2020年01月09日

(35)最高の広報部長

 ファイターズの試合後、スポーツ担当の記者が鳥内監督を囲んで取材する、いわゆる「囲み取材」を横合いから眺めることが多い。そのたびに「監督は、役所や企業の広報担当としても名を成される人ではないか」と思わせられた。
 それほど、記者への対応がうまい。キャラも立っている。
 どこがうまいのか。まず、記者の質問を正面から受けて立つ。試合の感想は、ずばっとひとこと。それがそのまま見出しになる。親しくしているベテラン記者から、チームの内情に関するややこしい質問が飛んでも「そんなん知らん」と言い切る。開けっ広げな大阪の「おっちゃん言葉」で応答し、特段、隠し立てもしているようには見えないから、記者も納得して次の質問に移る。
 逆に、フットボールに詳しくなさそうな記者の質問には、少しばかり丁寧度を上げて応答する。
 取材の切り上げ方もうまい。たいていは5分か10分。監督が「以上っ!」と言えば、それで全員が納得する。取材時間は短くても、記事を書くうえで必要な言葉が当意即妙で返ってくるから、記者にとっては記事にまとめやすい。監督の言葉がそのまま活字になり、見出しになる。何よりも嘘をついたり、曖昧な言葉でごまかしたりしないのが書き手にとってはたのもしい。試合後の短い時間に原稿を仕上げなければならない記者には、それが何よりありがたい。
 監督といえば、一軍を率いる将である。ともすれば偉そうに威張ったり、何も考えていないのに考えている風に装ったりする人もいる。
 僕も社会部記者として長年、スポーツ取材の現場も事件取材の現場も踏んできたからその呼吸はよく分かる。政治家の取材も、まちのじいちゃん、ばあちゃん、中学高校生の取材も続けてきた。新聞記者生活53年。今もコラムや記事を書き続けている現役の記者だ。徹夜でも1週間でも、話し続けても話しきれないほどの経験は積んでいる。
 けれども、鳥内さんほど記者あしらいが上手な人にはお目に掛かったことはない。
 その人が監督としてファイターズを率いて28年。チームづくりに苦労を重ね、実績を上げ、指導者として高い評価を得られてきた。それはもう、広く知られているが、それらと並んで、チームの広報面でも大きな役割を果たされてきた。その実績は、一度でも取材の現場に居合わせたことのある記者なら、全員が高く評価するはずだ。僕もまた、心から評価している。
 KGファイターズのチーム作りが関西だけでなく、東京でも高く評価され、アメフット界で一番の観客動員力を持っている一因として、広報担当としての監督の力が大きく貢献していることは間違いない。
 その監督が今期限りで退任される。チームには監督の後を継ぐ有能なコーチが育っているから、チームづくりという面では、特段の支障もないだろう。しかし、何かと難しい記者諸兄姉への対応を試合会場で一手に引き受けて来られた「広報部長」を失うのは大きい。身近でその対応ぶりに接してきた人間だからこそ、その喪失感が身に染みる。残念だ。
     ◇   ◇
 鳥内監督の勇退を惜しみながら、新たに出発するチームのさらなる発展を祈って、今季のコラムを終了します。いつも長ったらしい文章で申し訳ありません。それでも懲りずに新たなシーズンもこのコラムを続けます。今後とも、ファイターズ、並びにこのコラムのお引き立てをよろしくお願い申し上げます。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:32| Comment(3) | in 2019 Season

