2016年12月05日

(30)魂のフットボール

 長い間、ファイターズの試合を見てきたが、今日のように力の入った試合はそんなにない。終わって見れば26−17。ファイターズが順当に勝利したように見えるが、とてもとても、そんなに力量差がある試合ではなかった。一つ間違えば、逆の結果が出ていたかもしれないほどの緊迫した勝負であり、敗れた立命館の強さを存分に見せつけられた。
 しかしながらファイターズの諸君は、その強力なチームを相手に一歩も引かずに勝ちきった。オフェンスといわず、ディフェンスといわず、出場したメンバー全員が根性の座ったプレーを展開。文字通り「魂のフットボール」を披露してくれた。
 それを象徴するのが第4Qの半ば、自陣2ヤードから始まったファイターズの攻撃である。前半を20−0で折り返しながら、後半の立ち上がり、相手の思いきった攻めで立て続けに2本のTDを奪われて20−14。さらに第4Qの初めにはフィールドゴールをたたみかけられ20−17。完全に相手にモメンタムが傾き、ファイターズは防戦一方。守備陣がなんとか相手の攻撃を食い止めたものの、ボールは自陣2ヤード。残り時間は6分40秒。
 ここを切り抜けない限り、ファイターズの展望は開けない。しかし、焦って無理なプレーをしてボールを奪われたら、一気に逆転、もしくはFGで同点の場面である。
 流れは完全に相手に移っている。さて、どうするか。
 固唾をのんで見守る場面だったが、ファイターズベンチが選択したのは、QB伊豆からWR松井への縦パス。それが決まって一気に30ヤードをゲインし、局面を切り開く。よくぞこのプレーをコールした、よくぞ投げた、よくぞキャッチした。思わず、そんな感慨がこみ上げた。
 場内の興奮がさめやらぬ中、RB橋本が中央のラン、野々垣へのショベルパスでダウンを更新。守備陣のマークがRBに集まったところで、今度は伊豆がプレーアクションからのキープで一気に16ヤードを前進、相手陣42ヤードに進む。
 残り時間は5分24秒。時間を消費しながら局面を進めたいファイターズはランプレー中心の攻撃だし、相手守備陣もそれを予測して備えている。それでもファイターズが選択したのはRBを徹底的に走らせること。野々垣のランで5ヤード、TE三木へのスクリーンパスで4ヤード、RB山本のランでダウンを更新。続けて野々垣がオフタックルを抜けて11ヤード。さらには伊豆のQBドロー、橋本のカウンターで9ヤードを進め、残りの1ヤードは橋本のダイブ。気がつけば相手ゴール前10ヤードまで進んでいる。
 残り時間は1分41秒。ここでも野々垣が中央を突いて4ヤード、残る6ヤードをRB加藤が左オフタックルを駆け上がってTD。決定的な6点をもぎ取った。
 自陣2ヤードから始まった14回の攻撃。最初の1本こそ松井への意表を突いたパスだったが、後の13回はOLとレシーバー陣が愚直に相手を押し続けて走路を開き、RBやTEが骨をきしませてもぎ取った陣地であり、TDである。まさに「魂のフットボール」と呼ぶにふさわしい内容だった。
 もちろん、この日の勝利は攻撃陣の手柄だけではない。その前に、この前の試合に引き続いて守備陣が大いに奮闘した。DLは松本、藤木を中心に中央のランプレーを阻止し、2列目の山岸、松本、松嶋はサイドから攻め込む相手ランナーを一発で仕留める。3列目も負けてはいない。小椋、岡本、小池を中心に的確なタックルとパスカバーで全く相手を進ませない。テレビ中継の情報では、前半のスタッツがランはマイナス2ヤード、パスが12ヤード。トータルで10ヤードしか進ませず、得点はもちろん、ダウンの更新さえ許さなかったのだから、その奮闘はいくら称えても称えきれない。
 しかし、それでも昨年も王者立命は、そのままで終わるようなヤワなチームではなかった。後半、怒濤のような攻めで立て続けに17点をもぎ取り、一気に流れを引き寄せてしまった。そうなると、守備陣も奮起する。絶妙のインターセプトなどを盛り込んで、ファイターズに攻撃の糸口さえ与えない。
 ヤバイ!ここは踏ん張るしかない。そう思ったときに4年生の山岸や岡本、そして3年生の小椋らが魂のタックルを見せて、決定的なチャンスを相手に与えない。
 その辛抱が最後に実った。最初に紹介した通り、ようやく攻撃権を獲得したオフェンス陣が自陣2ヤードからのシリーズを文字通り体を張り、骨をきしませた攻撃で得点に結びつけたのである。
 見たこともないほど力の入った試合という理由はここにある。関学スポーツの速報によると、試合後のインタビューで鳥内監督が「選手が腹をくくってやってくれた。それを最後まで示してくれた。きわどい場面でも押し負けなかったのが勝因」と語られたそうだが、なるほどと思った。
 いつもは辛口の監督にここまでいわせるチームはそうそうあることではない。それだけ全員が最後まで目の前の強敵に必死懸命に向かっていったということだろう。この闘争心。そして粘り強さ。まさしく「Fight Hard」であり、魂のフットボールである。感動した。
posted by コラム「スタンドから」 at 10:02| Comment(2) | in 2016 season

