2019年12月08日

(31)『どんな男になんねん』

 ファイターズに寄り添っていれば、たまに得をすることがある。例えば、ファンはもちろん、チームの関係者でもほとんどご存じない朗報を一足早く知ることができることがあるし、損か得かはわからないが、悪い情報もまた同様である。
 今回は、チーム関係者でもごく一部しか目にしていない鳥内監督の著書『どんな男になんねん』(ベースボールマガジン社)の校正用ゲラを見せていただく幸運に恵まれた。金曜日の夜に後書きや著者の紹介文までを含めた263ページ分のゲラを入手、一気に読み上げた。
 監督をひいきして言うわけではないが、めちゃくちゃ面白い。長い間、チームに関係していた僕も知らなかった話がいっぱいあるし、なによりも教科外教育としてのスポーツ活動、課外活動としてのアメリカンフットボールを考える上で大切なことがどっさり盛り込まれている。日本のアマチュアスポーツの現在地とその問題点を知り、それを突き破っていくための処方箋というかヒントも随所にちりばめられている。
 何よりも読みやすい。この本は鳥内さんとスポーツライター、生島淳さんの共著の体裁をとっているが、二人が分担して書いたのではなく、生島さんが鳥内さんに何回かに分けてインタビューした内容を整理し、それを一冊の本に仕上げている。そのため、監督の語り口調(つまり、いつもの大阪弁)が生き生きと再現されている。
 つまり、本を「読む」というよりも、いつもの鳥内節を「聞く」といってもよい仕掛けになっており、その分、内容が頭に入りやすい。もちろん、大学の研究者の論文にありがちな説教臭は全くないし、スポーツライターと称する方々のひねくり回した表現もない。
 素のまんまの鳥内さんがいつも通りにハドルの中でしゃべり、学生との個人面談でやりとりしている言葉を整理整頓しているだけ。そういえば言い過ぎかもしれないが、そういう仕立て方になっているから、とにかく理解しやすい。本を読むのは苦手という人でも、一気に読み終え、その主張が(100%共感するかどうかは人さまざまだろうが)100%理解できることだけは保証できる。
 能書きはこれくらいにして、内容にちょっと踏み込んでみたい。とは言いながら、あんまり書き込むと本を手に取って読む楽しみを奪うことになるから、書店でざっと立ち読みするくらいの感覚で。まずは、僕が気になった見出し、小見出しを並べてみよう。
「4年の時の京大戦、ファイトオンを歌っとったら、なんや知らん、涙が出てきたで」
「4年生になったら、失敗できないからね。そこに成長の鍵があるんです」
「コーチになったばかりのことを思い出すと反省ばかりやな」
「自分の弱さを認めることがかっこええで」
「けが人をいたわることもチームの強さになるよ」
「4年生にはみんなキャプテンと同じ気持ちでやってくれ、言うてます」
「学生が育つよう、できることはたくさんあるよ」
「観察や、観察。練習前の学生を見ているといろいろなことが分かるで」
「教育いうのは奥が深いで」
「指導の基本はやっぱり言葉やね」
「学校と教室と、フットボールのフィールドでは、決定的な違いがあると気づいたね」 「スポーツの楽しさって、どこにあると思う? 勝つために考えることやで」
「関西学院いうのは、負けないチームやと思う。関西学院のフットボールは、泥臭いよ」「いまも申し訳ない学年があんねん」
「自分の不安を受け入れる。それが大切」
「教え方がうまい4年生は慕われるものですよ」
「効率、合理性。これもフットボールやるうえでは大事なことです」
「スポーツは、損得でかなりなの部分説明できるで」
「効率化を考えたら、もっと日本のスポーツは良くなると思うねん」
「スーパーな相手を止めるのは、やっぱりせこいヤツやな」
……こうしたキーワードを使いながら、ファイターズのフットボールと自身の指導理念、方法を語り、結論の部分は「世界一安全なチームをつくる」。自身の学生時代は、根性練もあったと振り返りながら「意味なかったな。根性を鍛えたからいうて、勝たれへんからな。めちゃめちゃな追い込み方して練習したからって勝てるものでもない。けがをするリスクを増やしているだけです」と強調。
 最後に「2003年8月16日のことは忘れたことありません」と、その日、東鉢伏での夏合宿中に4年生の平郡雷太君を亡くしたことを取り上げながら、関西学院を世界一安全なチームにすると誓ったことを説明。そこから生まれた「ファイターズ コーチング基本方針」を紹介している。
 大阪人が普段の暮らしの中で使っている言葉で軽妙に展開される教育論はもちろん、その巻末に世界一安全なチームづくりの方針を公開しているところに、鳥内監督の真実があると僕は考えている。願わくは、この方針が日本のあらゆるスポーツ指導者に共有されること。それがファイターズに寄り添ってコラムを書き続けている僕の願いである。
 その期待に応えてくれるであろうこの終章が設けられたことだけでも「この本を手にする価値がある」と強くオススメしたい。もちろん「青い血の流れている」ファイターズファンにとっては必携の書である。
追伸
本は12月下旬の発売ですが、甲子園ボウルの会場でも部数限定で「先行販売」されるそうです。

◆どんな男になんねん 関西学院大アメリカンフットボール部 鳥内流「人の育て方」
鳥内秀晃・生島 淳 / 著
ベースボール・マガジン社
https://www.bbm-japan.com/_st/s16778973

