2022年05月17日

(1)今季初の応援席

 15日は、王子スタジアムで春季交流戦、桜美林大学との戦いだった。僕にとっては今季初めての試合であり、キックオフのはるか前から開門前の行列に並んだ。
 たまたま先週は時間的なゆとりがあり、水曜日と金曜日に上ヶ原の第3フィールドに出向いて練習を見せて頂いたので、チームの仕上がり具合はある程度、想像が付く。新しく幹部になって、下級生の頃とは練習に臨む態度が一変したメンバーもいるし、昨年秋の厳しい戦いを通じて急成長した選手もいる。
 入試対策の小論文指導を通じて、名前だけは知っていた新入生の中には、もう1軍の練習に加わっているメンバーもいる。
 そんな面々がどんな活躍をするか。まずはスタンドに座って当日のメンバー表を端から端まで眺める。
 毎年のことだが、新しいシーズンのはじめに見るメンバー表には、特別の感慨がある。前年まで活躍した4年生の名前がごっそり抜け、期待値の高い下級生の名前がどのポジションにも数多く並んでいる。その名前と顔を思い浮かべながら、さて、今日はどんなプレーを見せてくれるか。首尾よく1軍の試合で実力を発揮できるか。それとも気合いが空回りしてしまうか。すでに実績のある上級生から、新入部員まで、それぞれの名前と背番号をチェックしながら試合前の練習を見ている時間は、本当に充実している。
 午後1時半、相手のリターンで試合開始。第1プレーでいきなり13ヤードを走られ、ダウンを更新されたが、次のプレーをLB浦野が一発で止める。これで落ち着いたのか、続くランプレーもパスプレーも守備陣がきっちり受け止め、第4ダウンは相手陣35ヤード付近からのパント。
 このパントをキャッチしたWR糸川が鮮やかなステップで相手のタックルをかわし、相手がキックで稼いだ距離をそのままリータンして攻守交代。相手陣44ヤードからファイターズの攻撃が始まる。
 さて、どう攻めるか、と見ていたら、第1プレーも第2プレーもパスが通らない。けれども、そんなことでくじけるファイターズではない。第3プレーはQB鎌田からWR衣笠への長いパス。それが見事に決まってTD。記録上では44ヤードのパスだが、QBがいったん下がって投げているから、実際にパスが飛んだ距離は60ヤード近い。チーム史上でもまれな衣笠の走力と、鎌田の強肩が見事にかみ合って両軍の応援席がどよめくTDが生まれた。
 こうなるとファイターズベンチも落ち着く。守備陣はDB永井の素早いタックルなどで相手攻撃を完封。力強いOLに守られた攻撃陣は糸川や鈴木へのパスで陣地を進め、仕上げはRB池田のラン。あっという間に2本目のTDを奪って14ー0。2Qに入っても強力なラインに支えられたファイターズの勢いは衰えず、ランとパスを組み合わせ、仕上げは再び池田ランで21ー0。
 特筆すべきは、こうした攻撃を支えたOL陣と相手の攻撃を素早い出足で食い止めたディフェンス陣の力強さ。スタンドから見ていても、攻守ともにサイズ、筋力、スピード、ファンダメンタルをしっかり鍛えてきたことがうかがえ、今後の戦いに大いに期待が持てた。
 ベンチも同じような手応えを感じたのだろう。まだ第2Qの半ばというのに、次々と交代メンバーを起用。攻撃ではエースの鎌田まで引っ込めて、試合経験の少ない下級生QBに出番を作った。
 試合経験の少ないメンバーが多くなると、攻撃は思い通りには進まず、守備にもほころびが出る。2Q半ばからは双方にミスが続出し、互いに点を取り合う「乱打戦」になったが、終わってみれば45−21。ファイターズにとっては、攻守とも先発メンバーに地力が付いていることを確認できたこと、交代メンバーを次々に起用して彼らの現在地を確認できたことが一番の収穫と思える試合だった。
 付記
 @今季からキッカーとパンターを務めている福井君の成長ぶりに驚いた。昨年も折々に出場していたが、学年が一つ上がってボールの飛距離、滞空時間が長くなり、安定感も増している。昨年度、終始安定したキックを見せ、優秀スペシャルチーム選手として関西学生リーグから表彰されたK永田君に劣らぬ活躍を期待したい。
 A僕が密かに注目していた下級生メンバー(とりわけ、昨年はまったく出番のなかった面々)も次々に起用されたが、思い通りに動けなかったメンバーが多かったように思える。けれども、1年間、1軍の試合とは縁のない場所で鍛えてきた面々に、いきなりの実戦で経験者と同じ活躍を要求するのは無理がある。相手のスピード、当たりの強さを体験し、彼我の力の差を知っただけでも大きな収穫である。今季、入学したばかりのメンバーを含め、変に落ち込まず、この日の経験を今後の試合に生かすことを期して練習に励んでもらいたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 08:51| Comment(1) | in 2022 Season

