2022年12月20日

(17)そしてバトンは渡された

 終わって見れば34−17。12月18日、阪神甲子園球場で、東日本代表の早稲田大学を相手に行われた第77回甲子園ボウルは、ダブルスコアでファイターズが勝利。5年連続33度目の優勝を果たした。
 試合を振り返るに際し、まずはこの日の記録を紹介しておこう。ダウンの更新数は関学が26回、早大が16回。獲得ヤードはランが239ヤード対106ヤード、パスが同じく220ヤード対253ヤード。ターンオーバーの回数は、それぞれ1回と2回。ファイターズの攻撃がパスとランのバランスがとれていたのに対し、早稲田の攻撃はパスに偏っていたことがよく分かる。
 こうした数字を見ると分かるように、ファイターズの攻撃はランとパスのバランスが良く、相手の攻撃はパス中心。徹頭徹尾パス中心に攻め込んできた。
 1Q12分の戦いなら、少々、攻撃パターンが偏っていても、先取点を奪い、その勢いで試合の主導権を手にすることも可能になる。しかし、1Q15分の戦いは長い。相手が事態を冷静に見極め、態勢を立て直せば、やがて自分たちのペースで試合を進めることが可能になる。この日のファイターズは、その模範ともいえる戦いで勝利を手にした。
 試合はファイターズの攻撃からスタート。いきなりRB池田がダウンを更新したが、思わぬファンブルで瞬時に早大に攻撃権が移る。このピンチは守備陣の奮闘で切り抜けたが、相手の士気は上がっている。1年生QB星野が右や左に展開しながらパスを投げるが、思い通りに陣地は進まない。しばらく双方の守り合いが続き、気がつけば0−0のまま1Qが終了。
 第2Qに入ると星野も落ち着き、相手ゴール前26ヤード付近からWR糸川に絶妙のパス。通ればTDというプレーだったが、なぜかボールはレシーバーの胸からこぼれ落ちてしまう。しかし、K福井が43ヤードのFGを決めて待望の先取点。3−0とリードを奪う。 続く早大の攻撃は、DB中野やDLショーンの好守でしのぐが、ファイターズの攻撃もかみ合わない。結局、もう1本フィールドゴールを決めたが、第2Q終了間際に相手にもFGを決められ、6−3のまま前半終了。
 ここまでを総括すれば、ファイターズは押し気味に試合を進めながら自らのミスでチャンスを逃がし、相手は逆に、思い切りのよいパス攻撃で活路を開こうとする。それがそのまま得点に表れたような試合展開。どちらにせよ、後半の立ち上がりが勝敗を分けそうな予感を抱きながら、寒風の吹きすさぶスタンドで待機する。
 しかし、後半戦に入っても双方の守り合いが続く。試合が動いたのは、第3Q2度目のファターズの攻撃から。1年生QBの星野から交代した3年生の鎌田が立て続けにWR衣笠と河原林にパスを通して相手陣深くに迫る。RB伊丹のランプレー2本を挟んで、今度はTE小林への短いパス。相手の守備陣が混乱した隙を突いてRB伊丹が相手ゴールを突破して待望のTD。リードを13−3と広げる。
 これで自信を付けたのか、鎌田の動きがさえてくる。衣笠へのパスを立て続けに決めて相手にパスへの警戒心を持たせたと思ったら、一転して伊丹や星野を走らせて陣地を進める。仕上げはゴール前5ヤードからRB前島が走り込んでTD。20−3と差を開く。
 こうなると試合はファイターズペース。前島がさらに2本のTDを追加し、終わってみれば34−17でファイターズが勝利した。
 振り返ってみると、前半こそ相手の思い切りの良いパス攻撃と、アグレッシブな守備に手こずったが、相手の手の内が見えてきたところでQBを星野から鎌田に交代させたベンチの作戦がピタリとはまった。その作戦に応えた攻撃陣も素晴らしかったが、相手の思いきったパス攻撃に耐え続けた守備陣も素晴らしかった。素早い動きで相手QBに圧力をかけ続けるDLの山本やショーン。低くて鋭いタックルで走者を釘付けにするLB永井や浦野。狙い澄ませたようなジャンプで相手のTDパスをもぎ取ったDB山村。彼らの名前を挙げていくと、関西リーグで関大や立命の強力なオフェンスに対抗してきた彼らの自信がそのままプレーに反映しているように思えた。
 別の言い方をすれば、個々のプレーヤーの力は拮抗していても、チーム全体で見ればファイターズが少しばかり上回っていたということであり、その力には関大や立命館との試合を戦い抜いた自信が宿っていたということだろう。
 強力なライバルがあってこそのチーム力の充実。表面的な力は互角に見えても、ここ一番という場面で発揮されたその力がファイターズ5連覇の支えになった。関大や立命との厳しい対戦を耐え抜いてきたことが力になり、その力で勝ち取った勝利。別の言葉で言えば、ライバルとの厳しい戦いがあったからこその勝利と言ってもよい。
 そのバトンは、この日グラウンドに立った全員でつないだ。その結果としての5年連続日本1。渡されたバトンは、新しいシーズン、3年生以下のメンバーがつないでくれるに違いない。
 試合後、グラウンドに降りて大村監督と握手を交わした際、シーズン中、守備陣は褒めても、攻撃陣には厳しい評価を続けてこられた監督の表情が、いつになく和んでいたのが印象的だった。
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2022年12月12日

