2019年10月30日

(26)堅い守りと一瞬の攻め

 27日、満員の王子スタジアムであった関西大学との試合を一言で表せば「固い守りと、一瞬の攻め」といってもよいのではないか。それほど守備陣の健闘が目立った試合であった。攻撃陣もその固い守りに支えられ、鮮やかな決め技を見舞って勝ち切った。
 前半、先攻のファイターズは、パスが通ればランが進まず、ランが進んでも、肝心の第3ダウンショートが取り切れない。陣地は進めているのに、TDに持ち込めず、フィールドゴール圏内にも進めない。あげくの果てに、相手パントの処理を誤って、ゴール付近からの攻撃に追いやられる。そんなもどかしい場面が2度、3度と続く。
 並のチームなら、そんな攻撃が続けば、守備陣にも悪い影響が出てくるのに、この日の守備陣はひと味違った。ディフェンスラインの中央を寺岡、藤本ががっちり固め、両サイドの板敷や大竹が遠慮なく相手QBに襲いかかる。それに呼応してLBの繁治、海崎、アウトサイドLBの北川が狙い澄ましたようにボールキャリアに襲いかかる。最後の砦となるDB畑中は、強烈なタックルを連発する。
 立命に勝って勢いに乗る関大のオフェンスも、これでは陣地が進められない。結局、前半は互いに決め手がないまま0−0でハーフタイム。
 後半になると、ファイターズ守備陣がさらに勢い付く。第3Qでは相手に一度もダウンを更新させず得点を許さない。その間に、ファイターズは安藤のFGで3点を先取する。
 しかし、好事魔多し。第4Q早々、安藤のパントが短く、相手にゴール前40ヤード付近からの攻撃を許してしまう。ここでも守備陣が頑張ったが、1本のパスでダウンを更新され、あげくにFGで同点にされてしまう。
 やっかいな試合になったなあ、と思った瞬間、今度は攻撃陣が切れ味の鋭い攻めを見せる。最初はQB奥野。第3ダウンロングの状況で相手がパスを警戒した瞬間、一気に15ヤードを走ってダウン更新。続く自陣46ヤードからの攻撃も第3ダウン8ヤード。今度はWR糸川に地面すれすれにパスを投げ、それを糸川が好捕して再びダウン更新。
 ようやく相手ゴール前41ヤード。しかし、相手に押し込まれ、またまた第3ダウンロング。今度はRB三宅が持ち前のスピードで中央を抜けて26ヤード。一気に相手ゴール前14ヤードまで攻め込む。続く攻撃は再びRBのラッシュ。小柄な斎藤が上手く中央を抜けてゴール前5ヤード。
 このあたり、ようやくランアタックが機能して、押せ押せムードになってくる。残り5ヤードも、一気にランプレーで押し切ると思った瞬間、ベンチが選択したのは、奥野からWR阿部へのパス。ゴール右サイドに走り込んだ阿部に見事なパスが決まりTD。安藤のキックも決まって7点をリードする。
 こうなると、守備陣も勢いづく。相手陣35ヤードから始まった最初のプレーで、LB繁治が10ヤードのQBサック。さらにもう一人のLB海崎が相手パスをカットするなどして相手を完封。相手ゴール前25ヤードという絶好の位置で攻撃権をファイターズにもたらす。最終盤になって攻守がかみ合い、押せ押せムードのファイターズ。
 その勢いに乗せられたのか、続くファイターズの攻撃では、RB鶴留が一気に25ヤードを走り切ってTD。今季、パワーバックとして、相手が密集したポイントに突き刺さるようなラッシュをかけ続けた男が、この大一番で奪った止めのTDである。身長168センチ、体重89キロ。ベンチプレス152.5キロ、スクワット225キ
ロ。歴代のパワーバックの中でも、突き抜けたパワーとスピードを誇る突貫小僧がその存在感を見せつけた。
 このように試合を振り返って見ると、前後半を通じて固い守りでゲームを作ったのが守備陣であり、最終盤、一瞬の隙を突いて立て続けにTDを挙げたのが攻撃陣であることがよく分かる。
 それはこの試合の記録を見ても明らかである。総獲得ヤードはファイターズが310ヤード。内訳はランが139ヤード、パスが180ヤード。それに対して関大はランがマイナス8ヤード、パスが98ヤード。QBサックは計4回で、内訳は繁治10ヤード、板敷8ヤード、今井5ヤード、大竹4ヤード。インターセプトは竹原が1回記録している。
 試合後、守備の要として復帰した寺岡主将が「正直、ディフェンスやっていて負ける気はしなかった。いいリズムで抑えられたと思う」といっていたのも、正直な感想だろう。
 攻撃陣も、常に深い位置からの攻撃を強いられながら、オフェンスラインが踏ん張り、粘りに粘って我慢の攻撃を続けた。そしてQB、RB、WRが互いに協力して、ここぞというときにたたみかけた。その切れ味は、昨年より一段と鋭くなっているように僕には思えた。
 この勢いを続く立命戦でも見せてもらいたい。なんせ相手はアニマルと呼ばれるチームである。どこに隙があるのか、どういう切り崩し方が可能なのか。分析スタッフも含め、チームの総力を挙げて対策を練り、戦術を磨いてもらいたい。まだ時間は残されている。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:52| Comment(2) | in 2019 Season

