2018年08月08日

(13)夏に鍛える

 立秋。暦の上では秋が始まる。
 今年の夏はことのほか暑い日が続き、どこから見ても秋という雰囲気ではない。わずかに蝉の鳴き声や空の色、そして早朝の爽やかな空気から、何となく季節が移っていることが感じられる程度である。
 しかし、ファイターズにとっては、これからが夏本番。7月下旬には前期試験が終わり、暑さに慣れるための軽い練習期間も終えて7月31日から本格的な夏の練習がスタートしている。
 8月10日からの夏合宿を前に、今年は学内のスポーツセンターを利用した短期合宿を2度繰り返した。日中の暑さを避け、早朝と夕方の涼しい時間を十分に使うための工夫である。基本的には朝の6時過ぎからあんパンとジュースの補食をすませて順次グラウンドに出る。7時から8時までが朝の全体練習。終われば学生会館で朝食を摂り、その後の90分は昼寝の時間。起床すると、今度は昼食。その後、冷房が完備した学内のトレーニングルームで1時間の筋力トレーニング。終わるとミーティングに入り、4時半ごろからは夕方の練習の準備。その後、グラウンドの気温が多少とも下がるのを待って夕方の全体練習。夕食後に再びミーティングというスケジュールである。
 こうした予定を円滑に進めるためには、朝夕の通学時間を削るしかない。そこで下宿生以外は学内の施設に泊まり込んで練習時間を捻出するのである。早朝からの練習で近隣の住宅に迷惑がかかっては大変ということで、練習中は笛も掛け声も禁止。合宿前には4年生の幹部が学校とも協力して周辺自治会の役員宅を訪問し、早朝からの練習に理解と協力を申し入れてもいる。外部の方にはうかがい知れないファイターズの気配りであり、合理的な練習である。
 こういう姿に接すると、今年もシーズンが近づいてきたと実感する。同時に4年生がこうして頑張る時間は、残すところ最大でも5カ月を切ったとも思い知らされる。「4年生の諸君。いまが勝負の時だ。頑張れ」と、思わず声を掛けたくなる。
 一方で、この季節は来春の入学を目指し、ファイターズの仲間に加わりたいと志望する高校生にとっても勝負の時だ。例年通り高校の学期末試験が終わるのを待って、スポーツ選抜入試で関西学院を目指す高校生の小論文勉強会を開いているが、彼らもまた夏の練習で忙しい中、週に1度の勉強会に心弾ませて参加している。
 今年、僕が担当しているのは12人。関西勢が中心だが、関東方面からの志願者が例年以上に多い。いつもの年なら、関東勢にはリクルート担当マネジャーの協力で彼らが書いた小論文をスマホでやりとりするのだが、今年はわざわざ夜行バスを利用したり、関西にいる親戚の家に泊めてもらったりして参加してくれる選手もいる。ファイターズの一員になり、ファイターズでフットボールを学びたいという強い動機があるからこその行動だろう。
 こういう高校生に接していると、僕もまたどうしてもこの子らの力になりたい、という強い気持ちが湧いてくる。大学の方針によって、来年の入学者からはとりわけ文武両道が求められる。それだけに、いま僕が協力しているささやかな勉強会が彼らの学習意欲を刺激し、それが入学後の高いモチベーションにつながってくれることを祈る気持ちがより強くなる。
 幸い、彼らが書いた文章を添削したり、簡単な会話を交わしたりする限り、みんな向上心のある高校生ばかりである。それぞれが所属するチームで鍛えられているのであろう。考え方もしっかりしている。プレーヤーとしての力だけでなく、将来は必ず部のリーダーとしての役割を果たしてくれると期待できる高校生も多い。
 暑さがどんなに厳しくても、仕事がどんなに忙しくても、時間が許す限りはグラウンドに出掛け、いそいそとこの勉強会に通う。そこで意欲に満ちた大学、高校生から新たなエネルギーを頂戴する。ファイターズに関わることができて良かったと思える瞬間である。
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2018年07月28日

(12)ファイターズの先見性

 関西学院大学が課外活動の理想を追う時、僕は常々「ファイターズの活動をスタンダードにすればどうか」と考えてきた。それぞれの考え方や伝統を基本に、日々、部の運営に知恵をしぼり、工夫を凝らしておられる各クラブに対して、あまりにも僭越な言い方なので、正面から主張したことはなかった(ときどきはそれに類することは書いてきた)が、今回、大学が体育会に所属する学生を対象に、学業とスポーツ活動の両立を図る制度を設けることを発表したのを機に一言、論じてみたい。
 大学の発表によると、この制度の目的は学業とスポーツ活動の両立が目的。具体的には卒業までに取得しなければならない124単位を確実に取得させるため、各学年で最低限取得しなければならない単位数の統一基準を設け、その取得状況によって、対外試合出場に「資格有り」「条件付きで資格有り」「資格なし」に分類する。資格なしと判定された部員は、練習試合を含む対外試合に半年間は出場できない。
 「出場資格なし」とされる単位数は1年終了時に20単位以下、2年終了時に41単位以下と規定。これは2年間留年すれば取得できるペースという。
 「条件付き出場資格有り」の場合は、論文の書き方などを学ぶ支援プログラムを受講することで」出場資格が復活する。
 来春、入学する学生から適用し、学生とは入学時に合意書を交わすという。
 これに似た仕組みは、すでにファイターズが「部内の約束事」として運用してきており、プレイヤーとしての能力が優れていても、過去には試合には出場できない選手が何人もいた。もちろん、部内で勉強会を設け、成績の優秀な学生が指導者となって単位取得の指導をしたりもしている。僕も過去に2年間、前期だけだが、毎週土曜日に3人の学生に個別指導を続けた経験もある。それとは別に、大学に入学が決まった前の高校生に2カ月ほど、読解力を付けるための個人指導をしたこともある。
 そうした体験を通じて、学業と部活動の成果は連動しているという実感を持っている。最初は、大学の試験にどのように対処したらいいか自信の持てない部員でも、何かのきっかけで単位の取得が進むと、大学生活に自信が付き、それが部活動への取り組みにも好影響を及ぼすのだ。
 例えば十数年前の例である。スポーツ推薦で入部した有望選手は当初、大学のフットボールが楽しくてならず、授業もそっちのけで部活動に集中していた。当然、前期試験では単位がほとんど取得できず、監督やコーチから「このままでは試合に出さへんぞ」と、厳しく注意された。それに発憤して、後期以降はまじめに授業にも取り組み、4年間で無事卒業。第一志望の有名企業に就職した。4年生の時には主将も務めてリーグ優勝を果たした。
 土曜日ごとの僕との勉強会に取り組んでくれた選手の一人も、成績が上がるに連れてチーム内での発言力が上がり、守備リーダーとして主将を補佐し、チームを牽引してくれた。当然、甲子園ボウルでも勝ち、大学日本一の栄誉をつかんだ。
 現在の4年生にも、単位取得が進むのと並行してプレーヤーとしても見違えるような力を発揮している選手がいる。
 課外活動が学業の妨げになるのではなく、大学の授業に真摯に取り組むことがプレーヤーとしての覚醒につながり、同時に日々の行動、振る舞いにも自信も付けさせてくれるのである。これが本当の意味での文武両道であろう。
 単位取得の取り組みだけではない。ファイターズは近年、練習時間の設定、長期休暇中の早朝練習、練習後の食事と睡眠時間の確保、トレーナーの協力による下宿生のための朝食会など、さまざまな取り組みを最新の知見をもとに取り入れている。試合に出場出来るのは男子だけだが、女子部員にも広い活動範囲が与えられている。
 シーズンに入ってからのチーム練習の時間も、驚くほど短い。それでいてサプリを摂る時間などは確実に確保している。初めて練習を見学した人はみな、これが日本1を目指すチームの練習かと驚かれる。
 そうしたチームマネジメントの在り方に関心を持たれる他競技の監督やコーチも最近は増えてきた。コーチの指示で、部員全員が第3フィールドに集まり、ファイターズの練習を見学されている場面を見たこともある。
 そのたびに、ファイターズの活動のいいところをそれぞれのクラブ活動に取り入れてほしい、ファイターズの活動を参考にしてチームを運営し、成果を挙げてほしいと思うことが多かった。
 今回、単位取得と対外試合出場を関連づけた新しい制度をスタートさせるのを機会に、できればファイターズの活動と先見性を関学体育会のスタンダードにしてもらいたいと願う、これが理由である。
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2018年07月19日