2021年12月21日

(10)負けないチーム

 ファイターズは今季も甲子園ボウルで勝ち、4年連続32度目の大学日本1に輝いた。相手は東日本代表の法政。選手個々の力では多分、ファイターズに勝るとも劣らない強力なメンバーをそろえたチームだったが、終わってみれば47−7。得点差だけを見れば、ファイターズの圧勝だった。
 しかし、現場で観戦していると、到底、点差ほどの実力差は感じられなかった。というより、個々の力量では法政の方に分があると思わされる場面が何度も訪れた。
 なのに、なぜ、一方的な試合展開になったのか。その原因を一つ一つ見ていくことがファイターズというチームを知ることになり、「勝つべくして勝てるチーム」の素顔を明らかにすることにつながるのではないか。そのように考え、この試合で印象に残った場面を順を追って回顧してみた。
 1、先制のTD
 立ち上がり、キックを選択した法政がいきなり2度のキックミスで計10ヤードの罰退。リターナーに入ったWR河原林の好リターンもあって、ファイターズは相手陣46ヤードからの攻撃となる。その第1プレー。QBからの短いパスを受けたRB斎藤が俊敏な動きで約30ヤード前進。2プレー目、今度はRB前田のランでダウンを更新し、続く3プレー目も斎藤。鎌田からピッチを受け、ラインの開けた穴をスピードで突き抜けてTD。K永田のキックも決まって7ー0とリードする。
 このように書くと、いかにも簡単なようだが、そこには短いパスは必ず通すQBと、その期待に応え、確実にパスをキャッチするRB、ラインの開けたわずかな隙間を一気に走り抜けるRBのスピードとパワー、それを支えるOLやWRの確実なブロック。グラウンドに出ている11人全員がそれぞれの役割を完璧に果たしたからこその先制点であり、キッカーが確実にTFPを決めたからこその7点であることがよく分かる。
 2、貴重な追加点
 ファイターズに待望の追加点が入ったのは、自陣20ヤードから始まった3度目の攻撃シリーズ。まずはWR鳩谷がQB鎌田からのパスをキャッチして24ヤードの前進。斎藤のランを挟んで次はWR糸川が20ヤードを稼ぐ。さらに斎藤のラン、WR戸田のパスキャッチなどで相手ゴール前12ヤードに迫る。しかし、相手ディフェンスも強く、そこからの攻撃が続かない。結局、永田のFGで3点を追加しただけだったが、この3点と2Q終了間際に得たFGによる3点が無形の圧力を相手陣に与える。
 3、相手の反撃
 第3Qに入ると、状況は一転する。それまで不発だった法政のパス攻撃が決まり始め、それと呼応するようにエースRBの動きも鋭くなる。わずか5プレー目にRBが42ヤードを独走し、TD。キックも決めて13−7。この得点をきっかけに、一気に相手の動きが良くなってくる。
 逆にファイターズはWR河原林への42ヤードパスで陣地を進めたものの、次のプレーで手痛いインターセプトを食らう。勢いに乗った相手は立て続けに3度、ダウンを更新し、関学陣18ヤードまで攻め込んで来る。
 ここで奮起したのが守備陣。LB都賀を中心に2列目、3列目が必死になって反撃を食い止める。第4ダウン、残り20ヤードとなったところで相手はFGトライ。しかし、そのキックが外れてようやく窮地を脱する。
 4、一瞬の隙
 次のファイターズの攻撃は自陣20ヤードから。窮地は脱したものの、相手の士気は高い。守備陣はボールキャリアに的を絞ってアグレッシブな動きを見せる。しかし、ファイターズオフェンスもは負けてはいない。相手の逆をついてRB斎藤が6ヤード、同じく池田が6ヤードと陣地を進めてダウンを更新。相手の意識がランプレーに移ったのを見計らったようなタイミングで、今度はQB鎌田がレシーバーの位置で待ち構える前島に短いパス。それをキャッチした前島が左サイドライン際を駆け上がる。WR河原林が一人で2度、続けさまに相手デフェンス陣をブロックする美技もあって、見事68ヤードのTDに結びつける。走る方も素晴らしかったが、ブロックする方も見事なファインプレー。QBとしてもRB、WRとしても非凡な能力を持つ前島の走力を生かし、身体が大きくブロッカーとしても力のある河原林の長所を生かす見事なプレー選択。サインを出したベンチの面々もしてやったりというところだろう。
 5、もう一つのドラマ
 この得点が大きかったのだろう。点差が開いてからは相手の攻撃が雑になり、淡泊になっていく。逆にファイターズの守備も攻撃陣もより勢い付く。第4Q早々には、K永田が西からの強風を突いてこの日4本目のFGを決めて26−7。好守共に勢いに乗るファイターズは攻撃の手を緩めない。鎌田からショベルパスを受けた斎藤が28ヤードを走りきってTD。さらには鎌田からWR鈴木へという2年生コンビのTDパスも決まって40ー7。あっという間に勝敗は決した。
 しかし、ファイターズファンにとっては見逃せないドラマがこの後に待っていた。残り時間は3分6秒。ボールの位置は相手ゴール前17ヤードという場面で、4年生QB平尾が登場。普段、試合に出ることの少ない4年生もこぞって顔を並べたのである。まずはRB安西が5ヤードのラン。続くWR戸田へのパスがインターフェアとなり、ゴール前2ヤードまで前進。その距離を平尾が走りきってTD。3塁側アルプス席のファイターズファンから大声援が上がる。
 下級生の頃から期待されてきた平尾だったが、最終学年の今季は2年生QBに追い越され、ずっとJVチームの司令塔としての役割に徹してきた。練習時間の多くをVチームの仮想敵の役割に費やし、余った時間はフレッシュマンの指導に全力を注いできた。今季はたまにしかグラウンドに顔を見せることはできなかったが、下級生を相手に懸命にパスを投げ、後輩の育成に本気で尽くしてる彼の姿を見るたびに、僕は「こういう4年生がいるからこそ、チームが強くなる。これこそ縁の下の力持ち。甲子園で出番が来たら、たとえ1プレーでもよい。思いっきりプレーをしてくれ」と密かに願っていた。
 その願いが通じたような見事なTD。それも自ら中央を割ってゴールに飛び込む素晴らしいプレーだった。
 日の当たらないところでも、彼のように献身的にチームに尽くすメンバーがいるからこそ、ファイターズは勝てる。常々、そのように思い続けてきた僕の信頼に応えるプレーを目の前で見て、本当にうれしかった。
 その気持ちは、普段から彼の行動を熟知しているチームメートも同じだったようだ。試合終了後、表彰式の壇上には、彼がただ一人控えのメンバーから選ばれ、主将の青木やチャック・ミルズ杯受賞者の前田、甲子園ボウル最優秀選手賞受賞者の斎藤らと並んで勝利したチームに贈られるトロフィーを掲げていた。
 6、結び
 関西リーグで死闘を繰り広げた関大戦、立命館との2度の決戦、そして甲子園ボウルでの法政大戦。いつも相手の強さ、たくましさを目の当たりにするたびに、なぜ、こんな強敵を相手にファイターズが勝ち続けられるのだろうかと、僕は自分に問い掛けてきた。
 その答えがこの日の甲子園では、次々に解き明かされた。仲間を信じて黙々とブロッカーの役割を展開するWR、前日までは練習にも加われず、松葉杖をついて歩いていたのに、芝生の上に立ち、ボールを持つと果敢に相手陣に突っ込むRB、最前線で身体を張り続ける攻守のラインメン。自身は先発メンバーから外れているのにVチームや後輩のために黙々とパスを投げ続ける4年生QB。そして、どんな強風にも負けず、正確なパントやキックを決め続けるキッカー。さらにはチームの兵站部門を黙々と担う男女のマネジャーやトレーナー。
 そうしたメンバーすべてに、分け隔てなく活躍する場所を与えるチーム。そこにファイターズというチームの真実があり、だからこそ強力な陣容を備えたライバルたちを凌駕できたのではないか。
 そう考えると、このチームを応援する気持ちがまた一段と強くなった。来季もまた、頑張ろう!
posted by コラム「スタンドから」 at 08:44| Comment(2) | in 2021 Season

