2016年12月26日

(33)「職分」を尽くす

 江戸時代、安定した社会が260年も続いたのはなぜか。
 この問いに対して『逝きし世の面影』『江戸という幻形』などの著作で知られる渡辺京二さんが『無名の人生』(文春新書)で次のように解説しています。箇条書きにすれば、こんなことです。
 @人々が辛いことは軽く脇にそらしてやり過ごす術に長けていた。互いへの気遣いが浸透していたから、お互いが気持ちよく幸せになれた。
 A貧しい暮らしをしている人はもちろんいるけど、決してその暮らしは悲惨ではない。まじめに働けば自分の腕一本で食っていけた。
 B幕府の機構もある意味では民主的だった。士農工商という身分差別は厳格で窮屈だったといわれるが、実は見かけとは違ってかなり民主的な社会だった。
 C司法も公正だった。建前は厳格だったが、その裏では現実的な運用を心掛け、それなりの幅を持たせていた。
 D社会の秩序は、侍にしろ、百姓、町人にしろ、各個人がその社会のなかで持つ「役」が集積してできあがっている。人々はその「役」「職分」に社会的責任を感じており、それがその人にとっての「誇り」の感情だった。つまり「俺はこの職分でもって世の中を支えているのだぞ」という「誇り」のシステムが機能していた……。
 江戸時代の社会という主語をファイターズに置き換えれば、なぜファイターズが東西の強豪チームを相手に、勝ちを呼ぶ込むことができたのか、という理由が納得できると思います。そして、すべての構成員がそれぞれの「役」「職分」を果たすことで、社会人のトップに挑み、勝利を収める道筋も見えてくるのではないでしょうか。
 例えば、@にいう「辛いことを脇にそれしてやり過ごす」です。これを練習と置き換えて考えましょう。ファイターズの練習時間と休憩時間は厳密に管理され、選手を上達させることだけを目標に取り組まれています。コーチや上級生が憂さ晴らしや自己満足のために下級生を「痛めつける」ような練習は一切ありません。シーズン終盤のこの時期になっても、チームで取り組む時間は普段と同じです。チーム全員で取り組む時間は、休憩時間を入れても1時間半ほどです。無理な「根性練」で追い込んでも、マイナスに作用することはあってもプラスになることはない。それよりも、それぞれの部員が目的を共有し、一所懸命に取り組む方が効果が上がると、長い歴史を通じて確信しているからでしょう。
 Aでいえば、みんながみんな選手としての天分を持っている訳ではない。けれども、まじめにチームの活動に取り組めば、必ず自分の持ち味を生かせる場所があると理解すればどうでしょう。フットボールは攻守蹴のパートに分かれ、選手の交代も自由です。足が速い、当たりが強い、相手の動きをいち早く察知できるなど、何か一つ特徴を持ち、それを磨くことで活躍する場所が見つかります。それは選手に限りません。マネジャー、トレーナー、分析スタッフなど、自らの能力を生かす役割はいくつもあります。黒澤明の「7人の侍」に出てくる「その場にいるだけで場が和む人」の役割を果たすことも、立派な貢献です。
