の攻撃では、RB鷺野が左オフタックルを抜けると、そのまま加速して一気にTD。たった1プレーで先制点をもぎ取った。
 次の攻撃シリーズも、QB斎藤がTE金本、WR南本にポンポンとパスを決め、最後はK三輪が34ヤードのFG。続く攻撃シリーズも相手陣38ヤードの地点から、オプションピッチを受けた鷺野が再び38ヤードを駆け抜けてTD。さらに4度目のシリーズは大園の45ヤードパントリターンで相手ゴール前6ヤードからの攻撃。ここでも第1プレーでRB野々垣が右オフタックルを駆け上がってTD。4度の攻撃機会をすべて得点に結びつけ23−0。
 それでも攻撃の手はゆるめない。第1Q残り14秒で、キッキングチームが仕掛ける。三輪の蹴ったオンサイドキックをWR田中が確保してハーフライン付近から攻撃開始。ここでも斎藤がWR梅本への49ヤードのパスを決め、相手ゴール前3ヤード。RB後藤が確実に中央のダイブを決めてTD。第2Qが始まった早々の時点で得点は30−0に開く。
 これだけ点差が開けば、安心して控えの戦力、新しいメンバーをつぎ込める。僕の期待していた「新戦力見本市」の始まりだ。
 どんな1年生が登場したのか。チェックできただけの名前を並べてみよう。巨漢のOL橋本、DL岡村、小川、WR田中、木下、RB三好、リターナー宮原、DB奥田、菊山、高、LB作道。TE山本、OL鈴木も出ていたように思うが、自分の目では確認できていない。
 この中で、一番目立ったのが田中。オンサイドキックのカバーから始まり、第2Q終了間際には斎藤からの34ヤードTDパスをキャッチ。第3Q残り6分10秒には、自陣4ヤードから斎藤が投じた短いパスを受け、そのまま相手DBを置き去りにしてTD。なんと96ヤードのTDパスキャッチという離れ業を演じた。
 三好も負けてはいない。田中のような派手さはなかったが、当たりに強いタフな走りで確実にゲインを重ねた。これに秋のリーグ戦に何度も出場し活躍している木下を加えると、今年も攻撃のスキルポジションには人材が豊富だ。
 守備では、ラインの小川が堅実なプレーを見せた。DBでは、才能を感じさせる菊山、高、奥田がそろって登場。菊山は失敗もあったが、見事なインターセプトも決めた。高校時代、ラグビー部で活躍した奥田は、未経験者とは思えないほどの冴えた動きを見せ、将来に期待を抱かせた。
 1年生だけではない。2年生にも期待の星がいる。けがから回復したRB飯田は、再三スピードに乗った走りを見せたし、春から活躍しているDL陣も健在だ。何よりも、QB斎藤が落ち着いて試合をリードできたのがこの日の収穫。同じ2年生QBの前田も、終盤に少しだけ登場し、的確なパスを決めた。
 このように見ていくと「見本市」に登場した控えの下級生には、将来のファイターズを担っていく選手が何人もいる。心強い。この中から、一人でも二人でも、これからの甲子園ボウル、ライスボウルと続く厳しい試合で活躍してくれるようになれば、ファイターズの選手層は厚くなる。彼らがバックアップに回れるようになれば、いま先発メンバーとして活躍している選手たちのプレーも、なお一層思い切りがよくなるなるはずだ。期待している。
posted by コラム「スタンドから」 at 22:26| Comment(1) | in 2012 season

2012年11月28日

(33)透明な空気

 「攻守蹴、それぞれの歯車がかみ合い、互いにリスペクトしあって戦うことができたところに、本当に強い立命に勝てた理由があったと思っている」と前回のコラムに書いた。
 今回は、そういうチームがどのようにして育まれてきたのかということについて、二つの場面を紹介しながら書いてみたい。
 それは、立命戦の前日の練習が終わった時のことだった。
 天下分け目の決戦を控えていたが、試合前日とあって、練習は普段の試合前と同様、プレーの確認だけをこなし、あっという間に終わった。
 その後、全員がハドルを組み、主将の梶原君、副将の川端君と金本君、そして主務の鈴木君が決戦に臨む決意と注意事項を述べ、士気を鼓舞する。大村コーチをはじめ、居合わせたコーチも順次、短いけれども中身の充実した話をして、檄を飛ばす。
 それが終わった後だった。4年生が全員、下級生に向き合う形で一列に整列した。そこであらためて主将と副将の3人が下級生に「感謝の言葉」を述べたのだ。それぞれ言葉は異なるが「この1年、厳しいことも言ってきたけど、よく支えてくれた。本当にありがとう」というような内容だった。中には感情が激して、言葉が続かない幹部がいた。涙で顔をくしゃくしゃにしながら話す幹部もいた。
 聞いている下級生も、その言葉の重みを全身で受け止めていた。その場に流れる透明な空気。話す方も、聞く方も、同じグラウンドで励まし合い、鍛えあってきた歳月のことが頭の中を駆け巡っていたのだろう。苦しい練習に思わず罵声を飛ばしたことがあったかもしれない。思い通りにプレーできない歯がゆさに涙を流したこともあるだろう。下級生にとっては、そんな場面を4年生と共有できたことの喜びもあったに違いない。
 明日、負ければ、そんな4年生とは、もう永久に一緒に試合に臨むことはできない、という現実も心にのしかかってきたはずだ。もし、自分が失敗したら、もし、1対1の戦いに敗れたらと思って、気が滅入りそうになった選手もいるだろう。4年生は全員、なにが何でも下級生を甲子園に、東京ドームに連れて行く、と士気を鼓舞したはずだし、下級生はこのメンバーでずっと試合をしたいと誓ったはずだ。
 その濃密な時間が終わった後、今度は全員がそろってグラウンドの清掃にかかった。今度は4年生も1年生もない。一緒になって人工芝の上のゴミを拾い、側溝の中や階段、屋根下と呼んでいるテーピングや簡単なトレーニングのできる空間まで、きれいに片付ける。折からの紅葉シーズン。落ち葉があちこちに散っているが、それも1枚ずつ拾い上げ、ゴミ袋に収納する。
 これは、試合前には必ず全員で取り組んでいるメニューだが、この日は全員が「最後の試合」を意識したのか、とりわけ入念な作業が続いた。
 以上、二つの場面は、監督やコーチが強制したことではない。決戦を前に、選手が自発的に作り上げた情景である。自らの思いを確認するために、あるいは自分たちの「聖地」を清め、後顧の憂いをなくすために、代々の選手が受け継ぎ、少しずつ手を加えて内容を豊かにしてきた「感謝の表現」である。
 そこには、極めて高い精神性がある。体育会という言葉から連想される汗臭い、肉体的な空気ではなく、歴代の先輩たちが連綿と引き継いできた高い倫理性の現出といってもよい。
 4年生が自発的、自然発生的に、下級生に感謝の言葉を述べ、本心からありがとうといえるチーム。グラウンドに別れを告げることのつらさを清掃という行為で表現できる部員たち。そういう境地を選手もスタッフも、監督もコーチも共有できているからこそ、本当に強いライバルを相手に、一歩も譲らず、全身全霊を込めて戦うことができたのではないか。試合終了のカウントダウンまで、全員が集中力を切らせることなく戦えたのではないか。
 そういう場面を見ながら、僕は昨年秋「アエラ」の関学ムック版に書いた一文を思い出していた。煩雑になるが、引用する。
 「上ケ原のグラウンドには、人を人として成長させる磁気が流れている。それは常に勝つことへの意識を高め、その圧力に打ち克とうと努力を続ける学生と、それを支える監督やコーチが醸し出すものである。草創期のメンバーが無意識のうちに埋め込んだものであり、歴代のOBがライバルとの戦いの中で熟成してきたものでもある。自発性を重視し、献身に価値を置くチームとしてのたたずまいがもたらしたものといってもよいだろう」
 「人はそれを称して伝統と呼ぶ。それがチームソングにある『勝利者の名を誇りに思い、その名に恥じないチームとしての品性を持て』という意味につながるのである」
 この文章を絵に描いたような場面を目の当たりにして、僕は痛切に願った。どうしてもこのチームを終わらせたくない、明日からもずっと一緒に戦わせてやりたい、と。
 願いは、4年生と下級生が一丸となってかなえてくれた。本当にうれしかった。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:32| Comment(2) | in 2012 season

