2017年04月17日

(3)「想定の範囲内。こんなもんや」

 今季の初戦は、慶応大学との対戦。15日、神戸市の王子スタジアムに満員の観衆を集めて開かれた。空は曇っているが、暖かい。ときおり、散り始めた桜の花びらが風に乗って飛んでくる。
 大学の新入生歓迎プログラムの一つに組み込まれた関係か、今春入学したばかりと見受けられる新入生や啓明学院の高校生など、若い女性ファンも多い。この女性らに今後、ファイターズの熱烈なファンになってもらうためにも、グラウンドの選手がどんな妙技を見せてくれるか。期待が高まる。
 慶応のキック、ファイターズのレシーブで試合開始。しかし、最初のランプレーが進まず、QB光藤からWR松井への長いパスも通らず、簡単に攻撃権を失ってしまう。
 対して慶応の攻撃陣はアグレッシブ。春の初戦というのに、いきなりノーハドルの攻撃でぐいぐいと攻め込んでくる。ランとパスを巧妙に組合わせた攻撃に目先を狂わせられたのか、守備陣も対応仕切れない。テンポよく3度のダウンを更新され、あっという間にタッチダウン(TD)。キックも決まって0−7。
 ファイターズ2度目のシリーズは、自陣25ヤードから。光藤からWR長谷川へのパス、RB山口のラン、TE三木へのパスなどで陣地を進め、敵陣に入ったが、ここで痛恨のターンオーバー。光藤からWR小田に投じたパスは、小田の胸に入ったが、それをレシーバーがお手玉した瞬間に相手DBにボールを奪い取られてしまった。
 思わぬ好機に慶応の選手達が勢い付く。即座に長いパスを通してゴール前25ヤード。ここはファイターズの守備陣が踏ん張ってなんとかフィールドゴールの3点でしのいだが、得点は0−10。2月から3月は体を鍛え、基礎的なスキルを高める練習が中心で、チーム練習はほとんどできていなかったから、苦しい戦いになるとは予測していたけれども、ここまで一方的な展開になるとは思いもしなかった。やはり昨年のチームを支えた4年生がごっそり抜けた影響は大きいことを思い知らされる。
 さて、今季新しく試合に出るようになったメンバーがどこまで奮起するか。彼らの奮起を促すために、昨年から試合に出ていたメンバーがどんなお手本を見せるか。そこに注目していると、やってくれました。まずはRB高松が67ヤードのキックオフリターン。右サイドでボールを受け、一端、右に走ると見せかけて即座に左にカット。そのまま左サイドを駆け上がった。試合経験が豊富な4年生ならではの走りだった。
 相手陣29ヤードからの攻撃。ファイターズはRB山口、WR亀山、RB山本と試合経験の豊富なメンバーに次々とボールを集めて陣地を進める。第2Qに入ってすぐのプレーで山本がゴール中央に飛び込んでTD。K小川のキックも決まって7−10と追い上げる。
 これでなんとか落ち着いた攻撃陣。次に見せたのもやはり亀山と山口。まずは亀山が相手パントを判断よくキャッチし、12ヤードのリターン。相手陣38ヤードからの次の攻撃シリーズでは、山口がドロープレーで中央を突破し、そのままゴールまで走り込んでTD。腰を落としたバランスのよい走りで相手タックルを、2人、3人と交わしていく。まるでウナギのような走り方。最近のファイターズには見掛けないタイプの選手だが、相手にとってはやっかいな選手だろう。
 これで14−10と逆転したが、慶応の戦意は衰えない。相変わらずのノーハドルオフェンスでぐいぐいと陣地を進め、仕上げは見事なTDパス。14−17と慶応がリードしたまま前半は終了。
 後半に入っても互いに攻撃が続かず、3Qは0−0。
 4Qに入ると、ファイターズのレシーバー陣が奮起する。まずは光藤からWR安在への短いパスをとってダウンを更新。次は松井へのロングパス。センターライン付近からゴール前1ヤードまで45ヤードを一気に進める。相手DBと競り合ってキャッチした松井も素晴らしかったが、そこへ正確に投げ込んだ光藤もすごい。二人はともに3年生。今季の攻撃陣で必殺のホットラインとして機能しそうな予感がする。
 残り1ヤードをこれも3年生のRB中村が中央に飛び込んでTD。21−17とファイターズが逆転する。勢いに乗った光道は次のシリーズでもWR小田に23ヤードのタッチダウンパスを決め、終わって見れば、31−17でファイターズの勝利。攻守ともに課題は多かったが、司令塔の光藤が期待通りに活躍し、同じ3年生のレシーバー陣(松井、小田、長谷川)とRB陣(山口、中村)の成長という収穫もあった。
 しかし、双方の力の差は、得点差ほどにはなかった。春の初戦だというのに、終始ノーハドルの攻撃を押し通したオフェンス、関学のOL陣を簡単に突破してQBやボールキャリアに襲いかかったディフェンス。そしてこの試合にかける意気込み。そうした点では慶応がはるかに勝っていたようにも思える。
 試合後、鳥内監督が記者団の質問に「見ての通り。こんなもんや。いいのも悪いのも想定の範囲内。いいのは伸ばせばいいし、悪いとこはなおさなアカン。悪いとこが分かったのが収穫」と答えていたが、まさにその通り。すべては、この日の「収穫」を糧に、今後どのようにチームを作っていくかにかかっている。この日は出場できなかった4年生を含め、チーム全体の底上げに課題を突きつけたという意味では、ありがたい試合だった。
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2017年04月11日