 Bは、ファイターズの特徴そのものです。戦後、チームが再スタートした当初から、時の主将が下級生に対して「みんな兄弟や。仲良くやろう」と呼び掛け、風通しのよいチームを作られたのは、よく知られた話です。その伝統はいまも引き継がれ、チームのためになると思えば、下級生が上級生にも厳しく注文を付けます。女子のマネジャーやトレーナーが「どう猛な」男子部員を叱り飛ばします。1年生部員が更衣室の入り口に張り紙をして、室内の整理整頓を呼び掛けた話は、2年前のこの時期、コラムに紹介しました。
 Cは指導者の対応と考えればどうでしょう。鳥内監督は常々「あいつらが勝ちたいというから、手伝っているだけ」といい、部員に「どんな人間になんねん」と問い掛けています。主役はあくまでも部員。その成長を指導者は脇から手助けすることが役割と心得ておられるからでしょう。もちろん、時には厳しい口調で部員をたしなめられることもあります。それは部員が全力を尽くしていないと見えたとき、あるいは浮ついた言動が見られるときなど、指導者としての責任から発せられる言葉です。
 コーチも同様です。誰もが驚く戦術を創造するだけではありません。試合のたびに頑張った選手に贈られる「プライズシール」が象徴するように、選手の貢献度を常に公平に温かく見守っています。指導者にその「職分」を果たすプロとしての創造力と公平な目があるから、選手もまた「明日も頑張ろう」という気持ちになるのでしょう。
 以上、長々と書いてきましたが、一番言いたいことはDにあるすべての部員がそれぞれの「役」「職分」に誇りを持ち、それを完遂する風土がこのチームには存在すると言うことです。先発メンバーも交代メンバーも、それぞれが全知全能を尽くして戦う。スカウトチームのメンバーもまた、試合に出る選手を鍛えるために、全力を尽くす。それもまたこのコラムで書いてきたことです。もちろん、マネジャーやトレーナー、分析スタッフの仕事、役割も必要不可欠です。それぞれがその「職分」に誇りを持ち、俺が日本一のチームを育てる、僕が相手チームを裸にする、ビデオの撮影なら誰にも負けない、と頑張るから、チームのモラルが高くなるのです。
 こうした@からDまでのトータルが立命との2度の力勝負に勝ち、早稲田の幻惑作戦を打ち破る原動力になったのです。ファイターズの戦い方に対して、巧妙な戦術とか試合巧者という表現がしばしば使われますが、そういう上っ面の話ではありません。
 そういう戦術を可能にする部員の精進、監督やコーチの指導力と分析力。そういうもろもろが積み重なった結果としての大学日本1です。大いに誇ればいいと思います。
 しかし、ここからが大切な点です。チームには社会人に勝って日本1、という目標があります。それをどう達成するのか。そこが勝負です。監督の「勝たなアカンねん。よくやった、だけではアカンねん」という言葉に、どう答えるか。本気の取り組みが試されます。
 幸い、残された時間はあります。気持ちを高めて練習に取り組み、勝つための戦術を仕上げて下さい。チームの全員がそれぞれの「職分」において、日本1の取り組みをして下さい。チーム全員のベクトルが一致したとき、化学反応が起きて「日本1」が両手を挙げて飛び込んでくるでしょう。
 健闘を祈ります。
posted by コラム「スタンドから」 at 12:53| Comment(0) | in 2016 season

