2010年11月17日

(29)旗印、高く掲げよ

 黒澤明監督の「7人の侍」に、脇役だけれども、魅力的な人物が登場する。千秋実が扮する林田平八。茶屋の代金を支払う代わりにマキ割りをしているところを、主役の勘兵衛(志村喬)らから「村を守る戦(いくさ)に加わらないか」とリクルートされる。僕はこの侍が大好きだ。組織にとっては必要不可欠な人物だと、高く評価している。
 ところが、現実には「腕はまあ、中の下。しかし、正直な男でな。その男と話していると、気が開ける。苦しい時には重宝だと思う」という程度の評価である。実際、リクルーターから剣の流儀を聞かれて「マキ割り流を少々」と答えるような、ひょうひょうとしたところがある。
 この男が勘兵衛ら6人の侍と協力して、野伏の攻撃から村を守る戦いに参加する。防衛体制づくりに余念のないある日、雨で外の作業ができない時に、彼は一人、針を手に旗を縫い始める。下に百姓の「た」を大きく書き、その上に6人の侍の印として○が6つ。その中間に、百姓の出身だが、ゆえあって侍になりたがっている菊千代(三船敏郎)の△を配した堂々たる旗である。
 「なぜ、忙しい中、こんな旗を作るのか」と聞く仲間たちに、平八が答えて曰く「戦には、何か高く掲げるものがないとさびしいでな」。
 そう、戦には高く掲げる旗が必要なのである。太平洋戦争中、あの硫黄島の戦いでも米軍は星条旗、日本軍は日章旗を高く掲げて、互いに死に物狂いの戦いを繰り広げた。
 「7人の侍」で平八は、野伏との戦いが始まって間もなく、あっけなく死んでしまった。しかし、彼が作った旗は村の高台に高く掲げられ、村人たちの団結と闘争のシンボルとして、見事にその役割を果たしたのである。
 ファイターズの旗印は言うまでもなく「プライド」である。今年4月、新しいチームが船出するに当たって、4年生を中心にこの言葉をチームの旗印に決めた。その間の事情は「主務のブログ」の1回目に、柚木君が書いている。この言葉のもと、チームは一致団結、火の玉となって日本1を目指そうとしているのである。
 上ヶ原のグラウンドの2か所の物見塔(それは選手たちのプレーをビデオに収録するための施設であり、練習中の選手から1番よく見える場所である)には、この文字(正しくは「PRIDE」の5文字)が掲げられている。ファイターズの諸君は日々、この文字を見ながら切磋琢磨しているのである。
 ところが、ファイターズの旗印である、この「プライド」について、一部の方から「生臭く漂っている」とか、「苦笑する」というコメントが寄せられている。匿名のコメントなので、書き込まれた方の意図は不明だが、選手や指導者にとっては不愉快なこと限りない言説であろう。
 前回「疾風に勁草を知る」というタイトルで書いたように、人は苦しい局面に立たされた時にこそ、その真価が問われる。だから、他人はともかく、僕だけは敗戦という事実に取り乱したり、不穏当な言動で選手たちを傷つけたりすることはするまい、と心がけている。
 実際、このコラムを書き始めて5年。チームは何度も苦杯をなめた。勝負に勝っても、内容的には不満足な試合もいっぱいあった。その間、勝った時の選手の振る舞いに苦言を呈したことはあったが、敗れた時に選手やチームを責めたことは一度もない。
 懸命に戦っている選手や指導者にとって、ホームページ上で、匿名のだれかから、その努力を揶揄(やゆ)するような言葉を浴びせられるのは、悔しいことであろう。腹立たしいことでもあろう。
 けれども、そんなことでくじけてはならない。たとえ千切れても、旗は旗である。堂々と「プライド」の旗印を掲げ、本来の使命に取り組んでほしい。悔しさをエネルギーに変え、捲土重来の勝負に挑んでもらいたい。
 幸い先週、チームは同志社に圧勝。関大もしたたかに戦って立命館を下した。おかげでファイターズにも雪辱のチャンスが巡ってきた。28日の関大戦に勝てば3校が6勝1敗で並び、甲子園への可能性が開かれるのだ。
 この好機を命掛けでつかみ取ってほしい。真価が試される日は目前である。「疾風に勁草を知る」。本当に強い草として、選手もスタッフも、もちろん指導者も、知能の限りを尽くし、体力と技の限界を突破して、存分に戦ってもらいたい。自らの意志で高く掲げた「プライド」という旗印に恥じない戦いを期待している。
posted by コラム「スタンドから」 at 10:02| Comment(7) | in 2010 season
この記事へのコメント
この2週間は苦しい時間を過ごしました。関大が立命に勝ってくれて、最高に嬉しかったです。ファイターズは一回気持ちは死んだと同じだから神様がくれたチャンス生かさないと、男じゃないです。(言いすぎかな)昔なら全員丸坊主にしてでも、昨年に負けた関大を倒すでしょう。関大戦は練習通りの事を完全に試合に出して、最高のゲームを会場に来てるファン、テレビの前のファンに見せてください。期待してます。
Posted by noeのファイターズファン at 2010年11月17日 11:35
立命館が負けたことは、選手にとっては関係ない。実力を上げ、関大にぶつかるのみ。