2012年11月26日

(32)集中する心

 強い立命に勝った。とてつもなく強力なメンバーを揃えたパンサーズに、ファイターズは堂々と勝った。この1年、ずっとチームに寄り添って、その成長の軌跡を追ってきたが、今日ほどファイターズの諸君が頼もしく、また誇らしく思えたことはない。本当に素晴らしい試合を見せてくれた。ありがとう。
 この前の関大戦、その前の京大戦と同様、立ち上がりは苦しい場面の連続だった。ファイターズのレシーブで試合が始まったが、第1プレーでQB畑からWR小山にパスを通してダウンを更新しただけで、あとは全く攻撃が進まない。4回続けてダウンを更新できず、苦しいパントを蹴る展開が続いた。
 その間、相手はランとパスを織り交ぜた切れのよい攻撃を続けてきた。完璧なディフェンスと相まって、完全にファイターズを飲んでいたのだろう。最初の攻撃シリーズでは、第1ダウンを一度更新した後、52ヤードの位置からフィールドゴールを蹴るという大胆な攻撃を仕掛けてきた。ここは梶原がキッカーの正面に割り込んで圧力をかけ失敗に追い込んだが、前途の厳しさを見せつけるような場面だった。
 突破口を開いたのは守備陣だった。それまでも、DB大森や鳥内弟のパスカット、LB池田のブロッカーごと倒す強烈なタックル、DL池永のパスカットと、3年生が次々とビッグプレーで窮地を救ってきたが、その仕上げがパントチャージチーム。第2Qも半ば、相手陣33ヤードからのパントをDB藤田がブロック、それを鳥内弟が拾ってリターン。あっという間にゴール前7ヤードまで攻め込んだ。
 守備陣にここまでお膳立てをしてもらえば、オフェンスも元気が出る。相手の強力な壁をこじ開けるようにRB望月とQB畑がランで陣地を進め、第4ダウン1ヤードを望月が押し込んで待望のタッチダウン(TD)。K堀本のキックも決まって7点を先制した。
 守備陣のがんばりは続く。次の立命の攻撃シリーズでは、相手がファンブルしたボールをLB小野がカバー。相手陣35ヤードという絶好の位置で攻撃陣にボールを託す。ここは畑の決め打ちののランで陣地を進め、仕上げは堀本のFG。第2Qの後半にあっという間に10点を獲得して前半を折り返す。
 後半になっても守備陣の奮闘は続く。立ち上がりの立命の攻撃をLB陣の素早い動きで封じ、たまらず相手がファンブルしたボールを、今度は池永が確保して攻撃権を奪回。ゴール前26ヤードの好位置で攻撃陣にバトンを渡す。
 当然のように攻撃陣も奮起。望月のラン、WR木戸へのパス、そして畑のキーププレーでゴール前5ヤードに迫り、最後は畑から望月へのショベルパスが決まってTD。勢いに乗ったオフェンスはさらに畑から小山へのTDパスを決めて24−0。立ち上がり、相手に押されまくっていた攻撃からは想像もつかないほどのリードを奪って第4Qに。
 その第4Qでは、次々に下級生や控えのメンバーを登場させたが、彼らも踏ん張って相手を零封。主将梶原が相手QBからボールをもぎ取るようにして攻撃権をつかみ、その好機を堀本のFGに結び付けて結局は27−0で試合終了。強力な立命のオフェンスにも、デフェンスにも十分にその力を発揮させないまま勝利をもぎ取った。
 スタンドから見ていても、前評判通り立命は強かった。グラウンドで戦った選手や監督、コーチの印象はそれ以上だったろう。実際、獲得ヤード数は関学212ヤード、立命259ヤードで立命が上回っている。これで27−0の試合になったことが、いまも信じられない。
 このような結果は、なぜ生じたのか。ファイターズのどこが相手を上回っていたのだろうか。僕は、ファイターズの方が集中する心と、仲間を信じる気持ちが相手より強かったと思っている。
 攻守とも、一瞬、一瞬に集中し、すべてのプレーに全員が心を一つにして取り組んでいた。攻撃陣は守備陣を信頼し、守備陣は攻撃陣を信頼して、互いに自らの役割を完璧に全うした。上級生はチームの仲間であり強力な援軍として下級生を慈しみ、下級生はすべてにおいて自分たちを教え導いてくれる上級生を慕う。この信頼関係。キッキングチームもまた、十分に計算し尽くされたカバーとキックで、優秀なリターナーを擁する相手を完全にカバー。相手のリターナーにほとんど仕事をさせなかった。さらには、先日の関大戦で見事なFGブロックを披露したチャージチームは、この日もパントブロックを成功させ、試合の流れを変えた。
 この集大成がこの日の試合だった。攻守蹴、それぞれの歯車がかみ合い、互いにリスペクトしあって戦うことができたところに、本当に強い立命に勝てた理由があったと僕は思っている。
 では、そういうチームはどのようにして育成されたのか。その話は次回に書かせていただく。今夜は、厳しい戦いに勝ち抜いた選手とチームの関係者をねぎらうだけにしておきたい。優勝、本当におめでとう。
posted by コラム「スタンドから」 at 10:23| Comment(2) | in 2012 season

2012年11月21日

(31)努力は裏切らない

 つれづれなるままに、タッチダウン誌別冊の選手名鑑を眺めていて驚いた。名鑑が編集されたシーズン前の時点で予想された先発メンバーが全員、シーズン最終戦にも先発候補として顔を揃えているのである。
 こんなことは、少なくともこの10年間、記憶にない。けがで戦列離脱を余儀なくされる選手、思い通りに成長できず、控えのメンバーにポジションを奪われる選手が必ず何人かはいた。逆にいえば、シーズンの深まりとともに、めきめきと力を付けて、先発メンバーに割り込んでくる控えのメンバーが少なくなかったということでもある。
 しかし今季は、攻守とも先発メンバーに拮抗するだけの力を付けた控え選手がいるにも関わらず、開幕当初に予想されたメンバー全員が、誰一人欠けることなく、元気にプレーしているのである。
 アメフットは格闘技である。試合だけではなく、日ごろから努力して鍛錬しなければ、その能力は開発できない。しかし、ファイターズは平郡君の悲しい事故をきっかけに、練習に対する考え方を一新。安全を最優先し、より合理的、効果的な練習法を追求してきた。パートごとの練習は別として、全体練習の時間も、初めて見た人が驚くほど短くなった。
 ところが、2、3年前からその内容が素人目に見ても充実してきた。冬季の基礎体力を強化する練習やジムでの鍛錬を重視し、専門知識を持ったトレーニングコーチや理学療法士の力も借りて練習メニューも工夫してきた。栄養が偏らないように食事にも気を配り、学生トレーナーの指導と大学生協の強力で、合同朝食会も始めた。
 そうした流れの中で、チーム練習やパート練習では、時間は短くても、しっかり当たるメニューを取り入れた。
 それでも、けがをする選手は出る。実際、僕が練習を見ている目の前で、チームメートとの気合いの入った勝負で捻挫したり、体を強打して退場を余儀なくされた選手が何人もいる。今季も、練習中のけがで1試合か2試合を欠場した選手が何人かいる。
 さらに、主力選手は軒並み、昨シーズン終盤のハードな戦いで、あちこちに故障を抱えていた。春のシーズンは、主将梶原をはじめ副将金本、エースQB畑、DLの柱である岸、前川、池永、OLのリーダー和田らは、リハビリと鍛錬だけで、ほとんど試合に出場することがなかった。
 そうした選手が全員、グラウンドに復帰し、スタートメンバーに名前を連ねているのである。
 こう書けば、それは控えの選手が成長していないということの裏返しではないか、と心配される方があるかもしれない。
 決してそんなことはない。実際、試合の途中から、あるいは先発メンバーに代わって出場している選手たちの多くは、交代出場していることに観客が気付かないほどがんばっている。先日の関大戦で2本のインターセプトを決めたDB国吉、畑と交代して攻撃を率いるQB斎藤、1年生離れしたプレーでセンスを感じさせるWR木下、DB菊山。DLの2年生コンビ、梶原弟や岡部らも、他のチームなら堂々の先発メンバーだろう。春にはけがで練習もままならなかったキッカー三輪も、シーズンの深まりとともにキックの飛距離が伸びてきた。
 こうした選手が全員、元気に最終の立命戦を迎えることができる。時間は短くても、厳しい練習をしながら、なおかつ体にメスを入れて長期離脱を余儀なくされている選手以外は全員、立命戦に顔を揃えることができたのである。うれしいではないか。めでたいではないか。
 その陰には、プロのトレーニングコーチや理学療法士、そして学生トレーナーたちの献身的な努力がある。監督やコーチの配慮も行き届いている。けが人の回復状況を見ながら、栄養と休養とリハビリとを段階的に進め、決して無理させず、かといって手を抜くこともさせないで、選手に体調管理を徹底させてきた彼、彼女らの努力に心から敬意を表したい。もちろん、けがにもめげず、立命戦を照準に、懸命に回復のための過程を踏んできた選手の努力には頭が下がる。
 その努力の一端は、先日、ファイターズのホームページで公開された「ユーチューブ」の映像からもうかがえる。
 それは、学内のトレージングルームで黙々と努力する選手たちを捉えた映像だった。DLの岸、中前、WR小山、木戸、LB小野、TE金本、OL油谷、DB大森、そしてQB畑。苦しさに顔をゆがめ、息も絶え絶えになりながら、決められた課題に挑戦する彼らの表情をみていれば、今季、主力選手の大半がけがなく、戦線を離脱することなく、立命戦を迎えることのできた本当の理由が理解できるはずだ。
 「努力に勝る天才なし」という。「努力は裏切らない」という言葉も、代々、チームに受け継がれてきた。そういう努力と鍛錬があって初めて、シーズン開幕前の予想先発メンバー全員が最終戦に顔を揃えることが可能になったのである。ファンとしては、ありがたい、と選手やスタッフの努力に感謝するしかない。
 いまはただ、この「努力は裏切らない」という言葉を、25日の決戦で証明してくれることを切に願っている。
posted by コラム「スタンドから」 at 20:34| Comment(2) | in 2012 season

