2017年12月19日

(33)今日は倒れても

 甲子園ボウルが終了する前後から、甲子園球場は急に寒さが募ってきた。気のせいか背中がぞくぞくする。これはヤバイと急いで駐車場に向かい、車に乗る。エンジンをスタートさせ、エアコンが効いてくると、ようやく一息つく。そのまま鳴尾から阪神高速に乗り、一路、和歌山県田辺市に向かう。
 車中、胸中に去来するのは、試合のことばかり。なぜ、相手攻撃に守備が振り回されたのか。なぜ、先日は立命館を相手に思い通りの試合を展開したオフェンスラインが相手に割られたのか。チームとしての力は、決して遅れを取っているとは思えないのに、選択したプレーがなぜ進まなかったのか。
 そんなことを考えていると、頭がはち切れそうになる。これはまずい。一息入れようと泉大津のサービスエリアに立ち寄り、水道の水で顔を洗う。しばらく屈伸運動と深呼吸を続けると、ようやく気分が落ち着いてくる。
 運転再開。今度は中島みゆきのCD「大吟醸」をセットし、気分を変えようと試みる。聞くともなく聞き流していると、やがて大好きな「時代」が流れてくる。「いまはこんなに苦しくて、涙も涸れ果てて」と一気に歌い出すこの曲は、その昔、カラオケで必ず誰かが歌っていた。懐かしい。
 「やっぱり中島みゆきはいいなあ、苦しい時の薬になる」。そんなことを思いながら聴いているうち、ラストにさしかかる。
 「たとえ今夜は倒れても、きっと信じてドアを出る」「今日は倒れた旅人たちも、生まれ変わって歩き出すよ」。この部分になると、どんなに苦しい状況でも立ち上がる勇気が湧いてくる。
 そのときも思わず「そうだ。ファイターズの諸君は生まれ変わって歩き出す」「きっと信じてドアを出る」と一人声を挙げてしまった。
 11月19日、関西リーグの最終戦で立命に完敗したチームが2週間後の12月3日、見事に立ち直って勝った。34−3というスコアもさることながら、チームの全員が結束し、ひたすら前を向いて戦った結果である。グラウンドに立つ以上、どんな相手にも怖めず臆せず戦うのは当然だし、これまでもそのように戦ってきたはずだが、あの西日本代表決定戦では、いつにも増してチームに熱い血が流れていた。そのようなひたむきな姿には、そうそう出合えることではない。
 しかし、甲子園では何かが違った。スタンドからでは気がつかないところで歯車が狂ったのだろう。守備は混乱し、オフェンスはなぜかばたつく。
 立ち上がり、QB西野が一気に右オープンを駆け上がって25ヤード。次は西野からWR松井に42ヤードのパスが通って相手ゴール前2ヤード。次は西野が機敏に左サイドを突いてTD。わずか3プレーで主導権を握る。小川のキックも決まって7−0。
 しかしこの間、エース松井が倒れ、担架で運ばれた。そこから、どこかチームに落ち着きがなくなる。「やばい、どうしよう」と動揺したのか。それとも、その後の日大の攻撃で1年生QBに走られ、パスを通されて「これは勝手が違う」とあわてたのか。
 動揺が動揺を呼ぶ。その隙を相手に突かれ、あれよあれよという間に前半終了。13−10とリードされて後半戦に。
 第3Qに入っても、試合は相手ペース。着実に10点を追加され、23−10と差が開く。4Qに入ったところでようやく山口がゴールに飛び込んで6点差に追い上げたが、残された時間は少ない。最後、自陣2ヤードから始まった反撃も及ばず、そのまま試合終了。悔しい結果に終わった。
 どこに原因があったのか。それはグラウンドにいる当事者にしか分からない。当事者でも分からないかもしれない。明確に分かっていることは、あの敗戦で今季、井若主将が率いたファイターズの戦いは終わった。もう同じメンバーで試合をすることも、試合に向けた練習をすることもない。濃密な時間が止まってしまったという事実である。
 それは同時に、新たなファイターズの出発の時、旅立ちの時でもある。たとえ今夜は倒れても、きっと信じてドアを出よう。今日は倒れた旅人たちであっても、生まれ変わって歩き出そう。明日を信じてドアを出るメンバーがいる限り、ファイターズは不滅である。
 4年生の諸君、お疲れさま。たとえ一敗地にまみれても、諸君がどん底から這い上がって立命との決戦に勝った事実は色あせない。自信を持って新たな戦いの舞台に立って欲しい。ありがとう。
 そして後輩の諸君。明日のファイターズを背負ってくれ。「ファイト・オン」の歌詞にある通り、勝者の名前を誇りにできるチームをつくってもらいたい。以上。