2016年11月29日

(29)練習また練習

 毎年、この季節になると、週末の上ヶ原の第3フィールドには若手OBが顔を出し、練習台を務めてくれる。今年はなかなか姿が見えないなと思っていたら、先週末には東京からXリーグのリクシルで活躍しているQBの加藤翔平君、DLの平澤徹君(ともに2011年卒)、地元からエレコムのLB池田雄紀君(2014年卒)が来てくれた。
 3人とも社会人チームで日本代表クラスの活躍をしているバリバリの現役。防具を着けてグラウンドに降り、スカウトチームに混じってVチームの練習相手を務めてくれた。それぞれがつい先日まで、チームの主力メンバーとしてXリーグで激戦を繰り広げていただけに、見ていてもほれぼれするような動きである。
 ディフェンスエンドに入った平澤君は簡単にVチームのOL陣を突破し、平然とQBの目の前に立っている。池田君はJVチームの要として、VチームのRBを自由に走らせない。加藤君になると、まるで異次元のQBである。体がデカイし遠投力がある。ランプレーで発進すれば、一気にTDまで持っていく突進力もある。JVチームのQBとは3段階から5段階上のレベルである。
 3人が3人とも、今季対戦したどのチームにもいないレベルの選手であり、Vチームのメンバーにとっては、上には上がいる、というのが正直な感想だったのではないか。
 3人だけではない。昨年度の主将でアシスタントコーチを務めている橋本君は毎日、グラウンドに顔を出し、OLの練習台を務めている。自身が昨年まで引っ張ってきたチームだから、相手になる選手が成長しているかどうかの手応えは、体感で判断できる。その折々に気付いたことを身を以て指導し、1センチ単位で足の運びを注意する。
 同じくOLの江川君、FBの山崎君、WRの宮崎君、DBの瀧上君、MGRの重田君も連日のようにグラウンドに顔を出し、練習の補助を務めてくれる。それぞれが先輩風を吹かして威張るのではなく、丁寧に後輩たちを指導してくれるのが、ファイターズのよき伝統である。
 そういう練習を重ねて、甲子園ボウルまであと一歩の所までこぎ着けた。いよいよ今度の日曜日はその成果を発揮する立命戦である。
 先日の試合は、立ち上がりに見事なパス攻撃で先制し、相手の反撃を強力な守備陣がぎりぎりのところで抑えて勝つことができた。
 しかし、互いに一度、手の内をさらし、力量を見極めたうえで迎えるのが今度の試合である。それぞれが相手の弱点を突き、自分たちの強みを磨いて戦うことは目に見えている。その意味では、前回の戦い以降の2週間をどのように過ごしたか、試合までの残り時間をどう生かすかで勝敗の行方が決まる。11月20日の勝利は、その日限り。12月4日までの取り組みで、本当の勝敗が決する。
 そのための準備はできているか。傑出した先輩たちの胸を借りるのもその一つの方法だし、仲間内で互いに指摘し合い、厳しく求め合ってレベルアップを図るのも、重要である。何より大切なのは、自分自身の意識を高く持ち、目の前の相手に必ず勝つ、必ず倒すという責任感をもってことに当たることだ。
 そのためには、目の前の練習に全力を挙げて取り組むしかない。たとえ下級生のスカウトチームが相手でも、百発百中のプレーを自らに義務づけ、それを完遂する。たとえオールジャパン級の先輩が相手でも、一歩も引かない。自分たちのQBには一指も触れさせない。そういう強い気持ちをもって自らを奮い立たせるしかないのである。
 練習また練習。今この時季に、本気で勝つための練習をしている大学チームはほんの数校である。そういう練習が大切な仲間とともに続けられることの幸せに思いをはせよう。たとえハードな練習であっても、目の前に具体的な目標を描いて取り組めば、それは喜びに変わる。その喜びが人を成長させる。そういう練習ができる時間がまだ残されている。その時間を有効に使い、プレーの精度を高め、気力を充実させてもらいたい。
 締めくくりに、先週、練習相手を務めてくれた池田君に確かめた話を一つ披露したい。彼は今季、学生時代から慣れ親しんだ1番の背番号に代え、14番を背負ってプレーした。どうしてか、と思った瞬間、思い当たることがあった。14番は、同期の大森君が学生時代に背負っていた番号である。
 「そうか。がんとの戦いに挑んでいる病床の友人を励ますために、その14番を背負ったのか」と思い当たった僕は、池田君の顔を見たときにまずそのことを確かめた。
 「そうです。同期の大森が苦しい戦いをしている。ならば僕も、その戦いを背負ってやる。そう思って背番号を変更したのです」
 その返事を聞いた時、何とも表現しようのない感動が走った。これがファイターズだ、同じ釜の飯を食い、同じグラウンドで汗を流し、死にものぐるいの練習をした仲間だ、そう思うと、思わず涙がにじんできた。
 そういう仲間を作れるのも、グラウンドでは互いに厳しく求め合い、試合では結束して強敵に立ち向かってきた場面を共有しているからである。ファイターズの諸君も、残る試合でそういう場面を共有し、仲間との絆を固くして巣立ってほしい。そのための時間はまだ残されている。練習また練習である。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:36| Comment(3) | in 2016 season

