2019年06月24日

(12)「僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう」

 しばらく前に『僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう』(文春新書)という本を読んだ。朝日歌壇の選者なども務める歌人で、京都大学名誉教授でもある永田和宏さんが、勤務先の京都産業大学に4人の知識人を招いて講演してもらい、その講演内容と、その後の対談を記録した本である。難しい内容をやさしく語り合った刺激的な本であり、大いに触発された。
 永田さんが対談相手に選んだのはノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥さん、将棋の羽生善治さん、映画監督の是枝裕和さん、そして京大総長の山極壽一さん。それぞれの専門分野で頂点を極めた人である。その4人が永田さんの招きで京産大を訪れ、学生の前で講演し、永田さんと対談した記録を採録しているのだから、面白くないはずがない。興味のある学生は本屋に走れ! 本を読まない学生は、今回、僕がその中でも印象に残ったフレーズを引用して説明するので、それをきっかけに何かをつかめ!
 という次第で、今回はフットボールやファイターズの活動から少し距離を置き、学生とは何者か、学生時代の4年間がいかに大切かということを書いてみたい。文武両道を目指すファイアターズの諸君に、少しでも参考になるることがあれば幸いである。
 例えば山中さんは、永田さんとの対談でこんなことをいっている。「20歳前後の5年間というのは、何にも代えられない宝物みたいな時間だ」「この時間に何をやったら正解というのは全然ないと思います。でも何もしないのだけはやめてほしい。どんなことでもいいから、あのときはこんなことに夢中になっていたな、というのがあったら、それがうまく行こうが行くまいが、絶対自分自身の成長につながっていきます」。いま、諸君がファイターズの活動に夢中になっていること、それがうまく行こうが行くまいが、それが絶対に諸君の成長につながっているということに直結する言葉ではないか。
 続く羽生さんの言葉にも、印象的なフレーズがある。「人間は誰でもミスをする。ですから挑戦していくときに大切なのは、ミスをしないこと以上に、ミスを重ねて傷を深くしない、挽回できない状況にしないことだと思っています」「ところが、実際にはミスの後にミスを重ねてしまうことが多い。どうしてそうなってしまうかというと、動揺して冷静さや客観性、中立的な視点を失ってしまうこと」「もう一つ、ミスにミスを重ねてしまうのは、その時点からみる、という視点が欠けてしまうことがあると思います」といっている。
 つまり「将棋でいえば、先の手を考えていくときには、過去から現在、未来に向かって一つの流れに乗っていることが大切」「ところがミスをすると、それまで積み重ねてきたプランや方針が、全て崩れた状態になり、それまでの方針は一切通用しない」「そのときにしなければならないのは、今、初めてその局面に出会ったのだとしたらという視点で、どう対応すればよいかを考えること。それがその時点から見る、ということです」と解説している。
 これもまた勝負師ならではの味わい深い言葉であり、フットボールの試合にも即座に応用できる考え方だろう。ミスはしない方がいい。それでも起きてしまったら、それを受け入れた上で次なる最善手を考える。そのように心掛けることで気持ちも鎮まる、新たな対応策も生まれてくるに違いない。
 羽生さんの言葉でもう一つ印象に残った部分がある。「将棋では、いい形、悪い形、美しい形、醜い形という識別がより深くなってくることが、イコール強くなる、上達したといえるのだと思います」。フットボールで言えば、美しい形でパスを通せる、いい形でタックルが出来るといったことを感覚的に理解できるようになったときに、その選手のステージが一つ上がったことになるという意味でもあろう。これもまた深い言葉である。
 「万引き家族」で一気に世界の「コレエダ」となった映画監督の是枝裕和さんにも、胸に刻みたい言葉がある。「演出って、何を面白いと思うかということが常に問われている。どこにカメラを向けて、何を発見して、今起きているうちの何が頭の中に最初からあったものではなく、今ここで生まれたものなのか。それを発見し続けて行く動体視力とか反射神経というものを、自分の中ではなく自分と目の前で広がっている世界とのやりとりの中で見つけていく作業が、映像作家として一番おもしろいところで、一番難しいところで、いまだにはっきりとはつかめていないところです」。これもまた、DBやLB、あるいはRBやWR、何よりもQBの感覚に通じることではないか。
 こんな風に、書いていたら切りがない。興味のある人は即座に本屋に走って下さい。
 対談を仕切った永田さんも、対談に応じた4人の方も、どちらかといえばフットボールとは縁の遠い場所で仕事をし、業績を上げて来られた方々だが、その人たちの言葉の中にも、フットボール選手にも即座に適用できる言葉がこんなにたくさんある。
 ファイターズの諸君にも、オフの日にはこうした本を読んで、新たな挑戦を始めるエネルギーにしてもらいたい。ファイターズが掲げる文武両道は、こうしたことの積み重ねから開けていくと、僕は確信している。
posted by コラム「スタンドから」 at 23:09| Comment(1) | in 2019 Season

