同志社大学戦を振り返るに際して、ファイターズは今春、どんなメンバーを失ったかを確かめたい。
手元にある1月3日のライスボウルの先発メンバーを参考にすると、オフェンスではOLの村田、森田、松永、WRの阿部、ディフェンスではDL板敷、藤本、寺岡、大竹、DBでは渡部、畑中、松本、そしてK・Pを務めた安藤が卒業している。攻守蹴合わせて12人を失った穴をどのように埋めるのか。それを試合で確認するのが、大きな関心事だった。
結論からいうと「随所に新しい息吹が見えている。しかし、まだまだ底上げが必要」というのが、スタンドから観戦した僕の感想である。
OLでは2年生時からスタメンを張っている副将・高木を中心に、3年生の二木、牧野、田中、そして2年生の速水が先発。目立たないけれども、基本に忠実なプレーで攻撃陣を支えた。今季のチーム練習が始まった頃から、OL担当の香山コーチや神田コーチに厳しく指導された成果だろう。TEには遠藤、小林陸など昨年から随時出場していたセンスのよいメンバーがそろっているので、今後の成長が楽しみだ。
前回も絶賛したように、攻撃の起点になるQB奥野は健在、三宅、前田、斎藤、鶴留で回すRBの完成度も高い。WR陣も昨年から主力メンバーとして出場している鈴木、糸川、河原林らが健在。しばらく試合から遠ざかっていた戸田も安定した捕球をしていた。昨年はけがで出場機会のなかった2年生の梅津も、センスの良さを見せてくれた。
特記したいのは、1年生WRの鈴木(箕面自由)。今季は練習もままならず、アピールする機会が少なかったにもかかわらず、上ヶ原での練習時から目に付いた選手だが、試合でもその力を発揮。第4Q後半、QB山崎が投じた30ヤードのパスをキャッチ。TDを奪った。スピードだけでなく、コース取りや相手を抜き去るセンスにも非凡なところがあり、今後が楽しみな新人である。
デイフェンスでは、第一列が期待される。この日は、野村、青木という昨シーズンの後半から存在感を増していたメンバーに加えて、昨年はほとんどVチームでの経験がない2年生の吉田と亀井弟が先発したが、立ち上がりから相手を圧倒。「今年の1列目はいいですよ」という大村監督の言葉を裏付けるような活躍だった。
2列目は、昨年大活躍した海崎と繁治の両副将が欠場したが、その穴を昨年から交代メンバーで出場している4年生の川崎と3年生の都賀が埋めた。とりわけ高等部時代は野球部だった都賀がフットボールの仕組みに慣れたのか、随所で果敢なプレーを見せ、相手に自由なプレーを許さなかった。
問題はDB陣。昨年から試合に出ている北川と竹原は、よくボールキャリアに絡んでいたが、経験の薄いメンバーの動きは今ひとつ。スピードはあっても、相手が本気でぶつかってくる試合での経験がほとんどないから、つい相手の動きに惑わされ、肝心のボールキャリアのカバーが遅れる。そのたびに「くそっ、次は仕留めたる」と気合いを入れるから、逆に力が入りすぎて相手にその逆を突かれる。
今後、試合経験を積んでいけば、その辺の呼吸は身に付いてくるだろうが、時間は限られている。この日、交代メンバーとして出場したメンバーを含め、攻守ともに、さらに実戦を想定した練習を積み重ね、才能を発揮してくれることを願うばかりだ。
同じように試合経験の少ないのがキッカーとパンターを兼務する永田。今季は試合形式の練習が十分にできず、キッキングのメンバーは大変な苦労をしたようだが、初戦という重圧にも負けず、すべてのキックをしっかりと蹴っていたのが印象的だった。
このように初戦を振り返っていけば、一発勝負のトーナメント、それも2回勝てば決勝という今季のスケジュールの厳しさが身に染みる。
現状では、試合経験を積ませて新しい戦力を育てるということは極めて難しい。けれども新しい戦力の台頭なしには戦えない。この難しい条件をどう突破していくか。監督・コーチの指導を待つだけでなく、選手自身がこの状況を理解し、1分、1秒を惜しみ、覚醒した練習に取り組まなければならない。立ち上がりからの華々しい攻撃で圧勝した試合はまた、そのことを痛感させられた試合でもあった。
2020年10月29日
(6)新しい息吹
posted by コラム「スタンドから」 at 08:38| Comment(1)
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2020年10月20日
