2018年10月16日

(22)ファイターズと校訓

 先週末、チームの練習を見せてもらって、素人目にも、何かが変わったという印象を受けた。どういうことか。思いつくままに書いてみよう。
 一つは、ゲーム前の練習の密度が濃くなったように見えたことである。それは僕が見学した日だけかも知れないが、例えばQBとレシーバーの練習前の自主練では、QB3人が実戦を想定したパスを次々と投げ込み、それをレシーバーが全力でキャッチする。そのテンポとパスの精度が甲南戦の前よりもはるかによくなっていた。
 二つめは、練習開始となってからの動きの強度が一段と上がったように見えたこと。例えばレシーバーがダミーを持った選手を跳ね上げる場面。味方同士の練習であり、通常なら当たった瞬間に力を抜き、受け手のダメージを少なくするのだが、この日の4年生は全く力を抜かない。基本に忠実に、実戦通りのスピードで受け手にぶつかり、全力で押し上げる。
 受けた方はあまりにも強い当たりを受けきれず、仰向けに倒れ、信じられないという表情をしている。これぞ、実戦を想定した練習である。その場面を目のあたりにした選手全員がその一瞬、凍りつき、グラウンドの空気がピーンと張り詰めた。サイドラインから見ていても分かるほどだから、当の選手たちは全員、練習のギアが一段と上がったことを身にしみて感じたに違いない。
 三つめは、試合に出るメンバーとJVのメンバーが敵味方に分かれて進めるチーム練習である。それぞれの担当コーチやアシスタントコーチが一つ一つのプレーに口を出し、アドバイスを送る場面が一気に増えた。リーグ戦がスタートして4戦目までは、そこまでの緊迫感は見られなかっただけに、いよいよ決戦の時だとぞくぞくした。
 もう一つある。これはチームの練習内容とは直結しないが、グラウンドに通じる階段が練習前に美しく掃き清められていることだ。知る人ぞ知る話だが、この階段は練習が終わった時にはいつも、恐ろしく汚くなる。グラウンドに敷き詰められている人工芝のピッチが選手のスパイクに付着し、それが階段に落ちるからだ。
 それを練習前、丁寧に掃き清めているのが主務の安西君。先日、たまたま、練習開始の1時間半ほど前に出掛けたら、一人、黙々と掃除している姿を見掛けた。聞けば、みんなが気持ちよく練習に参加できるようにと思って、毎日、練習前の掃除を心掛けているそうだ。「幸い、単位も取れているので、授業に出る必要がない。主務の仕事をやりくりすれば、掃除の時間は捻出できますから」という話だった。
 そういえば、先日、僕はこのコラムに「試合前の練習後には決まって部員全員がグラウンドのごみを拾う。グラウンドを美しくした上で試合に臨む」と書いた。その中に、溝の掃除を除いて、と書いているのを見つけた光藤主将が安西君を誘って、二人で溝掃除をしたそうだ。これもまた、日々、当たり前のようにグラウンドを使用できることに感謝している部員たちの気持ちの表れだろう。そういうことを下級生ではなく、チームのリーダーである4年生が率先して実行するところにファイターズの真実がある。
 話は飛ぶが、関西学院のスクールモットーは「Mastery for Service」である。その言葉は通常「奉仕のための練達」と訳されるが、1915年、ベーツ先生(後に4代目院長に就任)は学生たちに向かって演説する中でその意味について「人は富や財産のためではなく、広く社会に奉仕するために生きている。そのためには自らを鍛え、強くあらねばならない。弱虫はいらない」といった説明をされている。
 いま、ファイターズの諸君が日々、ストイックに取り組んでいることは、その校訓の実践に他ならない。そう僕は考えている。
 主将が率先してグラウンドを周る溝を掃除し、主務が毎日のように箒を手にグラウンドへの階段を清掃する。試合に出る4年生のメンバーは、たとえ仲間内であっても本気の練習を普段から心掛ける。レシーバーもクォターバックも、練習開始のずっと前からグラウンドに出て営々と実戦練習に励む。
 これらはすべて弱虫はいらない、強くあらねばならない、有能であらねばならない、という強い覚悟があるからこそではないか。その意味ではファイターズの諸君は日々、ベーツ先生の校訓を実践している面々であると言い切ってもよいだろう。
 こういうストイックな取り組みを、当然のように実践できるところがファイターズの魅力であり、だからこそグラウンドでも躍動できるのだと僕は信じている。今週、金曜日の京大との戦い、それに続く関大、立命との戦いで、その成果を見せてもらいたい。健闘を期待する。
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2018年10月10日