(2)まずは紅白戦

 9日の日曜日はファイターズ・デー。桜が満開の大学構内を抜け、上ヶ原の第3フィールドに足を運ぶと、朝早くから選手がウオーミングアップに余念がない。午前10時から大学の公開練習と紅白戦、午後にはシニアファイターズや小学生たちも参加してフラッグフットボールの試合があるとあって、幅広い年代のファンが詰めかけている。
 僕はあいにく、郷里の小学校の同窓生が集まる会とバッティングしたため、公開練習と紅白試合を観戦しただけ。早々に引き上げてしまったが、それでも見るべきものは見せてもらった。一つは、昨年の4年生が卒業した後を担う選手たちの成長具合。もう一つは、昨シーズンはほとんど出場機会がなかった下級生たちの中からどんな選手が頭角を表しそうかという現状。
 紅白試合といっても、例年と違って、チームの編成はオフェンスとディフェンスに分けただけ。試合時間も45分程度と短い。そのうえ、無意味なけがを防ぐため、ちょっとでもコンタクトがあると即座に笛を鳴らすルールで進められたから、ライバル校相手との試合とは、雰囲気がまるで異なる。
 それでも、出場した選手たちは真剣だ。その一部始終がビデオに収められているし、監督やコーチたちも、新戦力の動向を懸命に見つめている。昨年は、スカウトチームに甘んじた選手たちにとっては成長ぶりをアピールする絶好の機会だし、立命や早稲田、そして富士通を相手にした厳しい試合に、たとえ交代要員であっても出場経験のある選手にとっては、その経験をどのように生かしているかが問われる試合である。
 なにしろ、先発メンバーをみても、昨年の最後の3試合に先発か主な交代メンバーとして出場した選手はほとんどいない。攻撃ではTEの三木、WRの前田、亀山、松井、守備ではDLの柴田。ほかはすべて、交代要員としてちょこっと試合に出ていればいい方。大半は、全く未知数な選手であり、顔と名前が一致しな選手も少なくなかった。逆にいうと、そういうメンバーが今季、1月から3月までの厳しい鍛錬を経てどれだけ成長したか、それを確認するには格好の舞台だった。
 オフェンスラインは左から松永、森田、光岡、西村、池田。昨秋は全員が交代要員だっただけに、これでQBの光藤を守りきれるかどうかが第一の見どころ。二つ目は、昨年の秋はけがで出場機会のなかった光藤がどこまで動けるか、WRやRBとの呼吸は合うかどうか。そして三つ目が昨季、最後の厳しい試合ではほとんど出場経験のなかった守備陣から、どんな有望株が出てくるか。この3点にしぼって、メンバー表片手に、背番号と名前を確認しながら、懸命に見守った。
 結論からいえば「晴れ時々曇り、ところによりにわか雨」という感想だった。
 晴れは、昨年の1年間を棒に振った光藤に使えるめどがついたこと。とりわけパスプレーの安定度が目についた。それを引き出したWR小田の活躍も特筆される。出場機会は限られていたが、光藤からゴールライン近くに投じられたロングパスをことごとくキャッチして、3本のTDに結び付けた。さすがは甲子園の舞台を踏んだ高校球児。野球で鍛えた俊敏な動きはフットボールでも通用するところを見せつけた。同じ3年生WRでは、長身の松井が昨季から活躍しており、今年はこの二人が4年生の前田、亀山とともにファンをわかせてくれそうだ。
 守備では、これも昨季、交代要員としてシーズン後半から出場機会のあったDL今井、DB吉野の鋭いラッシュが目を引いた。逆に、光藤からWR陣へのパスを次々と通された守備陣には課題が多い。ランプレーで相手守備陣を押し切れなかったOL陣とともに、まだまだレベルアップが必要なことが明らかになった。
 さて、今度の週末、土曜日には早くもシーズンの初戦が予定されている。相手は慶応。近年、めきめきと力を付けているチームであり、2年前に戦った時も、素晴らしい試合を見せてくれた。そういうチームを相手に、2月から3月にかけては、体幹訓練や筋力トレーニングが中心で、ほとんど試合に向けた練習をしてこなかったファイターズがどんな戦いを見せてくれるのか。この日の紅白戦には登場しなかったメンバーも含めたチームの骨格が見えてくるのか。見どころは多い。今度は丁寧にメモを取りながら観戦しよう。
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2017年04月04日

(1)新しい年

 2017年度のファイターズは4月1日、上ヶ原の第3フィールドでのお祈りで始まった。午後1時半、練習前の練習を切り上げた選手とスタッフがグラウンド中央でハドルを組み、顧問の前島先生が聖書を読まれる。
 今年、選ばれた言葉は「ローマの信徒への手紙」の一節である。
 「私たちは知っているのです。苦難は忍耐を、忍耐は練達を、練達は希望を生むということを」
 そう、これは第3フィールド入口のロータリーにある石造りのモニュメントに彫り込まれた言葉であり、ファイターズの部員ならば、一度は耳にし、また練習の行き帰りにこのモニュメントで目にしたはずの章句である。
 先生はこの言葉を読み上げ、祈りとは思うこと、その思いの深さが勝敗を分けるという話をされた。
 続いて、鳥内監督から「君らがどこまで本気の取り組みをするか。神様はみてはんねん。形だけ、口だけの取り組みではアカン。以上」と短い言葉があり、即座にハドルが解かれる。1年生は入学式のために欠席だったが、4年生から2年生までの部員がいつも通りにスキルを身に付ける練習に黙々と取り組み、17年度のチームがスタートした。
 もちろん、ファイターズの新しいシーズンは1月3日にライスボウルで敗れた翌日からスタートしている。期末試験が終わるのを待ちかねたように、体力づくりのトレーニングが始まり、2月には地獄の千刈合宿で足腰を鍛えた。3月には、学内で合宿し、相撲部屋のような取り組みで筋力を養い、体幹を鍛えてきた。
 途中、中学、高校、啓明学院との合同壮行会や甲子園ボウル祝勝会、そして昨年のチームを支えた4年生を送り出して、あっという間に4月。学年が改まり、井若主将を中心にした新チームのスタートである。それにあわせてこの3カ月間、ライスボウルで敗れた悔しさを抱えて一人、悶々としていたこのコラムも新しいスタートを切る。
 さて、大量の4年生を卒業で失ったこのチームが今年、どんな戦い方をしてくれるのか。まずは失われたメンバーの穴を埋め、昨年を上回る陣容を整えなければならない。毎年毎年、卒業生を送り出し、新たな陣容での再スタートを余儀なくされるのが学生スポーツの宿命ではあるが、逆にいえば、どんなメンバーが新しい戦力として登場してくるのか、という楽しみがあるのも、学生スポーツならではの魅力である。
 お祈りに引用された聖書の言葉に即していえば「卒業生を失うという苦難が忍耐を生み、その忍耐が練達を、練達が希望を生むのです」ということだろう。聖書はこの言葉のすぐ後に「希望は私たちを欺くことがありません」と続けているが、まさにその通り。苦難と忍耐、そして練達を通じて見つけた希望は、決して裏切らない。もし、裏切ることがあるとすれば、それは忍耐が口先だけで、練達が本物ではなかったということではないか。
 監督の「神様はみてはんねん」という言葉も同様である。苦難を真っ向から受け止め、ファイターズの一員としていかに生きるべきかを突き詰める。耐え忍び、本気の努力を続けることで練達が生まれる。その練達が明日への突破口を開くということだろう。
 節目の日にこういうお祈りの時間を持ち、気持ちも新たに新しいシーズンに挑む。もう10数年も続いている行事だが、こういう時間を持つたびに、気持ちが改まる。グラウンドの選手たちにとっては、なおのことであろう。
 もちろん関西リーグのライバルたちをはじめ、全国のチームが「打倒!ファイターズ」を合い言葉に立ち向かってくる。彼らは昨年、ファイターズに敗れたその翌日から「捲土重来」を期して、懸命の努力を続けているはずだ。その思いは、僕らが想像するよりはるかに強かろう。それこそ「死にものぐるい」で冬に鍛え、春の浅い時期から努力を重ねているはずだ。
 そういう相手にいかに立ち向かうか。数えて見れば、秋のリーグ戦の開幕まで5カ月もない。途中、前期の試験で練習ができない期間があることを考えに入れれば、まともに練習できる期間は4カ月少々である。1日、1時間、1分、1秒を大切に本気の練達に取り組んでもらいたい。今季も大いに期待している。
   ◇    ◇
 お知らせがひとつあります。昨シーズンのコラムを「2016年 ファイターズ 栄光への軌跡」という冊子にまとめ、発行しました。選手やスタッフには贈呈しましたが、予備が少々ございます。4月から試合会場でファンのみなさまにお求めできるようにします。1冊500円。例年通り、売り上げはすべてファイターズに寄付させていただきます。ご協力をお願いいたします。
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2017年01月05日

