2017年11月21日

(29)悔しさの総量

 悪い予感ほどよく当たる。関西リーグの優勝をかけた日曜日の立命戦がまさにそれだった。
 試合開始のはるか前に家を出発。開門待ちの列に並んでいる時から、その予感が芽生え、徐々に大きくなっていく。ただし、その正体はまだ分からない。
 スタンドに入り、いつも通りファイターズが開設するFM放送の放送席に着き、昼飯代わりにサンドイッチを食べる。やがて、放送機材の準備をしてくれるマネジャーの山本君と三浦さんが到着。用意してくれた立命の先発メンバー表を渡してくれる。それを見た瞬間、悪い予感の正体が分かった。
 相手のメンバー表には攻撃に7人、守備には10人の4年生が並んでいる。パンターまで含めれば、合計18人だ。
 つまり、昨シーズンの2度にわたるファイターズとの決戦で、2度とも敗れるという辛い経験をしたメンバーが4年生だけで18人、3年生も含めると22人もいるのだ。彼らが昨年、この万博陸上競技場で味わった屈辱と無念。それを胸に抱きしめてこの1年間、必死懸命に過ごしてきたメンバーがずらりと並んで雪辱の機会をうかがっているのである。
 対するファイターズの先発メンバー中、4年生は攻撃に5人、守備に4人。1昨年、立命に敗れた時の悔しい気持ちを実際に戦って知っている選手は、3年生を含めても10人前後しかいない。つまり、同じように攻守11人ずつのメンバーを揃えて戦っても、チームとしての悔しさの総量に、圧倒的な差があるのだ。
 もちろん、悔しさの総量によって勝敗が分かれるということはない。勝ったチームは自分たちの取り組みが勝利につながったと自信を深め、迷わずにそれまでの取り組みを深化させてくる。逆に、敗れたチームは、自分たちのやり方に迷いが生じ、それによって貴重な時間を無駄にすることもある。「悔しさの総量が勝敗を分ける」なんていう、非科学的な主張には何の根拠もない。僕が勝手に思っているだけだ。
 しかし、僕は知っている。1昨年の11月、長居のヤンマースタジアムで立命に30−27で敗れた後、その試合に出場していた当時3年生の山岸君や伊豆君、岡本君らがその後の1年間、どんな気持ちで練習に取り組み、日々どんな行動をとってきたかということを。大きなけがに悩まされながらも、必死に治療に務め、最後の立命戦に照準を合わせて戦列に戻ってきたディフェンスの松本君、小池君、松嶋君。オフェンスでも松井君、藏野君、そしてランニングバックの橋本君、野々垣君、加藤君らがけがで戦列を離れた。彼らがけがと戦い、苦労して戦列に戻り、最後の最後で最高のパフォーマンスを発揮してくれた背後には「2度とあんな悔しい思いをしたくない」「今度は絶対に勝つ。2度戦えというのなら2度とも勝つ」という強い気持ちがあったことは、彼らの行動が示している。
 例えば主将になった山岸君は、手首に故障を抱えながら、常にチーム練習の始まるはるか前から一人黙々とダミーを相手に練習を続けた。それも常に相手の切り札であるRB西村君やQB西山君の動きを想定し、いかに素早くスタートを切り、思い切ったヒットができるかだけを念頭に、延々と、納得いくまで練習し続けていた。その成果を昨年の2度にわたるライバルとの戦いで遺憾なく発揮して西村君のランを完封し、相手のファンブルを誘ったり、セーフティを奪ったりしたのは、いまも目に焼き付いている。
 伊豆君も同様だ。3年生の時、スタメンで出場しながらチームを勝利に導けなかった悔しさをバネに、レシーバー陣にパスを投げ続け、自らのパス力を向上させると同時に、レシーバー陣を鍛え続けた。今年活躍している4年生と3年生のレシーバーは、彼が育てたといっても過言ではなかろう。
 こうしたメンバーの取り組みと、それを支えてきたエネルギーの源を尋ねると、そこには純粋に「勝ちたい」という気持ちと同時に「去年の雪辱をする」「あの悔しさを2度と味わいたくない」という強い気持ちがあったことは、想像に難くない。
 昨年のシーズン終了後、山岸君とゆっくり話したとき、彼は「七斗をはね飛ばし、QBをサックしてセーフティーをとったときは、最高でした。気持ちよかった」と、心からの笑顔で語ってくれた。
 全力を尽くして勝利を求めるのがスポーツマンの本能である。悔しい思いは二度としたくない、というのもまた、その悔しさを体験した者だからいえることだろう。そう考えれば「悔しさの総量が、勝敗を分ける」という僕の言い分にも、多少の説得力があるのではないか。
 次なる立命との決戦では、ファイターズの方が「悔しさの総量」では上回るはずだ。もちろん、その前に名古屋大学との戦いに勝つことが求められるが、それはそれ、常に今回の雪辱を意識して次なる取り組みを進めてもらいたい。
 時間は限られている。前回の戦い方の反省は必要だが、敗れたことを後悔しているゆとりはない。ひたすら前を向き、この1年間に準備してきたことのすべてを発揮してほしい。チームの全員が悔しさをエネルギーにして取り組めば道は開ける。僕はそれを信じている。
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2017年11月14日

(28)「一番勝ちたい相手に勝て。」

 立命戦まであと5日。ファイターズのホームページには、その試合を告知するニュースが日々更新されている。14日は練習前にファイターズの記者会見があり、練習も一部公開された。それを伝える新聞各紙の記事などにざっと目を通しつつ、このコラムを書き始めている。
 記者会見での監督や選手の発言は、関学スポーツに詳しい。選手一人一人の発言も興味深いが、とりわけ鳥内監督の言葉が真に迫っている。詳しくは関学スポーツのホームページをみてもらうとして、僕には冒頭の「現状はガタガタ。スカウトメンバーが頑張って、それにやられている状況」という言葉に注目した。
 長年、ファイターズを指導されてきた監督の目は厳しい。常に「目の前の相手に、それで勝てるのか」という物差しで物事を判断される。自分では「今日はよくできた」と思ったり、仲間から「なかなかええやん」と言ってもらえたりしても、それはチーム内での物差し。相手チームのメンバーを一人一人思い浮かべ、グラウンドに立つ一人一人のメンバー全員が、誰一人欠けることなく相手に勝てるのか、本当に勝つための練習ができているのか、という物差しで計れば「現状はガタガタ」と見えるのだろう。
 週末ごとに練習を見せてもらっている僕の目から見ても、時には監督の懸念されるような状況が見えてくる。例えば、授業を終えてグラウンドに向かう選手の足取りや表情。毎年、決戦を控えたこの時期になると、1分でも早くグラウンドへ、と坂道を駆け上がって来る選手が増えるが、今年はどうか。そういう物差しで見ると、僕の胸中には、ときに弱気の虫が顔を出すのである。
 もちろん、チームのど真ん中にいて活動している選手、スタッフの気持ち、立ち位置は明確である。それはチームの練習が始まるはるか前から自発的に取り組んでいるメンバーの表情からもうかがえるし、それを支えるトレーナー、マネジャー、分析スタッフの行動からも見て取れる。なかでも、いま学生会館などに張り出されている立命戦の告知ポスターのコピーが心強い。
 「一番勝ちたい相手に勝て。」
 この一言である。武士に二言はない。一番勝ちたい相手に勝つしかないのである。
 聞けば、このコピーは2年生マネジャーの橋本典子さん(1年生の時から同期のマネジャー三浦麻美さん、安在海人君とともにチームを支えている「ナイス3人組」の一人である)が考え出し、それに周囲が賛同して採用されたそうだ。
 「一番勝ちたい相手に勝て」。この言葉に奮い立たなければ男ではない。チームを最優先にして活動している人間なら、全員がこの言葉、この気持ちを共有できるはずだ。この気持ちが共有できるなら、必死懸命に練習に取り組み、試合で最善を尽くすしかない。
 もう20年以上前のことになるが、京大が恐ろしいほど強かった時代に、朝日新聞の記者として水野弥一監督を取材したことがある。そのときの言葉の断片がいまも記憶に残っている。
 「全力を尽くします、というだけなら誰でもできる。僕は一升の水しか入らない瓶に1升2合の水を入れろ。それができてこそ全力を尽くしたことになる。僕は選手に、いつもそう求めています」
 細かいニュアンスは忘れたが、要旨はそういうことだった。
 「一番勝ちたい相手に勝て」。2年生のマネジャーが考え出した試合告知ポスターのコピーにも、それに通じる迫力がある。
 この言葉を裏切ってはならない。水野さんの言葉を借りるなら、1升瓶に1升2合の水を入れるべく必死にもがきつづけるしかないのである。
 ファイターズとは、そういう強い意志を持って戦う人間の集団である。そのことを全員が胸に刻み、決戦に挑んでもらいたい。健闘を祈る。
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2017年11月08日

