2015年03月26日

(3)ファイターズの底力

 14年ぶりに開かれたプリンストン大学との日米大学交流戦「LEGACY BOWL」は36−7。ファイターズの完敗だった。完敗とは穏やかならぬ表現だが、立ち上がりから相手に主導権を握られ、終始押しまくられていた試合内容を見れば、こういう言い方も許されるだろう。
 しかし、今回の交流戦を全体で見ると、様相は全く異なってくる。新聞やネットで流布されている厳しい評価とは違って、ファイターズが底力を発揮した催し、チームがさらに飛躍するきっかけとなった試合であったと僕は評価している。なぜか。以下の3点を中心に理由を述べる。
 @今回の催しをファイターズがOB、現役の総力を挙げて成功させたこと。
 A大学における課外活動の価値・意義について、明確な位置づけが出来たこと。
 B学生自身が成長したこと。あるいは成長へのきっかけをつかんだこと。
 今回の交流戦は企画、立案から運営資金の手当て、相手校との折衝、航空機やホテルの手配、試合会場や練習会場の確保、日本滞在中のシンポジウム開催まで、すべてをファイターズのOB、スタッフ、コーチや現役部員が総力を挙げて担った。
 なんせアメリカのトップに位置する大学のチームを丸ごと1週間、日本に招聘する事業である。来日を価値あるものと認めてもらうための交渉一つとっても、相当な人脈が必要になる。チームとして、大学としての信用がなければ、交渉にも入れない。
 交渉がまとまっても、今度は招聘のための資金を捻出しなければならない。なんせ選手だけでも約80人、コーチやスタッフを入れると100人を超す選手団である。往復航空機運賃から日本滞在中のホテル費用まで、その大半を負担するのだから、大変だ。歓迎パーティー、夕食会、さよならパーティーの費用も必要だし、試合の開催経費も用意しなければならない。
 その総額はざっと4千万円。大学の創立125周年事業として、ある程度は大学からの援助が見込めたが、それでもその大半をファイターズが捻出するのだ。OB、保護者、そしてファンからの寄付を集め、大口、小口のスポンサーを確保して協賛金を集める。運賃や滞在費の値引き交渉、チケット販売への協力依頼。試合を成功させるためにやらねばならないことは数限りなくある。
 それをチームが総力を挙げてやりきったのである。「見たか、ファイターズの底力」と言う理由である。
 二番目は、今回の試合に併せ、チームと大学が協力してシンポジウム「プリンストン大学と考える グローバル人材の育て方」を成功させたことである。
 こちらは関西学院大学が昨秋、文部科学省の「スーパーグローバル大学創成支援事業」に採択されたことを記念した催し。大学が費用を負担し、読売新聞社の後援で開催したが、これもまたファイターズが前面に出て成功させた。当初予定の200人を大きく上回る400人の聴衆が詰めかけただけでなく、内容が飛び切り濃かった。
 第一部は「グローバルリーダーを育てる課外活動の価値」と題したプリンストン大学学生生活局副部長の講演。第二部はこの副部長に両校のヘッドコーチらが参加したパネルディスカッション「グローバル人材の育て方」。約2時間半にわたって、大学の課外活動の意味や位置づけについて示唆に富む内容が話し合われた。