2019年10月22日

(25)指導者の哲学

 先月発行されたファイターズOB会報「Fight On」103号のトップ記事は、今季限りで退任される鳥内監督へのインタビューである。
 聞き手は朝日新聞スポーツ部の大西史恭記者。2007年度卒業のOBであり、甲子園ボウルであの日大に41−38で勝利し、ライスボウルでも史上最高のパスゲームを展開したチームのキッカーである。
 監督の退任を前に、監督の指導を受けて社会に巣立ったOB・OGたちから「最後に何か聞いておきたいことはないか」と質問を募り、集まった質問を基に監督にインタビューして絶妙の記事にまとめている。本来はファイターズのOBだけを読者に想定した会報だが、その一問一答があまりに面白い。ぜひ、このコラムでも紹介させてもらいたいと、監督と大西記者に頼み、その了解が得られたので、そのエキスを抜粋して紹介する。
 ……監督人生の中で最も記憶に残っている良かったプレーは。
 「ないねん。勝ったことより負けたことが残ってるねん。絶対に。いかにスポーツはメンタルが大事かってこと」
 ……唯一、ライスボウルに勝った試合のプレーはどうでしょうか。
 「一生(榊原、TE・K)のやつ(筆者注・2001年、ライスボウルの第2Q,第4ダウン3ヤードの場面で、パンターを務めた榊原がパントを蹴るふりから中央に突っ込み、DLをはじき倒してダウンを更新、一気に流れを引き寄せたプレー)もな、勝手にやれって言うてるねん。行けそうやったら行けって。でも、あれで行くかと思ったけど。まだ、大分残ってたらからな」
 ……良かったこと、何か絞り出してください」
 「なんやろう…石田力哉のLB作戦やな。なんでもできるやつはやらせたらええねんってことよく分かったわ」
 ……良かった試合もないですか。
 「うーん、ないな。いや、勝って当たり前でやってるやん。勝って当たり前やから、良かったとかちゃうねん」
 ……日々の癒やしはなんですか。
 「酒飲んで、寝てる。気分転換やな。ずっとおったら考えてしまうねん。大村にも寝れるかと聞いたことあんねん。小野も堀口も、大寺も神田も、責任者はみな寝られへんと思うで。香山も同じやと思う」
 ……自分をどういう性格だと思っていますか。
 「ずる賢くなかったら、やってられへん。スポーツはみな、そうやねん。だましあいやってんねんから」「俺は周りを気にしてない。気にしたら、やってられへん。どう見られるか、って行動なんかしてない。なんかあれば言うてきたらええやん、と」
 ……4年生との個人面談について。
 「目見て話さな分からへん。心の中まで知りたいなら、目見て話さな分からへんで」
 ……勝ち続ける秘訣は。
 「秘訣ちゃうねん。毎年毎年、勝ちたいねん。それだけのことや。毎年、俺らも甲子園出たいという4年生の気持ちが長い歴史につながってるねん。OBの歴史を自分が一緒に背負っていった時に初めてパワーくれるねん。これはよそのチームにないこと。俺もファイターズやねん。俺の代では負けるわけにはいけへんねん、というだけのことや」
 ……今後のファイターズにどうなってほしいか。
 「このまま勝っていってほしい。それと同時に、どんな人間をつくっていくのか。勝つためにはリーダーになれる人材を育てないとあかん。フットボールというツールを使いながら、そいつの人間的成長を手助けしてあげるだけや。社会に迷惑をかけへん。社会に役立つ人間を育てる。それが世界で活躍する。世界に目を向けてやってほしいな」
 ざっとこんな話である。途中、はしょったところもあるが、鳥内さんの指導者としての哲学が随所に表れている。選手として、監督から直接の指導を受けた記者ならではのインタビューであり、内輪を良く理解している取材記者だからこそ、監督も心を開いて答えていることが良く分かる。
 監督として27年、その前のコーチの時代から数えれば34年にも及ぶ指導者生活。その中には、監督として学生の成長を手助けするだけでなく、高い能力を有した何人ものOBをチームに迎え入れてチームを強化し、同時にファイターズという組織を運営するための人材を育ててきた歴史も含まれる。
 そこに一貫しているのが、勝ちたいのは選手であり、監督やコーチはそれを手伝うだけ、という哲学であろう。それが最後の「フットボールを通じて、その人間的成長を手助けしてあげるだけや」という言葉に集約されている。
 主役はあくまでファイタ−ズの部員。その勝ちたいという気持ちが本物か否か。今季の天下を分ける戦いは目前に迫っている。
posted by コラム「スタンドから」 at 14:16| Comment(2) | in 2019 Season