2020年01月06日

(34)敗戦。そして再出発

 3日はライスボウル。社会人選手権の勝者と大学選手権の勝者が雌雄を決する大きな戦い試合である。舞台は東京ドーム。選手たちは前日から東京に入り、試合前、最後の練習を終えている。僕は3日の早朝、仁川の自宅を出て、新大阪駅8時20分発ののぞみで東京に向かう。
 いつもの年なら、この車中から気分が高揚し、その日の試合展開を想像したり、注目選手の活躍ぶりに思いをはせたりしている。気がつけば新横浜、もうすぐ東京か、と思うことも再三だったが、今年はどうもそんな気分になれない。試合のことを考えると、どうしてもライスボウルの仕組みのことが思い浮かび、頭がモヤモヤしてくる。仕方なく、車中のほとんどを持参した文庫本を読んで過ごした。
 東京駅に到着するとそのまま丸の内の改札口から出て皇居のお堀端に向かう。そこからお堀端の歩道を歩いて北の丸庭園、靖国神社の大鳥居を巡り、そこで気持ちばかりの「戦勝祈願」をした上で東京ドームへ。
 この1時間あまりの散歩の間に、その日の試合展開を予想し、活躍してくれそうな選手の顔を次々に思い浮かべる。そして「どうか選手生命に影響するような大きなけががありませんように」と祈るのが最近の僕の決めごとだ。
 それほど、近年は社会人チームと学生チームの体力差は大きくなっている。アメリカの本場で鍛え、頭角を現した外国人選手や各大学から選りすぐった選手を毎年補強している社会人。最近は、チームを支える企業の理解も深まり、チームを挙げて試合を想定した練習に取り組む時間も、それなりに確保できているようだ。
 それに対して、ファイターズは22歳以下の発展途上の選手ばかり。中には大学に入るまでフットボールとは縁のなかった選手も少なくない。学生である以上、学業との両立が求められ、十分な練習時間の確保も難しい。各自が授業の空きコマに筋力トレーニングに励み、夏休みには早朝からの練習も取り入れているが、それでも肝心のチーム練習に割ける時間は限られている。
 10年ほど前までは「学生が勝負をかけるのは後半。練習量の足りない社会人選手は、後半になると必ずバテてくる。そこで勝負すれば突破口が開ける」といわれていたが、ここ数年は正反対。社会人のサイドからは「基礎体力が勝る社会人が前半からガンガンいけば、学生を圧倒できる。必然的に(相手には)けが人も出る。主導権は終始社会人にある」という状況だ。
 それは、近年のスコアが証明している。昨年は52−17、1昨年は37−9、その前は30−13でそれぞれ社会人の勝利。学生が最後に勝ったのは、2009年に立命が17−13でパナソニック電工に勝った試合まで遡らなければならない。
 ここまで力の差が明確になれば、学生王者対社会人王者の対戦というライスボウルの在り方そのものを再考する必要がある。鳥内監督が再三、記者会見の席などで述べられているように「重大な事故が起きてからでは、遅い」のである。
 この件に関しては、4日の朝日新聞紙上で榊原一成記者が丁寧に書き込んでいる。主催者に名を連ねる朝日新聞を含めて、それぞれの関係者がじっくりと議論し、主催者の都合だけではなく、選手も指導者も、そしてファンも納得するような結論を見いだしてもらいたい。
閑話休題
 気がつけば、肝心の試合のことを書く前に、スペースが埋まってしまった。急いで、試合会場に戻ろう。
 試合はファイターズのレシーブで開始。立ち上がりはQB奥野からWR阿部、糸川に立て続けに短いパスを決めてダウンを更新。続く攻撃もRB三宅の20ヤードのランなどで陣地を進める。もう少しでフィールドゴール圏内というところまで迫ったが、後が続かず攻守交代。
 自陣16ヤードから始まった相手の攻撃は予想通りにすさまじい。ランとパスでぐいぐいと陣地を進め、わずか5プレーでTD。
 ランが止まらないからパスも通る。でも、ランを止めるために人数を割けば、後ろが手薄になる。そうした混乱をあざ笑うように、相手は次の攻撃シリーズでもわずか3プレーでTD。14−0とリードが広がる。
 それでもファイターズの士気は高い。WR阿部へのパス、QB奥野のキープ、RB三宅のランなどで懸命に陣地を進める。しかし、そのたびといってもいいほど攻撃陣に反則が出る。パスインターフェア、フォルススタート、交代違反。せっかく陣地を進めても、それを帳消しにするような反則が続いてリズムに乗れない。
 逆に相手は、自陣7ヤードからの攻撃をラン、パス、パス、パス、パスとそれぞれ1プレーでダウンを更新。5プレー目もパスでTD。瞬く間に21−0。異次元の能力を持つ外国人選手のランを警戒して守備陣が前に上がっているから、パスは止めようがない状態が続く。
 ここで一矢を報いたのがRB三宅。自陣36ヤード付近から一気に64ヤードを独走してTD。ファイターズ応援席を一気に沸かせる。相手ディフェンス陣を振り切って突っ走る姿は、とてつもなくかっこよかった。
 しかし、相手も即座に反撃。エースランナーが40ヤードを独走してTD。ここもまた、わずか6プレーでのTDだ。数えてみれば、相手は前半だけで4本のTDを獲得しているが、それに要したのは都合20プレー。平均すると、わずか5プレーごとにTDに仕上げているのだから、手がつけられない。これはもう、守備隊形がどうの、スピードの違いがどうのというレベルの話ではなく地力の差そのものというしかないだろう。
 後半になると、さすがにその勢いにも陰りが出てきたが、それも鳥内監督にいわせれば「相手がメンバーを落としてきたから」ということらしい。
 しかし、そうした一方的な展開だったが、ファイターズの諸君はくじけず、一歩もひかずに戦った。攻守ともに、極端に言えば1プレーごとにけが人が出るような状態だったが、それでもひるまず、相手にぶつかった。
 守備陣は立て続けにブリッツを繰り返して相手のボールキャリアに襲いかかり、QBサックも連発した。DLでは板敷、今井、寺岡、藤本、大竹、LBの繁治、海崎、DBの松本、畑中……。攻撃陣ではOL陣がなんとか相手の突進を支え、RBの三宅、前田、鶴留らに走路を開いた。阿部が率いるレシーバー陣も活躍、最後は鈴木が見事に奥野からのTDパスを確保して一矢を報いた。
 最終盤、だれの目にもオンサイドキックが見えている状態でK安藤が蹴ったボールをキッキングチームが確保したのも、練習の成果であり、最後まで衰えぬ士気の高さがもたらしたものだろう。
 最終的な得点は38−14。今年も大きな差がついたが、少なくとも士気の高さと運動量では相手に一歩も譲るところはなかった。それはこの日の戦い、特に第4Q残り38秒から展開した魂の攻撃が証明している。
 今後、ライスボウルの在り方などについて様々な議論がなされるだろうが、この試合を戦った選手諸君にとっては、あの38秒が大きな財産となるに違いない。
 それは試合後、グラウンドに降りて一言二言、声をかける機会のあった下級生たちの表情を見た僕が確信したことである。
 冬来たりなば、春遠からじ。この試合を最後に卒業する4年生の奮闘を特筆すると同時に、この敗戦から次の一歩を踏み出す下級生たちの今後に期待する。さあ、再出発だ。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:23| Comment(2) | in 2019 Season

