2016年06月29日

(10)開かれた組織

 身辺多忙につき、しばらくコラムの更新が滞ってしまった。申し訳ない。
 なんせ、今年の誕生日がくれば72歳になるというのに、今も現役の新聞記者であり、編集の責任者。和歌山県の南部限定の小さな新聞社だが、地域の占有率は6割から7割。全国紙を圧倒する読者に支えられている新聞だから、それなりの覚悟を持って働かなければならない。週に3本のコラムと1本の社説を書き、若い記者を育て、時には経営にも口出しする。当然、気の休まる時がない。
 加えて週末には、母校の非常勤講師として「文章表現」の講座も担当している。昨年まではひとコマ20人のクラスだったが、今春からはふたコマに増え、学生も40人になった。授業の進め方も、スライドやパワーポイントを使う今時の手法ではなく、昔ながらの寺子屋方式。毎回、課題を出し、原稿用紙2枚、800字の文章を書かせる。
 僕は帰宅後、それを添削し、講評を書き、点数を付ける。わずか40人と思われるかもしれないが、学生たちが本気で書いた文章である。添削し、講評を書く方も本気で受け止めなければならない。当然、それに費やす時間もエネルギーも半端ではない。
 けれども、母校の後輩たちが少しでも文章を書く力を身に付けてくれれば、感受性を養い、思考力を育てる助けになれば、と思うと自宅から上ヶ原まで徒歩30分の坂道も苦にならない。毎週、授業の始まる20分も30分も前から教室に足を運ぶ。早めに来て、弁当を食べたり、お茶を飲んだりしている受講生との雑談が楽しくてならない。やっぱり大学の講師というより寺子屋のお師匠さんが似合っているのだろう。
 そういう日常にあっても、友人からお遊びの誘いがあれば、喜んで出掛けていく。年齢を重ねると、新しい友人との交際は億劫になるが、その分、古くからの気の置けない仲間とのお遊びは楽しい。家族から白い目で見られても、徹夜でふらふらになっても遊び続ける。
 加えて、6月はチームの主力がメキシコに出掛ける。このコラムのチェックやネットへのアップを担当してくれている小野ディレクターや石割デレクター補佐もそれに同行して留守になる。ここは早めの夏休みにしましょう、と悪魔がささやく。
 そういう次第で更新が滞ってしまった。今週からは気分を一新してまた書き続けます。
 本題に入る。開かれた組織ということである。
 これまでも折に触れて書いてきたが、ファイターズほど外に向かって開かれた組織は珍しい。どの競技、種目を問わず、少なくとも全国のトップレベルで活動する組織は、基本的に勝利至上主義。当然、他チームの情報を入手することには懸命だが、自身の情報を公開することはほとんどない。とりわけアメフットのような戦略と戦術を駆使して勝負する競技においては、まずは「保秘」が最優先の課題になる。
 ところがファイターズに関しては、その常識が当てはまらない。同じ関西学生リーグに属するチームとでも、合同練習をするし、シーズンオフに地方の大学が泊まりがけで練習に参加することも歓迎する。
 シーズンオフには毎年、小野ディレクターや大村コーチらが試合のビデオを公開し、勝負の綾となったプレーの解説や、その戦術を取り入れた背景などを説明する講座も開いている。
 学内から他の競技団体の部員がまとまって練習の見学に来ても、快く内情を披露するし、他競技の高校生が団体で見学に来ても、ていねいに応対する。練習の準備から進め方まで、参考になることはすべて持ち帰って下さい、そしてチームを強くして下さいというのだ。
 どうして、こうしたオープンマインドなチームができたのか。
 僕が出した答えは二つある。一つはフットボールという競技の魅力を広めるために、互いに切磋琢磨する環境を保証しよう、そのためには長い歴史を持ち、フットボールに関するいろんな知識を蓄えているファイターズがその知識を公開し、全体の底上げを図ろうという意図。もう一つは関西学院大学体育会の中でも、極めて優れた組織運営をしているノウハウを他の体育会メンバーにも公開することで、関西学院の課外活動のレベルアップを図ろうという目的。この二つがあって、他に類をみない「開かれた組織」が運営されているのだろう。
 こうした「開かれた組織」を裏付けるのが毎年、朝日カルチャーセンターで開かれる小野ディレクターによる公開講座「フットボールの本当の魅力」。今年は8月26日午後7時から、阪急川西能勢口駅前の川西アステ6階アステホールで開かれる。今回はより広く一般の関学生にも参加してもらおうと、講師の特別な配慮により、関西学院の学生(学生証の提示が必要)を対象に「特別割引価格」が用意されている。
 詳細は、下記、朝日カルチャーセンターのホームページを参考にして下さい。
https://www.asahiculture.jp/kawanishi/course/75384e9d-5946-b400-248f-5750e569c730
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2016年06月07日

