2016年05月25日

(8) 残り34秒からの思惑

 春の関大戦は、毎年のようにきわどい勝負になる。ここ10年をファイターズ側から振り返っても、2006年から順に16−10、28−10、3−0、11−10、18−0、31−7、30−34、21−20、38−14。昨年は、最終のスコアこそ23−3だったが、前半は6−3。互いに秋の試合を想定して、決定的な手の内は見せず、双方ともに基本的なプレーだけで戦っているように見えるが、毎年、中身の濃い戦いを見せてくれる。
 今年も例外ではなかった。22日午後2時、晴れ渡ったエキスポフラッシュフィールドでキックオフ。その直前にカリフォルニア大学バークレー校の華やかなマーチングバンドのドリルがあり、大いに盛り上がったフィールドで、双方ともに一歩も引かない戦いを繰り広げた。互いに好敵手と認め、気力、体力、知力を存分にぶつけ合うからだろう。前半、双方ともに急所で相手の攻撃の芽を摘み取り、0−0で終わった展開が激しい攻防を証明している。
 試合が動き出したのは第3Q。自陣14ヤードから始まった攻撃で関大がランと短いパスを組合わせて2度ダウンを更新。ファイターズ守備陣の目が中央に引き寄せられたところで、相手QBが長いパス。それが見事に決まってTD。それまでの膠着状態が嘘のような65ヤードのTDパスとなった。
 しかし、相手のトライフォーポイントが決まらず得点は0−6。
 その直後のファイターズの攻撃。伊豆から交代したQB光藤が歯切れのよい攻撃を指揮する。まずはWR前田への短いパスとRB橋本の14ヤードランでハーフライン近くまで陣地を進める。初めて対戦するQBに相手守備陣が「勝手が違うぞ」と戸惑っている様子がスタンドにも伝わってくる。その隙をついてチームが選択したのがQBキープ。光藤が鮮やかなステップで1、2列目を抜き去り、一気に55ヤードを走り切ってTD。K西岡のキックも決まって7−6と逆転。
 試合が動き出すと、相手の攻撃陣にもリズムが出てくる。関大は自陣26ヤードから始まった攻撃をパスとQBのスクランブルを組合わせて立て続けにダウンを更新。あっという間に関学陣34ヤードまで攻め込んでくる。
 ここは守備陣が奮起してなんとか攻撃を食い止めたが、相手のパントが絶妙で、ファイターズの攻撃は自陣5ヤードから。まずはRB野々垣のランで5ヤードを稼ぎ、最悪でもパントを蹴れる位置まで陣地を回復。その直後のプレーがすごかった。
 2年生RB山口がオフタックルを抜けた途端、抜群の加速力で相手守備陣を突破して独走する。スピードのある相手DB2人が追いすがるが、ファイターズWRの的確なブロックと山口自身の切れのよいカットで振り切り90ヤードのTD。90ヤードをあっという間に走り切ったスピード、トップスピードで駆け抜けながら瞬時にカットを切れる能力。これぞファイターズの最終兵器、と呼ぶにふさわしい走りを見せてくれた。
 光藤の独走TDに続く山口の独走TD。ともに2年生になったばかりの二人の思い切りのよいプレーに守備陣も奮起する。相手がランとパスを組合わせてゴール前まで攻め込んできたところでDB小池が鮮やかなインターセプト。そのまま47ヤードを走りハーフライン付近まで陣地を回復、攻撃陣を楽にする。
 続く攻撃シリーズは、光藤が同じ2年生WR松井にパスを通し、仕上げは西岡のFG。17−6として、ようやく勝利が見えてくるところまで持ち込んだ。
 この前後からファイターズは攻守ともに交代メンバーを続々起用。つい先日のJV戦に出場していた面々が次々に登場する。よく見れば、今春入部し、まだ上級生の練習に加わったばかりの1年生も出ている。僕が確認できただけでも、背番号の若い順にDB小川(高槻)、DL寺岡、LB大竹(以上高等部)、OL川辺、松永(以上箕面自由)が物怖じしないプレーをしていた。ほかにWR阿部(池田)、OL長谷川(啓明学院)の名前もメンバー表に掲載されていたから、どこかで出場していたのかもしれない。
 驚いたのは、試合終了間際。関大がインターセプトからTDを決め、17−13と追い上げた後のファイターズの選択である。相手が攻撃権の続行を狙ったオンサイドキックをファイターズが抑えたところで、残り時間は34秒。次のプレーでニーダウンすれば試合終了という場面だったが、なんとファイターズベンチが選択したのは攻撃の続行。残された2度のタイムアウトを立て続けにとって時計を止め、とうとう3プレーをやりきった。
 万一、ファンブルでも起きて、攻撃権を相手に渡したらどうなるのか。独走されたら逆転の目もあるのに、なんと危険な選択であることよ、と思ったが、その場に出場しているメンバーを見て納得がいった。
 「普段、出場機会の少ない選手に、関大の強力なメンバーの当たりや動きを体験させるための仕掛けに違いない」「普段の練習は味方の選手達。血相変えてかかってくるライバルの当たりとは質も違うし強さも違う。せっかく強い相手と戦うのだから、たとえ1回でも2回でも本物の当たりを体験させたい」。そう考えたのに違いない。
 試合終了後、帰り支度をしている鳥内監督に聞くと、その通りの答えが返ってきた。
 それにしても貪欲なことである。
 「あらゆる機会を捉えて、選手に成長のきっかけをつかませたい」「目先の勝ち負けにこだわって、新たな戦力の育つ機会を失ってはもったいない」。常にそういうことを考え、実行する監督やコーチの本音を「残り34秒からの2度のタイムアウト」に見ることができて、僕はライバルとの試合に勝った以上にうれしかった。
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2016年05月18日