2016年12月20日

(32)我慢する力

 甲子園ボウルでは初めてまみえる早稲田大学を相手に、ファイターズは堂々の勝利を収めた。31−14。終わって見れば、ダブルスコアである。
 しかしながら、現場で見ている限り、双方の力量に得点差ほどの開きがあったとは到底思えなかった。とりわけ前半は、早稲田の変幻自在な攻撃と思い切った守備体系に幻惑され、振り回された。ひとつ展開が変われば、早稲田の攻撃陣に存分に攻められるのではないかという予感さえした。
 立ち上がりのファイターズの攻撃がその予感に輪をかけた。RB高松のリターンで自陣26ヤードから始まったこのシリーズ。いきなりQB伊豆からWR池永へ30ヤードのパスがヒット。続いてRB野々垣と橋本が確実にヤードを稼ぎ、残る1ヤードは伊豆からWR前田へのパス。17ヤードを稼いで一気に相手ゴール前23ヤード。
 ここまでは順風満帆、計算通りだったが、そこからが攻めきれない。先日の立命戦と同様、FGで3点を狙いにいったが、それが外れてまさかの無得点。前途多難という不安が漂う。
 迎えた早稲田の攻撃。第3ダウンロングの状況で簡単にパスを通され、簡単にダウン更新。前途に不安がよぎる。
 しかしここはLB松本のタックル、CB小椋のパスカットでなんとか相手をパントに追いやり、再び自陣35ヤードからファイターズの攻撃。ここはWR前田と亀山へのパスを立て続けに4本成功させ、RB橋本の中央ダイブ、再び前田へのパスと続けて3度ダウンを更新。仕上げはゴール前11ヤードから伊豆が左オフタックルを抜けてTD。西岡のキックも決まって7−0とリードした。
 これで一安心、と思う間もなくいきなり相手に37ヤードの縦パスを決められてゴール前33ヤード。そこから短いパスを立て続けに決められ、QBのスクランブルにも振り回されて、あっという間にゴール前4ヤード。次のプレーで中央を割られてTD。たちまち同点に追いつかれる。
 やっかいな相手とは聞いていたけど、たしかにその通りである。パスが自在に投げられるQBと走力のある二人のRB。それを自在に使い分けて攻め込んでくる早稲田の攻撃をどう止めるか、対応策はあるのか。スタンドから観戦していても気が気ではない。
 そういう嫌な雰囲気を突破してくれたのがDLの中央に立ちはだかる松本と藤木。とりわけ松本は120キロの巨体からは想像できないスピードで再三相手OLを突破し、QBに襲いかかる。たまらずパスを投げ捨てたが、それが反則とされ、相手の攻撃が続かない。
 ファイターズもDLが一人、残りの10人がLBとDBの位置に並ぶ変則的な相手守備陣に幻惑され、攻撃が続かない。双方ともにパントを蹴り合う状況だったが、その膠着状態を破ったのがRB橋本。自陣29ヤードからの攻撃で一気に36ヤードを走り、相手陣35ヤード。ここから野々垣のラン、伊豆のスクランブルなどで陣地を進め、残る6ヤードをRB加藤が走り切ってTD。まるで先日の立命戦の勝負を決めたTDと同じようなコースを駆け抜ける会心のプレーだった。
 これで息を吹き返したファイターズは、次のキックを相手陣奥に蹴り込む。それをキャッチした相手リターナーが左を走るもう一人のリターナーにそのボールをパスしたが、それが不正な前パスと判定され、早稲田の攻撃は自陣9ヤードから。そこからの第一プレーでDL松本が中央を割って相手QBに襲いかかる。慌ててパスしたボールがすっぽりLB山本の胸に入り、そのままゴールまで9ヤードを走り込んで見事なインターセプトリターンTD。ファイターズが21−7とリードして前半を折り返す。