(27)激闘

 長い間フットボールを見てきたが、先週末の関大戦では、生まれて初めて出合った驚愕のプレーを生で見る感動を味わった。
 それは第2Qの終了間際、相手のキッカーがフィールドゴール(FG)を狙って蹴ったボールをゴールライン内でキャッチし、グラウンドの左を突き、右サイドに切り返して、そのまま自陣ゴールまで100ヤードを走り切ってTDに持ち込んだDB小椋のプレーである。
 あらかじめFGが外れることを予期してゴールポスト近くに彼だけを配置したベンチの作戦もすごいと思ったし、予測通りにゴールから外れたボールをキャッチした小椋が走れるように、執拗に相手守備陣をブロックし続けたキッキングチームもすごかった。そして何よりも素晴らしかったのが、ファイターズでも1、2を競うアスリート小椋。FGを狙ったボールが外れると、ゴールポストのすぐ右側でキャッチ。一度左に展開し、走路が詰まっていると見た瞬間、右サイドに切り返し、トップスピードに乗ってからは、一気にライン際を駆け上がった。
 とっさの判断力とそれを支える身体能力。さらには、相手守備陣を翻弄した強力なブロッカー陣。双方が完璧にフォローしあって、世にも珍しいFGリターンTDが完成した。
 試合後、どの記者よりも早く小椋君に近付き「あんなプレー、最初から想定していたの」と聞くと、「いやー、とてもそこまでは。でも、一度左を突いて、即座に右に切り返す場面は、カレッジフットボールのビデオでもたまに見掛けるので、チャンスがあったらやってみたいと思っていました」という答えが返ってきた。
 でも、表情からは「してやったり」というオーラが全開。普段から気合いを入れて取り組んできた成果だと僕は受け止めた。
 そういえば、この場面が目の前に現れた直後のハーフタイムのことである。この日、競技場内のFM放送を担当されていた小野ディレクターから「鳥内監督から常々、フィールドゴールからのリターンは、狙ってみる価値があると聞かされてきた」「FGを狙う場面では通常、キッカーを守るために強力なラインのメンバーを揃える。体はデカイが走るのが苦手な選手が多いということだ。最初にぶつかる走力のあるメンバーを交わしてしまえば、きっと独走のチャンスが来るという理屈だ」という話を聞いた。
 その話を聞いて「なるほど、そういう仕組みか。これはぜひとも、小椋君に取材しなければ」と思ったのである。
 さて、試合に戻ろう。
 先週の日曜日は、関西大学との決戦。両チームの対戦は毎年、その年の戦力とは関係なく、ライバル意識をむき出しにした激しい戦いになる。関大が3勝2敗、ファイターズが5連勝で迎えた今年も、期待に違わず、一進一退の厳しい戦いになった。
 ファイターズのレシーブで試合開始。最初の攻防は両チームともに決め手がなく、2度目の攻撃シリーズは自陣40ヤードから。まずはRB高松が8ヤード、山口が10ヤードを走って相手陣に入り、次はQB西野がWR亀山に10ヤードのパス。残り32ヤードから西野が相手ゴールにパスを投げ込んだ。これを長身WR松井が見事にキャッチ、K小川のキックも決まってファイターズが7−0とリードする。
 関大も負けてはいない。すぐさま反撃に転じ、ファイターズ守備陣の手痛い反則もあって、わずか7プレーで同点に追いつく。予想はしていたが、難しい試合になりそうだ。
 案の定、双方とも守備陣が健闘して、しばらくはセンターラインを挟んでの力比べが続く。ようやく第2Qの後半、突破口を開いたのはファイターズ。自陣46ヤード付近から始まった攻撃を西野から松井へのパス、高松の18ヤードラン、西野のドロープレーで一気に空いてゴールに迫り、仕上げは高松がゴールに走り込んでTD。再びリードを奪う。しかし、TD後の1点を狙ったキックが蹴れず、ここは6点止まり。TD1本で逆転の可能性を残してしまった。
 思わぬ展開に動揺するファイターズ守備陣。その隙をついて関大が反撃。2Q終了直前、47ヤードのFGを狙う。相手キッカーが蹴ったボールは見事にバーを越え、ゴール成功、と思った瞬間、関大側に反則のフラッグ。10ヤードの罰退がコールされる。あえて57ヤードのFGに賭けるか、それとも一発逆転を狙って起死回生のプレーを選択するか。
 高い能力を持つキッカーを有する関大サイドが選んだのは、再びのFGチャレンジ。渾身の気合いを込めて蹴ったところで、冒頭の場面につながる。
 ともあれ、相手が最初のFGで反則を犯していなかったら、前半は13−10。ファイターズ3点リードで終わるところだったが、2度目のFGは失敗し、逆にファイターズがキックリターンTDと2ポイントのプレーを決めたことで一気に21−7と差が開いた。
 迎えた第3Q。関大最初の攻撃シリーズはFGによる3点。その直後、ファイターズの攻撃は、相手キックがタッチバックとなり、自陣25ヤードから。最初のランプレーこそ進まなかったが、第2プレーで西野からのパスを松井がキャッチして19ヤードを前進。次はRB山口がドロープレーから相手守備陣を抜き、44ヤードを独走。ランプレーを挟んで西野のQBドロー。WR前田泰のブロックも決まって余裕のTD。小川のキックも成功して18点差をつける。
 しかし、関大の闘志も衰えない。ファイターズ守備陣の反則にもつけ込んで一気に陣地を挽回。第4Q開始早々にTDを返して追い上げる。
 相手が勢い付いてくれば、ファイターズの攻撃陣も奮起する。今度は自陣27ヤードからQB光藤がドロープレーで守備の第一列を突破、巧妙にブロッカーを使って63ヤードを独走する。残る10ヤードを山口が突破してTD。わずか3プレーで再び18点差。一息ついたと思ったが、即座に関大も反撃。あわやTDかと思わせるようなリターンで陣地を進め、即座にFGを決めて再び追い上げる。
 やっかいなことになってきた。オンサイドキックを決めて攻撃権をとられると、たちまち守勢に回ると心配していたら、案の定、相手も短いキックを仕掛けてくる。ここは、前田泰が冷静にキャッチして、ファイターズはセンターライン付近からの攻撃。
 まずは高松が13ヤードを走り、次は光藤から松井へTDを狙った長いパス。相手DBがたまらずインターフェア。残り22ヤードから山口が中央を突破し、あわやTDというところまで走り切る。残る数インチを高松が走り込んでTD。点差を22点に広げる。この辺り、攻める方は両チームとも完全に「ゾーンに入った」状態。互いに一歩も譲らず、トップレベルの個人技で点を奪い合う状態である。
 その証拠が次の関大の攻撃。小川がゴールラインまで蹴り込んだキックを捕った相手リターナーが、今度は一気に100ヤードを走り切ってリターンTD。再び14点差となって、勝負の行方は混沌としてくる。
 これを断ち切ったのが、ファイターズのディフェンス。残り時間約3分、ファイターズゴール前7ヤードという場面で、DB吉野が起死回生のインターセプト。一気に46ヤードをリターンしてようやく激戦に決着をつけた。
 それにしても12分計時の試合、それも優勝の行方を左右する試合で、双方ともに100ヤードのリターンタッチダウンを決めるなんて、劇画でも想像できないような派手な展開である。一つ一つのTDのシーンを見ても、双方が練りに練ったプレーを選択し、それに選手がきっちり応えて互いに点を奪い合う。互いのベンチが強力な決め手を持った選手を惜しみなく投入し、その期待にそれぞれの選手が応えてくれたからだろう。
 ファイターズの攻撃でいえば、強力な突破力を持つRBの山口、スピードに乗ってキレキレの走りをする高松。それを支えたOL陣とTEの三木。高いパス捕球能力とブロック力を兼ね揃えたレシーバー陣。前半は西野、後半は光藤が出場し、それぞれに見せ場を作ったQB陣。守備でいえば柴田、藤木、寺岡、三笠が先発したDL、残念な反則が二つもあったが、それを引きずることなく踏ん張った松本、海崎らのLB陣。そして終始、守備のリーダーとして活躍したDB小椋。最後の最後で男を上げたDB吉野……。
 そうした選手が攻守ともに強力な決め手を持つ関大を相手に存分に力を発揮したことは心強い。次節、立命館との決戦に向けて、彼らに続く選手が一人でも多く出て欲しい。期待し、注目して待っている。
posted by コラム「スタンドから」 at 10:22| Comment(1) | in 2017 Season