(21)強いチームと並のチーム

 関西リーグ第4戦。甲南大との試合は、ファイターズの二つの側面を浮き彫りにした。攻守ともに勢いのあるメンバーを並べた前半のチームと、交代メンバーが次々と登場した後半のチームでは、その試合振りがまるで別のチームのように見えた。名付けてみれば、強いチームと並のチームである。
 試合経過を見れば、このことは即座に理解できる。
 ファイターズのレシーブで試合開始。自陣25ヤードから始まった第1プレーでは、RB中村が中央をついて4ヤード前進。続いてQB奥野からWR阿部へのパスでダウンを更新。続く第3プレーでRB渡邊が中央を突破。そのまま61ヤードを独走してタッチダウン。K安藤のキックも決まって7−0とリード。キックオフからわずか3プレー、消費時間でいえば1分ほどで試合の主導権を握った。
 守備陣もこのリズムを崩さない。わずか3プレーで相手をパントに追いやり、相手陣33ヤードから再び攻撃権を手にする。
 これに呼応して攻撃陣も勢いよく攻め込む。奥野から阿部やWR鈴木へのミドルパスが続けさまにヒット。ゴール前3ヤードに迫ると、今度はRB三宅が左サイドを駆け上がってタッチダウン。
 続く相手の攻撃では、相手がファンブルしたボールをファイターズ守備陣が素早くカバーし、相手陣48ヤード付近で攻守交代。即座に奥野からWR小田へ45ヤードのパスがヒットしてゴール前5ヤード。今度はRB中村が中央を抜けてTD。思わぬターンオーバーで相手守備陣が混乱している隙をついたリズミカルな攻撃でリードを広げる。
 ファイターズ4度目の攻撃も、奥野から阿部へのパスから始まり、RB陣のパワープレー、奥野のキープなどで簡単に陣地を進める。ラインがしっかり相手を押し込んでいるからこそであろう。仕上げはWR鈴木へのパスで4本目のTD。第2クオーターが始まったばかりというのに28−0とリードを広げた。
 この間、守備陣は相手の攻撃をことごとく押さえ、即座に攻撃権を奪回。オフェンスもまた4回の攻撃シリーズをすべてTDで締めくくった。理想の展開であり、強いファイターズという形容がぴったりだった。
 ところが第2Qの途中から、徐々に交代メンバーが出場し、QBも西野に交代したあたりから様子が一変する。パスは通らず、ランも進まない。守備陣も、二人のQBを交互に入れて攻め込んでくる相手に振り回されるようになる。強いチームが並のチームになってしまったのである。
 結局、後半のTDは第4Qに渡邊とRB富永のランで挙げた2本だけ。立ち上がりの勢いのある攻撃はどこへ行ったのか。パスの成功率が一気に下落してしまったのはどうしてか。僕の頭の中には、消化不良のままの疑問がいまも残っている。同時に、こうした並のチームで、無敗で前半戦を切り抜けてきた立命や関大のタレント軍団に対抗出来るのか。そんな疑問が次々と噴出してきた。
 そこで試合後、新聞記者のインタビューの隙を見て鳥内監督に質問。試合の感想と、今後の練習への取り組みなどについて聞いた。
 次のような断片的な言葉が返ってきた。
 「攻守とも、4年生にどれだけの危機意識があるかとうことですね。もっと危機感を持って練習せなあきません」「練習はしているようだけど、それが勝つための練習になっているのかどうか。4年生はいつもそう問い掛け、工夫をしていかなあきません」
 毎年、新たな人材を発掘し、その人材が大事な試合を任せられるかどうかを常に気にかけている監督ならではの言葉だった。
 光藤主将が率いる今季のファイターズは強いチームなのか、それとも本当に強い相手から見たら並のチームなのか。
 僕にはまだ、答えは出せない。分かっているのは、アメフットは先発メンバーだけでは戦いきれないということ。まずは交代メンバーの底上げを図らなければならないこと。そのためには、グラウンドに立つ全員が高い意識と目的を持った練習を徹底すること。日々の練習から本番を想定し、それに向かって全力を出し切ること。そうした点に注目するしかない。
 そう考えた上で、今週末は上ヶ原のグラウンドでの部員の動きをしっかり目に焼き付けてみたい。けがから回復途上にあるメンバーを励ますことも忘れないようにしよう。
 次節から始まる3試合は、チームに属するすべての人間の本気度をあぶり出す戦いである。言い訳は通用しない。やるか、やられるか。そういう戦いである。それに向かって、部員全員がどこまで集中できるか。
 先発メンバーはもちろん、交代メンバーたちの動向から目が離せない。
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2018年10月03日

