2023年09月23日

(9)苦しい戦い

 甲南大との対戦の数日前、上ヶ原のでグラウンドで、厄介な話を聞いた。試合前だというのに、部員の間にインフルエンザの感染者が急増しているという。
 その時、「コロナ禍が落ち着いたと思ったら、次はインフルエンザか。厄介なことだ。なんとか食い止めて欲しい」と、思わず天を仰いだ。
 試合が始まる前、グラウンドで軽く練習するメンバーの背番号に目をこらす。人数が多いから、遠くスタンドから欠場者を確定するのは難しい作業だったが、レギュラークラスで姿の見えない選手が何人もいる。やばい。彼らの欠場が試合に影響しなければよいが、と祈るような気持ちでキックオフを待つ。
 結果は35−3でファイターズの勝利。前半だけで28−0とリードし、控えのメンバーを次々と投入した後半も相手の反撃をフィールドゴール1本に抑えた。
 スタンドから応援している方々には、順当な勝利と思えたかもしれないが、僕にとっては、不用意な反則の多さを含め、今ひとつ物足りない結果であり、反省点の多い試合だった。
 しかし、それは部外者がとやかくいうことではない。まずは試合の流れを見たままに追っていこう。
 ファイターズのレシーブで試合開始。第1シリーズはRB前島へのスイングパス、RB澤井のドロープレーでダウンを更新。次はQB星野からWR小段への短いパスで陣地を進める。しかし、相手陣に入ったところから攻めが続かず、攻守交代。
 相手陣奥深くから始まった甲南の攻撃は進まず、逆に第3ダウンで相手QBが投じたパスをDB東田がインターセプト。相手陣19ヤードという好位置からファイターズの攻撃。まずはRB澤井が中央を突いてダウンを更新。ゴールまでの距離が短くなったところで突破力のあるRB大槻が登場。その第1プレーで中央を突進してTD。初戦の龍谷大戦、同じような状況で中央を突破しながら、相手DBにボールをはじき出されて悔しい思いをした彼が、今度は見事に先制点を奪った。
 得点が入れば、チームは落ち着き、相手には焦る気持ちが芽生える。相手陣25ヤードから始まった甲南大の攻撃は進まず、あげくに第4ダウン、パントといういう状況で痛恨のスナップミス。そのボールをファイターズが押さえ、ゴール前1ヤードで攻守交代。
 この好機にRB澤井が中央を突いてTD。相手にプレゼントしてもらったような得点で14−0とリードを広げる。
 第2Qに入っても、ファイターズのリズムは崩れない。自陣21ヤードから始まった攻撃ではRB前島の10ヤードランから始まり、WR五十嵐、衣笠へのパスを立て続けに決めて敵陣深く迫る。仕上げも五十嵐へのパスでTD。大西のキックも決まって21−0。
 それでも相手は、WRのランなど工夫をこらした攻めで活路を開こうとする。しかし、DB東田のセンスあふれるプレーやDL林のQBサックなどで相手を押し込む。逆にファイターズは前半終了間際にRB澤井へのパス、伊丹のラン、WR百田へのパスなどで陣地を進め、仕上げはQB星野からWR五十嵐へ45ヤードのTDパス。大西のキックも決まって28−0。大きくリードを広げて前半終了。
 しかし後半になり、好守とも控えのメンバーが次々と登場するようになると、徐々に攻撃のリズムが崩れてくる。交代メンバーが限られていることもあったのだろうが、後半の得点は第3Q終了間際にQB星野からWR百田へパスを通し、ランプレーのシリーズを一つ挟んで、WR衣笠に26ヤードのパスを通して挙げた7点だけ。前節の龍谷大戦で84点を挙げて大勝したチームと同じチームとは思えないほどの苦しい戦いだった。
 もちろん、インフルエンザの感染者が急増した影響もあってのことだろう。しかし、チームにとっては、これからが本番。まずは神戸大との対戦が迫っている。先週、能力の高いQBと、それを支える強力なラインを擁する京大を相手に、一歩も引かず、真っ向から渡り合っていたチームである。その力はあなどれない。
 フィールドに立つメンバーはもちろん、控えのメンバーも一丸となって闘ってもらいたい。病床で苦しむ仲間の分まで頑張ってこそ「ファイター」である。
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2023年09月15日

