2015年04月29日

(6)期待の芽

 新聞社で働いていると、世間が休みになるときは、決まって忙しい。年末年始、春休みにお盆休み、そしてゴールデンウイーク。もちろん、それなりに休みは取っているが、休みに備えて、仕事を前倒しで進めていかなければならないので、日常の業務と前倒しで進める仕事が重なってくる。そうなると、自動的にコラムを書く時間が制限される。
 そんなときに限って、楽しいお遊びの誘いがある。4人でポン、ロンと遊んでいるときはいいのだが、70歳を過ぎると、さすがに徹夜のアミューズメントはこたえる。へろへろの体で仕事にかかるのだが、作業の効率は上がらない。でも、読者は裏切れない。いつも以上に気合いを入れてコラムを書こうとムキになる。そうなると、次は睡眠時間を削るしかない。
 そんなときにファイターズのコラムを書いても、言葉が荒くなるのは目に見えている。とくに、先日の日体大戦のようなミスの目立った試合をテーマに書くには、少し冷静になってからの方がよかろうと、ついつい更新が遅くなった。
 以上、長い長い言い訳である。見苦しい。本題に入る。
 日体大戦は23−21。ファイターズが残り3秒で19ヤードのフィールドゴールを決めてなんとか勝った。
 しかし、ファイターズの戦いぶりは、寂しい限りだった。とくに第2Q後半、QB伊豆、RB山本ら先日のプリンストン大戦にも登場して頑張ったメンバーを引っ込め、期待の若手を登用してからは、相手に押されっぱなし。攻守ともバタバタするばかりで、試合を支配するという面では、完全に相手に主導権を握られた。
 そういう場面では、キッキングチームが冷静、沈着なプレーで陣地を回復させ、いつの間にか試合の主導権を奪い返すというのが、従来のファイターズだったが、悲しいかな春のシーズンが開幕して2試合目。キッキングチームもまた、新しいメンバーで再建途上ということで、逆にPATのキックをブロックされたり、自陣ゴール前でパントをブロックされたり。自軍を落ち着かせるどころか、逆に相手を勢いづけてしまう始末だった。
 加えて、試合に出場した経験がほとんどないQBとRB、WRの呼吸もなかなか合わない。自陣のゴール前でピッチしたボールを落とし、相手に得点されるという、思わず目を覆いたくなるような場面もあった。
 もちろん、割り引いて考えなければならない点も多々ある。この日は主将のOL橋本がスタメンに登場し、昨年から試合経験のある伊豆と二人で攻撃を引っ張ったが、後はほとんどが試合経験の少ない選手。とりわけデフェンスには、1月のライスボウルで先発したメンバーが一人もいない状態だった。キッキングもキッカーの西岡を始めリターナーに至るまで、昨年はほとんど試合に出ていなかったメンバーで構成していた。
 昨年のリーグ戦を戦い、甲子園ボウルからライスボウルへとコマを進めてきたメンバーと同列に扱うことがそもそも間違っている。逆に、昨年のJVのメンバーがアスリート揃いの日体大と戦った、という目で見た方がいいのかもしれない。
 そのように考えると、苦しい戦いの中で、きらりと光るメンバーも少なくなかった。
 攻撃では、いずれも2年生のWR亀山、中西、RB山本。亀山は惜しくもラインの内側に踏みとどまれなかったと判定されたが、2本の長いパスを相手DLと競り合ってキャッチしたプレーが出色。秋には大活躍をしてくれるのではないかと期待された。中西も短いパスを確実にキャッチし、この日、55ヤードのTDパスをキャッチした3年生荻原とともに、成長が期待される。
 RB山本は、昨春、彗星のように登場し、あれよあれよという間に関西でもトップを競うRBに成長した3年生橋本を思わせるようなパワーランナー。大学での試合経験を積んで、周囲が見えるようになれば、さらに一段階上の活躍をしてくれそうだ。
 守備ではともに2年生のDL柴田とDB横山。ともに上背があり、動きもよい。今後スタメン争いに加わってくるのは間違いないと期待している。
 そしてもう一人がKの西岡。彼は3年生だが、この日はPATのキックと、自陣ゴール前からのパントをブロックされ、相手を勢いづける原因を作ってしまった。これだけ見れば、並の選手だが、僕が注目したのは、そういう失敗を引きずらず、最後にフィールドゴールをきちんと決めたこと。ゴール正面、距離は19ヤードという、失敗するはずのない状況だったが、これを失敗すれば敗戦という追い詰められた状況でもあった。
 さらに、シーズンを通じてもほとんどないパントやキックのブロックをこの日だけで2本も相手に許しており、3本目をと勢い込んでくる相手の士気の高さを考えると、そうやすやすと決められる状況ではなかった。そういう厳しい場面で、感情を波立たせることなく、しっかりと蹴ることができるというのは、心強い。
 この日の悔しさを糧にして練習に取り組めば、キッキングゲームで状況を突破するファイターズのキッカーとして、主役を張ってくれると期待が持てた。
 23−21。試合は薄氷を踏む内容だったが、一人一人のプレーヤーを見ていけば、悪い話ばかりではないということがよく分かった試合だった。
posted by コラム「スタンドから」 at 22:29| Comment(1) | in 2015 season