(20)報告を一つ

 先日、自宅に送られてきた関西学院同窓会の「母校通信」と2018年の「ファイターズイヤーブック」に、それぞれ興味深い数字が紹介されていた。
 母校通信では、副学長、小菅正伸副学長と小野宏総合企画部長(ファイターズのディレクターという方が分かりやすいかもしれない)との対談の中で紹介されている「2017年度有名企業400社の就職率」(サンデー毎日調べ)にある関西学院大28.4%という数字である。大学通信の調べでは「トップは一橋大の58.9%で、関学は
全国20位。関西では阪大、京大、同志社に次いで4位」とランクされている。
 これだけでも、鼻が高いのに、ファイターズのイヤーブックでは、東洋経済が調べた2018年度「人気企業300社」に就職したファイターズの卒業生は71%に達していることが紹介されている。同じ調査ではないから、単純に比較することはできないが、大学全体では日本で一番の実績を誇る一橋大よりも、ファイターズの諸君の方が人気企業への就職率が高いというのだ。
 すごい!と驚かれる方も多いだろう。もっと驚くのは、こうした実績を1年や2年ではなく、毎年のように積み重ねていることである。ここ数年はずっと人気企業300社への就職率は7割前後で推移しているというから、就活に四苦八苦している一般の学生にとっては驚愕(きょうがく)という言葉しかないだろう。
 今季、練習と試合の合間を縫って就活を続けてきた4年生の実績(一部、留年中の5年生を含む)の実績も素晴らしい。僕が知るところでは三井物産、東京海上日動火災、三井住友銀行、富士通にそれぞれ3人。三菱UFJ銀行、野村證券、ファーストリテーリング、ニトリに各2人。ほかにも三井住友海上、旭化成ホームズ、帝人フロンティア、三菱電機、富士フイルム、コクヨ、ソフトバンク、池田泉州銀行、キャノン、サッポロビール、第一三共、日本航空、本田技研工業、日立製作所、長瀬産業、住友電工、博報堂DYデジタル、伊藤忠、日本生命、川重商事、新日鐵住金、メタルワン、第一生命、リンクアンドモチベーションなどの人気企業から続々と内定をもらっている。
 来春卒業予定の4年生は45人。うち10余人は留年し、来年の就活に挑むという。その結果、「来春に卒業を予定している全員が内定をもらっています」というから、さすがファイターズというしかない。
 驚くのは、こうした実績をたたき出したのが有名選手だけでなく、マネジャーやアナライジングスタッフ、トレーナー、中高の学生コーチまでを含めた部員全員であること。選手もスタッフも関係なく、全員がファイターズの構成員として練習に励み、自覚を持って就職活動に取り組んできた成果であることが誇らしい。
 一部のスター選手だけに光が当たるのではない。それぞれの部署に分かれ、責任を持ってその任務を果たす中で人間的に成長し、その姿を企業の採用担当から評価されたからこその実績である。ここにファイターズの真価がある。
 もちろん、ファイターズというチームに対する高い評価が大きな力になっていることは間違いない。人気企業に勤めている先輩たちの活躍振りを通じて、ファイターズという組織の底力が評価されたという側面もあるだろうし、後輩のために何かと相談に乗って下さった先輩諸氏のご協力も大きかったに違いない。
 僕も今春、新4年生が就活の準備を始める春休みに、就職希望者全員を対象に「チャーミングなエントリーシートの書き方」というテーマで、勉強会の講師を担当した。希望する部員には、エントリーシートの作成について具体的な指導や添削作業もした。
 その昔、朝日新聞社で入社試験の小論文の採点委員や面接担当を何年も続けた経験と、この10数年、関西学院大学で非常勤講師を務め、「文章表現論」を担当している経験を生かして、懇切丁寧に「内定に直結するエントリーシート」の作成に協力したのである。手間のかかる仕事だが、多少は時間にゆとりのある年寄りならではの仕事でもある。その結果、僕が相談に乗った全員が希望する企業から内定を勝ち取り、僕自身も大きな喜びを手にした。
 そうした時間を通じて、ファイターズの諸君が練習や試合だけでなく、就職活動にも懸命に努力する場面を何度も見せてもらった。これもまた学生スポーツ、課外活動の大事な姿であろう。
 目の前の部活だけに集中するのではない。学業にも、就職活動にも全力で取り組む。今日、一つの山の頂きを極めたら、明日登る山の頂上を見定め、また一歩ずつ歩を進めていく。そうした努力を重ねることで目標の「日本1」という頂上が見えてくる。
 今季、残された時間は短い。その頂上を見定め、さらなる努力、精進を期待する。
posted by コラム「スタンドから」 at 06:46| Comment(1) | in 2018 Season

2018年09月25日

(19)試行錯誤

 試行錯誤という言葉がある。手元の辞書は「課題が困難なとき、何回もやってみて、失敗を重ねながらも段々と目的に迫っていくやり方」と説明している。
 関西リーグの第3戦、龍谷大学との試合を観戦しながら、思わずこの言葉が脳裏に浮かんだ。
 「失敗を重ねながらも」「何回もやってみて」という点ではその通りだった。初戦から指摘されてきたつまらない反則が出ていたし、パスもなかなか通らない。ランプレーが思うように進まない場面があったし、レシーバーが手の届く範囲のパスを落とす場面もあった。交代メンバーが出場してからは、ラインが割られる場面も何度か見掛けた。
 前半から大きくリードしていたこと、守備陣が終始安定していたこと、そして相手ディフェンスの動きのよかったことなどを割り引いても、正直にいえば「これで上位チーム、とりわけ立命に通用するのだろうか」と心配になるような内容だった。
 もちろん、個々のプレーでは見るべき点がいくつもあった。立ち上がり、いきなりロングリターンを決め、相手守備陣を驚かせたWR小田の快走。そこでつかんだチャンスにきっちり44ヤードのFGを成功させたK安藤の安定感。相手の攻撃を立て続けに3&アウトに仕留めた守備陣の活躍。一気に左サイドを駆け上がってTDを決めたRB渡邊の快足。さらにはゴール前ショートの場面で、3回連続でTDを奪ったRB中村のすばしこい動き。
 レシーバー陣では小田と阿部がスピードとセンスの良さを見せつけたキャッチを重ね、いまひとつ球筋の定まらないQB西野を大いに助けた。1、2戦目で不安定な場面を見せたOLも、この日はしっかり前に押し込んでいた。久々にパントのリターナーに入ったWR尾崎も思い切りのよいプレーで陣地を進めた。
 ディフェンスでは1列目の寺岡、青木、藤本、板敷が安定した動きを見せ、2列目、3列目も相手にロングゲインを許さなかった。1年生のDL青木、LB赤倉、DB北川らもはつらつとした動きを見せた。
 このように書いていけば、どこが「試行錯誤」だ、どこが「失敗を重ねながらも」だ、といわれるかもしれない。
 けれども、現場で観戦している僕の目は、この日の対戦相手の向こうに立命や関大、京大を見ている。強力な立命の守備陣を相手に同じようなプレーが成功するのか、立命のオフェンスを向こうに回して、守備陣はこの日のように自由自在に動けるのだろうかと考えている。一つのミス、一つの反則が命取りになるのではないかと怖れている。
 そういう視点で見ると、得点は38−0、総獲得ヤードは406ヤード対101ヤードと、ともにファイターズが相手を凌駕(りょうが)していても、まったく気持ちが落ち着かない。不要な反則が3回、ファンブルも3回(そのうち攻撃権を失ったのが2回)という数字が、その不安に拍車をかける。「失敗を重ねながら」という言葉そのものではないかと思ってしまうのである。
 問題は「失敗を重ねながらも」「段々と目的に向かっている」かどうかという点にある。初戦で出た反省点が生かされているか。2戦目で出た反省点はクリアできたか。先発で出場したメンバーだけでなく、交代メンバーの力はどこまで上がっているのか。勝敗の行方が見えてからのプレーではなく、攻撃も守備も、拮抗した場面でどこまで力を出し切れたか。そうした点を自分に問い掛けながら、「段々と目的に向かっているかどうか」をチェックしなければならないと考えているのである。
 僕にはまだ、その答えは見えてこない。これからの練習への取り組みと、4戦目、5戦目と続く試合の中で見ていくしかないと考えている。
 その意味では、選手、スタッフはリーグ戦3戦目までの戦い振りを丁寧に分析し、良い点、悪い点、改良すべき点をすべて洗い出すしかない。評価すべき点は評価し、改良すべき点は改良していかなければならない。それができるかどうかによって、今後の命運が決まる。勝っておごらず、失敗にくじけず、目の前にある問題点を一つ一つ乗り越えていくしかないのだ。
 そうすることで初めて「段々と目的地に向かっていける」。がんばろう。もう1段も2段も上のステージを目指し、努力を続けようではないか。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:20| Comment(5) | in 2018 Season

