2017年08月23日

(18)実戦が人を育てる

 いよいよ今週末から2017年のシーズンが始まる。ファイターズ初戦の相手は同志社。27日午後5時、王子スタジアムでキックオフ。校歌にある「いざ いざ いざ いざ 上ヶ原ふるえ」の時期到来である。
 夏の合宿が終わり、いよいよシーズンが始まるこの時期になると、自分がグラウンドに立つわけでもないし、チームの指揮を執る立場でもないのに、やたらと気持ちが高ぶってくる。そして、無性に昔の武人に関係する本が読みたくなる。宮本武蔵の「五輪書」、勝海舟の「氷川清話」、西郷隆盛の「西郷南洲遺訓」。山岡鉄舟の伝記も読むし、通俗的な中里介山の「日本武術神妙記」も読む。いまや古書店でも手に入らないといわれる山田次朗吉の「剣道集義」というマニアックな本も手元に置いて、時に応じて目を通している。
 この手の本は何度読んでもワクワクする。時には自分に喝を入れてくれる文章に出会えるし、背筋を伸ばして生きるためのヒントもあちこちに転がっている。何よりもその昔、武士が天下を握っていた時代の彼らの心情、息づかいが感じられるのが興味深い。
 一体お前は何者か、と言われそうだが、何者でもない。ただの新聞記者である。もう少し詳しく言えば、読書とアメフットの観戦、そしてファイターズの諸君の成長に特別の関心を持っている新聞記者である。
 そういう素性だから、シーズンが始まるとなれば「出陣」に当たっての準備として、歴史に名を残す武人の妙技や心構えに、活字を通して触れてみたくなるのである。
 そうした書物の中で、今季、一番ピリッときたのが山岡鉄舟が明治の初年、三島の龍澤寺に参禅していたとき、住職の星定禅師から与えられた「動中の工夫は静中に勝ること百千万億倍」という言葉である。
 蛇足ながら紹介しておけば、山岡鉄舟とは幕末から明治の初期に活躍した下級幕臣。「ぼろ鉄」と呼ばれた暴れん坊で剣の達人。幕府が江戸城を無血開城する際、急きょ駿府まで走り、攻め寄せる薩長軍の参謀、西郷隆盛と談判して15代将軍、徳川慶喜の意向を伝え、勝海舟と西郷隆盛の「江戸無血開城」の会談を成功に導いた影の立役者である。禅の修行にも傾倒し、明治新政府では西郷隆盛から乞われて明治天皇の侍従となり、教育係を務めた。書にも堪能で各地の寺院などにその雄渾な書が伝えられている。
 本題に戻る。「動中の工夫は静中に勝ること百千万億倍」とは、佐藤寛氏の「山岡鉄舟 幕末維新の仕事人」(光文社新書)によると、臨済宗中興の祖と言われる白隠禅師の言葉であり、日常のなか、現場の荒波にもまれてこそ、座って禅をする以上の意味があるとする言葉だという。
 アメフットに置き換えて言えば「実戦という場での工夫は、練習中に勝ること百千万億倍」ということではなかろうか。さらに言えば、練習をしっかり積んで実戦に臨めば、百千万億倍の意味があるという風にもとれるのではないか。
 試合が人を育てる。練習のための練習ではなく、試合でこそ生きる練習を積め。そうして実戦に臨めば、突然、覚醒することがある。実戦で互いに骨と骨をぶつけ合い、魂を完全燃焼させる中から見えて来る世界がある。そのとき諸君のステージは、もう一段も二段も上がっているはずだ……そのように僕は理解し、この言葉をファイターズの諸君に贈ろうとしている。
 考えてみればよい。昨年度の大学王者といっても、ヘルメットをとった素顔を見れば、それぞれ20歳前後の大学生である。体は十分に鍛えられているが、それでもまだまだ発展途上。技術も精神力も完成形にはほど遠い。これからなお3カ月、4カ月と鍛錬を重ね、試合での経験の一つ一つを成長へのステップとしてさらなる高みに登っていかなければ、目標の日本一には到達し得ない。
 アメフットは、チームスポーツである。個々の選手が成長するだけでは、究極の成果にはつながらない。試合に出る選手全員、それを支えるスタッフ全員が昨日よりも今日、今日よりも明日へと成長曲線を描いていかなければ、当初の目的は達成できないのである。
 逆に、チームで活動するすべての面々がその役割を完全に果たせるようになれば、昨年以上に充実したチームができあがる。そうなれば、例えライバルが例年以上に戦力を整えてきたとしても、十分に戦える態勢が整う。
 そういうチームをどのように構築していくか。そう考えたとき「動中の工夫は静中に勝ること百千万億倍」という言葉が意味を持ってくる。「実戦で鍛えなさい、実戦は覚醒する好機」と説く白隠禅師の言葉が、胸に突き刺さってくる。
 2017年シーズンの開幕に当たり、この言葉をファイターズの諸君にお贈りしたい。
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2017年08月15日

(17)夏だ!合宿だ!