(16)特別な時間、特別な成長

 午後も4時を過ぎると、決まったように冷たい六甲おろしが吹き込む上ヶ原の第3フィールド。そこでいま、毎日のように大学王者を目指し、凝縮された実戦練習を繰り広げているのがファイターズである。
 関西リーグで優勝を決め、途中、西日本代表決定戦を挟んで三週間。大学選手権5連覇を目指し、中身の濃い練習を続けている部員の姿を見るたびに、これが関西リーグにおけるファイターズのアドバンテージ。目の前の大きな目標を、自分たちの代でも必ず達成するという、強い気持ちを持って、今この時期に特別な時間を過ごしている諸君だけに許された特権。それが個々の選手はもちろん、チームの血となり肉となってファイターズという強力な集団を築き挙げてきたのだ、という思いを新たにする。
 時間が許す限り、その模様を見学させていただこうと、週の半ばからグラウンドに詰めかけている私にとっては、そういう諸君の練習が見られることが、とてつもなく幸せな時間である。少々、寒くても、体がガタガタ震えても、じっと選手やスタッフの動きに目をこらしている。
 不思議なことに、私のように全く選手経験のない人間でも、同じ選手の動きを長期間、定期的に眺めていると、必ず成長曲線が見えてくる。それまで出来なかったことが急に出来るようになったり、体のこなしがより精妙になったりしているのを目の当たりにする。そのたびに「なるほど、実戦的な練習を続ければ、ある日突然、次元の違う世界が見えてくるんだ」と理解できる。
 先日も、あるコーチと個人的な用件でメールをやり取りしている時、同じ選手の動きについて、双方の見解がぴったり合っていることを知って驚いた。
 僕のような部外者ではなく、実際、グラウンドで練習している選手らにとっては、その実感はより確かに感得出来るに違いない。その実感が自信になり、さらにもう一つ上のプレーを身に付けたいという動機付けになるに違いない。
 そういう気持ちを持って、目の前の練習に取り組むメンバーが増えれば増えるほど、チームの力は上がっていく。関西リーグが終了してから甲子園ボウルまでの3週間がファイターズの力量をアップさせる特別な時間であると考える、それが理由である。
 もちろん、そういう時間は秋のシーズンがスタートしたときから続いている。1年生や2年生が実戦の中で経験を積み、一つ一つのプレーの失敗を糧に、成功を自信にして自らの力を伸ばしてきたからこそ、強力なタレントをそろえた関西大や立命館大を相手に、勝利を収めることが出来た。
 そうした苦しい試合を自分たちの力で突破して迎える甲子園ボウルである。
 もちろん、相手もリーグ戦で同じような体験をし、東日本代表となってからも、もう一段上の力を付けているに違いない。厳しい戦いになることは予想できるが、ファイターズの諸君がこの3週間に積み上げ、築いてきた力を発揮すれば、存分に戦えるはずだ。私のような部外者がみても、急激に成長しているメンバーは何人もいる。それは控えのメンバーとして位置づけられていた下級生だけではない。ずっと先発メンバーとして活躍してきた3年生や4年生にとってもいえることだ。
 自分たちが個人として、またチームとして積み重ねてきたことを信じ、それを力に変えて存分に活躍してもらいたい。勝利への道は必ず開ける。
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2022年11月29日

(15)我慢の勝利、勇気の力

 27日、吹田市の万博記念競技場で行われた関西リーグ最終戦・立命館大との戦いは、互いに力を出し合い、身体をぶつけ合う熱戦。リーグの王者を決めるにふさわしい戦いとなった。
 今季、最終戦を前にしてファイターズは6勝0敗。対して、立命は関大に敗れ、関大は関学に敗れてそれぞれ1敗を喫している。しかし、この日の試合で関学が敗れると、3者がそれぞれ6勝1敗となって同率優勝。甲子園ボウルへの出場権は、3者の抽選で決めるということになっている。立命は何が何でも勝たなければならない試合。対する関学も勝ちきって無条件での甲子園出場を果たしたい。それ以前に、この20年余り、関西、いや日本の学生フットボール界を牽引してきたトップチームの歴史とプライドを賭けた試合である。勝ちたい、負けられない、という気持ちは、フィールドに立つ選手全員が共有していたことだろう。
 もちろん、監督やコーチ、そしてチームを支えるスタッフらも、この試合に備えて万全の準備を整え、知恵を絞ってこられたに違いない。
 コイントスで勝った関学がレシーブを選択し、立命のキックで試合開始。自陣24ヤードから始まったファイターズ最初のアタックはQB星野のキーププレー。1年生とは思えない落ち着いた動きで6ヤードを前進。続けてRB伊丹が走ってダウンを更新。
 これでパスが決まればペースがつかめる、と思ったが、相手の守りは想像していた以上に堅い。結局はパントに追いやられる。
 守りが堅いのはファイターズも同様だ。相手の第1プレーをDLトゥロター・ショーン礼が素晴らしい突っ込みで封じ込め、これまたパントに追いやる。さらに立命の第2シリーズでも守備陣の踏ん張りが目につく。DL浅浦がラッシュし、相手が浮かせた球をショーンが確保してインターセプト。試合後、大村監督が「守備は100点。ショーンはいいし、海崎の穴を永井が完全に埋めてくれた」と絶賛されていたが、その一端が試合開始早々から目についた。
 対する立命の守備も強固だ。ファイターズのRBが持つボールへタックルしてファンブルを誘ってリカバーし、すぐさまインターセプトの返礼。互いに守備陣が踏ん張り、あっという間に第1Qが終了する。
 第2Qに入っても、ファイターズは押し気味。だが、フィールドゴールの失敗などもあってスコアは0−0のまま。
 試合を動かしたのはファイターズの1年生QB星野。自ら走ると同時に、WR衣笠、RB前島、WR糸川へ次々とパスを決めてゴール前1ヤード。そこから糸川に1ヤードのパスを決めてTD。キックも決まって7ー0と均衡を破る。
 後半に入ると立命が攻勢に出る。自陣20ヤード付近からパス中心で陣地を進め、ファイターズの陣地に迫る。ここでも守備陣が健闘し、相手もFGを狙うしかなくなったったが、ここでファイターズに手痛い反則。ホールディングを取られ、ゴール前3ヤードからの攻撃を許す。相手は難なくTD。しかし、相手はすでに1敗を喫しており、引き分けでは優勝はおぼつかない。勝つことが至上命題とあって、当然のように2点を狙ってきた。
 だが、ファイターズ守備陣の意気は高い。それを見事に防いで試合は7−6。
 1点差のまま第4Qに入り、迎えたファイターズの攻撃は自陣46ヤード付近から。わずか1点とはいえ、リードしている側は時間を消費しながらの攻撃が中心になる。その期待に応えてRB伊丹、前島が機敏な走りで陣地を進める。エースWR糸川までがランナーとして走るのだから、「時間を消費しながら攻める」というベンチの意図は徹底している。選手もよくそれに応え、陣地を進める。仕上げはゴール前25ヤード付近からのFG。K福井が決めて10−6。
 残り時間は5分24秒。リードを守る方には長く、追いかける方には短い時間である。当然追いかける方はパス中心のプレーになるが、守る方もそれを予期している。パスを投げる側に強烈なプレッシャーを掛け、自由に投げさせないようにする。
 そうなると、勝つも負けるも守備陣の対応次第。「この日は100点の出来」と監督に賞賛された守備陣が相手QBに圧力をかけ続け、完全に試合をコントロールして10−6のまま試合終了。ファイターズが全勝でリーグ戦を締めくくった。
 以上、試合の経過を追ってきたが、最後に僕の個人的な感想を一つ。それは、誰よりも積極的な姿勢で練習してきた下級生がこの日の試合で躍動したことである。
 ファイターズはいつの時代も「4年生のチーム」と呼ばれる。実際、今年も攻守共に4年生が中心になってチームを牽引してきた。オフェンスでは牛尾や小林、糸川、梅津、河原林らのWR陣、デフェンスではこの日も大活躍したDL山本、LB浦野らの名前がすぐに思い浮かぶ。
 けれども、4年生だけでは勝てない。下級生の底上げが常に求められる。
 僕が日頃、練習を見学させて頂く中で、常に注目しているのが、いつも前向きに練習に取り組む下級生、とりわけ新入部員と故障明けの選手の存在である。新入生といえば、この日先発したQBの星野、DBの東田(もっとも、彼とは言葉を交わしたことがない。背の高いDBとして注目しているだけだ)。昨年でいえば、LB永井(彼はスポーツ推薦入試の小論文の勉強会で、いつも気合いのこもった文章を書いていた)。
 故障上がりといえばこの日、大活躍したDLショーンやOL近藤らの名前が浮かぶ。それぞれが必死になって練習に取り組み、一つ一つのプレーを身に付けよう、より強く、より素早く動けるようになろうと励む姿を見て、常に心の中で「頑張れよ。君たちの取り組みは、必ず神様が見てくれている」とエールを贈っていた。
 その選手らが素晴らしい活躍をしてくれた。わがことのように嬉しい。
posted by コラム「スタンドから」 at 14:36| Comment(1) | in 2022 Season