(11)コーチの目と頭脳

 僕の働いている紀伊民報では、週明けの朝が一番忙しい。編集の責任者として、その週の仕事の段取りを整え、自分の担当するコラムを書かねばならない。週末に記者が書いてくれた硬派の原稿に手を入れる作業も待っている。だから僕が朝日新聞を定年で辞し、この会社にお世話になってから14年間、正月やお盆の休刊日に当たる年以外に、月曜日は(それが祝日であったとしても)一度も休んだことがない。当然、講演の依頼があっても受けないし、会議などの予定も入れない。
 ところが、今年は違った。朝日カルチャーセンターで毎年夏、小野宏ディレクターが担当されている「アメリカンフットボールの本当の魅力」という講演会がこの日の昼に開かれることになったのだ。その日は3連休の最終日。普段は参加できない遠方の方々も昼間なら参加できるのではないかという主催者と講師の配慮から決まったという。
 「えっ! 俺とこ、一番忙しい日やで!」とカルチャーセンターの担当者(不肖、僕の娘です)に苦情を言ったけど、後のまつり。もう会場は確保しているし、日程も変更できないという。
 ならば、僕の仕事の段取りを変えるしかない。木曜日の夜に田辺から西宮に戻り、金曜日は関西学院で担当している前期最後の授業。その夜はこの秋、スポーツ選抜入試に挑む高校生を対象にした小論文の勉強会。二つの仕事をつつがなく終えて土曜日の早朝には、和歌山県田辺市にある新聞社にUターン。週明けの仕事の段取りを済ませ、月曜日と火曜日に掲載するコラムも仕上げた。月曜の朝も8時に出社し、9時半までには実務を終えて会社を出発。一気に会場のある阪急・川西能勢口駅前まで車を走らせた。
 苦労して参加した講演会は、聞き応えがあった。小野さんはこの6年間、連続してこの講演会を担当されているが、今年は昨年秋、ファイターズが2度に渡って死闘を繰り広げた立命館との試合が中心。それも、11月19日のリーグ戦では21−7と完敗したファイターズが、2週間後の西日本代表決定戦では34−3と圧勝した、その理由にしぼっての解説だった。
 なぜ、1戦目に完敗したチームが2戦目では勝てたのか。そこにどんな仕掛けがあったのか。監督やコーチ、選手やスタッフはその2週間をどのように過ごし、どうモチベーションを高めてきたのか。
 それをチームのスタッフが撮影したビデオを再生しながら、「コーチの目、コーチの頭脳」を駆使した解説が続いた。チームを支える名もなきヒーローの話やフットボールの特性に関する奥の深い説明もあった。これを会場に来られた方たちだけの「記憶」にしておくのでは余りにもったいない。そう考えて、よく整理されたレジュメに沿って、その内容の一端を報告することにした。
 まずはリーグ最終戦、最初のパスプレー。立命が見せたとっておきの第1プレーはなぜ成功したのか。シーズン中、けがでほとんど試合に出ていなかったエースRB西村の回復状況をどのように捉えるかという両チーム首脳のやりとりから始まり、相手オフェンスはどのようにして守備陣に対する数的優位を作り出したのか。逆に、ファイターズ守備陣はなぜ相手の動きを止めきれなかったのか。そういったことについて、具体的な選手の動きをビデオで再生しながら解説していく。
 その解説が受講生の頭に入った頃を見計らって、続くとっておきの第2プレーの解説に入る。今度は相手のエースRB西村が左サイドを駆け上がり、あわやTDというところまで走ったのだが、なぜ簡単に走路が空いたのか。ファイターズの守備陣がなぜ適切に対応できなかったのか。そういったことについて、これまた双方のベンチの思惑から選手の心理状態まで含めた解説が続く。
 逆に、立ち上がり、相手の思惑通りに先取点を与えてしまったファイターズの攻撃は、ほとんど進まない。その理由は何か。相手がファイターズの攻撃パターンをよく整理して準備していたことを、繰り返しビデオを見せながらの解説していく。
 そうした話に区切りが付くと、今度は西日本代表決定戦でのファイターズのプレーを中心にした解説が始まる。
 その間、一息入れるようなタイミングで、大村アシスタントヘッドコーチから取材したとっておきの話が紹介される。こんな内容である。「立命を相手に2試合を戦うことを前提に、2試合分のプレーを準備してきた。新しいプレーのうち、成功する確率の高いもの2試合目に備え、1試合目はそれ以外のプレーでやった。決して(1試合目を)捨てているのではなく、それでもある程度は勝てると考えていた。正直、相手守備の準備が素晴らしかった。出ると思ったプレーがどれもうまく対策を立てられて止められた。(前半で大きくリードされる)あの展開になって、後半は新たなプレーを出すことは控えた」
 そうした覚悟の中で迎えた西日本代表決定戦。今度は、ファイターズが先攻となり、先制点を狙って攻撃がスタートする。しかし、最初のランプレーは相手守備陣に押し込まれてロス。今日も押されるのか、という沈んだ気持ちを吹っ切るように、2プレー目にRB山口のスーパー個人技が出る。自陣のゴール前13ヤード。苦しい位置からのランプレーだったが、一度、中央で潰されたように見えながら、素早しいバランス感覚で体勢を立て直して左サイドに抜け出し、そのまま58ヤードを走った。
 このチャンスに、初戦では「成功の可能性の高いプレーは温存していた」というプレーが炸裂する。QB西野からWR前田へのスクリーンパスである。この場面についても、何回もビデオを再生しながら克明な解説が入る。相手守備陣を幻惑させてレシーバーをフリーにさせ、そこにパスを投げ込むプレーだったが、コーチの考えとプレーヤーの動きが見事に一致し、タッチダウンとなる。のどから手が出るほど欲しかった先取点を挙げて意気が上がるファイターズと「前回とは様子が違うぞ」と戸惑う相手守備陣。その後も、ファイターズは前回の敗戦後に開発したプレーで守備陣を惑わせ、結果、前半だけで21−0とリード。試合の大勢を決めた。
 こうしたチーム内の裏話を盛り込みながらの明晰な解説を聴きながら、現場を預かるコーチたちの目の付け方とそれを基に彼我の関係を冷静に分析し、対策を立てる頭脳にあらためたて感心した。
 そしてチームを指導する現場からは距離を置きながら、ビデオの分析と、コーチからの取材を基に、一つ一つのプレーの意図と内容、そしてそのプレーが試合結果にどうつながるか。プレーコールの駆け引きからプレーデザインの競争、ゲームプランの質の競争。そして、年間を通じたグランドデザインの大切にまで言及し、分かりやすく解説してくれるディレクター。
 フットボールにおけるコーチの存在の大きさを再確認すると同時に、一つ一つのプレーを分析し、それぞれが持つ意味を具体的な言葉にして語れる人が存在するチームの素晴らしさをあらためて知った。年々講演会への参加者が増え、今年は過去最多の200人もの聴衆が集まったという理由もよく分かった。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:21| Comment(0) | in 2018 Season

