2017年07月18日

(14)フットボールの本当の魅力

 先週末は、小野宏ディレクターの公開講座「アメリカンフットボールの本当の魅力」。年に一度、朝日カルチャーセンターで続けられているファンに向けた「勉強会」である。今年は「西日本代表決定戦の後半に何が起きたか」という副題で2時間、170人の参加者を前に内容の濃い解説が続いた。
 講座の内容は、準備されたレジュメの目次に示されている。@代表決定戦までの状況Aリーグ戦(立命戦)の振り返りB代表決定戦前半の“完勝”C後半の思わぬ展開D絶体絶命のピンチE起死回生のロングパスF1プレーを巡る戦術の攻防G復活のドライブHモメンタムの不思議さ。この目次に沿って、ビデオを再生し、試合がどのように進行したか、その裏に両軍ベンチがどういう決断をし、その決断の背景にどういう思考が働いたか、選手たちがその役割を果たすために、どのように準備したか、というようなことを微に入り細にわたって解説されたのである。
 具体的には前半、ファイターズが2本のFGと2本のTDで20−0と引き離し、余裕で進めた試合が、後半にがらりと様相を変え、一気に20−17と追い上げられ、逆転は必至という状況に追い詰められたのはなぜか。試合の流れが立命に傾き、大逆転劇が完成しつつあるときに、ファイターズが自陣2ヤードから放った起死回生のロングパスは、どうして意図され、成功したのか。そこにはどんな決断が秘められていたのか。そのプレーに関わるQBやWRはそのプレーを成功させるためにどんな動きをしたのか。それに続く70ヤードのドライブは、どのようにしてTDに結び付けられたのか。そうしたことを一つ一つのプレーを再現しながら、フットボールというスポーツの怖さと魅力、決断と実行の背景を説明していく。
 同じチーム、同じプレーヤーが戦っているのに、なぜ前半と後半では天地が逆になったような試合になったのか。立命側から言えば、前半、全く進まなかったラン(4回でマイナス2ヤード)とパス(8回で成功は4回10ヤード、逆に2本のインターセプトを喫している)が後半には一気に進む(ランは13回で106ヤード、パスは18回で150ヤード)ようになったのか。一つ一つのプレー選択から見える両軍ベンチの駆け引きと騙し合い。近年、ずっと大学王者の座を競ってきた両チームの高度な戦いの背景が次々と説き明かされていく。
 そうした試合の流れを振り返りながら、小野さんをして「2016年のベストプレー」と言わしめた自陣2ヤードからの攻撃でファイターズが選択したQB伊豆からWR松井へのロングパスの解説に入る。
 一つ間違えばセーフティーを奪われる危険があり、パントを蹴るにも不自由なゾーンで、なぜベンチはパスを選択したのか。そのプレーが成功するとコーチが確信した根拠は何か。その選択を選手たちはどのようにして成功につなげたのか。相手ディフェンス、とくにベストアスリートを配置しているコーナーバックとセーフティーの動きをどのように封じたのか。伊豆の動きと松井の動きを克明に説明し、ベンチからの指示を受け取った二人の心の動きにまで分け入っての解説が続く。
 そこに見られるベンチと選手の信頼関係。昨年の試合で手痛いインターセプトを喫した悔しい思いを糧に技量を向上させ、相手CBを振り払った松井の動き。絶対に成功させなければならない30ヤードのパスに挑んだ伊豆の決意と、成功の伏線となったちょっとした仕草。そうした細かな所まで目を配った解説者の観察眼と取材力。長年、プレーヤー、コーチとしてチームを率い、ファイターズの頭脳とまで言われた小野さんならではの解説は、期待に違わぬ素晴らしさだった。
 同時に、この解説はベンチの意図を確実に実現する細かなデザインの重要性を指摘し、そのデザインを実現する選手の強い意志と高い技量の大切さも語りかけてくれた。
 そうした意志と技量を体現したのが続く70ヤード、13回のドライブである。オフェンスの11人が互いに協力し、絶対にTDに結び付ける、このシリーズで決着を付けると確信し、ひたすらランプレーで陣地を進めた「魂のフットボール」である。伊豆から松井への起死回生のパスから始まったこのシリーズは、何度見ても感動する。それに今回のような適切な解説があれば、フットボールの「本当の魅力」が堪能出来る。
 幸い、この日の講演会の模様は、マネジャーが一部始終をビデオで録画してくれている。これを今春入部した1年生にはぜひ見てもらいたい。フットボールの底知れぬ魅力を知り、一つのプレーが持つ意味の重さを知ることで、必ず成長のきっかけがつかめるはずだ。
 さらに、関西学院の学生諸君にも、学内限定の「フットボール講座」としてビデオ鑑賞会を開けばどうだろう。このビデオを通じて、フットボールの魅力にふれた学生がどんどんスタジアムに足を運んでくれれば、選手たちの励みにもなるに違いない。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:22| Comment(2) | in 2017 Season