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2019年12月03日

(30)会心の勝利

 会心の勝利、といえば言い過ぎかもしれない。けれども、強豪・立命館に立ち向かう直前に、ファイターズの練習を見せてもらう機会のあった僕にとっては、十分に予測できた勝利であり、会心の勝利であった。
 予測は当然、外れることもある。身内をひいきするあまり、眼鏡が曇ることもあるだろう。しかし、間近でファイターズの練習を見てきた目で見ると、そこには1ヵ月前の練習とは明らかに異なる空気が流れていた。
 例えば、選手一人一人の練習に取り組む姿勢が敗戦前と、敗戦後では明らかに変わった。仲間同士で知恵を出し合い、一つ一つのプレーに惜しみなくアドバイスを交わす場面も増えてきた。逆に、不用意な落球や不注意から起きたミスについては、選手の中から厳しい言葉が飛ぶようになった。ハドルの中心にいる寺岡主将の声の調子、勢いも変わった。
 リーグ戦で立命館に敗れるまでは、正直に言って、どこかに緩い空気が漂っていた。緩いというと語弊があるかもしれないが、練習でプレーが失敗しても、当該の選手が本気で悔しがっている姿はほとんど見られず、仲間の明らかな失敗を本気で叱っている場面も見たことがない。チームを率いる4年生の言葉も、ありきたりで上滑りしている。もちろん主将と副将が怒鳴りあい、殴り合いになる寸前、というような場面にも遭遇したことがない。
 そんな空気が前回の敗戦で一変したように僕には思えた。練習の時間は同じでも、テンポは早くなり、より正確性を追求する。立命館の強くて素早いプレーヤーの動きを想定し、それを逆手にとる仕組みを一つ一つ周到に準備する。勝負すべきところでは大胆な作戦を仕掛け、相手の意図を外す仕掛けにも工夫を凝らす。
 立ち上がりから矢継ぎ早に展開し、相手守備陣を混乱させたノーハドルオフェンスは、そうした工夫の総仕上げといってもよい。
 RB三宅の立て続けの独走タッチダウンも、QB奥野の持つ高いポテンシャルとチームで一番のスピードを持つ三宅の能力を生かすために練り上げてきた作戦の成果である。もっといえば、攻撃のキーとなるOLやTEのメンバーを個人指導で徹底的に鍛えてきたコーチの指導のたまものといってもよい。
 前半を14−3で折り返し、後半戦が始まると同時に仕掛けたオンサイドキックも、チームにとっては必然であり、キッキングチームのリーダー、安藤君を中心に周到に練り上げてきたプレーである。
 立命館の強さは、前回の試合で骨身に染みて知った。個々の選手の反応の速さもただごとではない。それを理解しているからこそ、相手の意表を突く場面で、意表を突くプレーが求められる。それを具体化し、勝負をかけたのが、立ち上がりからのテンポの速いノーハドルオフェンスであり、ワイルドキャット隊形からの三宅のランである。そして、その仕上げが後半開始早々のオンサイドキックとその成功である。
 こうした仕掛けで、ファイターズが先手をとり、チームは終始、落ち着いてプレーを展開することができた。逆に先手をとられた相手には「こんなはずじゃない」という焦りが生まれる。その焦りがプレーのリズムを微妙に狂わせ、イージーなパスを落とすような場面が出てくる。それがまた焦りを増幅し、チームから余裕が失われる。
 そこにつけ込んだのがファイターズの守備陣である。DLは鋭い出足で相手のボールキャリアに襲いかかり、QBにパスを投げる余裕を与えない。あわやTDという場面ではファイターズのDBが懸命にパスに飛びつく。ここ一番の場面で必殺のパスをもぎ取ったDB宮城をはじめLB海崎、DB松本が各1本のインターセプトを記録。QBサックに至ってはDL板敷が4本、LB海崎、DB三村、DL寺岡がそれぞれ1本という「大豊作」だった。
 それもこれも、試合開始々、2本のTDを立て続けに奪ったノーハドルオフェンスの成果である。それを仕掛けたベンチの果敢な決断であり、その期待に応えた選手たちの勇気である。
 試合の2日前、大村コーチに話しかけると「結果は神のみぞ知るです」と、冗談めかしていいながら、「でも、プレーの準備では、どこにも負けていない自信があります」という返事があった。その言葉を鮮やかに証明したような試合内容と結果に、僕はまたフットボールという競技の持つ奥の深さと魅力を知ったのである。
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2019年11月22日