2018年06月30日

(10)ファイターズの流儀

 金曜日には僕の担当している授業がある。担当は2時限(11時10分開始)と3時限(13時30分開始)の2クラスだが、たまたまほかの用事もあって、朝の9時に大学に着いた。
 速攻で用事を済ませ、G号館(その昔、硬式野球のグラウンドのあった場所にできた比較的新しい建物。国際学部や人間福祉学部がある)1階のスターバックスに向かう。
 ホットコーヒーを購入し、空いた座席に座ると、前の席に大柄な学生がノートに向かって何事かを書き連ねている後ろ姿が見える。「朝早くから勉強か。まじめな学生だな」と思って、コーヒーに口を付ける。僕も文庫本を取り出して読み始めようとしたとき、その学生が立ち上がる。思わず顔が合う。4年生のスナッパー、鈴木邦友君である。
 「おはよう。朝早くから頑張ってるね」と声を掛ける。「ええ、いまから大村コーチとミーティングです。そのための準備をしていました」と明るい声が返って来る。そうか、先ほど熱心になにやらノートに書き込んでいたのは、そのための準備だったのか。そう思った途端に、先週のコラム「けが人先生」を編集者として最初に読んでもらった小野ディレクターから聞いた話を思い出し、しばらく立ち話をする。
 「これは小野さんから教えてもらったことだけど、4年生になって下級生を指導する立場になると、教える側のプレー理解が一気に進むそうだ」「自分が体感、体得したものを言葉に表すために論理化する。その作業によって教える側の頭が整理される。つまり、下級生に教えることは、同時に自分の学習効果を高めることにつながる」
 「だからいま、キッキングチームのアイデアをノートに書き込んでいることが、そのまま自分の成長にもつながるということ。頑張ってな」
 そんな言葉を掛けた。
 聞けば、彼は希望していた総合商社への就職も決まり、卒業単位の心配もない。後はフットボールに専念するだけという。その具体的な行動の一つとして、早朝から、コーチとのミーティングの準備をしていたのだ。
 彼だけではない。ファイターズではこういう4年生が各パートでそれぞれ、自分たちがいま成さねばならないことに集中して取り組んでいる。どうしても勝ちたい。日本1のチームをつくりたい。そのためにプレーヤーとして自身を成長させると同時に、下級生たちにどのように働きかけ、チームとして実現させていくのか。そういうことを4年生全員が選手もスタッフも関係なく、寝る間も惜しんで考え続けている。
 自分たちで考えるだけでない。具体的なアイデアを持ってコーチに説明し、それを実現させるための助言を受ける。その具体例を目の当たりに見て、思わず、鳥内監督がつねづね口にされている「君らが勝ちたい、いうから、僕らが手伝ってんねん」という言葉を思い出した。
 ファイターズとはこういうチームである。監督やコーチが無理やり部員を鋳型に押し込むのではない。上級生が力で下級生を押さえ込むのでもない。いまも日本のスポーツ界に根を張る古い因習とは全く無縁のチームとしての誇りを日々の実践を通して力に替える組織である。
 戦後の草創・発展期に10年間監督を務められた米田満先生から、ことあるごとに聞いた言葉を思い出す。
 「関学のアメリカンといえば、戦後、軍隊から戻ってチームを再興し、1947年、48年と2年連続して主将を務めた松本庄逸さんの影響が大きい。グラウンドに立てばポツダム中尉の威厳があって、恐ろしく怖い存在だったが、ふだんはみんな兄弟や、仲良くやろうと言い続けた。その言葉、その精神がいまも連綿とチームに受け継がれている」。こういう言葉である。
 上級生が良き先輩として、下級生を丁寧に指導する。それによって自らの学習効果を高め、フットボールについての理解を深める。上級生、下級生の双方が響き合ってチームとしての力を高め、そこに指導者が養分となる助言を惜しみなく注ぎ込む。日々、そうした営みを続けて目標の高い山に登っていく。
 そういうファイターズの流儀、内部教育システムの一端を朝早く、すっきりした頭でプレーのアイデアをノートに書き込む鈴木君の姿に見て、どうしてもこのコラムで紹介したくなった。
posted by コラム「スタンドから」 at 23:02| Comment(2) | in 2018 Season

