2017年01月05日

(35)花いちもんめ

 大晦日から正月2日にかけて、気分は上々だった。
 理由は二つ。大晦日の朝、上ヶ原の第3フィールドで見た2016年最後の練習に手応えがあったこと、2日の夜、自宅近くを散歩中に見上げた空に冴え冴えと光る新月が見えたことである。
 練習では、オフェンスの仕掛けがことごとく成功する。伊豆のパスの精度が上がっているし、OL、WR、RBとの呼吸もぴったりだ。立命館との2度の死闘を制し、早稲田にも付け入る隙を与えなかったことが、オフェンス全体にある種の手応えを獲得させ、一つ一つプレーに自信がついてきたのだろう。
 守備のメンバーも同様だ。ほんの1カ月半前、立命戦を前にしたときのような神経質な雰囲気はなく、みんなが自分のプレー、役割に自信を持った様子が傍目にも感じ取れる。
 「学生はある日突然、大化けする。それを人は若さの特権、成長と呼ぶのだろう」と感じ入り、その夜、書く予定になかったコラム34を一気に書き上げた。
 2日に見上げた新月にもまた、ゲンのよい物語があった。その日は、どこかの国旗のように、三日月がそのすぐ近くに大きく輝く星を抱えていたのである。それが金星(きんせい)と知った時、そうか三日月が金星(きんぼし)を抱き寄せたのかと合点し、「こいつは春から縁起がいいわいなあ」と、思わず歌舞伎役者の口調を真似てしまった。
 けれども、現実はそんなに甘くはない。朝の9時半に東京駅に着き、5時間半もキックオフを待ち続けたが、始まってみれば、攻守ともに相手ペース。QBが前評判通りの速くて正確なパスを投げ続けてペースをつかみ、最初の攻撃シリーズで3点、次のシリーズでもFGの3点を重ねる。
 2度の立命戦、そして甲子園ボウルの早稲田戦では、力とスピードで相手をコントロールしていたDLと的確な判断でボールキャリアに襲いかかっていたLB、DB陣は、この日も元気いっぱいだったが、相手はその上を行く。第3ダウンロングの状況でも、焦らず、慌てず、的確なパスをびしびし決めてくる。あげくに急所では3本のタッチダウンパス。それぞれファイターズの誇るDB陣がしっかりカバーしていたが、ここしかないというポイントに、ドンピシャのタイミングで投げ込まれては、カットもできない。
 学生のリーグでは過去に一度も見たことのないほどの能力を持ったQBに、気持ちよく投げさせては勝ち目は薄い。オフェンスのビッグプレーを期待するしかない状況だったが、相手にはLB、DBにそれぞれ一人ずつ化け物のような外国人選手がいる。でかくて強くて速い。自分のスピードと判断力に自信を持っているから、ファイターズが練りに練ったプレーにも惑わされない。的確にキャリアを見きわめ、即座にフルスピードで襲いかかってくる。
 そうなると、緻密に練り上げ、練習で完成させたプレーも簡単につぶされる。リーグ戦や甲子園ボウルでは相手を支配し続けたOLが割られ、伊豆が逃げ惑う場面が録画場面のリプレイのように繰り返される。
 伊豆はそれでもめげず、WR前田や亀山へのピンポイントのパスを決め、橋本、野々垣、加藤らのRB陣が懸命にラッシュして、パスとラッシュで都合361ヤードを獲得。後半に13点を返して、ファイターズの意地を見せた。
 しかしそれでも、結果は30−13。試合をひっくり返すには至らなかった。「負けて悔しい花いちもんめ」である。
 相手は年齢制限のない社会人の代表。当方は学業を優先し、4年間で卒業していく部員ばかり。そのうえ、社会人は海外から一級の助っ人を獲得できるが、当方は自前で日本の若者を育てていかなければならない。異次元のプレーを展開する外国人4人に対抗できるほどの人材がそうそうそう国内に存在するとは考えにくい。
 今年のチームは、シーズン半ばから急激に成長した。しかし、そのチームをもってしても、鳥内監督の試合後の談話にあった通り「戦術だけで勝てる相手ではない」というのが正直な感想である。だから余計に悔しい。懸命に特別なプレーを考案し、それに磨きをかけて試合で使おうとしても、相手はそれを個人技で突破してくる。時間は4年間、出場できるのは大学生だけ、という制約がある中では、そうした傑出した選手に戦術だけで対抗することは難しいことを思い知らされた。それが悔しい。
 しかしながら、この悔しさを体感し、かみしめて、もう一歩上を目指せるのは、今年のライスボウルに出場できたチームだけである。もし、今年の4年生が昨年、今回のように社会人代表との力の差を体感し、この悔しさを体験していたら、また別の戦い方ができたのではないかとも考える。
 その連続性こそが収穫ではないか。4年生は卒業するが、3年生以下のメンバーは、来年以降、再度チャレンジすることができる。「負けて悔しい花いちもんめ」を「勝ってうれしい花いちもんめ」にするチャンスを掴むべく、新たなスタートを切ろうではないか。この悔しさ、4年生の流した涙は、きっと成長の糧になる。
posted by コラム「スタンドから」 at 10:32| Comment(3) | in 2016 season

2017年01月01日

(34)フィニッシュ!