(5)灯りの見える勝利
前例のないシーズンが前例のない形で始まった。2020年度の関西リーグ。今季は、一部の8チームが二つのブロックに分かれてトーナメントで戦い、勝ち抜いた2校で優勝を争う仕組みになった。
逆に言えば、初戦で負ければそこでシーズンが終わる。18日朝のどこかの新聞に「京大、2時間あまりでシーズン終了」との見出しが出ていたが、それが衝撃的だった。リーグ戦ならば、たとえ初戦で敗れても、くじけずに戦い続ければ逆転優勝の目が残る。けれどもトーナメントは一発勝負。どんなに素晴らしい試合をしても、負ければそれでシーズン終了。残酷なことよ、と思いながら王子スタジアムに向かった。
この日の僕の役割は、コロナ禍で試合会場から閉め出されたファンや選手の保護者の方々に、このコラムを通じて試合のポイントをお伝えすること。もちろんRTVの実況中継やサンテレビの録画放送があるが、そうした文明の利器が見落としたようなところにも目を配ってファイターズファンにお届けすることである。
初戦の相手は同志社大学。相手のキック、ファイターズのレシーブで試合が始まる。リターナーは4年生RB三宅。昨季もライスボウルであの富士通を相手に独走TDを決めたスピードランナーである。相手のキックを自陣10ヤード付近で確保すると、そのまま右のサイドライン付近を駆け上がる。相手ディフェンスも必死に止めようとするが、それを軽快なステップで交わし、そのたびにスピードを上げてそのままタッチダウン。K永田のトライフォーポイントも決まって7−0。わずか10秒ほどで主導権を握る。
しかし、驚くのはこれからだ。相手の最初の攻撃シリーズを完封して、再び自陣30ヤード付近からファイターズの攻撃。今度はQB奥野からTE遠藤、WR糸川への短いパスが続け様に決まり、続けて三宅のラン、糸川へのパスを決めてあっという間に相手陣29ヤード。そこから今度はRB前田が中央を突破してTD。スピードだけではなく、パワーで相手を圧倒していく豪快な走りだった。
しかし、驚くのはまだ早い。相手の攻撃をこれまた完封してファイターズ3度目の攻撃シリーズがまたまた鮮やかに展開する。今度は奥野からWR鈴木に27ヤードのパス、RB前田のラン、再び鈴木へのパス、そして仕上げはRB前田が中央2ヤードを飛び込んでTD。相手が警戒しているにもかかわらず、鈴木と前田を交互に使い、それぞれのプレーをすべて成功させてTDに結びつけるというのは尋常ではない。
思い通りの試合展開で、選手たちの気持ちもほぐれてきたのだろう。続く第4シリーズの主役は3人目のRB斎藤。相手守備が奥野からのパスを警戒している裏をかいて、一気に34ヤードを走り、ゴール前2ヤード。これを三宅のランでTDに結びつけ、なんと第1Qだけで27−0とリードを広げる。
第2Qに入っても勢いが止まらない。ファイターズ5回目の攻撃シリーズはRB三宅、前田、鶴留を交互に走らせ、合間にWR梅津へのパスを挟んで確実に陣地を進める。仕上げは三宅のラン。永田のキックも決まって34ー0。ここまで5回の攻撃シリーズを攻撃陣はすべてTDに結びつけ、守備陣は相手を完封する見事な展開である。
その内容が素晴らしい。主将の鶴留を加えたRB4人がそれぞれ持ち味を出して大きなゲインを重ねれば、レシーバーも確実にボールをキャッチして陣地を進める。センターの高木とタックルの牧野以外は試合経験の少ないOLも、しっかりボールキャリアを守り、走路を開く。
奥野はこの日、第2Q早々に5本目のTDを取ったところで交代したが、その間、9回パスを投げて失敗したのは1回だけ。ランが出るからパスが通るのか。パスが通るから相手守備陣は、ランプレーへの警戒がおろそかになるのか。さすがは2年生の時からエースQBとしてチームを引っ張ってきた選手である。毎年のように厳しい試合を戦う中で積み重ねてきた経験は伊達ではない。
奥野と言えば、試合の前々日、チーム練習が一段落した時に、僕は珍しい場面に遭遇した。ワイドレシーバーのリーダー、鈴木がレシーバー全員に集合をかけ、そこで奥野が真剣な表情で檄を飛ばしていたのである。僕は、少し離れた場所にいたので、彼の言葉は聞き取れなかったが、今度の試合に臨むにあたって、レシーバー陣に気合いを入れていたことは間違いない。