2018年09月18日

(18)桑田真澄氏の講演

 先日、和歌山県田辺市で桑田真澄氏の講演会があった。氏は全盛期のPL学園で1年生からエースとして活躍。その後、プロ野球の巨人に進んで輝かしい実績を残した投手である。40歳近くなってから大リーグに挑戦し、けがを乗り越えてメジャーのマウンドを踏んだ実績も持っている。
 僕は、氏が見事に復活し、カムバック賞を受賞した2002年秋、氏が師匠と仰ぐ武術家、甲野善紀さんとの縁で氏を取材し、朝日新聞の「一流を育てる」という連載で3回にわたって紹介したことがある。
 一方、甲野さんのことは、このコラムでも何度か紹介している。親しくファイターズの練習にも顔を出し、武術的な身体操法を披露しながら、それをアメフットに応用する可能性を選手やコーチとともに考え、ヒントをくださっている武術家である。いわば、桑田さんとファイターズの諸君は、同じ師匠に連なる兄弟弟子といってもよい関係にある。
 そういう人の講演会である。何をおいても聴講しなくてはと、主催した田辺ロータリークラブの方に頼んで話を聴かせてもらった。
 講演は、期待以上に素晴らしかった。
 「野球からは、素晴らしいことをたくさん経験させてもらいました」。そう語り始めた氏は、続けて「僕の人生は、挫折という言葉がふさわしい」。そういって、一つは小学校低学年のころから学校の勉強についていけずに苦しんだこと。もう一つは、中学校3年生の時には出場した全ての大会でエースの座を守り、その全てで優勝という実績を上げてPL学園に入ったが、環境の違いから思うように投げられず、3カ月後には、学校を辞めようというところまで追い込まれたこと。この二つの挫折体験を話し始めた。
 6月のある日、「おかん、僕はもうやっていけんわ。学校を辞めようと考えてんねん」と母親に相談したが、「もうちょっと頑張ってみたら……。あんたらしくやったらエエねん」と慰め、激励されて何とか踏みとどまったという。
 そうした話の展開からは、これは僕の思い過ごしかもしれないが、思わず聴く方も昨今、何かと話題になっているスポーツ界のいじめや暴力的な指導法の片鱗がうかがえたような気もした。
 閑話休題。
 さて、そのピンチを桑田氏はどう乗り越えたのか。ここからがファイターズの諸君にとっても参考になる話だと思い、概略を紹介させていただく。
 授業について行けない、という問題点を克服するためには授業を集中して聞くこと、宿題は授業の間の休み時間に終わらせること。この二つを徹底し、短時間集中型の勉強法を身につけることで突破したという。集中的に勉強することで分からない点、理解が行き届かない点が明確になり、それを周囲の仲間に聞くことで一つ一つ理解する。それによって一気に成績が上がってきたという。成績が上がると自信が付き、さらに集中して勉強することが出来るようになる。そうした循環で中学校入学当初は学年で200番以下だった成績がぐんぐん伸び、ついには一桁台になったという物語を紹介してくれた。
 もう一つの取り組みが練習のやり方。「自分らしくやること。自分の信じたことを実行すること」。この覚悟を持って練習に臨むことで、ぐんぐん調子が上がり、1年生の夏の大会前にはエースの座をつかむことが出来たそうだ。具体的には、時には肩を休めるために監督に申し出て「ノースロー」の日を設け、代わりにその日は徹底的に走り込んで足腰を鍛えたという。それによって投球内容が安定したから監督からも信頼され、練習法にはある程度の自由を与えられるようになったそうだ。
 とりわけ興味深かったのが、二つの挫折体験から努力すること、行動することで授業が分かるようになり、野球にも自信が付いたという話だった。「努力ってすごいな、楽しいな、という成功体験が生きる力になった」という桑田氏の言葉に共感し、思わず拍手を送った。
 「君らが日本一になりたいいうから、僕らは手伝っているだけ」(鳥内監督)というファイターズとは別次元の話だが、多くの部活では、指導者は教わる側よりも、教える側の立場を優先しがちである。けれども、その前に指導を受ける側の自発性にもっと期待してもよいのではないか。「努力ってすごいな、楽しいな」と、教わる側が心から思えるような指導法に目を向けることである。
 それはグラウンドでの練習に限らない。練習後のダッシュ10本でもよい。読書でもよい。毎日、5行の練習日記を書かせてもよい。教わる側がそれを続けることで自信を持ち、成長へのエネルギーにしていけるような「何か」なら、何でもよい。
 指導者がそういう指導法にも目を配れるようになったとき、教わる側にも何かの化学反応が起き、一気にプレーヤーとしての能力も開花するのではないか。過去のファイターズで、平均的なレベルと見られていながら、ある日突然、飛躍的な成長を遂げ、大活躍した選手は、みんなそんな体験を持っているのではないかと僕はにらんでいる。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:27| Comment(2) | in 2018 Season