2015年04月21日

(5)初戦の感想

 今日、20日は穀雨。24節季の一つで、穀物の成長に欠かせない雨が降る時季をいう。紀州・田辺も朝から雨。それも風雨とも強烈な雨だった。
 ほんの短時間でも、外に出るとびしょ濡れ。農家には恵みの雨でも、当方は気が滅入るだけ。仕方がないから、先日の慶応戦の報告でも、というのは嘘で、今日は一日中仕事に追われていた。
 やっと一息ついたので、原稿にかかろう。
 とはいうものの、気分は弾まない。チームにけが人があまりにも多いからだ。主力選手を含め、先日の試合の出場を見送った選手だけでもざっと40人。それに慶応戦でも、今季の活躍が期待されている選手が次々に倒れた。これで社会人に勝つためのチーム作りが出来るのだろうかと考えると、本当に目の前が暗くなる。
 昨シーズンだけでなく、このところ毎年のように1月3日まで、一瞬たりとも気の抜けない過酷なシーズンが続いている。その後、1月中旬からの試験期間を挟んで、2月からは冬季のトレーニングが始まる。加えて今年は3月にプリンストン大学との交流試合があり、デカイ体と強力なパワー、そして抜群のフットボールセンスを持つアメリカ人選手と真っ向からぶつかった。
 シーズン後半の負けられない試合の中で消耗した選手たちが十分な休養をとれていなかったせいかもしれない。あるいは「今年こそ社会人を倒して日本1」という目標を達成するために休んでなんかおれるか、という強い気持ちが災いしたのかもしれない。本当にけが人が多い。
 こうした事態を受けて迎えた慶応戦。先発メンバーを見ても、昨年とはがらりと変わっている。これで、どこまで戦えるのか、と心配していたが、ふたを開けてみると杞憂(きゆう)だった。オフェンスラインは終始相手守備陣を押し込み、彼らがこじ開けた穴をスピードのある2年生RB山本と高松が走り抜ける。山本は先制の53ヤードTDを含め5TD。獲得ヤードはランで164ヤード、パスキャッチで21ヤード。
 高松も負けずに1回、17ヤードを走り切った。これに、現在は休んでいるエースランナーの橋本が復帰してくると、今季は「ランのファイターズ」が期待できるのではないか。強力なラインに守られて落ち着いたプレーを見せたQB伊豆の存在も心強い。
 守備はどうだったか。こちらも故障者が相次ぎ、先発のラインはM、柴田、岩田。昨シーズンは2枚目、3枚目の役割に甘んじていたメンバーだった。これで関東1ともいわれる相手RBを止められるだろうかと危ぶんだが、どっこい彼らは強かった。とくにノーズガードに入ったMは公称119キロの体重を存分に生かして相手オフェンスを崩し、2列目、3列目のメンバーの動きを助けた。
 2列目では作道、3列目では田中と岡本が際立った動きを見せた。精妙なパスと強力なランを組み合わせて攻め込んでくる相手と存分に渡り合い、突き刺さるようなタックルを見舞う。今季も頼りになるメンバーたちだということをファンの目に焼き付けた。
 終わって見れば49−26。球技場の得点掲示板を見れば両チームとも、各クオーターに万遍なく得点が記録されている。学生相手には珍しいほどの失点だったが、それは相手に力があったからだ。実際、巧妙にパスを投じるQBとそれを確実にキャッチするレシーバー陣。加えて突破力のあるRBのいる慶応は、なかなか地力のあるチームに思えた。しかし、つい先日、プリンストン大の大型ラインと渡り合った攻守のラインにとっては、思いの外、相手が軽く感じられたのかも知れない。
 このように振り返っていくと、今季もファイターズは大いに期待が持てそうだ。そう受け取られる方が大半だろう。
 しかし、この試合で見えた未完成な部分も少なくない。とりわけキッキングチームは未完成であり、リターナーは何度もキックされたボールを受け損なった。レシーバー陣の成長にも期待したが、この日はそれほどでもなかった。昨年まで出場機会の少なかった選手が数多く出場し、それなりに活躍したが、昨シーズン、QB斎藤と安定したレシーバー陣が展開した華麗なパス攻撃を見てきた目からいうと、少々物足りなかった。
 もちろん、春のシーズンは始まったばかりである。これからの試合で経験を積み、夏の合宿で鍛えていけば、この日は顔を見せただけの選手も含め、まだまだ成長していく余地がある。その意味で、直近の試合、つまり今週末の日体大戦で、今季から新たに登場するメンバーたちがどんな活躍を見せてくれるか、大いに注目している。
posted by コラム「スタンドから」 at 22:17| Comment(0) | in 2015 season