2019年10月16日

(24)努力は報われる

 13日の日曜日、台風が通り過ぎた後の王子スタジアムで、久々に「パスの関学」のすごさを見せてもらった。
 驚いたのがファイターズ最初の攻撃。自陣29ヤードから始まったシリーズの第1プレーがQB奥野からWR鈴木へのロングパス。それが見事に決まって71ヤードのTD。長い間、ファイターズの試合を見てきたが、こんな場面の一部始終を現場で目撃したのは初めてだ。投げる方も思い切りよく投げたが、受ける方も完璧。奥野の速くて正確なパスをいつも練習を共にしている鈴木がトップスピードでキャッチし、そのままの勢いで相手デフェンスを抜き去った。
 次の攻撃シリーズ。今度は4年生のWR阿部が見せる。同じく奥野が攻撃側から見て右のゴールラインに走り込む阿部に投じた30ヤードのパスが見事にヒット。今度はキャッチと同時に審判の両手が上がってTD。安藤のキックも決まって14−0と引き離す。
 守備の第一列には、この1年間、けがで休んでいた主将の寺岡が戻り、藤本や板敷らも復帰して、ようやく本来の先発メンバーがそろってきた。LBにも前回は休んでいた海崎が戻って、繁治との二枚看板がそろう。DBも副将、畑中を中心にほぼメンバーが固定され、守備陣の全体が引き締まってきた。立ち上がりこそ、近大に16ヤードを走られたが、あとはダウンを更新されることもないままリズムよく守り、攻撃権を取り戻す。
 守備陣が安定すると、攻撃陣にもリズムが出てくる。ファイターズ3度目の攻撃シリーズでは、今季初登場のRB渡邊が元気に走り、RB三宅もスピードに乗った走りを見せる。相手守備陣がランプレーを警戒した瞬間、今度は阿部への短いパスでダウンを更新。相手ゴール前27ヤードと迫ったところで、続けて阿部へのパス。その前のTDパスとほとんど同じコースだったが、余裕でキャッチしてTD。第1Qだけで21−0と引き離す。
 第2シリーズに入っても守備陣の動きは素早い。相手キッカーが蹴ったパントをブロックし、相手攻撃陣に自陣2ヤードからの攻撃を強いる。相手はこの危険地帯から懸命に抜け出そうとするが、そうはさせないのがこの日のファイターズディフェンス。相手ゴール内でパントをブロックし、セイフティで2点をもぎ取る。
 しかし攻撃陣はここからがピリッとしない。大量にリードしながら、相次ぐ反則でリズムを失い、なかなか決め手がつかめない。ずるずると後退する場面が続いたが、これを食い止めたのが、奥野と三宅の3年生コンビ。奥野が投げた短いパスを三宅がハーフラインを過ぎたあたりでキャッチ。即座に加速して一気に相手ディフェンスを抜き去る。スピードとパワーを兼ね揃えた独走TDに結びつけた。
 場内で開設しているファイターズのミニFM局を担当している小野ディレクターが「三宅君は今季、一段とスピードが上がりましたね」と解説されていたが、まさにその通り。OLが開いたピンポイントの隙間を抜けた瞬間、トップスピードに乗って走る姿は、昨季のエースランナー、山口君を思わせる迫力がある。この日、ランとパスレシーブで154ヤードを記録したのも、そのスピードがあってこそとうなずける。
 得点は第3Q半ばまでに37−0。そこからファイターズがどんどん2枚目、3枚目の選手を投入する。故障などでずっとベンチを離れていた選手もいるし、今後の活躍が期待される1、2年生もいる。その中で、僕が注目していたのは、寺岡主将と同様、けがで1年以上も戦列を離れていたDB吉野と、これも出場機会が激減していた4年生DLの今井。
 吉野は守備について間もなく、値千金のインターセプトTDを決めたし、今井君も鋭い出足で相手を吹き飛ばす。ともに4年生、最後のシーズンにかける思いの詰まったプレーで期待に応えてくれる。試合に出られない苦しさに耐え、黙々と練習をしてきた成果でもあろう。まだまだ本調子ではないかも知れないが、これから続くライバルとの戦いに、経験豊富な二人が戻ってくれば、大いに期待が持てる。
 二人に限らない。この日、立ち上がりから目の覚めるようなプレーを連発したQB奥野、WR阿部と鈴木。地味な存在ながら、与えられた役割を確実に果たしたQB兼パンター兼ホールダーの中岡。そしてK安藤。彼らはチーム練習の始まる2時間も前からグラウンドに現れ、営々とパスを投げ、キャッチし、ボールを蹴っているメンバーである。全体の練習が始まる頃には、もう一仕事終えた状態と言ってもよいほどだが、もちろんチーム練習も一切手を抜くことなく、誠実に務める。
 オフェンス、ディフェンスの上級生メンバーも同様だ。何度も何度も実戦を想定した動きを反復し、より速く、より強く当たることに集中している。そういう背景を持った面々が試合で活躍する。「練習は裏切らない」という言葉を実感した試合だった。
 一方で、この試合でも続出した反則もまた、練習時から少なからず起きている。練習時と同じメンバーが実戦でも同じ反則を犯すというのもまた、別の意味で「練習は裏切らない」という言葉の表れである。
 リーグ戦は、これからの2試合が勝負である。熱と魂のこもった練習に取り組み、悔いなく戦える準備をしてもらいたい。そして、よい意味での「練習は裏切らない」を実証してもらいたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 06:07| Comment(4) | in 2019 Season