◇おことわり◇
 今年度も当コラムをご愛読たまわり、ありがとうございました。今回を持ちまして2017年度のコラムを終了します。新しいシーズンが始まる頃に再開する予定です。ファイターズが新たな戦いに挑むとき、僕も及ばずながら応援を続けます。
posted by コラム「スタンドから」 at 23:38| Comment(3) | in 2017 Season

2017年12月14日

(32)戦術のスポーツ

 「フットボールは、本当に戦術のスポーツですね」。西日本代表決定戦が終了したとき、場内のFM放送を担当されていた小野ディレクターの口から出たこの言葉が忘れられない。実力が拮抗(きっこう)したチームが対戦したとき、勝敗を決めるのはチームの戦術であり、それを遂行する選手の力であるという意味だろう。
 たしかに立命館の選手は能力が高かった。気迫も素晴らしかった。リーグ戦では、その能力と気迫にファイターズはこてんぱんにやられた。けれども、2週間後に相まみえたとき、ファイターズの諸君はみな、目を見張るような動きを見せ、攻守とも、思い通りにゲームを支配した。
 何が変わったのか。どこが劇的に向上したのか。選手個々の精神的な覚醒もあるだろうし、チームとしての取り組みの質が上がったこともあるだろう。その辺の事情については、急きょ練習台として参加してくれた社会人の選手やチーム関係者からも断片的に聞く機会があった。
 パナソニックで活躍している上沢一陽君は「選手の目の色が違った。練習でもぴーんと張り詰めた空気があった」というし、同僚の梶原誠人君は「チームが一丸となって向かって行く気迫を感じた」という。それぞれが練習台として先発メンバーと対峙した体験からの発言だ。手痛い敗戦を糧として、チームが内側から変わりつつあったのだろう。
 そういう裏付けをもとに、ベンチは立命戦に備えて春から準備してきたプレーを惜しみなく投入した。それぞれが適切な場面、相手からすれば意表を突く場面で仕掛けられたから、相手側は対応にもたつき、結果としてファイターズの圧勝になったのだろう。
 もちろん、RB山口の個人技、QB西野の思いきりのよいパス、WL陣やFB、TEの強烈なブロック。そして大村コーチがかねて「今年のディフェンスはいいですよ。学生界では一番じゃないですかね」といっていたDL、LB、DBの奮起も素晴らしかった。そういう個々の選手の動きの素晴らしさとチームとしての結束力、それが周到な戦術によって存分に発揮できたことが、先日の西日本代表決定戦の勝利に結びついたと僕は理解している。
 さて、今度の日曜日は甲子園ボウル。日大との決戦である。互いにライバルとして長い歴史を積み重ね、日本フットボール史に大きな足跡を残してきたチームとあって、スタンドから応援する僕らもひときわ力がこもる。
 つい先日の立命戦の記憶が鮮明だから、ついそのイメージに引きずられてしまうが、今度は全く別のチームが相手。毎年、春の定期戦で手合わせしているが、それは全く参考にならない。とりわけ相手のエースQBが1年生とあっては、その戦術も含めて未知のチームと言ってもよいだろう。
 思い起こすのは2013年、池永主将率いるチームが日大と戦い、23−9で勝った試合である。立ち上がり、相手の第1プレーを粉砕した池永主将の動きがまぶたによみがえる。それは、決戦の1週間ほど前から特別に練習してきたプレーであり、それが見事に決まった。あのプレーで、甲子園の芝生の上に立ったすべての部員が「よーし、これで行ける。思い切っていこう」と大いに勢いづいたに違いない。逆に、相手の1年生QBにはその残像が目に焼き付いたのだろう。2プレー目からは動きにキレがなくなり、パスも正確性を欠いた。
 当時とはメンバー全員が一新されている。しかしあの年、あの第一プレーに勝負をかけた池永主将の動き、それを支えた仲間たち。具体的にはLBの小野君や作道君、仮想、相手主将として練習台を務めたOLの友國君らの努力と献身。いわば「ファイターズ魂」は、いまも上ヶ原のグラウンドに継承されているはずだ。
 その魂があって初めて、戦術も花開く。それは、チームが一丸となって立ち向かった先日の立命戦の結果が証明している。リーグ戦では完敗した相手に、わずか2週間で、今度は完勝に持ち込んだ。そこに何があったのか。チームとして、どの部分が覚醒したのか。僕には詳細は分からない。けれども僕は知っている。「練習は裏切らない」ということを。
 立命戦からの2週間、懸命に取り組んだ練習の成果を、今度は甲子園で見せてくれ。健闘を期待する。
posted by コラム「スタンドから」 at 14:24| Comment(1) | in 2017 Season