昨年まではプレーで引っ張っていた彼が、今年は言葉でも引っ張っている姿に、僕は彼の最後のシーズンに臨む熱い気持ちを見た気がした。
追伸
鮮やかな攻撃陣の先制パンチに目を奪われて、守備陣や途中から出場したメンバーの活躍ぶりに触れることができなかった。申し訳ない。次回には必ず守備陣や、攻撃を支えたラインのことも紹介します。しばらくお待ちください。
逆に言えば、初戦で負ければそこでシーズンが終わる。18日朝のどこかの新聞に「京大、2時間あまりでシーズン終了」との見出しが出ていたが、それが衝撃的だった。リーグ戦ならば、たとえ初戦で敗れても、くじけずに戦い続ければ逆転優勝の目が残る。けれどもトーナメントは一発勝負。どんなに素晴らしい試合をしても、負ければそれでシーズン終了。残酷なことよ、と思いながら王子スタジアムに向かった。
この日の僕の役割は、コロナ禍で試合会場から閉め出されたファンや選手の保護者の方々に、このコラムを通じて試合のポイントをお伝えすること。もちろんRTVの実況中継やサンテレビの録画放送があるが、そうした文明の利器が見落としたようなところにも目を配ってファイターズファンにお届けすることである。
初戦の相手は同志社大学。相手のキック、ファイターズのレシーブで試合が始まる。リターナーは4年生RB三宅。昨季もライスボウルであの富士通を相手に独走TDを決めたスピードランナーである。相手のキックを自陣10ヤード付近で確保すると、そのまま右のサイドライン付近を駆け上がる。相手ディフェンスも必死に止めようとするが、それを軽快なステップで交わし、そのたびにスピードを上げてそのままタッチダウン。K永田のトライフォーポイントも決まって7−0。わずか10秒ほどで主導権を握る。
しかし、驚くのはこれからだ。相手の最初の攻撃シリーズを完封して、再び自陣30ヤード付近からファイターズの攻撃。今度はQB奥野からTE遠藤、WR糸川への短いパスが続け様に決まり、続けて三宅のラン、糸川へのパスを決めてあっという間に相手陣29ヤード。そこから今度はRB前田が中央を突破してTD。スピードだけではなく、パワーで相手を圧倒していく豪快な走りだった。
しかし、驚くのはまだ早い。相手の攻撃をこれまた完封してファイターズ3度目の攻撃シリーズがまたまた鮮やかに展開する。今度は奥野からWR鈴木に27ヤードのパス、RB前田のラン、再び鈴木へのパス、そして仕上げはRB前田が中央2ヤードを飛び込んでTD。相手が警戒しているにもかかわらず、鈴木と前田を交互に使い、それぞれのプレーをすべて成功させてTDに結びつけるというのは尋常ではない。
思い通りの試合展開で、選手たちの気持ちもほぐれてきたのだろう。続く第4シリーズの主役は3人目のRB斎藤。相手守備が奥野からのパスを警戒している裏をかいて、一気に34ヤードを走り、ゴール前2ヤード。これを三宅のランでTDに結びつけ、なんと第1Qだけで27−0とリードを広げる。
第2Qに入っても勢いが止まらない。ファイターズ5回目の攻撃シリーズはRB三宅、前田、鶴留を交互に走らせ、合間にWR梅津へのパスを挟んで確実に陣地を進める。仕上げは三宅のラン。永田のキックも決まって34ー0。ここまで5回の攻撃シリーズを攻撃陣はすべてTDに結びつけ、守備陣は相手を完封する見事な展開である。
その内容が素晴らしい。主将の鶴留を加えたRB4人がそれぞれ持ち味を出して大きなゲインを重ねれば、レシーバーも確実にボールをキャッチして陣地を進める。センターの高木とタックルの牧野以外は試合経験の少ないOLも、しっかりボールキャリアを守り、走路を開く。
奥野はこの日、第2Q早々に5本目のTDを取ったところで交代したが、その間、9回パスを投げて失敗したのは1回だけ。ランが出るからパスが通るのか。パスが通るから相手守備陣は、ランプレーへの警戒がおろそかになるのか。さすがは2年生の時からエースQBとしてチームを引っ張ってきた選手である。毎年のように厳しい試合を戦う中で積み重ねてきた経験は伊達ではない。
奥野と言えば、試合の前々日、チーム練習が一段落した時に、僕は珍しい場面に遭遇した。ワイドレシーバーのリーダー、鈴木がレシーバー全員に集合をかけ、そこで奥野が真剣な表情で檄を飛ばしていたのである。僕は、少し離れた場所にいたので、彼の言葉は聞き取れなかったが、今度の試合に臨むにあたって、レシーバー陣に気合いを入れていたことは間違いない。