2021年12月13日

(9)特別な時間

 ファイターズの諸兄姉はいま、関西の学生アメフット界で唯一、特別な時間を過ごしている。目の前に甲子園ボウルを控え、日々、日本一を達成するという目的を持っているからだ。
 この週末、3日連続で、上ヶ原の第3フィールドを訪れ、練習を見学させていただく機会を得た。いつもの練習に比べても、なお一層、密度が濃い。時間の管理も厳格だ。
 上級生は早くからグラウンドに出て、パートごとに自主練をやっているが、4時限、5時限まで授業がある下級生は大変だ。午後の5時半、あるいは6時からの練習開始時間に間に合わせようと必死に走ってグラウンドに駆けつける。準備運動で体を温め、主将の声がかかるとダッシュでグラウンドの中央に集まる。
 すぐにハドルを解き、パートごとにVチームと準Vチームに分かれて練習開始。いま、この時期だから、試合に向けた実戦的な練習が中心と思われるかもしれないが、必ずしもそうではない。どのパートもファンダメンタルと呼んでいる基本的な体の動かし方から始め、パートごとに決めた基本的な練習メニューに取り組む。マネジャーが秒単位で全体の練習時間を管理し、合間、合間に手指の消毒をするためのクリーンタイムも確保する。
 攻守二つのチーム練習が2カ所で始まると、1年生を中心にしたそれ以外のメンバーは、サイドラインの外に出て捕球や当たりの練習に取り組む。広いグラウンドをいっぱいに使って約200人の選手が全員、それぞれの目的を持って走り回る姿は圧巻だ。
 12月も半ばになって、こういう密度の濃い練習が続けられるのも、目の前に甲子園ボウルを控え、大学日本1になるという確かな目標があるからだ。
 大学のアメフット部は各地にあり、それぞれの地区でしのぎを削っている。しかしいま、この時期に目の前に大きな目標を持って活動できるのは東西の代表校だけである。この時期の活動量と質の高さが、実はファイターズの強さに繋がっているのではないか。
 ライバルの強豪チームが早々にシーズンを終了し、新たな体勢でスタートしようとしているこの時期に、日本1という高い目標を持って日々精進する。それも惰性的にこなす練習ではなくVメンバーにとっては勝利のための練習であり、控えのメンバーにとっては明日のVメンバー、明日のスタメン入りを目指す練習である。練習に取り組む意欲の高さも、自ずから異なってくる。
 チームによっては12月を待たずにシーズンが終了するのに、ファイターズだけはこの6年間、ずっと甲子園ボウルに出場してきた。その間、高いモチベーションを持ち、意欲的な練習を続けてきた。そのトータルとして逆境に強いチームが仕上がっていたのではないか。僕がこの期間をファイターズにとっての「特別な時間」と呼ぶゆえんである。
 大学生活の4年間は短い。練習に取り組める時間はさらに限られている。だからこそ、この「特別な時間」には大きな価値がある。チームの全員が大きな目標を共有し、個々を鍛え、チーム力の向上に尽くす。他のチームにが持ち合わせていないその濃密な時間を生かすも殺すもチームの諸兄姉の双肩にかかっている。
 決戦の日曜日はもう目の前だ。残された時間をこれまで以上に濃密に過ごし、悔いのない戦いを繰り広げてもらいたい。心からの応援を捧げる。GO!FIGHTERS!
posted by コラム「スタンドから」 at 07:55| Comment(2) | in 2021 Season