2017年12月04日

(31)「もう一丁」

 ファイターズの勝利を見届け、夜の高速道路を和歌山県田辺市の仮住まいに向かう。2週間前は、運転中も気持ちが落ち込んでいたが、今夜は180度違う。気分は爽快。心は弾む。試合後に顔を合わせ、よく頑張ったと声を掛け、手を握りあった選手の顔が次々に脳裏に浮かぶ。笑顔、笑顔、満面の笑み。誰もがやりきったという気持ちをにこやかな表情に表している。勝利とはこんなに素晴らしいことかと、心の底から思えてくる。
 田辺に到着し、駐車場に車を駐めた途端にショートメールが入った。開いてみると、こんな言葉が入っていた。「石井さんの渾身のコラムが言霊となって選手に乗り移ったような勝利でした……」
 送り主は、毎日新聞OBのTさん。その昔、僕が大阪の社会部で大阪府警を担当していた時、同じ捜査4課担当として競い合った友人である。ともに関学出身、ファイターズの大ファンということもあって、担当を離れ、互いに新聞社を退職してからも付き合いがあり、ときおり電話であれこれと話し込む。僕のコラムにも、折りに触れて感想を寄せてくれる。先日の立命戦で敗れた時も、悔しい思いを分かち合い、今度こそ、と励まし合ってきた仲である。
 「言霊となって選手に乗り移った」というのはあまりにも過分な表現だが、今日、12月3日のファイターズの諸君のプレーには、遠くスタンドから眺めているだけでも、鬼気迫るものがあった。これぞ、魂のフットボールと呼んでもよかろう。
 例えば前回、あれほど走られたランナーを徹底的にマークし、ことごとく止めた守備の面々。1列目中央の藤木、寺岡、両サイドを守る柴田、三笠、今井。2列目の松本や海崎、吉野。そしてDBの小椋、横澤、畑中、木村。だれもが激しいタックル、素早い動きで相手の思惑を封じ込めた。インターセプトを決めた畑中、松本だけでなく、相手のファンブルを誘発した横澤や今井の動きも素晴らしかった。
 もちろん、オフェンスが先手を取ったことも大きい。とりわけ目立ったのがRB山口。まずは立ち上がりの第2プレー。自陣13ヤードから一気に58ヤードを走って、相手守備陣を慌てさせた。絶好のチャンス。これをQB西野からWR前田泰一へのスクリーンパスでTDにつなげた。その間、わずか4プレー。前回の立命戦では相手に立ち上がりの3プレーで得点を許したが、今度は見事にお返しを決めた。
 次の相手攻撃を寺岡や横澤の素早い出足でパントに追いやると、今度も山口が見せる。自陣28ヤード付近から一気に64ヤードを走って相手ゴール前7ヤード。そこから連続して山口を走らせてTDに結び付け、K安藤のキックも決まって14−0。
 前回の試合では、ゴール前の残り1ヤードがとれずにTDを逃がしたOLと山口の意地が爆発したような場面だった。これだけではない。攻撃のラインと山口は、第2Q中盤にもゴール前1ヤードからのランプレーを一発で決めてTDを獲得しており、見事に2週間前のお返しをした。
 ファイターズは後半にも、西野が前田泰一へのパス、前田耕作へのピッチでそれぞれTDを獲得。守備陣も相手をFGによる3点に抑え、終わって見れば34−3の圧勝。