(29)心に残る言葉

 先週末の西南学院大学との試合は、仕事の都合で応援に行けなかった。今週末の神戸大戦も以前から約束していた仕事がらみの催しが和歌山県新宮市であり、どう工夫しても時間の調整がつかない。2週続けてファイターズの試合が観戦できないなんて、いまだかつてないことだ。試合だけではなく、今週は新聞社の仕事があって西宮の自宅にも帰れず、チームの練習を見ることもできない。
 歯がゆいことだが、心は二つ、身は一つ。鳥ではないので、空を飛んで行き来することもできない。仕方なく紀州・田辺の仮住まいで以前に自分が書いたこのコラムの集刷版やファイターズの卒業生が書いた文集を繰りながら、この10年ほどの4年生がこの時期、どんな思いで練習に取り組み、試合に臨んでいたかに思いを馳せ、心に残る彼らの言葉をどう現役の諸君に伝えようかと苦心している。
 例えば、2007年の11月には作家、村上春樹の『走ることについて語るときに僕の語ること』(文藝春秋)にある「苦しみは選択事情」という言葉を取り上げている。
 村上さんはその言葉について次のように説明している。「例えば、マラソンランナーが走っているとき、ああ、きつい、もう駄目だと思ったとして、きついというのは避けようのない事実だが、もう駄目かどうかは本人の裁量に委ねられている。つまり、痛みは避けがたいが、苦しみはオプショナル。つまり本人の選択次第である」と。
 この言葉は今季、毎週、ハードな試合に臨んでいるファイターズの諸君にこそふさわしい言葉であろう。体はああ、きつい、もう駄目だ、と悲鳴を上げたとしても、それを駄目だと思うか否かは本人の選択。いまはとことんきついけど、これが勝利への一里塚。この道を突き進んで初めて栄光への道が開けると腹をくくって突き進むしかないということだろう。
 2011年、松岡主将がチームを率いたシーズンのこの時期には、朝日新聞社が発行したアエラムック『関西学院大学 by AERA』にこんな文章を書いている。「たとえ戦力的に劣っている時でも、戦術を工夫し、知恵を絞り、精神性を高めて、いつも力を最大限に発揮するチームを作ってきたのがファイターズであり、戦後一貫してアメフット界の頂点を争い続けてきたチームの矜持(きょうじ)である。関西学院のスクールスポーツとして敬意を払われ、部員たちもそのことに特別の思いを持つ基盤はここにある」。
 この言葉は、苦しい戦いの続く今季のチームについても、そのまま通用する。リーグの最終戦でライバルに苦杯を喫し、苦しい条件の中で再度のチャレンジを続けているチームにとって「いつも力を最大限に発揮するチームを作ってきた」先輩たちの軌跡は、心強い味方のなるはずだ。
 2016年、山岸主将が率いるチームが立命の強さを存分に見せつけられながら一歩も引かずに戦い、最後は26−17で制した戦いを「魂のフットボール」と表現。試合後に鳥内監督のインタビューにある「選手が腹をくくってやってくれた。それを最後まで示してくれた。きわどい場面でも押し負けなかったのが勝因」という言葉を紹介している。
 「腹をくくってやり切る」「それを最後まで示す」という言葉。これこそ、いま目の前に迫った試合に求められることであろう。
 学生界の頂点に上り詰めたチームだけではない。惜しくも甲子園に進めなかったチームにも、素晴らしい言葉を残して卒業していったメンバーがいる。例えば、2015年度に卒業した作道圭吾君は「卒業文集」に次のような言葉を残している。
 「昨年のシーズン、私には多くの反省はあれども、後悔はない。もちろん君たちには勝つてほしい、ただそれ以上に後悔を持ってほしくない。やり切ってほしい。そのためにも目の前に「しんどい道」と「そうでない道」があるとき、迷ってもいいから「しんどい道」を選んでほしい。」
 まるで宮本武蔵のようなこの言葉を、最終決戦に向かう諸君に贈らせていただく。作道君には了解を得ていないが、彼もまた同じ気持ちであること、さらにいえば、過去に同じような苦しい場面に遭遇し、その難局をことごとく切り開いてきた数多くの先輩たちもまた、同じ言葉を胸の内で現役の諸君に贈っておられるであろうことを信じて疑わない。
posted by コラム「スタンドから」 at 22:35| Comment(1) | in 2019 Season

2019年11月13日

(28)ようし、もう一丁

 10日、万博記念競技場での立命戦は、試合の始まる2時間前から応援席に座っていた。しかし、不愉快なことが相次ぎ、キックオフの1時間前には、もう疲れ果てていた。
 その内容は、ここで説明するようなことではないが、ファイターズの応援に通うようになって数十年、最も不愉快な1日であったことは間違いない。
 けれども、試合が始まると、その進行を追うのに熱中した。ファイターズは終始後手に回ったが、本当に強い立命を見て、ようし、もう一丁という闘志がわいて来た。
 午後3時、待ちに待ったキックオフ。ファイターズが自陣25ヤードから攻撃を始める。QB奥野からRB三宅やTE勝部へのパスがポンポンと決まってわずか4プレーでゴール前21ヤードまで進む。しかし、そこから相手の壁を突破できない。やむなくK安藤がFGに挑むが、それが外れ、先制点を逃がす。
 がくっと来るファイターズとは対照的に相手のベンチは盛り上がる。パスとランを織り交ぜた力強い攻撃で着実にダウンを更新。守備陣が早い動きで止めようとするが、重戦車のような相手の圧力を止めるのは容易ではない。FGの3点でしのぐのが精一杯だった。
 なんとか反撃をと祈るような気持ちで応援していても、事態は好転しない。逆にパスを奪い取られてまたFGの3点を献上。前半終了間際にも3本目のFGを決められ9−0で折り返す。
 後半に入った頃から、守備陣の動きがよくなり、互いにパントを蹴り合う展開。均衡を破ったのはファイターズ。奥野から糸川、三宅、阿部、鈴木、また三宅へと、ターゲットを次々と変えたパスが立て続けに決まり、ゴール前1ヤードに迫る。仕上げはRB前田公。ゴール中央へ飛び込んで待望のTD。安藤のキックも決まって9−7と追い上げる。
 しかし、そこからの攻撃が続かない。相手守備陣の的確な対応でパスコースがふさがれ、ランも止められる。あげくにファンブルで相手に攻撃権を渡し、勢い付いたオフェンスに決定的なTDを奪われる。
 苦しい戦いは試合後に公表された両チームのスタッツを見れば理解できよう。ダウンの更新はわずかに7回。それもパスばかりでランによる更新は一度もない。獲得ヤードも相手の258ヤードに対してわが方は155ヤード。ランでは計13ヤードしか進めていない。逆に被インターセプトが2回、ファンブルが1回あるのだから、苦しいことこの上ない。わずかな光明といえば、QBサックが3回という、守備陣のがんばりを象徴する数字があるだけだ。
 結果は18−7。点差以上に圧倒されたという印象の残る試合となった。
 試合後、鳥内監督から「インセプやファンブルがあんなにあったら勝てんわな。捕れる球も落としてたし…」という言葉があったが、まさにその通り。せっかく反撃ムードが盛り上がってきたのに、落球やファンブルでそれに水を差す。耐え続けた守備陣も徐々に疲労が積み重なり、戦列を離れる選手が出てくる。そこを突くように相手がパワフルなラン攻撃でたたみかける。なかなか勝利への道筋の見えてこない試合だった。
 悔しい敗戦だが、それでもシーズンが終わったわけではない。今週末から2週連続で行われる試合を勝ち抜けば、再度雌雄を決する機会が手に入る。その間、じっくりと次の試合に備えることのできる相手と比べると、苦しい状況であることは間違いないが、それでも名誉挽回のチャンスは残されている。
 その試合を見据えて、どのようにチームの状態をアップしていくか。骨のきしむような今回の戦いで、その強さを実感した相手に、どう立ち向かうのか。どこに突破口を見つけるのか。タイトなスケジュールではあるが、時間はまだ残されている。気持ちを強く持って練習に励み、再度の戦いに挑み続けてもらいたい。
 合い言葉は捲土重来。こんなところでくたばってたまるか、である。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:02| Comment(6) | in 2019 Season

