2021年10月19日

(3)ライバルに育てられ

 ファイターズの前に京大が立ちはだかってきたのは、昭和50年前後。51年秋のリーグ戦ではファイターズが21ー0で破れ、互いに6勝1敗となった。甲子園ボウル代表決定戦ではファイターズが勝ったが、そのころから関西でのファイターズ1強の時代は終わりを告げた。
 その後、同志社や近大が台頭、関大も個性的なタレントを輩出したが、常にファイターズの前に立ちはだかったのがギャングスターズ。毎年のように覇を競い、互いにライバル心をむき出しにして戦った。時代が昭和から平成に移ったころからは、これに立命を加えた3チームが常にしのぎを削り合ってきた。
 最近でこそ、立命や関大との試合にも数多くの観衆が詰めかけるが、以前は京大との試合が、関西では一番のカード。今は西宮ガーデンズに姿を変えた西宮球場やその隣にあった西宮球技場での試合には、僕も仕事を放り出し、何度も足を運んだことを思い出す。
 そういう因縁を持つ京大との対戦。どんな展開になるのか、わくわくしながら応援したが、この日はいつもの年とは様子が違った。立ち上がりの2プレー目、エースRB前田が61ヤードを独走してTD。K小川が確実にキックを決めて7−0。続く相手攻撃を守備陣が完封した後、今度は前田と同じ4年生RB斎藤がハーフライン付近から一気に相手ゴールに走り込み、51ヤードの独走TD。わずか3プレーで14−0と突き放し、主導権を握った。
 長い間、ファイターズの試合を見てきたが、相手を問わず、立ち上がりの3プレーで2本のTDを奪う場面を見たのは初めて。エースRB二人がそれぞれの個人技で、相手デイフェンスを抜き去っていく姿に見惚れてしまった。
 二人はともに、2年生の頃から試合に出場。先輩の三宅君のスピードあふれるプレーをお手本に練習を重ねてきた。途中、それぞれけがをして試合に出られなかった時期もあったが、腐らず、落ち込まず、懸命に治療とリハビリに努め、3年生の時からは常時、試合に出場するメンバーとして活躍してきた。ともに三宅君の背中を追いながら、そのプレーを心に刻み、成長してきたといっても間違いなかろう。
 試合後、記者団からの質問を受けて、前田君がこんなことを言っていた。
 「ファーストシリーズでビシッと決めようと仲間で決めていた」「早いうちにどんどん攻めていこう。相手(オフェンス)には破壊力がある。取れるときに取り切らないと相手に勢いをつけてしまう」
 この言葉を聞いて「なるほど、さすがファイターズの副将。自ら率先してその言葉を実践した前田君もすごいし、それに負けじと奮起した斎藤君も素晴らしい。もっといえば、目の前で京大を相手に存分に走り回った先輩二人に刺激され、後半、2本のTDを奪い取った2年生の池田君も、いい勉強になっただろう」「こういう循環があるからこそ、ファイターズは人が育ち、それぞれが自らの長所を伸ばしていくのだ」と一人で納得した。
 納得と言えば、後半、次々と起用されたデイフェンスの交代メンバーの活躍も見逃せない。
 先発したのはLBが都賀(4年)と海崎(2年)、DBが竹原、永嶋(ともに4年)、山本(3年)、高橋(2年)だったが、点差が広がるのに合わせて、2年の波田や1年の日名が登場。相手QBの素早く強いパスに反応し、ブルドーザーのように突進してくるタフなRBに食らいついていった。
 残念なことに、攻守ともラインの交代メンバーについては確かめるゆとりがなかった。だから個々の名前は判明しなかったが、それぞれが相手の当たりの強さ、動きの速さに対する「公式戦ならではの感触」をその身体に刻みつけていることだけは確認できた。
 終わってみれば、45ー0。強烈なパスを投じ、走る力もずば抜けている相手QBに対し、守備陣は的確に反応して陣地を進めさせない。攻めてはQB鎌田のパスと、それを確実にキャッチする糸川、梅津、河原林らのレシーバー陣、それぞれ一発TDの威力をもったRB陣の走力。それをガードするOLやWR。点差が開いて、続々と交代メンバーが登場しても、それぞれここがチャンスと目の色を変えて相手に立ち向かった。
 その循環の中で先発メンバーはチームを背負う自覚と責任を新たにし、交代メンバーは自身の経験値を積む。
 強力な相手だからこそ、その試合から得られる経験値は大きい。それをこれからの練習でより確かなものにし、その成果を次なる試合で発揮してもらいたい。関大戦はすぐそこに控えている。
posted by コラム「スタンドから」 at 01:59| Comment(1) | in 2021 Season