昨年まではプレーで引っ張っていた彼が、今年は言葉でも引っ張っている姿に、僕は彼の最後のシーズンに臨む熱い気持ちを見た気がした。
追伸
鮮やかな攻撃陣の先制パンチに目を奪われて、守備陣や途中から出場したメンバーの活躍ぶりに触れることができなかった。申し訳ない。次回には必ず守備陣や、攻撃を支えたラインのことも紹介します。しばらくお待ちください。
posted by コラム「スタンドから」 at 21:25| Comment(3)
| in 2020 Season
2020年10月12日
(4)前例のない戦いへ
2020年度の関西学生アメリカンフットボールDiv.1の試合がこの週末から始まる。コロナ禍の中で、日程的にも試合そのものにも制約がある中での開幕である。全体の試合数を少なくするためにリーグ戦ではなくトーナメントで戦い、それも4チームずつを二つのグループに分け、それぞれ勝ち上がったチーム同士が戦い、勝ったチームが関西代表として甲子園ボウルに出場するという前例のない戦いとなる。
ファイターズの初戦は18日。本拠地ともいえる神戸の王子スタジアムで同志社を相手に戦う。観客は入れず、スタンドからの応援もない中での試合であり、負ければそれでシーズンが終わる。リーグ始まって以来の事態であり、過去のどの世代も経験したことのない戦いとなる。
その戦いにどう臨むのか。チームの状態をどのように盛り上げていくのか。その前に、春季は試合はおろかチームとしての練習も禁じられていた中で、チームの状態はどこまで上がっているのか。昨年度の4年生が抜けた穴をどのように埋めるのか。先発メンバーだけでなく交代メンバーの仕上がり具合はどうなっているのか。
ファンにとっては、気にかかることが山積しているはずだ。もちろん、試合は自分たちのチームの仕上がり具合だけでなく、対戦相手の状態とも直接関係する。
聞くところでは、関西学院大学の課外活動に対する制約は、他のチーム以上に厳しく、チームとしての練習もそれを反映して大きく出遅れているそうだ。
しかしそれでも、シーズンが始まれば、そうした環境・条件の違いは言い訳にならない。用意!ドン!と笛が鳴れば、一斉にスタートを切らなければならない。目の前の勝利をつかむために全力で挑んで来る相手に必ず勝ち続けなければならない。その条件はどこまで整ったのか。
僕の感想を言えば、昨年のシーズンをグラウンドで戦ったメンバー(交代出場のメンバーを含む)と、それ以外のメンバーとの間には、正直言って見た目以上の落差がある。キッキングチームを含め、攻守ともにチームとしての練習がほとんどできていないのだから仕方がないといえばそれまでだが、メンバーがそろっている割には、チームとしての完成度が低い。こういう完成度の低さで目の前に迫った試合を戦い切れるのかという不安がつきまとう。
攻撃でいえばパスも通るし、ランも出る。何より昨年の戦いを経験し、大活躍したメンバーがQBをはじめRB、WR、そしてOLそれぞれに存在し、チームをリードしている。何度も大きな舞台を経験し、苦しい思いもうれしい思いも人一倍味わっているメンバーが全員、大きなけがもなく練習を続けているのは、本当に心強い。
守備陣も同様だ。昨年の関西代表決定戦から甲子園ボウル、ライスボウルと華やかな舞台で活躍してきたメンバーには、そこで得た自信がある。彼ら全員が自分の持てる力を発揮できれば、そうそう大きな崩れは見せないだろう。
けれども、それに続くメンバーがどれだけ成長したのか。キッキングのメンバーを含めて、それぞれのポジションで今春卒業したメンバーの穴を埋めることができるかどうか。もちろん練習では、鮮やかなタックルも決まるし、ボールをはたき落とすこともできる。しかし、時には信じられないミスが出ることもある。
今春入部した1年生を含めて、本来ならこの半年間に相当実力をアップしているはずの2枚目、3枚目のメンバーがどこまで仕上がっているか。僕が勝手に推測するのは、そうしたメンバーの仕上がり具合が勝敗を分けるということだ。
アメフットはチームスポーツ。攻守ともにグラウンドに出ている11人(キッキングチームでは、その時フィールドに出ている全員)がそれぞれの役割を完璧に果たしてこそ勝利への道が見えてくるスポーツである。同時に試合中、しばしばけがが発生するスポーツでもある。交代メンバーの層の厚さを抜きにして勝利はおぼつかない。