2012年11月12日

(30)天地人

 11日の関大戦は予報通りの雨。雨脚が強くなったり弱くなったりしながら、試合中ずっと降り続いた。この雨を味方に付けるか、それとも敵に回すか。ファイターズの首脳陣が予測していた通りの試合展開になった。
 先週金曜日、久々に練習を見にいって、鳥内監督と顔を合わせたら、いきなり天気予報の話題。「日曜は雨でしょう。予報では相当強い雨らしい。それにどう対処するか。小降りなら問題ないけど、強く降ったり、風が吹いたりしたら最悪。ゴムボールは扱いが難しいし、パスで勝負するうちにとってはやっかいなことです」
 監督の言葉を受けて、その日は完全に雨を意識した練習。水を張ったバケツにゴムボールを浸けて滑りやすくし、WRも機会あるたびにグラブに水をかけ、最悪の条件でパスを受ける練習を繰り返していた。
 そういう場面を見ていると、関西最強といわれるレシーバー陣が雨で力を発揮できなくなるのではないか。抜群のコントロールを誇る畑のパスも、ゴムボールでは思い通りに通らなくなるのではないか。そんな弱気の虫が顔をのぞかせる。
 たまたま、一緒に練習を見ていた小野コーチに聞くと「雨の日はパスを得意とするうちの方が有利ですよ。力のあるQBは、そんなに雨の影響を気にしないけど、経験の少ないQBにとってはより影響が大きいですから」「それより心配は風です。強い風が吹いたら、どんなに有能なQBでも力が出せません。雨は仕方ないけど、風の吹かないことを願っています」。さすがはQBコーチ。QBのことなら、その心理状態を含めて細部の細部まで見通している。その話を聞いて「どんなに雨が降っても、我慢をしていればきっとチャンスは来る」。そう思って試合を観戦した。
 ファイターズのレシーブで試合開始。案の定、両軍とも雨の影響か、陣地が進まない。互いに攻撃が手詰まりになり、パントを蹴り合う展開が続く。ボールも手につかず、ファンブルもある。第1Qが終わった時点で、両軍ともダウンを更新したのは1度だけ、という記録を見れば、我慢比べの展開だったことがよく分かる。
 両軍とも一歩も引かない守り合いの試合に突破口を開いたのはファイターズ。第2Q残り2分19秒、相手陣49ヤードから始まったシリーズで勝負をかけた。雨が少し小降りになったのを見極めたベンチがゴムボールから皮のボールに交換を要求したのだ。皮のボールは水分を吸収すれば重くなるし、滑りやすい。当然、パスは投げにくい。
 しかし、雨は小降りになっている。前半、残された時間は短い。少し小降りになったここで勝負をかけないと、後半、再び土砂降りになって、皮のボールを使う機会が来ないかもしれない。そう見極めて、鳥内監督が審判団にボール交換を要求したのだ。
 この決断に畑が応える。WR梅本、大園、木戸へと立て続けに短いパスをヒットさせてダウンを2度更新。パスが通ればランも通る。RB望月のダイブプレーや畑のキープを織り交ぜ、さらにWR小山と木戸にパスを通して、あっという間にゴール前に迫る。ゴムボールではあれほど苦しんだパスが、皮のボールだといとも簡単に通っていく。
 前半残り41秒。第3ダウン残り3ヤード。中央ダイブのフェイクから畑が左オープンを走り切って待望のTD。堀本のキックも決まって7−0で前半終了。
 後半は関大のレシーブ。ファイターズベンチが一番懸念していた関大のリターナー陣がその能力を見せつける。好リターンでいきなりファイターズ陣45ヤードから始まったシリーズは、わずか2プレーで、ファイターズゴール前20ヤードに迫る。ここは守備陣が必死に食い止め、関大はフィールドゴールにトライ。
 ここでファイターズ守備陣が踏ん張る。フィールドゴールチャージに入っていたLB池田が相手の蹴ったボールをカットしたのだ。フィールドゴール不成功。相手に傾きかけた流れを一気に引き戻すビッグプレーだった。
 試合後、池田に聞くと「たまたまですよ。前がうまく空いていただけです」。だが、梶原主将に聞くと「あれは、(フィールドゴールチャージ担当の鳥内)貴央の手柄です。フィールドゴールチャージの練習で、ずっとああいう場面を想定してプレーのアイデアを練り、チャージする練習を繰り返していましたから。リーダーを中心に努力してきたチャージチーム全員の手柄です」ということだった。練習とアイデアという裏付けがあって初めて実現した起死回生の好プレーということだろう。
 これで勢いづいたファイターズは、第3Qに望月のラン、畑の2度に渡る独走で立て続けに3本のTDを挙げ、試合を決めた。
 振り返れば、雨が一瞬小降りになった「天の時」を逃がさず、ホームゲームという「地の利」を生かして戦ったファイターズ。苦しい時に耐え続けた守備陣や、オフェンスライン。努力とアイデアで突破口を開いたフィールドゴールチャージチーム。グラウンドで戦う全員で流れを引き寄せた「人の和」。
 雨の中、厳しい戦いを勝ち抜いたのは「天地人」の力を結集したファイターズだった。
 関西リーグもあと1試合。本当に強い立命との決戦にも「天地人」の力を結集して臨んでほしい。
posted by コラム「スタンドから」 at 20:45| Comment(2) | in 2012 season

2012年11月08日

(29)「好きなんだ」

 このところ、本業に追われて、コラムの更新が遅れている。更新どころか、練習を見に行く時間もない。なんせ京大戦以降、一度もグラウンドに顔を出していないのだ。リーグ戦は佳境に入っているというのに、なんてこった。寝る間も惜しんで練習やミーティングに取り組んでいるファイターズの諸君のことを考えると、居ても立ってもいられない。
 それでも、本業はおろそかにできない。紀伊半島の片隅にある小さな新聞社ではあるが、地域での普及率は7割近い。僕たちが書くこと、伝えることに期待して下さる大勢の読者がおられる以上、手を抜いた紙面を届けるわけにはいかないのである。
 とりわけ、この3カ月ほどは、地域の権力者の不正を暴く調査報道に全力投球だった。その陣頭に立って担当記者を鼓舞し、その原稿をすべてチェックし、果ては自分でも不正を追及するコラムや社説を書き続けた。
 書かれた側をも納得させながら、なおかつビシバシと不正を暴いていくのだから、記事の一字一句には細心の注意が必要だ。それでいて筆先がにぶるようなことがあってはならない。気力と体力と情熱、そして技術と使命感がなければ続かない仕事である。
 ローカル紙の編集局長となれば、地域では結構信用がある。それに応じて、紙面作り以外の仕事も増えてくる。例えば、この1カ月間に地域の小中学校で計6回、出前授業を担当、町内会の集まりで2回の講演をしたといえば、その多忙ぶりが分かっていただけるだろう。加えて大学では週に1日、ふたコマの講義を担当している。われながらよくやっていると思う。
 というような事情で、この10日ほどは練習も見に行けていない。当然、コラムを書く具体的な事例、場面もない。何より練習も見ないでコラムを書くというのは不遜である。そう思って、今週はパスしようか、と思っていたら、友人から電話がかかってきた。
 「今週はコラムが更新されてないけど、何かあったんか。心配になってな」。親切なことである。
 「ほっといてくれ、オレは忙しいんじゃ」といいたいところだったが、せっかく心配して電話をくれたのに、そんなことはいえない。「うん、ちょっと遅れているけど、ちゃんと書くよ」と、ついつい心にもない返事をしてしまった。
 でも、練習を見ていないし、選手の顔も見ていない。「何を書いたらいいんだ」と考えあぐねていた。
 そんな時、昨日出掛けた小学校で6年生と交わしたやりとりがきっかけで、ぱっと明かりがともった。
 2時間ぶっ通しの授業が佳境に入ったころだった。聡明そうな女の子がこんな質問をしてくれた。「長い間、新聞記者の仕事をしていて、しんどいとか、やめたいとか思ったことはありますか」
 すぐに答えた。「しんどいことはいっぱいありました。夜、寝る時間が3時間ほどしかない日が何日も続いたことがあったし、毎朝5時に家に帰って、昼には会社に出て行く生活が5カ月間続いたこともありました」「でも、辞めたいと思ったことは一度もありません」
 「どうしてですか」と再度の質問がくる。小学生には、どうして、そんなに苦しくてしんどいことを続けるのか、不思議だったのだろう。
 僕は即座に答えた。「新聞記者という仕事が好きなんです。もう一度生まれ変わっても、この仕事をしたいと思っています」
 そう答えると、女の子は「好きだから、しんどいことがあってもがんばれるのですね」といって納得してくれた。聡明な子である。
 そう。「好きだから、がんばれる」のだ。壁にぶつかっても、それを突破するために努力できるし、家族から「なぜ、そんな割の合わないことを」といわれても、気にせず目標に向かっていけるのだ。というより、目標に向かっていくこと、壁を突破することを喜びと感じ、それを自身のエネルギーに変えて行くことができるのだ。
 「好き」という言葉には、そういう力がある。
 ファイターズの諸君も、アメフットが好きでこのスポーツに取り組んでいるはずである。ならば、その「好き」を突き詰めてみようではないか。どんなに苦しいことがあっても、どんなに強力な相手が立ちふさがっても「僕は勝つことが好きなんだ」「目の前の相手をやっつけることが生き甲斐なんだ」という、このスポーツに取り組んだ原点に戻ってみようではないか。そこから道は開ける。苦しみが喜びになる。
 それが小学生に答えたことであり、45年間、新聞記者として生きてきた結論である。
 リーグ連覇まで、あと2試合。残された時間は少ない。だからこそ「僕はアメフットが好きなんだ」「ファイターズが命なんだ」という気持ちをトコトン突き詰めてほしい。自分と向き合い、自分に打ち克ってほしい。
posted by コラム「スタンドから」 at 17:27| Comment(1) | in 2012 season

