2018年11月06日

(25)求む!サムライ

 その昔、朝日新聞京都支局のデスクになったとき、前任者から「京都の茶漬け」という助言を受けたことがある。ご存じの方も少なくないと思うが、こんな話である。
 取材先で「ちょうど、時分どきどすな。お茶漬けでもどうどす」なんて誘われても、決して「いただきます」と答えてはいけない。なぜなら、京都人がその言葉を口にするのは「もう話は切り上げてお帰り下さい」という合図である。露骨に帰ってくれと言うと角が立つので「お茶漬けでも」と誘いをかけたような言葉で「お引き取り下さい」と伝えているという説明だった。
 さらにその前任者は、そうした婉曲なサインに気付かないのは野暮な人、もう、おつきあいはごめんこうむります、となってしまうからご用心をといったことを丁寧に説明してくれた。
 京都の人ほど極端ではないが、私たちが日常使用する言葉には、たいてい二つや三つの意味合いがある。それぞれ正反対の意味で使用されることも少なくない。
 例えば、ファイターズでは「相手は強い。全員でやろう。全員で」という言葉を、いろんな場面で耳にする。少なくとも、その言葉を口にしたメンバーは、本気で「全員が団結し、全員でチームを盛り上げ、勝利をつかもう」という意味で使っているはずだが、誰かがその言葉を口にした瞬間、「そうだ、全員だ、きっと誰かがやってくれる」と他人任せにしてしまうメンバーもいるのではないか。
 逆の場合もある。「オレが突破口を開く」「オレがやってやる」と本気で口にしても「アメフットはチームプレー。一人が勝手なことをすると周囲が迷惑する」と言われるかもしれないし、「勝手なプレーは御法度」と叱られるかもしれない。
 そうなると、チームの全員が「安全第一」を志向するようになり、気がつけば個人技で相手陣を切り裂いてやるというサムライは、一人もいないという状態になってもおかしくない。
 今季、いろんな場面で「全員でやろう」という声を聞くにつけても、僕はひそかに、そういう事態に陥るのではないかと危惧していた。チームの団結を強調する余り、一人で局面を突破するサムライのとげがなくなってしまうのではないかと怖れていた。4日、万博記念競技場での関大戦を応援しながら、僕の頭の中にはそんな考えが駆け巡っていた。
 試合はファイターズのキックで開始。相手陣40ヤード付近から関大が攻め寄せる。中央へのラン攻撃と短いパスを駆使して、立て続けにダウンを更新。一気にゴール前まで攻め込み、FGで3点を先制。続く関大の攻撃シリーズも中央のランと素早いパスでぐいぐいと攻め込み、あっという間にファイターズのゴール前に迫る。第2Q入った直後には今度はパスでTD。あっという間に9−0とされ、試合の流れは一気に相手に傾く。
 このピンチを救ったのがQB奥野とWR陣のサムライ魂。自陣25ヤードからの攻撃でまずはWR阿部に短いパス。続くRB山口のランでダウンを更新した直後に、奥野からWR小田への長いパスが通る。そのまま小田が快足を飛ばして一気にゴールまで駆け込んだ。実に63ヤードのTDパスである。
 これで6−9と追い上げたが、この日は守備陣が踏ん張れない。パスとランを織り交ぜ、変化を付けて攻め込んで来る相手攻撃を有効に食い止められず、結局6−12で前半終了。今季初めて相手にリードされた状態でハーフタイムを迎えた。
 後半はファイターズの攻撃からスタート。ここでもWR松井、小田へのパスでそれぞれダウンを更新。さらに奥野から松井へのパスでゴール前7ヤードまで攻め込んだが、残る7ヤードが進めず、K安藤のFGで3点を返しただけ。
 続くファイターズの攻撃も、QB西野から小田、松井、阿部へのパスで相手ゴールに迫ったが、最後の詰めが甘く、結局はFGによる3点で同点に追いつくのがやっとだった。
 逆に関大は、ゴール前の攻防をしのいで勢いを取り戻し、次の攻撃シリーズで簡単にTD。再びリードを7点差に開く。
 残る時間は6分36秒。しかし、西野からWR陣へのパスが通らず、あっという間に攻撃権を相手に渡してしまう。
 しかし、ここは守備陣がぎりぎりで踏ん張り、残り2分2秒で再びファイターズに攻撃権を取り戻してくれた。しかし、ボールは自陣25ヤード付近。これを限られた時間でどうTDに結び付けるか。まさしく全員の結束と、相手守備陣を突き破るサムライの個人技が求められる場面である。
 この局面を突破しなければ明日はない。腹をくくったファイターズオフェンスがようやく一つにまとまる。まずは奥野から小田へのパスを2回連続で通して2度ダウンを更新。一度は奥野が逃げ遅れて10ヤードも陣地を後退したが、今度は松井、小田、阿部へと3発のパスをことごとく決めてダウンを更新。相手ゴール前24ヤードに迫る。残り時間は41秒。タイムアウトは一つも残っていない。ここをどう攻めるか。
 ここでもベンチが選んだのは小田へのパス。相手も徹底的に警戒している場面で小田が確実にキャッチしてゴール前11ヤード。残り時間は11秒。この緊迫した場面で奥野が阿部へのパスを一発で決めてTD。安藤のキックも決まって19−19。やっとの思いで引き分けに持ち込んだ。
 このように試合展開を振り返ると、絶体絶命の場面で、局面を切り開いたメンバーが誰か、という答えはただちに見つかる。すなわち冷静に正確なパスを投げ続けた奥野。そのパスを相手守備陣のマークをことごとく振り切り、すべてキャッチしたレシーバー陣。具体的には松井、小田、阿部の名前が真っ先に浮かぶ。もちろん、おとりになって相手を振り回した鈴木もいるし、奥野を守ったOL陣の結束も特記したい。
一番緊張する場面で、冷静にキックを決めた安藤の活躍も大きく記しておかなければならない。
 もちろん、その直前の関大の攻撃を3&アウトに仕留めた守備陣の奮闘も称賛に値する。もし、あの場面で一度でもダウンを更新されていれば、この劇的な幕切れに至る前に、試合が終わっていたかも知れないのだ。
 このように試合を振り返って見ると、いくら「全員でやろう」といったとしても、全員がその主人公にならない限り意味はない。オレが相手を倒してやるという強い意志を行動で示せるサムライの存在が不可欠だ。
 天下分け目の立命戦までに残された時間は10日余り。求む!サムライ、求む!主人公である。
posted by コラム「スタンドから」 at 06:56| Comment(5) | in 2018 Season
この記事へのコメント
関大戦、お疲れ様でした!
現地で見ましたが、勝てる気がしない試合でした。
関学を倒そうとする相手の気迫が凄まじいですが、気持ちの面で負けないでください。
立命大は滅茶苦茶強いですね。
個人技でも全員でも何でもいいので、必ず立命大を倒して日本一になって下さい!
応援してます!