(9)登竜門

 登竜門という言葉がある。辞書には「中国・黄河上流の急流。ここを登り切る鯉は化して竜となるという言い伝えがあり、元来は出世の糸口をつかむの意」というような説明がある。「難しい関門とか運命を決めるような大切な試験のたとえ」とも説明している。
 ファイターズにおいては毎年、春のシーズン最後に行われるJV戦がそれに相当するだろう。1年間、みっちり体力を養い、学年を一つ重ねて飛躍を期している2年生や3年生。今春入学して2カ月余。ようやくファイターズの水に慣れ、チーム練習にも参加させてもらえるようになったフレッシュマン。昨秋の関西リーグでは出番のなかったそうした面々にとっては、ここで力を発揮し、鯉が竜になる手掛かりをつかむ大事な試合である。逆に、ここで力を発揮することができず、選手としての活動に見切りを付け、新しくスタッフとして転出していった先輩たちも少なくない。
 5日、上ヶ原の第3フィールドで行われたサイドワインダーとの戦いがそのような試合だった。
 先発メンバーを見ると、オフェンスでは左のラインに松永と川辺(ともに箕面自由)が並び、WRにはこれまた期待の阿部(池田)。今春、入学したばかりの新人が3人も名前を連ねている。主要な交代メンバーでは背番号の若い順にK安藤、WR平尾、DB小川、山本、畑中、RB斎藤、DB吉野、LB田中、藤田優、DL寺岡、OL長谷川、森、WR前田、勝部、DL本田、TE藤田統、DL藤本の名前が見える。先日の関大戦や近大戦に出場していたメンバーもいるが、この日が初めてというメンバーの方が多い。
 スポーツ選抜入試を突破して入学したメンバーの顔は分かるが、高等部や啓明学院から来た選手はまだ名前と顔が一致しない。それでも「今年のフレッシュマンはいいですよ」という話を折に触れて聞き、自分の目でも確かめてきただけに、彼らの活躍が楽しみでならない。
 もちろん2年生になって、ようやく出場機会を得た選手たちからも目を離せない。高校野球界で鳴らしたWR小田、QBからDBに転向した西原、DLからTEに転向したばかりの荒木。僕の授業の受講生であるDB徳田、DL筒井、LB倉西の動きもチェックしなければならない。
 おまけに相手は社会人。チーム練習の機会こそ学生が勝っているが、彼らには経験と実績、それに鍛え上げた体がある。見ただけでも気後れしそうな巨体を誇る選手もいるし、何よりチームを率いるエースQBが14年に卒業したばかりの前田龍二君だ。エースQB斎藤圭君のカバー要員として機敏な動きを見せていた選手であり、シーズン後半には立命館や関大を想定したスカウトオフェンスのリーダーとしても活躍した。おまけに彼からパスを受けるメーンターゲットが今春卒業したばかりのWR木村圭祐君である。JVのメンバーにとっては「胸を借りる」のに格好の相手である。
 試合はファイターズのキックで始まる。相手陣20ヤードから始まったサイドワインダーズの攻撃をこの試合から復帰したばかりのDL松本が完全にコントロールし、一歩も前に進ませない。3プレー目、たまらずに投じたパスをこれまた今季初登場の主将、山岸が余裕でインターセプト、そのまま30ヤードを走り切ってあっという間にTD。K泉山のキックも決まって7−0。
 けがや手術のため昨シーズン終了直後から長く戦列を離れていた二人だが、さすがに下級生の頃から守備の要として活躍してきた選手である。プレーのスピードはあるし、破壊力も抜群。相手の動きを読む目も全くブランクを感じさせない。秋の活躍は100%保証できるというできばえだった。
 しかし、彼らがベンチに引き上げたあとは両軍ともなかなか攻撃が続かない。せっかく攻撃が進んでも反則で帳消しにしたり、レシーバーが空いているのにパスが乱れたり。ようやく2Q10分42秒、QB西野が16ヤードを走り込んでTD。この日が初出場のK小川のキックも決まって14−0。
 後半になると、炎天下の戦いで疲れたのか、相手の反応が徐々に遅くなってくる。それに乗じて3Q8分43秒、西野からTE荒木へのパスがヒットしTD。最後にK小川が30ヤードのフィールドゴールを決め、24−0でファイターズが勝った。
 さて、注目していた鯉たちは龍門の急流を突破し、首尾よく竜になれたかどうか。この日の公式記録には次のような数字が並んでいる。ラッシングではそれぞれ2年生のQB西野が6回52ヤード、RB中村行が6回45ヤード、RB富永が7回33ヤード。そして1年生の斎藤が3回16ヤード。
 パスレシーブでは1年生の阿部が4回75ヤード。ともに2年生の小田が3回46ヤード、荒木が3回24ヤード。インターセプトは最初に紹介した山岸とゴール前で相手パスをもぎ取った1年生LB藤田優の2人。
 もちろん、わずか1回の試合で評価するのは難しいし、守備陣や攻撃ラインの活躍振りは、こうした記録にはほとんど現れない。けれども、この日の試合を見ただけで、秋には必ず登場し、活躍してくれそうな選手、竜になりそうな選手が攻守ともに何人も見つかった。大きな収穫だった。
 付記
 この試合で、終始学生に押されていた相手チームだが、その中にあってQB前田がWR木村にミドルパスを何本か通した。背番号11から10へ。パスが通るたびに、思わず二人に拍手を送った。ファイターズ・スカウトチームの中心になってチームを支えてくれた卒業生が社会人になっても活躍してくれているのがことのほかうれしかった。とくに付記しておきたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 22:58| Comment(1) | in 2016 season