2022年11月14日

(14)道を開く

 日本のスポーツ界には「死闘」とか「血で血を洗う決戦」「肉弾相打つ熱戦」とかいう表現がある。13日、吹田市の万博記念競技場で行われた関西大学との試合こそ、そのような表現がふさわしいと思った。
 試合開始は午後3時。その時点では、その前の立命−近大戦まで降り続いていた雨が残っていたが、試合が始まると間もなく降り止む。共にパス攻撃を得意とするチームだけに、互いにほっとしたことだろう。
 試合開始。その第一プレーでファイターズにビッグプレーが生まれる。相手がゴール前近くまで蹴り込んだボールをキャッチしたRB前島が一気に相手ゴール前15ヤード付近まで76ヤードもリターンしたのだ。巧みなステップで相手を交わす前島の技術と、その前を走るRB伊丹の的確なブロックが組み合わさったビッグプレーである。
 ボールの位置は相手ゴール前16ヤード付近。一気にTDと攻めたい場面だったが、相手の守りは堅い。ギリギリのところでダウンの更新はならなかったが、K福井が26ヤードのFGを決めて3−0。互いに欲しかった先取点をファイターズが手にする。
 しかし、相手の攻撃も鋭い。わずか5プレーでファイターズゴール前に迫り、FGを決めて3−3。互いに譲らぬ攻防が続く。
 試合が動いたのは、第2Q早々。ファイターズがQB鎌田のパス、RB伊丹、池田、前島のランなどで陣地を進め、最後はゴール前5ヤード付近から前島のランでTD。とはいっても、RB任せのプレーではない。ボールを抱えた前島をOL陣がひとかたまりになって包み込み、全員で相手ゴールまで押し込んだプレーである。
 ラグビーでいえば、フォワードが「モール状態」になってボールキャリアを包み込み、ラインごと相手ゴールになだれ込むプレーである。今季、スタンドからその「ひ弱さ」をたびたび指摘されてきたOL陣が奮起し、それを形にしてもぎ取った得点である。
 通常の試合なら、このプレーをきっかけにファイターズがペースをつかみ、そのまま試合の主導権を握るところだが、相手は強い。QB須田からWR溝口へのパスをキーにして一挙に陣地を進め、わずか9プレーでTD。キックも決めて10−10。そのまま前半終了。
 後半になっても、関大の攻勢は続く。動きの素早いQB須田と長身、俊足のレシーバー溝口を中心にぐいぐいと陣地を進める。対するファイターズも山村、永井、高橋らを中心にしたDB陣と、長身でスピードのあるショーン、怪力で相手オフェンス陣を押し込む山本を中心にしたDL陣が奮起。相手に決定的なチャンスは与えない。
 一発TDの威力を秘めた相手の攻撃をなんとか食い止めているうち、ファイターズにビッグプレーが飛び出す。相手QBが一番信頼し、この試合でも長いパスをビシビシと決めていたWR溝口に投じたパスを、ファイターズの2年生DB中野がインターセプト。そのまま相手ゴールまで走り込んだのだ。時間は第3Q7分32秒。まだまだ勝敗を云々する場面ではないが、ずっと押され気味だったファイターズにとっては、まさに起死回生のプレーだった。
 しかし、試合はまだ第3Qの終盤。まだまだ勝敗の行方は分からない。けれども再びリードしてからは、なぜかファイターズに好プレーが続く。特筆したいのは、キッキングチーム。攻撃が手詰まりとなり、何度も苦しい位置からのパントを強いられたが、そのことごとくをK福井が相手陣奥深くまで蹴り込み、自軍守備陣に余裕を与えた。
 それに守備陣も奮起し、相手に決定的なチャンスを与えない。気がつけば試合終了までの時間が迫っている。最後はファイターズのニーダウンで試合終了。得点は17−10。終始押され続けた試合だったが、数少ない好機をすべて得点に結びつけたファイターズの、チームとしての結束力がもたらした勝利だったといえよう。
 たとえ押されていても、チームとして結束し、攻守蹴が互いに助け合って取り組めば道は開ける。この日、全員で勝ち取った成果を次の立命戦につなげてもらいたい。君たちの前に道があるのではない。君たちが結束して道を開くのだ。
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2022年11月03日