 お盆の休みを利用して、ファイターズが合宿中の鉢伏高原・かねいちやを訪ねた。お盆の帰省客で中国道が身動きならないことを予測して朝の5時前に西宮の自宅を出発。途中から小雨が降ってきたこともあって、ゆっくり走ったが、それでも午前7時頃には到着。差し入れの品物を玄関口に運んでいる間に、Vのメンバーが次々にグラウンドに顔を出し、早々に朝の練習が始まる。
 早いね、と聞けば、JVのメンバーはもう朝の走り込みを終えましたよ、という返事。朝の涼しいうちにさっさと練習に取り組み、それから朝食、仮眠、昼食、ミーティングと進んでいくという。夕方の練習はJVからスタートし、Vのメンバーも6時頃には練習を切り上げて夕食、そしてミーティングと進行していくそうだ。
 睡眠と休養、栄養補給の時間をたっぷり確保し、いつも元気いっぱいの状態でトレーニングに励む、というのがファイターズのスタイル。それは、夏合宿でも貫かれているようだ。聞くところでは、従来はかねいちやで、選手・コーチ全員が寝泊まりしていたが、昨夏からは近くの民宿も確保して分散宿泊を取り入れている。部員が増えたこともあるが、少しでもゆったりと休める環境を確保したいというチームの方針らしい。
 こんな風に書いていくと、なんとなく「ゆとり合宿」を想像される方があるかも知れない。けれども、実際の練習が始まれば、そんなにゆったりした進行ではない。マネジャーの号令と同時に分刻み、秒刻みで練習メニューが進行し、集散もすべて駆け足。JVが練習している間はVのメンバーが周辺の空いたスペースを利用して体を動かしているし、Vのメンバーの練習が始まればJVのメンバーは同様、ゆっくりとクールダウンに励んでいる。安全を優先しながらトレーニングの効果を上げるという難しい課題を、コーチやトレーナーの経験を基に試行錯誤しながら手にしたファイターズならではの合宿風景である。
 そういう練習振りをグラウンドのあちこちを歩き回りながら見学する。春のシーズンに活躍した選手が元気にやっているか。まだまだ発展途上の下級生の中に、どんな才能が眠っているか。昨年のチームをリードしてきた4年生が大量に卒業し、その後を埋め、それ以上の活躍をしてくれそうなのはどんな顔ぶれか。けがで春のシーズンには目立った活躍ができなかった選手達の回復具合はどうか。そんな課題を探りながら見ていると、単調に見える練習でも、見所はいっぱいある。
 グラウンドの練習だけではない。練習後の振る舞いも注意深く観察し、双方を重ね合わせると、いろんなことが見えてくる。この選手は今季、必ず頭角を現すと公言したくなるような選手も少なくない。
 そしてもう一つ、僕には楽しみがある。選手達が休んでいるときに、手の空いたコーチとゆっくり話し込めることだ。ロビーのソファーに座ってコーヒーや水を飲みながら、とりとめもない話をするのが僕にとっては、フットボールの本当の魅力を勉強する時間になる。
 先日は、ランニングバックのブロック練習を見ていた感想を担当の社会人コーチ・島野さんに話すと、僕が想像もつかなかった返事があった。具体的な内容はあえて省くが、コーチが個々の選手の取り組みを自分の目で確認し、その力量を確実に把握しているからこそ言える言葉だった。そしてその言葉を通して、僕はそのコーチの指導法を垣間見たのである。
 つまり、自身が確認した選手の発達状況に基づいて、一人一人の力を伸ばすために何をどう教えるか、どのタイミングでより高い水準の要求をしていくか、という点を個別、具体的に考える。一律にこうしなさい、このようにしなければダメというのではなく、それぞれの選手の技量、体力の発達状態に応じて、その時点で一番優先すべきことを考え、最適なやり方でそれを指導するのである。
 当然、感情に任せて選手を怒鳴ることもない。選手も萎縮せず、何度も何度も反復練習を続け、その課題を克服しようとする。練習台になっている選手も、相手が手応えのある動きをしたときには即座に「いまのはいい感じや」「よっし、いけてる」と声を掛ける。選手自身の努力と仲間の協力、そしてコーチの適切な指導によって人が育っていく現場を見て、これがファイターズのフットボールだ、これがファイターズの歴代のメンバーが育んできた文化だという思いを新たにした。
 第3フィールドの練習を何度見ても、何度夏の合宿に参加しても、そのたびにこういう発見があるからファイターズというチームは素晴らしい。今週ももう一度、早朝から日帰りで鉢伏まで車を走らせる予定にしている。
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2017年08月02日

(16)夏の勉強会

 8月1日。前期の試験も、試験後の短いオフも終わり、勝負の夏がスタートした。
 例年通り、顧問の前島先生によるお祈りで士気を高め、気持ちを新たにして秋のシーズンに向けての練習が始まる。僕は仕事のため参加できなかったけれども、部員たちが朝早くからグラウンドに集合し、先生の言葉を聞いている様子がホームページにアップされている。
 8月になったばかりだが、今季は27日に秋の初戦が始まる。途中に鉢伏高原での長い合宿を挟んでいることを考えれば、上ヶ原のグラウンドでの練習時間は限られている。上級生、下級生を問わず、その時間をフルに使って自らを鍛え、仲間と高めあって秋に備えてもらいたい。
 勝負の夏はしかし、上ヶ原のグラウンドだけではない。西宮市の某所では毎週金曜の夜、明日のファイターズを担ってくれるはずの高校生諸君が9月に迎える推薦入試に備えた勉強会を続けている。これは毎年、高校の1学期の期末試験が終わるのを待ってファイターズが開催。いわゆるスポーツ推薦やAO入試で関西学院を目指し、課外活動はファイターズと決めて挑んでくれる高校生を対象に、僕が講師となって小論文の書き方を指導する集まりである。
 勉強会では、決められた時間内に所定の字数で小論文を書かせ、それを持ち帰って添削し、簡単な講評を付けて返却する。その作業を毎週のように繰り返し、書くこと、表現することに多少とも自信を持って本番の入試に臨んでもらおうという仕組みである。
 2003年度卒業の池谷陽平君や平郡雷太君が高校3年の時、当時、リクルートも担当されていた小野宏コーチの提案で始めた勉強会だから、もうかれこれ20年近くになる。最初の年はこの2人だけで、僕もまだ朝日新聞で論説委員の仕事をしていたから、夕方、大阪・中之島の本社に来てもらって、マンツーマンで指導していた。
 50年間、ずっと新聞記者を続けてきたから、文章を書くことには慣れている。学生時代には高校の教員を志望し、国語の教員免許も取得していたから、教えることにも多少の自信はある。実際、いまも関西学院で「文章表現」の講座を担当しているくらいだ。
 けれども、当時は高校生を教えるなんて初めて。何のマニュアルもなく、全くの手探りだった。幸いその年は、教えられる側のレベルが高かったから、何の問題もなく勉強会は進行し、終了後は社内の喫茶室やビルの地下にある喫茶店でフルーツパフェやカレーを食べながらおしゃべりをしていた。
 そうこうするうちに、推薦入試の受験生は年々増え、いつの間にか10人を超えるようになった。その間に僕も新聞社を定年退職したから、今度はチームのスタッフに西宮市内に会場を借りてもらい、少しまとまった形で勉強会をするようにした。それが現在も続いており、毎年7月から8月末にかけては、この勉強会が僕の夏のメーン行事になっている。
 こんな風に書いていけば、なんだか大層な役割を果たしているようだが、実際はそうではない。どちらかと言えば、ファイターズを目指し、入学後はファイターズの屋台骨を背負ってくれる高校生と、文章の指導を通じてあれこれ話をしたり、同じ目標を持った彼らが仲間内で話していることを横から聞いたりしていることを楽しんでいるといった方が正しいかも知れない。
 70歳をとっくに過ぎたいまも、僕は新聞記者の仕事を続けている。毎週、コラムを書き、週に1本の社説も担当している。物事を観察する力には、それなりの自信もある。そんな人間が、普段、全く付き合いのない高校生の話の輪に加わり、あれこれと喜びや悩みについて聞かせてもらえるのだから、まさに「棚からぼた餅」である。ありがたいご褒美である。
 全く予備知識のない相手であっても、ほんの断片的な話をするだけで、相手の性格や気質について想像が広がり、入部後の姿が何となく浮かんでくる。人と出会い、話を引き出すのを仕事にしている人間にとって、こういう想像ほど楽しいことはない。それが普段、ほとんどつきあうことのない高校生、それも特定の高校ではなく、それぞれ背景の異なる高校で学んでいる少年たちとの会話の機会となると、お金を出しても買いたいくらいだ。
 本当は、この勉強会に参加している高校生一人一人の名前を挙げ、彼らの書いた文章を紹介したり、性格の素晴らしさを書き連ねたりしたい気分だが、そういうことは実際に入学すれば、いくらでも機会はある。
 いまは、ファイターズのコーチやリクルート担当者が今年もいい選手を各方面から見つけ出してくれたこと、ファイターズを志望してくれる彼らが毎週、しっかりと課題を仕上げていること、この集まりで初めて顔を合わせた者同士が旧知のように和気あいあいと過ごす時間を持っていること、それを報告するだけにしておきたい。彼らが入学できれば、きっと、ファイターズを支え、リーダーとして活躍してくれるに違いない。
posted by コラム「スタンドから」 at 12:56| Comment(2) | in 2017 Season