2019年06月19日

(11)新しい芽

 世の中には2種類の人間がいる。
 例えば、半分近くになった一升瓶を前において酒を飲んでいるときに「もう半分しかない。大変だ」と思う人間と、「まだ半分あるじゃないか。じっくりやろう」と考える人間だ。物事を考える時、常に最悪の事態を想定して考えを進める人間と、なんとか明るい面を見て、それを明日への活力にしようと考える人間と言ってもよい。
 僕は間違いなく後者である。小心者のくせに、目の前に問題が山積していても「まずは寝よう。ややこしい事はまた明日」と考えてしまうし、職場で嫌なことがあっても、「しゃーない。今日のことは今日のこと。明日はきっといい風が吹く」と根拠もなく思ってしまえる人間だ。大学を卒業してから52年目の記者生活。それは波瀾万丈であり、他人さまから見たら、なんという不条理な世界と思われるかも知れないが、そんな仕事をいまだに機嫌良く続けていられるのも、生まれつきその性格を持っているからだろう。
 そういう人間だから、フットボールではJV戦が大好きだ。公式戦で手に汗を握るような場面に遭遇すると、思わず立ち上がったり、くそったれと悪態をついたりもするが、まだまだ未熟なメンバーが必死懸命にプレーするJV戦の魅力もまた別の意味で捨てがたい。ファイターズの明日を担う新星が次々に登場し、力いっぱいのプレーを見せてくれるからだ。
 16日、上ヶ原の第3フィールドであった名古屋大との試合も存分に楽しませてもらった。
 まずは、秋のシーズンが楽しみな1年生から紹介しよう。この日の出場メンバーで一番目についたのはWR河原林(高等部)。絶妙のコース取りで長短取り混ぜて5本のパスをキャッチし、85ヤードを稼いだ。先週末の練習を見学したときも、難しいパスをこともなげにキャッチしていたから注目していたのだが、期待は裏切られなかった。どんなパスでもゆとりを持って確保し、TDパスもキャッチした。身長179センチ、76キロと体格的にも恵まれており、一足先にデビューしたWR糸川(箕面自由)とともに、秋シーズンには先発争いに加わってくるのでは、という期待さえ抱かせてくれた。
 この日、TEに入った小林陸(大産大高)の動きも素晴らしかった。身長185センチ、体重96キロと公表されているが、筋肉の付き方から考えたら、すでに100キロは超えているのではないか。ライン並みの体型だが、走るスピードはWRにもひけをとらず、球際にも強い。同じポジションには、今季急成長した3年生の亀井兄がいるので、二人を同時に起用すれば、プレーの選択肢も破壊力も一気に増加する。大いに期待したい。
 期待したいと言えば、すでに前の試合でも起用されているDL山本大地(大阪学芸)、DB小林龍斗(日大三高)の才能にも注目したい。山本は1年生とは思えないほどのパワーがあり、小林龍斗のプレーセンスの良さは、スタンドからでもよく分かる。今後、試合に出場する時間に比例して、活躍する場面が増えると期待できる。
 ほかにこの日、メンバー表に登録された1年生には、WRの福田彦馬(池田)と高野一馬(佼成学園)がいる。福田は体格に恵まれており、高野にはキャッチングに非凡なところがある。この日は終盤から登場し、TDを1本決めた。
 2年生に目をやると、この日もQBは山中と平尾が務め、ともに活躍した。平尾には高いパス能力、山中には素早く状況を俯瞰し、決断できる能力がある。現状ではどちらが先行しているかは流動的だろうが、双方が刺激しあってプレーの精度を高めていくと、コーチ陣にとってはどちらを優先して起用するのか悩ましいことにもなるだろう。
 けがでしばらく練習を見合わせていたWR戸田も元気に復帰し、パスキャッチのうまさを何度も披露した。同じくけがから戻ってきたWR鳩谷も独走TDを決めた。
 独走と言えば、すでにVのメンバーに混じって活躍している2年生RB斎藤の走りにも注目が必要だ。この日も中盤、鮮やかに独走TDを決めた(ように見えた)場面があったが、残念なことにラインの反則で取り消し。ファンにとっては悔しい一幕だった。
 このように「新しい芽」を数えあげていくだけで、予定していた分量を超えてしまう。でも幸いなことに、春学期の終了までにまだもう1試合、JV戦が予定されている。29日の中京大戦だ。この試合を楽しみに、今回のコラムは終わりにしたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 20:33| Comment(1) | in 2019 Season