もちろん、実戦の感覚がつかめていないのは、相手チームも似たような状況であろう。問題は、試合までに残された時間に、自分たちの状況をどれだけ好転させていけるかどうかにかかっている。
幸いなことに、チームには昨年、1昨年と先発メンバーとして試合経験を積んできたメンバーが何人もいる。彼らを中心に泥臭く努力し、必死懸命に取り組んでいくことだ。上級生が本気になれば、後輩たちも奮い立つ。そこから下級生たちも実戦の感覚を身に付け、試合で活躍できるようになっていく。
そういう姿が見られることを切望しながら18日を待ちたい。
ファイターズの初戦は18日。本拠地ともいえる神戸の王子スタジアムで同志社を相手に戦う。観客は入れず、スタンドからの応援もない中での試合であり、負ければそれでシーズンが終わる。リーグ始まって以来の事態であり、過去のどの世代も経験したことのない戦いとなる。
その戦いにどう臨むのか。チームの状態をどのように盛り上げていくのか。その前に、春季は試合はおろかチームとしての練習も禁じられていた中で、チームの状態はどこまで上がっているのか。昨年度の4年生が抜けた穴をどのように埋めるのか。先発メンバーだけでなく交代メンバーの仕上がり具合はどうなっているのか。
ファンにとっては、気にかかることが山積しているはずだ。もちろん、試合は自分たちのチームの仕上がり具合だけでなく、対戦相手の状態とも直接関係する。
聞くところでは、関西学院大学の課外活動に対する制約は、他のチーム以上に厳しく、チームとしての練習もそれを反映して大きく出遅れているそうだ。
しかしそれでも、シーズンが始まれば、そうした環境・条件の違いは言い訳にならない。用意!ドン!と笛が鳴れば、一斉にスタートを切らなければならない。目の前の勝利をつかむために全力で挑んで来る相手に必ず勝ち続けなければならない。その条件はどこまで整ったのか。
僕の感想を言えば、昨年のシーズンをグラウンドで戦ったメンバー(交代出場のメンバーを含む)と、それ以外のメンバーとの間には、正直言って見た目以上の落差がある。キッキングチームを含め、攻守ともにチームとしての練習がほとんどできていないのだから仕方がないといえばそれまでだが、メンバーがそろっている割には、チームとしての完成度が低い。こういう完成度の低さで目の前に迫った試合を戦い切れるのかという不安がつきまとう。
攻撃でいえばパスも通るし、ランも出る。何より昨年の戦いを経験し、大活躍したメンバーがQBをはじめRB、WR、そしてOLそれぞれに存在し、チームをリードしている。何度も大きな舞台を経験し、苦しい思いもうれしい思いも人一倍味わっているメンバーが全員、大きなけがもなく練習を続けているのは、本当に心強い。
守備陣も同様だ。昨年の関西代表決定戦から甲子園ボウル、ライスボウルと華やかな舞台で活躍してきたメンバーには、そこで得た自信がある。彼ら全員が自分の持てる力を発揮できれば、そうそう大きな崩れは見せないだろう。
けれども、それに続くメンバーがどれだけ成長したのか。キッキングのメンバーを含めて、それぞれのポジションで今春卒業したメンバーの穴を埋めることができるかどうか。もちろん練習では、鮮やかなタックルも決まるし、ボールをはたき落とすこともできる。しかし、時には信じられないミスが出ることもある。
今春入部した1年生を含めて、本来ならこの半年間に相当実力をアップしているはずの2枚目、3枚目のメンバーがどこまで仕上がっているか。僕が勝手に推測するのは、そうしたメンバーの仕上がり具合が勝敗を分けるということだ。
アメフットはチームスポーツ。攻守ともにグラウンドに出ている11人(キッキングチームでは、その時フィールドに出ている全員)がそれぞれの役割を完璧に果たしてこそ勝利への道が見えてくるスポーツである。同時に試合中、しばしばけがが発生するスポーツでもある。交代メンバーの層の厚さを抜きにして勝利はおぼつかない。
もちろん、実戦の感覚がつかめていないのは、相手チームも似たような状況であろう。問題は、試合までに残された時間に、自分たちの状況をどれだけ好転させていけるかどうかにかかっている。