2019年11月06日

(27)コーチの目

 ファイターズに密着していると、いろんなことが見えてくる。上ヶ原のグラウンドに集まる部員たちの足取りや表情。練習中のちょっとした振る舞い。学生会館や学内の通路で顔を合わせた時の仕草。ほんの少しでも言葉を交わせば、その選手がいま、どんな気持ちで練習に取り組んでいるか、どんな悩みや課題を抱えているかも見えてくる気がする。
 週末の短い時間だけしか顔を出さない僕でさえそうだから、日々行動を共にされているコーチの目には、もっともっと多くのことが見えているはずだ。この部員はいま勢いに乗っている、練習に取り組む様子が変わってきた、笛が鳴るまで絶対に足を止めない。そういったことが一目で見えているに違いない。同時に、そういう姿を見て、求める水準を上げたり、練習時に特に目をかけたりされていることは想像に難くない。
 そのことを裏付ける格好の材料がある。試合が終わるたびに部の掲示板に張り出されるプライズマークの一覧表である。
 例えば、先日の関大戦の直後に掲示された表を見てみよう。ディフェンスでは「スタメンプラス今井、吉野に×3枚」(ゲームプラン通りプレッシャーをかけ続け、一発タッチダウンをやらず、相手を3点に抑えた)「DL寺岡、藤本、板敷、今井、大竹に×5枚」(ランプレーにも当たり勝ち、LOS上をコントロール。QBにもプレッシャーをかけ続けた。ユニットとして3サック)「LB繁治に×5枚」(よくボールに絡めていた。勝負どころでのサックもチームを助けた)「DB竹原に×5枚」(マン、ズレともに安定していた。ビンゴもタイムリーでチームを助けた)「DB渡部に×3枚」(タックルに成長が見られた。足を止めずに向かう姿勢が良くなっている)。
 このほか、近大戦の追加として「北川に×3枚」(パントリターンで相手をナイスブロック)とある。
 オフェンスも同様だ。ラインのスタメン全員に×3枚、亀井、三宅、斎藤に×1枚、鈴木に×5枚、鶴留、糸川と奥野に×3枚が贈られ、それぞれを評価した理由が具体的に書き込まれている。
 驚くのは、試合では活躍する場面のなかった1年生OL牛尾に対する評価と、4年生DL山本と本田に対する評価。牛尾については「ほとんど出番がないが、練習を通して上達しており、評価に値する」とあり、山本と本田については「スカウトDLはOLのレベルアップのために一役かっているが、その中でも日々当たり続けた二人に」と評価されている。
 試合で華々しい活躍をした選手と同様に、練習台として黙々と汗を流す選手や向上心を持って取り組むフレッシュマンにも光を当てているのがファイターズのファイターズである所以であろう。
 こうした評価を試合ごとに攻撃のコーディネーターと守備のコーディネーターがきちんと行い、それを掲示板で伝えて部員の士気を鼓舞し、向上心を刺激する。それも、見た目の派手なプレーだけではなく、チームに貢献したプレー、日ごろの努力が証明されたプレー、さらにはチームを支える地味な役割にも目を向け、それを果たしている選手を目に見える形で称えているところに価値がある。
 感情の赴くままに殴ったり蹴ったりしてして世間の批判を浴びているコーチとの違いがここにある。ファイターズは有能なコーチを揃えていると他のチームから評価され、学内のほかのクラブからも羨望の目で見られている理由は、こういったところにもうかがえるのだ。
 逆に言えば、このように指導者の目が働いている限り、選手は言い訳も手抜きもできない。やるべきことをやり遂げ、さらなる高みを目指して練習に取り組む。どんなに苦しくても自分に課した目標はやり遂げ、仲間から託された役割をはたす。その繰り返し。それがあってこそ、試合でその力が発揮できる。その結果が試合ごとに与えられるプライズマークであり、選手はそれをヘルメットに貼り付けて自らのプライドとするのである。
 さて、今週末は立命戦。天下分け目の戦いである。残された時間は短いが、まだまだやることはある。やれる時間もある。勝利に向かって全員がやるべきことをやり遂げ、清々しい気持ちで決戦に臨んでもらいたい。
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2019年10月30日