2021年10月12日

(2)人が育ち、育てる環境

 ファイターズの活動は、今年もコロナ禍で大きな制約を受けている。春から夏、大阪府や兵庫県で感染者が激増したときは、そのあおりで大学の授業も制約を受け、一時は学内施設の利用も停止された。課外活動に起因していなくても、感染者が出て活動の一時停止を余儀なくされた団体もあると聞いている。
 フィターズもその余波は免れず、夏休み中の活動が一時、制約され、夏の合宿も全員参加ではなく、参加者をしぼって広島県内の施設で行われた。
 施設の利用時間も、大学当局から定められており、早朝の涼しい時間帯の個人・パート練習と、夕方涼しくなってからのチーム練習という形もなかなか実施できていない。コロナ禍の前までは、特定の部員を選んで合同練習前の練習をするのは普通だったが、いまはグラウンドを使用する時間自体に制限がかかっている。
 いざ、練習となっても、入場前には検温と手指の消毒をトレーナーが管理し、練習が始まっても、30分ごとに「クリーンタイム」を設け、全員に手指の消毒とうがいを励行させている。
 そうした制約があっても、身体能力を鍛え、チームとしてのプレーの精度を上達させるためには、チーム練習は欠かせない。1、2年生の時から、こうしたファイターズの流儀に馴染んでいる上級生にとっては、それもみな想定の範囲に入っており、独自の練習で補うこともできるが、全国的にコロナウイルスの感染者が拡大してからファイターズに加わった1、2年生にとっては、部活動のすべてが「非日常」。練習への取り組み、事前の準備、短い時間での集中的な練習など、自ら自覚して学ばなければならないことはいくつもある。
 しかしながら、先日の同志社戦では、1、2年生が先発メンバーや交代要員として何人も活躍した。高校時代までは他の競技に取り組み、アメフットは未経験だった3、4年生の活躍もめざましかった。
 前者では、先発メンバーに名を連ねた2年生のQB鎌田、WR鈴木、RT鞍谷、LB海崎、1年生のRG森永、DB永井がいる。交代メンバーとして鮮やかなキックオフリターンTDを決めたRB池田も2年生だ。
 高校時代は別の競技に励んでいたメンバーでは、先発メンバーとしてめざましい働きをしたLB都賀やOL田中は、ともに高等部時代は野球部。DB永嶋はテニス部、DB橋はサッカー部で活躍した選手だ。交代メンバーとして出場し、軽快な動きを見せたDB西脇は野球部、ゴール前まで46ヤードのパスをキャッチしたWR衣笠はサッカー部のゴールキーパーだった。
 そういう面々が限られた練習時間、なにかと制約の多い部活動の中で、どうして成長し、公式戦でも通用する技術を身につけてきたのか。僕が時々、第3フィールドにある「平郡君の記念碑」近くから見学させてもらっている練習風景からその一端を紹介したい。
 一つは、上級生が下級生に、足の運び方や腕の振り方、身の交わし方などを、自身のプレーを見せながら懇切丁寧に教えていること。例えばRBでは、常時、副将の前田やスピードランナーの斎藤が自ら見本を見せながら1、2年生にプレーの急所を伝授している。レシーバーも同様だ。いいプレーには上級生が惜しみなく拍手を贈って未経験者に自信を付けさせ、コース取りや相手デフェンスを抜き去る呼吸を指導している。
 監督やコーチが注意する前に、上級生が自分で模範を見せる。タイミングの取り方、足の運び方、手や腕の使い方など、プレーヤー同士だからわかり合える細かい部分中心にした教えであり、その教えを身につけた瞬間、下級生が生き生きと動き出す現場を、僕はしばしば目撃した。
 残念ながら、守備陣の個別練習の動きは、遠すぎて細かいところは全く見えない。けれども、チーム練習時には、サイドラインにいるメンバーが逐一、よかった点、改良すべき点をその都度、指導している。
 もちろん、監督やコーチも現場の一番近いところで選手の動きを見ており、急所急所で当の選手を呼んで、自ら動きの見本を見せながら足の運びや腕や身体の使い方を指導されている。
 3人のプロコーチはもちろん、大学職員として働きながらコーチの役割を担っておられる面々も、熟練者ばかり。学生時代からファイターズの流儀を身につけてこられたこの道の専門家ばかりだから、教え方もポイントを突いている。自分で動きの見本を示し、急所となる点を惜しみなく伝授されている。
 教える環境と学ぶ環境。それが相まって、選手が技術を磨き、自らの運動能力を開発していくファイターズという組織。
 僕は新聞記者として、高校野球の指導者らとは長く付き合ってきたし、その中には広く名の知られた方も少なくない。けれども、そういう有名人たちの指導と比べても、ファイターズの指導者のたたずまいは1段も2段も上に見える。現場を知り、選手たちに任せるところは任せて、全体としてチームのレベルアップを図る。長年の蓄積に基づくそういうやり方が自然に行われているのも、ファイターズの文化というのだろう。
posted by コラム「スタンドから」 at 19:13| Comment(1) | in 2021 Season

2021年10月05日

(1)わくわくするチーム

 ファイターズの2021年シーズンが3日に開幕。同志社を相手にパスオフェンスが炸裂し、48ー7で勝った。
 会場はたけびしスタジアム京都。僕にとっては西京極陸上競技場という名の方が分かりやすい。過去には、せっかく全盛期の立命戦で勝利しながら、最終の京大戦で自分たちのミスから黒星を喫し、甲子園ボウルの出場を逃がした試合の苦い思い出があるし、阪急電車の運行がストップしたため、高槻駅からJRとタクシーを乗り継ぎ、ギリギリで試合開始に間に合ったこともある。
 この日も、阪急神戸線の車中で「京都線は人身事故で運行を見合わせています」とアナウンス。仕方なく大阪駅からJRに乗って西大路へ、そこからタクシーでスタジアムにたどり着く。まずは一安心。
 いつも通り、場内だけに流れるFM放送で試合の実況をされる方々の隣に席を確保し、小野ディレクターの明快な解説を聞きながら、チームを応援する。
 ファイターズのキックで試合開始。守備の面々がパーフェクトに抑え、すぐに攻撃権を奪取する。自陣38ヤードからファイターズの攻撃が始まる。注目の第1プレーは、QB鎌田からWR糸川への短いパス。獲得したのは10ヤードほどだったが、これで初先発の2年生QBも落ち着いたのだろう。2プレー目は同じ糸川に長いパス。これが見事に決まってゴール前8ヤード。そこから2度目の攻撃でRB斎藤が6ヤードを走ってTD。永田のキックも決まって7ー0。いとも簡単に試合の主導権を手にする。
 ファイターズ2度目の攻撃シリーズは自陣12ヤードから。まずはRB前田と池田、斎藤が交代で陣地を進め、センターライン付近からは鎌田が同じ2年生WR鈴木に47ヤードのパス。一気にゴール前に迫り、仕上げは副将前田の中央ダイブ。永田のキックも決まって14ー0と引き離す。
 2Qに入っても、LB都賀を中心にした守備陣はアグレッシブな動きで相手を制圧。簡単には攻撃の糸口を与えない。逆にファイターズは手にした攻撃権を確実に得点に結びつける。
 自陣36ヤードから始まった2Q最初の攻撃。QB鎌田のキープなどでダウンを更新した直後に、鎌田からWR糸川に49ヤードのパス。それが見事に決まってTD。
 それを見た守備陣も奮起。相手パントをカットするDB山本の好守もあって絶好の位置で攻撃権を奪取。鎌田からWR河原林へのパスで陣地を進めた後、残る4ヤードをRB池田が走りきってTD。続く攻撃シリーズも斎藤や前田のラン、WR戸田や河原林ヘのパスで陣地を進め、仕上げは前田のTDラン。攻撃と守備がかみ合ったファイターズが35ー0とリードして前半終了。
 驚いたのは、後半最初のプレー。自陣28ヤード付近でキックを受けたRB池田がそのまま相手守備陣を振り切ってリターンTD。カバーチームの動きをよく見てコースを選び、そのまま走りきった走力と判断力に脱帽、という場面だった。
 池田だけではない。この試合を仕切った鎌田も、彼が投じた50ヤード近いTDパスをいとも簡単に確保し、ゴール前に迫ったWR鈴木も、第3Qに走力を生かして46ヤードのTDパスを確保したWR衣笠も2年生。鈴木以外の2年生は、昨シーズン、ほとんど出番のなかった面々である。これに、この日の先発メンバーに名を連ね、随所で非凡な動きを見せたDB高橋やRT鞍谷も2年生。とりわけ衣笠と高橋は高校時代、サッカー部で活躍し、アメフットは未経験だ。
 そんな面々が上級生に一歩もひけを取らない動きで魅了してくれた。いとも簡単に60ヤード以上のパスを正確に投じる鎌田を含め、こうした2年生がこれからの試合でも、チームの浮沈を左右する存在になるのは間違いない。
 さらにいえば、1年生のプレーにも目を惹かれた。先発メンバーに名を連ねた1年生DB永井は、春の試合でも闘志あふれる動きを見せていたし、途中から出場したRB伊丹も、僕が密かに注目している選手である。OLにも、この日先発した森永をはじめ元気のよい1年生のメンバーが何人かいる。秋のシーズンは短いが、これからも目の離せない面々であり、彼らが上級生を脅かすようになれば、さらに楽しみなチームになるに違いない。
 今季も、コロナ禍で様々な制約があり、チームとして十分な練習ができなかったと聞いている。僕自身、チームとの関わりは持ってきたが、夏休み以降は練習の見学を自粛し、ほとんど見る機会はなかった。
 それでも、新しい戦力は育っている。それを支えた上級生やチームの指導者に感謝し、次回からの戦いを注視したい。
posted by コラム「スタンドから」 at 22:34| Comment(2) | in 2021 Season