2019年10月07日

(23)うれしいニュース

 今週のファイターズホームページのトップに、二人の選手が登場している。3年生のOL高木慶太君とRB三宅昴輝君である。二人が並んで“表紙”を飾っているのを見て、僕は特別の感慨を覚えた。
 どういうことか。実は二人とも僕が今春まで、関西学院大学で受け持っていた「文章表現論」を過去に受講した学生であり、共に書く回数を重ねるたびに、文章を書く力が伸びていったことを記憶しているからである。
 僕は朝日新聞を定年で退職して以降、ずっと和歌山県田辺市にある紀伊民報で新聞記者をしている。その傍ら、関学でも10年以上前から今春まで、非常勤講師として「文章表現論」という講座を担当。学生たちに文章を書くことについて、現場からのアドバイスをしてきた。
 自分で言うのも何だが、結構な人気講座で、毎学期ごとに定員の4〜5倍の受講申し込みがあり、抽選で定員一杯の受講生を選んでいた。
 この3年間、現役の部員で受講してくれたメンバーには、4年生では寺岡主将をはじめマネジャーの安在君、OL川部君、DL藤本君、RB渡邊君、LBの藤田優貴君と田中君、DBの山本君と久下君といった名前が思い浮かぶ。3年生になると、上記の二人のほか選手ではWR高木宏規君、RB鶴留君、スタッフでは井上君、末吉君、島谷君、前川君。そして2年生の荻原さん。ほかに高等部や中学部、啓明学院でコーチをしているメンバーも数人が受講していた。
 一般の受講生を含めて出席率は高く、回を重ねるごとにそれがさらに高くなって行くのが、僕にとってはささやかな自慢だった。ファイターズの部員も、最近受講した面々は出席率もよく、毎週書き上げる800字の小論文の内容も、回を重ねるごとに上達していった。それもまた、僕にとってはうれしいことだった。
 一般の受講生の中には、毎回、信じられないほど上手な文章を書く学生がいたし、半面、書くことがまったく苦手という受講生も少なくなかった。60分という制限時間に800字の文章がまとめきれない学生もいたし、内容はいま一歩でも、なんとか頑張って書き上げる学生もいた。
 それは、ファイターズの諸君も同様で、いま名前を挙げた部員の中にも、書くことに苦しむ部員は何人もいた。
 しかし、素晴らしいのは、上記の諸君のうち、誰一人として「今日は書ききれません」と音を上げたことがなかったことだ。急なミーティングで欠席することはあっても、次の回には必ず欠席した日の課題を仕上げて提出したし、今春卒業したWR小田君のように、60分の制限時間内に2回分の小論文を一気に仕上げる猛者もいた。
 そうした受講生の中で、とりわけ僕が目を見張ったのが最初に紹介した三宅君と高木君、そしてWRの高木君だった。寺岡主将も含め、彼らは毎回、特別の輝きはないけれども、愚直な生活態度と考え方に裏付けられた文章を仕上げてくれた。その文章を読ませてもらうたびに「こういうきまじめな文章が書けるのは、部活も含めて、日々の生活が充実しているからに違いない」と確信していた。
 そうした見方、考え方は、グラウンドに出掛けて彼らの練習に対する取り組みを見ているときにも、頭から離れなかった。今回、彼ら二人が並んでホームページの“表紙”を飾り、チームの仲間からも彼らの取り組みが評価されているのを見て、特別の感慨を持ったのは、そういう事情が背景にあるからだ。
 ファイターズは、全国に聞こえたフットボールの名門である。それは過去の先輩たちが築いてきた名声であり、それを連綿と受け継いできた後輩たちが毎年の厳しい戦いを乗り越えて繋いできたバトンである。
 けれども、それが高く評価されるのは、運動競技のプロとしてではなく、本来の意味での大学の課外活動として取り組んできたからであり、だからこそ現役の学生、コーチらは日々「文武両道」を目指して活動しているのである。
 その「文」の面での取り組みを指導する側から評価してきた選手が「武」の面でもチームから高い評価を受けている。彼らの「文」の一端を知っている僕にとっては、それがなによりもうれしいのである。
posted by コラム「スタンドから」 at 23:37| Comment(4) | in 2019 Season