2016年11月22日

(28)これぞ「Fight Hard」

 まさにチームが一体となって「Fight Hard」を体現した試合だった。
 攻めてはラインが一枚の板になってQBを守り、RBに走路を開く。WRはどんな球でも捕ってやるという気迫を体全体で表し、QBは投げ、走り、身を投げ出して相手をブロックする。
 守備はさらにハードである。一列目、中央の松本が核となって相手の動きを制御し、2列目は果敢にボールキャリアに襲いかかる。3列目は鋭い動きでそれをフォローし、能力の高い相手キャリアに仕事をさせない。シーズンも中盤まで、試合ごとに課題が指摘されていたキッキングチームも、この日は冷静にボールをコントロールし続けた。
 関西リーグの雌雄を決する立命戦。試合前の下馬評は、大半が相手有利。攻守とも学生界では一歩抜きんでた力を持つやっかいな相手に、ファイターズの諸君がどこまで気持ちを込めて戦うか、チームの全員が相補い、助け合って試合に挑めるかが勝負のポイントだった。試合の前夜から、選手一人一人の顔を思い浮かべ、明日はとにかく闘志を表に出して戦え、激しく戦ってくれと祈るような気持ちだった。
 ファイターズのレシーブで試合開始。相手のキックがサイドラインを割り、自陣35ヤードから攻撃が始まる。最初はRB野々垣のラン、2度目もランプレーだったが、相手の鋭い守りにほとんど前に進めない。予想通りの苦しいスタートだったが、3プレー目、QB伊豆からWR前田に24ヤードのパスがヒット、一気に相手陣41ヤードに攻め込む。相手守備陣の寄りつきが早く、見た目にはパスが通る状況ではなかったが、伊豆が果敢に投げ、前田が信じられないような身のこなしでそのボールを確保する。
 続いて伊豆のキープで4ヤード、RB橋本の中央突破で7ヤードを稼いでダウン更新し、ゴール前30ヤード。ここで伊豆からWR松井への長いパスが通り、一気にTD。試合開始から2分1秒で待望の先取点を手にした。
 こうなると、守備陣も盛り上がる。次の相手攻撃を山岸、安田の鋭い動きで3&アウトに退ける。
 しかし、相手オフェンスには昨年、存分に走り回られたRBも抜群のスピードを誇る3人のレシーバーもいる。一瞬たりとも気の抜けない展開が続くが、松本、藤木、三笠を並べたDL陣が中央のランプレーをことごとく制圧し、山岸、松本、安田、松嶋のLB陣と岡本、小池、小椋、横澤のDB陣が抜群の反応で決定的な好機を作らせない。
 膠着したままの試合展開を破ったのは主将山岸。第2Qの半ば、自陣25ヤード付近で相手ボールキャリアに激しいタックルを見舞ってボールをはじき出し、それを松嶋がカバーしてターンオーバー。最低でもフィールドゴールの3点を覚悟しなければならない状況で飛び出した値千金のタックルでありカバーである。
 このプレーに、今度は攻撃陣が奮起する。RB山口、橋本のランとWR前田、亀山、松井、池永へのパスを組合わせてダウンの更新を重ね、ついにゴール前まで3ヤード。昨年は、ここからの攻めをことごとく跳ね返されたが、今年は違う。橋本が見事に中央のダイブプレーを決めてTD。待望の追加点である。ファイターズが先制した後、次にどちらが点を取るかで勝負が決まると読んでいた僕にとっては、本当に、本当に欲しかった追加点である。ベンチはもちろん、スタンドを満員にしたファイターズファンの思いを乗せたエースRBのダイブであった。
 この場面の写真がチームのホームページでもアップされている。それを注意深く眺めてほしい。OL陣全員が身を挺して相手守備陣を押し込み、橋本の飛び込むスペースを確保していることが鮮明に写し出されている。これが2016年ファイターズの「Fight Hard」を象徴する場面である。
 後半もファイターズの守りは堅い。一列目の藤木や三笠が素早いラッシュで相手バックに襲いかかり、小池がナイスタックルを決める。これに攻撃陣が呼応する。3Qに入って2度目の攻撃シリーズは自陣20ヤードから。まずは、伊豆の素早いランで陣地を進め、次は池永へのリバースプレー。それが見事に決まって69ヤードのTD。走り切った池永も素晴らしかったが、相手守備陣を渾身のブロックで倒した伊豆、スピードに乗って走路を開いた松井らのブロックもお見事。まさに攻撃陣が一丸となって獲得した追加点だった。
 このように試合を振り返ってみれば、攻守ともにグラウンドに立つ11人の選手が一丸となって戦っている場面ばかりが目に浮かぶ。今季では初めてのことであり、ここまで気迫のこもった試合を見たのも今季では初めてのことだ。
 チームは全員で「Fight Hard」を体現し、見事に関西リーグを制覇した。しかし、今季は甲子園ボウルへの出場権をかけた試合が12月4日に予定されている。それに勝たないことには、話は前に進まない。
 その試合は間違いなく立命との再戦になる。
 この試合こそが本当の決戦である。相手は捨て身になって挑んでくるだろう。まったく異なる相手と闘うと考えた方がいい。ひょとしたらもともと2試合目に焦点を絞っている可能性すらある。勝ったイメージを捨て去って挑戦者に徹しなければ逆の結果になることだってあるのだ。
 もう一度、昨年の敗戦の原点に立ち返って再戦に向けた準備をしてほしい。勝っておごらず、ひたすら練習
に励むことから活路は開ける。甲子園ボウルまでもう1試合。悔いなく戦うために汗を流してもらいたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 14:57| Comment(3) | in 2016 season

2016年11月16日

(27)Fight Hard

 関西リーグ最終戦、立命との戦いを前に、今年のイヤーブックにある山岸主将の言葉をあらためて読み返した。一字一字が意味するものを、上ヶ原のグラウンドで彼が見せる行動、言葉、日ごろのたたずまいに重ね合わせていると、言葉にはならない熱いものがこみ上げてきた。
 練習の邪魔になってはいけないので、グラウンドの内外で交わす言葉は少ないけれど、彼の主将としての心構え、取り組み、行動をずっと見守ってきた人間の一人として、彼が問い掛けている言葉がそのまま胸に突き刺さってくる。
 全文をそのまま引用して、今回のコラムに代えたいぐらいだといえば、いまの僕の気持ちが分かってもらえるだろうか。
 彼はその文章で「どうすれば彼らとの差は埋まるのか」「自分たちはいま何をするべきなのか」と自らに問い掛け、次のように答えている。
 ……常に自分自身に問い掛ける中で、勝つために自分たちが決めたことをやり続けるしかないと考えた。トレーニング、ミーティング、練習。すべてにおいて昨年以上の意識で自分の気持ちを前面に出して取り組まなければ、今年も勝つことはできない。その思いから“Fight Hard”というスローガンを掲げた。
 ファイターズの部歌「Fight On,Kwansei」の歌詞に“Fight hard so we will win the game.”という一節があり、勝つために激しく懸命に戦うことが示されている。
 スローガンを決めるうえで、歴史ある部歌から貴重な言葉を引用した。
 勝つために戦うのは、試合の時だけではない。戦いの日が来るまで“Fight Hard”し続ける。つまりは毎日が勝負であり、毎日が勝つための1日である。
 何事においても、どんな場面においても勝つために“Fight Hard”することを、私が一番体現する。そしてチーム全員が“Fight Hard”を体現したときに、日本1への道が開けると信じている……。
 そして、最後に「ファイターズにいれば何か与えられるのではない。自分から“何か”を掴みに一歩踏み出しでほしい」と仲間に呼び掛け、「主将の私が常にこれで勝てるかを自問自答し“Fight Hard”を体現していきたい」と結んでいる。
 気持ちのこもった文章である。いま、決戦を前に読み返すと、なおさら一言一句が胸に迫ってくる。
 振り返れば、この20年、立命館とはどの学年も死闘を繰り返してきた。京大を含めて3者がそれぞれ1敗して3校が優勝し、甲子園ボウル出場決定戦で苦い汁を飲まされた1996年。関大、立命、関学が同率優勝し、甲子園ボウル出場権を競った2010年。せっかく本番の関西リーグで立命を倒しながら、京大に足下をすくわれ、優勝決定戦で再び立命と対戦。タイブレーク、それも延長戦となって敗れた2004年の例もある。2013年は両者ともに一歩も譲らず、0−0で引き分けている。
 蛇足を承知で付け加えれば、この0−0の試合で値千金のインターセプトを決めたのがDBの大森優斗君。いま、がんとの厳しい戦いのさなかにあることを公表し、朝日新聞のネットで紹介されて、大きな反響を呼んでいる主人公である。その記事を書いた大西史恭記者は、キッカーとして2007年の甲子園ボウル制覇に貢献した。
 もう一つ蛇足を加えれば、その大西君が在学中の4年間、立命との試合はすべて3点差以内で勝敗を分けている。2004年が30−28(甲子園代表決定戦は先に述べたように14−14で延長タイブレーク)、05年は15−17、06年は16−14。そして4年生の07年は31−28。フィールドゴールでの3点、PATでの1点を獲得することを義務づけられたキッカーの役割の重要性とその責任の重さを卒業文集で綴っていたことを思い出す。
 数えて見れば、21世紀に入ってからの15年間で、7点以内、つまり1TDとPAT1本の差以内で勝敗が分かれた試合が9シーズン、10回もある。その結果は関学からみて4勝5敗1分。両者が心技体すべてをかけてぶつかり、互いに一歩も譲らずに戦った結果である。
 逆に言えば、この相手を倒さない限り、甲子園ボウルへの道もライスボウルへの道も開かれないということである。
 その相手に、昨年は苦汁を飲まされた。山岸主将のいう「人生で一番の悔しさと自分自身の無力さを嫌と言うほど味わった」勝負である。
 以来、360日余。チームはこの相手を常に意識して、取り組んできた。その結果が問われる試合が目前に控えている。
 11月20日、万博記念競技場。1980年代後半、京大が全盛期にあり、毎年のようにファイターズと最終決戦を繰り広げた舞台である。そこでファイターズはどう戦うか。
 山岸主将の言葉にある通り、チームの全員が“Fight Hard”を体現するときである。全員が激しく、懸命に戦ってほしい。その向こうに勝利がある。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:46| Comment(2) | in 2016 season