(26)堅い守りと一瞬の攻め

 27日、満員の王子スタジアムであった関西大学との試合を一言で表せば「固い守りと、一瞬の攻め」といってもよいのではないか。それほど守備陣の健闘が目立った試合であった。攻撃陣もその固い守りに支えられ、鮮やかな決め技を見舞って勝ち切った。
 前半、先攻のファイターズは、パスが通ればランが進まず、ランが進んでも、肝心の第3ダウンショートが取り切れない。陣地は進めているのに、TDに持ち込めず、フィールドゴール圏内にも進めない。あげくの果てに、相手パントの処理を誤って、ゴール付近からの攻撃に追いやられる。そんなもどかしい場面が2度、3度と続く。
 並のチームなら、そんな攻撃が続けば、守備陣にも悪い影響が出てくるのに、この日の守備陣はひと味違った。ディフェンスラインの中央を寺岡、藤本ががっちり固め、両サイドの板敷や大竹が遠慮なく相手QBに襲いかかる。それに呼応してLBの繁治、海崎、アウトサイドLBの北川が狙い澄ましたようにボールキャリアに襲いかかる。最後の砦となるDB畑中は、強烈なタックルを連発する。
 立命に勝って勢いに乗る関大のオフェンスも、これでは陣地が進められない。結局、前半は互いに決め手がないまま0−0でハーフタイム。
 後半になると、ファイターズ守備陣がさらに勢い付く。第3Qでは相手に一度もダウンを更新させず得点を許さない。その間に、ファイターズは安藤のFGで3点を先取する。
 しかし、好事魔多し。第4Q早々、安藤のパントが短く、相手にゴール前40ヤード付近からの攻撃を許してしまう。ここでも守備陣が頑張ったが、1本のパスでダウンを更新され、あげくにFGで同点にされてしまう。
 やっかいな試合になったなあ、と思った瞬間、今度は攻撃陣が切れ味の鋭い攻めを見せる。最初はQB奥野。第3ダウンロングの状況で相手がパスを警戒した瞬間、一気に15ヤードを走ってダウン更新。続く自陣46ヤードからの攻撃も第3ダウン8ヤード。今度はWR糸川に地面すれすれにパスを投げ、それを糸川が好捕して再びダウン更新。
 ようやく相手ゴール前41ヤード。しかし、相手に押し込まれ、またまた第3ダウンロング。今度はRB三宅が持ち前のスピードで中央を抜けて26ヤード。一気に相手ゴール前14ヤードまで攻め込む。続く攻撃は再びRBのラッシュ。小柄な斎藤が上手く中央を抜けてゴール前5ヤード。
 このあたり、ようやくランアタックが機能して、押せ押せムードになってくる。残り5ヤードも、一気にランプレーで押し切ると思った瞬間、ベンチが選択したのは、奥野からWR阿部へのパス。ゴール右サイドに走り込んだ阿部に見事なパスが決まりTD。安藤のキックも決まって7点をリードする。
 こうなると、守備陣も勢いづく。相手陣35ヤードから始まった最初のプレーで、LB繁治が10ヤードのQBサック。さらにもう一人のLB海崎が相手パスをカットするなどして相手を完封。相手ゴール前25ヤードという絶好の位置で攻撃権をファイターズにもたらす。最終盤になって攻守がかみ合い、押せ押せムードのファイターズ。
 その勢いに乗せられたのか、続くファイターズの攻撃では、RB鶴留が一気に25ヤードを走り切ってTD。今季、パワーバックとして、相手が密集したポイントに突き刺さるようなラッシュをかけ続けた男が、この大一番で奪った止めのTDである。身長168センチ、体重89キロ。ベンチプレス152.5キロ、スクワット225キ
ロ。歴代のパワーバックの中でも、突き抜けたパワーとスピードを誇る突貫小僧がその存在感を見せつけた。
 このように試合を振り返って見ると、前後半を通じて固い守りでゲームを作ったのが守備陣であり、最終盤、一瞬の隙を突いて立て続けにTDを挙げたのが攻撃陣であることがよく分かる。
 それはこの試合の記録を見ても明らかである。総獲得ヤードはファイターズが310ヤード。内訳はランが139ヤード、パスが180ヤード。それに対して関大はランがマイナス8ヤード、パスが98ヤード。QBサックは計4回で、内訳は繁治10ヤード、板敷8ヤード、今井5ヤード、大竹4ヤード。インターセプトは竹原が1回記録している。
 試合後、守備の要として復帰した寺岡主将が「正直、ディフェンスやっていて負ける気はしなかった。いいリズムで抑えられたと思う」といっていたのも、正直な感想だろう。
 攻撃陣も、常に深い位置からの攻撃を強いられながら、オフェンスラインが踏ん張り、粘りに粘って我慢の攻撃を続けた。そしてQB、RB、WRが互いに協力して、ここぞというときにたたみかけた。その切れ味は、昨年より一段と鋭くなっているように僕には思えた。
 この勢いを続く立命戦でも見せてもらいたい。なんせ相手はアニマルと呼ばれるチームである。どこに隙があるのか、どういう切り崩し方が可能なのか。分析スタッフも含め、チームの総力を挙げて対策を練り、戦術を磨いてもらいたい。まだ時間は残されている。
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2019年10月22日