(13)見所満載の近大戦

 3日は文化の日。この休みに近大戦を振り返ろうと考えていた。だが、肝心の「観戦メモ」がない。勤務先の和歌山県田辺市の住まいに持ち込んだまま、西宮の自宅に持ち帰るのを忘れたようだ。
 さあ、困った。試合の流れは記憶しているが、メモ帳がなければ試合を振り返るのは難しい。かといって、今から田辺まで往復することは無理だ。思い切って、書くのを諦めようかとも考えたが、それも無責任だ。
 それでなくとも、今季は京大戦を「紀伊半島に台風接近」という情報で急きょ、前日に田辺に戻り、欠席したばかりだ。シーズン6試合(今季は同志社大には不戦勝)のうち、2試合も「欠席」とは、いくら何でもひどすぎる。
 幸い、チームのホームページに先日の試合結果がアップされている。それを頼りにいくつかの場面を振り返り、私的な感想を綴ってみたい。
 立ち上がり、ファイターズは遠投力のあるQB鎌田と強力なレシーバー陣を生かして陣地を進め、相手陣に迫る。しかし、中央左よりから右手ゴール前に投じたパスが深めに守っていた相手DBの胸に入り、インターセプト。
 先制の好機が瞬時に暗転。相手陣は一気に勢いづく。守備陣の心の準備が間に合わないのを見越したようにパスを投げ続け、ぐいぐいとファイターズ陣地に迫る。ここはなんとかFGによる3点に食い止めたが、それでも先制点を取れば、相手の気持ちはほぐれる。勢いもつく。
 2Qに入ると、ファイターズが短いパスとラン攻撃で相手陣に迫り、仕上げはRB澤井が7ヤードを走り込んでTD。K福井のキックも決まって7−3。
 ようやくチームは落ち着く。鎌田からのパスが決まり始め、ラン攻撃も進むようになって仕上げはWR河原林への4ヤードTDパス。相手との競り合いに強い河原林の持ち味を遺憾なく発揮したプレーで14−3。
 守備陣が完封して迎えた次の攻撃も、RB伊丹の中央突破でTD。第2Qは攻守ともファイターズペースで進み、前半は21−3で終了。
 後半になると、ファイターズは1年生QB星野を起用。「投げてよし、走ってよし、まるで奥野君のようですね」「鎌田君とはタイプが異なるから、双方を想定して準備をしなければならない相手にとっては厄介でしょうね」と場内限定でファイターズが流しているFM放送で、小野ディレクターが解説。「まだ1年生ですからね」と解説の片山OBも相づちを打たれる。
 その間にも試合は進行。近大攻撃陣がパスを投げ、QBのランも織り込んで果敢に攻撃する。仕上げはQBランでTD。21−10と追い上げる。
 4Qに入るとファイターズは星野がゴール左隅に走り込んだWR鈴木にドンピシャのパスを通してTD。さらに次のシリーズではRB前島や伊丹の走力を生かして相手陣深く迫り、仕上げは伊丹が3ヤードを突破してTD。2週間前の神戸大戦では相手の守備陣に幻惑されいたオフェンスラインも、ようやく落ち着いてきたようだ。
 一方、守備陣の動きは1列目、2列目、3列目の動きが試合を重ねるごとにかみ合ってきた。1列目の両翼を守るトゥロター・ショーン礼と亀井は共に動きが素早いし、2列目の海崎、浦野の対応も早い。それに加えて強烈なタックルが持ち味のDB永井が臨機応変の対応をするから、相手にしてみれば厄介な守備陣だろう。DBにはこの日も1、2年生を多く起用しており、彼らが実戦に慣れてくれば、さらに安定してくるはずだ。これから控える関大、立命という強力な攻撃陣を相手に、より攻撃的な守りを期待したい。
 最後に個人的な感想を一つ。この試合、残り時間1秒という状況で、星野からWR林へ投じられたパスのことである。ゴールライン左端へのパスを林がキャッチしたのだが、僕はその瞬間、思わず立ち上がり、歓声を挙げた。彼らが上ヶ原の第3フィールドで黙々とそのパスを投じ、キャッチする場面を何度も何度も見てきたからである。
 以前にも書いたことだが、ファイターズのレシーバー陣には素晴らしいタレントがそろっている。4年生には糸川、河原林、梅津がおり、3年生には1年時から活躍している鈴木に加え、成長著しい衣笠がいる。TEの小林もここ一番のプレーに強い。
 そういう中で、高校時代は野球部だった彼が全く未経験のアメフットに挑戦。黙々と練習を重ね、最終学年の秋になって、ようやく1軍メンバーに上がってきた。主としてキッキングゲームのリターナーとして出場しているが、レシーバーとしてタッチダウンパスを受けるような場面では、ほとんど起用されていなかった。
 それが秋本番。勝敗の行方は見えた場面とはいえ、与えられた一度のチャンスを見事TDパスキャッチという形で締めくくってくれた。高校時代から脚光を浴びてきたメンバーに負けじと、必死に努力している姿を見てきただけに、ここに特筆しておきたい。彼に絶妙のパスを投じた1年生、星野の勝負強さと共に。
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2022年10月25日