(8)躍動する新戦力

 今季の初戦となった龍谷大との試合では、今春入学したばかりの1年生が躍動した。先発メンバーに名を連ねたRT谷内(箕面自由)、WR小段(大産大)、DB永井(佼成学園)の3人はもとより、交代メンバーとして出場した面々も、鮮やかなパスキャッチやQBサックを次々に披露してくれた。
 もちろん、スタンドから双眼鏡で眺めているだけだから、見過ごしてる部分は多い。それでも、場内限定のFM放送で臨場感あふれる実況をされている小野宏さんやそれを補佐されているOBの片山昌人さん、小川原秀哉さんの解説を聞いていると、好守共に注目すべきプレーヤーは見えてくる。
 とりわけ目に付いたのはレシーバー陣。QBの投げたボールにいち早く駆け寄り、捕球し、相手の守りを突破して走るのが主たる役割だから、出来不出来が分かりやすい。春の試合から先発メンバーとして活躍している小段はもちろん、この日は百田(啓明)も大活躍。途中からの出場だったが、34ヤードのTDパスを捕球したのを含め、5回の捕球で78ヤードを確保している。
 振り返れば、4月半ばの頃だった。それまでは上級生とは別メニューで身体作りや基礎練習に専念していた1年生の中から、上級生に交じって練習できるメンバーが選ばれ始めた頃に、特別に目立つ新入生が3人いた。当時はQBとして長いパスを当然のように投じていたリンスコット(箕面自由)、そしてレシーバーの小段と百田である。
 WRの二人は当時、練習時には高校時代のヘルメットを着用していたから、ときおり練習を見学している僕にもその存在にすぐに気付いた。二人ともボールが吸い付いてくるように捕球し、捕球してから身のこなしが素早く、足も速い。試合経験の豊富な上級生DBを易々と抜いていく。上級生レシーバーも顔負けの動きに「これが新入生か」と魅了されたことを思い出す。
 その小段は、春から先発メンバーとして活躍しているが、秋の初戦でも2本のTDパスをキャッチし、パントリターンTDも1本決めた。負けじと百田もこの日、5回の捕球で78ヤードを稼ぎ、TDも決めた。この二人が競り合い、励まし合って成長していけば、チームにとっては鬼に金棒、なくてはならない存在になるのは疑いない。
 もちろん2年生WRには、この日5回の捕球で97ヤードを獲得、2本のTDパスを確保した五十嵐もいる。彼は試合の最終盤、自軍の選手がゴール前でファンブルしたボールを素早い動きで確保し、この日3本目のTDに結びつけている。彼もまた、今後とも大いに期待できる選手である。
 ほかにも、この試合で活躍した1、2年生は少なくない。1年生に限っても、先発メンバーに入ったDB永井は、第2Qに相手パスをインターセプト。初戦から期待に応えたし、交代メンバーで出たLB倉田(高等部)も第3Qにインターセプトを決めた。交代メンバーで出場したDL馬久地(高等部)とLB油谷(箕面自由)はともにQBサックやロスタックルを決めている。
 春の試合から交代メンバーとして出場しているOL谷内はこの日、スタメンで出場。この日は出番が少なかったDBリンスコットも後半、鮮やかなパスカットでその潜在能力の高さを見せてくれた。
 こうしたフレッシュなメンバーが試合経験を積み、その力を存分に発揮出来るようになれば、チーム内の競争はより激しくなる。それがチーム全体の底上げにつながり、負けないチームを形成していく。次の試合でも、彼らの動きを注目したい。
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2023年09月04日

(7)見所満載の初戦

 待ちに待った2023年シーズンが開幕した。時は9月2日午後5時半、所はおなじみ神戸市の王子スタジアム。入場門が開かれるはるか前から開門を待つファンの列に並び、脳裡に選手の顔を描きながら、さて、今日はどんなメンバーが活躍してくれるだろうか、春の試合には縁のなかった新入生の中からどんなメンバーが頭角を現すのか。上ヶ原のグラウンドで、日に日に成長している1年生や2年生の中から、今日はどんなメンバーが登場し、どんな活躍を見せてくれるのか。
 あれこれと考えているうちに、ようやく開門。まずはチームの小野ディレクターたちが場内限定で実況放送される放送席の隣に席を確保し、鳥内前監督からいただいた両チームのメンバー表に目を注ぐ。
 1年生だけでも16人。2年生は24人。そこには春のシーズンから出場し、派手な活躍で注目された選手もいるが、試合会場で名前を見るのは初めてというメンバーもいる。昨年夏、スポーツ選抜入試の勉強会で縁のあった新入生だけでも、背番号の若い順にDBリンスコット・トバヤス(箕面自由)、同じく永井慎太郎(佼正学園)、北村翼(宝塚)、LB油谷壮馬、OL谷内史郎(箕面自由)、WR小段天響(大産大附)が名を連ねている。スポーツ選抜以外では、上ヶ原のグラウンドで、小段とともに突出した動きを見せていたWR百田真吾(啓明学院)の名前もあり、彼らがこの日、どんな動きを見せてくれるか、試合前から密かに注目していた。
 午後5時半、キックオフ。先攻は龍谷。DB波田の素早いタックルなどで相手は全く陣地を進めることが出来ず、自陣ゴール前からパント。それをキャッチしたWR小段がナイスリターン。相手陣42ヤード付近からファイターズの攻撃が始まる。最初のプレーはQB星野からWR衣笠へのパスで17ヤード。次は星野のスクランブルで9ヤード、衣笠への短いパスでゴール前5ヤードと陣地を進め、仕上げはRB澤井が中央を走り抜けてTD。K大西のキックも決まって7−0。
 攻撃がテンポ良く進めば、守備陣はさらに勢いづく。ライン戦で相手を押し込み、苦し紛れに相手が投じたパスをDB山村がインターセプト。相手陣38ヤード付近から再びファイターズの攻撃が始まる。ここでも星野とレシーバー陣との呼吸はぴったり。まずはWR鈴木が短いパスを受けて走り、ゴール前28ヤード。次は星野のスクランブルで陣地を稼ぎ、仕上げはRB伊丹が9ヤードを走り抜けて2本目のTD。リードを広げる。
 守備のラインが終始、相手を押し込んでいるから、相手の攻撃は進まない。その結果、相手は自陣奥深くで釘付けになるから、余計にプレーの選択肢が限られる。第4ダウンでパントを蹴っても、ハーフライン付近までしか届かないという状態に陥る。
 そんな状況で迎えたファイターズ3度目のの攻撃は相手陣43ヤード付近から。そこでQB星野からWR小段へのパスが決まりTD。21−0とリードを広げる。
 相手攻撃を完封した守備陣の活躍で、次の攻撃シリーズも相手陣41ヤードから。まずはRB前島が21ヤードを走り、QB星野のキープを挟んで、星野からWR衣笠へミドルパスを投じてTD。わずか3プレーで28−0。
 こうなると、試合経験の少ないメンバー、本番になると緊張して力が出し切れない選手にもゆとりが出てくる。逆に、相手の集中度は下がってくる。相手は、攻守とも苦しいプレーを余儀なくされているのに、ファイターズは下級生や交代メンバーが伸び伸びとプレーする。
 相手QBが自陣10ヤード付近から投じたパスをDB杉本が確保し、攻守交代。相手陣41ヤード付近でファイターズの攻撃となり、それを機にQBが星野から鎌田に交代。その第1プレーでWR鈴木に短いパスを通して気持ちを落ち着かせると、次はWR小段へ長いパスを投じてTD。わずか2プレーでさらにリードを広げる。
 続く相手の攻撃を守備陣が簡単に封じた後、ファイターズの攻撃は相手陣40ヤードから。鎌田は、ここでも立て続けに短いパスを2本通してダウンを更新。相手ゴールまで23ヤードと迫ったところで、エースRB前島に短いパスを通し、それを確保した前島がゴールまで走りきってTD。この二つの攻撃シリーズ。登場したばかりの鎌田は、都合5プレーで2本のTDを挙げた。
 昨秋から今季の前半、思い通りにパスが通らず、後輩の星野にスターターの地位を奪われてきた4年生QB鎌田。最後の秋の初戦で見違えるような切れの良い動きを見せた彼を見て、僕はある種の感動を覚えた。
 もちろん、前半で大差が付き、相手の戦意が落ちたときのプレーである。彼ほどの才能を持ったプレーヤーにとっては、出来て当たり前、というプレーだったかもしれない。けれども、昨秋から今春、試合でも練習でも、もう一つ物足りないプレーを繰り返し、もがき続ける彼の姿を見続けてきた私にとっては、「これが鎌田だ、本来の姿だ」と、思わず叫びたくなるようなプレーだった。
 4年生の秋。初戦で披露してくれた彼の姿が本物であって欲しい。立命や関大などとの厳しい戦いでも、彼の才能が存分に発揮されることを願っている。
 追記
 この日の試合では、WRやDBを中心に下級生たちの活躍も目立った。彼らのことは、次の機会に書かせていただきます。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:42| Comment(2) | in 2023 Season