(7)這い上がる者

 15日は、上ヶ原の第3フィールドで、JV戦。相手は昨年まで関西学生リーグの1部で頑張っていた近大。今季は2部に降格しているが、能力の高い選手を揃えた実力校である。3週間前に手を合わせた京産大以上に手強いチームであり、ファイターズの選手にとっては、自分たちの力を試す格好の相手といえよう。
 メンバー表を手にして登録選手の名前と背番号を確認する。先発メンバーには期待の2、3年生に混じってこれまでVの試合でも活躍していた上級生の顔が何人か見える。4年生ではDLの大野、堀川、LBの岩田、OLの清村、3年生ではDLの藤木、RBの山本らである。それぞれにVのメンバーとして経験を積んだ選手だが、けがなどで長く戦列を離れていただけに、彼らがどの程度まで回復しているのか。それを確認することが第一の興味である。
 二つ目は、この試合から初めてメンバー表に登録されたフレッシュマンの動向。2週間ほど前から、体力的な数値がチームの基準をクリアした選手がチーム練習に合流し、ヘルメットに赤いバツ印を付けて「ならし運転」をしているが、この日はその中から「大学の試合に出しても大丈夫」と判断された5人が登録されている。
 WR阿部(池田)、DB小川(高槻)、RB斎藤(富士)、LB大竹(高等部)、OL松永(箕面自由)。大竹以外はスポーツ選抜入試でファイターズの門を叩いた選手であり、昨年の夏、一緒に小論文の勉強会をやったメンバーである。いち早くチームに合流した彼らがどんなプレーを見せてくれるか。まるでわが子の活躍に期待しつつ、大学のデビュー戦をけがなく乗り切ってくれと願う保護者のような気持ちで彼らに注目した。
 試合はファイターズのレシーブで始まり、自陣20ヤードからの攻撃。だが、QB百田からのパスが通らず、簡単に攻撃権を渡してしまう。しかし、ファイターズのディフェンスは強い。ハーフライン付近から始まった近大の攻撃を藤木や岩田のタックルで完封し、近大もまたパントを蹴る。
 そのボールがゴールライン間際まで転がり、ファイターズの攻撃は自陣1ヤードから。ここで百田が投じたパスをレシーバーがはじき、浮いたボールを相手ディフェンス陣が抑え、痛恨のターンオーバー。ゴール前1ヤードから近大の攻撃に代わる。それを一発でTDに結び付け近大が7−0とリードする。
 思わぬ失点で気合いを入れ直したのか、次のファイターズの攻撃はテンポよく進む。百田からWR清水へのパス、RB山口の中央突破、RB北村のドロープレーでハーフライン近くまで進出。そこから今度は山口が40ヤード近くを独走してゴール前13ヤード。北村と富永のランプレーでTDに結び付けた。
 次の攻撃シリーズも、百田が短いパスを立て続けに通して陣地を進め、相手陣32ヤードから北村が独走してTD。K西岡のキックも決まって14−7と逆転。第4QにもRB富永が相手守備陣を交わしてTD。23−10で勝利を手にした。