(35)花いちもんめ

 大晦日から正月2日にかけて、気分は上々だった。
 理由は二つ。大晦日の朝、上ヶ原の第3フィールドで見た2016年最後の練習に手応えがあったこと、2日の夜、自宅近くを散歩中に見上げた空に冴え冴えと光る新月が見えたことである。
 練習では、オフェンスの仕掛けがことごとく成功する。伊豆のパスの精度が上がっているし、OL、WR、RBとの呼吸もぴったりだ。立命館との2度の死闘を制し、早稲田にも付け入る隙を与えなかったことが、オフェンス全体にある種の手応えを獲得させ、一つ一つプレーに自信がついてきたのだろう。
 守備のメンバーも同様だ。ほんの1カ月半前、立命戦を前にしたときのような神経質な雰囲気はなく、みんなが自分のプレー、役割に自信を持った様子が傍目にも感じ取れる。
 「学生はある日突然、大化けする。それを人は若さの特権、成長と呼ぶのだろう」と感じ入り、その夜、書く予定になかったコラム34を一気に書き上げた。
 2日に見上げた新月にもまた、ゲンのよい物語があった。その日は、どこかの国旗のように、三日月がそのすぐ近くに大きく輝く星を抱えていたのである。それが金星(きんせい)と知った時、そうか三日月が金星(きんぼし)を抱き寄せたのかと合点し、「こいつは春から縁起がいいわいなあ」と、思わず歌舞伎役者の口調を真似てしまった。
 けれども、現実はそんなに甘くはない。朝の9時半に東京駅に着き、5時間半もキックオフを待ち続けたが、始まってみれば、攻守ともに相手ペース。QBが前評判通りの速くて正確なパスを投げ続けてペースをつかみ、最初の攻撃シリーズで3点、次のシリーズでもFGの3点を重ねる。
 2度の立命戦、そして甲子園ボウルの早稲田戦では、力とスピードで相手をコントロールしていたDLと的確な判断でボールキャリアに襲いかかっていたLB、DB陣は、この日も元気いっぱいだったが、相手はその上を行く。第3ダウンロングの状況でも、焦らず、慌てず、的確なパスをびしびし決めてくる。あげくに急所では3本のタッチダウンパス。それぞれファイターズの誇るDB陣がしっかりカバーしていたが、ここしかないというポイントに、ドンピシャのタイミングで投げ込まれては、カットもできない。
 学生のリーグでは過去に一度も見たことのないほどの能力を持ったQBに、気持ちよく投げさせては勝ち目は薄い。オフェンスのビッグプレーを期待するしかない状況だったが、相手にはLB、DBにそれぞれ一人ずつ化け物のような外国人選手がいる。でかくて強くて速い。自分のスピードと判断力に自信を持っているから、ファイターズが練りに練ったプレーにも惑わされない。的確にキャリアを見きわめ、即座にフルスピードで襲いかかってくる。
 そうなると、緻密に練り上げ、練習で完成させたプレーも簡単につぶされる。リーグ戦や甲子園ボウルでは相手を支配し続けたOLが割られ、伊豆が逃げ惑う場面が録画場面のリプレイのように繰り返される。
 伊豆はそれでもめげず、WR前田や亀山へのピンポイントのパスを決め、橋本、野々垣、加藤らのRB陣が懸命にラッシュして、パスとラッシュで都合361ヤードを獲得。後半に13点を返して、ファイターズの意地を見せた。
 しかしそれでも、結果は30−13。試合をひっくり返すには至らなかった。「負けて悔しい花いちもんめ」である。
 相手は年齢制限のない社会人の代表。当方は学業を優先し、4年間で卒業していく部員ばかり。そのうえ、社会人は海外から一級の助っ人を獲得できるが、当方は自前で日本の若者を育てていかなければならない。異次元のプレーを展開する外国人4人に対抗できるほどの人材がそうそうそう国内に存在するとは考えにくい。
 今年のチームは、シーズン半ばから急激に成長した。しかし、そのチームをもってしても、鳥内監督の試合後の談話にあった通り「戦術だけで勝てる相手ではない」というのが正直な感想である。だから余計に悔しい。懸命に特別なプレーを考案し、それに磨きをかけて試合で使おうとしても、相手はそれを個人技で突破してくる。時間は4年間、出場できるのは大学生だけ、という制約がある中では、そうした傑出した選手に戦術だけで対抗することは難しいことを思い知らされた。それが悔しい。
 しかしながら、この悔しさを体感し、かみしめて、もう一歩上を目指せるのは、今年のライスボウルに出場できたチームだけである。もし、今年の4年生が昨年、今回のように社会人代表との力の差を体感し、この悔しさを体験していたら、また別の戦い方ができたのではないかとも考える。
 その連続性こそが収穫ではないか。4年生は卒業するが、3年生以下のメンバーは、来年以降、再度チャレンジすることができる。「負けて悔しい花いちもんめ」を「勝ってうれしい花いちもんめ」にするチャンスを掴むべく、新たなスタートを切ろうではないか。この悔しさ、4年生の流した涙は、きっと成長の糧になる。
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2017年01月01日

(34)フィニッシュ!

