2015年11月24日

(32)「必死三昧」

 江戸の中・後期に平山行蔵という剣客がいた。字(あざな)は子龍。体は大きくなかったが、14、5歳の時から一人前の武士の風格があり、文武に堪能。兵学をよくし、武芸は十八般、ことごとく習得した。昼は武芸、夜は兵書と、一日も勤めぬことはなく、著述は数百巻にのぼり、和漢の蔵書1800部を集めていた。
 常に二尺(約60センチ)四方の槻(ケヤキ)の板を敷物とし、これに両の拳を突き当て、突き当てしながら読書に励んだから、拳が固まって石のようになり、胸板ぐらいはこれで付き砕いたそうだ。毎朝7尺(約2・1メートル)の棒を500回、4尺(約1・2メートル役)の居合い刀を抜くこと300回。常在戦場を心掛け、食は玄米に味噌を塗るだけ、61歳まで布団の上で寝たことがない。想像を絶する武人であり、実際、18世紀末から19世紀の初めに活躍した剣客の中でも、群を抜いた腕前だったという。
 この人が「剣術の要は敵を打つ気持ちをひたすら敵の心へ貫通させること。すなわち必死三昧でなければいけぬ」「受けつ流しつの技が上手だとて、いっこう役にたたぬ。一人二人の立ち会いならまだしも、槍ぶすまを作って向かってくる戦場の時には、ただただ精一無雑に飢えたる鷹の如く、怒れる虎の如く、躊躇なく突撃して、初めて妙境自在がある」といっている。
 こんな話を持ち出したのはほかでもない。立命との決戦で、勝敗を分けたのは、ただ一点にあると思ったからだ。つまり、チームの全員がただただ相手を倒すという一心で立ち向かえたか否か、ということである。
 明鏡止水。なんの憂いもなく、ひたすら目前の相手を叩きのめす、という心境で立命戦のキックオフを迎えることができた選手は、果たしてファイターズに何人いたことだろう。ある者は、自身のけが、仲間のけがの回復状況が気にかかり、またある者は前節までの苦しい戦いの原因を引きずっていた可能性がある。試合前の記者会見での発言などを聞くと、オフェンス、ディフェンスともに、練習で詰め切れない点を残したまま、キックオフを迎えたのかもしれない。
 さらにいえば、この4年間、大学生相手の公式戦では一度も負けていない、という楽観的な気持ちがどこかにあったかもしれないし、それがある種のプレッシャーとなっていた選手もいただろう。
 実際、今季は主力にけが人が相次いだ。立命戦にもぶっつけ本番で出場し、活躍した選手が何人もいる。攻撃ではWR木下、守備ではDB岡本。ともにほんの数日前までびっこをひいていた選手とは思えないほどのはつらつとしたプレーを見せた。LB山岸、RB橋本、OLの井若や藏野も、けがによる練習の空白がなければ、もっともっと活躍できた選手である。
 キッキングチームも今季は終始、不安定な状況が続いた。リターナーがボールをファンブルしたことは一度や二度ではないし、フィールドゴールやパントは何度もブロックされた。結果、相手にロングリターンを許す場面が相次いだ。攻撃陣は自陣奥深くからの攻撃を余儀なくされることが多く、逆に相手のリターンチームには大きく陣地を挽回された。その集大成が前節の関大戦であり、今回の立命戦である。
 キッカーやパンターの責任というよりも、その状況を克服できなかったチームの責任であろう。
 主力にけが人が続出したことによる不安やキッキングチームに安定感を取り戻せないことへの懸念を抱えたまま、決戦に臨まざるを得なかったという時点で、すでに平山行蔵のいう「必死三昧」の境地には至らなかったのかもしれない。
 そういう状況で迎えた立命との決戦。結果は30−27。普段の試合では考えられないようなミスが相手より多く出たファイターズが敗れた。相手に先制点を許し、終始、追いかける展開になった試合内容から、得点差以上の差があったという人も周辺にはいるが、僕はそうは思わない。一歩状況が変われば、ファイターズが勝っていても、不思議ではなかったと思っている。
 実際、スタッツをみれば、総獲得ヤードは274ヤード対338ヤードでファイターズが勝っている。パスの成功率も、インターセプトの回数もファイターズの方が上である。
 相手もよく走ったが、ファイターズも負けていない。相手ボールを奪ったDB田中があわやTDというロングリターンを決めたし、QB伊豆も鉄壁の守備陣をかいくぐって44ヤードのラッシュを決めた。故障上がりのWR木下は要所でキーになるパスをキャッチし、TDパスも確保した。期待の1年生WR松井は強力な相手守備陣のマークを振り切り、2本のTDパスをキャッチした。
 前日まで、歩くのも苦しそうだったDB岡本が相手QBに激しいタックルを浴びせて倒したし、インターセプトも決めた。守備の第一列も素早い動きで、相手のランナーを食い止めた。そうしたプレーの総和としての3点差である。
 負けは負けだが、僕は攻守、さまざまなところで不安を抱えたまま試合に臨み、実際、終始リードを許しながらの苦しい試合を、よくぞここまで盛り返したことよ、と感心している。
 それだけに、なおのこと明鏡止水。チームとして、雑念を振り払って決戦に臨めなかったことが残念でならない。
 今季はもう一戦、日大との戦いが控えている。甲子園ボウルへの道は途絶えたが、4年生には今季の総決算という覚悟で試合に臨んでほしい。下級生には新しいシーズンに向けて、日々、拳でケヤキの板を叩き付けながら学ぶ覚悟で稽古に励んでもらいたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 22:25| Comment(3) | in 2015 season

