朝日新聞社で支局長(いまはなぜか総局長と呼んでいる)をしていると、必ず果たさなければならない仕事がある。夏の全国高校野球選手権大会のお世話というか、主催者としての業務である。
野球が好きとか嫌いとかいうまえに、支局長(東京や大阪は社会部長)は朝日新聞の各都道府県における責任者だから、地元の高野連の先生方とともに、大会の準備から運営、さらに甲子園に出場するチームのお世話などを担当しなければならない。主催者だから、開会式で参加全選手の前で挨拶をしなければならないし、閉会式では高野連の会長と手分けして、優勝校と準優勝校の選手全員にメダルをかけ場面もある。高校や県庁で壮行会があれば、それぞれ挨拶しなければならないし、もし、担当しているチームが優勝したりすると、翌朝、朝日新聞大阪本社に優勝報告をするときや、高校に「凱旋」するときに、先導役も務める。
どうして、こういうこまごましたことを知っているかというと、僕が朝日新聞の和歌山支局長をしているときに、智弁和歌山が全国優勝したからである。1998年夏だった。
和歌山県庁で行われた壮行会で、ユニフォーム姿で並んだ選手たちを激励したときの挨拶を覚えている。こんな内容だった。
<夢は夢見るだけでなく>
厳しい和歌山大会を勝ち抜き、あこがれの甲子園に出場する選手のみなさんに、一つだけ、いっておきたいことがある。夢は夢見るだけでは、意味がない。夢はかなえてこそ夢である。このことである。
夢には労苦や屈辱、試練や厄災を輝きに変える力がある。仲間との信頼、友情、絆を深める力を持っている。けれども、ただ夢見ているだけでは、夢はその力を君たちに与えてくれない。夢を実現するために死にものぐるいで練習し、仲間とともに戦い、苦しみや喜びを分かち合う過程を通して初めて、君たちはその力を手にすることができる。そういう過程があって初めて勝利を手にする資格が得られるのだ。
その力を手に入れようではないか。夢をかなえようではないか。厳しい練習に耐え多くの試練をくぐり抜けてきた諸君には、その力を手にする資格がある。和歌山大会で君たちと真っ向から戦い、敗れ去ったチームのためにも、君たちは甲子園で力いっぱい戦う義務がある。
甲子園の優勝旗は深紅である。君たちのアンダーシャツやストッキングも深紅である。君たちに一番似合うのは深紅の優勝旗である。それを持ち帰ってくれ。健闘を祈る。
ざっとこんな趣旨だった。いまこうして書いてみると、相当に乱暴な論旨だったと思うが、後で聞くと、選手たちには好評だったという。知事や教育長の話は長くて難しいのに、僕の話は短かくて分かりやすかったからだろう。後に、ドラフト1位で阪神に入団した捕手の中谷主将や慶応大学からロッテに入った外野手の喜多選手らが「あの激励のメッセージはよく覚えています。気合が入りました」といってくれた。
実際、彼らは甲子園の大会で優勝し、夢をかなえた。その意味で、少々支離滅裂ではあるが、「夢は夢見るだけでなく」というのは、いわば「縁起のよい」メッセージである。
そのメッセージを、ファイターズの諸君にも贈りたい。「夢は夢見るだけでなく、かなえてこその夢である」
いよいよ立命戦である。
大げさにいえば、1年間、ファイターズの暦は、この試合から逆算してめくられてきた。この試合にすべての照準を合わせ、準備し、鍛え、知恵を絞ってきた。チームにとっては1年の総決算の日であり、4年生にとっては4年間のすべてをぶつける日である。
文字通りすべてをぶつけようではないか。知力、体力、技術、そして気力。自分たちが取り組んできたことに絶対の信頼を置き、仲間を敬い、絆の深さを確かめよう。
「聖地奪回」を夢見るだけでなく、その夢をかなえようではないか。諸君はそれだけの取り組みをしてきたはずだ。
2006年11月20日
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一方の立命にも,甲子園ボウルで雪辱を果たすという目標があるはずです(関学戦は一通過点に過ぎない,とは決して思っていないでしょう)。
ファンとしてはFightersが目的を果たしてくれることを,衷心より願っています。タフな試合になると思いますが,最後まで戦い抜くためには,やはり気力がものをいうのでしょうか。
取り留めのない文章ですいませんでした。
石井氏の日記を読んで、ファイターズが大好きな人間がここにもいるのを知って心より喜んでいます。節目のゲームを控え、夜も眠れず、何も手が着かないのは私も同じです。
passing pointをしっかとおさえ、Fightersと共に聖地へ赴きましょう。