2010年10月11日

(24)スカウトチームと化学反応

 鈴木章・北海道大学名誉教授(80)と根岸栄一・パデュー大学特別教授(75)、それにリチャード・ヘック・デラウェア大学名誉教授(79)に今年のノーベル化学賞が贈られることになった。日本のノーベル賞受賞者はこれで17、18人目になるそうだ。その中に関西学院の先生方の名前のないのが悔しいが、それは今日のテーマとは関係ない。
 日本のお二人の人となりや研究の課程、業績や喜びの言葉は先週来、新聞やテレビで洪水のように報道されているから、新聞は読んでもテレビはろくに見ない僕より、このコラムをお読みになっている皆さんの方が、よほどお詳しいだろう。理系にはからっきし弱い(もちろん、文系も体育系も弱い。人より優れているところがあるとすれば、せいぜい野次馬系ぐらいだろう)僕はただ、お二人の業績として顕彰されている「有機合成におけるパラジウム触媒クロスカップリング」という「言葉」に神経をくすぐられただけである。
 どういうことか。
 朝日新聞などによると、「炭素同士を効率よく繋ぐ」ことは、有機化学の大きなテーマだった。その方法の一つとして注目されていたのがクロスカップリング反応。この反応に繋ぎたい場所につける「目印」と、反応を仲介する「触媒」をうまく組み合わせて反応させると、本来は結合しにくい炭素同士が簡単に結合する。その触媒にパラジウムを使う方法をヘックさんが確立し、根岸さんがそれを応用してバリエーションを広げ、より使いやすい形に改良した。鈴木さんはそれを改良した「鈴木カップリング反応」を開発、実用化に結びつけた。それを応用した技術によって、医薬品や農薬が開発され、テレビやパソコンの画面に使われる液晶を有機化合物から製造する際の結合に利用されているという。
 前置きが長くなった。申し訳ない。今日のテーマは、この「触媒」と「化学反応」という言葉をファイターズに当てはめたらどうなるか、ということである。スカウトチームを例に、考えてみたい。
 ご承知の通り、アメフットでは大半のチームがオフェンスとディフェンスの分業体制を敷いている。日ごろの練習から攻守のパートに分かれ、それぞれの完成度を上げるべく努力しているのである。
 ファイターズも例外ではない。スペシャルチームも含めた攻守蹴のパートがそれぞれ、過去の蓄積を生かした練習法、新たに導入した練習法をミックスし、試行錯誤しながら日々鍛錬している。経験を積んだコーチが指導し、アナライジングスタッフが編集したビデオを参考にして戦術を考える。
 毎年、営々と繰り返されるそうした動きの中で、チームとしてある種の化学反応を起こさないと、飛躍はない。新しい技や戦術は生まれない。過去のチームが成功したからと言って、その成功体験に寄りかかり、反復練習をしているだけでは未来はない。日々創意をこらし、工夫し、進化し続けているチームには勝てないのである。
 誰もが想像したこともないような化学反応を引き起こすには、想像もつかないような触媒が必要になる。それを使い勝手のよいように効率化し、実用化していくためには、さらなるひらめき、工夫がいる。今回、ノーベル賞を受賞することになった研究者たちが実証したのと同じことだ。
 そこでスカウトチームである。対戦する相手に備え、オフェンスやディフェンスのメンバーに適切な動きを身に着けさせ、必要な戦術を発見させるためには、相手チームになりきらなければならない。相手がスピードランナーを使ってくるなら、それと同じスピードで走りきる選手が必要になる。相手のラインが強い当たりでまくり上げてくるなら、たとえ練習台とはいえ、その強さを備えたラインがほしい。パスを投じてくる相手に備えたディフェンスの練習を効果的に行うには、同じようなパスが投げられるQBとそのパスをキャッチして走れるレシーバーが不可欠だ。
 相手のプレーを具体的に再現できるスカウトチームであってこそ、練習台としての役割が果たせる。そういう練習台を相手に、工夫し、対策を練ってこそ、一段上のプレーが展開できる。技という名に値する動きが生まれる。戦術という名にふさわしい動きが共有できる。すなわち化学反応である。
 先輩から引き継いできた反復練習で体力を養い、対戦相手の特徴を完備したスカウトチームを相手に動きの質を高める。戦術を工夫する。それによって初めて勝利への道が開けるのである。
 スカウトチームの役割は、外部の人間が想像することも及ばないほど重要である。試合に出る選手たちに練習の機会を与え、その力を引き出し、適切な戦術を工夫する触媒になれるということは、具体的には当たる、投げる、走る、受ける、交わすといった、アメフットに必要なそれぞれの分野で、傑出した能力が必要ということ。たとえ先発メンバーとして試合に出ることはかなわなくても、それぞれの分野で相手チームのエース級と同等以上の力を持ち、その能力を発揮できるプレーヤーでなければならないということだ。
 求めて求められないような人材だが、そういう人材がいてこそ、チームは化学反応を起こすことができる。
 幸いなことに今年は、近年になくそういう夢のような人材に恵まれていると、僕は見ている。差し障りがあるので、あえて名前は挙げないが、走る方でも、受ける方でも、もちろん投げる方にも守る方にも、素晴らしい能力を持った選手たちが確実に存在する。ありがたい。あとは彼らの能力を仮想の敵と見た先発メンバーたちが、チームに化学反応を起こしてくれるのを待つだけだ。17日は京大戦。存分に戦ってほしい。
posted by コラム「スタンドから」 at 20:46| Comment(2) | in 2010 season
この記事へのコメント
 関京戦が日一日と近付いてくるにしたがって、いやがおうにも気分は盛りあがってきます。縁の下の力持ち=スカウトチームメンバーが出場機会を得られるような試合運びをすることと、その他スタッフメンバーの努力を具現化することこそが、スターティングメンバーや交代メンバーの務めです。
 リーグ戦は中盤戦に差し掛かったところですが、後先考えずに声援を送ります。
Posted by Blue Blood at 2010年10月12日 00:09
 「求めて求められないような人材」。心に響きますね。
 日常のクラブ活動においては、黒子に徹し、意識されなければ目立たない存在のパート。彼ら彼女らの姿を見るたびに、「ごくろうさん、ありがとうね。陽が当たらなくても腐らんと頑張ってや!」といつも心で言っています。
 そんなパートのメンバーの努めに報いるのは言うまでもなく、フィールドで答えを出す選手たち。
選手の皆さんは、「君たちのち密な分析のお陰で勝たせてもらえた」そんな言葉で報いてあげられるような試合を続けてくださいね。
Posted by もうこころは京大戦 at 2010年10月13日 13:23
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