(12)「君の可能性」

 新聞記者生活50有余年、数多くの方々にお会いして見聞を広め、その一端を記事にしてきた。
 今も取材の場面や相手の発言を鮮明に記憶していることが少なくない。1971年の春、朝日新聞社での初任地・前橋支局で働いていた時に知り合った斎藤喜博先生との出会いもその一つである。
 私は当時、信濃毎日新聞社を2年8カ月で依願退職し、朝日新聞に入社して3カ月余り。新人記者が受け持つ所轄警察署担当を卒業し、前橋市政担当兼群馬版の文化面担当になったばかりだった。文化面の担当は読者が投稿してくださる俳句や短歌欄の世話係もする。そこで群馬県の小学校で教育史に残る実践を展開されると同時に、アララギ派の歌人としても知られた斎藤先生と知り合い、先生のファンになった。
 初めてご挨拶に伺った日は、ご自宅の庭に植えられている草木の説明などを受けながら、よもやま話を交わしたのだが、その時の応答が先生に気に入られたのだろう。帰り際に「私は毎月1度、自宅を開放して教員を対象に教授法の勉強会をしている。各地から熱心な先生が参加されるから、お出かけください。教育に関心があるなら、何かと参考になることがあるはずです」とお誘いを受け、以来、前橋支局を離れるまで7か月間ほど、欠かさず勉強会に参加した。
 気安く話し合えるようになって数カ月後、先生と2人、近くの川辺へ散歩に出掛けた。岩場がゴツゴツした景勝地で休憩した時、先生から「今日はここで的当て競争をしましょう」と提案された。標的は25メートルほど離れた対岸にある岩塊。大きさは50センチ四方ほどだ。互いに手頃な石を5個ずつ手に取り、交互に的に投げ合った。
 結果は4対4。でも、60歳を過ぎている先生と20代の僕との戦いだから、明らかに僕の負けだ。どうしてそんなにうまく投げられるのですかと聞くと、こんな答えが返ってきた。
 「あなたは遠くの岩を目当てに投げていたでしょう。でも僕は、どう投げれば的に当たるか、その軌道を頭の中に描き、その軌道に石を乗せるようにして投げています」「教育も同じです。到達可能な目標を近くに設定し、それに向けて指導する。具体的な目標を達成することで自信がつき、それが子どもの可能性を引き出すことにつながるのです」と付け加えられた。
 この話だけではない。先生の「一つのこと」という詩からも大きな影響を受け、いつもその詩を心の支えにしてきた。筑摩書房から出ている「君の可能性」という本(単行本と文庫本がある)に掲載されているので、紹介しよう。

 一つのこと

いま終わる一つのこと
いま越える一つの山
風わたる草原
ひびきあう心の歌
桑の海光る雲
人は続き道は続く
遠い道はるかな道
明日のぼる山もみさだめ
いま終わる一つのこと

 以下、先生の説明を引用しよう。
 ……この詩は、いま自分たちは、みんなと力をあわせて一つの仕事(学習)をやり終わった。それは、ちょうど一つの山にのぼったようなものである。山の上に立ってみると、草原にはすずしい風が吹いている。そこに立つと、いっしょに登ってきた人たちと、しみじみ心が通い合うのを感じる。そこから見ると、はるか遠くに桑畑が海のように見え、雲が美しく光っている。そしていま登ってきた道を人がつづいて登ってくるのが見える。自分たちはいま、一つの山を登り終わったが、目の前にはさらに高い山が見えているのだ。今度はあの山に登るのだ、という意味である。
 学校の学習とは、こういうことをみんなと力をあわせてつぎつぎとやっていくのである。一つの山をのぼり終わると、次のより高い、よりきびしい山に向かって出発するのである。そういうことがおもしろくて楽しくてならないように、クラス全体、学校全体で力をあわせて学習していくのである。
 続けて、こんな説明もある。
 ……ひとりがよいものを出すことによって、それが他のみんなに影響し、より高いものになって自分のところへ返ってくるのである。それぞれがよいものを出し合い、影響しあうから、ひとりだけでは出せないような高いものを自分のものとすることができるのである。
 ひとりひとりの人間が、より高い、よりよいものに近づこうとするねがいを持ち、そのためにはどんなほねおりでもしようとするようになり、またどんなほねおりでもできるようになるためには、学校でのこういう経験がどうしても必要になる。(中略)そういう努力を続けていくことによって、ねばり強い心とか、困難にくじけない心とかもつくられていく。また、苦しい思いをしても、目の前にある困難を一つ一つとっぱしていくことこそ、本当に張り合いのあることであり、楽しいことだということも体験として覚えていくようになる。
 そういうことこそ、もっとも大切な能力である(以下略)。
 先生の主張は、ファイターズの活動にも、そっくり当てはまるのではないか。みんなと力をあわせ、次々と課題に挑戦する。一つのことを成し遂げると、さらに高い目標に向かって出発し、チーム全体で力をあわせて学習していく。より高い目標を達成するためにはどんな骨折りでもしようと心に決め、それができるように努力する。そういう経験がより高いものへの憧れをもたせ、その憧れを達成しようとすることで自ら成長する。
 監督やコーチに言われたからやるのではなく、ひとり一人の部員が自覚を持って取り組み、切磋琢磨することで自身を鍛え、その後ろ姿で仲間を鼓舞する。そういう循環を生み出すことができれば、チームは必ず強くなる。逆に、そこを突き詰めなければ、道は開けない。
 僕はこの詩を、このように理解し、長々と紹介させてもらった。ファイターズでいま、自らの可能性を切り開こうと努力を続けている諸君に響けば幸いである。
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2022年10月17日