2017年07月26日

(15)愛されるチーム

 大学はいま前期の試験中。15日からスタートし、学生諸君は暑さにも負けずに机に向かっている。当然、試験前からチームとしての練習は休みである。もちろん、個人個人は試験の合間を縫って、筋トレとか走りモノと呼ばれるトレーニングに取り組んでいる。単位の取得が進んでいる上級生はミーティングや個人の課題克服にも余念がない。
 けれども、チームが全体で取り組む練習は休みだから、このコラムからもまた、グラウンドの消息が途絶えている。
 代わりに、ファイターズを取り巻くあれやこれやの話題を断片的にお伝えしている。小野ディレクターの講演会、コーチやスタッフとしてチームを支える「大人の力」、リクルート担当者の眼力、卒業生からの伝言……。今週もまた、先日、甲東園の居酒屋で開かれた「アメフト探検会」の様子とそこで抱いた僕なりの感慨をお伝えしよう。
 「アメフト探検会」のことは、このコラムでも毎年のように取り上げているから、古くからの読者にはおなじみだろう。関西学院大学の先生たち限定のサークルで、ファイターズとその部員をこよなく愛される先生方が多数参加されている。活動の詳細についてはまったく知らないが、断片的に聞こえてくるところでは「年に一度、総会を開き、ファイターズをサカナに大いに語り、愉快に飲む」のが目的の集まりらしい。
 参加者の中には「年間50回はファイターズのビデオを見る。ゼミ生にもそれを見せて授業を進める」と豪語される先生がいるし、もう少し控えめに「年に一度は必ず試合会場に出掛けて応援する。今季は少なくとも3回は応援に行く」「毎年一人はファイターズの部員をゼミに受け入れる」といった個人的な目標を立て、それを実行されている先生もいる。自己紹介で「ヨメさんがファイターズファンなので、それにつられて僕もファンになりました」といって拍手を浴びた新参の先生もいる。
 先日の集まりには、先生方が十数人、チームからは小野ディレクターや大村アシスタントヘッドコーチ、神田コーチが参加され、大いに盛り上がった。僕も、例年のようにゲストとしてお招きを頂き、酒も飲めないのに、大いに語り合った。
 「野原コーチは僕のゼミの卒業生」と毎年自慢される先生は「今年は○○君と○○君がいます。二人ともよく頑張っていますよ」と学生たちが可愛くて仕方がないという口調で話される。別の先生もまた、対抗するように「今年僕のゼミを卒業したマネジャーの○○君は留年生だったけど、後輩たちに溶け込んで、よく頑張ってくれました」と自慢される。中には「ファイターズの諸君は就職活動でも実績を残してくれるから、ゼミの評判もよくなる」と言われた先生もいる。
 こうしてファイターズの部員が部活を離れた勉学の場でも存在感を発揮し、卒業してからもなお先生方に強い印象を与えていることを知ると、聞いている方もなんだかうれしくなってくる。そして「ファイターズというのは、本当に多くの方に愛されているチームだなあ」と感慨を新たにする。
 先生方の応援だけではない。例えば、僕のこのコラムにも毎週のように「いいね」のサインが集まる。少ない時でも150件、多いときには200件、300件を超す。いま主将を務めている井若君が1年生の時、学生会館の更衣室のドアに「足下のゴミ一つ拾えないような人間に何ができましょうか……」と書いて張り出した話を紹介したときには、たしか800件前後の「いいね」が集まった。
 それは、僕の文章に対する「いいね」ではなく、そこで紹介しているファイターズというチームの在り方、たたずまいに対する「いいね」であると、僕は思っている。
 試合に勝った、負けたということだけではなく、それを超えて、ファイターズの選手たちがどのようにして成長し、そのためにどんな努力をしているのか。部員のがんばりに監督やコーチ、スタッフとして関わる周囲の「大人たち」がどのようにして応えているのか。その指導を部員がどのように受け止め、成長の糧にしているのか。上級生下級生、関係なく、仲間同士はどのように励まし合い、高め合っているのか。
 そうしたことを毎週のようにこのコラムを通じて問い掛け、チームの素顔を紹介していることに対する数多くの「いいね」。それはぼくの文章に対する評価というよりも、ファイターズという「毎年毎年、人を育てる。その営みを戦後一貫して続けてきた」組織に対する「いいね」であると理解しなければ、その本質を見失う。
 逆にいえば、そういう組織に対して、数多くの「いいね」が集まるというところに、ファイターズの素晴らしさがある。これもまた、このチームが多くの方々に愛されているチームであることの証明であり、「アメフト探検会」の先生方に愛されていることにも通じる話である。
 もう少し大きく言えば、今後、こういう組織が課外教育の主流になっていくことで、大学スポーツの一つの模範が形成されるのではないか。
 ファイターズをこよなく愛される先生たちとの談笑の中でも、ファイターズが課外教育の王道を歩んでいると確認できた。それが愉快でならない。
posted by コラム「スタンドから」 at 18:15| Comment(1) | in 2017 Season