(25)指導者の哲学

 先月発行されたファイターズOB会報「Fight On」103号のトップ記事は、今季限りで退任される鳥内監督へのインタビューである。
 聞き手は朝日新聞スポーツ部の大西史恭記者。2007年度卒業のOBであり、甲子園ボウルであの日大に41−38で勝利し、ライスボウルでも史上最高のパスゲームを展開したチームのキッカーである。
 監督の退任を前に、監督の指導を受けて社会に巣立ったOB・OGたちから「最後に何か聞いておきたいことはないか」と質問を募り、集まった質問を基に監督にインタビューして絶妙の記事にまとめている。本来はファイターズのOBだけを読者に想定した会報だが、その一問一答があまりに面白い。ぜひ、このコラムでも紹介させてもらいたいと、監督と大西記者に頼み、その了解が得られたので、そのエキスを抜粋して紹介する。
 ……監督人生の中で最も記憶に残っている良かったプレーは。
 「ないねん。勝ったことより負けたことが残ってるねん。絶対に。いかにスポーツはメンタルが大事かってこと」
 ……唯一、ライスボウルに勝った試合のプレーはどうでしょうか。
 「一生(榊原、TE・K)のやつ(筆者注・2001年、ライスボウルの第2Q,第4ダウン3ヤードの場面で、パンターを務めた榊原がパントを蹴るふりから中央に突っ込み、DLをはじき倒してダウンを更新、一気に流れを引き寄せたプレー)もな、勝手にやれって言うてるねん。行けそうやったら行けって。でも、あれで行くかと思ったけど。まだ、大分残ってたらからな」
 ……良かったこと、何か絞り出してください」
 「なんやろう…石田力哉のLB作戦やな。なんでもできるやつはやらせたらええねんってことよく分かったわ」
 ……良かった試合もないですか。
 「うーん、ないな。いや、勝って当たり前でやってるやん。勝って当たり前やから、良かったとかちゃうねん」
 ……日々の癒やしはなんですか。
 「酒飲んで、寝てる。気分転換やな。ずっとおったら考えてしまうねん。大村にも寝れるかと聞いたことあんねん。小野も堀口も、大寺も神田も、責任者はみな寝られへんと思うで。香山も同じやと思う」
 ……自分をどういう性格だと思っていますか。
 「ずる賢くなかったら、やってられへん。スポーツはみな、そうやねん。だましあいやってんねんから」「俺は周りを気にしてない。気にしたら、やってられへん。どう見られるか、って行動なんかしてない。なんかあれば言うてきたらええやん、と」
 ……4年生との個人面談について。
 「目見て話さな分からへん。心の中まで知りたいなら、目見て話さな分からへんで」
 ……勝ち続ける秘訣は。
 「秘訣ちゃうねん。毎年毎年、勝ちたいねん。それだけのことや。毎年、俺らも甲子園出たいという4年生の気持ちが長い歴史につながってるねん。OBの歴史を自分が一緒に背負っていった時に初めてパワーくれるねん。これはよそのチームにないこと。俺もファイターズやねん。俺の代では負けるわけにはいけへんねん、というだけのことや」
 ……今後のファイターズにどうなってほしいか。
 「このまま勝っていってほしい。それと同時に、どんな人間をつくっていくのか。勝つためにはリーダーになれる人材を育てないとあかん。フットボールというツールを使いながら、そいつの人間的成長を手助けしてあげるだけや。社会に迷惑をかけへん。社会に役立つ人間を育てる。それが世界で活躍する。世界に目を向けてやってほしいな」
 ざっとこんな話である。途中、はしょったところもあるが、鳥内さんの指導者としての哲学が随所に表れている。選手として、監督から直接の指導を受けた記者ならではのインタビューであり、内輪を良く理解している取材記者だからこそ、監督も心を開いて答えていることが良く分かる。
 監督として27年、その前のコーチの時代から数えれば34年にも及ぶ指導者生活。その中には、監督として学生の成長を手助けするだけでなく、高い能力を有した何人ものOBをチームに迎え入れてチームを強化し、同時にファイターズという組織を運営するための人材を育ててきた歴史も含まれる。
 そこに一貫しているのが、勝ちたいのは選手であり、監督やコーチはそれを手伝うだけ、という哲学であろう。それが最後の「フットボールを通じて、その人間的成長を手助けしてあげるだけや」という言葉に集約されている。
 主役はあくまでファイタ−ズの部員。その勝ちたいという気持ちが本物か否か。今季の天下を分ける戦いは目前に迫っている。
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2019年10月16日

(24)努力は報われる

 13日の日曜日、台風が通り過ぎた後の王子スタジアムで、久々に「パスの関学」のすごさを見せてもらった。
 驚いたのがファイターズ最初の攻撃。自陣29ヤードから始まったシリーズの第1プレーがQB奥野からWR鈴木へのロングパス。それが見事に決まって71ヤードのTD。長い間、ファイターズの試合を見てきたが、こんな場面の一部始終を現場で目撃したのは初めてだ。投げる方も思い切りよく投げたが、受ける方も完璧。奥野の速くて正確なパスをいつも練習を共にしている鈴木がトップスピードでキャッチし、そのままの勢いで相手デフェンスを抜き去った。
 次の攻撃シリーズ。今度は4年生のWR阿部が見せる。同じく奥野が攻撃側から見て右のゴールラインに走り込む阿部に投じた30ヤードのパスが見事にヒット。今度はキャッチと同時に審判の両手が上がってTD。安藤のキックも決まって14−0と引き離す。
 守備の第一列には、この1年間、けがで休んでいた主将の寺岡が戻り、藤本や板敷らも復帰して、ようやく本来の先発メンバーがそろってきた。LBにも前回は休んでいた海崎が戻って、繁治との二枚看板がそろう。DBも副将、畑中を中心にほぼメンバーが固定され、守備陣の全体が引き締まってきた。立ち上がりこそ、近大に16ヤードを走られたが、あとはダウンを更新されることもないままリズムよく守り、攻撃権を取り戻す。
 守備陣が安定すると、攻撃陣にもリズムが出てくる。ファイターズ3度目の攻撃シリーズでは、今季初登場のRB渡邊が元気に走り、RB三宅もスピードに乗った走りを見せる。相手守備陣がランプレーを警戒した瞬間、今度は阿部への短いパスでダウンを更新。相手ゴール前27ヤードと迫ったところで、続けて阿部へのパス。その前のTDパスとほとんど同じコースだったが、余裕でキャッチしてTD。第1Qだけで21−0と引き離す。
 第2シリーズに入っても守備陣の動きは素早い。相手キッカーが蹴ったパントをブロックし、相手攻撃陣に自陣2ヤードからの攻撃を強いる。相手はこの危険地帯から懸命に抜け出そうとするが、そうはさせないのがこの日のファイターズディフェンス。相手ゴール内でパントをブロックし、セイフティで2点をもぎ取る。
 しかし攻撃陣はここからがピリッとしない。大量にリードしながら、相次ぐ反則でリズムを失い、なかなか決め手がつかめない。ずるずると後退する場面が続いたが、これを食い止めたのが、奥野と三宅の3年生コンビ。奥野が投げた短いパスを三宅がハーフラインを過ぎたあたりでキャッチ。即座に加速して一気に相手ディフェンスを抜き去る。スピードとパワーを兼ね揃えた独走TDに結びつけた。
 場内で開設しているファイターズのミニFM局を担当している小野ディレクターが「三宅君は今季、一段とスピードが上がりましたね」と解説されていたが、まさにその通り。OLが開いたピンポイントの隙間を抜けた瞬間、トップスピードに乗って走る姿は、昨季のエースランナー、山口君を思わせる迫力がある。この日、ランとパスレシーブで154ヤードを記録したのも、そのスピードがあってこそとうなずける。
 得点は第3Q半ばまでに37−0。そこからファイターズがどんどん2枚目、3枚目の選手を投入する。故障などでずっとベンチを離れていた選手もいるし、今後の活躍が期待される1、2年生もいる。その中で、僕が注目していたのは、寺岡主将と同様、けがで1年以上も戦列を離れていたDB吉野と、これも出場機会が激減していた4年生DLの今井。
 吉野は守備について間もなく、値千金のインターセプトTDを決めたし、今井君も鋭い出足で相手を吹き飛ばす。ともに4年生、最後のシーズンにかける思いの詰まったプレーで期待に応えてくれる。試合に出られない苦しさに耐え、黙々と練習をしてきた成果でもあろう。まだまだ本調子ではないかも知れないが、これから続くライバルとの戦いに、経験豊富な二人が戻ってくれば、大いに期待が持てる。
 二人に限らない。この日、立ち上がりから目の覚めるようなプレーを連発したQB奥野、WR阿部と鈴木。地味な存在ながら、与えられた役割を確実に果たしたQB兼パンター兼ホールダーの中岡。そしてK安藤。彼らはチーム練習の始まる2時間も前からグラウンドに現れ、営々とパスを投げ、キャッチし、ボールを蹴っているメンバーである。全体の練習が始まる頃には、もう一仕事終えた状態と言ってもよいほどだが、もちろんチーム練習も一切手を抜くことなく、誠実に務める。
 オフェンス、ディフェンスの上級生メンバーも同様だ。何度も何度も実戦を想定した動きを反復し、より速く、より強く当たることに集中している。そういう背景を持った面々が試合で活躍する。「練習は裏切らない」という言葉を実感した試合だった。
 一方で、この試合でも続出した反則もまた、練習時から少なからず起きている。練習時と同じメンバーが実戦でも同じ反則を犯すというのもまた、別の意味で「練習は裏切らない」という言葉の表れである。
 リーグ戦は、これからの2試合が勝負である。熱と魂のこもった練習に取り組み、悔いなく戦える準備をしてもらいたい。そして、よい意味での「練習は裏切らない」を実証してもらいたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 06:07| Comment(4) | in 2019 Season