2012年10月30日

(28)頂への挑戦

 先日読んだ、冲方丁の「光圀伝」(角川書店)にこんな言葉があった。
 「天下が、よもやこんなにも遠いものだとは……。ここまでできた、そう思ったときには、頂はさらに遠く離れたところにある。近づけば近づくほど、峠は高くなる」
 「峠を登るとき、遠目には低くとも、ふもとに来れば高さが分かる。実際に登り始めれば、頂は見えないほど高くなる」
 これは、後に水戸の黄門さまと呼ばれる徳川光圀が若い頃、詩業に志を立て、詩作で天下を獲る、と決意した頃の友人との会話の一節である。その道のはるかに遠いことを実感した若者が、それでもくじけず、その峠を登ろうと覚悟を決める場面でもある。
 京大との激しい戦いを観戦した後、帰り道で、なぜかこの言葉を思い浮かべていた。
 それほど、両軍ともに気合いの入った戦いだった。
 ファイターズのパントで始まった立ち上がり、京大はいきなり切れのいいランプレーで17ヤードを獲得。たたみかけるように5ヤードのラッシュを連発して2度目のダウン更新。あっという間に中央付近にまで迫ってくる。
 京大恐るべし、と浮き足立つ場面だったが、ここはDL前川の鋭いタックルと、主将梶原のQBサックでなんとか食い止め、相手にパントを蹴らせる。
 ところが、そのパントが高く遠く飛ぶ。相手キッキングチームの力量をたっぷりと見せつけられ、ファイターズはゴール前6ヤードからの攻撃。これは苦しい試合になるぞ、と見ている方も身が引き締まる。
 しかし、この苦しい局面で、QB畑はあくまで冷静だった。いきなりWR木戸にロングパスを投じる。これは惜しくも失敗したが、第2ダウン10ヤードでRB望月が中央を突破、13ヤードを獲得してダウンを更新。続いて畑からWR梅本へ息の合った23ヤードのパスがヒットした。パスはややオーバー気味だったが、梅本はこれを片手でキャッチ。このビッグプレーで、ようやくチームが落ち着く。
 勢いづいたファイターズはRB鷺野のラン、畑からWR小山へのパスと、リズムよく攻撃を展開。仕上げは畑からWR大園への20ヤードTDパス。K堀本のキックも決まって7−0と主導権を握った。
 次の京大の攻撃は、キッキングチームに入ったWR小山のナイスタックルで自陣13ヤードから。ここでも前川のタックルとDB大森のパスカットで相手に何もさせず、再びファイターズの攻撃。
 このシリーズは畑から小山へのパス、畑のキーププレー、望月の中央突破などで一
気にゴール前10ヤード。しかし、ここでランプレーが決まらず、結局は堀本のFGによる3点止まり。京大の守りが固いのか、それともわが方の攻撃が手詰まりになったのか。遠く離れたスタンドからではよく分からなかったが、これからの関大、立命との戦いを考えると、少々気になる詰めの甘さだった。
 ファイターズの次の攻撃シリーズは、木戸の好リターンで自陣45ヤードの好位置から。ここでも望月の中央突破、畑から木戸やWR南本へのパスが次々にヒット。最後はパワープレーでこじ開けたオフタックルを望月が走り抜けてTDに結び付けた。
 ファイターズは続く4度目の攻撃シリーズでも、畑から1年生WR木下への27ヤードのパスなどで敵陣9ヤードに迫り、最後は堀本が短いFGを決めた。結局、前半は一度もパントを蹴ることなく、4度の攻撃機会をすべて得点に結びつけ20−0で折り返した。
 このように試合経過を追っていくと、ファイターズの楽勝ペースに思える。だが、現場で見ていると、なかなかそんな気分にはなれなかった。ゴール前10ヤードほどの距離からの2度に渡るファイターズの攻撃を見事にしのいでTDを許さなかった京大守備陣の集まりの速さと強いタックルが余りに印象深かったせいだろう。
 それを見ながら、関大や立命はこれ以上の強力な守備陣を擁している。おまけに攻撃では、それぞれ一発の個人技でTDをとれるタレントが何人もいる。京大という「峠」を越えても、その先にもっと高い頂が次々とそびえている現実があるから、目の前の得点に一喜一憂している場合ではないぞ。そんな警告が、頭の片隅でずっと鳴り続けていた。
 試合後、記者団に囲まれた鳥内監督も同じような心境だったのだろう。いい試合でしたね、という記者の質問にこんな風に答えていた。
 「あきません。2度もタッチダウンをとれるチャンスを逃がしているようでは、関大や立命あいてではしんどいですよ」「1秒あったら、タッチダウンをとれる選手が何人もいる相手ですから。また、がんばりますわ」
 一つの頂を越えれば、また次の高い頂が立ちはだかる。しかし、それを極めない限り天下は取れない。だから、がんばるしかない。そこで弱音を吐かず、踏ん張ってきたのがファイターズの先輩たちである。
 現役の諸君も、さらに気合いを入れて高い頂に挑もうではないか。1に鍛錬、2に鍛錬である。
posted by コラム「スタンドから」 at 12:18| Comment(0) | in 2012 season

2012年10月23日

(27)兄貴たちの献身

 京大という名前を聞くと、その昔、取材記者として武田建先生を訪ね、アメフットの初歩的なことをいろいろ教えてもらった頃のことを思い出す。昭和でいえば49年から50年、ファイターズという愛称で呼ばれ始めた頃である。QBは玉野、ラインには小寺、神木、松田、前川、RBには柴田、谷口、レシーバーには小川というスター選手がそろっていた時代といえば、懐かしく思い出されるファンも多いだろう。
 当時、僕は朝日新聞阪神支局の遊軍担当記者。関学も持ち場の一つということで、しょっちゅう取材に立ち寄っていた。取材だけではなく、昼飯を食べに学生会館に寄ったり、ゼミの先生の研究室に遊びに行ったりもしていた。
 そんなある日、グラウンドでロングスナップを出す練習に励んでいた吉川宏選手を取材したことが縁で、先生とも話をするようになったのである。
 当時、関西のアメフット界は、関学の一人舞台という状況だったが、年を追うごとに京大が力を付けていた。そこである日、先生にこんな質問をした。
 「京大は国立でも1、2を争う名門大学。選手の獲得もままならないのに、どうしてあんなに強くなるのでしょうね」
 先生は、いくつかの理由を挙げて下さったが、一番印象に残っているのがこんな言葉だった。
 「頭がよくて運動能力に優れた高校生が大学に入って、アメフットの魅力にを知ったら夢中になる。4年間はアメフット漬けで過ごし、5年目でしっかり勉強しようと覚悟を決めているから、練習に対する取り組み、集中力が違う」
 「1年留年して5年生になった選手たちが学生コーチとなって、自分の身につけたことを懸命に現役選手に教え込む。頭のいい学生が頭のいい学生に指導するのだから、上達も早い。未経験者というハンディキャップは簡単になくなります。うちのチームも5年生になって指導してくれる学生がいてくれるといいのですが、留年するとなると、国立と違って私学は授業料の負担が大きいから、留年してくれと頼むわけにもいけませんしね」
 そういう話だった。5年生コーチの役割と重要性を初めて知った時でもあった。
 時は移り、いまはファイターズでも5年生コーチがチームの運営に大きな役割を果たしている。今年は昨年の主将、松岡君をはじめ関西のベスト11に選ばれた香山、重田の両君、そして坪谷君と石川君がアシスタントコーチに名を連ねている。毎日のようにグラウンドに顔を出し、後輩を指導し、時には防具を着けて練習相手を務めている。
 それぞれが今年1月3日まで、チームの主柱として活躍していた選手だから、そのプレーぶりには目を見張らされる。1枚目のメンバーを相手に、仮想京大、仮想立命の選手として練習台を務めていても、相手を圧倒するようなパフォーマンスを見せている。
 それだけではない。監督やコーチと連絡を密にし、そのアドバイスを選手に伝え、実行させることも大きな役割だ。現役の選手は、監督やコーチと年齢が離れているが、5年生コーチは昨年までのチームメート。選手が頼れる兄貴分としての役割も重要だ。個々の選手の悩みを聞いたり、個人的な練習の相手を務めたりもしている。
 大学で幹部職員として働いているコーチよりグラウンドにいる時間は長いし、動き回る量も半端ではない。いくら頂点を極めた選手だとはいえ、常時、選手と同じように体を鍛え、情熱を持って取り組まないと続けられることではない。
 加えて、この時期になるとコーチとしては登録されていない5年生たちも顔を出し、練習台を務めたり、審判を務めたりしている。その昔、武田先生が「京大には5年生コーチがいるからうらやましい」といわれていた状況が、ファイターズでも生まれているのだ。
 さて、今週末はあの西京極競技場で、京大との全勝対決である。選手たちには、その能力を全開にしたパフォーマンスを期待し、兄貴分たちには、選手たちの精神的な支柱としての役割を果たしてくれるように期待しよう。負けられない一戦が、目の前にある。
posted by コラム「スタンドから」 at 22:49| Comment(2) | in 2012 season