2020年01月01日

(33)大きなギフト

 31日朝、久方ぶりに上ヶ原のグラウンドへ顔を出した。空は晴れ、青い空が広がり、所々に白い雲が浮かんでいる。大晦日の朝、まだ10時にもならないというのに、少し動けば汗がにじみ出てきそうな暖かさだ。
 グラウンドで体を動かしている選手は大半が長袖のトレーナー姿。中には半袖シャツだけという選手もいる。
 何よりも日差しが明るく、強い。つい先日までは授業が優先で、練習開始は夕方の5時半、6時から。日はとっぷりと暮れ、正真正銘の夜間練習だった。照明があっても薄暗く、遠くからだと選手の動きはもちろん、表情などは全く見えない。六甲連山から吹き下ろしてくる風は冷たく、どんなに厚着をしていても、体の芯から凍えてきた。
 そんな練習風景になじんでいたから、この日、久々に訪れたグラウンドは、まるで別世界。冬至も10日を過ぎれば一朝来復。このグラウンドから新しい年、新春が訪れたような気分だった。
 選手の動きも軽快だ。関西リーグの終盤から甲子園ボウルを迎えるまで、ずっと漂っていた重苦しい空気は一掃され、すがすがしい空気が漂っている。大きな試合の直前とあって、練習の強度が軽くなっていることを考慮しても、なんだか別のチームの練習を見ているような気分になってくる。
 どうしてここまで清々しい空間が生まれたのか。僕の勝手な解釈を言えば、立命館との2度の決戦は「絶対に負けられない戦い」、早稲田大学との甲子園ボウルは「絶対に勝ちたい戦い」、そして迎える1月3日のライスボウルは「思いっ切り自分たちの力を発揮する戦い」。そのように解釈すれば、重っ苦しい空気が一掃されたことも、いま挑戦者として、伸び伸びとした練習ができている理由も分かる気がする。
 そう考えると、この季節までチームの全員が大きな目標を持って練習できることが、どれほど幸せかということに思いが至る。
 関西リーグで敗退すれば、12月を迎える前にシーズンが終わってしまう。4年生は全員引退だ。迎えた西日本代表決定戦を勝ち抜いても、甲子園ボウルで敗退すれば、それでシーズン終了。かくしていま、次なる試合に備えて勝つための練習ができる環境にあるのはファイターズのみ。その練習が楽しくないはずがない。
 ほんの1カ月前、立命館との決戦を前にしたチームと、いま社会人代表との戦いを前にしたチームでは、置かれた環境が一変している。雰囲気が明るくなった理由もよく分かる。こういう雰囲気の中で練習できることが、試合で先発するメンバーだけでなく、交代メンバーやスカウトチームメンバーの底上げに直結していることはいうまでもない。
 さらにいえば、こういう環境があるからこそ、新しい戦術を開発し、それに習熟する時間も得られる。
 振り返れば、ファイターズはこの10年間で7回も、こういう濃密な時間を持つことができている。その時間の積み重ねが、他のライバルたちを凌駕するための強力な武器になっているのではないか。
 そう考えると、関西リーグはとっくに終わり、甲子園ボウルも終了したこの時期、大きな目的を持って練習に励めるというのは、とてつもない幸せな時間、大切な時間に思えてくる。それは今年のチームだけではなく、来年、再来年と続くチームにとっても大きなギフトであり、財産になるに違いない。
 迎えて新年。1月3日、東京ドームでこの練習の成果を存分に発揮してもらいたい。僕はそれを心から願っている。
posted by コラム「スタンドから」 at 00:38| Comment(2) | in 2019 Season

2019年12月17日

(32)爆発する笑顔

 15日夕、早稲田大学との死闘を終え、表彰式やテレビ・新聞のインタビューや写真撮影など、すべての公式行事が終わった後のことだ。チームの全員が改めて1塁側アルプススタンドに向かって整列し、最後まで声援を送り、大学王者となった瞬間を見届けてくださった応援の人たちに向かって深々と頭を下げた。
 改めて大きな拍手を浴びた後、今度は選手・スタッフ全員がグラウンドの側を向く。その瞬間、寺岡主将がはじけるような笑顔になり、今季一番の大きな声で鬨(とき)の声をあげる。僕は、すぐ目の前でその場面を目撃していたが、彼がなんと叫んだかは覚えていない。とにかく顔全体が破裂してしまいそうな笑顔になり、両手を広げ、大声をあげ、全身で喜びを爆発させている。周囲の仲間も男女、選手、スタッフ、学年を問わずに大声をあげ、喜びを全身で表現する。
 まさに歓喜の時。それは近年、甲子園で勝ったどの年度のチームにも増して、大きな喜びのように僕には感じられた。
 それだけ、主将にとっても、チームにとっても、今季は苦しかったということだろう。リーグ戦が始まり、中盤になっても、なかなか調子は上がってこない。神戸大との試合では、相手にいいように攻められ、わずか2点差の辛勝。関西大との戦いはなんとか乗り越えたが、立命館大との決戦はスコア以上にチーム力の差を感じさせられる敗戦だった。
 それから毎週、西南学院大、神戸大という、十分にファイターズを研究してきたチームと戦い、迎えた西日本代表決定戦。立命館との今季2度目の対戦は、工夫に工夫を重ねたノーハドルオフェンスを駆使して勝利を収めたが、そこまできても、チームには重苦しい雰囲気が拭いきれない。
 昨秋のけがで、ほぼ1年間のブランクがあった寺岡主将はシーズンも半ばを過ぎて戦列に復帰したが、当初は「思うように動けない」と自分のプレーに納得のいかない言葉が続いていた。ようやく立命戦のあたりから本来の調子を取り戻してきたが、入れ替わるように守備の要である4年生の藤本や畑中がけがで戦列を離れる。シーズンも最終盤というのに、チームのまとまりもよくない。
 何よりも、早々に甲子園を見据えて動き始めた早稲田大学に比べ、毎週のように試合が続いたファイターズは、相手を研究し、対策を立て、ゲームプランを練る時間が圧倒的に足りていない。
 そんなチーム事情を誰よりもよく知っている主将にとっては、プレーでチームを引っ張っていけないもどかしさと悔しさ、言葉を尽くしても結束して戦う姿が見えてこないチームの状況は、焦りと危機感ばかりを募らせたに違いない。本来は気さくで明るい性格だが、けがの回復状況が思わしくなく、チームの状態も上がってこない時期は、本当に苦しそうだった。
 そういう苦しみが少し吹っ切れたように見えてきたのは、立命館との西日本代表決定戦に勝ってから。チームの結束が強くなったのか、ハドルでの声はグラウンド全体に響き渡るほど大きくなり、チームメートを鼓舞する言葉にも自信が戻ってきたように見えた。
 主将が変わればチームも変わる。迎えた甲子園ボウルでは、十分に相手を研究し、対策を練る時間のあった強敵を相手に、戦士たちは一歩も引かずに戦った。
 前半は、QB奥野からWR阿部や糸川へのパスが面白いように決まり、ファイターズが20−14と優位に試合を進める。
 しかし、後半は一転して早稲田のペース。第3Qの立ち上がりこそ、ファイターズがRB前田公の42ヤード独走TDで27−14と点差を広げたが、即座に相手が反撃。ともに国内最高級の能力を持つQBとエースレシーバーのホットラインが機能して立て続けにTDを決め、第3Q終了時点では28−27と逆転。ファイターズの応援席からは「やばい!」という悲鳴が聞こえてくる。
 しかし、関西リーグで1度地獄を見たファイターズは、ここから踏ん張る。RB三宅や前田公のランなどで一気に相手ゴール前に迫り、仕上げは前田公の中央ダイブ。再度逆転し、トライフォーポイントは三宅のランプレー。見事に決まってリードを7点に広げる。
 前田公は次の攻撃シリーズでも38ヤードを独走。その好機にK安藤が決定的なFGを決めて勝負はついた。
 この試合と同様、今季は試練と苦しい場面が交錯する試合を次々と乗り越えてきた。その果てに手にした学生王者の座である。試合中はもちろん、試合後も公式の儀式が続く間は「よそいきの顔」で、ぐっと押さえていた喜びが、応援席への最後の挨拶を終え、仲間との時間が戻った瞬間に爆発したのはよく分かる。
 今季、苦しみ抜いた主将が顔全体をくしゃくしゃにして喜びを爆発させ、それにチームの全員が応えた場面を撮影したカメラマンは多分、いないであろう。もちろん僕も撮影していない。それほど突然の出来事だった。けれども、その場に居合わせた僕は、そのシーンを目に焼き付けている。
 その画像は今季、折あるごとに監督やコーチから「4年生が足を引っ張っている」といわれ、もがき苦しみ、その状況を突破しようと全力で取り組んできた主将や幹部の姿を見続けてきた僕にとって、最高の宝物となった。ありがとう、寺岡主将。よく戦ったぞ、ファイターズの諸君。
posted by コラム「スタンドから」 at 15:31| Comment(4) | in 2019 Season

