2019年10月22日

(25)指導者の哲学

 先月発行されたファイターズOB会報「Fight On」103号のトップ記事は、今季限りで退任される鳥内監督へのインタビューである。
 聞き手は朝日新聞スポーツ部の大西史恭記者。2007年度卒業のOBであり、甲子園ボウルであの日大に41−38で勝利し、ライスボウルでも史上最高のパスゲームを展開したチームのキッカーである。
 監督の退任を前に、監督の指導を受けて社会に巣立ったOB・OGたちから「最後に何か聞いておきたいことはないか」と質問を募り、集まった質問を基に監督にインタビューして絶妙の記事にまとめている。本来はファイターズのOBだけを読者に想定した会報だが、その一問一答があまりに面白い。ぜひ、このコラムでも紹介させてもらいたいと、監督と大西記者に頼み、その了解が得られたので、そのエキスを抜粋して紹介する。
 ……監督人生の中で最も記憶に残っている良かったプレーは。
 「ないねん。勝ったことより負けたことが残ってるねん。絶対に。いかにスポーツはメンタルが大事かってこと」
 ……唯一、ライスボウルに勝った試合のプレーはどうでしょうか。
 「一生(榊原、TE・K)のやつ(筆者注・2001年、ライスボウルの第2Q,第4ダウン3ヤードの場面で、パンターを務めた榊原がパントを蹴るふりから中央に突っ込み、DLをはじき倒してダウンを更新、一気に流れを引き寄せたプレー)もな、勝手にやれって言うてるねん。行けそうやったら行けって。でも、あれで行くかと思ったけど。まだ、大分残ってたらからな」
 ……良かったこと、何か絞り出してください」
 「なんやろう…石田力哉のLB作戦やな。なんでもできるやつはやらせたらええねんってことよく分かったわ」
 ……良かった試合もないですか。
 「うーん、ないな。いや、勝って当たり前でやってるやん。勝って当たり前やから、良かったとかちゃうねん」
 ……日々の癒やしはなんですか。
 「酒飲んで、寝てる。気分転換やな。ずっとおったら考えてしまうねん。大村にも寝れるかと聞いたことあんねん。小野も堀口も、大寺も神田も、責任者はみな寝られへんと思うで。香山も同じやと思う」
 ……自分をどういう性格だと思っていますか。
 「ずる賢くなかったら、やってられへん。スポーツはみな、そうやねん。だましあいやってんねんから」「俺は周りを気にしてない。気にしたら、やってられへん。どう見られるか、って行動なんかしてない。なんかあれば言うてきたらええやん、と」
 ……4年生との個人面談について。
 「目見て話さな分からへん。心の中まで知りたいなら、目見て話さな分からへんで」
 ……勝ち続ける秘訣は。
 「秘訣ちゃうねん。毎年毎年、勝ちたいねん。それだけのことや。毎年、俺らも甲子園出たいという4年生の気持ちが長い歴史につながってるねん。OBの歴史を自分が一緒に背負っていった時に初めてパワーくれるねん。これはよそのチームにないこと。俺もファイターズやねん。俺の代では負けるわけにはいけへんねん、というだけのことや」
 ……今後のファイターズにどうなってほしいか。
 「このまま勝っていってほしい。それと同時に、どんな人間をつくっていくのか。勝つためにはリーダーになれる人材を育てないとあかん。フットボールというツールを使いながら、そいつの人間的成長を手助けしてあげるだけや。社会に迷惑をかけへん。社会に役立つ人間を育てる。それが世界で活躍する。世界に目を向けてやってほしいな」
 ざっとこんな話である。途中、はしょったところもあるが、鳥内さんの指導者としての哲学が随所に表れている。選手として、監督から直接の指導を受けた記者ならではのインタビューであり、内輪を良く理解している取材記者だからこそ、監督も心を開いて答えていることが良く分かる。
 監督として27年、その前のコーチの時代から数えれば34年にも及ぶ指導者生活。その中には、監督として学生の成長を手助けするだけでなく、高い能力を有した何人ものOBをチームに迎え入れてチームを強化し、同時にファイターズという組織を運営するための人材を育ててきた歴史も含まれる。
 そこに一貫しているのが、勝ちたいのは選手であり、監督やコーチはそれを手伝うだけ、という哲学であろう。それが最後の「フットボールを通じて、その人間的成長を手助けしてあげるだけや」という言葉に集約されている。
 主役はあくまでファイタ−ズの部員。その勝ちたいという気持ちが本物か否か。今季の天下を分ける戦いは目前に迫っている。
posted by コラム「スタンドから」 at 14:16| Comment(2) | in 2019 Season
この記事へのコメント
鳥内監督の最後の関関戦が目前に迫っております。何が何でも勝っていただきたい。先週、立命館に劇的(?)に勝利した関大ですが、関学の本気を見せてあげてください。関大も立命戦では最後の最後に本気になっていました。流石の立命のOLもたじたじで、QBを守ることが出来ませんでした。流れなのか?勢いなのか?根性なのか?わかりませんが、人間は急に変わることが出来ることがわかりました。関学戦ではあの力を出させないような戦いが出来ますように!
Posted by saka49 at 2019年10月22日 23:18
当意即妙。精神論に陥らず、技術論に堕さず、何れにも偏らず、インタヴューや会見でいつも飄々と話されている様子は心地良いです。陣頭指揮を採っておられるので、長年注目してきました。強面ですが、部員に怒鳴っている姿を見掛けた記憶はついぞありません。敗戦は勿論、ちょっとした苦戦にも批判が出る中、周囲の声を気にしていないは本音でしょう。現役時代は存じませんが、ライバル日大には1度も勝てなかったのは裏を返せば4年間、関西で勝ち抜いた証で、実際、学生鳥内秀晃(君)が卒業するまで青の闘士は永きに亘って聖地に登場し続けました。甲子園に行って当然もまた、1つの本音だと思います。最後の教え子達が、連綿と受け継がれてきたKG philosophyを公私共に体現できるよう祈っています。GO,FIGHTERS!
P.S.鳥内監督の想い出を語るには3ヵ月ほど早かったですね。
Posted by Blue Blood at 2019年10月23日 14:56
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