 こうした得点経過を紹介すれば、個人の能力が高い近大を相手に、JVのメンバーもよく頑張ったという印象を持たれるかもしれない。しかし、スタンドで目の前のプレーに集中していると、そういうお気楽な内容ではなかった。試合後、隣で観戦していた友人は「あんまり収穫はなかったな。今日のメンバーでは、Vのメンバーとやるにはシンドイんと違うか」というし、僕もまた「現状では、Vに這い上がっていくメンバーは限られてるな」と相づちを打つしかなかった。
 試合後、関学スポーツの記者が集めてくれた監督や主将の談話もみな辛口だった。鳥内監督は「今日分かったのは、交代メンバーの力はまだ厳しいということ。まだまだダメ」。山岸主将は「試合に出る出ないに関わらず、本当に勝ちたいと思ってやっている選手が少ない」「このまま気持ちがゆるんだ状態で秋を迎えるとおそらく負ける」と厳しいコメントを寄せている。
 実際その通りだろう。相手が必死に声を出して仲間を鼓舞し、一歩でも半歩でも前に進もうと気迫を体中から発散してプレーしているのに、ファイターズの諸君はどこか冷めたようなプレーが多かった。必死懸命さが伝わってこなかった。例えばパントリターンにしても、相手はすべてキャッチして密集の中に突っ込んでくるのに、わが方は安全第一。スタンドからは捕ってリターンができそうな状況に見えても簡単に見送ってしまう。ファンブルすることを恐れたのかもしれないが、あまりにも消極的に見えた。
 そんな中、4年生RB北村の動きだけは期待を裏切らなかった。先日来、彼の言動を身近に見て、今日は絶対に彼が活躍する、とひそかに期待していたので、彼の闘志あふれるプレーが特別にうれしかった。
 正直にいうと、ほんの1カ月前までは、彼のことを数多くいるRBの中の一人、野球部からきた選手、という程度にしか認識していなかった。何よりファイターズのRB陣はメンバーが揃っている。突破力のある橋本、山口、山本。俊敏なカットバックランナーには高松、加藤、野々垣がいる。大きな試合の出場経験も積んでいる彼らを押しのけて、高校まではフットボールと無縁だった彼がVチームに這い上がるのは容易ではない。
 それでも彼に注目していたのは、彼の向上心、ファイターズの4年生としての強い意志が今季の練習が始まって以来、常に際立っていたからだ。
 例えば、先日、武術家の甲野善紀さんが第3フィールドにお見えになったときも、彼が誰よりも熱心に先生の技を体験し、質問もしていた。日ごろの練習時にも、下級生に何かと声を掛けて鼓舞し、いろいろアドバイスしている姿をよく見掛ける。選手としての序列、試合に出してもらえる順番では下かも知れないが、練習時の行動では常に率先垂範。その姿を目にしていたから、彼が1ヤードでも前へと密集に飛び込んだり、ラインの外に押し出されそうになりながら、最後まで足を止めずTDに結び付けたりしたプレーを間近に見て「よっしゃー、Vに這い上がるのはこいつだ!」と確信した。
 こういうプレーを身近に見られるから、JV戦は面白い。だが、期待の1年生のことを書くスペースがなくなった。それは次回以降のお楽しみとしておこう。
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2016年05月12日