2016年11月09日

(26)キーワードは忠実

 関西リーグ第6節の相手は京大。ファイターズに対しては毎年、特別の思いをもって挑んでくる難敵である。それは、現役の選手だけではなく、それ以上に監督やコーチが骨身にしみて承知のことである。
 振り返れば、小野ディレクターが終盤、TD2本の差を付けられた場面で、びっこを引きながら登場。激しく追い上げながらも、あと数インチが届かずに敗れた試合。満員の西宮スタジアムで関学有利の下馬評を覆されたのは、神田コーチが4年生、大村コーチ、大寺コーチが3年生の時。野原コーチの代は2年生の時、せっかく全盛期の立命を打ち倒しながら、次の試合で京大に足下をすくわれ、甲子園ボウル出場を逃している。
 この40年、常にファイターズの前に立ちはだかり、知恵をしぼり、根性を入れて挑戦してきたギャングスターズは、今年も健在だった。それは、第1シリーズ最初の攻撃が象徴している。京大陣21ヤードから始まったこのシリーズを京大はランとパスを巧妙に混ぜながらじりじりと陣地を進めた。50ヤードを越えたあたりで、ファイターズ守備陣が一度は食い止めそうになったが、急所で2度も反則が発生。結局は先制のTDにまで結び付けられた。キックも決まって0−7。
 7点差を付けられてのスタートとなったせいか、ファイターズ最初のシリーズはラインとQBの呼吸が合わない。伊豆からWR前田へのパスで5ヤードを進めただけで、簡単に攻撃権を相手に渡してしまった。
 「やばいぞ、これは。相手はかさにかかってくる。こちらは焦ってくる」。思わず心配した場面だったが、ここは守備陣が踏ん張って3&アウトに抑え、再びファイターズの攻撃。今度は伊豆からWR松井へのパス、RB橋本のランでダウンを更新。TE杉山へのパスで陣地を進めた後、RB山口がするすると中央を抜けてTD。K西岡のキックも決まって同点に追いつく。
 こうなると守備陣も落ち着く。松本、藤木、安田、三笠で固めた一列目と山岸、松本、松嶋のLB陣が奮起して中央のランプレーを完封。即座に攻撃権を取り戻す。自陣30ヤード第3ダウンロングという状況で、今度は伊豆から橋本へのショベルパスがヒット。ボールを受けた橋本が一気にエンドゾーンまで独走して70ヤードのTD。13−7とリードを奪う。
 次の京大の攻撃をDL三笠の14ヤードのQBサックなどで押さえ込んで攻守交代。今度はゴール前27ヤード付近で伊豆からヒッチパスを受けたWR池永が相手DBを振り切ってTD。20−7で前半終了。
 これでようやく試合が落ち着くかと思って迎えた後半。しかし、立ち上がりから不要な反則が相次ぎ、なかなかリズムに乗れない。しかし守備陣が奮起する。DB横澤が2度(反則で帳消しになったビンゴを含めると3度)のインターセプトを立て続けに決め、2度目のビンゴをリターンTDに仕上げて27−7。4Q開始直後には橋本が中央のダイブプレーを決めてダメを押した。
 終わってみれば34−7。得点だけを見ると、ファイターズの圧勝に見える。
 しかし、現場はそんなお気楽な雰囲気ではなかった。少なくとも京大の強さ、怖さをスタンドからではあるが、毎年のように見せつけられている僕としては、これで安心と思ったのは、TD数にして3本の差がついてからだった。
 そういう緊迫感のある試合。その中で僕がとりわけ注目したのは、攻守ともファイターズの選手がそれぞれの役割を忠実に果たしていたこと。ディフェンスではDLの松本、藤木らが真ん中を抑え、エンドからは三笠や安田が鋭い突っ込みを見せる。山岸を中心にしたLB陣と小椋、横澤らのDB陣がボールキャリアから目を離さず、鋭い集散を見せる。
 例えば横澤が2度目のインターセプトをリーターンTDに結び付けた場面。彼がパスを奪った瞬間に、逆サイドにいた小椋らが周囲に駆け寄り、完璧なブロックでゴールまで横澤が駆け上がるのを助けていた。
 攻撃陣も同様だ。1本目のTD、山口が中央を駆け抜けた場面では、OLが練習通りの忠実な動きで中央に走路を開いた。2本目、橋本が70ヤードを独走した場面でも、周囲を走っているのは、ファイターズの白いジャージばかり。OLの高橋らが巨体を揺すりながら橋本の後ろを固めて走っているのが印象的だった。
 日ごろの練習から、目の前のプレーに集中すると同時に、チャンスが到来した瞬間、新たに求められる役割を忠実に果たそうと努力してき成果がようやく出始めたということだろう。
 キーワードは忠実。オフェンスラインが自分たちのQBを守り、RBの走路を確保するのも、それぞれが決められた役割を忠実に果たすことであり、WRが相手守備陣のマークをかいくぐってパスをキャッチできるのも、それぞれが決められたルートを忠実に走り抜けているからである。攻守22人と交代メンバー、そしてキッキングチームの全員が、それぞれの場面でなすべきことを忠実に果たしたからこその勝利である。
 第7節。関西リーグの最終戦までは10日あまり。忠実な動きをさらに進化させ、難敵に立ちむかってもらいたい。それは先発で出るメンバーに限らない。というよりも、勝敗の鍵を握っているのは、交代メンバーの厚さにかかっている。
posted by コラム「スタンドから」 at 20:17| Comment(2) | in 2016 season