2017年10月29日

(26)練習の質と量

 平日、ファイターズの練習は、原則として午後5時半からスタートする。4時限(午後3時10分〜4時40分)の授業を受けた部員が練習着に着替え、テーピングなどを施し、入念な準備運動を終えて、万全の態勢でスタートできるように、授業終了から50分のゆとりを持たせているのである。
 もちろん、上級生を中心に単位の取得の進んだメンバーは、授業が3時限(午後1時半〜3時)で終わることが多い(というか、3時限目までに終了する授業を計画的に履修している)。そういうメンバーは午後4時にはグラウンドに降りて、それぞれがダミーにぶつかったり、軽くダッシュを繰り返したりしながら、練習相手の準備が整うのを待っている。
 その中で、いつもグラウンドの中央に広い場所をとって練習しているグループがいる。上級生のWR、TEとQBである。4時になると順次グラウンド中央に集まり、準備のできた選手から順にパスの練習に入っていく。時にはボールの感覚を養うためにRBやDBも参加し、やがて下級生も加わって、パスに特化した練習が本格的に始まる。
 QBは高いパス、低いパス、ターンボールなどを右に左に投げ分け、レシーバーは猛スピードでそれを追いかける。驚くのは、上級生が先発、控えに関係なく、まったくといっていいほどボールを落とさないこと。明らかな投げミスは別だが、不用意な落球はほとんどない。
 もちろん、不用意にボールを落とす選手もいる。しかしそれは、けがから復帰したばかりでキャッチする時の感覚が戻りきっていない選手や授業の関係でこの練習に参加する機会が少なく、練習量が絶対的に足りていない1、2年生に限られている。
 ファイターズのレシーバー陣には学生界でも屈指のメンバーが揃っている。長身の亀山、松井。ここ一番で便りになる前田泰、4年生になって急激に力を付けてきた前田耕、中原、安在。3年生には伸び盛りの小田や長谷川もいる。投げる方にも4年生には強肩の百田、3年生の光藤、西野はパスもランも状況判断も一級品だ。
 これにタイトエンドやRBが加わって延々とパスを投げ、受ける練習を続ける。それも、ただ練習前に体を温めるというレベルではなく、この一球で試合を決めてやる、という覚悟での練習である。
 受ける方も投げる方も関西リーグでもトップクラスのメンバーが、より高いレベルを求めて取り組むから、練習自体の質が高い。日々、そうした環境で競争しているから、レシーバーのパスを捕球する能力はより磨かれ、投げる側のパスの精度も上がってくる。
 10年ほど前にも、QB三原君を中心にWRの榊原、秋山、萬代君らが練習開始の2時間ほど前から似たような練習をやっていた。そのときは、1球の捕球ミスがあればそのレシーバーが、投球ミスがあればQBが自発的に10回の腕立て伏せを自らに課し、互いに高め合っていた。その結果が4年間遠ざかっていた甲子園ボウルに勝ち、ライスボウルでの「史上最高のパスゲーム」につながったことは記憶に新しい。
 当時の練習法を引き継いだようにも見えるが、当時とは決定的に異なることがある。それは、まだ試合に出るだけの能力が磨かれていない下級生の多くが、時間の都合さえつけばこの練習に参加していることである。下級生にとっては、手の届かないほどに思える質の高い練習だが、いつでもその練習に加わり、そこで先輩たちをお手本にして学ぶことができる点が、4年生が中心だった10年前との違いである。学ぶは真似ぶ。つまり、学習は模倣から始まる。いわば、教育の起源のような練習が上ヶ原の第3フィールドで日々展開されているのである。
 しかし、WRに限らず、下級生の多くは4時限、5時限にも授業を抱えている。この時間帯には厳しく出席をチェックされる語学の授業も多いので、なかなかチーム練習前のパート練習に参加する時間的な余裕がない。その結果、せっかくグラウンドで質の高い練習が繰り広げられているのに、下級生の多くはそれを間近で体験する機会が限られてしまうのである。まことに残念なことである。
 前回のコラムで、僕は「交代メンバー頑張れ!」と、いまは控えに回っているか下級生に奮起を促した。しかし、そんな声をかけたところで、肝心の練習時間が確保出来ないのでは、日々練習を重ねている上級生との差は開くばかりである。なんとか下級生にも練習の時間を確保できるように、知恵をしぼり、工夫を凝らすことはできないものか。
 先年、プリンストン大学と交流試合をしたときのシンポジウムで、同大学で課外教育に責任を持つアリソン・リッチ・学生生活部体育局副局長が講演し、同大が学生に対して課外カリキュラムに取り組むよう強く推奨していること、90%の学生が体育会や文化・芸術のクラブ活動を体験して卒業すること等を説明した中に、同大が午後4時半から7時半までは授業を組まずに課外活動の時間として設定している、ということが含まれていた。学生に課外活動への参加の機会を保障することが目的である。これは、逆に活動時間を限定するという側面もあるが、私にはとても印象に残った。
 (講演内容は以下のURLにあります)
 https://gap.kwansei.ac.jp/activity/2015/attached/0000077155.pdf
 この点に関して、本来、大学が考えられることであり、僕のような部外者があれこれ提案することではない
と理解している。いまは、有能な上級生から下級生が学べる機会をなんとかして作って欲しいとお願いするだけにしておこう。
posted by コラム「スタンドから」 at 07:11| Comment(1) | in 2017 Season