2018年06月23日

(9)けが人先生

 最近、ファイターズの練習を見ていると、すごく興味深いことがある。ポジションごとにけがをして回復途上にある4年生が実質的なコーチを務め、下級生を丁寧に指導していることである。
 オフェンスではWRの松井君や小田君、RBの富永君。ディフェンスではDLの三笠君や齋藤君、DBの横澤君。QBの光藤君やRBの山口君も短い間だったが、けがからの回復期には、ずっと下級生に付き添い、現場の選手ならではのアドバイスを具体的な足の運びや腕の振り方を例示しながら教えていた。
 上級生が下級生を指導するのは当たり前、と思われるかも知れない。実際、僕もずっとそう思っていた。だから、日々グラウンドで繰り広げられるそういう光景をみても、当然のことと、特段、気にも留めなかった。
 けれども、今年の4年生はひと味違う。一言で言えば「教え方の本気度」が違うのである。まるでコーチのように、足の運び方から腕の使い方、相手の間合いの取り方をチェックし、自ら見本を見せて教えている。もちろん、けがをしているから体は思い通りにいかないが、なぜそのような動きが必要なのか、そのような動きをすることでどういう効果があるのか、そういうことを具体的な動作を繰り返しながら懇切丁寧に教える。それができたときには、即座に「そうそう」「ええやん」と声を掛けて励ます。
 言葉や身振りで教えるだけではない。けがから復帰した選手たちは、今度は自らが先頭に立って模範的なプレーを見せる。例えばWRなら小田君や長谷川君が下級生に教えていた通りのコースを走り、教えていた通りのテクニックで守備の選手を振り切ってパスを捕る。そのプレーをひけらかすのではなく「これが見本だよ」とでもいうように下級生にお手本を示す。
 それを見ている下級生は、自分たちが絶対に捕れないようなパスを先輩たちはどうしてこともなげに捕球できるのだろうかと感嘆し、首をかしげる。同時に「あれができてこそ試合に出してもらえる。その水準に自分を高めなければ」と新たな練習に励む。そういう循環が攻守を問わず、今シーズンはグラウンドのあちこちで繰り広げられているのである。
 「学ぶは真似ぶ」という言葉がある。幼い子はお兄ちゃんやお姉ちゃん、両親や身の回りの子どもたちの仕草を真似ることから言葉を身に付け、走ったり遊んだりできるようになる。幼児が大学生になり、教育とか指導とか、難しい言葉を使うようになっても、「学ぶ」の本質は「真似ぶ」にある。人は良きお手本を真似し、それを自分のものにしていくことによって成長する。
 昨日まで手の届かなかったボールに手が届く、手が届いても捕れなかったボールが今日は捕れた。そういう確かな手応えを得るたびに人は成長する。その手応えが「明日も頑張ろう」という元気の源になる。こういう循環がいま、4年生の「けが人先生」たちの献身的な指導を通じて、下級生に浸透しつつあるのだ。
 こうした指導は毎年、このチームの4年生が繰り返してきたことだが、今年は例年以上に「けが人先生」に存在感がある。よくいえば、中心になって指導している松井君らの教え方が特別にうまいからかもしれない。逆に言えば、レギュラークラスと控え選手との間に大きな落差があるということかもしれない。昨年1年間、体作りに専念してきた2年生や今年入部したばかりの有望な選手が先輩の指導は何でも学ぼう、身に付けてやろうという強い意欲を持っているからかもしれない。
 明確にいえるのは、こうした上級生と下級生の関係がこのチームを支えているということだ。ファイターズには有能な専任コーチもいるし、大学職員の任務を全うしながら部員を指導してくれるコーチもいる。組織運営を担ってくれる職員にも恵まれている。それでも、肝心の選手間の風通しが悪くては、思うようなチーム作りにはつながらない。それだけ「けが人先生」の果たす役割が大きいということだ。
 世間では、体育会的という言葉が、上級生が下級生を奴隷のように扱い、時には暴力的な指導に走る集団という意味で使われることが少なくない。僕は以前、日本高校野球連盟の理事をしていたが、連盟に報告されてくる高校野球界の暴力事件、とりわけ指導者による暴力件数の多さには驚かされた。全国に根を張る巨大組織だから報告件数も多くなるというだけではなく、根底に暴力的な指導に寛容な土壌があるとしか思えない状況だった。
 いま、世間の目はスポーツ界における暴力的な指導に厳しくなっている。だからこそ、いま上ヶ原のグラウンドでファイターズの「けが人先生」たちが繰り広げている指導の在り方が輝いて見える。夏を越え、秋になってその成果が実を結ぶことを大いに期待している。
posted by コラム「スタンドから」 at 10:55| Comment(1) | in 2018 Season