2017年07月18日

(14)フットボールの本当の魅力

 先週末は、小野宏ディレクターの公開講座「アメリカンフットボールの本当の魅力」。年に一度、朝日カルチャーセンターで続けられているファンに向けた「勉強会」である。今年は「西日本代表決定戦の後半に何が起きたか」という副題で2時間、170人の参加者を前に内容の濃い解説が続いた。
 講座の内容は、準備されたレジュメの目次に示されている。@代表決定戦までの状況Aリーグ戦(立命戦)の振り返りB代表決定戦前半の“完勝”C後半の思わぬ展開D絶体絶命のピンチE起死回生のロングパスF1プレーを巡る戦術の攻防G復活のドライブHモメンタムの不思議さ。この目次に沿って、ビデオを再生し、試合がどのように進行したか、その裏に両軍ベンチがどういう決断をし、その決断の背景にどういう思考が働いたか、選手たちがその役割を果たすために、どのように準備したか、というようなことを微に入り細にわたって解説されたのである。
 具体的には前半、ファイターズが2本のFGと2本のTDで20−0と引き離し、余裕で進めた試合が、後半にがらりと様相を変え、一気に20−17と追い上げられ、逆転は必至という状況に追い詰められたのはなぜか。試合の流れが立命に傾き、大逆転劇が完成しつつあるときに、ファイターズが自陣2ヤードから放った起死回生のロングパスは、どうして意図され、成功したのか。そこにはどんな決断が秘められていたのか。そのプレーに関わるQBやWRはそのプレーを成功させるためにどんな動きをしたのか。それに続く70ヤードのドライブは、どのようにしてTDに結び付けられたのか。そうしたことを一つ一つのプレーを再現しながら、フットボールというスポーツの怖さと魅力、決断と実行の背景を説明していく。
 同じチーム、同じプレーヤーが戦っているのに、なぜ前半と後半では天地が逆になったような試合になったのか。立命側から言えば、前半、全く進まなかったラン(4回でマイナス2ヤード)とパス(8回で成功は4回10ヤード、逆に2本のインターセプトを喫している)が後半には一気に進む(ランは13回で106ヤード、パスは18回で150ヤード)ようになったのか。一つ一つのプレー選択から見える両軍ベンチの駆け引きと騙し合い。近年、ずっと大学王者の座を競ってきた両チームの高度な戦いの背景が次々と説き明かされていく。
 そうした試合の流れを振り返りながら、小野さんをして「2016年のベストプレー」と言わしめた自陣2ヤードからの攻撃でファイターズが選択したQB伊豆からWR松井へのロングパスの解説に入る。
 一つ間違えばセーフティーを奪われる危険があり、パントを蹴るにも不自由なゾーンで、なぜベンチはパスを選択したのか。そのプレーが成功するとコーチが確信した根拠は何か。その選択を選手たちはどのようにして成功につなげたのか。相手ディフェンス、とくにベストアスリートを配置しているコーナーバックとセーフティーの動きをどのように封じたのか。伊豆の動きと松井の動きを克明に説明し、ベンチからの指示を受け取った二人の心の動きにまで分け入っての解説が続く。
 そこに見られるベンチと選手の信頼関係。昨年の試合で手痛いインターセプトを喫した悔しい思いを糧に技量を向上させ、相手CBを振り払った松井の動き。絶対に成功させなければならない30ヤードのパスに挑んだ伊豆の決意と、成功の伏線となったちょっとした仕草。そうした細かな所まで目を配った解説者の観察眼と取材力。長年、プレーヤー、コーチとしてチームを率い、ファイターズの頭脳とまで言われた小野さんならではの解説は、期待に違わぬ素晴らしさだった。
 同時に、この解説はベンチの意図を確実に実現する細かなデザインの重要性を指摘し、そのデザインを実現する選手の強い意志と高い技量の大切さも語りかけてくれた。
 そうした意志と技量を体現したのが続く70ヤード、13回のドライブである。オフェンスの11人が互いに協力し、絶対にTDに結び付ける、このシリーズで決着を付けると確信し、ひたすらランプレーで陣地を進めた「魂のフットボール」である。伊豆から松井への起死回生のパスから始まったこのシリーズは、何度見ても感動する。それに今回のような適切な解説があれば、フットボールの「本当の魅力」が堪能出来る。
 幸い、この日の講演会の模様は、マネジャーが一部始終をビデオで録画してくれている。これを今春入部した1年生にはぜひ見てもらいたい。フットボールの底知れぬ魅力を知り、一つのプレーが持つ意味の重さを知ることで、必ず成長のきっかけがつかめるはずだ。
 さらに、関西学院の学生諸君にも、学内限定の「フットボール講座」としてビデオ鑑賞会を開けばどうだろう。このビデオを通じて、フットボールの魅力にふれた学生がどんどんスタジアムに足を運んでくれれば、選手たちの励みにもなるに違いない。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:22| Comment(2) | in 2017 Season

