2018年06月30日

(10)ファイターズの流儀

 金曜日には僕の担当している授業がある。担当は2時限(11時10分開始)と3時限(13時30分開始)の2クラスだが、たまたまほかの用事もあって、朝の9時に大学に着いた。
 速攻で用事を済ませ、G号館(その昔、硬式野球のグラウンドのあった場所にできた比較的新しい建物。国際学部や人間福祉学部がある)1階のスターバックスに向かう。
 ホットコーヒーを購入し、空いた座席に座ると、前の席に大柄な学生がノートに向かって何事かを書き連ねている後ろ姿が見える。「朝早くから勉強か。まじめな学生だな」と思って、コーヒーに口を付ける。僕も文庫本を取り出して読み始めようとしたとき、その学生が立ち上がる。思わず顔が合う。4年生のスナッパー、鈴木邦友君である。
 「おはよう。朝早くから頑張ってるね」と声を掛ける。「ええ、いまから大村コーチとミーティングです。そのための準備をしていました」と明るい声が返って来る。そうか、先ほど熱心になにやらノートに書き込んでいたのは、そのための準備だったのか。そう思った途端に、先週のコラム「けが人先生」を編集者として最初に読んでもらった小野ディレクターから聞いた話を思い出し、しばらく立ち話をする。
 「これは小野さんから教えてもらったことだけど、4年生になって下級生を指導する立場になると、教える側のプレー理解が一気に進むそうだ」「自分が体感、体得したものを言葉に表すために論理化する。その作業によって教える側の頭が整理される。つまり、下級生に教えることは、同時に自分の学習効果を高めることにつながる」
 「だからいま、キッキングチームのアイデアをノートに書き込んでいることが、そのまま自分の成長にもつながるということ。頑張ってな」
 そんな言葉を掛けた。
 聞けば、彼は希望していた総合商社への就職も決まり、卒業単位の心配もない。後はフットボールに専念するだけという。その具体的な行動の一つとして、早朝から、コーチとのミーティングの準備をしていたのだ。
 彼だけではない。ファイターズではこういう4年生が各パートでそれぞれ、自分たちがいま成さねばならないことに集中して取り組んでいる。どうしても勝ちたい。日本1のチームをつくりたい。そのためにプレーヤーとして自身を成長させると同時に、下級生たちにどのように働きかけ、チームとして実現させていくのか。そういうことを4年生全員が選手もスタッフも関係なく、寝る間も惜しんで考え続けている。
 自分たちで考えるだけでない。具体的なアイデアを持ってコーチに説明し、それを実現させるための助言を受ける。その具体例を目の当たりに見て、思わず、鳥内監督がつねづね口にされている「君らが勝ちたい、いうから、僕らが手伝ってんねん」という言葉を思い出した。
 ファイターズとはこういうチームである。監督やコーチが無理やり部員を鋳型に押し込むのではない。上級生が力で下級生を押さえ込むのでもない。いまも日本のスポーツ界に根を張る古い因習とは全く無縁のチームとしての誇りを日々の実践を通して力に替える組織である。
 戦後の草創・発展期に10年間監督を務められた米田満先生から、ことあるごとに聞いた言葉を思い出す。
 「関学のアメリカンといえば、戦後、軍隊から戻ってチームを再興し、1947年、48年と2年連続して主将を務めた松本庄逸さんの影響が大きい。グラウンドに立てばポツダム中尉の威厳があって、恐ろしく怖い存在だったが、ふだんはみんな兄弟や、仲良くやろうと言い続けた。その言葉、その精神がいまも連綿とチームに受け継がれている」。こういう言葉である。
 上級生が良き先輩として、下級生を丁寧に指導する。それによって自らの学習効果を高め、フットボールについての理解を深める。上級生、下級生の双方が響き合ってチームとしての力を高め、そこに指導者が養分となる助言を惜しみなく注ぎ込む。日々、そうした営みを続けて目標の高い山に登っていく。
 そういうファイターズの流儀、内部教育システムの一端を朝早く、すっきりした頭でプレーのアイデアをノートに書き込む鈴木君の姿に見て、どうしてもこのコラムで紹介したくなった。
posted by コラム「スタンドから」 at 23:02| Comment(2) | in 2018 Season