2018年06月06日

(8)収穫いっぱいJV戦

 3日はJV戦。会場は第3フィールド。追手門学院との試合だった。天気は晴れ、試合開始時刻は午後4時。6月の日差しは強かったが、ときおり遠く甲子園浜の方向から吹いてくる風が心地よい。見上げる甲山も麓の山も新緑が盛り上がってキラキラと輝いている。絶好のフットボール日和であり、観戦日和である。
 今季初めてのJV戦とあって、この日は今春入部したばかりのフレッシュマン19人も登録された。オフェンスではRB鳩谷(箕面自由)、前田公(高等部)、斎藤(江戸川学園取手)、安西(関西大倉)、QB平尾(啓明学院)、WR鏡味(同志社国際)、戸田、和泉(ともに高等部)、東尾(三田祥雲館)、OL牧野(啓明学院)、朝枝(清教学園)、福田(豊中)。ディフェンスではDB竹原(追手門学院)、北川(佼成学園)、LB赤倉(同)、久門(高等部)、DL小林(千里国際)、原田(啓明学院)、青木(追手門学院)。
 彼らはみな、入学後、懸命に筋力を鍛え、体力の数値をクリアしたメンバーばかりだ。昨年の夏休み、小論文の勉強会をともにして顔なじみになっている選手もいるし、高等部や啓明学院、千里国際から進学してきた選手もいる。U19の日本代表に選ばれた選手もいるし、僕が注目している「赤坂ダッシュ」で、いつも集団の先頭を切って走っていた選手たちが期待通りの活躍をしてくれるかどうかも見所だ。
 さすがに先発メンバーに名を連ねた選手はいなかったが、試合前、監督に聞くと「それぞれ何プレーかは出るでしょう」とのこと。大いに期待してキックオフを待ち続けた。
 もう一つ、注目したのは先発QB光藤。今季はけがで出遅れ、練習もほとんどできない状態が続いていた。ぶっつけ本番の出番でどれだけ動けるか、パスのターゲットとなる下級生レシーバー陣との呼吸が合うかどうか。考えるだけでもどきどきしてきた。
 ファイターズのレシーブで攻撃開始。自陣25ヤード付近から始まった最初のプレーは光藤のキープ。鮮やかなステップで簡単にダウンを更新し、チームを落ち着かせる。次のプレーはWR鈴木へのミドルパス。捕った鈴木が見事な走りで一気にゴール前13ヤードまで前進。その好機にRB渡邊が簡単に走り込んでTD。それぞれ昨季から試合経験のあるメンバーとはいえ、わずか開始3プレーでTDに持ち込んだのは、お見事、というしかない。
 自陣22ヤードから始まったファイターズ2度目の攻撃では、期待の新人が登場する。最初はRB斎藤がランで5ヤード、続いて光藤からWR戸田へのパスで19ヤード。しかし、ここは反則などで攻撃が続かず、攻守交代。
 守備陣が相手を完封して迎えた3度目の攻撃シリーズ。今度は光藤が見せる。ラン攻撃と見せかけて自らボールをキープ、巧みにブロッカーを使って右、左と身をかわしながら一気に66ヤードを走り切ってTDを決めた。さすが主将である。けがで練習出来ない日が続いても、腐らずに仲間を鼓舞し続け、QBの練習台を続けてきた努力が生きた。まだまだ試合の感覚は戻っていないかも知れないが、秋のシーズンには十分間に合うことは確認できた。それだけでも大変な収穫である。
 収穫といえば、期待の1年生も素晴らしかった。RB陣は出場した鳩谷、斎藤、前田、安西がそれぞれ1本ずつTDを決めたし、WRの戸田や鏡味も上級生に遜色のないパスキャッチを披露した。ラインではセンターを務めた朝枝が元気いっぱい。1プレーごとに大声で気合いを入れ、1年生とは思えないようなリーダーシップを発揮していた。QB平尾を含め、彼らが夏の合宿を乗り越えれば、秋の公式戦でも出場機会がありそうだと期待が高まる。
 守備陣ではDLの青木。189センチ、123キロという大きな体だが動きは素早い。目の前のラインを簡単にはねのけ、即座にボールキャリアに向かうスピードと身のこなしは一級品だ。長時間の出場機会を与えられたDB北川やLB赤倉らとともに、秋の公式戦でも出場機会が増えそうだ。期待が持てる。
 以上のようなフレッシュマンの活躍ぶりを見ているとワクワクする。この1カ月間のもやもや、重苦しい空気が浜風に乗って吹き飛ばされた気がする。
 こんなJV戦は23日にも予定されている。相手は金沢大学。この日活躍した選手がさらに成長しているか、新たにどんな選手がデビューするか。けがとか経験不足で出遅れていた上級生たちがどんなプレーを見せてくれるか。見所はいっぱいある。指折り数えて待つことにしよう。勝敗に関係なく、ひたすら期待の選手に注目して観戦できるJV戦は、本当に楽しい。
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2018年05月30日