2017年07月10日

(13)アシスタントの力

 どんな組織にも、アシスタントという役割がある。アメリカ大統領には補佐官、新聞社の編集局には局長補佐、社会部には次長。映画監督には助監督がおり、テレビ番組の製作ならディレクター補佐がいる。呼び名や役割、待遇などは、それぞれの組織によって異なるが、この役割を果たす人間がいなければ、組織は円滑には運営できない。その人間に能力がなければ、組織の力は発揮できない。その証拠に、いまを去る千年以上も前、お公家さんが政治を仕切っていた時代にも輔佐(ほさ)役がいた。旧の日本軍にも大佐、中佐、少佐という佐官がおり、それぞれが一軍を率いて将軍を補佐していた。輔佐の輔も佐も助けるという意味である。
 僕が新聞社で社会部次長や夕刊編集長という仕事をしていたときも、紙面づくりの実務はこういう補佐役たちに任されていた。もちろん、部長や編集局長は全体を掌握し、現場に行きすぎがあったらやんわりと指摘してくれたし、他の部局とトラブルになるようなことがあったら、適切な指揮をしてくれた。時には現場に任せるふりをしながら、自分の権勢を見せつけるために、つまらないことに口出しする上司もいたようだが、僕の場合は幸いなことに、おおむね上司運には恵まれていた。
 こんな話を持ち出したのはほかでもない。ファイターズにも補佐という肩書きを持
つ人たちが何人も存在し、それぞれが組織の運営に強力な力を発揮しているのを知っているからである。ヘッドコーチ(監督)の補佐役にはは、アシスタントヘッドコーチ(大村和輝氏)、ディレクターの補佐役にはアシスタントディレクター(宮本敬士氏と石割淳氏)、コーチの補佐役にはアシスタントコーチ(社会人の菅野、野村、高橋、島野、池田コーチと現役の学生である橋本亮君や松本英一郎君ら)がついて、実務を切り回している。
 その人たちの能力の素晴らしさは、折りにふれて体感することだし、時にはこのコラムでその一端を紹介してきた。チームの運営、学生たちへの技術指導から高校生のリクルート、そして就職相談まで、いわばチームの成長に関係するあらゆることに適切なアドバイスを送り、注意を促し、アイデアを出し、体を張って鍛えてくれるのである。
 こうした役割を果たすメンバーは、どのチームにも存在するだろう。けれども、僕が直接目にする限りでは、ファイターズほどその役割を過不足なく果たしているメンバーはいないのではないか。
 急所は「過不足なく」という点にある。監督やコーチを差し置いて勝手なことを教えるのは禁物だし、熱が入り過ぎて、選手の自発性を摘み取るようなこともよろしくない。外部からの介入で組織自体が沈滞したり混乱したりする例は少なくないし、そうかといって「外部の目」にさらされない組織は独善に陥る懸念がつきまとう。
 注意すべき点は厳しく指摘し、同時に母親のような包容力も求められる。コーチはもちろん、すべてのアシスタント(補佐役)にそれが求められる。社会人の場合は多彩な人生経験があり、組織の中で活動されてきた実績もあるから、補佐役を引き受けた時点で、その呼吸はよく理解されている。けれども、学生コーチの場合は全く異なる。
 つい数ヶ月前までは最上級生と下級生の関係にあった部員たちに、今度は指導者として向き合うわけだから、その距離の取り方が難しい。昨年のチームは自分たちが主導したチームだが、今年は井若主将が率いるチームである。直接、運営方針に介入することは御法度である。昨年とはまた異なる立場で適切に指導し、アドバイスを送らなければならない。体を張り、練習台として後輩に見本を見せながら、伸び悩んでいる原因を探り、要点をついた助言が求められる。時には個人的な悩みを聞くことも必要だし、耳に痛いことも言わなければならない。
 そういう難しい役割を考えた時、思い出すのは、2011年度、4年振りに甲子園ボウルを制覇した松岡主将とDB香山君や重田君らがアシスタントコーチを務めてくれた時のことである。
 彼らは常に「練習第一」の姿勢を貫き、どんなことがあってもグラウンドに降りて練習相手を務めてくれた。3年間、覇権から遠ざかっていた悔しさを2度と後輩に味合わせたくないと、懸命に指導し、体を張ってくれた。それでいて、当時のチームを運営していた梶原主将らの方針には介入せず、チーム運営については側面から応援する姿勢を貫いていた(細かい点までは分からないが、少なくとも僕が見ている限りでは、練習相手としては厳しく立ちはだかるが、チームの運営には介入しないと自分たちで決めていたような行動をとっていた)。
 その姿勢が伝統となり、いま現在のアシスタントコーチにも受け継がれている。それが「過不足のない」指導という由縁である。アシスタントが力を発揮してくれる組織は強い。それは国家の経営から映画作り、スポーツチームの育成にまで通じることである。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:30| Comment(0) | in 2017 Season

2017年06月27日

(12)勇者への伝言

 ファイターズはいま、春のシーズンが終わり、夏から秋に向けて、ある種の充電期間に入っている。ニューエラボウルに選ばれた選手はそのための練習があるし、それ以外の部員はパートごとに詳細な日程を組んでファンダメンタルを中心にした練習に取り組んでいる。
 目の前には、前期試験も迫っている。そのための準備も欠かせない。堅実に単位を修得している上級生はともかく、下級生にとっては、1、2年生の間が勝負である。ここで手を抜いたら、上級生になってからの部活動にも支障をきたす。監督やコーチが単位の修得状況に厳しく目を光らせているのも、理由があってのことである。
 試合もない。チーム練習もない。そういう期間を利用して、今春卒業したメンバーの文集から、いくつかのことばを紹介したい。2度にわたる立命との勝負に勝って関西リーグのてっぺんに立ち、入念に策を凝らして立ち向かってきた早稲田にも勝って甲子園ボウルを制した4年生がどんな気持ちで日々の活動に取り組み、どんな感慨を持って卒業していったのか。それを知ることは、新たな頂きに挑戦する後輩にとっても、大きな励みになり、目標にもなるはずだ。
 しかしながら、この文集は広く世間に公表する目的で編集されてはいない。卒業生がファイターズで4年間、どのように取り組んできたか、それを自身が回顧した魂の告白であり、後輩たちへの切なる伝言である。卒業生が長い将来にわたって、ファイターズでの活動を振り返るための拠り所である。
 それを僕が勝手に紹介することは許されない。卒業生から承諾が得られた部分、あるいは「後輩への伝言」の部分に限って、要旨だけを紹介させていただく。文集はあいうえお順に編集されているので、引用もその順序である。
 「在籍しているだけでは何も起こらない。自分を邪魔するしょうもないプライドは捨てて、逃げることをやめてほしい。そうすると何か違うものが見えてくる」(WR池永君)
 「人に言われて、ハッとなった言葉は、意外といつまでも残っている。同期や先輩、後輩関係なく、正直に言いたいことを言い合って、お互いを高めあえる、そんな関係ならそこらの学生相手には負けない」(HLD石井君)
 「一人前の男になるには、自分の立てた目標を自分に嘘をつかず、1日1日やりきること。目の前の相手に意地でも負けないこと」(QB伊豆君)
 「引退して素直に思えることが一つある。それは、俺が最後の砦だ、全部タックルしたる、と本気で考え、行動し続けたやつにしか分からない」「ファイターズが勝つか、負けるかはDB、SF次第。タックルするか、抜かれるか。だからこそ俺が全部タックルする。シンプルだけど、そこにとことん向き合って本気で行動するから面白い」(DB岡本)
 「アメフトの実力もない。リーダーシップもない。そんな4年生がチームが日本1になるために何で貢献できるのだろうかと考えました。私が導いた答えは全体練習前にする練習のスペを一番早くにグラウンドに降りてすることでした。私がグラウンドに早く降りて練習してる姿を見た選手たちが「俺も、細川みたいに早くスペ上がろ」と、自然と早くグラウンドに来て練習するのではないかと思ったからです」(WR細川君)
 「『このチーム』と『うちのチーム』の言い方の違いはどこにあるか。それは勝ち負けに関わっている実感があるかどうか。この実感がなければ勝って泣くことも、負けて泣くこともできない。後悔しないのは『うちのチーム』と言える人間だと思う」(DB松嶋君)
 「一番に考えてほしいことは、勝つために自分はどうしたいか、とい自分の行動に自分なりの考えと信念があるかどうかが一番大切です。もしその行動が間違っていれば、仲間が指摘してくれます。そこで会話が生まれ、自分の思いを仲間に伝える場ができ、信頼関係が生まれていきます」(DL安田君)
 「人間本気で考えて、やったんねんと気持ちを固めれば、いままで見えなかったものが自然と見えてくる。たくさんのことを考え、迷い、どうすればもっとよくなるかと試行錯誤するうちに腹から出てくる言葉が変わり、行動も変わる。気付けばそれを毎日繰り返すうちに習慣になっていき、性格になる。そんなことを1年間信じて貫いた時に初めて運命を変えることができるのではないか」「大切なことは、正しいか間違っているかではない。自分と自分たちで決めたことを信じてやり通せるかだ。後輩には、そのことだけを伝えたい。自分で、自分たちで道を切り拓き、運命を変えてほしい」(LB山岸君)
 以上、後輩への伝言に限定し、ほんの数人の言葉からさわりの部分だけを並べてみた。それでも気持ちは伝わってくる。これらの言葉がすべて、ファイターズで過ごした4年間の汗と涙に裏付けられた魂の伝言であるからだろう。
 その真実は、同じ状況に身を置き、同じ悩みを共有し、もがき苦しみ、そこから一筋の光明を見つけた人間のみに理解できるのではないか。あえてこの文集を「勇者への伝言」と僕が呼ぶのは、そこに理由がある。
 松嶋君のいう、ファイターズを「うちのチーム」と考えることのできる全員に、この伝言を受け取ってもらいたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:23| Comment(1) | in 2017 Season