2015年11月19日

(31)男伊達

 江戸三男(えどさんおとこ)という言葉がある。江戸時代、粋な男の筆頭にあげられた与力、相撲取り、火消しのことを指す。時代考証家、稲垣史生さんの『江戸考証読本U』(KADOKAWA)によると、この言葉は単に男前という意味ではなく「男子の面目、男伊達の意味にとるべきだ」「伊達の内容は、侠気に満ちて華美(はで)、持てる力を内に秘めて奥床しいところがある」と解説している。
 加えて与力は「威あって猛からず、スタイリストでさばけたところがある」「侠気といえば侠気、頼もしくて話せる」。相撲取りは「待ったなしを尊ぶ心意気」「意気は意気地であり、男伊達の本領」。火消しの頭は「信望と統率の才能を要し、貫禄と義侠心と腕っ節の強さが不可欠」と説明する。
 なるほど、粋な男たちだ、と本を読み進めながら「ちょっと待て。そういう男なら、ファイターズにもいっぱいいるぞ。江戸三男の向こうを張って、ファイターズ10人衆でも20人衆でもいい、なんなら50人衆の名前を挙げてみようか。粋な女子の名前も一人や二人ではないぞ」と思った。
 いつもグラウンドで仲間を鼓舞している橋本主将。体重は約130キロ。腹の底から張り上げる大声は、少なくともこの10年間では一番デカイ。練習を仕切るだけでなく、全体練習が始まるはるか前からグラウンドに顔を出し、時にはダミー、時には早出のOLを相手に、激しく当たりあっている。
 副将の3人、作道、田中、木下君も、練習時はもちろん、練習が始まる前からそれぞれが属するパートの練習や下級生の指導に余念がない。チーム練習を終えた後、アフターと称する練習まで、いつも先頭に立ってプレーするのはもちろん、寸暇を惜しんで1センチ単位の足の動き、スタートのタイミングの取り方、そして効果的な当たり方などを繰り返し繰り返し仲間に指導している。けがからの回復途上でシーズン当初は練習もままならなかったDL小川君、一時は社会復帰さえ危ぶまれたRB三好君も、それぞれパートのリーダーとして周囲を盛り立て、下級生を懸命に育ててきた。それぞれが男伊達と呼ぶにふさわしい腕っ節と奥ゆかしさをもった面々である。
 4年生だけではない。3年生でエースとなったQB伊豆君は毎日、誰よりもストイックに練習と向き合っている。例えば、今年の夏合宿、僕が1泊2日の日程で見学に行った時のことである。早朝、まだ5時半を過ぎたばかりというのに、いち早くグラウンドに降りてきたのが彼だった。連日の猛練習で疲れ切っているはずなのに、清々しい表情でウオーミングアップを始めた彼の姿を見たとき「今年のオフェンスは、この男に任せて大丈夫」と確信した。
 彼と簡単な挨拶を交わした後、グラウンドに目をやると、主務の西村君とマネジャーの今川さんが分担してラインを引いているのが見えた。トレーナーも徐々に集まり、補給用の水を用意し始めている。それぞれ、プレーヤーが降りてきた時には、すぐに早朝練習をスタートできるようにするための準備である。監督もコーチも、選手の多くも疲れ果て、1分でも多く眠っていたい時間に、自発的に起床し、グラウンドに出て黙々とチームに貢献する彼、彼女らもまた粋でいなせな面々である。
 こうして上級生、下級生、選手とスタッフが営々と努力を重ね、作り上げてきたのがファイターズである。全日本の代表メンバーに選ばれるほどの力量を持った選手は少なくても、十人並みの選手の力を最大限に引き出して勝ち続けて来たのがこのチームである。監督やコーチの指示を待って行動する大方のチームとは、ひと味もふた味も異なっている。
 そのチームの真価が問われる試合が目前に迫っている。11月22日午後2時、大阪・長居でキックオフとなる立命館との決戦である。双方がこれまでの6試合を勝ち続けて迎えた今季関西リーグ最終戦。勝てば優勝、負ければ地獄の釜が開く。
 聞くところでは、相手はめちゃめちゃ強いそうだ。これといった死角もないという。それをどのように崩し、甲子園ボウルからライスボウルへの道を切り開くか。
 侠気と腕っ節の強さを持ち、信望と統率力のある男伊達の出番である。
 監督が常々問い続けている「どんな男になんねん」という問い掛けに応える場面は目の前にある。どんなに苦しい場面に遭遇しても、奥ゆかしくほほえんで仲間の信頼に応える心意気を示してもらいたい。
 健闘を祈る。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:07| Comment(2) | in 2015 season