2021年01月05日

(15)敗戦の中に来季への希望

 新型コロナの感染拡大で東上できず、ライスボウルは西宮の自宅で観戦。テレビ中継を見ながらの応援となった。東京ドームでファイターズを応援することがかなわなかったのは、東京・有楽町駅付近で火災があり、新幹線が全面的にストップした年以来である。
 今年も当初は、現場で選手に声をかけ、声を張り上げて応援するつもりだったが、新型コロナには勝てない。「大都市圏への往来は避けるように」という勤務先の方針もあり、それを部下に指示する立場の人間として「自分だけは勝手にします」とはいえない。
 かくして、3日はテレビ観戦。しかし、もどかしい。一つ一つのプレーはしっかりと映し出してくれるのだが、ベンチの様子やプレーが始まる前、終わった後の選手の表情など、大事な情報が手に入らない。試合後にグラウンドに降りて、選手や監督、コーチと声をかわすこともできない。
 そんな状況で、コラムを書くのは難しい。第一、取材もせずに書くという行為自体が、自分にとって納得がいかない。
 そういう次第だから、今回はテレビに映し出された試合の様子、選手たちの表情などを見ての感想だけを書かせていただく。読者のみなさまにとっては、歯がゆいことだろうが、許されたい。
 感想の第一は、存分に資金を投入して人材を集めることのできる社会人チームと、厳しい入試を突破して入部しても、4年間で卒業してしまう大学生チームとの基礎的条件の差である。その差は年々開く一方。いまや練習への取り組みや戦術面での工夫だけでは埋め切れないところまで来てしまった。
 例えば、相手守備の最前列。そこには関西リーグで名を馳せた強力なラインが並んでいる。打倒!関学、を合い言葉に立ち向かってきた立命館や関西大学で主力選手として活躍した面々である。体重130`を超えるラインメンの圧力は半端ではなく、素早い動きが持ち味のQB奥野に圧力をかけ続けた。ランニングバックやレシーバー陣にも、名前を聞いただけで往事の活躍ぶりが目に浮かんでくるメンバーが数多く並んでいる。
 ファイターズで時代を画した強力な先輩たちも後輩たちとの対決を心待ちにしている。この日、相手側最初のTDを挙げたRBの望月や試合の流れを一変させるパントブロックを決めた平澤はその代表である。
 こうした豪華メンバーに対応するだけでもやっかいなのに、QBやDB、WRには、本場・アメリカで鍛えた才能あふれる選手たちが並んでいる。楽々と45ヤードから50ヤードのパスを通し、TDを重ねていくその姿を見ていると、戦術を工夫し、緻密な設計で試合を進めていくファイターズの戦いぶりが否定されたかのような気分にさえなってくる。
 それでも、ファイターズの面々はおめず臆さずに戦った。QB奥野が短いパスを通し、スピードとパワーのあるランニングバック3人を使い分けて陣地を進める。ベンチからの的確な指示もあって、相手の隙を突いたプレーが矢継ぎ早に繰り出される。立ち上がりの狙い澄ませた短いキックとそれをカバーしたLB都賀の機敏な動き。前半終了間際、RB三宅の84ヤード独走TD。それぞれが日頃の練習で取り組んできた成果である。
 パワフルな鶴留、スピードの三宅、パワーとスピードを兼ねそろえた前田。それぞれ特徴を持った3人のRB陣をフルに稼働させる作戦も機能し、とにもかくにも3本のTDを獲得した。相手の強力な守備陣を考慮に入れると、それだけでも大きな成果である。
 もう一つ、僕が注目したのは、守備の最後列に位置するDB陣である。秋のシーズンが始まった当初は、メンバーをそろえるのも難しかったようなパートだが、関西大会、甲子園ボウルと強力な攻撃陣を擁する相手と戦う中で下級生が経験を積み、試合ごとに動きが良くなってきた。
 この日も、体格が大きく、スピードもある相手レシーバー陣に振り回されながら、必死に立ち向かっていった。先発で出場した北川、竹原、宮城は3年生。山本は2年生、波田は1年生である。途中から交代メンバーとして投入された3年生の西脇、永嶋はともに未経験者。高校時代、西脇は野球部、永嶋はテニス部で活躍した選手である。そうした選手が持ち前のスピードを生かして相手のエースレシーバーに食いついて行く姿に、僕は感動さえ覚えた。途中、けがで退出した山本を含め、来季はこのパートがチームを引っ張っていく予感さえ抱いた。
 ことはDBのパートに限らない。オフェンスラインの4年生は副将の高木だけ。それ以外は3年生と2年生で戦った。レシーバーやランニングバックにも下級生に人材が揃っている。デイフェンスラインにも、この日活躍した2年生、小林や3年生の青木がおり、1年生にも有望なメンバーが何人もいる。
 そう、ここに学生スポーツの魅力があるのだ。年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず。ファイターズという花は毎年咲くが、それを咲かせる顔ぶれは毎年変わっていく。終始、相手に押される苦しい展開だったが、その中にあっても新しい希望が見えてきた。
 この敗戦を糧にした彼らが新しいシーズン、どんな風に成長し、どんなプレーを見せてくれるのか。そんな期待が抱けるからこそ、学生スポーツは面白い。来季のファイターズに期待すること大である。
posted by コラム「スタンドから」 at 14:38| Comment(4) | in 2020 Season