2018年09月10日

(17)ゲームを見る目

 関西リーグ第2戦は8日の夕方5時にキックオフ。夜間照明の下で始まったが、王子スタジアムの照明は暗い。その上、グラウンドは雨で濡れているし、試合中も雨が降ったり止んだり。なかなかの悪条件で始まった。
 それでも試合は熱かった。まずはファイターズのレシーブで始まった第1シリーズ。自陣25ヤードからの攻撃だったが、第1、第2プレーともに通らず、第3ダウン10ヤードという苦しい立ち上がりだったが、ここでこの日も先発したQB奥野がWR阿部にピンポイントのミドルパスを通してダウン更新。次の攻撃も同じく阿部にパスを通して14ヤード。一つ奥野のキーププレーを挟んで再度、阿部にミドルパスをヒットさせ、あっというまにゴール前18ヤード。ここからはRB三宅のラン、同じく中村のランで陣地を進め、残り1ヤードを中村が走り抜けてTD。K安藤のキックも決まって7−0。
 次の神戸大の攻撃を守備陣が完封して再びファイターズの攻撃。今度も奥野から阿部へのパスで活路を開き、さらには久々に登場したWR小田へのパスを立て続けにヒットさせて再びゴール前。今度は中村が中央に見事なダイブを決めて14−0。2度の攻撃シリーズを2度ともTDで締めくくる完璧な立ち上がりだった。
 しかしながら、ここからがもたつく。QBとレシーバーの呼吸が合わず、せっかくレシーバーが相手を抜き去っているのに、肝心のパスが短く、相手に奪われてしまったり、捕ればそのまま走り切ってTDという場面をつくりながら胸に入ったボールを確保出来なかったり。投げる方にも受ける方にもミスが出て、決定的なチャンスを2度も失う。
 ファイターズが自滅しそうな場面だったが、今度は守備陣が奮起。DB畑中が見事な個人技で相手パスを奪い取って再び相手陣31ヤードからの攻撃。ここで、ファイターズRB陣で一番のスピードを誇る渡邊がドロープレーからのランで一気にゴールまで走り込んでTD。自滅に近い形で相手に渡した試合の流れを一気に取り戻した。
 第3Qに入ると、ファイターズQBは西野に交代。初戦ではレシーバーとして出場してほとんど活躍の場面がなかったが、この日は本職のQBとしての登場である。自陣40ヤード付近からの攻撃だったが、立て続けにキーププレーで連続のダウン更新。相手がQBのランを警戒したと思えば次はWR小田へのロングパス。それを半身になりながら小田が好捕。わずか3プレーでゴール前5ヤードに攻め込んだ。浮き足立つ相手を尻目に、ここはRB三宅が走り込んでTD。28−0とリードを広げる。
 こうなると、試合はファイターズのペース。次々と交代選手を投入して試合の雰囲気に馴染ませる。期待の1年生諸君も次々と登場し、結構な動きを披露してくれたのが頼もしかった。とりわけ目立ったのは、ランプレーのたびにボールキャリアになり、相手のディフェンスをパワーで突破して2度のTDを決めたRB前田(高等部)。彼は高校の頃から注目されていた選手だが、大学に入って一段と力を付け、同じポジションの先輩、山口の交代要員の候補の一人になっている。
 OLではセンターの朝枝(清教学園)。彼は学年で1番の元気印で、JV戦でもOLの中心になって士気を鼓舞していた。この日も4年生のように頭をつるつるにそり上げて登場。気合いの入ったところを見せつけた。2番手のリターナーとして起用された鏡味(同志社国際)も、小柄だが気持ちの勝ったプレーで存在感を発揮した。
 ディフェンスで目に付いたのはDLの青木(追手門)、LBの赤倉、北川(ともに佼成学園)、DBの竹原(追手門)。それぞれがしばしばプレーに絡み、1年生とは思えないほどのセンスの良さを見せてくれた。北川にいたっては2試合連続のインターセプト。ともに試合の行方が決まってからのプレーだったが、フットボールセンスの良さを見せてくれた。
 試合は42−0。ファイターズの完勝と見えたが、この結果に対する監督やヘッドコーチの評価は素っ気なかった。
 「相手の守備陣を考えたら、これぐらいできて当たり前。問題は、立命の守備陣を相手に勝負できるかどうか。まだまだ鍛えなあきません」と鳥内監督。大村ヘッドコーチからも「相手が疲れてからのプレーは参考になりませんよ。こんなんでいい気になっていたら痛い目にあいます」という言葉が返ってきた。
 スタンドから試合を眺め、その展開に一喜一憂している僕と、リーグ戦のこれからを見据えて、現状を冷静に分析する監督やコーチ。立場の違いといえばそれまでだが、常に足りない所に目を向け、それを克服するためにはどうするか。あるいは、いまは目に見えていない選手の潜在的な可能性を見つけ、その長所をどうすれば生かせるか。そういった点に焦点を当て、一瞬の油断もなく試合展開を見つめ、知恵をしぼっている人々。そうした存在がこのチームを支えているのである。
 スタンドから眺めている僕にとっても、ゲームを見る目が1段階上がったように思える試合後の談話だった。
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2018年08月30日