2015年11月09日

(30)信じられない数字

 強いのか、弱いのか。スタンドから見ているだけでは、まったく分からない試合だった。7日の関大戦。試合が終わった時には、ファイターズが33−7で勝っていたから、数字の上では圧勝である。
 実際、試合後のスタッツを見ても、すべてにファイターズが上回っている。第1ダウンの獲得数は24回と13回。総獲得ヤードは442ヤード対232ヤード。ランでもパスでもほぼ相手の2倍の距離を稼いでいる。関大には2回の反則があり、15ヤード陣地を下げられているが、ファイターズはゼロ。
 こういう数字を見た人は、ファイターズが終始、主導権を握って試合を進めたと思われるに違いない。けれども、とてもとてもそんな「お気楽な」気分で観戦できる状態ではなかった。
 立ち上がり、関大陣18ヤードから始まった相手の攻撃を3&アウトで抑えたところまでは、いい感じだった。続くファイターズの攻撃は自陣46ヤードからの好位置。まずはQB伊豆からWR木下へのパスがヒットして19ヤードの前進。そこからRB野々垣と橋本が交互にボールを持ち、第4ダウンインチの攻撃も成功させてダウンを更新。次は野々垣が10ヤードを獲得してゴール前10ヤード。
 しかし、ここからの攻撃が進まず、第4ダウンはフィールドゴールを選択。ところがK西岡の蹴ったボールを相手にブロックされ、関大陣28ヤードまで押し戻される。キックの弾道が低かったのか、キッカーをガードしている誰かが突破されたのか、スタンドからではよく見えなかったが「やばい。関大は徹底的に研究している」と思わせるに十分なプレーだった。
 次の関大の攻撃は、一度ダウンを更新されたが、2度目はDL藤木、柴田の素晴らしいタックルで何とか抑えて攻守交代。自陣17ヤードから始まった攻撃は、伊豆から木下へのパス1本でダウンを更新。久々に復帰した副将はやはり頼りになる。次はまた伊豆からWR松井に23ヤードのパスをヒット、相手陣48ヤードに進む。
 パスを2本続けた後は野々垣のランとRB山本のドロープレー。途中、WR前田への短いパスを挟んで橋本と高松のラン、野々垣へのショベルパス、さらにはFB山崎、RB橋本の突破力を生かしてゴール前1ヤード。仕上げは橋本の中央ダイブでTD。パスとランをかみ合わせた攻撃が見事に決まって7−0。
 しかし、キッキングのカバーが破られ、相手はゴール前3ヤードから46ヤード地点までリターン。反撃ののろしを上げる。ここはDB山本、小池らのロスタックルで防ぎ、攻撃権を奪い返したが、次に伊豆が敵陣深く投じた長いパスが奪われ、再び関大の攻撃。関大の攻撃を断ち切ってベンチに戻った守備陣は、一息つく間もなく、再びグラウンドへ。突然の出動で、心の準備が間に合わなかったのか、相手のランとパスを組み合わせた攻撃を支えきれず、わずか7プレーで84ヤードを運ばれ、TDを奪われてしまう。
 7−7。同点という数字もさることながら、目の前で相手の破壊力のあるオフェンスを見せつけられて、これはやばいぞ、という気持ちが芽生えてくる。