 それでも早稲田はひるまない。後半の第一シリーズでTDを決め、21−14と追い上げる。こうなると、リードしている方が逆に苦しい。その苦しい場面をファイターズは伊豆の相手陣深くまでのパントでしのぎ、松本を中心としたDL陣が相手QBに圧力をかけ続けて持ちこたえる。膠着状態の中で4Q3分48秒という微妙な時間帯で西岡の21ヤードFGが決まって10点差。
 そうなると守備陣の動きはさらによくなるDE三笠のQBサック、DB小池のインターセプトとたたみかけ、仕上げは野々垣がオフタックルを抜けて21ヤードのTD。相手の反撃も、今度はCB小椋のインターセプトで断ち切ってしまう。最後はけがなどで戦列を離れていた4年生を大量に投入し、喜びのニーダウン。終わって見れば完勝だった。
 しかし、このように得点経過を記しているだけでも、勝利の女神はファイターズにほほえんだかと思うと、今度は早稲田に愛想を振りまく。その繰り返しの中で、勝敗を分けたのは何か。僕は我慢する力において、ファイターズに一日の長があったとにらんでいる。
 それを証明する場面ならいくらでも挙げることができる。例えば、DL松本や藤木が何度も相手ラインを割って相手QBに襲いかかった場面。相手QBがたまらずパスを投げ出す場面が相次ぎ、反則と判定されても仕方なさそうな場面もあったが、判定は単なるパス失敗。それでも腐らず、我慢強く中央を突破し、QBに圧力をかけ続けた。
 それが直接的には相手の攻撃を抑え、間接的にはQBの投げ急ぎを誘って3本のインターセプトにつながった。
 逆に伊豆は、そういう場面でも決して焦らず、我慢のプレーに徹していた。危険な場面では決して投げず、ぐっとこらえて自ら走り、陣地を進める。陣地は進まなくても、ボールを奪われることだけは絶対に避ける。その我慢が結局は仲間の好走、魂のダイブにつながり、ダウンを更新して新たな攻撃、新たな得点に結びつけた。
 ファイターズ側からいえば、リードしている強みを生かしたことになるし、相手側からいえば、追わなければならない焦りがミスにつながったともいえよう。
 甲子園ボウルのような大きな試合では、追う方も追われる方もともに苦しい。その苦しい状況で、どちらが辛抱できるか、我慢できるかという点に勝負の綾がある。
 双方の力を比較すれば、互いに攻守ともに持ち味、決めてがあった。それを存分に発揮した方が勝利に一歩近づくと、僕は試合前から考えていた。その見方は、試合が終わったいまも変わっていない。
 裏返せば、相手の決め手を封じるためにチームの全員がどこまで献身できるか、難しい局面でイチかバチかのプレーに走らず、どこまで我慢するかで勝負が決まるということである。試合展開とその結果からいえば、我慢する力において、ファイターズに一日の長があったということだろう。
 似たようなことを試合後のインタビューで主将の山岸君も言っている。次のような言葉である。関学スポーツから引用させていただこう。
 「勝負所でスペシャルプレーにやられる時もあったが、我慢したい時間帯は我慢できた。いつもピンチの時に回ってくるのがディフェンスチームの役割といってきたので、慌てず対処出来たと思う」
 その通りである。3万5千人の観衆に見守られ、日本1の座をかけた試合。アドレナリンが出まくる大舞台で、攻守のメンバー全員が、我慢するところで我慢し、相手の一瞬の隙を突いて刀を一閃させたというのが今年の甲子園ボウルではないか。そういう我慢する力を身に付け、ここ一番で発揮できたことを、人は成長と呼ぶ。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:34| Comment(1) | in 2016 season

