2018年12月11日

(30)プライズマーク

 ファイターズには、公式戦で活躍した選手を称えるために「プライズマーク」を贈呈する仕組みがある。僕のように観客席から眺めているだけの人間の目にも明らかな活躍をした選手はもちろん、たとえ地味であっても、控えのメンバーであっても、経験を積んだコーチから見れば高く評価できるプレーをした選手に与えられる。
 もちろん、どんなに能力の高い選手でも、けがなどで戦列を離れてしまえば、1枚ももらえない。逆に下級生であっても、試合に出場し、目を見張る活躍をした選手にはその活躍に応じて1枚、2枚、3枚と与えられる。
 だからそのマークをより多く獲得した選手がシーズンを通じて活躍した選手であり、チームのためにより多く貢献した選手といってもよい。
 その証しがプライズマークであり、選手はそれをヘルメットに貼り付けて自身の励みとし、より一層、チームに貢献しようと努力するのである。
 先日の西日本代表決定戦、立命館大学との戦いでは、そのプライズマークが驚くほど多くの選手に、驚くほど大量に与えられた。例えば、ディフェンスでは先発メンバー全員に3枚ずつ、オフェンスでは攻撃のリズムを作る華麗なパスキャッチを何度も見せてくれたWRの小田や阿部にそれぞれ5枚。試合の流れを引き寄せたQB光藤や奥野、DB横澤、畑中、さらには終始オフェンスの中央を支えきったラインの高木、森、松永らにも数多くのマークが与えられた。
 特記されるのは、前回の試合で一気に10枚を贈られる選手が、同時に二人出たことである。通常の試合では1枚、あるいは2枚と限定的に贈られ、5枚も贈られること自体が珍しい。それが前回の試合では、二人の選手に一挙に10枚ずつが贈られた。そんなことは、僕の記憶にはない。それほどコーチの目から見て、二人の活躍が突出していたのだろう。
 その選手の名前はOLの森とLBを務めた大竹である。ともに3年生。それぞれ高等部時代から活躍していた選手だが、けがなどで伸び悩み、なかなか「不動のメンバー」にはなれなかった。大竹は今季、何度も先発していたが、同じポジションで活躍している2年生の海崎や繁治の影に隠れていた。森にいたっては高校時代の同期、森田に先発の座を占められ、けがもあってほとんど出場機会がなかった。
 それがあの大一番で大活躍。大竹は果敢な突進で相手ラインを突破し、強烈なロスタックルを何度も決めた。森は終始ラインの中央を死守してQBを守り、ランナーの走路を開けた。QBを守って当たり前とされる地味なポジションだが、その役割を交代出場にも関わらず、完璧にこなした森と、能力の高い立命のラインを突破し、ボールキャリアに食らいついた大竹。
 二人の動きに目を止め、それをビデオで確認した上で高く評価したのがそれぞれの担当コーチである。スタンドから、常にボールのあるところばかりを追いかけている僕らの目には見えないところをきちんとチェックしているコーチの目に驚くと同時に、活躍した選手にはその活躍振りに応じて「プライズマーク」を惜しげもなく贈呈し、活躍を称えるベンチの冷静にして的確な判断に、いまさらながら感動した。
 さて、今度の日曜日は大学王者を決める甲子園ボウルである。昨年、日大を相手に悔しい敗北を喫したその舞台に、ファイターズが全員で戻ってくる。今季の総決算ともいえるその試合で活躍するのは誰か。東の強豪を相手に、誰が突破口を開き、誰が守護神の役割を果たすのか。
 僕としては出場選手全員に3枚、あるいは5枚とプライズマークが贈られ、その上で試合の流れをつかみ、決定づけるプレーをした選手に3枚、5枚と奮発されるような試合を期待する。さらにいえば、サイドラインに並んだ選手、スタッフ全員に3枚、5枚と出したくなるような試合になれば、もっとうれしい。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:26| Comment(2) | in 2018 Season

