2023年10月30日

(13)驚きの京大戦

 ついこの間、今年度のリーグ戦が始まったばかりと思っていたのに、もう5戦目。28日は、京都大との戦い。一昔前までは「宿命のライバル」として、熾烈な覇権争いを続けてきた相手である。
 この日の試合を場内限定のFM放送で解説された小野宏ディレクターも、放送が始まると同時に「京大は本当に厄介な相手。現役時代から何度も痛い目に遭わされました。リーグ戦で勝ったのは2年生の時だけで、後は28−35、7−17、28−30で敗戦。コーチとしてチームに戻ってからも、何度も痛い目に遭いました」と、それぞれの試合展開を振り返って解説。「今年も、相手のQBが素晴らしいから、今日も厄介な試合になりますよ」と予想されていた。
 悪い予感はよく当たる。ファイターズのキックで始まった京大の第1シリーズがその典型。自陣18ヤードから始まった攻撃は、いきなりパスプレーの連発。それにQBのランプレーを交えてぐいぐいと陣地を進める。あっという間に関学陣に入り、仕上げも10ヤードのパスでTD。7−0と先手を奪う。
 これはこれは、と驚いているのは観客席。グラウンドの選手の胸中も同様だったろうが、ファイターズのオフェンス陣は、そんな気配は毛頭見せない。伊丹と澤井が立て続けにダウンを更新し、相手の守備陣をランプレーに集中させる。それを見極めたベンチはパスプレーを選択。それに応じてQB鎌田がWR鈴木に65ヤードのパスを通し、TD。大西のキックも決まって7−7と追い付く。
 しかし相手も、QBの変幻自在のプレーを中心に一歩も譲らない。相手のキッキングチームも同様だ。次のファイターズの攻撃は自陣5ヤードから。ゴールラインを背負って、どう陣地を回復するのだろうと注目した第1プレー。ファイターズには、予想していなかったようなビッグプレーが飛び出した。
 主役はRB伊丹。自陣ゴールライン上でQB鎌田からボールを渡された瞬間にカットを切り、そのまま右サイドライン際を駆け上がってTD。記録された獲得距離は95ヤード。伊丹の走力も素晴らしかったが、彼を守って追走し、相手守備陣のタックルを防ぎ切ったレシーバー陣の協力も見事だった。
 このプレーに刺激されたのか、今度は守備陣が次々と素晴らしいプレーを連発する。DB波田と山村が立て続けにボールキャリアにタックルを見舞い、DL浅浦が素早い出足で何度も相手QBに襲いかかる。
 好守がかみ合えば、試合は落ち着く。能力の高いQBを生かすべく「考えに考え抜かれたたプレー」(小野ディレクター)で攻め込んでくる相手の反撃をしのぎ、21−7で前半終了。
 後半の立ち上がり、ファイターズは思わぬファンブルで相手に7点を返されるが、前半のリードがあるから慌てない。まずはK大西のフィールドゴールで3点。DB高橋のインターセプトでつかんだ相手ゴール前からの攻撃でQB鎌田がWR小段に10ヤードほどのTDパスを通し、キックも決めて7点を追加。31−14とリードを広げる。
 こうなると、守備陣にも余裕が出てくる。立ち上がりは相手QBの変幻自在なパスに苦しんでいたが、徐々に反応できるようになってくる。まずはDB中野が相手のパスを反応良くインターセプト。そのままゴールまで駆け込んでTDに仕上げる。
 ファイターズに勢いが出ると、相手も焦り出す。相手リターナーが自陣奥深くからリターン中にボールをファンブル。それを確保したファイターズが相手ゴール前26ヤード付近から攻撃に移る。QB星野がWR鈴木、五十嵐に短いパスを通し、自らのキーププレーで陣地を稼いで、RB澤井のTDランに結びつける。
 終わってみれば45−20。高い能力を持ったQBを中心に、練りに練った作戦で長年のライバルを倒そうとする相手を、ファイターズは攻撃と守備が互いに助け合って倒した。
 互いに知恵を絞り、力を尽くして戦う戦士たち。その奮闘に拍手を送りながら「こういうライバルがいるからこそ、アメフットは面白い。応援したい」という気持ちが募ってくる。
 同時に、なぜ、こんなに魅力的なスポーツなのに観客席が満席にならないのか、不思議でならない。何度も繰り返すが、なんとかしてこの魅力をより多くの方々に共有してもらい、試合会場に足を運んでもらえるような方策はないのだろうか。
 次週は立命館が相手。これまた、最終戦の関大戦とともに、絶対に見逃せない試合である。1人でも多く友人、知人を連れ出してスタンドに参集してもらいたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:25| Comment(4) | in 2023 Season

