2006年10月13日

(25)練習は裏切らない

 いま、パ・リーグのプレーオフで、日本ハムがソフトバンクを破って日本シリーズへの進出を決めた。セ・リーグでは、阪神の驚異的な追い上げを振り切って、一足早く中日が優勝を決めている。
 中日が優勝を決めた翌日の朝日新聞に、1番打者としてチームを引っ張ってきた荒木選手のインタビューが載っていた。その中で彼は「この3年間でチームは本当に強くなった。なにより練習量が違う。朝から晩まで、キャンプの練習時間は3時間は長くなった」といっている。続けて、落合監督の絶妙のノックが自分を鍛えてくれたことについて話し、「シーズン中、どんなに苦しくても、あれだけ練習をやったんだ、と思うと、乗り切れた」と振り返っている。
 練習は裏切らない、ということだろう。
 似たような意味のことを、京大戦の後、ファイターズの早川悠真君(2年)が僕に話してくれた。前半終了直前のフィールドゴール、後半開始早々のタッチダウンと、京大が立て続けに10点を取り、13−10と追い上げてきた局面で、起死回生のセーフティーをもぎ取ったプレーについて、質問した時のことである。
 そのプレーをご覧になっていない人のために説明すると、次のような場面だった。両軍ディフェンスの健闘で、膠着状態のまま迎えた第3Q8分36秒。大西史恭君(3年)の絶妙のパントで、京大の攻撃はゴール前数インチから始まった。そこで京大は、FBが確実に中央を突くプレーを選択したが、ボールがスナップされると同時に早川君が素晴らしいスタートと当たりで相手センターを押し込んでFBの進路をふさぐ。そこへ左サイドから飛び込んできた國方雄大選手(3年)がタックルを決め、セーフティーを奪い取った。
 このプレーについて、早川君は「練習で想定していた通りに動けた。練習では、もっと厳しい状況を設定してやっているから、相手の動きもよく見えた」と解説してくれた。プロ野球とアメフットという違いはあっても、練習をしっかりやってきたから、本番でも力を発揮できた、という点が荒木選手の談話に通じていた。
 練習で出来ないことが試合で出来るはずがないといわれる。相撲界には「3年先の稽古」という言葉がある。あの宮本武蔵も「五輪書」の中で、しきりに朝鍛夕錬(つまり朝に鍛錬、夕べに鍛錬という意味である)の大切さを説いている。「千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を練とす。よくよく吟味あるべし」ともいっている。それぞれに、技術の向上は目的を持った適切な稽古抜きにはあり得ない、ということを表す言葉であろう。
 そういえば、同じセーフティーの場面について解説してくれた堀口コーチは「早川も成長しているけど、その両脇を固める荒牧と黒澤が成長しているから、早川も安心して突っ込めるんです」といって、最前線を守る3人の2年生の成長を評価していた。
 個々の選手がしっかり練習すれば力が付く。選手に力が付けば、周囲の選手も動きやすくなる。それが相乗効果として機能すれば、チームとしても試合の流れを変えるプレーが実現できる。そういうことだろう。しっかりした投手陣を中心に、守りを鍛えてセ・リーグを制した中日、同じくパ・リーグを制した日本ハムと通じる話である。
 しっかり練習して、個々の選手の力を底上げし、それをチーム全体の力としてゲームに発揮する。そういう片鱗を見せてくれたのが10月1日、雨の西京極競技場で行われた関学−京大戦である。「学生界最強」と評価される京大の強力なディフェンスに仕事をさせないように、すべての攻撃に工夫をこらしたオフェンスの成長とともに、なかなか見応えのある試合だった。
 京大に勝って、ともかく甲子園への「第一関門」は突破した。残り4試合。それぞれ力を秘めた相手だが、京大戦のように「相手の力を発揮させず、自分たちの力を発揮する工夫」を重ね、残る試合も勝ち進んでほしい。
 練習で鍛えられ、チームとしての力は、間違いなく上がっている。けれども、これに満足せず、さらに吟味し、鍛錬を重ねることで、さらに高いレベルを目指してほしい。
posted by コラム「スタンドから」 at 07:33| Comment(0) | TrackBack(1) | in 2006 Season
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