2017年10月23日

(25)台風の中の試合

 22日、龍谷大学との試合は台風の中でのキックオフ。しかし僕は、王子スタジアムでの応援はかなわなかった。
 当日は衆議院選挙の投開票日であり、同時に超大型の台風21号が強い勢力を保ったまま紀伊半島付近に近づいてくるという。紀伊半島といえば、僕が働いている田辺市はその中心地。周辺には大雨のたびに大きな被害の出る地域がいくつもある。高速道路が通行止めになり、電車が運転を見合わせることもたびたびだ。6年前には紀伊半島大水害に見舞われ、山林の崩壊事故があちこちで発生し、大きな被害が出た地域でもある。
 こういう事態に再び見舞われる懸念があり、同時に選挙の開票結果を入れる紙面も製作しなければならない。編集の責任者としては、ゆっくりフットボールを観戦し、贔屓のファイターズを応援している場合ではないのである。
 この十数年、少なくとも関西で行われるファイターズの試合はあらゆる日程に優先させして欠かさず観戦し、応援してきた僕でも、さすがに今度ばかりは勤務地を離れる訳にはいかない。泣く泣く観戦をあきらめ、rtvの画面と、ファイターズのスタッフによるツイッタ−の速報で我慢するしかなかった。
 以下は、試合時間中の仕事を放棄し、パソコンの画面にかじりついていた僕の観戦記である。臨場感のないのはご容赦願いたい。
 降りしきる雨の中、ファイターズのレシーブで試合開始。この日の先発QBは今季初めて光藤が務める。先週末の練習ではパスとランを織り交ぜたプレーをテンポよく繰り広げ、素人目にも状態が上がってきたことが見て取れた。それを試合で思い通りに発揮できるかどうかに注目していたが、昼間から照明灯に灯を入れなければならないほどの豪雨では、パスプレーを選択することは無謀である。
 それは相手も十分に承知している。当然、ランプレーが予測される中で、相手の守備をどう突破して行くか。そこに注目していたが、ふたを開けて見ると、話は簡単だった。
 どういうことか。
 結論からいえば、能力の高いRB陣を100%の条件で走らせるだけのことだった。ただし、そこにはファイターズならではの仕掛けがあった。例えば、本当のキャリアを相手守備陣から隠すためにドロープレーを多用し、タイミングを変化させながら守備陣の隙間をつく。ボールを手渡す際には、必ずといってよいほど巧妙なフェイクを入れる。時にはボールを手渡したふりをして相手守備陣をRBに引き寄せ、開いた隙間をQBが走る。そんな工夫を随所にちりばめて、陣地を進めて行く。
 試合開始直後、RB山口がドロープレーで約50ヤードを独走して相手ゴールに迫る。勢いに乗ってRB高松が残る10ヤードを走り切ってTD。K小川がキックを決めて7−0と先制する。
 自陣34ヤードから始まった次の攻撃シリーズも、山口と高松が交互にボールを運ぶ。時には光藤のキーププレーで相手守備陣の注意をそらす。2度もフォルススタートの反則があったが、委細構わず陣地を進め、仕上げは山口が14ヤードを駆け抜けてTD。14−0とリードして主導権を握る。
 しかし、荒天下の試合では何が起きるか予測もつかない。足元は一帯が水たまりのようになっているし、風が強いからキックのコントロールも難しい。何よりセンターからスナップされたボールが揺れるからファンブルが怖い。パスをしたくても雨で視界が遮られるから投げる方も捕る方も難しい。
 こんな制約があっては、ファイターズが誇る強力なWR陣も腕の見せ場がない。しかし、役割はある。ブロッカーとなって相手守備陣の足を止め、RB陣に走路を開く。時にはRBの役割も果たす。第1Qの終盤に回ってきたファイターズ3度目の攻撃シリーズでは、WR前田耕がその役割を見事に演じた。
 自陣28ヤードから始まったこのシリーズ。第2Qに入っても、山口、高松、光藤が代わる代わるボールを持って陣地を進める。相手守備陣の目が中央に向いたその隙を突くように前田耕がジェットモーションからボールを受け取り、一気に左オープンをまくり上げる。そのまま30ヤードを駆け抜けてTD。
 さらに相手がパントを失敗し、相手ゴール前30ヤードから始まった4回目の攻撃シリーズも高松、山口、中村のRB陣が交代でボールを運び、高松のこの日2本目のTDで仕上げる。気がつけば、攻撃陣はここまで4度の攻撃シリーズをすべてTDに結び付けている。強い雨と風にもひるまず、相手の目を前後左右に振り回し、緩急を付けて攻め続けた戦法が功を奏したのだろう。
 攻撃陣の影に隠れてしまう形になったが、守備陣の活躍も見事だった。副将藤木が戻ってより強力になった1列目、同じく副将松本を中心とした2列目、チーム切ってのアスリート小椋が率いる3列目。それぞれが持ち味を出して相手に付け入る隙を与えなかった。
 しかし、課題も浮き彫りになった。先発で出場したメンバーと後半になって次々に登用された控えのメンバーとの力の差が埋まっていないことである。この日のように、グラウンド条件の悪い日は、その差が余計に明確になる。高い能力を持つ選手は、少々グラウンドの条件が悪くても力を発揮できるが、試合経験のない選手はそうはいかない。雨や風が気になって力が発揮できないのだ。
 それをどう解決するか。チームとしても対策を考えているだろうが、結局はそれぞれの選手の努力にかかっている。一人一人が自らの足りない点を自覚し、目的を持った練習を積むしかない。いま、先発メンバーに名を連ねている選手はみな、そうして自らを追い込み、鍛え上げてきたのである。
 次戦には関大、その次には立命との試合が迫っている。能力の高い交代メンバーは多ければ多いほどありがたい。チームとしての選択肢が広がるし、攻撃の幅も広がる。守備でも主力選手を随時交代させながら登用していけば、特定の選手に疲れもたまらず、常に最高のパフォーマンスが期待できる。もちろん、下級生が厳しい試合で経験を積めば、来期以降の備えにもなる。
 「ローマは一日にしてならず」。いまは控えのメンバーに甘んじている諸君の奮起を期待したい。
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2017年10月10日