2016年11月01日

(25)本を読み、文章を綴る

 プロ野球の日本シリーズを制した日本ハムの選手育成について、10月30日付朝日新聞に興味深い記事が掲載された。「高卒育成 継承の5年間」という見出しで、自前で選手を育成する独自の仕組みを解説している。筆者は山下弘典記者。
 そこでは高校から入団した選手は5年間、大学・社会人からの入団選手は2年間、2軍の練習場に併設した選手寮に入寮を義務付け、読書習慣を身に付けさせる。外部から講師を招いて講義を受け、その感想文を必ず書かせるということなどが紹介されていた。
 読むことで思考力を養い、文章を綴ることで表現力を身に付けさせる。一見、野球とは関係のないことのように思えるが、そうではない。野球は相手があってこそ成り立つスポーツであり、仲間と協力しあって勝利をつかむ団体競技である。勝利のために何が必要かを考え、相手の投手、あるいは打者を攻略するために、どこに目を付ければよいかと知恵を巡らせる。胸を開いて仲間と考えを共有することも大切だし、自分の考えを適切な言葉で伝える能力も求められる。
 速い球を投げ、思い切りバットを振り回せばいいというだけでは、現代の野球界では通用しない。そうした技量を磨くと同時にシンキングベースボール、考える野球を一歩でも進めた者が勝利への道を歩める。それを裏付けたのが、高卒選手が主力を占め、大活躍した今季の日本ハム球団である。
 そういう記事を読みながら、まるでファイターズ(KGの方です。あちらは野球のファイターズ、こちらはフットボールのファイターズ。ファイターズと名乗ったのは、KGの方が少しだけ先輩であります。念のため)が目指している方向と同じじゃないか。いや、寮こそないが、ファイターズの方がはるか前から考えるフットボールを徹底し、知恵をしぼり、脳髄をからっぽにするまで考え抜いて強敵に挑んできたぞ、と思わず口にした。
 その考える力、表現する能力はどこから生まれるか。それは読書と思索。そして文章を綴ること。それを日課にし、誰かに見てもらい、褒めてもらうこと。これを生活習慣として取り入れることができれば、必ず人は成長する。例外はない。それは新聞記者として50年、その傍ら18年、大学や高校で文章表現の授業を担当してきた僕自身の体験を通して、自信を持って言い切れる。
 もちろん、ファイターズの諸君は大学生だから、日々の授業を通しても考える力、表現する力は手に入るだろう。しかし、なんと言っても手っ取り早いのは読書と日記。それを習慣にすることができれば、人は必ず成長する。精神的にもタフになり、相手の立場に立って考えることのできる懐の深さも身についてくる。
 フットボールは野球以上に考えるスポーツであり、野球以上にプレーヤー全員の協力が求められる競技である。一つ一つのプレーが審判の笛で区切られ、そのたびに考える時間が与えられる。野球と違って、選手の交代が自由だから、ベンチの監督やコーチとの意思疎通のよさも野球の比ではない。
 事前に相手のビデオを見て長所と弱点を探り、警戒するプレーヤーの動きを丸裸にすることも可能である。分析スタッフはその作業に全力を挙げ、その成果を丁寧なミーティングを通してチーム全体で共有する。あるいは毎年のようにコーチがアメリカに出掛け、チームに適した戦術を取り入れたり、シーズンオフのトレーニングを工夫したりするのも、考えるフットボールの一つの側面である。
 そういう工夫をファイターズは、ずっと続けている。高校を卒業してからの4年間を選手としての育成と同時に、人間としての力を鍛える場と位置づけ、「どんな男になんねん」と選手に問い続けているのである。
 そうした場所で自分の考えを仲間に分かりやすく伝える能力、あるいはそれを的確に聞き取る能力が磨かれる。それをもう一歩高めるのが読書と思索、文章表現である。僕はそれを理屈ではなく、新聞記者50年、文章表現指導18年の体験から確信している。
 ファイターズの監督やコーチが、授業に出席し、所定の単位を取得することを試合に出るための条件としているのも、こうした考え方の延長線上にあるのだろう。
 さて、今週末は京大との戦いだ。相手は毎年、考えに考え抜いたプレーを仕掛けてくる。過去の例から考えると、そのすべてを想定して対応するのは至難の業である。
 しかし、考えるフットボールには考えるフットボールで対抗すればよい。ファイターズ贔屓の立場からいえば、ファイターズの諸君には考える力にプラスした何かがある。それは仲間への信頼であり、仲間を奮い立たせる力である。普段から続けている「考える練習」を付け加えてもよい。
 そういう諸々をすべて結集して戦いに臨んでほしい。今は一戦必勝、これまでに蓄えた力のすべてを発揮する時である。
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2016年10月25日