(16)初戦の収穫

 今シーズンの初戦、近大との戦いは31−7でファイターズの勝利。順当といえば順当であり、課題山積といえばその通りである。
 なんせ相手は、今季から1部に復帰したばかりのチームであり、現在のチーム力を計る情報がほとんどない。それでも、かつては毎年のように厳しい戦いを繰り広げた強敵であり、チーム力が十分に整わない時期でも、必ず突出したタレントを有して個人技で攻め込まれたことが何度もある。
 相手はどんな戦力を整え、どんな戦いを仕掛けてくるのか。情報が少ない相手に、ファイターズの諸君がどんな戦いをしてくれるのか。チームはどの程度まで仕上がっているのか。卒業生が抜けた穴を埋めるのはどんなメンバーか。興味津々でキックオフを待った。
 コイントスに勝ったファイターズが守備から入り、近大の攻撃を受けて立つ。
 ところが、相手は自陣25ヤードからは怖めず臆せず、思い切ったパスプレーで攻め込んでくる。合間に取り入れるランプレーとの組み合わせがよく、あれよあれよという間に2度もダウンを更新。気がつけばファイターズのゴール前、27ヤードまで攻め込まれている。ここはLB海崎の強烈なタックルなどで食い止め、相手のフィールドゴールの失敗にも助けられて攻守交代。
 代わってファイターズの攻撃は自陣22ヤードから。近大の歯切れの良い攻撃に浮き足立っていたチームだったが、この試合で先発した奥野が軽業師のような動きで突破口を開く。自身のキーププレーを中心に、RB山口、中村のランプレーで陣地を進め、着実にダウンを更新。最後はゴール前3ヤードからRB山口がパワーで走り込んでTD。K安藤のキックも決まって7−0とリードする。
 2Qに入ってすぐ、今度はRB山口が個人技で突破口を開く。自陣42ヤード付近でボールを受け取った瞬間から一気に加速、相手DBを次々と交わし、抜き去って58ヤードを独走。見事にTDに持ち込んだ。まさに個人技。スピードをほとんど落とさないままにカットを切るから、相手守備陣も捕らえようがない。昨シーズンまでは、相手を抜き去っても、なかなかタッチダウンまでは持ち込めなかったが、4年生になった今年はひと味違う。よりパワーアップした走りで、ファンの声援に応えた。
 試合後のインタビューで「僕がチームを勝たせます」と力強く言い切っていたが、本当に頼もしいエースである。
 このプレーで守備陣も落ち着きを取り戻し、14−0で前半を終了。3Q半ばにはK安藤が47ヤードのFGを決めて17−0。さらに4Qの初めにはファイターズの蹴ったパントを相手レシーバーがファンブル、ゴール内に転がったボールをパントチームの弓岡が抑え、ファンブルリカバーで7点を追加する。
 ここでようやく、ファイターズも交代メンバーをグラウンドに送り出す余裕が生まれた。しかし、当初から試合に出ていたメンバーは落ち着いているが、交代メンバーはそうはいかない。相手のパスプレーが止まらず、ファイターズ守備陣にパーソナルファールの反則もあって、簡単にゴール前までボールを持ち込まれ、あれよあれよという間にTD。
 結局、終わってみれば31−7。試合には勝ったが、もう一つすっきりしない内容だった。なぜか。理由はいくつかある。まずはパスを思い切って投げ込んできた近大の攻撃を守備陣が止めきれなかったこと。攻守ともに不必要な反則が続出し、せっかくのリズムを自ら壊していたこと。オフェンスラインが割られ、QBやボールキャリアが孤立する場面が何度も続いたこと。先発メンバーと交代メンバーとの差が大きく、せっかくのプレーコールが得点に結びつかなかったこと。物足りなかった点を挙げていけば、片手の指では足りそうにない。
 それもこれも「練習でできていないことは試合でもできない」(大村コーチ)ということではないか。それが明確になったことが、この日一番の収穫であろう。
 上級生はもちろん、下級生にも僕が期待していた通りに動けていた選手は少なくない。チャンスをつかもうと必死にボールに食らいつく姿も見えた。ファイターズのパントを相手がファンブルしたときのキッキングチームの基本に忠実な動きも素晴らしかった。全員がそれぞれの役割に集中していたからこそ、ご褒美のようなTDが転がり込んできたのだ。
 忘れてならないのは、後半、試合の行方が見えてから交代メンバーとして登場したフレッシュマンの物怖じしない動きも魅力的だった。初登場でインターセプトを披露したLBの北川をはじめ、同じLBの赤倉、DLの青木、DBの竹原らは今後、出場機会が増えるにつれてその潜在能力を発揮してくれるに違いない。それもまたこの試合の収穫である。
 マイナスの収穫は確実につぶし、プラスの収穫は大いに伸ばす。次の試合は、そんなところに注目して応援したい。
posted by コラム「スタンドから」 at 18:25| Comment(2) | in 2018 Season