2023年07月02日

(6)わくわくJV戦

 この3週間、週末ごとに上ヶ原の第3フィールドで、ファイターズの試合があった。交流試合と銘打っているけれども、ファイターズにとってはJV戦。普段、試合に出る機会の少ないメンバーに実戦経験を積ませるための貴重な機会である。
 1週目の対戦相手は中京大学。選手層は薄いが、関西の1部リーグでも活躍できそうなメンバーが好守ともにそろっている。逆に、ファイターズにとっては、好守共にキラリと光る才能を秘めた下級生が何人もいる。けがやポジションの都合で、実戦経験を積む機会に恵まれないまま3年生、4年生になった選手も少なくない。そういったメンバーがそれぞれどんな活躍をしてくれるか。手元のメンバー表にある名前と背番号を頼りに、グラウンドの戦いに目をこらす。
 ファイターズの攻撃陣で最初に目に付いたのがRBの大槻。相手ゴール前13ヤード付近から3回連続でボールを託され、ダウンを更新。ゴール前までの1ヤードが残ったが、次のプレーも大槻に託され、見事TDに持ち込んだ。
 大槻って誰?、そんなRBいたのか、という周囲の人たちの声を聞きながら、当日のメンバー表を見て「彼って、ひょっとしてLBをやってた子ちゃうん? 福知山共栄で野球部だった子」と思いあたり、彼がファイターズを志望した際に一度だけ会って話したことの記憶のある選手だと判明した。
 彼の動きを注目していると、彼はその後も短いヤードを確保したり、相手ゴール前に迫ったりした場面にはことごとく登場。そのたびに相手を跳ね飛ばす、文字通りのパワーランで陣地を進め、終わってみれば3本のTDをもぎ取っていた。
 試合終了後に、顔を合わせた香山コーチに聞くと、「面白かったでしょう。うちのRBにはいないタイプですから。まだ、RBに転向して1週間ほど。これから、RBの走り方を覚えてくれると、楽しみな存在です」と、ニコニコしながら説明してくれる。その顔を見ていると、こちらまでわくわくしてきた。
 急造RB大槻は、次の桃山大戦でもファンの関心事。ファターズ最初の攻撃シリーズから、短い距離を確実に進めたい場面には必ず登場。そのたびにパワフルなランで陣地を進めていく。スタンドのファンの歓声も大きくなる。
 攻撃陣だけではない。この試合では守備でも僕にはなじみのないメンバーの活躍が目立った。DBの加藤、酒井は共に東京から志願してファイターズの門を叩いた2年生。ともに意識してプレーを見るのは初めてだったが、それぞれが注意深い位置取りで備え、相手の動きが見えた瞬間に素早く反応し、容易にプレーを通させない。3戦目の日体大戦で、相手パスに素早く反応してパスをカット、浮いたボールをそのまま確保してインターセプトに成功した新井イケンナを含め、東京からファイターズを志願してくれた面々が、ようやくチームになじんくれたようで、これまた嬉しいニュースである。
 嬉しいニュースといえば、JV戦の2試合で鮮やかなTDパスをキャッチしたWR川崎の成長も心強い。1年生の時から注目されている長身のレシーバーだが、けがが多く、なかなか真価が発揮出来なかったが、この3試合では要所要所でパスをキャッチ。パスの捕り方もうまくなっており、秋シーズンに期待の持てる活躍ぶりだった。
 秋シーズンへの期待といえば、日体大戦で先発したQB林のプレーも見応えがあった。これまでは、素早い身のこなしで、瞬時にランナーとしての威力を見せてくれる選手だと理解していたが、先発した中京大戦では、パスQBとしても成長していることを見せつけてくれた。同じポジションにはパスを得意とする鎌田や星野がいるから、なかなか出番はないかもしれないが、あの俊敏な走りに加えてパスプレーまで警戒しなければならないとなると、相手守備陣にとって厄介な存在になるに違いない。数年前、左利きの走れるQBとして存在感があった光藤君のようなプレーヤーになってくれるのではないかと、一人、胸の内でつぶやいていた。
 見所の多かったJV戦3試合。好守のラインを含め、ここで名前を挙げきれなかった選手を含め、今後の成長に期待したい。前期試験が終わり、夏休みになれば、夏季の厳しいトレーニングが待っている。JV戦には出場しなかったレギュラー陣はもちろん、まだ大学の練習に耐えるための基礎的なトレーニングに打ち込んでいる新入生を含め、体力を養い、向上心を持った取り組みを続けて、秋にはさらに1段アップした勇姿を見せてもらいたい。
 以上がスタンドから眺めた「交流戦という名のJV3試合」の感想である。今季もファイターズには、大いに期待が持てる。
posted by コラム「スタンドから」 at 21:30| Comment(2) | in 2023 Season