2019年10月07日

(23)うれしいニュース

 今週のファイターズホームページのトップに、二人の選手が登場している。3年生のOL高木慶太君とRB三宅昴輝君である。二人が並んで“表紙”を飾っているのを見て、僕は特別の感慨を覚えた。
 どういうことか。実は二人とも僕が今春まで、関西学院大学で受け持っていた「文章表現論」を過去に受講した学生であり、共に書く回数を重ねるたびに、文章を書く力が伸びていったことを記憶しているからである。
 僕は朝日新聞を定年で退職して以降、ずっと和歌山県田辺市にある紀伊民報で新聞記者をしている。その傍ら、関学でも10年以上前から今春まで、非常勤講師として「文章表現論」という講座を担当。学生たちに文章を書くことについて、現場からのアドバイスをしてきた。
 自分で言うのも何だが、結構な人気講座で、毎学期ごとに定員の4〜5倍の受講申し込みがあり、抽選で定員一杯の受講生を選んでいた。
 この3年間、現役の部員で受講してくれたメンバーには、4年生では寺岡主将をはじめマネジャーの安在君、OL川部君、DL藤本君、RB渡邊君、LBの藤田優貴君と田中君、DBの山本君と久下君といった名前が思い浮かぶ。3年生になると、上記の二人のほか選手ではWR高木宏規君、RB鶴留君、スタッフでは井上君、末吉君、島谷君、前川君。そして2年生の荻原さん。ほかに高等部や中学部、啓明学院でコーチをしているメンバーも数人が受講していた。
 一般の受講生を含めて出席率は高く、回を重ねるごとにそれがさらに高くなって行くのが、僕にとってはささやかな自慢だった。ファイターズの部員も、最近受講した面々は出席率もよく、毎週書き上げる800字の小論文の内容も、回を重ねるごとに上達していった。それもまた、僕にとってはうれしいことだった。
 一般の受講生の中には、毎回、信じられないほど上手な文章を書く学生がいたし、半面、書くことがまったく苦手という受講生も少なくなかった。60分という制限時間に800字の文章がまとめきれない学生もいたし、内容はいま一歩でも、なんとか頑張って書き上げる学生もいた。
 それは、ファイターズの諸君も同様で、いま名前を挙げた部員の中にも、書くことに苦しむ部員は何人もいた。
 しかし、素晴らしいのは、上記の諸君のうち、誰一人として「今日は書ききれません」と音を上げたことがなかったことだ。急なミーティングで欠席することはあっても、次の回には必ず欠席した日の課題を仕上げて提出したし、今春卒業したWR小田君のように、60分の制限時間内に2回分の小論文を一気に仕上げる猛者もいた。
 そうした受講生の中で、とりわけ僕が目を見張ったのが最初に紹介した三宅君と高木君、そしてWRの高木君だった。寺岡主将も含め、彼らは毎回、特別の輝きはないけれども、愚直な生活態度と考え方に裏付けられた文章を仕上げてくれた。その文章を読ませてもらうたびに「こういうきまじめな文章が書けるのは、部活も含めて、日々の生活が充実しているからに違いない」と確信していた。
 そうした見方、考え方は、グラウンドに出掛けて彼らの練習に対する取り組みを見ているときにも、頭から離れなかった。今回、彼ら二人が並んでホームページの“表紙”を飾り、チームの仲間からも彼らの取り組みが評価されているのを見て、特別の感慨を持ったのは、そういう事情が背景にあるからだ。
 ファイターズは、全国に聞こえたフットボールの名門である。それは過去の先輩たちが築いてきた名声であり、それを連綿と受け継いできた後輩たちが毎年の厳しい戦いを乗り越えて繋いできたバトンである。
 けれども、それが高く評価されるのは、運動競技のプロとしてではなく、本来の意味での大学の課外活動として取り組んできたからであり、だからこそ現役の学生、コーチらは日々「文武両道」を目指して活動しているのである。
 その「文」の面での取り組みを指導する側から評価してきた選手が「武」の面でもチームから高い評価を受けている。彼らの「文」の一端を知っている僕にとっては、それがなによりもうれしいのである。
posted by コラム「スタンドから」 at 23:37| Comment(4) | in 2019 Season