2018年08月25日

(15)さあ開幕

 8月25日午後7時10分、2018年度ファイターズの関西リーグ初戦が始まる。場所は吹田市のエキスポフラッシュフィールド。いつもの年の王子スタジアムとは少々勝手が違い、交通手段も異なるが、ファイターズの初戦であることは間違いない。より多くのファンの方々に会場までお運びいただき、応援をお願いしたい。
 開幕に先立って24日午前、僕も毎年恒例の儀式をしっかり務めてきた。前夜からの台風が一段落するのを待ちかねて大学に足を運び、平郡君のヤマモモの木に手を合わせ、上ヶ原の八幡神社に勝利を祈願する。ついでに時計台に向かっても一礼し、選手諸君の健闘を祈る。賽銭の代わりという訳ではないけれども、財務課の窓口に足を運んで、ファイターズのためにささやかな寄付も届けた。
 毎年のことだから旧知の財務課長も「ありがとうございます。いよいよですね」と声を掛けてくれる。彼は水泳部のコーチを務めているが、会うたびにファイターズ話で盛り上がる。
 彼だけではない。院長をはじめ、僕の知っている大学職員の全員がファイターズには特別の感情を抱いておられるのだろう。顔を合わせるたびに、それぞれの言葉で応援の気持ちを伝えていただける。その言葉を聞くたびに、関西学院には数多くの課外活動団体があるが、その中でもファイターズは別格、という感慨を抱く。それもまた、現役の部員はもちろん歴代の部員、関係者が築き上げてきたチームの伝統に対する敬意の表れだろう。ありがたいことであり、僕もまたチームへの愛着が一層深くなる。
 グラウンドでは、台風の余波が収まるのを待って、午前中からゲーム前の全体練習をしていた。23日深夜には、近畿地方に大きな被害をもたらせた台風20号が兵庫県に再上陸し、大雨と強風で各地に被害をもたらせたが、ファイターズはその間隙をついて23日も24日も練習を続けた。23日は、通常なら夕方からの練習時間を早朝からに切り替え、台風の影響が出る前に練習を終える。24日も台風の影響が収まるのを待って午前10時半から練習開始。固定観念に捕らわれないファイターズならではのやりくりで練習の時間を確保し、試合に備えていた。いつもながらの柔軟なチーム運営に驚きながら、全体練習を見せていただいた。
 さらに昨日の試合前日の練習にも強い印象を受けた。いつもなら試合の前日はプレーの順序を確認するだけで短時間で終わるのだが、実際にパスも投げて例年以上に入念なプレーの確認をしていて、初戦に向けて少しでも精度を上げて臨みたいという意志が感じられた。
 それは練習後のハドルでの大村コーチや光藤主将の言葉にもにじみ出ていた。「試合だからといっても、特別のことができるわけではない。練習でやったことしかできない。試合で失敗することがあったとすれば、それは練習できちんとやっていないからだ。やったことをしっかり発揮しよう」。そんな言葉である。
 練習後は全員でグラウンドのごみ拾い。前夜の台風の影響で、小さな木の葉があちこちに飛び散っていたが、約200人の部員が手分けして拾い集めると、あっという間に美しくなった。これもまた試合前恒例の作業だが、こういうことをきちんとするところにも、ファイターズというチームのたたずまいが現れる。本当は簡単な掃除用具を準備して、側溝の泥まで片付けて欲しい所だが、これはこれからの課題としておこう。
 さあ、今夜は2018年度チームのキックオフ。全員が「FIGHT ON」を体現する試合である。11月18日の立命戦まで「負けたら終わり」の厳しい戦いが2週間ごとに続く。前年度の成績がどうだとか、卒業したメンバーがどれだけいるかとかは関係ない。目の前の相手に必ず勝つという戦いを続けてこそ、西日本代表決定戦、から甲子園ボウル、ライスボウルへの道は開ける。日本1を掲げた以上は、どの試合も一つとして負けられない。目の前の相手に絶対に勝つという強い気持ちでシーズンに臨んでいただきたい。
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2018年08月18日

(14)愛されるチーム

 8月16日、平郡雷太君に会いに、ファイターズが夏合宿をしている東鉢伏の「かねいちや」を訪れた。
 朝6時に到着する。涼しい。途中、高速道路脇の表示板には24度とあったから、高原の中腹にあるグラウンド付近は20度を少し上回る程度だろう。長袖のシャツを着ていても肌寒い。
 まだ朝食前というのに、グラウンドではJVのメンバーが出て早朝練習の準備運動をしている。4年生も次々に宿舎から出て、練習用具を整えている。いつもながらの夏合宿の光景である。
 グラウンドへ降りる手前の机の上には、例年通り平郡君への「誓いの言葉」を刻んだプレートが置かれている。この言葉を読むたびに、在りし日の彼の姿が浮かんでくる。2003年8月16日、ここで合宿中、不慮の事故で帰らぬ人となった彼を偲んで手を合わせ、しばらく黙祷することが僕にとっての大切な時間である。それは、後輩の諸君が日々、切磋琢磨している第3フィールドに出掛けるたびに、平郡君のヤマモモに手を合わせるのと同様、僕とファイターズとを結び付けている「誓いの絆」といってもよい。
 練習はてきぱきと進み、無駄な時間は少しもない。JVのメンバーから順次早朝練習を切り上げて朝食。それが終わると小休止の後、今度はVのメンバーから朝の練習が始まる。10日からスタートした合宿も仕上げの段階とあって、恐ろしく密度が濃い。内容も午前中の練習とは思えないほど複雑だ。
 聞けば、夕方からは雷が発生する予報が出ているとのことで、夕方の練習と朝の練習のメニューを入れ替えたそうだ。
 いまはリーグ戦の開幕を目の前に控えた時期だが、照準は開幕戦ではない。秋のリーグを勝ち抜き、甲子園ボウルでも勝ってライスボウル制覇までを見据えた戦いである。今季はどんな戦いをするのか、どんな風にして強力なライバルたちに勝ち抜いていくか。それを見据えた練習である。シーズンが始まれば手が回らないような課題にじっくりと取り組む数少ない機会でもある。
 当然、攻守とも求められる水準は高い。チームメート同士の練習であっても、第一プレーから白熱している。オフェンスが必死ならディフェンスも必死だ。本気で向き合い、本気でぶつかり合う。当然、けが人も出る。それでも、手加減はできない。上ヶ原での練習も密度は濃いが、鉢伏の合宿での練習の密度はさらに濃い。
 毎年のことだが、この合宿には多数の卒業生が参加してくれる。今春、卒業したばかりのメンバーから監督やコーチと同じ世代の卒業生まで、メンバーは日々異なるが多くの卒業生が駆けつけ、差し入れを贈ったり、練習台を務めたりしてくれる。
 お盆休みにも多くの若手が訪ねてくれたそうだが、僕がお邪魔した16日にも、懐かしい顔が何人も見えた。挨拶を交わしただけでも、14年卒の吉原直人、15年卒の木下豪大、田中雄大、橋本亮、17年卒の井若大知、高松祥生、山下司、片山薫平、松本和樹氏らの顔が見えた。
 今春、卒業したばかりのメンバーは、普段の上ヶ原の練習にも顔を出し、コーチと同様の役割を果たしてくれているが、新鮮だったのは、いまも社会人のトップチームでプレーしている田中氏や吉原氏ら。いそいそと防具を着け、練習台を務めてくれた。田中氏に至っては、本来のディフェンスバックだけでなく、レシーバーのメンバーにも入って、全日本級の動きを惜しみなく披露してくれた。
 さすがは「会費納入率8割」というOB会の構成員である。若手の社会人として日々、職務に精進しながら、つかの間の休日を返上して鉢伏の合宿に参加して後輩を激励し、鍛えてくれる。これは毎年のように見掛ける光景だが、彼らがこのチームを「魂のふるさと」と思い、手伝えることは何でもしようという気持ちになってくれているからだろう。
 お金のある者はお金を、知恵のある者は知恵を、汗をかく者は汗を、それぞれ惜しみなく次の世代に注ぎ込む卒業生。そんな卒業生たちに「このチームだからこそお手伝いがしたい」と思わせる現役の部員たちとそれを支える監督やコーチ、指導者らのたたずまい。双方が渾然一体となって存在するのがファイターズである。それは歴代のOB、OG、そして指導者らが営々と築いてきた文化であり、日本の学生スポーツ界でも例を見ない組織の在り方だろう。
 いま、いろんな面で学生スポーツの在り方の根本が問われている。こうした時期だからこそ、ファイターズの活動と組織にもっと光を当てる必要があるのではないか。この夏の合宿を見て、その思いはさらに強くなった。
posted by コラム「スタンドから」 at 17:21| Comment(0) | in 2018 Season