 逆に関大は守備陣も勢いづいてくる。次のファイターズの攻撃を3&アウトに防ぎ、再び関大の攻撃。しかし今度は、心の準備ができていたのだろう。LB山岸のロスタックルなどで、ファイターズも相手を3&アウトで退ける。
 自陣23ヤード、前半残り時間は2分21秒。ここからファイターズの華麗なパス攻撃が始まる。木下、松井、亀山への長短織り交ぜたパスを次々にヒットさせ、あっという間にゴール前9ヤード。前半残り時間はほとんどなかったが、伊豆が8ヤードを走り切ってTD。時計は残り3秒を指していた。
 しかし、キッキングチームは不安定なまま。この場面でもTDの後のキックをブロックされ、得点は13−7。とてもリードしているという実感は持てないまま、後半戦に入る。 第3Qは関学のレシーブ。ここはWR池永の好リターンで自陣46ヤードからの攻撃。橋本、高松のランで陣地を進め、敵陣32ヤードからまたも松井に22ヤードのパス。難しいコースだったが、余裕で確保し、ベンチを奮い立たせる。前半終了間際の緊迫した場面で、23ヤードと13ヤードのパスを確実にキャッチしたのとあわせ、スーパー1年生としての存在感を見せつけた。
 ゴール前8ヤードからの攻撃はランを3度止められたが、第4ダウンの攻撃で伊豆が5ヤードを走り切ってTD。リードを広げる。しかし、この場面でもPATが蹴れず、またもや得点は6点のまま。
 第3Q10分32秒にもファイターズは伊豆から前田への15ヤードのパスを通して加点したが、この場面ではキックを蹴る選択をあきらめ、野々垣のランで2点を追加した。プレーが成功したのはうれしかったが、PATを蹴るのをあきらめるというのは、まさに異常事態。長い間ファイターズの試合を見てきたが、過去にも例のないことだった。
 結局、この日はゴール前5ヤードからのフィールドゴールを1回試みて失敗。PATのキックも4回のうち3回失敗している。相手チームが十分に研究してきていることは割り引いても、理解に苦しむ状況である。キッカーの状態が悪かった、ということだけではなく、システムや習熟度に問題があったとしか考えられない。その証拠に、キックオフカバーも、終始不安定だった。この数年間、卓越したキッキングゲームで相手を圧倒してきたファイターズを見てきた人間としては、目の前の惨状が信じられなかった。
 得点は33−7。圧勝だが、まったく勝った気がしないというのは、ここに原因がある。この点にどうメスを入れるか。シーズンが終盤になったいまでは、できることは限られているだろうが、何とか手を打ってもらいたい。
 次の立命は、攻守とも関大をさらに上回るメンバーを揃えている。打倒関学、に燃える気概も並々ならぬものがあると聞いている。そういう難敵に対するに、不安を抱えたままでは戦えない。何とかしてくれ、と祈るばかりである。
posted by コラム「スタンドから」 at 20:32| Comment(3) | in 2015 season