(11)山積する課題

 スタンドから観戦していても、まだまだ課題が多いことが見えた試合だった。
 15日、王子スタジアムで行われた今季第4戦、神戸大学との戦いは29−0。試合そのものは終始、ファイターズが先手を取り、優位に進めていた。試合後、公表されたスタッツを見ても、それは理解できる。総獲得ヤードは309ヤード(ラン121ヤード、パス188ヤード)、逆に相手に奪われた陣地は114ヤード(ラン10ヤード、パス124ヤード)。相手の攻撃権を奪うインターセプトの回数はファイターズが5回、相手が2回。この数字だけを見れば、ファイターズが優位に試合を進めていたと受け止める人も多いだろう。
 しかし、スタンドから見ている限り、そういう楽観的な気分とはほど遠かった。どうしてか。例えば、反則回数を見てみよう。相手は1回、マイナス10ヤードなのに、ファイターズは6回、マイナス60ヤード。それだけでも驚きだが、それらの反則がすべて攻撃時に出ていることに、もっと驚く。自分たちが必死になって攻め込んでいるのに、それを自分たちで帳消しにしてしまっているのだ。
 大村監督にとっても、これは想定外だったのだろう。試合後も記者団の取材を受けて「やることは山積み」「これ以上、オフェンスが足を引っ張るわけにはいかない」と厳しい言葉を連ねておられた。
 もちろん、試合には相手がある。神戸大が自分たちの戦術を練り、とにかく積極的に攻め、守り続けようと、終始、意表を突くプレーを出し続けたことも影響している。その守備の揺さぶりに対応しようとしたファイターズのOL陣が思わず反則をしてしまったように見える場面も少なくなかった。
 もちろん、この日は攻守とも積極的に下級生を起用していたせいもあるのだろう。それにしてもこの日の攻撃陣にはミスが多かった。これを克服しない限り、到底、関大や立命を相手に勝利はおぼつかない。
 そこをどう克服していくのか。この日起用された下級生たちはもちろん、試合経験豊富な上級生にも奮起を促したい。
 一方で、いくつかのうれしい場面にも出会えた。一つは、けがでずっと試合から遠ざかっていたレシーバーの4年生、河原林と梅津の2人がフィールドに戻ってきたこと。共に的確なブロックや鮮やかなパスキャッチを披露し、さすがは数々の修羅場をくぐってきた4年生というプレーを見せてくれた。同じ4年生の糸川や3年生の鈴木、衣笠らと共に、今季のKGパスオフェンスを一層の高みに導く活躍を期待したい。
 もう一つは、ディフェンスバックとして起用された下級生の活躍である。苦しい場面でインターセプトTDを決めたDB中野は2年生、同じDBの東田と磯田(ともに1年生)も、それぞれ巧みな位置取りとカバーで鮮やかなインターセプトを決めた。競り合いの中で2度のインターセプトを決めた松島も2年生である。
 場内のFM放送席で解説を務めておられたOBの片山さんが試合中、何度も1年生2人の動きを絶賛されていただけに、彼らがパスを奪い取ったときには思わず拍手をしてしまった。
 アメフットは「戦術のスポーツ」であり、「交代自由」な競技である。この特徴を最大限に生かすためには、選手層を厚くしなければならない。そのためには、日頃の練習だけではなく、試合から学ぶことも数多い。そういう意味では、いくつものミスがあり、苦しい展開を強いられたこの日の試合は、最高の教材になるはずだ。
 ファイターズのみなさん。監督のいわれる「山積みになっている課題」に、懸命に取り組み、自らを鍛え、仲間を高みに引き上げてもらいたい。栄光への道は、自分たちで切り開くしかない。
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2022年10月11日