(24)目頭が熱くなった

 関西リーグ4試合目。甲南大学との戦いは日曜日の午前11時半、キックオフ。今季初めての昼間の試合となった。開始直後は雲に覆われ、まだ涼しさを感じるゆとりがあった。けれども徐々に晴れ間が広がり、気がつけば真夏のような太陽が照りつけている。とても10月半ばとは思えないほどの陽気となったから、スタンドでさえバテてしまった。グラウンドで走り回る選手は大変だったろう。
 ファイターズが後半にレシーブを選択し、試合はディフェンスから始まる。その立ち上がり、甲南はランと短いパスを組合わせた攻撃で立て続けにダウンを更新。自陣23ヤードからハーフライン近くまで陣地を進める。これはやっかいなことになりそうかな、と思っている内に相手が反則。攻撃のリズムを自ら崩してしまう。
 替わってファイターズの攻撃は自陣10ヤード付近から。その第1プレーはQB西野からWR松井へのロングパス。それを見事にキャッチしてたちまち相手陣45ヤードまで迫る。こうなるとプレー選択の幅が広がる。WR中原への短いパスを決めると次はRB山口が15ヤードを走ってダウン更新。続く攻撃ではRB高松が3ヤードを走った次のプレーは再び松井への15ヤードのパス。残る8ヤードをスピードとパワーに優れた山口が走り切ってあっという間に2本目のTD。K小川のキックも決まって7−0とリードする。
 この間、ファイターズベンチはパス、パス、ラン、ショベルパス、ラン、パス、ランと組み立て、たたみかけるように攻め込む。相手守備陣は立ち止まって考えるゆとりがなく、ファイターズペースで試合が進む。相手陣42ヤードから始まった次のシリーズではTE対馬へのミドルパスと高松の18ヤードランで2本目のTD。キックも決め、相手守備陣を寄せ付けない。
 すごみを感じさせたのは、第2Qに入って最初のファイターズの攻撃。相手陣39ヤードから西野から前田耕作へのパスで9ヤード、西野のQBドローでダウンを更新すると、次は山口と高松のランで30ヤードまで前進する。相手守備陣にランを警戒させたうえで、次は西野が豪快にゴール右隅に投げ込む。これをスピードのある長身レシーバー松井が見事にキャッチし、TD。相手DBもよくカバーしていたが、松井の力と技が勝った。
 2Q終了間際には、西野から前田泰一へ短いパスを続けてゴール前に迫り、時間切れ寸前に小川がフィールドゴールを決めて24−0。
 ここまでは力強いファイターズ。攻撃も守備も要所で力を発揮し、完全にペースを握って相手に付け入る隙を与えない。さすがは優勝を争うチームならではの強さと安定感がある。日ごろの上ヶ原での練習に取り組む姿と合わせ、今季も順調に仕上がってきたと一安心した。
 ところが、後半に入り、攻守ともに1枚目のメンバーを少しづつ外し、交代メンバーを出してくると、様相は一変する。第3Q最初の攻撃シリーズこそ、QB光藤からTE荒木、WR長谷川へのパス、RB中村のランなど3年生中心の攻撃が機能し、相手ゴールに迫ったが、ハンドオフのミスなどがあって、結局は小川のFGで3点を挙げただけ。続くシリーズも、QB光藤が盛んにパスを投げたが、レシーバーとの呼吸が合わずに攻撃が続かない。
 ディフェンスも同様で、甲南の素早いパスと切れのよいランが止められない。じりじりと陣地を進められ、第3Q終了間際にはTDも許してしまった。
 上ヶ原のグラウンドでは、チームの練習が始まる前の恒例となっているQBとWRの自主練習で、先発メンバーや主な交代メンバー相手に快調にパスを決め続けている光藤の姿を見ているだけに「どういうことか、2枚目、3枚目相手ではタイミングが合わないのか」と心配になる。試合後、鳥内監督や大村コーチにこの点を確かめると、ともに「その通り。下級生は練習が足らん。授業があるから仕方がないが、この試合、この一球に対する思いも足りてない」「技術的にも大学のレベルには到達していない。ボールを見た瞬間にスピードを落とす悪い癖がついているから、一枚目相手なら通るパスが通らない」と厳しい言葉が並ぶ。
 レシーバーは華やかなポジションだから、ミスをすれば目立つ。しかし、ほかのポジションでも目立たない所で未熟なところが目についた。これを「2番手、3番手のメンバーだから仕方がない」といっていては、いつまで経っても成長は望めない。4年生が中心になって、普段から足りないところを注意していくしかない。
 立命館に敗れた2年前の悔しさを胸に抱き、ライスボウルで社会人の高いレベルを知って練習に励んでる上級生は何人もいる。そうしたメンバーが「チームに所属していれば立命に勝てる」「甲子園ボウルでも勝てる」と勘違いしている下級生の意識をどう変えていくか。ポイントはそこであり、そこを教訓にしてこそこの試合の収穫もある。
 その意味で、僕は第4Qの終盤、4年生LB鳥内のインターセプトで掴んだ相手陣42ヤード付近からの攻撃シリーズを注目した。普段の試合では、ほとんどベンチを温めている4年生が続々と登場したからである。いわば「卒業シリーズ」とでもいうような場面であり、QBには百田、RBには久保田が出ていた。
 第1プレーは期待通り百田から久保田へのハンドオフ。そこで久保田が見事なカットバックで約20ヤードを走る。続くプレーも同様、久保田のラン。残る3ヤードを百田から3年生長谷川へのパスでTD。わずか3プレーでTDにつなげたこと以上に、僕はいきなり起用された久保田が2度の出場機会を2度とも素晴らしい走りで締めくくってくれたことがうれしかった。目頭が熱くなった。
 彼は龍野高校の出身。身長167センチ、体重73キロ。高校時代はサッカーをやっており、フットボールは未経験だ。しかし、こつこつと練習を積み、選手として4年間をこのチームで過ごした。でも、試合に出してもらえることはほとんどなく、3年生の頃は主としてフレッシュマンの指導を担当、4年生になってからはLBやDBのメンバー相手に「仮想ランナー」の役割を務めていた。小柄で当たりの強さはないが、カットバックに優れているから、LBやDBを振り回す役割が適任と期待されたのだろう。
 チーム練習が始まる1時間も2時間も前から、彼は手の空いたLB、DBのメンバーの相手にそうした練習を続けている。時には早めに出てきた下級生RBをその練習に加え、RBにカットの切り方、走り方の指導も同時に務めている。
 けれども、1枚目、2枚目のRBには高松や山口がいる。下級生には伸び盛りの渡辺や鈴木、三宅らがいる。なかなか試合に出るチャンスはない。実際、チームタイムが始まっても、彼が攻撃メンバーとして参加しているのを見たことがない。
 そういう選手が、いわゆる「4年生シリーズ」で出場の機会を得た。そして2度の機会でともに20ヤードほどを獲得した。合計獲得ヤードは39ヤード。この日出場したファイターズのランニングバックでは一番の記録だった。彼の日ごろの役割、チームへの貢献振りを見てきた人間の一人として、目頭が熱くなったのも当然だろう。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:03| Comment(1) | in 2017 Season