2021年12月06日

(8)「勝つべくして勝つ」

 「勝つべくして勝つ」「勝つべくして勝てるチーム」。この言葉を今季、大村監督や4年生の幹部からよく聞かされてきた。
 5日、大阪・ヨドコウ桜スタジアムで行われた西日本代表校決定戦でのファイターズの戦いを応援している時、何度もこの言葉が浮かんできた。
 それほどファイターズの戦い方は愚直であり、攻守ともに全員が一致団結していた。
 ファイターズのキックで始まった立ち上がり。自陣24ヤードから始まった立命の攻撃を簡単に抑え込んだファイターズの攻撃は自陣48ヤードから。
 RB前田が立て続けにラッシュして第3ダウン。残り5ヤードをどう進めるかという場面でベンチが選択したのは、QB鎌田からWR鈴木への長いパス。ゴール前1ヤードで鈴木がキャッチし、一気に先制点のチャンス。60ヤード近い距離をドンピシャのタイミングで投げ込んだ鎌田もすごいが、それを鮮やかに確保した鈴木も素晴らしい。ともに2年生だが、今季は二人ともシーズン開幕時から先発メンバーとして出場しているだけに、呼吸はぴったり。立命相手の大舞台でも臆さず、ひるまず「投げるべくして投げ」「捕るべきして捕った」見事なプレーだった。
 この好機にRB前田が中央を突いてTD。K永田のキックも決まり、わずか4プレーで7ー0とリードした。
 逆に立命は、先発した2年生QBのパスが不安定で、思うように陣地が進まない。一方、相手守備陣はさすがである。次のファイターズの攻撃シリーズで、FGをブロックする好守を見せた。だが、ファイターズ守備陣も即座にやり返す。相手QBが自陣20ヤードから投じた短いパスをLB海崎が鋭い反応で奪取。攻撃権を奪い返し、相手ゴール前10ヤードまで走り込む。
 こうなると、ファイターズは勢いに乗る。小柄なRB斎藤がピッチを受け、俊敏な動きでゴールラインに駆け込みTD。永田のキックも決まって14−0と主導権を握る。
 ふと気がつけば、ここまで書いた中で固有名詞を挙げたのは6人。そのうち4年生は前田と斎藤、そして永田。いずれもエースランナーであり、エースキッカーだから、名前が挙がって当然だ。けれども、そこに2年生の3人、固有名詞を挙げればQB鎌田、WR鈴木、LB海崎が割り込んでいる。3人とも3年前の夏、スポーツ選抜入試に備えて僕が共に勉強したメンバーである。この日、先発に名を連ねたDB高橋もそうだし、1年生で先発したDB永井もその1年後のメンバーだ。高校時代、多少とも縁のあったメンバーがこの大舞台で先輩たちに負けず劣らず活躍しているのを、僕は感慨を持って見つめていた。
 余談は置いて試合に戻ろう。
 前半は17ー3、ファイターズがリードして折り返したが、相手には地力がある。第3Q立ち上がり早々、相手にパスをインターセプトされ、あっという間にTDを返される。キックも決まって17-10。
 これはやばいぞ、逆転の目が出てきたと思ったのは僕だけではなかろう。しかし、グラウンドでプレーするメンバーはそんな感情とは一切無縁。勝つべくして勝つ、とばかりにRB斎藤と前田が競うようにランプレーで陣地を進め、わずか5プレー目で前田がTD。永田のキックも決まって24ー10と引き離す。
 こうなれば、互いに乱打戦。相手も途中から出場したエースQB、野沢の的確なパスで陣地を進め、わずか1分半ほどの攻撃でTD。再び7点差に追いすがる。そのすさまじい攻撃力を目の当たりにして、ここが救世主の出番だ、守備も攻撃も、もう一歩踏み込んで頑張れと手に汗握りながら祈る。
 その祈りに応えてくれたのが、またしてもRBの二人。まずは斎藤がナイスリターンで自陣43ヤードまで挽回。ここから前田が大きく逆サイドに切り返して相手ゴール前17ヤードまで進む。ここでボールを抱いて走ったのがまたも斎藤。浮き足立つ相手守備陣を翻弄するような走りで一気にゴールまで駆け込みTD。
 相手のパスにはランで真っ向から立ち向かう。相手の対策には関係なく、自軍のラインとRB、レシーバーが総力を挙げてこじ開けたルートを一気に駆け抜ける。「勝つべくして勝つ」という気持ちのこもったプレーの連続で、再びリードを広げる。
 逆に、リードされている側には焦りが出る。ミドルパスを立て続けに決め、パント隊形からのギャンブルで陣地を進めるが、ファイターズは動じない。逆に相手がファンブルしたボールをDL山本が素早い動きで奪取し、攻守交代。
 それでも、ひるまないのが立命の立命たるところ。ファイターズを切りくずのはパス、と腹をくくったのか、ビシバシと長いパスを投じてくる。第3Q終了間際には40ヤード近いパスが決まってTD。31ー24と追い上げる。
 差は7点。相手の勢い、威力のあるパス攻撃。この状況をどう突破するか、というところで飛び出したのがDB永嶋のインターセプト。相手陣33ヤードから投じられたパスを見事に奪い取り、チームをに落ち着かせる。
 こうなると攻撃陣も奮起する。鎌田からの短いパスを受けたRB斎藤が相手陣に切れ込み、ダウン更新。TDこそ奪えなかったが、K永田が43ヤードのキックを決めて再び差を10点に広げる。
 残り時間は9分少々。相手のパス攻撃の鋭さを考えると、まだまだ安心できない状況だったが、ここでファイターズDBが奮起。相手レシーバーがはじいたパスをDB宮城が奪い取り、インターセプト。残り時間は9分を切っており、ここからは時間との勝負になる。ファイターズはランプレーで時計を進め、立命はタイムアウトで時計を止める。虚々実々の駆け引きだが、それでも時計は進む。途中、焦る相手がスナップをファンブルし、これをDL山本が確保して攻撃権を取り戻す場面もあり、最後はファイターズが2回続けて「ボールイート」。34ー24のまま試合は終了した。
 まさに好守が互いに助け合い、補い合って作り出した「我慢の勝利」だった。こういう我慢ができたのも、好守共に4年生を中心にして「勝つべくして勝つ」意識が浸透していたからだろう。有言実行。多分、潜在力では上回っていると思える強敵を相手に、それを成し遂げたファイターズの諸君に心からおめでとう、よく頑張った、と伝えたい。
 以下は余録。
 伝えたいことがもう一つある。それは試合の終盤、相手レシーバーがパスをキャッチしようとして崩れ落ち、動けなくなった場面である。プレーの直後に、その選手のカバーに入っていたDBの波田君が駆け寄り、選手のつった足を持ち上げて手当てをする場面があった。目の前で苦しんでいる選手を放置できなかったのだろう。とっさの行動であり、ルール上は許される行為かどうかは知らないが、審判が黙認していたから、特段のことはなかったのだろう。
 目の前で苦しんでいる相手チームの選手に即座に手を貸し、痛みを和らげる手伝いをしようという行為そのものに、僕はある種の感動を覚えた。激戦のさなか、負傷した相手選手にまで気を配れる2年生。こういう選手を育てているのがファイターズであり、彼もまた、3年前の夏、僕と一緒に勉強した仲間である。
posted by コラム「スタンドから」 at 22:03| Comment(2) | in 2021 Season