(24)4年生の覚悟

 関大戦の後、古い友人から「関大戦は4年生の覚悟が伝わるいい試合。お見それしました」という短いメールが届いた。彼は僕が朝日新聞で大阪府警担当をしていた頃、互いに抜いた抜かれたと張り合ってきたライバル社のエース記者。もう35年以上の付き合いになるが「ファイターズ命」という共通の趣味もあって、電話するたびに話が弾む。
 メールが届いた後、目の前の仕事をほったらかして、しばしファイターズ談義を繰り広げた。
 確かに4年生だけでなくグラウンドに出ている選手全員の覚悟が伝わってくる試合だった。とりわけ、双方がガチンコで対決した立ち上がりの攻防は、見応え十分。まずはその部分を振り返って見よう。
 コイントスに勝った関大が後半のレシーブを選択して試合開始。関大のキックは自陣深く蹴り込まれ、ファイターズは自陣12ヤードの苦しい位置からの攻撃となった。
 まずはRB野々垣と橋本にボールを持たせて6ヤード。しかし、第3ダウン4ヤードという微妙な距離が残っている。さてどうするか、という場面でQB伊豆が魂の中央突破で8ヤードを稼ぎ、ダウン更新。ようやくパスができる位置まで陣地を進める。
 ここでWR池永がジェットモーションからボールを受けて3ヤード。相手守備に的を絞らせないまま、今度は伊豆からWR亀山への長いパス。第一ターゲットではなかったというが、忠実に自分のコースを走り切った亀山が確実にキャッチし、そのままゴールまで駆け込んで71ヤードのTD。西岡のキックも決まって7−0。
 自ら走って投げた伊豆も、最初に陣地を回復した野々垣、橋本、池永、冷静にキックを決めた西岡も4年生。TDパスをキャッチした亀山こそ3年生だが、自陣ゴール前でしっかり伊豆を守ったOLの主力も4年生。確かに4年生の覚悟が伝わる立ち上がりだった。
 代わって関大の最初の攻撃は相手陣33ヤードから。関西リーグのリーディングラッシャー、地村主将を中心に、中央のランプレーで攻めてきたが、ここはファイターズディフェンス陣の守りが堅く、3&アウトで攻守交代。しかし、相手のパントはファイターズ陣の奥深くまで蹴り込まれ、ファイターズは再び自陣14ヤードからの攻撃を強いられる。野々垣、橋本のランで5ヤードを回復したが、結局はパントに追い込まれる。しかし、ここで思わぬ出来事。ファイターズにスナップミスが出てセーフティーとなり、関大に2点を献上してしまう。
 せっかくのTDで挙げた7点差が5点差。おまけに続く関大の攻撃はハーフライン付近から。まずは相手のエースRBが中央を突破して12ヤード。一気に追い上げられそうな気配だったが、ここでDB小椋が起死回生のインターセプト。15ヤードほどリターンして攻撃権を奪い返す。
 そこから亀山へのパス、RB加藤や橋本、山本らのランで陣地を進め、ゴール前4ヤードまで前進。しかし、そこからが進まない。4度続けて中央のランプレーをコールしたが、ことごとく跳ね返されて攻守交代。このあたり、相手守備陣も強力。試合前に鳥内監督が「ゴール前までは進めても、そこからが難しい」と警戒されていた通りの展開である。
 ファイターズベンチにとって嫌な感じが漂う中、LB山岸を中心に守備陣が踏ん張る。何とか相手の攻撃をパントに追いやり、再びハーフライン付近からファイターズの攻撃。再び活路を開いたのが伊豆から亀山への30ヤードのパス。一気にゴール前20ヤード付近まで進む。ここで加藤がドロープレーで中央を抜け出し、一気にTD。2Q終了間際にも西岡が36ヤードのフィールドゴールを決め、前半を16−2で折り返した。
 後半は、相手が戦意を失ったのか、守りが淡泊になる。そこをついて伊豆のキーププレーでTD。4Qになると野々垣のラン、WR水野の29ヤードランでTDを重ね、終わって見れば37−2。相手を完封した守備陣と、パスとランを効果的に使って相手守備陣を翻弄した攻撃陣。双方のリズムが今季初めてかみ合って、何とか大きな山場を乗り切った。
 このように試合を振り返ってみると、名前の挙がった多くは4年生。ほかにも守りの中心になったDL松本、安田、DB岡本らも4年生。夏の合宿中にけがをして、しばらく戦列を離れていたDB小池も復帰してきた。攻撃陣でも、ラインの松井、高橋、藏野、清村らがはつらつとした動きを見せた。もちろん3年生も負けてはいない。相手守備陣の激しいタックルにも負けず確実にボールをキャッチした亀山や前田、OLを奮起させた井若。守備陣でもDL藤木、急きょLBとして出場した柴田、立ち上がりのピンチに見事なインターセプトを決めた小椋らが気迫のこもったプレーを見せてくれた。
 こうした総和が「覚悟の見えた試合」ということだろう。攻守ともに4年生が活躍し、チームが初めて結束できた試合といってもいい。
 しかし、シーズンはここからが本番である。関大に勝ったからといって優勝が決まったわけではない。困難な戦いの初戦に負けなかったというだけである。これからの京大、立命館との対戦を考えると、まだまだ詰めていかなければならない点が多い。それは試合後、少しばかり話を聞く機会のあった主将の山岸君も、主務でありキッキングチームの要でもある石井君も口を揃えていた。
 前半の苦しいせめぎ合いをしのいだことを自信とし、至らなかった点を克服して次なる試合につなげてもらいたい。目的を持った鍛錬こそが栄冠につながる道である。
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2016年10月20日