(10)胸に響く記事が満載「ファイターズ80周年記念誌」

 出来上がったばかりのファイターズの80周年記念誌が届いた。近々、発行されるとは聞いていたが、読んで驚いた。恐ろしいほど内容が充実しているのである。
 これは機能する組織を作るための実践例であり、大学の正課外教育の活動を進めるための教科書でもある。組織の危機管理のあり方を考えるための手引きにもなるし、もちろんチームを強化するための教科書にもなる。
 余計なことながら、これがライバルチームの手に渡ったら、ファイターズに勝つチームをつくるための格好の手引きになるのでは、と心配になるほどの内容がびっしりと詰め込まれている。
 驚いたのが、この企画を立て、出版にまでこぎ着けた人たちも、原稿の筆者も、インタビューする人も、そのすべてがファイターズで卒業生であること。つまり、編集者から筆者まで、さらにいえば出版を企画し、費用も受け持った一般社団法人「KG FIGHTERS CLUB」(旧OB会)を含めた関係者全員が同じ釜の飯を食い、同じ上ヶ原の空気を吸った仲間であるということである。
 僕も仕事柄、会社の社史や地域の案内誌、観光ガイドブックなどの企画や出版の相談に乗ったり、その宣伝を手伝ったりしたことは何度もあるが、こんな風にすべてを自分たちで企画し、原稿を書き、出版の費用までをまかなうなんて話は、自費出版以外、聞いたことがない。それだけではなく、出来上がった本の内容が正課外教育の教科書にそのまま使えるほど充実しているなんて例には出会ったこともない。
 と、驚いてばかりではなく、具体的に記念誌の内容を順を追って紹介してみよう。
 まず、プロローグで「勝利への執念」「自主の尊重」「自由な風土」「チームワーク精神」、その中で培われてきたファイターズスピリット……とうたい、幾多の苦難と真摯に対峙し、挑戦を重ねて来た足跡を回顧し、新たなる飛躍への糧にしたい、と出版の目的を宣言。第1部には「変革の30年」と見出しを付けて、この30年間の軌跡を追い、第2部には「時に刻まれた、栄光の軌跡」として1941年の創部から1990年まで50年の歴史を振り返っている。その50年間については、フィターズ草創期のことを熟知されていた元監督の米田満先生や関西アメリカンフットボール界の生き字引と呼ばれる古川明さんたちを中心に刊行されたファイターズの「50年史」に克明に記されていることもあり、今回はその後の30年を中心に記録している。
 「変革の30年」の冒頭は、鳥内前監督へのインタビュー。朝日新聞社でスポーツ担当記者をしていた大西史恭氏(2008年卒)の質問に、鳥内さんがいつもの口調でズバリズバリと答えている。例えば、「監督のやりがいは」との質問には「社会に出て役に立つ人間を送り出すだけやん」「学生があんな人になりたいな、って思ってくれる、憧れの先輩になって欲しいねん」と答える。
 「勝ったら4年生のおかげ、負けたら監督の責任でええねん」という言葉もある。なんせ6ページに渡るインタビューである。読み応えはたっぷりだ。
 読み応えといえば、有馬隼人氏(2000年卒)による大村監督へのインタビューも中身が濃い。これまた8ページにわたるロングインタビューで、現場の雰囲気が手に取るように伝わってくる。僕がもし、ライバル校の監督やコーチだったら、この8ページ分のコピーをとってメモ帳に挟み、毎日、練習の始まる前に読み上げて「ようし、負けるもんか」と自分を叱咤するに違いない。
 そうした記事だけではない。現場のコーチやトレーナーがこの30年間に取り組んで来られた取り組みを克明に紹介。ファイターズというチームのよって立つところ、現在地を具体例を上げて説明している。詳細は現物を読んでいただくとして、筆者(敬称略)とタイトルだけを紹介しておく。
 1「Reborn−KG」(宮本敬士)、2「ディレクター部門(マネジメント体制)の確立」(石割淳)、3「ファイターズ阪神淡路大震災ドキュメント」(小野宏)、4「ファイターズと国際交流」(野原亮一)、5「平郡雷太君の事故について」(小野宏)、6「安全を追求した30年の取り組み」(西岡宗徳)、7「普及活動・地域貢献活動の展開」(石割淳)、8「OB・OG会の歩みと、これから」(徳永真介)、9「コーチングスタッフの変遷」(宮本敬士)、10「女子スタッフと分析スタッフの誕生」(小野宏・宮本敬士)、11「30年間の戦術の変遷・オフェンス1991〜2001」(小野宏)、12「同・デイフェンス1991〜1999」(堀口直親)、13「同オフェンス2002〜2010」(小野宏)、14「同ディフェンス2000〜2010」(堀口直親)、15「同オフェンス2011〜2021」(大村和輝)、16「同デイフェンス2011〜2021」(大寺将史)、17「キッキング」(小野宏)、18「ショートヤードの魂」(神田有基)、19「トレーニング革命の時代の先に」(油谷浩之)
 それぞれが指導者として苦しみ、努力を重ね、発想を飛躍させて取り組んできた軌跡を具体例を上げて紹介しており、現役の部員はもちろん、今後入部してくるメンバーにも「ファイターズの真実」を知り、ここで学ぶことの励みになるに違いない。
 毎年、僕が続けているファイターズ志望の高校生を対象にした文章表現の勉強会でも教材にしたいような記念誌である。
 一般の方も神戸大戦から試合会場のグッズ販売テントで3000円で購入することができる。
posted by コラム「スタンドから」 at 14:50| Comment(0) | in 2022 Season

2022年09月12日

(9)イヤーブックの3人

 毎年のことながら、ファイターズのイヤーブックは読み応えがある。今年も占部雄軌主将の「勝つべくして勝つチームを体現する」という決意表明から始まり、ポジションごとにリーダーたちがそれぞれのポジションを代表して覚悟のほどを言葉にしている。
 読み応えのあるのがKG野球部OBで、オリックス・バファローズのコーチである田口壮氏とファイターズの大村和輝監督、そして占部主将によるオンライン対談である。「目指すべきリーダー像」をテーマに、4段組5ページに渡って語り合っている。それぞれが現場を預かる人たちであり「勝つべくして勝つ」チームをつくるために努力されているだけに、話が具体的で興味深い。試合会場でも販売しているので、興味のある方はどうぞ、ご購入を。
 そのイヤーブックで、僕が特に注目したのは「ファイターズをめざす君へ」というテーマで、いま注目される3人の選手が語っている内容である。登場するのは4年生WRの林篤志(阪南大学高校・高校時は野球部)、3年生DB高橋情(大阪仰星高校・同サッカー部)、同じくWR衣笠吉彦(関学高等部・同サッカー部)の3君である。
 それぞれ大学入学を機会に、それまで続けてきた競技を離れてアメフット部に入部。全くの初心者としてこの競技に取り組んでいる。「下級生時には、練習を終えて帰ってから毎日、戦術ノートを書き写し、復唱しながら覚えていました。現在も新しいプレーは必ずノートに繰り返し書いて覚えるようにしている」(林君)、「経験者よりもプラスで練習するなど、今、どの立場で、何をしなければならないのかを理解し、それを実行することで成長を肌で感じる」(高橋君)、「1日に5食食べることを意識している。後世に名を残す選手になることを目標にしている」(衣笠君)など、それぞれの目標を胸に刻み、練習に励んでいる。
 その努力が報われ、今ではそれぞれのポジションにとって欠かせぬ選手の地位を確保しつつある。高橋君は昨季から先発メンバーに名を連ね、衣笠君も50ヤード走4秒4というチーム1の俊足を生かして今季は初戦からスタメンで出場、1年生QBの投げるパスをしっかり確保していた。
 林君も多士済々のレシーバー陣の中で徐々に頭角を現し、今季はキッキングゲームでもリターナーを務めている。多分、公式戦での先発は初めてだったと思うが、初戦では安定したキャッチを見せていた。チームがスタンドで開設しているFMラジオで解説を担当されている小野宏デレクターが試合中、2度に渡って「今のはいいプレーです。安定していますね」と賛辞を贈られているのを隣で聞きながら「努力は報われる」と、わがことのようにうれしかった。
 この3人だけではない。ファイターズには、高校時代までは他の競技に熱中し、大学に入ってからアメフットの転じて活躍している選手が何人もいる。現役の部員だけをみても、主将の占部君は高等部時代はラグビー部の主将だったし、初戦に先発したDL亀井君も報徳学園のバスケットボール部出身だ。試合の後半、DEとして出場し、QBサックを決めた太田君も青森県の弘前学院聖愛高では野球をしていた選手である。
 今春、入学したばかりで、出場経験がないだけでなく、まだルールも覚えていないようなメンバーの中にも、コーチ陣から「あの子は将来、大いに期待できる」と名指しで保証されたメンバーもいる。
 そういうメンバーが高い目標を持って練習に励み、自ら鍛えてチームを背負っていく。その見本のような3人にスポットを当てたイヤーブックの「ファイターズをめざす君へ」。彼らだけではなく、後に続くメンバーが彼らを目標に練習に励み、自らを鍛えてチームをリードしていく。そういう循環が生まれるのも、ファイターズというチームの奥の深さであり、ファイターズという組織が目指している課外活動の魅力であろう。
posted by コラム「スタンドから」 at 07:54| Comment(0) | in 2022 Season