2023年10月17日

(12)練習の成果

 先週日曜日は、近畿大学との戦い。10月も半ばとあって暑さは和らぎ、雨の心配もない快適な環境で試合が始まった。
 先攻はファイターズ。自陣36ヤードから始まった最初の攻撃シリーズこそ反則で陣地を進められなかったが、自陣32ヤードから始まった2度目の攻撃はRB伊丹と前島を交互に起用。個人技に優れた2人の多彩な攻撃で確実に陣地を進めていく。
 最初にボールを託されたのは伊丹。短いスイングパスを受けて走ったかと思えば、次はドロープレーから一気に中央を抜け出す。一瞬、相手守備陣に捕まりそうな場面でも、独特のステップで身をかわして陣地を稼ぐ。
 仕上げは前島。相手ゴールまで29ヤードを一気に走ってTD。相手守備陣が迫ると、急ブレーキをかけて相手をかわし、その瞬間、ギアをトップスピードに上げて走る彼ならではの先制点である。K大西のキックも決まって7−0。
 先制すると、守備陣は落ち着く。相手は、レベルの高いQBを中心に多彩な攻撃を仕掛けてくるが、浅浦を中心とした守備のフロントと、LB海崎、永井、DB波田という経験豊富なメンバーが核になったバックスが互いに助け合って攻撃を食い止める。
 第2Qに入っても一進一退の攻防が続く中、均衡を破ったのはファイターズ。DBのリーダー波田が相手QBがセンターライン付近から投じたパスを確保すると、そのままゴールまで駆け込んでTD。大西のキックも決まって14−0。
 ビッグプレーが出ると、チーム全体が盛り上がる。相手陣23ヤードから始まった次の攻撃シリーズでは、QB鎌田からTE安藤への8ヤードのパス、RB前島のオフタックルを抜けた鋭い走りでTD。21−0とリードを広げる。
 後半になってもファイターズの勢いは止まらない。自陣45ヤードから始まった第3Q最初の攻撃ではQB鎌田がWR衣笠、五十嵐、小段へのパスを立て続けに通し、相手ゴール前11ヤード。そこからは一転、RB伊丹のランを2本。残り2ヤードはRB大槻の中央ダイブでTD。堅実なプレーでリードを広げていく。
 こうした攻撃の中で光ったのは、QB鎌田のパス。レシーバー陣のリーダー鈴木へのミドルパスを立て続けに通し、合間には衣笠や小段へのパスを交えて変化を付ける。この日のトータルスコアを見ると、WR鈴木に6回101、小段に3回42、衣笠に3回39、TE安藤に2回25、五十嵐に1回6ヤードを通している。思い通りにパスが通らずに苦しんでいた前節とは異なり、調子が上がってきたようだ。
 QBといえば、けがで戦列を離れていた2年生の星野もこの試合、ほんの数プレーだったが出番があり、元気な姿を見せてくれた。これまた心強い。
 リーグ戦も前半の4試合を終わり、佳境に入ってきた。これから立ち塞がる京大、立命、関大は好守ともにそれぞれの特徴を持った強敵である。ファイターズの一員として闘うメンバー全員が、この日までの4試合でつかんだ自身の特徴を生かし、足らずを補って全力で相手にぶつかる態勢を構築してもらいたい。
 幸い、けがやインフルエンザなどで戦列を離れていたメンバーも徐々に復帰している。この日の試合で、久しぶりに元気な姿を見せ、いい動きを見せてくれたメンバーもいるし、シーズン当初から起用されている1年生も試合ごとに力を発揮している。
 もちろん、2年生や3年生にもチームの主力と言ってよい人材が何人もいる。この日の先発メンバーを見ても、守備ではDL村田、山本、LB永井、DB東田らが名を連ね、1年生からはDB藤田が起用された。
 オフェンスでもLT近藤、C巽、RT森永、RB伊丹、スナッパー柴原は3年生、2年生にはLG紅本、TE川口、K大西が起用され、WR小段に至っては1年生である。
 こうしたメンバーが4年生を支え、チームを盛り上げていくことで、チーム力は上がっていく。強力なメンバーをそろえている立命や関大とも対抗出来るはずだ。若いメンバーが試合ごとに力を付け、急激な成長曲線を描いていくのを見られるのも、学生スポーツの大きな魅力である。
posted by コラム「スタンドから」 at 12:41| Comment(2) | in 2023 Season