2017年06月20日

(11)リクルートの力

 先週のJV戦、北海道大学との試合では、スポーツ選抜入試で関西学院の門を叩き、ファイターズに入部したばかりの1年生が大いに存在感を発揮した。
 先発メンバーにはRB田窪(追手門)とDL春口(浪速)が名を連ね、交代メンバーとして同じ選抜組のRB鈴木(横浜南陵)、WR亀井(報徳)、OL石川(足立学園)、羽土(浪速)、LB松永(箕面自由)、DB井上(浪速)が出場。それぞれきらりと光るところを見せた。前回、京都産業大学とのJV戦で活躍したLBの海崎(追手門)はすでにVのメンバーとして練習しているため、この日は出番がなかったが、出場したメンバーは、終始、全力で立ち向かってくれた北海道大学の選手達を相手に、これまた全力で立ち向かった。
 これに、今季はけがなどで出遅れていた2年生のDL今井、OLの川部、パング、RB斎藤らの活躍振りを挙げていくと、ファイターズのリクルート力のすごさが見えてくる。
 もちろん、新戦力の供給源として、昔も今も存在感があるのは高等部の出身者。質量ともにファイターズの屋台骨を支えているのは誰もが認めるところだ。加えて近年は、啓明学院出身者の活躍振りも目立ってきた。この日、出番があるたびに相手守備陣を切り裂いたRB三宅や鶴留、足の速さが魅力のWR大村はそれぞれ高等部と啓明の卒業生だ。
 それでも、スポーツ選抜入試やAO入試、指定校推薦など多彩な選抜形態で入部してくる選手を抜きにしては、ファイターズは語れない。昨年のチームを引っ張った主将山岸、QB伊豆、WR池永、RB橋本、DB小池。今季のチームをリードする主将井若、副将松本、WR前田泰一、DB小椋、RB山本、高松らの名前を列挙していくだけで、そのことは理解できるだろう。
 そうしたメンバーを誰が、どのようにして見つけ、チームに勧誘するのか。もちろん、高校時代から華々しい活躍をし、各チームから声のかかる選手もいる。そうしたメンバーは専門誌でも大きく取り上げられ、ライバル校と争奪戦になることもある。けれども、府県大会で早々に敗退するチームの中にも、非凡な才能が埋もれていることが少なくない。他競技からの転身者にも、フットボールで成功しそうな選手もいる。
 ファイターズを例にとれば、さきの伊豆や橋本がそうだし、井若も高校時代はここまで活躍する選手とは思われていなかった。いまやチームに欠かせぬ選手となった3年生のWR松井、DL三笠も、高校時代はごく少数の人が絶賛しているだけだったし、さきのJV戦で別次元の活躍振りを披露した2年生のDL今井も、全国的には無名の選手だった。
 そうした選手をどのようにして発掘するのか。まずは公式試合を中心に高校の試合をビデオに収録する。注目選手を中心に、そのビデオをコーチに見せる。コーチが高校の試合に足を運んで直接、注目している選手の動きを見ることもある。勧誘すると決まれば、高校の責任教師や相手の家族に挨拶にうかがい、本人とも面談する。小論文対策の勉強会もするし、志望理由書など提出書類を整えるためのアドバイスもする。入試当日の世話もするし、入学が決まれば下宿の手配もする。
 そうした一連の作業を担当するのがリクルート班。いまはディレクター補佐の宮本さんが責任者を務め、担当のマネジャー(今季は2年生の安在君)が手足となってビデオ撮影などに奔走する。高校のシーズン中は土曜、日曜に試合があるため、ほとんどの休日が吹っ飛ぶ。
 このリクルート体制は1990年代の後半から、当時の小野コーチが中心になって構築した。当時はスポーツ推薦が始まったばかりで、勧誘のノウハウもなければ、有望選手を発掘する仕組みも十分には整っていなかった。とにかく試合会場に足を運び、これはという選手を見つけると、試合直後に相手ベンチに駆け込み、監督に挨拶をするところから始めていたように記憶している。
 小野コーチの仕事が忙しくなり、その後を宮本さんが引き継いで約15年。その間、営々と高校の監督や部長と人脈を築いてきた。最近では、ファイターズの運営の仕方や選手の育て方に理解も深まってきたという。いまでは相手から「この選手は責任を持って送り出します。ぜひファイターズに育ててもらいたい」といわれることもあるし、彼らが対戦した相手チームの有力選手の情報をもらえることもあるそうだ。
 ファイターズのOBから推薦されることもあるし、監督やコーチの個人的なつながりから、他競技の有望選手の情報が入ることもある。高校の試合のビデオを必ずチェックする大村コーチがリクルーターの注目していた選手とは別の選手の動きに目を止め、当初に予定していたのとは別の選手を勧誘することもある。
 リクルートの現場を預かる人材と監督、コーチとの風通しがいいこと、長年積み重ねてきた高校の先生たちとの信頼関係、入部した選手の成長、そうしたことが積み重なって、現在のファイターズのリクルート力を支えているのだろう。その辺のことを宮本さんに聞くと二つの答えが返ってきた。
 一つはファイターズの「育成力」が高校の監督や先生たちに信頼されるようになったこと。だから、昔はこちらから声を掛けていたが、近年はこれはという選手がいると相手から声を掛けてもらえるようになってきたという。もう一つは現場を預かる大村コーチの目が確かなこと。「彼はよく『こいつはええ目をしている』というような言い方をするのですが、それがことごとく当たっている。ビデオを見るときも、僕らの気付かない所に目を向けていることがよく分かる」と宮本さんはいう。
 そうした努力と信頼によって支えられているのがファイターズのリクルート力である。今季も、そうして選ればれ、入部してきた選手たちの動向から目が離せない。ここでは名前を挙げていないが、ラグビーや野球など他競技からの転出組にも、将来が期待される選手が少なくない。
posted by コラム「スタンドから」 at 21:51| Comment(1) | in 2017 Season