2021年11月16日

(7)準備のスポーツ

 アメフットは「準備のスポーツ」と呼ばれる。事前に自分のチームと相手チームの長所、短所を見極め、どうすれば相手の長所を無効にし、逆に弱点を突いていけるか。自らの弱点をどうカバーし、長所をより生かすことができるか。
 事前にそうしたことを徹底的に研究し、準備して、試合でそれを実現する。一言で言えばそういうことだが、言うは易く、行うのは難しい。
 その難しいことをファイターズは、強敵・立命館を相手にやってのけた。
 攻めては相手の意表を突くワイルドキャット隊形から変幻自在のランアタックを敢行。相手の注意がランプレーに集まると、今度は強肩のQB、鎌田が鋭いパスをレシーバーに投げ分ける。タイミングを見計らったようにQBスクランブルで陣地を稼ぐ。鋭い動きが持ち味のRB前田と斎藤を同時に起用して相手の注意を分散させ、一瞬の間隙を突いてゴールラインを突破させる。
 彼らの走路を開くオフェンスラインやタイトエンドの動きも良かったし、レシーバー陣のブロックも効果的だった。
 そうした攻撃が積み重なった結果としての28点である。
 守備陣もよく踏ん張った。大型ラインをそろえた相手に、フロントの4人が必死で持ちこたえ、海崎、都賀、永井を中心にしたLB陣が鋭いタックルでラン攻撃を食い止める。能力の高い相手QBのパスで何度も陣地を稼がれたが、DB陣はくじけない。竹原や和泉が相手の動きを予測したような機敏な動きで相手のパスに飛びつく。この試合だけで、2人で3本のインターセプトという活躍。それも素晴らしい能力を持ったQBが自信を持って投じたパスを奪い取ったのだから値打ちがある。
 双方ともに取りつ取られつ。互いに必死のプレーで挽回を図る。互いに逆転しあう試合となったが、終わってみれば28ー25。ファイターズがなんとかしのぎきり、勝利を手中にした。
 得点が表示された場内の画面を見ながら、僕は何度か上ヶ原のグラウンドで見た練習の模様を振り返り、一人で納得していた。互いに全力を尽くして戦った両チームではあったが、準備という点で、ファイターズがほんの少し上回っていたということだろう、と。
 というのは、ほかでもない。この試合の勝敗を左右したワイルドキャット隊形からの攻撃も、RBが強く鋭い体さばきでオフタックルを駆け上がるプレーも、上ヶ原のグラウンドで選手たちが必死に取り組んでいるのを見る機会があったからだ。今年から攻撃陣を背負っている2年生QB鎌田が鋭いパスをWRやTEに繰り返し繰り返し、投げ込んでいる場面も見ていた。
 守備陣もまた、大村監督や大寺コーチの厳しいチェックを受けながら、相手チームの動きを想定した動きを何度も繰り返していた。そうした濃密な時間が積み重なった結果としての勝利であろう。
 考えてみれば、この時期、ファイターズの練習には、フルタイムでチームを指導されている大村監督、香山、梅本の両コーチに加え、勤務時間中は大学の幹部職員としての重責を担われている堀口、神田、大寺コーチが勤務終了後、グラウンドに集合。それぞれが担当されているパートの練習に付き添うように指導されている。土曜日や日曜日には、アシスタントコーチも次々に指導に来て下さる。審判として活動しているOBがグラウンドに顔を見せ、実戦練習で選手の動きをチェックし、反則と判定されるプレーについて、厳しく注意を促されている場面を目撃したこともある。
 それもこれもが、勝つための準備の一環である。グラウンドで戦う選手はもちろん、そうしたスタッフの行動も含めた「準備」の充実が、28ー25という結果に表れたのではないか。
 そんなことを考え、次なる甲子園ボウル出場校決定戦の見通しに思いをはせると、またやっかいなことが浮かんできた。甲子園ボウルに出場するためには、関西大会で苦しんだ関大、あるいは立命館と再度戦い、そこで勝つことが不可欠ということである。
 通常の試合でも、相手は強い。関大か立命か。対戦相手はまだ決まっていないが、どちらが勝ち抜いてくるにしても、相手はファイターズに敗れたことで一層発憤し、雪辱の気持ちを固めて向かってくる。それにどう対抗するか。
 残された時間は3週間足らず。その時間をファイターズの諸君はどう過ごすか。強敵に勝利したことを糧に、さらなる高みを目指して努力するのか。それとも、1度目の試合がうまく運んだことに満足してしまうのか。
 フットボールが「準備のスポーツ」といわれるのは、勝利の後の振る舞いや、心の持ちようまでを含めてのことである。勝ってかぶとの緒を締めよ、という。その言葉通りの行動で、次に備えてもらいたい。それができてこそ「ファイターズ」である。
 そんなことを自分に言い聞かせながら、長居公園を後にした。秋は日暮れが早い。日はすっかり落ちていた。
posted by コラム「スタンドから」 at 17:22| Comment(2) | in 2021 Season

2021年11月06日

(6)「イチロー実録」

 先日、ファイターズOB(1988年度卒)の小西慶三さんから『イチロー実録』(文藝春秋)を贈っていただいた。
 オリックスで、日本の球史に残る数々の記録を達成してメジャーリーグに挑戦。2001年から19年までメジャーリーガーとして活躍されてきたイチロー選手を最も長く取材してきた記者だからこそ書けた「イチロー語録」である。
 詳しくは、この本を読んでいただくしかないが、イチローという日米の球史に残る名選手の発言と行動、野球に取り組む「哲学」を一番身近に取材してきた記者ならではの文章で紹介されている。
 例えば、プロローグにこんな言葉がある。「自分で決めたことを継続する。常識を疑う。成功体験をぶっ壊してまで自らの感性を大切にする。信念を貫く」
 「他人に笑われようが、ケチを付けられようが、そこに可能性がある限り、最善を尽くすのが彼の生き方だった」
 「彼が一番伝えたかったこととは、自分に与えられた条件下で後悔なく生きることではなかったか。だから、やれることはすべてやる」
 こんな言葉も紹介している。「できる限りの準備をして、それでも結果が出ないときがある。だから野球は面白い」
 本文にも、こんな言葉がある。「負けているチームだから、とモチベーションが下がる選手がいる。でも、そういう選手は状況に言い訳を求めて逃げている」
 「5万ドルをもらったら、5万1千ドルの仕事を心掛けないといけない。もらっているもの以上の仕事を心掛ければ、その仕事は長続きする」
 2016年8月7日、ロッキーズ戦で、メジャーリーグ3000本安打を記録した時には「僕にとっては3000という数字よりも、僕が何かをすることによって僕以外の人たちが喜んでくれる。そのことがなによりも大事でした。それを再認識した瞬間でした」と言った、と紹介している。
 そして、エピローグには、彼のこんな言葉が記されている。「できる限りの準備をしたとしても、良い結果が出るかどうかは分からない。だから、野球は面白いんですよ」
 オリックスの担当記者としてイチロー選手の取材を始めて以来、20年以上この選手を追いかけ、食いついて取材を重ね、今もアメリカに住み着いてその姿を追い続けている小西記者の「記者魂」が乗り移ったような「実録」である。興味を持たれた方は、是非とも本屋に走り、我が手に取ってお読みいただきたい。決して損はさせません。
 と、ファイターズのホームページで小西記者の本を紹介させて頂いたのは、ほかでもない。実は、ファイターズの選手の中にも、イチロー選手の自主トレーニングを見学し、一緒に身体を動かしたメンバーが何人か存在するからである。
 あれは、現在の4年生が1年生の冬、成人式の日だった。イチロー選手が神戸で自主トレをされている場面を少数のファイターズのメンバーと一緒に見学させてもらう機会があった。僕は見学だけだが、イチロー選手からの特別の計らいで、選手らは一緒にダイヤモンドを走り、打撃投手を務めるイチロー選手の球を打つ機会を作っていただいた。
 ファイターズからは、今は攻守のリーダーとして活躍している副将の前田君やDB北川君らが参加し、イチローさんと一緒に走ったが、驚いたのは、その瞬発力がまるで別次元だったこと。ファイターズのスピードスターたちが、40歳を超えたイチローさんに全く歯が立たなかった。
 その後、打席に立って「投手・イチロー」の球を打つ機会も作ってもらったが、そこでもバットに当てるのが精一杯。中にはすべて空振り、というメンバーもいた。
 練習に参加させてもらったメンバーにとっては、こうした出会いを与えていただき、今も記憶に残っているはずのイチロー選手が、実はこうした「考え方」「野球哲学」を持って精進されてきたことを知るのは、意味深いことであろう。そう考えて、チームの先輩でもある小西氏の著書を紹介させてもらった。
 目の前に立命との決戦が迫っている。そんな時だからこそ、自分を見つめ直し、覚悟を決めるためにも、こうした本を手に取るのは意義深いことであろう。
 「できる限りの準備をしても、良い結果が出るとは限らない。だから野球は面白いんですよ」というイチロー選手の言葉を、ファイターズの全員に贈りたい。
posted by コラム「スタンドから」 at 22:37| Comment(2) | in 2021 Season