 12月31日、大晦日の上ヶ原の第3フィールドは快晴。風もないポカポカ陽気だった。気温は計測していないけど、多分、東京ドームの気温と同じぐらいだろう。
 そういう恵まれた条件で、朝の10時から今年最後の練習が始まる。世間は年末の休みとあって、普段の休み以上に、見学と激励に見えるOBも多い。中には今季、Xリーグで富士通と対戦されたOBも見えており、あちこちでライスボウルに向けたファイターズファミリーならではの話題が交わされる。
 こういう場面を見ていると、今季もいよいよ押し詰まってきた、と実感する。実際、明けて正月、3日になれば、もう決戦の当日である。その前に東京までの移動日があり、試合前にはプレーを合わせる程度の練習になるから、実質的には今季、山岸主将が率いるチームの練習は、この日が最終である。
 それだけに、時間は短いが、攻守とも気合いの入ったプレーが次々と繰り広げられた。僕は主としてオフェンスの練習を注目していたが、多彩なプレーが面白いほど進む。ラン、パスを問わず、王道のプレーも、今度の試合に向けた特別のプレーも、ビシバシと決まる。「準備は完了。さあ、決戦だ!」という言葉がぴったりする仕上がりである。
 新聞などには、鳥内監督の「30個ほどスペシャルプレーを準備した」という談話などが掲載され、ファイターズの「奇襲が勝敗の鍵を握る」などと書かれていた。僕の胸の中でもだんだん期待が膨らんできた。
 もちろん、アメリカからの強力な助っ人4人を迎え、日本代表クラスのメンバーで構成する相手は強い。チームを挙げて優秀な人材を育てても、4年で卒業し、毎年毎年、新しいメンバーで勝負しなければならな学生チームがそれに対抗するのは、容易なことではない。JVチームを相手に、面白いほどパスが通り、切れ味の鋭いスペシャルプレーが進んでも、それが東京ドームで通用するかといえば、全くの白紙である。
 それは最近10年ほどの間に、社会人と戦った5回の勝負が物語っている。それぞれ戦前の下馬評を覆して、あと一歩の所まで相手を追い詰めた。試合終了の直前までリードしていたこともある。しかし、最後には地力の差を見せつけられた。「よく頑張った」「素晴らしい戦い振りだった」と僕もこのコラムで書き連ねてきたが、同時に「なぜこの試合を勝ちきれないのか」という悔しい思いを捨て去ることができなかった。
 早い話が「よくやった」「いい試合だった」というだけでは、辛抱できない。今年こそ勝ってくれ、君たちなら勝てる、という渇望にも似た心理状態に陥っているのである。
 実際、今年の山岸軍団は素晴らしい。負傷者がいても、試合が思い通りに進まなくても、選手は一切言い訳せず、ひたすら前を向いて取り組んできた。その精進、鍛錬の軌跡は、関西リーグの後半、関西大以降の戦い振りが証明している。素晴らしいタレントを揃えた立命館を相手に2度の戦いを制し、早稲田の奇襲策にも対応して学生日本1になったことは伊達ではない。甲子園ボウル以降の成長ぶりも、過去のチームに勝ることはあっても劣ることはない。
 しかし、本当の勝負はこれからだ。社会人の強豪を相手に、自分たちの持っている力をすべて出し切れるか。一対一の戦いで勝負出来るか、一つ一つのプレーを思い通りにフィニッシュできるか。そこが問われてくる。
 いくら素晴らしいパスを投げても、受ける方がそれをはじき出されれば、それで勝負は終わり。いくらOLが走路を空けても、ボールキャリアがそこに突っ込むタイミングを違えれば、陣地は進まない。攻撃が何とか得点を重ねても、守備が持ちこたえられなければ勝てない。逆に、守備がことごとく相手を食い止めても、攻撃が振るわなければ負ける。
 15分クオーターの消耗戦をどのように支配し、相手の隙を突いて一瞬の刃を振るえるか。そこでもフィニッシュが問われる。
 相手には、強力な外国人選手に加えて、これまでの先輩たちが散々苦しめられてきた立命など関西学生リーグ出身のメンバーも少なくない。そうしたメンバーを相手に、出場する選手すべてが怖めず臆せず戦いを挑み、一対一の勝負に勝つことができるか。求められるプレーを試合終了の笛が鳴るまで貫徹できるか。
 勝負の綾は奇襲作戦を立てることにあるのではない。それをフィニッシュにまで持っていくこと、そのための泥臭いプレーに、すべての選手がこだわり続けることにかかっている。
 鮮やかな勝利は要らない。泥臭くても、見栄えはよくなくてもいい。グラウンドに立つすべての選手がそれぞれの職分を尽くして勝負して欲しい。その勝負に勝って初めて、道は開ける。
 頑張ろう! 東京ドームを君たちの晴れ舞台にしようではないか。
 4年生の諸君! そしてそれを支え、時にはリードしてきた下級生諸君。その一端を見続けてきた人間の一人として、いまはひたすら諸君のフィニッシュを祈っている。
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2016年12月26日