 12月31日、大晦日の上ヶ原の第3フィールドは快晴。風もないポカポカ陽気だった。気温は計測していないけど、多分、東京ドームの気温と同じぐらいだろう。
 そういう恵まれた条件で、朝の10時から今年最後の練習が始まる。世間は年末の休みとあって、普段の休み以上に、見学と激励に見えるOBも多い。中には今季、Xリーグで富士通と対戦されたOBも見えており、あちこちでライスボウルに向けたファイターズファミリーならではの話題が交わされる。
 こういう場面を見ていると、今季もいよいよ押し詰まってきた、と実感する。実際、明けて正月、3日になれば、もう決戦の当日である。その前に東京までの移動日があり、試合前にはプレーを合わせる程度の練習になるから、実質的には今季、山岸主将が率いるチームの練習は、この日が最終である。
 それだけに、時間は短いが、攻守とも気合いの入ったプレーが次々と繰り広げられた。僕は主としてオフェンスの練習を注目していたが、多彩なプレーが面白いほど進む。ラン、パスを問わず、王道のプレーも、今度の試合に向けた特別のプレーも、ビシバシと決まる。「準備は完了。さあ、決戦だ!」という言葉がぴったりする仕上がりである。
 新聞などには、鳥内監督の「30個ほどスペシャルプレーを準備した」という談話などが掲載され、ファイターズの「奇襲が勝敗の鍵を握る」などと書かれていた。僕の胸の中でもだんだん期待が膨らんできた。
 もちろん、アメリカからの強力な助っ人4人を迎え、日本代表クラスのメンバーで構成する相手は強い。チームを挙げて優秀な人材を育てても、4年で卒業し、毎年毎年、新しいメンバーで勝負しなければならな学生チームがそれに対抗するのは、容易なことではない。JVチームを相手に、面白いほどパスが通り、切れ味の鋭いスペシャルプレーが進んでも、それが東京ドームで通用するかといえば、全くの白紙である。
 それは最近10年ほどの間に、社会人と戦った5回の勝負が物語っている。それぞれ戦前の下馬評を覆して、あと一歩の所まで相手を追い詰めた。試合終了の直前までリードしていたこともある。しかし、最後には地力の差を見せつけられた。「よく頑張った」「素晴らしい戦い振りだった」と僕もこのコラムで書き連ねてきたが、同時に「なぜこの試合を勝ちきれないのか」という悔しい思いを捨て去ることができなかった。
 早い話が「よくやった」「いい試合だった」というだけでは、辛抱できない。今年こそ勝ってくれ、君たちなら勝てる、という渇望にも似た心理状態に陥っているのである。
 実際、今年の山岸軍団は素晴らしい。負傷者がいても、試合が思い通りに進まなくても、選手は一切言い訳せず、ひたすら前を向いて取り組んできた。その精進、鍛錬の軌跡は、関西リーグの後半、関西大以降の戦い振りが証明している。素晴らしいタレントを揃えた立命館を相手に2度の戦いを制し、早稲田の奇襲策にも対応して学生日本1になったことは伊達ではない。甲子園ボウル以降の成長ぶりも、過去のチームに勝ることはあっても劣ることはない。
 しかし、本当の勝負はこれからだ。社会人の強豪を相手に、自分たちの持っている力をすべて出し切れるか。一対一の戦いで勝負出来るか、一つ一つのプレーを思い通りにフィニッシュできるか。そこが問われてくる。
 いくら素晴らしいパスを投げても、受ける方がそれをはじき出されれば、それで勝負は終わり。いくらOLが走路を空けても、ボールキャリアがそこに突っ込むタイミングを違えれば、陣地は進まない。攻撃が何とか得点を重ねても、守備が持ちこたえられなければ勝てない。逆に、守備がことごとく相手を食い止めても、攻撃が振るわなければ負ける。
 15分クオーターの消耗戦をどのように支配し、相手の隙を突いて一瞬の刃を振るえるか。そこでもフィニッシュが問われる。
 相手には、強力な外国人選手に加えて、これまでの先輩たちが散々苦しめられてきた立命など関西学生リーグ出身のメンバーも少なくない。そうしたメンバーを相手に、出場する選手すべてが怖めず臆せず戦いを挑み、一対一の勝負に勝つことができるか。求められるプレーを試合終了の笛が鳴るまで貫徹できるか。
 勝負の綾は奇襲作戦を立てることにあるのではない。それをフィニッシュにまで持っていくこと、そのための泥臭いプレーに、すべての選手がこだわり続けることにかかっている。
 鮮やかな勝利は要らない。泥臭くても、見栄えはよくなくてもいい。グラウンドに立つすべての選手がそれぞれの職分を尽くして勝負して欲しい。その勝負に勝って初めて、道は開ける。
 頑張ろう! 東京ドームを君たちの晴れ舞台にしようではないか。
 4年生の諸君! そしてそれを支え、時にはリードしてきた下級生諸君。その一端を見続けてきた人間の一人として、いまはひたすら諸君のフィニッシュを祈っている。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:45| Comment(0) | in 2016 season