2016年12月14日

(31)GO! FIGHTERS!

 先週末、第三フィールドで練習の始まる前に、4年生DLの元原君と少しばかり立ち話をした。次のような会話である。
 「立命戦すごかったな。感動したよ」
 「みんなよく頑張ってくれました。オフェンスとディフェンスが互いに信頼して、100%の力を出してくれました。やっとチームが一つになったという実感があります」
 「本当に、シーズンの前半はどうなることかと思う試合ばかり。下位のチーム相手に、全然エエとこなかったからな」
 「神戸大戦あたりが最悪でした。これではアカン、とにかく練習から全力でやろうと僕自身も気合いを入れました」
 「たしかに君や堀川君が練習台になって、OLの当たりを真っ向から受け止めてくれたから、日に日にOLが強くなった。負傷者も復帰し、試合でも力を発揮できるようになった。攻める形ができてきたから、攻撃にリズムが出て、それが守備にもいい影響を及ぼしたということかな」
 「それにしても、この時季に目標を持って練習出来るっていいですね。去年はもうシーズンが終わってましたから」
 「そうそう。君らは選ばれたチームや。関西のライバルたちの悔しい思いを背負って全力で戦うことが義務や。去年の悔しさを思い出したら、どんな練習だって苦しくない。ワクワクする気持ちで練習に取り組み、もう一段も二段も力を付けてくれ」
 「はい。頑張ります」
 元原君は関西大倉高校時代はLBで主将を務めていた。期待されて入部したが、度重なるけがやポジションの変更で、なかなか試合で活躍する場面がなく、4年生になっても練習前の早い時間からグラウンドに降り、OLの練習台を務めるのが日課のようになっていた。それでも腐らず、Vの選手を相手に体を張って練習相手を務めてくれた。Vチームの一員となったいまもずっと、その役割を務めてくれている。
 同じポジションの堀川君も同様だ。彼は189センチ、120キロという巨体で、正面からのぶつかり合いでは誰にも負けない、と自負している。確かに、真っ向から当たれば、めちゃめちゃ強い。最近は試合に出る機会が増えたが、それでも練習時には1本目のOLたちを相手に練習台を務め、その特徴を生かして激しく当たりあっている。
 こうした選手は、ほかのポジションにも何人もいる。例えば、ランニングバックの松本直樹君もその一人。毎日毎日、スタメンで出るDBやLBを相手に練習台を務めている。体は小さいが、繰り返し繰り返し素早いスタートを切り、絶妙のカットバックでDBやLBを振り回している。その動きを見ていると、どうしてこれだけ動ける選手が試合に出してもらえないのか、そこまでRBの層が厚くなってきたのか、と思うほどだ。
 同様のことは4年生WRの水野君や細川君についてもいえる。彼らとはほとんど話したことはないけれども、いつも試合前の練習には先頭を切って現れ、同じく早出してきたQB伊豆君を相手にパスキャッチの練習をしている。二人は僕の授業に参加しているメンバーでもあり、先日の小論文では「試合で貢献する機会は少ないかもしれないが、いつも誰よりも早く練習を始め、熱心に取り組む姿を見せることで、後輩たちの模範になることを心掛けている」という意味のことを書いていた。
 こういう部員が攻守ともに何人も存在し、チームを支えているのがファイターズである。彼らが体を張って練習台になり、もっと強く当たれ、もっと素早く動け、と仲間を鍛えに鍛えているからこそ、試合に出る選手は本番でも活躍できるのである。口で言うだけでなく体を張って本物の当たりを教え、見たこともないようなカットバックを見せる。早くからグラウンドに出て、後輩たちに手本を見せる。その繰り返しがあって初めて、試合で力を発揮できる選手が育っていくのである。
 ローマは一日にして成らず、ファイターズも1日にして成らずである。
 そういう練習を師走も半ばになって続けることができる。甲子園ボウルで勝つ、社会人を相手に勝つという、明確な目標を持って取り組む練習。元原君が「この時季も、目標を持った練習ができることがうれしい」という意味はそこにある。
 いよいよ甲子園ボウル。キックオフは18日午後1時5分。ここで一番、練習の成果を披露してくれ。山岸主将が立命戦の後、インタビューでいっていた。「僕たちの目標は日本1ですから」と。日ごろの練習を信じ、立命戦の激闘を支えにして、東の代表を打ち破ってくれ。
 GO! FIGHTERS!
 Fight Hard!
posted by コラム「スタンドから」 at 12:54| Comment(2) | in 2016 season