2021年01月01日

(14)充実の時、うれしい時間

 ファイターズの諸君にとって、今が一番充実している時ではないか。
 世間は大晦日だ、正月だ、カウントダウンだと浮ついているが、ファイターズにとってそれらは一切関係なし。3日に控えた社会人王者との決戦に向けて、ひたすら自分たちを高め、チームを最高の状態に持って行くための毎日である。
 大晦日も元旦も、ともに午前10時から練習開始。その1時間以上前からは準備運動を兼ねたパートごとの練習がある。通学に時間がかかる部員にとっては練習に参加するだけでも一苦労だ。
 けれども、当の本人にとっては、毎日が充実感でいっぱいだろう。今日はこういう風に頑張ろう、昨日の反省をこのように生かしていこうと考えながらの登校は、わくわくする時間であるに違いない。
 実際、練習が始まれば、社会人の王者を意識したプレーがどんどん投入される。チームの長所を生かし、短所をカバーするための工夫であり、練習である。練習のための練習ではなく、勝つための工夫を仲間とともに重ねていく日々。それはとてつもなく楽しく、充実した時間であるに違いない。日本にフットボールに取り組む学生は多くても、こういう時間を持てるのは俺たちだけ、という選ばれた人間だけが感じられる日々と言ってもよいだろう。
 都合のつく限り練習を見学させてもらっている僕にとっても、それは胸弾む日々である。関西大会では立命館大学、甲子園ボウルでは日本大学。ともに強力な陣容を備えたチームに勝利したからこそ得られたこの時間。ライバルチームがすべて来季を見据えてスタートしているこの時期に、今年度の陣容のままでさらなる高みを目指して練習に取り組む日々。その1分1秒を慈しむように練習に励む選手やスタッフの動きを見るたびに、心から「勝ってよかった。いまこの時、この練習が明日のファイターズにつながって行く」という実感を手にすることができる。
 俳人、高浜虚子に「去年今年(こぞことし)貫く棒のようなもの」という句がある。川端康成が戦後間もなく、この句を知って感嘆したことから、俳句関係者以外にも知られるようになった。
 鑑賞する人それぞれに受け止め方は違うだろうが、僕はこの句をファイターズに当てはめ「棒のようなもの」を「ファイターズ魂」と受け止めている。それがこの時期の練習からも培われているのだろう。
 他のチームにはなくて、ファイターズにだけ与えられたこの時間。それがどれほど貴重なことか。この10年間に甲子園ボウルに出場すること9回、そのうち大学王者になること8回。つまり、この10年間に8回も暮れから元旦にかけて「勝負に直結する」練習に取り組む機会を与えられているのがファイターズである。
 毎年のように優れた素質を持つ高校生が次々と加わってくるライバル校を相手に勝利を収めることができるのも、こういう充実した時間をこのチームがほぼ独占的に有しているからではないかと僕はにらんでいる。
 それは、ライスボウルという大きな舞台を前にしたメンバーに限らない。彼らの練習相手を務める控えのメンバーにとっても、貴重な時間である。守備のメンバーは、なんとかして先発メンバーが並ぶ攻撃陣を止めたいと知恵を絞り、攻撃の選手はこれまたリーグを代表する守備陣の穴をかいくぐろうと工夫する。そういう実戦的な練習の積み重ねが知らず知らずチームの底上げにつながり、新しい年度を迎えたときの力になっていくのではないか。
 時には、1軍のメンバーの練習が終わった後、短い時間ではあるが、JVメンバーだけが攻守に分かれて試合形式の練習をすることもある。普段は本番で先発するメンバーの練習台になるのが役割だが、この時ばかりは攻守ともにJVの1、2年生が先発として出場し、互いに相手を凌駕しようと力を出し合う。
 高校時代に華々しい活躍をしてきたメンバーもいるし、推薦入試でファイターズの門を敲いた選手もいる。高校時代は野球やサッカーなどに取り組んでいたが、ファイターズで日本一を目指したいと志願して入部したメンバーもいる。普段の年なら春に数回、JVメンバーが出場する試合が組まれ、そこで活躍した選手が秋には新しい戦力として登用されていくが、今季はコロナ禍ですべての活動が停止され、彼らにとっては、その能力を発揮する場面が極端に少なかった。
 それを補う意味もあってか、今季は社会人代表との決戦を控えたこの時期に、あえてJVのメンバー限定で、試合形式の練習を取り入れ、新しいシーズンに備えているのである。
 背番号を着けた選手はほとんどおらず、僕は交互に出場したQB二人の動きを追うことしかできなかったが、今はビデオ班が充実している。監督やコーチが後日、手の空いたときにこのビデオを見て、普段の練習では見えない部分まで細かくチェックし、来季のチーム作りの参考にされるのであろう。
 目の前の試合に集中するだけでなく、そんなときにも、新しいシーズンを見据えた準備を怠らない。年末年始の慌ただしいこの時に、こういう濃密な時間を持てるのも、シーズンの最後まで目標を持って戦えるチームにだけ与えられたアドバンテージであろう。それをとことん生かそうとするチームのたたずまいに接して、僕はファイターズというチームの奥の深さを改めて感じた。
posted by コラム「スタンドから」 at 21:54| Comment(0) | in 2020 Season