2017年07月10日

(13)アシスタントの力

 どんな組織にも、アシスタントという役割がある。アメリカ大統領には補佐官、新聞社の編集局には局長補佐、社会部には次長。映画監督には助監督がおり、テレビ番組の製作ならディレクター補佐がいる。呼び名や役割、待遇などは、それぞれの組織によって異なるが、この役割を果たす人間がいなければ、組織は円滑には運営できない。その人間に能力がなければ、組織の力は発揮できない。その証拠に、いまを去る千年以上も前、お公家さんが政治を仕切っていた時代にも輔佐(ほさ)役がいた。旧の日本軍にも大佐、中佐、少佐という佐官がおり、それぞれが一軍を率いて将軍を補佐していた。輔佐の輔も佐も助けるという意味である。
 僕が新聞社で社会部次長や夕刊編集長という仕事をしていたときも、紙面づくりの実務はこういう補佐役たちに任されていた。もちろん、部長や編集局長は全体を掌握し、現場に行きすぎがあったらやんわりと指摘してくれたし、他の部局とトラブルになるようなことがあったら、適切な指揮をしてくれた。時には現場に任せるふりをしながら、自分の権勢を見せつけるために、つまらないことに口出しする上司もいたようだが、僕の場合は幸いなことに、おおむね上司運には恵まれていた。
 こんな話を持ち出したのはほかでもない。ファイターズにも補佐という肩書きを持
つ人たちが何人も存在し、それぞれが組織の運営に強力な力を発揮しているのを知っているからである。ヘッドコーチ(監督)の補佐役にはは、アシスタントヘッドコーチ(大村和輝氏)、ディレクターの補佐役にはアシスタントディレクター(宮本敬士氏と石割淳氏)、コーチの補佐役にはアシスタントコーチ(社会人の菅野、野村、高橋、島野、池田コーチと現役の学生である橋本亮君や松本英一郎君ら)がついて、実務を切り回している。
 その人たちの能力の素晴らしさは、折りにふれて体感することだし、時にはこのコラムでその一端を紹介してきた。チームの運営、学生たちへの技術指導から高校生のリクルート、そして就職相談まで、いわばチームの成長に関係するあらゆることに適切なアドバイスを送り、注意を促し、アイデアを出し、体を張って鍛えてくれるのである。
 こうした役割を果たすメンバーは、どのチームにも存在するだろう。けれども、僕が直接目にする限りでは、ファイターズほどその役割を過不足なく果たしているメンバーはいないのではないか。
 急所は「過不足なく」という点にある。監督やコーチを差し置いて勝手なことを教えるのは禁物だし、熱が入り過ぎて、選手の自発性を摘み取るようなこともよろしくない。外部からの介入で組織自体が沈滞したり混乱したりする例は少なくないし、そうかといって「外部の目」にさらされない組織は独善に陥る懸念がつきまとう。
 注意すべき点は厳しく指摘し、同時に母親のような包容力も求められる。コーチはもちろん、すべてのアシスタント(補佐役)にそれが求められる。社会人の場合は多彩な人生経験があり、組織の中で活動されてきた実績もあるから、補佐役を引き受けた時点で、その呼吸はよく理解されている。けれども、学生コーチの場合は全く異なる。
 つい数ヶ月前までは最上級生と下級生の関係にあった部員たちに、今度は指導者として向き合うわけだから、その距離の取り方が難しい。昨年のチームは自分たちが主導したチームだが、今年は井若主将が率いるチームである。直接、運営方針に介入することは御法度である。昨年とはまた異なる立場で適切に指導し、アドバイスを送らなければならない。体を張り、練習台として後輩に見本を見せながら、伸び悩んでいる原因を探り、要点をついた助言が求められる。時には個人的な悩みを聞くことも必要だし、耳に痛いことも言わなければならない。
 そういう難しい役割を考えた時、思い出すのは、2011年度、4年振りに甲子園ボウルを制覇した松岡主将とDB香山君や重田君らがアシスタントコーチを務めてくれた時のことである。
 彼らは常に「練習第一」の姿勢を貫き、どんなことがあってもグラウンドに降りて練習相手を務めてくれた。3年間、覇権から遠ざかっていた悔しさを2度と後輩に味合わせたくないと、懸命に指導し、体を張ってくれた。それでいて、当時のチームを運営していた梶原主将らの方針には介入せず、チーム運営については側面から応援する姿勢を貫いていた(細かい点までは分からないが、少なくとも僕が見ている限りでは、練習相手としては厳しく立ちはだかるが、チームの運営には介入しないと自分たちで決めていたような行動をとっていた)。
 その姿勢が伝統となり、いま現在のアシスタントコーチにも受け継がれている。それが「過不足のない」指導という由縁である。アシスタントが力を発揮してくれる組織は強い。それは国家の経営から映画作り、スポーツチームの育成にまで通じることである。
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2017年06月27日