2016年12月05日

(30)魂のフットボール

 長い間、ファイターズの試合を見てきたが、今日のように力の入った試合はそんなにない。終わって見れば26−17。ファイターズが順当に勝利したように見えるが、とてもとても、そんなに力量差がある試合ではなかった。一つ間違えば、逆の結果が出ていたかもしれないほどの緊迫した勝負であり、敗れた立命館の強さを存分に見せつけられた。
 しかしながらファイターズの諸君は、その強力なチームを相手に一歩も引かずに勝ちきった。オフェンスといわず、ディフェンスといわず、出場したメンバー全員が根性の座ったプレーを展開。文字通り「魂のフットボール」を披露してくれた。
 それを象徴するのが第4Qの半ば、自陣2ヤードから始まったファイターズの攻撃である。前半を20−0で折り返しながら、後半の立ち上がり、相手の思いきった攻めで立て続けに2本のTDを奪われて20−14。さらに第4Qの初めにはフィールドゴールをたたみかけられ20−17。完全に相手にモメンタムが傾き、ファイターズは防戦一方。守備陣がなんとか相手の攻撃を食い止めたものの、ボールは自陣2ヤード。残り時間は6分40秒。
 ここを切り抜けない限り、ファイターズの展望は開けない。しかし、焦って無理なプレーをしてボールを奪われたら、一気に逆転、もしくはFGで同点の場面である。
 流れは完全に相手に移っている。さて、どうするか。
 固唾をのんで見守る場面だったが、ファイターズベンチが選択したのは、QB伊豆からWR松井への縦パス。それが決まって一気に30ヤードをゲインし、局面を切り開く。よくぞこのプレーをコールした、よくぞ投げた、よくぞキャッチした。思わず、そんな感慨がこみ上げた。
 場内の興奮がさめやらぬ中、RB橋本が中央のラン、野々垣へのショベルパスでダウンを更新。守備陣のマークがRBに集まったところで、今度は伊豆がプレーアクションからのキープで一気に16ヤードを前進、相手陣42ヤードに進む。
 残り時間は5分24秒。時間を消費しながら局面を進めたいファイターズはランプレー中心の攻撃だし、相手守備陣もそれを予測して備えている。それでもファイターズが選択したのはRBを徹底的に走らせること。野々垣のランで5ヤード、TE三木へのスクリーンパスで4ヤード、RB山本のランでダウンを更新。続けて野々垣がオフタックルを抜けて11ヤード。さらには伊豆のQBドロー、橋本のカウンターで9ヤードを進め、残りの1ヤードは橋本のダイブ。気がつけば相手ゴール前10ヤードまで進んでいる。
 残り時間は1分41秒。ここでも野々垣が中央を突いて4ヤード、残る6ヤードをRB加藤が左オフタックルを駆け上がってTD。決定的な6点をもぎ取った。
 自陣2ヤードから始まった14回の攻撃。最初の1本こそ松井への意表を突いたパスだったが、後の13回はOLとレシーバー陣が愚直に相手を押し続けて走路を開き、RBやTEが骨をきしませてもぎ取った陣地であり、TDである。まさに「魂のフットボール」と呼ぶにふさわしい内容だった。
 もちろん、この日の勝利は攻撃陣の手柄だけではない。その前に、この前の試合に引き続いて守備陣が大いに奮闘した。DLは松本、藤木を中心に中央のランプレーを阻止し、2列目の山岸、松本、松嶋はサイドから攻め込む相手ランナーを一発で仕留める。3列目も負けてはいない。小椋、岡本、小池を中心に的確なタックルとパスカバーで全く相手を進ませない。テレビ中継の情報では、前半のスタッツがランはマイナス2ヤード、パスが12ヤード。トータルで10ヤードしか進ませず、得点はもちろん、ダウンの更新さえ許さなかったのだから、その奮闘はいくら称えても称えきれない。
 しかし、それでも昨年も王者立命は、そのままで終わるようなヤワなチームではなかった。後半、怒濤のような攻めで立て続けに17点をもぎ取り、一気に流れを引き寄せてしまった。そうなると、守備陣も奮起する。絶妙のインターセプトなどを盛り込んで、ファイターズに攻撃の糸口さえ与えない。
 ヤバイ!ここは踏ん張るしかない。そう思ったときに4年生の山岸や岡本、そして3年生の小椋らが魂のタックルを見せて、決定的なチャンスを相手に与えない。
 その辛抱が最後に実った。最初に紹介した通り、ようやく攻撃権を獲得したオフェンス陣が自陣2ヤードからのシリーズを文字通り体を張り、骨をきしませた攻撃で得点に結びつけたのである。
 見たこともないほど力の入った試合という理由はここにある。関学スポーツの速報によると、試合後のインタビューで鳥内監督が「選手が腹をくくってやってくれた。それを最後まで示してくれた。きわどい場面でも押し負けなかったのが勝因」と語られたそうだが、なるほどと思った。
 いつもは辛口の監督にここまでいわせるチームはそうそうあることではない。それだけ全員が最後まで目の前の強敵に必死懸命に向かっていったということだろう。この闘争心。そして粘り強さ。まさしく「Fight Hard」であり、魂のフットボールである。感動した。
posted by コラム「スタンドから」 at 10:02| Comment(4) | in 2016 season