 僕は前から2番目の席に座り、終始、メモを取りながら聴講したが、スポーツを通じた人材育成、人の成長、学業との両立など、かねてから興味のあるテーマについて、日ごろ僕の考えている通りのことが話し合われた。そのことで自分の立ち位置が間違っていないと確認するとともに、そこで話し合われた内容がファイターズの日ごろの活動と完全に一致していることに大きな満足を覚えた。「ファイターズの目指す方向は間違っていない。この道を突き進めば人は育っていく」と確認できただけでも、今回、シンポジウムを開催できたことには大きな意味があった。
 そして三つ目。多くの学生が成長のきっかけをつかんだことである。
 確かに試合は完敗だった。しかし、個々のプレーを振り返って見ると、本場アメリカの大学チームに通用した部分も少なくなかった。体格は明らかに劣っていたが、それでも相手の攻撃ラインを力で突破した守備のラインがいたし、相手レシーバーに競り勝ってインターセプトを奪った選手もいた。一回りも二回りも大きくてスピードのあるデフェンスラインを相手に懸命にQBを守ったOLの姿も見えた。
 確かに、プレーに対する集中力、対応力、球際の強さは相手チームの方が1枚も2枚も上だった。けれども、その違いを自ら同じグラウンドに身を置き、同じボールを競り合う中で体験できた意味は大きい。
 「負けて覚える大相撲」という言葉がある。試合後、何人かの選手に話を聞いたが、彼らはみなこの言葉通りの感想を口にした。これが今回の敗戦を「成長のきっかけ」と僕が評価する由縁である。
 そしてもう一つ、付け加えて起きたい場面がある。それは試合後、両チームの選手が記念撮影を終え、試合後のハドルも解いた後の光景である。ある上級生が相手チームの選手と英語で親しく話し合い、互いに握手しながら自身が身に付けていた用具を交換していたのだ。これだけなら、よくある光景だが、その選手の顔を見て驚いた。
 彼は単位の取得に苦しみ、留年が決まっている。中でも英語が苦手だと聞いたことがある。そんな選手が英語しか話せない相手と堂々と会話し、意志を通じあっている。その姿を見たとき、スポーツは国境を越える、と言うことを実感した。英語の苦手な彼が堂々と相手と言葉を交わし、意思の疎通を図る。この試合をきっかけに、その一歩を踏み出したことで、彼らは間違いなく成長のきっかけをつかんだと確信した。
 これもまた、今回の催しが総体として成功したと評価する由縁である。学生スポーツは勝敗だけに意味があるのではない。たとえ試合には敗れても、その試合を通して生涯の仲間を得た者、助け合うことの喜びを知った者、成長のきっかけをつかんだ者、すべてが勝者である。
 こうしたことを次々と確認できたことが、今回の日米交流戦であり、シンポジウムだった。少しばかりだがチームに寄付をし、この催しを応援するコラムを書いてきて、本当によかったと思っている。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:00| Comment(1) | in 2015 season