(12)勇者への伝言

 ファイターズはいま、春のシーズンが終わり、夏から秋に向けて、ある種の充電期間に入っている。ニューエラボウルに選ばれた選手はそのための練習があるし、それ以外の部員はパートごとに詳細な日程を組んでファンダメンタルを中心にした練習に取り組んでいる。
 目の前には、前期試験も迫っている。そのための準備も欠かせない。堅実に単位を修得している上級生はともかく、下級生にとっては、1、2年生の間が勝負である。ここで手を抜いたら、上級生になってからの部活動にも支障をきたす。監督やコーチが単位の修得状況に厳しく目を光らせているのも、理由があってのことである。
 試合もない。チーム練習もない。そういう期間を利用して、今春卒業したメンバーの文集から、いくつかのことばを紹介したい。2度にわたる立命との勝負に勝って関西リーグのてっぺんに立ち、入念に策を凝らして立ち向かってきた早稲田にも勝って甲子園ボウルを制した4年生がどんな気持ちで日々の活動に取り組み、どんな感慨を持って卒業していったのか。それを知ることは、新たな頂きに挑戦する後輩にとっても、大きな励みになり、目標にもなるはずだ。
 しかしながら、この文集は広く世間に公表する目的で編集されてはいない。卒業生がファイターズで4年間、どのように取り組んできたか、それを自身が回顧した魂の告白であり、後輩たちへの切なる伝言である。卒業生が長い将来にわたって、ファイターズでの活動を振り返るための拠り所である。
 それを僕が勝手に紹介することは許されない。卒業生から承諾が得られた部分、あるいは「後輩への伝言」の部分に限って、要旨だけを紹介させていただく。文集はあいうえお順に編集されているので、引用もその順序である。
 「在籍しているだけでは何も起こらない。自分を邪魔するしょうもないプライドは捨てて、逃げることをやめてほしい。そうすると何か違うものが見えてくる」(WR池永君)
 「人に言われて、ハッとなった言葉は、意外といつまでも残っている。同期や先輩、後輩関係なく、正直に言いたいことを言い合って、お互いを高めあえる、そんな関係ならそこらの学生相手には負けない」(HLD石井君)
 「一人前の男になるには、自分の立てた目標を自分に嘘をつかず、1日1日やりきること。目の前の相手に意地でも負けないこと」(QB伊豆君)
 「引退して素直に思えることが一つある。それは、俺が最後の砦だ、全部タックルしたる、と本気で考え、行動し続けたやつにしか分からない」「ファイターズが勝つか、負けるかはDB、SF次第。タックルするか、抜かれるか。だからこそ俺が全部タックルする。シンプルだけど、そこにとことん向き合って本気で行動するから面白い」(DB岡本)
 「アメフトの実力もない。リーダーシップもない。そんな4年生がチームが日本1になるために何で貢献できるのだろうかと考えました。私が導いた答えは全体練習前にする練習のスペを一番早くにグラウンドに降りてすることでした。私がグラウンドに早く降りて練習してる姿を見た選手たちが「俺も、細川みたいに早くスペ上がろ」と、自然と早くグラウンドに来て練習するのではないかと思ったからです」(WR細川君)
 「『このチーム』と『うちのチーム』の言い方の違いはどこにあるか。それは勝ち負けに関わっている実感があるかどうか。この実感がなければ勝って泣くことも、負けて泣くこともできない。後悔しないのは『うちのチーム』と言える人間だと思う」(DB松嶋君)
 「一番に考えてほしいことは、勝つために自分はどうしたいか、とい自分の行動に自分なりの考えと信念があるかどうかが一番大切です。もしその行動が間違っていれば、仲間が指摘してくれます。そこで会話が生まれ、自分の思いを仲間に伝える場ができ、信頼関係が生まれていきます」(DL安田君)
 「人間本気で考えて、やったんねんと気持ちを固めれば、いままで見えなかったものが自然と見えてくる。たくさんのことを考え、迷い、どうすればもっとよくなるかと試行錯誤するうちに腹から出てくる言葉が変わり、行動も変わる。気付けばそれを毎日繰り返すうちに習慣になっていき、性格になる。そんなことを1年間信じて貫いた時に初めて運命を変えることができるのではないか」「大切なことは、正しいか間違っているかではない。自分と自分たちで決めたことを信じてやり通せるかだ。後輩には、そのことだけを伝えたい。自分で、自分たちで道を切り拓き、運命を変えてほしい」(LB山岸君)
 以上、後輩への伝言に限定し、ほんの数人の言葉からさわりの部分だけを並べてみた。それでも気持ちは伝わってくる。これらの言葉がすべて、ファイターズで過ごした4年間の汗と涙に裏付けられた魂の伝言であるからだろう。
 その真実は、同じ状況に身を置き、同じ悩みを共有し、もがき苦しみ、そこから一筋の光明を見つけた人間のみに理解できるのではないか。あえてこの文集を「勇者への伝言」と僕が呼ぶのは、そこに理由がある。
 松嶋君のいう、ファイターズを「うちのチーム」と考えることのできる全員に、この伝言を受け取ってもらいたい。
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2017年06月20日

(11)リクルートの力

 先週のJV戦、北海道大学との試合では、スポーツ選抜入試で関西学院の門を叩き、ファイターズに入部したばかりの1年生が大いに存在感を発揮した。
 先発メンバーにはRB田窪(追手門)とDL春口(浪速)が名を連ね、交代メンバーとして同じ選抜組のRB鈴木(横浜南陵)、WR亀井(報徳)、OL石川(足立学園)、羽土(浪速)、LB松永(箕面自由)、DB井上(浪速)が出場。それぞれきらりと光るところを見せた。前回、京都産業大学とのJV戦で活躍したLBの海崎(追手門)はすでにVのメンバーとして練習しているため、この日は出番がなかったが、出場したメンバーは、終始、全力で立ち向かってくれた北海道大学の選手達を相手に、これまた全力で立ち向かった。
 これに、今季はけがなどで出遅れていた2年生のDL今井、OLの川部、パング、RB斎藤らの活躍振りを挙げていくと、ファイターズのリクルート力のすごさが見えてくる。
 もちろん、新戦力の供給源として、昔も今も存在感があるのは高等部の出身者。質量ともにファイターズの屋台骨を支えているのは誰もが認めるところだ。加えて近年は、啓明学院出身者の活躍振りも目立ってきた。この日、出番があるたびに相手守備陣を切り裂いたRB三宅や鶴留、足の速さが魅力のWR大村はそれぞれ高等部と啓明の卒業生だ。
 それでも、スポーツ選抜入試やAO入試、指定校推薦など多彩な選抜形態で入部してくる選手を抜きにしては、ファイターズは語れない。昨年のチームを引っ張った主将山岸、QB伊豆、WR池永、RB橋本、DB小池。今季のチームをリードする主将井若、副将松本、WR前田泰一、DB小椋、RB山本、高松らの名前を列挙していくだけで、そのことは理解できるだろう。
 そうしたメンバーを誰が、どのようにして見つけ、チームに勧誘するのか。もちろん、高校時代から華々しい活躍をし、各チームから声のかかる選手もいる。そうしたメンバーは専門誌でも大きく取り上げられ、ライバル校と争奪戦になることもある。けれども、府県大会で早々に敗退するチームの中にも、非凡な才能が埋もれていることが少なくない。他競技からの転身者にも、フットボールで成功しそうな選手もいる。
 ファイターズを例にとれば、さきの伊豆や橋本がそうだし、井若も高校時代はここまで活躍する選手とは思われていなかった。いまやチームに欠かせぬ選手となった3年生のWR松井、DL三笠も、高校時代はごく少数の人が絶賛しているだけだったし、さきのJV戦で別次元の活躍振りを披露した2年生のDL今井も、全国的には無名の選手だった。
 そうした選手をどのようにして発掘するのか。まずは公式試合を中心に高校の試合をビデオに収録する。注目選手を中心に、そのビデオをコーチに見せる。コーチが高校の試合に足を運んで直接、注目している選手の動きを見ることもある。勧誘すると決まれば、高校の責任教師や相手の家族に挨拶にうかがい、本人とも面談する。小論文対策の勉強会もするし、志望理由書など提出書類を整えるためのアドバイスもする。入試当日の世話もするし、入学が決まれば下宿の手配もする。
 そうした一連の作業を担当するのがリクルート班。いまはディレクター補佐の宮本さんが責任者を務め、担当のマネジャー(今季は2年生の安在君)が手足となってビデオ撮影などに奔走する。高校のシーズン中は土曜、日曜に試合があるため、ほとんどの休日が吹っ飛ぶ。
 このリクルート体制は1990年代の後半から、当時の小野コーチが中心になって構築した。当時はスポーツ推薦が始まったばかりで、勧誘のノウハウもなければ、有望選手を発掘する仕組みも十分には整っていなかった。とにかく試合会場に足を運び、これはという選手を見つけると、試合直後に相手ベンチに駆け込み、監督に挨拶をするところから始めていたように記憶している。
 小野コーチの仕事が忙しくなり、その後を宮本さんが引き継いで約15年。その間、営々と高校の監督や部長と人脈を築いてきた。最近では、ファイターズの運営の仕方や選手の育て方に理解も深まってきたという。いまでは相手から「この選手は責任を持って送り出します。ぜひファイターズに育ててもらいたい」といわれることもあるし、彼らが対戦した相手チームの有力選手の情報をもらえることもあるそうだ。
 ファイターズのOBから推薦されることもあるし、監督やコーチの個人的なつながりから、他競技の有望選手の情報が入ることもある。高校の試合のビデオを必ずチェックする大村コーチがリクルーターの注目していた選手とは別の選手の動きに目を止め、当初に予定していたのとは別の選手を勧誘することもある。
 リクルートの現場を預かる人材と監督、コーチとの風通しがいいこと、長年積み重ねてきた高校の先生たちとの信頼関係、入部した選手の成長、そうしたことが積み重なって、現在のファイターズのリクルート力を支えているのだろう。その辺のことを宮本さんに聞くと二つの答えが返ってきた。
 一つはファイターズの「育成力」が高校の監督や先生たちに信頼されるようになったこと。だから、昔はこちらから声を掛けていたが、近年はこれはという選手がいると相手から声を掛けてもらえるようになってきたという。もう一つは現場を預かる大村コーチの目が確かなこと。「彼はよく『こいつはええ目をしている』というような言い方をするのですが、それがことごとく当たっている。ビデオを見るときも、僕らの気付かない所に目を向けていることがよく分かる」と宮本さんはいう。
 そうした努力と信頼によって支えられているのがファイターズのリクルート力である。今季も、そうして選ればれ、入部してきた選手たちの動向から目が離せない。ここでは名前を挙げていないが、ラグビーや野球など他競技からの転出組にも、将来が期待される選手が少なくない。
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2017年06月13日