2018年08月08日

(13)夏に鍛える

 立秋。暦の上では秋が始まる。
 今年の夏はことのほか暑い日が続き、どこから見ても秋という雰囲気ではない。わずかに蝉の鳴き声や空の色、そして早朝の爽やかな空気から、何となく季節が移っていることが感じられる程度である。
 しかし、ファイターズにとっては、これからが夏本番。7月下旬には前期試験が終わり、暑さに慣れるための軽い練習期間も終えて7月31日から本格的な夏の練習がスタートしている。
 8月10日からの夏合宿を前に、今年は学内のスポーツセンターを利用した短期合宿を2度繰り返した。日中の暑さを避け、早朝と夕方の涼しい時間を十分に使うための工夫である。基本的には朝の6時過ぎからあんパンとジュースの補食をすませて順次グラウンドに出る。7時から8時までが朝の全体練習。終われば学生会館で朝食を摂り、その後の90分は昼寝の時間。起床すると、今度は昼食。その後、冷房が完備した学内のトレーニングルームで1時間の筋力トレーニング。終わるとミーティングに入り、4時半ごろからは夕方の練習の準備。その後、グラウンドの気温が多少とも下がるのを待って夕方の全体練習。夕食後に再びミーティングというスケジュールである。
 こうした予定を円滑に進めるためには、朝夕の通学時間を削るしかない。そこで下宿生以外は学内の施設に泊まり込んで練習時間を捻出するのである。早朝からの練習で近隣の住宅に迷惑がかかっては大変ということで、練習中は笛も掛け声も禁止。合宿前には4年生の幹部が学校とも協力して周辺自治会の役員宅を訪問し、早朝からの練習に理解と協力を申し入れてもいる。外部の方にはうかがい知れないファイターズの気配りであり、合理的な練習である。
 こういう姿に接すると、今年もシーズンが近づいてきたと実感する。同時に4年生がこうして頑張る時間は、残すところ最大でも5カ月を切ったとも思い知らされる。「4年生の諸君。いまが勝負の時だ。頑張れ」と、思わず声を掛けたくなる。
 一方で、この季節は来春の入学を目指し、ファイターズの仲間に加わりたいと志望する高校生にとっても勝負の時だ。例年通り高校の学期末試験が終わるのを待って、スポーツ選抜入試で関西学院を目指す高校生の小論文勉強会を開いているが、彼らもまた夏の練習で忙しい中、週に1度の勉強会に心弾ませて参加している。
 今年、僕が担当しているのは12人。関西勢が中心だが、関東方面からの志願者が例年以上に多い。いつもの年なら、関東勢にはリクルート担当マネジャーの協力で彼らが書いた小論文をスマホでやりとりするのだが、今年はわざわざ夜行バスを利用したり、関西にいる親戚の家に泊めてもらったりして参加してくれる選手もいる。ファイターズの一員になり、ファイターズでフットボールを学びたいという強い動機があるからこその行動だろう。
 こういう高校生に接していると、僕もまたどうしてもこの子らの力になりたい、という強い気持ちが湧いてくる。大学の方針によって、来年の入学者からはとりわけ文武両道が求められる。それだけに、いま僕が協力しているささやかな勉強会が彼らの学習意欲を刺激し、それが入学後の高いモチベーションにつながってくれることを祈る気持ちがより強くなる。
 幸い、彼らが書いた文章を添削したり、簡単な会話を交わしたりする限り、みんな向上心のある高校生ばかりである。それぞれが所属するチームで鍛えられているのであろう。考え方もしっかりしている。プレーヤーとしての力だけでなく、将来は必ず部のリーダーとしての役割を果たしてくれると期待できる高校生も多い。
 暑さがどんなに厳しくても、仕事がどんなに忙しくても、時間が許す限りはグラウンドに出掛け、いそいそとこの勉強会に通う。そこで意欲に満ちた大学、高校生から新たなエネルギーを頂戴する。ファイターズに関わることができて良かったと思える瞬間である。
posted by コラム「スタンドから」 at 16:13| Comment(0) | in 2018 Season