2023年10月10日

(11)大学生の課外活動

 前回のコラムは、次のような言葉で結んでいる。
 「チームとしては苦しい戦いであったとしても、自分のプレーが通用するという自信を付けたメンバーもいるだろうし、自ら改善しなければならない点があることを体感した者もいるだろう」
 「その気づきを個人として、またチームとして、どう止揚していくか。それを考え、明日の試合につなげ、実行していくのが、大学生が集団で取り組むスポーツの魅力であり、神髄であると僕は考えている」
 どうしてこんなことを書いたのか。
 一つはいま、あちこちの大学で、課外活動構成員の不祥事が次々と表面化しているからだ。指導という名を借りた下級生に対する暴力行為、薬物の不法所持や不法接種、女性に対する集団暴行事件……。ここ半年、1年ほどの間に大きく報じられた記事だけでも、その一端がうかがえる。
 大学生の部活動だけではない。高校生の部活動でも、監督やコーチによる部員への私的制裁が後を絶たない。その一端は、日本高野連が定期的に公表している情報からでもうかがえる。
 そんなニュースに接するたびに思い出すことがある。僕が現役記者時代、懇意にしており、後に日本高野連の理事としても席を同じくした、ある公立高校野球部指導者のことである。
 彼はある日、こんな思い出話をして下さった。「僕も昔は熱血指導者。朝から晩まで高校生のことばかり考えていました。本気で怒った時はほっぺたを張り飛ばすし、言葉も荒くなる」「それでも、結果がついてこない。考えあぐねた末に、ふと思いついた。逆の発想で接したらどうか。そう思って、腹の立つときはニコニコ笑うようにしたのです」「ニコニコしながら、次は頑張れよ、期待してるで、と声を掛けるようにしたら、相手は『頑張ります』と答える。そんなことを繰り返しているうちに、チームの雰囲気も変わってくる。監督と選手の間に、目標を共有しているという実感が生まれてくる。そのご褒美が甲子園での優勝。選手が自ら目標を持って行動できるようにするだけで、優勝旗が手にできたのです。指導者としてこんなに嬉しいことはありませんでした」
 これは、18歳未満の生徒を主役にした高校野球指導者の話である。大学生ともなれば、相手はもう大人である。自らが考え、互いに協力しあって、目標に向かって突き進んで行くのは当然だろう。
 そういえば、ファイターズの前監督、鳥内さんも、こんな言葉をしばしば口にされていた。「ほんまに勝ちたいのは、お前らやろ。勝ちたいんやったら、勝てるようにチームをつくっていかなあかん。主役はお前らやで」
 そのような考え方がチームに浸透し、4年生を中心に一丸となってお互いを高めあい、毎年、前年以上のチームをつくってきた歴史があるからこそ、手強い相手が立ちはだかるこの世界で勝ち続けているのだろう。
 今年のチームも、そうした歴史の延長上にある。学生が主役となり、監督やコーチがそれを助ける。チームが一丸となって向上心を持ち、練習の成果を明日の試合につなげていく。
 それが大学生が集団で取り組むスポーツの魅力であり、それを当たり前のこととして実行しているのがファイターズであろう。いつまでも応援したいチームであり続けるゆえんである。
posted by コラム「スタンドから」 at 16:20| Comment(3) | in 2023 Season