2017年06月13日

(10)収穫多いJV戦

 先週の木曜と金曜の夕方、いつも通りに第3フィールドに顔を出すと、普段の週とは全く違った光景に出合った。いつもならチームの練習が開始される1時間半も前からグラウンド中央でパスキャッチの練習をしているはずの3、4年生レシーバーやランニングバックの姿がないのだ。いや、メンバーはそこかしこにいるし、練習を見守って下さる武田建先生の姿もある。しかし、彼らはどこかゆったり構えたままで、表情も和やかだ。
 そうこうするうちに4時限の授業が終わった下級生が続々グラウンドに降り、入念な準備運動をすませて、やる気満々でパートごとの練習に取り組む。それを待ちかねたように、それまで手持ちぶさたにしていた上級生が間近で練習を見守り、1プレーごとに声を掛ける。褒めるべき点は褒め、注意すべき点は即座に注意する。
 そう、この週は普段、後方にいることが多いJVのメンバーが土曜日の北海道大学とのJV戦に備えて、練習の主役を張っていたのだ。
 JVメンバーは普段、1プレーごとにVのメンバーにチェックを入れらることはない。VのメンバーはVのメンバー同士で声を掛け合い、励まし合って練習。JVのメンバーはスカウトチームとしてそれを支えたり、自分たちに課せられた別メニューに取り組んだりしている。それが春のシーズンを締めくくる北海道大学との試合に備え、この週ばかりはどのパートもJVメンバーが主役となり、Vの上級生たちがそれを支援する役割に回っていたのである。
 その光景を眺めながら、ここまで上級生が下級生に丁寧に教えてくれるチームはそうそうないのではないか、こうした上下の垣根のない練習によってチームの総合力が高められ、歴史が受け継がれていくのだろうと、ある種の感慨にふけった。
 開けて土曜日。夕方の5時から始まった試合では、1、2年生を中心に、期待の新戦力が次々に登場した。先発メンバーを見れば、TEを含めてOLはLBから移ってきた木下を除くと全員が2年生。1年生RBの田窪(追手門)もスタメンに名を連ねている。ディフェンスでも、まだパート練習に加わって間もない1年生の春口(浪速)が先発、故障で今季はVの試合に出ていなかった期待の2年生DL今井も久々にフル出場した。
 交代メンバーに目をやると、RBは田窪とともに期待される鈴木(横浜南陵)、三宅(高等部)、鶴留(啓明学院)の3人が代わるがわる出場。1年生4人で約200ヤードを稼ぎ、TD6本を記録する活躍を見せた。後半に出場した2年生の斎藤も、久々にパワフルな走りを披露した。
 1年生のWRも多士済々。前川、高木(ともに高等部)、亀井(報徳)らがメンバー表に名を連ね、大村(啓明学院)はパントのリターナーとしても非凡な所を見せた。OLの羽土(浪速)、石川(足立学園)も出場していたが、残念ながらボールキャリアに目を奪われて、二人の動きはよく見ていない。
 一方、ディフェンスではDLの岡(高等部)、LB松永(箕面自由、彼は2年生OL、松永大誠君の弟である)、DBの中村、繁治(ともに高等部)、井上(浪速)がメンバー表に登録された。それぞれが高校時代から活躍してきた面々であり、期待されてチームに加わった選手である。終始、交代で出場し、派手な活躍を見せつけたRB4人組に比べると、地味な役回りだったが、それでも入学してまだ2カ月にしかならないこの時期に、上級生に混じって遜色のないプレーができたのだから、立派なものだ。
 鳥内監督に試合後、1年生RBの活躍に話題を振ると「田窪、鈴木、三宅は秋には出てきますよ。鶴留もパワーはある」とご機嫌だった。
 ところが、試合については「反則が多すぎる」と口調が一変。「4年生の責任や。普段から試合を想定して、厳しく注意してないから、こういうことが起きる」「こういうことをやってはいかん、ということを練習の時から意識し、4年生が注意せなあかんのに、それができていない」と続けた。
 この日の反則は12回100ヤード。その多くがスタートに関係する反則とホールディング。普段、試合に出ているメンバーならあり得ないことだが、あまり試合経験がない上級生と、チームに加わってまだ2カ月ほどの選手たちが呼吸を合わせるのに苦労した結果だろう。
 どんなにメンバーを揃えても、試合は思い通りには進行しない。不用意な反則も起きるし、思わぬ失敗も起きる。それを一つ一つつぶしていくための上級生のリーダーシップと下級生の努力。その大切さ、重要性をこの日の試合は教えてくれた。普段、試合に出る機会の少ないメンバーが主役になるJV戦は、その意味でも貴重な機会である。
 欠けた点を補い、長所を伸ばす。いうは易く行うは難しい問題だが、この日の試合は、長所とともに、欠けたところも存分に浮き彫りにしてくれた。初めてまみえる北海道大学が得点差が開いた(最終的には47−0)にも関わらず、最後まで闘志を失わず、懸命に戦ってくれたおかげだろう。
 秋のリーグ開幕まで2カ月半。途中に前期試験があり、その準備期間も含めると、グラウンドでの練習ができる日は限られている。だからこそ1日1時間が大切になる。常在戦場。上級生、下級生に関係なく、一人一人が体力を養い、考えを巡らせて、本番に備えてもらいたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:40| Comment(1) | in 2017 Season