2022年09月06日

(8)ベンチの意図が貫かれた試合

 2022年度ファイターズの初戦、甲南大学との戦いは、ベンチの意図が最初から最後まで貫かれた試合だった。
 どういうことか。具体的に見ていこう。
 一つは新しく戦力になる可能性のある選手を大胆に起用し、存分に活躍できる場面を与え続けたこと。ゲームを指揮するQBに、大学生としては一度も試合経験のない1年生の星野(足立学園)を初めて起用し、最後までゲームの指揮を執らせ続けたことがそれを象徴している。
 もう一つはDBの先発メンバーに1年生の東田隆太郎と磯田啓太郎(ともに高等部)を起用したほか、交代メンバーとして1年生のWR五十嵐太郎(高等部)、川崎燿太焉i鎌倉学園)、Kの大西悠太(高等部)らを次々に起用し、それぞれに活躍の場を与えたこと。もちろん、2年生でこれまで実戦で活躍した経験がほとんどないメンバーも数多く起用し、活躍する場を与えた。先発メンバーとして起用されただけでもOLの近藤剣之介(佼成学園)、金川理人、巽章太郎、森永大為(いずれも高等部)、DLでは川村匠史(清風)などの名前が挙がる。昨年から活躍しているDBの永井(関西大倉)は、守備の最後列から何度も相手QBに襲いかかっていた。
 驚いたのは、そうしたメンバーが全員、それぞれの持ち味を発揮し、スタンドから応援している私たちに将来の可能性を見せつけてくれたことである。
 とりわけすごかったのが冒頭に紹介したQBの星野。173cm、75kgと小柄だが、その分、動きは素早い。パスもしっかり投げられるし、コントロールも上々だ。何よりも状況判断が素晴らしい。試合開始の第1プレーで、いきなりゴールライン間際まで40ヤードのパスをWR鈴木にヒットさせる度胸と技術。これが大学生としての第一プレ一だというのだから、スポーツ漫画の書き手も真っ青だろう。そのプレーを当然のように決める技術と勝負度胸。
 この日のスタッツを見ると、星野はパスで260ヤードを獲得。自身のランプレーでも8回63ヤードを稼いでいる。もちろんチームでトップの記録である。
 試合終了後、大村監督に「今日は、最初から最後まで星野君で行くつもりだったんですか。その意図は」と聞くと、「昨年は2番手のQBを育てていなかったから、鎌田がけがをしたときに苦労した。今年はそんなことがないように、最初から星野に経験を積ませるつもりで試合を任せた。よくやってくれた」との答えが返ってきた。
 なるほど、そういうことかと納得した。他のポジションでも、成長途上にある下級生やけがから復帰した上級生を次々と起用した意図もまた同様だろう。万一のけがに備えて選手の層を厚くする。それがチーム内での競争を激化させ、結果として層の厚いチームが出来上がる。
 そのような意図を持って、シーズンの初戦から大学生として一度も戦いの場に立ったことのない選手を起用し、その選手にゲームを委ねる。その意図をくみ取った試合経験豊富な上級生らが下級生をフォローし、伸び伸びとした環境で試合経験を積ませる。
 その好循環。そう思って試合中に取ったメモを読み返すと、試合開始直後の第一プレーで40ヤードのパスを当然のように確保したWR鈴木君も、第2Qの終盤、ライン際へのミドルパスを確保すると、そのまま相手守備陣を振り切ってゴールラインまで駆け込み、ダメ押しともいえるTDを挙げたWR糸川君も、それぞれのプレーで新人QBをもり立てていたことがよく分かる。
 とりわけ鈴木君は、普段の練習時、星野君がウオーミングアップをする際には、必ずと言ってよいほど相手役を務め、双方の呼吸を会わせるように務めている。
 そういう練習時からの積み重ねが、シーズンの初戦、大学生として初めての試合に先発した1年生QBを落ち着かせ、その力を存分に発揮する場を与えたのだろう。「練習は嘘をつかない」と言う言葉をそれぞれのプレーで実証した試合に、たった4年間しかない学生スポーツの神髄を見たような気分になって帰途についた。
posted by コラム「スタンドから」 at 12:44| Comment(1) | in 2022 Season