 この得点差、この試合内容を、試合前に予想したファンはどれほどいただろう。前回の双方の戦い方を記憶している人の大半が、もっともっと苦しい展開を予想されていたのではないか。
 打ち明ければ、僕もその一人である。1回目の勝利で、相手は勢い付いている。この1年、自分たちの続けて来たことが勝利という結果を呼び込んだことで、大いに自信も付けているはずだ。逆に、ファイターズの面々は「なんで、俺たちのプレーが通らんかったんや」「今度も相手のランとパスが止められないのではないか」と思い煩い、無心に練習に打ち込めなかったのではなかろうか。途中、名古屋まで出掛けてもう1試合、絶対に負けてはならない試合を戦わなければならないというのも負担になったに違いない。
 けれども、ふたを開ければ見事なリベンジ。攻守ともに想像を絶する力を発揮した。試合後、インタビューに応じた鳥内監督の口から「選手、コーチが自分の予想を超える取り組みをしてくれた」という言葉が出たが、まさにその通りであろう。
 コーチの取り組みについては、作戦面に関係することも多いので、ここでは触れないが、選手の取り組みについてなら、この間、何度か練習を見せてもらった僕にも思い当たることはいくつかある。
 一番は、選手の目の色が変わったことである。練習の時間は普段通り、メニューもそんなに変わらない。変わっているのは選手の外見と表情である。上級生になればなるほど、思い詰めたような顔をしている。4年生は前から丸坊主にしているが、3年生の中にも頭をつるつるに丸めた選手が相次いだ。光藤や尾崎は以前から丸坊主だったが、今週に入ってからは松井、西野、光岡、横澤ら試合に先発している面々がそれに続いた。
 言葉数も少なくなり、話しかけても話が弾まない。それぞれが胸の内に不安と焦燥を抱え込んでいるからだろう。
 そんな彼らに、僕は何度も「語り継がれる伝説の学年になるチャンスだ。こてんぱんにやられた相手を、今度はこてんぱんに倒せ。そして伝説になれ」と声を掛けようとした。しかし、当の選手達が一番悔しい思いをしているのに、外野からあれこれ言っても意味はない。一番悔しい思いをしている選手諸君が自ら立ち上がり、まなじりを決して戦うしか道は開けない。そう思って、あえて中途半端な激励は控えた。
 それでも、何かのメッセージは届けたい。そう思って書いたのが、前回のコラムである。それが「言霊」となって選手諸君に届いたというのなら、こんなにうれしいことはない。
 大学、社会人を問わず、大半のチームはすでにシーズンを終えた。大学4年生の大半は引退している。しかし、ファイターズの諸君には、まだまだシーズンが続く。同じ釜の飯を食った仲間と、同じ目的を持った練習が続けられる。その幸せを胸に刻んで、日々の練習に取り組み、さらなる成長につなげてもらいたい。「もう一丁、やったろかい!」
posted by コラム「スタンドから」 at 14:46| Comment(3) | in 2017 Season