2017年06月06日

(9)「完敗」と「最高」

 日曜日の「神戸ボウル」、パナソニックとの試合は24−10。スコアだけでなく内容的にも完敗だった。当日、会場で応援していたファイターズファンに聞けば、10人が10人ともそのように答えられるだろう。
 関学スポーツが伝えてくれる「試合後のコメント」を見ても、鳥内監督は「レベルに差があった。ライスボウルで勝負しょうと思うんやったら今のままではあかん」と発言されている。
 実際に戦った選手の言葉はさらに厳しい。井若主将は「よい点も悪い点もあったが、全体的にめちゃくちゃ悪い。1対1でも負けている。レベルが低いと感じた」、松本副将は「実力の足りなさを痛感した」、QBの光藤君は「相手のスピードについて行けない。想定以上の速さに対応できなかった」といっている。それぞれが本音であろう。
 けれども、僕はへそ曲がりである。試合は完敗だったと認めることはやぶさかではないが、それでもあえて「最高の試合だった」と主張したい。賛同は得られないだろうし、そんな甘ったれたことを言っているからダメなんだ、と叱られるかもしれない。けれども、たとえ負けゲームであったとしても、そこに光明を見つけるのが僕の役割だと思っているから、あえて自説を書かせていただく。ただの強がりといわれるかもしれないが、お読みいただければ幸いである。
 1、随所に素晴らしいプレーがあった。
 例えば、0−0で迎えた1Qの終盤、自陣21ヤード付近からの攻撃である。まずは光藤がWR松井に20ヤードのパスをヒット、次はRB山口が見事なカットで相手DBを抜き去り、25ヤード前進。次は光藤がランニングバックにボールを渡すと見せかけながら、そのままボールをキープして16ヤード前進。わずか3プレーで相手ゴール前20ヤードまで迫った。
 残念ながら、この場面は最後の詰めが甘くFGの3点にとどまったが、社会人選抜といってよいほどの強力なメンバーを揃えた相手を驚かせるに値する攻撃だった。その主役がそれぞれ3年生。まだ大学では実質2年、けがなどで戦列を離れていた期間を考慮すれば、それ以下の経験しかない。そんなメンバーが経験豊富なスター軍団を相手に一歩もひけをとらないプレーを続けたことに、僕は大きな手応えを感じた。
 2、オフェンスの下級生が踏ん張った。
 この日の先発に名を連ねたOLは左から井若、森田、光岡、松永、村田。4年生は井若、3年生は光岡、残る3人は2年生である。これまた大学でプレーしたのは実質1年かそれ未満という顔ぶれだったが、それが強力な相手ディフェンスに立ち向かった。もちろんずたずたに切り裂かれ、QBがサックを受ける場面が何度もあったが、逆に味方のRBのために走路を空ける場面もあった。3Qの終盤、自陣23ヤードからRB高松が77ヤードを独走してTDに持ち込んだのがその一つである。真ん中のレーンがきれいに開いていたから高松のスピードが生かされ、独走TDに結びついた。いくら相手が強くても、ラインがやるべきことを完遂すれば、道は開けることを実証した場面であり、下級生は大きな手応えを掴んだはずだ。
 3、レシーバー陣のブロックが素晴らしかった。
 例えば、上記、高松が独走TDを決めた時のWR松井のブロック。独走する高松に左から追いすがろうとする相手DBを追いかけ、走路をふさいでいたが、もう一人のDBが右から俊足を飛ばして追いかけて来るのに気付いた瞬間、右にコースを変え、即座に横からの強力なブロックで相手を仕留めた。そのスピード、判断力、そして強力なブロック。その場面をrtvの画面で再確認したが、何度見てもしびれる。昨年の立命館との試合でWR池永君がTDを挙げた時にも、似たような場面があったが、今度は競り合う相手が信じられないようなスピードを持った外国人DBだっただけに、余計に彼のポテンシャルの高さが光った。ファイターズ史上、最高のレシーバーになると監督が期待している通りの活躍であり、このプレーを見ただけで溜飲が下がる思いをしたのは、僕だけではあるまい。
 以上、3つの例を見ただけでも、このチームが可能性に満ちていることが理解してもらえるだろう。さらにいえば、この日は主力をけがで欠き、どちらかといえば交代メンバーで揃えたDL陣の健闘も素晴らしかった。最後は相手の個人的な能力に対抗しきれなかったが、彼らが着実に力を付ければ選手層が厚くなる。秋のシーズンが深まるにつれて、選手層の厚さが勝敗を分けることを考えれば、これもまたうれしい知らせである。
 問題は、試合の所々で垣間見たそうした素晴らしいプレーを、一つ一つの点で終わらせず、線にし、面にしていくことである。1対1でも勝ち、チームとしても勝つ。それをどのように実現していくか。チームの現在位置を明らかにし、これから進むべき道を明らかにしてもらえたと考えれば、「完敗」にも大きな意味がある。
 何度もいうが、ファイターズは発展途上にある学生チームである。完成形に近い社会人チームに悔しい敗戦を喫したとしても、そこに光明が見つかれば、それは負けではない。その一筋、二筋の光明を手掛かりに、今後、チームをどのように鍛えて行くか、個人個人の能力をどう高めていくか。勝負はそこにかかっている。めげている余裕ない。
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2017年05月31日