2019年10月02日

(22)記憶に刻む場面

 9月29日の夜、神戸大学との試合が終わった後のことである。双方の応援団によるエールの交換が終わり、選手全員がサイドライン際に整列して応援席に向って深々と頭を下げ、寺岡主将が「本日は応援ありがとうございました」とお礼を述べた。
 ここまでは、普段と同じ光景だったが、この日はこれだけでは終わらなかった。寺岡主将の「ハドル」というひと声で、選手全員が集まり、ハドルを組んだ。いわば公式のあいさつ、セレモニーを終えた後、今度はチームの全員でこの日の試合をどのように総括し、今後、どのようにチームをつくりあげて行くのかと全員に問い掛けたのである。
 中央で、しばらく全員を見つめ、黙って噴き出る汗と涙をぬぐう主将。それはたったいま、味わった苦しい現実を受け止め、自らを落ち着かせ、語るべき言葉を探すための時間であったのだろう。守備の要を担うプレーヤーとして、グラウンドで苦しむ仲間を奮い立たせたいと願いながら、けがでグラウンドに立てなかった悔しさをかみしめる時間でもあっただろう。
 やがて顔を上げ、チームの全員に語りかける主将の表情が僕の目に焼き付いている。その言葉、決意もハドルの後ろで聞かせてもらったが、僕にはその言葉よりも、彼の苦しみに満ちた表情が全てを語っているように思えた。
 主将を注視し、彼が腹の底から絞り出す言葉を聞いている選手も、多分、同じ思いだったのではないか。試合に出て背中でチームを引っ張ることのできない主将をここまで追い詰めてはならない。これ以上、主将を苦しめてはならない。自分のやれることは全てやろう。やれなかったことにも全力で取り組み、今度は主将の気持ちに答えてみせる。そんなことをチームの全員が自分に誓った時間であったと、僕は思いたい。
 試合は、攻守とも存分にファイターズを研究し、自分たちの長所を最大限に発揮するためのプレーを準備してきた神戸大にいいように振り回された。
 立ち上がりは、ファイターズペース。守備は相手攻撃を完封し、攻撃陣もいきなりRB三宅が23ヤードを走る。続いてQB奥野からWR鈴木へのパス。わずか2プレーで相手陣24ヤード。そこからRB三宅、斎藤が走ってゴール前10ヤードに迫る。
 しかし、ここから手痛いミス。奥野からWR阿部へのパスが相手に奪われ、攻守交代。せっかくの先制機を自ら手放してしまう。
 守備陣もやることがちぐはぐだ。せっかく2年生DB竹原が鋭い出足で相手QBをサックしたのに、上級生がつまらない反則をしてリズムを崩す。彼は、前回の京都大学との試合でも、素晴らしいプレーを見せたが、その際にも同じようなアクションをしており、首脳陣から注意を受けたばかり。こんなことを続けていると、チームはバラバラになるぞ、と懸念が募る。