2021年11月03日

(5)肉弾戦

 「肉弾戦」という言葉を「広辞苑」(岩波書店)は「肉体を弾丸に代用する意。即ち敵陣に突進、肉薄すること」と説明している。
 10月31日、神戸市の王子スタジアムで行われた関大との試合は、その形容にふさわしい戦いだった。
 攻守ともにラインとラインが真っ向からぶつかり、互いに一歩も引かない。1列目が押し切られそうになっても、2列目、3列目が素早く、鋭い当たりでフォローし、独走は許さない。攻撃陣はあらゆる手を使って相手の壁をこじ開け、ボールキャリアを前に押し出す。相手が前のめりになるとパスを投じ、陣地を進める……。互いの意地と意地がぶつかり合う、文字通りの肉弾戦だったが、勝利の女神はファイターズに微笑んだ。
 先手を取ったのは先攻のファイターズ。相手が先制の好機となるフィールドゴールを外した隙を的確に捕らえてRB前田と斎藤が好走。一気に相手陣深くに押し込む。相手の注意がRBに向いた瞬間、今度はTE小林へのパスで相手ゴール前8ヤード。そこからパワフルなRB前田が攻め込み、仕上げは前田と斎藤のワイルドキャット。守備陣の注意が二人に分散した隙を突いて前田がゴールに飛び込みTD。永田のキックも決まって7ー0。欲しかった先制点を攻撃陣が一丸となって手にした。
 しかし相手も、攻守ともにラインが強い。ライン戦では常に優位を確保し、彼らがこじ開けた隙間を走力のあるRBが走る。これは苦しい戦いになるぞ、と思った矢先に、1年生DB永井が値千金のインターセプト。
 相手の出鼻をくじいたが、この好機に手にしたFGチャンスを逃がしたことで、流れは再び相手に。先発した1年生QBがランとパスを巧妙に使い分け、第2Q早々にゴール左隅に絵に描いたようなTDパスを決めて同点に追いつく。
 第2Qは、その後も一進一退。互いにFGを決めて10ー10で前半終了。試合前、上ヶ原のグラウンドで、監督やコーチから「関大は強い。簡単に勝てる相手ではない」と聞いていた通りの試合展開だ。互いに攻め込み、互いに守り合う。応援している方も「ここが我慢だ、辛抱だ」と思わず自分に言い聞かせている。
 膠着した試合が動いたのは、第3Q開始早々。相手の攻撃を守備陣が抑え込み、相手が蹴ったパントを守備陣が鋭い突っ込みでブロックした場面である。相手ゴール前27ヤード付近で攻撃権を確保したファイターズがRB前田の鋭い突っ込みでダウンを更新。最後は右オープンを前田が走り切ってTD。永田のキックも決まって、再び7点をリード。
 攻撃陣が押せば、守備陣も踏ん張る。DLの小林や赤倉が厳しいタックルで相手を食い止め、DB高橋が相手のパスをカバーする。互いの意地がぶつかり合う試合は、膠着状態のまま第4Qに。しかし4分11秒。今度は永田が冷静に42ヤードのFGを決める。俗に「入れごろ、外しごろ」といわれる微妙な距離だったが、永田は動じることなくまっすぐボールを蹴り込んだ。
 これで得点は20ー10、残り時間は8分弱。まだまだ安全圏とはいえないが、ともかくファイターズの面々は冷静さを取り戻し、逆に相手には焦りの色が見えてくる。その焦りがフィールドゴールの失敗につながり、逆にファイターズはランプレーで時間を消費していく。終わってみれば20ー10。
 堂々の勝利だったが、スタンドから見ている限り勝負は互角。互いに骨と骨をぶつけ合い、意地とプライドをきしませるような肉弾戦だった。
 コロナ禍で、思い通りに練習もできない状態からスタートしたシーズン。選手もコーチもスタッフも、それぞれが我慢し、辛抱に辛抱を重ねた末に迎えたシーズンである。相手がいくら強くても、自分たちのプレーが思い通りに進まなくても、へこんでいる場合ではない。とにかく目の前の相手を倒す。圧倒することまではできなくても、とにかく自分の責任は果たす。そういう気持ちのこもったプレーが随所に見られた。その結果がもたらせたのが20-10というスコアである。
 選手もスタッフも、それをそのまま自らの自信にしてほしい。この試合で見せつけられた相手のアグレッシブな守備と攻撃。それを骨身に刻み、次なる試合への糧にしてもらいたい。
 次戦の相手は立命館大。現役の部員が生まれる前から、歴代の先輩たちが互いにしのぎを削ってきたチームである。自分たちの力を発揮する相手としては、これ以上のチームはない。関大との肉弾戦を制した気力と勢いをさらに高めて立ち向かってもらいたい。
 僕の好きな言葉の一つに、ある詩人の歌った「私の前に道はない。私の後ろに道ができる」というフレーズがある。これを選手やスタッフに贈りたい。頑張ろう!
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2021年10月25日