(7)感動。そしてそれから。

 26日午後5時半、ファイターズが学内で開いた記者会見が終了した後、僕はしばらく放心状態になっていた。会場を後にして時計台の前に立ち、ぼんやりと中央芝生を眺めていたが、頭が全く働かない。ある種の酩酊状態とでもいうのだろうか。それとも、さきほどまでの会見における感動の余韻が尾を引き、次の行動を起こす気にならなかったのか。そのまま家に帰るのももったいないような気分になった。
 芝生に座ったまま、ぼんやりと2時間半に及ぶ記者会見の様子を回顧していた。思いは5月6日の日大との定期戦で今回の問題が発生して以降のファイターズの取り組みに移っていく。
 10日の記者会見でファイターズが撮ったビデオを見せられたときの衝撃がよみがえる。「こんなプレーはあり得ない。一体何が起きたのか」「これは確信犯。当の選手は、なぜ、こんなプレーをしなければならなかったのか」「誰が指示したのか」。疑問が次々と浮かんできたことを思い出す。
 続いて17日の会見。関学会館に100人以上の記者が詰めかけ、20台前後のテレビカメラが並んだ。その席で、疑問点を整理し、理路整然と相手チームに真相の究明を求める小野ディレクターの姿を思い返し、鳥内監督の短いがポイントを突いた発言を振り返る。双方の役割を明確に分担し、新聞やテレビの影響力の大きさを十分に理解したうえで説明される二人の姿に接して「危機管理はかくあるべし」と感動しながら聞いたことが昨日のように思い浮かぶ。
 26日。キャンパス内の大教室で開かれた3度目の記者会見には、事態の広がりを証明するかのように、前回をはるかに上回る報道陣とカメラが詰めかけた。質問者が次々に立ち、被害者のお父さんからの説明もあったことから、会見は2時間半近くに及んだ。それでも会見は終始、冷静に進められた。冒頭、これまでの経過と、2度に及ぶファイターズから日大への質問状とそれに対する相手からの回答を基に、それでも残る疑問点や矛盾点を10箇条にわたって列挙し、その上でまとめたファイターズの見解を資料として記者全員に配付。その資料に沿って小野ディレクターが概要を説明したうえで「現段階では日大(部)の見解には強い疑念を抱かざるを得ず、これ以上の問答は平行線をたどる可能性が高いと考えます」と言い切った。その瞬間、僕は涙が出るほど感動した。
 この結論を導き出すまでにチームが費やした時間、監督やコーチとも十分に打ち合わせたうえで一つ一つの文言を精査してきたディレクターとそれを支える3人のディレクター補佐の協力、学内の意思統一に費やされたであろう多大な労力。そうしたことを想像するだけでも頭が下がる。
 一方で、アメリカに留学中の部長、池埜教授とは、何度もメールを交わし、負傷した選手とチームに対する精神的なケアについて、専門家としての立場から貴重な助言をいただいたとも聞いている。
 さらには、会場で配布された資料からは、チームのOBでもある二人の弁護士(寺川拓氏と三村茂太氏)から被害者とその家族、さらにはチームの対応に対する適切な助言があり、法律の専門家ならでは協力があったこともうかがえる。
 このようにファイターズの総力を結集して取り組んだ成果がこの日の記者会見である。延々と続く記者の質問から一切逃げることなく、的確な回答をされる鳥内監督と小野さんの言葉と堂々とした姿勢に、表現する言葉が見つからないほどの感銘を受けた。
 これがファイターズの底力だ、こうした素晴らしい危機管理ができるチームの端っこに、僕も連なっている。そう思っただけで、涙が出てきた。
 チームの底力という点からいえば、OBたちのチームを思う熱い気持ちにも触れなくてはならない。
 今でこそ、今回の問題が広く話題になり、連日のように新聞やテレビ、週刊誌が大々的に取り上げているが、チームが1回目の記者会見を開いた10日の時点では、そこまでの広がりはなかった。中には、どうしてそんなことを聞くのかと首をかしげたくなるような質問さえあった。
 そういう状況に変化を持ち込んだのが、アメフットに詳しい各紙の専門記者であり、専門誌の記者である。アメフット界の現状に警鐘を乱打し、未来に向けての提言を懸命に記事にしてくれた。朝日新聞でいえば、問題のタックルの場面を連続写真で紹介し、相手側ベンチがボールの行方ではなく、当該のタックルに目をやっている「不自然な視線」に読者の注目を呼び込んだ榊原一生記者。日大の内田監督の伊丹空港での会見で、ポイントを突いた質問を投げかけ、矛盾に満ちた回答を引き出して、問題のありかを明白にした大西史恭記者。そして、ファイターズのOBでもある二人の先輩である篠原大輔記者。彼は京大のアメフット部出身だが、あの試合で退場になった後、テントの中に入って泣いている相手守備選手の写真を撮り、そのシーンを中心にコラムを書いて、問題のありかを明確にしてくれた。
 公正中立であるべき記者の立場を考えれば、彼らがフットボール選手であった経歴は、プラスになると同時に制約も多かったと想像する。けれどもフットボールを愛し、その未来を危ぶむ気持ちから、思い切って問題の核心をえぐり出してくれた記者魂に頭が下がる。それは上記の3人に限らず、フットボールを愛する専門記者すべてに共通する思いであったろう。
 こうしたことの総和ともいえるのが26日の記者会見。監督、コーチからスタッフ、部長に至るまで、大人の叡智のすべてを結集して問題の所在を明らかにし、主張すべきは主張し、守るべきは守ってきたファイターズの総合力を存分に見せつけられて、僕はしばし、キャンパスから去り難かったのである。
posted by コラム「スタンドから」 at 15:10| Comment(1) | in 2018 Season

2018年05月26日

(6)3度目の記者会見

 日本大学との定期戦で起きた相手選手による反則行為に関して、ファイターズは26日午後、学内で記者会見を開いた。10日、17日に続く3度目の会見である。僕も前2回に引き続いて出席し、しっかりとチームの主張を聞かせていただいた。
 これまでの2回については、チームが自制に自制を重ね、慎重に言葉を選びながら進めておられることもあり、僕がホームページにうかつなことを書いて迷惑を及ぼしては申し訳ないという気持ちから、この件に関してはあえて触れないようにしてきた。
 しかし、3度目となる今回の会見では「現段階では日大(部)の見解には強い疑念を抱かざるを得ず、これ以上の問答は平行線をたどる可能性が高いと考えます」として、今後の方針を明確にされた。
 具体的には@日大(部)との試合については、選手の安心・安全を担保することができないと判断し、定期戦は十分な信頼関係を取り戻すまで中止としますA学校法人日本大学による第三者委員会、関東学生アメリカンフットボール連盟による客観的な真相究明を強く要望します。真相究明にあたっては全面的に協力いたしますB最終的には捜査機関の捜査によって真相が究明されることを強く希望いたします。捜査には全面的に協力いたしますC被害を受けた選手及びそのご家族の支援を継続していきますD日大の当該選手およびそのご家族に対しても可能な限り支援の可能性を模索していきます……という5項目の宣言である。
 ここまで言い切るまでに、チームとして相当深い考えを巡らされたことは想像に難くない。もちろん、あの3度の反則場面を記録した録画を何度も何度もチェックし、相手監督やコーチの記者会見などでの発言と、ファイターズからの2度にわたる書面での申し入れに対する相手チームの回答との食い違いも解明されたはずだ。反則行為に手を染めた選手から直接聞いた謝罪の言葉と、そのときの真摯な姿勢も、チームの心証を形成する上で大きな役割を果たしたに違いない。弁護士の同席があったとはいえ、彼が独力で行った記者会見での発言も同様である。あの確信を持った発言と、次の日に相手チームの監督やコーチが口にされた言葉のどちらが信用できるのか。ファイターズの担当者でなくても、テレビを見ていたすべての人が直ちに正解を出したは
ずだ。
 そうした諸々のことを縦、横、斜めからチェックし、「これ以上の問答は平行線をたどる可能性が高い」との結論を導き出したうえで決定された5項目の方針である。その方針に、僕は全面的に賛同する。
 一連の問題がメディアで広く報じられて以降、遠く離れた友人たちから次々と連絡があった。それもメールではなく、携帯電話である。直接、僕と話したかったのだろう。チームや被害を受けた選手を激励してもらいたいという人がいれば、記者会見の進行を中心にチームの対応の素晴らしさを称賛する人もいた。相手チームの無責任な対応ぶりについて、ぜひ一言述べたい、といって内部情報を提供してくれた人もいた。
 朝日新聞社の元同僚は「関学の主張には裏付けがあることを私たちも確認した。記者会見を開いて、冷静に問題点を指摘し、相手に明確な回答を求める姿勢も素晴らしい」とファイターズの対応を褒めてくれた。
 「問題の場面を写し出したビデオがすべてを物語っている。どんなに言葉で言いつくろっても、このビデオがある限り言い訳にもならない。もはやビデオがなかった時代の感覚では通用しないんです」と口を開き、自身がこれまでに見聞した「暴力によって人を支配しようとする指導者」を批判し続けた人もいる。
 もちろん、今回の問題を深刻に捉えている人も多かった。「このままではアメフットの未来が危うい」「ここはファイターズだけでなく、アメフット界のリーダーたちが問題を直視し、リーダーに課せられた責任を果たすべきときだ」といった話を、延々と述べてくれた友人もいる。
 同感である。ことは日大と関学の争いにとどまらず、日本におけるアメフットの未来に関係するのである。
 そのためにはファイターズが3度の記者会見で強調している通り、真相を究明することが欠かせない。真相の究明こそが、アメフット再生への最初の一歩になる。
 そのうえでいま、注目しているのは大学アメリカンフットボール界の動きである。今回の問題をきっかけに東大や法政、立教など今後日大との試合を企画していた6校すべてが「安全が担保されていないこと」などを理由に対戦を辞退した。
 日大と同じリーグに加盟している15大学は、連盟に第三者委員会を設立して、ことの真相を究明するよう求めている。
 スポーツ庁の長官も動き始めた。日本アメリカンフットボール協会の会長と日本社会人アメリカンフットボール連盟の理事長も18日、相次いで声明を発表し「今回の問題は、絶対に許されるべきものではなく、極めて重く受け止めています」「このような事象が繰り返されないよう真相究明を断固要請していくとともに、アメリカンフットボール界への信頼回復に努めてまいります」などと述べている。
 この機運を生かしたい。いや、生かさなければならない。アメフットの未来を切り開くためには、大学アメフット界が自ら立ち上がり、課外活動、課外教育としてのフットボールの普及、発展のために、組織の在り方から審判の技術向上まで、さまざまな分野に潜んでいるであろう問題点をあぶり出さなければならない。
 問題点を直視し、改善・改革していくことによって、初めてアメフットの未来が担保される。僕はそれを信じている。
posted by コラム「スタンドから」 at 23:55| Comment(1) | in 2018 Season