2019年10月02日

(22)記憶に刻む場面

 9月29日の夜、神戸大学との試合が終わった後のことである。双方の応援団によるエールの交換が終わり、選手全員がサイドライン際に整列して応援席に向って深々と頭を下げ、寺岡主将が「本日は応援ありがとうございました」とお礼を述べた。
 ここまでは、普段と同じ光景だったが、この日はこれだけでは終わらなかった。寺岡主将の「ハドル」というひと声で、選手全員が集まり、ハドルを組んだ。いわば公式のあいさつ、セレモニーを終えた後、今度はチームの全員でこの日の試合をどのように総括し、今後、どのようにチームをつくりあげて行くのかと全員に問い掛けたのである。
 中央で、しばらく全員を見つめ、黙って噴き出る汗と涙をぬぐう主将。それはたったいま、味わった苦しい現実を受け止め、自らを落ち着かせ、語るべき言葉を探すための時間であったのだろう。守備の要を担うプレーヤーとして、グラウンドで苦しむ仲間を奮い立たせたいと願いながら、けがでグラウンドに立てなかった悔しさをかみしめる時間でもあっただろう。
 やがて顔を上げ、チームの全員に語りかける主将の表情が僕の目に焼き付いている。その言葉、決意もハドルの後ろで聞かせてもらったが、僕にはその言葉よりも、彼の苦しみに満ちた表情が全てを語っているように思えた。
 主将を注視し、彼が腹の底から絞り出す言葉を聞いている選手も、多分、同じ思いだったのではないか。試合に出て背中でチームを引っ張ることのできない主将をここまで追い詰めてはならない。これ以上、主将を苦しめてはならない。自分のやれることは全てやろう。やれなかったことにも全力で取り組み、今度は主将の気持ちに答えてみせる。そんなことをチームの全員が自分に誓った時間であったと、僕は思いたい。
 試合は、攻守とも存分にファイターズを研究し、自分たちの長所を最大限に発揮するためのプレーを準備してきた神戸大にいいように振り回された。
 立ち上がりは、ファイターズペース。守備は相手攻撃を完封し、攻撃陣もいきなりRB三宅が23ヤードを走る。続いてQB奥野からWR鈴木へのパス。わずか2プレーで相手陣24ヤード。そこからRB三宅、斎藤が走ってゴール前10ヤードに迫る。
 しかし、ここから手痛いミス。奥野からWR阿部へのパスが相手に奪われ、攻守交代。せっかくの先制機を自ら手放してしまう。
 守備陣もやることがちぐはぐだ。せっかく2年生DB竹原が鋭い出足で相手QBをサックしたのに、上級生がつまらない反則をしてリズムを崩す。彼は、前回の京都大学との試合でも、素晴らしいプレーを見せたが、その際にも同じようなアクションをしており、首脳陣から注意を受けたばかり。こんなことを続けていると、チームはバラバラになるぞ、と懸念が募る。
 それでもこの場面は、守備陣の奮闘で何とかしのぎ、再び、ファイターズの攻撃。2Qに入って最初のプレーで奥野がWR糸川に14ヤードのパスを決めて相手陣45ヤード。そこから斎藤が45ヤードを独走してTD。K安藤のキックも決まって7−0。ようやくファイターズが先制に成功する。
 しかし、この日の相手は、動きに自信がある。自分たちのやってきたことを信じて、攻守ともに確信を持ったプレーを展開。攻撃が進まない場合でもパントもファイターズ陣奥深くまで蹴り込んで陣地を挽回する。
 逆に、ファイターズは思うような試合展開にならず、次第に浮き足立ってくる。何とか窮地を抜け出したいと焦ったQBの反則もあってセーフティーをとられ、7−2。勢いづいて神戸は意表を突くスクリーンパスなどで陣地を進め、仕上げは48ヤードのTDパス。8−7と逆転し、前半終了。
 後半に入っても神戸の勢いは衰えない。攻守とも思い切ったプレーを連発してファイターズの面々を振り回す。逆に、ファイターズの攻撃は手詰まりになっていく。
 ようやく3Qも半ばとなったあたりで奥野から阿部へのパスが2本、立て続けに通る。仕上げはWR鈴木への23ヤードパス。これが決まって14−8。奥野は、最も信頼している二人に確信を持ったパスを投げ、ピンポイントで投げ込まれた速いパスを阿部と鈴木が確実に確保する。上ヶ原の練習時に取り組んでいるプレーをそのまま再現したコールであり、僕は思わず「練習は裏切らない」と独り言をいっていた。
 それでも結果は17−15。相手にフィールドゴールを決められたら、そのまま逆転負けという辛勝である。
 自らのミスで墓穴を掘り、傲慢な態度で相手に付け入る隙を与える。それを食い止めるのが経験を積んだ上級生の役割だが、それも十分に機能しない。監督が試合後、思わず口にされた「普段からチーム全員が甘いねん。4年生があれだけおって、半分以上が足を引っ張っとる」という言葉通りの試合内容に、チームを率いる主将も、悔しさがこみ上げたに違いない。
 この悔しさをどれだけの部員が共有し、新たな戦いへのエネルギーとしていくか。ポイントはそこにある。
 試合後、寺岡主将が涙をこらえ、声を振り絞って訴えた言葉を、チームの全員が「わがこと」と出来るかどうか。「わがこと」と受け止めた部員が、それをどのように行動に表し、練習に取り組み、試合で実現するか。
 勝負はこれからだ。ファイターズの名簿に名前を連ねているのは伊達ではない。チームの全員が火の玉になって取り組んでくれることを願っている。
posted by コラム「スタンドから」 at 15:08| Comment(5) | in 2019 Season