(4)もう一つの苦労

 今週末、王子スタジアムで開催される関大戦が「有観客」となった。この前の京大戦は、新型コロナウイルスの感染防止対策上、観客を入れないままでの開催だったが、今度はいくつかの制約を設けた上で、スタンドからの応援を許容するという。
 感染患者が日に日に減っていることが理由というが、コロナ禍そのものが終息したわけはない。感染を防ぐための努力は、私たちの生活のあらゆる場面で要請されている。
 リーグ戦を主催する関西学生アメリカンフットボール連盟も例外ではない。今回、有観客で開催するについても、ホームページで数多くの注意を呼び掛けている。例えば
・入場者制限あり。前売り券の販売状況によっては、当日券を販売せず。第1試合と第2試合の観客は入れ替え制に。
・マスクを着用し、手指の消毒はこまめに。熱中症対策でマスクを外す際は、他の人と2メートル以上の距離を確保。飲酒は禁止。入場時には検温と手指の消毒を義務付ける。入場時、37度5分以上の熱がある人は入場お断り。
 ざっといえば、以上のような注意を呼び掛け、協力を求めている。大会の主催者としては、選手はもちろん、応援に詰めかける観客の安全確保のためにも、絶対に譲れない条件だろう。
 そうした制約があっても、観客を入れて開催したいというのは、ほかでもない。グラウンドで全力を尽くして戦う選手たちの姿を自分の目で確かめ、アメリカンフットボールの素晴らしさを共有してもらいたいという願いがあるからだろう。
 もちろん、テレビ観戦の場合、同時進行で試合の模様は見られるし、個々のプレーも細部までビデオで再現できる。最近はテレビ中継そのものをネットで見る仕組みが普及し、ひいき選手の仕草や表情もスタジアムで観戦する以上に鮮明に映し出される。
 けれども、スタンドでグラウンド全体を俯瞰し、両チームの選手やベンチが繰り広げる戦いの細部を眺めるのは、また、別次元の楽しさがある。何よりも、ナイスプレーに拍手を贈り、自分もチームの一員となって戦っている感覚が得られるのは、スタンドで声援を送ってこそだ。
 関大との戦いに関していえば、今年は春の試合をビデオで見た。好守とも相手の圧力が強く、ファイターズが終始、押し込まれている印象を受けたことが記憶に残っている。
 けれども、その後は双方ともに夏に鍛え、秋に調子を上げている。両チームとも、春の試合とは、全く異なる戦いぶりを見せてくれるのは間違いなかろう。
 その試合がスタンドで観戦できる。個々の選手に声援を送り、喜怒哀楽を共にできる。連盟は(数多くの制約があるとはいえ)そういう機会を設けてくださったのだ。
 ここは、スタンドから声援を送りたい。夏の合宿で鍛え、秋のシーズンでその勇姿をファンの前に見せてくれた上級生や下級生の活躍ぶりをチェックしたい。
 王子スタジアムは規模が小さく、収容人数も限られている。けれども、その分、選手との距離は近い。グラウンドでの戦いはもちろん、素晴らしいプレーを見せてベンチに下がる選手の素顔が見られるのも楽しい。
 今度の日曜日。関大との戦いは、総選挙の投票日とかぶってしまったが、投票を済ませた後は、いそいそと王子スタジアムに足を運びたい。このコラムを応援してくれている観戦仲間との再会も待ち遠しい。
posted by コラム「スタンドから」 at 20:11| Comment(1) | in 2021 Season

2021年10月19日

(3)ライバルに育てられ

 ファイターズの前に京大が立ちはだかってきたのは、昭和50年前後。51年秋のリーグ戦ではファイターズが21ー0で破れ、互いに6勝1敗となった。甲子園ボウル代表決定戦ではファイターズが勝ったが、そのころから関西でのファイターズ1強の時代は終わりを告げた。
 その後、同志社や近大が台頭、関大も個性的なタレントを輩出したが、常にファイターズの前に立ちはだかったのがギャングスターズ。毎年のように覇を競い、互いにライバル心をむき出しにして戦った。時代が昭和から平成に移ったころからは、これに立命を加えた3チームが常にしのぎを削り合ってきた。
 最近でこそ、立命や関大との試合にも数多くの観衆が詰めかけるが、以前は京大との試合が、関西では一番のカード。今は西宮ガーデンズに姿を変えた西宮球場やその隣にあった西宮球技場での試合には、僕も仕事を放り出し、何度も足を運んだことを思い出す。
 そういう因縁を持つ京大との対戦。どんな展開になるのか、わくわくしながら応援したが、この日はいつもの年とは様子が違った。立ち上がりの2プレー目、エースRB前田が61ヤードを独走してTD。K小川が確実にキックを決めて7−0。続く相手攻撃を守備陣が完封した後、今度は前田と同じ4年生RB斎藤がハーフライン付近から一気に相手ゴールに走り込み、51ヤードの独走TD。わずか3プレーで14−0と突き放し、主導権を握った。
 長い間、ファイターズの試合を見てきたが、相手を問わず、立ち上がりの3プレーで2本のTDを奪う場面を見たのは初めて。エースRB二人がそれぞれの個人技で、相手デイフェンスを抜き去っていく姿に見惚れてしまった。
 二人はともに、2年生の頃から試合に出場。先輩の三宅君のスピードあふれるプレーをお手本に練習を重ねてきた。途中、それぞれけがをして試合に出られなかった時期もあったが、腐らず、落ち込まず、懸命に治療とリハビリに努め、3年生の時からは常時、試合に出場するメンバーとして活躍してきた。ともに三宅君の背中を追いながら、そのプレーを心に刻み、成長してきたといっても間違いなかろう。
 試合後、記者団からの質問を受けて、前田君がこんなことを言っていた。
 「ファーストシリーズでビシッと決めようと仲間で決めていた」「早いうちにどんどん攻めていこう。相手(オフェンス)には破壊力がある。取れるときに取り切らないと相手に勢いをつけてしまう」
 この言葉を聞いて「なるほど、さすがファイターズの副将。自ら率先してその言葉を実践した前田君もすごいし、それに負けじと奮起した斎藤君も素晴らしい。もっといえば、目の前で京大を相手に存分に走り回った先輩二人に刺激され、後半、2本のTDを奪い取った2年生の池田君も、いい勉強になっただろう」「こういう循環があるからこそ、ファイターズは人が育ち、それぞれが自らの長所を伸ばしていくのだ」と一人で納得した。
 納得と言えば、後半、次々と起用されたデイフェンスの交代メンバーの活躍も見逃せない。
 先発したのはLBが都賀(4年)と海崎(2年)、DBが竹原、永嶋(ともに4年)、山本(3年)、高橋(2年)だったが、点差が広がるのに合わせて、2年の波田や1年の日名が登場。相手QBの素早く強いパスに反応し、ブルドーザーのように突進してくるタフなRBに食らいついていった。
 残念なことに、攻守ともラインの交代メンバーについては確かめるゆとりがなかった。だから個々の名前は判明しなかったが、それぞれが相手の当たりの強さ、動きの速さに対する「公式戦ならではの感触」をその身体に刻みつけていることだけは確認できた。
 終わってみれば、45ー0。強烈なパスを投じ、走る力もずば抜けている相手QBに対し、守備陣は的確に反応して陣地を進めさせない。攻めてはQB鎌田のパスと、それを確実にキャッチする糸川、梅津、河原林らのレシーバー陣、それぞれ一発TDの威力をもったRB陣の走力。それをガードするOLやWR。点差が開いて、続々と交代メンバーが登場しても、それぞれここがチャンスと目の色を変えて相手に立ち向かった。
 その循環の中で先発メンバーはチームを背負う自覚と責任を新たにし、交代メンバーは自身の経験値を積む。
 強力な相手だからこそ、その試合から得られる経験値は大きい。それをこれからの練習でより確かなものにし、その成果を次なる試合で発揮してもらいたい。関大戦はすぐそこに控えている。
posted by コラム「スタンドから」 at 01:59| Comment(1) | in 2021 Season