2019年12月08日

(31)『どんな男になんねん』

 ファイターズに寄り添っていれば、たまに得をすることがある。例えば、ファンはもちろん、チームの関係者でもほとんどご存じない朗報を一足早く知ることができることがあるし、損か得かはわからないが、悪い情報もまた同様である。
 今回は、チーム関係者でもごく一部しか目にしていない鳥内監督の著書『どんな男になんねん』(ベースボールマガジン社)の校正用ゲラを見せていただく幸運に恵まれた。金曜日の夜に後書きや著者の紹介文までを含めた263ページ分のゲラを入手、一気に読み上げた。
 監督をひいきして言うわけではないが、めちゃくちゃ面白い。長い間、チームに関係していた僕も知らなかった話がいっぱいあるし、なによりも教科外教育としてのスポーツ活動、課外活動としてのアメリカンフットボールを考える上で大切なことがどっさり盛り込まれている。日本のアマチュアスポーツの現在地とその問題点を知り、それを突き破っていくための処方箋というかヒントも随所にちりばめられている。
 何よりも読みやすい。この本は鳥内さんとスポーツライター、生島淳さんの共著の体裁をとっているが、二人が分担して書いたのではなく、生島さんが鳥内さんに何回かに分けてインタビューした内容を整理し、それを一冊の本に仕上げている。そのため、監督の語り口調(つまり、いつもの大阪弁)が生き生きと再現されている。
 つまり、本を「読む」というよりも、いつもの鳥内節を「聞く」といってもよい仕掛けになっており、その分、内容が頭に入りやすい。もちろん、大学の研究者の論文にありがちな説教臭は全くないし、スポーツライターと称する方々のひねくり回した表現もない。
 素のまんまの鳥内さんがいつも通りにハドルの中でしゃべり、学生との個人面談でやりとりしている言葉を整理整頓しているだけ。そういえば言い過ぎかもしれないが、そういう仕立て方になっているから、とにかく理解しやすい。本を読むのは苦手という人でも、一気に読み終え、その主張が(100%共感するかどうかは人さまざまだろうが)100%理解できることだけは保証できる。
 能書きはこれくらいにして、内容にちょっと踏み込んでみたい。とは言いながら、あんまり書き込むと本を手に取って読む楽しみを奪うことになるから、書店でざっと立ち読みするくらいの感覚で。まずは、僕が気になった見出し、小見出しを並べてみよう。
「4年の時の京大戦、ファイトオンを歌っとったら、なんや知らん、涙が出てきたで」
「4年生になったら、失敗できないからね。そこに成長の鍵があるんです」
「コーチになったばかりのことを思い出すと反省ばかりやな」
「自分の弱さを認めることがかっこええで」
「けが人をいたわることもチームの強さになるよ」
「4年生にはみんなキャプテンと同じ気持ちでやってくれ、言うてます」
「学生が育つよう、できることはたくさんあるよ」
「観察や、観察。練習前の学生を見ているといろいろなことが分かるで」
「教育いうのは奥が深いで」
「指導の基本はやっぱり言葉やね」
「学校と教室と、フットボールのフィールドでは、決定的な違いがあると気づいたね」 「スポーツの楽しさって、どこにあると思う? 勝つために考えることやで」
「関西学院いうのは、負けないチームやと思う。関西学院のフットボールは、泥臭いよ」「いまも申し訳ない学年があんねん」
「自分の不安を受け入れる。それが大切」
「教え方がうまい4年生は慕われるものですよ」
「効率、合理性。これもフットボールやるうえでは大事なことです」
「スポーツは、損得でかなりなの部分説明できるで」
「効率化を考えたら、もっと日本のスポーツは良くなると思うねん」
「スーパーな相手を止めるのは、やっぱりせこいヤツやな」
……こうしたキーワードを使いながら、ファイターズのフットボールと自身の指導理念、方法を語り、結論の部分は「世界一安全なチームをつくる」。自身の学生時代は、根性練もあったと振り返りながら「意味なかったな。根性を鍛えたからいうて、勝たれへんからな。めちゃめちゃな追い込み方して練習したからって勝てるものでもない。けがをするリスクを増やしているだけです」と強調。
 最後に「2003年8月16日のことは忘れたことありません」と、その日、東鉢伏での夏合宿中に4年生の平郡雷太君を亡くしたことを取り上げながら、関西学院を世界一安全なチームにすると誓ったことを説明。そこから生まれた「ファイターズ コーチング基本方針」を紹介している。
 大阪人が普段の暮らしの中で使っている言葉で軽妙に展開される教育論はもちろん、その巻末に世界一安全なチームづくりの方針を公開しているところに、鳥内監督の真実があると僕は考えている。願わくは、この方針が日本のあらゆるスポーツ指導者に共有されること。それがファイターズに寄り添ってコラムを書き続けている僕の願いである。
 その期待に応えてくれるであろうこの終章が設けられたことだけでも「この本を手にする価値がある」と強くオススメしたい。もちろん「青い血の流れている」ファイターズファンにとっては必携の書である。
追伸
本は12月下旬の発売ですが、甲子園ボウルの会場でも部数限定で「先行販売」されるそうです。