(8)一瞬の怖さ

 5月28日は、関大との対決。チーム状態には関係なく、いつの年も気合いを入れて向かってくるライバルを相手に、ファイターズがどんな戦いをするか。けがからの回復途上にあり、今季はまだ出場機会のなかったメンバーの回復状況はどんな具合か。今季からスターターを務めるQB光藤がライバル心をむき出しにして向かってくる相手守備陣にどこまで通用するか。その前に、今季は再建途上にある下級生中心のオフェンスラインがしっかり機能するか。見所満載の試合である。
 天気は晴れ、風は西から東に緩やかに流れている。夕方5時キックオフとあって、日中の暑さも多少は和らいでいる。絶好の観戦日和であり、スタンドには若い女性ファンの数が普段の多いように思える。
 ファイターズのレシーブで試合開始。予想通り互いに闘志をむき出しにしたねじり合いが始まる。
 自陣25ヤードからのファイターズの攻撃。最初のQBドローは進まなかったが、次のプレー、光藤からピッチされたRB高松が左サイドを駆け上がって26ヤード。一気にハーフラインまで陣地を進める。続いて光藤からWR前田へのパスで7ヤードを獲得。そこからRB山口、渡辺らのランプレーを3本続け、気がつけばゴール前25ヤード。そこで光藤からWR亀山へのTDパスがヒットする。K小川のキックも決まって7−0とファイターズがリードする。
 この間、9プレー。進まなかったプレーも含めて一つとして無駄と無理のないプレーが続いた。オフェンス全体が集中力を高めて臨んだ結果だろう。
 続く関大の攻撃も自陣25ヤード付近から。こちらも3年生のQBが速いテンポでパスを投げ、ぐいぐいと攻め込んでくる。光藤のリリースも速いが、関大のQBもそれに負けず劣らずの速さである。ファイターズのDB陣がカバーする前に素早いパスを投げ、合間にQBキープとRBの切れ味のよいランプレーを織り交ぜ、あっという間にファイターズのゴール前。ダウン更新まで1ヤード、ゴールまで2ヤードというところまで押し込んできた。
 第4ダウンショートの勝負手はゴール右隅へ走り込んだRBへのパス。一瞬通されたかと思ったが、ボールは相手の手の内からこぼれ、攻守交代。まさに「九死に一生」という場面であり、大げさに言えば、この一瞬が勝敗を分けたようなプレーだった。
 しかし、ミスは相手だけではない。続くファイターズの攻撃でも、同じような暗転場面が現われる。自陣2ヤードから始まったファイターズの攻撃シリーズは前田への短いパス、山口や渡辺らのランで陣地を進め、自陣37ヤード付近から光藤がWR松井へ50ヤードのパスをヒット。一気に相手ゴール前に迫る。一気に突き放すチャンスだったが、光藤から松井へ通そうとしたTDパスが相手に奪われ、一瞬にして攻守交代。松井の長身とジャンプ力を生かし、空中戦でパスを通そうという試みだったが、弾道が意図したよりも低く、松井が競り合う前に相手DBに奪われ、せっかくのロングドライブが得点にならなかった。これまた一つ間違えば、勝敗を分けてしまうようなプレーだった。
 似たような場面は後半、第3Qになってからも続く。関大は最初からノーハドルオフェンスで攻め込んで来たが、DB小椋が値千金のインターセプトで攻守交代。これまた一瞬のうちに場面が転換した。
 ハーフライン付近から始まったファイターズの攻撃は、松井へのパスや高松、渡辺らのランであっという間にゴール前10ヤードまで進む。しかし、そこからの攻めが続かず、フィールドゴールを狙う。これを相手守備陣にブロックされ、せっかくの好機が無得点。
 そのショックが尾を引いたのか、次の関大の攻撃では自分たちの得意とするショベルパスをRBに簡単に通され、それをカバーする選手もいないまま80ヤードの独走TDを許してしまった。これまたフィールドゴールをブロックされたショックを残したまま守備についた面々が、一瞬の隙を見せたということだろう。一瞬の隙が得点を左右し、勝敗の分岐点になるという見本のようなプレーであり、一瞬の油断、ちょっとしたミスが場面を暗転させてしまうフットボールの怖しさといってもよい。
 幸いなことにファイターズは、前半、7−0とリードした後、悔しいターンオーバーにもめげず、山口のTDと小川のフィールドゴールで得点を重ね、17−0とリードしていたから助かったが、これが僅差で競り合った試合だったらどうなっていたか。考えるだけでも恐ろしい。グラウンドで戦う選手達にとっては、一つのプレーの失敗、一球のミスの恐ろしさが身に沁みたに違いない。
 試合後、鳥内監督が「準備のイメージができていない。もっとうまく、強く、賢くならなアカン」と言われていたが、まさにその通りである。
 シーズン当初に比べると、一つ一つのプレーの精度は上がっている。けがで戦列を離れていた井若主将、藤木、松本副主将も戦列に戻ってきた。心配されていた下級生中心のOLも関大ディフェンスに対抗出来るぐらいにまでは仕上がった。レシーバー陣は完璧だし、RB陣も揃っている。何よりQB光藤が試合ごとに成長している。
 問題はその総力をどのように結集するか。次週に対戦するパナソニックは、関大よりはるかに強力な戦力を備えている。「社会人に勝つ」を目標にしているファイターズが、そんな強敵を相手にどんな戦いをするか。残された数日間に選手一人一人が覚醒し、一瞬のプレーに全知全能をしぼってくれることを期待している。
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2017年05月23日

(7)JV戦の収穫

 20日の土曜日は、今季初めてのJV戦。京都産業大学との試合だった。会場の第3フィールドは、雲一つない好天。5月とは思えないほどの強い日差しが照りつける。いつも通り平郡雷太君を偲ぶ記念樹の前で観戦していたが、暑くて暑くて耐えられない。隙をみては記念樹の木陰に逃げ込んで一息入れていたが、試合後、帰宅して鏡を見れば、顔も首筋も腕も、やけどしたように赤くなっていた。
 幸い甲山から心地よい風が吹いていたが、それでも人工芝のグラウンドで戦う選手達にとっては、相手と戦う前に、暑さとの戦いが大変だったろう。とりわけスタイルしているメンバーが30人ほどしかいない相手チームにとっては、攻守ともに交代メンバーを準備するだけでも大変だったに違いない。暑さでふらふらになっても、休む間もなく出場しなければならない選手が多かったことには、思わず同情してしまった。
 対して、ファイターズのベンチには、多少とも日陰のある場所がある。4年生から1年生まで、各ポジションの交代メンバーにも不足はない。というより、誰も彼もが出場機会を狙ってぎらぎらしている。
 そうした両軍ベンチの条件の違いが77−0というJV戦でも珍しい結果になったのだろう。とりわけ後半は、相手の主力選手がバテバテになっているのがスタンドからでもうかがえた。
 だから、今回は試合展開を追ってもあまり意味はない。それよりも、これは期待が持てると思わせてくれた選手や新しく加入した1年生を中心に書いていきたい。
 一番はRB中村行佑。試合が始まって2プレー目。自陣23ヤード付近から左オープンを駆け上がり、一気に77ヤードを走り切って先制のTD。その後も40ヤードの独走TDなど合計4本のTDを決める活躍振りだった。試合後の統計を見れば、ランが8回171ヤード、レシーブが1回40ヤード、合計211ヤードを獲得して、今季、Vの試合でも活躍しているのが伊達ではないところを見せた。
 同じRBでは、QBから移ってきた西野も6回のキャリーで81ヤード。独走タッチダウンも決めた。彼は肩が強く、走る能力も兼ね備えたQBとして期待されてきたが、RBに移ってからは練習に対する取り組みが変わったようだ。練習中にも「今年はひと味違うぞ」と思わされる場面が何度かあり、試合前から密かにこの日の注目選手と見ていたが、期待は裏切られなかった。
 注目選手と言えば、この日の先発QB百田。強肩の大型QBとして入部当時から期待されてきたが、何かと伸び悩み、なかなかチャンスがつかめなかった。しかし、JV戦とはいえ、この日は先発。同じ4年生のWR前田耕作へ立て続けに2本のTDパスを決めて非凡なところを見せた。76ヤードのTDパスを確実にキャッチした前田も、さすがはVのメンバー。スピード、コース取り、そしてキャッチングのセンス。それぞれがJV戦に出すことが「反則」と思えるほど、別格の存在に見えた。
 問題はOL。JV戦とはいいながら、この日の先発メンバーは、先日の日大戦と全く同じ。右から松田、森田、光岡、松永、池田と並んだ。TEこそ三木から藤田統貴に代わったが、いわばVのメンバーで臨んだのである。Vのメンバーを駆り出さなければ、人数が揃えられないのか、それとも経験の浅いメンバーに少しでも試合経験を積ませるため、あえてJV戦でも先発で起用し、試合の中で何事かを覚えさせようとしたのか。詳しいことは分からないが、ともあれ、昨年のOLを支えたメンバーの大半が卒業し、その穴を埋めるのに苦労している現状を見せつけられた気がする。
 ディフェンスもまた、多くのメンバーを卒業で失った。その穴を埋めるためにこの日は試合経験の少ない下級生を積極的に登用した。DLの今井、筒井、パング弟。LBの大竹、板敷、倉西。彼らは昨年から今季にかけて、少しずつ試合に出る機会があり、試合を重ねるたびに動きがよくなっている。再建色の強いDB陣も、慶応や日大との戦いで交代メンバーとして出ていた田中、平尾、坂本、荒川、弓岡らが活躍。それぞれに見せ場を作った。今後、試合経験を積むごとに力を発揮してくれそうな予感がする。
 この日は1年生も数人、試合に出場し、それぞれ非凡なところを見せた。出番が後半、相手がバテてしまった後だから、割り引いて考えなければならないが、それでもRB田窪(追手門)のパワフルな走り、TDを挙げたRB鶴留(啓明)の切れのよいステップは、1年生離れしたところがあった。レシーバーでは高等部ではQBだった山口、林が活躍。守備ではLBの海崎(追手門)とDB井上(浪速)が出場機会を掴んだ。それぞれ、まだまだ動きはぎこちないが、それでも4月に入学してきたばかりとは思えないような元気な動きを見せていた。
 今季はほかにも将来性豊かな1年生が何人もいる。ようやく半数近くがレギュラー陣の練習に交えてもらえるようになったばかりだが、次の北海道大学とのJV戦には、出場機会が増えるに違いない。今度は、そこに注目したい。
 もちろん、ファンにとってもチームにとっても、その前に大きな山がある。今週末の関大戦であり、その次の社会人、パナソニックとの戦いである。多くの卒業生を送り出し、再建色の強いチームを4年生がどのようにまとめるか。下級生の中からどれだけ「孝行息子」が出てくるか。今度はそこに注目して応援しよう。試合会場は王子スタジアム、28日午後5時キックオフである。