2021年10月12日

(2)人が育ち、育てる環境

 ファイターズの活動は、今年もコロナ禍で大きな制約を受けている。春から夏、大阪府や兵庫県で感染者が激増したときは、そのあおりで大学の授業も制約を受け、一時は学内施設の利用も停止された。課外活動に起因していなくても、感染者が出て活動の一時停止を余儀なくされた団体もあると聞いている。
 フィターズもその余波は免れず、夏休み中の活動が一時、制約され、夏の合宿も全員参加ではなく、参加者をしぼって広島県内の施設で行われた。
 施設の利用時間も、大学当局から定められており、早朝の涼しい時間帯の個人・パート練習と、夕方涼しくなってからのチーム練習という形もなかなか実施できていない。コロナ禍の前までは、特定の部員を選んで合同練習前の練習をするのは普通だったが、いまはグラウンドを使用する時間自体に制限がかかっている。
 いざ、練習となっても、入場前には検温と手指の消毒をトレーナーが管理し、練習が始まっても、30分ごとに「クリーンタイム」を設け、全員に手指の消毒とうがいを励行させている。
 そうした制約があっても、身体能力を鍛え、チームとしてのプレーの精度を上達させるためには、チーム練習は欠かせない。1、2年生の時から、こうしたファイターズの流儀に馴染んでいる上級生にとっては、それもみな想定の範囲に入っており、独自の練習で補うこともできるが、全国的にコロナウイルスの感染者が拡大してからファイターズに加わった1、2年生にとっては、部活動のすべてが「非日常」。練習への取り組み、事前の準備、短い時間での集中的な練習など、自ら自覚して学ばなければならないことはいくつもある。
 しかしながら、先日の同志社戦では、1、2年生が先発メンバーや交代要員として何人も活躍した。高校時代までは他の競技に取り組み、アメフットは未経験だった3、4年生の活躍もめざましかった。
 前者では、先発メンバーに名を連ねた2年生のQB鎌田、WR鈴木、RT鞍谷、LB海崎、1年生のRG森永、DB永井がいる。交代メンバーとして鮮やかなキックオフリターンTDを決めたRB池田も2年生だ。
 高校時代は別の競技に励んでいたメンバーでは、先発メンバーとしてめざましい働きをしたLB都賀やOL田中は、ともに高等部時代は野球部。DB永嶋はテニス部、DB橋はサッカー部で活躍した選手だ。交代メンバーとして出場し、軽快な動きを見せたDB西脇は野球部、ゴール前まで46ヤードのパスをキャッチしたWR衣笠はサッカー部のゴールキーパーだった。
 そういう面々が限られた練習時間、なにかと制約の多い部活動の中で、どうして成長し、公式戦でも通用する技術を身につけてきたのか。僕が時々、第3フィールドにある「平郡君の記念碑」近くから見学させてもらっている練習風景からその一端を紹介したい。
 一つは、上級生が下級生に、足の運び方や腕の振り方、身の交わし方などを、自身のプレーを見せながら懇切丁寧に教えていること。例えばRBでは、常時、副将の前田やスピードランナーの斎藤が自ら見本を見せながら1、2年生にプレーの急所を伝授している。レシーバーも同様だ。いいプレーには上級生が惜しみなく拍手を贈って未経験者に自信を付けさせ、コース取りや相手デフェンスを抜き去る呼吸を指導している。
 監督やコーチが注意する前に、上級生が自分で模範を見せる。タイミングの取り方、足の運び方、手や腕の使い方など、プレーヤー同士だからわかり合える細かい部分中心にした教えであり、その教えを身につけた瞬間、下級生が生き生きと動き出す現場を、僕はしばしば目撃した。
 残念ながら、守備陣の個別練習の動きは、遠すぎて細かいところは全く見えない。けれども、チーム練習時には、サイドラインにいるメンバーが逐一、よかった点、改良すべき点をその都度、指導している。
 もちろん、監督やコーチも現場の一番近いところで選手の動きを見ており、急所急所で当の選手を呼んで、自ら動きの見本を見せながら足の運びや腕や身体の使い方を指導されている。
 3人のプロコーチはもちろん、大学職員として働きながらコーチの役割を担っておられる面々も、熟練者ばかり。学生時代からファイターズの流儀を身につけてこられたこの道の専門家ばかりだから、教え方もポイントを突いている。自分で動きの見本を示し、急所となる点を惜しみなく伝授されている。
 教える環境と学ぶ環境。それが相まって、選手が技術を磨き、自らの運動能力を開発していくファイターズという組織。
 僕は新聞記者として、高校野球の指導者らとは長く付き合ってきたし、その中には広く名の知られた方も少なくない。けれども、そういう有名人たちの指導と比べても、ファイターズの指導者のたたずまいは1段も2段も上に見える。現場を知り、選手たちに任せるところは任せて、全体としてチームのレベルアップを図る。長年の蓄積に基づくそういうやり方が自然に行われているのも、ファイターズの文化というのだろう。
posted by コラム「スタンドから」 at 19:13| Comment(1) | in 2021 Season