◆どんな男になんねん 関西学院大アメリカンフットボール部 鳥内流「人の育て方」
鳥内秀晃・生島 淳 / 著
ベースボール・マガジン社
https://www.bbm-japan.com/_st/s16778973

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posted by コラム「スタンドから」 at 11:10| Comment(5) | in 2019 Season

2019年12月03日

(30)会心の勝利

 会心の勝利、といえば言い過ぎかもしれない。けれども、強豪・立命館に立ち向かう直前に、ファイターズの練習を見せてもらう機会のあった僕にとっては、十分に予測できた勝利であり、会心の勝利であった。
 予測は当然、外れることもある。身内をひいきするあまり、眼鏡が曇ることもあるだろう。しかし、間近でファイターズの練習を見てきた目で見ると、そこには1ヵ月前の練習とは明らかに異なる空気が流れていた。
 例えば、選手一人一人の練習に取り組む姿勢が敗戦前と、敗戦後では明らかに変わった。仲間同士で知恵を出し合い、一つ一つのプレーに惜しみなくアドバイスを交わす場面も増えてきた。逆に、不用意な落球や不注意から起きたミスについては、選手の中から厳しい言葉が飛ぶようになった。ハドルの中心にいる寺岡主将の声の調子、勢いも変わった。
 リーグ戦で立命館に敗れるまでは、正直に言って、どこかに緩い空気が漂っていた。緩いというと語弊があるかもしれないが、練習でプレーが失敗しても、当該の選手が本気で悔しがっている姿はほとんど見られず、仲間の明らかな失敗を本気で叱っている場面も見たことがない。チームを率いる4年生の言葉も、ありきたりで上滑りしている。もちろん主将と副将が怒鳴りあい、殴り合いになる寸前、というような場面にも遭遇したことがない。
 そんな空気が前回の敗戦で一変したように僕には思えた。練習の時間は同じでも、テンポは早くなり、より正確性を追求する。立命館の強くて素早いプレーヤーの動きを想定し、それを逆手にとる仕組みを一つ一つ周到に準備する。勝負すべきところでは大胆な作戦を仕掛け、相手の意図を外す仕掛けにも工夫を凝らす。
 立ち上がりから矢継ぎ早に展開し、相手守備陣を混乱させたノーハドルオフェンスは、そうした工夫の総仕上げといってもよい。
 RB三宅の立て続けの独走タッチダウンも、QB奥野の持つ高いポテンシャルとチームで一番のスピードを持つ三宅の能力を生かすために練り上げてきた作戦の成果である。もっといえば、攻撃のキーとなるOLやTEのメンバーを個人指導で徹底的に鍛えてきたコーチの指導のたまものといってもよい。
 前半を14−3で折り返し、後半戦が始まると同時に仕掛けたオンサイドキックも、チームにとっては必然であり、キッキングチームのリーダー、安藤君を中心に周到に練り上げてきたプレーである。
 立命館の強さは、前回の試合で骨身に染みて知った。個々の選手の反応の速さもただごとではない。それを理解しているからこそ、相手の意表を突く場面で、意表を突くプレーが求められる。それを具体化し、勝負をかけたのが、立ち上がりからのテンポの速いノーハドルオフェンスであり、ワイルドキャット隊形からの三宅のランである。そして、その仕上げが後半開始早々のオンサイドキックとその成功である。
 こうした仕掛けで、ファイターズが先手をとり、チームは終始、落ち着いてプレーを展開することができた。逆に先手をとられた相手には「こんなはずじゃない」という焦りが生まれる。その焦りがプレーのリズムを微妙に狂わせ、イージーなパスを落とすような場面が出てくる。それがまた焦りを増幅し、チームから余裕が失われる。
 そこにつけ込んだのがファイターズの守備陣である。DLは鋭い出足で相手のボールキャリアに襲いかかり、QBにパスを投げる余裕を与えない。あわやTDという場面ではファイターズのDBが懸命にパスに飛びつく。ここ一番の場面で必殺のパスをもぎ取ったDB宮城をはじめLB海崎、DB松本が各1本のインターセプトを記録。QBサックに至ってはDL板敷が4本、LB海崎、DB三村、DL寺岡がそれぞれ1本という「大豊作」だった。
 それもこれも、試合開始々、2本のTDを立て続けに奪ったノーハドルオフェンスの成果である。それを仕掛けたベンチの果敢な決断であり、その期待に応えた選手たちの勇気である。
 試合の2日前、大村コーチに話しかけると「結果は神のみぞ知るです」と、冗談めかしていいながら、「でも、プレーの準備では、どこにも負けていない自信があります」という返事があった。その言葉を鮮やかに証明したような試合内容と結果に、僕はまたフットボールという競技の持つ奥の深さと魅力を知ったのである。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:20| Comment(7) | in 2019 Season