2023年06月12日

(5)爽やかな試合

 雨上がりの日曜日。11日の王子スタジアムは厚い雲に覆われていたが、目の前で展開される試合は爽やかそのもの。両軍メンバーのメリハリの効いた動きが心地よく、久々にフットボールの魅力を堪能させてもらった。
 迎える相手は立教大学。過去の記録を見ると、ファターズとは戦後間もなくから互いに勝ったり負けたりの好勝負を繰り広げてきたライバル校である。僕がフットボールに興味を持ったその昔、今は亡き米田先生からファイターズの歴史や草創期のエピソードの中に登場したチームだが、目の前で両校の対戦を見るのは初めてだ。
 試合前の練習を眺めながら、場内のFM放送を担当されている小野ディレクターから立教大の話を聞き、相手QBらの動きを見ているうちに「今日はなんだか、爽やかな好勝負になりそう」との予感がわいてきた。
 ファイターズのキック、立教のレシーブで試合開始。試合前の練習で予想した通り、相手QBの動きがよく、レシーバーとの呼吸も合っている。ランとパスを織り交ぜて立て続けにダウンを更新する。
 けれども、ファイターズ守備陣も負けてはいない。DL浅浦の力強い動きとLB永井の鋭いタックルで、相手の勢いを食い止める。
 好守交代。今度はファイターズがテンポのよい攻撃を展開する。起点になるのはQB星野。今季、力強さを増した伊丹や澤井らのRB陣を走らせ、合間に1年生の小段や4年生の鈴木らWR陣へ短いパスを投じる。そのテンポがよいから、反応の早い相手守備陣も対応が難しい。
 あっという間に第2Q。RB伊丹や澤井らが次々と走り、仕上げはK大西。30ヤードのFGをスパッと決めて先制する。
 それでも相手はくじけない。攻めてはQBが鋭いパスを投じ、守ってはDB陣がパスを奪い取る。ファイターズの守備陣もまた、少々攻め込まれても動じない。DL浅浦が素早い動きで相手キャリアを食い止め、漏れたところはLB海崎や永井が確実に仕留める。
 双方ともに守備陣が健闘し、互いに相手の長所を消し合って前半終了。
 後半になっても、双方共に果敢なプレーが続く。互いに相手の長所を潰し合い、双方共になかなか得点機会をつかめない。
 膠着した場面を打ち破ったのはQB星野の思い切りの良いラッシュ。ハーフライン付近から一気に20ヤードを走って陣地を挽回。続けて今度はWR鈴木へ29ヤードのパス。それが見事に決まって待望のTD。投げた方の思い切りが良かったし、キャッチした方の技術も素晴らしかった。日頃、上ヶ原のグラウンドで互いに会話を交わし、技術的なことも含めて意思疎通を重ねているからこそ、ここぞという場面で「あうんの呼吸TD」を決めることが出来たのだろう。
 似たような場面は、第4Qの半ばにも訪れる。DB山村のインターセプトでめぐってきたファイターズの攻撃。今度は星野が相手陣45ヤード付近からWR小段に5ヤードのパスを投じて陣地を進める。続くプレーも標的は小段。相手ゴールまでは40ヤードもあったが、ここで投じた星野の長いパスを小段がキャッチ。決定的な2本目のTDに仕上げた。
 これを「あうんの呼吸」というのだろう。星野と鈴木との関係にもいえることだが、普段の練習時からプレーごとに会話を重ね、互いに求め合い、気持ちを交わし合ってきたからこそ、本番でも絶妙のパスが投じられ、それを確実にキャッチできる。投げる方は2年生。受ける方は4年生と1年生。学年の違いを感じさせない双方の濃密な関係が生み出したTDといってもいい。
 それは守備陣にもいえる。この日の試合ではDLのメンバーが相手に襲いかかり、漏れてきたランナーはLBとDBが仕留める、という場面が何度も見られた。その結果としての零封である。素早い動きが持ち味の相手QBやRBに、あわや、という場面を何度も作られながら、相手を無得点に封じることが出来たのも、1列目、2列目、3列目の連携がうまく機能し続けたからだろう。
 アメフトは、攻守ともグラウンドに出ている11人全員が、それぞれ助け合い、励まし合って戦うスポーツだということが改めて確認できた。空は曇っても心は快晴。爽快な気持ちで帰路についた。
posted by コラム「スタンドから」 at 23:08| Comment(1) | in 2023 Season