幸いなことに、チームには昨年、1昨年と先発メンバーとして試合経験を積んできたメンバーが何人もいる。彼らを中心に泥臭く努力し、必死懸命に取り組んでいくことだ。上級生が本気になれば、後輩たちも奮い立つ。そこから下級生たちも実戦の感覚を身に付け、試合で活躍できるようになっていく。
そういう姿が見られることを切望しながら18日を待ちたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 06:34| Comment(1)
| in 2020 Season
2020年10月04日
(3)空白の半年を埋めよう
この一カ月、週末ごとに上ヶ原の第3フィールドを訪れ、ファイターズの練習を遠くから眺めている。そのたびに、新型コロナウイルスの感染が広がったこの社会の変容に思いを馳せ、それが大学生活や課外活動に与えた影響の大きさを実感する。
第一に、例年なら大学の後期試験が終わった後、2月から新しいチームがスタートし、「虎の穴」とも形容される千刈キャンプ場でのトレーニング合宿などが進んでいたが、3月には学内スポーツセンターで予定されていた二度の合宿が中止となった。4月になって大学への立ち入りが禁止され、チームとしての活動はすべてストップ。練習はおろかミーティングもできなくなった。
6月下旬から練習が再開されたが、1日に1時間、グラウンドに入れるのは20人以内という条件付き。部員同士が距離をとってのフィールドトレーニングだけ。
いつもの年ならこの時期には関東のチームとの交流戦や社会人との試合が組まれ、JV戦も3試合程度は組まれる。その間、グラウンドでの練習がない日には、パートごと、あるいは全体でミーティングの時間を持ち、練習や試合のビデオを見て、それぞれのプレーの精度を高める工夫もする。新しく入部した1年生もそうした機会を通じて徐々にファイターズというチームになじみ、その文化を吸収していく。
その仕上げになるのが東鉢伏高原での夏合宿であり、チームはそこで骨格を整えて秋のシーズンを迎える。
しかし、今年はその機会がすべて失われた。体力・技術・精神面を含めたチームの土台作りが不十分なまま秋のシーズンを迎えなければならないのである。
7月には再び活動が止まり、8月1日から練習が再開されたが、人数制限が維持され、人と人が接触する練習は禁止といった限定付きでそれでだけではできることは限られている。学内の食堂なども閉鎖されていたから、日々の食事にも苦労した。
ようやく8月も下旬になって、徐々に練習の機会が増え、9月23日に授業が再開されてからはほぼ例年通りの練習ができるようになったが、この半年間のブランクは大きい。
それは、グラウンドでの部員の動きを見れば、即座に分かる。昨年の秋、あの厳しい関西リーグを戦い、立命館との決戦を制して甲子園の舞台に立ち、さらには東京ドームで社会人代表と戦ったメンバーたちの姿がやたらと目立つのだ。逆の言い方をすれば、新しいメンバーの台頭が見えてこないということである。今季のチームは、昨年卒業した4年生を欠いたままの戦力で、戦いに挑まなければならない可能性がある。
試合を想定したチーム練習になると、それはさらに明確になる。キッキングの練習でも同様だ。チームとしての練習量が決定的に少ないのだから、ミスも出る。当然と言えば当然だろうが、例年、この時期には春のシーズンを通して急激に伸びてきた選手がけっこう目に付くのに、今年はそれが少ない。
大量に入部した1年生には、素人目に見ても有望な選手が何人もいる。けれども、彼らにはまだまだ先輩に対する遠慮が見える。僕のような「観客席の人間」でさえ素晴らしい才能を感じ、実際に1年生とは到底思えないようなプレーができていても、大学での試合を経験していないせいか、なんとなく「お客さん」という感じがしてしまうのである。
本来なら、こうした1年生も春のJV戦から出場の機会をつかみ、そこで堂々のアピールをしてチームに溶け込み、今頃は名実ともに試合に出るのが当たり前となっていたはずなのに、今年はその機会が失われている。そこがつらい。
今季はリーグ戦でなくトーナメント。負ければ終わりの一発勝負である。そこでどれだけ新しい戦力が活躍できるか。と言うよりも、学年に関係なくそうした選手の台頭なしには今季は戦い切れないだろう。