2017年09月24日

(23)闘争心

 9月22日の京大戦を前に、主務の三木大己君がこのホームページ「主務ブログ」に「裏付けのある闘争心を持って目の前の1プレーに全力をぶつける」と書いていた。「気合いだ!」「闘争心だ!」と叫ぶだけでなく、どのように相手とぶつかるか、どのようにすれば目の前の相手を吹っ飛ばし、プレーを進めることができるか。その一つ一つに裏付けを持て、その裏付けを練習で確固たるものにせよ。そうすれば、試合では無心に戦うことができる。どんなに強い相手でも、怖れず臆せずぶつかっていける。そういう意味だろう。
 さすがは4年生、これでこそチームのリーダーだと感心し、よしっ、その心意気を存分に見せてもらおうと期待して、3時限目の授業が終わると同時に、雨の西京極スタジアムに足を運んだ。
 期待は裏切られなかった。立ち上がりからファイターズの守備陣が健闘。最初のシリーズはDL三笠、LB海崎の激しいタックルで相手攻撃を完封。簡単にパントに追いやる。
 攻撃陣も呼応する。相手の闘争心をいなすようにQB西野からWR前田へのパス、RB山口のランで陣地を進める。時にはRB鈴木へのパスで目先を変え、相手が混乱する隙にWR松井へのパスを通し、あっという間に相手陣34ヤード。
 ところが、ここからがいただけない。第1ダウンでゴールめがけて長いパスを投じたが、レシーバーが一人もいない。気を取り直して、今度はドロープレーで12ヤード前進したが、ここは反則で逆に5ヤードの罰退。あげくにスナップが乱れ、せっかくの先制点のチャンスを自ら放棄してしまう形になった。
 さらにファイターズのミスは続く。次の京大の攻撃シリーズを守備陣が完封し、第4ダウン4ヤード。パントの状況に持ち込んだのに、なんとファイターズは12人がプレーに参加してしまい、みすみす相手の攻撃を続けさせてしまう。
 ヤバイ、浮き足立っている。「闘争心」を強調する余り、「平常心」が失われてしまったのか。何とか落ち着いてくれ。そんな気持ちが通じたのか、DL三笠と今井が鋭い動きでQBを追い詰め、陣地を後退させて、ファイターズに流れを取り戻す。
 ここで今度は京大にお返しのようなミスが出る。パントを蹴る態勢でスナップされたボールがパンターのはるか上を越え、自陣のゴール前6ヤードまで転がってしまったのだ。気持ちがはやるあまりの出来事だろう。闘争心が裏目に出たということかもしれない。そういえば、ファイターズの最初の攻撃でも、京大の守備陣は意気込みが空回りした形でオフサイドの反則を犯している。これもまた、闘争心の制御に失敗したということだろう。
 ともかくチャンスである。ファイターズの攻撃は相手ゴール前6ヤードから。この好機にRB高松が鮮やかなステップでゴールまで切れ込みTD。K小川のキックも決まって7−0。ようやくファイターズの攻撃陣も落ち着きを取り戻す。
 こうなると、守備陣の安定しているファイターズは力が出る。相手がワイルドキャットの態勢から仕掛けてきたランプレーをDB小椋が強烈なタックルで仕留め、続くパスもDB畑中がはたき落とす。
 次のファイターズの攻撃は自陣8ヤードから。相手の長いパントでゴール前に追い込まれたが、ここで西野のビッグプレーが出る。RBに渡すと見せかけたボールをそのままキープ。一気に82ヤードを走ったのだ。
 この場面、ファイターズはゴールを背に2度のランプレーを選択したが、ともに進まない。もし、パントに追いやられるとしても、もう少しいい位置から蹴らしたい、という状況である。相手守備陣だけでなくぼくも中央のランプレーを予測していた。実際、3度目のプレーでも、西野の動きはその前の2回と同様、RBにボールを渡すように見えた。ところがこれが見事なフェイク。中央を固めた相手守備陣はそのフェイクにひっかかり、思わず西野へのマークが甘くなる。その隙を突いて西野が快足を飛ばし、一気に82ヤードを突っ走った。
 場内の興奮が頂点に達したところで次のプレーはRB山口へのハンドオフ。先ほどのプレーの残像が残っている京大守備はRBの動きに対応できず、簡単に中央を突破してTD。14−0とリードを広げる。
 次のファイターズの攻撃シリーズは、一転してパスが中心。松井、前田耕、阿部らのWR陣を次々と走らせ、あっという間にゴール前28ヤード。そこから高松が2度続けてボールを持ってTD。21−0とリードを広げる。
 激戦が予測された伝統の一戦だったが、ここまで点差が広がると、リードしている方は落ち着いてプレーできる。逆に、追い上げる方はどうしても無理が出る。そうなると、余裕のあるチームの方が実力を発揮できる。
 とりわけファイターズのような守備陣が安定しているチームは隙を見せない。1列目には柴田、寺岡、今井、三笠を並べ、2列目は松本、海崎、吉野、そして3列目には絶対的な守護神小椋を中心に木村、横澤、畑中が並ぶ。この日は、それぞれが鋭い出足とタックルで見せ場をつくった。インターセプトこそなかったが、ファンブルカバーで相手ボールも奪い取った。終わって見れば、京大がラン攻撃で得た陣地はわずか1ヤード。守備陣の活躍振りはいくら書いても書ききれないほどである。
 僕はこの日、2、3時限に授業があり、昼飯を正門前のスパゲティーの店で食べた。たまたま同じ店で昼食をしていた副将の松本君と小椋君に出合い、「体調は大丈夫か。頑張れよ。授業が終わり次第、飛んでいくから」と声を掛けた。
 「思いっきりやります」と口を揃えた彼らが目を見張るプレーを連発してくれた。攻撃陣の華やかな活躍の前で、ついつい見過ごされがちな守備の面々が存分に活躍してくれたことが、僕にはことのほかうれしかった。
 次の試合の前には、攻撃の面々と食事をしようか。再びいいことがあるかもしれない。
posted by コラム「スタンドから」 at 17:51| Comment(2) | in 2017 Season