(23)戦わぬ先の準備

 天保11(1840)年、当時、11歳の吉田大二郎は、長州藩主、毛利慶親の前で山鹿素行の「武教全書」の一節を講じた。後に吉田松陰と名乗り、日本の歴史に名を残す少年は、藩主の前でも臆することなく、次のような内容の講義をしたという。
 「兵法に曰く、先ず勝ちて後に戦ふと。これは孫子軍形の篇に出てをれり。言ふ心は、敵に勝つ軍(いくさ)はいかようにして勝つかなれば、戦わぬ先にまず勝ちてをりて、その後に戦ふなり。それ故、百たび戦ひて百たび勝つなり。しかるを、軍の仕様おろかなれば、勝つべき道理をもわきまへず、負くべきわけをも知らず、何の了見もなしに先ず戦ふなり。これは戦を以て勝たんとするにてよろしからず、多くは敗るるものなり……」
 あえて注釈は不要だろう。戦いには、事前の準備が肝要。軍の準備も整えず、相手の長所、短所の研究もせず、とりあえず戦ってみよう、運がよければ勝てるだろう、というような了見ではよろしくない。それでは戦いの多くは敗れてしまう。そのように少年、吉田松陰は藩主の前で堂々と講義したのである。
 180年近く前の話だが、この言葉はフットボールの世界にもそのまま通用する。事前の準備が大切。相手の分析、それを受けた戦術の用意、加えて戦うメンバーの心身の備えに至るまで、戦う前に周到に準備しなさい。それができれば百戦百勝ですよ、といっているのである。
 今週末から関西リーグ上位校との決戦が始まる。関大、京大、立命と2週間おきに組まれた試合のスケジュールを眺めてみれば、余裕で戦える相手は一つもない。それぞれが永遠のライバルとして、本気で牙をむいてくる相手ばかりである。事前の準備を100%やり遂げたとしても、それでも実戦では想定外のことが相次ぐ。
 それは昨年の秋を振り返ってみれば、即座に理解出来る。京大戦では周到に準備された相手の戦略に振り回され、関大戦では点差こそ開いたが、前半は相手守備陣の激しい抵抗に苦しんだ。優勝を決める立命との戦いでは、伏兵ともいえる相手レシーバーに一発でリターンタッチダウンを決められた。ファイターズが誇る中央のランプレーも、十分に対策を練ってきた相手ディフェンスにことごとく封じられたしまった。その結果としての27−30。点差は3点だったが、相手の周到な準備に打ちのめされたという気持ちは、いまも心の片隅に残っている。
 こうした相手との戦いが1週間おきに続く。リーグ戦前半のような戦いでは、前途が思いやられる。
 もちろん、戦術の準備ということに限っては、ファイターズが最も得意とするところである。相手の分析に抜かりはないだろうし、それに基づいた自分たちの戦術も工夫していることだろう。その辺は、百戦錬磨の監督やコーチの力でカバーできる。
 問題は、試合に登場する選手、裏方としてチームの戦いを支えるスタッフたちの心身の準備である。この5年間のうち、4年続けて学生界のトップに立ったことがプラスではなくマイナスに作用していることがあるのではないかという懸念がぬぐえない。
 何だかんだと言っても、ファイターズは勝ってきた。昨年も、あと一歩でてっぺんまで登り詰める所まで行った。そのことが根拠のない自信になって、チームに病原菌を広げているのではないか。「いざとなれば、なんとかなるろう」「困った時は、誰かがやってくれるだろう」という「だろう病」の病原菌である。
 世間には「売り家と唐様で書く3代目」と言う言葉がある。創業者は刻苦勉励して事業を育て、大きくした。2代目はそれを目の当たりにしているから、凡庸でもなんとか事業を継続していく。しかし、3代目ともなると自らは苦労せず、過去の栄光で食っているだけだから、やがては家を売ってしまう羽目になる。そういうことを皮肉った俗語である。
 創業者の苦労を肌身では分からない3代目特有の病気。それを僕は勝手に「だろう病」と名付け、その病原菌がチームに入り込まないように目を光らせている。チームのスタッフではないし、医者でもないが、そういう他人任せの態度は、空気で分かる。
 今のところは山岸主将や副将の3人、それにチームを率いるQBの伊豆君や気持ちの勝った3年生らが必死懸命の取り組みで、そういう病気が入り込まないように努めているが、一番の薬は目の前の強敵に勝つこと。そのためには吉田松陰のいう戦術と心身の準備が求められる。それを完璧にして関大戦から始まる秋の決戦に向かってもらいたい。
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2016年10月12日

(22)フットボールは格闘技

 このところ、とてつもなく忙しい日が続いている。ずっと前に約束していた文庫本の解説の締め切り日が迫っているし、今日の午後には高校での講演会もある。その準備も仕上げなければならない。大学では秋学期が始まり、毎週末には授業がある。金曜日に2コマを受け持っているだけだが、毎回、受講生に小論文を書かせているので、週末はその添削、講評作業に追われる。
 もちろん、本業の新聞社の仕事は手を抜けない。週に3回コラムを書き、社説も担当する。対外的な折衝もする。社内の記者を集めた勉強会も主宰しているから、その準備にも追われる。
 そういう中で、ついついこのコラムの更新が間遠になっている。秋の関西リーグが4節を終え、シーズンが佳境に入ってきたのに、何という情けないことか。誠に申し訳ない。
 さて、第4節の神戸大との戦いである。結論から言うと、何とももどかしい試合だった。いや、もどかしいというだけでない。こんな仕上がりで、これから続く関大、京大、立命館との戦いに挑めるのか、と心配になるほどだった。
 ファイターズのレシーブで試合が始まる。しかし、神戸大のキックを1年生レシーバーがファンブル。なんとかそのボールを確保し、神戸大の反則もあって、失敗は帳消しとなったが、今日も前途多難を思わせる。
 自陣30ヤードから始まったファイターズ最初の攻撃はRB野々垣、橋本のランで簡単にダウンを更新。だが、ここでセンターのスナップミスが出てマイナス15ヤード。せっかくの攻撃リズムが崩れてしまう。QB伊豆からWR松井への23ヤードパス、橋本の中央突破と続いて、再びダウンを更新したが、次が続かない。QBとレシーバーのタイミングが合わずに、結局はパントで攻撃終了。
 この最初の攻撃シリーズだけを見ても、キックキャッチのミス、スナップミス、レシーブミスと続いて、自らリズムを壊してしまっている。要所要所で切れ味のよいランが決まり、長いパスが通っているのに、フィールドゴール圏内にも進めない。もどかしい攻撃である。
 逆に守備陣は安定している。DE柴田のパスカットなどで、相手攻撃を3&アウトで抑える。WR亀山の15ヤードのパントリターンもあって、相手陣46ヤードから再びファイターズの攻撃。ここは伊豆のスクランブル、野々垣の28ヤードランとたたみかけ、ゴール前16ヤード。そこで伊豆からWR池永へのパスが決まってTD。K西岡のキックも決まって7−0。
 次の攻撃シリーズも、野々垣が8ヤード、RB加藤の21ヤードをランで稼ぎ、陣地を進めるが、肝心なところパスが通らず、1Qはそのまま終了。
 2Qに入るとすぐ、自陣45ヤードからファイターズの攻撃。伊豆から亀山へのパス、伊豆の20ヤード独走で陣地を進め、簡単にゴール前26ヤード。そこでファイターズに反則があり、マイナス5ヤード。今度は伊豆から左サイドライン際の松井に短いパス。それを受けた松井が相手ディフェンスを振り切ってゴールに走り込む。タッチダウン、と思った瞬間、ファイターズにホールデングの反則。TDのプレーとは関係のないサイドで起きた反則で、せっかくのTDが認められない。ちぐはぐな攻撃が続く。
 ようやく次のシリーズ。野々垣へのショベルパスや橋本、加藤のランでリズムを作り、仕上げは野々垣が左サイドを駆け上がってTD。2Q終了間際には西岡が46ヤードのFGを決めて17−0で前半終了。第3Qに入ると、ファイターズは、亀山、前田、阿部のWR陣に立て続けにパスを通し、加藤のランで仕上げて24−0。次の攻撃シリーズからは、ベンチを温めることの多かった4年生を次々に投入。守備陣にも、2枚目、3枚目の選手を起用していく。
 そのせいか、3Q終了までは相手攻撃を完封していた守備陣にほころびが出始め、とうとうTDパスを通されてしまう。終わって見れば、ファイターズが31−6で勝利したが、試合内容は終始ちぐはぐ。不用意なミスは出るし、意味のない反則も続く。自らリズムを崩すプレーの連続で、せっかくの光ったプレーが生きてこない。
 試合後、鳥内監督もそれを認め「自分でリズムを壊している。こんな内容ではこれからの3試合はしんどい」と話されていた。
 僕も試合後、何人かの主力選手と話す機会があったが、聞こえてくるのはチームの現状の苦しさを認める言葉ばかりだった。
 さて、こうした現状をどう立て直していくのか。
 思うに、4年生が先頭に立って汗をかき、後ろ姿で下級生にその本気度を見せていくしかないのではないか。練習前、練習後のハドルで、幹部たちがそれぞれの言葉を尽くしてチームを鼓舞しているが、それ加えて、練習でも試合でも「Fight Hard」を体現するしかないのではないか。もちろん、3年生、2年生、1年生を含め、試合に出ている選手はすべて、悔しさを露わにし、闘争心をむき出しにして相手チームにかかっていかなければならない。フットボールは格闘技という原点を共有し、激しく戦う集団を再生するしか道は開けないと思うのだが、いかがだろう。
posted by コラム「スタンドから」 at 14:03| Comment(7) | in 2016 season