開幕までの時間は限られている。だからこそ、昨年活躍したメンバーを追い抜いて活躍してやると心に誓い、努力してくれる選手の登場を待ちたい。新しく入部したメンバーも遠慮は無用。自らの才能を信じて努力を重ね、戦列に加わってもらいたい。ここからが本当の勝負である。一所懸命。努力で空白の半年を埋めようではないか。
第一に、例年なら大学の後期試験が終わった後、2月から新しいチームがスタートし、「虎の穴」とも形容される千刈キャンプ場でのトレーニング合宿などが進んでいたが、3月には学内スポーツセンターで予定されていた二度の合宿が中止となった。4月になって大学への立ち入りが禁止され、チームとしての活動はすべてストップ。練習はおろかミーティングもできなくなった。
6月下旬から練習が再開されたが、1日に1時間、グラウンドに入れるのは20人以内という条件付き。部員同士が距離をとってのフィールドトレーニングだけ。
いつもの年ならこの時期には関東のチームとの交流戦や社会人との試合が組まれ、JV戦も3試合程度は組まれる。その間、グラウンドでの練習がない日には、パートごと、あるいは全体でミーティングの時間を持ち、練習や試合のビデオを見て、それぞれのプレーの精度を高める工夫もする。新しく入部した1年生もそうした機会を通じて徐々にファイターズというチームになじみ、その文化を吸収していく。
その仕上げになるのが東鉢伏高原での夏合宿であり、チームはそこで骨格を整えて秋のシーズンを迎える。
しかし、今年はその機会がすべて失われた。体力・技術・精神面を含めたチームの土台作りが不十分なまま秋のシーズンを迎えなければならないのである。
7月には再び活動が止まり、8月1日から練習が再開されたが、人数制限が維持され、人と人が接触する練習は禁止といった限定付きでそれでだけではできることは限られている。学内の食堂なども閉鎖されていたから、日々の食事にも苦労した。
ようやく8月も下旬になって、徐々に練習の機会が増え、9月23日に授業が再開されてからはほぼ例年通りの練習ができるようになったが、この半年間のブランクは大きい。
それは、グラウンドでの部員の動きを見れば、即座に分かる。昨年の秋、あの厳しい関西リーグを戦い、立命館との決戦を制して甲子園の舞台に立ち、さらには東京ドームで社会人代表と戦ったメンバーたちの姿がやたらと目立つのだ。逆の言い方をすれば、新しいメンバーの台頭が見えてこないということである。今季のチームは、昨年卒業した4年生を欠いたままの戦力で、戦いに挑まなければならない可能性がある。
試合を想定したチーム練習になると、それはさらに明確になる。キッキングの練習でも同様だ。チームとしての練習量が決定的に少ないのだから、ミスも出る。当然と言えば当然だろうが、例年、この時期には春のシーズンを通して急激に伸びてきた選手がけっこう目に付くのに、今年はそれが少ない。
大量に入部した1年生には、素人目に見ても有望な選手が何人もいる。けれども、彼らにはまだまだ先輩に対する遠慮が見える。僕のような「観客席の人間」でさえ素晴らしい才能を感じ、実際に1年生とは到底思えないようなプレーができていても、大学での試合を経験していないせいか、なんとなく「お客さん」という感じがしてしまうのである。
本来なら、こうした1年生も春のJV戦から出場の機会をつかみ、そこで堂々のアピールをしてチームに溶け込み、今頃は名実ともに試合に出るのが当たり前となっていたはずなのに、今年はその機会が失われている。そこがつらい。
今季はリーグ戦でなくトーナメント。負ければ終わりの一発勝負である。そこでどれだけ新しい戦力が活躍できるか。と言うよりも、学年に関係なくそうした選手の台頭なしには今季は戦い切れないだろう。
開幕までの時間は限られている。だからこそ、昨年活躍したメンバーを追い抜いて活躍してやると心に誓い、努力してくれる選手の登場を待ちたい。新しく入部したメンバーも遠慮は無用。自らの才能を信じて努力を重ね、戦列に加わってもらいたい。ここからが本当の勝負である。一所懸命。努力で空白の半年を埋めようではないか。
posted by コラム「スタンドから」 at 18:34| Comment(3)
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