2017年09月19日

(22)ファイターズの文化

 僕には一つの願望がある。ファイターズが歴代、懸命に築き上げてきた課外活動の取り組みが近い将来、大学・高校の課外教育にとって一つの模範となり、それがいつの日か標準的なモデルとなる日をこの目で見たいということである。
 なんと大げさな話、と思われるかもしれない。それはどういう意味かと問い返されるかもしれない。このチームの本当の姿をご存じない方なら、何を勝手なことをと叱られるかもしれない。
 けれども、2006年の5月からスタートし、毎年毎年、何とかの一つ覚えのようにファイターズというチームの素晴らしさについてさまざまな場面を描きながら書き続けてきたこのコラムの読者なら、僕の言いたいことは、ある程度は想像がつくと思う。
 試しに、この2、3年の新聞を繰ってみればよい。大学・高校の課外活動の在り方に関係して、さまざまな記事が出ている。指導者の暴力、上級生によるしごきやいじめ事案は日常茶飯事だし、熱中症や落雷による死亡事故の記事も少なくない。柔道の授業中に重篤なけがを負ったり、命を落としたりして司法の場に争いが持ち込まれることもたびたびであり、その多くで学校側の責任が認定されている。
 先週の朝日新聞にも、日本学生野球協会が高校野球チームの部長や監督、コーチら18人について、部内暴力や不適切な指導などを理由に1年から1カ月の謹慎処分にしたとの記事が掲載されていた。これは、年間の人数ではなく、今回の審査会で審議した案件だけであり、年間を通して見れば、驚くほどの数字が出てくる。僕は以前、日本高野連の常任理事をしていたことがあり、その一端はある程度は承知しているが、謹慎や対外試合禁止には至らない事案まで合わせれば、その数は驚くほど多い。
 もちろん、日本高野連が指導者の不祥事に厳しく対処し、悪質な事案については積極的に公表していること、活動しているチームが全国で約4千校もあることなどから、ある程度の数字が上がってくるのはやむを得ないという見方もある。けれども、この数字を虚心に見れば、部活動の現場で暴力事案が横行していること、それが何年経っても改善されないことが伝わってくる。
 たまたま手元にこの記事があったので、高校野球を例に挙げたが、バスケットボール部や柔道部などでも近年、新聞紙上で大々的に取り上げられた事案はいくつもある。高校に限らず大学の部活動でも、似たようなというか、より悪質な例は少なくない。
 ところが一方で、そうした部長や監督、つまりは学校の教員たちを「熱心な指導者」として崇拝する保護者や関係者がいるから話は難しい。本来は課外活動は学校教育の大きな部分であるにも関わらず、そうした保護者や関係者に支えられて、いつまでも暴力的な指導、脅迫的な指導を「熱心な」と勘違いし続け、部活動の場をある種の「治外法権」の場にしている学校も少なくない。
 そうした場所での活動が、本来は楽しさや喜びにあふれているはずのスポーツの素晴らしさを子どもたちから奪ってしまうというのだから、ことは深刻である。
 こうした現状を改革するために、どんな手を打てばいいのか、と考え続けた結果が僕の夢見ている「ファイターズの課外活動、課外教育」を日本の高校・大学における「課外活動、課外教育」のモデル、スタンダードにするということである。
 勝利に向かって、組織に属するすべての人間が努力する。それを暴力で強制するようなことは一切しない。上級生は下級生を自分たちの目標達成を助けてくれる仲間として迎え入れ、下級生はその文化を新たな後輩に継承していく。練習時間は明確に管理し、常に健康状態を最優先に考える。誰も気付かないかも知れないが、細かいことで言えば、試合会場に出掛ける際の服装から、グラウンドで集合するときのヘルメットの持ち方まで、マネジャーが細かく管理しているのも、部活動を人間教育の重要な舞台と位置づけているからである。
 こうした文化は、歴代の部員と指導者が長い歳月をかけて築き上げてきた。部外では、それを窮屈と批判する声もあるようだが、僕はこの20年ほど、このチームを身近に見続けてきて、その真実、つまり、こうした文化を部員や指導者が自発的に育てて来たこと、だからこそその文化が勝利につながる豊かな土壌になったことを知っている。その一端は、このコラムでも折りに触れて紹介してきた。いまは休刊になっている「タッチダウン誌」でも紹介したことがある。
 そういう文化をフットボール界に限らず、日本の高校・大学の課外活動、課外教育の標準にできないか、それを実現するためにはどういう方法があるのかと僕は問い続け、その気持ちを抱えつつこのコラムを書き続けている。
 けれども、論より証拠。ファイターズが勝ち続けることで、その勝利をもたらせたファイターズの文化がより輝く。それに比べて、文弱の徒が書くこのコラムでは、ファイターズの持っている素晴らしさ、そのDNAの凄さの一端しか伝えることができず、常にある種の焦燥感に駆られていた。
 けれども、ここに大きな味方が現れた。高校フットボール界で活躍されている三人の教員、つまり今年のイヤーブックに紹介されている池谷陽平(箕面)、杉原五典(高槻)、三井良太(浪速)の3氏である。それぞれファイターズで活躍し、卒業後は教職に身を投じて教科を担当する傍ら、フットボールの指導者としても活躍されている。
 彼らの言葉が心強い。杉原氏は「社会では、コミュニケーション能力、問題発見力、問題解決力が求められている。そのすべてをファイターズで得ることができた」という。
 池谷氏は「ファイターズで得た強みは意思決定能力と合意形成」といい、後輩たちに「いかにファイターズという組織に変化をもたらす触媒になれるか」と問い掛ける。
 三井氏はもっと具体的に「狭い門から入れ。必要なことはどんな困難があっても逃げないで向き合って」と呼び掛ける。
 それぞれが教育の現場に身を置き、日々高校生と向き合い、格闘しながら一人一人を伸ばそうと努力を続けている。その努力の背骨になっているのがファイターズの活動で培われたDNAであり、文化である。
 僕が懸命に「ファイターズの文化を高校・大学の課外活動、課外教育の標準に」と言い続けていることを、3人はそれぞれの高校で実践されているのである。こんなに心強いことはない。いまは3人でも百万の援軍を得た気分である。
 彼らだけではない。いまも教員を目指して教育学部や人間福祉学部で頑張っている現役の部員が何人もいる。彼、彼女らがファイターズの文化、DNAを身に付け、教育現場に散っていけば、いまに何事かを変える戦士になってくれると期待できる。そうした戦士たちが各校で実績を積めば、やがてファイターズの文化が、少なくとも高校のフットボール界から変わってくるのではないか。
 そんなことを想像すると、ワクワクしてくる。
 今週の金曜日は、京大との決戦。そちらの話を書くスペースはなくなったが、それは僕があれこれ言うより、試合会場で自分の目で確かめていただくのが一番。防寒の備えを忘れず、まずは、西京極まで足を運んでいただきましょう。
posted by コラム「スタンドから」 at 21:40| Comment(1) | in 2017 Season