2023年05月30日

(4)現在地を知る

 28日は関西大学との戦い。会場は吹田市のMKタクシーフィールドエキスポだ。えっ、どこにあるん?、と一瞬戸惑ったが、昔のエキスポ球技場やがな、という友人の説明でようやく納得がいった。観客の収容力は少ないのが難点だが、フットボールがどこよりも身近に観戦できる球技場であり、数々の名勝負が展開されてきた舞台でもある。
 以前は、車で行き来していたが、いまは阪急電車とモノレールに乗り継いで行くので、片道1時間半はかかる。
 なんとか席を確保したところで試合開始。メンバー表を見ると、1週間前の中央大戦と同様、この日も1年生のWR小段君とDBリンスコット君が名前を連ねている。伸びしろのあるメンバーには積極的に経験を積ませ、秋本番に備えよう、他のフレッシュマンの励みにさせたい、というベンチの考え方にブレはない。
 考え方にブレがないというのは、先発メンバー全体を見てもうかがえる。攻撃の起点となるフロントラインの中央には紅本君、QBには星野君、WRに五十嵐君、DBに東田君を起用し、キッキングチームにもキッカー降矢君、パンター大西君、ホールダー山口君と、それぞれ2年生を登用している。関西大というスピードもパワーもあるメンバーをそろえたチームを相手に、若いメンバーがどこまで対抗できるかを見極め、彼らの成長を一段と促したいという、ベンチの思惑がひしひしと伝わってくる。
 ファイターズのリターンで試合開始。第1プレーはRB伊丹君のラン、第2プレーは星野君から小段君への短いパスが通ってダウンを更新。次のシリーズでは星野君が小段君への40ヤードのパスを通して相手陣21ヤードに迫る。一気にTDにまで持ってきたい場面だったが、相手守備陣は堅い。やむなくFGを狙ったが、これが外れて得点ならず。
 逆に、相手は小柄ながら正確なパスと的確な状況判断が持ち味のQBを中心に、確信に満ちたパスとランを使い分け、わずか2プレーでゴール前に迫る。ここは守備陣が奮起して、なんとかFGによる3点に抑えたが、関大オフェンスの強さをまざまざと見せつけた。
 第2Qに入っても、状況は変わらない。相手QBは自在に動き回り、パスとランで陣地を進めてくる。それにLB海崎、永井、DB波田、東田、中野らの守備陣が対抗し、パスをはじき、ランを食い止める。途中、DLの浅浦がジャンプ一番、相手パスをカットする好プレーを見せれば、DB山村も強力なタックルで相手を仕留める。仕上げはDB波田のインターセプト。
 守備陣が頑張れば、攻撃陣も奮起する。自陣32ヤードから始まったファイターズの攻撃は、星野から小段へのパスでダウンを更新。続くシリーズでは星野がRB前島に23ヤードのパスを成功させ、そこからはRB澤井、井上、東耕を次々と走らせ、仕上げは澤井が8ヤードを走りきってTD。ゴールも決まって7−3と逆転する。
 第3Qに入っても、ファイターズのランアタックは続く。星野から交代したQB鎌田が自陣ゴール前17ヤード付近からRB前島に長いパスを通して一気に相手陣に迫り、そこからは再びランアタック。RB澤井が4回連続で中央を突破。合計37ヤードを走り切ってTD。この場面では、OLの金川がフルバックの位置に入って相手守備陣を押し込み、開いた空間に澤井が走り込むという仕組みがうまく機能していた。
 第3クオーター10分を過ぎたところで14−3。相手の強力なパス攻撃を必死で防いだ守備陣と、自分たちの仕掛けを信じてパスを通し、相手陣を押し込んだファイターズ攻撃陣の面目躍如という戦いぶりだった。
 しかし、好事魔多し。第3Q終了直前、守りの中心だったLB永井君が退場になると、たちまち相手の攻撃が活気づく。それまでなんとか持ちこたえていたDB陣も、相手の的確なパス攻撃に振り回され、カバー態勢にほころびが見えてくる。そこを狙って相手はパス、パス、パスと陣地を進める。ファイターズ守備陣も懸命にそのパスをカットするが、それでも守り切れない。
 このあたりの攻防。これは私の勝手な想像だが、ファイターズの監督やコーチはあえて指示を出さず、グラウンドで闘う選手の動きを注視していたように思える。困ったときに個々の選手がどう振る舞うか、仲間とどう意思を通じ合うか。乱れたカバー態勢をどう再構築するか。それをグラウンドで闘うメンバーが考え、対処する。目先の勝敗を超えて、その力を試していたように思えてならない。
 それは、試合経験のほとんどない2年生や1年生を積極的に登用し、少々の失敗にもめげずに起用し続けたこの日の戦い方にも現れている。グラウンドで闘うメンバーはもちろん、交代メンバーやスタッフも含め、それぞれの現在地を知り、それぞれの課題を見つけ、克服することで、秋本番に備えよう。そのための戦いが今日の試合だったと思えてならない。
 そう考えると攻、守、投、走、蹴。時間の使い方を含め、この日の試合から学ぶことは数多い。願わくは、そうした課題にそれぞれの選手、スタッフ全員が真剣に取り組んでもらいたい。それは、ファイターズの諸君が最も得意とする分野だと信じている。
posted by コラム「スタンドから」 at 19:04| Comment(0) | in 2023 Season

2023年05月22日

(3)大きな収穫

 20日は、王子スタジアムで中央大学との交流戦。今季の第3戦だが、その先発メンバーに今春、入学したばかりの1年生2人が名前を連ね、共に目を見張るような動きを見せてくれた。
 一人はWRの小段天響君(大産大)。もう一人はDBのリンスコット・トバヤス君(箕面自由)。いつもの年なら、新入生はまだ基礎体力作りの段階で、チーム練習に参加できるのはほんの数人。試合に出場するのも、ある程度身体が出来てからのJV戦というのが通例だった。今季も例外ではなく、二人とも5月に入ってから練習メンバーに入ったばかり。とりわけ、リンスコット君の本職はQB。DBの練習を始めてからでは2週間にも満たない。
 そんな二人が先発メンバーとして起用された。ファイターズ応援歴半世紀以上という僕も、応援仲間も、全員びっくり。「これはどういうこと。そんなに素晴らしい選手なのか」と、試合前から盛り上がる。
 「第3フィールドでの練習を見ているだけだが、二人とも素晴らしい動きをしている。コーチや監督の発言からも、期待の大きさがうかがえる。僕のような素人が見ても、そのセンスの良さには目を見張る。共に高校時代から注目されてきた選手であり、度胸もありそうだ。きっと期待に応えてくれるだろう」と答えたが、共に期待に違わぬ活躍。とりわけ小段君は、先発QB星野君との相性も良く、見事なレシーブで先制点を挙げてくれた。
 その場面を見て、思わず、亡くなられて久しい斎藤喜博先生の言葉を思い出した。「君の可能性」という言葉である。
 新聞記者生活55年。途中、支局長とか論説委員、編集委員、さらには地方紙の編集局長とかいう名前の名刺を持って働いたが、その間、ずっと記事や論評を書き続けてきた。それを支えてきたのがこの言葉である。
 先生と初めてお会いしたのは1971年の春。3年近く働いた信濃毎日新聞を辞し、朝日新聞での初任地・前橋支局でのことだ。初めて自宅を訪れた時から先生の懐に飛び込み、その教授法の勉強会にも参加した。先生の著書も読みふけり、「可能性を引き出す教育」について大きな影響を受けた。
 先生に「一つのこと」という詩がある。全文を紹介しよう。