2019年06月11日

(10)勝ちきれない

 9日、炎天下の王子スタジアムで行われたエレコム神戸との戦いは、ファイターズのいいところと悪いところをともにさらけ出した。
 まずは、いいところから。一つは想定内のプレーにはしっかり対応できたこと。とりわけ現時点でのベストメンバーを組んだディフェンスは、1列目、2列目がきちんと役割を分担し、積極的に相手ラインを押し込むプレーを展開。スピードと思い切りの良さで、相手ランナーを思い通りに進ませなかった。
 社会人の実力チームと戦う経験を十分に積んだ相手も、自分よりずっと経験値の少ない「学生さん」に、あそこまで押し込まれるとは想定外だったのではないか。
 オフェンスも渡邊、三宅、前田、鶴留とそれぞれ特徴を持ったランナーが活躍。先発QB山中の判断の速いプレー、阿部、鈴木、糸川と揃えたレシーバー陣の奮起もあって、経験豊富な相手と対等以上に渡り合った。
 まずはスタッツを見てみよう。総獲得ヤードはエレコムが263ヤード、ファイターズが322ヤード。パスは相手が211ヤード、ファイターズは173ヤードで相手が上回っているが、ランでは相手の52ヤードに対してファイターズは149ヤードを獲得している。ランプレーが進むから、攻撃時間も相手の20分57秒に対し、ファイターズは27分3秒。この数字を見てもファイターズが優位に試合を進めていたことがよく分かる。
 それでいて、最終のスコアは14−14。ひいき目で見ると勝ち切れたはずの試合だったが、結果は引き分け。鳥内監督が試合後の囲み取材で開口一番「勝てとったな」といわれたのもよく分かる。寺岡主将が関学スポーツの取材に「勝てる試合を引き分けた」と残念がっていた気持ちもよく分かる。
 それでもスコアはスコア。たとえ途中までは「よく頑張っている」と評価できても、相手QBが一度ファンブルしたボールを拾い上げ、それを18ヤードのTDパスに仕上げた相手にとってはラッキー、ファイターズにとってはアンラッキーなプレーがあったとしても、さらにいえば、終了間際、安藤君なら確実に決められる距離と思えたFGが相手にブロックされる不運があったとしても、それらをすべて含めての14−14。引き分けである。
 現場で応援している僕が見ても「勝てる試合」であり「勝ちきらなければならない試合」だった。
 もちろん「想定外」のことはいくつもあった。相手がファンブルし、大きく後方にそらしたボールをQBが拾い上げ、それを18ヤードのTDパスに仕上げるという芸当は、フットボールを観戦して半世紀近くになる僕でも、初めて目にした。ファイターズのレシーバーが素早い動きでTDパスを捕球する態勢に入っているのに、それをはるか上空でカットしてしまう長身DBのプレーもそうそうお目にかかれる動きではない。
 それぞれが想定外、あるいは規格外れの動きであり、攻守ともに緻密に練り上げた作戦で勝負を挑むのが得意なファイターズの辞書には書き込まれていないプレーだった。
 そうした規格外のプレーに、チームとしてどう対応し、個人としてどのような動きをすればよいのか。そのヒントはこの日の試合の中に埋もれている。
 1枚目、2枚目関係なく、埋もれているヒントを掘り起こし、目の前のプレーヤーを圧倒するための力を身に付けよう。
 並行して、そうした相手にどう対処すればよいのかと考える。さらには、チームを勝たせるために一人一人のプレーヤーがどう動けばよいのか。試合展開や残り時間、ボールの位置から相手選手のほんのちょっとした仕草に至るまですべてを観察し、それを記憶し、対処法を磨いていこう。
 そういうことをチームの全員が考えていかなければならない。そのきっかけとしてこの日の「悔しい引き分け」試合があった。そう位置付けると、今後、ファイターズに身を置く部員たちの取り組まなければならない課題がいくつも見えて来るはずだ。
 その課題に、チームの全員が取り組もう。幹部だけ、4年生だけに任せるのではなく、ファイターズで活動する全員が「わがこと」として取り組もう。選手もスタッフも、上級生も未経験者も関係ない。最善を求め、最高のパフォーマンスをすることだけを目標に頑張ろう。その取り組みが勝利につながる。「学生圧倒」という言葉が嘘ではないことも証明されるだろう。
 春の試合は、今回のエレコム戦で終わり、後はJV戦が2試合残っているだけだ。考える時間もあるし、相手の動きや自分たちの動きを分析するための素材もある。しっかり自分たちのチーム、あるいはパート、はたまた個々の部員同士で本音を交わし、勝つための努力を続けてもらいたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:34| Comment(2) | in 2019 Season