(33)「職分」を尽くす

 江戸時代、安定した社会が260年も続いたのはなぜか。
 この問いに対して『逝きし世の面影』『江戸という幻形』などの著作で知られる渡辺京二さんが『無名の人生』(文春新書)で次のように解説しています。箇条書きにすれば、こんなことです。
 @人々が辛いことは軽く脇にそらしてやり過ごす術に長けていた。互いへの気遣いが浸透していたから、お互いが気持ちよく幸せになれた。
 A貧しい暮らしをしている人はもちろんいるけど、決してその暮らしは悲惨ではない。まじめに働けば自分の腕一本で食っていけた。
 B幕府の機構もある意味では民主的だった。士農工商という身分差別は厳格で窮屈だったといわれるが、実は見かけとは違ってかなり民主的な社会だった。
 C司法も公正だった。建前は厳格だったが、その裏では現実的な運用を心掛け、それなりの幅を持たせていた。
 D社会の秩序は、侍にしろ、百姓、町人にしろ、各個人がその社会のなかで持つ「役」が集積してできあがっている。人々はその「役」「職分」に社会的責任を感じており、それがその人にとっての「誇り」の感情だった。つまり「俺はこの職分でもって世の中を支えているのだぞ」という「誇り」のシステムが機能していた……。
 江戸時代の社会という主語をファイターズに置き換えれば、なぜファイターズが東西の強豪チームを相手に、勝ちを呼ぶ込むことができたのか、という理由が納得できると思います。そして、すべての構成員がそれぞれの「役」「職分」を果たすことで、社会人のトップに挑み、勝利を収める道筋も見えてくるのではないでしょうか。
 例えば、@にいう「辛いことを脇にそれしてやり過ごす」です。これを練習と置き換えて考えましょう。ファイターズの練習時間と休憩時間は厳密に管理され、選手を上達させることだけを目標に取り組まれています。コーチや上級生が憂さ晴らしや自己満足のために下級生を「痛めつける」ような練習は一切ありません。シーズン終盤のこの時期になっても、チームで取り組む時間は普段と同じです。チーム全員で取り組む時間は、休憩時間を入れても1時間半ほどです。無理な「根性練」で追い込んでも、マイナスに作用することはあってもプラスになることはない。それよりも、それぞれの部員が目的を共有し、一所懸命に取り組む方が効果が上がると、長い歴史を通じて確信しているからでしょう。
 Aでいえば、みんながみんな選手としての天分を持っている訳ではない。けれども、まじめにチームの活動に取り組めば、必ず自分の持ち味を生かせる場所があると理解すればどうでしょう。フットボールは攻守蹴のパートに分かれ、選手の交代も自由です。足が速い、当たりが強い、相手の動きをいち早く察知できるなど、何か一つ特徴を持ち、それを磨くことで活躍する場所が見つかります。それは選手に限りません。マネジャー、トレーナー、分析スタッフなど、自らの能力を生かす役割はいくつもあります。黒澤明の「7人の侍」に出てくる「その場にいるだけで場が和む人」の役割を果たすことも、立派な貢献です。
 Bは、ファイターズの特徴そのものです。戦後、チームが再スタートした当初から、時の主将が下級生に対して「みんな兄弟や。仲良くやろう」と呼び掛け、風通しのよいチームを作られたのは、よく知られた話です。その伝統はいまも引き継がれ、チームのためになると思えば、下級生が上級生にも厳しく注文を付けます。女子のマネジャーやトレーナーが「どう猛な」男子部員を叱り飛ばします。1年生部員が更衣室の入り口に張り紙をして、室内の整理整頓を呼び掛けた話は、2年前のこの時期、コラムに紹介しました。
 Cは指導者の対応と考えればどうでしょう。鳥内監督は常々「あいつらが勝ちたいというから、手伝っているだけ」といい、部員に「どんな人間になんねん」と問い掛けています。主役はあくまでも部員。その成長を指導者は脇から手助けすることが役割と心得ておられるからでしょう。もちろん、時には厳しい口調で部員をたしなめられることもあります。それは部員が全力を尽くしていないと見えたとき、あるいは浮ついた言動が見られるときなど、指導者としての責任から発せられる言葉です。
 コーチも同様です。誰もが驚く戦術を創造するだけではありません。試合のたびに頑張った選手に贈られる「プライズシール」が象徴するように、選手の貢献度を常に公平に温かく見守っています。指導者にその「職分」を果たすプロとしての創造力と公平な目があるから、選手もまた「明日も頑張ろう」という気持ちになるのでしょう。
 以上、長々と書いてきましたが、一番言いたいことはDにあるすべての部員がそれぞれの「役」「職分」に誇りを持ち、それを完遂する風土がこのチームには存在すると言うことです。先発メンバーも交代メンバーも、それぞれが全知全能を尽くして戦う。スカウトチームのメンバーもまた、試合に出る選手を鍛えるために、全力を尽くす。それもまたこのコラムで書いてきたことです。もちろん、マネジャーやトレーナー、分析スタッフの仕事、役割も必要不可欠です。それぞれがその「職分」に誇りを持ち、俺が日本一のチームを育てる、僕が相手チームを裸にする、ビデオの撮影なら誰にも負けない、と頑張るから、チームのモラルが高くなるのです。
 こうした@からDまでのトータルが立命との2度の力勝負に勝ち、早稲田の幻惑作戦を打ち破る原動力になったのです。ファイターズの戦い方に対して、巧妙な戦術とか試合巧者という表現がしばしば使われますが、そういう上っ面の話ではありません。
 そういう戦術を可能にする部員の精進、監督やコーチの指導力と分析力。そういうもろもろが積み重なった結果としての大学日本1です。大いに誇ればいいと思います。
 しかし、ここからが大切な点です。チームには社会人に勝って日本1、という目標があります。それをどう達成するのか。そこが勝負です。監督の「勝たなアカンねん。よくやった、だけではアカンねん」という言葉に、どう答えるか。本気の取り組みが試されます。
 幸い、残された時間はあります。気持ちを高めて練習に取り組み、勝つための戦術を仕上げて下さい。チームの全員がそれぞれの「職分」において、日本1の取り組みをして下さい。チーム全員のベクトルが一致したとき、化学反応が起きて「日本1」が両手を挙げて飛び込んでくるでしょう。
 健闘を祈ります。
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2016年12月20日