2018年06月23日

(9)けが人先生

 最近、ファイターズの練習を見ていると、すごく興味深いことがある。ポジションごとにけがをして回復途上にある4年生が実質的なコーチを務め、下級生を丁寧に指導していることである。
 オフェンスではWRの松井君や小田君、RBの富永君。ディフェンスではDLの三笠君や齋藤君、DBの横澤君。QBの光藤君やRBの山口君も短い間だったが、けがからの回復期には、ずっと下級生に付き添い、現場の選手ならではのアドバイスを具体的な足の運びや腕の振り方を例示しながら教えていた。
 上級生が下級生を指導するのは当たり前、と思われるかも知れない。実際、僕もずっとそう思っていた。だから、日々グラウンドで繰り広げられるそういう光景をみても、当然のことと、特段、気にも留めなかった。
 けれども、今年の4年生はひと味違う。一言で言えば「教え方の本気度」が違うのである。まるでコーチのように、足の運び方から腕の使い方、相手の間合いの取り方をチェックし、自ら見本を見せて教えている。もちろん、けがをしているから体は思い通りにいかないが、なぜそのような動きが必要なのか、そのような動きをすることでどういう効果があるのか、そういうことを具体的な動作を繰り返しながら懇切丁寧に教える。それができたときには、即座に「そうそう」「ええやん」と声を掛けて励ます。
 言葉や身振りで教えるだけではない。けがから復帰した選手たちは、今度は自らが先頭に立って模範的なプレーを見せる。例えばWRなら小田君や長谷川君が下級生に教えていた通りのコースを走り、教えていた通りのテクニックで守備の選手を振り切ってパスを捕る。そのプレーをひけらかすのではなく「これが見本だよ」とでもいうように下級生にお手本を示す。
 それを見ている下級生は、自分たちが絶対に捕れないようなパスを先輩たちはどうしてこともなげに捕球できるのだろうかと感嘆し、首をかしげる。同時に「あれができてこそ試合に出してもらえる。その水準に自分を高めなければ」と新たな練習に励む。そういう循環が攻守を問わず、今シーズンはグラウンドのあちこちで繰り広げられているのである。
 「学ぶは真似ぶ」という言葉がある。幼い子はお兄ちゃんやお姉ちゃん、両親や身の回りの子どもたちの仕草を真似ることから言葉を身に付け、走ったり遊んだりできるようになる。幼児が大学生になり、教育とか指導とか、難しい言葉を使うようになっても、「学ぶ」の本質は「真似ぶ」にある。人は良きお手本を真似し、それを自分のものにしていくことによって成長する。
 昨日まで手の届かなかったボールに手が届く、手が届いても捕れなかったボールが今日は捕れた。そういう確かな手応えを得るたびに人は成長する。その手応えが「明日も頑張ろう」という元気の源になる。こういう循環がいま、4年生の「けが人先生」たちの献身的な指導を通じて、下級生に浸透しつつあるのだ。
 こうした指導は毎年、このチームの4年生が繰り返してきたことだが、今年は例年以上に「けが人先生」に存在感がある。よくいえば、中心になって指導している松井君らの教え方が特別にうまいからかもしれない。逆に言えば、レギュラークラスと控え選手との間に大きな落差があるということかもしれない。昨年1年間、体作りに専念してきた2年生や今年入部したばかりの有望な選手が先輩の指導は何でも学ぼう、身に付けてやろうという強い意欲を持っているからかもしれない。
 明確にいえるのは、こうした上級生と下級生の関係がこのチームを支えているということだ。ファイターズには有能な専任コーチもいるし、大学職員の任務を全うしながら部員を指導してくれるコーチもいる。組織運営を担ってくれる職員にも恵まれている。それでも、肝心の選手間の風通しが悪くては、思うようなチーム作りにはつながらない。それだけ「けが人先生」の果たす役割が大きいということだ。
 世間では、体育会的という言葉が、上級生が下級生を奴隷のように扱い、時には暴力的な指導に走る集団という意味で使われることが少なくない。僕は以前、日本高校野球連盟の理事をしていたが、連盟に報告されてくる高校野球界の暴力事件、とりわけ指導者による暴力件数の多さには驚かされた。全国に根を張る巨大組織だから報告件数も多くなるというだけではなく、根底に暴力的な指導に寛容な土壌があるとしか思えない状況だった。
 いま、世間の目はスポーツ界における暴力的な指導に厳しくなっている。だからこそ、いま上ヶ原のグラウンドでファイターズの「けが人先生」たちが繰り広げている指導の在り方が輝いて見える。夏を越え、秋になってその成果が実を結ぶことを大いに期待している。
posted by コラム「スタンドから」 at 10:55| Comment(1) | in 2018 Season