2018年05月20日

(5)渦中から離れて

 今朝は5時半に起床。顔を洗ってすぐにこのコラムを書き始めた。テーマはもちろん、あの反則タックルから始まる日本大学の指導者の対応を巡る問題である。
 書きたいことはいっぱいある。情報もあちこちから寄せられている。チームに迷惑がかかるかもしれないが、とにかく書いてみようと、2000字近い文章を一気に書き上げた。
 いったんコーヒーを飲み、もう一度読み返した上で、いつも掲載前にコラムをチェックしてもらっている小野ディレクターと石割ディレクター補佐に送信。さて、微妙な問題だから、お二人からどんな反応があるかと注目していたら、間もなく小野ディレクターからメールが届いた。「いまは非常にセンシティブな状況なので、このコラムは預からせて下さい。別のテーマで書いていただけると助かります」という内容だった。ある意味では予想通りの反応である。チームを運営する責任者としては、当然の対応と言ってもよい。
 当方も、潔く、この申し出に同意し、このホームページでの掲載を見送ることにした。
 もちろん、自分が気合いを入れて書いた文章である。それなりに愛着はある。けれども、書くことによって、今回の件に対する自分の考えの整理はできた。それを少なくともお二人には目を通していただいた。それだけで満足という気持ちも強い。その満足感の中から、新たなテーマで、別のコラムを書いてみようという意欲も湧いてきた。
 そんな次第で書いたのが以下の文章である。タイトルは「赤坂ダッシュ」。読者のみなさまの気分転換の一助になれば幸いである。
     ◇    ◇
 ファイターズは今季も50人近い新入部員を迎えた。スポーツ選抜入試や指定校推薦で大学の門をくぐったメンバーがいれば、高等部や啓明学院のアメフット部で活躍したメンバーもいる。アメフット経験者だけでなく、野球やバスケットなど他競技の経験者も多い。そんなメンバーが左腕の上部に自身の名前を書いた腕章を巻いて、4月の初めから基礎体力づくりに励んでいる。
 顔を知っているのは昨年の夏、推薦入試に備えて一緒に小論文を勉強したメンバーだけだが、彼らの状態はそれぞれに異なる。推薦入試を突破し、昨秋から体力づくりに励んだメンバーは筋肉質な体型を造り上げているし、ある種の開放感から高校生活をエンジョイしてきたメンバーは何となくだぶついた体型になっている。
 体型だけではない。新入部員合同の練習の後、いくつかの班に分かれてグラウンドと周辺の坂道を全力で走る時の様子でも、彼らがこの半年間、どんな生活をしてきたかの想像はつく。ある部員は颯爽と先頭を走り、別の部員は必ず途中で遅れ始める。ラインの選手の多くは自分の大きな体を持て余し、いつも最後部を走っている。
 コースはざっと600メートル。途中、行きと帰りに短い坂道があり、それが結構きつい。新入生は基本的に毎日これを3本、全力で走り、都合60本を走り終えると、とりあえず基礎的な体力が付いたとトレーナーに認めてもらえる。
 歴代の部員が「赤坂ダッシュ」と呼んで苦闘してきたこのダッシュを見ているのが楽しい。誰が将来、このチームを担っていくのかということが、その走る姿から、ある程度想像が付くからである。いつも先頭グループで気持ちよく走っている選手は、必ずプレーヤーとして頭角を現す。走るのが苦手でいつも最後尾の集団にいても、一歩でも前にという気持ちを前面に出して走るメンバーもまた、必ず成長し、気がつけばラインの主力選手になっている。
 このことは、卒業生も含めて、各学年で常に先頭グループを引っ張っていた選手の名前を挙げると分かりやすい。第三フィールドに移ってきた最初の年、スタート直後には必ず先頭に立っているが、50ヤードほど走ったところで必ずといってよいほど失速していた選手がいた。後にWRとして活躍した萬代晃平君である。ペース配分を考えれば600メートルくらいは余裕で走れたはずなのに、とにかく最初のダッシュに全力を挙げ、あとは失速しても仕方がないという割り切った走り方が印象に残っている。鳥内監督の次男坊、将希君は常に後続をぶっちぎっていたし、WRからDBに転向して活躍した田中雄大君のスピードも記憶に残っている。
 現役で言えばRBの山口君がいつも先頭で、それを追うのがWR小田君とQB西野君。それぞれがいま、4年生としてチームを引っ張っている。トレーナーの澤田君に聞くと、山口君はこの赤坂ダッシュの記録保持者だという。
 こうした努力で体力を養い、筋力を付けてきたフレッシュマンが連休明けから、続々と上級生の練習に合流している。いまはまだまだ大学生の練習に慣れない様子も見受けられるが、すでに「あれは誰?」「どこから来たん?」と上級生から注目されているメンバーもいる。
 大村コーチによると「今年の1年生はいい。期待できますよ」ということだった。僕もすでに、何人かの名前をチェックして手帳に記し、その練習振りを見守っている。
posted by コラム「スタンドから」 at 06:22| Comment(1) | in 2018 Season