2012年10月16日

(26)僥倖か地力か

 14日の龍谷大戦は、何とも評価の難しい試合だった。
 得点は63−0。4つのクオーターにバランスよく点を重ねたし、先発メンバーが引っ込んだときにも控えのメンバーが持ちこたえて相手を完封した。2枚目、3枚目のメンバーが顔見せのように登場した第4Qにも着実にTDを重ね、スコアボードを見る限りは、ファイターズの圧勝だった。
 だが、現場で試合を見ている限り、そういう気楽な気分ではなかった。エースQB畑に代わって、この日は斎藤が先発したが、立ち上がり2回の攻撃シリーズは、ともにパスが思うように通らず、2度ともパントを蹴る羽目になった。ディフェンスもまた、反則などがあって簡単には相手を抑えきれない。
 このままずるずる押されるのか、という流れになりかかったところで、QB斎藤のパンチが炸裂した。オプションキーププレーで中央を抜け出し、3人のブロッカーに守られて53ヤードを独走、先制のTDにつなげたのだ。
 その直後、今度は守備陣が見せた。相手が自陣10ヤード付近から投じた短いパスをLB小野がインターセプト、そのまま15ヤードを走り切ってTD。第1Q終了間際の1分足らずの間に、一気に14点を獲得して、ようやくベンチを落ち着かせた。
 第2Qに入っても、ファイターズの一発攻勢は続く。まずは南本の52ヤードパントリターンTD。相手デフェンスのタックルを十分な見切りで一人、二人とかわし、左のサイドライン際を一気に駆け上がった。次のシリーズはパントに追いやられたが、自陣25ヤードからのその次の攻撃では、RB望月が立て続けに中央をついて計16ヤード前進。続いて斎藤から1年生WR木下への26ヤードのパスがヒットして相手陣35ヤード。
 ここでファイターズはWR木戸からWR梅本へ34ヤードのパス。相手の意表を突いたとっておきのプレーであり、木戸の遠投力と梅本の走力がかみ合った見事なパスだった。残った1ヤードは望月がお約束のように左オフタックルを抜けてTD。K堀本がすべてのキックを決めて前半を28−0で折り返した。
 このように得点経過を振り返れば、いかにも順調である。だが、よく注意してみると、1本目は斎藤のキーププレーからの53ヤード独走。2本目は小野のインターセプトTD、3本目は南本の52ヤードリターンTD。4本目も、途中ランプレーやパスで陣地を進めてきたが、決め手は木戸のスペシャルプレーだった。
 つまり、こつこつとジャブを放って陣地を進めるのではなく、一発パンチで相手をKOするような戦いだったのである。こういうパンチが27日からの京大、関大、立命との戦いで、炸裂するかどうか。逆にそのパンチの裏をとったカウンターパンチを決められるようなことになるのではないか。そう思うと、すっかり憂鬱になってしまうのである。
 何しろ相手は、鳥内監督いわく「とてつもなく強力な守備力を持っている」。オフェンスには「一発で試合を決める決定力のあるタレント」がいる。キッキングチームも、ファイターズ以上に洗練されているそうだ。
 そういう強敵を相手に、前半4試合のような余裕を持った戦いができるかどうか。龍谷戦のような一発で決めるプレーが決まるかどうか。試合後も、厳しい表情を崩さなかった副将、川端君がこんなことを言っていた。
 「まだまだです。相手がこれまでのチームで一番強かったこともありますが、なかなか思い通りにさせてくれなかった。2枚目以下の選手はがんばってくれたけど、スタメンがもう一段階上のプレーを追求しないと、これからの試合は苦しいでしょう」
 実際に戦った選手ならではの言葉である。得点板に記された数字はひとまず忘れ、次からの試合に備えなければならないということだろう。
 この試合を63−0で勝ったのは事実である。しかし、その得点が僥倖(ぎょうこう)によってもたらされたのか、それとも本物だったのか。それは、これからの3戦で判明する。そのハードな戦いに臨むために、チームが一丸となって、残された時間を惜しみ、いっそうの奮励努力を重ねてほしい。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:15| Comment(1) | in 2012 season

2012年10月04日

(25)「去りゆく人」

 こういうコラムを書いていると、機会があるたびに多くの方々の激励やアドバイスに支えられていることを実感する。毎回、この文章を最初に読んでチェックしてくれる小野コーチ、ホームページにアップする作業を担当し、折りに触れてアドバイスをくれるアシスタントディレクター石割氏、スタジアムで声を掛け、時には「いいね」のチェックを入れて下さる読者の方々、そしてファイターズの卒業生や現役の諸君。
 とりわけ元監督の武田建先生から送られてくるメールが励みになる。指導者としての長年の経験、現役の心理学者、カウンセラーとしてのものの見方、考え方、それらに裏打ちされたご意見やご指摘は、いつも刺激たっぷりで、考えるヒントが一杯詰まっている。
 先日、アップした「4年生の役割」に寄せていただいた感想がその典型。私信ではあるが、差し支えのない部分を紹介したい。こんな文面が含まれていた。
 「記事を拝見していて、これからのシーズン、ああした試合の紹介やご意見という形で、4年生への送別というか、お別れの文章が載るのだな……と感じています。石井さんにとっては、入学前から文章の指導をなさり、ご自分の息子のようなお気持ちだと思います。そして彼らが最上級生になり、立派な活躍をしてくれてうれしいけれども、1試合、1試合、彼らの卒業が近くなるのです」
 「私が大学や高等部の監督時代もそうでした。まだ、高等部の時代は大学でのプレーを見ることも出来ました。でも、大学時代にはこれで彼らは出て行ってしまうのだ!というさみしさと彼らなしで(来年は)試合をしなくてはならないという恐怖と戦っていました」
 そういうことだ。秋の関西リーグが始まったばかりだというのに、僕はもう、あと残り4試合、それを勝ち抜いて甲子園ボウルやライスボウルに進出しても残り7試合、日数にすると、リーグ戦最終の立命戦まで残り50日ほどしかないという焦燥感と、その限られた日数が持つ意味の重大性、そしてある種の寂しさを感じている。
 シーズンが始まってまだ1カ月。まだ3試合しか戦っていないのに、一体、何を寝ぼけたことを、と思われる人が多いかもしれない。けれども50日といえばあっという間だ。その前に、龍谷、京大、関大という、どれ一つ負けられない試合が連続していることを考えると、実際に練習に充てられる日数は限られる。休養もとらなければならないし、栄養も補給しなければならない。もちろん、授業もあるし、筋力トレーニングやミーティングに費やす時間も必要だ。練習に充てられる日数、時間は本当に短い。
 その限られた時間をどう使うか。効果的な練習とは何か。それをチームの全員がわがこととして考えなければならない。考えたことを実行しなければならない。相手チームを圧倒するための戦術を練り、その戦術をチームとして完璧にこなせるように鍛錬しなければならない。
 もちろん、ファイターズには長い歴史の中で積み重ねてきたノウハウがある。監督やコーチが培ってきた蓄積もある。それは、どんなチームと比べても、見劣りするものではない。けれども、それを実際の試合で完璧にこなし、チームに勝利をもたらせるためには、チーム全員の力と協力が欠かせない。
 毎日、毎時間、毎分、毎秒の完全な取り組みがチーム全員に求められる由縁である。失敗をして落ち込んだり、成功して有頂天になったりしている時間は寸秒もない。
 もっと大事なことがある。4年生にとっては、残された1試合、1試合がこのチームを去っていく日までの「1里塚」であるということだ。みんなと一緒に練習に取り組み、試合に臨めるのは残り50日。幸運に恵まれて関西リーグを制覇し、甲子園ボウルに勝ったとしても、1月3日まではもう3カ月を切っている。泣いても笑っても、もうそれだけの時間しか残されていないのである。
 「去りゆく人」つまり、4年生にとっては、それこそ毎日が飛ぶように過ぎていく思いだろう。3年生、2年生、1年生にとっても、4年生と一緒にプレーできる時間は、もう10本の指で数えられるほどしかなくなっている。
 その貴重な時間をどう過ごすか。生涯で最も充実した50日とするのか、それとも後悔だらけの期間にしてしまうのか。すべては選手、スタッフを含めたファイターズ全員の取り組みにかかっている。昨年度の主将、松岡君が口癖のように言っていた「甲子園ボウルの前の1日も、今日の1日も同じ1日だ。悔いのない練習をしよう」という言葉を、全員がかみしめてほしい。
 下級生は「去りゆく人」を気持ちよく送り出すために、4年生は心豊かにチームを去っていくために、限りある時間、寸刻寸秒を慈しみ、大切にしたい。全身全霊を込めて、練習に取り組んでいただきたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 13:35| Comment(4) | in 2012 season