 いま終わる一つのこと
 いま越える一つの山
 風わたる草原
 ひびきあう心の歌
 桑の海光る雲
 人は続き道は続く
 遠い道はるかな道
 明日のぼる山もみさだめ
 いま終わる一つのこと

 この詩について、先生は次のように説明されている。
 …この詩は、いま自分たちは、みんなと力をあわせて一つの仕事(学習)をやり終わった。それは、ちょうど一つの山にのぼったようなものである。山の上に立ってみると、草原にはすずしい風が吹いている。そこに立つと、いっしょに登ってきた人たちと、しみじみ心が通い合うのを感じる。そこから見ると、はるか遠くに桑畑が海のように見え、雲が美しく光っている。そしていま登ってきた道を人がつづいて登ってくるのが見える。自分たちはいま、一つの山を登り終わったが、目の前にはさらに高い山が見えているのだ。今度はあの山に登るのだ、という意味である。
 学校の学習とは、こういうことをみんなと力をあわせてつぎつぎとやっていくのである。一つの山をのぼり終わると、次のより高い、よりきびしい山に向かって出発するのである。そういうことがおもしろくて楽しくてならないように、クラス全体、学校全体で力をあわせて学習していくのである。
 続けて、こんな説明もある。
 …ひとりがよいものを出すことによって、それが他のみんなに影響し、より高いものになって自分のところへ返ってくるのである。それぞれがよいものを出し合い、影響しあうから、ひとりだけでは出せないような高いものを自分のものとすることができるのである。ひとりひとりの人間が、より高い、よりよいものに近づこうとするねがいを持ち、そのためにはどんなほねおりでもしようとするようになり、またどんなほねおりでもできるようになるためには、学校でのこういう経験がどうしても必要になる。(中略)そういう努力を続けていくことによって、ねばり強い心とか、困難にくじけない心とかもつくられていく。また、苦しい思いをしても、目の前にある困難を一つ一つとっぱしていくことこそ、本当に張り合いのあることであり、楽しいことだということも体験として覚えていくようになる。
 そういうことこそ、もっとも大切な能力である(以下略)。
 この説明は、ファイターズの活動にも、そっくり当てはまるのではないか。この日の試合で鮮烈なデビューを果たした二人の1年生だけではなく、昨年から試合に出続ける選手も、それを支える選手やスタッフも、粘り強く、困難にくじけない心と身体をつくってチームを支えていく。
 その積み重ねが、有能なタレントをそろえたこの日の相手にも発揮されたのではないか。後半開始早々、96ヤードのキックオフリターンTDを決めたRBの伊丹君。相手のラン攻撃を再三、強く素早い当たりで食い止めたLBの永井君やDBの波田君、2年生DB東田君はその長身を生かして相手のパスをカットし続けた。みな日頃から目的を持った練習に励み、自らの可能性を拓いてきたからこその成果ではないか。
 黙々と好守の最前列で身体を張り続けたメンバーを含め、それぞれのポジションに、そういうお手本になるようなプレーを見せてくれる選手がいるからこそ、強力なタレントをそろえた相手にもチームとして対抗できる。それがファイターズの強みであり、チームの底上げにもつながっているのではないか。
 もちろん自軍の戦力や個々の選手の力量を冷静に見極めるベンチの目も鋭い。双方が相まって、好守共に優秀な能力を持ったメンバーをそろえた相手に、終始主導権を渡さず、試合を進めることができたのではないか。
 高い目標に向かって出発し、チーム全体で力をあわせて学習する。高い目標を達成するためにはどんな努力もいとわず、日々、努力を続ける。そういう経験がより高いもの達成するための道を拓いてくれる。
 そういう循環を生み出すことができれば、チームは必ず強くなる。そう考えると、4月に入部したばかりの新人を先発メンバーに起用し、新入生もその期待に応えたというこの日の試合は、チームにとっても大きな収穫になったに違いない。
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2023年05月08日