Posted by ajmdg316 at 2018年11月06日 09:33
関大戦はオフェンス、デフェンスともライン戦で圧倒された印象が強かったように思う。ラインの卒業メンバ-が少ないのにこのような結果に終わったのは、石井さんがご指摘のサムライの存在が薄いように思います。例えば、ディフェンスをみると、一昨年の松本、山岸、岡本・小池、昨年の藤木、松本和、小椋のような絶対的存在のサムライが、最後は何とかしてくれる安心感があったように思う。圧倒的な強さが目に付く今年の立命を前に、危機感に満ち溢れたなかで、今からでも遅くない、「俺が局面を打開してみせる」といったサムライが相次いで出てくることを祈るばかりである。
Posted by hanagoma at 2018年11月06日 13:53
三原選手がライスで強烈なパッシングゲームを演じて以降、3期連続甲子園を逃し、松岡主将率いる’11ファイターズが迎えた立命戦。今期こそはとスタンドは殺気立ってました。突き刺さる魂のタックル。その度に、拳を突き上げるスタンド。昨季リーグ優勝しながら甲子園ボウルを逃した立命は、猛烈な悔しさの中で激しい練習を積んできたと思います。あの時のファイターズのように猛然と襲いかかってきますよ。超えられますか?
Posted by 頑張れKG at 2018年11月06日 21:44
関大戦。とにかくお疲れ様です。
なにはともあれ負けなくてよかった。
見る人が10人いたら距離や角度によって見方もそれだけ変わるのでしょうね。

なるほど石井さんはサムライに見えたのですね。私にはファイター(戦士)に見えていました。
あの日のフィールドで少なくとも2人のファイターを見ました。
残り2分で#3君が再登場、パス攻撃だと思ったけれど、乱数表を両手につけた姿にまさか?と思いましたが、そのまさかのノーハドルで速攻という、パスを投げる者も受ける者もそれを守る者も、もちろん見る者も緊張を強いられる戦いは予想外でした。
しかしこれは普段からの練習の成果でしかないのでしょうね。

大柄な選手達の中にあって一際小柄に見える#3君のメット越しの目に静かだけれども激しく燃えるようなものを感じたとき、それが彼の闘志そのものだと気づきました。人から言われて大きくなるものではないというアレですね。小野Dの話にあった通り彼自身の内側から湧き出るようでした。
#3君が今もこれからも背負う重責も、これまで乗り越えてきた苦難の数々もあえて書きませんが、乗り越えるたびに自身も闘志も強くなっていくのでしょうね。

もう一人静かなファイターがいました。仲間の歓喜の輪に加わらず、黙々と役割を果たした#8君です。彼の闘志はむき出しになることはありませんが大喜びする場面もまだ見たことがありません。

もちろん早いパスを逃すことなく喰らいついたWRもブリッツを食い止めたラインもそして貴重な2分の時間をくれたディフェンス陣も皆
「ファイターズの仲間」
ですが、1人ひとりが
「ファイター」であってこそ
「ファイターズ」ではないでしょうか。
今一度自分を見つめ直してください。
1人だけで何とかしようと思わないで。
1人ひとりが自分の役割を果たしつつ仲間を頼ってください。
そして今の自分に打ち勝ってください。

余談になりますが人よりも目端の利く私は最後のTDパスを頭越しに見届けた審判の目にも闘志の光を見ました。
審判も戦っているのです。
彼らもまた、審判という「ファイター」でした。
Posted by Blue_Sky_Blue at 2018年11月06日 23:49
 関大は思ってた以上の恐い相手でした。去年も今年も最多失点、その数字は図抜けてます。先代#3がFGのkrでTDし相手の流れを食い止めたのは記憶に新しく、その番号を継承した若きQBが土壇場でパスを繋ぎ、何とか敗戦を免れました。課題以上のものを得た今季関関戦だったと思います。
 気を取り直し、次戦に備えている最中でしょう。FIGHTERS'18.の闘いはまだまだ続きます。
Posted by Blue Blood at 2018年11月09日 11:28
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