2018年12月03日

(29)魂のドラマ

 ファイターズが劇的な逆転勝利をつかんだ後、選手に一言掛けたくてグラウンドに降りた。しかし、全員で試合終了後の挨拶を終えたばかり。まだ新聞記者やテレビ局のヒーローインタビューが続いているさなかでもあり、なかなか個々の選手には声が掛けづらい。
 とりあえず、手の空いたコーチに「ありがとうございました」と片っ端から声を掛ける。「勝ったのは良かったけど、素直に喜べませんね」という渋い表情のコーチもいるし、感極まったような表情をしているコーチもいる。それぞれ担当している部署の出来不出来を目の当たりにし、さらにこれからの試合を見据えているからこその反応だろう。
 そんな中で、一人「オフェンスは新喜劇みたいやったな」と話し掛けてきたコーチがいる。自他共に許す吉本新喜劇のファンで、普段から「新喜劇は奇想天外。その面白さが分かって初めて、臨機応変、いいプレーヤーになれる」と言い続けているコーチである。
 一瞬、「なんで新喜劇」という表情をすると、「うちのディフェンスは元々、新喜劇やったけど、今日の試合はオフェンスも新喜劇やった」という言葉が続いた。
 その言葉の意味が解せないまま、何とか会話を続け、しばらくしてからその意味を考えた。多分、そのコーチは「新喜劇」という言葉に次のような意味合いを含めていたのだろう。
 「吉本新喜劇は常に前半がドタバタ。番組の終わるまでにどのように収拾するか訳が分からん」「けれども最後はいつものお約束の通りに物語の収拾がついて、見ている方もめでたしめでたし。腹を抱えて笑っているうちに、目出度く番組はお開きになる」と。
 このお約束をこの日のオフェンスに当てはめると、試合の途中まではインターセプトが3回、うち1本はそのままタッチダウン。ファンブルで攻撃権を奪われた分を合わせると、ターンオーバーが4つという、近来にないドタバタ劇だった。しかし、物語の後半になると、それぞれの役者がしっかり役割を果たして劇の進行を支え、気がつけば最後のプレーで逆転サヨナラ勝ち。見事な大団円に仕上げている。この試合を形容するには、喜劇という言葉も悲劇という言葉も似合わない。余りにも結末が鮮やかすぎて人情劇と呼ぶのもためらわれる。ここはやっぱり新喜劇。「ファイターズファンのすべてが喜びの涙を浮かべる新喜劇」と表現するのが一番だろうと勝手に納得した。
 めちゃくちゃなローカルな話で前置きが長くなった。本題に入る。
 12月2日、晴れ渡った万博記念競技場で開かれた西日本代表校決定戦、立命館大学と関西学院大学の試合は、スポ根漫画も顔負けのドラマチックな幕切れとなった。
 ファイターズは前半からリードされ、第3Q終了時点でも16−10と立命がリード。その後、4Q途中にもだめ押しとも思えるFGを決められ、19−10と差が広がる。
 起死回生の一発に賭けようとしても、エースランナーの山口は負傷で退場。エースレシーバーの松井も足を引きずっている。QB奥野のパスで突破口を開きたいところだが、前半から手痛いインターセプトを3発も食らっている。おまけに随時、交代出場し、プレーの選択肢を広げていたQB西野もベンチに下がっている。
 残り時間は7分56秒。ボールは自陣25ヤード。さてどうする。まずは奥野から同学年のWR鈴木に6ヤードのパス。一つおいて次のプレーもWR阿部へのパス。それが見事に決まって相手陣45ヤード。よしっ、と思った瞬間、ホールディングの反則で10ヤード後退。ヤバイ、と思った瞬間、奥野がスクランブルで一気に陣地を回復。あらためて敵陣34ヤードからの攻撃につなげる。
 ここで交代したQB光藤がまたもや17ヤードのスクランブル。相手の反則もあって一気に相手ゴールに迫る。再び光藤が走ってゴール前1ヤードに攻め込んだ後、仕上げはRB中村のダイブで19−17と追い上げる。
 残り時間は3分44秒。相手攻撃を絶対に3&アウトに押さえなければならない局面だ。奮起した守備陣が鉄壁の守りを見せて攻撃権を奪い返す。そのときボールは自陣41ヤード、残り時間は1分56秒。何とかフィールドゴール圏内までボールを持ち込みたいが、残された時間は少ない。
 さてどうするか。ここでも突破口を開いたのは奥野からWR陣へのパス。松井、そして阿部へとミドルパスを立て続けに通し、一気に相手ゴール前12ヤードに迫る。
 ここからはRB渡邊を走らせて時間を消費。残り2秒となったところでK安藤にチームの命運を託した。恐ろしく緊張する場面だったが、安藤が見事に24ヤードのFGを決め、劇的な逆転サヨナラ勝ちを手にした。
 この場面、距離は短かったが、この一蹴りにチームの命運がかかっている。キッカーの安藤はもとより、スナッパーの鈴木、ホールダーの中岡も、さらにいえばキッキングチーム全員の胸中が波立っていたに違いない。けれども、11人がそれぞれの役割を完璧に全うして勝利を呼び込んだ。
 振り返れば、故障明けの4年生レシーバー松井と小田が局面を打開し、それに呼応して同じポジションの阿部が神がかり的な捕球を続ける。試合の終盤、ここぞという場面で登場した主将・光藤の必死のプレーがチームを奮い立たせる。上級生をここで終わらせてはならない、と腹をくくった奥野が前半とは打って変わって正確なパスを投げ続ける。スクランブルで局面を打開する。
 こうしたオフェンスの必死懸命のプレーに守備陣が呼応。4Qに入ってからは厳しく思い切りのよいタックルで相手の攻撃の芽をことごとく摘み取っていった。
 試合の前日、練習後のハドルで主将が叫んだ言葉が耳に残っている。「こんなところで終わってなるものか、俺たちは日本一になるんだ」。その言葉を苦しい試合展開の中で思い出し、グラウンドに立つ全員が体を張って共有したからこその勝利である。吉本新喜劇では、ここまでのストーリーは描けない。ファイターズならではの魂のドラマであると僕は思っている。
 さて、次は甲子園。もう一丁、気合いを入れて頑張ろう。
posted by コラム「スタンドから」 at 06:42| Comment(4) | in 2018 Season