(2)悔しさを糧に

 7日の王子スタジアムは雨。「第1回神戸エレコムボウル」と銘打った試合の相手は、社会人のトップリーグに所属するエレコム神戸。10年近く前には、現在、ファイターズのコーチをされている香山氏が主将として活躍されていたチームであり、現在も、ファイターズの卒業生(当日の選手名簿によると、2020年卒業のOL松永、森田、22年卒業のOL朝枝、RB前田君ら)が名前を連ねている強豪である。昨年度の4年生が卒業し、メンバーが一新された2023年度ファイターズの現在地を確かめるための相手としては申し分なかろう。
 朝から降り続いていた雨は、試合が進むにつれて激しさを増し、グラウンドの所々に大きな水たまりが出来ている。選手はもちろん、応援するチアリーダーや観客にとっても、最悪のコンデションだ。
 グラウンドの状況が悪いと、攻める方も守る方も大きな制約を受ける。思いもよらないハプニングも起きる。それを象徴するような場面が試合早々に現れた。
 立ち上がり、ファイターズの攻撃は相手の激しい動きに押され、ランも進まず、パスもままならない。一度もダウンを更新出来ないまま、攻撃権が相手に渡る。
 ボールは相手ゴール前10ヤード。相手にとってはゴールポストを背負った苦しい場面だったが、好守共にメンバーのそろったラインは強力だ。右に左にと強力なラン攻撃を展開し、立て続けにダウンを更新し、あっという間にセンターラインを超えてくる。
 ここは、DB波田とLB海崎の機敏な動きでなんとか食い止め、相手をパントに追いやったが、そこでとんでもないハプニングが起きた。相手がゴール際まで蹴り込んだパントが水たまりに落ちてそのまま止まってしまったのだ。タッチバックを狙ってそのボールに触れなかったリターナーをよそに、相手チームがゴール前1ヤード付近でそれを確保。そのまま相手の攻撃が続くことになったのだ。
 球の勢いや落下地点から見て、必ずゴールラインを割るとみてスルーしたリターナーの判断が結果的に間違っていたのだが、当の本人を責めるのは酷な気もする場面だった。
 しかし、相手にとっては思わぬご褒美。逆にファイターズはゴールを背負った苦しい位置からの攻撃を強いられる。ダウンの更新もできず、結局は相手にフィールドゴールを決められ、3点のリードを許してしまう。
 第2Qに入っても、雨は激しく降り続ける。パスが投げづらいのか、互いに攻撃はランプレーが中心。ファイターズは伊丹のランを中心に陣地を進めるが、パスが機能しないから攻撃が手詰まりになる。逆に、相手は果敢にパスを投じてくる。それでもファイターズの守備陣が踏ん張り、相手に決定的なチャンスは与えない。
 膠着した状況で、再びファターズにミスが出る。相手の蹴ったパントを取り損ね、ゴール前2ヤードで相手に攻撃権を与えてしまったのだ。相手にとっては思わぬプレゼントである。即座にTDに結びつけ10−0とリードを広げる。
 ハーフタイムが終わっても、雨は降り続ける。雨脚はより強まり、グラウンドは水浸し。当初は双方のゴールポストの前面だけが水たまりになっていたが、後半に入ると、全面的に水が浮いている。こんなことを言っては失礼だが、スタンドで見ている当方には、試合の勝敗よりも、選手がけがなく、無事に試合を終えてくれるのを祈るような心境だ。
 試合は結局、後半にもう1本のTDを決めたファイニーズが17−0で勝利。ファイターズに取っては悔いの多い敗戦となった。
 試合後、ファイニーズの元主将でもある香山コーチに電話し、感想を聞いた。
 最初の一言が「雨の中での試合を経験したこと、自分たちの力のない点を知ることが出来たのが今日の収穫でしょう。応援してくださるファンにとっては物足りなかったでしょうが、学生チーム相手では得られない経験をしたのだから、これを今後に生かしていかないと……」との答えが返ってきた。
 その通りである。どんな相手であっても、どんな状況に置かれても、それを言い訳にせず、日々の練習に必死懸命に取り組んでこそ道は開ける。そういう意味では、雨の中、思い通りに進まなかった攻撃陣も、相手のパワーとスピードに押された守備陣も、この日の悔しい経験から学ぶことはいくつもあるはずだ。今季の開幕早々に、こうした経験が出来たことを糧として、チームに名を連ねる全員がさらなる努力を続けてくれることを期待したい。
posted by コラム「スタンドから」 at 23:41| Comment(0) | in 2023 Season

2023年04月24日

(1)芽吹きの季節

 春、4月。今季の初戦は22日。相手は日本大学。あの「悪質タックル騒動」以来、途絶えていた関係だが、ようやく試合を再開するまでの関係がよみがえった。双方の関係者はもちろん、ファンにとっても懐かしく、そして楽しい試合が展開されると想定されたのだろう。続々とファンが詰めかけ、ファイターズサイドの応援席は試合開始のはるか前からほぼ満員。
 この日は若手OB、OGらの発案で、試合前にファイターズが主催するイベントもグラウンドの一角で行われ、鳥内前監督のトークショーなどで盛り上がった。会費制でホットドッグ風の軽食やアルコール飲料も提供されるとあって、懐かしい卒業生が次々と顔を見せていた。僕が立ち話をした主なメンバーだけでも、2001年度卒業の石田力哉、2004年度卒の佐岡真弐、石田貴祐君らがいる。それぞれその昔、ファイターズを目指し、入試に備えた「小論文の書き方」の勉強会をした頃からの知り合いだが、いまは40歳を過ぎた貫禄たっぷりの「おっちゃん」たちだ。それでも、話し始めると、一気に20年以上も前に時間が戻る。あれこれ話していると、あっという間に試合時間が近づいてくる。
 定刻の1時半に試合開始。この日は、前述の通りにOB、OG組織が主催する催しがゴールポストの後方で行われていたため、小野ディレクターらによる場内限定のFM放送は取りやめ。いつもと勝手の違ったスタンドで、一人、メモを取りながら観戦したが、小野さんらの解説がないから、ボールを持った選手の動きを追うのに精一杯。その上、今季から新しく出場するようになったメンバーの名前がすぐには分からないため、1プレーごとにメモを取るのが追いつかない。
 加えて、この日の攻撃はランプレーが中心。入れ替わり立ち替わりタイプの異なるランナーが出場するので、プレーごとにその背番号と獲得ヤードを記録し続けるのも容易ではない。
 そういう試合で、目に付いたのが。RB陣の充実ぶり。エースの前島君はこの日、リターナーやレシーバーとしての出場はあったが、ランナーとしては出番がなく、代わって3年生以下のメンバーが活躍した。体が一回りも二回りも大きくなって突破力の付いた伊丹君を中心に、同じ3年生の澤井君、2年生の井上君らが活躍。ショートヤードが獲得したい場面では、昨年までほとんど出番のなかった3年生の住田君がパワフルなプレーを見せてくれた。
 試合後、記者団に囲まれた大村監督が「今日はランニングバックがよかった。思い切り褒めていたと書いといて下さい」と話されていたが、全くその通り。これに4年生の前島君らが加わると強力なランアタックが期待できる。さらに、この日は4年生のWRが一人も出場しなかったけれども、実績のある鈴木や衣笠が戻ってくると、攻撃の幅が一気に広がり、得点力も上がるに違いない。
 そうなれば、この日は目立たなかったQB陣の活躍の場が一気に広がるだろう。そういう意味では、この日のロースコアも全く悲観する必要はない。この日の試合で活躍したメンバーはもとより、思い通りに動けなかったメンバーも、その原因を見つめ、そこから新たな出発を期してもらいたい。
 2023年のシーズンは始まったばかり。日大を相手に、自信を付けたメンバーはもとより、苦しい試合を強いられたメンバーのさらなる発展を期待して、まずは今季の応援コラム第1回を締めくくろう。私もまた、せっせとグラウンドに通い、部員の動きを見学させてもらおう。
 胸弾むシーズンの開幕である。
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2022年12月20日