2023年10月02日

(10)大学スポーツの魅力

 先週の土曜日、王子スタジアムで行われた神戸大学レイバンズとの試合は31−10でフィターズの勝利。スコアだけをみれば、ファイターズが順当に勝利したように思われるかもしれないが、現場で応援していた感覚ではまったく異なる。まずは試合の経過から追ってみよう。
 先攻のレイバンズが入念に準備したオフェンスでファイターズ守備陣を振り回し、わずか6プレーでTD。キックも決めて7−0。 ファイターズが試合開始早々、わずか2分足らずの間に得点されるなんて、全く想定していなかったし、その得点が相手が練りに練ったプレーを完遂した結果だと思えたから、二重に驚いた。
 前節、ファイターズが登場する前の京大戦で、変則的な攻撃で相手守備陣を振り回しているのを見ていたので、ファイターズとの試合でも、多彩な手法で攻めてくるだろうとは思っていたが、その想定を上回る大胆な攻めだった。
 幸いなことに、先攻されてすぐ、ファイターズもRB前島、伊丹のランとQB鎌田からWR鈴木へのミドルパスで相手ゴール前に迫り、最後はRB澤井が20ヤードを走り込んでTD。大西のキックも決まって同点に。次のレイバンズの攻撃を完封し、センターライン付近から始まったファイターズの次の攻撃は、鎌田からWR五十嵐への短いパスがたて続けに決まって相手ゴールに迫る。しかし、TDを奪うには至らず、大西のキックで10−7とようやくリードを奪う。
 しかし、これで落胆するような相手ではない。少々攻撃が手詰まりになっても、手を変え、品を変えて攻め込んで来る。並外れたスピードを持つWRやRBへの大胆なパス、QBの果敢なスクランブル、意表を突くランプレーなどを組み合わせ、少々のロスは平気で攻め込む姿勢が厄介だ。
 ファイターズファンに向けたFMラジオで解説と実況を担当されている小野ディレクターも、守備コーチとして経験の豊かな相手コーチがオフェンスコーチとなり、守る側にとっては厄介なプレーを次々と仕掛けている、その意図を実現する足の速いプレーヤーがいるし、何よりもファイターズに一泡吹かせてやろうというチームとしての意思が伝わってきます、と述べられている。
 コーチの気持ちが選手に乗り移ったのか、相手守備陣は懸命にフィターズの攻撃をしのぎ、攻撃は手詰まりになっても、常に一発ロングゲイン、一発TDを狙った攻めを仕掛けてくる。その積極的な攻めが実り、第2Q終了間際には、FGを決めて追いつき、10−10のままハーフタイム。
 短い休憩中に、双方共にさまざまなことを考えてきたせいか、第3Qは互いの守備陣が相手攻撃の芽を消し合って0−0。
 4Qに入って均衡を破ったのはファイターズ。RB伊丹のドロープレーなどで陣地を進め、仕上げはQB鎌田からWR小段への13ヤードパス。サイドライン際に投じられたパスを確保した小段が相手守備陣を振り切ってゴールに駆け込んだ。小段はこのシリーズの直前、相手パントを確保した際も、相手守備陣を交わしてセンターライン付近まで陣地を回復するなど、1年生とは思えないプレーを続けている。練習時から、常に「一球入魂」の姿勢で取り組んでいる成果が、このような競り合った試合でも実ったのだろう。
 1年生の活躍に刺激されたのか、守備陣も奮起。次の相手攻撃を完封。その次の相手攻撃もDB中野のインターセプトで封じ込める。
 攻撃陣もそれに応える。続く相手陣38ヤードからの攻撃では、RB前島が中央突破で陣地を進め、残る16ヤードをQB鎌田のラン、RB伊丹のランでTD。キックも決まって24−10。
 こうなると、さすがのレイバンズも息が上がり、攻撃が単調になる。それを守備陣が完封する。
 残り時間2分39秒からのファイターズ攻撃は、相手ゴール前29ヤードから。まずはQB鎌田がWR鈴木に短いパスを通し、RB前島、伊丹が交互に走り、仕上げは前島の中央ダイブ。キックも決まって31−10。
 このように試合の流れを回顧していくと、前半の苦しい戦いが嘘のように思えるが、心配性の僕は、とてもそんな気持ちにはなれなかった。前半、相手が積極的に投じてきたTD狙いのパスが、たとえ1本でも通っていたら、試合展開はがらりと変わっただろう。ファイターズの守備陣、特にLBやDBの対応が少しでも遅れていたら、局面は変わったろうし、フロントを固めるDLの圧力が少しでも弱まっていたら、そこにつけ込まれたに違いない。
 もちろん、それは部外者の勝手な思い込みであり、現場で対戦している選手諸君の感覚にはまた異なる点も多くあるだろう。チームとしては苦しい戦いであったとしても、自分のプレーが通用するという自信を付けたメンバーもいるだろうし、自ら改善しなければならない点があることを体感した者もいるだろう。
 その気づきを個人として、またチームとして、どう止揚していくか。それを考え、明日の試合につなげ、実行していくのが、大学生が集団で取り組むスポーツの魅力であり、神髄であると僕は考えている。
posted by コラム「スタンドから」 at 20:57| Comment(2) | in 2023 Season