(10)収穫多いJV戦

 先週の木曜と金曜の夕方、いつも通りに第3フィールドに顔を出すと、普段の週とは全く違った光景に出合った。いつもならチームの練習が開始される1時間半も前からグラウンド中央でパスキャッチの練習をしているはずの3、4年生レシーバーやランニングバックの姿がないのだ。いや、メンバーはそこかしこにいるし、練習を見守って下さる武田建先生の姿もある。しかし、彼らはどこかゆったり構えたままで、表情も和やかだ。
 そうこうするうちに4時限の授業が終わった下級生が続々グラウンドに降り、入念な準備運動をすませて、やる気満々でパートごとの練習に取り組む。それを待ちかねたように、それまで手持ちぶさたにしていた上級生が間近で練習を見守り、1プレーごとに声を掛ける。褒めるべき点は褒め、注意すべき点は即座に注意する。
 そう、この週は普段、後方にいることが多いJVのメンバーが土曜日の北海道大学とのJV戦に備えて、練習の主役を張っていたのだ。
 JVメンバーは普段、1プレーごとにVのメンバーにチェックを入れらることはない。VのメンバーはVのメンバー同士で声を掛け合い、励まし合って練習。JVのメンバーはスカウトチームとしてそれを支えたり、自分たちに課せられた別メニューに取り組んだりしている。それが春のシーズンを締めくくる北海道大学との試合に備え、この週ばかりはどのパートもJVメンバーが主役となり、Vの上級生たちがそれを支援する役割に回っていたのである。
 その光景を眺めながら、ここまで上級生が下級生に丁寧に教えてくれるチームはそうそうないのではないか、こうした上下の垣根のない練習によってチームの総合力が高められ、歴史が受け継がれていくのだろうと、ある種の感慨にふけった。
 開けて土曜日。夕方の5時から始まった試合では、1、2年生を中心に、期待の新戦力が次々に登場した。先発メンバーを見れば、TEを含めてOLはLBから移ってきた木下を除くと全員が2年生。1年生RBの田窪(追手門)もスタメンに名を連ねている。ディフェンスでも、まだパート練習に加わって間もない1年生の春口(浪速)が先発、故障で今季はVの試合に出ていなかった期待の2年生DL今井も久々にフル出場した。
 交代メンバーに目をやると、RBは田窪とともに期待される鈴木(横浜南陵)、三宅(高等部)、鶴留(啓明学院)の3人が代わるがわる出場。1年生4人で約200ヤードを稼ぎ、TD6本を記録する活躍を見せた。後半に出場した2年生の斎藤も、久々にパワフルな走りを披露した。
 1年生のWRも多士済々。前川、高木(ともに高等部)、亀井(報徳)らがメンバー表に名を連ね、大村(啓明学院)はパントのリターナーとしても非凡な所を見せた。OLの羽土(浪速)、石川(足立学園)も出場していたが、残念ながらボールキャリアに目を奪われて、二人の動きはよく見ていない。
 一方、ディフェンスではDLの岡(高等部)、LB松永(箕面自由、彼は2年生OL、松永大誠君の弟である)、DBの中村、繁治(ともに高等部)、井上(浪速)がメンバー表に登録された。それぞれが高校時代から活躍してきた面々であり、期待されてチームに加わった選手である。終始、交代で出場し、派手な活躍を見せつけたRB4人組に比べると、地味な役回りだったが、それでも入学してまだ2カ月にしかならないこの時期に、上級生に混じって遜色のないプレーができたのだから、立派なものだ。
 鳥内監督に試合後、1年生RBの活躍に話題を振ると「田窪、鈴木、三宅は秋には出てきますよ。鶴留もパワーはある」とご機嫌だった。
 ところが、試合については「反則が多すぎる」と口調が一変。「4年生の責任や。普段から試合を想定して、厳しく注意してないから、こういうことが起きる」「こういうことをやってはいかん、ということを練習の時から意識し、4年生が注意せなあかんのに、それができていない」と続けた。
 この日の反則は12回100ヤード。その多くがスタートに関係する反則とホールディング。普段、試合に出ているメンバーならあり得ないことだが、あまり試合経験がない上級生と、チームに加わってまだ2カ月ほどの選手たちが呼吸を合わせるのに苦労した結果だろう。
 どんなにメンバーを揃えても、試合は思い通りには進行しない。不用意な反則も起きるし、思わぬ失敗も起きる。それを一つ一つつぶしていくための上級生のリーダーシップと下級生の努力。その大切さ、重要性をこの日の試合は教えてくれた。普段、試合に出る機会の少ないメンバーが主役になるJV戦は、その意味でも貴重な機会である。
 欠けた点を補い、長所を伸ばす。いうは易く行うは難しい問題だが、この日の試合は、長所とともに、欠けたところも存分に浮き彫りにしてくれた。初めてまみえる北海道大学が得点差が開いた(最終的には47−0)にも関わらず、最後まで闘志を失わず、懸命に戦ってくれたおかげだろう。
 秋のリーグ開幕まで2カ月半。途中に前期試験があり、その準備期間も含めると、グラウンドでの練習ができる日は限られている。だからこそ1日1時間が大切になる。常在戦場。上級生、下級生に関係なく、一人一人が体力を養い、考えを巡らせて、本番に備えてもらいたい。
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2017年06月06日