   ◇    ◇
 お知らせがひとつあります。今年も朝日カルチャーセンターで小野ディレクターによる公開講座「フットボールの本当の魅力」が開かれます。
 日時:7月15日(土)午後6時30分
 場所:アステ川西6階「アステホール」(阪急川西能勢口駅前、JR「川西池田」駅よりデッキで直結)
 今年もより広く一般の関学生にも参加してもらおうと、講師の特別な配慮により、関西学院の学生(学生証の提示が必要)を対象に「特別割引価格」が用意されています。
 詳細は、下記、朝日カルチャーセンターのホームページを参考にして下さい。
https://www.asahiculture.jp/kawanishi/course/73fa66a5-ced3-5b2c-6723-58f18fa7fe1b
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2017年05月13日

(6)「グリーンボーイ」

 5月も半ばとなって、上ヶ原のキャンパスは一気に緑があふれてきた。
 ほんの1カ月前までは、花見だ、記念写真だと騒いでいた桜はもう濃い緑の葉で覆われている。葉を落として寂しかったケヤキは盛大に緑の葉を広げ、クスノキも古い葉を散らして、すっかり新緑に変わっている。
 中央芝生を取り巻くトキワサンザシの垣根は白い花を盛大に付け、独特の芳香をあたりに漂わせている。
 第3フィールドに入ると、ウグイスの鳴き声が聞こえてきた。グラウンドの南東の隅に雑木林があり、そこから「ホーホケキョ」と鳴き続けている。練習の見学を放棄して、じっと声のするところを眺めていると、その姿まで見つけることができた。
 ウグイスの鳴き声は誰でも気付くが、その姿はなかなか見つけにくい。それをいわば大学の構内で見つけることができて、幸せな気分になる。その前に、ウグイスの鳴き声が聞こえる環境で練習出来るなんて、都心の大学では想像もつかないことだろう。
 幸せな気分と言えば、今春入部した1年生、いわゆる「グリーンボーイ」たちの練習を見るのも同様だ。高校の頃から騒がれていた選手もいれば、他競技からフットボールを志願してきた選手もいる。高等部や啓明学院から進学してきたメンバーもようやく揃ってきた。
 ホームページのリストを数えれば選手が41人、スタッフが4人。総勢45人のニューカマーである。その中には、昨年夏、スポーツ推薦を目指して勉強会をともにしたメンバーもいるし、野球やバスケットボール、ラグビーなど他競技から志願してファイターズの門を叩いた選手もいる。
 彼らが4時限、あるいは5時限終了後、駆け込むようにしてグラウンドに顔を見せ、それぞれがグループをつくり、体作りのメニューに挑む。腹筋、背筋を鍛え、首から肩にかけての筋肉を鍛える。グラウンドとその周囲にある坂道を周回するコースを全力で走る「走りモノ」と称するメニューも必ず組み込まれている。
 一通りの練習が終われば、RBやWR、DBを志望する部員は武田建先生の元に集まってボールを受ける練習。まだ、ポジションの決まっていない選手もこの練習に参加し、楕円形のボールに馴染む。これはボールを受ける基本練習であり、同時に選手同士がどの程度の運動能力を持っているのかを披露し会い、互いにお友達になる練習でもある。
 もちろん、僕らの目に触れないところでも部活動は続く。授業の空きコマを利用してトレーニングルームで筋トレをしたり、ファイターズのフットボールを理解するための勉強会に参加したり。
 こうした練習は、当初は全員参加だが、1カ月ほどしてそれぞれ筋力数値が上がり、所定の体重をクリアし、走りモノのメニューに慣れてくると、徐々に上級生のパート練習に参加させてもらえるようになる。選抜された部員のヘルメットには赤いテープでバツ印が付けられ、同様、赤のテープで各自の名前が貼り付けてある。上級生にフルタックルをしないようにという配慮であり、早く名前を覚えてもらえるようにするための工夫である。
 この集団を率いているのが新入生担当トレーナー潮博史君、3年生。六甲高校のラグビー部出身で、昨季まではOLのメンバーだったが、いまは後輩の指導を担当している。彼の教え方が遠くから見ていても、恐ろしいほど上手い。力強く指示を出し、なすべきことを的確に伝える。見本を見せる。そこまでは誰もがすることだが、一人一人に向き合う姿勢に独特の雰囲気がある。息が上がった選手を上手く励まし、ぎりぎりまで力を発揮させる。自分が新入生のころ、この競技の未経験者として体験したことを上手く生かしているのだろう。決して怒鳴らず、それでいてやるべきことはしっかりやらせる。彼が高校や中学校の教員になれば、きっと課外活動の指導でも成功するはずだと思えてくる。
 新入生の指導と言えば、忘れてはならない名前がある。鳥内監督だ。この時期、グラウンドに出てくると、大半の時間を新入生の練習を眺めることに費やされている。気付いたことがあれば、即座に担当トレーナーに声を掛け、注意を促す。時には選手に直接声を掛け、当たり方を指導する。足の運び方から腕の使い方。目の動きから相手との距離感。新入生にそこまで、と思うほどの細かい指導が自ら模範を示して続く。
 これは今季に限ったことではなく、毎年、この時期に見掛ける光景である。監督にその目的を聞くと「はじめに悪い癖を付けたら、選手がかわいそうや。最初が肝心。はじめにきちんと教えといたら、後々迷うことがない」という答えが返ってきた。
 大学だけでなく、高校や中学校の部活の指導者は、どうしても試合に出る選手が優先になりやすい。控え選手や新入生を相手に時間を割くよりも、試合に出るメンバーを鍛える方が成果が出やすいと考えるからだろう。
 しかし僕は、かねてからそういう考え方に疑問を持っている。逆に、チームの末端にまで目を配っている指導者に恵まれたチームは、たとえ体格や運動能力に劣っていたとしても、成果を挙げている例が多い。それは記者として現場を走り回っていた頃の見聞や、日本高野連の理事をしていたころにつきあった指導者との交流から、確信となっている。
 部員が200人もいれば、一人の人間がその全員に目を配るのは至難の業だろう。しかしながら、新入生に分け隔てなく目を配り、初歩の形を丁寧に指導する。そういう機会を求めてつくることで、全体が見えてくる。組織が有機的に動き、力が発揮できる。その辺を心得たベテラン監督ならではの「目」であろう。毎年ことながら、新入部員を見つめる鳥内監督の「目」は興味深い。
 こうして丁寧に育てられた新人たちが、間もなくデビューする。まずは20日、京都産業大とのJV戦を注目したい。そこに登場しそうな1年生の顔を思い浮かべるだけでも、ワクワクしてくる。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:39| Comment(0) | in 2017 Season