2015年03月11日

(2)英会話の特訓

 ファイターズの面々はこの2月、後期試験が終わった直後から英会話の特別授業に取り組んだ。21日に開く「LEGACY BOWL」プリンストン大学との日米大学交流戦に向けての特訓である。
 1年生から3年生までの現役学生は3回、コーチたちは4回、Xリーグで活躍しているアメリカ人選手とその家族を講師に招き、英語による日常会話の実戦的な講義を受けた。
 たった3〜4回の勉強で、日常会話のノウハウを身に付けようなんて考え方が甘い、と言われるかも知れない。どれほど上達するのかと疑問を持たれる方も多いだろう。
 けれども、部員もコーチも「特別授業料」という身銭を切って本気で取り組んだ。取り組むための強い動機があったからだ。
 どういうことか。主務の西村君やコーチに聞くとこんな話だった@アメリカのトップに位置する名門大学の選手たちと、それもフットボールという共通の話題がある選手やスタッフと交流の機会が持てるのに、会話も出来ないというのではもったいない。ただ握手だけしてグッバイでは、日米交流の成果が上がらないAせっかくチームと大学が少なからぬ資金を投入して今回の交流戦を企画、主催してくれたのだ。ゲームを本気で戦うだけででなく、学生同士、スタッフ同士が互いに胸襟を開いて交流してこそ「日米大学交流戦」の名に値する、ということだった。
 授業を受けた選手やスタッフに聞くと「ぼろぼろでした」というスタッフもいたし「積極的に話しかけていけば何とか通じる。それが分かっただけでも自信になりました」という部員もいた。
 この特訓を企画した大村コーチは「3回や4回の授業で英会話が身につくはずがない。けれども、講師が同じフットボールに取り組む在留アメリカ人選手ということで、部員たちもすんなり授業に入れたようだ。相手に話しかけてみよう、話しかけてみたいというきっかけを作れたことが何よりです。せっかくの日米交流戦ですから、歓迎パーティーや食事会の席で積極的に相手に話しかけ、貪欲に吸収してもらいたい」と話していた。
 こういうエピソード一つをとっても、ファイターズというチームの特徴というか魅力がうかがえる。
 これだけでもすごいのに、さらにすごいのは、日米の大学フットボール界の歴史と伝統を受け継ぐプリンストン大学と関西学院大学の交流戦をチーム単独で発案し、学院の創立125周年記念事業に位置づけて開催することである。アンダーアーマー社の製品を日本で独占的に販売するドーム社の協賛、往復の飛行機を飛ばす全日空の協力などを取り付けて、資金的な負担を軽くする。OB会や後援会からも全面的な協力をいただく。支援者からの寄付集めにも全力を尽くしている。
 相手チームの往復航空運賃や宿泊費を大半を負担し、宿舎の手配から練習会場の確保まで、すべてファイターズが責任を持つ。休養日には相手選手団の京都見学が盛り込まれているが、その案内役を国際学部の学生たちに引き受けてもらう段取りを整えたのもファイターズだ。
 なんといっても、学院からの財政支援を受けているとはいえ、総事業費の半分以上を部が自力で集めなければならない。その多くは募金と企業協賛、そして何より入場料収入による。有料入場者が1万人以上集まって初めて収支が合う計算という。そのリスクを背負ってのファイターズの大きな挑戦でもある。
 もう一つ重要なことがある。今回の交流戦のために来日したプリンストン大学の幹部を講師に迎えて「プリンストン大学と考える グローバル人材の育て方」というシンポジウムを19日に開催することである。学生生活部体育局のアリソン・リッチ氏の講演「グローバルリーダーを育てる課外活動の価値」と両校のヘッドコーチらが参加するパネルディスカッション「グローバル人材の育て方」で構成。正課のカリキュラムとスポーツ・社会貢献活動などの課外活動を組み合わせたグローバル人材の育成について意見を交わす。
 これもまた、日本が世界に打って出ようとしているいま、関西学院大学が文部科学省から「スーパーグローバル大学創生支援」事業に採択されたこの時期に、深い意味を持つ交流事業である。
 交流は試合だけではない。試合をきっかけに大学としては課外活動の在り方や世界に通用する人材の育成について考え、選手は身近な英会話を学び、人と人との交流の機会をつかもうとチャレンジする。グリコのCMをもじっていえば、一粒で2度、3度とおいしい企画である。
 それをファイターズという組織が単独で立案し、実行する。すごいというしかない。
 是が非でも成功させて、日本、いやアメリカにまで「関西学院」と「ファイターズ」の底力を見せつけようではないか。あとは、これを読んで「いいね!」を押していただいた方々に、友人知人を引き連れて21日午後1時、大阪・長居のキンチョウスタジアムに足を運んでいただくだけである。観戦することでぜひファイターズの挑戦を支援していただきたい。期待しています。
posted by コラム「スタンドから」 at 07:58| Comment(1) | in 2015 season