2020年12月19日

(13)人が育ち、人を育てる

 ファイターズのホームページに、甲子園ボウル表彰式の後、多彩なトロフィーを手に、壇上に表彰台に勢揃いした選手たちの写真がアップされている。主将の鶴留君を真ん中にして、向かって左から最優秀選手賞を授与されたRB三宅君、副将の海崎、繁治君、主将の右手には副将高木君、LBの川崎君、そして年間最優秀賞チャック・ミルズ杯を受賞した奥野君が並んでいる。
 これが2020年、コロナ禍の中で苦しみながら、学生界の頂点にチームを率いてきた主要な面々だと思って眺めれば、特別の感慨がある。試合で華々しい活躍をしたメンバーもいれば、普段からチーム運営に気を配り、それぞれの役割を果たしてきたメンバーもいる。けがなどで練習に加われない悩みを抱えつつ、それでもチームに貢献したいと僕に相談してきた選手もいる。
 その中で、今回注目したいのは背番号57、LBの川崎君である。昨年までは、2年生の頃から華々しい活躍をしてきた同じパートの繁治君や海崎君の陰に隠れたような存在だったが、今季は違う。彼ら2人がけがなどで練習が十分にできないときに、率先してパートを支え、自らを鍛え、後輩たちを鼓舞してきた。その努力が秋のシーズンに開花し、今季はすべて先発で出場。甲子園ボウルでも守備の要として、日大の強力なオフェンス陣に対抗してきた。
 甲子園のアルプス席でチームのFM放送を担当されていた小野ディレクターが放送の中で思わず「今のは川崎君ですか。成長しましたね。こういう風に4年生になってからでも急激に成長していく選手がいるというのが、ファイターズというチームですね」と、思わず名前を挙げて感嘆される場面があった。僕も全く同感だった。
 振り返れば、ファイターズには毎年、4年生になってから急激に成長した姿を見せてくれる選手がいる。昨年のチームでいえばDLの板敷君。シーズン後半からQBサックを連発。天下分け目の立命戦や甲子園ボウルの早大戦でも華々しい活躍をしてくれた。下級生の頃はけがに悩まされ、練習もおぼつかなかったWR阿部君も、3年生になって力を発揮し、4年生になってからは華々しい活躍を見せてくれると同時に、抜群の指導力を発揮した。今季大活躍した鈴木君や糸川君らもその薫陶を受けて成長したメンバーである。
 その前のシーズンではDBの荒川君やリターナーの尾崎君。それぞれの闘志を前面に出してプレー姿が、今も目に浮かんでくる。
 こうして、選手の名前を思い出し、振り返っていけば、ファイターズにはそれぞれの学年ごとに、最後のシーズンに思いっきり大きな花を咲かせたメンバーが必ず存在していることが分かる。チームに人を育て、人が育つ土壌があるからだろう。
 もちろん、下級生の頃から頭角を現し、卒業するまでチームを支え続けてくれる選手は多い。彼らは卓越したプレーでチームに貢献するだけでなく、自ら獲得した「技術」や「体験」を同期や下級生に惜しみなく伝授してくれる。仲間に教えることで、チーム内に競争相手が生まれては困る、というようなケチな考えを持った選手はいない。
 卒業後も、グラウンドに足を運び、アシスタントコーチとして後輩を見守ってくれる選手も少なくない。今季も、会社からの帰途、スーツに革靴という姿で上ヶ原のグラウンドを訪れ、運動靴に履き替えて後輩たちを指導している卒業生の姿を何回も見た。
 一方、コーチの多くは、大学の幹部職員。コロナ禍の中で、大学を運営するのに心血を注ぎながら、チームの指導にも一切手抜きはない。「コロナの流行以来、一切アルコールは口にしていない。もし、何かあれば対応しなければならないから、気持ちは24時間体制で働いている」というコーチもいるし、就業時間が終わった後、いったん、業務の手を止めてグラウンドに足を運び、チームの練習が終わった後、再び職場に戻って深夜まで仕事の続きに取り組む幹部職員もいる。
 先日、野暮用があって学院の財務課を訪れた時、親しくしている課長から「部長の熱心さには頭が下がります。僕らには、とてもできません」と聞いた。彼は水泳部のコーチをしているが、とても上司の真似はできないと言うのである。そういうコーチたちがプロのコーチである大村監督や香山コーチを助け、部員たちを公私にわたって指導されているのである。
 さらに小野ディレクターをはじめディレクター補佐の役割も大きい。ファイターズにはいま、宮本、石割、野原という3人のディレクター補佐がいて、選手たちの活動を支えている。それぞれが現役部員への指導や対外的な折衝、新たな人材のリクルートなどの「兵站部分」を担い、チームの根底を支えている。
 加えて、ファイターズOB会の支援も大きい。OB会費の納入率はなんと9割近い。「金は出すけど、口は出さない」という信念でチームを全面的に支援して下さる。今季、世間でマスク不足が騒動になっているときに、つてをたどって「ファイターズマスク」を特注し、それをまとめてチームに寄贈されたことがあった。その場面に居合わせた僕は「ここまで細やかな気配りができる組織は聞いたことも、見たこともない」と驚いたことを思い出す(その時、OB会長からいただいたブルーのマスクは僕の宝物である)。
 こうしたチームのたたずまいが、実は人を育て、人が育つ組織を形成しているのではないか。だから毎年、シーズンが終盤になってからも新たなチームの担い手が輩出する。その実績が後輩たちの励みとなり、それが新たな活力の源になっていく。関西大会を制し、甲子園ボウルで栄冠を勝ち得たのも、そういう裏付けがあってのことである。勝つべくして勝つチームといってもいい。
posted by コラム「スタンドから」 at 21:27| Comment(1) | in 2020 Season