(17)そしてバトンは渡された

 終わって見れば34−17。12月18日、阪神甲子園球場で、東日本代表の早稲田大学を相手に行われた第77回甲子園ボウルは、ダブルスコアでファイターズが勝利。5年連続33度目の優勝を果たした。
 試合を振り返るに際し、まずはこの日の記録を紹介しておこう。ダウンの更新数は関学が26回、早大が16回。獲得ヤードはランが239ヤード対106ヤード、パスが同じく220ヤード対253ヤード。ターンオーバーの回数は、それぞれ1回と2回。ファイターズの攻撃がパスとランのバランスがとれていたのに対し、早稲田の攻撃はパスに偏っていたことがよく分かる。
 こうした数字を見ると分かるように、ファイターズの攻撃はランとパスのバランスが良く、相手の攻撃はパス中心。徹頭徹尾パス中心に攻め込んできた。
 1Q12分の戦いなら、少々、攻撃パターンが偏っていても、先取点を奪い、その勢いで試合の主導権を手にすることも可能になる。しかし、1Q15分の戦いは長い。相手が事態を冷静に見極め、態勢を立て直せば、やがて自分たちのペースで試合を進めることが可能になる。この日のファイターズは、その模範ともいえる戦いで勝利を手にした。
 試合はファイターズの攻撃からスタート。いきなりRB池田がダウンを更新したが、思わぬファンブルで瞬時に早大に攻撃権が移る。このピンチは守備陣の奮闘で切り抜けたが、相手の士気は上がっている。1年生QB星野が右や左に展開しながらパスを投げるが、思い通りに陣地は進まない。しばらく双方の守り合いが続き、気がつけば0−0のまま1Qが終了。
 第2Qに入ると星野も落ち着き、相手ゴール前26ヤード付近からWR糸川に絶妙のパス。通ればTDというプレーだったが、なぜかボールはレシーバーの胸からこぼれ落ちてしまう。しかし、K福井が43ヤードのFGを決めて待望の先取点。3−0とリードを奪う。 続く早大の攻撃は、DB中野やDLショーンの好守でしのぐが、ファイターズの攻撃もかみ合わない。結局、もう1本フィールドゴールを決めたが、第2Q終了間際に相手にもFGを決められ、6−3のまま前半終了。
 ここまでを総括すれば、ファイターズは押し気味に試合を進めながら自らのミスでチャンスを逃がし、相手は逆に、思い切りのよいパス攻撃で活路を開こうとする。それがそのまま得点に表れたような試合展開。どちらにせよ、後半の立ち上がりが勝敗を分けそうな予感を抱きながら、寒風の吹きすさぶスタンドで待機する。
 しかし、後半戦に入っても双方の守り合いが続く。試合が動いたのは、第3Q2度目のファターズの攻撃から。1年生QBの星野から交代した3年生の鎌田が立て続けにWR衣笠と河原林にパスを通して相手陣深くに迫る。RB伊丹のランプレー2本を挟んで、今度はTE小林への短いパス。相手の守備陣が混乱した隙を突いてRB伊丹が相手ゴールを突破して待望のTD。リードを13−3と広げる。
 これで自信を付けたのか、鎌田の動きがさえてくる。衣笠へのパスを立て続けに決めて相手にパスへの警戒心を持たせたと思ったら、一転して伊丹や星野を走らせて陣地を進める。仕上げはゴール前5ヤードからRB前島が走り込んでTD。20−3と差を開く。
 こうなると試合はファイターズペース。前島がさらに2本のTDを追加し、終わってみれば34−17でファイターズが勝利した。
 振り返ってみると、前半こそ相手の思い切りの良いパス攻撃と、アグレッシブな守備に手こずったが、相手の手の内が見えてきたところでQBを星野から鎌田に交代させたベンチの作戦がピタリとはまった。その作戦に応えた攻撃陣も素晴らしかったが、相手の思いきったパス攻撃に耐え続けた守備陣も素晴らしかった。素早い動きで相手QBに圧力をかけ続けるDLの山本やショーン。低くて鋭いタックルで走者を釘付けにするLB永井や浦野。狙い澄ませたようなジャンプで相手のTDパスをもぎ取ったDB山村。彼らの名前を挙げていくと、関西リーグで関大や立命の強力なオフェンスに対抗してきた彼らの自信がそのままプレーに反映しているように思えた。
 別の言い方をすれば、個々のプレーヤーの力は拮抗していても、チーム全体で見ればファイターズが少しばかり上回っていたということであり、その力には関大や立命館との試合を戦い抜いた自信が宿っていたということだろう。
 強力なライバルがあってこそのチーム力の充実。表面的な力は互角に見えても、ここ一番という場面で発揮されたその力がファイターズ5連覇の支えになった。関大や立命との厳しい対戦を耐え抜いてきたことが力になり、その力で勝ち取った勝利。別の言葉で言えば、ライバルとの厳しい戦いがあったからこその勝利と言ってもよい。
 そのバトンは、この日グラウンドに立った全員でつないだ。その結果としての5年連続日本1。渡されたバトンは、新しいシーズン、3年生以下のメンバーがつないでくれるに違いない。
 試合後、グラウンドに降りて大村監督と握手を交わした際、シーズン中、守備陣は褒めても、攻撃陣には厳しい評価を続けてこられた監督の表情が、いつになく和んでいたのが印象的だった。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:02| Comment(1) | in 2022 Season