2018年06月06日

(8)収穫いっぱいJV戦

 3日はJV戦。会場は第3フィールド。追手門学院との試合だった。天気は晴れ、試合開始時刻は午後4時。6月の日差しは強かったが、ときおり遠く甲子園浜の方向から吹いてくる風が心地よい。見上げる甲山も麓の山も新緑が盛り上がってキラキラと輝いている。絶好のフットボール日和であり、観戦日和である。
 今季初めてのJV戦とあって、この日は今春入部したばかりのフレッシュマン19人も登録された。オフェンスではRB鳩谷(箕面自由)、前田公(高等部)、斎藤(江戸川学園取手)、安西(関西大倉)、QB平尾(啓明学院)、WR鏡味(同志社国際)、戸田、和泉(ともに高等部)、東尾(三田祥雲館)、OL牧野(啓明学院)、朝枝(清教学園)、福田(豊中)。ディフェンスではDB竹原(追手門学院)、北川(佼成学園)、LB赤倉(同)、久門(高等部)、DL小林(千里国際)、原田(啓明学院)、青木(追手門学院)。
 彼らはみな、入学後、懸命に筋力を鍛え、体力の数値をクリアしたメンバーばかりだ。昨年の夏休み、小論文の勉強会をともにして顔なじみになっている選手もいるし、高等部や啓明学院、千里国際から進学してきた選手もいる。U19の日本代表に選ばれた選手もいるし、僕が注目している「赤坂ダッシュ」で、いつも集団の先頭を切って走っていた選手たちが期待通りの活躍をしてくれるかどうかも見所だ。
 さすがに先発メンバーに名を連ねた選手はいなかったが、試合前、監督に聞くと「それぞれ何プレーかは出るでしょう」とのこと。大いに期待してキックオフを待ち続けた。
 もう一つ、注目したのは先発QB光藤。今季はけがで出遅れ、練習もほとんどできない状態が続いていた。ぶっつけ本番の出番でどれだけ動けるか、パスのターゲットとなる下級生レシーバー陣との呼吸が合うかどうか。考えるだけでもどきどきしてきた。
 ファイターズのレシーブで攻撃開始。自陣25ヤード付近から始まった最初のプレーは光藤のキープ。鮮やかなステップで簡単にダウンを更新し、チームを落ち着かせる。次のプレーはWR鈴木へのミドルパス。捕った鈴木が見事な走りで一気にゴール前13ヤードまで前進。その好機にRB渡邊が簡単に走り込んでTD。それぞれ昨季から試合経験のあるメンバーとはいえ、わずか開始3プレーでTDに持ち込んだのは、お見事、というしかない。
 自陣22ヤードから始まったファイターズ2度目の攻撃では、期待の新人が登場する。最初はRB斎藤がランで5ヤード、続いて光藤からWR戸田へのパスで19ヤード。しかし、ここは反則などで攻撃が続かず、攻守交代。
 守備陣が相手を完封して迎えた3度目の攻撃シリーズ。今度は光藤が見せる。ラン攻撃と見せかけて自らボールをキープ、巧みにブロッカーを使って右、左と身をかわしながら一気に66ヤードを走り切ってTDを決めた。さすが主将である。けがで練習出来ない日が続いても、腐らずに仲間を鼓舞し続け、QBの練習台を続けてきた努力が生きた。まだまだ試合の感覚は戻っていないかも知れないが、秋のシーズンには十分間に合うことは確認できた。それだけでも大変な収穫である。
 収穫といえば、期待の1年生も素晴らしかった。RB陣は出場した鳩谷、斎藤、前田、安西がそれぞれ1本ずつTDを決めたし、WRの戸田や鏡味も上級生に遜色のないパスキャッチを披露した。ラインではセンターを務めた朝枝が元気いっぱい。1プレーごとに大声で気合いを入れ、1年生とは思えないようなリーダーシップを発揮していた。QB平尾を含め、彼らが夏の合宿を乗り越えれば、秋の公式戦でも出場機会がありそうだと期待が高まる。
 守備陣ではDLの青木。189センチ、123キロという大きな体だが動きは素早い。目の前のラインを簡単にはねのけ、即座にボールキャリアに向かうスピードと身のこなしは一級品だ。長時間の出場機会を与えられたDB北川やLB赤倉らとともに、秋の公式戦でも出場機会が増えそうだ。期待が持てる。
 以上のようなフレッシュマンの活躍ぶりを見ているとワクワクする。この1カ月間のもやもや、重苦しい空気が浜風に乗って吹き飛ばされた気がする。
 こんなJV戦は23日にも予定されている。相手は金沢大学。この日活躍した選手がさらに成長しているか、新たにどんな選手がデビューするか。けがとか経験不足で出遅れていた上級生たちがどんなプレーを見せてくれるか。見所はいっぱいある。指折り数えて待つことにしよう。勝敗に関係なく、ひたすら期待の選手に注目して観戦できるJV戦は、本当に楽しい。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:09| Comment(2) | in 2018 Season