(6)術と呼べるほどの技

 先週末、ファイターズの諸君が練習している上ヶ原の第3フィールドに、珍しい先生が見えられた。和服に袴、高下駄を履いて、手には日本刀。日本武術界では知る人ぞ知る甲野善紀先生である。
 ファイターズの部員たちに、武術的な体の使い方を応用した技が導入できないか、何かヒントをいただけないかという大村コーチからの要請に応え、20年近く前から親しくしてもらっている縁で僕が声を掛けた。数学者、森田真生さんとの「この日の学校」が京都であるというので、ついでに西宮まで足を運んでいただいたのである。
 しばらく練習を眺めてもらった後、稽古着に着替え、人工芝の養生のために高下駄を運動靴に履き替えてグラウンドに降りられる。僕が「日本で一番強い武術家です。年齢は67歳。体型も71歳の僕とほとんど変わりませんが、恐ろしいほどの技が使える人です」と支離滅裂な紹介をし、すぐに実演が始まる。
 最初はサッカーやバスケットボールでよく見掛ける競り合いの状態で甲野さんを止められるかどうかの実演。体重が100キロを超すOLたちが相手になるが、当然のことながら止められない。体重は60キロにも満たず、見た感じは普通のおじさんに、なぜ、やすやすとあしらわれるのかと不思議そうに首をかしげる選手たち。
 続いてRBやWR陣を相手に、ハンドオフつぶしの技やタックルしてきた相手をはね飛ばす技を次々と披露。気がつけば、相手になった選手たちは興味津々。実技のやりとりを見守るだけのメンバーは何が何だか分からないという表情。そのうち、何人かの選手が見よう見まねでその技を試みると、結構、相手に通じる。逆に、タックルに行った選手たちはなぜ、相手に抜かれるのかと首をかしげ、はね飛ばされた腕を痛そうにさすっている。
 周囲の反応の良さに先生も興が乗ってこられたのか、階段を3段跳びで上る術や「虎ひしぎ」というとっておきの術を次々と披露される。そのたびに座が盛り上がり、最後には日本刀を抜いて瞬時に切り違える演武まで披露。さらには、肩や腰など体を痛めている何人かの選手に「祓いの太刀」をかけるサービスまでして下さった。
 実は、甲野先生にグラウンドに来ていただいたのは、今回が初めてではない。10数年前に2度ばかりお招きし、タックルする選手をかわす技などを披露してもらったことがある。しかし当時、相手をした部員たちは、先生の技と奇妙な感覚に首をかしげるばかりで、どのようにフットボールに応用できるのか全く見当がつかない、という状態だった。
 今回のように選手が次々と先生の相手をし、その不思議な技を体で受け止め、それをなんとかフットボールに応用できないかと試す場面はなかったと記憶している。
 甲野さんの言葉を借りると「10年前の私と今の私では、技の内容が格段に変わっています。以前はまったくできなかったことができるようになっているので、その分、相手をして下さる方も驚かれ、反応も変わってきたのでしょう」ということだった。
 しかし僕は、それ以上に選手の意識が変わってきたことが大きいと思っている。もっと強くなりたい、そのためにはどうすればいいのか、ということを日ごろから考え、実行していることが背景にあると考えるのだ。今春から取り組んでいる早朝からの筋力トレーニング、その後の食事と体を休めるための昼寝、あるいはヨガの講習。それぞれが目的を持ち、その成果が例えば体重増などの形で実感できているから、初めて目にする武術的な体の使い方にもすんなり入っていけたということではないか。
 実戦で役に立つ技、術と呼べるような体の使い方への道は、そういう好奇心、探求心、実行力があってこそ開ける。その端緒を選手やコーチたちは、甲野先生の技を自分で体感することでつかんだのではないか。だからこそ、技をかけてもらった選手たちが次から次へと甲野さんに立ち向かっていったということだろう。
 後日、東京に戻られた先生から「指導者も選手たちも熱心に食いついてくれた。新しい技を取り入れようとするコーチや選手たちの熱意に触れて、気持ちのよい時間が過ごせました」とお礼の電話があった。
 尊敬する師匠からそんな風にいっていただけて、ファイターズの選手たちをあらためて誇らしく思った。同時に「術と呼べるほどの技」を身につけ、並み居るライバルたちをなぎ倒してほしいと願った。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:11| Comment(1) | in 2016 season

