2016年05月03日

(5)指導者の哲学

 1日、5月の光を浴びて新緑がまぶしい。そんな王子スタジアムに青と赤の戦士が顔を揃える。シーズンが開幕したばかりというのに、もう日大との戦いである。毎年春、東京と関西で交互に開催される定期戦だが、あの赤いユニフォームを見ただけで、特別の感慨がある。僕のようなスタンドからの観戦者でさえ、胸が高鳴るのだから、実際にグラウンドで相まみえたOBたちの胸中はいかばかりか。
 試合前、日大フェニックス全盛期のプレーヤーで、いまは共同通信の記者をされている宍戸博昭さんの顔が見えたので、少しばかり話をした。時候の挨拶程度だが、握手を交わすと、一気に距離が縮まる。そういうことができるのも、互いに東西の雄として覇を競い、日本フットボール界を支えてきた両チームの存在があってこそだ。本当にありがたいライバルである。
 先発メンバーを見る。けがのため今季はまだ一度も試合に出場していない主将山岸、副将松井に加え、この日は攻守の大黒柱、QB伊豆、DL松本も負傷のため名前がない。将棋で言えば飛車と角、野球で言えばエースと4番打者を欠いたまま、まともに試合ができるのか。思わず不安が横切る。同時に、いやいや、今日は若手の力を試すチャンス。攻撃で言えばQB百田、C光岡、WR松井、守備でいえばDL柴田、DB横澤、LB松本ら2、3年生の力を試す絶好の機会である。高校時代から注目されていたタレントが揃い、海外からのメンバーも充実している日大にどこまで力を発揮できるのか。勝敗よりも、彼らの活躍振りに焦点を当てて応援席に座る。
 ファイターズのキックオフで試合開始。DB岡本の強烈なタックルで相手のリターンを止め、日大の攻撃は自陣22ヤードから。そこで横澤がロスタックル、続いて柴田がQBサック。あっという間に攻撃権がファイターズに移る。
 しかし、日大の守備陣も強い。ファイターズは3回連続中央のランプレーを選択したが、全く進まない。K西岡がパントを蹴って日大に攻撃権が移る。逆に日大はQB高橋の短いパスで陣地を稼ぎ、簡単にダウンを更新。次は強力なランプレーで陣地を進める。これは手強いぞと思った瞬間、横澤が狙い澄ましたように相手パスを奪い、攻守交代。
 相手陣29ヤードから始まったファイターズの攻撃だが、ここでもランが進まず、パスも通らない。仕方なくFGを選択。42ヤードと結構難しい距離が残されたが、西岡が落ち着いて決め、ファイターズが先制。
 次のプレ−で再び副将岡本が奮闘。相手リターナーがファンブルしたボールを素早く確保してターンオーバー。再び相手陣25ヤードからファイターズの攻撃が始まる。しかしながら相手守備陣は強い。中央のランプレーが止められ、再びFGにトライ。距離は40ヤードだったが、ここも西岡が冷静に決めて6−0とリードを広げる。とはいえ、相手守備は強いし、攻撃も強力なランナーが次々と押し込んでくる。じわじわと陣地を進められ、気がつけばゴール前10ヤード。そこでTDパスを決められ、あっという間に逆転。守備陣の活躍でつかんだ2度の好機になんとか手に入れた6点をあっさりひっくり返されてしまう。
 しんどい試合になりそうだ、と覚悟していたら、今度はQB百田が居直った。自陣23ヤードから始まった攻撃でいきなりWR松井に27ヤードのパスをヒット。続くシリーズは山口、加藤、橋本のRB陣が立て続けに相手守備陣を交わしてゴール前27ヤードまで前進。一度は反則で39ヤードまで下げられたが、そこから百田がゴールポストの下に走り込んだWR水野に思い切りのよいパスを投げ込みTD。西岡のキックも決まって、再び主導権を取り戻す。
 この場面、相手DBのカバーもよかったが、それ以上のスピードで走り込んだレシーバーとQBの呼吸がぴたりと合い、これぞ「パスの関学」と思わせる見事なパスプレーを見せつけた。
 こうなると、大きな試合の経験が少ない百田も落ち着く。再三のドロープレーでRBを走らせ、要所でWR亀山や前田、松井にパスを通す。4Qの終盤には前田へのTDパスをきれいに決めて23−10。
 残り時間は4分足らず。だが、日大陣12ヤードから始まった日大の攻撃が執拗に続く。強力なRB陣のランとパスを交互に使い分け、時間と競争するように陣地を進めてくる。それを断ち切ったのが、またもや横澤。相手QBの動きを冷静に見据え、狙い澄ませたタイミングでパスコースに体を入れて相手ボールを奪い取った。
 残り時間は9秒。攻撃権はファイターズにある。誰もがニーダウンで試合終了と思ったところで、ファイターズベンチはタイムアウトを要求。再度、プレーする意向を見せる。
 瞬間、なんでやねん、と思ったが、次のプレーでボールを持たせたのがRB中村行。そう、先週のJV戦で大活躍した選手である。
 「そうか、これは先週の活躍に対するご褒美か」と思った僕は、思慮が足りなかった。
 試合後、報道陣のインタビューを終えた鳥内監督に、最後の場面の意図を訪ねると、こんな説明が返ってきた。
 「経験の少ない選手がこういうタフな相手にどれだけやれるか試したかった」「中村だけじゃないですよ。ラインの池田や生瀬の動きも見たかったんです。彼らが、こういう場面でどんな動きをするか、それを見たいから最後までやったんです」
 なるほどと思った。せっかくのライバルとの戦いである。まだ1軍の試合経験の少ない選手が日大相手にどんな動きをするか。相手の強さを肌で感じて、それを今後の取り組みにどう生かすか。そんなことを考えると、たとえ1プレーであっても、そんな選手にプレー機会を与えたい。そういう話だった。
 感服した。あらゆる機会を捕まえて選手の力を引き出そうとするファイターズの監督やコーチの哲学が、その一言に垣間見えた。この説明を聞いて、僕はライバルとの試合に勝ったこと以上にうれしかった。
posted by コラム「スタンドから」 at 11:52| Comment(2) | in 2016 season