関大に勝った後のことはスタッフが考えてくれている。

選手は、試合後のことは考える必要はない。選手が試合後のことを考えるとは悪い結果をもたらす。

寒いので怪我をしないように。
Posted by 通りがかり at 2010年11月17日 13:54
関大とは力量はKGが明らかに下、春とはオフェンス・デフェンスが格段に良くなっている。ミスをした方が負け。どういう時にミスが出現するかもデーターを作成して、想定内で練習してください。力の均衡したチームと対戦するときはミスが怖い。限界に自分を追い込んで練習する意味がやっとわかりました。ノーミス!!ノーミス!!
Posted by KG fan fan at 2010年11月17日 15:48
このコメント欄はどんな内容でも載せてしまうというのが短所かも知れません。懐が広すぎると言うか、寛容に過ぎると言うか(笑)
さて、決戦が日一日と迫ります。掲げた旗印の下、死の淵から蘇ったFIGHTERSの底力を磨いて下さい。

※管理人より
一部修正させていただきました。
Posted by カリメロ at 2010年11月18日 07:09
いつも、共鳴できる水準の高い文章楽しみにしています。
ファイターズは、堂々とクリーンな挑戦をしてくれるでしょうから、28日は、選手の皆さんに感謝の心で、応援に行きます。
Posted by KGファン at 2010年11月18日 19:53
30年以上ファイターズを見ていますが、今年少し感じたことを。

今までのファイターズは相手と実力が五分五分なら確実に、6:4で相手のほうが上でも勝てるチームという印象を持っていました。そしてそれを支えているものはフィールドにいる選手全員の「フットボールの理解度の高さ」だと感心しておりました。時計、フィールドポジション、試合の流れ、プレイ選択に込められたベンチの意思、、、それら全てを全員が高い次元で理解し、プレイ中の瞬間瞬間になすべきこと、してはいけないことを浮き足立つことなく的確に判断して戦っていたイメージです。

ところが先日の立命戦では実力は6:4でこちらが上なのに負けてしまったという印象を個人的には持っており、負けた結果以上のショックを受けました。

ここからもう一度立て直しです。
垣内君の言うとおり「心は熱く、頭はクール」に次節では結果以上に内容の濃い試合を楽しみにしています。
Posted by R at 2010年11月20日 12:59
 「プレイオフの日程は?」「平日のゲームになるのか?」「キックオフの時間は?」リーグ戦も終わっていないのにそんなことは尋ねません。1フットボールファンとして、各チームが目標を持ち、たいていプライドを持って最終戦に備える今の段階でデリカシーを欠いたことを聞くのは恥と知るからです。
 「神さまが与えた試練」以降、石井さんのコラムは最終戦を迎えるにあたって預言書以上に的を射ていて驚かされます。FIGHTERS同様肝が据わっているというか。
 FIGHTERSを美化したいんですが、いつもこちらが思っている以上の事実に触れてしまうとどうにも追っつきませんね。
 関大もまた、リーグ1の老舗ということもあって、素晴らしいチーム。強いとか激しいとかいうより、素晴らしいというのが私の印象です。
 最終戦までまだ少し間がありますが、今までにない気持ちの盛りあがりを感じます。
Posted by Blue Blood at 2010年11月20日 13:00
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