2012年09月30日

(24)4年生の役割

 29日は王子スタジアムで、地元中の地元、神戸大学と対戦。台風17号の前触れか、試合が始まる頃から雨がシトシトと降るあいにくの空模様だったが、ファイターズは攻守蹴とも元気一杯。守備陣は前半、相手に1度もファーストダウンを与えずに完封。攻めてもQB畑からWR大園へのTDで先制。その後も畑からWR木戸への2本のTDパス、RB望月の中央ダイブなどで圧倒、31−0で前半を折り返した。
 後半は、ファイターズのレシーブで試合再開。第1プレーは反則で自陣21ヤードからの攻撃となったが、ここでいきなりRB鷺野が左オープンを駆け上がり、79ヤードを走り切ってTD。俊足を利して鷺野の走路を確保した大園のブロックも効果的だった。守備陣の活躍で相手陣25ヤードからの攻撃となった次のシリーズもQB松岡のスクランブルで一気にゴール前に迫り、仕上げはQB斎藤から大園へのTDパス。点差は開くばかりだった。
 試合を観戦しながら、僕はいつもノートに試合の経過や気になったことを簡略にメモしている。記録というよりも原稿を書くための手控えである。
 これを手掛かりに試合を振り返っていると、観戦中には気付かなかったことが見えて来る。例えば、今回のタイトルに掲げた「4年生の役割」というようなことである。
 どういうことか。この試合のTDシーンを中心に説明したい。
 この試合ではパスで5本、ランで3本、そしてWR小山の38ヤードパントリターンTDの計9本のTDを記録した。そのうち小山のTDとゴール前1ヤードから飛び込んだ望月のTDを除く7本を2年生が記録している。先に挙げたように木戸と大園が各2本、鷺野が1本。そして試合の終盤にQB斎藤からTE松島への5ヤードTDパスと、残り37秒でQBドローを決め、21ヤードを走り切った斎藤のTDである。
 この結果だけを知れば、2年生の活躍がすべてのようにみえるだろう。ところが、実際はそんなに単純なものではない。4年生、あるいは3年生の活躍があってこそ、2年生の力が発揮できたのである。説明しよう。
 立ち上がり、ファイターズ守備陣は神戸大の攻撃を簡単に封じた。1本目はLB川端の素早いタックルでマイナス1ヤード、2本目は相手の短いパスが通ったがDB保宗が強烈なタックルでそれ以上は進ませない。3本目もDL朝倉の素早いタックルでダウン更新を許さない。
 このように4年生3人が気合いのこもったタックルでリズムをつくって迎えたファイターズの攻撃。今度は4年生QB畑がWR梅本、小山への2本のパスでダウンを更新。さらには望月のランを挟みながら大園、金本、樋之本へのパスを続けて相手ゴールに迫り、最後を大園へのパスで締めくくっている。
 2度目の神戸大の攻撃シリーズでもLB池田、DL前川が鋭いタックルで相手を釘付けにし、仕上げは主将DL梶原のQBサック。これでは相手のリズムは崩れ、逆に味方の士気は上がる。その勢いに乗って畑が小山へのパスを成功させた直後に、畑から木戸への35ヤードTDパスがヒットした。
 つまり、守備であれ、攻撃であれ、4年生や3年生がしっかりその役割を果たしたことによって、その後の2年生の華やかなTDを呼び込んだのである。4年生守備陣の活躍によってつかんだ試合の流れを、畑や小山、望月らの4年生が堅実なプレーでつなぎ、彼らのお膳立てに乗って2年生が華々しい活躍をしたのである。
 逆に言えば、畑や小山、南本らの堅実なプレーが続かなかったら、せっかくファイターズにもたらされた試合の流れを断ち切ってしまう危険性もあったということだ。実際、後半、次々と控えのメンバーが登場すると、一気に試合の流れは悪くなった。下級生の力不足という面が大きかったが、それをカバーする立場の上級生にも問題なしとは思えなかった。上級生が全員「下級生を育てる」という強い目的意識を持って行動しないと、いつまでたっても層は厚くならない。
 試合後、梶原主将から「これからは本気でパスキャッチの練習に取り組みます」という言葉を聞いた。彼が後半、あわやインターセプトという場面でボールをキャッチ仕切れなかったことに対する反省だった。
 彼は常々、試合ではどんなチャンスも逃がしてはならない、いつも今の自分を乗り越えるプレーをしよう、とチームの全員に呼び掛けている。その立場から考えると、せっかく巡ってきたインターセプトのチャンスを、自らの捕球ミスで逃がしたことが我慢ならなかったそうだ。
 こういう気持ちを大事にしてほしい。4年生がいつも「今の自分を乗り越える」気持ちでプレーする。それぞれのプレーを通じて「下級生を育てる」役割を果たす。そういう姿勢を常時見せ続けてほしい。それをグラウンドで表現し続けていけば、道は開ける。
posted by コラム「スタンドから」 at 23:11| Comment(1) | in 2012 season

2012年09月26日

(23)「他山の石」

 20日付の朝日新聞スポーツ面に、小さいけれど見過ごしにできない記事が掲載されていた。
 「のぞき・酒強要 部員50人を処分 早大アメフット部」と3本の見出しはついていたが、ベタ記事と呼ばれる1段の扱いだったので、見落とされた方も多いだろう。
 記事には、部員計50人が夏合宿中に女性用の風呂場をのぞいたり、未成年の下級生に飲酒を強要したりしたとして、1〜3試合の出場停止処分を受け、部も10日間の活動停止処分を受けたとあった。誰が処分をしたのかという主語のない不完全な記事だった(この点は、同じ会社で記者生活を送った人間として、はなはだ不本意である)が、それでもアメフット部が不祥事を起こしたことは伝わってくる。
 事件については、新聞記事になる前にある人から聞かされていたので、特段の驚きはなかった。けれども、同じ世代の若者が同じようにアメフットに取り組み、同じように日本1を目指して鍛えているファイターズの部員の顔を思い浮かべると、何かと考えさせられることが多かった。
 自分でも経験があるが、学生時代といえば常に背伸びをし、理由もなく枠をはみ出したい欲求に駆られる。同じ集団にいても、人と同じことをするのが耐えられず、突飛な行動をとりたくもなる。僕の場合でいえば、ゼミの研究会でみんなが教授におもねり、ごまをすっているのが気に食わず、徹底的に逆らった(もちろん、その教授には嫌われた。でも、真っ向から反抗している姿勢がいいといって、別の教授にはとことん可愛いがってもらった)ことがそうだし、参加者がほんの300人から500人の街頭デモに何度も参加して暴れたこともその範疇(はんちゅう)に入るだろう。後先を考えず、勢いで行動してしまうというのは、ある意味、若さの特権かもしれない。
 けれども、集団の勢いを借りて、あるいは酒の勢いを借りて、という振る舞いは、どうみても品位に欠ける。「旅の恥はかき捨て」とか「赤信号、みんなで渡れば怖くない」いうような集団に流される生き方は、人として美しくない。
 高校野球の世界でも、集団の威を借りて上級生が下級生をいじめたり暴力を振るうことは少なくない。監督やコーチがその権威を背景に「指導」という名目で部員を殴っている事例もたびたび報告されている。今回の「飲酒の強要」も「集団でののぞき行為」も根っこは似たようなものだろう。
 問題は、それがはびこるかどうかである。同じ年代の同じスポーツに取り組む人間(それは時には、勢いに任せて暴走してしまうような若者である)が同じように集団で活動していながら、一方は暴走し、一方はそれに歯止めがかかるという分岐点は、どこにあるのか。
 指導者やスタッフの資質もあるし、チームが置かれた状況もある。練習環境も無視できない。なにより、部員一人一人の自覚、心構えに待つところが大きい。
 そういう諸々の条件が結合し、昇華して、チームに品格が生まれる。そしてその品格が若さの暴走に歯止めをかけるのだ。
 僕は昨年、アエラムックの関西学院版にファイターズの物語を書いた。そこにこんな一説がある。
 「たとえ戦術的に劣っている時でも、戦術を工夫し、知恵をしぼり、精神性を高めて、いつも力を最大限に発揮するチームを作ってきたのがファイターズであり、戦後、フットボール界の頂点を争い続けて唯一のチームとしての矜持(きょうじ)である」
 「上ケ原のグラウンドには、人を人として成長させる磁気が流れている。それは常に勝つことへの意識を高め、その圧力に打ち克とうと努力を続ける学生と、それを支える監督やコーチが醸し出すものである。草創期のメンバーが無意識のうちに埋め込んだものであり、歴代のOBがライバルとの戦いの中で醸成してきたものでもある。自発性を重視し、献身に価値を置くチームとしてのたたずまいがもたらしたものといってもよい」
 「人はそれを称して伝統と呼ぶ。それがチームソングにある『勝利者の名を誇りに思い、その名に恥じないチームとしての品性を持て』という意味につながるのである」
 そう。矜持と伝統、そして品性がキーワードである。この言葉の意味を常に部員とチームにつながるすべての人間が抱きしめている限り、若さの暴走、無軌道な行為にも歯止めが掛けられるのである。
 早稲田大学で起きたことを「他山の石」としたい。部員一人一人がファイターズの名にふさわしい「戦士」として、今まで以上に矜持を持ち、品性を高める努力を重ねてくれることを期待する。
posted by コラム「スタンドから」 at 23:23| Comment(1) | in 2012 season