2015年03月07日

(1)レガシーボウル

 「歳月、人を待たず」という。歳月は人の都合に関係なく過ぎ去り、しばしもとどまることがないという意味である。「光陰矢の如し」といえば分かりやすいだろうか。
 上ヶ原の第3フィールドに出掛けると、ほんの2カ月前までとはまったく異なる景色が広がっている。1月3日のライスボウルまで、懸命に戦った2014年度のメンバーはすでに引退。新たに橋本主将を中心としたチームが来年の1月3日、ライスボウルでの勝利を期して、恐ろしく地味だが、実はハードなトレーニングを続けている。
 この間、チームはファイターズファミリーの合同壮行会や甲子園ボウル優勝祝賀会、それに学生の本分である後期試験に取り組み、2月からは2015年シーズンに向け、試合のない季節だからこそ可能な基礎体力づくりに取り組んでいる。すでに第1次の春合宿は終え、選抜メンバーはファイターズの「虎の穴」といわれる千刈キャンプ場で、山野を駆け巡ってきた。
 この時期でなければできない筋肥大合宿や股関節の稼働域を広げ、体幹を鍛える訓練。外は寒くても、部員たちはTシャツ姿。それでも汗が吹き出すような激しい運動である。見慣れたゲーム形式の練習とは異質なトレーニングが2月一杯続けられてきた。
 そして3月。2日からようやく練習らしい練習が始まった。今春卒業する4年生も次々にグラウンドに顔を見せるようになった。21日に開かれるLEGACY BOWL(レガシーボウル)、プリンストン大学との日米大学交流戦に向けてのチーム練習である。
 今日(5日)、和歌山県田辺市での本業を午後2時に切り上げ、馬力のあるドイツ車で阪和道から阪神高速湾岸線をぶっ飛ばして上ヶ原へ。到着したらチーム練習が始まる前だというのに、パートごとの練習が始まっていた。シーズン中、いつものように見慣れた風景である。
 普段と違うのは、今春卒業する4年生がグラウンドのはしっこでひとかたまりになって練習していたこと。ライスボウルが終わって以降2カ月間、ほとんど体を動かしていなかったそうで、最初の1週間は「動ける体」を取り戻すトレーニングをしているという。
 鷺野、松島、小野の幹部はもちろん、背番号の若い順にいうと飯田、前田、国吉、森岡、吉原、国安、油谷、横山、岡部、梶原君らが顔を揃えている。スタッフでは、壮行会でアンサングヒーロー賞を受賞した松田君の顔も見える。みんな髪の毛が2カ月分伸びて、爽やかなスポーツ刈りになっているのが不思議なようでもあり、当然のようでもある。
 彼らもまた現役の選手に混じってレガシーボウルに出場する。この日、顔が見えなかった斎藤君や木戸君らももちろん出場する。15年のシーズンに向けて新たなスタートを切った橋本主将と木下、作道、田中の副将3人が率いるファイターズと「チーム・鷺野」を主導したメンバーが合体してアイビーリーグの名門、プリンストン大学に立ち向かうのである。
 楽しみではないか。まだ、シーズンが始まる前の、いわば端境期の試合ではある。けれどもグラウンドで戦うのは1869年にチームを創設、同年、ラトガースと、アメリカでは最初のフットボールゲームを戦ったプリンストン大学と、1949年に甲子園ボウルに初出場・初優勝を成し遂げて以降、甲子園ボウル出場49回、優勝27回を誇るファイターズである。
 いわば日米フットボール界の「LEGACY」(遺産、いやフットボール界の世界遺産と訳した方が適切かも知れない)同士の一戦。相手は来日する選手だけで約85人、コーチ・スタッフを含めると約110人。この試合にかける意気込みは、この選手団の規模にも表れている。
 両チームは過去に一度、2001年に大阪ドームで戦っている。そのときは25−27でファイターズが逆転負けだった。その借りを返す絶好の機会でもある。日米のフットボール史を背負って立つ両チームの熱戦を期待するとともに、私たちも熱い応援を繰り広げよう。
 メジャーリーグのLEGACYとなりつつあるイチロー選手は先日、マーリンズに移籍したときの記者会見で「応援よろしくとは、決していわない。応援してもらえる選手、応援するに値する選手になる」と言い切った。ファイターズもまた「応援してもらえるチーム、応援に値するチーム」になるべく日々精進している。その精進の成果を21日、長居のキンチョウスタジアムまで足を運んで、この目で確かめようではないか。試合は13時、キックオフである。
    ◇  ◇
 ライスボウルの敗戦にうちひしがれ、しばらくコラムを勝手に休載していました。シーズンの開幕は4月からですが、今年は今日から再開します。「ご愛読よろしく」とはいわず、愛読してもらうに値するコラムを目指して精進します。
 昨年度のコラムを「栄光への軌跡−2014年版」として出版し、選手やスタッフにお贈りしました。ファンの方にも、試合会場のグッズ売り場で販売し、売り上げはすべてファイターズに寄付させていただきます。こちらは「チームへの寄付のつもりでよろしく」と心からお願いします。

legacybowl_poster_mini.jpg
posted by コラム「スタンドから」 at 09:03| Comment(0) | in 2015 season