(32)我慢する力

 甲子園ボウルでは初めてまみえる早稲田大学を相手に、ファイターズは堂々の勝利を収めた。31−14。終わって見れば、ダブルスコアである。
 しかしながら、現場で見ている限り、双方の力量に得点差ほどの開きがあったとは到底思えなかった。とりわけ前半は、早稲田の変幻自在な攻撃と思い切った守備体系に幻惑され、振り回された。ひとつ展開が変われば、早稲田の攻撃陣に存分に攻められるのではないかという予感さえした。
 立ち上がりのファイターズの攻撃がその予感に輪をかけた。RB高松のリターンで自陣26ヤードから始まったこのシリーズ。いきなりQB伊豆からWR池永へ30ヤードのパスがヒット。続いてRB野々垣と橋本が確実にヤードを稼ぎ、残る1ヤードは伊豆からWR前田へのパス。17ヤードを稼いで一気に相手ゴール前23ヤード。
 ここまでは順風満帆、計算通りだったが、そこからが攻めきれない。先日の立命戦と同様、FGで3点を狙いにいったが、それが外れてまさかの無得点。前途多難という不安が漂う。
 迎えた早稲田の攻撃。第3ダウンロングの状況で簡単にパスを通され、簡単にダウン更新。前途に不安がよぎる。
 しかしここはLB松本のタックル、CB小椋のパスカットでなんとか相手をパントに追いやり、再び自陣35ヤードからファイターズの攻撃。ここはWR前田と亀山へのパスを立て続けに4本成功させ、RB橋本の中央ダイブ、再び前田へのパスと続けて3度ダウンを更新。仕上げはゴール前11ヤードから伊豆が左オフタックルを抜けてTD。西岡のキックも決まって7−0とリードした。
 これで一安心、と思う間もなくいきなり相手に37ヤードの縦パスを決められてゴール前33ヤード。そこから短いパスを立て続けに決められ、QBのスクランブルにも振り回されて、あっという間にゴール前4ヤード。次のプレーで中央を割られてTD。たちまち同点に追いつかれる。
 やっかいな相手とは聞いていたけど、たしかにその通りである。パスが自在に投げられるQBと走力のある二人のRB。それを自在に使い分けて攻め込んでくる早稲田の攻撃をどう止めるか、対応策はあるのか。スタンドから観戦していても気が気ではない。
 そういう嫌な雰囲気を突破してくれたのがDLの中央に立ちはだかる松本と藤木。とりわけ松本は120キロの巨体からは想像できないスピードで再三相手OLを突破し、QBに襲いかかる。たまらずパスを投げ捨てたが、それが反則とされ、相手の攻撃が続かない。
 ファイターズもDLが一人、残りの10人がLBとDBの位置に並ぶ変則的な相手守備陣に幻惑され、攻撃が続かない。双方ともにパントを蹴り合う状況だったが、その膠着状態を破ったのがRB橋本。自陣29ヤードからの攻撃で一気に36ヤードを走り、相手陣35ヤード。ここから野々垣のラン、伊豆のスクランブルなどで陣地を進め、残る6ヤードをRB加藤が走り切ってTD。まるで先日の立命戦の勝負を決めたTDと同じようなコースを駆け抜ける会心のプレーだった。
 これで息を吹き返したファイターズは、次のキックを相手陣奥に蹴り込む。それをキャッチした相手リターナーが左を走るもう一人のリターナーにそのボールをパスしたが、それが不正な前パスと判定され、早稲田の攻撃は自陣9ヤードから。そこからの第一プレーでDL松本が中央を割って相手QBに襲いかかる。慌ててパスしたボールがすっぽりLB山本の胸に入り、そのままゴールまで9ヤードを走り込んで見事なインターセプトリターンTD。ファイターズが21−7とリードして前半を折り返す。
 それでも早稲田はひるまない。後半の第一シリーズでTDを決め、21−14と追い上げる。こうなると、リードしている方が逆に苦しい。その苦しい場面をファイターズは伊豆の相手陣深くまでのパントでしのぎ、松本を中心としたDL陣が相手QBに圧力をかけ続けて持ちこたえる。膠着状態の中で4Q3分48秒という微妙な時間帯で西岡の21ヤードFGが決まって10点差。
 そうなると守備陣の動きはさらによくなるDE三笠のQBサック、DB小池のインターセプトとたたみかけ、仕上げは野々垣がオフタックルを抜けて21ヤードのTD。相手の反撃も、今度はCB小椋のインターセプトで断ち切ってしまう。最後はけがなどで戦列を離れていた4年生を大量に投入し、喜びのニーダウン。終わって見れば完勝だった。
 しかし、このように得点経過を記しているだけでも、勝利の女神はファイターズにほほえんだかと思うと、今度は早稲田に愛想を振りまく。その繰り返しの中で、勝敗を分けたのは何か。僕は我慢する力において、ファイターズに一日の長があったとにらんでいる。
 それを証明する場面ならいくらでも挙げることができる。例えば、DL松本や藤木が何度も相手ラインを割って相手QBに襲いかかった場面。相手QBがたまらずパスを投げ出す場面が相次ぎ、反則と判定されても仕方なさそうな場面もあったが、判定は単なるパス失敗。それでも腐らず、我慢強く中央を突破し、QBに圧力をかけ続けた。
 それが直接的には相手の攻撃を抑え、間接的にはQBの投げ急ぎを誘って3本のインターセプトにつながった。
 逆に伊豆は、そういう場面でも決して焦らず、我慢のプレーに徹していた。危険な場面では決して投げず、ぐっとこらえて自ら走り、陣地を進める。陣地は進まなくても、ボールを奪われることだけは絶対に避ける。その我慢が結局は仲間の好走、魂のダイブにつながり、ダウンを更新して新たな攻撃、新たな得点に結びつけた。
 ファイターズ側からいえば、リードしている強みを生かしたことになるし、相手側からいえば、追わなければならない焦りがミスにつながったともいえよう。
 甲子園ボウルのような大きな試合では、追う方も追われる方もともに苦しい。その苦しい状況で、どちらが辛抱できるか、我慢できるかという点に勝負の綾がある。
 双方の力を比較すれば、互いに攻守ともに持ち味、決めてがあった。それを存分に発揮した方が勝利に一歩近づくと、僕は試合前から考えていた。その見方は、試合が終わったいまも変わっていない。
 裏返せば、相手の決め手を封じるためにチームの全員がどこまで献身できるか、難しい局面でイチかバチかのプレーに走らず、どこまで我慢するかで勝負が決まるということである。試合展開とその結果からいえば、我慢する力において、ファイターズに一日の長があったということだろう。
 似たようなことを試合後のインタビューで主将の山岸君も言っている。次のような言葉である。関学スポーツから引用させていただこう。
 「勝負所でスペシャルプレーにやられる時もあったが、我慢したい時間帯は我慢できた。いつもピンチの時に回ってくるのがディフェンスチームの役割といってきたので、慌てず対処出来たと思う」
 その通りである。3万5千人の観衆に見守られ、日本1の座をかけた試合。アドレナリンが出まくる大舞台で、攻守のメンバー全員が、我慢するところで我慢し、相手の一瞬の隙を突いて刀を一閃させたというのが今年の甲子園ボウルではないか。そういう我慢する力を身に付け、ここ一番で発揮できたことを、人は成長と呼ぶ。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:34| Comment(1) | in 2016 season

2016年12月14日

(31)GO! FIGHTERS!