2016年09月28日

(21)「松岡はいるか、香山はどこだ」

 秋のリーグ戦3試合目。龍谷大との戦いは、ファイターズの現状をあぶり出す絶好の試験紙となった。
 その試験紙は何をあぶり出したのか。
 その答えは、試合終了後の鳥内監督の談話に現れている。「今のチームの状況は」との記者団からの問いに「チームの力が4年前とは全然違う。まだまだ精神面のレベルの低さが出ている。こんなんでは、日本1になるのは無理やと思う」。僕も、現場で耳を傾けていたが、その言葉には本音が現れていたように思う。
 実際の試合も、最初からピリッとしなかった。ファイターズのレシーブで始まった最初のシリーズ。RB山口のナイスリターンで自陣48ヤードの好位置から始まったが、第3ダウン残り4ヤードでこの日の先発QB西野がファンブルして攻守交代。
 ここはDLの藤木、安田が素早い出足で相手を押し込み3&アウト。自陣27ヤードから再びファイターズの攻撃が始まる。ここはRB野々垣、橋本のランプレーで確実に陣地を稼ぎ、RB加藤が右オープンを駆け上がって残り8ヤード。橋本の中央突破と西野のドローキープでTD。K西岡のキックも決まって7−0。
 これで落ち着くかと思ったが、オフェンス陣の歯車はなかなかかみ合わない。いいパスが通ったと思えば、不要な反則があり、がら空きのレシーバーにパスが投じられたと思ったら、それをレシーバーが落とす。ようやく2Qの半ば、西野に代わって出場したQB伊豆から1年生WR阿部に44ヤードのTDパスがヒットし、西岡のキックも決まって14−0。残り1分少々で西岡が40ヤードのFGを決め、17−0で前半を折り返した。
 振り返ると、先発メンバーを揃えた守備陣こそ鋭い出足で相手オフェンスを完封したが、積極的に下級生を登用したオフェンスはどこかちぐはぐ。トントンとリズムに乗って攻め込むファイターズらしい攻撃がなかなかつながらず、逆にファンブルや反則で自ら墓穴を掘ってしまう。せっかく相手をパントに追い込みながら、リターナーは陣地を回復するためのチャレンジをためらう。
 そんな場面の繰り返してている内に、後半は相手が勢いに乗ってくる。ファイトの固まりのようなQBがぎりぎりまで粘ってパスを投げ、突破力のあるRBが真っ向から走ってくる。後半になってファイターズが投入した交代メンバーでは、それを止めきれず、何度もダウンを更新される。
 最終的には31−3でファイターズが勝ったが、後半の戦い振りは5分と5分。攻守ともラインの圧力とスピードでは、ファイターズに分があったが、相手にはそれを補って余りあるファイティング・スピリットがある。QBもRBもWRも「ファイト・ハード」。激しい気持ちで立ち向かってきているのが、スタンドからでもひしひしと感じられた。
 同じような場面は、この試合の前に行われた京大と甲南大の試合の後半にも見受けられた。その試合、第4Q半ばまでは京大が17−6でリードしていたが、甲南大は背番号12のQBが龍谷大のQBと同様、激しい闘志で相手守備陣を突破、急所で2本のTDパスを決めて20−17の逆転勝利を収めた。
 そのQBが試合終了後、人目もはばからず号泣しているのを見た。自分が試合をリードし「ファイト・ハード」で何度も危機を突破した結果としてつかんだ勝利。その実感を体が覚えているから、全身で号泣できたのだろう。何度も何度もファイターズの守備陣に跳ね返され、サックを浴びながら、一歩もひるまずに立ち向かってきた龍谷のQBやRBも同様だ。そのひたむきさに、ファイターズの交代メンバーが圧倒されたといってもよい。
 そういう現実を目の前に突きつけられて、冒頭の鳥内監督の「チームの力が4年前とは全然違う」「精神面のレベルの低さが出ている」という言葉になったのだろう。
 監督のいう4年前が、どの年代のことを指しているのかは確認していないが、僕にも思い当たることがある。RB松岡君が主将でDLに副将の長島君、DBにハードタックルが持ち味の香山君がいた年代である。彼らが最終学年の時、チームは3年連続で甲子園ボウルに出場できておらず、その年に勝てなければ、甲子園ボウルを経験しないまま卒業することを余儀なくされていた。
 それだけに、4年生はみな、春から殺気だった練習をしていた。練習中、相手に隙が見えれば激しく言い合い、時には互いに殴りかかる。絶対に立命を倒す、という気持ちが上ヶ原のグラウンドにほとぼしっていた。
 そういう闘志をむき出しにした練習を日々重ねてきた結果が立命戦での香山君のハードタックルである。突貫小僧のような相手のエースQBを一発で倒したタックルは偶然ではない。日々の練習から「ファイト・ハード」を体現してきたからこそ、ここぞというときに完璧なタイミングで、魂のこもったタックルができたのである。
 そういう練習をやろうではないか。立命に勝つ、というだけでなく、勝つために集中しようではないか。そのための「Fight Hard」であろう。
 幸いなことに「残りの数試合で変われるチャンスがある」(鳥内監督)。先発メンバーも交代メンバーも、試合に出る以上はファイターズの戦士である。ひたむきさやファイティングスピリットで、自分に負けているようでは話にならない。
 「松岡はいるか。香山はどこだ」。今こそファイターズの全員にそう問い掛けたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 11:48| Comment(3) | in 2016 season