2017年09月12日

(21)勘違いは御法度

 先週土曜日は桃山学院との戦い。過去の対戦機会は少なく、手探りの立ち上がりだったが、選手層の厚さで優位に立つファイターズが終始自分たちのペースで試合を進め、終わって見れば65−0の圧勝だった。
 立ち上がり、コイントスに勝ったファイターズが守備から試合に入り、相手の出方をうかがう。相手陣16ヤードから始まった最初の相手攻撃を守備陣が完封し、自陣48ヤードから自分たちの攻撃につなげる。
 ファイターズが準備してきた最初のプレーはRB山口のラン。QB西野からハンドオフされたボールを抱えた瞬間、トップスピードに乗った山口が右サイドラインを一気に駆け上がり、そのままま52ヤードのTD。胸のすくような走り、という言葉があるが、スピードと突破力を兼ね備えた山口ならではプレーで、一気に試合の流れを手にした。
 次の相手攻撃では、2度ダウンを更新されたが、なんとかパントに追いやり、再びセンターライン付近からファイターズの攻撃が始まる。この日のキッキングチームは初戦とは違って終始相手陣深くにキックを蹴り込み、陣地の優位を奪い続ける。守備陣がパントをカットする場面もあり、終始40ヤード付近まで返されていた初戦とは大違いである。よほど気合いを入れて練習してきたのか、それとも相手のパントチームの練度が低かったのか、僕には判断できないけれども、キッキングチームが機能し、そこから試合を有利に運んだことは間違いない。
 ともかくハーフラインから始まったファイターズの攻撃。今度は一気にTDを狙ったパスを西野からWR松井へ。惜しくもはじいて狙いは失敗したが、今度はRB陣が頑張る。西野のスクランブル、山口への短いパスなどで陣地を進め、仕上げはゴール前13ヤードから西野がスクランブルを決めてTD。小川のキックも決まって14−0。
 第2Qに入ってもファイターズの攻撃は快調そのもの。西野から松井への22ヤードのパス、山口、西野のランですいすいと陣地を進め、ゴール前3ヤードから再び山口がTD。次の桃山の攻撃もDB吉野が鮮やかなインターセプトで攻守交代。今度は松井やWR前田へのパスプレーで陣地を進め、この日が初出場の1年生RB鈴木(横浜南陵)が14ヤードを走り切ってTD。大学生として公式戦最初のプレーがTDという派手なデビューだった。
 派手なデビューといえば、これだけではない。3Q中盤、2度目に登場したときも、ゴール前15ヤードでハンドオフされたボールを一気に相手ゴールに持ち込んでTD。ボールを手にした2度の機会をともにTDで仕上げるという派手、派手のデビューだった。相手守備陣が暑さにバテていたこと、味方のオフェンスラインが大きな穴を開けてくれたことを割り引いても、素晴らしい記録である。
 守備陣が簡単に相手の攻撃を止め、続くファイターズの攻撃は再びセンターライン付近から。ここで今度は西野から亀山へTDパス。見事にコントロールされたパスがゴール前に飛ぶ。よくカバーしていた相手DBが必死に飛び上がるが、その上から長身の亀山が横取りする形でパスを確保し、48ヤードのTDパスが完成。亀山はその長身とキャッチ力を生かしてもう1本の長いTDパスをキャッチしており、ライバルチームのビデオ撮影班にも脅威を与えたのは間違いない。もう一人の長身レシーバー松井も、後半の途中から出場したQB光藤からのTDパスをキャッチしており、この二人がフル回転すれば空中戦で優位に立てることは間違いない。プレーの選択枝も広がり、ライバルたちにはやっかいなことになりそうだ。
 とにかくこの日のファイターズオフェンスは、一度もパントを蹴ることなく攻撃を終了させている。加えて、前半、相手攻撃陣が疲れる前に相手パスを奪い取り、そのまま23ヤードを走り切ってTDに結び付けたDB小椋の活躍もあって、最終のスコアは65−0。これは後半、大量に交代メンバーを投入しながらの結果であり、数字だけを見れば「ファイターズ強し」という印象を他チームに与えたことだろう。
 しかし、試合後の鳥内監督は「たまたま点が入っただけ。勘違いしたらあかん、相手がばててただけや」「問題は本当に強い相手とどこまでやれるか。今のままなら(次節の)京大にやられる」と厳しい口調だった。
 確かにその通りである。試合後の主将や副将からも「自分がゲームを変えるという気持ちを持ってほしい」「まだま自分が1枚目だという自覚が足りない」などという辛口のコメントが出ていた。
 試合をスタンドから観戦している人間と、グラウンドに身を置いて戦っている人間とでは感じ方が異なる。チームを指揮する監督やコーチもまた、目先の得点差に一喜一憂するようなことはない。ただただチームの全員が「もう一つ上」を目指しているかどうか、貪欲に勝利を求め、そのためにチームの一人一人が自分を追い込んでいるか、という点にのみ関心があるのだろう。
 その貪欲さが今後の勝敗を決める。勝っておごらず、ひたすら向上心を持って日々の活動に精進できるかどうか。ポイントはそこにある。自分たちの長所を伸ばし、短所を克服するため、さらなる鍛錬を続けてほしい。今後、一週間おきに一歩も引けない戦いが続く。相手を怖れず、自らを信じ、仲間を信じて日々の活動に取り組んでもらいたい。頑張ろう。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:25| Comment(2) | in 2017 Season

2017年09月06日

(20)所属するだけでなく

 就職活動中の大学生から頼まれてエントリーシートの添削をしたり、関西学院を受験する高校生の志望理由書を見せてもらったりするたびに気になることがある。自分の身上をを記入する欄に、必ずといっていいほど「部活動では○○部に所属し……」と書いていることだ。
 その言葉を見るたびに、ついついこんな質問をしてしまう。
 「あなたはそのクラブに所属していただけですか」
 「どんな活動をしていたか、説明できるほどの内容はなかったのですか」
 すると、必ず「いや私は部長として仲間をリードし、○○大会で決勝まで進みました」とか「○○県選抜の一員に選ばれました」とかの答えが返って来る。
 そうした答えを聞くたび、記者稼業の合間に母校で文章表現の授業を担当している僕は「所属していましたと書くだけでは、活動の内容が読み手(あるいは面接の担当者)に伝わらない。自分がどんな活動をしてきたか、そこでどんな努力を重ねたかといったことを具体的に書かなければ、相手に君の素晴らしさは評価してもらえませんよ」と助言し、文章を手直しするするように勧めるのである。
 ファイターズの応援コラムに、こんな話を持ち出したのには理由がある。
 ファイターズには、今年も200人を超える部員が席を置いている。その全員がチームに「所属」しているだけでなく、それぞれが自覚を持って「活動」しているかどうかという点が気になるからである。
 プレーヤーとして、スタッフとして、それぞれ求められるものは異なる。最上級生である4年生と入部したばかりの1年生では、背負っているものの重さも違うだろう。
 同じプレーヤーでも、グラウンドで戦う選手と控えに回る選手、さらにはメンバー表に名前の載らない選手まで多様な部員が存在する。けがで入院し、手術を受けたばかりの部員もいるし、仲間が試合に向けた練習をしているのを横目に、懸命にリハビリに取り組んでいる部員もいる。家庭の事情などで、部活動に集中できない部員もいるかもしれない。
 そうした部員の全員が「いまやれること、やるべきこと」に集中できているだろうか。試合だけではない。練習やトレーニングの時間だけでもない。授業に費やす時間や食事の時間、通学に充てる時間や休憩時間も含めたすべての時間を生かし切れているかどうか。
 時たまグラウンドに顔を出し、時には学生会館で昼飯を食べるときに部員と顔を合わせる程度の人間には、それを判断する材料はない。たとえ何らかの兆候が見えたとしても、それが懸念すべきことか、たまたまの出来事なのかを見極めるのは難しい。毎日、グラウンドに顔を出し、選手と喜怒哀楽を共にされている監督やコーチにとっても、部員一人一人の心の襞(ひだ)を細かく見つめることはやっかいなことだろうと想像する。
 しかし、一人だけ、自分のことを知っている人間がいる。自分自身である。今日はなぜか練習に集中できなかった、体調が悪いのを隠して練習に取り組み、逆に仲間に迷惑をかけた、昨夜は夜更かしして眠れなかった、練習がしんどくてこっそり手を抜いた、というようなことは、必ず自分自身が知っている。
 問題は、そのことを知っている当事者が自分の限界を設けて妥協してしまうか、それとも、部活動の中でトコトン自分自身の可能性を追求できるかどうか、という点にある。そこが組織に「所属している」だけの人間と、組織で「活動している」人間との分かれ目といってもよい。
 この辺の事情を作家の村上春樹は、自身のマラソンランナーとしての体験を記録した『走ることについて語るときに僕の語ること』(文藝春秋)で次のように説明している。
 「痛みは避けがたいが、苦しみはオプショナル(こちら次第)。走っていて「ああ、きつい、もう駄目だ」と思ったとして、「きつい」というのは避けようのない事実だが、「もう駄目」かどうかは、あくまで本人の裁量に委ねられていることである、と。
 組織に所属しているだけではなく、そこで活動しよう。自分の可能性を徹底的に追求しよう。選手もスタッフも関係ない。上級生と下級生の区別もない。200人を超す部員全員が「苦しみはオプショナル(自分次第)」と覚悟を決め、自分を追い込んで行くところから道は開ける。本当に強いチームが誕生する。がんばろう。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:34| Comment(1) | in 2017 Season