2019年11月22日

(29)心に残る言葉

 先週末の西南学院大学との試合は、仕事の都合で応援に行けなかった。今週末の神戸大戦も以前から約束していた仕事がらみの催しが和歌山県新宮市であり、どう工夫しても時間の調整がつかない。2週続けてファイターズの試合が観戦できないなんて、いまだかつてないことだ。試合だけではなく、今週は新聞社の仕事があって西宮の自宅にも帰れず、チームの練習を見ることもできない。
 歯がゆいことだが、心は二つ、身は一つ。鳥ではないので、空を飛んで行き来することもできない。仕方なく紀州・田辺の仮住まいで以前に自分が書いたこのコラムの集刷版やファイターズの卒業生が書いた文集を繰りながら、この10年ほどの4年生がこの時期、どんな思いで練習に取り組み、試合に臨んでいたかに思いを馳せ、心に残る彼らの言葉をどう現役の諸君に伝えようかと苦心している。
 例えば、2007年の11月には作家、村上春樹の『走ることについて語るときに僕の語ること』(文藝春秋)にある「苦しみは選択事情」という言葉を取り上げている。
 村上さんはその言葉について次のように説明している。「例えば、マラソンランナーが走っているとき、ああ、きつい、もう駄目だと思ったとして、きついというのは避けようのない事実だが、もう駄目かどうかは本人の裁量に委ねられている。つまり、痛みは避けがたいが、苦しみはオプショナル。つまり本人の選択次第である」と。
 この言葉は今季、毎週、ハードな試合に臨んでいるファイターズの諸君にこそふさわしい言葉であろう。体はああ、きつい、もう駄目だ、と悲鳴を上げたとしても、それを駄目だと思うか否かは本人の選択。いまはとことんきついけど、これが勝利への一里塚。この道を突き進んで初めて栄光への道が開けると腹をくくって突き進むしかないということだろう。
 2011年、松岡主将がチームを率いたシーズンのこの時期には、朝日新聞社が発行したアエラムック『関西学院大学 by AERA』にこんな文章を書いている。「たとえ戦力的に劣っている時でも、戦術を工夫し、知恵を絞り、精神性を高めて、いつも力を最大限に発揮するチームを作ってきたのがファイターズであり、戦後一貫してアメフット界の頂点を争い続けてきたチームの矜持(きょうじ)である。関西学院のスクールスポーツとして敬意を払われ、部員たちもそのことに特別の思いを持つ基盤はここにある」。
 この言葉は、苦しい戦いの続く今季のチームについても、そのまま通用する。リーグの最終戦でライバルに苦杯を喫し、苦しい条件の中で再度のチャレンジを続けているチームにとって「いつも力を最大限に発揮するチームを作ってきた」先輩たちの軌跡は、心強い味方のなるはずだ。
 2016年、山岸主将が率いるチームが立命の強さを存分に見せつけられながら一歩も引かずに戦い、最後は26−17で制した戦いを「魂のフットボール」と表現。試合後に鳥内監督のインタビューにある「選手が腹をくくってやってくれた。それを最後まで示してくれた。きわどい場面でも押し負けなかったのが勝因」という言葉を紹介している。
 「腹をくくってやり切る」「それを最後まで示す」という言葉。これこそ、いま目の前に迫った試合に求められることであろう。
 学生界の頂点に上り詰めたチームだけではない。惜しくも甲子園に進めなかったチームにも、素晴らしい言葉を残して卒業していったメンバーがいる。例えば、2015年度に卒業した作道圭吾君は「卒業文集」に次のような言葉を残している。
 「昨年のシーズン、私には多くの反省はあれども、後悔はない。もちろん君たちには勝つてほしい、ただそれ以上に後悔を持ってほしくない。やり切ってほしい。そのためにも目の前に「しんどい道」と「そうでない道」があるとき、迷ってもいいから「しんどい道」を選んでほしい。」
 まるで宮本武蔵のようなこの言葉を、最終決戦に向かう諸君に贈らせていただく。作道君には了解を得ていないが、彼もまた同じ気持ちであること、さらにいえば、過去に同じような苦しい場面に遭遇し、その難局をことごとく切り開いてきた数多くの先輩たちもまた、同じ言葉を胸の内で現役の諸君に贈っておられるであろうことを信じて疑わない。
posted by コラム「スタンドから」 at 22:35| Comment(1) | in 2019 Season