2019年06月04日

(9)ガッツを求む

 2日は、関西学院の第3フィールドで甲南大学とのJV戦。途中、小雨の降る嫌な天気だったが、期待の新戦力が続々登場したので、そこに注目して観戦した。
 新戦力といっても、二つのコースがある。一つは今春入部したばかりだが、高校時代から非凡な才能を発揮してきたメンバーであり、もう一つは高校時代は他の競技に集中し、大学に入って初めてアメフットに取り組んでいるメンバーである。
 例年、この時期のJV戦にはそうしたフレッシュマンと、この1年、フットボールのできる体作りに励み、ルールを覚え、基本的なプレーの習得に務めてきた2年生が次々に登場してくる。
 甲南戦でいえば、1年生では背番号の若い順にWR糸川(箕面自由)、DB小林龍斗(日大三高)、DL山本大地(大阪学芸)、WR河原林佑太(高等部)、WR福田徳馬(豊中)、TE小林陸(大産大付)がメンバー表に登録され、それぞれ先輩にも負けないプレーを見せた。糸川は立ち上がりからQB山中からの長いパスをこともなげにキャッチし、先日の関大戦で鮮やかにTDを決めたプレーがフロックではないことを証明した。
 小林陸も185センチ96キロというラインも顔負けの体を生かして相手守備陣を圧倒し、短いパスを2本、確実にキャッチした。先日の神戸大戦では途中から出場し、相手OLを下から突き上げるように崩していた山本は、この日も堂々と相手のラインと渡り合っていた。LBとDBの二役を引き受ける小林龍斗の動きもいい。初めてのスタメンというのに、相手のボールキャリアに的確に反応。今後の成長が大いに期待できる動きを披露してくれた。
 さすがは、高校時代からそれぞれのチームを背負って活躍してきたメンバーである。先輩たちに混じっても、ひけをとらないほどの活躍振りであり、今後の期待値の高さがうかがえるデビューだった。
 一方、高校時代は野球部員で、フットボールは未経験だったLB都賀と細辻の動きも素晴らしかった。相手の動きに機敏に反応して的確なタックルを決め、パスプレーでも反応のよい動きを見せていた。同じく高校時代はラグビー部だったDB宮城はゴール前に投じられた相手のパスを奪い取り、反撃の目を摘んだ。高校時代、バスケットボール部でインターハイなどに出場をしているDBの前田も、まだまだ動きは初々しいが、さすがはアスリートという片鱗を見せていた。
 すでに一軍の試合で活躍しているDBの井澤や吉田、TE亀井、DL野村らの3年生を含め、こうした他競技経験者に共通するのは、ガッツがあること。入部したその日から1年間、試合に出ることはかなわず、ひたすらルールを覚え、体をつくり、基礎的な動きを身に付けることに専念してきた苦労はダテではない。ある部員はその俊足を生かし、ある選手は反射神経の良さや鍛えた体力を生かしてチームに貢献する。
 それを支えているのが中学、高校時代からフットボールに取り組んできたメンバーに追いつき、追い越したいという強い気持ちである。その気持ちが試合になればプラスに働く。その意味で、どちらかといえばスマートなタイプが多い高等部や啓明学院出身者とは、ひと味違う「雑草派」と表現してもいいだろう。
 今春入部し、いまは体力づくりに専念しているメンバーもまた、こうした「雑草派」のガッツと取り組みに学んでもらいたい。
 勝敗は、一人一人の部員が一人も欠けることなく「死にものぐるいになれるかどうか」にかかっている。
 その意味では、正直に言って甲南大とのJV戦も物足りないことが多かった。上級生が不用意な反則を犯して得点機を逃したこともあったし、スナップが悪くてFGをしっかり蹴ることができなかったこともある。それは今季、慶応大や神戸大との試合から続いていることであり、こうした点に改善の跡が見えないことが残念だ。「学生を圧倒する」というのなら、圧倒できるだけの練習とそれを貫徹するためのガッツが不可欠である。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:13| Comment(2) | in 2019 Season