2020年12月15日

(12)勝敗を分けた総合力

 コロナ禍で、開催さえ懸念された甲子園ボウル。日本大学と関西学院大学の決戦は、両者が存分に持ち味を発揮し、期待に違わぬ激戦になった。
 第1シリーズ。相手がファターズ陣奥深くに蹴り込んだボールを受けたリターナー木下が走り始めるとすぐ、目の前を交差したRB三宅にリバース。ハンドオフを受けた三宅が快足を飛ばして一気に相手陣21ヤードまで攻め込む。このチャンスをQB奥野からWR梅津へのTDパスに結びつけ、K永田のキックも決まってあっという間に7−0。
 観客は大喜びだったが、日頃、チームの練習を見る機会の多い僕にとっては、事前に準備してきた通りの展開であり、上ヶ原で積み重ねてきた練習が報われたとほっとする。
 ところが悪い予想もよく当たる。前評判通り相手OLの圧力が強く、ランプレーが止まらない。ラン、ラン、ランと押し込まれ、あっという間に同点。次の相手攻撃も、要所にスクリーンパスを混ぜた攻撃に振り回されて逆に14−7と逆転された。
 やっかいな相手だ、どうすれば止まるんだろう、と頭を抱えているのはスタンドのファン。だが、グラウンドの選手の士気は衰えない。RB三宅や前田の強力なランとQB奥野のピンポイントのパスで反撃し、仕上げは三宅のランでTD。永田のキックも決まって、あっという間に同点に追いつく。
 こうなると守備陣も落ち着き、相手の強力な動きに対応し始める。守備が落ち着くと攻撃も安定してくる。三宅と前田のラン、奥野からWR糸川や鈴木へのパスが次々と決まる。それぞれ相手守備陣の手が届かないコースへピンポイントに投じられるパスであり、日頃からともに練習を積んで仲間だからこそ確保できるボールである。
 前半終了間近には、第4ダウン、インチという状況でWR大村が相手ゴールに走り込みTD。21−14とリードして折り返す。
 後半に入っても、ファイターズの意気は軒昂。攻撃がミスをすれば守備がカバーし、守備陣が踏ん張れば攻撃陣がそれに呼応する。そういう好循環の中から、今度は鶴留、三宅、前田とそれぞれ異なる特徴を持ったランナーが各自の特徴を生かした走りで陣地を進める。最後は三宅が3ヤードを走りきって28−14。
 ようやく一息、と思った瞬間、落とし穴が待っていた。日大のエースランナーが一気に78ヤードを独走してTD。球場の雰囲気を一変させる。
 やばい。なんとか雰囲気を変えてくれと祈るような気持ちで迎えたファイターズの攻撃シリーズ。そこで今度はRB三宅が独走のお返しという場面を演出する。しかし、その前に手痛い反則があり、せっかくの独走が取り消し。ヤバイ!の2乗である。
 迎えた第3ダウン。観客は浮き足だったが、選手は慌てない。奥野が普段通りに鈴木へピンポイントの長いパスを通して相手陣37ヤード。しかし、次のシリーズ。相手にQBサックを食らって第3ダウン、ダウン更新まで18ヤードという厳しい状況に追い込まれた。それでも奥野が鈴木へのパスをお約束のように通し、仕上げは奥野から糸川への24ヤードTDパス。どれもこれもピンポイントの難しいパスだったが、練習時から常に呼吸を合わせている鈴木と糸川が確実にキャッチし、7点を追加して相手に傾きかけていた流れを取り戻した。
 終わってみれば、42−24。守備の1、2列はスピードで相手の強力なラインに対抗し、攻撃陣は互いに協力し合って相手の突入を食い止める。下級生でそろえたDB陣も、必死に相手ランナーを追い、パスに食らいつく。相手の動きと傾向を分析したベンチが的確な指示を出し、それに呼応した守備陣が相手のダウン更新を許さない。
 そうなれば、攻撃陣も準備してきたとっておきのプレーを確信を持ってコールできる。それが成功するたびに、相手は疑心暗鬼となり、ファイターズの動きに過剰に反応してしまう。
 そうした積み重ねと、ファイターズ攻撃陣の複雑な動きが相手守備陣を惑わす。その間隙を突いて、奥野がギリギリのパスを投じ、レシーバーが練習通りにキャッチする。この循環が始まれば、ファイターズのペース。後半の得点差は、実力の差というよりは、ベンチと分析班を含めた総合力の差が結果に現れたと考えてもいいのではないか。
 関西大会で攻守ともに強力な陣容を整えた立命館に勝ち、甲子園ではこれまた強力なラインと豊富なタレントをそろえた日本大学に勝利する。それは、こうした準備と総合力において、多少なりともファイターズが上回っていた結果と言ってもよいだろう。
 試合はグラウンドに出ている選手だけで戦うモノにあらず。監督やコーチはもちろん、ビデオによる相手チームの分析から、当日の彼我の選手の動きのチェックまで、すべての担当者の冷静で、地味な努力があって初めてグラウンドの選手たちが花開く。
 試合後、大村監督やオフェンス担当の香山コーチから彼我の力関係を中心にした冷静な分析を聞きながら、なるほど、なるほどとうなずき、アメフットはどこまで行っても準備と総合力の勝負であると実感した。
posted by コラム「スタンドから」 at 21:01| Comment(3) | in 2020 Season