 先週末、第三フィールドで練習の始まる前に、4年生DLの元原君と少しばかり立ち話をした。次のような会話である。
 「立命戦すごかったな。感動したよ」
 「みんなよく頑張ってくれました。オフェンスとディフェンスが互いに信頼して、100%の力を出してくれました。やっとチームが一つになったという実感があります」
 「本当に、シーズンの前半はどうなることかと思う試合ばかり。下位のチーム相手に、全然エエとこなかったからな」
 「神戸大戦あたりが最悪でした。これではアカン、とにかく練習から全力でやろうと僕自身も気合いを入れました」
 「たしかに君や堀川君が練習台になって、OLの当たりを真っ向から受け止めてくれたから、日に日にOLが強くなった。負傷者も復帰し、試合でも力を発揮できるようになった。攻める形ができてきたから、攻撃にリズムが出て、それが守備にもいい影響を及ぼしたということかな」
 「それにしても、この時季に目標を持って練習出来るっていいですね。去年はもうシーズンが終わってましたから」
 「そうそう。君らは選ばれたチームや。関西のライバルたちの悔しい思いを背負って全力で戦うことが義務や。去年の悔しさを思い出したら、どんな練習だって苦しくない。ワクワクする気持ちで練習に取り組み、もう一段も二段も力を付けてくれ」
 「はい。頑張ります」
 元原君は関西大倉高校時代はLBで主将を務めていた。期待されて入部したが、度重なるけがやポジションの変更で、なかなか試合で活躍する場面がなく、4年生になっても練習前の早い時間からグラウンドに降り、OLの練習台を務めるのが日課のようになっていた。それでも腐らず、Vの選手を相手に体を張って練習相手を務めてくれた。Vチームの一員となったいまもずっと、その役割を務めてくれている。
 同じポジションの堀川君も同様だ。彼は189センチ、120キロという巨体で、正面からのぶつかり合いでは誰にも負けない、と自負している。確かに、真っ向から当たれば、めちゃめちゃ強い。最近は試合に出る機会が増えたが、それでも練習時には1本目のOLたちを相手に練習台を務め、その特徴を生かして激しく当たりあっている。
 こうした選手は、ほかのポジションにも何人もいる。例えば、ランニングバックの松本直樹君もその一人。毎日毎日、スタメンで出るDBやLBを相手に練習台を務めている。体は小さいが、繰り返し繰り返し素早いスタートを切り、絶妙のカットバックでDBやLBを振り回している。その動きを見ていると、どうしてこれだけ動ける選手が試合に出してもらえないのか、そこまでRBの層が厚くなってきたのか、と思うほどだ。
 同様のことは4年生WRの水野君や細川君についてもいえる。彼らとはほとんど話したことはないけれども、いつも試合前の練習には先頭を切って現れ、同じく早出してきたQB伊豆君を相手にパスキャッチの練習をしている。二人は僕の授業に参加しているメンバーでもあり、先日の小論文では「試合で貢献する機会は少ないかもしれないが、いつも誰よりも早く練習を始め、熱心に取り組む姿を見せることで、後輩たちの模範になることを心掛けている」という意味のことを書いていた。
 こういう部員が攻守ともに何人も存在し、チームを支えているのがファイターズである。彼らが体を張って練習台になり、もっと強く当たれ、もっと素早く動け、と仲間を鍛えに鍛えているからこそ、試合に出る選手は本番でも活躍できるのである。口で言うだけでなく体を張って本物の当たりを教え、見たこともないようなカットバックを見せる。早くからグラウンドに出て、後輩たちに手本を見せる。その繰り返しがあって初めて、試合で力を発揮できる選手が育っていくのである。
 ローマは一日にして成らず、ファイターズも1日にして成らずである。
 そういう練習を師走も半ばになって続けることができる。甲子園ボウルで勝つ、社会人を相手に勝つという、明確な目標を持って取り組む練習。元原君が「この時季も、目標を持った練習ができることがうれしい」という意味はそこにある。
 いよいよ甲子園ボウル。キックオフは18日午後1時5分。ここで一番、練習の成果を披露してくれ。山岸主将が立命戦の後、インタビューでいっていた。「僕たちの目標は日本1ですから」と。日ごろの練習を信じ、立命戦の激闘を支えにして、東の代表を打ち破ってくれ。
 GO! FIGHTERS!
 Fight Hard!
posted by コラム「スタンドから」 at 12:54| Comment(2) | in 2016 season

2016年12月05日

(30)魂のフットボール

 長い間、ファイターズの試合を見てきたが、今日のように力の入った試合はそんなにない。終わって見れば26−17。ファイターズが順当に勝利したように見えるが、とてもとても、そんなに力量差がある試合ではなかった。一つ間違えば、逆の結果が出ていたかもしれないほどの緊迫した勝負であり、敗れた立命館の強さを存分に見せつけられた。
 しかしながらファイターズの諸君は、その強力なチームを相手に一歩も引かずに勝ちきった。オフェンスといわず、ディフェンスといわず、出場したメンバー全員が根性の座ったプレーを展開。文字通り「魂のフットボール」を披露してくれた。
 それを象徴するのが第4Qの半ば、自陣2ヤードから始まったファイターズの攻撃である。前半を20−0で折り返しながら、後半の立ち上がり、相手の思いきった攻めで立て続けに2本のTDを奪われて20−14。さらに第4Qの初めにはフィールドゴールをたたみかけられ20−17。完全に相手にモメンタムが傾き、ファイターズは防戦一方。守備陣がなんとか相手の攻撃を食い止めたものの、ボールは自陣2ヤード。残り時間は6分40秒。
 ここを切り抜けない限り、ファイターズの展望は開けない。しかし、焦って無理なプレーをしてボールを奪われたら、一気に逆転、もしくはFGで同点の場面である。
 流れは完全に相手に移っている。さて、どうするか。
 固唾をのんで見守る場面だったが、ファイターズベンチが選択したのは、QB伊豆からWR松井への縦パス。それが決まって一気に30ヤードをゲインし、局面を切り開く。よくぞこのプレーをコールした、よくぞ投げた、よくぞキャッチした。思わず、そんな感慨がこみ上げた。
 場内の興奮がさめやらぬ中、RB橋本が中央のラン、野々垣へのショベルパスでダウンを更新。守備陣のマークがRBに集まったところで、今度は伊豆がプレーアクションからのキープで一気に16ヤードを前進、相手陣42ヤードに進む。
 残り時間は5分24秒。時間を消費しながら局面を進めたいファイターズはランプレー中心の攻撃だし、相手守備陣もそれを予測して備えている。それでもファイターズが選択したのはRBを徹底的に走らせること。野々垣のランで5ヤード、TE三木へのスクリーンパスで4ヤード、RB山本のランでダウンを更新。続けて野々垣がオフタックルを抜けて11ヤード。さらには伊豆のQBドロー、橋本のカウンターで9ヤードを進め、残りの1ヤードは橋本のダイブ。気がつけば相手ゴール前10ヤードまで進んでいる。
 残り時間は1分41秒。ここでも野々垣が中央を突いて4ヤード、残る6ヤードをRB加藤が左オフタックルを駆け上がってTD。決定的な6点をもぎ取った。
 自陣2ヤードから始まった14回の攻撃。最初の1本こそ松井への意表を突いたパスだったが、後の13回はOLとレシーバー陣が愚直に相手を押し続けて走路を開き、RBやTEが骨をきしませてもぎ取った陣地であり、TDである。まさに「魂のフットボール」と呼ぶにふさわしい内容だった。
 もちろん、この日の勝利は攻撃陣の手柄だけではない。その前に、この前の試合に引き続いて守備陣が大いに奮闘した。DLは松本、藤木を中心に中央のランプレーを阻止し、2列目の山岸、松本、松嶋はサイドから攻め込む相手ランナーを一発で仕留める。3列目も負けてはいない。小椋、岡本、小池を中心に的確なタックルとパスカバーで全く相手を進ませない。テレビ中継の情報では、前半のスタッツがランはマイナス2ヤード、パスが12ヤード。トータルで10ヤードしか進ませず、得点はもちろん、ダウンの更新さえ許さなかったのだから、その奮闘はいくら称えても称えきれない。
 しかし、それでも昨年も王者立命は、そのままで終わるようなヤワなチームではなかった。後半、怒濤のような攻めで立て続けに17点をもぎ取り、一気に流れを引き寄せてしまった。そうなると、守備陣も奮起する。絶妙のインターセプトなどを盛り込んで、ファイターズに攻撃の糸口さえ与えない。
 ヤバイ!ここは踏ん張るしかない。そう思ったときに4年生の山岸や岡本、そして3年生の小椋らが魂のタックルを見せて、決定的なチャンスを相手に与えない。
 その辛抱が最後に実った。最初に紹介した通り、ようやく攻撃権を獲得したオフェンス陣が自陣2ヤードからのシリーズを文字通り体を張り、骨をきしませた攻撃で得点に結びつけたのである。
 見たこともないほど力の入った試合という理由はここにある。関学スポーツの速報によると、試合後のインタビューで鳥内監督が「選手が腹をくくってやってくれた。それを最後まで示してくれた。きわどい場面でも押し負けなかったのが勝因」と語られたそうだが、なるほどと思った。
 いつもは辛口の監督にここまでいわせるチームはそうそうあることではない。それだけ全員が最後まで目の前の強敵に必死懸命に向かっていったということだろう。この闘争心。そして粘り強さ。まさしく「Fight Hard」であり、魂のフットボールである。感動した。
posted by コラム「スタンドから」 at 10:02| Comment(4) | in 2016 season