2016年05月03日

(5)指導者の哲学

 1日、5月の光を浴びて新緑がまぶしい。そんな王子スタジアムに青と赤の戦士が顔を揃える。シーズンが開幕したばかりというのに、もう日大との戦いである。毎年春、東京と関西で交互に開催される定期戦だが、あの赤いユニフォームを見ただけで、特別の感慨がある。僕のようなスタンドからの観戦者でさえ、胸が高鳴るのだから、実際にグラウンドで相まみえたOBたちの胸中はいかばかりか。
 試合前、日大フェニックス全盛期のプレーヤーで、いまは共同通信の記者をされている宍戸博昭さんの顔が見えたので、少しばかり話をした。時候の挨拶程度だが、握手を交わすと、一気に距離が縮まる。そういうことができるのも、互いに東西の雄として覇を競い、日本フットボール界を支えてきた両チームの存在があってこそだ。本当にありがたいライバルである。
 先発メンバーを見る。けがのため今季はまだ一度も試合に出場していない主将山岸、副将松井に加え、この日は攻守の大黒柱、QB伊豆、DL松本も負傷のため名前がない。将棋で言えば飛車と角、野球で言えばエースと4番打者を欠いたまま、まともに試合ができるのか。思わず不安が横切る。同時に、いやいや、今日は若手の力を試すチャンス。攻撃で言えばQB百田、C光岡、WR松井、守備でいえばDL柴田、DB横澤、LB松本ら2、3年生の力を試す絶好の機会である。高校時代から注目されていたタレントが揃い、海外からのメンバーも充実している日大にどこまで力を発揮できるのか。勝敗よりも、彼らの活躍振りに焦点を当てて応援席に座る。
 ファイターズのキックオフで試合開始。DB岡本の強烈なタックルで相手のリターンを止め、日大の攻撃は自陣22ヤードから。そこで横澤がロスタックル、続いて柴田がQBサック。あっという間に攻撃権がファイターズに移る。
 しかし、日大の守備陣も強い。ファイターズは3回連続中央のランプレーを選択したが、全く進まない。K西岡がパントを蹴って日大に攻撃権が移る。逆に日大はQB高橋の短いパスで陣地を稼ぎ、簡単にダウンを更新。次は強力なランプレーで陣地を進める。これは手強いぞと思った瞬間、横澤が狙い澄ましたように相手パスを奪い、攻守交代。
 相手陣29ヤードから始まったファイターズの攻撃だが、ここでもランが進まず、パスも通らない。仕方なくFGを選択。42ヤードと結構難しい距離が残されたが、西岡が落ち着いて決め、ファイターズが先制。
 次のプレ−で再び副将岡本が奮闘。相手リターナーがファンブルしたボールを素早く確保してターンオーバー。再び相手陣25ヤードからファイターズの攻撃が始まる。しかしながら相手守備陣は強い。中央のランプレーが止められ、再びFGにトライ。距離は40ヤードだったが、ここも西岡が冷静に決めて6−0とリードを広げる。とはいえ、相手守備は強いし、攻撃も強力なランナーが次々と押し込んでくる。じわじわと陣地を進められ、気がつけばゴール前10ヤード。そこでTDパスを決められ、あっという間に逆転。守備陣の活躍でつかんだ2度の好機になんとか手に入れた6点をあっさりひっくり返されてしまう。
 しんどい試合になりそうだ、と覚悟していたら、今度はQB百田が居直った。自陣23ヤードから始まった攻撃でいきなりWR松井に27ヤードのパスをヒット。続くシリーズは山口、加藤、橋本のRB陣が立て続けに相手守備陣を交わしてゴール前27ヤードまで前進。一度は反則で39ヤードまで下げられたが、そこから百田がゴールポストの下に走り込んだWR水野に思い切りのよいパスを投げ込みTD。西岡のキックも決まって、再び主導権を取り戻す。
 この場面、相手DBのカバーもよかったが、それ以上のスピードで走り込んだレシーバーとQBの呼吸がぴたりと合い、これぞ「パスの関学」と思わせる見事なパスプレーを見せつけた。
 こうなると、大きな試合の経験が少ない百田も落ち着く。再三のドロープレーでRBを走らせ、要所でWR亀山や前田、松井にパスを通す。4Qの終盤には前田へのTDパスをきれいに決めて23−10。
 残り時間は4分足らず。だが、日大陣12ヤードから始まった日大の攻撃が執拗に続く。強力なRB陣のランとパスを交互に使い分け、時間と競争するように陣地を進めてくる。それを断ち切ったのが、またもや横澤。相手QBの動きを冷静に見据え、狙い澄ませたタイミングでパスコースに体を入れて相手ボールを奪い取った。
 残り時間は9秒。攻撃権はファイターズにある。誰もがニーダウンで試合終了と思ったところで、ファイターズベンチはタイムアウトを要求。再度、プレーする意向を見せる。
 瞬間、なんでやねん、と思ったが、次のプレーでボールを持たせたのがRB中村行。そう、先週のJV戦で大活躍した選手である。
 「そうか、これは先週の活躍に対するご褒美か」と思った僕は、思慮が足りなかった。
 試合後、報道陣のインタビューを終えた鳥内監督に、最後の場面の意図を訪ねると、こんな説明が返ってきた。
 「経験の少ない選手がこういうタフな相手にどれだけやれるか試したかった」「中村だけじゃないですよ。ラインの池田や生瀬の動きも見たかったんです。彼らが、こういう場面でどんな動きをするか、それを見たいから最後までやったんです」
 なるほどと思った。せっかくのライバルとの戦いである。まだ1軍の試合経験の少ない選手が日大相手にどんな動きをするか。相手の強さを肌で感じて、それを今後の取り組みにどう生かすか。そんなことを考えると、たとえ1プレーであっても、そんな選手にプレー機会を与えたい。そういう話だった。
 感服した。あらゆる機会を捕まえて選手の力を引き出そうとするファイターズの監督やコーチの哲学が、その一言に垣間見えた。この説明を聞いて、僕はライバルとの試合に勝ったこと以上にうれしかった。
posted by コラム「スタンドから」 at 11:52| Comment(2) | in 2016 season