2018年05月13日

(4)ファイターズの道

 今日、関西学院大学で開かれたファイターズの記者会見に出席。5月6日の日本大学との定期戦における「日大選手による反則行為」に関するファイターズの見解と主張をじっくりと聞かせていただいた。
 すでに新聞やテレビの報道、それにネット上の多様な書き込みによって、問題の発端となった日大選手の反則行為についてはご承知の読者も多いとは思いますが、あえて私見を述べさせていただきます。フットボールを愛し、ファイターズのチーム作りに全幅の信頼を置いている老人の繰り言になるかもしれませんが、おつきあいいただければ幸いです。
 まず、記者会見でファイターズから配布された資料の要旨を箇条書きで紹介します。
@当該の反則行為について、試合後にビデオ映像で確認したところ、関学のQBがボールを投げ終わって約2秒後に、相手DLが背後からタックルをしているA当の選手はボールには一切反応せず、QBだけをめがけて突進し、プレーが終わって力を抜いている状態の選手に全力で突き当たったうえ、倒れた選手の足をねじっているBこれはプレーとはまったく関係なく、当該選手を傷付けることだけを目的とした意図的で極めて危険、かつ悪質な行為であるCこのDLはその2プレー後、及び4プレー後にもそれぞれパーソナルファールの反則を犯し、3回目の反則で資格没収となったが、試合後の日大監督のコメントは、これらの反則行為を容認するとも受け取れる内容だったDファイターズは10日付けで日大アメリカンフットボール部の部長及び監督に対して厳重に抗議する文書を送ったEその内容は・日大DLの関学QBへの1回目のパーソナルファールに対するチームとしての見解を求めると同時に、関学QB及び保護者へのチームからの正式な謝罪を求める・日大の監督が試合後にメディアに対して出したコメントに対する見解とコメントの撤回及び前項の行為が発生したことについての指導者としての正式な謝罪を求める……といった内容です。
 これとは別にファイターズは、11日付けで関東学生連盟にも「連盟が規律委員会を設けて詳細を調査するとのことでありますが、その調査の過程で弊部へのヒアリングを強く要望します」という内容の要望書を提出したことも明らかにしています。
 文章にすれば、長々とした説明になりますが、以上の件の大半は、ファイターズが記者会見で提供したビデオ映像を見れば一目で理解できます。
 すでにSNSやネット上では、問題の場面が何度も再生されていますので、機会があれば見ていただきたいのですが、僕は今日の会見で記者のために繰り返し再生されたビデオを見て「これはアウト。ネットで『殺人タックル』という言葉が飛び交っている理由がよく分かる」と思いました。
 同時に、この記者会見が開かれる何日か前に書いた僕のコラムは、一字一句修正する必要がないとも確信しました。
 このコラムを書いているのは12日の夜ですが、実はこの週の半ばにこの問題に関して自分なりの考えをまとめ、デスクとして原稿をチェックしていただいている小野ディレクターに送信していました。しかし小野さんからは「この問題に関しては、チームとして見解をまとめ、対処しようとしているところです。土曜日に記者会見を開きますので、それまでは原稿を預からせて下さい」という話があり、僕もそれを了解して一端はボツにしていたのです。
 記者会見も終わり、チームとしての見解が正式に公表されましたので、ボツにしていた原稿の一部を再生させていただきます。概要は以下の通りです。
 ……そもそも大学における課外活動とはどういう意味を持っているのでしょうか。大学、高校などでは通常、課外活動という言葉を使っていますが、もう一歩進めて、課外教育と捉えた方がより分かり易く、目的も明確になるのではないでしょうか。
 多くの学生はいま、大学での学びと並行して部活動に熱中しています。オリンピックに出場するような選手もいれば、常に大学のトップを競うファイターズのようなチームもあります。一方で、部員が揃わずに苦労しているクラブもあります。一口に部活といっても、その内実は千差万別です。けれども、それぞれ状況は異なっても、一つの競技に打ち込み、自分を鍛え、高めようと取り組んでいる点においては、体育会に所属するすべての部員が共通の土俵に立っているといってもよいでしょう。
 その共通の土俵とは何か。スポーツを通じて身体を鍛え、強い心を育むこと、仲間との友情を育み、生涯の友を得ること、ライバルに敬意を表し、互いに最高の状態で戦うことといってもいいのではないでしょうか。
 そこからは、相手を傷つけてもよい、再起不能にしてもかまわない。どんな手段をつかってもよいから勝て、といったような発想が出てくるはずはありません。
 その意味で、いま問題になっている日大の選手のプレーは、当該選手の問題だけでなく、指導者の問題、組織の問題と合わせて総合的に捉えなければ真実は見えてこないのではないでしょうか。
 今回の問題で僕の脳裏に浮かんだのは、プリンストン大学の選手やコーチ、体育局の指導者のことでした。彼らは2015年春、ファイターズの招きで来日し、親善試合やシンポジウムを通じて爽やかな交流をしてくれました。試合では圧倒されましたが、彼らが見せてくれた課外教育やボランティア活動に取り組む姿、勉学と両立させながらの練習や試合への取り組みなどを思いおこすと、今回の事例との距離は天と地ほどの開きがあります。
 今回のことは、思い返すだけでも腹立たしいことです。けれども日本の大学の課外活動の現実と限界を見せつけてくれたという意味では、一つのエポックになるはずです。
 それを信じて、学生たちの心身の成長、発達を促すための組織づくりに突き進んでいきましょう。関西学院の課外教育のよきモデルとしての道を歩みましょう。大学当局にも、大学スポーツ界にも、必ず目の見える人はいるはずです。もちろんファンの目も確かでしょう。
 いまは「一粒の麦」かもしれませんが、今日の記者会見で蒔かれたこの麦が日本の学生スポーツ界の現状に風穴を開けることを信じて疑いません。合い言葉は「どんな人間になんねん」(by鳥内監督)です。
posted by コラム「スタンドから」 at 07:45| Comment(3) | in 2018 Season