2019年11月13日

(28)ようし、もう一丁

 10日、万博記念競技場での立命戦は、試合の始まる2時間前から応援席に座っていた。しかし、不愉快なことが相次ぎ、キックオフの1時間前には、もう疲れ果てていた。
 その内容は、ここで説明するようなことではないが、ファイターズの応援に通うようになって数十年、最も不愉快な1日であったことは間違いない。
 けれども、試合が始まると、その進行を追うのに熱中した。ファイターズは終始後手に回ったが、本当に強い立命を見て、ようし、もう一丁という闘志がわいて来た。
 午後3時、待ちに待ったキックオフ。ファイターズが自陣25ヤードから攻撃を始める。QB奥野からRB三宅やTE勝部へのパスがポンポンと決まってわずか4プレーでゴール前21ヤードまで進む。しかし、そこから相手の壁を突破できない。やむなくK安藤がFGに挑むが、それが外れ、先制点を逃がす。
 がくっと来るファイターズとは対照的に相手のベンチは盛り上がる。パスとランを織り交ぜた力強い攻撃で着実にダウンを更新。守備陣が早い動きで止めようとするが、重戦車のような相手の圧力を止めるのは容易ではない。FGの3点でしのぐのが精一杯だった。
 なんとか反撃をと祈るような気持ちで応援していても、事態は好転しない。逆にパスを奪い取られてまたFGの3点を献上。前半終了間際にも3本目のFGを決められ9−0で折り返す。
 後半に入った頃から、守備陣の動きがよくなり、互いにパントを蹴り合う展開。均衡を破ったのはファイターズ。奥野から糸川、三宅、阿部、鈴木、また三宅へと、ターゲットを次々と変えたパスが立て続けに決まり、ゴール前1ヤードに迫る。仕上げはRB前田公。ゴール中央へ飛び込んで待望のTD。安藤のキックも決まって9−7と追い上げる。
 しかし、そこからの攻撃が続かない。相手守備陣の的確な対応でパスコースがふさがれ、ランも止められる。あげくにファンブルで相手に攻撃権を渡し、勢い付いたオフェンスに決定的なTDを奪われる。
 苦しい戦いは試合後に公表された両チームのスタッツを見れば理解できよう。ダウンの更新はわずかに7回。それもパスばかりでランによる更新は一度もない。獲得ヤードも相手の258ヤードに対してわが方は155ヤード。ランでは計13ヤードしか進めていない。逆に被インターセプトが2回、ファンブルが1回あるのだから、苦しいことこの上ない。わずかな光明といえば、QBサックが3回という、守備陣のがんばりを象徴する数字があるだけだ。
 結果は18−7。点差以上に圧倒されたという印象の残る試合となった。
 試合後、鳥内監督から「インセプやファンブルがあんなにあったら勝てんわな。捕れる球も落としてたし…」という言葉があったが、まさにその通り。せっかく反撃ムードが盛り上がってきたのに、落球やファンブルでそれに水を差す。耐え続けた守備陣も徐々に疲労が積み重なり、戦列を離れる選手が出てくる。そこを突くように相手がパワフルなラン攻撃でたたみかける。なかなか勝利への道筋の見えてこない試合だった。
 悔しい敗戦だが、それでもシーズンが終わったわけではない。今週末から2週連続で行われる試合を勝ち抜けば、再度雌雄を決する機会が手に入る。その間、じっくりと次の試合に備えることのできる相手と比べると、苦しい状況であることは間違いないが、それでも名誉挽回のチャンスは残されている。
 その試合を見据えて、どのようにチームの状態をアップしていくか。骨のきしむような今回の戦いで、その強さを実感した相手に、どう立ち向かうのか。どこに突破口を見つけるのか。タイトなスケジュールではあるが、時間はまだ残されている。気持ちを強く持って練習に励み、再度の戦いに挑み続けてもらいたい。
 合い言葉は捲土重来。こんなところでくたばってたまるか、である。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:02| Comment(6) | in 2019 Season

2019年11月06日

(27)コーチの目

 ファイターズに密着していると、いろんなことが見えてくる。上ヶ原のグラウンドに集まる部員たちの足取りや表情。練習中のちょっとした振る舞い。学生会館や学内の通路で顔を合わせた時の仕草。ほんの少しでも言葉を交わせば、その選手がいま、どんな気持ちで練習に取り組んでいるか、どんな悩みや課題を抱えているかも見えてくる気がする。
 週末の短い時間だけしか顔を出さない僕でさえそうだから、日々行動を共にされているコーチの目には、もっともっと多くのことが見えているはずだ。この部員はいま勢いに乗っている、練習に取り組む様子が変わってきた、笛が鳴るまで絶対に足を止めない。そういったことが一目で見えているに違いない。同時に、そういう姿を見て、求める水準を上げたり、練習時に特に目をかけたりされていることは想像に難くない。
 そのことを裏付ける格好の材料がある。試合が終わるたびに部の掲示板に張り出されるプライズマークの一覧表である。
 例えば、先日の関大戦の直後に掲示された表を見てみよう。ディフェンスでは「スタメンプラス今井、吉野に×3枚」(ゲームプラン通りプレッシャーをかけ続け、一発タッチダウンをやらず、相手を3点に抑えた)「DL寺岡、藤本、板敷、今井、大竹に×5枚」(ランプレーにも当たり勝ち、LOS上をコントロール。QBにもプレッシャーをかけ続けた。ユニットとして3サック)「LB繁治に×5枚」(よくボールに絡めていた。勝負どころでのサックもチームを助けた)「DB竹原に×5枚」(マン、ズレともに安定していた。ビンゴもタイムリーでチームを助けた)「DB渡部に×3枚」(タックルに成長が見られた。足を止めずに向かう姿勢が良くなっている)。
 このほか、近大戦の追加として「北川に×3枚」(パントリターンで相手をナイスブロック)とある。
 オフェンスも同様だ。ラインのスタメン全員に×3枚、亀井、三宅、斎藤に×1枚、鈴木に×5枚、鶴留、糸川と奥野に×3枚が贈られ、それぞれを評価した理由が具体的に書き込まれている。
 驚くのは、試合では活躍する場面のなかった1年生OL牛尾に対する評価と、4年生DL山本と本田に対する評価。牛尾については「ほとんど出番がないが、練習を通して上達しており、評価に値する」とあり、山本と本田については「スカウトDLはOLのレベルアップのために一役かっているが、その中でも日々当たり続けた二人に」と評価されている。
 試合で華々しい活躍をした選手と同様に、練習台として黙々と汗を流す選手や向上心を持って取り組むフレッシュマンにも光を当てているのがファイターズのファイターズである所以であろう。
 こうした評価を試合ごとに攻撃のコーディネーターと守備のコーディネーターがきちんと行い、それを掲示板で伝えて部員の士気を鼓舞し、向上心を刺激する。それも、見た目の派手なプレーだけではなく、チームに貢献したプレー、日ごろの努力が証明されたプレー、さらにはチームを支える地味な役割にも目を向け、それを果たしている選手を目に見える形で称えているところに価値がある。
 感情の赴くままに殴ったり蹴ったりしてして世間の批判を浴びているコーチとの違いがここにある。ファイターズは有能なコーチを揃えていると他のチームから評価され、学内のほかのクラブからも羨望の目で見られている理由は、こういったところにもうかがえるのだ。
 逆に言えば、このように指導者の目が働いている限り、選手は言い訳も手抜きもできない。やるべきことをやり遂げ、さらなる高みを目指して練習に取り組む。どんなに苦しくても自分に課した目標はやり遂げ、仲間から託された役割をはたす。その繰り返し。それがあってこそ、試合でその力が発揮できる。その結果が試合ごとに与えられるプライズマークであり、選手はそれをヘルメットに貼り付けて自らのプライドとするのである。
 さて、今週末は立命戦。天下分け目の戦いである。残された時間は短いが、まだまだやることはある。やれる時間もある。勝利に向かって全員がやるべきことをやり遂げ、清々しい気持ちで決戦に臨んでもらいたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:50| Comment(2) | in 2019 Season