2015年04月06日

(4)さあ、出発だ

 4月。上ヶ原は桜が満開。3日、花のトンネルをくぐり抜けて大学に行き、第3フィールドに向かう。花見には絶好のタイミングだが、グラウンドは雨。時折、風までが強く吹く。「花に嵐」という通りの悪天候だ。
 しかしこの日は、新しいシーズンを迎えて、チームの全員がお祈りをする日である。雨だから風だからとひるんではおれない。雨の中、傘を差し、いそいそとグラウンドに降りていく。
 鳥内監督をはじめチームの全員が「屋根下」と呼ばれる簡単なトレーニングやテーピングの出来るスペースに集まる。顧問の前島先生(元宗教総主事)が聖書の一節を読み上げ、人は何のために生きているのかと問い掛け、学院の理念である「マスタリー・フォー・サービス」について、それが意味する二つの側面から説かれる。人に奉仕することの大切さと、奉仕の出来る人間になれるように自分を鍛え上げることの必要性。
 50年も前、学生時代にチャペルの時間などでさんざん聞かされた内容であり、当時は「ふーん、そうですか」という感じで聞き流していたが、憂き世を50年も生き延びてきたいまは、ずしりと胸に響く。とりわけ、「弱虫は要らない」「奉仕の出来る強い人間に自らを鍛えよ」という部分に共感し、思わずわが身を振り返る。
 シーズン開幕に当たってのお祈りは、毎年恒例の行事である。それは選手やスタッフに向けた語りかけだが、その場に立ち会うたびに、気持ちが改まり、よーし、今年も頑張るぞ、と気分が高揚してくる。新しい年の門出であり、新年のみそぎでもある。
 とはいっても、今年は3月21日にプリンストン大学との日米大学交流戦「LEGACY BOWL」があったから、実質的に新しいチームはスタートを切っている。その試合は36−7。ファイターズの完敗だった。完敗からのスタートとなると、前途の多難が予想されるが、ものは受け止めようである。
 あの試合はもちろんのこと、アメリカを代表する大学のメンバーと交流した1週間を通じて何を学んだのか。彼らの高いモラル、高い目的意識、合理的な時間の使い方、学問とスポーツを両立させている取り組み……。
 そして、当日の試合で彼らが見せてくれた数々のパフォーマンス。闘争心、試合に対する準備、ひとつひとつのプレーに対する集中力、そしてボールに対する執着心。ひとつひとつのプレーは激しく戦うけれども、スポーツマンとしての矜持は決して失わない彼らのたたずまい。
 さらに、試合の前々日にあった「課外活動と人材育成」をテーマにしたシンポジウムを含め、プリンストン大学の選手、スタッフから学ぶべきことは数限りなくあった。それらはファイターズが今後、どう歩んでいくべきかという羅針盤であり、課題解決のヒントでもあった。
 それを一人一人の選手がプレーの中で体験し、体に染みこませた。その価値は、計り知れないほど大きい。
 試合だけでない。日常の振る舞いの端々に至るまで、将来、アメリカを背負って立つ人間としての高い使命感をもって行動していた彼らの残していったことを、チームの全員が共有し、わがこととして骨や肉に出来るかどうかである。
 お祈りがあった翌日の夕方。一足先に練習を終えた中学部の主将が、スタンドの一角で着替えをしている部員たちに「みんな、宿題をしっかり仕上げるように。宿題を仕上げられないような人間は……」と声を大にして呼び掛けていた。
 同じ頃、大学のチーム練習が終わった時、グラウンド中央に集まった選手たちを前に、鳥内監督が普段以上に語気を強めて訓示をされていた。円陣の後方にいたので、途切れ途切れにしか聞き取れなかったが、多分、こんな話だった。
 「プリンストン大学の連中は、日本滞在中も勉学に励み、奉仕活動も続けていた。ファイターズのメンバーも、しっかり授業を受けて勉強し、あの試合でもらった課題をやりきるように。口先だけでなく、自分たちの課題をやりきって初めて、人として成長出来る」
 まったく同感である。
 プリンストン大学との交流を通じて見つけた課題に真摯(しんし)に取り組み、それを一つずつ解決していくことで道は開ける。多くの課題とともにスタートを切った今季、橋本主将が率いるチームがどこまで成長していくか。新しいシーズンが楽しみでならない。
posted by コラム「スタンドから」 at 07:57| Comment(1) | in 2015 season