2012年09月19日

(22)ピンチはチャンス

 それにしてもけが人が多い。
 秋のリーグ戦は始まったばかりだというのに、今季の活躍に注目していた選手たちが相次いで戦列を離れた。負傷した部位を氷で冷やし、テーピング用のテープでがちがちに固定してグラウンドを去る選手の姿を見ていると、自分の子や孫がけがをしたかのように胸が痛む。選手や家族にとっては、言葉に尽くせないほどの悔しさだろう。もちろん、チームにとっても、手痛い打撃である。
 今年のチームづくりは、昨季、1月3日のライスボウルまでのハードな戦いで傷ついた選手たちの回復と、先発メンバーに次ぐ2番手、3番手メンバーの底上げが大きなテーマだった。ディフェンスでは主将の梶原、ラインの前川、岸、池永らの主力が春には全く試合に出ず、けがからの回復と体力作りに専念した。オフェンスも同様、司令塔の畑やラインを引っ張る和田らが出場を見合わせ、その分、3年生や2年生を積極的に起用してきた。
 それが功を奏し、これまでは控えに甘んじていた3年生のOLやDB、2年生のDLやQB、RB、DBが力を付け、先発メンバーの一角に入ったり、交代要員として1枚目のメンバーに劣らない活躍をしたりして、スタンドをわくわくさせてくれた。
 チームの底上げができた、これで戦力が厚くなった、と喜んだ矢先の「成長が目に見える」メンバーたちの離脱である。
 幸い、初戦でけがはしたけど、すぐに2戦目から戦列に復帰し、元気でプレーしているメンバーもいる。2戦目は出られなかったが、次の試合を目標に懸命に回復訓練に励んでいる選手もいる。
 けれども、人間の身体は微妙だ。負傷は癒えても「けがの記憶」は体が覚えている。けがをする前と、復帰後では、同じプレーでも精度が落ちることは少なくない。知らず知らずに負傷した部位をかばって、思い通りに体を動かせないことだってある。
 そういう時こそ2枚目、3枚目のメンバーが活躍するチャンスである。どのポジションであっても、先発メンバーと遜色のない控え選手がいれば、主力選手の負傷は、逆に新たな人材を登用するチャンスになる。新たな人材が成長すれば、新たな作戦の展開も可能になるだろう。
 「チームのピンチは、個人のチャンス」と呼ばれる、これが由縁である。近年の関西リーグのように、上位校の戦力が拮抗してくると「選手層の厚さが勝敗を分ける」といわれるのも、ここに理由がある。
 ならば、ファイターズはそういうチームの底上げができているか。少しぐらい負傷者が出ても「オレがポジションを獲る」と言い切れる選手がどれだけいるか。15日の同志社戦は、そういう視点で観戦した。
 結論からいうと、光明は3分、悪いことが7分ぐらいだった。
 光明のひとつは、春はJV戦ぐらいしか出ていなかったRB榎本(3年)がエースRB望月を思わせるようなパワフルな走りを見せてくれたこと。試合会場に向かう電車で、たまたま一緒になったRB担当の島野コーチが「今日は榎本の走りに注目して下さい。最近はいい練習をしていますから」と言われていた通りのプレーぶり。10回のラッシュで73ヤードというチームトップの走りを見せ、タッチダウンも決めた。
 2つ目は、DLの先発に名を連ねた2年生の梶原弟。4年生、前川の欠場が気にならないほどのスピードと当たりで相手ラインを押し込み、1枚目と遜色のないプレーぶりだった。春の試合で鍛えられ、「もう一丁、もう一丁」と積極的に練習してきた成果だろう。同じ2年生の練習仲間であるDLの岡部とともに、さらなる成長が楽しみだ。
 3つ目は、僕が密かに注目しているLBの元気印・吉原がQBサックを決めてくれたこと。LB陣には副将・川端をはじめ1年生の時から活躍している池田雄や小野がおり、練習では全く目立たない選手だが、試合になると、そのハッスルプレーが目につく。時々、方向違いのプレーもあるが、そのひたむきさが目をひく選手である。けがでしばらく戦列を離れていたDBの足立とともに、これからのチームの底上げに欠かせない存在だろう。
 さて、これらがいい方の3分とすれば、悪い方の7分は初戦の近大戦と同様、後半、メンバーが交代するごとに、目に見えて戦力がダウンしたこと。1枚目や1枚目半の選手とは、明らかにプレーの内容に落差があった。
 梶原主将が「1枚目と2枚目の差をもっと詰めないと、リーグ終盤戦や甲子園ボウル、ライスボウルでは勝てない」、川端副将が「今後のビッグゲームでは2枚目以降の選手の力が必要になってくる。成長に期待したい」という通りである。
 けが人が相次ぎ、チームとしては面白くない状況だが、そのピンチを「オレにはチャンス」と思う選手がどれだけいるか。そのチャンスを手に入れる選手が何人出てくるか。3戦目以降は、そこに注目していきたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:22| Comment(0) | in 2012 season

2012年09月10日

(21)ジョブズ氏からの檄

 先日の休みに、たまたま自宅のテレビを見ていたら、アップル社の創業者、スティーブ・ジョブズ氏が学生たちに檄を飛ばしている場面を放映していた。ほんの一瞬、番組に挿入された場面だが、その言葉があの有名な「Stay Hungry, Stay Foolish」だった。
 彼がスタンフォード大学の卒業式にゲストとして呼ばれ、学生たちを前にスピーチしたときの締めくくりの言葉である。彼が若い頃に読んだ本の裏表紙に記されていた言葉であり、彼が「自分も常々そうありたいと思っている」言葉という。最近は英語の教材としても使用されるほど有名になっているそうだ。
 ファイターズの選手や卒業生、ファンや関係者にとっては、2009年度のチーム・スローガンとして、よく知られている。
 あの小惑星探査機「はやぶさ」のプロジェクト・マネジャーだった川口淳一郎氏は、その著「閃く脳の作り方」(飛鳥新社)で、この言葉について「自分の心の声に忠実に生きると、世間からは変人扱いされるかもしれない。それでも、それを貫いて生きていけということでしょう」と解釈。「ステイ・フーリッシュ」を「最初は異端であった、今後とも異端であれ」という意味に受け止めている。そして、それは「ナンバーワンを目指せ、ではなくオンリーワンを目指す道です」と書いている。
 ついでに言うと、彼が理解する「ナンバーワン」とは「同じことをしている人がたくさんいて、その競争に勝つこと。やっていることは同じで、その同じことに1番、2番という順位がつく」。それに対して「オンリーワン」とは「異端でもかまわないから自分の信じた道を行くこと。そこでは常にオリジナリティーが発揮でき、自動的に1番になれる」ことだ。
 話を分かりやすくしようとして、逆にがごちゃごちゃしてきた。結論をジョブズ氏の言葉でいうと「他人の雑音で心の声をかき消されないように。最も大切なのは自分の直感に従う勇気を持つこと」「世の中を変えるような生き方をしよう」ということである。
 前置きが長くなった。本題に入る。
 ジョブズ氏の言葉に僕が反応したのは、彼のいう「ステイ・ハングリー」「ステイ・フーリッシュ」、つまり「異端でもかまわない。世の中を変えるような生き方をしよう」というところにある。
 ファイターズに即していえば「チームを変革する存在になろう」「多少の軋轢(あつれき)があってもかまわない。チームを一段上の次元に引き上げるためには、なれ合うのではなく、互いに求め合い、挑発しあおう。それをハングリー、どん欲に追求しよう」ということである。
 秋の関西リーグ、チームは鮮やかなスタートを切った。しかしライバルたちは、もっともっとすごい境地に到達している。それは先日、ライバルチームの開幕戦のビデオを見た鳥内監督から聞いた「やばいですわ。うちが30−0で負けてもおかしくないくらい相手はできあがっています。本気で取り組まないと、戦術や作戦では手に負えませんよ」という話からもうかがえる。
 そういう現実からのスタートである。初戦の快勝で浮かれている(僕のことです。選手はコーチはまったく浮かれていません。念のため)場合ではないのである。
 では、どうするか。そこでジョブズ氏の言葉である。練習のための練習、昨日と同じことの繰り返し、あるいはその延長上の練習では、術という名に値するほどの飛躍は生まれない。そうではなくて、それぞれの選手がオンリーワンのプレー、誰にも負けないプレーを極めることで新しい境地が開ける。
 走ること、当たること、ボールを投げること、キャッチすること、そしてボールを思った場所に思ったスピードと回転で蹴ること。走ること、当たることだけでも、100通りや200通りの状況があるだろう。それを選手全員が徹底的に極めるのである。ライバルの動きを想定し、それをさらに上回る動きを身につけ、当たり負けしないように、体を鍛え、体の使い方を工夫するのである。
 しんどい作業である。よほどの覚悟で臨まないと、間に合わないかもしれない。けれども、その厳しい練習に耐え、内容を工夫し、自分を飛躍的に向上させることでしか道は開けない。チームの力を1段階も2段階も飛躍させないと、勝ち目はないのである。「ステイ・ハングリー」「ステイ・フーリッシュ」を実現するのは、いましかない。
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2012年09月04日