2019年10月30日

(26)堅い守りと一瞬の攻め

 27日、満員の王子スタジアムであった関西大学との試合を一言で表せば「固い守りと、一瞬の攻め」といってもよいのではないか。それほど守備陣の健闘が目立った試合であった。攻撃陣もその固い守りに支えられ、鮮やかな決め技を見舞って勝ち切った。
 前半、先攻のファイターズは、パスが通ればランが進まず、ランが進んでも、肝心の第3ダウンショートが取り切れない。陣地は進めているのに、TDに持ち込めず、フィールドゴール圏内にも進めない。あげくの果てに、相手パントの処理を誤って、ゴール付近からの攻撃に追いやられる。そんなもどかしい場面が2度、3度と続く。
 並のチームなら、そんな攻撃が続けば、守備陣にも悪い影響が出てくるのに、この日の守備陣はひと味違った。ディフェンスラインの中央を寺岡、藤本ががっちり固め、両サイドの板敷や大竹が遠慮なく相手QBに襲いかかる。それに呼応してLBの繁治、海崎、アウトサイドLBの北川が狙い澄ましたようにボールキャリアに襲いかかる。最後の砦となるDB畑中は、強烈なタックルを連発する。
 立命に勝って勢いに乗る関大のオフェンスも、これでは陣地が進められない。結局、前半は互いに決め手がないまま0−0でハーフタイム。
 後半になると、ファイターズ守備陣がさらに勢い付く。第3Qでは相手に一度もダウンを更新させず得点を許さない。その間に、ファイターズは安藤のFGで3点を先取する。
 しかし、好事魔多し。第4Q早々、安藤のパントが短く、相手にゴール前40ヤード付近からの攻撃を許してしまう。ここでも守備陣が頑張ったが、1本のパスでダウンを更新され、あげくにFGで同点にされてしまう。
 やっかいな試合になったなあ、と思った瞬間、今度は攻撃陣が切れ味の鋭い攻めを見せる。最初はQB奥野。第3ダウンロングの状況で相手がパスを警戒した瞬間、一気に15ヤードを走ってダウン更新。続く自陣46ヤードからの攻撃も第3ダウン8ヤード。今度はWR糸川に地面すれすれにパスを投げ、それを糸川が好捕して再びダウン更新。
 ようやく相手ゴール前41ヤード。しかし、相手に押し込まれ、またまた第3ダウンロング。今度はRB三宅が持ち前のスピードで中央を抜けて26ヤード。一気に相手ゴール前14ヤードまで攻め込む。続く攻撃は再びRBのラッシュ。小柄な斎藤が上手く中央を抜けてゴール前5ヤード。
 このあたり、ようやくランアタックが機能して、押せ押せムードになってくる。残り5ヤードも、一気にランプレーで押し切ると思った瞬間、ベンチが選択したのは、奥野からWR阿部へのパス。ゴール右サイドに走り込んだ阿部に見事なパスが決まりTD。安藤のキックも決まって7点をリードする。
 こうなると、守備陣も勢いづく。相手陣35ヤードから始まった最初のプレーで、LB繁治が10ヤードのQBサック。さらにもう一人のLB海崎が相手パスをカットするなどして相手を完封。相手ゴール前25ヤードという絶好の位置で攻撃権をファイターズにもたらす。最終盤になって攻守がかみ合い、押せ押せムードのファイターズ。
 その勢いに乗せられたのか、続くファイターズの攻撃では、RB鶴留が一気に25ヤードを走り切ってTD。今季、パワーバックとして、相手が密集したポイントに突き刺さるようなラッシュをかけ続けた男が、この大一番で奪った止めのTDである。身長168センチ、体重89キロ。ベンチプレス152.5キロ、スクワット225キ
ロ。歴代のパワーバックの中でも、突き抜けたパワーとスピードを誇る突貫小僧がその存在感を見せつけた。
 このように試合を振り返って見ると、前後半を通じて固い守りでゲームを作ったのが守備陣であり、最終盤、一瞬の隙を突いて立て続けにTDを挙げたのが攻撃陣であることがよく分かる。
 それはこの試合の記録を見ても明らかである。総獲得ヤードはファイターズが310ヤード。内訳はランが139ヤード、パスが180ヤード。それに対して関大はランがマイナス8ヤード、パスが98ヤード。QBサックは計4回で、内訳は繁治10ヤード、板敷8ヤード、今井5ヤード、大竹4ヤード。インターセプトは竹原が1回記録している。
 試合後、守備の要として復帰した寺岡主将が「正直、ディフェンスやっていて負ける気はしなかった。いいリズムで抑えられたと思う」といっていたのも、正直な感想だろう。
 攻撃陣も、常に深い位置からの攻撃を強いられながら、オフェンスラインが踏ん張り、粘りに粘って我慢の攻撃を続けた。そしてQB、RB、WRが互いに協力して、ここぞというときにたたみかけた。その切れ味は、昨年より一段と鋭くなっているように僕には思えた。
 この勢いを続く立命戦でも見せてもらいたい。なんせ相手はアニマルと呼ばれるチームである。どこに隙があるのか、どういう切り崩し方が可能なのか。分析スタッフも含め、チームの総力を挙げて対策を練り、戦術を磨いてもらいたい。まだ時間は残されている。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:52| Comment(2) | in 2019 Season