2017年05月02日

(5)伝統の戦い

 4月30日は日大との定期戦。今年で50回目を迎えるライバルとの戦いが「フラワーボウル」と名付けて神戸・王子スタジアムで開催された。
 天気は晴れ。気温は20度以上に上がっている。競技場を取り巻く樹木が鮮やかな新芽を伸ばし、日の光にきらめいている。「薫風」という言葉を絵に描いたような爽やかな風が吹く。絶好の観戦日和である。
 ファイターズがコイントスに勝ったが、先攻の権利を放棄し、風上からの攻撃を選択して試合開始。赤と青の対決が始まる。
 近年は甲子園ボウルで対戦する機会も減り、現役の学生にとっては「特別の相手」という意識は薄いようだが、古いOBにとっては永遠のライバル。春の定期戦、秋の甲子園ボウルと激戦を繰り広げ、数え切れないほどの名場面を残してきた相手である。篠竹監督という個性の際だった指導者の下で、恐ろしいほどの運動能力を持った選手たちが縦横に走り回った過去の場面が脳裏に浮かぶ。日大が甲子園ボウルで5連覇した当時は、試合が始まって10分もすれば、もう勝敗の行方が見えてしまったこともあった。当時一緒に観戦した仲間と「対等に戦えるのは、試合前の校歌を歌うまでやな」と嘆きあったことが昨日の出来事のように浮かんでくる。
 例えば鳥内監督が現役だった4年間の甲子園ボウルのスコアを見れば、1年生から順に7−63、0−48、7−42、31−42。監督も2年後輩の小野ディレクターも、ともに一度も甲子園ボウルで勝ったことのない学年という十字架を背負い、その悔しい思いを背景に後輩たちの指導に全力を尽くされてきたということは、機会あるごとに聞かされてきた。
 そんな監督が試合前、選手達にこんなことを話されたそうだ。
 「いまの現役は、日大といっても特別の意識はないけど、OBにとっては特別の思いのある相手。ちゃんとした試合をせんかったらOBに失礼や。オレが代わりに出たろか、とかいわれんように、ちゃんとやれ」
 似たような話は、場内のFM放送で試合の解説を担当された小野ディレクターも試合前に振り返られていた。なんせ4年生の春の定期戦、28−19で勝ったのが対日大戦、唯一の勝利というのだから、その苦い思い出は察するに余りある。
 そういうOBたちの思いを乗せて始まった50回目の対戦。しかし、新しいシーズンが始まってすぐの試合とあって、両チームともまだまだという場面が相次ぐ。個々の選手には才能を感じさせるプレーが見られるのだが、チームとしての完成度は互いに今ひとつ。日大はパスプレーの精度に難があり、ファイターズの攻撃ラインも再三、相手守備陣に割られ、QBを孤立させる。
 それでもチームとしてのまとまりに一日の長があるファイターズは、QB光藤が学生界では群を抜いているレシーバー陣に的確にパスを通し、徐々にゲームの主導権を奪っていく。第2Q10分3秒、ゴール前2ヤードからの攻撃を執拗にランプレーで攻め抜き、3度目にRB山本が中央を突破してTD。K小川のキックも決まって7−0と主導権を握る。
 続く相手の攻撃を守備陣が完封すると、今度はWR前田へのパスで陣地を進め、ゴール前34ヤードからWR松井へのTDパス。これを松井が体を反転させながら見事にキャッチしてTD。続く日大の攻撃はDB木村がインターセプトで食い止め、攻守交代。前半残り時間17秒、相手陣28ヤード。今度は光藤がWR亀山へのパスを一発で決めてTD。わずか2分ほどの間に、3本のTDを決め20−0で前半を折り返す。
 こうなると相手は焦る。逆にファイターズは余裕をもって試合を進める。後半も終始ファイターズペースで進み、途中から攻守ともに交代メンバーを次々に投入する。終わって見れば30−6。得点差を見れば、ファイターズの圧勝だった。
 しかし、その内容はどうだったか。KGスポーツが伝える試合後のインタビューを見ると、そうそうお気楽な内容ではなかったことが伝わってくる。
 「下級生のミスを自分のミスと思い、次の2週間も取り組んでいく」(主務・三木君)
 「よいところも悪いところもしっかり出た試合。相手の自滅で勝てたようなもの」(副将・藤木君)
 「勝てたことより、内容が全然ダメ」(副将・松本君)
 先制のTDを決めた4年生RB山本君は「残り2ヤードから3本連続で同じプレーが続いた。4年生として意地でも決める場面だった。あそこで決めないと秋は勝てない。個人としても、オフェンスとしてもランで勝たせる試合をもっと詰めていきたい」
 こうした談話を並べて行くと、スタンドからとやかくいうことはない。チームを率いる幹部たちが現状の厳しさを十分に自覚しているのだから、あとはその言葉を普段の練習で個々の選手の成長につなげていくだけだ。気候もよし。学校の授業も軌道に乗ってきた。あとは部員一人一人が工夫と努力を重ね、チーム全体の底上げにつなげていくことだ。
posted by コラム「スタンドから」 at 09:10| Comment(2) | in 2017 Season