 それでもこの場面は、守備陣の奮闘で何とかしのぎ、再び、ファイターズの攻撃。2Qに入って最初のプレーで奥野がWR糸川に14ヤードのパスを決めて相手陣45ヤード。そこから斎藤が45ヤードを独走してTD。K安藤のキックも決まって7−0。ようやくファイターズが先制に成功する。
 しかし、この日の相手は、動きに自信がある。自分たちのやってきたことを信じて、攻守ともに確信を持ったプレーを展開。攻撃が進まない場合でもパントもファイターズ陣奥深くまで蹴り込んで陣地を挽回する。
 逆に、ファイターズは思うような試合展開にならず、次第に浮き足立ってくる。何とか窮地を抜け出したいと焦ったQBの反則もあってセーフティーをとられ、7−2。勢いづいて神戸は意表を突くスクリーンパスなどで陣地を進め、仕上げは48ヤードのTDパス。8−7と逆転し、前半終了。
 後半に入っても神戸の勢いは衰えない。攻守とも思い切ったプレーを連発してファイターズの面々を振り回す。逆に、ファイターズの攻撃は手詰まりになっていく。
 ようやく3Qも半ばとなったあたりで奥野から阿部へのパスが2本、立て続けに通る。仕上げはWR鈴木への23ヤードパス。これが決まって14−8。奥野は、最も信頼している二人に確信を持ったパスを投げ、ピンポイントで投げ込まれた速いパスを阿部と鈴木が確実に確保する。上ヶ原の練習時に取り組んでいるプレーをそのまま再現したコールであり、僕は思わず「練習は裏切らない」と独り言をいっていた。
 それでも結果は17−15。相手にフィールドゴールを決められたら、そのまま逆転負けという辛勝である。
 自らのミスで墓穴を掘り、傲慢な態度で相手に付け入る隙を与える。それを食い止めるのが経験を積んだ上級生の役割だが、それも十分に機能しない。監督が試合後、思わず口にされた「普段からチーム全員が甘いねん。4年生があれだけおって、半分以上が足を引っ張っとる」という言葉通りの試合内容に、チームを率いる主将も、悔しさがこみ上げたに違いない。
 この悔しさをどれだけの部員が共有し、新たな戦いへのエネルギーとしていくか。ポイントはそこにある。
 試合後、寺岡主将が涙をこらえ、声を振り絞って訴えた言葉を、チームの全員が「わがこと」と出来るかどうか。「わがこと」と受け止めた部員が、それをどのように行動に表し、練習に取り組み、試合で実現するか。
 勝負はこれからだ。ファイターズの名簿に名前を連ねているのは伊達ではない。チームの全員が火の玉になって取り組んでくれることを願っている。
posted by コラム「スタンドから」 at 15:08| Comment(5) | in 2019 Season