2020年12月03日

(11)文と武が助け合う

 13日に迫った甲子園ボウルを前に、チームの練習風景を報告したいところですが、うかつなことを書いては内部情報の暴露にもなりかねません。かといって、決戦当日までこのコラムを更新しないというのも、芸のないことです。
 そこで今回は一つ、ファイターズに関するクイズを提出します。多分、出題者(つまり僕のことです)以外には誰も解けないのではないでしょうか。
 問題=今季ファイターズの主将鶴留輝斗、主務末吉光太郎、AS島谷隆也、副将高木慶太、WR高木宏規、AS前川空、RB三宅昂輝、トレーナー萩原楓と8人の名前を並べて見ました。さて、ファイターズの部員であるということ以外に、この8人に共通することは何でしょう。
 ヒント=この8人にプラスしてオフェンスコーディネーターの香山俊裕さんやアシスタントコーチの池田雄紀さんの名前を加えて考えて下さい。余計に分かりにくくなるかもしれませんが、正解が分かれば、なんだ、そんなことだったのかというようなことです。
      ◇    ◇
 と、大げさな前振りをしましたが、正解は全員、大学で僕の授業(文章表現)を履修し、それぞれ立派に単位を取得してくれたメンバーであるということです。
 僕は関西学院で昨年の春まで10年余り、非常勤講師として週に1回、(どの学部の学生にも開放されている)「文章表現講座」を担当していました。講座は2コマ、定員はそれぞれ20人。自分でいうのも何ですが、なかなかの人気講座で、毎回二つの講座にそれぞれ80人〜100人の申し込みがありました。
 事務局の担当者が抽選で受講生を決めるのですが、その際(例えばファイターズの学生だからよろしくといった)情実は一切なし。くじ運のよい学生だけが受講できる講座でした。上記の8人はその狭き門を突破して履修してくれたメンバーです(香山氏と池田氏は10年ほど前に社会学部で担当していた講座ですから、少し事情が異なります)。
 なんせ、2コマ合わせてわずか40人の受講生です。彼、彼女らに毎回、800字の小論文を書かせ、それを添削して返却するのが中心の授業でしたが、文章を紡ぐ者とそれを添削する者の関係は、互いに思ったこと、考えたことを(文章を通じて)ぶつけ合いますから、あっという間に距離が近くなります。
 例えば授業で「あいつだけは許せない」といった題を出せば、それぞれの成長過程で出会った「許せない」ことについて、具体的な事例を挙げ、その場面を描写しながら、「だからあいつを許せない」とか「その時はめちゃくちゃ腹が立ったけど、いまは自分にも足りないことがあったと反省している」などという言葉を連ねて800字の文章をまとめ上げてくれます。「思い出に残る本」という題を出せば、高校時代に読んで共感した本や練習の合間に読んだ本のことなどを生き生きと書き込んでくれます。
 そうした文章に僕が青ペンでチェックを入れ、少し言葉を足したり、逆に削ったりしながら、より分かりやすい表現になるよう具体的にアドバイスしていくのです。
 そういうやりとりをしていると、受講生と講師の距離は一気に縮まります。彼らが紡ぎ出した文章を手がかりに、より文章の内容を鮮明にしたり、分かりやすくしたりする作業を通じて、受講生は新たな発見をし、自分との対話を深め、文章を書くコツをつかんでいきます。その繰り返しの中から「自分は今、本気でこの授業に取り組んでいる」という実感を手にし、いい点数がついた時の喜びを自分の胸に刻みます。その繰り返しの中で、文章を書くことや本を読むことに対する抵抗感が解消され、気がつけば受講前よりもはるかに高いステージで物事を考え、表現する力を身につけていくのです。
 たかが3カ月、12回ほどの授業ですが、そういう場を共有した部員たちが、ある者は主将として、ある者は主務として、またある者はエースランナー、AS、トレーナーとして、今年のチームを牽引し、支えてくれたのです。こんなにうれしいことはありません。
 ことは僕が担当した受講生に限りません。それぞれの部員がそれぞれのやり方で授業と課外活動の両立を心掛け、大学生としての本分を尽くしてきたことが自らの力量を高めることにつながり、結果として強力なライバルを倒す要因にもなったということでしょう。
 学業と課外活動を両立させ、その努力を支えにしてプレーヤー、スタッフとしての活動に突き進む。褒めすぎかもしれませんが、たとえ短い時間とはいえ、授業を通じて彼らの成長の一端に関わった者として、こうしたことも一度は報告しておきたいと考え、あえてこの時期に紹介させていただきました。
 いわば、文と武の双方を追求し、双方が互いに助け合う形で自らの力を引き出し、伸ばしてきたのが彼、彼女らです。それは他の講義を受講し、苦労して文武の道を歩んでいるほかの部員にとってもいえることでしょう。
 これからも本を読むこと、考えること、それを文章にすることが自らを高め、成長させると信じて努力を続けて下さい。まずは目の前の甲子園での活躍を祈っています。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:18| Comment(1) | in 2020 Season

2020年11月30日

(10)諦めない、絶対に

 「勝負は下駄を履くまで分からない」という言葉がある。それはその通りだが、この言葉のポイントは、それに続く「だから、どんなに苦しくても諦めたらあかん」にある。
 28日、万博記念競技場で行われた立命館大学との決戦がま、さにその言葉を証明するような試合だった。
 関学のキック、立命のレシーブで始まった試合は、立ち上がりから立命館のペース。強力なラインがファイターズ守備陣に圧力を掛け、主将の立川がパワフルな走りで陣地を稼いでいく。わずか6プレーでゴール前10ヤード。そこで投じられたパスをDB北川が奪い取り、なんとかピンチをしのぐ。
 しかし、相手の勢いは止まらない。相手陣39ヤードから始まった次のシリーズもパワーで圧倒し、わずか10プレーでTD。ゴールも決まって7−0。
 なんとか挽回したいファイターズだが、なんせ相手の守備陣が強力だ。ライン戦を支配し、ファイターズの強力RB陣に走る隙を与えない。それでも怖めず臆せず、守備も攻撃も相手に立ち向かっていく。
 守備の第一列が相手QBに襲いかかって攻撃を食い止めると、ファイターズはRB三宅、前田のランで陣地を進める。仕上げはQB奥野からWR鈴木へのパスでTD。普段から「僕ら仲がいいんです」と公言し、常に行動を共にしているコンビが息の合ったところを見せる。K永田のキックも決まって同点。苦しい試合を振り出しに戻す。
 しかし、地力のある相手は一向に動じない。第3Qの第一プレーでファイターズのパスを奪い取ると、わずか3プレーでTD。再び14−7として主導権を握る。守備陣はパスを奪い取り、攻撃陣は強力なランアタックで前進する。
 なんとか追いつきたいファイターズは、自陣9ヤードから粘り強く攻め続ける。三宅、前田、鶴留という3人ランナーを使い分け、合間に鈴木へのパスを織り込んで、なんとかFG圏内まで持ち込み、永田のFGで14−10。TD一本で逆転というところまで持ち直す。
 これに守備陣が応える。続く相手の第一プレー、QBが投じたパスをDBの2年生山本がインターセプト。直ちにファイターズに攻撃権を取り戻す。TDにはつなげられなかったが、それでもK永田が冷静にFGを決めて14−13。1点差にまで追い上げる。
 しかし、そこで立命の攻撃陣が覚醒。主将立川のランでぐいぐいと陣地を進める。守備陣は相手の攻撃パターンが予想されていても、それが止められない。相手陣12ヤードから始まった攻撃はラン、ラン、ランと進み、あっという間にゴール前4ヤード。ファイターズが知能と体力、精神力の限りを尽くして手にした6点があっという間にひっくり返される場面に直面した。
 残り時間は4分少々。ここでTDを決められると、勝敗はほぼ決まってしまう。
 「あかん、なんとか踏ん張ってくれ」と神に祈るような気持ちで見ていると、やってくれました。DB竹原が相手が投じたパスを狙い澄ませたようにゴールライン際で奪い取り、絶体絶命のピンチを逃れた。
 そこから互いにパントを蹴り合って迎えたファイターズの攻撃。しかし、ボールは自陣32ヤード。残り時間は1分42秒。タイムアウトはあと1回。ここで奥野が選んだのは、日頃からともに練習しているレシーバー陣。鈴木への長いパスをピンポイントで決めて、相手ゴール前32ヤード。そこから糸川、鈴木に連続してパスを決め、ゴール前9ヤード。その後は、これまた信頼するRB前田と三宅にボールを渡して時間を進める。FGに一番都合のよい場所にボールを持ち込み、すべてを永田に託す。
 このキックが成功すれば、逆転勝ち。失敗すれば、地獄を見る。そういう場面で永田がしっかり足を振り切ってボールを蹴り、見事なFGがゴールポストの真ん中を抜けて行く。
 素晴らしい勝利だった。
 しかし、それはチームの全員が最後まで諦めずにプレーした結果だった。相手に圧倒されて不利な局面になっても、絶対に諦めず、仲間を信じて自分のプレーをやりきる。相手の力が上回っていることを目の前で見せつけられても、ファイターズで培ってきたことを信じて、黙々と自らの務めを果たす。グラウンドに立つ11人が常に結束して相手に立ち向かい、自らの能力を最大限に発揮する。
 そういう姿勢があったからこそ、終始押しまくられていた戦局を挽回し、自分たちのフィールドにすることができたのだろう。
 こういう「無私の精神」「無私のプレー」の積み重ねに勝利の女神が微笑んだ。泥臭くても美しい勝利である。おめでとう。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:44| Comment(2) | in 2020 Season