2016年11月29日

(29)練習また練習

 毎年、この季節になると、週末の上ヶ原の第3フィールドには若手OBが顔を出し、練習台を務めてくれる。今年はなかなか姿が見えないなと思っていたら、先週末には東京からXリーグのリクシルで活躍しているQBの加藤翔平君、DLの平澤徹君(ともに2011年卒)、地元からエレコムのLB池田雄紀君(2014年卒)が来てくれた。
 3人とも社会人チームで日本代表クラスの活躍をしているバリバリの現役。防具を着けてグラウンドに降り、スカウトチームに混じってVチームの練習相手を務めてくれた。それぞれがつい先日まで、チームの主力メンバーとしてXリーグで激戦を繰り広げていただけに、見ていてもほれぼれするような動きである。
 ディフェンスエンドに入った平澤君は簡単にVチームのOL陣を突破し、平然とQBの目の前に立っている。池田君はJVチームの要として、VチームのRBを自由に走らせない。加藤君になると、まるで異次元のQBである。体がデカイし遠投力がある。ランプレーで発進すれば、一気にTDまで持っていく突進力もある。JVチームのQBとは3段階から5段階上のレベルである。
 3人が3人とも、今季対戦したどのチームにもいないレベルの選手であり、Vチームのメンバーにとっては、上には上がいる、というのが正直な感想だったのではないか。
 3人だけではない。昨年度の主将でアシスタントコーチを務めている橋本君は毎日、グラウンドに顔を出し、OLの練習台を務めている。自身が昨年まで引っ張ってきたチームだから、相手になる選手が成長しているかどうかの手応えは、体感で判断できる。その折々に気付いたことを身を以て指導し、1センチ単位で足の運びを注意する。
 同じくOLの江川君、FBの山崎君、WRの宮崎君、DBの瀧上君、MGRの重田君も連日のようにグラウンドに顔を出し、練習の補助を務めてくれる。それぞれが先輩風を吹かして威張るのではなく、丁寧に後輩たちを指導してくれるのが、ファイターズのよき伝統である。
 そういう練習を重ねて、甲子園ボウルまであと一歩の所までこぎ着けた。いよいよ今度の日曜日はその成果を発揮する立命戦である。
 先日の試合は、立ち上がりに見事なパス攻撃で先制し、相手の反撃を強力な守備陣がぎりぎりのところで抑えて勝つことができた。
 しかし、互いに一度、手の内をさらし、力量を見極めたうえで迎えるのが今度の試合である。それぞれが相手の弱点を突き、自分たちの強みを磨いて戦うことは目に見えている。その意味では、前回の戦い以降の2週間をどのように過ごしたか、試合までの残り時間をどう生かすかで勝敗の行方が決まる。11月20日の勝利は、その日限り。12月4日までの取り組みで、本当の勝敗が決する。
 そのための準備はできているか。傑出した先輩たちの胸を借りるのもその一つの方法だし、仲間内で互いに指摘し合い、厳しく求め合ってレベルアップを図るのも、重要である。何より大切なのは、自分自身の意識を高く持ち、目の前の相手に必ず勝つ、必ず倒すという責任感をもってことに当たることだ。
 そのためには、目の前の練習に全力を挙げて取り組むしかない。たとえ下級生のスカウトチームが相手でも、百発百中のプレーを自らに義務づけ、それを完遂する。たとえオールジャパン級の先輩が相手でも、一歩も引かない。自分たちのQBには一指も触れさせない。そういう強い気持ちをもって自らを奮い立たせるしかないのである。
 練習また練習。今この時季に、本気で勝つための練習をしている大学チームはほんの数校である。そういう練習が大切な仲間とともに続けられることの幸せに思いをはせよう。たとえハードな練習であっても、目の前に具体的な目標を描いて取り組めば、それは喜びに変わる。その喜びが人を成長させる。そういう練習ができる時間がまだ残されている。その時間を有効に使い、プレーの精度を高め、気力を充実させてもらいたい。
 締めくくりに、先週、練習相手を務めてくれた池田君に確かめた話を一つ披露したい。彼は今季、学生時代から慣れ親しんだ1番の背番号に代え、14番を背負ってプレーした。どうしてか、と思った瞬間、思い当たることがあった。14番は、同期の大森君が学生時代に背負っていた番号である。
 「そうか。がんとの戦いに挑んでいる病床の友人を励ますために、その14番を背負ったのか」と思い当たった僕は、池田君の顔を見たときにまずそのことを確かめた。
 「そうです。同期の大森が苦しい戦いをしている。ならば僕も、その戦いを背負ってやる。そう思って背番号を変更したのです」
 その返事を聞いた時、何とも表現しようのない感動が走った。これがファイターズだ、同じ釜の飯を食い、同じグラウンドで汗を流し、死にものぐるいの練習をした仲間だ、そう思うと、思わず涙がにじんできた。
 そういう仲間を作れるのも、グラウンドでは互いに厳しく求め合い、試合では結束して強敵に立ち向かってきた場面を共有しているからである。ファイターズの諸君も、残る試合でそういう場面を共有し、仲間との絆を固くして巣立ってほしい。そのための時間はまだ残されている。練習また練習である。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:36| Comment(3) | in 2016 season