(20)鮮やかなスタート

 待ちに待った秋のシーズンが開幕した。
 今年は9月になっても暑い日が続き、雷が鳴ったり、狂ったような夕立がきたりの天候が続いているから、開幕戦もどうなることかと心配したが、試合開始前に少しばかりのお湿りがあっただけで、逆に涼しくなって助かった。心配していた雷も鳴らず、午後5時、ファイターズK三輪のキックで気持ちよく試合が始まった。
 開幕戦と言えば、選手はもちろんファンも緊張する。故障上がりの選手がどこまで回復しているだろうか、春に活躍した期待の下級生が、秋の本番になっても、のびのびとプレーできるかどうか、相手チームは初戦にどんな秘策を用意しているのか、それにファイターズは対応できるのか。考え出せばきりがない。
 試合の前々日、ともかくチームの様子を見よう、雰囲気を味わって見ようと上ヶ原のグラウンドに出掛けた。その日は、スポーツ推薦の高校生たちに受験に当たってのいくつかの注意事項を説明する日だったが、それはリクルート担当の宮本氏に任せ、僕は試合に出場が予定されている選手たちの様子や振る舞いに注目した。
 長年、チームにつきあっていると、練習時のちょっとした仕草や言動からでも、何かが伝わってくる。自信満々に振る舞う選手もいるし、何かが吹っ切れたような選手もいる。逆に、自分のプレーに確信が持てないような仕草をする選手もいるし、忘れてきた何かを取り戻そうと懸命に練習に取り組む選手もいる。その成果が試合でどのように表現されるか。どのようなプレーとなって表れるか。想像するだけでもワクワクしてくる。
 試合が始まる。最初の近大の攻撃は、梶原、岸、前川、朝倉という4年生で固めたラインが素早い動きで相手ラインに圧力を掛け、2列目の池田や小野がそのスピードでボールキャリアを仕留める。簡単に相手をパントに追いやり、自陣48ヤードという好位置からの攻撃につなげる。
 注目の第一シリーズ。ファイターズはいきなりRB望月が26ヤードを独走。しがみつく相手をふりほどき、はね飛ばしての突進だ。続いてQB畑からWR木戸への9ヤードのパスがヒット、残り17ヤードをRB鷺野がスピードで抜き去ってTD。わずか3プレー、あれよあれよという間の出来事だった。堀本もキックを決めて7点を先制。
 次の近大の攻撃では、相手がフェイクプレーを連発、一度ダウンを更新されたが、ディフェンス陣が踏ん張って次の更新は許さない。近大はパント隊形からェイクパスを放ってきたが、これもファイターズ守備陣が冷静に仕留め、逆に自陣37ヤードからの攻撃。
 このシリーズも鷺野、望月、米田のRB陣がぐんぐんと陣地を進めたが、相手守備陣の反応もよく、TDには結びつかない。それでも堀本がきっちり27ヤードのフィールドゴールを決めて10点目。
 第2Qに入ると、畑からWR小山へ22ヤードのパスがヒットしてゴール前14ヤード。ここで畑が身をねじるようにして逆サイドの木戸にパス。3人のブロックに守られた木戸が余裕でゴールに走り込んでTD。前々日の練習で何度もタイミングを合わせていたプレーが、本番で見事に炸裂した。
 ここまでは攻守とも100点満点。決めるべき選手が決めるべきプレーを確実に決めて、何の問題もなし。春のシーズンは治療に専念したライスボウルのレギュラー陣も、生き生きと水を得たような活躍で、見ている方もひと安心だ。
 次の攻撃シリーズは自陣31ヤードからの攻撃だったが、鷺野の切れのよい走りに望月の40ヤード独走などがあって、あっという間にゴール前に。だが、ここでTDを狙って走り込んだ望月がTD寸前でファンブル。ボールはそのままゴールラインを割って痛恨のタッチバック。好事魔多し、という言葉を地で行くようなプレーとなった。
 それでもファイターズの勢いは止まらない。次の攻撃シリーズでは、畑からWR大園への長いパスを通して、一気にゴール前7ヤード。ここで先ほどの汚名返上とばかり、望月が中央を突破してTD。続くファイターズの攻撃シリーズも、畑からWR横山や小山へのパスが立て続けにヒットし、仕上げはWR梅本への浮かせたパスでTD。前半を31−0で折り返した。
 後半になってもファイターズの勢いは止まらない。望月の24ヤード独走TDに続いて堀本が37ヤードFGを決める。さらには畑の控えとして2番手に登場したQB松岡がいきなり67ヤードの独走TD。中央をスピードで抜き去った見事なプレーだった。
 松岡はその後も、ランニングバックと遜色のない走りでプレーをリード。相手が彼のランを警戒していると見れば、横山への長いパスを通してTDも奪う。今季は思いの外、活躍してくれそうと予感させる見事なデビューだった。
 こうして試合を振り返れば、初戦としては上々のでき。とりわけ、これまでならFGで終わっていたような場面でも、確実にTDをもぎ取れたことは、攻撃陣にとって自信になったに違いない。
 守備陣も、故障上がりの選手が全員活躍。春の試合で自信を付けた下級生もそれに負けないほどのパフォーマンスを見せた。次々と交代選手が出て、最後は少々、ゆるんだようになったが、これも選手に経験を積ませるためには仕方のないこと。トータルで見れば「最初は緊張しましたが、1本タッチダウンをとってからは落ち着きました」という、試合後の畑選手の言葉通りの試合となった。
 次回からの試合がさらに楽しみになる。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:02| Comment(0) | in 2012 season

2012年08月29日

(19)さあ、スタジアムへ!

 新聞記者というのは、やっかいな職業だ。世間のあらゆることに興味があり、興が乗れば、いそいそと参加してしまう。人は年齢を重ねると、それなりに成熟し、落ち着きが出てくるそうだが、小生に限っては、常識は通用しない。いつになっても野次馬精神旺盛。何でも見てやろう、何でも参加してやろうという性根はいっこうに衰えることがない。
 ファイターズへの支援は別格として、いま数えてみると、とりあえず年会費を払っているNPO活動だけでも3つある。日本森林ボランティア協会、有馬保勝会、そして長野県に本拠を置き、活字文化の復権活動をしている「NPO法人999」。山登りは大好きだし、自転車に乗って走り回る趣味もある。3度の食事は欠いても読書の時間は確保するという活字中毒でもある。
 もちろん、仕事もある。週の前半は和歌山県田辺市のローカル紙の編集責任者として、まじめに働いているし、週末には関西学院で授業を持っている。夏休みの間は、スポーツ推薦でファイターズを志願してくれる高校生を対象にした小論文講座もある。
 世間の人が見れば、相当に忙しい毎日だと思うが、そんな合間を縫って、先週は長野県まで出掛け、1日は八ヶ岳に登り、別の1日はNPO法人の主催した「白熱討論会」にパネリストの一人として参加。また1日は、以前からお会いしたかった創業200年という老舗の和菓子店会長と面談し、親しく話をさせていただいた。
 気がつけば、もう今年の関西リーグの開幕が目前に迫っている。このコラムの更新も滞っている。でも、鉢伏の合宿以降、チームの練習を見ていないので、現況に付いては書くことがない。
 そこでこの機会に、ファンの方々に、特段のお願いをしたい。
 それは、試合会場に足を運び、ファイターズを応援して下さいということだ。できれば友人知人、それも若い女性を誘っていただければありがたい。
 いま、世間の流行はすべて女性が支配している。山に行けば山ガール、自転車に乗れば自転車ガール。まちに出ればカメラガールに映画ガール。もちろん、流行のファッションも食い物も、女性に支持されなければ、それでおしまい。スイーツだ、グルメだといっても、店の選択権を持っているのはいつも女性であり、男はその付属品である。
 なのに、アメフットの試合会場に限っては、おじさんおばさん、あるいは僕の世代を含めたじいちゃん連中がいつだって主流派だ。王子スタジアムに行っても、10年前、20年前からの顔なじみがいつも似たような席に座っている。そしてそこでは、昭和50年代の初め、ファイターズが5連覇した当時の思い出話が普通に飛び交い、日大にまったく勝てなかった悔しさが昨日のことのように語られる。
 それはそれで楽しいし、同窓会のような懐かしさもあるのだが、このスポーツの将来、繁栄という視点で見ると、いささか寂しい。次代を担う主役、つまり流行の先端を走る若い女性の姿が相対的に少ないからだ。
 甲子園ボウルやライスボウルだけがアメフットの試合ではない。リーグ戦にも、魅力的な試合がいっぱいある。というより、リーグ戦だからこそ、選手の姿が身近に見え、その素顔に接することもできる。王子スタジアムには、電車の駅から近いという利点もある。
 そういう魅力のある試合が今度の日曜日から始まる。ぜひ、若い女性に声を掛け、試合会場に連れ立ってきてほしい。そしてファイターズに思い切り声援を送っていただきたい。それが選手の力になるだろうし、アメフットの将来も明るくなる。
 チームの成長とともにファンも成長し、さらに新たなファンを獲得する。そしてそれがファイターズの選手たちの大きな支えになる。今季がそういうシーズンの始まりになることを願っている。
posted by コラム「スタンドから」 at 06:57| Comment(1) | in 2012 season