(9)「完敗」と「最高」

 日曜日の「神戸ボウル」、パナソニックとの試合は24−10。スコアだけでなく内容的にも完敗だった。当日、会場で応援していたファイターズファンに聞けば、10人が10人ともそのように答えられるだろう。
 関学スポーツが伝えてくれる「試合後のコメント」を見ても、鳥内監督は「レベルに差があった。ライスボウルで勝負しょうと思うんやったら今のままではあかん」と発言されている。
 実際に戦った選手の言葉はさらに厳しい。井若主将は「よい点も悪い点もあったが、全体的にめちゃくちゃ悪い。1対1でも負けている。レベルが低いと感じた」、松本副将は「実力の足りなさを痛感した」、QBの光藤君は「相手のスピードについて行けない。想定以上の速さに対応できなかった」といっている。それぞれが本音であろう。
 けれども、僕はへそ曲がりである。試合は完敗だったと認めることはやぶさかではないが、それでもあえて「最高の試合だった」と主張したい。賛同は得られないだろうし、そんな甘ったれたことを言っているからダメなんだ、と叱られるかもしれない。けれども、たとえ負けゲームであったとしても、そこに光明を見つけるのが僕の役割だと思っているから、あえて自説を書かせていただく。ただの強がりといわれるかもしれないが、お読みいただければ幸いである。
 1、随所に素晴らしいプレーがあった。
 例えば、0−0で迎えた1Qの終盤、自陣21ヤード付近からの攻撃である。まずは光藤がWR松井に20ヤードのパスをヒット、次はRB山口が見事なカットで相手DBを抜き去り、25ヤード前進。次は光藤がランニングバックにボールを渡すと見せかけながら、そのままボールをキープして16ヤード前進。わずか3プレーで相手ゴール前20ヤードまで迫った。
 残念ながら、この場面は最後の詰めが甘くFGの3点にとどまったが、社会人選抜といってよいほどの強力なメンバーを揃えた相手を驚かせるに値する攻撃だった。その主役がそれぞれ3年生。まだ大学では実質2年、けがなどで戦列を離れていた期間を考慮すれば、それ以下の経験しかない。そんなメンバーが経験豊富なスター軍団を相手に一歩もひけをとらないプレーを続けたことに、僕は大きな手応えを感じた。
 2、オフェンスの下級生が踏ん張った。
 この日の先発に名を連ねたOLは左から井若、森田、光岡、松永、村田。4年生は井若、3年生は光岡、残る3人は2年生である。これまた大学でプレーしたのは実質1年かそれ未満という顔ぶれだったが、それが強力な相手ディフェンスに立ち向かった。もちろんずたずたに切り裂かれ、QBがサックを受ける場面が何度もあったが、逆に味方のRBのために走路を空ける場面もあった。3Qの終盤、自陣23ヤードからRB高松が77ヤードを独走してTDに持ち込んだのがその一つである。真ん中のレーンがきれいに開いていたから高松のスピードが生かされ、独走TDに結びついた。いくら相手が強くても、ラインがやるべきことを完遂すれば、道は開けることを実証した場面であり、下級生は大きな手応えを掴んだはずだ。
 3、レシーバー陣のブロックが素晴らしかった。
 例えば、上記、高松が独走TDを決めた時のWR松井のブロック。独走する高松に左から追いすがろうとする相手DBを追いかけ、走路をふさいでいたが、もう一人のDBが右から俊足を飛ばして追いかけて来るのに気付いた瞬間、右にコースを変え、即座に横からの強力なブロックで相手を仕留めた。そのスピード、判断力、そして強力なブロック。その場面をrtvの画面で再確認したが、何度見てもしびれる。昨年の立命館との試合でWR池永君がTDを挙げた時にも、似たような場面があったが、今度は競り合う相手が信じられないようなスピードを持った外国人DBだっただけに、余計に彼のポテンシャルの高さが光った。ファイターズ史上、最高のレシーバーになると監督が期待している通りの活躍であり、このプレーを見ただけで溜飲が下がる思いをしたのは、僕だけではあるまい。
 以上、3つの例を見ただけでも、このチームが可能性に満ちていることが理解してもらえるだろう。さらにいえば、この日は主力をけがで欠き、どちらかといえば交代メンバーで揃えたDL陣の健闘も素晴らしかった。最後は相手の個人的な能力に対抗しきれなかったが、彼らが着実に力を付ければ選手層が厚くなる。秋のシーズンが深まるにつれて、選手層の厚さが勝敗を分けることを考えれば、これもまたうれしい知らせである。
 問題は、試合の所々で垣間見たそうした素晴らしいプレーを、一つ一つの点で終わらせず、線にし、面にしていくことである。1対1でも勝ち、チームとしても勝つ。それをどのように実現していくか。チームの現在位置を明らかにし、これから進むべき道を明らかにしてもらえたと考えれば、「完敗」にも大きな意味がある。
 何度もいうが、ファイターズは発展途上にある学生チームである。完成形に近い社会人チームに悔しい敗戦を喫したとしても、そこに光明が見つかれば、それは負けではない。その一筋、二筋の光明を手掛かりに、今後、チームをどのように鍛えて行くか、個人個人の能力をどう高めていくか。勝負はそこにかかっている。めげている余裕ない。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:41| Comment(0) | in 2017 Season