2020年11月25日

(9)濃密な時間

 このところ、西宮に帰宅するたび、近所におわす神々にお参りし、お祈りを捧げている。一番身近なのは、旧段上村の若宮八幡神社。立派な松林に囲まれた静かなたたずまいの「お宮さん」であり、散歩の途上に立ち寄っては、賽銭を投じてファイターズの勝利を祈っている。
 子どもの頃、わが家のすぐ裏手の山にも「戦いの神様」として近所の人たちから信仰されていた八幡さまがあり、正月の注連飾りを奉納するのがわが家の役割だった。小さなお宮だったが、毎年1月19日には餅撒きもあり、田舎の小学生にとってはそれが一大イベント。そんな頃から親しんでいる神様だから、いまだに願い事となれば、まず八幡神社が思い浮かぶ。
 もう一つのお宮は仁川の弁天池に近い高台にある熊野神社。現在、僕が働いている和歌山県田辺市におわす熊野本宮大社とのご縁もあって、これまた散歩の途上にお参りするのが楽しみだ。住宅街の中にあるとは思えないほどの雰囲気のあるお社であり、急な階段を上るだけで、世俗の塵が払われていくような気持ちになれる。
 ここでもお祈りするのはファイターズの勝利。なんだか節操がない気もするが、もう一つ関西学院大学の学生会館から第3フィールドに向かう途中にある上ヶ原の八幡様にも、もちろん頭を下げる。ここは第3フィールドが開設されて以来、毎年この時季にお参りしている地元の神様であり、不信心者の僕でも、特別に気合いが入る。
 そして仕上げが第3フィールドを見晴らす平郡君の記念樹と彼への誓いの言葉を記した銘板。その言葉をじっくり読み上げ、在りし日の彼を偲びながら、彼がいまも勝利に向かって全力で取り組んでいる後輩たちを見守ってくれていることに感謝の気持ちを捧げる。
 彼こそ僕がファイターズを目指す高校生に小論文の指導を始めた第1期生。今は追手門学院で教鞭をとっている池谷君とともに、朝日新聞大阪本社の喫茶室や地下の食堂でケーキとコーヒー、あるいは紅茶を注文して勉強会を重ねたのも懐かしい思い出だ。
 彼もまた黄金期の立命館を相手に「打倒立命」を胸に刻み、全身全霊で立ち向かっていった勇士である。顔つきはとてつもなく柔和だが、いったんグラウンドに出れば、ファイターズと言う言葉が誰よりも似合う彼のことを思い出すと、懐かしく、また胸が熱くなってくる。
 なんだか、話が脇道にそれてばかりだが、本筋に戻る。
 11月28日、今週土曜日は、待ちに待った立命館との決戦。4年生はもちろん、チームの全員が待ち望んでいた戦いであり、この1年間のすべてをぶつける試合である。
 今季は新型コロナウイルスの感染拡大で練習はもちろん、課外活動のすべてが長期間、停止される事態に直面したが、それでも選手・スタッフ、そして監督・コーチを中心にしたチーム関係者の努力、それに物心両面で支援していただいたOB会の協力で、なんとか関西リーグの頂点を競うところまでこぎ着けた。
 その間、練習時間やグラウンドに入れる人数の制限など部の活動には数々の制約があり、チームの全員がかつてない苦境に立たされた。その制約は現在も続いている。例えば、練習の途中、一定の時間ごとに全員に手指の消毒を義務づけているのもその一つ。せっかく練習が盛り上がってきたところでそれを中断。全員が新品のマスクを着用し、オフェンスとディフェンスのメンバーが分散して消毒に向かう行列を見るたびに「本当に大変だ」という気持ちになる。
 そうした苦労をすべて乗り越えて迎える決戦である。前例のない1年間、耐えに耐えてきた濃密な時間をぶつけてもらいたい。目の前に立ち塞がる強敵に一歩も引かずに戦ってもらいたい。
 練りに練った戦術もあるだろうし、相手の分析もそれなりにできているだろう。けれども相手もそれ以上に準備を整えているはずだ。ここ20数年間の両チームの戦いを思い出せば、そうは簡単に勝てるチームではない。
 そんな強力なチームを相手にどう活路を開くか。全員が結束し、火の玉になって立ち向かうしかない。過去には、絶対的に相手が有利と言われた状況を跳ね返して勝った学年もあるし、逆にちょっとした手違いで敗れた学年もある。リーグ戦で苦汁を飲まされながら代表決定戦で勝った試合もいくつもある。不思議の負けはあっても、不思議の勝ちはない。勝つべくして勝つためには、チームに名を連ねるメンバー全員がそれぞれの役割を果たせるかどうかにかかっている。
 まだ、時間はある。互いにもたれ合うことなく、全員が最後の最後まで準備を徹底し、詰めるところを詰めて、試合に臨んでもらいたい。濃密な時間を重ねれば、その分、喜びも大きくなるはずだ。存分に戦い、存分に勝ってもらいたい。天に向かって拳を振り上げ、勝利の雄叫びをとどろかせてもらいたい。
 健闘を祈る。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:32| Comment(0) | in 2020 Season