2015年11月02日

(29)練習台のプライド

 今週は、ファイターズでは一番目立たないが、チーム浮沈の鍵を握るポジションのことについて書きたい。そう、フルバック(FB)のことである。
 先日の近大戦では、35番の山崎君が97キロの巨体を利して突進に次ぐ突進。5回のボールキャリーで60ヤードを走った。珍しくカットを切って23ヤードを独走し、TDを挙げる場面もあった。彼がボールを持つたびに、スタンドからは大きな歓声が沸き、一躍、人気者になった。その前の神戸大戦では、94番の市原君がゴール前で、QB中根君の投じた逆方向の難しいパスを体を反転させてキャッチした。地味ではあったが、ここで落としてなるものか、という気迫を見せつけたプレーであり、ファイターズFBの存在感を示した。
 けれども、彼らのプレーが多くのファンから注目されるのは通常、1試合に1度か2度。あとはひたすらブロッカーとしてボールキャリアの走路を開き、あるいは相手のブリッツからQBを守る仕事に徹している。
 しかし、ファイターズが多彩な戦術を遂行し、試合を勝利に導く上で、彼らに与えられた役割は限りなく大きい。
 例えば、2007年の甲子園ボウル。ライバル日大を相手に二転三転するゲームを制するキーになったのは、ファイターズが34−38と逆転されて迎えたゲームの終盤、第4ダウンショートという状況でQB三原君がFB多田羅君に投じた短いパスだった。それを多田羅君がしがみつくようにして確保したことで攻撃が続き、第4ダウンゴール前1ヤード、残り時間6秒という場面を作り、RB横山君の逆転TDランに結びついた。
 あの学年は、QBに三原君、レシーバーに榊原君や秋山君を擁し、史上最高のパスオフェンスを繰り広げたチームだったが、ここぞというポイントで、誰もがマークしていないFBへのパスをヒットさせ、勝利に結び付けたのだ。あのキャッチひとつで多田羅君は、僕の中では「記録ではなく、記憶に残る選手」にノミネートされたのである。
 昨年度の4年生FB梶原君のDLとして鍛えた強力なブロックも記憶に新しい。中でも立命戦の冒頭、相手がキックしたボールを受けたリターナーの田中君の走路を、梶原君がえげつないブロックで切り開き、ビッグリターンに結び付けた場面が印象に残っている。彼もまた地味な役割だったが「記憶に残る」選手の一人である。2011年卒の兵田君が小さいけど力強い「小型ダンプ」のような体型を利用して、常に相手の下からまくり上げるブロックをしていた場面も記憶に残っている。
 しかし、試合で活躍している彼らの姿は、実際に彼らがチームで果たしている役割からいえば、氷山の一角。水面下に隠れて見えない部分にこそ、彼らの値打ちがある。
 それは、チームの練習台としての役割である。彼らはテールバックと呼ばれるボールキャリーが中心の選手ほどには素早いカットは切れない。けれども当たりは強いし、動きもラインよりは数段速い。上級生ともなると、体ができあがっているから、少々の当たりにも動じることがない。
 そういう特徴を持っているから、LBやDBの練習相手には欠かせない。チーム練習の前に、FBの彼らを相手チームの当たりが強くてスピードのある選手に見立てたLBやDBの選手が「もう一丁、もう一丁」とぶつかっている姿は、いつだって見ることができるし、スピード派の味方RBの練習台として、相手LBの役割を果たしてぶつかり合っている場面も日常の光景だ。
 FBのメンバーは常に自分たちの練習と同時に、LBやRBの練習台として、仲間を鍛える役割を担っている。つまり、FBの面々が、チームメートのためにしんどい練習台を本気で務めることで、優秀なLBやRBを育てているのである。
 外部からは目立たないが、その地味な役割を果たし続けて自らを鍛えてきた面々が、試合の重要なポイントでいぶし銀のような活躍を見せる。走る姿は少々かっこわるくても、スマートなボールキャッチができなくても、そんなことは知ったことではない。
 確実に走り、確実に相手を倒し、確実にボールを捕捉する。試合中、1度めぐってくるか、3度のチャンスが与えられるか。それはゲームの展開次第。その数少ない機会を確かに成功させる山崎君や市原君のプレーは、練習台としてのプライドの表現である。そういう背景があるから、僕は彼らのプレーが成功するたびに、心からの拍手を贈るのである。
 さあ、今週末は、関西大との決戦だ。彼らがブロッカーとして活躍する場面は間違いなくある。ボールを持って活躍する場面がめぐってくるかどうかは保証の限りではないが、彼らが鍛えたLBやDB、そしてRBの面々が活躍する場面はきっとある。そういう場面に出合うたびに、チームで一番地味で重要な役割を営々と果たし続ける彼らに思いを馳せていただきたい。フットボールを見る楽しみが倍加することを約束します。
posted by コラム「スタンドから」 at 00:23| Comment(3) | in 2015 season